説明

NEIL3ペプチドおよびそれを含むワクチン

本発明は、HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導する、SEQ ID NO:45由来の単離されたペプチドまたは断片を提供する。本ペプチドは、1個、2個、または数個のアミノ酸配列の置換、欠失、または付加を伴う上記のアミノ酸配列を含み得る。本発明はまた、これらのペプチドを含む薬学的組成物も提供する。本発明のペプチドは、がんを診断または治療するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月18日に出願された米国仮特許出願第61/210,512号の恩典を主張し、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。
本発明は、生物科学の分野、より具体的にはがん治療の分野に関連する。特に本発明は、がんワクチンとして極めて有効な新規ペプチド、ならびに腫瘍を治療および予防するための薬物に関連する。
【背景技術】
【0002】
CD8陽性CTLは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上の腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識し、その後、腫瘍細胞を死滅させることが実証されている。TAAの最初の例としてメラノーマ抗原(MAGE)ファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが、免疫学的アプローチによって発見されており(非特許文献1/Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80;非特許文献2/Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9)、このTAAのいくつかは、現在、免疫療法の標的として臨床開発の過程にある。
強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAの同定により、様々な種類のがんにおけるペプチドワクチン接種戦略のさらなる発展および臨床的適用が保証される(非特許文献3/Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55;非特許文献4/Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42;非特許文献5/Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9;非特許文献6/van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14;非特許文献7/Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8;非特許文献8/Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72;非特許文献9/Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66;非特許文献10/Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94)。これまでに、これらの腫瘍関連抗原由来ペプチドを用いた臨床試験がいくつか報告されている。残念ながらこれまでのところ、これらのがんワクチン試験では低い客観的奏功率しか観察できていない(非特許文献11/Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80;非特許文献12/Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42;非特許文献13/Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15)。
【0003】
免疫療法の標的としての、好適なTAAは、がん細胞の増殖および生存に不可欠であり、そのわけは、そのようなTAAを用いることで、治療によって誘発される免疫選択の結果としてのTAAの欠失、変異、または下方制御に起因し得るがん細胞の免疫回避の詳説されているリスクが、最小限に抑えられ得るためである。
その一方で、NeiエンドヌクレアーゼVIII様3(Nei endonuclease VIII-like 3: NEIL3)は、細菌Fpg/Neiファミリーと相同であるDNAグリコシラーゼのクラスに属するメンバーとして単離されている(非特許文献14/Bandaru et al., DNA Repair (Amst). 2002 Jul 17;1(7):517-29)。これらのグリコシラーゼは、活性酸素種によって損傷を受けた塩基を切断し、関連リアーゼ反応を介してDNA鎖切断を導入することにより、塩基除去修復の第1段階を開始する。NEIL3はDNA修復機構において役割を果たす可能性があるが、発がんとのその関連性は解明されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80
【非特許文献2】Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9
【非特許文献3】Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55
【非特許文献4】Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42
【非特許文献5】Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9
【非特許文献6】van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14
【非特許文献7】Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8
【非特許文献8】Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72
【非特許文献9】Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66
【非特許文献10】Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94
【非特許文献11】Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80
【非特許文献12】Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42
【非特許文献13】Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15
【非特許文献14】Bandaru et al., DNA Repair (Amst). 2002 Jul 17;1(7):517-29
【発明の概要】
【0005】
本発明は、免疫療法に適用可能な標的の発見に少なくとも一部基づいている。TAAは概して免疫系によって「自己」として認識され、したがって免疫原性がない場合が多いため、適切な標的を発見することは極めて重要である。上記したように、NEIL3(GenBankアクセッション番号NM_018248(例えば、SEQ ID NO:44)の遺伝子によってコードされるSEQ ID NO:45)が、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、小細胞肺癌(SCLC)、軟部組織腫瘍、急性骨髄性白血病(AML)、および慢性骨髄性白血病(CML)などのがんにおいて上方制御されると同定された。したがって、NEIL3は癌/腫瘍免疫療法の標的候補である。
【0006】
本発明は、NEIL3に特異的なCTLを誘導する能力を有する、NEIL3の遺伝子産物の特異的エピトープペプチドの同定に少なくとも一部基づいている。以下に詳述するように、健常ドナーから得られた末梢血単核細胞(PBMC)を、NEIL3由来のHLA−A2402またはHLA−A0201に結合する候補ペプチドを用いて刺激した。次に、各候補ペプチドをパルスしたHLA−A24陽性またはHLA−A2陽性の標的細胞に対する特異的細胞傷害性を有するCTL株を樹立した。これらの結果から、これらのペプチドが、NEIL3を発現する細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A24拘束性またはHLA−A2拘束性のエピトープペプチドであることが実証される。さらに、NEIL3は免疫原性が強く、そのエピトープは癌/腫瘍免疫療法の有効な標的であることが示された。
【0007】
したがって、本発明は、NEIL3(SEQ ID NO:45)またはその免疫学的活性断片からなる、HLA抗原に結合する単離されたペプチドを提供する。これらのペプチドはCTL誘導能を有すると予測され、かつ、CTLをエクスビボで誘導するため、または膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、子宮内膜症、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、SCLC、およびAMLなどのがんに対する免疫応答を誘導するために対象に投与するために用いることができる。好ましくは、これらのペプチドはノナペプチドまたはデカペプチドであり、より好ましくは、SEQ ID NO:1〜43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる。特に、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ配列からなるペプチドは、強力なCTL誘導能を示した。
【0008】
本発明のペプチドは、改変されたペプチドが元のCTL誘導能を保持する限り、1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、または付加されたペプチドを含む。
さらに本発明は、本発明の任意のペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。これらのポリヌクレオチドは、本発明のペプチドと同様に、CTL誘導能を有するAPCを誘導もしくは調製するために、またはがんに対する免疫応答を誘導するために対象に投与するために、用いることができる。
【0009】
対象に投与した場合、本発明のペプチドはAPCの表面上に提示され、その後、各ペプチドを標的とするCTLを誘導する。したがって、本発明の1つの局面によると、CTLを誘導するための、本発明の任意のペプチドまたはポリヌクレオチドを含む組成物または物質も提供される。さらに、任意のペプチドまたはポリヌクレオチドを含む組成物または物質を、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLなどのがんを治療および/もしくは予防するために、ならびに/または術後のその再発を予防するために用いることができる。したがって、本発明はまた、本発明の任意のペプチドまたはポリヌクレオチドを含む、がんの治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防のための、薬学的な組成物または物質も提供する。本発明の薬学的な組成物または物質は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドの代わりに、またはそれに加えて、本発明のペプチドのいずれかを提示するAPCまたはエキソソームを、有効成分として含んでもよい。
【0010】
本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドは、例えば、対象由来のAPCを本ペプチドと接触させるか、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをAPCに導入することによって、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCを誘導することができる。そのようなAPCは標的ペプチドに対する高いCTL誘導能を有し、がん免疫療法において有用である。したがって、本発明は、CTL誘導能を有するAPCを誘導する方法、および該方法によって得られるAPCを包含する。
【0011】
本発明はまた、CD8陽性細胞を、本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCもしくはエキソソームと共培養する段階、または本発明のペプチドに結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を導入する段階を含む、CTLを誘導するための方法も提供する。本発明の方法によって得られ得るCTLは、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLなどのがんを治療および/または予防するために有用であり得る。したがって、本発明は、本発明の方法によって得られるCTLを包含する。
【0012】
さらに本発明は、NEIL3ポリペプチドもしくはその免疫学的活性断片、NEIL3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはNEIL3ポリペプチドを提示するエキソソームもしくはAPCを含む組成物または物質を投与する段階を含む、がんに対する免疫応答を誘導するための方法を提供する。
本発明はまた、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLなどの癌を含むがこれらに限定されないがんを診断する方法も提供する。
本発明は、癌などの、NEIL3過剰発現に関連する任意の疾患に適用することができ、例示的な癌には、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、NEIL3由来のペプチドを用いて誘導したCTLにおけるIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を示す写真を示す。NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)で刺激したウェル番号#8中のCTL(a)、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)で刺激した#2中のCTL(b)、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)で刺激した#4および5中のCTL(c)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)で刺激した#3中のCTL(d)、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)で刺激した#1中のCTL(e)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)で刺激した#3中のCTL(f)、NEIL3−A2−10−340(SEQ ID NO:17)で刺激した#1中のCTL(g)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)で刺激した#2および3中のCTL(h)、NEIL3−A2−10−378(SEQ ID NO:22)で刺激した#6中のCTL(i)、ならびに(HLA−A0206に対する)NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)で刺激した#9、10、12、および13中のCTL(j)は、それぞれ対照と比較して強力なIFN−γ産生を示した。これらの写真のウェル上の四角は、対応するウェルから細胞を増殖させてCTL株を樹立したことを示す。図中、「+」は、適切なペプチドをパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図2−1】図2−1は、IFN−γ ELISAアッセイによって検出された、NEIL3−A2−585(SEQ ID NO:3)(a)、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)(b)、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(c)(d)、およびNEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)(e)で刺激したCTL株のIFN−γ産生を示す、折れ線グラフを示す。これにより、各ペプチドによる刺激によって樹立されたCTL株が、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示すことが実証された。図中、「+」は、適切なペプチドをパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図2−2】図2−2は、IFN−γ ELISAアッセイによって検出された、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)(f)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)(g)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)(h)(i)、および(HLA−A020に対する)NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(j)(k)で刺激したCTL株のIFN−γ産生を示す折れ線グラフを示す。これにより、各ペプチドによる刺激によって樹立されたCTL株が、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示すことが実証された。図中、「+」は、適切なペプチドをパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図3】図3は、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(a)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)(b)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)(c)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)(d)、および(HLA−A0206に対する)NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(e)で刺激したCTL株から限界希釈により樹立されたCTLクローンのIFN−γ産生を示す。これにより、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(a)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)(b)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)(c)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)(d)、および(HLA−A0206のための)NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(e)による刺激によって樹立されたCTLクローンが、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示すことが実証された。図中、「+」は、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(a)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)(b)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)(c)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)(d)、および(HLA−A0206に対する)NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(e)をパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図4−1】図4は、NEIL3およびHLA−A0201またはHLA−A0206を外因的に発現する標的細胞に対する特異的CTL活性を示す折れ線グラフを示す。HLA−A0201、HLA−A0206、または全長NEIL3遺伝子をトランスフェクトしたCOS7細胞を対照として調製した。NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(a)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)(b)、およびNEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)(c)を用いて樹立されたCTLクローンは、NEIL3およびHLA−A0201の両方をトランスフェクトしたCOS7細胞に対して特異的CTL活性を示した(黒菱形)。一方、HLA(三角)またはNEIL3(丸)のいずれかを発現する標的細胞に対して、有意な特異的CTL活性は検出されなかった。
【図4−2】図4は、NEIL3およびHLA−A0201またはHLA−A0206を外因的に発現する標的細胞に対する特異的CTL活性を示す折れ線グラフを示す。HLA−A0201、HLA−A0206、または全長NEIL3遺伝子をトランスフェクトしたCOS7細胞を対照として調製した。(HLA−A0206に対する)NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)(d)を用いて樹立されたCTLクローンは、NEIL3およびHLA−A0206の両方をトランスフェクトしたCOS7細胞に対して特異的CTL活性を示した(黒菱形)。一方、HLA(三角)またはNEIL3(丸)のいずれかを発現する標的細胞に対して、有意な特異的CTL活性は検出されなかった。
【図5】図5は、肝癌におけるNEIL3の発現を示す写真を示す。パートAは、半定量的RT−PCRによって調べた臨床肝癌組織におけるNEIL3の発現を示す。パートBは、半定量的RT−PCRによって調べたHCC細胞株におけるNEIL3の発現を示す。
【図6】図6は、NEIL3由来のペプチドで誘導したCTLにおけるIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を示す写真を示す。NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)で刺激したウェル番号#7(a)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)で刺激した#6(b)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)で刺激した#2および#8(c)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)で刺激した#8(d)、NEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)で刺激した#1および#4(e)中のCTLは、それぞれ対照と比較して強力なIFN−γ産生を示した。これらの写真のウェル上の四角は、対応するウェルから細胞を増殖させてCTL株を樹立したことを示す。対照的に、陰性データの典型的な例として、ペプチドパルスした標的細胞に対する、NEIL3−A24−9−364(SEQ ID NO:25)で刺激したCTLからの特異的なIFN−γ産生は示されなかった(f)。図中、「+」は、適切なペプチドをパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図7】図7は、IFN−γ ELISAアッセイによって検出された、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)(a)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)(b)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)(c)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)(d)、およびNEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)(e)で刺激したCTL株のIFN−γ産生を示す折れ線グラフを示す。これにより、各ペプチドによる刺激によって樹立されたCTL株が、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示すことが実証された。図中、「+」は、適切なペプチドをパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図8】図8は、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)(a)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)(b)、およびNEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)(c)で刺激したCTL株から限界希釈により樹立されたCTLクローンのIFN−γ産生を示す折れ線グラフを示す。これにより、各ペプチドによる刺激によって樹立されたCTLクローンが、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示すことが実証された。図中、「+」は、適切なペプチドをパルスした標的細胞に対するIFN−γ産生を示し、「−」は、いずれのペプチドもパルスしなかった標的細胞に対するIFN−γ産生を示す。
