説明

SMAD4欠損癌の増殖を阻害するための組成物および方法

【課題】腫瘍の進行診断及び治療/防止の方法を提供すること。
【解決手段】本発明は細胞生物学、免疫学及び腫瘍学の分野にある。本発明は腫瘍サプレッサ遺伝子smad4(dpc4としても知られる)及びインテグリンαβの発現レベルとαβ活性化合物及び組成物(例えばαβに結合する抗体及び他のリガンド)に対する患者集団の応答性との関係が、特にそのような患者集団由来の癌細胞に、より特定すれば膵臓癌のような癌腫上に存在するという発見に関連する。即ち、腫瘍細胞によるαβ及びsmad4の発現を調べてそのようなαβ活性化合物及び組成物に対する腫瘍細胞(特に膵臓腫瘍由来のもの)の応答性を調べる方法、並びに腫瘍細胞の表面上のインテグリンαβに結合する、及び/又はTGF−β経路の成分1つ以上をブロックするリガンド、例えば抗体及び小分子薬物を用いた腫瘍の進行の診断及び治療/防止の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞生物学、免疫学及び腫瘍学の分野にある。本発明は腫瘍サプレッサ遺伝子smad4(dpc4としても知られている)及びインテグリンαβの発現レベルとαβ活性化合物及び組成物(例えばαβに結合する抗体及び他のリガンド)に対する患者集団の応答性との間の関係が、特にそのような患者集団由来の癌細胞において、より特定すれば膵臓癌のような癌腫上において存在するという発見に関連している。即ち、本発明は腫瘍細胞によるαβ及びsmad4の発現を調べることによりそのようなαβ活性化合物及び組成物に対する腫瘍細胞(特に膵臓腫瘍由来のもの)の応答性を調べるための方法、並びに、腫瘍細胞の表面上のインテグリンαβに結合する、及び/又はTGF−β経路の成分1つ以上をブロックする、リガンド、例えば抗体及び小分子薬物を用いた、特にsmad4欠損腫瘍細胞における、腫瘍の進行の診断及び治療/防止の方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
インテグリンは細胞外マトリックス蛋白に結合し、そして細胞−細胞、及び細胞−細胞外マトリックスの相互作用(一般的に細胞接着事象と称される)を媒介する細胞表面糖蛋白受容体である(Ruoslahti,E.,J.Clin.Invest.87:1−5(1991);Hynes,R.O.,Cell 69:11−25(1992))。これらの受容体は非共有結合的に会合したアルファ(α)及びベータ(β)鎖よりなり、これらは組み合わさって異なる細胞及び接着特異性を有する種々のヘテロ2量体蛋白を与える(Albeda,S.M.,Lab.Invest.68:4−14(1993))。最近の研究によれば種々の細胞プロセス、例えば細胞接着、遊走、侵襲、分化、増殖、アポトーシス、及び遺伝子発現の調節における特定のインテグリンの関与を示唆している(Albeda,S.M.,Lab.Invest.68:4−14(1993);Juliano,R.,Cancer Met.Rev.13:25−30(1994);Ruoslahti,E.and Reed,J.C.,Cell 77:477−478(1994);and Ruoslahti,E.and Giancotti,F.G.,Cancer Cells 1:119−126(1989);Plow,Haas等、2000;van der Flier and Sonnenberg 2001)。
【0003】
αβ受容体は細胞表面ヘテロ2量体蛋白として発現されるインテグリンのファミリーの1メンバーである(Busk,M.等、J.Biol.Chem.267(9):5790−5796(1992))。αサブユニットは種々のβサブユニット(β、β、β、β及びβ)とヘテロ2量体を形成できるが、βサブユニットはαサブユニットのヘテロ2量体として発現されるのみである。αβインテグリンはフィブロネクチン−、潜伏性関連ペプチド(LAP)−、及びテナシンC−結合細胞表面受容体であることも知られており、細胞外マトリックスとその上のRGDトリペプチド結合部位を介して相互作用する(Busk,M.等、J.Biol.Chem.267:5790−5796(1992);Weinacker,A.等、J.Biol.Chem.269:6940−6948(1994);Prieto,A.L.等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10154−10158(1993))。