説明

PTTを含む粉体塗料

本発明は、ポリトリメチレンテレフタレートを含む粉体塗料を提供する。該粉体塗料は、塗装時に溶融する成分の含有率が好ましくは30〜100重量%である。このような粉体塗料によって、防食性や耐衝撃性などの優れた表面保護性能と、ピンホールが無く美しい外観を兼ね備えた塗装が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリトリメチレンテレフタレートを含む粉体塗料に関するものである。更に詳しくは、防食性や耐衝撃性などの優れた表面保護性能、優れた外観、及び、良好な塗工性を兼ね備えた粉体塗装に適した粉体塗料、及びその粉体塗料を用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗装は従来広く用いられてきた溶剤塗装と違い、溶剤を用いずに、熱によって塗料を溶融して塗膜を形成する方法であるため、揮発性有機化合物をほとんど発生しない。このため、環境を悪化させないこと、火災の心配が少ないこと、溶剤による中毒の心配がないこと、塗料の再使用が可能なために塗料コストが低減できることなど数多くの特徴を有しており、これらを生かして、近年、大幅に用途が広がっている。
【0003】
このうち、熱可塑性ポリエステル系樹脂を利用した粉体塗料は、優れた被塗物との密着性、優れた防食性能、高い塗膜強度といった特徴を有し、高信頼性の屋外設備の防食塗料として注目を浴びている。しかしながら、そのような粉体塗料は、微粉末になりにくく、また融点が高く、しかも溶融粘度も高い。そのために、外観の優れた塗装をすることが困難であったり、塗工時の作業性が悪かったりといった問題を有しており、その用途は限定されている。
【0004】
これらの問題を解決する技術としては、粒子の大きさ、長径と短径の比、および固有粘度を特定範囲としたポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略す)よりなる粉体塗料の提案がある(例えば、特許文献1参照)。該技術を用いるとユズ肌や気泡の巻き込みをなくして塗装面を比較的美しく仕上げることができる。また、塗工物を曲げてもクラックを発生しない柔軟性を有し、且つ、優れた耐候性も有した塗料とすることができる。
しかしながら、金属表面に対する密着性や、耐衝撃性、特に冷熱サイクルにおける耐熱衝撃性は満足できるレベルでは無く、塗装面の美しさも改善が望まれる。更に、融点は添加物の無い純粋なPETとほとんど変わらないので、塗装時には塗料を300℃近い温度に加熱して溶融する必要がある。そのため、溶融亜鉛めっき鋼板などの熱酸化劣化しやすい被塗物では、熱容量の大きい肉厚鋼板などの限定されたものにしか塗装することができないといった問題も有している。
【0005】
密着性を高め、且つ、塗工時の温度を下げる技術としては、イソフタル酸や1,4−ブタンジオールを共重合したPETを用いる粉体塗料も提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながら、該技術では共重合したPETを用いるために、得られる塗膜の硬度が低下したり、最も重要な特性である防食性能、特にセメント等に由来するアルカリ成分に対する耐性が低下したりしてしまう。また、ガラス転移点が下がって微細な粉体に粉砕することも困難になる。この結果、塗料の粒径が大きくなって、表面に凸凹を生じてしまい美しい塗膜が得られなかったり、耐候性を大幅に低下させるピンホールができやすくなったりするという問題が発生してしまう。
【0006】
ガラス転移点の低い樹脂を微細な粉末に粉砕する技術としては、液体窒素などで冷却しながら機械粉砕する技術や、樹脂を良溶媒に溶解した溶液に、貧溶媒を添加して樹脂を析出させて粉末を製造する、いわゆる化学粉砕を行う技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。これらの技術を用いることにより、確かに微粉砕は可能になる。しかし、液体窒素や溶媒を用いるための複雑な設備が必要になったり、工程が追加されるために作業時間が大幅に長くなったりしてしまい、生産性が極度に悪化してしまう。
【0007】
該文献では、PETを主体とした樹脂を170℃にて6〜17時間熱処理した結晶化度35%以上の粗大ペレットを粉砕する技術も提案されている。しかしながら、本発明者らの検討によると、粉砕性を高めることのできる結晶化度や、そのような結晶化度を達成するための条件は樹脂の成分によって異なる。そのため、該技術をそのままPET以外の樹脂に応用しても目的とする粉体を生産性良く得ることはできない。また、該技術を用いても、防食性能の改善は期待できない。
このように、これまでの技術では、密着性や防食性、耐衝撃性などの優れた表面保護性能を維持しつつ、ピンホールが無く平滑で美しい塗膜を得ることができなかった。更には塗工時の温度を低く保ちつつ、生産性良く製造可能な粉体塗料を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開昭50−159541号公報
【特許文献2】特開昭61−203180号公報
【特許文献3】特開昭62−45673号公報
【特許文献4】特開2000−53892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、防食性や耐衝撃性などの優れた表面保護性能と、ピンホールが無く美しい外観を兼ね備えた塗装ができ、且つ、生産性良く製造できる粉体塗料、及びその粉体塗料を用いた塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究した結果、粉体塗料にポリトリメチレンテレフタレートを包含させることによって前記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の態様は以下のとおりのものである。
(1)ポリトリメチレンテレフタレートを含む粉体塗料。
(2)塗装時に溶融する成分の含有率が30〜100重量%である、(1)記載の粉体塗料。
(3)塗装時に溶融する成分に対するポリトリメチレンテレフタレートの比率が30〜100重量%である、(1)又は(2)に記載の粉体塗料。
(4)平均粒径が1〜500μmである、(1)〜(3)のいずれかに記載の粉体塗料。
(5)平均粒径が5〜250μmである、(1)〜(4)のいずれかに記載の粉体塗料。
(6)機械粉砕及び/又は化学粉砕されている、(1)〜(5)のいずれかに記載の粉体塗料。
(7)予め60〜230℃かつ1分以上熱処理した後に粉砕された、(1)〜(6)のいずれかに記載の粉体塗料。
(8)予め150〜230℃かつ5分〜200時間熱処理した後に粉砕された、(1)〜(6)のいずれかに記載の粉体塗料。
