説明

CGRP応答調節剤の評価又は選択方法

【課題】CGRP応答調節剤の評価又は選択方法の提供。
【解決手段】CGRP応答調節剤の評価又は選択方法であって、血管平滑筋由来の細胞を培養し、再分化した血管平滑筋細胞を調製する工程;当該再分化した血管平滑筋細胞を試験物質と接触させる工程;当該再分化した血管平滑筋細胞におけるCGRP応答を測定する工程;当該測定されたCGRP応答に基づいて、当該試験物質をCGRP応答調節剤として評価又は選択する工程、を包含する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CGRP(calcitonin gene-related peptide)応答調節剤の評価又は選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CGRPは37個のアミノ酸からなる神経ペプチドであり、カルシトニン遺伝子の組織特異的な選択的スプライシングにより生合成される。CGRPは、中枢神経系および末梢感覚神経系に広く分布し、特異的な受容体を介してその作用を発揮する。
【0003】
CGRPの最もよく知られた生理作用は、血管拡張作用とそれに伴う血流量の上昇であり,皮膚血流調節に関与しているとされる。この他にも様々な作用が報告されており、例えば、炎症におけるサブスタンスPの調節、血管透過性亢進、神経筋接合部のニコチン様受容体の調節、糖新生の抑制と糖分解の促進、膵臓酵素の分泌促進、胃酸分泌抑制、心拍促進、神経活動の調節、カルシウム代謝調節、骨形成促進、インスリン分泌、体温上昇、摂食量低下など多岐にわたる。また、プロスタグランジンの合成を介した抗炎症作用、マクロファージにおけるH22産生抑制や抗原提示抑制、象牙質芽細胞の分裂促進、虚血再環流障害に対するプレコンディショニング、ならびに子宮筋層や子宮、胎盤に受容体が発現していることから妊娠・分娩への関与が知られている。
【0004】
上記の生理作用から、CGRPの治療用途としては、血行促進、創傷治癒の促進、および高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、歯周病、妊娠中毒症、早期分娩等が挙げられている。また、CGRP受容体アンタゴニストの用途として、偏頭痛、知覚過敏等の治療が挙げられる。実際、多くのCGRP受容体アンタゴニスト化合物が抗偏頭痛薬として開発されている。
【0005】
CGRPに対する応答を促進又は抑制することができる物質は、皮膚循環の変化の改善や、上記疾患や症状の予防又は治療のために有用である。これまで、CGRP応答を抑制することができる物質としては、CGRP受容体拮抗剤、抗CGRP抗体、アヤメ属水抽出物が知られている。しかし、CGRP応答を促進又は抑制することができ、皮膚循環の調節又は各種疾患の改善に有用なさらなる物質の開発が望まれる。
【0006】
従来、CGRPの挙動を評価するためには、摘出血管モデル(非特許文献1)、及びCGRP受容体を発現しているヒト神経上皮腫由来細胞株(例えば、非特許文献2)などが使用されている。しかし、ヒト神経上皮腫由来細胞株は循環系由来でない。循環系におけるCGRPの挙動をより正確に再現するためには循環系由来の細胞を用いることが望ましい。摘出血管は入手が困難であるので、薬剤開発のための試料としては不向きである。
【0007】
初代培養血管平滑筋細胞を用いてCGRPの作用を検討した研究も報告されている(非特許文献3)。しかし、初代培養は、常に同等の性質を有する細胞を供給することが困難であるため、モデルとして使用するには不向きである。一方、継代したヒト正常冠状動脈平滑筋細胞は、CGRPに応答しなかったことが報告されている(非特許文献4)。CGRP応答を評価するための、安定した品質を有する確立されたヒト循環系由来培養細胞モデルが所望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Basic Res Cardiol 90,332-336 (1995)
【非特許文献2】Eur J Pharmacol 415,39-44 (2001)
【非特許文献3】Neuropharmacology 42,270-280 (2002)
