説明

RFIDシステム用成形品

【課題】 RFタグの交信距離や動作を確保し、帯電防止性を得ることのできるRFIDシステム用成形品を提供する。
【解決手段】 成形体である半導体ウェーハ用のダイシングフレーム1と、ダイシングフレーム1の露出面に貼着されるRFIDシステム10のRFタグ11とを備え、ダイシングフレーム1の露出面をRFタグ11用の貼着領域20と非貼着領域21とに区分し、ダイシングフレーム1の非貼着領域21に表面処理を施してその表面抵抗値が1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFタグの交信距離や動作を確保し、帯電防止性を得ることのできるRFIDシステム用成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バーコードに代わる次世代技術として、データ容量が多く、汚れに強いRFIDシステムが期待されている。このRFIDシステムは、移動体識別装置、移動体識別システム、あるいはICタグシステムとも呼ばれ、図示しない移動体に取り付けられるRFタグと、このRFタグとの間で電磁誘導方式により電波を送受信してRFタグの内部メモリにアクセスするリーダ/ライタと、このリーダ/ライタを制御するコンピュータとを備えて構成され、製品の情報管理や加工工程履歴の情報管理等に使用されている(特許文献1、2、3、4参照)。
【0003】
移動体は、各種の材料を使用して製造されるが、利用される分野や材料の特徴により、問題が発生するので、各種の技術によりカバーされる。例えば、移動体やRFIDシステムが電気電子、半導体の分野で使用される場合には、電子部品や半導体の静電破壊という問題を防ぐ観点から帯電防止技術が用いられる。この帯電防止技術としては、例えば所定の表面抵抗率の成形材料を使用して移動体を成形する技術等があげられる。
【0004】
なお、成形材料を使用して移動体を成形する場合、移動体の抵抗値が余りに低すぎると、いわゆる「電撃」が生じ、外観上や性能上の不具合を発生させてしまうので、表面抵抗率を概ね1.E+04Ω/□〜1.E+13Ω/□に調整した成形材料を使用して移動体を成形する必要がある。
【0005】
RFIDシステムのRFタグは、ICタグとも、トランスポンダとも呼ばれ、移動体に取り付けられる装着片と、この装着片に装着されるICチップと、このICチップに接続されたアンテナとを備えて構成され、交流磁界によるコイルの相互誘導を利用してリーダ/ライタから情報や電力が伝送される。また、リーダ/ライタは、RFタグのアンテナに対して電波を送受信してデータを非接触で読み書きするアンテナと、RFタグとの交信を制御等するコントローラとを備え、コンピュータに接続されている。
【特許文献1】特開2000‐175945号公報
【特許文献2】特開平07‐233243号公報
【特許文献3】特開平06‐49213号公報
【特許文献4】特開平10‐95811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RFIDシステムは、以上のように構成され、移動体が金属のような低抵抗値の材料を使用して半導体ウェーハ用のダイシングフレーム等として製造される場合には、リーダ/ライタからの磁束が移動体、すなわち金属の表面で平行化してRFタグのアンテナを通過しにくくなり、誘導起電力が十分に発生せず、本来の交信距離を確保することができないという問題がある。
【0007】
また、RFタグのアンテナのインダクタンスが金属の影響により変化して共振周波数を変化させ、交信距離の低下を招くという問題がある。さらに、リーダ/ライタからのエネルギーにより金属に渦電流が発生してジュール熱を生じさせ、このジュール熱によりエネルギー損失が生じてRFタグの動作に支障を来たすという問題もある。
【0008】
このような問題を解消する手段としては、(1)金属製の移動体とRFタグとの間に透磁率の高い軟磁性シートを介在するとともに、所定の共振周波数となるようインダクタンスとコンデンサとを再設計し、金属製の移動体と軟磁性シートとの間に高導電性の金属を介在する方法、(2)金属製の移動体の代わりに導電性プラスチックを使用して移動体を成形する方法、(3)金属製の移動体の代わりに絶縁性プラスチックを使用して移動体を成形する方法が考えられる。
【0009】
しかしながら、(1)の方法を用いる場合には、交信距離やRFタグの動作を確保することができるものの、コストの増大を招き、しかも、軟磁性シートや高導電性の金属を使用するので、RFタグの重量増大、巨大化、さらには肉厚化という大きな問題が新たに生じることとなる。
【0010】
また、(2)の方法を用いる場合には、コストの削減、軽量化、帯電防止を図ることができるものの、抵抗値が低すぎるので、交信距離の低下を招き、しかも、電撃により外観上や性能上の不具合を発生させてしまうこととなる。さらに、(3)の方法の場合には、交信距離やRFタグの動作を確保することができる反面、静電気により電子部品や半導体が破損したり、塵埃が付着してしまうおそれがある。
【0011】
本発明は上記に鑑みなされたもので、RFタグの交信距離や動作を確保し、帯電防止性を得ることのできるRFIDシステム用成形品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては上記課題を解決するため、成形体の露出面にRFIDシステムのRFタグを取り付けたものであって、