(9)粉砕が、常温で機械粉砕にて行われた、(7)又は(8)に記載の粉体塗料。
(10)光触媒、脱臭剤及び抗菌剤からなる群から選択された少なくとも1種の機能性物質がポリトリメチレンテレフタレートと別々の粒子として添加されている、(1)〜(9)のいずれかに記載の粉体塗料。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の粉体塗料が、構造体表面の一部または全面に塗装された構造体。
(12)前記構造体が、ショッピングカート、鋼管柱、網カゴ及びフェンスからなる群から選ばれた一つである、(11)に記載の構造体。
(13)構造体上に形成された、ポリトリメチレンテレフタレートを含む塗膜。
(14)塗装時に溶融する成分に対するポリトリメチレンテレフタレートの比率が30〜100重量%である、(13)に記載の塗膜。
(15)(1)〜(10)のいずれかに記載の粉体塗料を構造体表面の一部または全面に付着させること、及び、続いて該粉体塗料を加熱溶融することによって塗膜を形成させることを含む、塗装方法。
(16)(1)〜(10)のいずれかに記載の粉体塗料を加熱した構造体と接触させることにより、該粉体塗料を溶融させて塗膜を形成させることを含む、塗装方法。
(17)塗膜を形成させた後に、再度、加熱することを含む、(16)に記載の方法。
(18)加熱された粉体塗料及び構造体を気体中で冷却することを含む、(15)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)加熱された粉体塗料及び被塗物を液体中で急冷することを含む、(15)〜(17)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉体塗料を用いると、高信頼性の防食塗装が要求される屋外設備や、外観の良さや耐衝撃性が要求されるショッピングカートやカゴなどを始めとした様々な用途に適した粉体塗装を行うことが可能となる。また、該粉体塗料は液体窒素などの特殊な薬液を用いずに機械粉砕にて得られるため、複雑な設備を用いずに生産性良く、低コストにて製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について、以下具体的に説明していく。まず本発明の粉体塗料について説明する。
本発明の粉体塗料はポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略すこともある)を含む必要がある。粉体塗料がPTTを含むことにより、驚くべき事に、これまでの粉体塗料に無い優れた特徴が発揮されることとなる。本発明の粉体塗料の特徴としては、まず第一に、得られる塗膜の耐衝撃性や密着性、防食性、耐候性が高まることである。これはPTTの分子構造からくる化学的な安定性や、ジグザグの分子骨格構造からくる衝撃吸収性に由来すると予想される。第二に、塗装温度の低温化と時間短縮が挙げられる。これはPTTが一般的なポリエステルであるPETに比べ融点が低いことに由来すると考えられる。第三に、粉砕性の向上が挙げられる。これは特にPTTを高温で熱処理した際に顕著となるが、PTTが容易に結晶化し、結晶化させることによりある一定以上の変形を加えると容易に割れるようになるためと思われる。この結果、機械粉砕において粉砕能力を高めることが可能となるとともに、微粉化が容易になる。塗料を微粉化すると、更に、塗膜の平滑性化や薄膜化、塗装温度の低温化、及び塗装作業の短時間化が容易となる。
【0012】
ここでPTTとはテレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコール(1,3−プロパンジオールともいう、以下「TMG」と略す)をジオール成分としたポリエステルである。該PTTには、本発明の効果を損なわない範囲で、0〜50重量%の他の成分を共重合する場合も含む。そのような共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等のエステル形成性モノマーやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの共重合体などが挙げられる。他の共重合成分は塗膜の性能や粉砕性より考えて、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
また、ここでPTTを含むとは、溶媒としてHFIP:CDCl=1:1を用いたHの核磁気共鳴スペクトル(以下「NMR」と略す)を用いた分析により、PTTホモポリマーと同じケミカルシフトの位置にスペクトルが観察されることを意味する。
【0013】
本発明の粉体塗料では、上記したようなPTTを10〜100重量%含んでいることが好ましい。粉体塗料は、塗装時に溶融する成分と溶融しない成分とからなるため、これらの割合によってPTTの好ましい量は異なる。ここで塗装時に溶融する成分とは、後で述べる本発明の粉体塗料の塗装方法において加熱する温度の好ましい温度の上限値のうち、最も低い温度で行われる塗装方法である静電塗装における最も好ましい温度範囲の上限値である280℃以下の温度にて溶融する成分のことを示す。粉体塗料中のPTT重量割合を上記した範囲とすることで、本発明が目的とする、優れた表面保護性能、美しい外観、及び、製造の容易さを同時に満足することが容易となる。PTTは20〜100重量%であることがより好ましく、40〜100重量%であることが特に好ましい。塗膜に柔軟性が要求される場合は、PTTの割合が70〜100重量%であることが望ましい。なお、PTTの重量割合はNMRにより求めることができる。
【0014】
塗装時に溶融する成分の含有率は塗装の目的や条件によっても異なる。また、粉体塗料中の溶融する成分量を測定することは困難であるが、組成を分析して含まれている物質の種類と量を推定し、このうちの溶融する成分の合計量を計算することによって、溶融する成分量を求めることができる場合は、塗膜の耐衝撃性、平滑性、光沢を高めるために粉体塗料の30〜100重量%であることが好ましく、50〜100重量%であることがより好ましく、70〜100重量%が特に好ましい。また、PTTの溶融する成分に対する比率は30〜100重量%であることが好ましく、50〜100重量%であることがより好ましく、70〜100重量%であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の粉体塗料に含まれるPTT以外の溶融する成分としては、PTT以外の樹脂や環状や線状のオリゴマー、PTTを構成する酸成分やグリコール成分のモノマー、及び、各種添加剤が挙げられる。PTT以外の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリウレタン、フッ素系ポリマー、ポリフェニレンサルファイトなど、及び、これらの共重合樹脂などが挙げられる。このような樹脂が、一度、繊維やフィルム、ボトルなどに成形された物を回収して得たものであることも、好ましい一つの例である。