【非特許文献4】BBRC 270, 1063-1067 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、CGRP応答調節剤の評価又は選択方法の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ヒト血管平滑筋由来の細胞を再度血管平滑筋細胞に分化させることによって作製された培養ヒト血管平滑筋細胞が、高いCGRP応答性を有し、CGRP応答調節剤の評価又は選択のために使用できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供する。
1)CGRP応答調節剤の評価又は選択方法であって、以下:
血管平滑筋由来の細胞を培養し、再分化した血管平滑筋細胞を調製する工程;
当該再分化した血管平滑筋細胞を試験物質と接触させる工程;
当該再分化した血管平滑筋細胞におけるCGRP応答を測定する工程;
当該測定されたCGRP応答に基づいて、当該試験物質をCGRP応答調節剤として評価又は選択する工程、
を包含する、方法。
2)前記再分化した血管平滑筋細胞を調製する工程が、前記血管平滑筋由来の細胞を2000〜8000cells/cm2の密度で増殖培地で培養し、次いで分化培地で少なくとも7日間培養して血管平滑筋細胞に再分化させる工程である、1)に記載の方法。
3)前記再分化した血管平滑筋細胞をCGRPと接触させる工程をさらに包含する、1)又は2)記載の方法。
4)前記再分化した血管平滑筋細胞におけるCGRP受容体の活性を測定する工程が、当該細胞内のサイクリックAMPを測定する工程である、1)又は2)記載の方法。
5)前記再分化した血管平滑筋細胞をホスホジエステラーゼ阻害剤と接触させる工程をさらに包含する、4)記載の方法。
6)前記血管平滑筋由来の細胞がヒト正常冠状動脈平滑筋細胞である1)記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高いCGRP応答性を有する培養ヒト血管平滑筋細胞が提供される。当該細胞を用いることによって、ヒト循環系細胞においてCGRP応答を調節し得る物質を効率よく探索することができる。従って、本発明によれば、皮膚循環の改善や、CGRPに関連する各種疾患や症状の予防又は治療のために有用な物質を、効率よく探索及び提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】増殖培地培養物(A)と分化培地培養物(B)におけるCGRP応答。**:コントロールに対してp<0.01(Dunnett)(N=3)。
【図2】分化期間及び細胞濃度によるCGRP応答性の変化。
【図3】CGRP応答の用量依存性。**:コントロールに対してp<0.01(Dunnett)(N=3)。
【図4】CGRPアンタゴニストによるCGRP応答抑制。**:p<0.01(Scheffe)(N=3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「改善」とは、疾患又は症状の好転、疾患又は症状の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0015】
本明細書において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
【0016】
本明細書において、「細胞のCGRP応答調節」とは、CGRPにより惹起される細胞の活動を変化させることをいい、当該「調節」は、促進及び抑制を包含する。従って、本明細書における「細胞のCGRP応答調節」は、「細胞のCGRP応答促進」及び「細胞のCGRP応答抑制」を包含し、また本明細書において、「細胞のCGRP応答促進」及び「細胞のCGRP応答抑制」とは、それぞれ、CGRPにより惹起される細胞の活動を促進及び抑制することをいう。
【0017】
CGRPが細胞のCGRP受容体に結合すると、Gタンパク質を介してアデニレートシクラーゼの活性化を経て細胞内cAMPの増加が生じ、それにより、例えば血管平滑筋細胞ではプロテインキナーゼA活性化を介して、K+チャネルが開口する。従って、本明細書におけるCGRP応答促進とは、CGRPにより惹起される細胞におけるこれらの一連のプロセスを促進することをいい、一方、本明細書におけるCGRP応答抑制とは、CGRPにより惹起される細胞におけるこれらの一連のプロセスの活性化を抑制することをいう。