成形体の露出面をRFタグ用の取付領域と非取付領域とに区分し、成形体の非取付領域に表面処理を施して表面抵抗値が1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるようにしたことを特徴としている。
【0013】
なお、成形体を、半導体ウェーハ用のダイシングフレーム、ICトレイ、リードフレームケース、あるいはマスクケースのいずれかとすることができる。
また、成形体の非取付領域に、溶剤に溶けた樹脂に導電性材料が分散した導電性樹脂溶液を塗布することにより表面処理を施すことができる。
【0014】
また、導電性樹脂溶液の樹脂の溶解度指数を成形体の成形材料の溶解度指数に近づけるようにすることができる。
また、導電性樹脂溶液の導電性材料を、導電性カーボン、金属酸化物、あるいはリチウム系のイオン導電材料とすることもできる。
【0015】
さらに、成形体の露出面にRFIDシステムのRFタグを取り付けるRFIDシステム用成形品の加工方法であって、
成形体の露出面をRFタグ用の取付領域と非取付領域とに区分し、成形体の非取付領域に表面処理を施して表面抵抗値が1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるよう調整することを特徴としても良い。
【0016】
ここで、特許請求の範囲における成形体については、電気電子、半導体の分野で使用される成形体が主ではあるが、他の分野(例えば、家電製品や自動車の生産ライン等)で使用される成形体を特に排除するものではない。この成形体の成形は、射出成形法が主ではあるが、圧縮成形法や押出成形法等でも良い。また、RFIDシステムは、電磁結合方式、電磁誘導方式、電波方式等に分類されるが、特に問うものではない。
【0017】
RFIDシステムで使用する周波数は、電波法、電波法施工規則、安全規格等を満たすものであれば、特に限定されるものではないが、殆どの国で使用することのできる13.56MHz帯域、950MHz帯域、2.4GHz、135kHz以下が好ましい。また、RFタグには、ラベル形、円筒形、カード形、箱形等があるが、特に問うものではない。このRFタグとの間で電波を送受信する読取装置は、アンテナとコントローラとを一体あるいは別体に備え、コンピュータ等からなる制御装置に接続される。さらに、表面抵抗値の単位は、Ωでも良いが、Ω/□でも表すことができる。
【0018】
本発明によれば、成形体に導電性カーボン等を安易に添加するのではなく、成形体の非取付領域に表面処理を施してその抵抗値を1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるように調整するので、RFIDシステム本来の交信距離を確保することができる。
【0019】
また、露出面の非取付領域における表面抵抗値の下限値を1.E+03Ωとするので、帯電防止性等を確保し、交信距離の短縮を防止することができる。また、ジュール熱の発生を抑制することができるので、エネルギー損失が発生してRFタグの動作に支障を来たすこともあまりない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、RFタグの交信距離や動作を確保し、帯電防止性を得ることができるという効果がある。
また、成形体の非取付領域に、溶剤に溶けた樹脂に導電性材料が分散した導電性樹脂溶液を塗布することにより表面処理を施すようにすれば、スパッタリング装置やイオン注入装置等からなる特別の専用装置を用いることなく簡易に表面処理することができる。
【0021】
さらに、導電性樹脂溶液の導電性材料を、導電性カーボン、金属酸化物、あるいはリチウム系のイオン導電材料、特にリチウム系のイオン導電材料とすれば、帯電防止性とRFタグの動作性とを容易に両立させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態におけるRFIDシステム用成形品は、図1や図2に示すように、成形体である半導体ウェーハ用のダイシングフレーム1と、このダイシングフレーム1の露出面に貼着されるRFIDシステム10のRFタグ11とを備えている。
【0023】
半導体ウェーハ用のダイシングフレーム1は、図1や図2に示すように、所定の成形材料により中空の平面略リング形に射出成形されて口径300mmの半導体ウェーハWを隙間を介し嵌合収容するフレーム2を備え、このフレーム2の裏面には、フレーム2の中空内に収容された半導体ウェーハWを着脱自在に粘着保持するUVタイプのダイシングテープ3が着脱自在に粘着されており、このダイシングテープ3上に半導体ウェーハWを搭載保持した状態で半導体ウェーハWのダイシング工程やダイボンディング工程等で使用される。
【0024】
フレーム2は、例えば熱可塑性樹脂(ポリプロピレン、ABS、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、塩化ビニル、ポリカーボネート、ナイロン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリスルホン等)や必要なフィラーを含む成形材料により半導体ウェーハWよりも一回り大きい平面略リング形の平板に形成され、前部両側には平面略三角形の位置決め用のノッチ4がそれぞれ切り欠かれており、表面の後部には長方形の収納穴5が横長に穿孔されるとともに、この収納穴5内にRFタグ11が粘着層を介して貼着される。