【0016】
一方、本発明の粉体塗料に含まれる溶融しない成分としては、高融点あるいは溶融しないポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ、アクリル、セルロースなどの樹脂や、有機や無機の顔料、ガラス繊維、カーボン繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリンクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどの無機充填剤、二酸化シリカを始めとした光沢や平滑性を制御するための表面調整剤、安定剤などの添加剤や、重合触媒残渣などが挙げられる。
【0017】
また、本発明では、必要に応じて各種の添加剤、例えば艶消し剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、増白剤、不純物の捕捉剤、表面調整材などを添加する場合も含む。
【0018】
特に、本発明では、安定剤を添加することが好ましく、5価及び(又は)3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物が好ましい。リン化合物の添加量は、粉体塗料中のリン元素の重量割合として2〜500ppmであることが好ましく、10〜200ppmがより好ましい。具体的な化合物としてはトリメチルホスファイト、リン酸、亜リン酸、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト((チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrgafos168など)が好ましい。
【0019】
ヒンダードフェノール系化合物とは、フェノール系水酸基の隣接位置に立体障害を有する置換基を持つフェノール系誘導体であり、分子内に1個以上のエステル結合を有する化合物である。ヒンダードフェノール系化合物の添加量としては、粉体塗料に対する重量割合として0.001〜1重量%であることが好ましく、0.01〜0.2重量%がより好ましい。具体的な化合物としては、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox1010など)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox1076など)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox245など)、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)](チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox1098など)などが好ましい。もちろんこれらの安定剤を併用することも好ましい方法の一つである。
【0020】
また、本発明では、低分子量の揮発性不純物の捕捉剤を添加するのも好ましい方法の一つである。捕捉剤としては、ポリアミドやポリエステルアミドのポリマーやオリゴマー、アミド基やアミン基を有した低分子量化合物などが好ましい。具体的にはナイロン6.6、ナイロン6、ナイロン4.6などのポリアミドやポリエチレンイミンなどのポリマー、更にはN−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンとの反応生成物(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox 5057など)、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)](チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox1098など)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox565など)などが好ましい。もちろんこれらを併用することも好ましい方法の一つである。
【0021】
更に、主として屋外で使用する用途の場合は紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系やトリアジン系などが好ましい。具体的には2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のTINUVIN 1577FFなど)や、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のTINUVIN 234など)などが好ましい。もちろんこれらを併用することも好ましい方法の一つである。
【0022】
本発明では、これらの成分がPTTと反応している場合も、単純に混ざりあっている場合も含む。また、PTTとともに一つの粒子を形成している場合も、別々の粒子として混ざり合って粉体塗料を形成している場合も含む。
【0023】
PTTと別々の粒子として添加する成分の代表例としては、ブロッキングを抑制したりして粉体の取り扱い性を向上させるための滑剤や、顔料、表面調整剤などが挙げられるが、これらに限定されない。滑剤としては平均粒径が1μm以下のシリカなどが好ましい。また、マイカなどをPTTとは別々の粒子として添加することでメタリック調の塗膜とすることもできる。
【0024】
また、本発明において、得られる塗膜に新たな機能を付加する光触媒や脱臭剤、抗菌剤などの機能性物質を混合するのも好ましい方法の一例である。これらの物質は、その特性によりPTTと一つの粒子を形成するものとして混合する場合と別々の粒子として混合する場合を適宜選択することができる。
【0025】
本発明の粉体塗料は、通常、平均粒径(PTT及びPTT以外の成分を含めて粉体塗料に含有される全ての粒子の平均粒径)が1〜500μmであるが、平均粒径が5〜250μmであることが好ましい。平均粒径を1μm以上とすることで粉体の移送や塗装などでの取り扱いが容易になる。また、500μm以下とすることで本発明の目的の一つである平滑で美しい塗膜を得ることが容易になり、また塗膜の厚みを薄くしてもピンホールができ難くなったり、更には塗装時の温度を低くすることが可能となる。平均粒径は10〜200μmがより好ましく、15〜150μmが更に好ましく、20〜100μmが特に好ましい。また、美しい塗膜を得るため、及び、良好な取り扱い性とするためには、粒径が1〜500μmの粒子が粉体塗料に含まれる粒子全体の95重量%以上であることが好ましい。
