FM復調回路
【課題】 高い精度のf−V線形性を達成でき、さらにデバイス、温度、電源変動に対して耐性の高いFM復調回路を提供する。
【解決手段】 入力するFM信号のエッジを検出して正相および逆相の信号を出力する差動遅延回路1および差動AND回路2と、差動AND回路2から出力する逆相出力信号cnを逆相入力信号として入力とする差動アンプ3と、該差動アンプ3の正相入力信号としてのレファレンス電圧dpを出力するレファレンス電圧発生回路4とを備え、該レファレンス電圧dpは、差動AND回路2のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力レベルの変動と同様に変化する電圧であるようにした。
【解決手段】 入力するFM信号のエッジを検出して正相および逆相の信号を出力する差動遅延回路1および差動AND回路2と、差動AND回路2から出力する逆相出力信号cnを逆相入力信号として入力とする差動アンプ3と、該差動アンプ3の正相入力信号としてのレファレンス電圧dpを出力するレファレンス電圧発生回路4とを備え、該レファレンス電圧dpは、差動AND回路2のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力レベルの変動と同様に変化する電圧であるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度に動作する広周波数帯域なFM復調回路に関するものであり、特に、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動に対して耐性の高いFM復調回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のFM復調回路の例を図7に示す(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。従来のFM復調回路は、入力FM信号の正相信号INPと逆相信号INNを入力する差動遅延回路1、差動AND回路2、差動AND回路2から出力する正相信号cpと逆相信号cnを入力する差動アンプ3からなる。O3PはFM復調回路の正相出力信号、O3Nは逆相出力信号である。FM復調出力信号は、実際には、正相出力信号O3Pをローパスフィルタ(図示せず)に入力して得られる。
【0003】
従来のFM復調回路の接続を説明する。正相入力信号INPと逆相入力信号INNは、差動遅延回路1の差動入力信号となり、および差動AND回路2の第1の正相入力信号apと第1の逆相入力信号anとなる。差動遅延回路1の差動出力信号は、差動AND回路2の第2の正相入力信号bpと第2の逆相入力信号bnとなる。差動AND回路2の正相出力信号cpと逆相出力信号cnは、差動アンプ3の差動入力信号となる。差動アンプ3の差動出力信号は、正相出力信号O3Pと反転出力信号O3Nである。
【0004】
従来のFM復調回路の動作を、図8を用いて説明する。FM復調回路は、FM信号の正相入力信号INPと逆相入力信号INNを入力する。図8の信号INP,INNでは、FM信号の基本波である周波数fのサイン波がアンプにより周波数fのクロックに波形整形された後の状態を示した。この信号INP,INNは、差動遅延回路1により、ともに遅延時間τだけ遅される。差動AND回路2の第1の入力信号ap,anとして遅延前の信号INP,INNが入力し、第2の入力信号bp,bnとして差動遅延回路1により信号INP,INNを遅延した信号が入力される。この第1と第2の入力信号に対してAND論理がとられることにより、入力信号INPがローからハイに立ち上がる時間にパルスが発生する。つまり、この差動遅延回路1と差動AND回路2は、差動エッジ検出手段を構成している。差動AND回路2から出力するパルスの正相信号cpと逆相信号cnは、差動遅延回路1の遅延時間τ程度のパルス幅を持つ。発生したパルスは、差動アンプ3に入力して増幅され、出力信号O3P,O3Nとして出力される。
【0005】
正相出力信号O3Pは、図7には非表示のローパスフィルタにより、時間積分されてFM復調回路の出力電圧Voとなる。すなわち、正相出力信号O3Pのパルス幅の時間だけ、電荷がローパスフィルタの容量に蓄積され、電圧Voとして出力される。入力するクロックの周波数fが高ければ、単位時間あたりのパルス数が多くなるため出力電位Voは高くなり、入力するクロックの周波数fが低ければ、単位時間あたりのパルス数が少なくなるため出力電位Voは低くなる。
【0006】
よって、入力した信号周波数fの高低が出力電圧の高低に変換されて、FM信号がAM信号に復調される。ここで、入力信号の周波数fの広い範囲にわたって、その周波数fの増減に対して、出力する電位Voの増減が高い精度で比例する(f−V特性の線形性と呼ぶ)ことが、少ない歪でFM復調を行うために必須である。図8に示した正相出力信号O3Pのパルス面積が、広い周波数に渡って不変であり、かつ、出力パルス以外の信号箇所に現れるノイズが小さい場合に、f−V特性の良好な線形性が達成される。
【0007】
【特許文献1】特開2000−368542号公報
【非特許文献1】広瀬、岸根、石原、赤沢、菊島、岸本、雲崎 著、「AM/FM一括変換による光映像伝送用高利得、広帯域FM復調IC」、電子情報通信学会技術報告 CAS96−115、1997年3月、111−117頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のFM復調回路の問題点は、差動AND回路2の正相出力信号cpと逆相出力信号cnの両方で発生するパルス幅の誤差とノイズを、差動アンプ3に入力するため、f−V特性の高精度な線形性が得られないことである。このことにより、広い入力周波数領域に渡る歪の少ないFM復調特性が得られない。
【0009】
さらに、回路を構成するトランジスタの特性(飽和電流値)が製造ロットのバラツキ等により劣化すると、f−V特性の線形性がさらに劣化する問題がある。図8の差動AND回路2の出力信号cp,cnに一点鎖線で示すごとく、トランジスタ特性等が低下するとパルスの波高値が小さくなるが、ノイズの波高値の低下は少ない。このため、周波数fの増減に比例する波形面積の増減に対して、ノイズ波形の面積が相対的に増える。このことにより、入力信号の周波数fに対する出力電圧Vbの線形性が崩れる。
【0010】
差動AND回路2は、図9にMOSトランジスタM11〜M19と抵抗Ra,Rbと電流源I1〜I3により構成した例で示すごとく、正相出力信号cpを生成する回路構成と逆相出力信号cnを生成する回路構成に対称性がない。したがって、正相出力信号cpと逆相出力信号cnの応答特性(第1の入力信号ap,anと第2の入力信号bp,bnの遅延差τに対して出力パルス幅がその遅延差τと異なることが生じる)やパルス以外の部分でのノイズ波高値が異なる。差動アンプ3の出力は、正相入力信号cpあるいは逆相入力信号cnのパルス幅が広い方の入力の影響を受けて、パルス幅が遅延差τより広がるばかりでなく、正相入力信号cpおよび逆相入力信号cnの双方に現れるノイズを出力する。このように出力信号のパルス幅が広がると、入力周波数fが高い場合に、隣接するパルス同士の裾の部分が重なり、パルス波形の面積が低周波の場合より小さくなる。