例えば、CGRP応答促進としては、CGRP受容体発現の促進;CGRP受容体活性の向上;CGRPとその受容体との結合の促進;CGRP受容体アゴニスト作用;Gタンパク質活性の増強;アデニレートシクラーゼ活性の増強;細胞内cAMPの増加;プロテインキナーゼA活性の増強;及びK+チャネル開口促進等が挙げられる。また例えば、CGRP応答抑制としては、CGRP受容体発現の抑制;CGRP受容体活性の抑制;CGRPとその受容体との結合の阻害;CGRP受容体アンタゴニスト作用;Gタンパク質活性化の抑制;アデニレートシクラーゼ活性化の抑制;細胞内cAMPの増加の抑制、プロテインキナーゼA活性化の抑制、及びK+チャネル開口抑制等が挙げられる。
好ましくは、「細胞のCGRP応答」は、CGRPにより引き起こされる細胞内cAMPの増加の程度を指標として決定され得る。従って、好ましくは、CGRP応答促進及び抑制とは、それぞれCGRPにより惹起される細胞内cAMPの増加を促進及び抑制することをいう。
【0018】
本発明は、CGRP応答調節剤の評価又は選択方法を提供する。当該方法は、以下:血管平滑筋由来の細胞を培養し、血管平滑筋細胞に再分化させる工程;当該再分化した血管平滑筋細胞を試験物質と接触させる工程;当該再分化した血管平滑筋細胞におけるCGRP応答を測定する工程;当該測定されたCGRP応答に基づいて、当該試験物質をCGRP応答調節剤として評価又は選択する工程、を包含する。
【0019】
上記本発明の方法においては、血管平滑筋由来細胞から再分化した血管平滑筋細胞を調製する。血管平滑筋由来細胞としては、例えば血管平滑筋から直接採取された細胞でもよく、または樹立された培養血管平滑筋細胞株であってもよい。血管平滑筋由来細胞は、好ましくはヒト血管平滑筋由来細胞であり、より好ましくはヒト正常冠状動脈平滑筋細胞である。ヒト正常冠状動脈平滑筋細胞としては、市販の正常ヒト冠状動脈平滑筋細胞株(HCASMC)を使用することができる。
【0020】
再分化した血管平滑筋細胞を調製する手順の一例を以下に説明する。
まず、血管平滑筋由来細胞を増殖培地で播種し、分化用培養細胞を調製する。増殖培地としては血管平滑筋細胞用の増殖培地として通常使用されている培地であれば、特に限定されない。例えば、増殖培地としては、クラボウ社のHuMedia-SB2等の基礎培地500mlに、FBS 25ml、hEGF 0.5ml、hFGF-B 0.5ml、インスリン0.5ml、抗菌剤0.5mlを添加したものを使用することができる。当該平滑筋由来細胞は、増殖培地に、2000〜8000cells/cm2、好ましくは4000±2000cells/cm2、より好ましくは4000±1000cells/cm2の密度、さらに好ましくは4000±500cells/cm2の密度で播種される。
次いで、増殖培地に播種した平滑筋由来細胞を、通常の条件(例えば、37℃、5%CO2)下で、当該細胞が培養基板(例えば、フラスコ、ペトリ皿又は培養プレートの表面等)に接着するまで培養する。このとき、当該培養は、接着した細胞の増殖が始まる前に終えることが望ましい。したがって、増殖培地における好ましい培養期間は、数時間〜24時間であるが、これに限定されない。
上記手順により、血管平滑筋由来細胞から分化用培養細胞を調製する。一態様において、調製された分化用培養細胞は、血管平滑筋由来細胞の初代培養細胞である。好ましくは、当該初代培養細胞は、ヒト正常冠状動脈平滑筋細胞から培養された初代培養細胞である。
【0021】
次いで、調製された分化用培養細胞を分化培地で培養し、再分化した血管平滑筋細胞へと再分化させる。例えば、培養細胞培養物の培地を分化培地と交換することにより、分化用培養細胞を分化培地で培養する。分化培地としては、血管平滑筋細胞用への分化のための分化培地として通常使用されている培地であれば、特に限定されない。例えば、分化培地としては、HuMedia-SB2等の基礎培地500mlに、FBS 5ml、ヘパリン0.5ml、抗菌剤0.5mlを添加したものを使用することができる。同じ分化培地で培養培地を1日おきに交換しなから、通常の条件(例えば、37℃、5%CO2)下で、当該分化用培養細胞を少なくとも7日間培養することにより、再分化した血管平滑筋細胞を調製することができる。好ましくは、培養期間は7〜10日である。したがって、好ましい態様としては、分化培地での培養は、4000±500cells/cm2の密度で播種した細胞を7〜10日間培養することが好ましいが、播種密度が2000cells/cm2の場合、培養期間は7〜9日間がより好ましく、播種密度が8000cells/cm2の場合、培養期間は7日間がより好ましい。
上記の手順により血管平滑筋由来細胞を再分化させて、再分化した血管平滑筋細胞を得ることができる。得られた当該再分化させた血管平滑筋細胞は、CGRP応答性を有する。