【図9】図9は、NEIL3およびHLA−A2402を外因的に発現する標的細胞に対する特異的なCTL活性を示す折れ線グラフを示す。HLA−A2402または全長NEIL3遺伝子をトランスフェクトしたCOS7細胞を対照として調製した。NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)を用いて樹立されたCTLクローンは、NEIL3およびHLA−A2402の両方をトランスフェクトしたCOS7細胞に対して特異的CTL活性を示した(黒菱形)。対照的に、HLA−A2402(三角)またはNEIL3(丸)のいずれかを発現する標的細胞に対して、有意な特異的CTL活性は検出されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等な任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかしながら、本材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定の大きさ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および/または最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、同様に理解されるべきである。
【0015】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、特に他に具体的に指示がない限り「少なくとも1つ」を意味する。
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が修飾された残基であり得るかまたは対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であり得るアミノ酸ポリマーと、天然アミノ酸ポリマーとに適用される。
【0016】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。アミノ酸は、L−アミノ酸またはD−アミノ酸のどちらでもあり得る。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、1つまたは複数の修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化合物を指す。
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、一般に公知の3文字表記または1文字表記により参照されてもよい。
【0017】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、他に特記しない限り、これらは、一般に受け入れられている1文字コードにより参照されるアミノ酸と同様である。
特記しない限り、「がん」という用語はNEIL3遺伝子を過剰発現しているがんを指し、その例には、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれるが、これらに限定されない。
特記しない限り、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、特に別段の定めのない限り、非自己細胞(例えば、腫瘍/がん細胞、ウイルス感染細胞)を認識すること、およびそのような細胞の死滅を誘導することができるTリンパ球のサブグループを指す。
【0018】
特記しない限り、「HLA−A24」という用語は、HLA−A2402などのサブタイプを含むHLA−A24型を指す。
特記しない限り、本明細書で使用する「HLA−A2」という用語は、典型的には、HLA−A0201およびHLA−A0206などのサブタイプを指す。
特記しない限り、本明細書で使用する「キット」という用語は、試薬および他の物質の組み合わせに関して用いられる。本明細書では、キットはマイクロアレイ、チップ、マーカー等を含み得ることが企図される。「キット」という用語は、試薬および/または物質の特定の組み合わせに限定されないことが意図される。
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0019】
II.ペプチド
NEIL3由来のペプチドが、CTLによって認識される抗原として機能することを実証するために、NEIL3(SEQ ID NO:45)由来のペプチドを解析して、それらが、一般的に見られるHLAアリルであるHLA−A24またはA2によって拘束される抗原エピトープであるかどうかを決定した(Date Y et al., Tissue Antigens 47: 93-101, 1996;Kondo A et al., J Immunol 155: 4307-12, 1995;Kubo RT et al., J Immunol 152: 3913-24, 1994)。
NEIL3由来のHLA−A2結合ペプチドの候補を、HLA−A2に対するそれらの結合親和性の情報を用いて同定した。候補ペプチドは、SEQ ID NO:1〜23からなる群より選択されるペプチドである。
【0020】
さらに、これらのペプチドをパルスした(負荷した)樹状細胞(DC)によるT細胞のインビトロでの刺激後、以下の各ペプチドを用いてCTLを樹立することに成功した:
NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)、
NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)、
NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)、
NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)、
NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)、
NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)、
NEIL3−A2−10−340(SEQ ID NO:17)、
NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)、および
NEIL3−A2−10−378(SEQ ID NO:22)。
NEIL3由来のHLA−A24結合ペプチドの候補を、HLA−A24に対するこれらの結合親和性に基づいて同定した。該候補ペプチドは、SEQ ID NO:24〜43からなる群より選択されるペプチドである。
【0021】
さらに、これらのペプチドをパルスした(負荷した)樹状細胞(DC)によるT細胞のインビトロでの刺激後、以下の各ペプチドを用いてCTLを樹立することに成功した:
NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)、
NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)、
NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)、
NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)、および
NEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)。
樹立されたこれらのCTLは、それぞれのペプチドをパルスした標的細胞に対して強力な特異的CTL活性を示した。これらの結果から、NEIL3がCTLによって認識される抗原であること、および試験された該ペプチドがHLA−A24拘束性またはHLA−A2拘束性のNEIL3のエピトープペプチドであることが実証される。
【0022】
NEIL3遺伝子は、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLなどのがん細胞では過剰発現するが、大部分の正常臓器では発現しないため、これはがん免疫療法のための優れた標的である。したがって本発明は、CTLによって認識されるNEIL3由来のエピトープのノナペプチド(アミノ酸残基9個からなるペプチド)およびデカペプチド(アミノ酸残基10個からなるペプチド)を提供する。あるいは、本発明は、HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導する単離されたペプチドであって、該ペプチドが、SEQ ID NO:45のアミノ酸配列からなるか、またはその免疫学的活性断片である、ペプチドを提供する。より具体的にはいくつかの態様において、本発明は、ノナペプチドおよびデカペプチドの好ましい例に、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
【0023】
一般的に、Parker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75およびNielsen M et al., Protein Sci., 2003; 12:1007-17に記載されているソフトウェアプログラムなどの、例えばインターネット上で現在利用可能なソフトウェアプログラムを用いて、種々のペプチドとHLA抗原との間の結合親和性をインシリコで算出することができる。例えばParker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75、Kuzushima K et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81、Larsen MV et al. BMC Bioinformatics. 2007 Oct 31; 8: 424、Buus S et al. Tissue Antigens., 62:378-84, 2003、Nielsen M et al., Protein Sci 2003; 12: 1007-17、およびNielsen M et al. PLoS ONE 2007; 2: e796に記載されているようにHLA抗原との結合親和性を測定することができ、これらは例えば、Lafuente EM et al., Current Pharmaceutical Design, 2009, 15, 3209-3220で概説されている。結合親和性を決定するための方法は、例えばJournal of Immunological Methods, 1995, 185: 181-190;Protein Science, 2000, 9: 1838-1846に記載されている。したがって、そのようなソフトウェアプログラムを使用して、HLA抗原との高い結合親和性を有するNEIL3由来の断片を選択することができる。したがって本発明は、そのような公知のプログラムによってHLA抗原と結合すると判定されうるNEIL3由来の任意の断片からなるペプチドを包含する。さらにそのようなペプチドは、全長NEIL3からなるペプチドを含んでもよい。
【0024】
本発明のペプチドには、ペプチドがそのCTL誘導能を保持する限り、付加的なアミノ酸残基を隣接させることができる。付加的なアミノ酸残基は、それらが元のペプチドのCTL誘導能を損なわない限り、任意の種類のアミノ酸から構成され得る。したがって本発明は、NEIL3由来のペプチドを含む、HLA抗原に対する結合親和性を有するペプチドを包含する。例えばそのようなペプチドは、約40アミノ酸未満であり、約20アミノ酸未満である場合が多く、通常は約15アミノ酸未満である。
【0025】
一般的に、あるペプチド中の1個または複数のアミノ酸の改変は、該ペプチドの機能に影響を及ぼさず、場合によっては元のタンパク質の所望の機能を増強することさえあることが知られている。実際に、改変ペプチド(すなわち、元の参照配列に対する1個、2個、または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、または付加によって改変されたアミノ酸配列から構成されるペプチド)は、元のペプチドの生物学的活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。したがって、本発明の1つの態様によると、本発明のCTL誘導能を有するペプチドは、1個、2個、またはさらにそれ以上のアミノ酸が付加、欠失、および/または置換されている、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドで構成されうる。
【0026】
当業者は、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、または置換が、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらすことを認識するであろう;したがってこれは「保存的置換」または「保存的改変」と称され、この場合、タンパク質の変化により類似の機能を有するタンパク質が生じる。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族基含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、互いに対する保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0027】
このような保存的改変ペプチドもまた、本発明のペプチドと見なされる。しかしながら、本発明のペプチドはこれに限定されず、ペプチドがCTL誘導能を保持する限り、非保存的な改変を含み得る。さらに、改変ペプチドは、NEIL3の多型バリアント、種間相同体、および対立遺伝子のCTL誘導可能なペプチドを排除しない。
必要なCTL誘導能を保持するために、少数の(例えば、1個、2個、または数個の)またはわずかな割合のアミノ酸を改変する(付加または置換する)ことができる。本明細書において、「数個」という用語は、5個またはそれ未満のアミノ酸、例えば3個、またはそれ未満を意味する。改変するアミノ酸の割合は、20%もしくはそれ未満、例えば15%もしくはそれ未満、例えば10%、または1〜5%である。
【0028】
さらに、高い結合親和性を達成するようにアミノ酸残基を置換または付加することによって、ペプチドを置換または負荷してもよい。がん免疫療法において用いる場合、本発明のペプチドは、HLA抗原との複合体として、細胞またはエキソソームの表面上に提示される。天然に提示されるペプチドに加えて、HLA抗原への結合によって提示されるペプチドの配列の規則性は既知であるため(J Immunol 1994, 152: 3913;Immunogenetics 1995, 41: 178;J Immunol 1994, 155: 4307)、そのような規則性に基づいた改変を本発明の免疫原性ペプチドに導入することができる。
例えば、高いHLA−A2結合親和性を示すペプチドは、N末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されており、バリンまたはロイシンで置換されたC末端アミノ酸を有するペプチドもまた、好ましく使用することができる。したがって、アミノ酸配列のN末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されている、および/またはアミノ酸配列のC末端がバリンもしくはロイシンで置換されている、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、および22からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドは、本発明によって包含される。
【0029】
一方、高いHLA−A24結合親和性を有するペプチドでは、N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンで置換されており、かつC末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンで置換されている。したがって、N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、もしくはトリプトファンで置換されている、かつ/またはC末端がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、もしくはメチオニンで置換されている、SEQ ID NO:24、33、35、41、および43のアミノ酸配列を有するペプチドは、本発明によって包含される。
【0030】
末端アミノ酸においてのみならず、ペプチドの潜在的なT細胞受容体(TCR)認識部位においても、置換を導入することができる。いくつかの研究により、例えばCAP1、p53(264−272)、Her−2/neu(369−377)、またはgp100(209−217)など、アミノ酸置換を有するペプチドが元のものと同等のまたはより優れた機能を有し得ることが実証されている(Zaremba et al. Cancer Res. 57, 4570-4577, 1997、T. K. Hoffmann et al. J Immunol. (2002) Feb 1;168(3):1338-47.、S. O. Dionne et al. Cancer Immunol immunother. (2003) 52: 199-206、およびS. O. Dionne et al. Cancer Immunology, Immunotherapy (2004) 53, 307-314)。
さらに、1個、2個、または数個のアミノ酸が、本ペプチドのN末端および/またはC末端へと付加されてもよい。高いHLA抗原結合親和性を有し、かつCTL誘導能を保持するそのような改変ペプチドもまた、本発明に包含される。
【0031】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内因性または外因性のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合、自己免疫障害または特定の物質に対するアレルギー症状などの副作用が誘発される可能性がある。したがって、ペプチドの配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況を回避するために、利用可能なデータベースを用いて相同性検索を行うことができる。相同性検索から、対象ペプチドに対して1個または2個のアミノ酸が異なるペプチドさえも存在しないことが明らかになった場合には、前記副作用のいかなる危険も伴わずに、HLA抗原とのその結合親和性を増大させるために、および/またはそのCTL誘導能を増大させるために、該対象ペプチドを改変することができる。
【0032】
上記のようにHLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドは、非常に効果的であると予測されるが、指標としての高い結合親和性の存在に従って選択された候補ペプチドを、CTL誘導能の存在についてさらに調べる。本明細書において「CTL誘導能」という語句は、抗原提示細胞(APC)上に提示された場合にCTLを誘導するペプチドの能力を示す。さらに、「CTL誘導能」は、CTL活性化を誘導する、CTL増殖を誘導する、CTLによる標的細胞の溶解を促進する、およびCTLのIFN−γ産生を増加させる、ペプチドの能力を含む。
【0033】
CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保有するAPC(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(DC))、またはより具体的にはヒト末梢血単核白血球由来のDCを誘導し、かつペプチドによる刺激後、CD8陽性細胞と混合し、その後、標的細胞に対してCTLによって産生および放出されたIFN−γを測定することにより達成される。反応システムとして、ヒトHLA抗原を発現するように作製されたトランスジェニック動物(例えば、BenMohamed L, Krishnan R, Longmate J, Auge C, Low L, Primus J, Diamond DJ, Hum Immunol 2000 Aug, 61(8): 764-79, Related Articles, Books, Linkout Induction of CTL response by a minimal epitope vaccine in HLA A*0201/DR1 transgenic mice: dependent on MHC (HLA) class II restricted T(H) responseに記載されているもの)を用いることができる。例えば、標的細胞を51Cr等で放射標識することが可能であり、標的細胞から放出された放射能から細胞傷害活性を算出することができる。あるいは、固定化したペプチドを保有するAPCの存在下で、CTLによって産生および放出されたIFN−γを測定し、抗IFN−γモノクローナル抗体を用いて培地上の阻止帯を可視化することによって、検討してもよい。
【0034】
上記のようにペプチドのCTL誘導能を試験した結果、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43によって示されるアミノ酸配列からなるペプチドより選択されるノナペプチドまたはデカペプチドが、HLA抗原に対する高い結合親和性に加えて、特に高いCTL誘導能を示した。したがって、これらのペプチドは本発明の例示的態様である。
さらに、相同性解析の結果から、これらのペプチドが、任意の他の公知のヒト遺伝子産物に由来するペプチドと有意な相同性を有していないことが示された。このため、免疫療法に用いた場合の未知または望ましくない免疫応答の可能性は低くなる。したがって、この局面からもまた、これらのペプチドはがん患者においてNEIL3に対する免疫を誘発するのに使用される。よって、本発明のペプチドは、好ましくはSEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0035】
上記の本発明のペプチドの改変に加えて、本発明のペプチドは、それらがCTL誘導能を保持する限り、他のペプチドに連結させることもできる。他のペプチドの例には、本発明のペプチド、または他のTAAに由来するCTL誘導性ペプチドが含まれる。ペプチド間のリンカーは、例えばAAY(P. M. Daftarian et al., J Trans Med 2007, 5:26)、AAA、NKRK(R. P. M. Sutmuller et al., J Immunol. 2000, 165: 7308-7315)、またはK(S. Ota et al., Can Res. 62, 1471-1476、K. S. Kawamura et al., J Immunol. 2002, 168: 5709-5715)など、当技術分野で周知である。
例えば、HLAクラスIおよび/またはクラスIIを介する免疫応答を増大させるために、NEIL3でない腫瘍関連抗原ペプチドを実質的に同時に使用することもできる。がん細胞が2種以上の腫瘍関連遺伝子を発現できることは、十分に証明されている。特定の対象が付加的な腫瘍関連遺伝子を発現しているかどうかを判定すること、ならびに次に、本発明によるNEIL3組成物またはワクチン中に、そのような遺伝子の発現産物に由来するHLAクラスIおよび/またはHLAクラスII結合ペプチドを含めることは、当業者の日常的な実験法の範囲内である。
【0036】
HLAクラスIおよびHLAクラスII結合ペプチドの例は当業者に公知であり(例えば、Coulie, Stem Cells 13:393-403, 1995を参照されたい)、本明細書に開示したものと同様の様式で本発明において用いることができる。当業者は、1つもしくは複数のNEIL3ペプチドおよび1つもしくは複数の非NEIL3ペプチドを含むポリペプチド、またはそのようなポリペプチドをコードする核酸を、分子生物学の標準的な手順に従って調製することができる。
したがって、そのような「ポリトープ」は、様々な配置で(例えば、連鎖状に、重複して)共に連結され得る、2つまたはそれ以上の潜在的な免疫原性もしくは免疫応答刺激性のペプチドの群である。ポリトープ(または該ポリトープをコードする核酸)を標準的な免疫化プロトコールで例えば動物に投与して、免疫応答の促進、増強、および/または誘発におけるポリトープの有効性を試験することができる。
【0037】
ペプチドを直接的にまたは隣接配列の使用を介して一緒に連結してポリトープを形成することができ、またワクチンとしてのポリトープの使用は当技術分野において周知である(例えば、Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 92(13):5845-5849, 1995;Gilbert et al., Nature Biotechnol. 15(12):1280-1284, 1997;Thomson et al., J Immunol. 157(2):822-826, 1996;Tarn et al., J Exp. Med. 171(l):299-306, 1990を参照されたい)。様々な数および組み合わせのエピトープを含むポリトープを調製することができ、CTLによる認識について、および免疫応答の増大における有効性について試験することができる。
