説明

CD19特異的再指向免疫細胞

【課題】遺伝子工学的に作製された再指向免疫細胞およびB細胞仲介自己免疫疾患の細胞免疫療法を提供する。
【解決手段】CD19に対して特異的な受容体を含む細胞外ドメイン、細胞内シグナリングドメイン、および膜貫通ドメインをもつ細胞表面タンパク質を発現する、遺伝子工学的に作製されたCD19特異的再指向免疫細胞、CD19悪性疾患の細胞免疫療法および有害なB細胞機能を阻害するための、前記細胞の使用、および前記受容体をコードする裸のDNAを用いるエレクトロポレーションにより、キメラT細胞受容体を発現する再指向T細胞を作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願の引照
[0001] 本出願は、米国仮特許出願No.60/246,117(2000年11月7日)に基づく優
先権を主張し、その開示内容を本明細書に援用する。
【0002】
発明の背景
[0002] 本発明は、遺伝子工学的に作製された再指向(redirected)免疫細胞の分野、ならびにB細胞性悪性疾患、B細胞性リンパ増殖症候群およびB細胞仲介自己免疫疾患の
細胞免疫療法の分野に関する。本発明の背景を説明するために、または実施に関する詳細をさらに示すために本明細書で用いる刊行物その他の資料を本明細書に援用する。
【0003】
[0003] 米国で実施されている造血幹細胞(HSC)移植処置全体のほぼ半数は、血液
性悪性疾患の処置のためのものである[1]。HSC移植成功に対する初期の障害の大部分は、療法関連の毒性を緩和するための、かつ日和見感染および移植片対宿主疾患(GVHD)を抑制するための処置様式が不適切なことによるものであった[2−5]。この10年間にわたって支持療法措置が改善されるのに伴って、この患者集団の予後改善に対する主な障害として移植後疾患再発が出現した[6−10]。最強の治療方式を免疫学的な移植片対腫瘍反
応性と組み合わせても微小残留疾患を根絶できないのが、同種(allogeneic)移植における処置失敗のメカニズムである;一方、自家移植の場合、移植幹細胞に腫瘍が混在することも移植後再発をもたらす可能性がある[11]。移植後早期に微小残留疾患をターゲティングするのが、骨髄除去治療方式で達成された腫瘍細胞減少を増強し、かつトランスフェクションした悪性細胞を自家移植幹細胞によりin vivoパージするための1方策である。幹細胞レスキュー直後に微小残留疾患をターゲティングする治療様式の有用性は、毒性スペクトルが限定されていることと、その治療様式の抗腫瘍作用機序(1以上)に対して残留
腫瘍細胞が感受性であることの両方に依存する。持続性微小残留疾患の排除の成功は、現在の骨髄除去治療方式を用いた血液性悪性疾患に対する移植の予後に大きな影響をもつだけでなく、これらの治療方式の程度を抑え、それに付随する毒性を低下させるきっかけにもなる。
【0004】
[0004] 化学療法で処置したbcr−abl陽性急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者の予
後は不良であり、適切なドナーが得られる場合、同種移植が多くの患者にとって治癒のための選択となっている。たとえばCity of Hopeでは、bcr−abl陽性ALL患者76人をHLA一致ドナーからの同種骨髄移植(BMT)により治療した。これらの患者のうち26人は第1緩解期にあり、35人は第1緩解期後に移植を受けた。第1緩解期に移植を受けた患者については、無疾患生存2年間の確率は68%、再発率は10%であった;これに対し第1緩解期後に移植を受けた患者については、無疾患生存率および再発率はそれぞれ36%および38%であった[12]。血液および骨髄のbcr−abl転写体についての移植後ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
スクリーニングは、その後の顕性再発の発現について高リスクをもつ移植レシピエントを早期に同定するための分子スクリーニング手段としての評価が現在行われている[13,14]。BMT後に検出可能なp190転写体が検出された患者は、PCR陰性患者より6.7倍高い顕性再発発現率を示した。これらの患者における陽性信号から形態学的再発までの中間時間は80〜90日であった。移植後再発のきわめて早い時期に患者を同定すると、腫瘍負荷が低く、サルベージ療法を最も実施しやすいと思われるときに療法介入を行う好機が得られる。
【0005】
[0005] 免疫学の分野における最近の進歩は、免疫系調節の分子的基礎の多くを明らかにし、腫瘍免疫療法を含めた免疫系操作療法のための新たなきっかけを提供した。同種移植後の残留腫瘍細胞を免疫仲介により根絶できる可能性を支持する証拠は、同系(syng
eneic)移植体とT細胞枯渇していない一致同胞(sibling)移植体との再発率の違いを比
較することにより推察される。同系ドナーから骨髄移植を受けた慢性期の慢性骨髄性白血病(CML−CP)、第1完全緩解期(1stCR)の急性骨髄性白血病、および1stCRの急性リンパ芽球性白血病の患者は、3年目のアクチュアリアル(保険計理)再発確率がそれぞれ45%
、49%および41%であった;これに対し、同一疾患についてT細胞枯渇していないHLA同一同胞からの移植骨髄のレシピエントの再発率は、それぞれ12%、20%および24%であった[15−17]。同種骨髄移植後の再発率低下は、急性および/または慢性GVHDを発症している患者で最も著しかった。現在、増強GVHDの毒性を伴うことなく移植後再発率を低下させるために、移植片対白血病(GVL)応答を選択的に増強する方式の開発に努力が向けられ
ている。
【0006】
[0006] ドナーとレシピエントの間で異なる多型遺伝子によりコードされる副組織適合性抗原に特異的なドナーMHC制限CD8およびCD4α/βT細胞が急性GVHDおよびGVL
の主要なメディエーターであることが、動物モデルにおける研究で確立された[18−21]。最近、同種BMT後に再発した慢性期CMLの患者はドナーリンパ球注入(DLI)がGVL効果の促進に有効な患者集団であると同定された[22,23]。DLI細胞量0.25〜12.3×108個/kgの単核細胞で約75%の完全応答率が達成される[24]。ドナーリンパ球注入の抗腫瘍効果はCMLに対する細胞免疫療法の有効性を強く示すが、DLIの臨床的利点はすべての形態の血液性悪性疾患に一般化されるわけではない。再発性ALLはDLIに対する応答性がはるかに低く、CR(完全緩解)率20%未満である;腫瘍応答がみられる場合、一般に有意のGVHD罹患および死亡を伴う[25]。DLIの治療係数を高めるために、GVHD毒性があってもこの手
法が許容されるように、自殺遺伝子を発現させるドナーリンパ球の遺伝子修飾がドナーリンパ球をin vivo除去しうる方法として現在されつつある[26,27]。あるいは、ドナー
抗原特異的T細胞応答の引き金となる造血発現が制限された副組織適合性抗原(mHA)をコードする遺伝子を同定する試みがなされている。これらのmHAについて特異的なドナー由
来クローンの単離、ex vivo発現、および再注入は、同種骨髄移植後GVLを選択的に増強する効力をもつ[28−30]。
【0007】
[0007] トランスフォームしていないB細胞および悪性B細胞は、それらの系列コミットメントおよび成熟段階を規定する一連の細胞表面分子を発現する。これらは最初にネズミモノクローナル抗体により同定され、より最近になって分子遺伝学的手法で同定された。これらの細胞表面分子の幾つかの発現は、B細胞およびそれらの悪性カウンターパート
に著しく限定される。CD20は、抗CD20モノクローナル抗体を用いるB細胞性リンパ腫免疫
療法のための臨床的に有用な細胞表面ターゲットである。この33kDaのタンパク質は、カ
ルシウムイオンチャンネルとして機能するその能力と一致する構造特性をもち、正常なプレB細胞および成熟B細胞上に発現するが、造血幹細胞にも血漿細胞にも発現しない[31−33]。CD20は細胞表面を調節せず、細胞表面から離脱することもない[34]。抗CD20モノクローナル抗体によるCD20架橋はリンパ腫細胞のアポトーシスの引き金となりうることがin vitro試験で証明された[35,36]。再発性濾胞性リンパ腫患者においてキメラ抗CD20モノクローナル抗体IDEC−C2B8(Rituximab)の抗腫瘍活性を評価する臨床試験で、処置
した患者のほぼ半数に腫瘍応答がみられると報告された;ただし臨床効果は通常は一過性である[37−40]。正常CD20B細胞が持続的に除去されるにもかかわらず、Rituximab投与患者はB細胞リンパ球減少による合併症を発現しなかった[41]。131I結合および90Y結合−抗CD20抗体を用いる放射免疫療法も再発性/難治性重症性非ホジキンリンパ腫患者において有望な臨床効果を示したが、放射線による造血毒性が著しく、しばしば幹細胞支持療法が必要であった[42]。
【0008】
[0008] CD20と異なり、CD19は初期コミットメント幹細胞からB系列まですべてのヒ
トB細胞上に発現し、最終的に血漿細胞に分化するまで持続する[43]。CD19はI型膜貫通タンパク質であり、補体2(CD21)、TAPA−1およびLeu13抗原と結合してB細胞信号伝達複
合体を形成する。この複合体はB細胞増殖の調節に関与する[44]。CD19は細胞表面から
離脱しないが、インターナリゼーションは行う[45]。したがって、細胞毒性薬剤を悪性B細胞の細胞内コンパートメントへ特異的に送達する方法として、毒素分子と結合したモ
ノクローナル抗体でCD19をターゲティングすることが現在検討されている[46−48]。ブロックしたリシン(ricin)およびアメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質(PAP)に結合した抗CD19抗体は、ex vivo骨髄パージ処置した場合、およびCD19白血病細胞を接種
したNOD−SCID動物に投与した場合の両方において、特異性および白血病細胞致死効力を
著しく高める[49]。in vitro白血病前駆細胞アッセイ法により、自己再生能をもつ小割合の白血病芽細胞はそれらの細胞表面にCD19を発現するという証拠が得られた。この結論は、白血病前駆活性はCD19陽性細胞を選別採取した新鮮な骨髄試料にのみみられ、CD19陰性細胞集団にはみられないという所見から得られた[50]。さらに、再発白血病骨髄検体をB43−PAP処理すると前駆細胞活性が除かれたが、無関係な特異性をもつPAP結合抗体は
そのような活性をもたなかった[51]。現在、高リスク−プレB ALL患者においてCD19特
異的免疫毒素B43−PAP全身投与のI/II相臨床試験が行われている[52]。
【0009】
[0009] 臨床試験でモノクローナル抗CD20抗体療法および抗CD19抗体療法の抗腫瘍効果がみられるにもかかわらず、これらの患者の再発率が高いことは、すべての腫瘍細胞を除去するには現在の抗体ベース免疫療法の能力に限界があることを強く示す[53]。これに対し腫瘍特異的T細胞の養子移入は、動物モデルおよび少数の臨床例において完全な腫
瘍根絶をもたらすことができる[54,55]。移入したT細胞が腫瘍ターゲットを直接認識
して溶解する能力によりサイトカインが産生され、これらが抗原非特異的抗腫瘍エフェクター細胞を漸増および活性化し、これらの細胞が腫瘍塊中へ移動し、腫瘍認識に伴って増殖する;これらはすべて、T細胞による免疫学的な腫瘍クリアランスに寄与する[56]。
最近では発現−クローニング法で、T細胞が応答するヒト腫瘍により発現する増加してい
る遺伝子を遺伝学的に同定して単離できるようになった[57,58]。現在まで、悪性B細
胞が幅広く発現しかつT細胞応答の引き金となる、白血病およびリンパ腫に特異的な抗原
は同定されていない。したがって、前臨床試験および臨床試験は、CD20またはCD19の結合部位と細胞表面CD3複合体エピトープに対する結合部位とからなる二特異的抗体の構築に
より、腫瘍をターゲティングする抗体とT細胞エフェクター機序を組み合わせることに向
けられた。そのような二特異的抗体は、活性T細胞を白血病とリンパ腫のターゲットに同
時局在させ、in vitroでターゲット細胞を溶解することができる[59−61]。しかしそのような二特異的抗体のin vivo抗腫瘍活性には、動物モデルにおいても臨床試験でも限界
があった[62]。in vitro活性とin vivo効果の相違は、持続性かつ機能性の細胞免疫応
答が得られるようにT細胞と腫瘍細胞を可溶性リンカーにより結合させることに伴う障害
から生じる、抗体免疫療法における本来の限界を反映すると思われる[63]。
【0010】
[00010] 抗原特異的CTLクローンをヒトに養子移入する方法の安全性は、最初に、ドナー由来のCMV特異的T細胞を投与された骨髄移植患者において試験された[56]。以前の研究で、同種骨髄移植(BMT)に伴う内因性CMV特異的T細胞応答の再構成は重篤なCMV疾患の発症からの保護と相関することが証明されていた[64]。BMTに伴う欠損CMV免疫を再構成するために、CD8CMV特異的CTLクローンをCMV血清陽性HLA一致同胞ドナーから作製し
、拡張させ(expand)、CMV疾患を発症するリスクのある同胞BMTレシピエントに注入する。14人の患者をこれらのCMV特異的CTLクローンにより、最大細胞量109個/m2まで用量を
漸増しながら週1回ずつ4回処置して、付随する毒性はみられなかった[65]。T細胞クロ
ーンを養子移入したレシピエントから得た末梢血試料を、移入細胞のin vivo持続性につ
いて評価した。それぞれのCTLクローン逐次注入の後、回収可能なCMV特異的CTL活性が増
大し、最終注入後、少なくとも12週間は持続した。しかし、CD4ヘルパーの同時応答の
ないCD8クローンの長期持続性はみられなかった。CMVウイルス血症またはCMV疾患を発
症した患者はなかった。これらの結果は、ex vivo拡張したCMV特異的CTLクローンはBMTレシピエントに安全に移入でき、in vivoでCMV疾患の発症から保護しうる機能性エフェクタ
ー細胞として持続できることを証明する。
【0011】
[00011] 骨髄移植の合併症(特に骨髄からT細胞が枯渇している場合)は、EBV関連
リンパ増殖性疾患の発症である[66]。この急速に進行するEBVトランスフォームB細胞増殖は免疫芽性リンパ腫に類似し、潜在ウイルスを宿している個体または移植骨髄と共にウイルスを接種された免疫ナイーブ個体におけるEBV特異的T細胞免疫欠損により起きる。Rooneyらによる臨床試験で、ex vivo拡張したドナー由来EBV特異的T細胞系の養子移入はこ
の合併症を発症するリスクの高い患者を保護し、かつ臨床顕性EBVトランスフォームB細胞の根絶を仲介しうることが証明された[54]。4×107〜1.2×108個/m2の細胞量で処置
した小児41人に著しい毒性はみられなかった。
【0012】
[00012] 臨床試験に用いるT細胞の遺伝子修飾を利用して、in vivoトラッキングの
ための細胞をマークし、T細胞に新規機能特性を付与した。レトロウイルスベクターが、
比較的高いトランスダクション効率およびT細胞に対する低いin vitro毒性のため、この
目的に最も広く用いられた[67]。しかしこれらのベクターは臨床用材料として調製するのには時間がかかり、かつ高価であり、複製コンピテントウイルス変異体が存在しないことを綿密にスクリーニングしなければならない[68]。RooneyらはEBV反応性T細胞系をNeoR遺伝子でトランスダクションし、このマーカー遺伝子に特異的なPCRにより細胞のin vivo持続性評価を容易にした[69]。Riddellらは、HIV特異的免疫を増強するためにHIV血
清陽性個体においてHIV特異的CD8CTLクローンを用いた養子移入によるI相試験を実施した[70]。これらのクローンをレトロウイルスベクターtgLSHyTKでトランスダクションした。これはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼおよびヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)を含む二官能性融合タンパク質の合成を指令し、これによりハイ
グロマイシンによるin vitro選択とガンシクロビルによる移入細胞の効果的in vivo除去
が可能になる。HIV感染患者6人を一連の増加する4種類の細胞量の注入により処置して、
毒性がみられなかった:最大細胞量5×109個/m2[70]。
【0013】
[00013] ウイルス性の遺伝子療法ベクターの代わりに、Nabelらは抗HIV遺伝子の発
