説明

EL素子の製造方法

【課題】 絶縁性基板を変形させずに、EL素子の輝度向上を図るための発光層の熱処理を行えるEL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 ガラス基板などからなる絶縁性基板101上に、ITO膜などからなる第1電極102、ATO膜などからなる第1絶縁層103、発光中心を含む発光層104、ATO膜などからなる絶縁層105およびITO膜などからなる第2電極106を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子100の製造方法において、発光層104を成膜した後に、熱プラズマ110を照射し発光層104を熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば透明ディスプレイなどに使用されるエレクトロルミネッセンス(Electro luminescence)素子(以下、EL素子と記す)の製造方法に関し、特に高い発光輝度を有する薄膜EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL素子は、硫化亜鉛(ZnS)等の蛍光体に電界を印加したときに発光する現象を利用したものであり、自発光型の平面ディスプレイを構成するものとして、近年、注目されている。
【0003】
このEL素子は、一般に、絶縁性基板上に、第1電極、発光中心を含む発光層および第2電極を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するようにしたものである。ここで、通常は、第1電極と発光層との間および第2電極と発光層との間に絶縁層を介在させる。
【0004】
具体的には、EL素子は、絶縁性基板であるガラス基板上に、光学的に透明なITO(Indium Tin Oxide)膜などからなる第1電極、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層および上記ITO膜などからなる第2電極を、順次積層することによって形成されている。
【0005】
ここにおいて、絶縁性基板であるガラス基板としては、コストとEL素子製造プロセスにおける耐薬品性などを考慮して、無アルカリガラスや低アルカリガラスなどが用いられている。
【0006】
また、電極としてのITO膜は、酸化インジウム(In23)に錫(Sn)をドープした透明の導電膜であり低抵抗率であることから、従来より透明電極用として広く使用されている。
【0007】
また、発光層としては、希土類元素を添加したII−VI族化合物半導体が用いられる。ここで、II−VI族化合物半導体は、旧周期律表におけるCa、Sr、Zn、CdなどのIIA族(現2族)およびIIB族(現12族)とO、SなどのVIB族(現16族)との化合物半導体である。
【0008】
具体的には、発光層としては、たとえば硫化亜鉛を母体材料とし、発光中心としてマンガン(Mn)やテルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)などの希土類元素を添加したものが使用される。
【0009】
また、上述の構造からなるEL素子において、黄燈色発光を得る発光層の構成材料としてマンガン(Mn)、緑色発光を得る発光層の構成材料としてテルビウム(Tb)、赤色発光を得る発光層の構成材料としてサマリウム(Sm)を添加した硫化亜鉛などがあり、発光中心材料の種類によって発光色を制御できる。
【0010】
また、第1絶縁層および第2絶縁層には、EL素子を駆動するに適した容量になるように、材料の膜厚を選択してきた。
【0011】
ここで、従来より、EL素子の輝度を向上する方法として、絶縁性基板上に、発光層を成膜した後に600〜800℃で熱処理する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭61−58194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記した従来の方法で熱処理を行いEL素子を作製すると、絶縁性基板に反りやひずみといった変形が生じ、表示デバイスとして構成することができなくなるという問題点があった。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、絶縁性基板を変形させずに、EL素子の輝度向上を図るための発光層の熱処理を行えるEL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため、発光層の材料と熱プラズマの照射方法について検討した。その結果、本発明を実験的に創出するに至った。
【0015】
まず、熱プラズマについて説明する。
【0016】
熱プラズマは大気圧付近の高い圧力下で発生しうるプラズマであり、電子、イオン、中性粒子間の頻繁な衝突により局所的に熱平衡(Te≒Ti≒Tn)が達成されているプラズマである。なお、Te、Ti、Tnはそれぞれ、電子温度、イオン温度、中性粒子温度である。