また、粒子の形状は、配管等で凝集し難く容易に移送でき、塗工表面に均一に塗布しやすくするために、球あるいは立方体に近い形状で、ヒゲ、フィルム状の突起が少ないものが好ましい。
【0026】
本発明の粉体塗料は、150〜240℃の温度で溶融し始めて塗膜を形成できるようになることが好ましい。ここで溶融するとは、独立した粒子が結合して一体となり、容易に個々の粒子として分離しなくなることを示す。溶融する温度は用途によって好ましい値が異なるが、通常の金属塗装用の塗料では、180〜230℃で溶融し始めることがより好ましい。このようにすることにより、塗膜の耐熱性と塗装の容易さを両立させることが容易になる。
また、本発明の粉体塗料の溶融時の粘度は260℃にて0.1〜5000Pa・sであることが好ましく、0.5〜1000Pa・sであることがより好ましく、1〜500Pa・sであることが更に好ましい。この範囲とすることで平滑な塗膜を得ることが容易になる。
【0027】
次に、本発明で得られる塗膜について説明する。
本発明にて得られる塗膜は、固体の構造体上に形成されたPTTを含む塗膜である。
固体構造体としては、金属、樹脂、セラミクス、石、陶器、磁器、木材、紙などが挙げられる。なかでも金属、特に鉄元素を主体とする鋼材やステンレススチール、鋼材を亜鉛やクロムでメッキしたものなどが良好な塗膜を形成しやすいので好ましい。
【0028】
塗膜の組成は、揮発性成分のほとんど無い粉体塗装なので、前記した塗料とほぼ同じ成分か、あるいは、これらの成分が熱などにより反応した成分から成る。塗膜の平均厚みは5〜2000μmであることが好ましい。この範囲とすることで優れた表面保護性能と優れた外観を両立させることが容易となる。表面保護性能を重視する場合は、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは100μm以上、特に好ましくは200μm以上の厚みとすることができる。また、外観を重視する場合は、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下の厚みとすることが良い。このような厚みの塗膜にはピンホールが無いことが、防食性能を高める上で好ましい。
【0029】
塗膜の密着性は、金属上に形成されている場合は、JIS K 5400に準じた試験法にて、20kg/cm以上が好ましく、30kg/cm以上がより好ましく、40kg/cm以上が更に好ましく、50kg/cm以上が特に好ましい。
塗膜の耐衝撃性は、JIS K 5400に準じた試験法にて先端半径12.7mmの半球状で質量300gの鋼球を落下させた時の、塗膜に欠陥が生じない最大高さが30cm以上であることが好ましく、50cm以上がより好ましく、70cm以上が特に好ましい。また、塗膜の硬度は、JIS K5400に準じて、手かき法の鉛筆硬度で好ましくは4B以上、より好ましくは2B以上、更に好ましくはF以上が良い。
【0030】
次に本発明の粉体塗料の製造方法について説明する。
本発明の粉体塗料の製造のために、重合して得たPTTを含む組成物;又は重合して得たPTTを含む組成物を冷却固化した後、或いは、溶融状態のまま一軸、あるいは二軸の押出機等に投入して、顔料、安定剤などの添加剤を溶融混錬したPTTを含む組成物を用いる。そして、該組成物をストランド状で水中に押出して冷却固化・カットしたペレットのような固形物とした後、公知の機械式粉砕機を用いて粉砕して製造することができる。
【0031】
PTTを含む組成物を得るための酸成分とジオール成分の重合は従来公知の方法で行うことができる。例えば、テレフタル酸ジメチルとトリメチレングリコール、及び必要に応じて他の共重合成分を原料とし、チタンテトラブトキシドを触媒として常法によって、常圧、180〜260℃の温度でエステル交換反応を行った後、減圧下、220〜270℃に重縮合反応を行う。
【0032】
PTTを含む組成物の固有粘度[η]は0.3〜3.0dl/gであることが好ましい。固有粘度[η]が0.3dl/g以上となるように重合度を高くすることによって得られる塗膜の強度が高くできる。また、固有粘度[η]が2.0dl/g以下となるように重合度を高くしすぎないことによって平滑な塗膜表面を得ることが容易となる。固有粘度は0.35〜2.5dl/gがより好ましく、0.4〜2.0dl/gが特に好ましい。また、PTTの末端のカルボキシル基濃度は、得られる塗膜の耐候性を高めるために0〜100eq/トンとすることが好ましく、0〜80eq/トンがより好ましく、0〜50eq/トンが特に好ましい。更に耐候性を高めるためには、トリメチレングリコールの2量体であるジプロピレングリコール成分(以下「DPG」と略す)の含有量が0〜2重量%であることが好ましく、0〜1.6重量%であることがより好ましく、0〜1.2重量%であることが特に好ましい。
【0033】
粉体塗料とするのに必要な添加物を添加する方法としては、重合時に添加する方法、重合後の溶融混錬時に添加する方法、独立した粒子として添加する方法、或いは、これらの複数を組み合わせる方法が挙げられる。これらの方法の中から、添加物の種類や量、要求される性能等により適宜選択することができる。
【0034】
本発明では、PTTを含む固形物の粉砕は、機械粉砕、化学粉砕のいずれの方法でも行うことができる。特別な溶剤や設備が不要で、生産性が良好なことより、60℃以上の温度にて1分以上熱処理した後に、常温付近の温度にて機械粉砕する方法が最も好ましい。熱処理の温度は固形物が融着する温度以下であることが望ましい。熱処理の時間は長くてもかまわないが、実用上は300時間以下であることが好ましい。ここで常温付近とは、粉砕機の温度を制御する設備を有さない場合、及び、−40〜20℃の冷風や冷媒を用いて設備や固形物を冷却する場合を意味するが、固形物を冷媒などに浸漬する、いわゆる冷凍粉砕のような場合は含まない。このような機械粉砕では摩擦熱により粉砕機の温度が上昇するが、150℃以下とすることが好ましく、120℃以下とすることがより好ましく、100℃以下とすることが更に好ましい。最初にも述べたが、一般的に用いられるPETやナイロンと異なって、上記したような常温の機械粉砕にて生産性良く粉砕できるのはPTTを用いたためであり、本発明の特徴の一つである。
【0035】
粉砕を行う設備としては、特に制限は無く、公知の粉砕機を用いることができる。例えば、ホソカワミクロン(株)製のACMパルペライザーやターボ工業(株)製のターボミル、日清エンジニアリング(株)製のブレードミルなどの衝撃式微粉砕機やセイシン企業(株)製 ジェットミルなどの気流式微粉砕機などが挙げられる。本発明においてはPTTの特性より衝撃式微粉砕機が生産性を高くできるので好ましい。
