説明

MgB2超電導線材の製造方法およびMgB2超電導線材

【課題】超電導特性の高性能化と線材長尺化とを合わせて具現化することができるMgB2超電導線材の製造方法およびそれによるMgB2超電導線材を提供する。
【解決手段】本発明に係るMgB2超電導線材の製造方法は、金属パイプに原料粉末を充填した後に伸線加工するMgB2超電導線材の製造方法であって、脂肪酸金属塩または前記脂肪酸金属塩と脂肪酸との混合物を前記原料粉末に添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二ホウ化マグネシウム(以下、MgB2と略す)超電導線材に関し、特に均質な長尺線材を安定して製造する方法およびそれによって製造されたMgB2超電導線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MgB2超電導体は、金属系超電導体として最も高い臨界温度(39 K)を有し、液体ヘリウムフリー(例えば10〜20 K)で運転する超電導磁石を実現する超電導材料として期待されている。超電導磁石を構成する超電導線材としては、自身が発生する高磁界中でも高い電流密度を維持し、かつ均質な長尺線材(例えば1 km以上)が必要となる。
【0003】
MgB2超電導線材は、Mg粉末とB粉末との混合粉末またはMgB2粉末、更にはそれらに第三元素を添加した混合粉末を金属シース管に充填し、伸線加工する方法(いわゆるパウダー イン チューブ法)で一般的に作製される。また、MgB2超電導線材の超電導特性を向上させることを目的として様々な研究開発が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2004-192934)には、MgB2超電導線材において、該超電導線材に含まれる超電導物質中に金属粉末が添加され、該金属粉末がインジウム,錫,鉛,鉄,マグネシウム,アルミニウムの少なくとも1種から選ばれ、前記超電導物質中に平均粒径20μm以下の前記金属粉末が5〜25 vol%分散され、最終加工後の該超電導線材に含まれる超電導物質の密度を理論密度の90%以上とするMgB2超電導線材が開示されている。特許文献1によると、上記規定に合致したMgB2超電導線材は、従来よりも良好な超電導特性(例えば、高い臨界電流密度)を有すると報告されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2005-129412)には、平均粒径500 nm以下のナノサイズのMg粉末とともにB粉末、さらに添加剤としてSiC(炭化ケイ素)粉末を加えたものを金属シースに入れて線材加工し、次いで500〜800℃の温度範囲で加熱処理するMgB2超電導線材の製造方法が開示されている。特許文献2によると、従来よりも良好な臨界電流密度特性を有するMgB2超電導線材が得られると報告されている。
【0006】
また、特許文献3(特開2009-134969)には、Cu(銅)またはCu基合金とFe(鉄)またはFe基合金とからなる複合シース材中に、MgとBとを充填して構成されるMgB2超電導線材の製造方法において、伸線加工と、500〜540℃の中間熱処理とを繰り返し行って、加工するMgB2超電導線材の製造方法が開示されている。特許文献3によると、従来と同等な高い臨界電流密度特性を維持しながら、従来よりも長尺な(断線せずに製造できる)MgB2超電導線材が得られると報告されている。
【0007】
また、非特許文献1(K. S. Tan et al.)には、MgB2バルク超電導体に対してC(炭素)とCaCO3(炭酸カルシウム)とを共添加(0〜10質量%添加)したことに関する研究が報告されている。非特許文献1によると、5質量%の添加においてMgB2バルク超電導体の磁場中臨界電流密度と不可逆磁場が最も向上したと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−192934号公報
【特許文献2】特開2005−129412号公報
【特許文献3】特開2009−134969号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K. S. Tan, S. K. Chen, B-H. Jun, and C-J. Kim: “Enhancement in critical current density and irreversibility field of bulk MgB2 by C and CaCO3 co-addition”, Supercond. Sci. Technol. 21 (2008) 105013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、超電導線材を実用化するためには、自身が発生する高磁界中でも良好な超電導特性を維持し、かつ均質な長尺線材(例えば1 km以上)が必要である。しかしながら、MgB2超電導線材は未だ開発途上であることから、超電導特性の向上を目的とした研究開発が主流であり(特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照)、均質な長尺線材に関する報告は極めて少ない。
【0011】