【0017】
そして、このような熱プラズマは、減圧プラズマと比較して、中性粒子の温度が10000Kと高温であり且つプラズマ密度が高いため、大きな熱容量を持つことを特徴とするものである。
【0018】
この熱プラズマを噴出孔から噴射することによって熱プラズマの形成が可能であり、これによって被熱処理対象へのエネルギー移送を実現することができる。すなわち、熱プラズマを照射することによって、熱処理を行うことができる。
【0019】
熱プラズマを用いて耐熱性の低い基板上の薄膜を熱処理するためには、熱プラズマのパワー密度をできうる限り高め、且つできうる限り短時間で処理することが重要である。熱プラズマのパワー密度を高めるほど短時間で基板表面の薄膜のみを高温熱処理し、基板への熱的ダメージを低減できるからである。
【0020】
よって、熱プラズマのパワー密度を高める、すなわち熱プラズマを収束させることがガラス基板等の低耐熱性基板上の薄膜を熱処理するための絶対条件となる。
【0021】
本発明に用いることのできる熱プラズマ発生方法としては大別して直流アーク放電および交流誘導結合放電の2つの形態がある。図2に、直流アーク放電により熱プラズマを発生させる場合のプラズマヘッドおよび熱プラズマの基板への照射方法を示す。
【0022】
プラズマ源(400)は陰極(300)、冷却水により冷却された噴出孔(304)を備える陽極(301)、絶縁体(302)、ガス導入部(305)からなり、外部直流電源(303)より電力を供給する。
【0023】
陰極(300)を構成する材料としては、モリブデン、タングステン、タンタル、ルテニウム、ジルコニウムなどの熱陰極金属材料が適当である。なかでも、高い耐久性を示すタングステン(W)を主成分とする金属が陰極(300)の材料として優れている。アーク放電を比較的容易に開始させるためには電離電圧が低く、また安価、不活性で環境ガスと反応して毒性ガスを発生しにくいArガスを用いるのが適当である。
【0024】
陰極(300)と陽極(301)との間に直流電圧を印加し、図示しないスパークユニットによって陰極(300)に向かって間欠的に火花放電を行うと、これにより供給された電子をトリガーとして大気圧下でアークプラズマの点火が達成される。
【0025】
本発明の熱プラズマ条件(局所熱平衡条件Te≒Ti≒Tn)は、概ね0.1気圧から10気圧程度の圧力範囲で実現されるので、このような圧力範囲であれば本発明の熱処理方法は常に適用可能である。
【0026】
直流アーク放電により陰極(300)と陽極(301)との間に発生した熱プラズマは、ヘッドに導入されるガスにより熱プラズマ(306)となって、噴出孔(304)から噴出される。
【0027】
このとき、被処理物である基板(101)は、表面に薄膜層(104、104’)が形成されており、図2中の白抜き矢印Yの方向へ相対的に移動し、熱プラズマ(306)によって処理される。図2中、熱プラズマ(306)よりも右側の薄膜層(104)は、熱処理後の薄膜層(104)であり、左側の薄膜層(104’)は、熱処理前の薄膜層(104’)である。
【0028】
ここで、熱プラズマはきわめて高い熱伝導率を有する。図2に示されるように、噴出孔(304)から熱プラズマ(306)を噴出させることによって、熱プラズマ(306)と噴出孔(304)との間に急激な温度勾配を発生させることができ、熱プラズマ(306)は、自身の熱損失を低減させるために、自発的に噴出孔(304)の中心部に収束する。
【0029】
これによって、熱プラズマ(306)を整形するとともに微小領域に絞り込むことが可能となり、熱プラズマ(306)のパワー密度を高めることが可能となる。噴出孔(304)は効率的に冷却されているので、この部分が熱プラズマにより溶融して、被処理基板(101)上の薄膜層(104)に混入するという問題は発生しない。
【0030】
熱プラズマを安定化させるためには、ガスの流れを工夫するのが効果的である。例えば噴出孔(304)が円形の場合はガスを渦状に回転するように熱プラズマ発生部に供給するガス流れを作ることによって、熱プラズマの強弱が周期的に揺らぐ問題を解決し、安定した熱プラズマを実現することが可能となる。
【0031】
以下では、熱プラズマを用いて、EL素子の発光輝度を高くする解決手段について説明する。
【0032】
請求項1に記載の発明では、絶縁性基板(101)上に、第1電極(102)、発光中心を含む発光層(104)および第2電極(106)を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子の製造方法において、発光層(104)を成膜した後に、熱プラズマを照射し発光層(104)を熱処理することを特徴とする製造方法が提供される。
【0033】
それによれば、従来のように、絶縁性基板(101)全体を加熱するのではなく、熱プラズマを照射することにより、発光層(104)を局所的に熱処理して輝度向上を図ることができる。