【0036】
ペレットなどの固形物の熱処理は、60℃以上の温度にて1分以上行うことが好ましいが、更に粉砕性を良くするために150℃〜230℃の温度で5分〜200時間行うことがより好ましい。このような熱処理により、固形物に含まれるPTTの結晶性を上げることができ、微細な粉体を高収率にて得ることが容易となるとともに、粉体粒子のヒゲを少なくすることも容易になる。熱処理の温度は180〜225℃が更に好ましく、200〜220℃が特に好ましい。熱処理時間は10分〜100時間がより好ましく、15分〜50時間が更に好ましい。熱処理をする際は、酸素によるPTTの着色を抑制するために、窒素、炭酸ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0037】
粉砕を行った固形物は、続いて分級やろ過を行うことが好ましい。分級やろ過により粗大な粒子や微細な粒子が取り除かれ、それによって、平滑な塗膜を得ることが容易になったり、粉体塗料の取り扱いが容易になったりする。このような分級やろ過は振動ふるいや空気分級機を用いて行うことができる。
【0038】
このようにして得られた粉体には、更にヘンシェルミキサー等を用いて他の粉体と混合することもできる。本発明では、顔料や各種の添加剤等の全てとPTTを含む粉体とをこの混合工程において、乾式で混合する場合や、異なった添加剤の入ったPTTを含む粉体を混合する場合、色の異なったPTTを含む粉体を混合して新たな色の塗料とする場合等のいずれの場合も含む。粉体の混合においては、比重差や量に応じて粉体の大きさを適宜調整することが好ましい。特に、色の異なった粒子を混合する場合は、より粒径の細かい粉体同士を用いることが、均質で美しい塗膜を得るために望ましい。
【0039】
最後に塗装方法について説明する。
本発明では、金属、樹脂、セラミクス、石、陶器、磁器、木材、紙など幅広い物質に塗装することができる。このうち金属、特に鉄元素を主体とする鋼材及びそのメッキ品やステンレススチールなどが良好な塗膜を形成しやすいので好ましい。
【0040】
塗装方法として、被塗物の表面に静電気等で塗料を付着させた後、外部より加熱することで該粉体塗料を溶融、密着させて塗膜を形成させる、いわゆる「静電塗装方法」を用いることができる。また、本発明の粉体塗料を気体流によって浮き上がらせて、あたかも流動状態にあるようにした層に、あらかじめ加熱した被塗物を浸漬させることにより塗料付着させて溶融させ、塗膜を形成させる、いわゆる「流動浸漬方法」を用いることもできる。流動浸漬方法では、優れた塗膜を得るために、塗料を付着させた後に、再度、外部より加熱して塗膜を平滑化させることもある。本発明では、上記した塗装方法以外に、高温炎の中を高速で通過させて塗料を軟化させ、軟化した塗料を被塗物に融着させる、いわゆる「溶射法」で塗装を行う場合も含む。この方法は炉を必要としないので、現場施工できる特色がある。
【0041】
静電塗装方法において、外部より加熱する温度と時間は被塗物の大きさや形状、塗膜の厚みや要求される塗膜の平滑性などによっても異なる。それぞれ230〜350℃、0.5〜30分が好ましく、235〜300℃、0.7〜20分がより好ましく、240〜280℃、1〜10分が更に好ましい。一方、流動浸漬方法において被塗物をあらかじめ加熱する温度は、230〜400℃が好ましく、240〜380℃がより好ましく、250〜350℃が更に好ましく、280〜320℃が特に好ましい。流動浸漬方法の場合、被塗物が劣化しなければ長くてもかまわない。いずれの方法においても、このような温度にすることで、塗料を劣化させることなく、強靭で美しい塗膜を得ることが容易となる。
【0042】
本発明では、上記した方法で被塗物に付着させた後に溶融させた塗料は、水などの冷媒と接触させて冷却させる、いわゆる「急冷」する場合と、そのまま空気中でゆっくりと冷却させる、いわゆる「徐冷」する場合とがある。塗膜の光沢を高めたり、靭性を高めたりしたい場合は急冷が好ましく、塗膜表面の硬度を高めたり、光沢を抑えたりしたい場合は徐冷が好ましい。冷媒と接触させて冷却させる場合は、冷媒を循環させて塗膜表面に気泡が発生して外観不良となるのを抑えることが好ましい。
【0043】
塗装に用いる塗料の粒径や組成は、塗装方法や、目的とする厚みや表面平滑性、及びその他の要求性能に応じて適宜選択することが好ましい。一般的には流動浸漬方法では平均粒径が50〜150μmの塗料が好ましく、静電塗装方法では平均粒径が20〜80μmの塗料が好ましい。
【0044】
本発明では、塗装を行う被塗物表面の前処理は特に必要ではないが、密着強度を高めたり、美しい塗膜を形成させたりするためには前処理を行うことが好ましい。このような前処理としては表面に付着した油脂類を除去する脱脂処理や酸処理、表面の錆びを取り除くとともに表面を荒らして投錨効果をねらったブラスト処理などが挙げられる。ただし、ナイロンやポリエチレンの粉体塗装に広く用いられているようなエポキシ樹脂等を塗布するプライマー処理は必須では無く、これが本発明の特徴の一つでもある。
【0045】
本発明の粉体塗料による塗装は、ショッピングカート、台車、冷蔵庫等の網カゴなどのパイプと線材と平板が組み合わさったものや、ロッカー、冷蔵庫等電気製品の外板などの主に面材が組み合わさったもの、ガードレール、フェンス、液体や気体を搬送するための各種パイプ類、鋼管柱などの様々な構造体に行うことができる。このうち、耐衝撃性や防食性などの表面保護性能と外観の美しさを生かしたショッピングカート、台車や、優れた防食性能を生かした鋼管柱などに特に適している。
【0046】
(実施例)
本発明を実施例に基づいて説明する。
なお、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)PTT含有率及びDPG含有率
PTT含有率及びDPG含有率(重量%)は、塗料又は塗膜100mgを溶媒(HFIP:CDCl=1:1)に溶解させ、不溶成分をMEMBRANE FILTER(1μm、PTFE)で濾過した後の溶液を用いて、H−NMR測定により求めた。測定機はFT−NMR DPX−400(Bruker社製)を用いた。また、濾過して取り除いた不溶成分は真空乾燥後重量を測定し、PTT含有率及びDPG含有率を求めるために用いた。尚、DPG含有率は後述する表1中では単に「DPG」と記載した。
【0047】
(2)粒径(平均粒径、粒径分布)
