説明

HITS(FAM107B)を用いた癌の検査

【課題】癌や前癌病変の悪性度や組織型を判定し、さらに癌温熱療法の効果を判定及び予測するための検査方法及び該方法を行うための検査試薬の提供。
【解決手段】HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定し、あるいは癌温熱療法の効果を判定及び予測するための検査方法、並びにそのための検査試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌や前癌病変の検査に関し、癌や前癌病変の悪性度・組織型を判定するための検査、及び癌温熱療法の効果を判定又は予測するための検査に関する。
【背景技術】
【0002】
FAM107(Family with sequence similarity 107)は、種を越えて高度に保存された機能未知のN末端ドメイン(DUF1151)を有しており、ヒトにおいてFAM107A(TU3A/DRR1)は癌抑制遺伝子の候補として報告されている(非特許文献1を参照)。また、TU3Aの発現が種々の癌で低下していることが報告され(非特許文献2を参照)、さらにTU3Aの強制発現が癌細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献3、4を参照)。
【0003】
また、FAM107Aの相同遺伝子としてFAM107Bの存在がデータベース上で認められる。しかし、FAM107Bの機能や癌との関係については知られていなかった。
【0004】
温熱療法は癌細胞が正常細胞に比べて熱に弱いという性質を利用して、癌患部を加熱し、癌細胞を殺傷する治療法をいう。一般的に温熱療法は、外科治療、放射線治療、化学療法などと併用して行われてきた。
【0005】
熱ショックタンパク質(HSP: heat shock protein)は、熱をはじめとする各種ストレスに反応して細胞内で誘導されるタンパク質であり、HSPの多くは癌原遺伝子として報告されている。一般的にHSPの発現によって癌の悪性度が増し、各種治療に抵抗性となることが報告されている(非特許文献5を参照)。したがって癌温熱療法によって癌細胞内でHSPの発現が誘導されることは、理論上その治療効果を妨げることとなる。
【0006】
温熱療法の効果を判定するために、熱ショックタンパク質の発現を利用することについての報告はなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yamato T. et al., Cytogenet Cell Genet 87: 291-295, 1999
【非特許文献2】Awakura et al., Int J Oncol 33: 893-899, 2008
【非特許文献3】Wang L. et al., Genes Chromosomes Cancer 27: 1-10, 2000
【非特許文献4】Liu Q. et al., Oncol Rep 22: 1069-1075, 2009
【非特許文献5】Whitesell L. et al., Nat Rev Cancer 5:761-772, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、癌や前癌病変の悪性度・組織型を判定し、さらに癌温熱療法の効果を判定及び予測するための検査方法並びに該方法を行うための検査試薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、癌抑制遺伝子候補FAM107A(TU3A/DRR1)の相同遺伝子であるFAM107B (Heat-shock Induced Tumor Small protein: HITSと命名)と癌との関連を明らかにするために、HITSに対するポリクローナル抗体を作製して、病理組織学的及び免疫組織化学的解析や生化学的解析を行った。さらに、HITSのcDNAを培養細胞に導入して、強制発現系やテトラサイクリンによる誘導発現系を確立し、細胞生物学的検討を行った。HITSのテトラサイクリンによる誘導発現系で、in vivoにおける腫瘍の増殖も調べた。また、腫瘍細胞(培養細胞)に熱ショックを与えて、HITSの発現の上昇を調べた。さらにin vivoの系で、ラットの腫瘍に温熱療法を施行して、HITSの発現を検討した。
【0010】
その結果、大腸癌への多段階進展過程(正常粘膜→腺腫→癌)の経過にともなって、HITSの発現量が低下することを見出した。胃癌をその主要な組織型別に解析したところ、腸型癌ではHITS発現量が低下していたのに対して、びまん型癌では低下していないことを見出した。胃癌・大腸癌に共通する組織亜系である粘液性腺癌ではHITSが発現していた。また、in vitroで癌細胞にHITSを強制発現させると増殖因子に対する応答が低下し(増殖の抑制)、in vivoのテトラサイクリンによるHITSの誘導発現系で腫瘍の増殖抑制効果が見られた。さらに、in vitro、 in vivoの両方において、熱ショックによって癌細胞でHITSの発現が上昇することを見出した。これらの知見から、本発明者は、HITSの発現を指標に、癌や前癌病変の悪性度や癌の組織型を判定することができ、さらに癌温熱療法の効果を判定及び予測することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査方法。
[2] 癌又は前癌病変組織におけるHITS(FAM107B)の発現の程度を指標に癌又は前癌病変の悪性度を判定するための[1]の検査方法であって、癌又は前癌病変組織におけるHITS(FAM107B)の発現を測定し、HITS(FAM107B)の発現が正常組織に比較して少ない場合に癌又は前癌病変の悪性度が高いと判定する、検査方法。
[3] 癌又は前癌病変が大腸癌、胃癌、食道癌、肺癌、乳癌、肝癌、脳腫瘍、膵癌、子宮癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、リンパ腫、白血病、肉腫及びこれらのいずれかの癌の前癌病変からなる群から選択される、[1]又は[2]の検査方法。
[4] 胃癌の組織型が腸型かびまん型かを判定するための[1]の検査方法であって、胃癌組織におけるHITS(FAM107B)の発現を測定し、HITS(FAM107B)の発現が正常組織に比較して少ない場合に腸型と判定し、正常組織と同程度の場合にびまん型であると判定する、検査方法。
[5] HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌温熱療法の効果を判定及び予測するための検査方法であって、温熱療法を施行した癌組織におけるHITS(FAM107B)の発現を測定し、HITS(FAM107B)の発現が施行前に比較して上昇する場合に癌温熱療法の効果があると判定する、検査方法。
[6] 癌が大腸癌、胃癌、食道癌、肺癌、乳癌、肝癌、膵癌、子宮癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、リンパ腫、白血病及び肉腫からなる群から選択される、[5]の検査方法。
[7] 少なくともHITS(FAM107B)遺伝子断片をプローブ又はプライマーとして含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査試薬。
[8] 少なくとも抗HITS(FAM107B)抗体を含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査試薬。
[9] 免疫組織化学又は免疫細胞染色用試薬である、[8]の癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査試薬。