また本発明のペプチドは、CTL誘導能を保持する限り、他の物質にさらに連結させてもよい。そのような物質には、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が含まれ得る。本ペプチドは、修飾によって本明細書に記載のペプチドの生物学的活性が損なわれない限り、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。付加的な機能(例えば、標的化機能および送達機能)が付与されるかまたはポリペプチドが安定化されるように、これらの種類の修飾を実施することができる。
【0038】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、D−アミノ酸、アミノ酸模倣体、または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野で公知であり、この概念を本発明のポリペプチドに用いることもできる。ポリペプチドの安定性は、多数の方法でアッセイすることができる。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清などの様々な生物学的媒質を用いて、安定性を試験することができる(例えば、Verhoef et al., Eur J Drug Metab Pharmacokin 1986, 11: 291-302を参照されたい)。
【0039】
さらに、上記したように、1個、2個、または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、または付加した改変ペプチドの中から、元のペプチドと比較して同じかまたはそれよりも高い活性を有するものをスクリーニングまたは選択することができる。したがって本発明はまた、元と比較して同じかまたはそれよりも高い活性を有する改変ペプチドをスクリーニングまたは選択する方法を提供する。例えば、本方法は以下の段階を含み得る:
a:本発明のペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を置換、欠失、または付加する段階、
b:該ペプチドの活性を決定する段階、および
c:元と比較して同じかまたはそれよりも高い活性を有するペプチドを選択する段階。
本明細書において、活性には、MHC結合活性、APCまたはCTLの誘導能、および細胞傷害活性が含まれ得る。
本明細書において、本発明のペプチドはまた、「NEIL3ペプチド」または「NEIL3ポリペプチド」とも記載され得る。
【0040】
III.NEIL3ペプチドの調製
周知の技法を用いて、本発明のペプチドを調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成により、ペプチドを合成的に調製することができる。本発明のペプチドは、個々に、または2つもしくはそれ以上のペプチドを含むより長いポリペプチドとして、合成することができる。他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片、または任意の他の化学物質を実質的に含まないペプチドを単離、すなわち精製または単離することができる。
本発明のペプチドは、本明細書に記載したペプチドの生物学的活性が修飾によって損なわれない限り、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。他の修飾には、例えばペプチドの血清半減期を延長させるために用いることができる、D−アミノ酸または他のアミノ酸模倣体の取り込みが含まれる。
【0041】
選択されたアミノ酸配列に基づいた化学合成によって、本発明のペプチドを得ることができる。例えば、合成に関して採用され得る従来のペプチド合成法には、以下が含まれる:
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)ペプチド合成, 丸善, 1975;
(iv)ペプチド合成の基礎と実験, 丸善, 1985;
(v)医薬品の開発(続 第14巻)ペプチド合成, 広川書店, 1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0042】
あるいは、ペプチドを作製するための任意の公知の遺伝子工学的方法(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)を用いて、本発明のペプチドを得ることができる。例えば、最初に、発現可能な形態で(例えば、プロモーター配列に相当する調節配列の下流に)目的のペプチドをコードするポリヌクレオチドを有する適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に入れて形質転換する。そのようなベクターおよび宿主細胞も、本発明によって提供される。次いで、該宿主細胞を培養して、関心対象のペプチドを産生させる。インビトロ翻訳システムを用いて、ペプチドをインビトロで作製することもできる。
【0043】
IV.ポリヌクレオチド
本発明は、前述の本発明のペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを提供する。これらは、天然NEIL3遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_018248(例えば、SEQ ID NO:44))由来のポリヌクレオチド、およびその保存的に改変されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む。本明細書において「保存的に改変されたヌクレオチド配列」という語句は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一な核酸が任意の特定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、あるコドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、該コドンを記載された対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、該核酸の可能性のあるあらゆるサイレント変異をも表す。核酸中の各コドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を得ることができることを、当業者は認識するであろう。したがって、ペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、公開した各配列において非明示的に記載されている。
【0044】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、またはそれらの誘導体から構成され得る。当技術分野において周知の通り、DNA分子は塩基、例えば天然の塩基A、T、C、およびGなどから構成され、RNAではTはUに置き換えられる。非天然の塩基もまたポリヌクレオチドに含まれることを、当業者は認識するであろう。
本発明のポリヌクレオチドは、介在するアミノ酸配列を伴って、または伴わずに、本発明の複数のペプチドをコードし得る。例えば、介在するアミノ酸配列は、ポリヌクレオチドまたは翻訳されたペプチドの切断部位(例えば、酵素認識配列)を提供し得る。さらに、ポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするコード配列に対する任意の付加的配列を含み得る。例えば、ポリヌクレオチドは、ペプチドの発現に必要な調節配列を含む組換えポリヌクレオチドであってよく、またはマーカー遺伝子等を有する発現ベクター(プラスミド)であってもよい。一般に、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる従来の組換え技法によりポリヌクレオチドを操作することによって、そのような組換えポリヌクレオチドを調製することができる。
【0045】
組換え技法および化学合成技法の両方を用いて、本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。例えば、適切なベクター内に挿入することによってポリヌクレオチドを作製することができ、これはコンピテント細胞にトランスフェクトした場合に発現され得る。あるいは、PCR技法または適切な宿主内での発現を用いて、ポリヌクレオチドを増幅することができる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989を参照されたい)。あるいは、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されているような固相技法を用いて、ポリヌクレオチドを合成することができる。
【0046】
V.エキソソーム
本発明は、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成される複合体を自身の表面上に提示する、エキソソームと称される細胞内小胞をさらに提供する。エキソソームは、例えば公表特許公報特表平11−510507号およびWO99/03499に詳述されている方法を用いることによって調製することができ、治療および/または予防の対象となる患者から得られたAPCを用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様に、ワクチンとして接種することができる。
【0047】
前記複合体中に含まれるHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のものと一致しなければならない。例えば日本人については、HLA−A24およびHLA−A2、特にHLA−A*2402、HLA−A*0201、およびHLA−A*0206が適していることが多い。日本人および白人の間で高発現しているA24型またはA2型の使用は、有効な結果を得るのに好ましく、A*2402、A*0201、およびA*0206などのサブタイプが有用である。典型的には、臨床では、治療を必要とする患者のHLA抗原の型があらかじめ調べられ、これにより、この抗原に対して高レベルの結合親和性を有するかまたは抗原提示によるCTL誘導能を有するペプチドの、適切な選択が可能となる。さらに、高い結合親和性およびCTL誘導能を示すペプチドを取得するために、天然のNEIL3の部分ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、1個、2個、または数個のアミノ酸の置換、欠失、または付加を行うことができる。
【0048】
本発明のエキソソームに対してA2型HLA抗原を用いる場合、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、および22のいずれか1つの配列を含むペプチドが使用される。
代替的に、本発明のエキソソームに対してA24型HLA抗原を用いる場合、SEQ ID NO:24、33、35、41、43、および61のいずれか1つの配列を有するペプチドが使用される。
【0049】
VI.抗原提示細胞(APC)
本発明はまた、HLA抗原と本発明のペプチドにより形成される複合体を自身の表面上に提示する単離されたAPCを提供する。APCは、治療および/または予防の対象となる患者に由来していてもよく、かつ、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくはCTLを含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与することができる。
前記APCは、特定の種類の細胞に限定されず、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られているDC、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞を含む。DCは、APCの中で最も強力なCTL誘導活性を有する代表的なAPCであるため、DCは本発明のAPCとして使用される。
【0050】
例えば、本発明のAPCは、末梢血単球からDCを誘導し、次にそれらをインビトロ、エクスビボ、またはインビボで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)ことによって得ることができる。本発明のペプチドを対象に投与した場合、本発明のペプチドを提示するAPCが該対象の体内で誘導される。したがって、本発明のAPCは、本発明のペプチドを対象に投与した後、該対象からAPCを回収することによって得ることができる。あるいは、本発明のAPCは、対象から回収されたAPCを本発明のペプチドと接触させることによって得ることもできる。
【0051】
対象におけるがんに対する免疫応答を誘導するために、本発明のAPCを単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくはCTLを含む他の薬物と組み合わせて、対象に投与することができる。例えば、エクスビボ投与は、以下の段階を含み得る:
a:第1の対象からAPCを回収する段階、
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階、および
c:段階bのAPCを第2の対象に投与する段階。
第1の対象と第2の対象は同一の個体であってもよく、または異なる個体であってもよい。段階bによって得られたAPCは、がん、例えば膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLを治療および/または予防するためのワクチンであってもよい。
【0052】
本発明の1つの局面によると、APCは高レベルのCTL誘導能を有する。「高レベルのCTL誘導能」という用語において、高レベルとは、ペプチドと接触させていないAPC、またはCTLを誘導しない可能性のあるペプチドと接触させたAPCによるCTL誘導能のレベルと比較したものである。高レベルのCTL誘導能を有するそのようなAPCは、上記の方法に加え、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをインビトロでAPCに導入する段階を含む方法によって、調製することができる。導入する遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。例として、特に制限されることなく、リポフェクション、エレクトロポレーション、またはリン酸カルシウム法などの、当技術分野において従来より実施される様々な方法を含む導入方法を、使用することができる。より具体的には、Cancer Res 1996, 56: 5672-7;J Immunol 1998, 161: 5607-13;J Exp Med 1996, 184: 465-72;公表特許公報第2000−509281号に記載されているように、それを実施することができる。遺伝子をAPCに導入することによって、該遺伝子は細胞内で転写、翻訳等を受け、次いで、得られたタンパク質はMHCクラスIまたはクラスIIによってプロセシングされて、提示経路を経て部分ペプチドが提示される。
【0053】
VII.細胞傷害性Tリンパ球(CTL)
本発明のペプチドのいずれかに対して誘導されたCTLは、インビボでがん細胞を標的とする免疫応答を増強させ、かつしたがって、ペプチドと同様にワクチンとして用いられ得る。したがって本発明は、本発明のペプチドのいずれかによって特異的に誘導または活性化された、単離されたCTLを提供する。
そのようなCTLは、(1)本発明のペプチドを対象に投与すること;または(2)対象由来のAPCおよびCD8陽性細胞もしくは末梢血単核白血球をインビトロで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)こと;または(3)CD8陽性細胞もしくは末梢血単核白血球を、HLA抗原と本ペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCもしくはエキソソームとインビトロで接触させること;または(4)本発明のペプチドに結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を導入することによって、得ることができる。そのようなAPCまたはエキソソームは上記の方法によって調製することができ、(4)の方法は下記「VIII.T細胞受容体(TCR)」の章において記載する。
【0054】
本発明のCTLは、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ、単独で投与すること、または効果を調節する目的で本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与することができる。得られたCTLは、本発明のペプチド、例えば誘導に用いた同一のペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。標的細胞は、がん細胞などの、NEIL3を内因的に発現する細胞、またはNEIL3遺伝子をトランスフェクトされた細胞であってよく、かつ、本発明のペプチドによる刺激によって該ペプチドを細胞表面上に提示する細胞もまた、活性化されたCTLの攻撃の標的となり得る。
【0055】
VIII.T細胞受容体(TCR)
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードする核酸を含む組成物、およびそれを用いる方法を提供する。TCRサブユニットは、NEIL3を提示する腫瘍細胞に対する特異性をT細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野における公知の方法を用いることにより、本発明の1つまたは複数のペプチドを用いて誘導されたCTLのTCRサブユニットとしてのα鎖およびβ鎖の核酸を同定することができる(WO2007/032255、およびMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。例えば、TCRを解析するためにはPCR法が好ましい。解析のためのPCRプライマーは、例えば、5'側プライマーとしての5'−Rプライマー(5'−gtctaccaggcattcgcttcat−3')(SEQ ID NO:48)、および3'側プライマーとしての、TCRα鎖C領域に特異的な3−TRa−Cプライマー(5'−tcagctggaccacagccgcagcgt−3')(SEQ ID NO:49)、TCRβ鎖C1領域に特異的な3−TRb−C1プライマー(5'−tcagaaatcctttctcttgac−3')(SEQ ID NO:50)、またはTCRβ鎖C2領域に特異的な3−TRβ−C2プライマー(5'−ctagcctctggaatcctttctctt−3')(SEQ ID NO:51)であり得るが、これらに限定されない。TCR誘導体は、NEIL3ペプチドを提示する標的細胞と高い結合力で結合することができ、かつ任意で、NEIL3ペプチドを提示する標的細胞の効率的な殺傷をインビボおよびインビトロで媒介することができる。
【0056】
TCRサブユニットをコードする核酸を、適切なベクター、例えばレトロウイルスベクターに組み込むことができる。これらのベクターは、当技術分野において周知である。該核酸またはそれらを有用に含むベクターを、T細胞、例えば患者由来のT細胞に導入することができる。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のT細胞)の迅速な改変により、優れたがん細胞殺傷特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする、既製の組成物を提供する。
【0057】
特異的TCRとは、本発明のペプチドとHLA分子との複合体を特異的に認識することができ、T細胞の表面上に該TCRが提示される場合に、標的細胞に対するT細胞特異的活性をもたらすることができる受容体である。上記複合体の特異的認識は任意の公知の方法によって確認することができ、好ましい方法には、例えば、HLA分子および本発明のペプチドを用いたHLA多量体染色解析、ならびにELISPOTアッセイが含まれる。ELISPOTアッセイを行うことにより、細胞表面上にTCRを発現しているT細胞が細胞をTCRによって認識すること、およびシグナルが細胞内で伝達されることを確認することができる。T細胞表面上に上記の複合体が存在する場合に該複合体がT細胞の細胞傷害活性をもたらし得るという確認もまた、公知の方法によって行うことができる。好ましい方法には、例えば、クロム放出アッセイなどの、HLA陽性標的細胞に対する細胞傷害活性の決定が含まれる。
【0058】
また本発明は、HLA−A2との関連で例えばSEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、および22のNEIL3ペプチドに、同じくHLA−A24との関連で例えばSEQ ID NO:24、33、35、41、および43のペプチドに結合するTCRサブユニットポリペプチドをコードする核酸を形質導入することによって調製されるCTLを提供する。
形質導入されたCTLは、インビボでがん細胞にホーミングすることができ、かつインビトロで周知の培養法によって増殖させることができる(例えば、Kawakami et al., J Immunol., 142, 3452-3461 (1989))。本発明のCTLは、治療または防御を必要としている患者におけるがんの治療または予防に有用な免疫原性組成物を形成するために使用することができる(WO2006/031221)。
【0059】
IX.薬学的な物質または組成物
予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の行為を含む。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベルで」行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防(preventionおよびprophylaxis)することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした行為を包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を軽減すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させること、血管形成を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含む。
【0060】
がんの治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防は、以下の段階、例えばがん細胞の外科的除去、がん性細胞の増殖の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍の退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。がんの効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を軽減する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療を構成し、および/または予防は10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減または安定した疾患を含む。
【0061】
NEIL3の発現は、正常組織と比較して、がん、例えば膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLにおいて特異的に上昇するため、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを、がんの治療および/もしくは予防のために、ならびに/または術後のその再発の予防のために用いることができる。したがって本発明は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドの1種または複数種を有効成分として含む、がんを治療および/もしくは予防するための、ならびに/または術後のその再発を予防するための薬学的な物質または組成物を提供する。あるいは、薬学的な物質または組成物として用いるために、本発明のペプチドを、前述のエキソソームまたはAPCなどの細胞のいずれかの表面上に発現させることができる。加えて、本発明のペプチドのいずれかを標的とする前述のCTLもまた、本発明の薬学的な物質または組成物の有効成分として用いることができる。
【0062】
本発明の薬学的な物質または組成物は、ワクチンとして使用される。本発明において、「ワクチン」(「免疫原性組成物」とも称される)という語句は、動物に接種した際に、抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。
本発明の薬剤または組成物は、ヒト、ならびに非限定的にマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に商業的に重要な動物または家畜を含む任意の他の哺乳動物を含む対象または患者において、がんを治療および/もしくは予防するために、ならびに/または術後のその再発を予防するために用いることができる。