【0011】
また、出力信号に重畳されたノイズは、次のパルスとの位相関係により、パルスの波高値に変化を及ぼす。これらの出力パルス信号の幅および波高値の周波数ごとの変化は、入力信号の周波数fに依存して出力パルスの面積を変化させ、出力する電圧Voの周波数fに対する線形性を損なう。
【0012】
よって、従来のFM復調回路は、広い周波数領域に渡って高精度なf−V線形性を達成することが出来ない問題があった。そして、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等がばらつくと、入力信号の周波数に対する出力電圧Voの線形性がさらに悪化する問題があった。
【0013】
本発明の目的は、上記点に鑑みて、高い精度のf−V線形性を達成でき、さらにトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動に対して耐性の高いFM復調回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1にかかる発明のFM復調回路は、入力するFM信号のエッジを検出して正相および逆相の信号を出力する差動エッジ検出手段と、該差動エッジ検出手段から出力する正相および逆相の一方の出力信号を正相および逆相の一方の入力信号とする差動増幅手段と、該差動増幅手段の正相および逆相の他方の入力としてのレファレンス電圧を出力するレファレンス電圧発生回路とを備え、該レファレンス電圧発生回路は、前記差動エッジ検出手段から出力し前記差動増幅手段に入力する信号のハイレベルとローレベルの中間電位で、且つ前記差動エッジ検出手段のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力レベルの変動と同様に変動するレファレンス電圧を出力することを特徴とする。
。
【0015】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のFM復調回路において、前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動AND回路からなり、前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動AND回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動AND回路と、該第2の差動AND回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とする。
【0016】
請求項3にかかる発明は、請求項1に記載のFM復調回路において、前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動EXOR回路からなり、前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動EXOR回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動EXOR回路と、該第2の差動EXOR回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、差動エッジ検出手段の正相、逆相の出力のうち、応答特性が良好でかつ低ノイズである一方の出力だけを用いることで、入力信号周波数fが高くなることにともなう差動増幅手段の出力パルスのパルス幅の増減を抑制でき、また、差動増幅手段の出力に現れるノイズを低減できる。このことにより、広い周波数帯域に渡って差動アンプの出力パルスの面積が適正に維持され、高い精度のf−V線形性を達成できる。よって、広い周波数帯域に渡って低歪なFM復調回路を提供できる効果がある。
【0018】
また、差動増幅手段に与えるレファレンス電圧を、差動エッジ検出手段のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力変動と同様に変動するよう設定することで、差動増幅手段の出力パルス幅の変動を抑制することができる。このことにより、プロセス変動、電源変動、温度変動等に対して耐性の高いFM復調回路を実現できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のFM復調回路は、差動エッジ検出手段の出力段としての差動AND回路の正相、逆相の出力端子のうち、応答特性が良好でかつ低ノイズな一方の出力だけを差動アンプの一方の入力端子に接続する。差動アンプの他方の入力端子には、差動AND回路の出力信号のプロセス変動、電源変動、温度変動等による変動と同様に変動するレファレンス電圧を供給する構成とする。
【0020】
このように、本発明は、背景技術において述べた従来FM復調回路(図7)の差動AND回路の出力信号の一方を、差動アンプに入力せず、その差動アンプの当該入力には、プロセス変動、電源変動、温度変動等による差動AND回路の出力信号の電位変動と同様に変動するレファレンス電位を与えたことが従来と異なる。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1のFM復調回路を図1を用いて説明する。実施例1のFM復調回路は、FM信号の正相入力信号INPと逆相入力信号INNを入力する差動遅延回路1、差動AND回路2、レファレンス電圧発生回路4、レファレンス電圧出力および差動AND回路2の逆相出力信号cnを入力とする差動アンプ3からなる。O1PはFM復調回路の正相出力信号、O1Nはその逆相出力信号である。FM復調出力は、実際には、正相出力信号O1Pをローパスフィルタ(図示せず)に入力することにより得られる。請求項との関連では、差動遅延回路1と差動AND回路2が差動エッジ検出手段を構成する。
【0022】
実施例1のFM復調回路の接続を説明する。正相入力信号INPと逆相入力信号INNは、差動遅延回路1の差動入力信号となり、および差動AND回路2の第1の正相入力信号apと第1の逆相入力信号anとなる。差動遅延回路1の差動出力信号は、差動AND回路2の第2の正相入力信号bpと第2の逆相入力信号bnとなる。差動AND回路2の正相出力信号cpは何処にも接続せず、差動AND回路2の逆相出力信号cnを差動アンプ3の逆相入力信号とする。レファレンス電圧発生回路4の出力は、差動アンプ3の正相入力信号dpとなる。差動アンプ3の出力信号は、正相出力信号O1Pと反転出力信号O1Nである。
【0023】