水中に分散させた粉体の粒径(平均粒径、粒径分布)を、レーザー光回折/散乱法を用いた日機装(株)社製 マイクロトラックFRA粒度分析計を用いて測定した。粒径分布に関しては、粒径が1〜500μmの粒子の重量%(後述する表1中では「主割合」と記載)として求めた。
【0048】
(3)形状
光学顕微鏡にて粉体粒子の形状を観察した。粉体のヒゲの有無の評価については、ヒゲがほとんど観察されなかった場合を「○」、ヒゲが頻繁に観察された場合を「△」、ヒゲが多量に観察された場合を「×」とした。
(4)流動性
直径200mmの円筒状で、下部よりPE製不織布を張って断面内に均一に空気が流れるようにした流動浸漬層に2kgの粉体塗料を入れ、下部より該粉体の体積が1.4倍になるように空気を導入した際の流動性を目視で判断した。空気を導入した最に、全体が均一に浮遊した場合を「○」とし、局所的な粉体の吹き上がりが多発した場合を「×」とし、その中間を「△」とした。
【0049】
(5)溶融開始温度
ガラス板に挟んだ粉体塗料を温度調節機能を有するホットステージ上に置き、室温より10℃/分にて昇温した際に溶融し始める温度を目視にて判定した。
(6)溶融粘度
レオメトリック(株)社製のRMS−800を用いて、260℃、せん断速度100s−1にて測定した。
【0050】
(7)塗膜の厚み
電磁式膜厚計を用いて測定した。
(8)ピンホールの有無
低周波高電圧パルス放電式のピンホール探知器を用いて測定した。ピンホールが無かった場合を「○」とし、ピンホールがあった場合を「×」とした。
【0051】
(9)塗膜の密着性
JIS K5400に準じて、直径20mmの密着子を塗膜に接着して、密着子にオートグラフにより負荷を加え、剥離する垂直力(付着力)を測定した。
(10)耐衝撃性
JIS K5400に準じた試験法にて先端半径12.7mmの半球状で質量300gの鋼球を落下させた時の、塗膜にひび割れや、剥離、貫通孔の発生などの欠陥が生じない最大高さを測定した。
【0052】
(11)鉛筆硬度
JIS K5400に準じて、手かき法にて測定した。
(12)外観
目視にて、光沢、表面の波打ち、ムラの有無を判定した。
光沢に関しては、良好なものを「○」、中程度のものを「△」、良くないものを「×」とした。また、表面の波打ち及びムラに関しては、それらがほとんど観察されなかった場合を「○」、ある程度観察された場合を「△」、多量に観察された場合を「×」とした。
【0053】
(13)固有粘度(極限粘度)[η]
固有粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o−クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ミリリットル)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式に従って求めた。
[η]=lim(ηsp/C)
C→0
(14)カルボキシル末端基濃度
PTT組成物1gをベンジルアルコール25mlに溶解し、その後、クロロホルム25mlを加えた後、1/50Nの水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定を行い、滴定値V(ml)とPTT組成物が無い場合のブランク値V0より、以下の式に従って求めた。(尚、カルボキシル末端基濃度は後述する表1中ではCOOHと記載した。)
カルボキシル末端基濃度(eq/トン)=(V−V)×20
【0054】
[実施例1]
固有粘度[η]が0.9dl/g、カルボキシル末端基濃度が15eq/トン、DPG含有量が1重量%のPTT100重量部に、(株)松村石油研究所製の流動パラフィン、スモイル P−260を添着剤として0.03重量%用いて、黒の顔料として三菱化学(株)社製の三菱カーボンブラックを0.1重量%、熱安定剤としてチバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のIrganox1098を0.1重量部、紫外線吸収剤としてチバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製のTINUVIN234を0.1重量部ドライブレンドした後、2軸押出機(東芝機械(株)製:TEM58)に投入して、スクリュー回転数300rpm、シリンダー温度240℃(先端ノズル付近のポリマー温度は、260℃であった)、押出速度150Kg/hr(滞留時間1分)、減圧度0.04MPaにて溶融混練を行った。混錬したポリマーはストランド状にして水中に押出した後に冷却固化、カッティングを行い固形物であるペレットを得た。
【0055】
得られたペレットは内容積300リットルのタンブラー式乾燥機を用いて窒素を10リットル/時間流通させながら210℃にて300分熱処理を行い、結晶化ペレットを得た。
結晶化したペレットは、ターボ工業(株)社製の機械式粉砕機、ターボミル(表1中の略語:TM)と100メッシュの振動ふるいを組み合わせて、粉砕・分級して粉体塗料製品を得た。ここでは、粉砕機で粉砕したペレットを100メッシュの振動ふるいによって分級し、ふるいを通過したものは製品とし、通過しなかったものは粉砕機に戻して再度粉砕するようにした。
主な製造条件及び紛体塗料物性を表1に示す。
【0056】
塗料中のPTT含有量が99%以上、平均粒径は70μmと細かく、且つ、ヒゲが無く、流動性が良い優れた粉体であった。また溶融開始温度が225℃、溶融粘度が100Pa・sと取り扱い性、塗工性に優れた紛体塗料であった。
次に得られた粉体塗料を、直径200mmの円筒状で、下部よりPE製不織布を張って断面内に均一に空気が流れるようにしたに円柱状容器に2kg入れ、下部より該粉体の体積が1.4倍になるように空気を導入して流動浸漬層を作成した。この流動浸漬層に310℃に加熱した厚さ3.2mm、長さ100mm、幅40mmの鋼製の平板を2秒間浸漬させて塗料を溶融付着させた後取り出して、30秒間空気中に放置した後水中に入れて急冷して塗装を行った。被塗物の表面はブラスト処理を行い、凹凸を付けた。得られた塗膜物性を表2に示す。
上で得られた粉体塗料を用いることにより、ピンホールが無く、優れた密着性、耐衝撃性、硬度と、優れた外観を兼ね備えた塗膜が得られた。
【0057】
[実施例2〜5]
表1に記載した条件を変えた以外は実施例1と同様にして紛体塗料を得た。結果を表1に示す。
実施例2ではペレットの熱処理を80℃で30分としたところ、平均粒径が大きくなって粉体粒子にヒゲが多少見られたものの、問題の無い粉体塗料が得られた。
実施例3、4では、PTTの重合度を変えたところ、得られた粉体の平均粒径が異なったものの、良好な粉体が得られた。実施例3で得られた塗料を用いて表2に示した条件で塗装を行ったところ、より低温で膜厚の薄い良好な塗膜を得ることができた。実施例4で得られた塗料を用いて冷却を空冷として塗装を行った。得られた塗膜は少し艶消し状の風合いであるが、優れた物性を有していた。