[10] 少なくともHITS(FAM107B)遺伝子断片をプローブ又はプライマーとして含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌温熱療法の効果を判定するための検査試薬。
[11] 少なくとも抗HITS(FAM107B)抗体を含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌温熱療法の効果を判定又は予測するための検査試薬。
[12] 免疫組織化学又は免疫細胞染色用試薬である、[11]の癌温熱療法の効果を判定又は予測するための検査試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、癌や前癌病変の悪性度や組織型を判定することができる。例えば、大腸や胃の前癌病変である腺腫におけるHITS(FAM107B)の発現を調べることにより、腺腫の悪性度を判定することができる。すなわち、腺腫においてHITSの発現が低下している場合に、その悪性度が高いと判定することができ、その後の治療方針を適切に決定することができる。また、胃癌の組織型が腸型かびまん型かを決定することができる。すなわち、胃癌においてHITSの発現が正常組織と比べて低下しているときに腸型であると判定することができ、一方HITSの発現が正常組織と同程度であるときにびまん型であると判定することができる。癌の組織型を決定することにより、その後の治療方針を適切に決定することができる。
【0013】
さらに、本発明の方法により、癌温熱療法の効果を判定及び予測することができる。すなわち、癌に温熱療法を施した後にHITSの発現を測定し、HITSの発現が上昇する場合に癌温熱療法の効果があったと判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】FAM107ファミリーの分子構造を示す図である。ヒトのHITSのアミノ酸配列に対する相同性を%で示す。
【図1B】HITS(FAM107B)及びTU3A(FAM107A)タンパク質の細胞内局在を示す図である。
【図2A】HITSに対する抗体のFACSによる分析の結果を示す図である。
【図2B】HITSの発現を免疫組織化学的に分析した結果を示す。種々のヒト正常組織のパラフィン切片を抗HITS抗体で免疫染色した。
【図3A】ヒト大腸の管状腺腫におけるHITSの発現を示す図である。HITS発現のレベルは陽性、減弱及び陰性の3つのカテゴリーに分類した。
【図3B】ヒトの大腸癌におけるHITSの発現を示す図であり、正常粘膜(N)に近接した高分化型腺癌(T)(図3B(a))、及び粘液性腺癌(図3B(b))における発現を示す図である。
【図3C】マウスのAOM誘導大腸発癌モデルでのHITSの発現を示した図であり、マウスから摘出した大腸の標本(図3C(a))、正常粘膜及び腺癌の部分(図3C(b)及び図3C(c))における発現を示す図である。
【図4A】ヒトの腸型胃癌におけるHITSの発現を表し、免疫組織化学染色による観察所見を示した図である。図4A(b)及び図4A(c)は、図4A(a)の四角で囲んだ部分の拡大図を示す。
【図4B】ヒトのびまん型胃癌におけるHITSの発現を表し、免疫組織化学染色による観察所見を示した図である。図4B(b)は、図4B(a)の四角で囲んだ部分の拡大図を示す。
【図4C】ヒトの胃癌で腸型とびまん型の混在する混合型におけるHITSの発現を表し、免疫組織化学染色による観察所見を示した図である。
【図4D】ヒトの胃癌で粘液性腺癌におけるHITSの発現を表し、免疫組織化学染色による観察所見を示した図である。
【図4E】ヒトの胃癌組織におけるHITS のmRNAの発現を示す図であり、半定量的RT-PCR分析の結果を示す図である。腸型胃癌及びびまん型胃癌の患者から、それぞれ対応する正常組織(N)と腫瘍組織(T)におけるHITSの発現量を示す。個々の組織検体中のcDNA量は、βアクチンのmRNA発現で標準化した。
【図5A】テトラサイクリン誘導発現ベクター(-HITS又は対照の-MOCK)で形質転換したHela細胞におけるテトラサイクリン誘導発現系の作用を示す図であり、1μg/mlドキソルビシンで処理されたか(ON)又は処理されない(OFF)、Hela-Tet-HITS及びHela-Tet-MOCK細胞のHITS、Lamin A/C(核タンパク質コントロール)及びβアクチン発現のウエスタンブロット分析の結果を示す図である。
【図5B】Hela細胞の薬剤感受性に対する、HITS誘導発現の効果を示す図である。図中の値はN=8での平均±標準偏差を示す。
【図5C】Hela細胞の増殖因子への応答性に対する、HITS誘導発現の効果を示す図である。図中の値はN=8での平均±標準偏差を示す。
【図6A】重症複合免疫不全(スキッド)マウスに移植された、テトラサイクリン誘導発現系のHela-Tet-HITS及びHela-Tet-MOCK細胞による腫瘍の増殖を示す図である。スキッドマウスは飲水中にドキソルビシン1.5mg/mlを含ませたか(ON)又は含ませない(OFF)条件下で飼育された。下欄は摘出されたそれぞれの腫瘍組織を示す。
【図6B】飲水中にドキソルビシン1.5mg/mlを含ませた(ON)、残りのマウス4匹の写真である。Hela-Tet-MOCK細胞(左側腹部)とHela-Tet-HITS細胞(右側腹部)の腫瘍形成の違いを示す。
【図7A】HITS遺伝子のプロモーター領域のゲノム配列を示し、転写開始部位の上流-318からエキソン1の+189までの配列を示す。下線部は転写因子HSF1結合部位を示す。
【図7B】ルシフェラーゼによるレポーターアッセイで、293細胞におけるHITSの転写の熱ショックによる誘導の経時変化を示す図である。図中の値はN=8での平均±標準偏差を示す。
【図7C】Jurkat細胞において、HITSのmRNA発現に対する熱ショック処理の効果を半定量的RT-PCRにより分析した結果を示す図である。
【図7D】THP-1細胞において、熱ショック処理によるHITS、HSP70(熱ショック効果を検証する陽性対照)、Lamin A/C(核タンパク質コントロール)及びβアクチン発現のウエスタンブロット分析の結果を示す図である。
【図8A】ラットに移植された腫瘍に対する温熱療法の概要を示す図である。
【図8B】ラットに移植されたラットWalker256肉腫細胞に対する温熱療法の、HITS及び熱ショックの陽性対照であるHSP90の発現に対する効果を免疫組織化学的に観察した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、FAM107Bをマーカーとして用いて、癌や前癌病変部位の悪性度、癌の組織型を判定するための検査を行う方法、及びFAM107Bをマーカーとして用いて癌温熱療法の効果を判定又は予測するための検査を行う方法である。
【0016】
FAM107Bは、癌抑制遺伝子の候補として報告されているFAM107A(TU3A/DRR1)の相同遺伝子である。FAM107Bはヒト染色体10q13に存在し、FAM107B遺伝子がコードするタンパク質は、131アミノ酸からなる分子量18kDaの核タンパク質であり、本発明者らによりHITS(Heat-shock Induced Tumor Small protein)と命名された。FAM107Aがコードするタンパク質とFAM107Bがコードするタンパク質の相同性は、N末端のDUF1151ドメイン間で65%である。HITSは熱ショックタンパク質の一つであると考えられるが、従来知られている多くの熱ショックタンパク質とは異なり、癌細胞において発現が低下する。HITSには、306アミノ酸からなるlong formと131アミノ酸からなるshort formの2つのアイソタイプが存在する。本発明においては、いずれのアイソタイプも測定対象となり得るが、好ましくは、short formのうち両アイソタイプに共通した配列部分を測定する。HITSのlong formのcDNAの塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び配列番号2に示す。また、short formのcDNAの塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び配列番号4に示す。