レファレンス電圧発生回路4の構成を説明する。レファレンス電圧発生回路4は、信号レベル発生回路41、差動AND回路40、レベル平均回路42からなる。ここで差動AND回路40は、差動AND回路2と同形式の回路である。信号レベル発生回路41の正相出力信号は、例えば、差動AND回路40の第1および第2の正相入力信号として入力させ、信号レベル発生回路41の逆相出力信号は、例えば、差動AND回路40の第1および第2の逆相入力信号として入力させる。差動AND回路40の正相出力信号は、レベル平均回路42の正相入力信号として、差動AND回路40の逆相出力信号は、レベル平均回路42の逆相入力信号として、それぞれ入力させる。
【0024】
実施例1のFM復調回路の動作を、図2を用いて説明する。FM復調回路は、入力FM信号の正相入力信号INPと逆相入力信号INNを入力する。図2では、FM信号の基本波である周波数fのサイン波がアンプにより周波数fのクロックに波形整形された後の状態を示した。この信号INP,INNは、差動遅延回路1により、ともに遅延時間τだけ遅延する。差動AND回路2の第1の入力信号ap,anとして遅延前の信号INP,INNを入力し、第2の入力信号bp,bnとして信号INP,INNを遅延した信号を入力する。この第1と第2の入力に対してAND論理をとることにより、入力信号INPがローからハイに立ち上がる時間にパルス信号が発生する。このパルス信号は、差動遅延回路1の遅延時間τ程度のパルス幅を持つ。発生したパルス信号は、差動AND回路2の逆相出力信号cnとして差動アンプ3に入力する。差動アンプ3では、レファレンス電圧発生回路4の出力信号dpの電位をレファレンスとして信号cnのハイ、ロー判定を行い、その結果を増幅して、出力信号O1P,O1Nとして出力する。
【0025】
正相出力信号O1Pは、図1には非表示のローパスフィルタにより、時間積分されてFM復調回路の出力となる。すなわち、出力信号O1Pのパルス幅の時間だけ電荷が容量に蓄積され、電位Voとして出力される。入力する信号INP,INNの周波数fが高ければ、単位時間あたりのパルス数が多くなる分、出力電位Voは高くなり、入力する信号INP,INNの周波数fが低ければ、単位時間あたりのパルス数が少なくなる分、出力電位Voは低くなる。よって、FM信号の周波数の高低が電位の高低に変換されて、FM信号がAM信号に復調される。
【0026】
ここで、図2に示すごとく、差動アンプ3の出力は、差動AND回路2の応答特性が悪くかつ正相出力cpに大きなノイズの現れる場合であっても、その正相出力cpの影響を受けない。よって、出力信号O1Pのパルス幅は遅延回路1の遅延時間τに近い細い幅を維持し、かつパルス以外のレベルでのノイズも少ない。図2に示した出力信号O1Pの出力パルス面積が、広い周波数に渡って変わらず、かつ、出力パルス以外の信号箇所に現れるノイズが小さいため、入力FM信号の高い周波数までf−V特性の良好な線形性が得られる。したがって、FM復調回路に入力するFM信号の周波数fの広い範囲にわたって、少ない歪でFM復調を行うことが可能となる。
【0027】
また、信号レベル発生回路41は、差動AND回路2の入力信号のハイレベルとローレベルを出力する。このことにより差動AND回路40は、差動AND回路2の出力信号のハイレベルとローレベルと同じレベルを出力する。レベル平均回路42においてそのハイレベルとローレベルの中間の電位を作り、レファレンス電圧発生回路4の出力信号dpとして出力する。ここで、差動AND回路2と差動AND回路40は同形式の回路であることからレファレンス電圧dpは、差動AND回路2の逆相出力信号cnの中間の電圧になる。
【0028】
図2では、差動AND回路2の逆相出力信号cnの波高値が、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等によって減少した場合を一点鎖線で示している。この変動に対して、回路構成の類似性から、差動AND回路40の出力も同様に変動し、その平均値であるレファレンス電圧も2点鎖線に示すdp’のごとく同様に変動する。よって、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等が生じても、レファレンス電圧dpは、差動AND回路40の出力パルスのほぼ半分の高さに位置する。したがって、差動アンプ3の出力信号O1P,O1Nのパルス幅の変動を抑制することができる。
【0029】
図3(a),(b)に、実施例1のFM復調回路の効果をシミュレーションにより従来回路と比較した結果を示す。横軸は入力FM信号の周波数、縦軸は周波数に比例して出力されるべき電圧と実際に出力された電圧との誤差(f−V線形性からのズレ)を表している。実施例1によると、入力FM信号の周波数が1GHzから4GHzまでの間で、出力電圧の誤差を従来の2分の1程度に低減することが出来る。
【0030】
さらに、図3の(a),(b)では、トランジスタ特性が標準状態の場合の回路特性を実線で、トランジスタの電流が少なく出来上がった場合(酸化膜厚とゲート長が標準の10%増し、ゲート幅が10%減の場合)の回路特性を点線で示した。従来例の(b)では、トランジスタの特性変動によりf−V直線からのずれが2倍近くになる。これと比較して、実施例1の(a)では、1GHzから4GHzまでの間で、トランジスタの特性変動によるずれ量の増加は見られない。したがって、実施例1によると、トランジスタ特性の変動によるFM復調回路の歪特性を格段に改善できる効果があることがわかる。
【0031】
図3ではトランジスタ変動に対する効果を例示したが、差動AND回路2,40を同種の回路で構成したことにより、差動AND回路2の逆相出力信号cnとレファレンス電圧dpをトランジスタ、抵抗、温度、電源電圧等の変動に対して同程度に上下させることができ、抵抗、温度、電源電圧等の変動に対しても、FM復調回路の歪特性を改善できる効果がある。
【0032】
図4に、レファレンス電圧発生回路4の回路例を示す。本回路例では、信号レベル発生回路41は、(図1のFM復調回路前段の差動アンプと同形の回路である)差動アンプ411と、その差動アンプ411にハイレベル、ローレベル入力を与える抵抗R1,R2,R3からなる。抵抗R1と抵抗R2,R3の比((R1+R2)/(R1+R2+R3))により電源電圧を分割することにより差動アンプのハイレベル入力電位を作る。抵抗R1,R2と抵抗R3の比(R3/(R1+R2+R3))により電源電圧を分割することにより差動アンプのローレベル入力電位を作る。このとき、差動アンプ411の正相出力の電圧と逆相出力の電圧が、図1に示した入力信号INPとINNのハイレベルとローレベルに一致するように、抵抗R1,R2,R3の抵抗値を設定する。
【0033】
差動AND回路40の正相入力には差動アンプ411の正相出力信号を、差動AND回路40の逆相入力には差動アンプ411の逆相出力信号を接続する。このことにより、差動AND回路40は、図1に示した差動AND回路2の出力電圧にほぼ等しいハイレベルとローレベルを出力する。