【0034】
そのため、本発明によれば、絶縁性基板(101)を変形させずに、EL素子(100)の輝度向上を図るための発光層(104)の熱処理を行えるEL素子の製造方法を提供することができる。そして、本発明によれば、比較的高い発光輝度が得られるEL素子(100)を提供することができる。
【0035】
ここで、発光層を加熱すると、なぜ輝度が向上するのかについて説明しておく。
【0036】
EL素子の輝度を決定する要素の1つとして、発光層の結晶性が挙げられる。一般的には、発光層は蒸着法にて成膜される。この場合、成長の初期段階では結晶性が悪く、膜厚が厚くなるに従って結晶性が向上する。
【0037】
上記特許文献1(特開昭61−58194号公報)に記載されているように、800℃にて熱処理すると、結晶性が悪かった発光層の下部の結晶性が特に向上し、輝度向上がなされることになる。
【0038】
一般には、熱処理と言えば炉の中にサンプルを入れて、ガラス基板などの絶縁性基板とEL素子を構成する薄膜を共に加熱することになり、800℃の温度では絶縁性基板が変形してディスプレイを作製できなくなっていた。
【0039】
本発明では、熱プラズマ照射による熱処理を採用することにより、結晶性を向上させるために、発光層のみを加熱し、絶縁性基板はそこの温度が歪点まで上昇する前に熱処理工程が終了するようにできる。
【0040】
ここで、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載のEL素子の製造方法においては、発光層(104)の材料として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むものを用いることが好ましい。
【0041】
請求項3に記載の発明では、絶縁性基板(101)上に、第1電極(102)、発光中心を含む発光層(104)、絶縁層(105)および第2電極(106)を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子の製造方法において、絶縁層(105)を成膜した後に、熱プラズマを照射し発光層(104)を熱処理することを特徴とする製造方法が提供される。
【0042】
それによれば、従来のように、絶縁性基板(101)全体を加熱するのではなく、熱プラズマを照射することにより、発光層(104)を局所的に熱処理して輝度向上を図ることができる。
【0043】
また、本発明によれば、熱処理の際に発光層(104)が絶縁層(105)で被覆されているので、発光層(104)の昇華や冷却効率の低下などを抑えることができ、好ましい。
【0044】
そのため、本発明によれば、絶縁性基板(101)を変形させずに、EL素子(100)の輝度向上を図るための発光層(104)の熱処理を行えるEL素子の製造方法を提供することができる。そして、本発明によれば、比較的高い発光輝度が得られるEL素子(100)を提供することができる。
【0045】
また、請求項4に記載の発明のように、請求項3に記載のEL素子の製造方法においては、発光層(104)の材料として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むものを用いることが好ましい。
【0046】
さらに、請求項5に記載の発明のように、請求項3または請求項4に記載のEL素子の製造方法においては、絶縁層(105)の材料としてアルミナとチタニアの積層膜であるATO膜を用いることが好ましい。
【0047】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0049】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態は、従来のEL素子作製工程の途中にて、発光層に熱プラズマを照射して熱処理をし、発光層の結晶性を向上させ、EL素子の輝度を高めようとするものである。
【0050】
図1は、本発明の第1実施形態に係る無機EL素子100の熱プラズマ照射工程と、この工程によって作製されたEL素子100を示す模式的な断面図である。なお、図1(a)は照射工程での断面図を示し、図1(b)は熱プラズマ照射工程を経て作製されたEL素子100の断面図を示している。
【0051】
図1(b)に示されるように、EL素子100は、絶縁性基板であるガラス基板101上に順次、以下に述べられる薄膜102〜106が積層形成されることによって構成された薄膜EL素子である。
【0052】
ガラス基板101上には、光学的に透明な、たとえばITO膜や酸化亜鉛などからなる透明な第1電極102が形成されている。本例では、第1電極102は、ITO膜から構成されている。
【0053】
第1電極102の上面には、たとえばアルミナとチタニアの積層膜であるATO膜(Al23/TiO2積層構造膜)や五酸化タンタル(Ta25)などからなる第1絶縁層103が形成されている。本例では、第1絶縁層103は、Al23/TiO2積層構造膜から構成されている。
