説明

Bi系超電導線材およびその製造方法

【課題】高い臨界温度Tc(onset)を有し、かつ高い臨界電流値(Ic)を有するBi系超電導線材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Bi系超電導線材1は、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている超電導体2を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi系超電導線材およびその製造方法に関し、特にBixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有するBi系超電導線材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導相としてBi2223(Bi2Sr2Ca2Cu310+δをいう、以下同じ)を含むBi系超電導体は、臨界温度が高いものとして知られ、超電導線材などの用途に広く用いられている。
【0003】
また、Bi2223超電導体のBiの一部がPbに置換された(Bi,Pb)2223((Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δをいう、以下同じ)については、比較的容易に単層が得られることが知られている。大気雰囲気や酸素分圧8kPaなどの(Bi,Pb)2223層の生成が容易な条件で焼結が行われると、(Bi,Pb)2223超電導体の超電導転移が始まる臨界温度(以下、Tc(onset)という、以下同じ)は108〜110Kとなる。
【0004】
また、特開2008−74686号公報(特許文献1)には、臨界温度が110Kよりも高い(Bi,Pb)2223超電導相を含むBi系超電導線材を製造する方法が開示されている。
【0005】
また、(Bi,Pb)2223超電導体に関する技術は、たとえば、特開2004−241254号公報(特許文献2)、特開2003−203532号公報(特許文献3)、特開2003−73118号公報(特許文献4)、特表2007−069723号公報(特許文献5)、特開平8−64044号公報(特許文献6)、特開平7−69637号公報(特許文献7)などにも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−74686号公報
【特許文献2】特開2004−241254号公報
【特許文献3】特開2003−203532号公報
【特許文献4】特開2003−73118号公報
【特許文献5】特表2007−069723号公報
【特許文献6】特開平8−64044号公報
【特許文献7】特開平7−69637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、(Bi,Pb)2223相の生成が容易な条件で焼結を行った場合やその後に還元雰囲気下において熱処理を施した場合、(Bi,Pb)2223超電導体結晶の臨界温度(Tc(onset))は上昇する。しかし、上記熱処理によって、Pbを主相として含む酸化物が(Bi,Pb)2223超電導体結晶粒の端部に生成してしまう。これにより、超電導線材の臨界電流値(Ic)が低下してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高い臨界温度(Tc(onset))を有し、かつ高い臨界電流値(Ic)を有するBi系超電導線材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、Bi系超電導線材の組成比とTc(onset)および臨界電流値(Ic)との関係について鋭意研究を重ねた結果、(Bi,Pb)2223超電導体のBiの組成xとPbの組成yにおいて、x+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている超電導体を有することが、高いTc(onset)および高い臨界電流値(Ic)を有するBi系超電導体を得るために重要であることを見出した。
【0010】
そこで、本発明に係るBi系超電導線材は、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている超電導体を有している。
【0011】
また、本発明に係るBi系超電導線材の製造方法は、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有する超電導体を備えるBi系超電導線材の製造方法であって、以下の工程を備えている。
【0012】
まず、上記組成におけるx+yが1.87以上1.98以下となり、y/xの値が0.20以上0.23以下となるようなモル比率で原料が配合される。そして、超電導相を生成させるために原料に熱処理が行われる。
【0013】
上記の本発明のBi系超電導線材において好ましくは、臨界電流値が203A以上である。
【0014】
本発明に係る超電導機器は、上記のBi系超電導線材を備えている。
上記の本発明のBi系超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理は酸素を含む雰囲気下で行なわれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い臨界温度(Tc(onset))を有し、かつ高い臨界電流値(Ic)を有するBi系超電導線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1に係る超電導線材を示す概略模式図である。
【図2】実施の形態1に係る超電導線材の製造方法を示すステップ図である。
【図3】金属管に原料を充填する工程を示す図である。
【図4】単芯線を伸線する工程を示す図である。
【図5】多芯線を製造する工程を示す図である。