【0034】
レベル平均回路42は、抵抗R4とR5の縦列接続で構成し、一端を差動AND回路40の正相出力、他端を逆相出力に接続する。抵抗R4とR5の抵抗値は、レベル平均回路42の出力が、差動AND回路2の逆相出力信号cnのパルスのほぼ半分のレベルに位置する電位になるように設定する。
【0035】
以上の構成により、差動AND回路40は、差動AND回路2と同形の回路あり、その入力電圧も等しく、また、出力電圧も差動AND回路4にほぼ等しい。よって、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧、温度等の変動に対してハイレベルとローレベルは同程度に変動する。したがって、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧、温度等が変動してもレファレンス電圧発生回路4は、差動AND回路2の逆相出力信号cnのパルスのほぼ半分のレベルのレファレンス電圧dpを出力する。
【実施例2】
【0036】
本発明の実施例2のFM復調回路を、図5を用いて説明する。実施例2は、実施例1の差動AND回路3を差動EXOR回路5に置き換えた回路である。請求項との関連では、差動遅延回路1と差動EXOR回路5が差動エッジ検出手段を構成する。ここでも、実施例1と同様に差動EXOR回路5の正相出力epはオープン状態とし、逆相出力信号enだけを差動アンプ3の逆相側入力に接続する。レファレンス電圧発生回路6は、信号レベル発生回路61、差動EXOR回路60、レベル平均回路62からなる。ここで差動EXOR回路60は、差動EXOR回路5と同形式の回路である。
【0037】
図6に示すように、差動EXOR回路5は、第1の入力信号ap,anと第2の入力信号bp,bnを入力として、第1の正相入力信号apの立ち上がり時および立ち下がり時にパルスを出力する。パルスの時間幅は、第1の入力信号ap,anと第2の入力信号bp,bnの間の時間τにほぼ等しい。差動EXOR回路の逆相出力信号enを図2の逆相出力信号cnと比較すれば明らかなように、同一の入力FM信号の周波数fに対して、単位時間当たりのパルスの数は2倍になる。
【0038】
よって、差動EXOR回路を使用するFM復調回路は、周波数fを電圧Vに変換する際の傾きに相当する変換ゲインを2倍に出来る。しかし一方で、隣接するパルスの時間間隔が約半分になることから、入力信号の周波数fが高くなると、隣接パルスの裾の重なりが生じて、f−V特性の線形性が急激に劣化する問題が生じる。しかし、実施例2によると、差動EXOR回路5の正相出力信号epと逆相出力信号enのうち、パルス幅が狭く、ノイズの少ない出力を選択して出力できるメリットがある。そして、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等が生じてもレファレンス電圧dpは、差動EXOR回路5の出力パルスのほぼ半分の高さに位置する。したがって、差動アンプ3の出力信号O2P,O2Nのパルス幅の変動を抑制することができる。
【0039】
これら2つの効果により、変換ゲインの大きな差動EXOR回路型のFM復調回路において、特に信号周波数fの高い領域まで、低歪な変換特性を達成出来るメリットを有し、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等が生じても低歪な変換を維持できるメリットがある。
【0040】
なお、差動AND回路2の構成例として、図9では、MOSトランジスタを使用する場合を示したが、バイポーラトランジスタやMESFET等の異なるデバイスを使用しても同様の効果が得られる。また、差動AND回路や差動EXOR回路の前段や後段のアンプの段数等を変更してFM復調回路を構成することは本発明の技術思想の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1のFM復調回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1のFM復調回路の入出力波形図である。
【図3】本発明の実施例1のFM復調回路(a)と従来のFM復調回路(b)のシミュレーションによるf−V特性図である。
【図4】本発明の実施例1のFM復調回路のレファレンス電圧発生回路の回路図である。
【図5】本発明の実施例2のFM復調回路の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例2のFM復調回路の入出力波形図である
【図7】従来のFM復調回路の構成を示すブロック図である。
【図8】従来のFM復調回路の入出力波形図である。
【図9】FM復調回路に使用される差動AND回路の回路図である。
【符号の説明】
【0042】
1:差動遅延回路
2:差動AND回路
3:差動アンプ
4:レファレンス電圧発生回路、40:差動AND回路、41:信号レベル発生回路、411:差動アンプ、42:レベル平均回路
5:差動EXOR回路
6:レファレンス電圧発生回路、60:差動EXOR回路、61:信号レベル発生回路、62:レベル平均回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度に動作する広周波数帯域なFM復調回路に関するものであり、特に、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動に対して耐性の高いFM復調回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のFM復調回路の例を図7に示す(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。従来のFM復調回路は、入力FM信号の正相信号INPと逆相信号INNを入力する差動遅延回路1、差動AND回路2、差動AND回路2から出力する正相信号cpと逆相信号cnを入力する差動アンプ3からなる。O3PはFM復調回路の正相出力信号、O3Nは逆相出力信号である。FM復調出力信号は、実際には、正相出力信号O3Pをローパスフィルタ(図示せず)に入力して得られる。
【0003】
従来のFM復調回路の接続を説明する。正相入力信号INPと逆相入力信号INNは、差動遅延回路1の差動入力信号となり、および差動AND回路2の第1の正相入力信号apと第1の逆相入力信号anとなる。差動遅延回路1の差動出力信号は、差動AND回路2の第2の正相入力信号bpと第2の逆相入力信号bnとなる。差動AND回路2の正相出力信号cpと逆相出力信号cnは、差動アンプ3の差動入力信号となる。差動アンプ3の差動出力信号は、正相出力信号O3Pと反転出力信号O3Nである。
【0004】