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療または予防するための薬学的な組成物または物質の製造における、以下の中より選択される有効成分の使用を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0063】
あるいは、本発明はさらに、がんまたは腫瘍の治療または予防において用いるための、以下の中より選択される有効成分を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0064】
あるいは、本発明はさらに、がんまたは腫瘍を治療または予防するための薬学的な組成物または物質を製造するための方法または工程であって、有効成分として以下の中より選択される有効成分と共に、薬学的にまたは生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0065】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療または予防するための薬学的な組成物または物質を製造するための方法または工程であって、以下の中より選択される有効成分を薬学的にまたは生理学的に許容される担体と混合する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0066】
本発明により、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43のアミノ酸配列を含むペプチドは、強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A24拘束性またはHLA−A2拘束性のエピトープペプチドまたはその候補であることが判明した。したがって、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43のアミノ酸配列を有するこれらのペプチドのいずれかを含む本発明の薬学的な物質または組成物は、HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である対象への投与に特に適している。同じことが、これらのペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチド(すなわち、本発明のポリヌクレオチド)を含む薬学的な物質または組成物にも当てはまる。
【0067】
本発明の薬学的な物質または組成物によって治療されるがんは限定されず、NEIL3が関与する(例えば、過剰発現する)任意のがん、例えば膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれる。
本発明の薬学的な物質または組成物は、前述の有効成分に加えて、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチド、該その他のペプチドをコードするその他のポリヌクレオチド、該その他のペプチドを提示するその他の細胞等を含み得る。本明細書において、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチドは、がん特異的抗原(例えば、同定されたTAA)によって例示されるが、これに限定されない。
【0068】
必要であれば、本発明の薬学的な物質または組成物は、例えば本発明のペプチドのいずれかといった有効成分の抗腫瘍効果をその他の治療物質が阻害しない限り、有効成分として該治療物質を任意に含み得る。例えば、製剤は、抗炎症の物質または組成物、鎮痛剤、化学療法剤等を含み得る。医薬自体の中の他の治療物質に加えて、本発明の医薬を、1つまたは複数の他の薬理学的な物質または組成物と連続してまたは同時に投与することもできる。医薬および薬理学的な物質または組成物の量は、例えば、使用される薬理学的な物質または組成物の種類、治療する疾患、ならびに投与のスケジュールおよび投与経路に依存する。
本明細書において特に言及される成分に加えて、本発明の薬学的な物質または組成物は、当該製剤の種類を考慮して、当技術分野において慣例的な他の組成物も含み得ることが理解されるべきである。
【0069】
本発明の1つの態様において、本発明の薬学的な物質または組成物を、例えばがんのような治療されるべき疾患の病態を治療するのに有用な材料を含む製品およびキットに含めることができる。該製品は、ラベルを有する本発明の薬学的な物質または組成物のいずれかの容器を含み得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器上のラベルには、物質または組成物が、疾患の1つまたは複数の状態の治療または予防のために用いられることが示されるべきである。ラベルはまた、投与等に関する指示も示し得る。
【0070】
上記の容器に加えて、本発明の薬学的な物質または組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容した第2の容器をさらに含み得る。それは、使用のための指示書と共に、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、注射針、シリンジ、および添付文書を含む、商業上および使用者の立場から見て望ましい他の材料をさらに含み得る。
必要に応じて、有効成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置にて、薬学的な組成物を提供することができる。該パックは、例えば、ブリスターパックのように金属またはプラスチックホイルを含み得る。パックまたはディスペンサー装置には、投与に関する指示書が添付され得る。
【0071】
(1)有効成分としてペプチドを含む薬学的な物質または組成物
本発明のペプチドは、薬学的な物質もしくは組成物として直接投与することができ、または必要であれば、従来の製剤方法によって製剤化される。後者の場合、本発明のペプチドに加えて、薬物に通常用いられる担体、賦形剤等が特に制限なく適宜含まれ得る。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、薬学的な物質または組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁液、保存剤、界面活性剤等を含み得る。本発明の薬学的な物質または組成物は、抗がん目的に用いることができる。
【0072】
インビボでCTLを誘導するために、本発明のペプチドを、本発明のペプチドの2種またはそれ以上を含む組み合わせで調製することができる。ペプチドはカクテル中に存在してもよく、または標準的な技法を用いて互いにコンジュゲートしてもよい。例えば、該ペプチドを化学的に結合させても、または、リンカー(例えばリジンリンカー:K. S. Kawamura et al. J. Immunol. 2002, 168: 5709-5715)として1つまたは複数のアミノ酸を有しうる単一の融合ポリペプチド配列として発現させてもよい。組み合わせにおけるペプチドは、同一であっても異なっていてもよい。本発明のペプチドを投与することによって、該ペプチドはHLA抗原によってAPC上に高密度で提示され、次いで、提示されたペプチドと該HLA抗原との間に形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、APC(例えば、DC)を対象から取り出し、次にこれを本発明のペプチドにより刺激して、本発明のペプチドのいずれかをそれらの細胞表面上に提示するAPCを得る。これらのAPCを対象に再び投与して、対象においてCTLを誘導し、その結果、腫瘍関連内皮に対する攻撃性を増大させることができる。
【0073】
有効成分として本発明のペプチドのいずれかを含む、がんの治療および/または予防のための薬学的な物質または組成物は、細胞性免疫が効率的に誘導されるようにアジュバントを含み得るか、あるいは、他の有効成分と共に投与され得、かつ顆粒内への製剤化によって投与され得る。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合に、該タンパク質に対する免疫応答を増強させる化合物を指す。適用可能なアジュバントには、文献(Clin Microbiol Rev 1994, 7: 277-89)に記載されているものが含まれる。例示的なアジュバントには、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素、フロイントの不完全アジュバント(IFA)、フロイントの完全アジュバント(CFA)、ISCOMatrix、GM−CSF、CpG、水中油型乳剤等が含まれるが、これらに限定されない。
さらに、リポソーム製剤、直径数マイクロメートルのビーズにペプチドが結合している顆粒製剤、およびペプチドに脂質が結合している製剤が好都合に用いられ得る。
【0074】
本発明の別の態様において、本発明のペプチドは、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。
いくつかの態様において、本発明の薬学的な物質または組成物は、CTLを刺激する(prime)成分を含む。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを刺激し得る物質または組成物として同定された。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のεアミノ基およびαアミノ基に付着させ、次に本発明のペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加したペプチドを、ミセルもしくは粒子の状態で直接投与すること、リポソーム中に取り込ませること、またはアジュバント中に乳化させることができる。CTL応答の脂質による刺激の別の例として、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニル−セリル−セリン(P3CSS)などの大腸菌(E.coli)リポタンパク質を、適切なペプチドに共有結合させて、CTLを刺激するために用いることができる(例えば、Deres et al., Nature 1989, 342: 561-4を参照されたい)。
【0075】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等、および全身投与または標的部位の近傍への局所投与であってよい。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。本発明のペプチドの用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001mg〜1,000mg、例えば0.001mg〜1,000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日から数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0076】
(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な物質または組成物
本発明の薬学的な物質または組成物はまた、本明細書に開示するペプチドをコードする核酸を発現可能な形態で含み得る。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ポリヌクレオチドが、細胞内に導入された場合に抗腫瘍免疫を誘導するポリペプチドとしてインビボで発現され得ることを意味する。例示的な態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、該ポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。ポリヌクレオチドには、標的細胞のゲノム中への安定的な組み込みが達成されるように、必要なものを備えさせることができる(相同組換えカセットベクターの説明に関しては、例えばThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい。また例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720も参照されたい)。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0077】
ウイルスベクターまたは細菌ベクターによって、本発明のペプチドを発現させることもできる。発現ベクターの例には、ワクシニアウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えば、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして、ワクシニアウイルスの使用を伴う。宿主内に導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を誘発する。免疫化プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。別のベクターはBCG(カルメット・ゲラン桿菌)である。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。治療的投与または免疫化に有用である多種多様な他のベクター、例えばアデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が明らかである。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;Hipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0078】
ポリヌクレオチドの患者への送達は、直接的であってもよいし(この場合、ポリヌクレオチドを保有するベクターに患者を直接曝露する)、または間接的であってもよい(この場合、まずインビトロで細胞を関心対象のポリヌクレオチドで形質転換し、次いで該細胞を患者内に移植する)。これら2つのアプローチはそれぞれ、インビボおよびエクスビボの遺伝子治療として公知である。
遺伝子治療の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505;Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95;Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 1993, 33: 573-96;Mulligan, Science 1993, 260: 926-32;Morgan & Anderson, Ann Rev Biochem 1993, 62: 191-217;Trends in Biotechnology 1993, 11(5): 155-215を参照されたい。本発明にも用いることのできる、組換えDNA技術の分野において一般に公知の方法は、eds. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993;およびKrieger, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990に記載されている。
【0079】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与または標的部位の近傍への局所投与が用いられる。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。適切な担体中のポリヌクレオチドの用量、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換した細胞の用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001mg〜1000mg、例えば0.001mg〜1000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日に1度〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0080】
X.ペプチド、エキソソーム、APC、およびCTLを用いる方法
APCおよびCTLを調製または誘導するために、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドを用いることができる。CTLを誘導するために、本発明のエキソソームおよびAPCを用いることもできる。ペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソーム、およびAPCは、任意の他の化合物がそれらのCTL誘導能を阻害しない限り、該化合物と組み合わせて用いることができる。したがって、前述の本発明の薬学的な物質または組成物のいずれかをCTLを誘導するために用いることができ、それに加えて、前記ペプチドおよびポリヌクレオチドを含むものを、以下に説明されるように、APCを誘導するために用いることもできる。
【0081】
(1)抗原提示細胞(APC)を誘導する方法
本発明は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを用いた、高いCTL誘導能を有するAPCを誘導する方法を提供する。
本発明の方法は、APCを本発明のペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階を含む。例えば、APCを該ペプチドとエクスビボで接触させる方法は、以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを回収する段階、および
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階。
前記APCは特定の種類の細胞に限定されず、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られているDC、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞を含む。好ましくはDCが、APCの中で最も強力なCTL誘導能を有するので、使用可能である。本発明の任意のペプチドを、単独で、または本発明の他のペプチドと共に用いることができる。
【0082】
一方、本発明のペプチドを対象に投与する場合、該ペプチドとAPCをインビボで接触させ、その結果、高いCTL誘導能を有するAPCが対象の体内で誘導される。したがって本発明は、本発明のペプチドを対象に投与することを含む。同様に、本発明のポリヌクレオチドを発現可能な形態で対象に投与する場合、本発明のペプチドはインビボで発現してAPCと接触し、その結果、高いCTL誘導能を有するAPCが対象の体内で誘導される。したがって本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを対象に投与することも含み得る。「発現可能な形態」とは、上記「IX.薬学的な物質または組成物、(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な物質または組成物」の章に記載されている。
【0083】
さらに本発明は、CTL誘導能を有するAPCを誘導するために、本発明のポリヌクレオチドをAPCに導入することを含み得る。例えば、本方法は以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを回収する段階、および
b:本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入する段階。
段階bは、上記「VI.抗原提示細胞」の章に記述した通りに行うことができる。
あるいは、本発明は、NEIL3に対するCTL活性を特異的に誘導する抗原提示細胞(APC)を調製するための方法であって、以下の段階の1つを含み得る方法を提供する:
(a)APCを本発明のペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階;および
(b)本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをAPCに導入する段階。
【0084】
(2)CTLを誘導する方法
さらに本発明は、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソーム、またはAPCを用いてCTLを誘導するための方法を提供する。
本発明はまた、本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いて、CTLを誘導するための方法を提供する。好ましくは、CTLを誘導するための方法は、以下からなる群より選択される少なくとも1つの段階を含む:
a)CD8陽性T細胞を、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階;ならびに
b)本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識するTCRサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性細胞に導入する段階。
本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、APC、またはエキソソームを対象に投与した場合、該対象の体内でCTLが誘導され、がん細胞を標的とする免疫応答の強度が増強される。したがって本発明の方法は、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、APC、またはエキソソームを対象に投与する段階を含む。
【0085】
あるいは、エクスビボで使用することによってCTLを誘導することもでき、かつ、CTL誘導後、活性化したCTLを対象に戻すことができる。例えば、該方法は、以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを回収する段階;
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階;および
c:段階bのAPCをCD8陽性細胞と共培養する段階。
上記の段階cにおいてCD8陽性細胞と共培養するAPCは、上記「VI.抗原提示細胞」の章に記述した通りに、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子をAPCに導入することによって調製することもできるが、これに限定されず、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に効率的に提示する任意のAPCを本方法に用いることができる。
【0086】
そのようなAPCの代わりに、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームを用いることもできる。すなわち本発明は、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームを共培養する段階を含むことができる。そのようなエキソソームは、上記「V.エキソソーム」の章に記述した方法によって調製することができる。
さらに、本発明のペプチドに結合するTCRサブユニットをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をCD8陽性細胞に導入することによって、CTLを誘導することができる。そのような形質導入は、上記「VIII.T細胞受容体(TCR)」の章に記述した通りに行うことができる。
加えて、本発明は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体と共に混合または製剤化する段階を含む方法である、CTLを誘導する薬学的な物質または組成物を製造するための方法または工程を提供する。
【0087】
(3)免疫応答を誘導する方法
さらに本発明は、NEIL3に関連する疾患に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。適切な疾患にはがん、例えば、これらに限定されるわけではないが膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれる。
本方法は、本発明のペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチドのいずれかを含む物質または組成物を投与する段階を含み得る。本発明の方法はまた、本発明のペプチドのいずれかを提示するエキソソームまたはAPCの投与も意図し得る。詳細については、「IX.薬学的な物質または組成物」の項目、特にワクチンとしての本発明の薬学的な物質または組成物の使用について記載している部分を参照されたい。加えて、免疫応答を誘導するための本発明の方法に用いることができるエキソソームおよびAPCは、上記「V.エキソソーム」、「VI.抗原提示細胞(APC)」、ならびに「X.ペプチド、エキソソーム、APC、およびCTLを用いる方法」の(1)および(2)の項目において詳述されている。
【0088】
本発明はまた、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体と共に混合または製剤化する段階を含み得る方法である、免疫応答を誘導する薬学的な物質または組成物を製造するための方法または工程を提供する。
あるいは、本発明の方法は、以下を含むワクチンまたは薬学的組成物を投与する段階を含み得る:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0089】
