説明

C重油組成物およびその製造方法

【課題】スラッジが生成し難く、着火性能、燃焼性能が優れ、外燃機器、ディーゼル機器、ガスタービン機器などの燃焼機器を安定に運転することが可能なC重油組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.90〜1.20g/cmである分解改質基材を組成物全量基準で1容量%以上45容量%以下配合することを特徴とする2環芳香族炭化水素含有量が10容量%以上45容量%以下であるC重油組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はC重油組成物およびその製造方法に関し、詳しくは、ボイラー、ディーゼル機器、ガスタービン等の燃焼機器や船舶用の燃料として用いられるC重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
C重油は、ボイラー等の外燃機器燃料、大型船舶や発電用などのディーゼルエンジン機器燃料、ガスタービン機器燃料などとして広く用いられている。
様々な用途に用いられるC重油の中で、特に船舶用C重油は、諸外国などで積み込まれることもあり、燃焼障害が原因のエンジントラブルがしばしば生じており、大きな問題となっている。このため、着火性能、燃焼性能が優れ、燃焼障害を発生しないC重油の要望が高まっている(非特許文献1参照)。
このようなC重油の燃焼性を改善するものとして、特許文献1(特開平8−277396号公報)には、重質油を水および特定の非イオン性界面活性剤により水中油滴型重質油エマルジョンとして、エマルジョン粒子径および粘度を特定の範囲に制御して、さらに予備加熱後に燃焼させる方法が開示されている。
また、特許文献2(特開2003−96474号公報)には、接触分解軽質軽油(LCO)を50%以上含有し、かつセタン指数を規定することにより燃焼性の改善を図る方法が開示されている。
しかしながら、上記のように、近年、船舶用燃料油の品質は低質化が著しく、スラッジ生成や着火性および燃焼性が低下している。このために搭載する大型ディーゼル機関において燃焼障害が頻繁に発生し、発煙、排気温度の上昇、排気系の汚染、シリンダ、リングなどの異常摩耗などの原因ともなっており、これらは何れも現実的な解決策を示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−277396号公報
【特許文献2】特開2003−96474号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】野村宏次,「舶用燃料の科学」,成山堂,1994年,p.164−166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、スラッジが生成し難く、着火性能、燃焼性能が優れ、外燃機器、ディーゼル機器、ガスタービン機器などの燃焼機器を安定に運転することが可能なC重油組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の基材を組み合わせることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1]全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.90〜1.20g/cmである分解改質基材を組成物全量基準で1容量%以上45容量%以下配合することを特徴とする2環芳香族炭化水素含有量が10容量%以上45容量%以下であるC重油組成物の製造方法。
【0008】
[2]前記分解改質基材の50℃の動粘度が0.3〜10mm/s、硫黄分が8000質量ppm以下、窒素分が100質量ppm以下であることを特徴とする前記[1]に記載のC重油組成物の製造方法。
【0009】
[3]前記分解改質基材の10容量%留出温度(T10)が130〜270℃、50容量%留出温度(T50)が190〜290℃、90容量%留出温度(T90)が230〜390℃であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のC重油組成物の製造方法。
【0010】
[4]前記分解改質基材が、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の原料油を中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを含有する分解改質反応用触媒と接触させ、反応温度400〜650℃、反応圧力は、1.5MPaG以下、接触時間1〜300秒で分解改質反応を行うことにより製造されることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のC重油組成物の製造方法。
【0011】
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のC重油組成物の製造方法により得られる、15℃における密度が0.85〜1.05g/cm、50℃の動粘度が400mm/s以下、硫黄分が3.5質量%以下、窒素分が1質量%以下、引火点70℃以上であるC重油組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のC重油組成物は、スラッジが生成し難く、着火性、燃焼性に優れたものである。従って、本発明のC重油組成物は、ボイラー等の外燃機器燃料、大型船舶や発電用などのディーゼルエンジン機器燃料、ガスタービン機器燃料などの燃料として非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の本発明のC重油組成物の製造方法は、全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.90〜1.20g/cmである分解改質基材をC重油組成物全量基準で1容量%以上45容量%以下配合することを特徴とする。
【0015】
分解改質基材の配合量の下限はC重油組成物全量基準で1容量%以上であることが必要であり、5容量%以上が好ましく、10容量%以上がより好ましく、15容量%以上がさらに好ましい。一方、分解改質基材の配合量の上限は45容量%以下であることが必要であり、40容量%以下が好ましく、35容量%以下がより好ましい。分解改質基材の配合割合が1容量%未満の場合には、相溶性低下によりスラッジが生成し易くなるため好ましくなく、また45容量%を超えると燃焼性が悪化するため好ましくない。