現カセットをコードするプラスミドDNAをI相臨床試験に用いた。遺伝子銃を用いる粒子衝突法により、プラスミドDNAをT細胞に導入した[71]。遺伝子修飾したT細胞を拡張させ
、HIV感染被験者に再注入した。この試験でウイルス以外の遺伝子修飾法を初代ヒトT細胞に使用できることは証明されたが、この方法の限界の1つはT細胞におけるプラスミドのエピソーム増殖である。染色体に組み込まれた移入DNAと異なり、プラスミドDNAのエピソーム増殖は、細胞複製に伴う移入遺伝子材料の喪失、および反復ランダム染色体組込み事象というリスクをもつ。
【0014】
[00014] T細胞抗原受容体複合体ゼータ鎖(ζ)の細胞内シグナリングドメインに融合した細胞外一本鎖抗体(scFvFc)からなる工学的に作製されたキメラ抗原受容体は、T
細胞内で発現するとモノクローナル抗体の特異性に基づいて抗原認識を再指向する能力をもつ[72]。腫瘍細胞表面エピトープに対するターゲット特異性をもつscFvFc:ζ受容体の設計は、移入療法に用いる抗腫瘍免疫エフェクター細胞を作製するための概念として魅力的な方法であり、既存の抗腫瘍免疫に依存しない。これらの受容体は抗原をMHC非依存
様式で結合するという点で”万能”であり、したがって1つの構築体を用いて抗原陽性腫
瘍の患者集団を処置できる。ヒト腫瘍をターゲティングするための構築体が幾つか文献に記載され、これにはHer2/Neu、CEA、ERRB−2、CD44v6、および腎細胞癌において選択的
に発現するエピトープに対する特異性をもつ受容体が含まれる[73−77]。これらのエピトープはすべて、キメラT細胞受容体によるscFv結合が可能な細胞表面部分であるという
共通の特性をもつ。CD4およびCD8T細胞エフェクター機能は両方ともこれらの受容体
が引き金となりうることがin vitro試験で証明された。さらに動物モデルにより、養子移入したscFvFc:ζ発現T細胞が定着腫瘍を根絶する能力が証明された[78]。腫瘍特異的s
cFvFc:ζ受容体を発現する初代ヒトT細胞の機能がin vitroで評価された;これらの細胞は腫瘍ターゲットを特異的に溶解し、IL−2、TNF、IFN−γおよびGM−CSFを含めた一連の前炎症性サイトカインを分泌する[79]。養子移入療法I相予備試験が、HIV感染個体においてHIV gp120に特異的な自家scFvFc:ζ発現T細胞を用いて、また乳腺癌および結腸直腸腺癌を含めた多様な腺癌に発現するTAG−72に対する特異性をもつ自家scFvFc:ζ発現T細胞を用いて現在行われている。
【0015】
[00015] City of Hopeの研究者らは、CD20+B細胞性悪性疾患をターゲティングするためにCD20特異的scFvFc:ζ受容体構築体を工学的に作製した[80]。単一コピーの再配列していない染色体組込みベクターDNAを含み、CD20特異的scFvFc:z∂受容体を発現するCD8+CTLクローンを健康な個体およびリンパ腫患者から単離して拡張できることが、前臨床実験室試験で証明された[81]。これを達成するために、CMV極/初期プロモーターの
転写制御下にあるキメラ受容体配列およびSV40初期プロモーターの転写制御下にあるNeoR遺伝子を含む精製した線状プラスミドDNAを、細胞およびDNAの短時間電流曝露(エレクトロポレーションと呼ばれる方法)により活性ヒト末梢血単核細胞に導入した[82]。FHCRCでFDA承認臨床試験に現在用いている選択、クローニングおよび拡張の方法を利用して、CD20特異的細胞溶解活性をもつ遺伝子修飾CD8+CTLクローンを、健康な志願者6人それぞ
れから15回の別個のエレクトロポレーション操作で作製した[81]。これらのクローンは、ヒトCD20+リンパ腫細胞系のパネルと共存培養すると増殖し、ターゲット細胞を特異的に溶解し、刺激されてサイトカインを産生する。
【0016】
[00016] B細胞性悪性疾患およびB細胞仲介自己免疫疾患を処置するために、他の再
指向性免疫細胞、好ましい態様においては再指向T細胞を開発することが望まれている。
発明の概要
[00017] 1態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイン(TM)およびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラT細胞受容体(本明細書に
おいて”CD19R”と呼ぶ)を細胞表面膜上に発現および保有する、遺伝子工学的に作製さ
れたT細胞(本明細書において同様に”CD19特異的T細胞”と呼ぶ)を提供する。本発明は、CD19特異的キメラT細胞受容体、これらの受容体をコードするDNA構築体、およびこれらの構築体を発現に適正な配向で含むプラスミド発現ベクターをも提供する。
【0017】
[00018] 第2態様において本発明は、哺乳動物においてCD19悪性疾患を処置する方法であって、CD19特異的T細胞を療法有効量で哺乳動物に注入することを含む方法を提供
する。1態様においては、CD8CD19特異的T細胞を、好ましくはCD4CD19特異的T細胞と
共に投与する。第2態様においては、CD4CD19特異的T細胞を、好ましくは本発明のCD19
特異的キメラ受容体を発現しないCD8細胞毒性リンパ球と共に、所望によりCD8CD19特異的再指向T細胞と組み合わせて哺乳動物に投与する。
【0018】
[00019] 他の態様において本発明は、哺乳動物において有害なB細胞機能を阻害する方法であって、哺乳動物にCD19特異的再指向T細胞を療法有効量で投与することを含む方
法を提供する。これらの有害なB細胞機能には、B細胞仲介自己免疫疾患(たとえば狼瘡または慢性関節リウマチ)、およびある抗原に対するあらゆる不都合な特異的免疫応答を含めることができる。
【0019】
[00020] 他の態様において本発明は、CD19特異的再指向T細胞を作製および拡張する方法であって、CD19特異的キメラ受容体をコードするDNA構築体を含む発現ベクターでT細胞をトランスフェクションし、次いで細胞をCD19細胞、組換えCD19、または該受容体に対する抗体で刺激して細胞を増殖させることを含む方法を提供する。1態様においては、
再指向T細胞をエレクトロポレーションにより作製する。第2態様においては、ウイルスベクターを用いて再指向T細胞を作製する。
【0020】
[00021] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ン(TM)およびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラ免疫受容体を細胞表面膜上に発現および保有するナチュラルキラー(NK)細胞を目標とする方法を提供する。
【0021】
[00022] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ン(TM)およびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラ免疫受容体を細胞表面膜上に発現および保有するマクロファージ細胞を目標とする方法を提供する。
【0022】
[00023] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ン(TM)およびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラ免疫受容体を細胞表面膜上に発現および保有する好中球を目標とする方法を提供する。
【0023】
[00024] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ン(TM)およびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラ免疫受容体を細胞表面膜上に発現および保有する幹細胞を目標とする方法を提供する。
【0024】
[00025] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ンおよびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラT細胞受容体を提供する。
[00026] 1態様において、本発明のCD19特異的キメラT細胞受容体はscFvFc:ζを含
み、ここでscFvFcは細胞外ドメインを表わし、scFvはCD19に対する一本鎖モノクローナル抗体のVHおよびVL鎖を表わし、FcはIgG1の定常部の少なくとも一部を表わし、ζはヒトCD3のゼータ鎖の細胞内シグナリングドメインを表わす。
【0025】
[00027] 他の態様において、本発明のCD19特異的キメラT細胞受容体はscFvFc細胞外ドメインおよびζ細胞内ドメインを含み、これらがヒトCD4の膜貫通ドメインにより連結
されている。
【0026】
[00028] 他の態様において、本発明のCD19特異的キメラT細胞受容体はSEQ ID NO:2のアミノ酸23〜634を含む。
[00029] 他の態様において本発明は、本発明のキメラT細胞受容体をコードするDNA
構築体を発現に適正な配向で含むプラスミド発現ベクターを提供する。
【0027】
発明の詳細な記述
[00036] 本発明は、遺伝子工学的に作製された再指向T細胞、ならびにB細胞性悪性
疾患、エプスタイン・バーウイルス関連リンパ増殖性障害およびB細胞仲介自己免疫疾患
の細胞免疫療法のためのそれらの使用に関する。
【0028】
[00037] 1態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメインおよびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラT細胞受容体を細胞表面膜上に発
現および保有する、遺伝子工学的に作製されたT細胞(本明細書においてはCD19特異的T細胞と呼ぶ)を提供する。細胞外ドメインは、CD19特異的受容体を含む。本発明の各T細胞
は、CD4/CD8、CD4/CD8、CD4/CD8、またはCD4/CD8であってよい。T
細胞は、CD4/CD8とCD4/CD8細胞の混合集団、または単一クローン集団であってもよい。本発明のCD4T細胞は、in vitroでCD19リンパ腫細胞と共存培養した際にIL−2を産生する。本発明のCD8T細胞は、in vitroでターゲット細胞と共存培養した際にCD19ヒトリンパ腫ターゲット細胞を溶解する。本発明はさらに、CD19特異的キメラT細胞受容体、該受容体をコードするDNA構築体、および該構築体を発現に適正な配向で含むプラ
スミド発現ベクターを提供する。
【0029】
[00038] 好ましい態様において、CD19特異的再指向T細胞は、CD19特異的キメラ受容体scFvFc:ζを発現し、ここでscFvはCD19に対する一本鎖モノクローナル抗体のVHおよびVL鎖を表わし、FcはIgG1の定常部の少なくとも一部を表わし、ζはヒトCD3のゼータ鎖の
細胞内シグナリングドメインを表わす。細胞外ドメインscFvFcと細胞内ドメインζは、膜貫通ドメイン、たとえばヒトCD4の膜貫通ドメインにより連結されている。他の態様にお
いて、ヒトFc定常部は他の抗体種、たとえばIgG4により供給されてもよい。
【0030】
[00039] 具体的な好ましい態様において、全長scFvFc:ζ cDNA(SEQ ID NO.1または”CD19R:ゼータ”と表示する)は、ヒトGM−CSF受容体アルファ鎖リーダーペプチド、FMC63 VH、Gly−Serリンカー、FMC63 VL、ヒトIgG4 Fc、ヒトCD4 TM、およびヒト細胞質
ゼータ鎖を含む。”キメラTCR”は、T細胞が発現する受容体であって、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、細胞外ドメインがHLA非制限
様式で抗原(普通はT細胞受容体がそのような様式で結合しない抗原)を特異的に結合し
うるものを意味する。T細胞を適正な条件下で抗原により刺激すると、細胞の増殖(拡張
)および/またはサイトカイン(たとえばIL−2)の産生および/または細胞溶解が起き
る。
【0031】
[00040] 他の態様において本発明は、哺乳動物においてCD19悪性疾患、リンパ増
殖性疾患、または一部がB細胞により仲介される自己免疫疾患を処置する方法であって、CD19特異的再指向T細胞を療法有効量で哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。本発明のこの観点の1態様においては、療法有効量のCD8CD19特異的再指向T細胞を哺乳動
物に投与する。CD8T細胞は、好ましくはCD4CD19特異的再指向T細胞と共に投与される。本発明のこの観点の第2態様においては、療法有効量のCD4CD19特異的再指向T細胞を
哺乳動物に投与する。CD4CD19特異的再指向T細胞は、好ましくは本発明のCD19特異的キメラ受容体を発現するCD8細胞毒性リンパ球と共に投与される。
【0032】
[00041] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ンおよびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラT細胞受容体をそれらの表面
膜上に発現する、遺伝子工学的に作製された幹細胞を提供する。
【0033】
[00042] 他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通ドメイ
ンおよびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラT細胞受容体をそれらの表面
膜上に発現する、遺伝子工学的に作製されたナチュラルキラー(NK)細胞を提供する。
【0034】
[00043] さらに他の態様において本発明は、細胞内シグナリングドメイン、膜貫通
ドメインおよびCD19特異的細胞外ドメインをもつCD19特異的キメラT細胞受容体をそれら
の表面膜上に発現する、遺伝子工学的に作製されたマクロファージを提供する。
【0035】
[00044] 他の態様において本発明は、哺乳動物において有害なB細胞機能を阻害する方法であって、哺乳動物にCD19特異的再指向T細胞を療法有効量で投与することを含む方
法を提供する。有害なB細胞機能には、B細胞仲介自己免疫疾患(たとえば狼瘡または慢性関節リウマチ)、およびある抗原に対するあらゆる不都合な特異的免疫応答を含めることができる。たとえば、いずれかの免疫応答が外来物質(たとえばモノクローナル抗体またはDNAまたはウイルスまたは細胞)の有効性を低下させる場合には、外来物質を投与する
前に、免疫抑制方法でCD19特異的再指向T細胞を投与することができる。
【0036】
[00045] 他の態様において本発明は、CD19特異的再指向T細胞を作製および拡張する方法であって、CD19特異的キメラ受容体をコードするDNA構築体を含む発現ベクターでT細胞をトランスフェクションし、次いで細胞をCD19細胞、組換えCD19、または該受容体に対する抗体で刺激して細胞を増殖させることを含む方法を提供する。本発明のこの態様に
よれば、この方法は好ましくは裸のDNAのエレクトロポレーションによりT細胞を安定にトランスフェクションおよび再指向する。あるいは、ヘテロロガス遺伝子をもつウイルスベクターを用いて遺伝子をT細胞に導入する。裸のDNAを用いると、再指向T細胞の作製に必
要な時間を著しく短縮できる。”裸のDNA”は、発現に適正な配向でプラスミド発現ベク
ター中に含まれるキメラT細胞受容体(TCR)をコードするDNAを意味する。本発明のエレ
クトロポレーション法により、キメラTCR(cTCR)をそれらの表面に発現および保有する
安定なトランスフェクタントが得られる。
【0037】
[00046] 好ましい態様において、T細胞は初代ヒトT細胞、たとえばヒト末梢血単核
細胞(PBMC)である。これらは従来プラスミドベクターのエレクトロポレーション法では安定に移入できないと考えられていた。好ましい条件には、内毒素を枯渇させたDNAの使
用、およびT細胞のマイトジェン刺激後、約3日以内のエレクトロポレーションが含まれる。トランスフェクション後、トランスフェクタントをクローニングし、単一の組み込まれた再配列していないプラスミドの存在およびキメラ受容体の発現を示すクローンをex vivoで拡張させる。拡張のために選択するクローンは、好ましくはCD8であり、ターゲット抗原を発現するリンパ腫ターゲット細胞を特異的に認識して溶解する能力を示す。このクローンをIL−2、好ましくはcTCRに特異的な他の刺激物質で刺激することにより拡張する