【0022】
当該CGRP応答性を有する再分化させた血管平滑筋細胞を、試験物質と接触させる。例えば、再分化した血管平滑筋細胞の培養物に試験物質を添加することにより、当該細胞と当該試験物質とを接触させることができる。上記本発明の方法において、再分化した血管平滑筋細胞に接触させる試験物質は、CGRP応答調節剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。試験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また化合物であっても、組成物若しくは混合物であってもよい。
【0023】
一態様において、本発明の方法は、上記CGRP応答性を有する再分化した血管平滑筋細胞をCGRPと接触させる工程をさらに包含する。例えば、探索すべきCGRP応答調節剤が、CGRPに対する細胞の応答を増強又は低減するものである場合、CGRPは、試験物質より後又は試験物質とともに、当該再分化した血管平滑筋細胞との接触に供される。例えば、当該再分化した血管平滑筋細胞の培養物に、試験物質を添加した後に、および又は試験物質の添加とともに、CGRPを添加することにより、当該細胞とCGRPとを接触させることができる。
好ましくは、CGRPは、当該再分化した血管平滑筋細胞を試験物質と1日〜数日間、好ましくは約2日間接触させた後に、当該細胞に1〜60分間、より好ましくは5〜30分間接触する。例えば、分化用培養細胞を分化培地で5〜8日間培養した後、当該培養物に試験物質を添加し、さらに2日間培養した後、当該培養物にCGRPを添加し、1〜60分間、より好ましくは5〜30分間インキュベートすればよい。あるいは、再分化した血管平滑筋細胞をCGRP及び試験物質にともに接触させる場合は、再分化した血管平滑筋細胞の培養物にCGRP及び試験物質を添加し、1〜60分間、より好ましくは5〜30分間インキュベートすればよい。
【0024】
本発明の方法の別の態様においては、上記再分化した血管平滑筋細胞とCGRPとを接触させなくともよい。例えば、探索すべきCGRP応答調節剤がCGRP受容体発現調節剤あるいはCGRP受容体のアゴニストである場合、当該細胞を、CGRPと接触させることなく、単純に試験物質と1日〜数日間、好ましくは約2日間接触させればよい。
例えば、探索すべきCGRP応答調節剤がCGRP受容体発現調節剤である場合、当該細胞をCGRPと接触させることなく、単純に試験物質と1時間〜数日間、好ましくは数時間〜約2日間接触させればよい。また、探索すべきCGRP応答調節剤がCGRP受容体のアゴニストの場合は、当該細胞をCGRPと接触させることなく、単純に試験物質と1分〜数十分、好ましくは5分から60分程度接触させればよい。
【0025】
上記本発明の方法においては、上記再分化した血管平滑筋細胞と試験物質及び/又はCGRPと接触に続いて、当該再分化した血管平滑筋細胞のCGRP応答を測定する。測定は細胞のCGRP応答を測定する方法として当該分野で知られている任意の方法によって行うことができる。例えば、細胞のCGRP応答は、CGRP受容体からK+チャネル開口までの一連の経路に含まれる任意の因子、CGRP受容体mRNAの発現量、CGRP受容体蛋白質発現量、CGRP受容体活性化レベル、Gタンパク質(Gαs)又はアデニレートシクラーゼ活性化レベル;細胞内cAMP量;プロテインキナーゼA活性化レベル;及びK+チャネル開口により引き起こされるイオン電流等、を指標として測定することができる。好ましくは、細胞のCGRP応答は、細胞内cAMP量を指標として測定することができる。cAMP量を測定する方法としては、ELISA、ルシフェラーゼアッセイ法等が挙げられる。
【0026】
次いで、測定されたCGRP応答に基づいて、試験物質を評価し、CGRP応答を変化させる試験物質をCGRP応答調節剤として選択する。好ましくは、CGRP応答を促進する試験物質をCGRP応答促進剤として選択し、CGRP応答を抑制する試験物質をCGRP応答抑制剤として選択する。試験物質の評価は、例えば、試験物質添加群と対照群(例えば、試験物質非添加群若しくは対照物質添加群)との間でCGRP応答を比較することによって行われ得る。試験物質添加群におけるCGRP応答活動が対照群と比較して増強していれば、当該試験物質をCGRP応答促進剤として選択することができ、一方、試験物質添加群におけるCGRP応答活動が対照群と比較して低減していれば、当該試験物質をCGRP応答抑制剤として選択することができる。あるいは、試験物質の評価は、種々の濃度の試験物質間でCGRP応答活動を比較することによって行われ得る。CGRP応答活動が試験物質の濃度に相関して増強する場合、当該試験物質をCGRP応答促進剤として選択することができ、一方、CGRP応答活動が試験物質の濃度に相関して低減する場合、当該試験物質をCGRP応答抑制剤として選択することができる。