【0016】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の全芳香族分は、カットバック材として相溶性確保の観点から80容量%以上であることが必要であり、90容量%以上であることが好ましい。ここで、全芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」で測定される全芳香族分の含有量を意味する。
【0017】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の15℃における密度は0.90g/cm以上1.20g/cm以下であることが必要である。ここで、15℃における密度とは、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して得られる値を表すものを意味する。
【0018】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の全芳香族分および15℃における密度以外の性状に特に制限はないが、以下の性状を有することが好ましい。
【0019】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の50℃における動粘度は0.3mm/s以上10mm/s以下であることが好ましい。C重油の良質なカットバック材の観点から50℃における動粘度の上限は8mm/s以下であることがより好ましく、6mm/s以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の硫黄含有量(硫黄分)は8000質量ppm以下であることが好ましく、燃焼排ガス中の硫黄化合物低減の観点から5000質量ppm以下がより好ましく、4000質量ppm以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の窒素含有量(窒素分)は100質量ppm以下であることが好ましく、燃焼排ガス中の窒素化合物低減の観点から80質量ppm以下がより好ましく、70質量ppm以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明のC重油組成物に配合される分解改質基材の蒸留性状は初留点(IBP)は好ましくは105℃以上250℃以下、より好ましくは120℃以上240℃以下、10容量%留出温度(T10)は好ましくは130℃以上270℃以下、より好ましくは150℃以上250℃以下、50容量%留出温度(T50)は好ましくは190℃以上290℃以下、より好ましくは210℃以上270℃以下、90容量%留出温度(T90)は好ましくは230℃以上390℃以下、より好ましくは250℃以上370℃以下、終点(EP)は好ましくは300℃以上440℃以下、より好ましくは320℃以上420℃以下である。
【0023】
なお、50℃における動粘度とは、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られる値を、硫黄含有量とは、JIS K2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定される硫黄含有量を、窒素含有量とは、JIS K2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定される窒素含有量を、蒸留性状とはJIS K2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」に準拠して測定されるものを意味する。
【0024】
本発明に係る分解改質基材は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の原料油を中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを含有する分解改質反応用触媒と接触させ、反応温度400〜650℃、反応圧力は、1.5MPaG以下、接触時間1〜300秒で分解改質反応を行うことにより製造されることを特徴とする。
具体的には以下の分解改質反応より得られる分解改質反応生成物から分留により本発明で用いる分解改質基材を製造する。
【0025】
分解改質反応は、原料油を分解改質反応用触媒に接触させて、原料油に含まれる飽和炭化水素を水素供与源とし、飽和炭化水素からの水素移行反応によって多環芳香族炭化水素を部分的に水素化し、開環させて単環芳香族炭化水素に転換する反応、原料油中もしくは分解過程で得られる飽和炭化水素を環化、脱水素することによって単環芳香族炭化水素に転換する反応であり、芳香族炭化水素を主として含有する燃料基材を製造することができる。
【0026】
分解改質反応の原料油は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の油が好ましく、原料油の10容量%留出温度は150℃以上であることがより好ましく、原料油の90容量%留出温度は360℃以下であることがより好ましい。
なお、ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油としては、例えば、流動接触分解装置で生成する分解軽油(LCO)、LCOの水素化精製油、石炭液化油、重質油水素化分解精製油、直留灯油、直留軽油、コーカー灯油、コーカー軽油およびオイルサンド水素化分解精製油などが挙げられる。
【0027】
原料油を分解改質反応用触媒と接触、反応させる際の反応形式としては、固定床、移動床、流動床等が挙げられる。なかでも、重質分を原料とするため、触媒に付着したコーク分を連続的に除去可能で、かつ安定的に反応を行うことができる流動床が好ましく、反応器と再生器との間を触媒が循環し、連続的に反応−再生を繰り返すことができる、連続再生式流動床が特に好ましい。分解改質反応用触媒と接触する際の原料油は、気相状態であることが好ましい。また、原料は、必要に応じてガスによって希釈してもよい。
【0028】