一方、特許文献3は、長尺線材に関する数少ない報告のうちの1つであるが、MgB2超電導線材の金属シース材として500〜540℃の温度領域で焼鈍が可能な金属材料を用いた場合に限定されるものであり、超電導線材の設計自由度(例えば、金属シース材料の選定)という観点において必ずしも十分ではなかった。すなわち、金属シースの材質に関係なく、超電導特性の高性能化と線材長尺化とを具現化することができる製造方法がもとめられている。
【0012】
従って、本発明の目的は、超電導特性の高性能化と線材長尺化とを合わせて具現化することができるMgB2超電導線材の製造方法およびそれによるMgB2超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様は、上記目的を達成するため、次のような特徴を有する。
金属パイプに原料粉末を充填した後に伸線加工する二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法であって、脂肪酸金属塩または前記脂肪酸金属塩と脂肪酸との混合物を前記原料粉末に添加することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の態様は、上記目的を達成するため、次のような特徴を有する。
脂肪酸金属塩が添加された原料粉末を金属パイプに充填した後に伸線加工して製造された二ホウ化マグネシウム超電導線材であって、前記脂肪酸金属塩を構成する金属元素の酸化物が前記超電導線材中の二ホウ化マグネシウム結晶粒子の中に分散していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超電導特性の高性能化と線材長尺化とを兼ね合わせたMgB2超電導線材の製造方法およびそれによるMgB2超電導線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る製造方法により製造したMgB2超電導線材の構造例を示す断面模式図である。
【図2】実施例1および比較例1の超電導特性の評価結果(臨界電流密度と印加磁場の関係)を示すグラフである。
【図3】本発明に係る製造方法により製造したMgB2超電導線材の他の構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0018】
前述したように、本発明に係るMgB2超電導線材の製造方法は、金属パイプに原料粉末を充填した後に伸線加工する製造方法であって、脂肪酸金属塩または前記脂肪酸金属塩と脂肪酸との混合物を前記原料粉末に添加することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記の発明に係るMgB2超電導線材の製造方法において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記脂肪酸または前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸が、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、イコサトリエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、およびメリシン酸から選ばれる1種である。
(2)前記脂肪酸金属塩を構成する金属元素が、第2族元素(具体的には、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba))である。
(3)前記脂肪酸金属塩または前記混合物の添加量が、前記原料粉末に対して0.001質量%以上20質量%以下である。
(4)前記伸線加工の後に、非酸化性雰囲気中かつ600℃以上の温度領域で熱処理を施す。
(5)前記非酸化性雰囲気は、水分(H2O)と酸素(O2)とが共に10 ppm以下であるアルゴン(Ar)雰囲気または中真空以上の真空度を有する真空である。
(6)前記金属パイプが、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ニッケル(Ni)もしくはこれらの合金、またはこれらを複合させた構造である。
【0020】
上述の製造方法に加えて、本発明に係るMgB2超電導線材は、脂肪酸金属塩が添加された原料粉末を金属パイプに充填した後に伸線加工して製造されたものであって、前記脂肪酸金属塩を構成する金属元素の酸化物が前記超電導線材中のMgB2結晶粒子の中に分散していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記の発明に係るMgB2超電導線材において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(7)上記のMgB2超電導線材を用いた超電導コイルを提供する。
(8)上記の超電導コイルを用いて構成された超電導マグネットシステムを提供する。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明の具体例を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。図1は、本発明に係る製造方法により製造したMgB2超電導線材の構造例を示す断面模式図である。図1に示すように、MgB2超電導線材10は、超電導コア部1と金属シース部2とからなる構造を有している。図1においては、金属シース部2として、安定化層4となるCu層およびバリア層3となるNb層からなる複合管(以下、Cu/Nb管と称する)を用いた場合を示した。なお、安定化層4としては、Cu、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、またはその合金を利用することができる。また、バリア層3としては、Nb、Fe、Ta、Ni、またはその合金を利用することができる。