【0017】
HITSは、正常人の食道、大腸、胃、肺、膵臓、肝臓、脳、子宮、前立腺、甲状腺、リンパ節、胸腺等広汎な組織での発現が確認されており、これらの組織が前癌病変を経て癌化する際に、その発現量が低下すると予想される。従って、HITSの発現量と前癌病変の悪性度や癌の進行度との間に相関関係が存在すると考えられる。また、上記の組織以外における腫瘍においても、HITSの発現量が癌の進行に伴って低下することが予測され、HITSの発現を測定することにより、これらの腫瘍の悪性度を判定することができる。従って、HITSの測定による腫瘍の悪性度の判定は、あらゆる組織に対して適用することができ、好ましくは大腸癌、胃癌、食道癌、肺癌、乳癌、膵癌、肝癌、脳腫瘍、子宮癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、リンパ腫、白血病、肉腫等に応用することができる。
【0018】
例えば、大腸の場合、腺腫(前癌病変)でも癌でもない正常粘膜においてHITSの発現は陽性であるが、大腸癌組織ではHITSの発現が明らかに低下している。さらに、前癌病変である腺腫においては、HITSの発現が正常粘膜と同程度に発現しているものから、癌と同様に発現が低下しているものまである。大腸腺腫は病理学的に、良性と悪性の中間に位置する境界病変である。従来、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色により病理検査を行い、癌の悪性度を判別していたが、組織におけるHITSの発現を測定することにより、HITSの発現の程度を指標にして悪性度を推測することができる。すなわち、病理検査により腺腫と診断された患者の組織におけるHITSの発現を測定することにより、その発現程度から腺腫の悪性度を判定することができる。すなわち、HE染色によって腺腫と診断された組織のHITSの発現程度が癌組織と同程度に低下している場合は、その腺腫は悪性度が高く、近い将来癌化する可能性が高いと予測することができる。
【0019】
また、ある臓器の癌に異なる組織型が存在する場合、それぞれの組織型によりHITSの発現量が異なることがあり、この場合、HITSの発現を測定することにより癌の組織型を判別することができる。例えば、胃癌は、Laurenの組織学的分類基準から腸型(intestinal type)とびまん型(diffuse type)に大別される(Lauren P. et al., Acta Pathol Microbiol Immunol Scand 64: 31-49, 1965)。また、いずれの組織型にも分類できない分類不能(unclassified)の胃癌や粘液性腺癌(mucinous adenocarcinoma)なども存在する。腸型胃癌は、一般的に慢性萎縮性胃炎から発生することが多く、細胞も核も大きく多型性を示し、刷子縁を有する円柱状の腫瘍細胞が接着性を保持して腺腔を形成して増殖し、その構造の一部に乳頭状又は充実性の癌巣を形成するという特徴を有する。一方、びまん型胃癌は、細胞も核も小型で均一な極性のない腫瘍細胞が接着性を消失してびまん性に増殖浸潤するという特徴を有する。胃癌はこれらの組織型により癌の進行の仕方が異なり、腸型癌かびまん型癌かによって使用する抗がん剤を選択する指標の一つになり得るので、胃癌と診断された患者の組織型を判別することは重要である。例えば、腸型胃癌においては血行性転移が多く認められ、びまん型胃癌ではリンパ行性転移や腹膜播種性転移が多いとされている。従来は、胃癌の組織型は、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色による病理検査で決定していたが、HITSの発現を補助的に組織型の判別に利用することにより、より確実に胃癌の組織型を判別することが可能になる。びまん型胃癌では正常胃組織と同程度にHITSの発現が認められるが、腸型胃癌ではHITSの発現が低下している。本発明者らの検討によると、びまん型胃癌の83%においてHITSの発現が認められるが、腸型胃癌においては3%にしか発現が認められない。従って、胃癌と診断された患者の胃組織を採取して該組織におけるHITSの発現を測定することにより、HITSの発現が正常胃粘膜組織と同程度の場合は、びまん型胃癌と判別することができ、HITSの発現が正常胃粘膜組織に比べて低下している場合は、腸型胃癌と判別することができる。さらに、粘液性腺癌においても、HITSの発現が認められる。
【0020】
上記の癌や前癌病変の悪性度、組織型の判定において、同じ患者から採取した同一腫瘍組織内でも部位により悪性腫瘍であったり、良性腫瘍であったり、又組織型が異なることがある。本発明の方法により同一腫瘍の部位ごとにHITSの発現程度を免疫組織染色によって調べることができ、部位ごとの悪性度や組織型を判定する補助とすることもできる。
【0021】
さらに、HITSは癌温熱療法(ハイパーサーミア)の効果判定及び予測のためのマーカーとして用いることができる。温熱療法の種類は限定されず、マイクロ波等の電磁波を照射し癌患部を加熱する方法、癌組織に電極針を刺して癌患部を加熱する方法、消化管等の管腔器官内に加熱装置を挿入して癌患部を過熱する方法等いかなる方法も含む。癌温熱療法においては、癌患部は普通41〜43℃程度まで加熱される。本発明の対照となる癌は温熱療法の適応となるいかなる癌も含み、例えば、大腸癌、胃癌、肺癌、乳癌、肝癌、膵癌、子宮癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、リンパ腫、肉腫等が挙げられる。これらの癌に対して癌温熱療法を実施し、温熱療法を行った後に癌組織を生検等により採取し、該癌組織におけるHITSの発現を測定する。従って、採取した組織において、加熱によりHITSの発現が未処理の癌組織に対して上昇する場合に、癌温熱療法の効果があると判定又は予測することができる。
【0022】
HITSの発現は以下の方法で測定することができる。
本発明の方法においては、癌であると診断されている患者の癌組織、又は前癌病変であると診断されている患者の前癌病変部位の組織におけるHITSの発現をHITS mRNAの発現(転写)又はHITSタンパク質の発現により測定する。この際、mRNA若しくはタンパク質の発現のいずれか又は両方を検出すればよい。
【0023】
HITSのmRNAを検出する場合、癌組織若しくは前癌病変組織又はそれらの正常組織細胞を生体試料として採取し、該試料中に含まれるHITSをコードするmRNAを測定すればよい。mRNAの測定のためには、生検により癌組織や前癌病変組織の一部を採取して用いればよい。組織の採取は、例えば生検用の鉗子を生体臓器に挿入し、癌組織や前癌病変組織片を採取する。mRNAの測定は採取した組織又は細胞からRNAを抽出して行うことができ、又は組織切片標本を作製するか、あるいは採取した細胞をスライドガラス上に固定し、in situハイブリダイゼーション法により染色して行うこともできる。さらに、抽出したRNAをノーザンブロット法やRT-PCR等の公知のmRNA測定法により測定することもできる。この際、HITSをコードするmRNAの配列に相補的な部分配列からなるプローブ又はプライマーを用いればよい。HITS遺伝子の塩基配列は公知であり(配列番号1及び配列番号3)、該塩基配列情報に基づいて、プローブやプライマーを設計することができる。プライマーとして用いるポリヌクレオチドの塩基の数は5〜50、好ましくは10〜30、さらに好ましくは15〜25である。プローブとして用いるヌクレオチドの塩基の数は5〜数百、好ましくは10〜200である。