【0027】
細胞内cAMP量を指標としてCGRP応答を測定する場合、上記再分化した血管平滑筋細胞をホスホジエステラーゼ阻害剤(PDI)とさらに接触させてもよい。上記再分化した血管平滑筋細胞を、試験物質及び/又はCGRPと接触させる前、あるいは試験物質及び/又はCGRPとともに、PDIと接触させ得る。例えば、当該再分化した血管平滑筋細胞の培養物にPDIを添加し、当該細胞内にPDIを浸透させた後、培地からPDIを除去し又は除去せずに、次いで試験物質及び/又はCGRPを添加する。あるいは、再分化した血管平滑筋細胞の培養物にPDI及び試験物質及び/又はCGRPを添加する。PDIは細胞内cAMPの分解を抑制するので、PDI処理により細胞内cAMPの測定がより容易になる。また、PDIは2化合物以上を同時に使用することもできる。
【0028】
上記の方法により選択されたCGRP応答調節剤は、皮膚循環の改善や、CGRPに関連する各種疾患や症状の予防又は治療のために使用することができる。当該CGRP応答調節剤はまた、皮膚循環改善用の薬剤又は組成物、あるいはCGRPに関連する各種疾患や症状の予防又は治療用の薬剤又は組成物を製造するために使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
実施例1 再分化血管平滑筋細胞におけるCGRP応答の誘導
(1)方法
細胞の調製
正常ヒト冠状動脈平滑筋細胞(HCASMC;クラボウ社、細胞lot# 4C0915)を増殖用培地(基礎培地HuMedia-SB2 500mlにFBS 25ml、hEGF 0.5ml、hFGF-B 0.5ml、インスリン 0.5ml、抗菌剤 0.5mlを添加したもの;クラボウ社)で培養した。継代には0.025%トリプシン/0.01%EDTAを用いた。HCASMCを4000cells/cm2の密度で増殖用培地を含む48ウェルプレートに播種し、15時間培養した。培養後の細胞は、プレート表面に接着しており、且つ増殖が始まっていないことが確認できた。この細胞を、分化用培養細胞として取得した。分化用培養細胞の培地を分化用培地(基礎培地HuMedia-SB2 500mlにFBS 5ml、ヘパリン 0.5ml、抗菌剤 0.5mlを添加したもの;クラボウ社)に交換し、同じ分化培地で培養培地を1日おきに交換しながら10日間培養した(分化培地培養物)。なお、分化培地培養物のコントロールとして増殖用培地でさらに10日間培養したHCASMCを同時に調製した(増殖培地培養物)。
【0031】
CGRP応答の誘導と測定
上記で得られた両培養物を、ホスホジエステラーゼ阻害剤(PDI)IBMX(3-Isobutyl-1-methylxanthine、500μM;シグマ社)及びRo-20-1724(100μM;和光純薬工業株式会社)を含む基礎培地(Humedia-SB2;クラボウ社)で2回洗浄し、さらに同培地を200μl添加して37℃にて60分間培養し、細胞内に阻害剤を浸透させた。培地を除去してCGRP(株式会社ペプチド研究所)10若しくは100nM、及びホスホジエステラーゼ阻害剤IBMX 500μM、Ro-20-1724 100μMを含む基礎培地を添加し、37℃にて30分間培養した。CGRPを添加しない場合(0nM CGRP)をコントロールとした。ポジティブコントロールとしては、CGRPの代わりに、非特異的アデニレートシクラーゼ活性化剤フォルスコリン(シグマ社)10μMを添加した。cAMP測定EIAキット(cAMP EIA (non-acetylation);GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)に付属の細胞溶解液を添加することにより反応を停止させた後、同付属の取扱説明書に記載の方法に従って細胞内cAMP濃度([cAMP]i)を測定した。
【0032】
(2)結果
増殖培地培養物と分化培地培養物におけるCGRP応答の測定結果を、それぞれ図1A及びBに示す。増殖培地培養物ではCGRP応答は観察されなかった(A)一方、分化培地培養物ではコントロールに対して有意に高いCGRP応答が観察された(B)。この結果から、分化培地培養物の細胞がCGRP応答を有する血管平滑筋細胞に再分化していることが示された。