【0054】
第1絶縁層103の上には、発光中心を含む発光層104が形成されている。ここで、発光層104としては、希土類元素などの発光中心を添加したII−VI族化合物半導体が用いられる。
【0055】
ここで、II−VI族化合物半導体は、旧周期律表におけるCa、Sr、Zn、CdなどのIIA族(現2族)およびIIB族(現12族)とO、SなどのVIB族(現16族)との化合物半導体である。
【0056】
具体的には、本実施形態の発光層104としては、少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料とし、発光中心としてマンガン(Mn)やテルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)などの希土類元素を添加したものが使用される。本例では、発光層104は、ZnSを母体材料とし、発光中心としてMnを添加した硫化亜鉛:マンガン(ZnS:Mn)の膜からなる。
【0057】
発光層104の上には、たとえば上記ATO膜や五酸化タンタルなどからなる第2絶縁層105が形成されている。本例では、第2絶縁層105は、Al23/TiO2積層構造膜から構成されている。
【0058】
第2絶縁層105の上には、光学的に透明な、たとえばITO膜や酸化亜鉛などからなる透明な第2電極106が形成されている。本例では、第2電極106は、ITO膜から構成されている。
【0059】
ここで、本例では、第1電極102と第2電極106とは、ストライプ状であって互いに直交している。この第1電極102と第2電極106とが直交した部分が、これら電極102、106の膜間に挟まれている第1絶縁層103、第2絶縁層105および発光層104とともに画素を構成しており、第1電極102、第2電極106間に電圧を印加することで、この画素が発光可能となっている。
【0060】
本例では、EL素子100は、第1電極102と第2電極106とが光学的に透明であるため、ガラス基板101側および第2電極106側の両方から光の取り出しが可能となっている。
【0061】
次に、図1(b)に示すEL素子100の製造方法について、上記した一具体例の膜構成に基づいて説明する。
【0062】
まず、ガラス基板101上に、第1電極102として光学的に透明であるITO膜をスパッタ法によって形成する。その上に、第1絶縁層103として、Al23/TiO2積層構造膜をALD(Atomic−Layer−Deposition)法によって作製する。
【0063】
このAl23/TiO2積層構造膜の具体的な形成方法について説明する。
【0064】
まず、第1のステップとして、アルミニウム(Al)の原料ガスとして三塩化アルミニウム(AlCl3)、酸素(O)の原料ガスとして水(H2O)を用いて、Al23層をALD法で形成する。
【0065】
ALD法では1原子層ずつ膜を形成していくために、原料ガスを交互に供給する。従って、この場合には、AlCl3をアルゴン(Ar)のキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のAlCl3ガスを排気するのに十分なパージを行う。
【0066】
次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返して所定の膜厚のAl23層を形成する。
【0067】
第2のステップとして、Tiの原料ガスとして四塩化チタン(TiCl4)、酸素の原料ガスとしてH2Oを用いて、酸化チタン層を形成する。
【0068】
具体的には、第1のステップと同様にTiCl4をArキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のTiCl4を排気するのに十分なパージを行う。次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。そして、このサイクルを繰り返して所定の膜厚の酸化チタン層を形成する。
【0069】
そして、上述した第1のステップと第2のステップを繰り返し、所定膜厚のAl23/TiO2積層構造膜を形成して、これを第1絶縁層103とする。具体的には、Al23層、TiO2層とも、1層当たりの厚さを5nmとし、それぞれ6層積層した構造とした。なお、Al23/TiO2積層構造膜の最初と最後の層は、Al23層とTiO2層のいずれであってもよい。
【0070】
また、ALD法を用いて原子層オーダで膜を形成する場合、0.5nmより薄い膜では絶縁体として機能せず、また1層当たりの膜厚が20nmよりも厚い場合には、積層構造による耐電圧の向上効果が低下してしまう。従って、積層構造膜の1層当たりの膜厚は0.5nmから20nm、好ましくは1nmから10nmとするのがよい。
【0071】
次に、第1絶縁層103上に、発光層104として、ZnSを母体材料とし発光中心としてMnを添加した硫化亜鉛:マンガン(ZnS:Mn)からなる膜を蒸着法によって形成する。