【0038】
[00047] 他の態様においては、不死化/トランスフォームした細胞、たとえばT細胞腫瘍系TALL101においてT細胞を発現させる。
[00048] 本明細書には主に特異的scFvFc:ζ構築体ならびにSEQ ID NO:1および2の受容体に関して本発明を記載するが、本発明はこの特定の構築体および受容体に限定されない。Nicholsonらが発表したCD19特異的ネズミIgG1モノクローナル抗体のVHおよびVL
列に基づいて、PCRによりscFv配列をde novo構築した[83]。scFv部は、H鎖とL鎖を互いに保持するための種々の方法を用いて任意数の異なるCD19結合ドメイン(最小ペプチド結合ドメインから、ファージライブラリー由来の構造性CD19結合ドメイン、抗体様ドメインにまで及ぶ)で置き換えることができる。配列様式はディアボディー(diabody)のよう
な多量体であってもよい。分泌形の抗体は多量体を構成する。T細胞受容体バリアントも
多量体である可能性がある。多量体は、L鎖とH鎖の可変部が交差対合して、Wintersがデ
ィアボディーと呼んだものになることにより生じる可能性が最も高い。
【0039】
[00049] 構築体のヒンジ部は、完全欠失から、第1システイン保持、セリンではなくプロリンの置換、第1システインまでのトランケートに及ぶ、多様な別形態をもつことが
できる。Fc部を欠失してもよいが、受容体は膜から伸びているのが好ましいことを示唆するデータがある。安定で二量体形成するいかなるタンパク質もこの目的に使用できる。1
つだけのFcドメイン、たとえばCH2またはCH3ドメインのいずれかを用いることもできる。
【0040】
[00050] CD4膜貫通ドメインの別形態には、膜貫通CD3ゼータドメインもしくはシス
テイン変異CD3ゼータドメイン、または他の膜貫通シグナリングタンパク質(たとえばCD16およびCD8)に由来する他の膜貫通ドメインが含まれる。CD3ゼータ細胞内ドメインを活
性化のために採用した。本発明のキメラ受容体の細胞内シグナリングドメインは、キメラ受容体を挿入した免疫細胞の正常なエフェクター機能のうち少なくとも1つの活性化に関
与する。”エフェクター機能”は、分化した細胞の特殊機能を表わす。たとえばT細胞の
エフェクター機能は、細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性である。したがって用語”細胞内シグナリングドメイン”は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特殊機能を行うように指令するタンパク質部分を表わす。通常は細胞内シグナリングドメイン全体を用いるが、多くの場合、鎖全体を用いる必要はないであろう。細胞内シグナリングドメインのトランケート部分がエフェクター機能シグナルをなお伝達する限り、そのようなトランケート部分を利用できれば無傷鎖の代わりに使用できる。した
がって細胞内シグナリングドメインという用語には、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な、細胞内シグナリングドメインのいかなるトランケート部分も含まれるものとする。例には、T細胞受容体のゼータ鎖またはそのいずれかの相同体(たとえばイータ
、デルタ、ガンマまたはイプシロン)、MB1鎖、B29、FcRIIIおよびFcRIなどが含まれる。活性化タンパク質ファミリーの他のメンバーの細胞内シグナリング部分、たとえばFcγRIIIおよびFcεRIを使用できる。これら別形態の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを用いるcTCRの説明については、Gross et al.[84]、Stancovski et al.[73]、Moritz et al.[75]、Hwu et al.[85]、Weijtens et al.[79]、およびHenkele et al.
[76]参照。
【0041】
再指向T細胞を用いる細胞免疫療法
[00051] ヒトの疾患に療法介入する手段として抗原特異的T細胞を単離および拡張する方法が臨床試験で確証されている[86,65,87]。初期の試験では、サイトメガロウイルスコード抗原に特異的なCD8細胞溶解性T細胞(CTL)クローンを欠損ウイルス免疫再
構成手段として同種骨髄移植に際して用いる養子移入T細胞療法の有用性を評価し、T細胞の単離、クローニング、拡張および再注入の原理と方法を決定した[86]。移植後EBV関
連リンパ増殖性疾患の抑制にも同様な方法がとられた。EBV特異的なドナー由来T細胞は、この合併症の高リスク患者を保護し、かつ免疫芽B細胞性リンパ腫に似た臨床顕性疾患を
根絶する能力をもつ[87]。これらの試験は、養子移入したex vivo拡張T細胞が抗原特異的エフェクター機能を最少の毒性で仲介しうることを明らかに証明するものであり、それに対する免疫をT細胞ドナーが定着している特定のウイルスコード抗原をターゲティング
することによって容易になった。
【0042】
[00052] ヒト悪性疾患治療様式としての養子移入T細胞療法の適用は、T細胞応答の
引き金となりうる分子決定された腫瘍抗原が少なく、これらのT細胞を腫瘍保有宿主から
単離するのが困難であることによって制限されていた。このため、自家抗腫瘍エフェクター細胞を用いる初期の細胞免疫療法試験は、抗原非特異的エフェクター細胞、たとえばリンホカイン活性化されたキラー(LAK)細胞に依存していた;これは有効性が限られ、毒
性が著しかった[88,89]。注入エフェクター細胞の腫瘍特異性を増強するために、IL−2拡張した腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)が評価された[90]。TIL注入に対する応答は散発
性であった;その原因の一部は、推定不可能な抗腫瘍特異性をもつ不均一な細胞集団が拡張されたためである。しかし黒色腫および腎細胞癌の患者はTIL注入後に場合によっては
著しい腫瘍退縮を示し、腫瘍特異的MHC制限T細胞クローンがこれらの患者から単離された。最近、腫瘍抗原をコードする遺伝子を同定するための発現クローニング技術が開発され、これにより、宿主抗腫瘍免疫を開始または増強するための組換えDNAベースワクチン方
式、および癌患者由来の腫瘍特異的T細胞を形成するためのin vitro培養系の開発が促進
された[91]。黒色腫の治療のために自家チロシナーゼ特異的CTLを用いる臨床試験が現
在行われている。
【0043】
[00053] 血液原性悪性疾患がT細胞療法の対象として含まれることは、同種BMTに際
してみられた移植片対白血病(GVL)作用の所見、およびドナーバフィーコートの注入が
抗白血病効果をもちうることに基づいて証明されている[92]。現在では、移植骨髄中に存在するT細胞が移植片対宿主疾患に関与する宿主副組織適合性抗原(mHA)に対する応答を高めることが明らかであり、mHAサブセットの組織発現が限定されていることに基づい
て、GVHDに対するものと異なるGVLに対するT細胞特異性がありうるという証拠が増えている[93]。それにもかかわらず、悪性B細胞がCTLを認識して溶解しやすいことは十分に報告されている[94,95]。B細胞性リンパ腫をMHC制限CTLでターゲティングする試みは、
腫瘍特異的抗原としてのリンパ腫クローンイディオタイプに向けられた。免疫グロブリン可変部に対するCTL応答を形成しうること、またリンパ腫細胞がT細胞認識のためにこれらの決定因子をプロセシングおよび提示することが、ネズミモデルで証明された[96,97]
。これらの抗原は潜在的に腫瘍特異性であるが、それらは患者特異性でもあり、このため大規模適用が困難である。
【0044】
[00054] 工学的に作製した受容体構築体を用いる遺伝子修飾に基づいて、T細胞に目的とする抗原特異性を付与するのは、魅力的な方法である。これにより抗原特異的T細胞
を癌患者から採取する必要性が回避され、抗原認識部分のタイプに応じて内因性T細胞受
容体が利用できない腫瘍細胞表面エピトープをターゲティングできるからである。TCR−CD3複合体の各成分のシグナリング機能を決定する研究で、CD3複合体ゼータ鎖の細胞内ド
メインと抗体により架橋しうる細胞外ドメインとが結合したキメラ分子はT細胞ハイブリ
ドーマにおいて生化学的事象および機能活性化事象の引き金となりうることが明らかになった[98]。タンパク質工学における最近の進歩で、フレキシブルペプチドリンカーにより結合した抗体可変部からなり、親抗体の特異性を再現する、一本鎖分子を組み立てる方法が得られた[99,100]。細胞外scFvおよび細胞内ゼータドメインからなるキメラ一本
鎖抗体が、抗体のターゲットエピトープを発現する腫瘍細胞に対してT細胞特異性を再指
向する能力について、現在幾つかのグループが報告している;受容体特異性には、HER2/Neu、および特性解明がより不十分な腎細胞および卵巣癌上のエピトープが含まれていた
[72,73,75,79,84,85]。イディオタイプを発現するリンパ腫細胞表面免疫グロブリンをそのリガンドとして認識するイディオタイプ特異的scFvキメラTCRが報告された[101]。この方法は、低親和性のMHC制限TCR複合体を、単離CD3複合体メンバーに結合した高
親和性のMHC非制限分子と交換するものであるが、これらの受容体は初代ヒトT細胞においてT細胞エフェクター機能を確かに活性化し、その後アネルギーまたはアポトーシスを明
らかに誘導することはない[79]。scFv:ζトランスフェクションしたCTLを用いたネズ
ミモデル系は、細胞とIL−2の両方を投与した場合に初めて腫瘍の排除がin vivoで起きることを証明する;これは、キメラ受容体によるシグナリングがエフェクター機能の活性化のほかT細胞再循環に十分なことを示唆する[76]。
【0045】
[00055] キメラ受容体再指向T細胞エフェクター機能が10年にわたって文献に記載されているが、癌療法のためのこの方法の臨床適用は始まったばかりである。遺伝子修飾したT細胞を再注入に十分な数にまでex vivo拡張することが、臨床試験実施のための主な障害である。十分な数の細胞を得るのが困難なだけでなく、ex vivo拡張後にエフェクター
機能が保持されることはこの文献にはルーティンには記載されていない。
【0046】
CD19特異的再指向T細胞を用いるCD19悪性疾患の処置
[00056] 本発明は、CD19特異的再指向T細胞を用いるB細胞性悪性疾患細胞表面エピ
トープのターゲティングである。B細胞はT細胞に対する免疫刺激性抗原提示細胞として作用しうるので、悪性B細胞は再指向T細胞に対する卓越したターゲットである[102]。CD19B細胞性悪性疾患細胞と共存培養した場合、CD19特異的scFvFc:ζ発現ジャーカットクローンによるサイトカイン産生には、プロフェッショナル抗原提示細胞を培養に添加する必要がなく、あるいは副刺激シグナルをホルバールエステルPMAにより薬理学的に送達す
る必要がない。T細胞におけるCD19R:ゼータキメラ免疫受容体の機能は、まずこのscFvFc:ζ構築体を初代ヒトT細胞クローンにおいて発現させることにより評価された。クロー
ンはヒトCD19白血病細胞およびリンパ腫細胞と共存培養すると特異的にサイトカイン(IFN−γ、TNF−α、およびgm−CSF)を分泌する。CD19特異的クローンによるサイトカイ
ン産生は、培養に抗CD19特異的抗体HIB19を添加することにより一部遮断できる。抗CD20
抗体Leu−16はサイトカイン産生を遮断せず、これにより腫瘍細胞表面のCD19に対するCD19R:ゼータキメラ免疫受容体の特異性が証明される。CD19R:ゼータCD8CTLクローン
は、標準4時間クロム放出アッセイにおいてヒトCD19白血病細胞系およびリンパ腫細胞
系に対する高レベルの細胞溶解活性を示し、CD19エピトープを含まない他の腫瘍系を殺さない。これらの前臨床試験は、HLA一致同種骨髄移植後に再発する患者におけるドナー由
来CD19R:ゼータ発現T細胞クローンを用いる養子移入療法の抗腫瘍効果を支持する。
【0047】
[00057] 本発明者らは、CD19特異的再指向CD8CTLクローンをOKT3およびIL−2でルーティンに拡張すると約6週間にわたって109個を超える細胞が生成すること、およびクロム放出機能アッセイデータが示すようにこれらのクローンは拡張後にそれらのエフェクター機能を保持することを見出した。プラスミド/scFvFc:ζ系は撹乱されたプラスミド配列をもつトランスフェクタントを生成する可能性があるという本発明者らの所見から、トランスフェクタントをクローニングし、単一の再配列していない組込みプラスミドの存在、キメラ受容体の発現、ならびにCD19リンパ腫ターゲット細胞を特異的に認識および溶解する能力が立証されたクローンを拡張するのが望ましいことが強く示される。
【0048】
[00058] CD19は腫瘍特異性ではない。細胞にこの特異性を養子移入すると、CD19を
発現するトランスフォームしていないB細胞サブセットを殺すと期待される。CD19は造血
幹細胞または成熟血漿細胞により発現しないが、この交差反応性は化学療法および/または放射線療法を受けている患者の体液免疫不全を増悪させる可能性がある。T細胞に自殺
遺伝子、たとえばヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子を付与すると、養子移入後に移入細胞を薬理学的用量のガンシクロビルによりin vivo除去することができる;これは
移入細胞の持続時間またはin vivo残存を制限する方策である[27]。
【0049】
[00059] 本発明のCD19特異的キメラ受容体発現T細胞を用いて、CD19B細胞性悪性
疾患およびB細胞仲介自己免疫疾患(たとえば急性リンパ芽球性白血病を含む)の患者を
処置できる。白血病に対する自家移植後にみられる高い再発率は、移植後に養子移入CD19特異的再指向T細胞の養子移入でin vivo処置してCD19白血病幹細胞をパージすることにより、低下させることができる。CD19特異的再指向T細胞を用いて、難治性または反復性
疾患を伴うリンパ腫患者を処置できる。骨髄除去化学療法および幹細胞レスキュー後に、腫瘍負荷と正常CD19細胞負荷が正反対の場合、およびscFvFc:ζタンパク質に対する免疫応答力が低下している場合、CD19再指向T細胞を投与できる。
【0050】
[00060] 体表面積1平方メートル当たり約106〜1012個(個/m2)またはそれを超え
る療法有効量のCD8CD19特異的再指向T細胞を注入することにより、患者を処置できる。目的応答を達成するまで、患者が耐えうる限りの回数、注入を繰り返す。適切な注入量および注入計画は患者ごとに異なるであろうが、その患者の担当医が判定できる。一般に109個/m2の初回量を注入し、1010個/m2またはそれを超える量まで漸増する。IL−2を共投与して注入細胞を注入後拡張することができる。IL−2の量は約103〜106単位/体重kgで
あってよい。その代わりにまたはそのほかに、scFvFc:ζ発現CD4TH1クローンを共投与して、移入したscFvFc:ζ発現CD8T細胞の生育およびin vivo拡張を最適化できる。
【0051】
[00061] 投与計画はDr.Rosenbergの報文[88−90]に基づくか、あるいは交互連続注入方式を採用できる。CD19特異的再指向T細胞は、CD8細胞を支持し、かつCD19ターゲット細胞に対する遅延型過敏反応を開始/増強する方策として投与できる。
【0052】
[00062] キメラ免疫受容体が食細胞、たとえば好中球およびNK細胞によるターゲッ
ト特異的細胞溶解を活性化しうることは知られている(103)。したがって本発明は、好
中球、マクロファージおよびNK細胞を含めた非特異的免疫細胞中へ移入するためにキメラT細胞受容体DNAを用いることも考慮する。さらに、本発明は、幹細胞移植処置前に幹細胞をトランスフェクションするためにキメラT細胞受容体DNAを用いることも考慮する。
【0053】
[00063] 別途指示しない限り、本発明の実施には、当業者に自明の化学、分子生物
学、微生物学、組換えDNA、遺伝学、免疫学、細胞生物学、細胞培養およびトランスジェ
ニック生物学の一般的方法を用いる(たとえば104−121)。
【0054】
実施例
[00064] 本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。これらは説明のため
に提示するものであり、本発明を限定するためのものではない。当技術分野で周知の標準法または下記に具体的に記載する方法を採用する。
【0055】
実施例1
FMC63 VHおよびVL配列を含むscFvFc:ζ cDNAの構築
[00065] Nicholsonらが発表したCD19特異的ネズミIgG1モノクローナル抗体のVHおよびVL配列に基づいて、scFv配列をPCRによりde novo構築した[83]。CD19R:ゼータと表
示する全長scFvFc:ζ cDNAをPCRスプライスオーバーラップ延長により構築した。これは、ヒトGM−CSF受容体アルファ鎖リーダーペプチド、FMC63 VH、Gly−Serリンカー、FMC63
VL、ヒトIgG1 Fc、ヒトCD4 TM、およびヒト細胞質ゼータ鎖からなる。この構築体のヌクレオチド配列および得られるアミノ酸配列を一緒に図1A〜1Cに、または別個にそれぞれSEQ ID NO1および2に示す。
【0056】
[00066] このCD19特異的scFvFc:ζ受容体タンパク質を初代ヒトT細胞において発現させる。このCD19特異的scFvFc:ζ構築体が無傷のキメラタンパク質として発現しうるかを判定するために、CD19Rを含む実施例1のプラスミドでT細胞をトランスフェクションし
た。直線状プラスミドを最適条件下でエレクトロポレーションし、培地へのハイグロマイシン添加によって安定なトランスフェクタントを選択した。図3には、本発明の発現ベク
ター中のCD19R受容体でトランスフェクションしたT細胞のウェスタンブロット分析結果を示す。当技術分野で既知の方法を用いて、偽トランスフェクタント(CD19Rを含まないpMGプラスミドを含有する細胞:MTH7B9)、CD19RでトランスフェクションしたT細胞(SG1D12)および抗CD20キメラ受容体でトランスフェクションしたT細胞(AR2H6)からの全細胞溶解物を調べた。GAM−APはアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgGである。これはウェスタンブロットの第2工程検出試薬であり、化学発光を生じる。抗ゼータ抗体プローブ
を用いた全細胞溶解物のウェスタンブロットは、キメラ受容体でトランスフェクションした細胞では内因性ゼータフラグメントと予想した無傷66kDaキメラ受容体タンパク質の両