実施例5では熱処理を80℃で30分としてフィルターメッシュを50メッシュと大きくしたところ、粒径が大きく流動性が少し悪くなるものの、使用可能な粉体塗料が得られた。得られた粉体塗料を用いて表2に示した条件で膜厚が厚くなるように塗装を行ったところ、波打ちやムラは多少見られたものの、優れた特性を有した塗膜が得られた。
【0058】
[実施例6〜9]
PTT100重量部の代わりに、実施例6では実施例1で用いたPTT90重量部と固有粘度[η]が0.6dl/g、カルボキシル末端基濃度が40eq/トンのPET10重量部を、実施例7では実施例1で用いたPTT60重量部と実施例6で用いたPET40重量部を、実施例8では実施例1で用いたPTT90重量部と固有粘度[η]が0.7dl/g、カルボキシル末端基濃度が50eq/トンのPETボトルより回収されたPET10重量部を、実施例9では実施例1で用いたPTT90重量部と固有粘度[η]が0.9dl/g、カルボキシル末端基濃度が60eq/トンのPBT(ポリブチレンテレフタレート)10重量部をそれぞれ用いて、表1に示した条件以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。結果を表1に示す。得られた粉体塗料はいずれの場合も、粒径が細かく、且つ、ヒゲが無く、流動性の良い粉体であった。また溶融開始温度も210〜220℃と低く、溶融粘度も100〜500Pa・sと取り扱い性、塗工性に優れた粉体塗料であった。
次に実施例6で得られた粉体塗料を用いて表2に示した条件以外は実施例1と同様にして塗装を行ったところ、加熱温度が少し低い条件でもピンホールが無く、優れた密着性、耐衝撃性、硬度と、優れた外観を兼ね備えた塗膜が得られた。結果を表2に示す。
【0059】
[実施例10]
ネオペンチルグリコールを10重量%共重合した固有粘度0.9dl/g、カルボキシル末端基濃度が20eq/トンの共重合PTT(co−PTT)をPTTの代わりに用いて、表1に示した条件以外は実施例1と同様にして粉体塗料を得た。結果を表1に示す。得られた粉体塗料は、ヒゲが多少見られたものの、粒径が細かく、流動性の良い粉体であった。また溶融開始温度が220℃と低く、溶融粘度も100Pa・sと取り扱い性、塗工性に優れた粉体塗料であった。
次に得られた粉体塗料を用いて表2に示した条件以外は実施例1と同様にして塗装を行ったところ、加熱温度が少し低い条件でもピンホールが無く、優れた密着性、耐衝撃性、硬度と、優れた外観を兼ね備えた塗膜が得られた。
【0060】
[実施例11〜13]
顔料としてカーボンブラックの代わりに、実施例11では 赤の顔料としてバイエル(株)社製のMACROLEX Red EG0.1重量部を、実施例12では顔料を用いずに、実施例13では白色顔料として大成化光(株)社製の加工チタンI−131E30重量部をそれぞれ用いて、表1に示した条件以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。結果を表1に示す。得られた粉体塗料はいずれの場合も、粒径が細かく、且つ、ヒゲが無く、流動性の良い粉体であった。また溶融開始温度も低く、溶融粘度も適正な取り扱い性、塗工性に優れた粉体塗料であった。
【0061】
[実施例14]
結晶核剤としてアイオノマーである三井・デュポンポリケミカル(株)社製HIMILAN−1707を2重量部添加して、表1に示した条件以外は実施例1と同様にして粉体塗料を得た。結果を表1に示す。得られた粉体塗料は、粒径が細かく、且つ、ヒゲも無く、流動性の良い粉体であった。また溶融開始温度が低く、溶融粘度も適正な取り扱い性、塗工性に優れた粉体塗料であった。
次に得られた粉体塗料を用いて表2に示した条件以外は実施例1と同様にして塗装を行ったところ、ピンホールが無く、優れた密着性、耐衝撃性、硬度と、わずかに艶消し状の優れた外観を兼ね備えた塗膜が得られた。
【0062】
[実施例15]
実施例1で得られた粉体塗料に、太平化学産業(株)社製のマスクメロン型光触媒(標準タイプ、平均粒径15μm、二酸化チタン85%以上含有)の粉体10重量部を添加して、ヘンシェルミキサーを用いて十分に混合して光触媒機能の期待できる新たな粉体塗料を得た。塗料特性を表1に示す。得られた粉体塗料は、粒径が細かく、且つ、ヒゲも無く、流動性の良い粉体であった。また溶融開始温度が低く、溶融粘度も適正な取り扱い性、塗工性に優れた粉体塗料であった。
【0063】
[実施例16]
結晶核剤の代わりに東亞合成(株)社製の抗菌剤、ノバロンAGZ330を1重量部添加した以外は実施例14と同様にして抗菌性の期待できる粉体塗料を得た。結果を表1に示す。得られた粉体塗料は、粒径が細かく、且つ、ヒゲも無く、流動性の良い粉体であった。また溶融開始温度が低く、溶融粘度も適正な取り扱い性、塗工性に優れた粉体塗料であった。
【0064】
[比較例1、2]
PTTの代わりに、比較例1では実施例6で用いたPET100重量部を用い、比較例2では実施例6で用いたPET90重量部と実施例9で用いたPBT10重量部をそれぞれ用いて、表1に示した条件以外は実施例1と同様にして粉体塗料を得ようとした。表1に示したように、いずれの場合も粉砕開始後、10〜30分程度で振動ふるいの目が詰まってしまい連続して粉体塗料を製造することができなかった。目が詰まるまでに得られた粉体塗料を調べたところ、いずれの場合も粒径が大きく、しかも、ヒゲ状の突起だらけの粉体であり、流動性が悪く流動浸漬塗装には使えないものであった。
【0065】
[実施例17]
実施例1で得られた粉体塗料を用いて、塗料を溶融付着させた後に再度、雰囲気温度280℃の電気炉中に入れて2分間後加熱した以外は実施例1と同様にして塗装を行った。得られた塗膜物性を表2に示す。表面平滑性が実施例1より更に優れた塗膜が得られた。
【0066】
[実施例18]
縦500mm、横1000mmの直方体状の容器に250kgの実施例1で得られた粉体塗料を入れ、体積が1.4倍になるように空気を導入した流動浸漬層に、320℃に加熱した外径200mmφ、肉厚2mmの鋼管を3秒間浸漬させて塗料を溶融付着させた後取り出して、30秒間空気中に放置した後水中に入れて急冷して塗装を行った。被塗物の表面はブラスト処理を行い、凹凸を付けた。
得られた塗膜物性を表2に示す。ピンホールが無く、優れた外観の塗装物を得ることができた。
【0067】
[実施例19、20]
被塗物として、実施例19では直径3mmφの鋼線が組み合わさってできた金網を、実施例20では直径2mmφと直径3mmφの鋼線、及び外形15mmφ、肉厚2.3mmの鋼管が組み合わさってできたショッピングカートをそれぞれ用いて表2に示した条件以外は実施例18と同様にして塗装を行った。なお、被塗物の表面はブラスト処理を行い、凹凸を付けた。