【0072】
ここまでの状態が、図1(a)に示される構成であり、このように発光層104を成膜した状態にてEL素子が作製されるべき場所に熱プラズマ110を照射し発光層104を熱処理する。
【0073】
この熱プラズマ110の照射は、上述した図2に示される熱プラズマ発生装置を用いて行うことができる。この場合、被処理基板は、本実施形態のガラス基板101であり、熱処理される薄膜層は発光層104である。そして、その熱処理方法も「解決手段」の欄にて述べたものと同様にできる。
【0074】
熱プラズマ流を用いた熱処理の具体的な条件について説明する。噴出孔304(図2参照)を直径3mm、プラズマ放電の直流電圧は12〜14V、放電電流は140A、Ar流量を毎分5リットル、プラズマ源400(図2参照)と処理基板101との距離を3mmとした。
【0075】
そして、基板101とプラズマ源400の相対的移動速度(つまり、図2中の矢印Y方向への基板101の移動速度)が700mm/secから1800mm/secの条件下において薄膜104の熱処理を行った。
【0076】
このような条件下では、発光層104の輝度向上が見られたが、700mm/sec以下の移動速度では、ガラス基板101への熱的ダメージにより表面荒れが発生したため、発光層104からの発光が起こらなかった。
【0077】
また、図3は、図2に示される熱プラズマ発生装置を用いた熱処理方法を模式的に示す図である。
【0078】
大面積の基板101において熱プラズマによる熱処理の均一性を高めるために、図3中の矢印Y1、Y2、Y3に示されるように、ガラス基板101上においてプラズマ源400を移動させる。
【0079】
すなわち、プラズマ源400を、まずガラス基板101の長辺方向へスキャン(矢印Y1参照)し熱処理した後、短辺方向へたとえば0.2mm移動し(矢印Y2参照)、再度、長辺方向へ矢印Y1とは逆方向にスキャン(矢印Y3参照)して熱処理するという熱処理法方法を行った。
【0080】
ここで、実際には、基板101の短辺方向へ移動距離bすなわちスキャンピッチbが熱プラズマ流の幅aよりも十分小さいので、熱処理領域をオーバーラップさせながら基板101の全面を処理することによって均一な熱処理が可能となり、結果として、発光層104の輝度の基板101内における均一性を高めることができる。
【0081】
ここでは、熱プラズマの照射条件の一例を示したが、一般的には、発光層104はできるだけ高い温度に長時間さらされるとEL素子100の輝度が高くなるので、ガラス基板101に異常が生じない範囲で条件を設定すればよい。
【0082】
その後、第2絶縁層105を第1絶縁層103と同様の構造と膜厚で成膜し、最後に第2電極106として、第1電極102と同様にしてITO膜を成膜する。これで、EL素子100が完成し、その完成の状態は、図1(b)に示される。
【0083】
なお、本実施形態において、上記例では、絶縁層103、105が2層あるものとして説明したが、EL素子としての機能を果たせば1層でもよい。つまり、上記第1絶縁層103および第2絶縁層105のいずれか一方のみであってもよい。さらには、可能であるならば絶縁層が無いものであってもよい。
【0084】
また、本実施形態において、上記例では、第1電極102、第2電極106をともに透明な材料にて構成し、発光層104の両側から光取り出しを可能とする場合を示したが、光取り出し側と反対側の電極を透明でない金属電極としてもよい。つまり、第1電極102および第2電極106のいずれか一方を金属電極としてもよい。この場合、発光層104の片側から光を取り出すことになる。
【0085】
次に、熱プラズマによる熱処理にて、EL素子100がどのように変化したかを、図4を参照してより具体的に説明する。図4は、本実施形態に係る薄膜EL素子100の印加電圧−輝度特性の一例を示す図である。
【0086】
ここでは、EL素子100は、第1電極102をITO膜とし、第1絶縁層103を160nF/cm2の容量を持ったATO膜とし、発光層104を膜厚が300nmのZnS:Mnとした。
【0087】
この後、噴出孔304を直径3mm、プラズマ放電の放電電流は140A、Ar流量を毎分5リットル、プラズマ源400と処理基板101との距離を3mmとし、基板101とプラズマ源400の相対的移動速度が1600mm/sec、スキャンピッチb(図3参照)を0.2mmの条件下において熱処理を行った。
【0088】
この後、第2電極106となるITO膜を成膜し、240Hz、20μsecのパルスを印加して印加電圧と輝度の関係を測定した。図4において、白四角プロットは、上記熱処理を行った本実施形態の測定結果であり、黒菱形プロットは、熱処理を行わなかった比較例の測定結果である。
【0089】
このように、熱プラズマで発光層104を直接熱処理することで、ガラス基板101を変形させることなく、60V印加時の輝度を22cd/m2から51cd/m2に向上させることができた。
