SDF−1阻害剤を含有した軟骨組織再生用組成物
【課題】高い再生効果が期待できる、軟骨組織を標的とした再生医療システムを提供することを課題とする。
【解決手段】SDF-1阻害剤を有効成分とした軟骨組織再生用組成物が提供される。
【解決手段】SDF-1阻害剤を有効成分とした軟骨組織再生用組成物が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟骨組織の再生・再建に用いられる組成物(軟骨組織再生用組成物)に関する。詳しくは、SDF-1(ストローマ細胞由来因子−1)阻害剤を含有する組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
各種組織の修復や再生或いは疾病の治療を目的として細胞移植が行われてきた。細胞移植は、組織を構成する細胞自体又は組織の構築を補助する細胞を生体に投与するものであることから直接的な治療効果を期待できる一方、手術に伴う侵襲、移植安全性(感染や発がん)、細胞品質の安定性、細胞培養に多大な時間や費用を要することなど、様々な問題を伴う。
【0003】
軟骨組織は再生医療による再生が期待される組織の一つである。これまでにも細胞由来の成分を用いた方法(例えば特許文献1を参照)や骨髄細胞等を利用した方法(例えば特許文献2を参照)など、軟骨組織を標的とした再生方法が提案されている。しかしながら、従来の再生方法には克服すべき課題が多いことから、再生効果が高く、臨床応用可能な技術の創出が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−504093号公報
【特許文献2】特開2004−49626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の背景の下、本願発明は、高い再生効果が期待できる、軟骨組織を標的とした再生医療システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題に鑑み本願発明者らは、生体内幹細胞の集積システムを制御する新しい組織再生療法の開発を目指して研究を進め、骨延長術に注目した。骨延長術は自己再生能力を最大限に応用して大型組織再生を行う外科手術である。生体内幹細胞の集積や分化が大きな役割を果たすと考えられるが、その実態やメカニズムは多くが不明なままである。本願発明者らは、延長治癒過程における様々な幹細胞の集積動態を明らかにし、組織再生との関わり合いを検討した。また、細胞集積に機能することが知られているケモカインSDF-1が骨延長の幹細胞集積と治癒過程にいかなる役割を果たすか検証することにした。SDF-1はケモカインリガンドの一つであり、血管内皮前駆細胞の虚血部位への集積、造血幹細胞から血管内皮前駆細胞への分化、血管網の構築などに寄与すると報告されている。しかしながら、in vitroでの細胞遊走実験のみの報告が多く、in vivoでの機能の多くは不明である。特に、組織の再生過程におけるその機能は不明な点が多い。そこで、SDF-1の骨延長における役割と治療応用への可能性を検討した。具体的な検討方法は以下の通りとした。即ち、8週齢の雌性ICRマウスを用いて脛骨骨延長モデルを作製し、経時的に組織採取し、生体内幹細胞の集積を解析した。また、マウス骨髄単核球分画の細胞を近赤外蛍光色素によってラベルし、骨延長手術時に脛骨近心骨頭骨髄内へ移植した。一方、In vivo イメージャーを用いて延長前と延長終了時で蛍光シグナルを観察した。また、SDF-1及びそのレセプターの発現を解析した。更には、SDF-1阻害による効果を様々な角度から調べた。In vtro においてSDF-1阻害が骨分化にどのように影響するかを検討した。加えて、通常の2倍の速度で骨延長を行う骨延長モデル(H-DOモデル)を作製し、当該モデルの骨延長部位にSDF-1タンパクを投与し、組織再生促進効果を検証した。最後に、2次元レーザー血流計を用いて延長部位の血流変化を解析した。
【0007】
検討の結果、骨延長をしていない骨髄と比較すると、骨延長中期ではSca1陽性細胞が約4倍増加していることが明らかとなった。また、集まったSca1陽性細胞は血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞の分画が大多数を占めている事が明らかとなった。In vivo イメージャーによる解析では、蛍光色素でラベルした骨髄単核球細胞が延長部へ集積していることが観察された。一方、骨延長期間では、SDF-1及びそのレセプター(CXCR4、CXCR7)の発現が上昇することが判明した。SDF-1阻害剤を用いた実験からは、SDF-1を阻害すると細胞の遊走活性が抑制されること、及びSDF-1の阻害が骨髄細胞の骨分化能に殆ど影響しないことが示された。また、SDF-1の阻害によって仮骨形成が顕著に抑制され、延長部が軟骨細胞で満たされる現象(即ち、軟骨の形成)を認めた。更には、SDF-1は間葉系幹細胞や造血幹細胞の集積には必要ではなく、血管内皮前駆細胞に特異的な集積因子として機能していることが示唆された。H-DOモデルを用いた解析では、SDF-1過剰発現によって仮骨形成の著しい促進効果が確認できるとともに、多数の成熟血管が観察された。また、SDF-1の過剰発現により血流量増加が観察された。
【0008】
以上の結果を総合すると、SDF-1が血管内皮前駆細胞の特異的集積因子として機能する事実に加え、SDF-1を阻害しつつ間葉系幹細胞が供給される環境を形成すれば軟骨の再生を促すことができることがわかる。後者の事実は、SDF-1阻害剤を投与するとともに、軟骨組織の再生に直接的な関与が期待される細胞(間葉系幹細胞など)を標的部位に供給することが、軟骨組織再生のための戦略として極めて有効であることを意味する。
【0009】
以上の通り、本願発明者らの鋭意検討の結果、軟骨組織の効率的な再生のための有効な戦略が見出された。以下に示す本発明は、主として上記成果ないし知見に基づくものである。
[1]SDF-1阻害剤を含有する軟骨組織再生用組成物。
[2]間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を組み合わせてなることを特徴とする、[1]に記載の軟骨組織再生用組成物。
[3]SDF-1阻害剤と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞とを含有することを特徴とする、[2]に記載の軟骨組織再生用組成物。
[4]SDF-1阻害剤を含有する第1構成要素と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、[2]に記載の軟骨組織再生用組成物。
[5]SDF-1阻害剤を含有し、その投与の際に、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞も投与されることを特徴とする、[2]に記載の骨組織再生用組成物。
[6]前記SDF-1阻害剤が、SDF-1とCXCR4の結合及びSDF-1とCXCR7の結合の両者に対して阻害活性を示す、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
[7]前記SDF-1阻害剤がAMD3100又は抗SDF-1抗体である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
[8]SDF-1阻害剤を標的部位に局所投与或いは全身投与するとともに、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を標的部位に局所投与或いは全身的投与することを特徴とする、軟骨組織の再生方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】マウス骨延長(Distraction Osteogenesis:DO)モデルの概要。処置方法(上)、延長スケジュール(左下)、及び延長終了時と延長後14日のサンプルのX線像(右下)を示す。
【図2】Sca1(Stem Cell common antigen)陽性細胞の延長間隙(ギャップ)への集積。延長間隙の状態を模式的に示した(上)。また、DOモデルの組織サンプルに対する免疫染色の結果を示す(下)。
【図3】延長間隙(ギャップ)に集積した骨髄幹細胞の種類。マーカーを利用して延長間隙に集積した細胞を同定した。各マーカーによる蛍光染色の結果(左下)と各細胞の比率のグラフ(右下)を示す。EPCs:血管内皮前駆細胞、HSCs:造血幹細胞、MSCs:間葉系幹細胞。
【図4】骨延長による骨髄細胞の集積。in vivo イメージャーを用い、骨髄内での細胞の動きを経時的に解析した。解析方法(左)、イメージ像(右上)、蛍光強度の経時的変化(右下)を示した。
【図5】SDF-1(リガンド)及びCXCR4/CXCR7(レセプター)の遺伝子発現。骨延長術における各分子の遺伝子発現をリアルタイムPCRで調べた(右)。比較のため、VEGFR1、VEGFR2、PDGFRa及びPDGFRbの発現も解析した(左)。
【図6】SDF-1阻害剤による細胞遊走阻害効果。SDF-1阻害剤であるAMD3100の効果をトランスウェル遊走アッセイ(In vitro transwell migration assay)で調べた(上)。また、骨分化能に与える影響を確認した(下)。
【図7】SDF-1の機能抑制による仮骨形成阻害。コントロール群(C-DO)、SDF-1阻害剤であるAMD3100を投与した群(+AMD3100)及び抗SDF-1抗体を投与した群(+抗SDF-1mAb)の間で組織染色像を比較した。HE:ヘマトキシリンエオジン染色
【図8】SDF-1の機能阻害による血管内皮前駆細胞の集積抑制。コントロール群とAMD3100を投与した群の蛍光染色像(CD31、SDF-1)を比較した(左)。右はCD31陽性細胞数及びSDF-1陽性細胞数の比較。
【図9】間葉系幹細胞及び造血幹細胞の挙動解析。コントロール群とAMD3100を投与した群の蛍光染色像(CD45、Sca1)を比較した(上)。左下はSca1陽性エリアの比較。右下は構成細胞の内訳。