方が発現するが、本発明のDNA構築体を含まないプラスミドでトランスフェクションした
細胞では両方は発現しないことを示す。抗ネズミFabおよび抗ヒトFc特異的抗体によるフ
ローサイトメトリー分析で、T細胞トランスフェクタントの細胞表面におけるCD19R:ゼータscFvFc:ζ発現がさらに確認された。
【0057】
実施例2
FMC63キメラ免疫受容体を発現するT細胞のCD19特異的再指向エフェクター機能
2(A)−キメラT細胞によるサイトカイン産生:
[00067] 図4については、T細胞におけるCD19R:ゼータキメラ免疫受容体の機能を、まず初代ヒトT細胞クローンにおいてこのscFvFc:ζ構築体を発現させることにより評価
した。クローンはヒトCD19白血病細胞およびリンパ腫細胞と共存培養すると特異的にサイトカイン(IFN−γ、TNF−α、およびgm−CSF)を分泌する。当技術分野で周知であり
、本明細書にさらに詳細に記載した方法により、CD19R:ゼータキメラ免疫受容体を発現
するキメラT細胞クローンを単離した。組換えCD19R:ゼータキメラ免疫受容体を発現する種々のT細胞クローンをCD19白血病細胞系と共にインキュベートした結果を図4に示す。1873−CRLは、ATCCから購入したヒトCD19+/CD20−ALL細胞系である。DHL−4は、ヒトCD19+/CD20+リンパ腫細胞系である。Ionaは、Sigmaから購入したイオノマイシンである。
この化学物質はカルシウムイオノホアである。PMAはホルバール−12−ミリステート−13
アセテート(Sigma)である。Iono+PMAをT細胞に添加すると、それらをサイトカイン産
生について最大活性化する。これらの化学物質と共にインキュベートしたT細胞の上清を
、最大サイトカイン産生の陽性対照として用いる。106個の応答T細胞を指示した刺激物質と共に添加することにより、サイトカインアッセイを実施する(刺激物質が腫瘍細胞であ
る場合、それを24ウェル当たり2×105個添加し、8Kradに照射する)。最終体積2mlになるまでウェルに培地を補充し、72時間インキュベートした時点で無細胞上清を収穫し、R+Dキットを製造業者の指示に従って用いる特異的ELISAによりアッセイする。
【0058】
[00068] CD19特異的クローンによるサイトカイン産生は、培養に抗CD19特異的抗体HIB19を添加することにより一部遮断できる。抗CD20抗体Leu−16はサイトカイン産生を遮
断せず、これにより腫瘍細胞表面CD19に対するCD19R:ゼータキメラ免疫受容体の特異性
が証明される。
【0059】
[00069] 図5には、T細胞クローンSG1D12を図示した種々の細胞系(それらのうちの
あるものはCD19抗原を発現する)と共にインキュベートした結果を示す。このグラフは、IFN−γに特異的な抗体を用いたELISAの結果を表わす。これらの結果は、キメラ受容体を発現するT細胞がCD19保有細胞の存在下でIFN−γを放出することを証明する。
【0060】
(2B)−キメラT細胞の抗原特異的細胞溶解活性:
[00070] 図6には、5種類のキメラT細胞クローン(C11;C12;E8;F1およびF3)についてクロム放出アッセイの結果を示す。CD19R:ゼータCD8CTLクローンは、標準4時間クロム放出アッセイにおいてヒトCD19白血病細胞系およびリンパ腫細胞系SUPB15、JM−1および1873に対する高レベルの細胞溶解活性を示し、CD19エピトープを含まない他の腫
瘍系を殺さない。これらの前臨床試験は、HLA一致同種骨髄移植後に再発する患者におけ
るドナー由来CD19R:ゼータ発現T細胞クローンを用いる養子移入療法の安全性および抗腫瘍効果を調べる臨床試験の開始を支持する。
【0061】
実施例3
療法用T細胞クローンの作製および特性解明
[00071] 投与したすべてのT細胞が、再配列していない染色体組込みプラスミドDNA
を含むTCRα/βCD4CD8scFvFc:ζT細胞クローンである。T細胞は移植細胞レシ
ピエントのHLA一致骨髄ドナーの末梢血から単離される。CD8T細胞クローンを健康な骨
髄ドナーから単離し、遺伝子修飾し、拡張するために用いた材料および方法を、実施例4
〜8に詳述する。CD19R:ゼータscFvFc:ζキメラ免疫受容体およびHyTKを発現するように遺伝子修飾したT細胞クローンを、下記について選択する:
a.TCRα/β、CD4、CD8表面表現型:フローサイトメトリーにより判定;
b.単一コピーの染色体組込みプラスミドベクターDNAの存在:サザンブロットにより証明;
c.scFvFc:ζ遺伝子生成物の発現:ウェスタンブロットにより検出;
d.ヒトCD19細胞系の特異的溶解:4時間クロム放出アッセイにおいて;
e.in vitro増殖の内因性IL−2依存;
f.マイコプラズマ、真菌、細菌の殺菌性、および内毒素レベル<5EU/ml;
g.ガンシクロビルに対するクローンのin vitro感受性。
【0062】
実施例4
健康な骨髄ドナーから療法用CD8T細胞クローンを単離し、遺伝子修飾し、拡張するための材料および方法
1.培地および培地補充材料
[00072] 試験に用いた培地には、全細胞培養のためのRPMI 1640 HEPES(Irvin Scientific、カリフォルニア州アービン)が含まれる。全培地は0.5リットルのボトルで購入され、ヒトにおける養子移入免疫療法試験に関する現行のFDAガイドラインに適合する。
培地への補充材料には、L−グルタミン(BioWhittaker、メリーランド州ウォーカースビ
ル)、および56℃で30分間不活性化したウシ胎仔血清(Hyclone、ユタ州ローガン)が含
まれる。すべての試薬をCRB−3008へ送って検査し、その試薬に応じて適宜−20℃または4
℃に保存する。
【0063】
2.OKT3
[00073] Orthoclone OKT3(Ortho)1mg/mlをCity of Hope Pharmacyから購入し、
無菌凍結バイアルに分注し、被験者T細胞拡張のために融解するまでCRB−3008において−20℃に保存する。
【0064】
3.インターロイキン2
[00074] 医薬用組換えヒトインターロイキン−2(rhIL−2)(Proleukin)は、0.67mgの凍結乾燥IL−2を入れたバイアル中で供給され、1.5×106IU/タンパク質mgの比活
性をもつ。この凍結乾燥組換えIL−2を注入のために無菌水で再生し、5×104単位/mlの
濃度に希釈する。IL−2を無菌バイアルに分注し、CRB−3008において−20℃に保存する。患者に直接投与するためのrhIL−2を標準法により調合する。
【0065】
4.プラスミドDNA
[00075] CD19特異的scFvFc:ζ cDNAおよびHyTK cDNA構築体を含むプラスミドCD19R/HyTK−pMGをGLP条件下で作製する。アンプルに医薬用水40μl中の無菌プラスミドDNA 100μgを入れる。ベクターDNAをCRB−3008において−70℃に保存する。
【0066】
5.ハイグロマイシン
[00076] 哺乳動物用抗生物質ハイグロマイシンを用いて、HyTK遺伝子を発現する遺
伝子修飾T細胞を選択する。市販のハイグロマイシン(Invitrogen、カリフォルニア州サ
ンディエゴ)を有効薬物100mg/mlの無菌溶液として調製し、CRB−3008において4℃に保
存する。
【0067】
6.EBV誘導B細胞系
[00077] リンパ芽球様細胞系(LCL)はT細胞拡張に必要なフィーダー細胞であり、
この目的でFDA承認の臨床養子移入療法試験に用いられている。サイクロスポリンAの存在下でのPBMCとB95−8細胞系(American Type Culture Collections)上清の共存培養によ
り、健康なドナーからTM−LCLと表示するEBV誘導B細胞系を樹立した。この細胞系は現在
、Fred Hutchinson Cancer Research Center(FHCRC)およびCity of Hope National Medical Center(COHNMC)の研究者らにより照射フィーダー細胞として用いられている。こ
の細胞系は、臍帯血トランスフォーメーションアッセイにより外来微生物およびEBV産生
について陰性と判定された。TM−LCLの作業用原液をDr.GreenbergおよびDr.Riddellか
ら移送された後、CRB−3008において凍結保存しておいた。これらの原液を融解し、細菌
、真菌およびマイコプラズマの無菌性について再試験した。TM−LCLフィーダー細胞をT細胞との共存培養前に8,000cGyに照射する。
【0068】
7.フィーダーPBMC
[00078] 被験者の骨髄から白血球搬出法により単離し、採集バッグに入れてCRB−3008へ移した末梢血単核細胞(PBMC)を、自家フィーダー細胞として用いる。T細胞培養の
樹立に必要な量より過剰のドナー白血球搬出生成物由来PBMCを、CRB−3008液体窒素タン
ク内で50×106〜100×106個の単核細胞を入れたアンプル中に凍結保存する。
【0069】
実施例5
CD19特異的scFvFc:ζ受容体およびHyTKを発現するように遺伝子修飾したCD8CTLクローンの作製
1.末梢血リンパ球−採集および分離
[00079] City of Hope National Medical Centerにおいて、被験者の指定骨髄ドナ
ーから白血球搬出法により末梢血単核細胞(PBMC)を得る。単核細胞は、ヘパリン添加全
血から臨床用Ficoll(Pharmacia、スウェーデン、ウプサラ)上での遠心により分離され
る。PBMCを無菌リン酸緩衝生理食塩水(Irvin Scientific)中で2回洗浄し、RPMI、10%
熱不活性化FCS、および4mM L−グルタミンからなる培地に懸濁する。
【0070】
2.PBMCの活性化
[00080] 培地にOrthoclone OKT3(30ng/ml)を添加することにより、患者のPBMC中に存在するT細胞をポリクローナル活性化する。次いで細胞培養物を被験者の指定インキ
ュベーターにおいて通気T75組織培養フラスコ中でインキュベートする。培養開始の24時
間後、25U/mlのrhIL−2を添加する。
【0071】
3.活性化PBMCの遺伝子修飾
[00081] 培養開始の3日後、PBMCを収穫し、遠心分離し、低張エレクトロポレーション緩衝液(Eppendorf)に20×106個/mlで再懸濁する。25μgのプラスミドDNAを400μlの細胞懸濁液と一緒に無菌0.2cmエレクトロポレーションキュベットに添加する。各キュベットにMultipolator(Eppendorf)から発する250V/40μsの電気パルスを1回付与し、次
いで室温で10分間インキュベートする。室温インキュベーション後、細胞をキュベットから収穫し、プールし、25U/mlのrhIL−2を含有する無フェノールレッド培地に再懸濁する。フラスコを患者の指定組織培養インキュベーターに入れる。エレクトロポレーションの3日後、ハイグロマイシンを0.2mg/mlの最終濃度で細胞に添加する。エレクトロポレー
ションしたPBMCを、48時間ごとに培地およびIL−2を補充しながら合計14日間培養する。
【0072】
4.ハイグロマイシン耐性T細胞のクローニング
[00082] エレクトロポレーションしたOKT3活性化患者PBMC由来のハイグロマイシン
耐性CD8CTLのクローニングを、培養14日目に開始する。FabおよびFcに対する抗体なら
びに/またはプロテインA−FITC標識を用いて当技術分野で周知の方法により、FvFc生成
物を発現する細胞を陽性選択する。エレクトロポレーションした細胞をFabおよびFcに対
する抗体またはプロテインA−FITCと共にインキュベートした後、FvFcを発現する細胞を
免疫遺伝学用ビーズもしくはカラムまたは蛍光活性化細胞ソーティング法により単離する。生育可能な患者PBMCを、30ng/mlのOKT3および50U/mlのrhIL−2を含有する体積200ml
の培地中で、100×106個の凍結保存照射フィーダーPBMCおよび20×106個の照射TM−LCLの混合物に添加する。このマスターミックスを10個の96ウェルクローニングプレートに接種する。各ウェルに0.2mlを入れる。蒸発による損失を減らすためにプレートをアルミニウム箔に包み、患者の指定組織培養インキュベーターに入れる。培養19日目にハイグロマイシンを0.2mg/mlの最終濃度で各ウェルに添加する。30日目にウェルを倒立顕微鏡で細胞の増殖について視覚検査し、陽性ウェルを再刺激のためにマークする。
【0073】
5.CD19再指向細胞毒性をもつハイグロマイシン耐性クローンの拡張
[00083] スクリーニングクロム放出アッセイにより細胞増殖および細胞溶解活性を
示す各クローニングウェルの内容物を個別に、25mlの組織培養培地中に50×106個の照射PBMC、10×106個の照射LCLおよび30ng/mlのOKT3を含有するT25フラスコに移す。再刺激後、1、3、5、7、9、11および13日目に、フラスコに50U/mlのrhIL−2および15mlの新鮮な
培地を入れる。刺激サイクルの5日目には、フラスコにハイグロマイシン0.2mg/mlをも
補充する。細胞接種後14日目に、細胞を収穫し、計数し、50mlの組織培養培地中に150×106個の照射PBMC、30×106個の照射TM−LCLおよび30ng/mlのOKT3を含有するT75フラスコ
中で再刺激する。前記に概説したように、フラスコの培養物にrhIL−2およびハイグロマ
イシンを添加する。
【0074】
6.ハイグロマイシン耐性CTLクローンの特性解明
a.細胞表面表現型
[00084] 療法用に拡張するために選択したCTLを、CRB−3006に収容したFACSCalibur
でFITC結合モノクローナル抗体WT/31(αβTCR)、Leu 2a(CD8)、およびOKT4(CD4)
を用いる免疫蛍光により分析して、クローンの目的表現型(αβTCR、CD4、およびCD8)を確認する。臨床用クローンの選択基準には、イソタイプ対照FITC結合抗体と比較
してTCRαβ、CD4、CD8が均一であることが含まれる。
【0075】
b.プラスミドの染色体組込み
[00085] サザンブロットによりプラスミドベクターの単一部位染色体組込みを確認
する。遺伝子修飾したT細胞クローンに由来するDNAを、そのプラスミドベクターに特異的なDNAプローブでスクリーニングする。ハイグロマイシン特異的DNAプローブは、CD19R/HyTK−pMGから単離した420塩基対のMscI/NaeI制限フラグメントである。プローブDNAをランダムプライマー標識キット(Boehringer Mannheim、インディアナ州インディアナポリ
ス)で32P標識する。T細胞ゲノムDNAを標準法により単離する。10μgのT細胞クローン由
来ゲノムDNAを37℃で一夜、40単位のXbaIおよびHindIIIにより消化し、次いで0.85%ア
ガロースゲル上での電気泳動により分離する。次いでDNAをアルカリ毛管トランスファー
法によりナイロンフィルター(BioRad、カリフォルニア州ハーキュレス)に移す。10μg
/mlのサケ精子DNA(Sigma)を含有する0.5M Na2PO4、pH7.2、7%SDS中、65℃で一夜、フィルターをHyTK特異的32P標識プローブとハイブリダイズさせる。次いでフィルターを40mM Na2PO4、pH7.2、1%SDS中、65℃で4回洗浄し、次いでホスホイマージャー(Molecular Dynamics、カリフォルニア州サニーベール)により視覚化する。クローン選択基準は
、ハイグロマイシンプローブによる単一のユニークバンドである。
【0076】
c.CD19特異的scFvFc:ζ受容体の発現
[00086] CD19R scFvFc:ζ受容体の発現は、キメラ受容体タンパク質を抗ゼータ抗
体で検出するウェスタンブロット法により判定される。1錠/10mlの完全プロテアーゼ阻
害薬カクテル(Boehringer Mannheim)を含有する1mlのRIPA緩衝液(PBS、1%NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)中で2×107個の洗浄細胞を溶解することに
より、トランスフェクションしたT細胞クローンの全細胞溶解物を調製する。氷上で80分
のインキュベーション後、アリコートの全細胞溶解物遠心上清を収穫し、等体積の装填用緩衝液中で還元条件下に煮沸し、次いでプレキャスト12%アクリルアミドゲル(BioRad)上でSDS−PAGE電気泳動する。ニトロセルロースに移した後、0.07gm/mlの脱脂粉乳を含有するブロット溶液で2時間、膜をブロックする。膜をT−TBS(トリス緩衝生理食塩水pH8.0中の.05%Tween 20)中で洗浄し、次いで濃度1μg/mlの一次マウス抗ヒトCD3ζモノクローナル抗体8D3(Pharmingen、カリフォルニア州サンディエゴ)と共に2時間インキュベートする。T−TBS中でさらに4回洗浄した後、アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウ
スIgG二次抗体の1:500希釈液と共に1時間、膜をインキュベートする。展開の前に膜をT
−TBS中ですすぎ、次いで製造業者の指示に従って30mlの”AKP”溶液(Promega、ワイオ
ミング州マディソン)で展開する。クローン選択基準は66kDaのキメラゼータバンドの存
在である。
【0077】
d.CD19白血病細胞に対する細胞溶解特異性、およびレシピエント線維芽細胞活性
に対する細胞溶解活性欠如
[00087] CD19R scFvFc:ζ受容体を発現するCD8細胞毒性T細胞クローンは、この
キメラ受容体と細胞表面ターゲットエピトープがHLA非制限様式で相互作用することによ
り、ヒトCD19白血病ターゲット細胞を認識して溶解する。ターゲット細胞CD19発現およびクラスI MHC非依存性認識のための要件は、数種類のαβTCR、CD8、CD4、CD19R
CTLクローンを、MHC不適合ヒト白血病細胞系(SupB15、JM−1および1873CRL)ならびにCD19系K562(CD19陰性、NK感受性ターゲット)およびレシピエント線維芽細胞のパネルに対してアッセイすることにより確認された。OKT3で刺激した12〜14日後、T細胞エフェ
クターをアッセイする。エフェクターを収穫し、洗浄し、アッセイ培地に再懸濁する;2
.5×105、1.25×105、0.25×105、および0.05×105個のエフェクターを5×103個のタ
ーゲット細胞と共にV底マイクロタイタープレート(Costar、メリーランド州ケンブリッ
ジ)に三重接種し、37℃に4時間おく。遠心およびインキュベーション後、100μLアリコ
ートの無細胞上清を収穫して計数する。特異的細胞溶解率%を下記に従って計算する:

(実験51Cr放出)−(対照51Cr放出)×100
(最大51Cr放出)−(対照51Cr放出)

[00088] 対照ウェルはアッセイ培地中でインキュベートしたターゲット細胞を含む
。最大51Cr放出は、2%SDSで溶解したターゲット細胞の51Cr含量を測定することにより決定される。クローン選択基準は、エフェクター:ターゲット比25:1で両方の神経芽細胞
腫ターゲットの特異的溶解>50%、ならびにエフェクター:ターゲット比5:1でK562および線維芽細胞の特異的溶解10%未満である。
【0078】
実施例6
T細胞培養の微生物学的探査
[00089] 凍結保存前にT細胞培養からのアリコートの培地をU.S.P.および真菌培
養によりスクリーニングする(段階I無菌試験)。明かな汚染を伴う培養物を直ちに廃棄
する。再注入のためのT細胞拡張物は、使用の48時間前にU.S.P.および真菌培養を実施する(段階II無菌試験)。マイコプラズマ汚染を検出するためには、凍結保存前にアリコートをGen−Probe試験キット(カリフォルニア州サンディエゴ)によりアッセイし(段階I)、マイコプラズマ汚染を伴う培養物を廃棄する。再注入の49時間以内に、培養物を前
記に詳述したように再スクリーニングする(段階II)。再注入当日、細胞を洗浄する前に、各バッグについてグラム染色を実施して明かな汚染を排除し、洗浄済み細胞生成物について内毒素レベルをLALにより測定する。内毒素負荷<5EU/kgの内毒素負荷は許容される。記録保管用検体が必要な場合は、洗浄済みT細胞クローンも凍結保存する。
【0079】
実施例7
再注入用クローンのリリースのための品質管理基準
[00090] T細胞を再注入のためにリリースする前に表1に述べた基準を満たさなけれ
ばならない。
【0080】
【表1】