【0023】
(実施例1の作製)
MgB2超電導体の原料粉末となるMg粉末としては、平均粒径が45μm以下、純度が99%以上のものを用い、同じく原料粉末となるB粉末としては、平均粒径が1μm以下、純度が95%以上のものを用いた。はじめに、Arガスを充満させたグローブボックス内で、該Mg粉末と該B粉末とをMgB2の化学量論組成である1:2となるように秤量し、ボールミルポットへ両粉末を入れた後、該ポットを封止した。
【0024】
このとき、粉末を取り扱うグローブボックス内雰囲気中の水分量と酸素量は、共に10 ppm以下に制御することが望ましい。この量を超えると原料粉末(特にMg粉末)が酸化しやすくなり、超電導特性を劣化させる要因となる。また、Mg粉末とB粉末との混合比は、厳密に1:2である必要はなく、1.0:1.5〜1.0:3.0が好ましく、1.0:2.0〜1.0:2.5が特に好ましい。
【0025】
封止したポットをグローブボックスの外部へ取り出し、遊星ボールミル装置を用いて原料粉末を混合した。混合条件としては、回転数を400 rpm、時間を8時間とした。なお、混合装置としては、遊星ボールミル装置以外にも、ボールミル装置、Vミキサー、乳鉢混合などを利用可能である。
【0026】
次に、混合した原料粉末に対して5.0質量%のステアリン酸カルシウムを添加し、Vミキサー装置を用いて混合して添加剤混合原料粉末を得た。混合時間は1時間とした。ここで、脂肪酸金属塩の添加量は、原料粉末に対して0.001〜20質量%が好ましい。これは、0.001質量%以下では、添加量が少な過ぎるため長尺加工性・長尺均一性に関する効果および超電導特性に関するカーボンドープ効果が得られないためである(詳細は後述する)。一方、20質量%超では、カーボン成分の添加量が多過ぎるため超電導特性が低下するためである。
【0027】
得られた添加剤混合原料粉末に対して、充填前熱処理(例えば、Ar雰囲気中、450〜650℃で1〜30時間保持)を施して充填粉末を準備した。なお、充填前熱処理は必須の工程ではなく、充填前熱処理を施さなくても同様の結果が得られることを別途確認した。
【0028】
金属シース部となる金属パイプとして、Cu/Nb管(外径18.0 mm、内径11.0 mm、長さ500 mm)を用意した。上述で準備した充填粉末を該Cu/Nb管に充填して、粉末充填ビレットを作製した。その後、ドローベンチを用いて該粉末充填ビレットを伸線加工した。その結果、線材径がφ1.2 mm、線材長さが150 mの長尺線材を無断線で加工可能であった。最後に、伸線加工した長尺線材に対して、Ar雰囲気中(水分と酸素とが共に10 ppm以下)、660℃で1時間保持の焼結熱処理を施すことにより実施例1のMgB2超電導線材を作製した。
【0029】
なお、焼結熱処理温度は、500〜900℃が好ましく、600〜660℃がより好ましい。また、熱処理中の雰囲気は、Ar以外にも窒素(N2)などの不活性ガスまたは中真空以上の真空度を有する真空(総称して非酸化性雰囲気)が好ましく、いずれにおいても水分と酸素の含有量が共に10 ppm以下であることが好ましい。
【0030】
(比較例1の作製)
伸線加工性の比較のため、ステアリン酸カルシウムを添加しない原料粉末を用いて、実施例1と同様の手順で線材径がφ1.2 mmの比較例1のMgB2超電導線材の作製を試みた。しかしながら、線材径φ1.4 mmの伸線加工中とφ1.3 mmの伸線加工中にそれぞれ2〜3回の断線が発生し、長尺線材を安定して得ることができなかった。この結果から、ステアリン酸カルシウムを添加した原料粉末(添加剤混合原料粉末)を用いることによって、伸線加工における安定性(加工性)が改善されることが確認できた。
【0031】
(超電導特性の評価)
作製した実施例1および比較例1のMgB2超電導線材に対して、超電導特性の評価を行った。図2は、実施例1および比較例1の超電導特性の評価結果(臨界電流密度Jcと印加磁場Bの関係)を示すグラフである。なお、実施例1の測定試料(約3 cmの短尺試料)は、150 mの長尺線材の両端部分から切り出した試料とした。また、比較例1の測定試料は、伸線加工中に断線が発生したため、最も長い線材の両端部分から切り出した試料とした。測定条件は、液体ヘリウム(4.2 K)中で通電電流に対して垂直磁場を印加した。
【0032】
図2に示したように、実施例1のMgB2超電導線材は、7 Tの磁場中でそれぞれ300 A/mm2と280 A/mm2という良好な臨界電流密度特性を示すとともに、試料間でのバラツキも小さいことが確認された。一方、比較例1のMgB2超電導線材は、臨界電流密度特性が実施例1の1/3〜1/5と小さく、かつ試料間でのバラツキも大きかった。また、実施例1の長尺線材の残部を用いて無誘導巻きの超電導磁石を作製し、長尺線材における超電導特性を評価したところ、短尺試料の超電導特性と同等であることが確認された。
【0033】