従来のFM復調回路の動作を、図8を用いて説明する。FM復調回路は、FM信号の正相入力信号INPと逆相入力信号INNを入力する。図8の信号INP,INNでは、FM信号の基本波である周波数fのサイン波がアンプにより周波数fのクロックに波形整形された後の状態を示した。この信号INP,INNは、差動遅延回路1により、ともに遅延時間τだけ遅される。差動AND回路2の第1の入力信号ap,anとして遅延前の信号INP,INNが入力し、第2の入力信号bp,bnとして差動遅延回路1により信号INP,INNを遅延した信号が入力される。この第1と第2の入力信号に対してAND論理がとられることにより、入力信号INPがローからハイに立ち上がる時間にパルスが発生する。つまり、この差動遅延回路1と差動AND回路2は、差動エッジ検出手段を構成している。差動AND回路2から出力するパルスの正相信号cpと逆相信号cnは、差動遅延回路1の遅延時間τ程度のパルス幅を持つ。発生したパルスは、差動アンプ3に入力して増幅され、出力信号O3P,O3Nとして出力される。
【0005】
正相出力信号O3Pは、図7には非表示のローパスフィルタにより、時間積分されてFM復調回路の出力電圧Voとなる。すなわち、正相出力信号O3Pのパルス幅の時間だけ、電荷がローパスフィルタの容量に蓄積され、電圧Voとして出力される。入力するクロックの周波数fが高ければ、単位時間あたりのパルス数が多くなるため出力電位Voは高くなり、入力するクロックの周波数fが低ければ、単位時間あたりのパルス数が少なくなるため出力電位Voは低くなる。
【0006】
よって、入力した信号周波数fの高低が出力電圧の高低に変換されて、FM信号がAM信号に復調される。ここで、入力信号の周波数fの広い範囲にわたって、その周波数fの増減に対して、出力する電位Voの増減が高い精度で比例する(f−V特性の線形性と呼ぶ)ことが、少ない歪でFM復調を行うために必須である。図8に示した正相出力信号O3Pのパルス面積が、広い周波数に渡って不変であり、かつ、出力パルス以外の信号箇所に現れるノイズが小さい場合に、f−V特性の良好な線形性が達成される。
【0007】
【特許文献1】特開2000−368542号公報
【非特許文献1】広瀬、岸根、石原、赤沢、菊島、岸本、雲崎 著、「AM/FM一括変換による光映像伝送用高利得、広帯域FM復調IC」、電子情報通信学会技術報告 CAS96−115、1997年3月、111−117頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のFM復調回路の問題点は、差動AND回路2の正相出力信号cpと逆相出力信号cnの両方で発生するパルス幅の誤差とノイズを、差動アンプ3に入力するため、f−V特性の高精度な線形性が得られないことである。このことにより、広い入力周波数領域に渡る歪の少ないFM復調特性が得られない。
【0009】
さらに、回路を構成するトランジスタの特性(飽和電流値)が製造ロットのバラツキ等により劣化すると、f−V特性の線形性がさらに劣化する問題がある。図8の差動AND回路2の出力信号cp,cnに一点鎖線で示すごとく、トランジスタ特性等が低下するとパルスの波高値が小さくなるが、ノイズの波高値の低下は少ない。このため、周波数fの増減に比例する波形面積の増減に対して、ノイズ波形の面積が相対的に増える。このことにより、入力信号の周波数fに対する出力電圧Vbの線形性が崩れる。
【0010】
差動AND回路2は、図9にMOSトランジスタM11〜M19と抵抗Ra,Rbと電流源I1〜I3により構成した例で示すごとく、正相出力信号cpを生成する回路構成と逆相出力信号cnを生成する回路構成に対称性がない。したがって、正相出力信号cpと逆相出力信号cnの応答特性(第1の入力信号ap,anと第2の入力信号bp,bnの遅延差τに対して出力パルス幅がその遅延差τと異なることが生じる)やパルス以外の部分でのノイズ波高値が異なる。差動アンプ3の出力は、正相入力信号cpあるいは逆相入力信号cnのパルス幅が広い方の入力の影響を受けて、パルス幅が遅延差τより広がるばかりでなく、正相入力信号cpおよび逆相入力信号cnの双方に現れるノイズを出力する。このように出力信号のパルス幅が広がると、入力周波数fが高い場合に、隣接するパルス同士の裾の部分が重なり、パルス波形の面積が低周波の場合より小さくなる。
【0011】
また、出力信号に重畳されたノイズは、次のパルスとの位相関係により、パルスの波高値に変化を及ぼす。これらの出力パルス信号の幅および波高値の周波数ごとの変化は、入力信号の周波数fに依存して出力パルスの面積を変化させ、出力する電圧Voの周波数fに対する線形性を損なう。
【0012】
よって、従来のFM復調回路は、広い周波数領域に渡って高精度なf−V線形性を達成することが出来ない問題があった。そして、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等がばらつくと、入力信号の周波数に対する出力電圧Voの線形性がさらに悪化する問題があった。
【0013】
本発明の目的は、上記点に鑑みて、高い精度のf−V線形性を達成でき、さらにトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動に対して耐性の高いFM復調回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1にかかる発明のFM復調回路は、入力するFM信号のエッジを検出して正相および逆相の信号を出力する差動エッジ検出手段と、該差動エッジ検出手段から出力する正相および逆相の一方の出力信号を正相および逆相の一方の入力信号とする差動増幅手段と、該差動増幅手段の正相および逆相の他方の入力としてのレファレンス電圧を出力するレファレンス電圧発生回路とを備え、該レファレンス電圧発生回路は、前記差動エッジ検出手段から出力し前記差動増幅手段に入力する信号のハイレベルとローレベルの中間電位で、且つ前記差動エッジ検出手段のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力レベルの変動と同様に変動するレファレンス電圧を出力することを特徴とする。
。
【0015】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のFM復調回路において、前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動AND回路からなり、前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動AND回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動AND回路と、該第2の差動AND回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とする。
【0016】