【図10】ハイスピードDOモデル(H-DO)の延長スケジュール(上)と延長部の組織像(下)。SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)を比較した。
【図11】SDF-1の血管新生促進効果及び血流回復効果。SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)の間で延長中期のギャップの蛍光染色像(CD31)を比較した(上)。2次元レーザー血流計を用い、コントロール(C-DOモデル)、SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)の間で血流量を比較した(下)。
【図12】SDF-1の血管新生促進効果。SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)の間で蛍光染色像(CD31、αSMA)を比較した。αSMAは周皮細胞のマーカーであり、CD31は内皮細胞のマーカーである(左下)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の局面は軟骨組織再生用組成物に関する。本明細書における用語「軟骨組織」は広義の意味で使用され、様々な部位(例えば関節軟骨、肋軟骨、甲状軟骨、気管軟骨、関節半月、関節円板、椎間円板、恥骨結合、喉頭蓋軟骨、外耳道軟骨、耳介軟骨など)の軟骨組織を包含する。本明細書において「軟骨組織再生用組成物」とは、軟骨組織の再生(再建)に利用される組成物をいう。本発明の軟骨組織再生用組成物は、それが適用される生体の局所(標的部位)において軟骨組織再生能を示し、軟骨組織の修復・再建を促す。本発明の組成物は必須成分としてSDF-1阻害剤を含有する。SDF-1はケモカインリガンドの一つであり、CXCL-12又はPBSFとも呼称される。SDF-1はCXCR4及びCXCR7と特異的に結合し、その生理活性を発揮する。SDF-1には複数のアイソフォーム(SDF-1α、SDF-1β、SDF-1γ、SDF-1δ、SDF-1ε等)の存在が確認されている。
【0012】
SDF-1阻害剤として、SDF-1に結合することでSDF-1とレセプター(CRCX4又はCRCX7)との結合を阻害する物質、レセプター(CRCX4又はCRCX7)に結合することでSDF-1とレセプター(CRCX4又はCRCX7)との結合を阻害する物質、レセプター(CRCX4又はCRCX7)への結合に関してSDF-1と競合する物質等を挙げることができる。より具体的には、SDF-1と類似の構造を有するタンパク質又はその部分ペプチド、SDF-1の結合部位と類似の構造を有する低分子化合物、抗SDF-1抗体(例えば特表2010-500005を参照)又はその機能的断片、SDF-1のレセプター結合部位に結合する低分子化合物、抗CXCR4抗体又はその機能的断片、CXCR4のSDF-1結合部位に結合する低分子化合物、抗CXCR7抗体又はその機能的断片、CXCR7のSDF-1結合部位に結合する低分子化合物、可溶性CXCR4、可溶性CXCR7等が挙げられる。
【0013】
SDF-1阻害剤の具体例として、AMD3100(J.Exp.Med.,186,1383-1388(1997); Nat.Med.,4,72-77(1998))、AMD3465(S. Hatase et al., Biochem Pharmacl 70:752-761(2005)、AMD11070(Wong et al., Mol Pharmacol 74:1485-1495(2008))T22(T.Murakami,et al.J.Exp.Med.,186,1389-1393(1997)、ALX40-4C(J.Exp.Med.,186,1395-1400(1997)、TF14016(S. Mikami et al., J Pharmacol Exp Ther.,327(2)383-392,(2008))等を挙げることができる(J.Exp.Med.,186,1189-1191(1997)を参照)。
【0014】
SDF-1阻害剤の中でも、SDF-1とCRCX4との結合及びSDF-1とCRCX7との結合の両者に阻害活性を示すものを用いることが好ましい。該当するものの例はAMD3100(Sigma)である。
【0015】
SDF-1阻害剤として利用可能な抗体(抗SDF-1抗体、抗CRCX4抗体、抗CRCX7抗体)は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は次の手順で行うことができる。抗原を調製し、これを用いてウサギ等の動物に免疫を施す。生体から調製した抗原の他、組換え抗原を使用してもよい。免疫惹起作用を増強するために、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いてもよい。キャリアタンパク質としてはKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)、OVA(Ovalbumin)などが使用される。キャリアタンパク質の結合にはカルボジイミド法、グルタールアルデヒド法、ジアゾ縮合法、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法などを使用できる。一方、融合タンパク質として発現させた抗原を用いることもできる。このような融合タンパク質は、汎用的な方法により簡便に精製することができる。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理などによって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製し、ポリクローナル抗体とする。一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製することができる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、目的タンパク質に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。更には、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、硫安分画、及び遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は単独ないし任意に組み合わされて用いられる。
【0016】
本発明の組成物の一態様は、SDF-1阻害剤に、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を組み合わせてなるという特徴を有する。即ち、SDF-1阻害剤と特定の細胞を併用する。この態様の場合、外部から供給した細胞による作用とSDF-1阻害剤による作用によって標的部位での軟骨形成が促されることになる。
【0017】
必要な細胞(間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞、歯髄幹細胞)は常法で調製すればよい。例えば間葉系幹細胞であれば骨髄や脂肪などから分離、精製可能である。また、軟骨芽細胞や軟骨細胞は、例えば、間葉系幹細胞を軟骨系細胞へと分化誘導することによって得ることができる。このような分化誘導には例えばデキサメタゾン(Dex)やトランスフォーミング増殖因子等が利用される(例えば、B. Johnestone et al., Exp. Cell Res., 238, 265(1998)を参照)。分化誘導に利用可能な培養液の具体例を示すと、50μg/ml L−アスコルビン酸二リン酸塩(L-ascorbic acid-2-phosphate), 40μg/ml L-プロリン(L-proline), 100μg/ml ピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate), 0.1μMデキサメタゾン(dexamethasone), 6.25μg/mlインスリン(insuline), 6.25μg/mlトランスフェリン(transferrin), 6.25μg/mlセレン酸(selenous acid), 10ng/mlヒトTGF-β3(human TGF-β3)を添加したMSCBM(間葉系幹細胞基本培地)である。分化誘導中は適宜培地交換を行う。例えば3日に一度の頻度で培地交換を行う。分化誘導のための培養は例えば1日間〜14日間継続する。
【0018】
歯髄幹細胞として永久歯歯髄幹細胞又は乳歯歯髄幹細胞を用いることができる。歯髄幹細胞は例えば以下の方法で採取、調製できる。この採取・調製法では(1)歯髄の採取、(2)酵素処理、(3)細胞培養、(4)細胞の回収を順に行う。
(1)歯髄の採取
自然に脱落した乳歯(又は抜歯した乳歯、或いは永久歯)をクロロヘキシジンまたはイソジン溶液で消毒した後、歯冠部を分割し歯科用リーマーにて歯髄組織を回収する。
(2)酵素処理
採取した歯髄組織を基本培地(10%ウシ血清・抗生物質含有ダルベッコ変法イーグル培地)に懸濁し、2mg/mlのコラゲナーゼ及びディスパーゼで37℃、1時間処理する。5分間の遠心操作(5000回転/分)により酵素処理後の歯髄細胞を回収する。セルストレーナーによる細胞選別はSHEDやDPSCの神経幹細胞分画の回収効率を低下させるので原則、使用しない。
(3)細胞培養
細胞を4cc基本培地で再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて3日間培養した後、コロニーを形成した接着性細胞を0.05%トリプシン・EDTAにて5分間、37℃で処理する。ディッシュから剥離した歯髄細胞を直径10cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種し拡大培養を行う。例えば、肉眼で観察してサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントに達したときに細胞を培養容器から剥離して回収し、再度、培養液を満たした培養容器に播種する。継代培養を繰り返し行ってもよい。例えば継代培養を1〜8回行い、必要な細胞数(例えば約1×107個/ml)まで増殖させる。尚、培養容器からの細胞の剥離は、トリプシン処理など常法で実施することができる。以上の培養の後、細胞を回収して保存することにしてもよい(保存条件は例えば-198℃)。様々なドナーから回収した細胞を歯髄幹細胞バンクの形態で保存することにしてもよい。