【0025】
フレーム2は、工業規格ASTM D790における常温の曲げ弾性率が好ましくは25〜50GPa、好ましくは25〜40GPaの範囲とされ、ASTM D790における常温の曲げ強度が150〜600MPa、好ましくは150〜400MPaの範囲とされる。これは、曲げ弾性率や曲げ強度の値が係る範囲から外れると、フレーム2の強度が低下したり、フレーム2が容易に破損してしまうからである。
【0026】
RFIDシステム10は、図1や図2に示すように、フレーム2の収納穴5内に貼着される小さなRFタグ11と、このRFタグ11との間で電磁誘導方式により電波(図1の矢印参照)を送受信してRFタグ11の内部メモリにアクセスするリーダ/ライタ12と、このリーダ/ライタ12を制御するコンピュータ15とを備え、RFタグ11とリーダ/ライタ12との間で送受信される電波の周波数が13.56MHz帯域、例えば13.56MHz±7kHz、13.56MHz±150kHz、あるいは13.56MHz±450kHz等とされる。
【0027】
RFタグ11は、図2に示すように、フレーム2の収納穴5内に粘着層を介して貼着される可撓性の薄いフィルム基板と、このフィルム基板に装着されるICチップと、このICチップに接続されたアンテナとを備え、フィルム基板の裏面にフレーム取付用の粘着層が積層することによりラベル型に形成される。このRFタグ11は、記憶容量の大容量化が可能なS‐RAM、記憶保持用の電池が不要なEEP‐RAM、読み込みや書き出し時間の速いFe‐RAM等が選択して採用される。
【0028】
リーダ/ライタ12は、RFタグ11のアンテナに対して電波を送受信するアンテナ13と、RFタグ11とコンピュータ15との間でプロトコル交換を行うコントローラ14とを備え、システムの制御装置であるコンピュータ15に有線あるいは無線により接続される。
【0029】
さて、ダイシングフレーム1、詳言すれば、フレーム2の露出面は、RFタグ11用の貼着領域20と非貼着領域21とに区分され、非貼着領域21に表面処理が施されてその表面抵抗値が1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格(米国のミル規格)のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間(ディケイタイム)が5秒以下になるように調整される。
【0030】
RFタグ11用の貼着領域20はフレーム2の収納穴5やその周囲とされ、非貼着領域21はフレーム2の収納穴5やその周囲を除く大部分の表裏面とされる(図2参照)。また、表面処理は、例えばフレーム2の非貼着領域21に、トルエン等の各種の溶剤に溶けた樹脂に導電性材料が配合・分散した導電性樹脂溶液が塗布・乾燥することにより施される。
【0031】
溶剤に可溶の樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル、ポリカーボネート、アクリル系樹脂等があげられ、成形体であるフレーム2の成形に使用される樹脂との密着性を考慮して溶解度指数(SP値)の近い樹脂が好適に使用される。また、導電性材料としては、例えばケッチェンブラックやアセチレンブラック等からなる導電性カーボン、酸化錫、酸化インジウム等からなる導電性の金属酸化物、あるいは過塩素酸リチウムや有機ホウ素錯体リチウム塩等からなるリチウム系のイオン導電材料等が適宜選択される。
【0032】
フレーム2の非貼着領域21における表面抵抗値の下限値は1.E+03Ωであるが、これは、この値未満で低い場合には、フレーム2にいわゆる「電撃」が生じ、外観上や性能上の不具合が発生してしまうからである。
【0033】
上記によれば、フレーム2の成形材料に導電性カーボンを安易に添加するのではなく、フレーム2の非貼着領域21に被覆表面処理を施してその抵抗値を1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるように調整・加工するので、RFIDシステム10本来の交信距離(20〜30mm)を十分に確保することができる。
【0034】
また、非貼着領域21の表面抵抗値の下限値を1.E+03Ωとするので、帯電防止性等を確保し、しかも、交信距離の短縮防止を図ることができる。また、ジュール熱の発生を抑制することができるので、エネルギー損失が発生してRFタグ11の動作に支障を来たすことがない。
【0035】
また、フレーム2とRFタグ11との間に透磁率の高い軟磁性シートや高導電性の金属を交信距離維持のために介在させるような特別の処置が何ら必要ないので、ダイシングフレーム1やRFタグ11の重量増大、巨大化、肉厚化を防止することができる。この効果は、半導体の製造ラインや加工装置等との関係で高さ制限、剛性、薄さを要求されるダイシングフレーム1についてはきわめて重要である。
【0036】