本発明において、NEIL3を過剰発現するがんをこれらの有効成分を用いて治療することができる。がんには、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれるが、これらに限定されない。したがって、有効成分を含むワクチンまたは薬学的組成物を投与する前に、治療すべき細胞または組織におけるNEIL3の発現レベルが、同じ臓器の正常細胞と比較して増強されているかどうかを確認することが好ましい。したがって1つの態様において、本発明は、以下の段階を含み得る、NEIL3を(過剰)発現するがんを治療するための方法を提供する:
i)治療すべきがんを有する対象から得られた細胞または組織において、NEIL3の発現レベルを決定する段階;
ii)NEIL3の発現レベルを正常対照と比較する段階;および
iii)上記の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を、正常対照と比較してNEIL3を過剰発現するがんを有する対象に投与する段階。
【0090】
あるいは、本発明はまた、NEIL3を過剰発現するがんを有する対象への投与において用いるための、上記の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含むワクチンまたは薬学的組成物を提供する。換言すれば、本発明はさらに、本発明のNEIL3ポリペプチドで治療すべき対象を、同定するための方法を提供し、該方法は、対象由来の細胞または組織におけるNEIL3の発現レベルを決定する段階を含んでよく、ここで、該レベルが、該遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることにより、対象が、本発明のNEIL3ポリペプチドで治療され得るがんを有し得ることが示される。本発明のがんを治療する方法を、以下により詳細に説明する。
【0091】
本発明との関連において、がん性ではないことが既知である生物学的試料から決定された対照レベルは、「正常対照レベル」と称される。一方、がん性の生物学的試料から対照レベルが決定された場合、これは「がん性対照レベル」と称される。
本発明の方法によって治療される対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、および雌ウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
本発明に従って、対象から得られたがん細胞またはがん組織におけるNEIL3の発現レベルを決定することができる。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルで決定することができる。例えば、NEIL3のmRNAは、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)により、プローブを用いて定量してもよい。検出は、チップまたはアレイなどの上で実施してもよい。アレイの使用は、NEIL3の発現レベルを検出するのに好ましい可能性がある。当業者は、NEIL3の配列情報を使用して、このようなプローブを調製することができる。例えば、NEIL3のcDNAをプローブとして用いてもよい。必要であれば、色素、蛍光物質、および同位体などの適切な標識でプローブを標識することができ、ハイブリダイズした標識の強度として、遺伝子の発現レベルを検出することができる。
【0093】
さらに、NEIL3(例えば、SEQ ID NO:45)の転写産物は、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)により、プライマーを用いて定量することができる。このようなプライマーを、該遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。
具体的には、本発明の方法のために用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、または低ストリンジェントな条件の下で、NEIL3のmRNAにハイブリダイズする。本明細書において使用する場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmとは、平衡時に、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは、平衡時に、プローブの50%が占有される。典型的には、ストリンジェントな条件とは、pH7.0〜8.3において、塩濃度が約1.0 M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01〜1.0 Mのナトリウムイオン(または他の塩)であり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)の場合は少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーの場合は少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの脱安定化物質を添加することによって達成してもよい。
【0094】
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出することもできる。例えば、NEIL3タンパク質(SEQ ID NO:45)またはその免疫学的な断片の量を決定することができる。翻訳産物としてタンパク質の量を決定するための方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体は、モノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、抗体の任意の断片または改変体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)も、その断片または改変抗体がNEIL3タンパク質への結合能を保持している限り、検出のために用いることができる。本発明のペプチドおよびその断片に対するそのような抗体も、本発明によって提供される。タンパク質を検出するためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明においては、任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。
【0095】
NEIL3遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出する別の方法として、NEIL3タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析により、染色強度を測定してもよい。すなわちこの測定では、強い染色により、タンパク質の存在/レベルの上昇が示され、それと同時にNEIL3遺伝子の高い発現レベルが示される。
がん細胞における標的遺伝子、例えばNEIL3遺伝子の発現レベルは、そのレベルが、標的遺伝子の対照レベル(例えば、正常細胞におけるレベル)よりも例えば10%、25%、もしくは50%上昇しているか、または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上に上昇している場合に、上昇していると決定することができる。
【0096】
対照レベルは、疾患状態(がん性または非がん性)が既知である対象から予め回収し保存しておいた試料を用いることにより、がん細胞と同時に決定することができる。加えて、治療すべきがんを有する臓器の非がん性領域から得られた正常細胞を、正常対照として用いてもよい。あるいは、対照レベルは、疾患状態が既知である対象由来の試料中のNEIL3遺伝子の予め決定された発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計的方法により決定してもよい。さらに、対照レベルは、予め試験された細胞由来の発現パターンのデータベースに由来し得る。さらに、本発明の1つの局面に従って、生物学的試料中のNEIL3遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと比較してもよい。対象由来の生物学的試料の組織型と類似の組織型に由来する参照試料から決定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が既知である群におけるNEIL3遺伝子の発現レベルの標準値を用いることが好ましい。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値±2S.D.または平均値±3S.D.の範囲を、標準値として用いることができる。
【0097】
NEIL3遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、またはがん性対照レベルと類似している/同等である場合、対象は、治療すべきがんを有すると診断され得る。
より具体的には、本発明は、(i)対象が、治療すべきがんを有することが疑われるかどうかを診断する、および/または(ii)がん治療のための対象を選択する方法であって、以下の段階を含み得る方法を提供する:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から得られた細胞または組織におけるNEIL3の発現レベルを決定する段階;
b)NEIL3の発現レベルを正常対照レベルと比較する段階;
c)NEIL3の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合に、該対象を、治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において、対象が、治療すべきがんを有すると診断された場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0098】
あるいは、そのような方法は以下の段階を含み得る:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から得られた細胞または組織におけるNEIL3の発現レベルを決定する段階;
b)NEIL3の発現レベルをがん性対照レベルと比較する段階;
c)NEIL3の発現レベルががん性対照レベルと比較して類似しているか、または同等である場合に、該対象を、治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において、対象が、治療すべきがんを有すると診断された場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0099】
本発明はまた、本発明のNEIL3ポリペプチドで治療され得るがんに罹患しているかまたは罹患していると疑われる対象を診断または決定するための診断キットを提供し、該キットはまた、がん免疫療法の有効性または適用性を評価および/またはモニターするのにも有用であり得る。好ましくは、がんには、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、キットは好ましくは、対象由来の細胞におけるNEIL3遺伝子の発現を検出するための少なくとも1つの試薬を含むことができ、試薬は以下の群より選択され得る:
(a)NEIL3遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)NEIL3タンパク質またはその免疫学的な断片を検出するための試薬;および
(c)NEIL3タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【0100】
NEIL3遺伝子のmRNAを検出するのに適した試薬には、NEIL3のmRNAの一部に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、NEIL3のmRNAに特異的に結合するかまたはNEIL3のmRNAを同定する核酸が含まれ得る。これらの種類のオリゴヌクレオチドの例は、NEIL3のmRNAに特異的なプライマーおよびプローブである。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製することができる。必要であれば、NEIL3のmRNAを検出するための試薬を固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、NEIL3のmRNAを検出するための2つ以上の試薬をキットに含めることができる。
【0101】
一方、NEIL3タンパク質またはその免疫学的な断片を検出するのに適した試薬には、NEIL3タンパク質またはその免疫学的な断片に対する抗体が含まれ得る。抗体は、モノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、抗体の任意の断片または改変体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)も、その断片または改変抗体がNEIL3タンパク質またはその免疫学的な断片への結合能を保持している限り、試薬として用いることもできる。タンパク質を検出するためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明においては、任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。さらに、直接連結または間接標識技術により、抗体をシグナル生成分子で標識することができる。標識、および抗体を標識してそれらの標的に対する抗体の結合を検出するための方法は、当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明のために使用することができる。さらに、NEIL3タンパク質を検出するための2つ以上の試薬をキットに含めることができる。
【0102】
キットは、前述の試薬のうち2つ以上を含有していてもよい。例えば、がんに罹患していないまたはがんに罹患している対象から得られた組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用のための説明を含む添付文書(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含んでもよい。これらの試薬等は、ラベルを有する容器中に保持され得る。適切な容器には、瓶、バイアル、および試験管が含まれ得る。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。
【0103】
本発明の1つの態様において、試薬がNEIL3のmRNAに対するプローブである場合、少なくとも1つの検出部位が形成されるよう、該試薬を多孔質ストリップなどの固体マトリックスの上に固定化することができる。多孔質ストリップの測定領域または検出領域は、各々が1つの核酸(プローブ)を含有している複数の部位を含んでいてもよい。テストストリップはまた、陰性対照および/または陽性対照のための部位を含んでいてもよい。あるいは、対照部位は、テストストリップとは別のストリップ上に配置されてもよい。任意で、異なる検出部位は、固定化された核酸を、異なる量含有していてもよく、すなわち、第1の検出部位ではより多い量を含有し、以降の部位ではより少ない量を含有していてもよい。試験試料を添加すると、検出可能なシグナルを示す部位の数により、試料中に存在するNEIL3のmRNAの量の定量的な指標が提供される。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成することができ、典型的には、テストストリップの幅にわたるバーまたはドットの形状である。
【0104】
本発明のキットは、陽性対照試料またはNEIL3標準試料をさらに含み得る。本発明の陽性対照試料は、NEIL3陽性試料を回収し、次にそれらのNEIL3レベルをアッセイすることによって調製することができる。あるいは、精製NEIL3タンパク質またはポリヌクレオチドを、NEIL3を発現しない細胞に添加して、陽性試料またはNEIL3標準試料を形成してもよい。本発明において、精製NEIL3は組換えタンパク質であってよい。陽性対照試料のNEIL3レベルは、例えばカットオフ値よりも高い。
【0105】
1つの態様において、本発明はさらに、本発明の抗体またはその断片を特異的に認識できるタンパク質またはその部分タンパク質を含む診断キットを提供する。
本発明のタンパク質の部分ペプチドの例には、本発明のタンパク質のアミノ酸配列中の少なくとも8個、好ましくは15個、およびより好ましくは20個の連続したアミノ酸からなるポリペプチドが含まれる。本発明のタンパク質またはペプチド(ポリペプチド)を用いて試料(例えば、血液、組織)中の抗体を検出することにより、がんを診断することができる。本発明のタンパク質およびペプチドを調製するための方法は、上記の通りである。
【0106】
抗NEIL3抗体の量と、上記のような対応する対照試料中の抗NEIL3抗体の量との差を測定することにより、がんの診断法を行うことができる。対象の細胞または組織が該遺伝子の発現産物(NEIL3)に対する抗体を含み、この抗NEIL3抗体の量が、正常対照中の抗NEIL3抗体の量と比較したレベルにおけるカットオフ値よりも高いと判定される場合に、対象ががんに罹患していることが疑われる。
別の態様において、本発明の診断キットは、本発明のペプチドおよびそれに結合するHLA分子を含み得る。抗原性ペプチドおよびHLA分子を使用して抗原特異的CTLを検出するための方法は、既に確立されている(例えば、Altman JD et al., Science. 1996, 274(5284): 94-6)。したがって、腫瘍抗原特異的CTLを検出するための検出法に、本発明のペプチドとHLA分子との複合体を適用することができ、それによってがんのより早期の検出、再発、および/または転移が可能になる。さらに、本発明のペプチドを有効成分として含む医薬を適用できる対象を選択するために、または該医薬の治療効果を評価するために、これを使用することができる。
【0107】
詳細には、公知の方法に従って(例えば、Altman JD et al., Science. 1996, 274(5284): 94-6を参照されたい)、放射標識HLA分子および本発明のペプチドのオリゴマー複合体、例えば四量体を調製することができる。複合体を用いて、例えばがんに罹患していると疑われる対象に由来する末梢血リンパ球中の抗原ペプチド特異的CTLを定量することにより、診断を行うことができる。
【0108】
本発明はさらに、本明細書に記載するようなペプチドエピトープを使用することによる、対象の免疫応答を評価するための方法または診断用薬剤を提供する。本発明の1つの態様において、本明細書に記載するようなHLA拘束性ペプチドを、対象の免疫応答を評価または予測するための試薬として用いることができる。評価すべき免疫応答は、免疫原を免疫コンピテント細胞とインビトロまたはインビボで接触させることにより誘導され得る。いくつかの態様では、ペプチドエピトープを認識しかつこれに結合する抗原特異的CTLの産生をもたらし得る任意の物質または組成物を、試薬として使用することができる。ペプチド試薬を必ずしも免疫原として用いる必要はない。そのような解析に用いられるアッセイ系には、四量体、細胞内リンホカインの染色、およびインターフェロン放出アッセイ法、またはELISPOTアッセイ法などの比較的最近の技術進歩が含まれる。好ましい態様において、ペプチド試薬と接触させるべき免疫コンピテント細胞は、樹状細胞を含む抗原提示細胞であってよい。
【0109】
例えば、本発明のペプチドを四量体染色アッセイにおいて使用して、腫瘍細胞抗原または免疫原への曝露後の抗原特異的CTLの存在について末梢血単核細胞を評価することができる。HLA四量体複合体を使用して、抗原特異的CTLを直接可視化し(例えば、Ogg et al., Science 279: 2103-2106, 1998;およびAltman et al, Science 174 : 94-96, 1996を参照されたい)、末梢血単核細胞の試料中の抗原特異的CTL群の頻度を測定してもよい。本発明のペプチドを使用する四量体試薬は、後述のように作製することができる。
【0110】
HLA分子に結合するペプチドは、対応するHLA重鎖およびβ2−ミクログロブリンの存在下で再び折り畳まれて、3分子複合体を生成する。該複合体において、重鎖のカルボキシ末端を、予めタンパク質を操作して作製した部位をビオチン化する。次にストレプトアビジンを複合体に添加して、3分子複合体およびストレプトアビジンからなる四量体を形成する。蛍光標識ストレプトアビジンによって、抗原特異的細胞を染色するために四量体を使用することができる。次いで、該細胞を例えばフローサイトメトリーによって同定することができる。そのような解析を、診断または予後診断目的に使用することができる。この手順によって同定された細胞を治療目的に使用することもできる。
【0111】
本発明はまた、本発明のペプチドを含む、免疫リコール応答を評価するための試薬を提供する(例えば、Bertoni et al, J. Clin. Invest. 100: 503-513, 1997、およびPenna et al., J Exp. Med. 174: 1565-1570, 1991を参照されたい)。例えば、治療すべきがんを有する個体からの患者PBMC試料を、特異的ペプチドを用いて抗原特異的CTLの存在について解析することができる。PBMCを培養し、該細胞を本発明のペプチドで刺激することによって、単核細胞を含む血液試料を評価することができる。適切な培養期間後、増殖した細胞群を例えばCTL活性について解析することができる。
【0112】
本ペプチドは、ワクチンの有効性を評価するための試薬として用いることもできる。免疫原をワクチン接種した患者から採取されたPBMCを、例えば上記の方法のいずれかを用いて解析することができる。該患者のHLA型を決定し、該患者に存在する対立遺伝子特異的分子を認識するペプチドエピトープ試薬を、解析のために選択する。ワクチンの免疫原性は、PBMC試料中のエピトープ特異的CTLの存在によって示され得る。本発明のペプチドはまた、当技術分野で周知の技法を用いて抗体を作製するために使用することもでき(例えば、CURRENTPROTOCOLSINIMMUNOLOGY, Wiley/Greene, NY;およびAntibodies A Laboratory Manual, Harlow and Lane, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照されたい)、これは、がんを診断、検出、またはモニターするための試薬として使用され得る。そのような抗体には、HLA分子との関連でペプチドを認識する抗体、すなわちペプチド−MHC複合体に結合する抗体が含まれ得る。
【0113】
あるいは、本発明はまたいくつかの使用法も提供し、その一部が本明細書に記載される。例えば、本発明は、NEIL3免疫原性ポリペプチドの発現を特徴とする障害を診断または検出するための方法を提供する。これらの方法は、生物学的試料中のNEIL3 HLA結合ペプチド、またはNEIL3 HLA結合ペプチドとHLAクラスI分子との複合体の発現を測定する段階を含む。ペプチドまたはペプチドとHLAクラスI分子との複合体の発現は、該ペプチドまたは複合体の結合パートナーを用いてアッセイすることによって測定または検出することができる。好ましい態様において、ペプチドまたは複合体の結合パートナーは、該ペプチドを認識しかつこれに特異的に結合する抗体であってよい。腫瘍生検標本などの生物学的試料中のNEIL3の発現は、NEIL3プライマーを用いる標準的なPCR増幅プロトコールによって試験することもできる。腫瘍発現の例は本明細書に提示してあり、NEIL3増幅のための例示的な条件およびプライマーのさらなる開示はWO2003/27322に見出すことができる。
【0114】
好ましくは、本診断法は、対象から単離された生物学的試料をNEIL3 HLA結合ペプチドに特異的な剤と接触させて、生物学的試料中のNEIL3 HLA結合ペプチドの存在を検出する段階を含む。本明細書で使用する「接触」とは、生物学的試料を、剤と生物学的試料中に存在するNEIL3 HLA結合ペプチドとの間の特異的相互作用が可能となるように該剤に十分に近接させて、例えば濃度、温度、時間、イオン強度の適切な条件下で配置することを意味する。一般的に、剤と生物学的試料を接触させるための条件は、生物学的試料中の分子とその同族物(例えば、タンパク質とその受容体同族物、抗体とそのタンパク質抗原同族物、核酸とその相補的配列同族物)との間の特異的相互作用を促進するための当業者に公知の条件である。分子とその同族物との間の特異的相互作用を促進するための例示的な条件は、Low et al.に対して発行された米国特許第5,108,921号に記載されている。
【0115】
本発明の診断法は、インビボおよびインビトロの一方または両方で行うことができる。したがって、生物学的試料は、本発明においてインビボまたはインビトロで位置し得る。例えば、生物学的試料はインビボの組織であってよく、NEIL3免疫原性ポリペプチドに特異的な剤を用いて、組織中のそのような分子の存在を検出することができる。あるいは、生物学的試料をインビトロで採取または単離することができる(例えば、血液試料、腫瘍生検標本、組織抽出物)。特に好ましい態様において、生物学的試料は細胞を含む試料であってよく、より好ましくは、診断または治療されるべき対象から採取された腫瘍細胞を含む試料であってよい。
【0116】