(4)細胞の回収
次に、細胞を回収する。トリプシン処理等で培養容器から細胞を剥離した後、遠心処理を施すことによって細胞を回収することができる。このようにして回収した細胞を用いて本発明の組成物を調製する。
【0019】
この態様の組成物は、典型的には、調製した細胞とSDF-1阻害剤を混合した配合剤として提供される。例えば、使用する細胞を生理食塩水や適当な緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁させて得た細胞懸濁液にSDF-1阻害剤を混合すればよい(併用可能なその他の成分については後述する)。一方、例えば、SDF-1阻害剤を含有する第1構成要素と、所定の細胞を含有する第2構成要素とからなるキットの形態で本発明の組成物を提供することもできる。この場合、標的部位に同時又は所定の時間的間隔を置いて両要素が投与されることになる。好ましくは、両要素を同時に投与することにする。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。一方、片方の投与後、所定の時間差で他方を投与する場合は、時間差を短く設定することが好ましい。例えば、片方の投与後15分以内、好ましくは10分以内、更に好ましくは5分以内に他方を投与する。第1構成要素(SDF-1含有)は標的部位に局所投与又は全身投与する。好ましくは直接的かつ迅速な効果を得るために局所投与を採用する。第2構成要素(細胞含有)については原則、標的部位に局所投与する。
【0020】
SDF-1阻害剤を含有する組成物とし、その投与時に所定の細胞が併用投与されるようにしてもよい。この場合の組成物と所定の細胞の投与のタイミングは、上記のキットの形態の場合と同様である。即ち、好ましくは同時に両者が投与されることになるが、所定の時間差で両者を投与することにしてもよい。尚、所望の再生効果が発揮されるように、1回分の細胞の投与量を例えば1x107個〜5x107個にするとよい。
【0021】
本発明の組成物の他の態様は、生体内の間葉系幹細胞(以下、「MSC」とも呼ぶ)を標的部位に集積させる手技(以下、当該手技のことを「MSC集積手技」と呼ぶ)と併用されることを特徴とする。この態様の組成物を適用した場合、MSC集積手技によって生体内(内在性)のMSCが標的部位に集積するとともに、SDF-1阻害剤によるSDF-1の機能阻害が生じ、標的部位での軟骨形成が促される。このように当該態様によれば、外部から細胞を供給(移植)する必要のない治療法を実現できる。従って、細胞移植に伴う各種問題(侵襲性、移植安全性、細胞品質の安定性、時間及び費用)を解消しつつ、高い治療効果が得られることになる。
【0022】
例えば、標的部位に張力を負荷することによって標的部位にMSCを集積することが可能である。このような手技の典型例は骨延長術である。骨延長術では固定装置(内固定型又は外固定型)又は骨延長器などと呼ばれる専用の装置が用いられる。骨延長術の方法は通常、骨切り、待機期間、骨延長期間及び骨硬化期間の工程からなる。骨延長速度は施術を施す部位を考慮して設定されるが、通常は0.5mm/日〜2mm/日である。骨延長術については、例えば、ADVANCE SERIES II-9 骨延長術:最近の進歩(克誠堂出版、波利井清紀 監修、杉原平樹 編著)に詳しい。
【0023】
本発明の軟骨組織組成物を骨延長術と併用する場合、通常は、待機期間の開始時〜骨延長期間の終了時までの間に本発明の組成物を局所投与する。投与回数は特に限定されない。例えば、1回〜10回の投与を行う。
【0024】
特定の細胞を併用する態様の組成物においても、標的部位に張力を負荷する手技(典型的には骨延長術)を更に併用してもよい。
【0025】
本発明の組成物には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)のSDF-1阻害剤が含有される。本発明の組成物の有効成分量は治療対象、併用成分、剤型などによって異なるが、所望の投与量を達成できるようにSDF-1阻害剤の量を例えば約0.001重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
【0026】
本発明の組成物に期待される治療効果が維持されることを条件として、他の成分を追加的に使用することを妨げない。ゲル状に調製するための材料を含め、本発明において追加的に使用され得る成分を以下に列挙する。
(1)基質成分、有機系生体吸収性材料
基質成分又は有機系生体吸収性材料として、例えば、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸等のグルコサミノグリカン、コラーゲン(特にII型、IX型など)、ヒアルロン酸、フィブリノーゲン(例えばボルヒール(登録商標))等を使用することができる。
【0027】
(2)ゲル化材料
ゲル化材料は、生体親和性が高いものを用いることが好ましく、ヒアルロン酸、コラーゲン又はフィブリン糊等を用いることができる。ヒアルロン酸、コラーゲンとしては種々のものを選択して用いることができるが、本発明の組成物の適用目的(標的部位)に適したものを採用することが好ましい。用いるコラーゲンは可溶性(酸可溶性コラーゲン、アルカリ可溶性コラーゲン、酵素可溶性コラーゲン等)であることが好ましい。
【0028】
(3)溶媒
本発明の組成物は、水系の溶媒を含むものであってもよい。水系の溶媒としては、滅菌水、生理食塩水、リン酸塩溶液等の緩衝液等を用いることができる。尚、調製した細胞を生理食塩水やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁するとともにSDF-1を添加して本発明の組成物とし、標的部位に適用することもできる。
【0029】
(4)その他
本発明の組成物は、上記の成分の他、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、細胞保護剤(例えばジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン)、抗生物質、pH調整剤、細胞の活性化や増殖又は分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド、骨誘導因子(BMP)等)を含んでいても良い。
【0030】
本発明の組成物の最終的な形態は特に限定されない。形態の例は液体状(液状、ゲル状など)及び固体状(粉状、細粒、顆粒状など)である。好ましくは、本発明の組成物は、操作性の向上や治療効果の向上等を理由として、ゲル状に調製される。本明細書での「ゲル状」とは、医療用に使用されるフィブリンゲル又はフィブリン糊のように、適度な粘性を有し、標的部位での保持性の高い状態をいう。例えば、ゲル化剤や増粘剤の添加、或いはフィブリノーゲンとトロンビンの添加によって、ゲル状の組成物が形成される。
【0031】
本発明の組成物は軟骨組織の修復、再建に利用される。例えば、変形性関節症、軟骨形成異常症、変形性椎間板症、半月板損傷、軟骨無形成症、離断性骨軟骨炎等の治療、間接周縁などにおける軟骨増生等に本発明の組成物を適用することができる。
【0032】
本発明の組成物が投与される対象はヒト、又はヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)である。好ましくは、本発明の組成物はヒトに対して使用される。
【0033】
本発明の組成物は、例えば、組織欠損部に注入、埋入、填入、又は塗布によって標的部位に局所投与される。或いは、全身投与(例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射)される。適度な流動性を有するゲル状に調製すれば、填入、注入、又は塗布等、簡便な手法で適用することができる。また、ゲル状であれば注射針等を用いて適用部位に容易に填入でき(創部を開放することなく適用することも可能である)、また、組織欠損部の形状に合わせて予め成型することを要せず、その汎用性が高い。
【0034】
当業者であれば、治療対象、標的部位などを考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として1回当たりのSDF-1阻害剤の量が約0.01mg〜1mg/kg、好ましくは約0.1mg〜0.5mg/kgとなるよう投与量を設定することができる。
【実施例】
【0035】
生体内幹細胞の集積システムを制御する新しい組織再生療法の開発を目指し、以下の検討を行った。
【0036】
1.生体内の幹細胞/前駆細胞が集積する組織再生モデルの同定
(1)マウス脛骨骨延長モデル(DOモデル)の作製
骨延長術が幹細胞/前駆細胞の集積を応用した治療法であることを検証した。マウス脛骨骨延長モデル(DOモデル)を作製した(図1)。脛骨を明示した後、27G針を上下2カ所ずつ貫通させ、その後、即時重合レジンにて延長装置と連結、固定した。レジン硬化後に、骨切りを行い、閉創した。延長スケジュールは骨切り後待機期間を5日間、延長期間を8日間、硬化期間を14日間とし、延長速度は0.2mm/12時間とした。図1右下に示す通り、27日目のサンプルではX線写真で骨の再生を確認できた。
【0037】
(2)Sca1(Stem Cell common antigen)陽性細胞の延長間隙(ギャップ)への集積
DOモデルの組織サンプルを作製し、幹細胞共通抗原Sca1を標的とした免疫染色を行った。延長中期である9日目の延長間隙ではSca1陽性細胞がコントロール(手術をしていない骨髄)と比較して約4倍増加していることが明らかとなった(図2)。