【0024】
HITSタンパク質を検出する場合、癌組織若しくは前癌病変組織又はそれらの組織の正常細胞を生体試料として採取し、該試料中に含まれるHITSタンパク質を測定すればよい。この際、癌組織若しくは前癌病変組織又はそれらの組織の正常細胞からタンパク質を抽出し、該抽出物中のHITSタンパク質を測定することができ、あるいは免疫組織化学、免疫細胞化学又はフローサイトメトリーの手法により測定することもできる。抽出したタンパク質の測定は、ウエスタンブロットやELISA、ラジオイムノアッセイ等の公知のイムノアッセイを用いて行うことができる。この際、HITSの検出や測定に用いる、HITSに対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は公知の抗体作製方法により作製することができる。抗体は必要に応じて、酵素、蛍光物質等により標識して用いることができる。免疫組織化学又は免疫細胞化学の手法による測定は、採取した癌組織や前癌病変組織の切片標本を作製するか、採取した細胞をスライドガラス上に固定して行う。免疫組織化学の手法による測定のためには、組織を、例えばホルムアルデヒドで固定した後、パラフィンに包埋し、1〜数μm程度の厚さの切片標本を作製して行うことができる。染色は、酵素、蛍光物質等で標識したHITSに対する抗体を用いればよい。また、抗HITS抗体を切片標本中のHITSに結合させた後に、酵素、蛍光物質等で標識した2次抗体を結合させてもよい。標識に用いる酵素として、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等が挙げられ、蛍光物質として、例えばフルオレセイン、ローダミン等が挙げられる。また、ABC法等の公知のアビジン−ビオチン複合体を利用して染色してもよい。免疫細胞化学は採取した細胞をホルムアルデヒド等によりスライドガラス上に固定し、免疫組織化学の手法と同様の方法で細胞中のHITSを染色すればよい。免疫組織化学又は免疫細胞化学において、染色は顕微鏡像の肉眼的観察で判断することもできるし、適当な光学的測定装置を用いてもよい。フローサイトメトリーは採取した細胞をパラホルムアルデヒドで固定した後、Triton-Xなどの界面活性剤で細胞膜に穴を開け、アルブミン等で非特異的抗体反応を阻止してから抗HITS抗体で核内のHITSを染色する(図2A)。また、蛍光物質等で標識した2次抗体を結合させてもよい。標識に用いる蛍光物質として、フルオレセイン、ローダミン等が挙げられる。
【0025】
上記の方法で、癌組織や前癌病変組織におけるHITSの発現を検出することにより、HITSの発現が癌組織や前癌病変組織において認められるか、又は喪失しているかを決定する。さらに、HITSの発現が癌組織や前癌病変組織において、正常組織に比べてどの程度低下しているかどうかを決定する。具体的には、検査において、癌と診断された患者、又は腺腫を含むポリープ等の前癌病変と診断された患者より癌部位又は前癌病変部位の組織を採取し、該組織又は組織細胞におけるHITSの発現を測定すればよい。この際、癌や前癌病変が存在した部位と同じ組織の正常部位からも組織を採取して、対照検体として用いてもよい。また、あらかじめ、ヒトの各正常組織のHITSの発現量を測定しておき、その値を正常値として比較の対象としてもよい。
【0026】
採取した腫瘍組織においてHITSの発現が喪失している場合、又は正常組織に比べて発現が低下している場合、その腫瘍は悪性度が高いと判断することができる。また、採取した前癌病変においてHITSの発現が喪失している場合、又は正常組織に比べて発現が低下している場合、その前癌病変は悪性度が高く、癌に進行する可能性があると判断することができる。一方、HITSの発現が正常組織と同程度の場合、その前癌病変は悪性度が低いと判断することができる。
【0027】
また、採取した癌組織のHITSの発現程度により癌の組織型を判別することができる。例えば、胃癌の場合、HITSの発現が喪失しているか、又は正常組織と比べて低下している場合、腸型胃癌と判断することができる。一方、正常組織と同程度の場合、びまん型胃癌あるいは粘液性腺癌であると判断することができる。
【0028】
HITSの発現の測定により判明した腫瘍の悪性度、組織型により、その後の治療方針や投与する抗がん剤の種類等を決定することができる。
【0029】
さらに、HITSの発現を指標として、癌温熱療法の効果を判定及び予測することができる。温熱療法を施行した患者の癌部位より癌組織を採取し、該組織又は組織細胞におけるHITSの発現を測定する。この際、治療前に癌部位の組織を採取して比較対象としてもよい。また、あらかじめ癌組織におけるHITSの発現量を測定しておき、この値と比較してもよい。癌温熱療法の施行後に癌部位から組織又は組織細胞を採取し、該組織又は組織細胞におけるHITSの発現を測定し、HITSの発現が上昇した場合に、癌温熱療法が効果を奏したと判断することができる。例えば、正常組織と同程度のHITSの発現が認められたときに癌温熱療法により癌細胞の腫瘍性増殖が抑制されると判断することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0031】
方法
細胞及び材料の調製
培養細胞としては、HEK293細胞、Hela細胞、THP-1細胞、Jurkat細胞を用いた。
【0032】
HITS cDNA(配列番号3:short form)をpcDNA3.1 D/V5-His-TOPOベクター(Invitrogen)に挿入し、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてHEK293細胞に遺伝子導入し、HITS-V5-His融合タンパク質を発現させた。ネオマイシンを用いて安定発現細胞株を選択した。
【0033】
HITSの誘導発現は、Tet-On advanced inducible gene expression system (Clontech)を用いて行った。HITSのcDNAをTet誘導プロモーターを持つレトロウイルスベクターpRetroX-Tight Purに挿入した。ウイルスストックはベクタープラスミドをGP2-293 パッケージング細胞(Clontech)に遺伝子導入することにより調製し、その後Hela Tet-On advanced 細胞株(Clontech)に感染させた。ピューロマイシンを用いて安定発現細胞株(Hela-Tet-HITS又は陰性対照Hela-Tet-MOCK)を樹立した。
【0034】
同一症例の正常粘膜及び腫瘍の組織検体は、胃癌患者及び大腸癌患者よりインフォームドコンセントを確認の上、外科的手術により摘出された臓器から採取した。採取組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋し、病理組織学的診断及び免疫組織化学検査に用いた。胃癌及び大腸癌の組織型は、WHOの分類に従った(Jass JR. et al., Cancer 66: 2162-2167, 1990; Shibata et al., Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 10: 75-78, 2001)。正常人の脳、甲状腺、胸腺、肺、食道、肝臓、膵臓、子宮、前立腺及びリンパ節を解剖検体より得た。