請求項3にかかる発明は、請求項1に記載のFM復調回路において、前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動EXOR回路からなり、前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動EXOR回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動EXOR回路と、該第2の差動EXOR回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、差動エッジ検出手段の正相、逆相の出力のうち、応答特性が良好でかつ低ノイズである一方の出力だけを用いることで、入力信号周波数fが高くなることにともなう差動増幅手段の出力パルスのパルス幅の増減を抑制でき、また、差動増幅手段の出力に現れるノイズを低減できる。このことにより、広い周波数帯域に渡って差動アンプの出力パルスの面積が適正に維持され、高い精度のf−V線形性を達成できる。よって、広い周波数帯域に渡って低歪なFM復調回路を提供できる効果がある。
【0018】
また、差動増幅手段に与えるレファレンス電圧を、差動エッジ検出手段のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力変動と同様に変動するよう設定することで、差動増幅手段の出力パルス幅の変動を抑制することができる。このことにより、プロセス変動、電源変動、温度変動等に対して耐性の高いFM復調回路を実現できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のFM復調回路は、差動エッジ検出手段の出力段としての差動AND回路の正相、逆相の出力端子のうち、応答特性が良好でかつ低ノイズな一方の出力だけを差動アンプの一方の入力端子に接続する。差動アンプの他方の入力端子には、差動AND回路の出力信号のプロセス変動、電源変動、温度変動等による変動と同様に変動するレファレンス電圧を供給する構成とする。
【0020】
このように、本発明は、背景技術において述べた従来FM復調回路(図7)の差動AND回路の出力信号の一方を、差動アンプに入力せず、その差動アンプの当該入力には、プロセス変動、電源変動、温度変動等による差動AND回路の出力信号の電位変動と同様に変動するレファレンス電位を与えたことが従来と異なる。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1のFM復調回路を図1を用いて説明する。実施例1のFM復調回路は、FM信号の正相入力信号INPと逆相入力信号INNを入力する差動遅延回路1、差動AND回路2、レファレンス電圧発生回路4、レファレンス電圧出力および差動AND回路2の逆相出力信号cnを入力とする差動アンプ3からなる。O1PはFM復調回路の正相出力信号、O1Nはその逆相出力信号である。FM復調出力は、実際には、正相出力信号O1Pをローパスフィルタ(図示せず)に入力することにより得られる。請求項との関連では、差動遅延回路1と差動AND回路2が差動エッジ検出手段を構成する。
【0022】
実施例1のFM復調回路の接続を説明する。正相入力信号INPと逆相入力信号INNは、差動遅延回路1の差動入力信号となり、および差動AND回路2の第1の正相入力信号apと第1の逆相入力信号anとなる。差動遅延回路1の差動出力信号は、差動AND回路2の第2の正相入力信号bpと第2の逆相入力信号bnとなる。差動AND回路2の正相出力信号cpは何処にも接続せず、差動AND回路2の逆相出力信号cnを差動アンプ3の逆相入力信号とする。レファレンス電圧発生回路4の出力は、差動アンプ3の正相入力信号dpとなる。差動アンプ3の出力信号は、正相出力信号O1Pと反転出力信号O1Nである。
【0023】
レファレンス電圧発生回路4の構成を説明する。レファレンス電圧発生回路4は、信号レベル発生回路41、差動AND回路40、レベル平均回路42からなる。ここで差動AND回路40は、差動AND回路2と同形式の回路である。信号レベル発生回路41の正相出力信号は、例えば、差動AND回路40の第1および第2の正相入力信号として入力させ、信号レベル発生回路41の逆相出力信号は、例えば、差動AND回路40の第1および第2の逆相入力信号として入力させる。差動AND回路40の正相出力信号は、レベル平均回路42の正相入力信号として、差動AND回路40の逆相出力信号は、レベル平均回路42の逆相入力信号として、それぞれ入力させる。
【0024】
実施例1のFM復調回路の動作を、図2を用いて説明する。FM復調回路は、入力FM信号の正相入力信号INPと逆相入力信号INNを入力する。図2では、FM信号の基本波である周波数fのサイン波がアンプにより周波数fのクロックに波形整形された後の状態を示した。この信号INP,INNは、差動遅延回路1により、ともに遅延時間τだけ遅延する。差動AND回路2の第1の入力信号ap,anとして遅延前の信号INP,INNを入力し、第2の入力信号bp,bnとして信号INP,INNを遅延した信号を入力する。この第1と第2の入力に対してAND論理をとることにより、入力信号INPがローからハイに立ち上がる時間にパルス信号が発生する。このパルス信号は、差動遅延回路1の遅延時間τ程度のパルス幅を持つ。発生したパルス信号は、差動AND回路2の逆相出力信号cnとして差動アンプ3に入力する。差動アンプ3では、レファレンス電圧発生回路4の出力信号dpの電位をレファレンスとして信号cnのハイ、ロー判定を行い、その結果を増幅して、出力信号O1P,O1Nとして出力する。
【0025】
正相出力信号O1Pは、図1には非表示のローパスフィルタにより、時間積分されてFM復調回路の出力となる。すなわち、出力信号O1Pのパルス幅の時間だけ電荷が容量に蓄積され、電位Voとして出力される。入力する信号INP,INNの周波数fが高ければ、単位時間あたりのパルス数が多くなる分、出力電位Voは高くなり、入力する信号INP,INNの周波数fが低ければ、単位時間あたりのパルス数が少なくなる分、出力電位Voは低くなる。よって、FM信号の周波数の高低が電位の高低に変換されて、FM信号がAM信号に復調される。
【0026】
ここで、図2に示すごとく、差動アンプ3の出力は、差動AND回路2の応答特性が悪くかつ正相出力cpに大きなノイズの現れる場合であっても、その正相出力cpの影響を受けない。よって、出力信号O1Pのパルス幅は遅延回路1の遅延時間τに近い細い幅を維持し、かつパルス以外のレベルでのノイズも少ない。図2に示した出力信号O1Pの出力パルス面積が、広い周波数に渡って変わらず、かつ、出力パルス以外の信号箇所に現れるノイズが小さいため、入力FM信号の高い周波数までf−V特性の良好な線形性が得られる。したがって、FM復調回路に入力するFM信号の周波数fの広い範囲にわたって、少ない歪でFM復調を行うことが可能となる。