【0038】
(3)延長間隙(ギャップ)に集積した骨髄幹細胞の種類
ギャップに集積した幹細胞の種類を同定することにした。血管内皮細胞と血管内皮前駆細胞(EPC)の共通マーカーであるCD31、血球系細胞のマーカーであるCD45、幹細胞のマーカーであるSca1で多重染色を行ったところ、血管内皮前駆細胞(EPC)と間葉系幹細胞(MSC)の分画が大多数を占めていることが明らかとなった(図3)。
【0039】
(4)in vivo イメージャーによる解析
in vivo イメージャーを用い、骨髄内での細胞の動きを経時的に解析した。まず、マウス骨髄単核球分画を採取し、近赤外蛍光色素DiRにてラベルした。この細胞を骨延長手術時に脛骨近心骨頭部の骨髄内に移植した。延長開始前の5日目のサンプルと、延長終了時の13日目のサンプルについて蛍光を検出した。5日目のサンプルでは移植した部分に限局した蛍光シグナルが検出されたが、13日目では移植部と延長部の2つのピークが形成されていた(図4)。即ち、移植した細胞が延長期間中に延長部に向かって移動したことが明らかとなった。
【0040】
以上の検討(1)〜(4)によって、骨延長術は幹細胞/前駆細胞の集積を応用した再生現象であり、生体内幹細胞集積による組織再生の解析に適したモデルであることが示された。
【0041】
2.SDF-1とそのレセプター(CXCR4、CXCR7)の発現解析
骨延長期間におけるSDF-1リガンドとCXCR4レセプター及びCXCR7レセプターの遺伝子発現をリアルタイムRT-PCR法で解析した。結果を図5に示す。手術をしていないマウス脛骨・骨体部における遺伝子発現量を1とした時の相対値で発現量を示した。過去の報告と一致するように、延長過程では血管新生因子VEGF及びPDGFレセプターの遺伝子発現が上昇することが確認できた(図5左)。一方、SDF-1、CXCR4及びCXCR7の発現は、延長期間において上昇することが示された(図5右)。
【0042】
3.SDF-1の機能解析
(1)トランスウェル遊走アッセイ(In vitro transwell migration assay)及び骨分化誘導実験
まず、トランスウェル遊走アッセイ(In vitro transwell migration assay)を行った。ICRマウスから採取した骨髄由来単核球細胞を上部チャンバーに入れるとともに、下部チャンバーには細胞集積能を検討する薬剤を入れ、12時間後に下部チャンバーへ移動した細胞数をカウントした。細胞の計測はX10倍の視野でランダムに5カ所観察を行い、その平均値を求めた。下部チャンバーにDMEMを入れたものを陰性コントロールとし、30%FBS含有DMEMを入れたものを陽性コントロールとした。DMEMにSDF-1(150ng/mlの濃度)を添加した群では細胞の遊走は約3倍になった。DMEMにSDF-1とその阻害剤であるAMD3100(Sigma、5μg/ml)を添加した群と、DEMEにSDF-1と抗SDF-1抗体を添加した群では、細胞の遊走が阻害された(図6上)。このように、SDF-1タンパクが骨髄細胞の遊走を促すこと、及びSDF-1阻害剤によって当該遊走活性が抑制されることが示された。一方、骨分化誘導実験を行い、AMD3100及び抗SDF-1抗体はいずれも骨分化能に影響しないことを確認した(図6下)。
【0043】
(2)骨延長におけるSDF-1の役割1
次に、骨延長におけるSDF-1の役割を調べるため、DOモデルにおいて延長期間1日前から屠殺するまでAMD3100(5mg/kg)を連日、又は抗SDF-1抗体(投与量20μg)を一日おきに皮下注射した。コントロール群では延長終了時に顕著な仮骨形成が確認されたが、SDF-1を阻害した群では仮骨の形成が顕著に抑制された(図7)。延長間隙にはアルシアンブルー陽性の軟骨の形成が確認された。この結果より、SDF-1分子は骨延長部の仮骨形成に不可欠な役割を果たすことがわかった。
【0044】
(3)骨延長におけるSDF-1の役割2
臨床的に延長部の血流低下が仮骨形成を阻害することが知られている。そこで、SDF-1機能阻害が延長部の血管内皮前駆細胞の集積に影響するか解析した。コントロールでは延長部位にCD31陽性、血管内皮前駆細胞が集積した(図8)。これらの細胞はSDF-1を多く発現している。AMD3100で処理した延長部ではCD31及びSDF-1陽性の血管内皮前駆細胞の数が7分の1程度に減少した(図8)。このように、SDF-1は血管内皮前駆細胞の延長部への集積に不可欠な役割を果たすことが示された。
【0045】
(4)骨延長におけるSDF-1の役割3
次に、間葉系幹細胞や造血幹細胞の挙動を解析した。AMD3100処理によって延長部のSca1陽性細胞数は3倍に増加した(図9)。Sca1陽性細胞の20%はCD45陽性の造血幹細胞であった。80%はCD45陰性、CD31陰性の間葉系幹細胞であった。これらの解析結果から、骨延長の組織再生過程において、SDF-1は間葉系幹細胞や造血幹細胞の集積には必要ではなく、血管内皮前駆細胞特異的な集積因子として機能していることが示唆された。
【0046】
4.ハイスピードDOモデルによる検討
骨延長術は細胞移植なしで大型の組織再生を得られる一方で、臨床的な問題(治癒期間が長期に及ぶこと等)を抱えている。治療期間の短縮のためには延長速度を高めることが望まれるが、急速な延長操作では極端な虚血状態を誘発し延長部位の萎縮、瘢痕形成を招く。骨延長術における治療期間の短縮化を目指し、通常の2倍の速度で骨延長を行うハイスピードDOモデル(H-DO)(図10上)を作製した。
【0047】
SDF-1タンパク(R&D Systems社) 200ngをI型コラーゲンスキャフォールド(新田ゼラチン株式会社)に混和し、H-DOモデルに対して延長1日前(4日目)から一日おきに局所投与した(図10上)。免疫組織染色による解析の結果、SDF-1非投与群(H-DO/ビークル)では仮骨は全く形成されず、軟骨組織が広範に観察された(図10下)。対照的に、SDF-1投与群(H-DO/SDF-1)では硬化期間終了時に仮骨形成が起こっており、軟骨組織もほとんど観察されなかった(図10下)。また、免疫染色で延長中期のギャップを観察したところ、H-DO群で減少したCD31陽性細胞数が、SDF-1の投与によって有意に上昇していることが明らかとなった(図11上)。また、H-DO群(H-DO+ビークル)では血管構造が検出できなかったが、SDF-1投与群(H-DO+SDF-1)ではCD31陽性血管内皮およびaSMA陽性血管平滑筋細胞で構成される多数の成熟血管を観察することができた(図12)。更に、2次元レーザー血流計を用いて血流量を測定したところ、これまでの結果を裏付けるように、H-DOモデルでは延長部で血流量が低下し、SDF-1投与によって血流が回復していることが明らかとなった(図11下)。
【0048】
本検討によって明らかとなった事実・知見を以下にまとめる。
(1)骨延長過程では内在性の骨髄幹細胞が患部に集積する。これらの集積細胞は組織再生に重要な役割を果たしていると考えられる。
(2)骨延長で集積する幹細胞の主体は血管内皮前駆細胞と間葉系幹細胞である。骨延長はこれらの細胞の集積メカニズムの解析に適したモデルである。
(3)SDF-1は血管内皮前駆細胞の特異的集積因子である。SDF-1の阻害によって、間葉系幹細胞の分化系譜を操作し、軟骨組織の形成を促すことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の組成物は標的部位での軟骨組織の再生を促す。本発明の組成物は、各種軟骨疾患(変形性関節症、軟骨形成異常症、変形性椎間板症、半月板損傷、軟骨無形成症、離断性骨軟骨炎等)の治療、或いは軟骨増生等に利用される。
【0050】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は軟骨組織の再生・再建に用いられる組成物(軟骨組織再生用組成物)に関する。詳しくは、SDF-1(ストローマ細胞由来因子−1)阻害剤を含有する組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
各種組織の修復や再生或いは疾病の治療を目的として細胞移植が行われてきた。細胞移植は、組織を構成する細胞自体又は組織の構築を補助する細胞を生体に投与するものであることから直接的な治療効果を期待できる一方、手術に伴う侵襲、移植安全性(感染や発がん)、細胞品質の安定性、細胞培養に多大な時間や費用を要することなど、様々な問題を伴う。
【0003】
軟骨組織は再生医療による再生が期待される組織の一つである。これまでにも細胞由来の成分を用いた方法(例えば特許文献1を参照)や骨髄細胞等を利用した方法(例えば特許文献2を参照)など、軟骨組織を標的とした再生方法が提案されている。しかしながら、従来の再生方法には克服すべき課題が多いことから、再生効果が高く、臨床応用可能な技術の創出が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−504093号公報