また、静電気により半導体ウェーハWのパターン回路が破損したり、半導体の製造分野で特に重要視される塵埃が付着してしまうことがない。また、導電性樹脂溶液の導電性材料としてリチウム系のイオン導電材料を選択すれば、帯電防止性とRFタグ11の動作性の両立をさらに容易に図ることが可能になる。
【0037】
また、RFタグ11とリーダ/ライタ12との間で送受信される電波の共振周波数を13.56MHz帯域とすれば、金属の影響を蒙りやすいものの、日本のみならず、米国やヨーロッパを含む殆どの国で周波数を変更することなくそのまま使用することが可能となり、汎用性の著しい向上が期待できる。
【0038】
また、バーコードシステムではなく、RFIDシステム10を採用するので、(1)非接触の読み取りが可能になる、(2)人為的なミスを回避できる自動読み取りが可能になる、(3)データの書き換えやデータの記憶容量増大が大いに期待できる、(4)情報の分散処理によりシステムの拡張や変更に柔軟に対応することができる、という様々な効果を得ることができる。さらに、フレーム2を射出成形するので、他の成形法に比べ、生産性、品質安定性、応用性等の点で優れた効果が期待できる。
【0039】
次に、図3は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、成形体をICトレイ30としてその露出面をRFタグ11用の貼着領域20と非貼着領域21とに区分し、非貼着領域21に表面処理を施してその表面抵抗値を1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるように調整するようにしている。
【0040】
ICトレイ30は、例えば横長の板形に射出成形され、表面のXY方向にはIC用の複数の収納穴31が配列して凹み形成されており、製造用、テスト用、あるいは出荷用として利用される。このICトレイ30は、その周縁部の外側に突出したフランジが貼着領域20としてRFタグ11が貼着され、残部が非貼着領域20として上記表面処理が施される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、用途の拡大が期待できるのは明らかである。
【0041】
次に、図4は本発明の第3の実施形態を示すもので、この場合には、成形体をリードフレームケース40としてその外箱41の露出面をRFタグ11用の貼着領域20と非貼着領域21とに区分し、非貼着領域21に表面処理を施してその表面抵抗値を1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるように調整するようにしている。
【0042】
リードフレームケース40は、平面視で横長に射出成形されて相互に嵌合する上下一対の外箱41と、この一対の外箱41の内部に着脱自在に収納されてリードフレームの変形を防止しつつ保管する平面視横長の内箱42とを備え、リードフレームの保管や搬送に使用される。一対の外箱41は、それぞれ半透明に成形され、一方の外箱41における表面周縁部の一部が貼着領域20として薄いRFタグ11が貼着される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても、上記実施形態と同様の作用効果が期待できるのは明らかである。
【0043】
次に、図5は本発明の第4の実施形態を示すもので、この場合には、成形体をマスクケース50としてその外箱51の露出面をRFタグ11用の貼着領域20と非貼着領域21とに区分し、非貼着領域21に表面処理を施してその表面抵抗値を1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるように調整するようにしている。
【0044】
マスクケース50は、相互に嵌合する上下一対の外箱51と、この一対の外箱51の内部に着脱自在に収納されてフォトマスク材の石英ガラスを横一列に整列収納する内箱52とを備え、矩形を呈した薄い石英ガラスの収納や搬送に使用される。一対の外箱51は、それぞれ透明あるいは半透明に成形され、一方の外箱51における周壁正面が貼着領域20として薄いRFタグ11が貼着される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても、上記実施形態と同様の作用効果が期待できるのは明白である。
【0045】
なお、上記実施形態の半導体ウェーハWは、口径300mmタイプの他、口径200mmや口径450mmタイプ等でも良い。また、RFIDシステム10の制御装置としてコンピュータ15を示したが、同様の機能を発揮するのであれば、各種のコントローラや情報通信機器を使用しても良い。さらに、上記実施形態ではフレーム2等の非貼着領域21に導電性樹脂溶液を塗布・乾燥させることにより表面処理を施したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、各種の金属を使用した無電解めっき法、蒸着法、スパッタリング法、イオン注入法等を用いて表面処理を施しても良い。
【実施例】
【0046】
以下、本発明に係るRFIDシステム用成形品の実施例を比較例と共に説明する。
実施例
ABS系樹脂(東レ株式会社製)と公知の射出成形機とを使用して厚さ2.5mm、幅30mm、長さ150mmのブロック形の成形体をサンプルとして射出成形し、この成形体の露出面をRFタグ用の貼着領域と非貼着領域とに区分して貼着領域に市販のマスキングテープを粘着した。