上述した伸線加工および超電導特性の評価結果から、脂肪酸金属塩を添加した原料粉末を用いた本発明に係るMgB2超電導線材は、脂肪酸金属塩を添加しない原料粉末を用いた従来のMgB2超電導線材に比べて、良好な長尺加工性および良好な超電導特性ならびに長尺均一性を有していることが確認された。
【0034】
(長尺加工性・長尺均一性に関する考察)
ステアリン酸カルシウムを代表とする本発明で用いた脂肪酸金属塩は、金属の表面で吸着膜を生成し、いわゆる金属石鹸として機能する性質がある。本発明に係るMgB2超電導線材の製造方法においては、この吸着膜を原料粉末の表面に形成させることで、原料粉末同士や、原料粉末と金属パイプ内面との間の潤滑性を向上させて摩擦抵抗を低減させられると考えられる。言い換えると、充填した原料粉末全体の流動性が向上して、伸線加工中における線材の断線率を劇的に低減させられたものと考えられる。また、原料粉末全体の流動性が向上することは、粉末同士の固結・凝集を防止することにつながり、金属シース内での原料粉末の均一分布性が向上したものと考えられる。これらのことから、本発明に係るMgB2超電導線材は、良好な長尺加工性と高い長尺均一性を有していたものと言える。
【0035】
(超電導特性に関する考察)
超電導特性(通電特性)の向上には、次の3点が寄与したと考えられる。(a)MgB2焼結熱処理時におけるカーボンドープ効果、(b)脂肪酸金属塩を構成する金属元素の酸化物に起因する磁束ピンニング効果、(c)吸着膜や金属酸化物生成による酸化抑制効果。以下、それぞれについて、更に考察する。
【0036】
(a)MgB2焼結熱処理時におけるカーボンドープ効果
本発明で用いた脂肪酸金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、融点:179℃)は、温度が高くなると脂肪酸と金属とに解離し、最終的にはカーボンと解離した金属とが原料粉末表面に残存する。従って、原料粉末同士の界面にはカーボンと解離した金属、さらに解離した金属の酸化物が存在すると考えられる。この状態になった後に、焼結熱処理工程においてMgB2超電導体を反応焼結させるため、生成したMgB2超電導体にカーボンドープ効果(特許文献2、非特許文献1参照)が生じたものと考えられる。
【0037】
(b)脂肪酸金属塩を構成する金属元素の酸化物に起因する磁束ピンニング効果
上述したように、脂肪酸金属塩を添加混合した原料粉末は、温度が上昇すると原料粉末同士の界面に、脂肪酸金属塩から解離・分解したカーボンと金属、さらに解離した金属の酸化物が存在すると考えられる。これらの内で解離した金属の酸化物は、MgB2超電導体の反応焼結時にMgB2結晶粒界に偏析すると考えられ、それによりMgB2結晶粒の粗大化が抑制されると考えられる。これはMgB2超電導体の結晶粒界が増加することにつながる。すなわち、本発明に係る脂肪酸金属塩を添加混合した原料粉末を用いて作製したMgB2超電導体には、脂肪酸金属塩から解離した金属の酸化物に起因する磁束ピンニングセンタ(例えば、MgB2超電導体の結晶粒界および該金属酸化物)が導入され、MgB2超電導線材の超電導特性が向上したものと考えられる。
【0038】
(c)吸着膜や金属酸化物生成による酸化抑制効果
前述したように、本発明で用いた脂肪酸金属塩は、原料粉末の表面に吸着膜を形成し、温度上昇によって該脂肪酸金属塩を構成するカーボンと金属に解離する。このとき、解離によって生じる金属粒子は、原料粉末よりもはるかに小さい粒径を有すると考えられ、化学的により活性な状態(表面エネルギが高い状態)にあると考えられる。そのため、より優先的に酸素と化合して酸化物を生成し、その結果、酸素ゲッター材として機能し原料粉末に対する酸化抑制効果を有すると考えられる。
【0039】
(実施例2の作製)
バリア層となる金属パイプとしてNd管を用意し、実施例1と同様の手順で準備した充填粉末を該Nd管に充填して、粉末充填ビレットを作製した。ドローベンチを用いて該粉末充填ビレットを所定の寸法まで伸線加工した後、6本の組み込み用素線として切り出した。安定化層となる6孔のCu管を別途用意し、各孔に組み込み用素線を挿入して、多芯線ビレットを作製した。
【0040】
その後、ドローベンチを用いて該多芯線ビレットを伸線加工した。その結果、線材径がφ1.2 mm、線材長さが200 mの長尺線材を無断線で加工可能であり、良好な長尺加工性を有することが確認された。最後に、伸線加工した長尺線材に対して、1 Paの真空中、660℃で1時間保持の焼結熱処理を施すことにより実施例2のMgB2超電導線材を作製した。
【0041】
図3は、本発明に係る製造方法により製造したMgB2超電導線材の他の構造例を示す断面模式図である。図3に示すように、MgB2超電導線材20は、超電導コア部1と金属シース部2’とからなる構造を有している。図3においては、金属シース部2’として、安定化層4’となるCu層およびバリア層3となるNb層からなる場合を示した。作製した実施例2のMgB2超電導線材に対して、実施例1と同様の超電導特性の評価を行ったところ、実施例1と同様に良好な超電導特性ならびに長尺均一性を有していることが確認された。
【0042】
以上、実施例1、2においては金属シース内でMgB2超電導体を生成させる方法(いわゆるin-situ法)を例として説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、あらかじめ合成したMgB2粉末を原料粉末として金属パイプに充填する方法(いわゆるex-situ法)であっても同様の効果が得られることを別途確認した。