【0035】
大腸発癌モデルマウス
5週齢のCrj:CD-1(ICR)雌マウス(チャールズリバー)にアゾキシメタン(azoxymethane(AOM))を、10mg/kg体重で腹腔内に単回投与し、1週間後に2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を含む飲料水を7日間与えた。12週目に解剖し、病理組織学検査を行い、大腸をHE染色及び免疫組織化学染色により調べた。
【0036】
抗体
抗V5抗体(Invitrogen)、抗HSP90抗体(Stressgen)、抗LaminA/C抗体及び抗βアクチン抗体(Santa Cruz Biotech)を用いた。抗HITS抗体は、KLHを結合させた抗原ポリペプチド(MAEPDYIEDDNPE)をウサギに免疫し、抗原ポリペプチドを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0037】
免疫染色
培養細胞をパラホルムアルデヒドを用いて固定化し、FITC標識抗V5抗体又はラビット抗HITS抗体とFITC標識二次抗体を用いて免疫染色し、FACS又は蛍光顕微鏡分析に供した。
パラフィン組織切片におけるHITS及びHSP90の発現及び局在をそれぞれの抗体による免疫染色-ABC法(avidin-biotin-peroxidase complex法)で観察した。
【0038】
相補的DNA(cDNA)合成及びRT-PCR
細胞や組織からtotal RNAを抽出し、First-Strand cNDA合成キット(Amersham)を用いてcDNAを合成し、RT-PCRによりHITSとβアクチンを増幅した。用いたプライマー対は以下のとおりである。
HITSフォワードプライマー:5'-AGCACAGAAGAAGAAATCTGA-3'(配列番号5)
HITSリバースプライマー:5'-CTTGGGCGACTTCTTGGCCTG-3'(配列番号6)
βアクチンフォワードプライマー:5'-ACACTGTGCCCATCTACGAGGGG-3'(配列番号7)
βアクチンリバースプライマー:5'-ATGATGGAGTTGAAGGTAGTTTCGTGGAT-3'(配列番号8)
【0039】
DNAマイクロアレイ分析
熱ショック処理したJurkat細胞又は熱ショック処理しないJurkat細胞からtotal RNAを抽出し、MessageAmp II(登録商標)-Biotin Enhanced Kit (Ambion)を用いて相補的RNA (cRNA)を調製した。Human Genome U133 plus 2.0 Gene-Chip マイクロアレイシステム(Affymetrix)を用いてハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズしたcRNAをGeneChip(登録商標)Scanner 3000を用いて検出し、GeneChip(登録商標)Operating Software(GCOS) version 1.4を用いて解析した。
【0040】
ウエスタンブロット分析
細胞をNucBuster Protein Extraction kit (Novagen)を用いて処理し、核及び細胞質分画からそれぞれ蛋白質を抽出物して、ウエスタンブロット分析を行った。
【0041】
薬剤耐性
Hela-Tet-MOCK及びHela-Tet-HITS細胞株を、ドキシサイクリン(doxycycline)(1μg/ml)を含むか、又は含まない10%FCS含有DMEMを含む96ウェル中(5000細胞/ウェル)に、paraquat(1〜5μM)、etoposide(30, 100μM)、5-FU(160、320μg/ml)又はCDDP(10、20μM)を添加した。2日間の処理後、生細胞数をCell Counting Kit-8(Dojin)を用いたMTTアッセイにて測定し、未処理細胞に対する比により細胞生存率を計算した。
【0042】
増殖因子に対する細胞応答
Hela-Tet-MOCK及びHela-Tet-HITS細胞株を、ドキシサイクリン(doxycycline) (1μg/ml)を含むか、又は含まない0.2%FCS含有DMEMを含む96ウェル中(5000細胞/ウェル)の血清飢餓条件下で培養した。2日間の培養後、組換えヒト線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)、上皮成長因子(EGF)又は追加のFCS(最終濃度0.5%又は1.0%)をウェルに添加した(1解析条件あたり8ウェル)。それぞれの条件下で2日間培養した後の細胞増殖(生細胞数)をMTTアッセイにより測定した。
【0043】
マウスに移植されたテトラサイクリン誘導性細胞株の腫瘍性増殖
6週齢のスキッドマウス(FOX CHASE SCID(登録商標) C.B-17/lcr-scid/scidJcl)10匹の左側腹部皮下に1×106個のHela-Tet-MOCK細胞、右側腹部皮下に1×106個のHela-Tet-HITS細胞を移植し、5匹は飲水中にドキソルビシン1.5mg/mlを含ませ (ON)、5匹は含ませない(OFF)条件下で飼育した。12週間後に写真撮影し、腫瘍を摘出して重量を計測した。
【0044】
ルシフェラーゼアッセイ
公開されたゲノム配列に従い、HITSの5'-flank領域(-316から+189)の配列をpGL3-Basicベクター(Promega)に挿入し、HITSプロモーター-ホタルルシフェラーゼレポーターコンストラクト(pGL3-HITS)を構築した。pGL3-HITS又はpGL3-Basic(陰性対照)及びpRL-チミジンキナーゼ内部コントロールベクター(pRL-TK、Promega)を293細胞に遺伝子導入した。翌日、細胞を熱ショック処理した後、ルミノメーターを用いてDual-Luciferase Assay System(Promega)によりルシフェラーゼ活性を測定した。結果は、ホタルルシフェラーゼ活性を内部コントロール(pRL-TK)のウミシイタケルシフェラーゼ活性に対して補正し、計算した。
【0045】
温熱療法及び熱ショック処理
細胞を42℃で2時間熱ショック処理し、その後37℃で所定の時間培養し回復させた。次いで、細胞を回収し、ルシフェラーゼアッセイ、RT-PCR、ウエスタンブロット又はDNAマイクロアレイ分析に供した。
【0046】
ラット移植腫瘍モデルの温熱療法治療のために、ラットWalker 256肉腫をSprague-Dawleyラットの側腹部皮下に移植した。腫瘍が増殖して直径2cm程度となった時点で、温熱治療を行った。温熱治療は、ラットの腫瘍部位を覆うスプレーチューブを備えた空気加熱装置(AOYUE615, Tongyi Electronic Equipment Factory)を用いて行った。図8Aにラットを用いた温熱療法の概要を示す。加熱した空気を前記チューブから噴出させ、空気の流れは手動にて調節した。腫瘍の中心部の温度を2時間43℃に保つように調節した。6時間後に腫瘍組織を摘出し、病理組織学(HE染色)及び免疫組織化学検査に供した。
【0047】
統計学的解析
データ解析は、Student t検定により行い、P<0.05の場合に有意差があると判定した。
【0048】
結果
正常組織におけるHITSの発現と細胞内局在