【0090】
次に、発光層104の材料をSrS:Ceに代えた場合において、熱プラズマによる熱処理にて、EL素子100がどのように変化したかを、図5を参照してより具体的に説明する。図5は、発光層104をSrS:Ceとした例における本実施形態の薄膜EL素子100の印加電圧−輝度特性を示す図である。
【0091】
ここでは、EL素子100は、第1電極102をITO膜とし、第1絶縁層103を36nF/cm2の容量を持ったATO膜とし、発光層104を膜厚が1000nmのSrS:Ceとした。
【0092】
この後、噴出孔304を直径4mm、プラズマ放電の放電電流は120A、Ar流量を毎分3リットル、プラズマ源400と処理基板101との距離を3mmとし、基板101とプラズマ源400の相対的移動速度が400mm/sec、スキャンピッチbを0.5mmの条件下において熱処理を行った。
【0093】
この後、第2電極106となるITO膜を成膜し、240Hz、20μsecのパルスを印加して印加電圧と輝度の関係を測定した。図5において、白四角プロットは、本例において上記熱処理を行った実施形態の測定結果であり、黒菱形プロットは、熱処理を行わなかった比較例の測定結果である。
【0094】
このように、熱プラズマで発光層104を直接熱処理することで、本例においては、ガラス基板を変形させることなく、250V印加時の輝度を32cd/m2から44cd/m2に向上させることができた。
【0095】
このように、通常熱処理すれば輝度が向上する発光層材料は、熱プラズマ処理をすることで輝度の向上が期待できる。このような発光層の母体材料としては、ZnS、SrS、CaSが挙げられる。
【0096】
EL素子は、母体材料に含まれる発光中心元素を励起して発光させることになるが、一般的に母体材料の結晶性を高めることが輝度向上のポイントであるので、発光中心材料が何であっても、前記の母体材料を用いれば熱プラズマでEL素子の輝度を向上させることができる。
【0097】
以上述べてきたように、本実施形態によれば、絶縁性基板101上に、第1電極102、発光中心を含む発光層104および第2電極106を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子100の製造方法において、発光層104を成膜した後に、熱プラズマを照射し発光層104を熱処理することを特徴とする製造方法が提供される。
【0098】
それによれば、従来のように、絶縁性基板101全体を加熱するのではなく、熱プラズマを照射することにより、発光層104を局所的に熱処理して輝度向上を図ることができる。
【0099】
そのため、本実施形態によれば、絶縁性基板101を変形させずに、EL素子100の輝度向上を図るための発光層104の熱処理を行えるEL素子の製造方法を提供することができる。そして、本実施形態によれば、比較的高い発光輝度が得られるEL素子100を提供することができる(上記図4、図5参照)。
【0100】
また、本実施形態によれば、上記特徴点を有する本実施形態の製造方法において、発光層104の材料として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むものを用いるEL素子の製造方法が提供される。上述したように、これらの母体材料を採用すれば、熱プラズマ処理をすることで輝度の向上が期待できる。
【0101】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、EL素子の熱プラズマ工程において、発光層の上に絶縁層を成膜した後に熱プラズマを照射するものである。上記第1実施形態との相違点を中心に述べる。
【0102】
図6は、本発明の第2実施形態に係る無機EL素子100の熱プラズマ照射工程と、この工程によって作製されたEL素子100を示す模式的な断面図である。なお、図6(a)は照射工程での断面図を示しており、図6(b)は熱プラズマ照射工程を経て作製されたEL素子100の断面図を示している。
【0103】
図6(b)に示されるように、本実施形態のEL素子100も、上記実施形態と同様に、絶縁性基板であるガラス基板101上に順次、上記薄膜102〜106が積層形成されることによって構成された薄膜EL素子である。
【0104】
本実施形態のEL素子100は、上記第1実施形態と同様に、ガラス基板101上に、第1電極102として光学的に透明であるITO膜をスパッタ法によって形成し、その上に、第1絶縁層103として、Al23/TiO2積層構造膜をALD法によって形成する。
【0105】
次に、第1絶縁層103上に、ZnS:Mnなどからなる発光層104を蒸着法によって形成する。その後、第2絶縁層105を第1絶縁層103と同様の構造と膜厚で成膜する。
【0106】
ここまでの状態が、図6(a)に示される構成であり、本実施形態では、このように発光層104の上に第2絶縁層105を成膜した状態にてEL素子が作製されるべき場所に熱プラズマ110を照射し発光層104を熱処理する。