【特許文献2】特開2004−49626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の背景の下、本願発明は、高い再生効果が期待できる、軟骨組織を標的とした再生医療システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題に鑑み本願発明者らは、生体内幹細胞の集積システムを制御する新しい組織再生療法の開発を目指して研究を進め、骨延長術に注目した。骨延長術は自己再生能力を最大限に応用して大型組織再生を行う外科手術である。生体内幹細胞の集積や分化が大きな役割を果たすと考えられるが、その実態やメカニズムは多くが不明なままである。本願発明者らは、延長治癒過程における様々な幹細胞の集積動態を明らかにし、組織再生との関わり合いを検討した。また、細胞集積に機能することが知られているケモカインSDF-1が骨延長の幹細胞集積と治癒過程にいかなる役割を果たすか検証することにした。SDF-1はケモカインリガンドの一つであり、血管内皮前駆細胞の虚血部位への集積、造血幹細胞から血管内皮前駆細胞への分化、血管網の構築などに寄与すると報告されている。しかしながら、in vitroでの細胞遊走実験のみの報告が多く、in vivoでの機能の多くは不明である。特に、組織の再生過程におけるその機能は不明な点が多い。そこで、SDF-1の骨延長における役割と治療応用への可能性を検討した。具体的な検討方法は以下の通りとした。即ち、8週齢の雌性ICRマウスを用いて脛骨骨延長モデルを作製し、経時的に組織採取し、生体内幹細胞の集積を解析した。また、マウス骨髄単核球分画の細胞を近赤外蛍光色素によってラベルし、骨延長手術時に脛骨近心骨頭骨髄内へ移植した。一方、In vivo イメージャーを用いて延長前と延長終了時で蛍光シグナルを観察した。また、SDF-1及びそのレセプターの発現を解析した。更には、SDF-1阻害による効果を様々な角度から調べた。In vtro においてSDF-1阻害が骨分化にどのように影響するかを検討した。加えて、通常の2倍の速度で骨延長を行う骨延長モデル(H-DOモデル)を作製し、当該モデルの骨延長部位にSDF-1タンパクを投与し、組織再生促進効果を検証した。最後に、2次元レーザー血流計を用いて延長部位の血流変化を解析した。
【0007】
検討の結果、骨延長をしていない骨髄と比較すると、骨延長中期ではSca1陽性細胞が約4倍増加していることが明らかとなった。また、集まったSca1陽性細胞は血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞の分画が大多数を占めている事が明らかとなった。In vivo イメージャーによる解析では、蛍光色素でラベルした骨髄単核球細胞が延長部へ集積していることが観察された。一方、骨延長期間では、SDF-1及びそのレセプター(CXCR4、CXCR7)の発現が上昇することが判明した。SDF-1阻害剤を用いた実験からは、SDF-1を阻害すると細胞の遊走活性が抑制されること、及びSDF-1の阻害が骨髄細胞の骨分化能に殆ど影響しないことが示された。また、SDF-1の阻害によって仮骨形成が顕著に抑制され、延長部が軟骨細胞で満たされる現象(即ち、軟骨の形成)を認めた。更には、SDF-1は間葉系幹細胞や造血幹細胞の集積には必要ではなく、血管内皮前駆細胞に特異的な集積因子として機能していることが示唆された。H-DOモデルを用いた解析では、SDF-1過剰発現によって仮骨形成の著しい促進効果が確認できるとともに、多数の成熟血管が観察された。また、SDF-1の過剰発現により血流量増加が観察された。
【0008】
以上の結果を総合すると、SDF-1が血管内皮前駆細胞の特異的集積因子として機能する事実に加え、SDF-1を阻害しつつ間葉系幹細胞が供給される環境を形成すれば軟骨の再生を促すことができることがわかる。後者の事実は、SDF-1阻害剤を投与するとともに、軟骨組織の再生に直接的な関与が期待される細胞(間葉系幹細胞など)を標的部位に供給することが、軟骨組織再生のための戦略として極めて有効であることを意味する。
【0009】
以上の通り、本願発明者らの鋭意検討の結果、軟骨組織の効率的な再生のための有効な戦略が見出された。以下に示す本発明は、主として上記成果ないし知見に基づくものである。
[1]SDF-1阻害剤を含有する軟骨組織再生用組成物。
[2]間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を組み合わせてなることを特徴とする、[1]に記載の軟骨組織再生用組成物。
[3]SDF-1阻害剤と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞とを含有することを特徴とする、[2]に記載の軟骨組織再生用組成物。
[4]SDF-1阻害剤を含有する第1構成要素と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、[2]に記載の軟骨組織再生用組成物。
[5]SDF-1阻害剤を含有し、その投与の際に、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞も投与されることを特徴とする、[2]に記載の骨組織再生用組成物。
[6]前記SDF-1阻害剤が、SDF-1とCXCR4の結合及びSDF-1とCXCR7の結合の両者に対して阻害活性を示す、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
[7]前記SDF-1阻害剤がAMD3100又は抗SDF-1抗体である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
[8]SDF-1阻害剤を標的部位に局所投与或いは全身投与するとともに、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を標的部位に局所投与或いは全身的投与することを特徴とする、軟骨組織の再生方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】マウス骨延長(Distraction Osteogenesis:DO)モデルの概要。処置方法(上)、延長スケジュール(左下)、及び延長終了時と延長後14日のサンプルのX線像(右下)を示す。
【図2】Sca1(Stem Cell common antigen)陽性細胞の延長間隙(ギャップ)への集積。延長間隙の状態を模式的に示した(上)。また、DOモデルの組織サンプルに対する免疫染色の結果を示す(下)。
【図3】延長間隙(ギャップ)に集積した骨髄幹細胞の種類。マーカーを利用して延長間隙に集積した細胞を同定した。各マーカーによる蛍光染色の結果(左下)と各細胞の比率のグラフ(右下)を示す。EPCs:血管内皮前駆細胞、HSCs:造血幹細胞、MSCs:間葉系幹細胞。
【図4】骨延長による骨髄細胞の集積。in vivo イメージャーを用い、骨髄内での細胞の動きを経時的に解析した。解析方法(左)、イメージ像(右上)、蛍光強度の経時的変化(右下)を示した。
【図5】SDF-1(リガンド)及びCXCR4/CXCR7(レセプター)の遺伝子発現。骨延長術における各分子の遺伝子発現をリアルタイムPCRで調べた(右)。比較のため、VEGFR1、VEGFR2、PDGFRa及びPDGFRbの発現も解析した(左)。
【図6】SDF-1阻害剤による細胞遊走阻害効果。SDF-1阻害剤であるAMD3100の効果をトランスウェル遊走アッセイ(In vitro transwell migration assay)で調べた(上)。また、骨分化能に与える影響を確認した(下)。
【図7】SDF-1の機能抑制による仮骨形成阻害。コントロール群(C-DO)、SDF-1阻害剤であるAMD3100を投与した群(+AMD3100)及び抗SDF-1抗体を投与した群(+抗SDF-1mAb)の間で組織染色像を比較した。HE:ヘマトキシリンエオジン染色
【図8】SDF-1の機能阻害による血管内皮前駆細胞の集積抑制。コントロール群とAMD3100を投与した群の蛍光染色像(CD31、SDF-1)を比較した(左)。右はCD31陽性細胞数及びSDF-1陽性細胞数の比較。
【図9】間葉系幹細胞及び造血幹細胞の挙動解析。コントロール群とAMD3100を投与した群の蛍光染色像(CD45、Sca1)を比較した(上)。左下はSca1陽性エリアの比較。右下は構成細胞の内訳。
【図10】ハイスピードDOモデル(H-DO)の延長スケジュール(上)と延長部の組織像(下)。SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)を比較した。
【図11】SDF-1の血管新生促進効果及び血流回復効果。SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)の間で延長中期のギャップの蛍光染色像(CD31)を比較した(上)。2次元レーザー血流計を用い、コントロール(C-DOモデル)、SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)の間で血流量を比較した(下)。
【図12】SDF-1の血管新生促進効果。SDF-1を投与しないH-DOモデル(H-DO+ビークル)及びSDF-1を投与したH-DOモデル(H-DO+SDF-1)の間で蛍光染色像(CD31、αSMA)を比較した。αSMAは周皮細胞のマーカーであり、CD31は内皮細胞のマーカーである(左下)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の局面は軟骨組織再生用組成物に関する。本明細書における用語「軟骨組織」は広義の意味で使用され、様々な部位(例えば関節軟骨、肋軟骨、甲状軟骨、気管軟骨、関節半月、関節円板、椎間円板、恥骨結合、喉頭蓋軟骨、外耳道軟骨、耳介軟骨など)の軟骨組織を包含する。本明細書において「軟骨組織再生用組成物」とは、軟骨組織の再生(再建)に利用される組成物をいう。本発明の軟骨組織再生用組成物は、それが適用される生体の局所(標的部位)において軟骨組織再生能を示し、軟骨組織の修復・再建を促す。本発明の組成物は必須成分としてSDF-1阻害剤を含有する。SDF-1はケモカインリガンドの一つであり、CXCL-12又はPBSFとも呼称される。SDF-1はCXCR4及びCXCR7と特異的に結合し、その生理活性を発揮する。SDF-1には複数のアイソフォーム(SDF-1α、SDF-1β、SDF-1γ、SDF-1δ、SDF-1ε等)の存在が確認されている。
【0012】