分解改質反応用触媒は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
結晶アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL型、EUO型、FER型、HEU型、MEL型、MFI型、NES型、TON型、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI型、ATO型、BEA型、CON型、FAU型、GME型、LTL型、MOR型、MTW型、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、工業的に使用できる点では、BEA型、FAU型、MOR型が好ましく、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、BEA型がより好ましい。
【0029】
結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA型、CHA型、ERI型、GIS型、KFI型、LTA型、NAT型、PAU型、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO型、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0030】
分解改質反応を固定床の反応とする場合、分解改質反応用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、分解改質反応用触媒全体を100質量%とした際の60〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を充分に高くできる。分解改質反応を流動床の反応とする場合、分解改質反応用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、分解改質反応用触媒全体を100質量%とした際の20〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、35〜60質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を充分に高くできる。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用として適さないものになることがある。
【0031】
分解改質反応用触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。分解改質反応用触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0032】
分解改質反応用触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等がある。具体的には、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液は特に限定されないが、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムおよびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
【0033】
分解改質反応用触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等がある。具体的には、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0034】
分解改質反応用触媒におけるリンおよび/またはホウ素の含有量は、触媒全重量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、さらには、下限は0.5質量%以上がより好ましく、上限は9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下が特に好ましい。触媒全重量に対するリンの含有量が0.1質量%以上であることで、経時的な単環芳香族炭化水素の収率低下を防止でき、10質量%以下であることで、単環芳香族炭化水素の収率を高くできる。
【0035】
分解改質反応用触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
分解改質反応用触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
分解改質反応用触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0036】
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO、AlOおよびGaO/ZnO構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法により得られる。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0037】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないが、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0038】
分解改質反応用触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、分解改質反応用触媒におけるガリウムおよび/または亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜2.0質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、5.0質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0039】