【0107】
本実施形態においても、この熱プラズマ110の照射は、上述した図2に示される熱プラズマ発生装置を用いて行うことができる。そして、その熱処理方法は上記実施形態と同様にできる。
【0108】
図6に示されるように、発光層104の上の第2絶縁層105を成膜した後に熱プラズマ110を照射するメリットとして、発光層104の昇華を抑えることができるので、効果的に熱処理することができる。
【0109】
たとえば、発光層104の材料としてZnSを用いれば、1180℃で昇華してしまうが、第2絶縁層105があれば、発光層104の昇華は生じなくなり、より効率的なアニールをすることができる。言い換えれば、実効的な熱処理温度を1180℃以上にすることができる。
【0110】
また、昇華点が無いSrSやCaSにおいては、第2絶縁層105があれば発光層104の冷却効率が低下するので、発光層104を高温により長時間保つことができ、効果がある。また、第2絶縁層105によって発光層104が覆われていれば、熱プラズマ照射の雰囲気いかんにかかわらず、同様の結果を得ることができる。
【0111】
さらに、第2絶縁層105の材料としては、上述したAl23/TiO2積層構造膜であるATO膜が好ましい。このATO膜は緻密であり、熱プラズマによってダメージを受けにくいからである。さらに、製造方法としてALD法を用いれば、より緻密な膜になり好ましい。
【0112】
次に、本実施形態において、熱プラズマによる熱処理にて、EL素子100がどのように変化したかを、図7を参照してより具体的に説明する。図7は、本実施形態に係る薄膜EL素子100の印加電圧−輝度特性の一例を示す図である。
【0113】
ここでは、EL素子100は、第1電極102をITO膜とし、第1絶縁層103を160nF/cm2の容量を持ったATO膜とし、発光層104を膜厚が300nmのZnS:Mnとし、さらに、第2絶縁層105を160nF/cm2の容量を持ったATO膜とした。
【0114】
この後、噴出孔304(図2参照)を直径3mm、プラズマ放電の放電電流は140A、Ar流量を毎分5リットル、プラズマ源400(図2参照)と処理基板101との距離を3mmとし、基板101とプラズマ源400の相対的移動速度が700mm/sec、スキャンピッチb(図3参照)を0.2mmの条件下において熱処理を行った。
【0115】
この後、第2電極106となるITO膜を成膜し、240Hz、20μsecのパルスを印加して印加電圧と輝度の関係を測定した。図7において、白四角プロットは、上記熱処理を行った本実施形態の測定結果であり、黒菱形プロットは、熱処理を行わなかった比較例の測定結果である。
【0116】
このように、本実施形態においても、熱プラズマで発光層104を直接熱処理することで、ガラス基板101を変形させることなく、また第2絶縁層105にダメージを与えることなく、140V印加時の輝度を123cd/m2から166cd/m2に向上させることができた。
【0117】
なお、本実施形態においては、EL素子としての機能を果たせば第1絶縁層103を省略して第2絶縁層105の1層のみでもよい。
【0118】
また、本実施形態の製造方法のように、発光層104の上の絶縁層105上から行う熱プラズマ照射においても、熱処理で効果のある発光層母体材料であるZnS、SrS、CaSを用いれば、熱プラズマ照射の効果が期待できる。
【0119】
以上述べてきたように、本実施形態によれば、絶縁性基板101上に、第1電極102、発光中心を含む発光層104、絶縁層105および第2電極106を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子100の製造方法において、絶縁層105を成膜した後に、熱プラズマを照射し発光層104を熱処理することを特徴とする製造方法が提供される。
【0120】
それによれば、本実施形態においても、上記実施形態と同様、従来のように、絶縁性基板101全体を加熱するのではなく、熱プラズマを照射することにより、発光層104を局所的に熱処理して輝度向上を図ることができる。
【0121】
また、本実施形態の製造方法によれば、上述したように、熱プラズマ照射110による熱処理の際に発光層104が絶縁層105で被覆されているので、発光層104の昇華や冷却効率の低下などを抑制したり、さらには照射雰囲気によらず照射の効果を得ることができるという利点が発揮される。
【0122】
そのため、本実施形態によっても、絶縁性基板101を変形させずに、EL素子100の輝度向上を図るための発光層104の熱処理を行えるEL素子の製造方法を提供することができる。そして、本実施形態によっても、比較的高い発光輝度が得られるEL素子100を提供することができる(図7参照)。
【0123】
また、上述したように、本実施形態のEL素子の製造方法においても、発光層104の材料として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むものを用いることは、特徴点の一つである。