SDF-1阻害剤として、SDF-1に結合することでSDF-1とレセプター(CRCX4又はCRCX7)との結合を阻害する物質、レセプター(CRCX4又はCRCX7)に結合することでSDF-1とレセプター(CRCX4又はCRCX7)との結合を阻害する物質、レセプター(CRCX4又はCRCX7)への結合に関してSDF-1と競合する物質等を挙げることができる。より具体的には、SDF-1と類似の構造を有するタンパク質又はその部分ペプチド、SDF-1の結合部位と類似の構造を有する低分子化合物、抗SDF-1抗体(例えば特表2010-500005を参照)又はその機能的断片、SDF-1のレセプター結合部位に結合する低分子化合物、抗CXCR4抗体又はその機能的断片、CXCR4のSDF-1結合部位に結合する低分子化合物、抗CXCR7抗体又はその機能的断片、CXCR7のSDF-1結合部位に結合する低分子化合物、可溶性CXCR4、可溶性CXCR7等が挙げられる。
【0013】
SDF-1阻害剤の具体例として、AMD3100(J.Exp.Med.,186,1383-1388(1997); Nat.Med.,4,72-77(1998))、AMD3465(S. Hatase et al., Biochem Pharmacl 70:752-761(2005)、AMD11070(Wong et al., Mol Pharmacol 74:1485-1495(2008))T22(T.Murakami,et al.J.Exp.Med.,186,1389-1393(1997)、ALX40-4C(J.Exp.Med.,186,1395-1400(1997)、TF14016(S. Mikami et al., J Pharmacol Exp Ther.,327(2)383-392,(2008))等を挙げることができる(J.Exp.Med.,186,1189-1191(1997)を参照)。
【0014】
SDF-1阻害剤の中でも、SDF-1とCRCX4との結合及びSDF-1とCRCX7との結合の両者に阻害活性を示すものを用いることが好ましい。該当するものの例はAMD3100(Sigma)である。
【0015】
SDF-1阻害剤として利用可能な抗体(抗SDF-1抗体、抗CRCX4抗体、抗CRCX7抗体)は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は次の手順で行うことができる。抗原を調製し、これを用いてウサギ等の動物に免疫を施す。生体から調製した抗原の他、組換え抗原を使用してもよい。免疫惹起作用を増強するために、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いてもよい。キャリアタンパク質としてはKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)、OVA(Ovalbumin)などが使用される。キャリアタンパク質の結合にはカルボジイミド法、グルタールアルデヒド法、ジアゾ縮合法、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法などを使用できる。一方、融合タンパク質として発現させた抗原を用いることもできる。このような融合タンパク質は、汎用的な方法により簡便に精製することができる。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理などによって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製し、ポリクローナル抗体とする。一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製することができる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、目的タンパク質に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。更には、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、硫安分画、及び遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は単独ないし任意に組み合わされて用いられる。
【0016】
本発明の組成物の一態様は、SDF-1阻害剤に、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を組み合わせてなるという特徴を有する。即ち、SDF-1阻害剤と特定の細胞を併用する。この態様の場合、外部から供給した細胞による作用とSDF-1阻害剤による作用によって標的部位での軟骨形成が促されることになる。
【0017】
必要な細胞(間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞、歯髄幹細胞)は常法で調製すればよい。例えば間葉系幹細胞であれば骨髄や脂肪などから分離、精製可能である。また、軟骨芽細胞や軟骨細胞は、例えば、間葉系幹細胞を軟骨系細胞へと分化誘導することによって得ることができる。このような分化誘導には例えばデキサメタゾン(Dex)やトランスフォーミング増殖因子等が利用される(例えば、B. Johnestone et al., Exp. Cell Res., 238, 265(1998)を参照)。分化誘導に利用可能な培養液の具体例を示すと、50μg/ml L−アスコルビン酸二リン酸塩(L-ascorbic acid-2-phosphate), 40μg/ml L-プロリン(L-proline), 100μg/ml ピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate), 0.1μMデキサメタゾン(dexamethasone), 6.25μg/mlインスリン(insuline), 6.25μg/mlトランスフェリン(transferrin), 6.25μg/mlセレン酸(selenous acid), 10ng/mlヒトTGF-β3(human TGF-β3)を添加したMSCBM(間葉系幹細胞基本培地)である。分化誘導中は適宜培地交換を行う。例えば3日に一度の頻度で培地交換を行う。分化誘導のための培養は例えば1日間〜14日間継続する。
【0018】
歯髄幹細胞として永久歯歯髄幹細胞又は乳歯歯髄幹細胞を用いることができる。歯髄幹細胞は例えば以下の方法で採取、調製できる。この採取・調製法では(1)歯髄の採取、(2)酵素処理、(3)細胞培養、(4)細胞の回収を順に行う。
(1)歯髄の採取
自然に脱落した乳歯(又は抜歯した乳歯、或いは永久歯)をクロロヘキシジンまたはイソジン溶液で消毒した後、歯冠部を分割し歯科用リーマーにて歯髄組織を回収する。
(2)酵素処理
採取した歯髄組織を基本培地(10%ウシ血清・抗生物質含有ダルベッコ変法イーグル培地)に懸濁し、2mg/mlのコラゲナーゼ及びディスパーゼで37℃、1時間処理する。5分間の遠心操作(5000回転/分)により酵素処理後の歯髄細胞を回収する。セルストレーナーによる細胞選別はSHEDやDPSCの神経幹細胞分画の回収効率を低下させるので原則、使用しない。
(3)細胞培養
細胞を4cc基本培地で再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて3日間培養した後、コロニーを形成した接着性細胞を0.05%トリプシン・EDTAにて5分間、37℃で処理する。ディッシュから剥離した歯髄細胞を直径10cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種し拡大培養を行う。例えば、肉眼で観察してサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントに達したときに細胞を培養容器から剥離して回収し、再度、培養液を満たした培養容器に播種する。継代培養を繰り返し行ってもよい。例えば継代培養を1〜8回行い、必要な細胞数(例えば約1×107個/ml)まで増殖させる。尚、培養容器からの細胞の剥離は、トリプシン処理など常法で実施することができる。以上の培養の後、細胞を回収して保存することにしてもよい(保存条件は例えば-198℃)。様々なドナーから回収した細胞を歯髄幹細胞バンクの形態で保存することにしてもよい。
(4)細胞の回収
次に、細胞を回収する。トリプシン処理等で培養容器から細胞を剥離した後、遠心処理を施すことによって細胞を回収することができる。このようにして回収した細胞を用いて本発明の組成物を調製する。
【0019】
この態様の組成物は、典型的には、調製した細胞とSDF-1阻害剤を混合した配合剤として提供される。例えば、使用する細胞を生理食塩水や適当な緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁させて得た細胞懸濁液にSDF-1阻害剤を混合すればよい(併用可能なその他の成分については後述する)。一方、例えば、SDF-1阻害剤を含有する第1構成要素と、所定の細胞を含有する第2構成要素とからなるキットの形態で本発明の組成物を提供することもできる。この場合、標的部位に同時又は所定の時間的間隔を置いて両要素が投与されることになる。好ましくは、両要素を同時に投与することにする。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。一方、片方の投与後、所定の時間差で他方を投与する場合は、時間差を短く設定することが好ましい。例えば、片方の投与後15分以内、好ましくは10分以内、更に好ましくは5分以内に他方を投与する。第1構成要素(SDF-1含有)は標的部位に局所投与又は全身投与する。好ましくは直接的かつ迅速な効果を得るために局所投与を採用する。第2構成要素(細胞含有)については原則、標的部位に局所投与する。
【0020】
SDF-1阻害剤を含有する組成物とし、その投与時に所定の細胞が併用投与されるようにしてもよい。この場合の組成物と所定の細胞の投与のタイミングは、上記のキットの形態の場合と同様である。即ち、好ましくは同時に両者が投与されることになるが、所定の時間差で両者を投与することにしてもよい。尚、所望の再生効果が発揮されるように、1回分の細胞の投与量を例えば1x107個〜5x107個にするとよい。
【0021】