E:T=エフェクター:ターゲット比
実施例8
T細胞のin vivo持続性に関する定量PCR
[00091] 循環中におけるscFvFc:ζCD8CTLクローンのin vivo持続時間は、最近開発されたTaqMan蛍光原5’ヌクレアーゼ反応を用いる定量PCR(Q−PCR)により測定される。Q−PCR分析は、各T細胞の注入前ならびに注入後+1および+7日目に得た被験PBMCか
ら抽出したゲノムDNAについての細胞および分子相関コアにより行われる。3回目の注入後も、PBMCを+14、+21、+51日目(幹細胞レスキュー後、+100日目)にサンプリングす
る。+100日目に検出可能な遺伝子修飾T細胞を示す被験者があれば、その信号を検出できなくなるまでその患者を月1回再評価するように手配する。Riddellらが発表したデータにより、細胞量5×109個/m2を注入した後1日目に養子移入T細胞が1〜3個/PBMC 100個の頻度で被験者の末梢血中に検出されることが判明した;したがってこの試験の細胞量は容易に検出できる信号を生じるであろう(70)。Qiagen QiAmpキットを用いてPBMCからDNAを
抽出する。scFvFc:ζ遺伝子の検出に用いるプライマーは下記のものであり:
【0081】
【化1】

Fc−CD4−TM−ゼータ配列融合部位を含む360塩基対のフラグメントを増幅する。TaqManハイブリダイゼーションプローブは下記のものである:
【0082】
【化2】

単一コピーの組込みプラスミドが非修飾T細胞中へ10−2、10−3、10−4、10−5、および10−6の頻度で挿入されたT細胞クローンより単離したゲノムDNAから、標準曲線を作成する。ヒトベータグロビン遺伝子に特異的な対照プライマー/プローブのセットを用いて細胞数に関する標準曲線を作成すると、PBMC試料中の遺伝子修飾クローンの頻度を計算できる。ベータグロビンアンプリマーは下記のものであり:
【0083】
【化3】

Taqmanプローブは下記のものである:
【0084】
【化4】

持続性の制限が遺伝子修飾T細胞に対する免疫応答の発現に関係する可能性があるかを判
断するために、すべての患者のscFvFc:ζ遺伝子およびHyTK遺伝子に対する持続性データと免疫応答データを比較する。
【0085】
実施例9
パイロットI相試験
1.病期判定基準および患者の適性
a.病期判定基準
試験参加前
免疫組織病理学的に確認されたCD19ALL
分子的に確認されたPhALL(コホート2)
骨髄吸引および生検
腰椎穿刺
CTスキャン 胸部/腹部/骨盤
試験参加後
ドナー白血球搬出
線維芽細胞系樹立のための被験者皮膚生検
b.患者の適性
患者採用基準
HLA一致近親ドナー骨髄移植後の再発CD19ALL(コホート1)
HLA一致同種骨髄移植が指示されるPhCD19ALL病歴(コホート2)
年齢12カ月以上、65歳以下の男性または女性被験者
同意近親ドナーHLA−HLA−Aおよび−Bについて患者と表現型同一、かつDRB1対立遺伝子について同一。クラスI抗原について血清学的に、およびクラスII抗原についてDNAタイピングにより評価して、最小限度の適合
下記により測定して臓器機能が適切な患者:
心臓:無症状、または症状があれば安静時左心室駆出分画が≧50%もしくはCOHに
関する正常範囲内でなければならない
肝臓:SGOTが正常範囲の5倍以内、かつ総ビリルビンが正常範囲の5倍未満
腎臓:血清クレアチニンが正常範囲の1.5倍以内、またはクレアチニンクリアランスが60ml/分
肺:DLCOが予測値の>45%(ヘモグロビンについて補正)またはCOHに関する正常
範囲内
適切な行動状態70%(Karnofsky年齢>18歳、Lansky年齢≦18歳)
患者およびドナーからのCOHガイドラインに従った書面によるインフォームドコンセ
ント;ドナー、および患者、または患者と親/法定後見人(年齢≧7歳)から得る
期待余命>8週間、かつ治験責任者の判断に基づいて、移植操作およびT細胞再注入のリスクを著しく高めると思われる併存する医学的/精神的問題がない
移植後にAppendix Cに概説したように試験のための末梢血試料を患者から採取できる
患者除外基準
事前の自家もしくは同種骨髄移植またはPBSC移植(コホート2)
事前の照射処置のため全身照射線量要求を完了できない患者(コホート2)
妊娠または授乳中の女性患者
HIV血清検査陽性
コンディショニング前2週間以内に抗真菌薬、抗菌薬または抗ウイルス薬による静脈
内処置が必要な活動性感染症;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌系感染症を除く(コホート2

プロトコルの基本要素および/またはこのI相試験参加の損益を理解できない(≧7歳の小児、および親/法定後見人;コンセント署名前に配布するアンケートにおける行動により判断)
ドナーの選定
PBMC採集のために白血球搬出を受ける意志がある
2.治験の設計および用量漸増の規則
[00092] パイロットI相試験はオープンラベル、非ランダム化試験である。この試験においては、BMT後にそのPhCD19ALLが再発した患者(コホート1)、または移植後に
そのPhCD19ALLが分子性再発した患者に、ドナー由来CD19RHyTKCD8CTLクローンを注入する。このT細胞クローンは、患者のHLA一致近親骨髄ドナーから得た白血球搬出生成物より作製される。コホート2に登録した患者に関しては、治験参加者が確実なbcr−abl陽性PCR結果に基づいて分子性再発と診断される時点まで、クローンを凍結保存する。各コホートの治験参加者それぞれに、クローンが得られ次第、2週間隔で連続3回の漸増細胞量のT細胞注入を開始する(一般にコホート2では分子性再発診断後14日目までに、コホート1ではクローンの用意ができ次第)。GVHD予防/治療のための免疫抑制投薬を受けてい
る被験者は、まずコルチコステロイドを漸減してもT細胞投与開始前にはもはやグレード2より高い急性GVHDがない状態にある。初回細胞量は1×109個/m2、2回目は5×109個/m2
、3回目は5×109個/m2(IL−2と共に)である。T細胞注入による著しい毒性がなく、グ
レード2以下のGVHDである患者には、低用量の皮下rhIL−2を14日間、3回目のT細胞と共に投与する。患者を初回注入の前、および注入後2カ月間は週1回評価し、その後さらに6カ
月間は患者を月1回評価する。治験期間中の特定の時点で末梢血を採取して、移入CTLクローンのin vivo持続性、ならびに抗scFvFc:ζおよびHyTK免疫応答の誘導をアッセイする
。抗腫瘍応答は、それらの白血病特異的マーカーまたはbcr−ablについての系統的Q−PCRによる分子性腫瘍負荷の変化により、ならびにALLについての標準的な形態学的検査、フ
ローサイトメトリー試験およびキメリズム試験により評価される。患者の主治医である血液病専門医または小児癌科医は、治験期間中およびその後不定期間にわたって、患者の治験関連面以外の医療を行う。
【0086】
3.治療計画
a.CD19R:ゼータCD8T細胞クローンの投与スケジュール
[00093] I相パイロット試験では、CD19R scFvFc:ζキメラ免疫受容体および選択/
自殺遺伝子HyTKを発現するように遺伝子修飾したドナー由来CD8CTLクローンの静脈注入の安全性および毒性を判定する。連続3回の漸増細胞量の注入(表2)を2週間隔で行い、
移植後分子性再発を示す参加者を調べる。T細胞注入を、入手でき次第(コホート1)、または分子性白血病再発証明後に(コホート2)開始する。ただし、治験参加者はステロイ
ドを漸減しても、もはやグレード2より高い急性移植片対宿主疾患がない。移入CTLのin vivo持続を支持するために、3回目のT細胞注入後、低用量のIL−2を皮下投与する。IL−2
投与は、T細胞クローン養子移入の24時間後に開始し、14日間続ける(下記を参照)。た
だし、最初の2回のT細胞投与に伴うグレード3〜4毒性がみられず、かつ急性GVHDがグレード2以下の場合である。
【0087】
【表2】