分解改質反応用触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、流動床の場合には粉末状にされ、固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30〜180μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4〜1.8g/ccが好ましく、0.5〜1.0g/ccがより好ましい。なお、平均粒子径はふるいによる分級によって得た粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301−2−3の方法により測定した値である。粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
分解改質反応用触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0040】
原料油を分解改質反応用触媒と接触、反応させる際の反応温度については、特に制限されないものの、400〜650℃とすることが好ましい。反応温度の下限は400℃以上であれば原料油を容易に反応させることができ、より好ましくは450℃以上である。また、反応温度の上限は650℃以下であれば単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、より好ましくは600℃以下である。
【0041】
原料油を分解改質反応用触媒と接触、反応させる際の反応圧力は、1.5MPaG以下とすることが好ましく、1.0MPaG以下とすることがより好ましい。反応圧力が1.5MPaG以下であれば、軽質ガスの副生を抑制できる上に、反応装置の耐圧性を低くできる。
【0042】
原料油と分解改質反応用触媒との接触時間は、実質的に所望する反応が進行すれば特に制限はされないが、例えば、分解改質反応用触媒上のガス通過時間で1〜300秒が好ましく、さらに下限は5秒以上、上限は150秒以下がより好ましい。接触時間が1秒以上であれば、確実に反応させることができ、接触時間が300秒以下であれば、コーキング等による触媒への炭素質の蓄積を抑制できる。または分解による軽質ガスの発生量を抑制できる。
【0043】
上述の分解改質反応から生成した分解改質反応生成物を所定の性状を有する留分に分離することにより、本発明に係る分解改質基材を製造することができる。
分解改質反応生成物を所定の留分に分離するには、公知の蒸留装置、気液分離装置を用いることができる。蒸留装置の一例としては、ストリッパーのような多段蒸留装置により複数の留分を蒸留分離できるものが挙げられる。気液分離装置の一例としては、気液分離槽と、該気液分離槽に生成物を導入する生成物導入管と、前記気液分離槽の上部に設けられたガス成分流出管と、前記気液分離槽の下部に設けられた液成分流出管とを具備するものが挙げられる。
本発明に係る分解改質基材は、主として炭素数9以上の炭化水素を含む留分であることが好ましい。
【0044】
本発明のC重油組成物の製造方法において、分解改質基材以外に配合するC重油基材は、特に限定されないが、常圧蒸留軽油、常圧蒸留残油、残油脱硫軽油、減圧蒸留軽油、減圧蒸留残油、エキストラクト油、接触分解軽油、接触分解残油等が挙げられる。本発明において、分解改質基材にこれらのC重油基材を、1種を単独もしくは、2種以上併用して用いることができる。ここで、常圧蒸留軽油、および常圧蒸留残油とは、常圧蒸留装置で原油を常圧において蒸留して得られる軽油、および残油である。残油脱硫軽油とは、残油脱硫装置において常圧残油または減圧残油を脱硫したときに得られる軽油である。減圧蒸留軽油、および減圧蒸留残油とは、減圧蒸留装置で常圧残油を減圧下で蒸留して得られる軽油、および残油である。エキストラクト油とは、潤滑油原料用減圧蒸留装置からの留分を、溶剤抽出法により抽出分離したもののうち潤滑油に適さない芳香族成分のことである。接触分解軽油、および接触分解残油とは、流動接触分解装置において減圧蒸留軽油、減圧蒸留残油等を分解して得られる軽油、および残油である。
本発明に係るC重油組成物において、かかるC重油基材の配合割合は、C重油組成物全量基準で55〜99容量%であり、60〜95容量%であることが好ましく、65〜90容量%であることがより好ましく、65〜85容量%であることが最も好ましい。
【0045】
本発明に係るC重油組成物は、前述の分解改質基材を必須成分として用いて得られるJIS3種重油規格を満たすC重油組成物であることが必要である。
【0046】
本発明の方法により、2環芳香族炭化水素含有量が10容量%以上45容量%以下であるC重油組成物が製造される。2環芳香族炭化水素含有量の下限は、相溶性を確保し、スラッジ生成を抑制するため10容量%以上が好ましく、上限は燃焼性確保のため45容量%以下であることが好ましい。
なお、本発明において2環芳香族炭化水素含有量とは、石油学会法JPI−5S−22−83「アスファルトのカラムクロマトグラフィー法による組成分析法」により分取された芳香族分を、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」により測定した2環芳香族炭化水素含有量を意味する。
【0047】
本発明に係るC重油組成物の2環芳香族炭化水素含有量以外の性状に特に制約はないが、以下の性状を有することが好ましい。
【0048】
本発明に係るC重油組成物の15℃密度(15℃における密度)は0.85g/cm以上であることが好ましく、0.88g/cm以上であることがより好ましく、0.90g/cm以上であることが最も好ましい。また、1.05g/cm以下であることが好ましく、1.00g/cm以下であることがより好ましく、0.99g/cm以下であることが最も好ましい。15℃密度が0.85g/cm未満の場合は容量当りの発熱量が小さくなるため好ましくなく、1.05g/cmより大きい場合は、燃焼障害を発生しやすくなるため好ましくない。
本発明に係るC重油組成物の70℃密度(70℃における密度)は0.80g/cm以上であることが好ましく、0.83g/cm以上であることがより好ましい。また、1.00g/cm以下であることが好ましく、0.95g/cm以下であることがより好ましい。70℃密度が0.80g/cm未満の場合は容量当りの発熱量が小さくなるため好ましくなく、1.00g/cmより大きい場合は、燃焼障害が発生しやすくなるため好ましくない。