【図6】多芯線を伸線する工程を示す図である。
【図7】多芯線を圧延する工程を示す図である。
【図8】磁化率を50Kの磁化率で規格化した値と温度との関係を示すグラフである。
【図9】臨界電流値と(x+y)との関係を示すグラフである。
【図10】臨界電流値と(y/x)との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係る超電導コイルを示す図である。
【図12】本発明に係る超電導モータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
本発明の一実施の形態に係る超電導線材の構成の概略について、図1を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係る超電導線材1は、超電導体2とシース部3とを主に有している。超電導体2は、たとえば、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている。シース部3は、たとえば銀や銀合金の材料であり、超電導体2を覆うように設けられている。
【0019】
上記超電導体2の組成式において、Sr、Ca、Cu組成は、2:2:3であるが、Srの組成が1.8以上2.2以下であり、Caの組成が1.8以上2.2以下であり、Cuの組成が2.9以上3.2以下の範囲であれば、上記組成の超電導体2と同様の特性が得られる。また、Sr、Ca、Cuの一部をY、Nd、Laなどの希土類金属元素で置換しても、上記組成の超電導体2と同様の特性が得られる。ただし、上記のように置換する場合の許容置換量は、置換対象金属に対して1%以下のモル比とすることが必要である。
【0020】
次に、本発明の一実施の形態に係る超電導線材1の製造方法について、図2を用いて説明する。
【0021】
図2に示すように、まず原料として、Bi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOが、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下の化学組成となるように配合される(ステップS1:図2)。その後、配合された原料が、たとえば700〜860℃の温度で焼結される。焼結された多結晶体は粉砕されて原料粉末2aとなる。ここで、原料粉末2aは、粉末全体として、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下の化学組成を有する。
【0022】
次に、図2および図3に示すように、上記のようにして得られた超電導体2の原料粉末2aの粉末が、パイプ3a内に充填される(ステップS2:図2)。このパイプ3aは、たとえば銀などの金属よりなり、外径がφ10〜50mmであり、肉厚が外径の2〜20%程度のものである。これにより、超電導体2の原料粉末2aをパイプ3aで被覆した形態の線材1a(図4)が得られる。
【0023】
次に、図2および図4に示すように、上記線材1aが伸線加工される。この伸線加工をすることにより、前駆体を芯材として銀などの金属で被覆されたクラッド線1bが形成される(ステップS3:図2)。
【0024】
次に、図2および図5に示すように、クラッド線1bが多数束ねられて、たとえば銀などの金属よりなるパイプ3b内に嵌合される。このパイプ3bは、たとえば銀などの金属よりなり、外径がφ10〜50mmであり、肉厚が外径の2〜20%程度のものである。これにより、超電導体2の原料粉末2aを芯材とした単芯線を多数有する多芯構造の線材が得られる(ステップS4:図2)。
【0025】
次に、図2および図6に示すように、多数の超電導体2の原料粉末2aがシース部3によって被覆された多芯構造の線材を伸線加工することによって、超電導体2の原料粉末2aが、たとえば銀などのシース部3に埋め込まれた多芯線1cが形成される(ステップS5:図2)。
【0026】
次に、図2および図7に示すように、多芯線1cに1次圧延加工が施され、それによりテープ状の超電導線材1が得られる(ステップS6:図2)。この1次圧延加工は、たとえば圧延率70〜90%の条件で行われる。
【0027】
次に、図2に示すように、テープ状の超電導線材1が、たとえば830℃の温度および8kPaの酸素分圧下で熱処理される(ステップS7:図2)。これにより、超電導線材1が焼結されて、超電導相が生成する。
【0028】
次に、図2および図7に示すように、多芯線1cに2次圧延加工が施される(ステップS8:図2)。この2次圧延加工は、たとえば圧延率0〜20%の条件で行われる。
【0029】
次に、図2に示すように、テープ状の超電導線材1が、たとえば720℃の温度および1kPaの酸素分圧下で加熱されて、その温度が300時間保持されることにより、超電導線材1が焼結される(ステップS9:図2)。なお、上記のようなアニールを通じて、原料粉末2aが化学反応を起こして最終的な超電導体2となる。
【0030】
次に、本実施の形態の超電導線材1を用いた超電導コイルと、それを搭載した超電導モータの構成について、図11、図12を用いて説明する。
【0031】
図11に示すように、超電導コイル10は、たとえば、超電導線材1が鞍形に巻きつけられた構造をしている。超電導コイル10は、直線部と曲線部とを有しており、超電導コイル10を上から見るとレーストラック状の形状を有している。
【0032】
