説明

EL素子の製造方法

【課題】 発光層にレーザを照射することにより輝度を向上させるようにしたEL素子の製造方法において、さらなる輝度の向上を可能にする。
【解決手段】 透明な絶縁性基板1上に透明な第1電極2、第1絶縁層3、発光中心を含む発光層4、第2絶縁層5および透明な第2電極6を順次成膜するとともに、発光層4に320nm以上420nm以下の波長のレーザを照射することにより輝度を向上させるようにしたEL素子の製造方法であって、第1電極2としてその厚さ方向に貫通する貫通穴2aを有するものを形成し、その上に第1絶縁層3、発光層4、第2絶縁層5まで形成した後に、発光層4へのレーザ照射を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層にレーザを照射して輝度向上を図るようにしたEL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、EL素子は、ガラスなどの透明な絶縁性基板上に透明な第1電極、第1絶縁層、発光中心を含む発光層、第2絶縁層および透明な第2電極を順次成膜することにより製造される。
【0003】
このようなEL素子においては、輝度の向上を図るために、発光層にレーザを照射することにより輝度を向上させるようにした製造方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−224777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、EL素子においては、さらなる輝度の向上が要望されており、レーザ照射による輝度向上を図る場合においても、効率的に輝度を向上可能な方法が必要となってくる。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、発光層にレーザを照射することにより発光層をアニールし、輝度を向上させるようにしたEL素子の製造方法において、さらなる輝度の向上を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、鋭意検討を行った。まず、発光層に照射するレーザの波長としては、320nm〜420nmとした。EL素子を構成する膜において、発光層も含めて第1絶縁層〜第2電極までの4膜は、可視光域でほぼ透明な材料で構成されているため、420nm以上の波長の光は発光層に吸収されず、輝度向上効果が得られない。
【0007】
また、320nm以下の波長では、絶縁性基板を含めて発光層を挟み込む各膜材料がほぼ100%、レーザを吸収するため、発光層までレーザが到達せず輝度向上効果が得られない。また、発光層以外の膜がレーザを吸収して、たとえば絶縁層の膜質変化などを引き起こす。そのため、前提として。発光層に照射するレーザの波長としては、320nm〜420nmとした。
【0008】
そして、このような波長のレーザを輝度をさらに向上させるためには、第1電極に貫通穴を設ければ、貫通穴の部分がその周囲よりも強い発光を生じることが、顕微鏡観察の結果、わかった。本発明は、このような検討結果に基づいて、実験的に見出されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、第1電極(2)としてその厚さ方向に貫通する貫通穴(2a)を有するものを形成し、その上に第1絶縁層(3)、発光層(4)、第2絶縁層(5)まで形成した後に、発光層(4)へのレーザ照射を行うことを特徴とする。
【0010】
それによれば、第1電極(2)に厚さ方向に貫通する貫通穴(2a)を形成し、その上に第2絶縁層(5)まで形成した後に、発光層(4)へのレーザ照射を行うことにより、後述する図2に示されるように、さらなる輝度の向上が可能となる。
【0011】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るEL素子100の概略構成を示す図である。この図1において(a)は電極構成を示す平面図であり、(b)は(a)中のA−A線に沿った概略断面図である。なお、図1(a)においては、識別容易化のため便宜上、第1電極2、第2電極6にハッチングを施してある。
【0013】
このEL素子100は、透明な絶縁性基板1を有しており、この絶縁性基板1の上に、通常のEL素子に用いられる材質からなる透明な第1電極2、第1絶縁層3、発光中心を含む発光層4、第2絶縁層5および透明な第2電極6が、順次積層されて構成されている。
【0014】
絶縁性基板1は無アルカリガラスや低アルカリガラスなどのガラスや透明な樹脂などからなるが、本例ではガラス基板1である。第1電極2は、ITO(インジウムチンオキサイド)やIZOなどの透明導電膜からなるもので、本例ではたとえば厚さ100nm程度のITO膜からなる。
【0015】
第1絶縁層3および第2絶縁層5は、シリコン酸化膜などの一般的な絶縁膜を採用できるが、酸化チタン膜と酸化チタン膜以外の金属酸化膜を積層した膜からなるものを採用することもできる。
【0016】
そのような積層膜としては、Al23層とTiO2層の積層膜であるATO膜が挙げられる。このATO膜は、Al23層の原料としてAlCl3およびH2Oを用いTiO2層の原料としてTiCl4およびH2Oを用いて、ALD(原子層成長法)により成膜することができる。
【0017】