【0047】
こうしてマスキングテープを粘着したら、非貼着領域に表面処理を施してその表面抵抗値を1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるよう調整し、貼着領域からマスキングテープを剥離して貼着領域にRFIDシステムのRFタグを貼着し、交信距離や帯電防止性等について検討した。
【0048】
非貼着領域に対する表面処理は、成形体の非貼着領域に、トルエンからなる溶剤にアクリル系樹脂が溶けた樹脂溶液に、ケッチェンブラックが配合・分散した導電性樹脂溶液を塗布・乾燥させることにより施した。
【0049】
表面抵抗値については、(株)ダイアインスルメンツ製の測定器(商品名ハイレスタUP MCP−HT450)により測定した。また、チャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間(静電気減衰時間)は、(株)Electro−tech system,inc.製の測定器(商品名Static Decay Meter Model 406B)で測定した。
【0050】
RFIDシステムのRFタグは、共振周波数が13.56MHz帯域で最大交信距離が32mmのタイプ(大日本印刷株式会社製 商品名小型タグ(パウチ加工))を使用した。また、リーダ/ライタは、微弱タイプ(株式会社キーエンス製 商品名RF−500)を用いた。
【0051】
検討の結果、成形体に貼着したRFタグの交信距離は、成形体に貼着しない場合の交信距離と何ら代わることがなく、帯電防止性についても良好な結果を得ることができた。また、成形体に塵埃も付着せず、静電気のショートによるスパークもなく、良好な成形体であるのを確認した。
【0052】
比較例
射出成形した成形体の露出面を貼着領域と非貼着領域とに区分することなく、露出面全体に表面処理を施し、表面抵抗値が1.E+05Ωの成形体を作製してRFIDシステムのRFタグを貼着し、交信距離や帯電防止性等について検討した。その他の部分については、実施例と同様とした。
【0053】
検討の結果、成形体に貼着したRFタグの交信距離は10mmであり、成形体に貼着しない場合の交信距離32mmに比べ、著しい距離の短縮を招いた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るRFIDシステム用成形品の実施形態を模式的に示す全体斜視説明図である。
【図2】本発明に係るRFIDシステム用成形品の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図3】本発明に係るRFIDシステム用成形品の第2の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図4】本発明に係るRFIDシステム用成形品の第3の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図5】本発明に係るRFIDシステム用成形品の第4の実施形態を模式的に示す全体斜視説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 ダイシングフレーム(成形体)
2 フレーム(成形体)
3 ダイシングテープ
5 収納穴
10 RFIDシステム
11 RFタグ
12 リーダ/ライタ
13 アンテナ
14 コントローラ
15 コンピュータ
20 貼着領域(取付領域)
21 非貼着領域(非取付領域)
30 ICトレイ(成形体)
40 リードフレームケース(成形体)
41 外箱
50 マスクケース(成形体)
51 外箱
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体の露出面にRFIDシステムのRFタグを取り付けたRFIDシステム用成形品であって、
成形体の露出面をRFタグ用の取付領域と非取付領域とに区分し、成形体の非取付領域に表面処理を施して表面抵抗値が1.E+03Ω以上5.E+12Ω以下、かつFTMS 101B Method 4046−1969規格のチャージ電圧5kVが500Vに減衰するまでの時間が5秒以下になるようにしたことを特徴とするRFIDシステム用成形品。
【請求項2】
成形体を、半導体ウェーハ用のダイシングフレーム、ICトレイ、リードフレームケース、あるいはマスクケースのいずれかとした請求項1記載のRFIDシステム用成形品。
【請求項3】
成形体の非取付領域に、溶剤に溶けた樹脂に導電性材料が分散した導電性樹脂溶液を塗布することにより表面処理を施した請求項1又は2記載のRFIDシステム用成形品。
【請求項4】
導電性樹脂溶液の導電性材料を、導電性カーボン、金属酸化物、あるいはリチウム系のイオン導電材料とした請求項3記載のRFIDシステム用成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−40810(P2008−40810A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214554(P2006−214554)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】