図12に示すように、超電導モータ100は、回転子であるロータ11と、ロータ11の周囲に配置された固定子であるステータ12とを主に有している。ロータ11は、図11に示した超電導コイル10と、回転軸15と、ロータコア13と、ロータ軸14と、冷媒16とを有している。ロータ軸14は、回転軸15の長軸方向に延びる外周面の周囲に形成されている。ロータ軸14の外表面は円弧状である。ロータコア13は、ロータ軸14の回転軸に交差する断面における中央部分から放射状に、ロータ軸14の外周面から突出するように延びている。超電導コイル10は、ロータコア13を囲むように、かつロータ軸14の円弧状の外表面に沿うように配置されている。冷媒は16、超電導コイル10を冷却可能に設けられている。超電導コイル10と冷媒16とは、断熱容器の内部に配置されている。ステータ12は、超電導コイル10と、ステータヨーク19と冷媒17と、ステータコア18とを有している。ステータヨーク19は、ロータコア13の外周を取り囲んでいる。ステータヨーク19の外表面は円弧状である。超電導コイル10は、ステータヨーク19の円弧状の外表面に沿うように配置されている。冷媒17は、超電導コイル10を冷却可能に設けられている。超電導コイル10と冷媒17とは、断熱容器の内部に配置されている。
【0033】
上記では、本発明に係る超電導機器の例として、超電導コイル10および超電導モータ100を挙げて説明した。ここで、超電導機器とは、本発明に係る超電導線材1を含むものであれば特に制限はなく、たとえば、超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などが挙げられる。
【0034】
次に、本発明の一実施の形態に係る超電導線材1、超電導機器の作用効果について説明する。
【0035】
本実施の形態に係る超電導線材1および超電導機器が有しているBi系超電導線材は、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている超電導体2を有している。これにより、上記超電導線材1および超電導機器は、高い臨界温度(Tc(onset))を有し、かつ高い臨界電流値(Ic)を有する。より具体的には、臨界電流値は203A以上である。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について説明する。
まず、原料としてのBi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOを、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有する化学組成となるように配合して、超電導線材1を、以下に説明する方法によって作成した。ここで、上記組成式のxの値を1.52〜1.80の範囲で変化させ、yの値を0.27〜0.41の範囲で変化させた。
【0037】
原料を配合した後に、原料の粉末を金属管に充填して単芯線を作成した。単芯線を複数本束ねてシース部に挿入して多芯線を作成し、多芯線に伸線、圧延を施して超電導線材1を作成した。この超電導線材1に対して830℃の温度および8kPaの酸素分圧下で熱処理を施し(Bi,Pb)2223超電導相を生成させた。その後、この超電導線材1を725℃の温度および1kPaの酸素分圧下で加熱して、その温度を300時間保持することにより超電導線材1を焼結した。
【0038】
はじめに原料を配合したときのBiやPbなどの組成と、最終的に出来上がった結晶の組成が一致していることを確認した。組成の確認は、蛍光X線分析により行われた。蛍光X線分析によれば、金属の種類や量に応じたスペクトルが得られるので、金属組成を定量化することができる。具体的には、測定対象試料にX線を照射した際に、測定対象試料から発生する特性X線を検知することにより行われた。
【0039】
上記のような方法で作成した超電導線材1の、Tc(onset)、Tc(mid)および臨界電流値(Ic)を測定した。また、臨界電流密度(Jc)は、臨界電流値(Ic)および超電導線材1の断面積から計算した。
【0040】
ここで、Tc(onset)およびTc(mid)の定義について、図8を用いて説明する。図8を参照して縦軸(y)は、ある温度での超電導線材1の磁化率を50Kでの磁化率で規格化した値である。Tc(onset)は、50Kでの超電導線材1の磁化率と比較して、0.1%だけ磁化率が上がったときの温度のことである。言い換えれば、50Kでの磁化率の0.1%の反磁性磁化率を示す温度である。また、Tc(mid)は、50Kでの超電導線材1の磁化率と比較して、50%だけ磁化率が上がったときの温度のことである。言い換えれば、50Kでの磁化率の50%の反磁性磁化率を示す温度である。臨界電流値(Ic)は、たとえば、超電導線材1に対して電流を流していった場合に、閾値である電圧を超えたときの電流値のことである。臨界電流密度(Jc)は、臨界電流値(Ic)を超電導線材1の断面積で割って算出することができ、単位断面積あたりの臨界電流値(Ic)のことを示す。
【0041】
ここで、Tc(mid)の意義について説明する。超電導体2に外部から磁場を印加すると、マイスナー効果によって反磁性磁化を示す。ただし、たとえば常伝導体である不純物が結晶間に存在した場合、外部磁場が常伝導体である不純物の部位に侵入する分、全体としての反磁性磁化が弱くなるために、Tc(mid)が低下する。このため、Tc(mid)の値は、結晶間の強さを表す尺度として利用することができる。
【0042】
次に、上記の実験の結果について表1および図9〜図10を用いて説明する。
【0043】
【表1】

【0044】
サンプル番号1〜12は、Pbの組成yを0.33と固定して、Biの組成xを1.52〜1.80まで変化させて製造したBixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)超電導線材1である。また、サンプル番号13〜20は、Biの組成を1.6と固定して、Pbの組成を0.27〜0.41まで変化させて製造したBixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)超電導線材1である。それらの各々のサンプルのTc(onset)、Tc(mid)、臨界電流値(Ic)および臨界電流密度(Jc)の結果を表1に示した。