本発明の組成物の他の態様は、生体内の間葉系幹細胞(以下、「MSC」とも呼ぶ)を標的部位に集積させる手技(以下、当該手技のことを「MSC集積手技」と呼ぶ)と併用されることを特徴とする。この態様の組成物を適用した場合、MSC集積手技によって生体内(内在性)のMSCが標的部位に集積するとともに、SDF-1阻害剤によるSDF-1の機能阻害が生じ、標的部位での軟骨形成が促される。このように当該態様によれば、外部から細胞を供給(移植)する必要のない治療法を実現できる。従って、細胞移植に伴う各種問題(侵襲性、移植安全性、細胞品質の安定性、時間及び費用)を解消しつつ、高い治療効果が得られることになる。
【0022】
例えば、標的部位に張力を負荷することによって標的部位にMSCを集積することが可能である。このような手技の典型例は骨延長術である。骨延長術では固定装置(内固定型又は外固定型)又は骨延長器などと呼ばれる専用の装置が用いられる。骨延長術の方法は通常、骨切り、待機期間、骨延長期間及び骨硬化期間の工程からなる。骨延長速度は施術を施す部位を考慮して設定されるが、通常は0.5mm/日〜2mm/日である。骨延長術については、例えば、ADVANCE SERIES II-9 骨延長術:最近の進歩(克誠堂出版、波利井清紀 監修、杉原平樹 編著)に詳しい。
【0023】
本発明の軟骨組織組成物を骨延長術と併用する場合、通常は、待機期間の開始時〜骨延長期間の終了時までの間に本発明の組成物を局所投与する。投与回数は特に限定されない。例えば、1回〜10回の投与を行う。
【0024】
特定の細胞を併用する態様の組成物においても、標的部位に張力を負荷する手技(典型的には骨延長術)を更に併用してもよい。
【0025】
本発明の組成物には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)のSDF-1阻害剤が含有される。本発明の組成物の有効成分量は治療対象、併用成分、剤型などによって異なるが、所望の投与量を達成できるようにSDF-1阻害剤の量を例えば約0.001重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
【0026】
本発明の組成物に期待される治療効果が維持されることを条件として、他の成分を追加的に使用することを妨げない。ゲル状に調製するための材料を含め、本発明において追加的に使用され得る成分を以下に列挙する。
(1)基質成分、有機系生体吸収性材料
基質成分又は有機系生体吸収性材料として、例えば、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸等のグルコサミノグリカン、コラーゲン(特にII型、IX型など)、ヒアルロン酸、フィブリノーゲン(例えばボルヒール(登録商標))等を使用することができる。
【0027】
(2)ゲル化材料
ゲル化材料は、生体親和性が高いものを用いることが好ましく、ヒアルロン酸、コラーゲン又はフィブリン糊等を用いることができる。ヒアルロン酸、コラーゲンとしては種々のものを選択して用いることができるが、本発明の組成物の適用目的(標的部位)に適したものを採用することが好ましい。用いるコラーゲンは可溶性(酸可溶性コラーゲン、アルカリ可溶性コラーゲン、酵素可溶性コラーゲン等)であることが好ましい。
【0028】
(3)溶媒
本発明の組成物は、水系の溶媒を含むものであってもよい。水系の溶媒としては、滅菌水、生理食塩水、リン酸塩溶液等の緩衝液等を用いることができる。尚、調製した細胞を生理食塩水やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁するとともにSDF-1を添加して本発明の組成物とし、標的部位に適用することもできる。
【0029】
(4)その他
本発明の組成物は、上記の成分の他、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、細胞保護剤(例えばジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン)、抗生物質、pH調整剤、細胞の活性化や増殖又は分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド、骨誘導因子(BMP)等)を含んでいても良い。
【0030】
本発明の組成物の最終的な形態は特に限定されない。形態の例は液体状(液状、ゲル状など)及び固体状(粉状、細粒、顆粒状など)である。好ましくは、本発明の組成物は、操作性の向上や治療効果の向上等を理由として、ゲル状に調製される。本明細書での「ゲル状」とは、医療用に使用されるフィブリンゲル又はフィブリン糊のように、適度な粘性を有し、標的部位での保持性の高い状態をいう。例えば、ゲル化剤や増粘剤の添加、或いはフィブリノーゲンとトロンビンの添加によって、ゲル状の組成物が形成される。
【0031】
本発明の組成物は軟骨組織の修復、再建に利用される。例えば、変形性関節症、軟骨形成異常症、変形性椎間板症、半月板損傷、軟骨無形成症、離断性骨軟骨炎等の治療、間接周縁などにおける軟骨増生等に本発明の組成物を適用することができる。
【0032】
本発明の組成物が投与される対象はヒト、又はヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)である。好ましくは、本発明の組成物はヒトに対して使用される。
【0033】
本発明の組成物は、例えば、組織欠損部に注入、埋入、填入、又は塗布によって標的部位に局所投与される。或いは、全身投与(例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射)される。適度な流動性を有するゲル状に調製すれば、填入、注入、又は塗布等、簡便な手法で適用することができる。また、ゲル状であれば注射針等を用いて適用部位に容易に填入でき(創部を開放することなく適用することも可能である)、また、組織欠損部の形状に合わせて予め成型することを要せず、その汎用性が高い。
【0034】
当業者であれば、治療対象、標的部位などを考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として1回当たりのSDF-1阻害剤の量が約0.01mg〜1mg/kg、好ましくは約0.1mg〜0.5mg/kgとなるよう投与量を設定することができる。
【実施例】
【0035】
生体内幹細胞の集積システムを制御する新しい組織再生療法の開発を目指し、以下の検討を行った。
【0036】
1.生体内の幹細胞/前駆細胞が集積する組織再生モデルの同定
(1)マウス脛骨骨延長モデル(DOモデル)の作製
骨延長術が幹細胞/前駆細胞の集積を応用した治療法であることを検証した。マウス脛骨骨延長モデル(DOモデル)を作製した(図1)。脛骨を明示した後、27G針を上下2カ所ずつ貫通させ、その後、即時重合レジンにて延長装置と連結、固定した。レジン硬化後に、骨切りを行い、閉創した。延長スケジュールは骨切り後待機期間を5日間、延長期間を8日間、硬化期間を14日間とし、延長速度は0.2mm/12時間とした。図1右下に示す通り、27日目のサンプルではX線写真で骨の再生を確認できた。
【0037】
(2)Sca1(Stem Cell common antigen)陽性細胞の延長間隙(ギャップ)への集積
DOモデルの組織サンプルを作製し、幹細胞共通抗原Sca1を標的とした免疫染色を行った。延長中期である9日目の延長間隙ではSca1陽性細胞がコントロール(手術をしていない骨髄)と比較して約4倍増加していることが明らかとなった(図2)。
【0038】
(3)延長間隙(ギャップ)に集積した骨髄幹細胞の種類
ギャップに集積した幹細胞の種類を同定することにした。血管内皮細胞と血管内皮前駆細胞(EPC)の共通マーカーであるCD31、血球系細胞のマーカーであるCD45、幹細胞のマーカーであるSca1で多重染色を行ったところ、血管内皮前駆細胞(EPC)と間葉系幹細胞(MSC)の分画が大多数を占めていることが明らかとなった(図3)。
【0039】
(4)in vivo イメージャーによる解析
in vivo イメージャーを用い、骨髄内での細胞の動きを経時的に解析した。まず、マウス骨髄単核球分画を採取し、近赤外蛍光色素DiRにてラベルした。この細胞を骨延長手術時に脛骨近心骨頭部の骨髄内に移植した。延長開始前の5日目のサンプルと、延長終了時の13日目のサンプルについて蛍光を検出した。5日目のサンプルでは移植した部分に限局した蛍光シグナルが検出されたが、13日目では移植部と延長部の2つのピークが形成されていた(図4)。即ち、移植した細胞が延長期間中に延長部に向かって移動したことが明らかとなった。
【0040】
以上の検討(1)〜(4)によって、骨延長術は幹細胞/前駆細胞の集積を応用した再生現象であり、生体内幹細胞集積による組織再生の解析に適したモデルであることが示された。
【0041】
2.SDF-1とそのレセプター(CXCR4、CXCR7)の発現解析
骨延長期間におけるSDF-1リガンドとCXCR4レセプター及びCXCR7レセプターの遺伝子発現をリアルタイムRT-PCR法で解析した。結果を図5に示す。手術をしていないマウス脛骨・骨体部における遺伝子発現量を1とした時の相対値で発現量を示した。過去の報告と一致するように、延長過程では血管新生因子VEGF及びPDGFレセプターの遺伝子発現が上昇することが確認できた(図5左)。一方、SDF-1、CXCR4及びCXCR7の発現は、延長期間において上昇することが示された(図5右)。
【0042】
3.SDF-1の機能解析
(1)トランスウェル遊走アッセイ(In vitro transwell migration assay)及び骨分化誘導実験