本例では、各絶縁層3、5としてATO膜を採用しており、その膜構成は、たとえば、Al23層とTiO2層とも、1層当たりの厚さを5nmとし、それぞれ6層積層した構造とすることができる。
【0018】
また、各絶縁層3、5としては、このATO膜におけるAl23層の代わりに該Al23層より誘電率の大きなHfO2層やZrO2層を用いたものが挙げられる。これらについては、おのおの原料ガスとしてHfCl4やZrCl4を用いれば成膜できる。膜厚の設定は上述したAl23層と同様に考えればよい。ただし、これらのものは誘電率が大きいため、容量を同じにすれば積層数を多くできるので、耐圧を高くし信頼性を向上させることができる。
【0019】
発光層4は、ZnS、SrSやCaSを母体材料とし、発光中心としてMnなどを添加した一般的なものを採用でき、その膜厚としては50nm〜400nmであることが好ましい。本例では、発光層4は、ZnS:Mnからなるものである。
【0020】
また、第2電極6は、第1電極2と同様に、ITOやIZOなどの透明導電膜からなるもので、本例では、第1電極2と同様に、たとえば厚さ100nm程度のITO膜からなる。
【0021】
ここで、本EL素子100においては、第1電極2および第2電極6は、互いに直交するストライプ形状に形成されており、第1電極2と第2電極6の交点に所定の電圧が印加されると、その部分が発光する。
【0022】
ここで、本実施形態では、第1電極2には、その厚さ方向に貫通する貫通穴2aが形成されている。この貫通穴2aの数や形状は、特に限定するものではないが、本例では、ストライプ状をなす第1電極2の延びる方向に、複数個のストライプ状の貫通穴2aが形成されている。
【0023】
ここでは、複数個の貫通穴2aにおける個々の貫通穴2aの幅sと、配列のピッチlとは、おおよそ等しく、s=l=10μm程度である。もちろん、幅sとピッチlとは異なる寸法であってもよい。このような貫通穴2aは、第1電極2を形成するときのフォトリソグラフ工程において同時にパターニングすることで形成可能である。
【0024】
次に、本実施形態のEL素子100の製造方法について述べる。
【0025】
具体的には、絶縁性基板1の上に、スパッタやフォトリトグラフ技術を用いてITOからなり上記貫通穴2a有する第1電極2を形成し、その上に、ALD法によりATO膜からなる第1絶縁層3を形成し、続いて、蒸着法によりZnS:Mnからなる発光層4を形成し、その上に、第1絶縁層3と同様にして第2絶縁層5を形成し、さらに、第1電極2と同様に第2電極6を形成する。
【0026】
ここにおいて、第2絶縁層5を成膜した後に、320nm以上420nm以下の波長のレーザを発光層4に照射する。この場合、第2絶縁層5の成膜後であれば、第2電極6の成膜前でも成膜後でもよい。また、レーザ照射は、絶縁性基板1側からでも第2絶縁層5側からでもどちらでもよい。
【0027】
次に、第1電極2に貫通穴2aを設けた場合に、上記波長のレーザを照射したときに、どのように輝度特性が変化するかを説明する。
【0028】
図2は、本実施形態の製造方法によって作製されたEL素子100の電圧−輝度特性を示す図である。
【0029】
ここでは、第1電極2と第2電極6にITO膜を用い、第1絶縁層3と第2絶縁層5には厚さ180nmのATO膜を用い、発光層4には厚さ300nmのZnS:Mn膜を用いた。
【0030】
図2において、曲線21は、第1電極2において上記幅s、ピッチ1が各々l=s=10μmのストライプ状である貫通穴2aを形成し、第2電極6を形成した後に、波長が355nm、発振周波数80MHz、フルエンス5.2μJ/cm2のレーザを30秒照射した後の電圧―輝度特性である。
【0031】
1cd/m2の輝度になる電圧をVthとし、このVthよりも20V高い電圧をEL素子100に印加したときの輝度をL20と定義すると、本実施形態のEL素子の特性を示す曲線21においては、Vth:58.4V、L20:1309cd/m2となった。なお、輝度計はφ0.5mmで測定しており、この輝度は、貫通穴2aも含めた第1電極2の全体の輝度を示している。
【0032】
なお、図2において、曲線22、23は比較例であり、曲線22は、第1電極2に貫通穴を設けない場合に、上記曲線21のものと同様の条件でレーザを照射した場合の電圧―輝度特性である。このとき、Vth:60.8V、L20:702cd/m2であった。
【0033】
また、曲線23は、曲線22のEL素子構造と同等であってレーザを照射していない場合の特性で、Vth:70.4V、L20:120cd/m2である。いずれの曲線21〜23の場合も、輝度測定には240Hzの正弦波を用いた。
【0034】
この図2に示されるように、第1電極2に貫通穴2aを形成した本実施形態のEL素子100は、貫通穴を設けないものに比べて、輝度が高くなっていることがわかる。
【0035】
このように、第1電極2に貫通穴2aを設けると輝度が高くなる理由としては、詳細は不明であるが、本発明者が顕微鏡により微視的な観察を行ったところ、第1電極2において、貫通穴2aの開口縁部から貫通穴2aの部分が、それ以外の部分に比べて発光が強く輝度が大きくなっていることが確認された。
【0036】
このようにレーザ照射を行った場合に、貫通穴2aの部分にて輝度が向上することで、全体として輝度が向上していると考えられる。ただし、これも、メカニズムは不明であるが、第1電極2に貫通穴2aを形成しても、レーザ照射を行わないEL素子においては、輝度向上はみられず、かえって、貫通穴によって第1電極2の面積が減少した分、輝度が低下した。