あるいは、フルオレセイン標識HLA多量体複合体で染色することによって抗原特異的T細胞の直接的な定量を可能にする方法により、診断を行うことができる(例えば、Altman, J. D. et al., 1996, Science 274 : 94;Altman, J. D. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 : 10330)。細胞内リンホカインの染色、およびインターフェロン−γ放出アッセイ法またはELISPOTアッセイ法もまた提供されている。多量体染色、細胞内リンホカイン染色、およびELISPOTアッセイ法はいずれも、より慣習的なアッセイ法より少なくとも10倍高感度であるようである(Murali-Krishna, K. et al., 1998, Immunity 8: 177;Lalvani, A. et al., 1997, J. Exp. Med. 186: 859;Dunbar, P. R. et al., 1998, Curr. Biol. 8: 413)。五量体(例えば、US 2004−209295A)、デキストラマー(例えば、WO02/072631)、およびStreptamer(例えば、Nature medicine 6. 631-637 (2002))を使用することもできる。
【0117】
XI.抗体
本発明はさらに、本発明のペプチドに結合する抗体を提供する。好ましい抗体は本発明のペプチドに特異的に結合し、本発明のペプチドでないものには結合しない(または弱く結合する)。あるいは、抗体は本発明のペプチドおよびその相同体に結合する。本発明のペプチドに対する抗体は、がんの診断アッセイおよび予後診断アッセイ、ならびに画像化手法において使用され得る。同様に、そのような抗体は、NEIL3がやはりがん患者において発現または過剰発現する限り、他のがんの治療、診断、および/または予後診断において使用され得る。さらに、細胞内で発現する抗体(例えば、一本鎖抗体)は、例えば膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLなどの、NEIL3の発現が関与する癌の治療において治療的に使用され得る。
【0118】
本発明はまた、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むNEIL3タンパク質(SEQ ID NO:45)またはその断片を検出および/または定量するための様々な免疫学的アッセイ法も提供する。そのようなアッセイ法は、必要に応じて、NEIL3タンパク質またはその断片を認識しかつそれに結合できる1つまたは複数の抗NEIL3抗体を含み得る。本発明において、NEIL3ポリペプチドに結合する抗NEIL3抗体は、好ましくは、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識する。抗体の結合特異性は、阻害試験で確認することができる。すなわち、解析すべき抗体と全長NEIL3ポリペプチドとの間の結合が、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43のアミノ酸配列からなる任意の断片ポリペプチドの存在下で阻害される場合、この抗体が該断片に特異的に結合することが示される。本発明において、そのような免疫学的アッセイ法は、様々な型の放射免疫測定法、免疫クロマトグラフ技法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素結合免疫蛍光測定法(ELIFA)等を非限定的に含む、当技術分野で周知の様々な免疫学的アッセイ形式の範囲内で行われる。
【0119】
本発明の免疫学的であるが非抗体性の関連アッセイ法には、T細胞免疫原性アッセイ法(阻害性または刺激性)およびMHC結合アッセイ法もまた含まれ得る。加えて、NEIL3を発現するがんを検出し得る免疫学的画像化法もまた本発明によって提供され、これには本発明の標識抗体を使用する放射性シンチグラフィー画像化法が非限定的に含まれる。そのようなアッセイ法は、NEIL3を発現するがん、例えば膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLなどの検出、モニタリング、および予後診断において臨床的に使用され得る。
【0120】
本発明はまた、本発明のペプチドに結合する抗体も提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これには、ウサギなどの動物を本発明のペプチドで免疫化することにより得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えにより作製されるヒト化抗体が含まれる。
抗体を得るために抗原として用いられる本発明のペプチドは、任意の動物種に由来し得るが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から得ることができる。
【0121】
本発明によれば、免疫抗原として用いるペプチドは、完全なタンパク質または該タンパク質の部分ペプチドであってよい。部分ペプチドは、例えば本発明のペプチドのアミノ(N)末端断片またはカルボキシ(C)末端断片を含み得る。
本明細書では、抗体を、NEIL3ペプチドの全長または断片のいずれかと反応するタンパク質と定義する。好ましい態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、22、24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるNEIL3の断片ペプチドを認識し得る。オリゴペプチドを合成するための方法は、当技術分野において周知である。合成後、免疫原として使用する前にペプチドを任意に精製することができる。本発明において、免疫原性を高めるために、オリゴペプチド(例えば、9マーまたは10マー)を担体と結合または連結させてもよい。担体としてキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が周知である。KLHとペプチドを結合するための方法もまた、当技術分野において周知である。
【0122】
あるいは、本発明のペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を公知の発現ベクターに挿入してもよく、これを次に、本明細書に記載するように宿主細胞を形質転換するために用いる。所望のペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法により宿主細胞の外側または内側から回収することができ、後にこれを抗原として用いることができる。あるいは、ペプチドを発現する細胞全体もしくはそれらの溶解物、または化学合成したペプチドを抗原として用いてもよい。
任意の哺乳動物を抗原で免疫化することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯目(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長目(Primate)の動物を使用することができる。齧歯目の動物には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長目の動物には、例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻下目(Catarrhini)のサル(旧世界サル)が含まれる。
【0123】
動物を抗原で免疫化する方法は、当技術分野で公知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物を免疫化するための標準的な方法である。より具体的には、抗原を適量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水等で希釈して懸濁することができる。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適量の標準的アジュバントと混合し、乳化させた後、哺乳動物に投与することができる。その後、適量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原を、4〜21日ごとに数回投与することが好ましい。免疫化に適切な担体を用いてもよい。上記のように免疫化した後、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的方法で調べることができる。
【0124】
本発明のペプチドに対するポリクローナル抗体は、血清中の所望の抗体の増加に関して調べた免疫後の哺乳動物から採血し、任意の従来法によって血液から血清を分離することによって、調製することができる。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することもできる。免疫グロブリンGまたはMは、本発明のペプチドしか認識しない画分から、例えば本発明のペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いて調製することができ、この画分をプロテインAまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製する。
【0125】
モノクローナル抗体を調製するために、抗原で免疫化した哺乳動物から免疫細胞を回収し、上記の通りに血清中の所望の抗体レベルの上昇について確認して、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は、好ましくは脾臓から得ることができる。上記の免疫細胞と融合させるべきもう一方の親細胞には、好ましくは例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、およびより好ましくは、薬物により融合細胞を選択するための特性を獲得した骨髄腫細胞が含まれる。
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、公知の方法、例えば、Milstein et al. (Galfre and Milstein, Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0126】
細胞融合によって結果として得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択することができる。細胞培養は典型的に、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)を死滅させるのに十分な期間である数日間から数週間にわたって継続する。その後、標準的な限界希釈を行い、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞をスクリーニングおよびクローニングすることができる。
ハイブリドーマを調製するために非ヒト動物を抗原で免疫化する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ペプチド、ペプチド発現細胞、またはそれらの溶解物でインビトロにおいて免疫化することもできる。その後、免疫化したリンパ球を、無限に分裂可能なU266などのヒト由来骨髄腫細胞と融合させて、該ペプチドに結合し得る所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63−17688号)。
続いて、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のペプチドを結合させたアフィニティーカラムにより、精製することができる。本発明の抗体は、本発明のペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のペプチドのアゴニストおよびアンタゴニストの候補としても使用することができる。
【0127】
あるいは、抗体を産生する免疫細胞、例えば免疫化したリンパ球をがん遺伝子によって不死化し、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技法を用いて組換えにより調製することもできる(例えば、MacMillan Publishers LTD (1990)により英国で刊行された、Borrebaeck and Larrick, Therapeutic Monoclonal Antibodiesを参照されたい)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫化リンパ球などの免疫細胞からクローニングし、適切なベクターに挿入し、宿主細胞に導入して、組換え抗体を調製することができる。本発明はまた、上記のようにして調製された組換え抗体を提供する。
【0128】
さらに、本発明の抗体は、本発明のペプチドの1つまたは複数に結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')、Fv、または、H鎖およびL鎖由来のFv断片が適切なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってよい(Huston et al., Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンなどの酵素で処理することにより作製することができる。あるいは、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入して、適切な宿主細胞内で発現させることができる(例えば、Co et al., J Immunol 152: 2968-76 (1994);Better and Horwitz, Methods Enzymol 178: 476-96 (1989);Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol 178: 497-515 (1989);Lamoyi, Methods Enzymol 121: 652-63 (1986);Rousseaux et al., Methods Enzymol 121: 663-9 (1986);Bird and Walker, Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0129】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
あるいは、本発明の抗体を、非ヒト抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域との間のキメラ抗体として、または、非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として、得ることができる。そのような抗体は、公知の技術に従って調製することができる。ヒト化は、齧歯類のCDRまたはCDR配列でヒト抗体の対応する配列を置換することによって行うことができる(例えば、Verhoeyen et al., Science 239: 1534-1536 (1988)を参照されたい)。したがって、そのようなヒト化抗体は、実質的に完全には満たないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換された、キメラ抗体である。
【0130】
ヒトのフレームワーク領域および定常領域に加えてヒト可変領域を含む、完全なヒト抗体を用いることもできる。そのような抗体は、当技術分野で公知の様々な技法を用いて作製することができる。例えば、インビトロ法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を伴う(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227: 381 (1992))。同様に、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによって、ヒト抗体を作製することができる。このアプローチは、例えば米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0131】
上記のように得られた抗体を、均一になるまで精製してもよい。例えば、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って、抗体の分離および精製を行うことができる。例えば、これらに限定されないが、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、および等電点電気泳動を適切に選択しかつ組み合わせて使用することにより、抗体を分離および単離することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティーカラムとして使用することができる。用いるべき例示的なプロテインAカラムには、例えば、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0132】
アフィニティークロマトグラフィー以外の例示的なクロマトグラフィーには、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィー手順は、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うことができる。
例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、および/または免疫蛍光法を用いて、本発明の抗体の抗原結合活性を測定することができる。ELISAの場合、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のペプチドをプレートに添加し、次に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を添加する。次いで、一次抗体を認識しかつアルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄後に、p−ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、試料の抗原結合活性を評価する。抗体の結合活性を評価するために、C末端断片またはN末端断片などのペプチドの断片を抗原として用いてもよい。本発明による抗体の活性を評価するために、BIAcore(Pharmacia)を用いてもよい。
【0133】
本発明のペプチドを含むと考えられる試料に対して本発明の抗体を曝露し、該抗体と該ペプチドによって形成された免疫複合体を検出または測定することにより、上記の方法は本発明のペプチドの検出または測定を可能にする。
本発明によるペプチドを検出または測定する方法はペプチドを特異的に検出または測定することができるため、該方法は、該ペプチドを使用する種々の実験において使用され得る。
【0134】
XII.ベクターおよび宿主細胞
本発明はまた、本発明のペプチドをコードするヌクレオチドが導入されたベクターおよび宿主細胞も提供する。本発明のベクターは、宿主細胞中で本発明のヌクレオチド、特にDNAを維持するため、本発明のペプチドを発現させるため、または遺伝子治療用に本発明のヌクレオチドを投与するために使用され得る。
大腸菌が宿主細胞であり、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)内で増幅して大量に生成する場合、ベクターは、大腸菌内で増幅するための「複製起点」、および形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール等の薬物によって選択される薬物耐性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Script等を用いることができる。加えて、pGEM−T、pDIRECT、およびpT7もまた上記のベクターと同様に、cDNAのサブクローニングおよび抽出に用いることができる。ベクターを用いて本発明のタンパク質を産生する場合には、発現ベクターが使用され得る。例えば、大腸菌内で発現させるべき発現ベクターは、大腸菌内で増幅するための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1 Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現し得るプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Ward et al., Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1989))、araBプロモーター(Better et al., Science 240: 1041-3 (1988))、T7プロモーター等を有する必要がある。この点に関して、例えば、pGEX−5X−1(Pharmacia)、「QIAexpressシステム」(Qiagen)、pEGFP、およびpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を、上記のベクターの代わりに用いることができる。さらにベクターは、ペプチド分泌のためのシグナル配列を含んでもよい。分泌させるべきペプチドを大腸菌のペリプラズムに指向させる例示的なシグナル配列は、pelBシグナル配列(Lei et al., J Bacteriol 169: 4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入する手段には、例えば塩化カルシウム法およびエレクトロポレーション法が含まれる。
【0135】
大腸菌に加えて、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)、およびpEGF−BOS(Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac−to−BACバキュロウイルス発現系」(GIBCO BRL)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「ピキア(Pichia)発現キット」(Invitrogen)、pNV11、SP−Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生に使用することができる。
【0136】
ベクターをCHO、COS、またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、該ベクターは、このような細胞における発現に必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277: 108 (1979))、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーター等、および好ましくは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬物(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬物耐性遺伝子)を有する必要がある。これらの特徴を有する公知のベクターの例には、例えばpMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0137】
XIII.がんを診断するための方法
本発明はまた、がんを診断する方法も提供する。NEIL3の発現がいくつかの種類のがん細胞において特異的に上昇することが、見出された(表1および図5)。したがって、本明細書において同定された遺伝子、ならびにそれらの転写産物および翻訳産物は、がんのマーカーとしての診断的有用性を有しており、生物学的試料(例えば、細胞試料)中のNEIL3の発現を測定することによってがんを診断することができる。具体的には、本発明は、対象におけるNEIL3の発現レベルを測定することによりがんを診断するための方法を提供する。本発明の方法によって診断することのできるがんには、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLが含まれるが、これらに限定されない。さらに、肺腺癌および肺扁平上皮癌(SCC)を含むNSCLCもまた、本発明により診断または検出することができる。
【0138】
本発明に従って、対象の状態を調べるための中間結果が提供され得る。医師、看護師、または他の医療関係者が、該対象が疾患に罹患していると診断するのを補助するために、そのような中間結果を付加的な情報と組み合わせてもよい。あるいは、本発明を用いて対象由来の組織中の癌性細胞を検出し、該対象が疾患に罹患していると診断するのに有用な情報を医師に提供することもできる。
【0139】
具体的には、本発明は以下の方法[1]〜[10]を提供する:
[1]以下の段階を含む、がんを診断するための方法:
(a)生物学的試料中のNEIL3のアミノ酸配列をコードする遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b)該遺伝子の正常対照レベルと比較して、検出された発現レベルの上昇を、疾患の存在と相関させる段階。
[2]前記発現レベルが前記正常対照レベルより少なくとも10%高い、[1]記載の方法。
[3]以下の中より選択される方法によって前記発現レベルを検出する、[1]記載の方法:
(a)NEIL3の配列を含むmRNAを検出すること、
(b)NEIL3のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出すること、および
(c)NEIL3のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物活性を検出すること。
[4]前記がんが、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLの群より選択される、[1]記載の方法。