FAM107ファミリータンパク質は、N末端ドメインに相同部位を有し、この部位は生物種を越えて保存されている。図1AはFAM107ファミリーの分子構造を示す。異種生物間でのFAM107ファミリータンパク質の構造を比較しており、ラット及びマウスのHITS、ヒトTU3A/DRR1及びショウジョウバエCG9328、それぞれのタンパク質とヒトHITSタンパク質とのアミノ酸配列の相同性を%で示した。核局在シグナルの部分を矢印で示す。FAM107Bタンパク質(UniProtKB/Swiss Prot: Q9H098)は、131アミノ酸長の配列を有し、該配列は保存されたN末端ドメインDUF1151(アミノ酸1-66)及びC末端のコイルドコイル可変領域(アミノ酸61-112)からなる。FAM107A(TU3A)とFAM107B(HITS)のいずれもタンパク質配列の中心部に核局在シグナル(NLS)を有する(図1A)。HITSの細胞内局在は、293細胞中で発現したHITS-V5融合タンパク質のFITC標識抗V5抗体を用いた免疫染色により決定した。図1Bに結果を示す。V5タグをつけたHITS及びTU3Aの融合タンパク質(HITS-V5及びTU3A-V5)を293細胞で発現させ、陰性対照として、トランスフェクトしていない293細胞及びインサートを含まないプラスミドを遺伝子導入したもの(MOCK-V5)を用いた。これらの細胞をFITC標識抗V5抗体で免疫染色し、核はDAPIで染色した。FITCとDAPIの染色を融合させた像はそれぞれの細胞種について作成した。HITSの蛍光シグナルはDAPIのそれと一致していたので、核タンパク質と報告されているTU3Aと同様に、HITSは核に局在していることが判明した。
【0049】
正常ヒト組織における発現と局在を調べるために、HITSに対するラビットポリクローナル抗体を調製し、FACS分析(図2A)及びウエスタンブロット分析(図5A)により、その性能を評価した。図2Aにおいて、ヒトHITSに対する抗体の特異性を調べるために、一過性にpcDNA3.1 HITS-V5-His (293 HITS-V5)又は陰性対照のpcDNA3.1 V5-His(293 control)を293細胞に遺伝子導入した。その細胞を精製した抗HITS抗体又は抗V5モノクローナル抗体を用いて免疫染色し、FACSにより分析した。X軸は前方散乱光(Forward Scatter)を示し、Y軸はFITC(抗ラビットIgG-FITC又は抗V5-FITC)の蛍光強度を示す。以上の過程で特異性を確認したHITSに対するポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色により、HITSは正常組織において広く発現していることがわかった。特に、大腸、胃及び肺の上皮細胞の核で強発現していることがわかった(図2B)。
【0050】
胃及び大腸腫瘍におけるHITSの発現
TU3Aの発現は、ヒトのいくつかの癌種で低下しているという報告があるので(Yamato T. et al., Cytogenet Cell Genet 87: 291-295; Wang L. et al., Genes Chromosomes Cancer 27: 1-10, 2000)、HITSの胃及び大腸腫瘍における発現を調べた(図3及び図4)。まず、腫瘍組織中のHITSタンパク質発現レベルを3つのカテゴリーに分類した。すなわち、陽性(正常粘膜と同等)、減弱(正常粘膜より少ない)及び陰性(発現が認められない)に分類した(図3A)。大腸腺腫(22例)及び大腸癌(52例)について免疫組織化学分析を行った結果を表1に示す。大腸腺腫の半数以上はHITSの発現が陽性であったが、大腸癌については6%だけが陽性であった(表1)。HITSの発現が陽性であった大腸癌3例のうち、2例は特殊な組織型である粘液性腺癌であった。図3B(a)に示すように、正常粘膜(N)に近接した高分化型腺癌 (T) においてHITS発現は陰性であったが、図3B(b)の粘液性腺癌は陽性であった。図3Cに示すように、AOM誘導大腸発癌モデルマウスから切除した大腸(図3C(a))では複数の隆起性腫瘍が認められた(矢頭)。この正常粘膜及び大腸癌をHE染色と抗HITS抗体で免疫染色した(図3C(b)及び(c))。AOM誘導大腸発癌モデルマウスにおいても、HITSの発現は癌組織で顕著に減弱していた(図3C)。従って、HITSの発現は正常粘膜→大腸癌への進展に伴って段階的に低下することが判明した。
【0051】
ヒト胃癌を主要な組織型に大別して(Lauren P. et al., Acta Pathol Microbiol Scand 64: 31-49, 1965)調べると、HITSは組織型により異なる発現パターンを示した。腸型胃癌の多くは、HITSの発現は上に定義したところの陰性又は減弱であった(図4A及び表1)。一方、びまん型胃癌の80%以上においてHITSの発現は、同一症例の正常粘膜での発現と同程度であった(図4B及び表1)。腸型とびまん型が混在する混合型胃癌の免疫染色により、このHITSの発現パターンの特色が明瞭に示された(図4C)。しかし、混合型胃癌においてHITSの発現レベルの分類を判定するのは困難であったので、統計学的解析からは除外した(表1)。大腸癌と同様に粘液性腺癌において、HITSの発現は陽性であった(図3B(b)及び図4D)。免疫組織化学染色での観察と同様に、RT-PCR分析により、HITSのmRNA発現は腸型胃癌で陰性又は減弱であり、びまん型胃癌では陽性であった(図4E)。
【0052】
【表1】

【0053】
癌細胞におけるHITSの機能及び生物学的特性
HITSのタンパク質としての機能的特性を明らかにするために、テトラサイクリン誘導発現系(Tet-ON)を用いて調べた。ヒト子宮頸癌由来の細胞株Helaに、HITSのcDNAが挿入されている(HITS)、若しくは挿入されていない(MOCK)テトラサイクリン誘導発現ベクターを遺伝子導入した。ウエスタンブロット解析により、HITSは約18kDaのタンパク質として検出され、ドキシサイクリン処理により、Hela-Tet-HITS細胞においてはHITSが強く誘導発現されたが、Hela-Tet-MOCK細胞では誘導されなかった(図5A)。TU3Aは細胞増殖を抑制してアポトーシスを誘導すると報告されているので(Wang L. et al., Genes Chromosomes Cancer 27: 1-10, 2000; Liu Q. et al., Oncol Rep 22: 1069-1075, 2009)、細胞の薬剤耐性及び増殖因子に対する応答におけるHITSの効果をこの誘導発現系を用いて調べた。細胞を、paraquat(酸化ストレス)、etoposide(トポイソメラーゼ阻害剤)、fluorourasil(5-FU:代謝拮抗剤)及びシスプラチン(CDDO:DNAの架橋)等の種々の細胞毒性試薬で処理した。ドキシサイクリンで誘導発現された(ON)又は誘導発現されない(OFF)、Hela-Tet-MOCK及びHela-Tet-HITS細胞株をparaquat、etoposide、5-FU又はCDDPで処理し、薬剤耐性は48時間それぞれの試薬に曝露した後の相対的生存細胞数により決定した。その結果、Hela-Tet-MOCK及びHela-Tet-HITS両細胞株において、テトラサイクリン誘導(ON)及び非誘導(OFF)細胞間で細胞生存率に有意差は認められなかった(図5B)。次に、同様の系を用いて増殖因子(FCS、FGF-2及びEGF)に対する細胞応答性を比較した。ドキシサイクリンで誘導された(ON)又は誘導されない(OFF)、Hela-Tet-MOCK及びHela-Tet-HITS細胞株を血清飢餓状態で2日間培養し、組換えヒトFGF-2(0.1〜5μg/ml)、EGF(0.1〜1μg/ml)若しくはFCS(最終濃度0.5%又は1.0%)で刺激した。陰性対照(N.S.:no stimulation)においては、増殖因子で刺激せず、血清飢餓状態のままとした。2日間の刺激後に細胞増殖を測定した。顕著ではなかったものの、HITSの誘導発現により、試験したすべての増殖因子に対する細胞の増殖応答が統計的に有意差をもって減弱した(図5C)。