【0037】
上記したレーザ照射を行う本実施形態の製造方法において、第1電極2に貫通穴2aを形成した場合に輝度が向上することは、最高電圧を印加したときの輝度が高くなるのではなく、貫通穴2aの部分の輝度が大きくなった分、発光の減衰が小さいことが原因であると考えられる。
【0038】
そこで、印加電圧によって、発光波形がどのように変化するかを調べた。図3は、印加電圧と発光波形との関係を示す図である。
【0039】
図3において、印加電圧波形は曲線30で示す。また、曲線31は、第1電極2において、l=s=10μmにてストライプ状に貫通穴2aを形成した本実施形態の発光波形の例であり、曲線32は第1電極2に貫通穴を設けない比較例としての発光波形である。本実施形態では、比較例に比べて、発光の減衰が小さくなっていることが確認された。
【0040】
次に、第1電極2に形成する貫通穴2aの幅sを変えて輝度変化を調べた。その結果を、図4に示す。ここでは、貫通穴2aの幅sとピッチlとがs=lの場合に、これら幅sおよびピッチlの大きさを変えて、輝度の変化を調べた。
【0041】
このときのサンプルは、上記図2の曲線21におけるEL素子において幅sおよびピッチlの大きさを変えたものとした。また、レーザは、波長が355nm、発振周波数が50kHz、フルエンス59mJ/cm2で5.6msec照射した。そして、輝度測定は240Hzの正弦波で行った。
【0042】
図4に示されるように、貫通穴2aの幅sとピッチlが小さくなるにつれて、輝度の向上が見られる。なお、貫通穴2aの幅sが100μmよりも大きくなると、貫通穴2aが人間の目で見えるようになるので、100μm以下程度が好ましい。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、第1電極2としてその厚さ方向に貫通する貫通穴2aを有するものを形成し、その上に第1絶縁層3、発光層4、第2絶縁層5まで形成した後に、発光層4へ320nm以上420nm以下の波長のレーザ照射を行うことにより、さらなる輝度の向上が可能となる。
【0044】
また、第1絶縁層3および第2絶縁層5としては、酸化チタン膜と酸化チタン以外の金属酸化膜の積層膜からなることが好ましい。この理由について、説明する。まず、EL素子は、矩形波で発光するために、その対称性が輝度向上に影響を与えるので、これらの2つの絶縁層3、5は同一構造であることが望ましい。
【0045】
また、レーザが照射されたEL素子100は、直流電圧成分によっても発光が生じるために、できるだけ直流耐圧が優れている絶縁膜が望ましい。さらに、発光層4がレーザーによってアニールされても、クラックが生じにくい膜が望まれる。そのような絶縁層3、5として、上記した積層膜が好ましい。
【0046】
また、発光層4の材料としては、ZnS以外にも、SrSやCaSについても、上記図3と同様の傾向が得られており、これらの発光層材料についても、本実施形態の製造方法は効果がある。
【0047】
また、上記図1では、第1電極2にストライプ状の貫通穴2aが形成されている例を示したが、この貫通穴は格子状に開口されていてもよいし、円状や多角形の穴として形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係るEL素子の概略構成を示す図である。
【図2】上記実施形態のEL素子の電圧−輝度特性を示す図である。
【図3】印加電圧と発光波形との関係を示す図である。
【図4】第1電極に形成する貫通穴の幅と輝度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1…絶縁性基板、2…第1電極、2a…貫通穴、3…第1絶縁層、4…発光層、
5…第2絶縁層、6…第2電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な絶縁性基板(1)上に透明な第1電極(2)、第1絶縁層(3)、発光中心を含む発光層(4)、第2絶縁層(5)および透明な第2電極(6)を順次成膜するとともに、前記発光層(4)に320nm以上420nm以下の波長のレーザを照射することにより輝度を向上させるようにしたEL素子の製造方法であって、
前記第1電極(2)としてその厚さ方向に貫通する貫通穴(2a)を有するものを形成し、その上に前記第1絶縁層(3)、前記発光層(4)、前記第2絶縁層(5)まで形成した後に、前記発光層(4)へのレーザ照射を行うことを特徴とするEL素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1および第2絶縁層(3、5)は、酸化チタン膜と前記酸化チタン膜以外の金属酸化膜を積層した膜からなるものであることを特徴とする請求項1に記載のEL素子の製造方法。
【請求項3】
前記発光層(4)は、少なくともZnS、SrS、CaSのうちのいずれか1つを母体材料として含むものであることを特徴とする請求項1または2に記載のEL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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