得られた塗膜物性を表2に示す。ピンホールが無く、優れた外観の塗装物を得ることができた。
【0068】
[比較例3〜5]
比較例3〜5においては、下記の粉体塗装を用いて、表2に示した条件以外は実施例1と同様にして塗装を行った。下記のPEはポリエチレン、Nyはナイロン12の略語である。なお、比較例4では実施例4と同様にして空冷を行い、比較例5では実施例17と同様にして後加熱を行った。
PET:NTTアドバンストテクノロジ(株)社製のPET粉体塗料、SAPOE−5000(比較例3で使用)
PE :住友精化(株)社製のポリエチレン粉体塗料、フローセン(比較例4で使用)
Ny :ダイセル・デグサ(株)社製のナイロン12粉体塗料、ダイアミドZ2073(比較例5で使用)
得られた塗膜物性を表2に示す。比較例3では、溶融開始温度が250℃と高いPET系の粉体塗料を用いたために、塗料が完全に溶融しないで一部が粉状に残り、また表面の波打ちやムラが見られ、良好な塗膜を得ることはできなかった。比較例4及び5では、それぞれPEとNyの粉体塗料を用いたために被塗物との密着性が非常に弱い塗膜しか得られなかった。また比較例4のPEの塗膜は硬度が5Bと非常に傷つき易いものであった。
【0069】
[実施例21]
粉砕機として日清エンジニアリング(株)製のブレードミル(表1中の略語:BM)を用いた以外は実施例1と同様にして粉体塗料を得た。紛体塗料物性を表1に示す。平均粒径が20μmと非常に細かく、且つ、ヒゲが無い粉体であった。ただし、流動性は若干劣っていたが後述する静電塗装に用いるには問題の無い粉体であった。また溶融開始温度が225℃、溶融粘度が100Pa・sと取り扱い性、塗工性に優れた紛体塗料であった。
次に、アネスト岩田(株)社製のコロナ荷電方式の静電塗装ガンEP−M10を用いて、厚さ1mm、長さ100mm、幅40mmの鋼製の平板に得られた粉体塗料を付着させた後、250℃の電気炉中に3分間入れて塗料を溶融付着させた後、取り出して、空気中にて冷却して塗装を行った。被塗物の表面はブラスト処理を行い、凹凸を付けた。得られた塗膜物性を表2に示す。
得られた粉体塗料を用いる事により、ピンホールが無く、優れた密着性、耐衝撃性、硬度と、艶消し状の優れた外観を兼ね備えた塗膜が得られた。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明はPTTを含む粉体塗料及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、防食性や耐衝撃性などの優れた表面保護性能、優れた外観、及び、良好な塗工性を兼ね備えた粉体塗装に適した粉体塗料及びその製造方法を提供するものである。塗装の対象となる構造物としては、ショッピングカート、鋼管柱、網カゴ、フェンス等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレートを含む粉体塗料。
【請求項2】
塗装時に溶融する成分の含有率が30〜100重量%である、請求項1記載の粉体塗料。
【請求項3】
塗装時に溶融する成分に対するポリトリメチレンテレフタレートの比率が30〜100重量%である、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項4】
平均粒径が1〜500μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項5】
平均粒径が5〜250μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項6】
機械粉砕及び/又は化学粉砕されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項7】
予め60〜230℃かつ1分以上熱処理した後に粉砕された、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項8】
予め150〜230℃かつ5分〜200時間熱処理した後に粉砕された、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項9】
粉砕が、常温で機械粉砕にて行われた、請求項7又は8に記載の粉体塗料。
【請求項10】
光触媒、脱臭剤及び抗菌剤からなる群から選択された少なくとも1種の機能性物質がポリトリメチレンテレフタレートと別々の粒子として添加されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の粉体塗料が、構造体表面の一部または全面に塗装された構造体。
【請求項12】
前記構造体が、ショッピングカート、鋼管柱、網カゴ及びフェンスからなる群から選ばれた一つである、請求項11に記載の構造体。
【請求項13】
構造体上に形成された、ポリトリメチレンテレフタレートを含む塗膜。
【請求項14】
塗装時に溶融する成分に対するポリトリメチレンテレフタレートの比率が30〜100重量%である、請求項13記載の塗膜。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の粉体塗料を構造体表面の一部または全面に付着させること、及び、続いて該粉体塗料を加熱溶融することによって塗膜を形成させることを含む、塗装方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の粉体塗料を加熱した構造体と接触させることにより、該粉体塗料を溶融させて塗膜を形成させることを含む、塗装方法。
【請求項17】
塗膜を形成させた後に、再度、加熱することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
加熱された粉体塗料及び構造体を気体中で冷却することを含む、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
加熱された粉体塗料及び被塗物を液体中で急冷することを含む、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/073328
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517478(P2005−517478)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001078
【国際出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】