【0045】
サンプル番号1〜5は、Tc(onset)が110K程度と良好な値を示すが、臨界電流値(Ic)は180A以下と低くなる傾向が見られた。一方、サンプル番号6〜11は、Tc(onset)は111K以上であり、臨界電流値(Ic)も203K以上と良好な値を示した。サンプル番号12は、Biの組成が1.52であり、この場合は臨界電流値(Ic)が179Aと低かった。この出発組成では、超電導相を十分に生成させることができないために単相度不足となり臨界電流値(Ic)が低下すると考えられる。
【0046】
サンプル番号13のTc(onset)は112.7K程度と良好な値を示し、臨界電流値(Ic)も220Kと非常に高い値を示した。また、サンプル番号20のTc(onset)は112.45K程度と良好な値を示し、臨界電流値(Ic)も218Kと非常に高い値を示した。それ以外のサンプルは、Tc(onset)は110K程度の値を示すが、臨界電流値(Ic)は172K以下と低い値を示した。
【0047】
図9に示すように、x+yの値が1.87以上1.98以下のBixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下))超電導線材1は、203A以上の良好な臨界電流値(Ic)を示すことが分かった。また、この場合の臨界電流密度(Jc)は53kA/cm以上である。ここで、サンプル番号14、17、18、19はx+yの値が1.87以上1.98以下の範囲内にあるが、y/xの値は0.20以上0.23以下の範囲内にないため、これらのサンプルの臨界電流値(Ic)は低かった。
【0048】
図10に示すように、y/xの値は0.20以上0.23以下のBixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)超電導線材1は、203A以上の良好な臨界電流値(Ic)を示すことが分かった。また、この場合の臨界電流密度(Jc)は53kA/cm以上である。ここで、サンプル番号12は、y/xの値が0.20以上0.23以下の範囲内にあるが、x+yの値が1.87以上1.98以下の範囲内にないため、このサンプルの臨界電流値(Ic)は低かった。
【0049】
以上より、BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ、組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている超電導体2を有する超電導線材1は、111.52〜112.73K程度の高いTc(onset)、かつ109.14〜110.51K程度の高いTc(mid)を有し、かつ203K以上の高い臨界電流値(Ic)および53kA/cm以上の高い臨界電流密度(Jc)を有することが確認された。
【0050】
次に、本実施例において、Tc(onset)が改善されるメカニズムについて考察する。
(Bi,Pb)2223超電導体2は、超電導電流が流れるCu−Oで構成される超電導相と、超電導を示さないBi−O,Sr−Oなどの絶縁層がc軸方向に積層された構造を持つ。それぞれのサイト(面)に決められた金属が配置されることが望ましいが、実際には電気的なバランスを保つためBiやPbがSr−Oサイトの一部に固溶しやすい。そのため、結晶構造が乱れることによりTcが抑制されてしまうと考えられる。
【0051】
今回の実施例において、BiやPbを予め少なくしておくことで、BiやPbがSr−Oサイトへ固溶されなかったことにより、結晶構造が改善したためにTcが改善したと考えられる。
【0052】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、Bi系超電導線材およびその製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 Bi系超電導線材、1a 線材、1b クラッド線、1c 多芯線、2 超電導体、2a 原料粉末、3 シース部、3a 金属管、10 超電導コイル、11 ロータ、12 ステータ、13 ロータコア、14 ロータ軸、15 回転軸、16,17 冷媒、18 ステータコア、19 ステータヨーク、100 超電導モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有し、かつ
前記組成におけるx+yは1.87以上1.98以下であり、y/xの値が0.20以上0.23以下であるモル比率で構成されている超電導体を含む、Bi系超電導線材。
【請求項2】
前記Bi系超電導線材の臨界電流値が203A以上である、請求項1に記載のBi系超電導線材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のBi系超電導線材を備える、超電導機器。
【請求項4】
BixPbySr2Ca2Cu310+δ(δは0.1以上0.3以下)の組成式で表された組成を有する超電導体を備えるBi系超電導線材の製造方法であって、
上記組成におけるx+yが1.87以上1.98以下となり、y/xの値が0.20以上0.23以下となるようなモル比率で原料を配合する工程と、
超電導相を生成させるために前記原料に熱処理を行う工程とを備えた、Bi系超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理は酸素を含む雰囲気下で行なわれる、請求項4に記載のBi系超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−41682(P2013−41682A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176135(P2011−176135)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】