【0027】
また、信号レベル発生回路41は、差動AND回路2の入力信号のハイレベルとローレベルを出力する。このことにより差動AND回路40は、差動AND回路2の出力信号のハイレベルとローレベルと同じレベルを出力する。レベル平均回路42においてそのハイレベルとローレベルの中間の電位を作り、レファレンス電圧発生回路4の出力信号dpとして出力する。ここで、差動AND回路2と差動AND回路40は同形式の回路であることからレファレンス電圧dpは、差動AND回路2の逆相出力信号cnの中間の電圧になる。
【0028】
図2では、差動AND回路2の逆相出力信号cnの波高値が、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等によって減少した場合を一点鎖線で示している。この変動に対して、回路構成の類似性から、差動AND回路40の出力も同様に変動し、その平均値であるレファレンス電圧も2点鎖線に示すdp’のごとく同様に変動する。よって、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等が生じても、レファレンス電圧dpは、差動AND回路40の出力パルスのほぼ半分の高さに位置する。したがって、差動アンプ3の出力信号O1P,O1Nのパルス幅の変動を抑制することができる。
【0029】
図3(a),(b)に、実施例1のFM復調回路の効果をシミュレーションにより従来回路と比較した結果を示す。横軸は入力FM信号の周波数、縦軸は周波数に比例して出力されるべき電圧と実際に出力された電圧との誤差(f−V線形性からのズレ)を表している。実施例1によると、入力FM信号の周波数が1GHzから4GHzまでの間で、出力電圧の誤差を従来の2分の1程度に低減することが出来る。
【0030】
さらに、図3の(a),(b)では、トランジスタ特性が標準状態の場合の回路特性を実線で、トランジスタの電流が少なく出来上がった場合(酸化膜厚とゲート長が標準の10%増し、ゲート幅が10%減の場合)の回路特性を点線で示した。従来例の(b)では、トランジスタの特性変動によりf−V直線からのずれが2倍近くになる。これと比較して、実施例1の(a)では、1GHzから4GHzまでの間で、トランジスタの特性変動によるずれ量の増加は見られない。したがって、実施例1によると、トランジスタ特性の変動によるFM復調回路の歪特性を格段に改善できる効果があることがわかる。
【0031】
図3ではトランジスタ変動に対する効果を例示したが、差動AND回路2,40を同種の回路で構成したことにより、差動AND回路2の逆相出力信号cnとレファレンス電圧dpをトランジスタ、抵抗、温度、電源電圧等の変動に対して同程度に上下させることができ、抵抗、温度、電源電圧等の変動に対しても、FM復調回路の歪特性を改善できる効果がある。
【0032】
図4に、レファレンス電圧発生回路4の回路例を示す。本回路例では、信号レベル発生回路41は、(図1のFM復調回路前段の差動アンプと同形の回路である)差動アンプ411と、その差動アンプ411にハイレベル、ローレベル入力を与える抵抗R1,R2,R3からなる。抵抗R1と抵抗R2,R3の比((R1+R2)/(R1+R2+R3))により電源電圧を分割することにより差動アンプのハイレベル入力電位を作る。抵抗R1,R2と抵抗R3の比(R3/(R1+R2+R3))により電源電圧を分割することにより差動アンプのローレベル入力電位を作る。このとき、差動アンプ411の正相出力の電圧と逆相出力の電圧が、図1に示した入力信号INPとINNのハイレベルとローレベルに一致するように、抵抗R1,R2,R3の抵抗値を設定する。
【0033】
差動AND回路40の正相入力には差動アンプ411の正相出力信号を、差動AND回路40の逆相入力には差動アンプ411の逆相出力信号を接続する。このことにより、差動AND回路40は、図1に示した差動AND回路2の出力電圧にほぼ等しいハイレベルとローレベルを出力する。
【0034】
レベル平均回路42は、抵抗R4とR5の縦列接続で構成し、一端を差動AND回路40の正相出力、他端を逆相出力に接続する。抵抗R4とR5の抵抗値は、レベル平均回路42の出力が、差動AND回路2の逆相出力信号cnのパルスのほぼ半分のレベルに位置する電位になるように設定する。
【0035】
以上の構成により、差動AND回路40は、差動AND回路2と同形の回路あり、その入力電圧も等しく、また、出力電圧も差動AND回路4にほぼ等しい。よって、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧、温度等の変動に対してハイレベルとローレベルは同程度に変動する。したがって、トランジスタ特性、抵抗値、電源電圧、温度等が変動してもレファレンス電圧発生回路4は、差動AND回路2の逆相出力信号cnのパルスのほぼ半分のレベルのレファレンス電圧dpを出力する。
【実施例2】
【0036】
本発明の実施例2のFM復調回路を、図5を用いて説明する。実施例2は、実施例1の差動AND回路3を差動EXOR回路5に置き換えた回路である。請求項との関連では、差動遅延回路1と差動EXOR回路5が差動エッジ検出手段を構成する。ここでも、実施例1と同様に差動EXOR回路5の正相出力epはオープン状態とし、逆相出力信号enだけを差動アンプ3の逆相側入力に接続する。レファレンス電圧発生回路6は、信号レベル発生回路61、差動EXOR回路60、レベル平均回路62からなる。ここで差動EXOR回路60は、差動EXOR回路5と同形式の回路である。
【0037】
図6に示すように、差動EXOR回路5は、第1の入力信号ap,anと第2の入力信号bp,bnを入力として、第1の正相入力信号apの立ち上がり時および立ち下がり時にパルスを出力する。パルスの時間幅は、第1の入力信号ap,anと第2の入力信号bp,bnの間の時間τにほぼ等しい。差動EXOR回路の逆相出力信号enを図2の逆相出力信号cnと比較すれば明らかなように、同一の入力FM信号の周波数fに対して、単位時間当たりのパルスの数は2倍になる。
【0038】
よって、差動EXOR回路を使用するFM復調回路は、周波数fを電圧Vに変換する際の傾きに相当する変換ゲインを2倍に出来る。しかし一方で、隣接するパルスの時間間隔が約半分になることから、入力信号の周波数fが高くなると、隣接パルスの裾の重なりが生じて、f−V特性の線形性が急激に劣化する問題が生じる。しかし、実施例2によると、差動EXOR回路5の正相出力信号epと逆相出力信号enのうち、パルス幅が狭く、ノイズの少ない出力を選択して出力できるメリットがある。そして、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等が生じてもレファレンス電圧dpは、差動EXOR回路5の出力パルスのほぼ半分の高さに位置する。したがって、差動アンプ3の出力信号O2P,O2Nのパルス幅の変動を抑制することができる。