まず、トランスウェル遊走アッセイ(In vitro transwell migration assay)を行った。ICRマウスから採取した骨髄由来単核球細胞を上部チャンバーに入れるとともに、下部チャンバーには細胞集積能を検討する薬剤を入れ、12時間後に下部チャンバーへ移動した細胞数をカウントした。細胞の計測はX10倍の視野でランダムに5カ所観察を行い、その平均値を求めた。下部チャンバーにDMEMを入れたものを陰性コントロールとし、30%FBS含有DMEMを入れたものを陽性コントロールとした。DMEMにSDF-1(150ng/mlの濃度)を添加した群では細胞の遊走は約3倍になった。DMEMにSDF-1とその阻害剤であるAMD3100(Sigma、5μg/ml)を添加した群と、DEMEにSDF-1と抗SDF-1抗体を添加した群では、細胞の遊走が阻害された(図6上)。このように、SDF-1タンパクが骨髄細胞の遊走を促すこと、及びSDF-1阻害剤によって当該遊走活性が抑制されることが示された。一方、骨分化誘導実験を行い、AMD3100及び抗SDF-1抗体はいずれも骨分化能に影響しないことを確認した(図6下)。
【0043】
(2)骨延長におけるSDF-1の役割1
次に、骨延長におけるSDF-1の役割を調べるため、DOモデルにおいて延長期間1日前から屠殺するまでAMD3100(5mg/kg)を連日、又は抗SDF-1抗体(投与量20μg)を一日おきに皮下注射した。コントロール群では延長終了時に顕著な仮骨形成が確認されたが、SDF-1を阻害した群では仮骨の形成が顕著に抑制された(図7)。延長間隙にはアルシアンブルー陽性の軟骨の形成が確認された。この結果より、SDF-1分子は骨延長部の仮骨形成に不可欠な役割を果たすことがわかった。
【0044】
(3)骨延長におけるSDF-1の役割2
臨床的に延長部の血流低下が仮骨形成を阻害することが知られている。そこで、SDF-1機能阻害が延長部の血管内皮前駆細胞の集積に影響するか解析した。コントロールでは延長部位にCD31陽性、血管内皮前駆細胞が集積した(図8)。これらの細胞はSDF-1を多く発現している。AMD3100で処理した延長部ではCD31及びSDF-1陽性の血管内皮前駆細胞の数が7分の1程度に減少した(図8)。このように、SDF-1は血管内皮前駆細胞の延長部への集積に不可欠な役割を果たすことが示された。
【0045】
(4)骨延長におけるSDF-1の役割3
次に、間葉系幹細胞や造血幹細胞の挙動を解析した。AMD3100処理によって延長部のSca1陽性細胞数は3倍に増加した(図9)。Sca1陽性細胞の20%はCD45陽性の造血幹細胞であった。80%はCD45陰性、CD31陰性の間葉系幹細胞であった。これらの解析結果から、骨延長の組織再生過程において、SDF-1は間葉系幹細胞や造血幹細胞の集積には必要ではなく、血管内皮前駆細胞特異的な集積因子として機能していることが示唆された。
【0046】
4.ハイスピードDOモデルによる検討
骨延長術は細胞移植なしで大型の組織再生を得られる一方で、臨床的な問題(治癒期間が長期に及ぶこと等)を抱えている。治療期間の短縮のためには延長速度を高めることが望まれるが、急速な延長操作では極端な虚血状態を誘発し延長部位の萎縮、瘢痕形成を招く。骨延長術における治療期間の短縮化を目指し、通常の2倍の速度で骨延長を行うハイスピードDOモデル(H-DO)(図10上)を作製した。
【0047】
SDF-1タンパク(R&D Systems社) 200ngをI型コラーゲンスキャフォールド(新田ゼラチン株式会社)に混和し、H-DOモデルに対して延長1日前(4日目)から一日おきに局所投与した(図10上)。免疫組織染色による解析の結果、SDF-1非投与群(H-DO/ビークル)では仮骨は全く形成されず、軟骨組織が広範に観察された(図10下)。対照的に、SDF-1投与群(H-DO/SDF-1)では硬化期間終了時に仮骨形成が起こっており、軟骨組織もほとんど観察されなかった(図10下)。また、免疫染色で延長中期のギャップを観察したところ、H-DO群で減少したCD31陽性細胞数が、SDF-1の投与によって有意に上昇していることが明らかとなった(図11上)。また、H-DO群(H-DO+ビークル)では血管構造が検出できなかったが、SDF-1投与群(H-DO+SDF-1)ではCD31陽性血管内皮およびaSMA陽性血管平滑筋細胞で構成される多数の成熟血管を観察することができた(図12)。更に、2次元レーザー血流計を用いて血流量を測定したところ、これまでの結果を裏付けるように、H-DOモデルでは延長部で血流量が低下し、SDF-1投与によって血流が回復していることが明らかとなった(図11下)。
【0048】
本検討によって明らかとなった事実・知見を以下にまとめる。
(1)骨延長過程では内在性の骨髄幹細胞が患部に集積する。これらの集積細胞は組織再生に重要な役割を果たしていると考えられる。
(2)骨延長で集積する幹細胞の主体は血管内皮前駆細胞と間葉系幹細胞である。骨延長はこれらの細胞の集積メカニズムの解析に適したモデルである。
(3)SDF-1は血管内皮前駆細胞の特異的集積因子である。SDF-1の阻害によって、間葉系幹細胞の分化系譜を操作し、軟骨組織の形成を促すことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の組成物は標的部位での軟骨組織の再生を促す。本発明の組成物は、各種軟骨疾患(変形性関節症、軟骨形成異常症、変形性椎間板症、半月板損傷、軟骨無形成症、離断性骨軟骨炎等)の治療、或いは軟骨増生等に利用される。
【0050】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDF-1阻害剤を含有する軟骨組織再生用組成物。
【請求項2】
間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を組み合わせてなることを特徴とする、請求項1に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項3】
SDF-1阻害剤と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞とを含有することを特徴とする、請求項2に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項4】
SDF-1阻害剤を含有する第1構成要素と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、請求項2に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項5】
SDF-1阻害剤を含有し、その投与の際に、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞も投与されることを特徴とする、請求項2に記載の骨組織再生用組成物。
【請求項6】
前記SDF-1阻害剤が、SDF-1とCXCR4の結合及びSDF-1とCXCR7の結合の両者に対して阻害活性を示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項7】
前記SDF-1阻害剤がAMD3100又は抗SDF-1抗体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項8】
SDF-1阻害剤を標的部位に局所投与或いは全身的投与するとともに、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を標的部位に局所投与することを特徴とする、軟骨組織の再生方法。
【請求項1】
SDF-1阻害剤を含有する軟骨組織再生用組成物。
【請求項2】
間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を組み合わせてなることを特徴とする、請求項1に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項3】
SDF-1阻害剤と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞とを含有することを特徴とする、請求項2に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項4】
SDF-1阻害剤を含有する第1構成要素と、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、請求項2に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項5】
SDF-1阻害剤を含有し、その投与の際に、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞も投与されることを特徴とする、請求項2に記載の骨組織再生用組成物。
【請求項6】
前記SDF-1阻害剤が、SDF-1とCXCR4の結合及びSDF-1とCXCR7の結合の両者に対して阻害活性を示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項7】
前記SDF-1阻害剤がAMD3100又は抗SDF-1抗体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟骨組織再生用組成物。
【請求項8】
SDF-1阻害剤を標的部位に局所投与或いは全身的投与するとともに、間葉系幹細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞及び歯髄幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞を標的部位に局所投与することを特徴とする、軟骨組織の再生方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−193117(P2012−193117A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56110(P2011−56110)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
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