[00094] 各注入物は、試験細胞量となる最高5種類のT細胞クローンの混合物からな
る。
【0088】
[00095] 再発が検出された時点でCD20細胞が循環中のリンパ球の10%を超えるB細胞engraftmentを伴う被験者には、初回T細胞注入の1週間前に1回量(250mg/m2)のRituximab(キメラ抗CD20抗体)を投与する。
【0089】
[00096] 注入当日、CRB−3008で拡張させたT細胞クローンを、細胞洗浄および濃縮
のためCS−3000血液分離装置により標準法で無菌的に処理する。処理した細胞を、臨床再注入に適したバッグ中で、2%ヒト血清アルブミンを含有する100mlの0.9%NaClに再懸濁する。
【0090】
[00097] 被験者をT細胞注入のためにCOHNMCのGCRCに入院させ、注入後23時間以上たって毒性がみられなければ退院させる。それ以外の場合、外来患者としては被験者に有意のリスクを与えると思われる注入関連毒性が除かれるまで患者を病院に留めておく。
【0091】
[00098] 利用できれば中心ラインからT細胞を30分間にわたって静脈内注入する。できない場合は年齢に応じたサイズの静脈カテーテルを末梢静脈に挿入する。細胞の捕獲を避けるために、静脈チューブにはフィルターがない。注入期間中、注入バッグを5分ごと
に穏やかに混合する。
【0092】
[00099] 医師またはその代理人が注入に際して同席し、注入後2時間はすぐに連絡のつく状態にする。患者の入院中は看護観察および管理を採用する。
[000100] 注入前から開始して少なくとも連続2時間または読みが被験者の注入前ベ
ースラインに戻るまで、被験者の酸素飽和度を継続パルス酸素濃度測定により測定する。
【0093】
[000101] 移植関連毒性がみられた被験者は、これらの毒性が除かれるまで注入スケジュールを遅らせる。T細胞注入を遅らせる根拠となる具体的毒性には下記のものが含ま
れる:
(a)肺:95%を超える飽和度を維持するために酸素補給が必要であるか、あるいは胸
部X線撮影で進行性のX線像異常がみられる;(b)心臓:医療処置で抑制できない新たな
心臓不整脈。昇圧薬による支持を必要とする低血圧;(c)活動性感染症:0日目の48時間以内に血液培養が細菌、真菌またはウイルス陽性;(d)肝臓:正常限界の5倍を超える血清総ビリルビンまたはトランスアミナーゼ;(e)腎臓:血清クレアチニン>2.0、また
は患者が透析を必要とする場合;(f)神経性:0日目以前1週間以内の痙攣活動、または
臨床的に検出できる脳障害もしくは新たな局所性神経障害;(g)血液性:臨床顕性の出
血性体質または溶血。
【0094】
[000102] 3回目のT細胞投与後にbcr−abl Q−PCRに基づく抗腫瘍応答を示すが、持
続性の残存疾患を伴う患者には、追加量の細胞(1回当たり5×109個/m2、14日間隔で)
をIL−2(5×105U/m2、12時間ごとに)と共に投与してもよい。ただしグレード3以上の
毒性を示したことがない場合である。
【0095】
b.インターロイキン−2投与
[000103] 標準調剤ガイドラインにより皮下(s.c.)注入用に再懸濁した組換えヒトIL−2(rHuIL−2、Proleukin、Chiron、カリフォルニア州エマースビル)を、治験参加者に投与する;ただし(1)細胞投与レベルI〜IIでグレード3〜4の毒性を示したことがく、かつ(2)免疫抑制投薬を中止してもGVHDがグレード2を超えない。養子移入T細胞療法
を受けた黒色腫患者にIL−2を皮下投与したシアトルでの以前の経験に基づいて、IL−2の投与量は3回目のT細胞再注入日から開始して5×105U/m2を12時間ごとに14日間である。
【0096】
c.毒性および合併症の管理
[000104] LAK、TILおよびT細胞クローンの注入に伴ってみられる軽度の一過性症状
の管理は下記に従う。(1)すべての患者に経口アセトアミノフェン15mg/kg(最大量650mg)および静脈内ジフェンヒドラミン1mg/kg(最大量50mg)を前投薬する。(2)発熱、悪寒、および体温上昇>101°Fは臨床指示に従ったタイレノール追加、破綻(breakthrough)発熱は経口イブプロフェン10mg/kg(最大量400mg)、悪寒は静脈内デメロール1mg/kg(最大量50mg)により管理する。これらの措置に抵抗性の発熱には、他の方法、たとえば冷却ブランケットを用いる。発熱または悪寒を示した被験者すべてについて培養用採血を行う。担当医の意見で敗血症と思われる非アレルギー患者には、静脈内セフトリアキソン(ceftriaxone)50mg/kg(最大量2g)を投与する;臨床指示に従って他の選択抗生物
質を用いる。(3)頭痛はアセトアミノフェンにより管理する。(4)吐き気および嘔吐は、静脈内ジフェンヒドラミン1mg/kg(最大量50mg)により治療する。(5)一過性低血圧はまず静脈内輸液投与により管理するが、持続性低血圧を伴う患者は根治医療処置のために集中治療室へ移す必要がある。(6)低酸素血症は酸素補給により管理する。
【0097】
[000105] グレード3または4の治療関連毒性がみられる場合、患者にガンシクロビルを投与する。ガンシクロビルを1日当たり10mg/kgで12時間ごとに分割して非経口投与す
る。14日間のコースを処方するが、その期間で症状の消散が達成されない場合は延長してもよい。症状の発現時に入院していない患者すべてを、ガンシクロビル治療の最初の72時間は監視のために入院させる。72時間以内に症状がガンシクロビルに応答しない場合、他の免疫抑制薬(コルチコステロイドおよびサイクロスポリンが含まれるが、これらに限定されない)を主治験担当者の裁量で追加する。
【0098】
d.併用療法
[000106] 治験療法を受けている患者のすべての標準支持療法措置を患者のCity of Hope小児癌科医の裁量で採用する。治験参加後に発症した活動感染症を標準治療法に従って処置する。下記の薬剤は治験中に使用できない:全身用コルチコステロイド(T細胞療
法毒性の管理に関して概説したものを除く)、免疫療法(たとえばインターフェロン、ワクチン、他の細胞製剤)、ペントキシフィリン、または他の治験薬)、ガンシクロビルまたはガンシクロビル誘導体(致命的でないヘルペスウイルス感染症に対して)。
【0099】
4.毒性監視および投与量調節
a.監視すべき毒性
[000107] パイロットI相試験に関する毒性基準は、NCI Common Toxicity Criteria
(CTC)毒性に関する2.0版およびAdverse Event Reportingによる。CTC2.0版のコピー
はCTEPホームページ(http://ctep.info.nih.gov/l)からダウンロードできる。総ビリルビン、ALTおよびASTの血清測定以外のすべてのCTCガイドラインを毒性評価に適用する。
化学療法を最近受けた癌患者ではビリルビンおよび肝トランスアミナーゼの長期間にわたる上昇が頻繁にみられたので、グレード1毒性はT細胞注入前ベースラインからそのベースラインレベルの2.5倍までの上昇とする。グレード2肝毒性はT細胞注入前ベースラインから>2.5〜5倍の上昇、グレード3毒性はベースラインから>5〜20倍の上昇、グレード4は>20倍の上昇である。治験中または具体的なCTC指定のない追跡期間中に治験参加者が報
告したいかなる毒性も、下記の尺度で等級付けする:グレード0−無毒性;グレード1−軽度の毒性、通常は一過性、特別な処置を必要とせず、一般に通常の日常活動に支障はない;グレード2−中等度の毒性、簡単な治療措置で改善する可能性がある、通常の活動に支
障がある;グレード3−重篤な毒性、療法介入を必要とし、通常の活動を妨げる、入院を
要する場合または要しない場合がある;グレード4−致命的な毒性、入院を要する。
【0100】
b.投与量調節基準
[000108] 投与量レベルIで患者がグレード2の毒性を発現した場合、その患者の2回
目の細胞量をT細胞量レベルIに留める。2回目の注入でみられた最大毒性がグレード2に限られる場合のみ、3回目の最終細胞量を投与する。2回目の細胞投与で初めてグレード2の
毒性が起きた場合、3回目の細胞投与に伴う皮下IL−2を投与しない。
【0101】
c.治験処置から患者を除外する基準
[000109] 患者がグレード3以上の毒性またはグレード3以上のGVHDを発現した場合、IL−2を投与している場合はそれを停止する。IL−2を投与していない患者には、グレード3以上の毒性が発現した時点で前記に概説したガンシクロビル処置を開始する。IL−2を投与している患者については、その発現した毒性がIL−2停止後48時間以内にグレード2以下に軽減しない場合、ガンシクロビル処置を開始する。グレード3のIL−2注入部位毒性はIL−2停止の指標であり、T細胞除去の指標ではない。グレード3以上のGVHDを伴う患者には
、ガンシクロビル投与のほかにGVHDに対する免疫抑制を開始する。T細胞除去のためにガ
ンシクロビルを必要とする患者すべてを、それ以上の細胞投与を行わずにプロトコルに従って監視する。重篤な毒性をより迅速に消散することを指示すべきであれば、主治験担当者の裁量でコルチコステロイドおよび/または他の免疫抑制薬をガンシクロビルに加える。
【0102】
d.治験参加者の早期中止
[000110] 治験プロトコルを完了しない治験参加者は、治験を早期に中止したとみなされる。早期中止の理由(たとえば自発脱退、毒性、死亡)を症例報告書式に記録する。中止の時点で最終治験評価を完了する。早期中止理由の可能性には下記のものが含まれる:(a)致命的感染症の発症;(b)続行するにはその患者の病状が重すぎるという主治験担当者の判断;(c)治験療法および/または病院予約に対する患者/家族のノンコンプ
ライアンス;(d)妊娠;(e)自発脱退−−患者またはその親/法定代理人は、いかなる時点で治験から脱退し、または脱退させても、不利益を受けることはない;(f)他の医
療、放射線療法または外科的介入を必要とする、有意かつ急激な神経芽細胞腫進行;(g
)治験療法に関連する可能性または蓋然性があると判断されるグレード3または4の毒性;ならびに(h)T細胞の遺伝子修飾、クローニングおよび拡張操作に技術的困難が生じ、すべての品質管理基準を満たす臨床細胞量の調製が妨げられた。
【0103】
e.治験終結
[000111] 投与量レベルIでグレード4以上の毒性が最初の2人の患者にみられた場合
、またはプロトコルのいかなる時点でも被験者におけるグレード4毒性の発現率が50%を
超えた場合、治験を中止する。最後のT細胞注入から30日以後の腫瘍の進行による死亡は
、グレードV毒性と計数せず、有害事象としても計数しない。主治験担当者、IRB、または食品医薬品庁が治験を終結させることができる。
【0104】
5.治験パラメーターおよびカレンダー(表3)
【0105】
【表3】

(a)スクリーニングのための来院
[000112] 疾病再発に関する患者の評価と同時に、サルベージ化学療法の開始前に実施。具体的試験/操作には下記のものが含まれる:
−CD19急性リンパ芽球性白血病の診断を確認するために、病理検体を再検討する
−Ph陽性の分子的確認を再検討する
−病歴による採用/不採用基準を確認する
−有望な治験参加者(年齢7歳以上)および親/法定代理人に対する指導説明を行い、
指導後評価を実施する
−参加について患者およびドナーからインフォームドコンセントを得る
−EBVおよびHIV血清検査試料を得る
−コホート1のPh患者については、白血病クローンPCRアンプリマー作製のために血液/骨髄試料をDr.Radich(FHCRC)へ送る
−前記に概説した病期判定試験を行う
−線維芽細胞系を樹立するために、同意を得た治験参加者から皮膚生検試料を得る。
【0106】
(b)T細胞培養の開始のための末梢血単核細胞の単離
[000113] 同意した採用/不採用基準を満たすHLA一致近親ドナーに、City of Hope Donor/Apheresis Centerで白血球搬出処置を施す。白血球搬出物をCRB−3008へ送ってT
細胞培養を開始する。
【0107】
(c)−7〜−1日目:T細胞注入前の病期再判定
−前記に従って病期再判定試験を実施する
−CD20B細胞が循環単核細胞の10%を超える場合、Rituximabを投与する
(d)0日目:T細胞注入直前の評価
−医学的状態の再検討およびシステムの再検討
−理学的検査、生命徴候、体重、身長、体表面積
−併存する投薬および移入のリスト
−Karnofsky/Lansky動作状態(表4参照)
−全血球計数(CBC)、分別血球計数、血小板計数
−Chem 18
−プロトコル別試験用の血液(表3参照)
【0108】
【表4】

(e)0、+14、+28日目:T細胞注入中および注入後の臨床評価
注入前:
−中間病歴および理学的検査
−実験室試験用の採血(表3参照)
注入中:
−0時点および注入中15分ごとの生命徴候、連続パルス酸素飽和度測定
T細胞注入後:
−1時間ごとに12時間の生命徴候
−T細胞注入後2時間は酸素飽和度を監視する。注入開始前、注入直後、および注入後2
時間目の数値を記録する。さらに、数値が90%より低下した場合、患者が注入前の室内空気ベースライン飽和度に回復するまで15分ごとに数値を記録する。
【0109】
−標準医療により事象を措置する
退院前:
−中間病歴および理学的検査
−実験室試験用の採血(表3参照)
(f)+1、+7、+15、+21、+29、+35、+42、+56、+70、+100日目
−中間病歴および理学的検査
−全血球計数、分別血球計数、血小板計数用の採血、およびChem 18
−3cc/kg(患者体重)のヘパリン添加(保存剤無添加ヘパリン10U/10ml)血液を、PCRによる末梢血リンパ球のベクターDNA直接アッセイのためにCRB−3002へ送る。
【0110】
(g)骨髄吸引および生検:−7〜0、+56、+100日目
(h)T細胞移入後に治験参加者が試験を休んだ場合、最終T細胞投与後28日目およ
び56日目に骨髄評価の病期再判定を行う。
【0111】
6.評価基準および終末点の定義
(a)評価基準
[000114] 各臨床評価に際して得たI相データを表3に概説する。下記の毒性および有害事象判定を行う:(a)症状および毒性を前記に従って評価する;(b)理学的検査および血液の化学的/血液学的検査の結果;ならびに(c)有害事象の報告。
【0112】
(b)疾病状態
[000115] 表3に概説した各疾病評価に際して、測定可能な疾病の判定を下記に従っ
て記録する:(1)白血病特異的アンプリマーまたはbcr−ablのQ−PCR、ならびに(2)+56および+100日目に骨髄試験を評価し、応答を標準ALL基準により等級付けする(表5参
照)。
【0113】
【表5】