【0039】
これら2つの効果により、変換ゲインの大きな差動EXOR回路型のFM復調回路において、特に信号周波数fの高い領域まで、低歪な変換特性を達成出来るメリットを有し、トランジスタ特性の変動、電源電圧の変動、温度の変動、抵抗値の変動等が生じても低歪な変換を維持できるメリットがある。
【0040】
なお、差動AND回路2の構成例として、図9では、MOSトランジスタを使用する場合を示したが、バイポーラトランジスタやMESFET等の異なるデバイスを使用しても同様の効果が得られる。また、差動AND回路や差動EXOR回路の前段や後段のアンプの段数等を変更してFM復調回路を構成することは本発明の技術思想の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1のFM復調回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1のFM復調回路の入出力波形図である。
【図3】本発明の実施例1のFM復調回路(a)と従来のFM復調回路(b)のシミュレーションによるf−V特性図である。
【図4】本発明の実施例1のFM復調回路のレファレンス電圧発生回路の回路図である。
【図5】本発明の実施例2のFM復調回路の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例2のFM復調回路の入出力波形図である
【図7】従来のFM復調回路の構成を示すブロック図である。
【図8】従来のFM復調回路の入出力波形図である。
【図9】FM復調回路に使用される差動AND回路の回路図である。
【符号の説明】
【0042】
1:差動遅延回路
2:差動AND回路
3:差動アンプ
4:レファレンス電圧発生回路、40:差動AND回路、41:信号レベル発生回路、411:差動アンプ、42:レベル平均回路
5:差動EXOR回路
6:レファレンス電圧発生回路、60:差動EXOR回路、61:信号レベル発生回路、62:レベル平均回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力するFM信号のエッジを検出して正相および逆相の信号を出力する差動エッジ検出手段と、該差動エッジ検出手段から出力する正相および逆相の一方の出力信号を正相および逆相の一方の入力信号とする差動増幅手段と、該差動増幅手段の正相および逆相の他方の入力としてのレファレンス電圧を出力するレファレンス電圧発生回路とを備え、
該レファレンス電圧発生回路は、前記差動エッジ検出手段から出力し前記差動増幅手段に入力する信号のハイレベルとローレベルの中間電位で、且つ前記差動エッジ検出手段のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力レベルの変動と同様に変動するレファレンス電圧を出力することを特徴とするFM復調回路。
【請求項2】
請求項1に記載のFM復調回路において、
前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動AND回路からなり、
前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動AND回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動AND回路と、該第2の差動AND回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とするFM復調回路。
【請求項3】
請求項1に記載のFM復調回路において、
前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動EXOR回路からなり、
前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動EXOR回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動EXOR回路と、該第2の差動EXOR回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とするFM復調回路。
【請求項1】
入力するFM信号のエッジを検出して正相および逆相の信号を出力する差動エッジ検出手段と、該差動エッジ検出手段から出力する正相および逆相の一方の出力信号を正相および逆相の一方の入力信号とする差動増幅手段と、該差動増幅手段の正相および逆相の他方の入力としてのレファレンス電圧を出力するレファレンス電圧発生回路とを備え、
該レファレンス電圧発生回路は、前記差動エッジ検出手段から出力し前記差動増幅手段に入力する信号のハイレベルとローレベルの中間電位で、且つ前記差動エッジ検出手段のトランジスタ特性、抵抗値、電源電圧値、温度等の変動による出力レベルの変動と同様に変動するレファレンス電圧を出力することを特徴とするFM復調回路。
【請求項2】
請求項1に記載のFM復調回路において、
前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動AND回路からなり、
前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動AND回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動AND回路と、該第2の差動AND回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とするFM復調回路。
【請求項3】
請求項1に記載のFM復調回路において、
前記差動エッジ検出手段は、入力するFM信号を遅延した信号を出力する遅延回路と、前記入力するFM信号と前記遅延回路の出力信号とを入力して正相および逆相の信号を出力する第1の差動EXOR回路からなり、
前記レファレンス電圧発生回路は、前記第1の差動EXOR回路の入力信号レベルに近いレベルの信号を発生するレベル発生回路と、該レベル発生回路の出力信号を入力して正相および逆相の信号を出力する第2の差動EXOR回路と、該第2の差動EXOR回路の正相と逆相の出力信号の中間電位を前記レファレンス電圧として生成するレベル平均回路とからなることを特徴とするFM復調回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−237732(P2006−237732A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45931(P2005−45931)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
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