【0033】
実施例2 分化期間及び細胞濃度によるCGRP応答性の変化
正常ヒト冠状動脈平滑筋細胞(HCASMC;クラボウ社、細胞lot# 625723)を4000cells/cm2の密度で、増殖用培地(基礎培地HuMedia-SB2 500mlにFBS 25ml、hEGF 0.5ml、hFGF-B 0.5ml、インスリン 0.5ml、抗菌剤 0.5mlを添加したもの;クラボウ社)を含む48ウェルプレートに播種し、15時間培養した後、培地を分化用培地(基礎培地HuMedia-SB2 500mlにFBS 5ml、ヘパリン 0.5ml、抗菌剤 0.5mlを添加したもの;クラボウ社)に交換した。同じ分化培地で培養培地を1日おきに交換しながら5〜9日間細胞を培養した。
CGRPの濃度を100nMとしたこと以外は実施例1と同様の手順で、細胞のCGRP応答([cAMP]i)を測定した。結果を図2に示す。7日目以降、CGRP応答([cAMP]i)が安定して観察されることが示された。
【0034】
実施例3 CGRP応答の用量依存性
分化培地での培養期間が7日間であったこと以外は、実施例2と同様の手順で細胞を調製した。
CGRPの濃度及び添加時間を0.01〜1000nM、及び10分間としたこと以外は実施例1と同様の手順で、細胞のCGRP応答([cAMP]i)を測定した。
結果を図3に示す。細胞のCGRP応答は添加したCGRPの用量依存的に増加した。
【0035】
実施例4 CGRPアンタゴニストによるCGRP応答抑制
正常ヒト冠状動脈平滑筋細胞(HCASMC;クラボウ社、細胞lot# 4C0915)を4000cells/cm2の密度で増殖培地に播種し、実施例2と同様の手順で細胞を調製した。分化培地での培養期間は7日間とした。
CGRP 5nM若しくは10nM、又はさらにCGRP8-37(CGRPアンタゴニスト:株式会社ペプチド研究所)1μMを10分間添加したこと以外は実施例1と同様の手順で、細胞のCGRP応答([cAMP]i)を測定した。CGRPを添加しない場合をコントロールとした。
結果を図4に示す。CGRPアンタゴニストCGRP8-37を添加することにより、細胞のCGRP応答が有意に抑制された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CGRP応答調節剤の評価又は選択方法であって、以下:
血管平滑筋由来の細胞を培養し、再分化した血管平滑筋細胞を調製する工程;
当該再分化した血管平滑筋細胞を試験物質と接触させる工程;
当該再分化した血管平滑筋細胞におけるCGRP応答を測定する工程;
当該測定されたCGRP応答に基づいて、当該試験物質をCGRP応答調節剤として評価又は選択する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記再分化した血管平滑筋細胞を調製する工程が、前記血管平滑筋由来の細胞を2000〜8000cells/cm2の密度で増殖培地で培養し、次いで分化培地で少なくとも7日間培養して血管平滑筋細胞に再分化させる工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再分化した血管平滑筋細胞をCGRPと接触させる工程をさらに包含する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記再分化した血管平滑筋細胞におけるCGRP受容体の活性を測定する工程が、当該細胞内のサイクリックAMPを測定する工程である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記再分化した血管平滑筋細胞をホスホジエステラーゼ阻害剤と接触させる工程をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血管平滑筋由来の細胞がヒト正常冠状動脈平滑筋細胞である請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115155(P2012−115155A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265234(P2010−265234)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】