【0054】
癌細胞の増殖に対するHITSの影響をin vivoで調べるために、上記のHela-Tet-MOCK及びHela-Tet-HITS細胞株をスキッドマウスに移植して、腫瘍の形成を観察した。スキッドマウス10匹の左側腹部皮下に1×106のHela-Tet-MOCK細胞、右側腹部皮下に1×106のHela-Tet-HITS細胞を移植し、5匹は飲水中にドキソルビシン1.5mg/mlを含ませ(ON)、5匹は含ませない(OFF)条件下で12週間飼育した。テトラサイクリン誘導(ON)をかけるとHela-Tet-HITS細胞の移植部は5例中4例で腫瘍の形成を認めず(図6B)、腫瘍形成した1例も小さなものであった(図6A:右側)。形成された腫瘍の重量の平均値は、テトラサイクリン誘導下(ON)でHela-Tet-MOCK細胞が335g、Hela-Tet-HITS細胞が30g、テトラサイクリン非誘導下(OFF)でHela-Tet-MOCK細胞が278g、Hela-Tet-HITS細胞が340gであり、テトラサイクリンによるHITSの誘導発現による腫瘍形成の抑制が、顕著に認められた。
【0055】
熱ショック刺激によるHITS発現の誘導
RT-PCR分析で腸型胃癌においてHITSの mRNA量が減少しており、RT-PCR分析の結果と免疫組織化学染色の結果に相関が見られることから、癌細胞におけるHITS発現の低下は転写レベルで制御されていると考えられた(図4E)。次いで、HITS遺伝子のプロモーター領域を分析し、遺伝子の転写を調節している因子を同定した。http://www.cbrc.jp/research/db/TFSEARCHJ.html及びhttp://tfbind.ims.u-tokyo.ac.jpを用いたデータベース検索により、NGAANモチーフを有する3つの熱ショックエレメントを見出した。つまり、HITS遺伝子近傍プロモーター領域の該エレメントに、熱ショック転写因子(HSF1)がリクルートされることが予想された(図7A)。
【0056】
HITSの転写に対する熱ショックの効果を評価するため、3つのHSF1結合部位を有するHITS遺伝子のプロモーター:5'-flank領域(-316〜+189) (図7A)が挿入されたpGL3プラスミドベクターを構築して、レポーターアッセイ(ルシフェラーゼアッセイ)を行った。293細胞にpGL3-HITS(-316〜+189)及び陰性対照のpGL3-Basicを遺伝子導入し、それぞれ42℃で2時間熱ショック処理してから、37℃で所定時間回復させルシフェラーゼアッセイを行った。図7Bにおいて、ホタルルシフェラーゼの相対的発光単位(RLU)は、pRL-TK内部コントロールベクターのウミシイタケルシフェラーゼ活性で補正して計算した。pGL3-HITSの基本的な転写活性はインサートを有しない陰性対照のpGL3-Basicの約30倍の高さであった(図7B)。熱ショック未処理細胞と比較すると、pGL3-HITS導入細胞のルシフェラーゼ活性は熱ショック処理とその後の37℃での4時間の回復により約1.5倍に上昇した(図7B)。次いで、熱ショック処理のHITS mRNA発現に対する効果を調べた。T細胞性白血病由来の細胞株Jurkatを、42℃で2時間熱ショック処理してから37℃で4時間回復させた細胞又は未処理(熱ショック処理していない)の細胞からRNAを抽出した。その後、HITS及びβアクチンの発現をRT-PCRで測定した。DNAマイクロアレイによる分析結果は表2に示す。熱ショック処理によるHITS のmRNA発現の増大は、RT-PCR及びDNAマイクロアレイ分析により認められ、mRNAレベルは約3倍に増加することがわかり、これは他のHSPに対する効果と同等であった(図7C及び表2)。さらに、熱ショック処理によるHITS及びHSP70の蛋白質発現に対する効果も調べた。急性骨髄性白血病由来の細胞株THP-1を、42℃で2時間熱ショック処理し、その後37℃で所定の時間回復させた。細胞抽出物を核分画と細胞質分画に分け、ウエスタンブロットにより、HITS、Lamin A/C(核タンパク質のコントロール)、HSP70(熱ショックのマーカー)及びβアクチンの発現を調べた。熱ショック誘導性のHITSタンパク質発現はウエスタンブロット分析によっても認められ、核画分において抗HITS抗体で認識される約18kDaのタンパク質の誘導が認められた(図7D)。
【0057】
【表2】

【0058】
これらの熱ショック応答に対して、温熱療法で治療したラット移植腫瘍モデルの免疫組織化学分析により、in vivoにおけるHITS発現の誘導を調べた。温熱療法は43℃で2時間の施行、その後6時間の回復の後に腫瘍組織を摘出し、免疫組織化学染色を行った。その結果、未処理ラットの腫瘍と比べ、温熱療法を施行したラットの腫瘍組織において、HSP90(熱ショックのマーカー)と共にHITSの発現が顕著に誘導された(図8)。
【0059】
以上の結果より以下の事項が判明した。
TU3Aは、非小細胞肺癌、腎細胞癌、前立腺癌、星状細胞腫等多くの癌種において発現が抑制され、又は欠失していることが報告されている(Yamato T. et al., Cytogenet Cell Genet 87: 291-295, 1999; Wang L. et al., Genes Chromosomes Cancer 27: 1-10, 2000等)。またTU3Aの導入により腫瘍細胞の増殖が抑制されアポトーシスを誘導することから、TU3Aは癌抑制遺伝子の候補とされている(Liu Q. et al., Oncol Rep 22: 1069-1075, 2009等)。本実施例において、TU3Aと同様にFAM107のメンバーであるHITSも胃癌、大腸癌で発現が低下するか又は欠失しており、培養細胞(子宮頸癌由来)にHITSを強制発現させると増殖因子に反応して腫瘍細胞が増殖するのを阻害したり、マウスに移植された腫瘍の形成を阻害することを示した。
【0060】
免疫組織化学分析により、胃及び大腸腫瘍におけるHITSの発現を調べたところ、HITSが癌抑制遺伝子であるという仮説に矛盾しない確かな結果が得られた。まず、HITSの大腸粘膜における発現は、正常粘膜→大腸腺腫→大腸癌への進行の過程で減少した(表1及び図3)。K-ras、APC及びp53遺伝子等の癌遺伝子や癌抑制遺伝子の変化が、結腸・直腸の多段階発癌モデルに関連していることから、HITS発現の喪失は大腸癌の発生に関与している可能性がある。次に胃癌においては、腸型癌とびまん型癌の間でHITSの発現に明瞭な違いが認められた(表1及び図4)。腸型癌は正常粘膜、慢性萎縮性胃炎、腸上皮化生、次いで異形成という過程を経て発生すると考えられている(Correa P., Cancer Res 52: 6735-6740, 1992等)。一方、びまん型癌は典型的には前癌状態と認識される病変からは発生せず、家族性の発生と強く関連し、遺伝学的要因が関与していることが示唆されている(Guilford P. et al., Nature 392: 402-405, 1998等)。本実施例において認められた、HITS発現が腸型胃癌で減少するがびまん型胃癌では減少しないという結果は、HITSは胃粘膜萎縮部位や腸上皮化生等の前癌状態から腸型癌への進行過程において不活化されるか、あるいは欠損していくことを示唆する。加えてHITSの発現は、胃癌・大腸癌に共通する組織亜系である粘液性腺癌において陽性であった(図3B(b)及び4D)。
【0061】