[5]前記遺伝子の遺伝子転写産物に対するプローブのハイブリダイゼーションを検出することにより、前記発現レベルを測定する、[3]記載の方法。
[6]遺伝子によってコードされる前記タンパク質に対する抗体の結合を、該遺伝子の前記発現レベルとして検出することにより、前記発現レベルを測定する、[3]記載の方法。
[7]前記生物学的試料が生検標本、痰、血液、胸水、または尿を含む、[1]記載の方法。
[8]前記対象由来の生物学的試料が上皮細胞を含む、[1]記載の方法。
[9]前記対象由来の生物学的試料ががん細胞を含む、[1]記載の方法。
[10]前記対象由来の生物学的試料が癌性上皮細胞を含む、[1]記載の方法。
【0140】
代替的に本発明は、対象由来の組織試料中のがん細胞を検出または同定するための方法を提供し、該方法は、対象由来の生物学的試料中のNEIL3遺伝子の発現レベルを測定する段階を含み、該遺伝子の正常対照レベルと比較して該発現レベルが上昇していることにより該組織中のがん細胞の存在または疑いが示される。
そのような結果を付加的な情報と組み合わせて、対象が疾患に罹患していると診断する際に、医師、看護師、または他の医療関係者を補助することができる。換言すれば、本発明は、対象が疾患に罹患していると診断するために有用な情報を医師に提供し得る。例えば、対象から採取された組織中のがん細胞の存在に関する疑いがある場合には、本発明に従って、NEIL3遺伝子の発現レベルに加えて、組織病理学、公知の腫瘍マーカーの血中レベル、および該対象の臨床経過等を含む疾患の様々な局面を考慮することにより、臨床決定に至ることができる。
【0141】
例えば、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLのいくつかの周知の診断的な血中マーカーは、以下の通りである:
膀胱癌;SCC、TPA、またはIAP
乳癌;BCA225、TPA、CEA、IAP、またはCA15−3
子宮頸癌;SCC、TPA、またはCA125
胆管細胞癌;CA19−9、またはCEA
結腸直腸癌;CEA
子宮内膜症;CA125
食道癌;CEA、DUPAN−2、IAP、NSE、SCC、SLX、または Span−1
肝癌;AFP、またはICDH
NSCLC;CEA
骨肉腫;ALP
膵癌;BFP、CA19−9、CA125、またはCEA
前立腺癌;PSA、またはPAP
腎細胞癌;IAP
SCLC;ProGRPまたはNSE
AML;TK活性
CML;TK活性
【0142】
すなわち、本発明のこの特定の態様において、遺伝子発現解析の結果は、対象の疾患状態をさらに診断するための中間結果として役立つ。
別の態様において、本発明は、がんの診断マーカーを検出するための方法を提供し、該方法は、これらに限定されないが、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLの診断マーカーとして、対象由来の生物学的試料中のNEIL3遺伝子の発現を検出する段階を含む。
【0143】
がんを診断する方法を以下により詳細に説明する。
本発明の方法によって診断すべき対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれるが、これらに限定されない。
診断を行うために、診断すべき対象から生物学的試料を採取することが好ましい。目的であるNEIL3の転写産物または翻訳産物を含む限り、任意の生体材料を、測定のための生物学的試料として使用することができる。生物学的試料には、身体組織、ならびに血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、生物学的試料は、上皮細胞、より好ましくは癌性上皮細胞、または癌性であると疑われる組織に由来する上皮細胞を含む、細胞群を含む。さらに、必要に応じて、得られた身体組織および体液から細胞を精製した後、生物学的試料として用いてもよい。
【0144】
本発明に従って、対象由来の生物学的試料中のNEIL3の発現レベルを測定する。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルで測定することができる。例えば、NEIL3のmRNAを、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)によってプローブを用いて定量することができる。検出は、チップまたはアレイ上で行うことができる。アレイの使用は、NEIL3を含む複数の遺伝子(例えば、様々ながん特異的遺伝子)の発現レベルを検出するのに好ましい。当業者は、NEIL3(SEQ ID NO:44;GenBankアクセッション番号:NM_018248)の配列情報を使用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、NEIL3のcDNAをプローブとして用いることができる。必要に応じて、プローブを、色素、蛍光物質、および同位体などの適切な標識で標識してもよく、該遺伝子の発現レベルをハイブリダイズした標識の強度として検出してもよい。
【0145】
さらに、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)により、プライマーを用いてNEIL3の転写産物を定量してもよい。そのようなプライマーもまた、該遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。例えば、実施例で使用するプライマー(SEQ ID NO:46および47)を、RT−PCRまたはノーザンブロットによる検出に使用することができるが、本発明はこれらに限定されない。
具体的には、本発明の方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件下で、中程度にストリンジェントな条件下で、または低ストリンジェントな条件下で、NEIL3のmRNAとハイブリダイズする。
【0146】
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出してもよい。例えば、NEIL3タンパク質の量を測定することができる。翻訳産物としてタンパク質の量を測定するための方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を用いる免疫測定法が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってよい。さらに、抗体の任意の断片または修飾物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')、Fv等)を、該断片がNEIL3タンパク質への結合能を保持する限り、検出に用いることもできる。タンパク質検出のためにこのような種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明において任意の方法を使用して、そのような抗体およびその等価物を調製することができる。
NEIL3遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出する別の方法として、NEIL3タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析により、染色強度を観察してもよい。すなわち、強い染色が観察されることは、該タンパク質の存在の増加を示し、かつ同時にNEIL3遺伝子の高い発現レベルを示す。
【0147】
さらに、診断の精度を向上させるために、NEIL3遺伝子の発現レベルに加えて、その他のがん関連遺伝子、例えばがんにおいて差次的に発現することが知られている遺伝子の発現レベルを測定することもできる。
生物学的試料中のNEIL3遺伝子を含むがんマーカー遺伝子の発現レベルは、対応するがんマーカー遺伝子の対照レベルよりも例えば10%、25%、もしくは50%上昇しているか、または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上まで上昇している場合に、上昇していると見なすことができる。
【0148】
対照レベルは、疾患状態(癌性または非癌性)が既知である対象/対照群から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、試験生物学的試料と同時に測定することができる。あるいは、対照レベルは、疾患状態が既知の対象由来の試料中で予め測定されたNEIL3遺伝子の発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計的方法により決定してもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースであってよい。さらに、本発明の1つの局面に従って、生物学的試料中のNEIL3遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から測定されたる複数の対照レベルと比較することもできる。患者由来の生物学的試料の組織型と類似した組織型に由来する参照試料から測定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が既知である群におけるNEIL3遺伝子の発現レベルの基準値を用いることが好ましい。基準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値 +/− 2 S.D.または平均値 +/− 3 S.D.の範囲を、基準値として用いることができる。
【0149】
NEIL3遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、または癌性対照レベルと類似している場合、対象を、がんに罹患しているかまたはがんの発症リスクを有すると診断することができる。さらに、複数のがん関連遺伝子の発現レベルを比較する場合、試料と癌性である参照との間の遺伝子発現パターンが類似していることにより、対象ががんに罹患しているかまたはがんの発症リスクを有することが示される。
試験生物学的試料の発現レベルと対照レベルの間の差を、細胞の癌性状態または非癌性状態次第でその発現レベルが相違しないことが判明している対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化することができる。例示的な対照遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0150】
本発明を実施または試験する際には、本明細書に記載したのと類似するかまたは同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載する。本明細書において言及した出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定を意図するものではない。
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これは、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0151】
材料および方法
細胞株
T2(HLA−A2)、ヒトBリンパ芽球様細胞株、COS7、およびアフリカミドリザル腎細胞株はATCCから購入し、PSCCA0922(HLA−*A0206)は財団法人ヒューマンサイエンス振興財団から購入した。TISI、HLA−A2402陽性Bリンパ芽球様細胞株は、IHWG Cell and Gene Bank(Seattle,WA)から購入した。
【0152】
NEIL3由来のペプチドの候補選択
HLA−A0201分子に結合するNEIL3由来の9merおよび10merのペプチドを、結合予測ソフトウェア「BIMAS」(www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind)(Parker et al.(J Immunol 1994, 152(1): 163-75)、Kuzushima et al.(Blood 2001, 98(6): 1872-81))を用いて予測した。HLA−A2402分子に結合するNEIL3由来の9merおよび10merのペプチドを、「NetMHC3.0」結合予測サーバ(www.cbs.dtu.dk/services/NetMHC/)(Buus et al.(Tissue Antigens., 62:378-84, 2003)、Nielsen et al.(Protein Sci., 12:1007-17, 2003、Bioinformatics, 20(9):1388-97, 2004))を用いて予測した。これらのペプチドは、標準的な固相合成法に従ってBiosynthesis Inc.(Lewisville,TX)によって合成し、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。ペプチドの純度(>90%)および同一性を、それぞれ分析用HPLCおよび質量分析によって決定した。ペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)に20 mg/mlで溶解し、−80℃で保存した。
【0153】
インビトロでのCTL誘導
単球由来の樹状細胞(DC)を抗原提示細胞(APC)として用いて、ヒト白血球抗原(HLA)上に提示されたペプチドに対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を誘導した。他所に記載されているように、DCをインビトロで作製した(Nakahara S et al., Cancer Res 2003 Jul 15, 63(14): 4112-8)。具体的には、Ficoll−Plaque(Pharmacia)溶液によって健常なボランティア(HLA−A*0201陽性またはHLA−A*0206陽性)から単離した末梢血単核細胞(PBMC)を、プラスチック製の組織培養ディッシュ(Becton Dickinson)へ付着させることによって分離し、それらを単球画分として濃縮した。2%の加熱非働化した自己血清(AS)を含むAIM−V培地(Invitrogen)中で、1,000U/mlの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)(R&D System)および1,000U/mlのインターロイキン(IL)−4(R&D System)の存在下で、単球を濃縮させた群を培養した。培養7日後、サイトカインで誘導したDCに、AIM−V培地中で3時間、37℃にて、3μg/mlのβ2−ミクログロブリンの存在下で20μg/mlの各合成ペプチドをパルスした。作製した細胞は、その細胞表面上に、CD80、CD83、CD86、およびHLAクラスIIなどのDC関連分子を発現しているようであった(データは示さず)。次いで、ペプチドをパルスしたこれらのDCを、X線照射(20Gy)によって不活化し、CD8 Positive Isolation Kit(Dynal)を用いた陽性選択によって得られた自己CD8+T細胞と1:20の比率で混合した。これらの培養物を48ウェルプレート(Corning)中に準備し;各ウェルは、0.5mlのAIM−V/2%AS培地中に、1.5×10個のペプチドパルスしたDC、3×10個のCD8+T細胞、および10ng/mlのIL−7(R&D System)を含んだ。3日後、これらの培養物に、IL−2(CHIRON)を最終濃度20IU/mlまで補充した。7日目および14日目に、ペプチドパルスした自己DCでT細胞をさらに刺激した。該DCは上記と同じ方法によって毎回調製した。21日目に、3回目のペプチド刺激後、ペプチドパルスしたT2細胞またはPSCCA0922細胞に対してCTLを試験した(Tanaka H et al., Br J Cancer 2001 Jan 5, 84(1): 94-9; Umano Y et al., Br J Cancer 2001 Apr 20, 84(8): 1052-7; Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004 Dec 15, 10(24): 8577-86; Suda T et al., Cancer Sci 2006 May, 97(5): 411-9; Watanabe T et al., Cancer Sci 2005 Aug, 96(8): 498-506)。
【0154】
CTL増殖手順
Riddellら(Walter EA et al., N Engl J Med 1995 Oct 19, 333(16): 1038-44;Riddell SR et al., Nat Med 1996 Feb, 2(2): 216-23)によって記載されている方法と類似の方法を用いて、CTLを培養下で増殖させた。40ng/mlの抗CD3モノクローナル抗体(Pharmingen)の存在下で、MMCによって不活化した2種類のヒトBリンパ芽球様細胞株と共に、合計5×10個のCTLを25mlのAIM−V/5%AS培地中に懸濁した。培養開始1日後に、120IU/mlのIL−2を該培養物に添加した。5、8、および11日目に、30IU/mlのIL−2を含む新たなAIM−V/5%AS培地を、該培養物に供給した(Tanaka H et al., Br J Cancer 2001 Jan 5, 84(1): 94-9; Umano Y et al., Br J Cancer 2001 Apr 20, 84(8): 1052-7; Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004 Dec 15, 10(24): 8577-86; Suda T et al., Cancer Sci 2006 May, 97(5): 411-9; Watanabe T et al., Cancer Sci 2005 Aug, 96(8): 498-506)。
【0155】
CTLクローンの樹立
96丸底マイクロタイタープレート(Nalge Nunc International)において0.3個、1個、および3個のCTL/ウェルとなるように、希釈を行った。CTLを、1×10個の細胞/ウェルの2種類のヒトBリンパ芽球様細胞株、30ng/mlの抗CD3抗体、および125U/mlのIL−2と共に、合計150μl/ウェルの5%AS含有AIM−V培地中で培養した。10日後、50μl/ウェルのIL−2を、125U/mlのIL−2の最終濃度に到達するように培地に添加した。14日目にCTL活性を試験し、上記と同じ方法を用いてCTLクローンを増殖させた(Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004 Dec 15, 10(24): 8577-86;Suda T et al., Cancer Sci 2006 May, 97(5): 411-9;Watanabe T et al., Cancer Sci 2005 Aug, 96(8): 498-506)。
【0156】
特異的CTL活性
特異的CTL活性を調べるために、インターフェロン(IFN)−γ酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイおよびIFN−γ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を行った。具体的には、ペプチドパルスしたT2(1×10個/ウェル)を刺激細胞として調製した。48ウェル中の培養細胞を応答細胞として使用した。IFN−γ ELISPOTアッセイおよびIFN−γ ELISAアッセイは、製造業者の手順に従って行った。
【0157】
プラスミドのトランスフェクション
標的遺伝子、HLA−A0201、HLA−A0206、またはHLA−A2402のオープンリーディングフレームをコードするcDNAをPCRによって増幅した。PCR増幅産物をベクターにクローニングした。製造業者の推奨手順に従ってリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、標的遺伝子陰性かつHLA−A2およびHLA−A24に陰性の細胞株であるCOS7にプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、トランスフェクトした細胞をversene(Invitrogen)を用いて回収し、CTL活性アッセイのための標的細胞(5×10個の細胞/ウェル)として使用した。
【0158】
半定量的RT−PCR解析
製造業者のプロトコールに従ってQiagen RNeasyキット(Qiagen)またはTrizol試薬(Life Technologies,Inc.)を用いて、全RNAを抽出した。Superscript II逆転写酵素(Life Technologies)と共にポリdT12−18プライマー(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、全RNAの10μgアリコートを逆転写して一本鎖cDNAとした。各一本鎖cDNA調製物を、12μl容量のPCR緩衝液(TAKARA)中で行う標準的なRT−PCR実験によるその後のPCR増幅のために希釈した。増幅は、GeneAmp PCRシステム9700(Perkin−Elmer、Foster City,CA)において、94℃で4分間の変性に続き、94℃で30秒、60℃で30秒、および72℃で60秒を28サイクル行って進行させた。プライマー配列は以下の通りであった:NEIL3に関して:フォワード、5'−TTGGTCCTCCTCTGTTTCATAGA−3'(SEQ ID NO:46)およびリバース、5'−GCTTCTCCCCAGTTACAAGAGAC−3'(SEQ ID NO:47)。
【0159】
結果
がんにおけるNEIL3発現の増強
cDNAマイクロアレイを用いて様々ながんから得られた包括的遺伝子発現プロファイルデータから、NEIL3(GenBankアクセッション番号NM_018248;SEQ ID NO:44)発現が上昇していることが明らかになった。NEIL3発現は、対応する正常組織と比較して、AML 20例中4例、膀胱癌6例中5例、乳癌11例中10例、子宮頸癌8例中8例、胆管細胞癌1例中1例、CML 12例中12例、結腸直腸癌6例中3例、子宮内膜症1例中1例、食道癌8例中4例、肝癌10例中6例、NSCLC 7例中7例、骨肉腫16例中16例、膵癌1例中1例、前立腺癌10例中10例、腎癌2例中2例、SCLC 12例中12例、および軟部組織腫瘍12例中12例において確かに上昇していた(表1)。
【0160】
(表1)対応する正常組織と比較して癌性組織においてNEIL3の上方制御が認められた症例の比率

【0161】
(実験例1)
NEIL3由来のHLA−A2結合ペプチドの予測
表2は、NEIL3のHLA−A2結合ペプチドを、結合親和性の高い順に示す。潜在的なHLA−A2結合能を有する全23種のペプチドを選択して、エピトープペプチドを決定するために調べた(表2)。
【0162】
(表2)NEIL3に由来するHLA−A2結合ペプチド

開始位置とは、NEIL3のN末端からのアミノ酸残基の数を示す。
結合スコアは「BIMAS」から導かれる。
【0163】
HLA−A0201または0206拘束性のNEIL3由来の予測ペプチドによるCTLの誘導、およびNEIL3由来ペプチドで刺激したCTL株の樹立
NEIL3由来の上記ペプチドに対するCTLを、「材料および方法」に記載したプロトコールに従って作製した。IFN−γ ELISPOTアッセイによって、ペプチド特異的なCTL活性を測定した(図1a〜j)。それにより、NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)で刺激したウェル番号#8(a)、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)で刺激した#2(b)、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)で刺激した#4および5(c)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)で刺激した#3(d)、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)で刺激した#1(e)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)で刺激した#3(f)、NEIL3−A2−10−340(SEQ ID NO:17)で刺激した#1(g)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)で刺激した#2および3(h)、ならびにNEIL3−A2−10−378(SEQ ID NO:22)で刺激した#6(i)が、対照ウェルと比較して強力なIFN−γ産生を示すことが示された。加えて、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)で刺激したウェル番号#9、10、12、および13(j)が、ペプチドパルスしたA0206陽性PSCCA0922細胞に対して強力なIFN−γ産生を示した。さらに、NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)で刺激した陽性ウェル番号#8、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)で刺激した#2、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)で刺激した#4および5、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)で刺激した#3、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)で刺激した#1、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)で刺激した#3、ならびにNEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)で刺激した#2および3中の細胞を拡大してCTL株を樹立し、かつ、A0206に対するNEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)で刺激した#10および12も同様に拡大してCTL株を樹立した。これらCTL株のCTL活性を、IFN−γ ELISAアッセイによって測定した(図2a〜k)。それにより、すべてのCTL株が、ペプチドパルスしなかった標的細胞と比較して、対応するペプチドをパルスした標的細胞に対して強力なIFN−γ産生を示すことが示された。一方、表2に示した他のペプチドはHLA−A0201との結合活性を有する可能性があるものの、それらのペプチドによる刺激によってCTL株を樹立することはできなかった(データは示さず)。結果として、これにより、NEIL3由来の7種のペプチドが、強力なCTL株を誘導し得るペプチドとしてスクリーニングされたことが示された。