【0043】
また、脂肪酸金属塩の代表としてステアリン酸カルシウムを用いた場合について説明したが、本発明はそれに限定されるものではない。例えば、ステアリン酸以外の脂肪酸としては、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、イコサトリエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、およびメリシン酸で同様の効果を得ることができる。一方、Ca以外の金属元素としては、Mg、Sr、Baで同様の効果を得ることができる。
【0044】
さらに、本発明に係るMgB2超電導線材の用途に特段の限定はなく、電流リード、送電ケーブル、大型マグネット、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、冷凍機冷却超電導マグネット装置、超電導エネルギー貯蔵、超電導発電機、核融合炉用マグネット等の機器において適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10,20…MgB2超電導線材、
1…超電導コア部、2,2’…金属シース部、3…バリア層、4,4’…安定化層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属パイプに原料粉末を充填した後に伸線加工する二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法であって、脂肪酸金属塩または前記脂肪酸金属塩と脂肪酸との混合物を前記原料粉末に添加することを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、
前記脂肪酸または前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸が、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、イコサトリエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、およびメリシン酸から選ばれる1種であることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、
前記脂肪酸金属塩を構成する金属元素が、第2族元素であることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、
前記脂肪酸金属塩または前記混合物の添加量が、前記原料粉末に対して0.001〜20質量%であることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、
前記伸線加工の後に、非酸化性雰囲気中かつ600℃以上の温度領域で熱処理を施すことを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、
前記非酸化性雰囲気は、水分と酸素とが共に10 ppm以下であるアルゴン雰囲気または中真空以上の真空度を有する真空であることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、
前記金属パイプが、鉄、銅、ニオブ、タンタル、ニッケルもしくはこれらの合金、またはこれらを複合させた構造であることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法によって製造されたことを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項9】
脂肪酸金属塩が添加された原料粉末を金属パイプに充填した後に伸線加工して製造された二ホウ化マグネシウム超電導線材であって、前記脂肪酸金属塩を構成する金属元素の酸化物が前記超電導線材中の二ホウ化マグネシウム結晶粒子の中に分散していることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項10】
請求項9に記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材において、
前記金属パイプが、鉄、銅、ニオブ、タンタル、ニッケルもしくはこれらの合金、またはこれらを複合させた構造であることを特徴とする二ホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載の二ホウ化マグネシウム超電導線材を用いたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項12】
請求項11に記載の超電導コイルを用いて構成されたことを特徴とする超電導マグネットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−14912(P2012−14912A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149138(P2010−149138)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】