本発明において、密度とは、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して得られる値を表すものを意味する。
【0049】
本発明に係るC重油組成物の50℃における動粘度は400mm/s以下であることが好ましく、350mm/s以下であることがより好ましく、300mm/s以下であることが最も好ましい。50℃における動粘度が400mm/sより高い場合は、燃焼障害が発生しやすくなる。
本発明に係るC重油油組成物の100℃における動粘度は50mm/s以下であることが好ましく、45mm/s以下であることがより好ましい。100℃における動粘度が50mm/sより高い場合、燃焼障害が発生しやすくなる。
本発明において、動粘度とは、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られる値を意味する。
【0050】
本発明に係るC重油組成物の硫黄分は3.5質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。硫黄分が3.5質量%より多い場合はエンジンから排出される硫黄酸化物が増加する懸念がある。
本発明において硫黄分とは、JIS K2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定される残留炭素分を意味する。
【0051】
本発明に係るC重油組成物の窒素分は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。窒素分が1.0質量%より多い場合はエンジンから排出される窒素酸化物が増加する懸念がある。
本発明において窒素分とは、JIS K2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」により測定される残留炭素分を意味する。
【0052】
本発明に係るC重油組成物の引火点は、取り扱い上の安全性の点から、70℃以上であることが好ましく、より好ましくは72℃以上である。
なお、本発明でいう引火点とは、JIS K2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」のペンスキーマルテン密閉式で測定される値を意味する
【0053】
本発明に係るC重油組成物のCCAIは900以下であることが好ましく、870以下であることがより好ましい。CCAIが900より高い場合、燃焼障害が発生しやすくなる。
本発明において、CCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index:国際燃焼機関会
議の決定に準拠)とは、芳香族含有量と着火性との関連に着目した指標であり、芳香族性を簡便的に重油の密度、粘度に代表させて次式で算出される。
CCAI=D−140.7log (log(V+0.85))−80.6
(D:15℃における密度(kg/m),V:50℃における動粘度(mm/s))
【0054】
本発明に係るC重油組成物の残留炭素分は15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。残留炭素分が15質量%より多い場合、燃焼障害が発生しやすくなる。
本発明において残留炭素分とは、JIS K2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」により測定される残留炭素分を意味する。
【0055】
本発明に係るC重油組成物の灰分は0.10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。灰分が0.10質量%より多い場合、燃焼障害が発生しやすくなる。
本発明おいて、灰分とは、JIS K2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」に準拠して得られる値を意味する。
【0056】
本発明に係るC重油組成物のバナジウム含有量は100質量ppm以下であることが好ましく、80質量ppm以下であることがより好ましい。バナジウムの含有量が100質量ppmより多い場合、燃焼障害が発生しやすくなる。
本発明おいて、バナジウムと含有量は、JPI−5S−11「重油中のバナジウム分試験方法」に準拠して得られる値を意味する。
【0057】
本発明に係るC重油組成物の水分は0.5容量%以下であることが好ましく、0.3容量%以下であることがより好ましい。水分が0.5容量%より多い場合、冬季では氷となって析出し、金属腐食やフィルター目詰まりを引き起こしやすくなる。
なお、本発明でいう水分とは、JIS K2275「原油及び石油製品−水分試験方法」により測定される値を意味する。
【0058】
本発明に係るC重油組成物の燃料着火性試験機測定による着火遅れは15ms以下であることが好ましい。ディーゼルエンジン機器を安定に運転するには、燃料が燃焼室内に噴射されて着火するまでの時間が短いことが有効であることから、燃料着火性試験機測定による着火遅れが15ms以下であることが好ましく、より好ましくは13ms以下であり、より好ましくは11ms以下である。
【0059】
本発明に係るC重油組成物の燃料着火性試験機測定による燃焼時間は25ms以下であることが好ましい。ディーゼルエンジン機器を安定に運転するには、燃焼室内での火炎の長さが短いことが有効であることから、燃料着火性試験機測定による燃焼時間が25ms以下であることが好ましく、より好ましくは23ms以下である。
【0060】
本発明において、燃料着火性試験機とは、フューエルテック社製の「Fuel Ignition Analyser:FIA−100」であり、容積1L,圧力4.5MPa,温度450℃の空気で満たした定容燃焼室内に120℃に加熱した燃料を噴射圧力20MPaで約0.1ml噴射し、燃焼室内の圧力変化より着火遅れ時間や燃焼時間を測定する。
本発明において、着火遅れとは、燃焼室内圧力が初圧から0.02MPa上昇した時の時間である。
本発明において、燃焼時間とは、最高圧力到達時間から着火遅れ時間を引いた時間である。
【0061】
本発明に係るC重油組成物の熱重量−示差熱分析による窒素雰囲気下(100ml/分)での10%重量減少温度が400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。熱重量−示差熱分析による窒素雰囲気下での10%重量減少温度が400℃より高い場合、燃焼障害を起こしやすくなる。