腫瘍におけるHITSの発現に関する最も興味深いことは、熱ショック刺激による遺伝子転写の誘導である。熱ショックは癌細胞に大きな傷害を与えるが、正常細胞には限られた傷害しか与えないことが報告されている(Van der Zee J., Ann Oncol 13: 1173-1184, 2002)。このことは、温熱療法により、癌細胞は熱刺激によってアポトーシスや壊死となるが、その一方で正常細胞は順応し、耐性となって恒常性を維持できることを示している。また、温熱療法により癌細胞が直接死滅しなくとも、放射線やある種の化学療法に感受性となり得る。この理由で温熱療法は、一般的に放射線照射や化学療法等の他の癌治療と併用して施行される。癌温熱療法の臨床的有効性に反して、熱ショックタンパク質HSPの発現は癌治療における望ましくない現象である(Jolly C. et al., J Natl Cancer Inst 92: 1564-1572, 2000等)。HSP及びその関連分子は、正常タンパク質のフォールディングを促進し、正常タンパク質をミスフォールディングや凝集から保護する分子シャペロン群である。各種ストレスに曝露された組織におけるHSPの発現は、細胞の生存を維持するための適応現象である。従って、種々の癌種におけるHSP発現の増加は、悪性腫瘍が細胞増殖に不利な微小環境において、腫瘍としての生存を保つ能力の獲得を表している(Takayama S., et al., Oncogene 22: 9041-9047, 2003等)。乳癌においてHSP70及びHSP90が過剰発現するケースは、予後不良と報告されている(Jameel A. et al., Int J Cancer 50: 409-415, 1992等)。HSPの過剰発現は、癌細胞の化学療法剤に対する感受性の低下、ひいては薬剤耐性の獲得に寄与する(Ciocca DR. et al., J Natl Cancer Inst 85:570-574,1993等)。HSPの転写を制御する転写因子HSF1は、真核細胞のストレス応答に対する高度に保存された防御機構の主要な調節因子である(Westwood JT. et al., Nature 353: 822-827, 1991)。それは種々の病態生理学的条件下で、細胞の生存を促進するように作用する。HSF1は細胞増殖、生存、タンパク質合成及びグルコース代謝を含む細胞の生物学的ネットワークを調節することにより、細胞の悪性形質転換への強力な誘導因子となる(Dai C. et al., Cell 130: 1005-1018, 2007等)。これらの種々のHSP及びHSF1について報告された癌化を促進する働きとは異なり、HITSは腫瘍抑制因子として働く。これは、HITSの強制発現が増殖因子に対する腫瘍細胞の応答を阻害し、抗癌剤を含む細胞毒性試薬による種々のストレスに対する抵抗性を上昇させなかったことからもわかる(図5)。またin vivoの系で、HITSを誘導発現すると、腫瘍の形成・成長を阻害することがわかった(図6)。
【0062】
結局、本実施例により、FAM107のファミリーであるHITSは、熱ショックによって転写誘導されるという特有の性質を持った癌抑制遺伝子の候補であることが示された。HITSの発現は腫瘍の検出や温熱療法の際の治療効果のモニタリングに有効である。FAM107の生物学的機能を含む分子メカニズムはまだわかっていない。FAM107のC末端可変領域は、転写因子を含む多くの核タンパク質で同定されたコイルドコイル領域を有しており、これは遺伝子の転写調節における役割を示唆している。N末端の保存されたドメインであるDUF1151は他のタンパク質と相互作用し、細胞シグナルを伝達するという役割を有している可能性がある。FAM107ファミリータンパク質と他のタンパク質との分子間相互作用の検討や遺伝子改変動物の作製が、FAM107の生理学的機能及び生体内での働きの確定に必要である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、癌や前癌病変の悪性度や組織型判定の検査、及び癌温熱療法の効果判定とその予測の検査に用いることができ、癌治療に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号5〜8 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査方法。
【請求項2】
癌又は前癌病変組織におけるHITS(FAM107B)の発現の程度を指標に癌又は前癌病変の悪性度を判定するための請求項1記載の検査方法であって、癌又は前癌病変組織におけるHITS(FAM107B)の発現を測定し、HITS(FAM107B)の発現が正常組織に比較して少ない場合に癌又は悪性度が高い前癌病変であると判定する、検査方法。
【請求項3】
癌又は前癌病変が大腸癌、胃癌、食道癌、肺癌、乳癌、肝癌、脳腫瘍、膵癌、子宮癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、リンパ腫、白血病、肉腫及びこれらのいずれかの癌の前癌病変からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
胃癌が腸型かびまん型かを判定するための請求項1記載の検査方法であって、胃癌組織におけるHITS(FAM107B)の発現を測定し、HITS(FAM107B)の発現が正常組織に比較して少ない場合に腸型と判定し、正常組織と同程度の場合にびまん型であると判定する、検査方法。
【請求項5】
HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌温熱療法の効果の判定及び予測するための検査方法であって、温熱療法を施行した癌組織におけるHITS(FAM107B)の発現を測定し、HITS(FAM107B)の発現が施行前に比較して上昇する場合に癌温熱療法の効果があると判定する、検査方法。
【請求項6】
癌が大腸癌、胃癌、食道癌、肺癌、乳癌、肝癌、膵癌、子宮癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、リンパ腫、白血病及び肉腫からなる群から選択される、請求項5記載の検査方法。
【請求項7】
少なくともHITS(FAM107B)遺伝子断片をプローブ又はプライマーとして含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査試薬。
【請求項8】
少なくとも抗HITS(FAM107B)抗体を含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査試薬。
【請求項9】
免疫組織化学又は免疫細胞染色用試薬である、請求項8記載の癌若しくは前癌病変の悪性度又は癌の組織型を判定するための検査試薬。
【請求項10】
少なくともHITS(FAM107B)遺伝子断片をプローブ又はプライマーとして含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌温熱療法の効果を判定するための検査試薬。
【請求項11】
少なくとも抗HITS(FAM107B)抗体を含む、HITS(FAM107B)をマーカーとして用い、癌温熱療法の効果を判定又は予測するための検査試薬。
【請求項12】
免疫組織化学又は免疫細胞染色用試薬である、請求項11記載の癌温熱療法の効果を判定又は予測するための検査試薬。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2012−2651(P2012−2651A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137406(P2010−137406)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(507189460)学校法人金沢医科大学 (8)
【Fターム(参考)】