【0164】
NEIL3特異的ペプチドに対するCTLクローンの樹立
「材料および方法」に記載した通りに、CTL株から限界希釈によりCTLクローンを樹立し、ペプチドをパルスした標的細胞に対するCTLクローンからのIFN−γ産生をIFN−γ ELISAアッセイによって測定した。図3において、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:15、およびSEQ ID NO:21で刺激したCTLクローンから強力なIFN−γ産生が測定された。
【0165】
NEIL3およびHLA−A0201またはHLA−A0206を外因的に発現する標的細胞に対する特異的CTL活性
これらのペプチドに対して産生された樹立CTL株を、NEIL3およびHLA−A0201またはHLA−A0206分子を内因的に発現する標的細胞を認識するそれらの能力について試験した。全長NEIL3およびHLA−A0201またはHLA−A0206分子の遺伝子の双方をトランスフェクトしたCOS7細胞(NEIL3およびHLA−A0201またはHLA−A0206遺伝子とを外因的に発現する標的細胞の特異的モデル)に対する特異的CTL活性を、対応するペプチドによって産生されたCTL株をエフェクター細胞として用いて試験した。全長のNEIL3遺伝子、HLA−A0201遺伝子、またはHLA−A0206遺伝子のいずれかをトランスフェクトしたCOS7細胞を対照として調製した。図4において、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、およびSEQ ID NO:15で刺激したCTLは、NEIL3およびHLA−A0201の両方を発現するCOS7細胞に対して強力なCTL活性を示し、SEQ ID NO:5で刺激したCTLはまた、NEIL3およびHLA−A0206の両方を発現するCOS7細胞に対しても強力なCTL活性を示した。一方、対照に対する有意な特異的CTL活性は検出されなかった。したがってこれらのデータにより、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)、およびNEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)は天然でHLA−A0201分子と共に標的細胞上に発現され、CTLによって認識され、かつNEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)もまた、天然でHLA−A0206分子と共に標的細胞上に発現され、CTLによって認識されることが明確に実証された。これらの結果から、NEIL3に由来するこれらのペプチドは、NEIL3を発現する腫瘍を有する患者に対してがんワクチンを適用するのに利用可能であり得ることが示された。
【0166】
抗原ペプチドの相同性解析
NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)、NEIL3−A2−10−340(SEQ ID NO:17)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)、およびNEIL3−A2−10−378(SEQ ID NO:22)で刺激したCTLは、有意かつ特異的なCTL活性を示した。この結果は、NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)、NEIL3−A2−10−340(SEQ ID NO:17)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)、およびNEIL3−A2−10−378(SEQ ID NO:22)の配列が、ヒト免疫系を感作することが知られている他の分子に由来するペプチドに対する相同性を有するという事実に起因する可能性がある。この可能性を排除するため、BLASTアルゴリズム(www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi)を用いて、クエリーとしてのこれらのペプチド配列に対する相同性解析を行ったが、有意な相同性を有する配列は認められなかった。相同性解析の結果から、NEIL3−A2−9−585(SEQ ID NO:3)、NEIL3−A2−9−127(SEQ ID NO:4)、NEIL3−A2−9−416(SEQ ID NO:5)、NEIL3−A2−9−71(SEQ ID NO:6)、NEIL3−A2−9−271(SEQ ID NO:11)、NEIL3−A2−10−198(SEQ ID NO:15)、NEIL3−A2−10−340(SEQ ID NO:17)、NEIL3−A2−10−590(SEQ ID NO:21)、およびNEIL3−A2−10−378(SEQ ID NO:22)の配列は固有のものであることが示され、したがって本発明者らの知る限りでは、これらの分子が何らかの非関連分子に対して予期しない免疫応答を引き起こす可能性は、ほとんどない。
結論として、NEIL3由来の新規HLA−A2エピトープペプチドが同定された。さらに、NEIL3のエピトープペプチドはがん免疫療法に適用可能であり得ることが実証された。
【0167】
広範なヒトがんにおけるNEIL3の発現上昇
その後の半定量的RT−PCR解析から、マイクロアレイ解析に供したICC 8例のうち7例におけるNEIL3発現の上昇が明らかになった(図5a)。
【0168】
肝癌におけるこの遺伝子の発現パターンを確認するため、本発明者らは、臨床肝癌標本、および正常肝細胞を含む正常ヒト組織を用いて、半定量的RT−PCR解析を行った。結果として本発明者らは、NEIL3が、正常肝細胞と比較して臨床肝癌標本(低分化病変)8例のうち7例において発現上昇を示し(図5a)、かつHCC細胞株5例中5例において過剰発現し、他の正常組織では発現しないこと(図5b)を見出した。
【0169】
(実験例2)
NEIL3由来のHLA−A24結合ペプチドの予測
表3aおよび3bは、NEIL3の9merおよび10merのHLA−A24結合ペプチドを、結合親和性の高い順に示す。潜在的なHLA−A24結合能を有する合計21種のペプチドを選択して、エピトープペプチドを決定するために試験した。
【0170】
(表3a)NEIL3に由来する9merのHLA−A24結合ペプチド

【0171】
(表3b)NEIL3に由来する10merのHLA−A24結合ペプチド

開始位置は、NEIL3のN末端からのアミノ酸残基の数を示す。
結合スコアおよび解離定数[Kd(nM)]は、「BIMAS」および「NetMHC 3.0」から導き出している。
【0172】
HLA−A2402拘束性のNEIL3由来予測ペプチドを用いたCTLの誘導
NEIL3由来のペプチドに対するCTLを、「材料および方法」に記載したプロトコールに従って作製した。IFN−γ ELISPOTアッセイによって、ペプチド特異的なCTL活性を決定した(図6a〜e)。それにより、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)で刺激したウェル番号#7(a)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)で刺激した#6(b)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)で刺激した#2および#8 (c)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)で刺激した#8(d)、ならびにNEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)で刺激した#1および#4(e)が、対照ウェルと比較して強力なIFN−γ産生を示すことが示された。一方、表3aおよび3bに示した他のペプチドはHLA−A2402との結合活性を有する可能性があったにもかかわらず、それらのペプチドを用いた刺激では特異的CTL活性は測定されなかった。例えば、ペプチドをパルスした標的細胞に対する、NEIL3−A24−9−364(SEQ ID NO:25)で刺激したCTL応答の典型的な陰性データ(f)。その結果、NEIL3由来の5種のペプチドが、強力なCTLを誘導し得るペプチドとしてスクリーニングされたことが示された。
【0173】
NEIL3由来ペプチドに対するCTL株およびCTLクローンの樹立
NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)で刺激したウェル番号#7(a)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)で刺激した#6(b)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)で刺激した#8(c)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)で刺激した#8(d)、ならびにNEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)で刺激した#1(e)中の、IFN−γ ELISPOTアッセイによって検出されるペプチド特異的なCTL活性を示した細胞を増殖させて、CTL株を樹立した。これらのCTL株のCTL活性を、IFN−γ ELISAアッセイによって決定した(図7a〜e)。それにより、すべてのCTL株が、ペプチドをパルスしなかった標的細胞と比較して、対応するペプチドをパルスした標的細胞に対して強力なIFN−γ産生を示すことが示された。さらに、CTL株から限界希釈することによりCTLクローンを樹立し、ペプチドをパルスした標的細胞に対するCTLクローンからのIFN−γ産生を、IFN−γ ELISAアッセイによって決定した。図8において、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)(a)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)(b)、およびNEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)(c)で刺激したCTLクローンから強力なIFN−γ 産生が測定された。
【0174】
NEIL3およびHLA−A2402を外因的に発現する標的細胞に対する特異的CTL活性
各ペプチドに対して産生された樹立CTL株およびCTLクローンを、NEIL3およびHLA−A2402遺伝子を内因的に発現する標的細胞を認識する能力について試験した。全長NEIL3およびHLA−A2402遺伝子の両方をトランスフェクトしたCOS7細胞(NEIL3およびHLA−A2402遺伝子を外因的に発現する標的細胞の特定のモデル)に対する特異的CTL活性を、対応するペプチドによって産生されたCTL株およびCTLクローンをエフェクター細胞として用いて試験した。全長NEIL3遺伝子またはHLA−A2402のいずれかをトランスフェクトしたCOS7細胞を、対照として調製した。図9において、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)で刺激したCTLは、NEIL3およびHLA−A2402の両方を発現するCOS7細胞に対する強力なCTL活性を示した。一方、対照に対する有意な特異的CTL活性は検出されなかった。したがってこれらのデータにより、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)は、HLA−A2402分子と共に標的細胞上に天然に発現し、CTLによって認識されることが明確に実証された。これらの結果から、NEIL3に由来するこのペプチドが、NEIL3を発現する腫瘍を有する患者に対してがんワクチンを適用するために利用可能であり得ることが示された。
【0175】
抗原ペプチドの相同性解析
NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)、およびNEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)で刺激したCTLは、有意でかつ特異的なCTL活性を示した。この結果は、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)、およびNEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)の配列が、ヒト免疫系を感作することが知られている他の分子に由来するペプチドと相同的であるという事実に起因する可能性がある。この可能性を排除するため、BLASTアルゴリズム(www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi)を用いて、クエリーとしてのこのペプチド配列に対して相同性解析を行ったが、有意な相同性を有する配列は認められなかった。相同性解析の結果から、NEIL3−A24−9−545(SEQ ID NO:24)、NEIL3−A24−9−362(SEQ ID NO:33)、NEIL3−A24−10−320(SEQ ID NO:35)、NEIL3−A24−10−544(SEQ ID NO:41)、およびNEIL3−A24−10−87(SEQ ID NO:43)の配列は固有のものであることが示され、したがって、本発明者らの知る限りでは、この分子が、ある非関連分子に対して意図しない免疫応答を引き起こす可能性はほとんどない。
結論として、NEIL3由来の新規なHLA−A2402エピトープペプチドが同定された。さらに、NEIL3ががん免疫療法に適用可能であり得ることが実証された。
【0176】
産業上の利用可能性
本発明は、新規TAA、特に強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し得、多種多様ながんのタイプに対する適用性を有し得る、NEIL3由来の新規TAAを提供する。このようなTAAは、がんの診断および治療において有用であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有する、単離されたペプチドであって、SEQ ID NO:45のアミノ酸配列またはその免疫学的活性断片からなる、単離されたペプチド。
【請求項2】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項1記載の単離されたペプチド。
【請求項3】
SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、および22からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1または2記載の単離されたペプチド。
【請求項4】
1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、または付加された、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、および22からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1、2、および3のいずれか一項記載の単離されたペプチド。
【請求項5】
以下の特徴の一方または両方を有する、SEQ ID NO:3、4、5、6、11、15、17、21、および22からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項4記載の単離されたペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸が、ロイシンおよびメチオニンからなる群より選択される;ならびに
(b)C末端のアミノ酸が、バリンおよびロイシンからなる群より選択される。
【請求項6】
HLA抗原がHLA−A24である、請求項1記載の単離されたペプチド。
【請求項7】
SEQ ID NO:24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1または6記載の単離されたペプチド。
【請求項8】
1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、または付加された、SEQ ID NO:24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1、6、および7のいずれか一項記載の単離されたペプチド。
【請求項9】
以下の特徴の一方または両方を有する、SEQ ID NO:24、33、35、41、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項8記載の単離されたペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸が、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、およびトリプトファンからなる群より選択される;ならびに
(b)C末端のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択される。
【請求項10】
ノナペプチドまたはデカペプチドである、請求項1〜9のいずれか一項記載の単離されたペプチド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項12】
CTLを誘導するための組成物であって、請求項1〜10のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のペプチド、または請求項11記載の1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む、組成物。
【請求項13】
がんの治療および/もしくは予防、ならびに/またはその術後再発の防止のための薬学的組成物であって、請求項1〜10のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のペプチド、または請求項11記載の1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
HLA−A24またはHLA−A2であるHLA抗原を有する対象への投与が意図される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
がんを治療することが意図される、請求項13または14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
以下からなる群より選択される1つの段階を含む、CTL誘導能を有する抗原提示細胞(APC)を誘導するための方法:
(a)APCを請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階、および
(b)請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドをコードするポリヌクレオチドをAPCに導入する段階。
【請求項17】
以下からなる群より選択される1つの段階を含む方法によって、CTLを誘導するための方法:
(a)CD8陽性T細胞を、HLA抗原と請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCと共培養する段階;
(b)CD8陽性T細胞を、HLA抗原と請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームと共培養する段階;および
(c)請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドに結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をT細胞に導入する段階。
【請求項18】
HLA抗原と請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドとの複合体をその表面上に提示する、単離されたAPC。
【請求項19】
請求項16記載の方法によって誘導される、請求項18記載のAPC。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドのいずれかを標的とする、単離されたCTL。
【請求項21】
請求項17記載の方法によって誘導される、請求項20記載のCTL。
【請求項22】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチド、その免疫学的活性断片、または該ペプチドもしくは該断片をコードするポリヌクレオチドを含む組成物を、対象に投与する段階を含む、対象においてがんに対する免疫応答を誘導する方法。
【請求項23】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドのいずれかおよびHLA抗原を含む複合体を提示する、エキソソーム。
【請求項24】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドのいずれかに対する抗体またはその断片。
【請求項25】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項26】
請求項25記載の発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトされた、宿主細胞。
【請求項27】
請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチドのいずれか、請求項11記載のヌクレオチド、または請求項24記載の抗体を含む診断キット。
【請求項28】
以下の段階を含む、がんを診断するための方法:
(a)(i)NEIL3の配列を含むmRNAを検出すること、
(ii)NEIL3のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出すること、および
(iii)NEIL3のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物活性を検出すること
からなる群より選択される方法のいずれか1つにより、対象由来の生物学的試料中のNEIL3遺伝子の発現レベルを測定する段階;ならびに
(b)該遺伝子の正常対照レベルと比較した、段階(a)で測定された発現レベルの上昇を、がんの存在と相関させる段階。
【請求項29】
段階(a)で測定された発現レベルが正常対照レベルよりも少なくとも10%高い、請求項28記載の方法。
【請求項30】
がんが、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌、子宮内膜症、食道癌、肝癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、前立腺癌、腎癌、SCLC、軟部組織腫瘍、AML、およびCMLの群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項31】
段階(a)で測定される発現レベルを、前記遺伝子の遺伝子転写産物に対するプローブのハイブリダイゼーションを検出することにより測定する、請求項28記載の方法。
【請求項32】
段階(a)で測定される発現レベルを、NEIL3のタンパク質に対する抗体の結合を検出することにより測定する、請求項28記載の方法。
【請求項33】
対象由来の生物学的試料が生検標本、痰、血液、胸水、または尿を含む、請求項28記載の方法。
【請求項34】
NEIL3遺伝子が、SEQ ID NO:45に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする、請求項28記載の方法。
【請求項35】
NEIL3のアミノ酸がSEQ ID NO:45である、請求項28記載の方法。
【請求項36】
NEIL3の転写産物または翻訳産物と結合する検出試薬を含む、キット。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−520659(P2012−520659A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539822(P2011−539822)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/JP2010/001808
【国際公開番号】WO2010/106770
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】