7.有害事象の報告
[000116] 試験期間中に増悪したと思われる徴候、症状または疾病はいずれも、治験薬剤との関連に関係なく有害事象である。試験薬剤によるものであるか否かにかかわらず、治験担当者が観察した、または患者が報告した、治験中に起きた有害事象をすべて症例報告書式に記録し、FDAの要求に応じて報告する。これには、説明、開始日および消散日
、持続時間、最大重症度、治験薬剤または疑われる他の薬剤との関連の評価、行った行為と結果が含まれる。治験中に生じた毒性を、Common Toxicity Criteria(CTC)2.0版(
前記)に示された基準に基づく0〜4尺度に従って採点する。治験薬剤との関連または関係を下記のように等級付けする:1=無関係、2=無関係と思われる、3=可能性がある、4=おそらく関係がある、および5=確実に関係がある。
【0114】
[000117] 療法中または完了後に起きる重篤な有害事象を、下記のいずれかとして定義する:(a)原因に関係なく、治験薬剤投与の30日以内に起きた患者の死亡;(b)致命的事象;(c)処置および監視期間中の治験関連毒性による入院の継続または追加入院の
必要性;(d)治験開始後にもうけた子孫の先天性異常;(e)治験中に生じた毒性による著しい医療処置の必要性;ならびに(f)注入細胞の過剰投与。
【0115】
[000118] 致命的事象は、治験担当者の見解で、発生した有害事象のため患者が直ちに死の危険性に陥るものと定義される。これには、より重篤な形で起きたとすれば死亡の原因となったであろう有害事象は含まれない。上記の基準のうち少なくとも1つに適合し
ない有害事象はすべて重篤ではないと定義される。事象の原因評価は事象の重篤性評価に
は関係ない。
【0116】
[000119] 予想外の有害事象は下記のものである:(a)養子移入T細胞療法に関してこれまで報告されていないもの、ならびに(b)症状および病態生理学的には既知の毒性
と関係があるが、重篤性または特異性がより大きいため異なる。
【0117】
[000120] 問題の有害反応の原因を説明するために、適宜な臨床、診断および検査室測定を実施し、結果を報告しなければならない。養子移入に関係すると考えられる異常を解明するすべての試験を、原因が判定されるまで、または正常値への回復が起きるまで、適宜な間隔で繰り返す。
【0118】
8.統計学的考察
[000121] HLA一致同種BMT後CD19ALL再発を伴う治験参加者に再指向−前B ALLターゲティングのために投与した、CD19特異的キメラ免疫受容体およびHyTKを発現するように遺伝子修飾したCD8細胞毒性T細胞のI相試験の考察事項は下記のとおりである。(a)採用時に得た人口統計および背景の特徴を一覧表にまとめる。(b)療法中にみられた毒性
のタイプおよびグレードを投与レベルごとにまとめる。(c)治験担当者が認めたすべて
の有害事象を罹患身体系に従って表にまとめる。(d)記述統計学を用いて、臨床検査パ
ラメーターのベースラインからの変化をまとめる。(e)T細胞療法の開始時に測定可能な腫瘍を伴う患者については、ALL応答基準(表5)により応答を階層化する。(f)Kaplan
−Meierプロダクト限定法を用いて生存率を推定する。(G)記述した統計値すべてについて95%信頼区間を計算する。
【0119】
[000122] 本発明の方法および組成物を多様な態様で採用できるが、そのうちわずかを本明細書に開示したにすぎないことは理解されるであろう。本発明から逸脱しない他の態様があることは当業者に自明であろう。したがって、記載した態様は説明であって、限定と解すべきではない。
【0120】
【表6−1】

【表6−2】

【表6−3】

【表6−4】

【表6−5】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1A】図1Aは、本発明のCD19:ゼータキメラ免疫受容体SEQ ID NO.1の二本鎖DNA配列およびアミノ酸配列を示し、このキメラ免疫受容体中にあるDNAセグメント源を示す。
【図1B】図1Bは、本発明のCD19:ゼータキメラ免疫受容体SEQ ID NO.1の二本鎖DNA配列およびアミノ酸配列を示し、このキメラ免疫受容体中にあるDNAセグメント源を示す。
【図1C】図1Cは、本発明のCD19:ゼータキメラ免疫受容体SEQ ID NO.1の二本鎖DNA配列およびアミノ酸配列を示し、このキメラ免疫受容体中にあるDNAセグメント源を示す。
【図2】プラスミドpMG−CD19R/HyTKの模式図を示す。
【図3】CD19R/scFvFc:ζキメラ受容体の発現を証明するウェスタンブロット分析を示す。
【図4】CD19R/scFvFc:ζキメラ受容体を発現するT細胞の抗原特異的細胞溶解活性を示すグラフである。
【図5】CD19を発現する種々の細胞系の存在下でインキュベートしたCD19R/scFvFc:ζキメラ受容体発現T細胞によるインターロイキン−γの産生を示すグラフである。
【図6】図6A〜Eは、CD19R/scFvFc:ζキメラ受容体再指向T細胞クローンの抗原特異的細胞溶解活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面膜上にCD19特異的キメラ受容体を発現および保有し、該キメラ受容体が免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナリングドメイン、少なくとも1つの膜貫通ドメ
インおよび少なくとも1つの細胞外ドメインからなり、細胞外ドメインがCD19特異的受容
体を含む、遺伝子工学的に作製されたCD19特異的免疫細胞。
【請求項2】
免疫細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球および骨髄幹細胞
よりなる群から選択される、請求項1に記載のCD19特異的免疫細胞。
【請求項3】
悪性でないヒト細胞である、請求項2に記載のCD19特異的免疫細胞。
【請求項4】
細胞表面膜上にCD19特異的キメラ受容体を発現および保有し、該キメラ受容体が
a)(1)CD3のゼータ、イータ、デルタ、ガンマまたはイプシロン鎖、(2)MB1鎖、(3)B29、(4)FcγRIIIおよび(5)FcεRIよりなる群から選択される細胞内シグナリング
ドメインの群から選択される細胞内シグナリングドメイン;
b)少なくとも1つの膜貫通ドメイン;ならびに
c)CD19特異的受容体を含む少なくとも1つの細胞外ドメイン
からなる、遺伝子工学的に作製されたCD19特異的T細胞。
【請求項5】
CD4であり、in vitroでCD19悪性B細胞と共存培養した際にIL−2を産生する、請求項4に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項6】
CD8またはCD4であり、in vitroでターゲット細胞と共存培養した際にCD19ターゲット悪性B細胞を溶解する、請求項4に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項7】
CD4細胞とCD8細胞の混合集団を含む、請求項4に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項8】
CD19特異的受容体がCD19に対する一本鎖モノクローナル抗体のFv領域を含む、請求項4に
記載のCD19特異的T細胞。
【請求項9】
細胞内シグナリングドメインがヒトCD3ゼータ鎖に由来する、請求項8に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項10】
CD19特異的キメラ受容体がscFvFc:ζを含み、ここでscFvFcは細胞外ドメインを表わし、scFvはCD19に対する一本鎖モノクローナル抗体のVHおよびVL鎖を表わし、FcはIgG1の定常部の少なくとも一部を表わし、ζはヒトCD3のゼータ鎖の細胞内シグナリングドメインを
表わす、請求項9に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項11】
細胞外ドメインと細胞内シグナリングドメインがヒトCD4の膜貫通ドメインにより連結さ
れている、請求項10に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項12】
キメラ受容体がSEQ ID NO:2のアミノ酸23〜634である、請求項10に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項13】
下記よりなるCD19特異的キメラT細胞受容体:
a)(1)CD3のゼータ、イータ、デルタ、ガンマまたはイプシロン鎖、(2)MB1鎖、(3)B29、(4)FcγRIIIおよび(5)FcεRIよりなる群から選択される細胞内シグナリング
ドメインの群から選択される細胞内シグナリングドメイン;
b)少なくとも1つの膜貫通ドメイン;ならびに
c)CD19特異的受容体を含む少なくとも1つの細胞外ドメイン。
【請求項14】
scFvFc:ζを含むキメラT細胞受容体であり、ここでscFvFcは細胞外ドメインを表わし、scFvはCD19に対する一本鎖モノクローナル抗体のVHおよびVL鎖を表わし、FcはIgG1の定常
部の少なくとも一部を表わし、ζはヒトCD3のゼータ鎖のエフェクター機能細胞内シグナ
リングドメインを表わす、請求項13に記載のCD19特異的キメラT細胞受容体。
【請求項15】
細胞外ドメインと細胞内ドメインがヒトCD4の膜貫通ドメインにより連結されている、請
求項14に記載のCD19特異的キメラT細胞受容体。
【請求項16】
SEQ ID NO:2のアミノ酸23〜634である、請求項15に記載のCD19特異的キメラT細胞受容体。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項に記載のCD19特異的キメラT細胞受容体をコードするDNA構築
体。
【請求項18】
請求項17に記載のDNA構築体を発現に適正な配向で含むプラスミド発現ベクター。
【請求項19】
哺乳動物においてCD19悪性疾患を処置する方法であって、請求項1に記載のCD19特異的
免疫細胞を療法有効量で動物に注入することを含む方法。
【請求項20】
ヒト患者においてCD19悪性疾患を処置する方法であって、請求項4〜12のいずれか1項に記載のCD19特異的T細胞を療法有効量でヒト患者に注入し、所望により同時にIL−2をT細
胞の効果の補助に有効な量で患者に投与することを含む方法。
【請求項21】
悪性疾患が、CD19急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、CD19リンパ腫および慢性リンパ球性白血病よりなる群から選択される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
患者が以前に骨髄除去化学療法および幹細胞レスキューを受けている、請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
請求項4に記載のCD19特異的T細胞を作製および拡張する方法であって、CD19特異的キメラ受容体をコードするDNA構築体を含む発現ベクターでT細胞をトランスフェクションし、次いで細胞をCD19細胞、組換えCD19、または該キメラ受容体に対する抗体で刺激して細胞を増殖させることを含む方法。
【請求項24】
DNAから内毒素を枯渇させておき、細胞をマイトジェンで刺激した後にエレクトロポレー
ションを行う、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
T細胞が悪性でないヒト細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
T細胞が末梢血単核細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
キメラ受容体の細胞内シグナリングドメインがヒトCD3のゼータ鎖である、請求項23に記
載の方法。
【請求項28】
CD19特異的キメラ受容体がscFvFc:ζを含み、ここでscFvFcは細胞外ドメインを表わし、scFvはCD19に対する一本鎖モノクローナル抗体のVHおよびVL鎖を表わし、FcはIgG1の定常部の少なくとも一部を表わし、ζはヒトCD3のゼータ鎖の細胞内シグナリングドメインを
表わす、請求項9に記載のCD19特異的T細胞。
【請求項29】
細胞外ドメインと細胞内シグナリングドメインがヒトCD4の膜貫通ドメインにより連結さ
れている、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
キメラ受容体がSEQ ID NO:2のアミノ酸23〜634である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
トランスフェクションした細胞をクローニングし、組み込まれた再配列していない単一プラスミドの存在およびキメラ受容体の発現を示すクローンをex vivoで拡張する、請求項23〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
ex vivo拡張のために選択したクローンがCD8であり、CD19ターゲット細胞を特異的に認識して溶解する能力を示す、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ex vivo拡張のために選択したクローンが、同じ方法でトランスフェクションした他の細
胞と比較して、CD19ターゲット細胞を特異的に認識して溶解する能力の増強を示す、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
キメラ受容体がscFvFc:ζ受容体を含み、クローンをIL−2およびOKT3抗体で刺激するこ
とにより拡張させる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
患者において有害なB細胞機能を阻害する方法であって、患者に請求項4に記載のCD19特異的T細胞を療法有効量で投与することを含む方法。
【請求項36】
CD19特異的T細胞を投与して患者の自己免疫疾患を処置する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
自己免疫疾患が全体的または部分的にB細胞により仲介される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
患者に外来物質を投与する前に、CD19特異的再指向T細胞を投与して、患者において免疫
抑制を生じさせる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
外来物質がモノクローナル抗体、DNA、ウイルスまたは細胞である、請求項38に記載の方
法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−4749(P2011−4749A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167105(P2010−167105)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2002−576287(P2002−576287)の分割
【原出願日】平成13年11月7日(2001.11.7)
【出願人】(598004424)シティ・オブ・ホープ (15)
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
【住所又は居所原語表記】1500 East,Duarte Road,Duarte,California 91010−0269,United States of America
【Fターム(参考)】