本発明において、熱重量−示差熱分析とは、試料を所定の温度条件で昇温し、気化・熱分解等に伴う重量減少と気化・酸化・熱分解等に伴う熱量の変化を同時に計測する分析方法である。具体的には、試料約10mgを内径5mmの白金製パンに秤り取り、RIGAKU社製Thermoflex TAS300にセットする。次に、試料を室温から1000℃まで100℃/分で昇温する。
【0062】
本発明に係るC重油組成物の熱重量−示差熱分析による窒素雰囲気下(100ml/分)での50%重量減少温度が600℃以下であることが好ましく、550℃以下であることがより好ましい。熱重量−示差熱分析による窒素雰囲気下での50%重量減少温度が600℃より高い場合、燃焼障害を起こしやすくなる。
【0063】
本発明に係るC重油組成物の熱重量−示差熱分析による窒素雰囲気下(100ml/分)での90%重量減少温度が800℃以下であることが好ましく、750℃以下であることがより好ましい。熱重量−示差熱分析による窒素雰囲気下での90%重量減少温度が800℃より高い場合、燃焼障害を起こしやすくなる。
【0064】
本発明に係るC重油組成物は、必要に応じて低温流動性向上剤、セタン価向上剤、酸化防止剤、安定化剤、分散剤、金属不活性化剤、微生物殺菌剤、助燃剤、帯電防止剤、識別剤、着色剤等の各種添加剤を含有することもできる。
上述の添加剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また市販の添加剤を用いてもよい。なお、市販されている添加剤は、その添加剤が目的としている効果に寄与する有効成分を適当な溶剤で希釈している場合もある。有効成分が希釈されている市販添加剤を使用する場合には、C重油組成物中の性状が上記の条件を満たすように市販添加剤を添加することが好ましい。なお、添加量としては任意であるが、C重油組成物全量基準で、通常0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%以下である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【0066】
[実施例及び比較例]
実施例1〜4の試験燃料は、表1に示す分解改質基材、および減圧蒸留装置で常圧残油を減圧下で蒸留して得られる減圧蒸留残油および常圧蒸留装置で原油を常圧において蒸留して得られる直留軽油を用いて調整した。比較として分解改質基材未使用の試料、および市場品を用意した。
なお、表1に示す分解改質基材は以下の方法により製造した。
【0067】
(分解改質基材の製造方法)
流動接触分解軽油LCO(10容量%留出温度が215℃、90容量%留出温度が318℃、15℃における密度が0.9258g/cm、飽和分が23容量%、オレフィン分が2容量%、全芳香族分が75容量%)を、反応温度:538℃、反応圧力:0.3MPaG、LCOと触媒との接触時間が60秒の条件で、流動床反応器にて分解改質反応用触媒(ガリウム0.2質量%およびリン0.7質量%を担持したMFI型ゼオライトにバインダーを含有させたもの)と接触、反応させ、分解改質反応を行った。次いで、分解改質反応生成物を分留し、表1に示す分解改質基材1〜3を製造した。
【0068】
これらの試料について評価した結果を表2に示す。なお、C重油組成物の性状測定は、上述の試験法、測定法に準拠して行った。
ドライスラッジの測定は、ISO 10307−1に準拠して行なった。
表2より本発明にかかるC重油組成物は、着火性、燃焼性が市場品と同等以上で、かつスラッジの生成を抑制することが可能であることが分かる。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係るC重油組成物は、スラッジが生成し難く、着火性、燃焼性に優れており、ボイラー等の外燃機器燃料、大型船舶や発電用などのディーゼルエンジン機器燃料、ガスタービン機器燃料などの燃料として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.90〜1.20g/cmである分解改質基材を組成物全量基準で1容量%以上45容量%以下配合することを特徴とする2環芳香族炭化水素含有量が10容量%以上45容量%以下であるC重油組成物の製造方法。
【請求項2】
前記分解改質基材の50℃の動粘度が0.3〜10mm/s、硫黄分が8000質量ppm以下、窒素分が100質量ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のC重油組成物の製造方法。
【請求項3】
前記分解改質基材の10容量%留出温度(T10)が130〜270℃、50容量%留出温度(T50)が190〜290℃、90容量%留出温度(T90)が230〜390℃であることを特徴とする請求項1または2に記載のC重油組成物の製造方法。
【請求項4】
前記分解改質基材が、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の原料油を中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを含有する分解改質反応用触媒と接触させ、反応温度400〜650℃、反応圧力は、1.5MPaG以下、接触時間1〜300秒で分解改質反応を行うことにより製造されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のC重油組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のC重油組成物の製造方法により得られる、15℃における密度が0.85〜1.05g/cm、50℃の動粘度が400mm/s以下、硫黄分が3.5質量%以下、窒素分が1質量%以下、引火点70℃以上であるC重油組成物。

【公開番号】特開2012−246356(P2012−246356A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117601(P2011−117601)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)