【0124】
さらに、これも上述したが、本実施形態のEL素子の製造方法においては、発光層104の上の絶縁層である第2絶縁層105の材料として、アルミナとチタニアの積層膜であり緻密でダメージを受けにくいATO膜を用いることも特徴の一つである。
【0125】
また、本実施形態においても、上記実施形態と同様、光取り出し側と反対側の電極を透明でない金属電極としてもよい。つまり、第1電極102および第2電極106のいずれか一方を金属電極としてもよい。
【0126】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態に述べられた絶縁性基板101、第1電極102、第1絶縁層103、発光層104、第2絶縁層105及び第2電極106は、一具体例を示したものであり、これらに限定されるものではない。
【0127】
要するに、本発明は、絶縁性基板101上に第1電極102、発光中心を含む発光層104および第2電極106を順次積層し、必要に応じて発光層104と第2電極106との間に第2絶縁層105を介在させるように積層し、少なくとも光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子100において、発光層104に熱プラズマを照射させたことを要部とするものであり、その他の層など、細部の構成については適宜設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜無機EL素子の熱プラズマ照射工程と、この工程によって作製されたEL素子を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明に利用することのできる熱プラズマ発生装置の模式的な構成を示す図である。
【図3】図2に示される熱プラズマ発生装置を用いた熱処理方法を模式的に示す図である。
【図4】上記第1実施形態に係る薄膜EL素子の印加電圧−輝度特性の一例を示す図である。
【図5】上記第1実施形態に係る薄膜EL素子の印加電圧−輝度特性のもう一つの例を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る薄膜無機EL素子の熱プラズマ照射工程と、この工程によって作製されたEL素子を示す模式的な断面図である。
【図7】上記第2実施形態に係る薄膜EL素子の印加電圧−輝度特性の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0129】
100…EL素子、101…絶縁性基板としてのガラス基板、
102…第1電極、103…第1絶縁層、104…発光層、
105…第2絶縁層、106…第2電極、110…熱プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板(101)上に、第1電極(102)、発光中心を含む発光層(104)および第2電極(106)を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子の製造方法において、
前記発光層(104)を成膜した後に、熱プラズマを照射し前記発光層(104)を熱処理することを特徴とするEL素子の製造方法。
【請求項2】
前記発光層(104)の材料として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むものを用いることを特徴とする請求項1に記載のEL素子の製造方法。
【請求項3】
絶縁性基板(101)上に、第1電極(102)、発光中心を含む発光層(104)、絶縁層(105)および第2電極(106)を順次積層してなり、光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成するEL素子の製造方法において、
前記絶縁層(105)を成膜した後に、熱プラズマを照射し前記発光層(104)を熱処理することを特徴とするEL素子の製造方法。
【請求項4】
前記発光層(104)の材料として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むものを用いることを特徴とする請求項3に記載のEL素子の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁層(105)の材料としてアルミナとチタニアの積層膜であるATO膜を用いることを特徴とする請求項3または4に記載のEL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−134742(P2006−134742A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323482(P2004−323482)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】