こともαβインテグリンは10年以上も前に最初に発見され配列決定されているが、αβの特に疾患における生物学的意味はなお調査中である。αβの発現は上皮細胞に限定され、そこにおいてはそれは健常組織では比較的低いレベルで発現され、そして発生、傷害、及び創傷治癒の間は顕著にアップレギュレートされる(Breuss,J.M.等、J.Histochem.Cytochem.41:1521−1527(1993);Breuss,J.M.等、J.Cell Sci.108:2241−2251(1995);Koivisto,L.等、Cell Adhes.Communic.7:245−257(1999);Zambruno,G.等、J.Cell Biol.129(3):853−865(1995);Hakkinen,L.等、J.Histochem.Cytochem.48(6):985−998(2000))。増加中の最近の報告ではαβは結腸癌(Niu,J.等、Int.J.Cancer 92:40−48(2001);Bates,R.C.等、J.Clin.Invest.115:339−347(2005))、卵巣癌(Ahmed,N.等、J.Cell.Biochem.84:675−686(2002);Ahmed,N.等、J.Histochem.Cytochem.50:1371−1379(2002);Ahmed,N.等、Carcinogen.23:237−244(2002))、扁平上皮癌(Koivisto,L.等、Exp.Cell Res.255:10−17(2000);Xue,H等、Biochem.Biophys.Res.Comm.288:610−618(2001);Thomas,G.J.等、J.Invest.Dermatol.117:67−73(2001);Thomas,G.J.等、Int.J.Cancer 92:641−650(2001);Ramos,D.M.等、Matrix Biol.21:297−307(2002);(Agrez,M.等、Br.J.Cancer81:90−97(1999);Hamidi,S.等、Br.J.Cancer 82(8):1433−1440(2000);Kawashima,A.等、Pathol.Res.Pract.99(2):57−64(2003))、及び乳癌(Arihiro,K.等、Breast Cancer 7:19−26(2000)を包含する上皮起源の癌ではアップレギュレートされることが明らかにされている。更に、αサブユニットは腫瘍の転移に関与している可能性があり、そしてこのサブユニットをブロックすることが結果的には転移を防止する可能性があることも報告されている(例えばImhof,B.A.等、in: 「Attempts to Understand Metastasis Formation I,」 U.Guenthert and W.Birchmeier,eds.,Berlin: Springer−Verlag,pp.195−203(1996)参照)。
【0004】
αβインテグリンは腫瘍細胞の生物学において多重の調節機能を有する場合がある。最近の研究ではβサブユニットの細胞外及び細胞質のドメインが異なる細胞活性を媒介することが明らかにされている。細胞外及び膜貫通ドメインはTGF−βの活性化及び接着を媒介することが分かっている(Sheppard,D.,Cancer and Metastasis Rev.24:395−402(2005);Munger,J.S.等、Cell 96:319−328(1999))。βサブユニットの細胞質ドメインはαβ調節細胞増殖、MMP生産、遊走、及びプロ生存の媒介において重要であるユニークな11アミノ酸配列を含有する(Li,X.等、J.Biol.Chem.278 (43):41646−41653(2003);Thomas,G.J.等、J.Invest.Derm.117(1):67−73(2001);Thomas,G.J.等、Br.J.Cancer 87(8):859−867(2002);Janes,S.M.and Watt,F.M.,J.Cell Biol 166(3):419−431(2004))。βサブユニットはクローニングされ、発現され、そして精製されており(Sheppard等、米国特許6,787,322 B2、参照により全体が本明細書に組み込まれる)、そしてαβインテグリンに選択的に結合する機能ブロッキング抗体が報告されている(Weinreb等、J.Biol.Chem.279:17875−17877(2004)、参照により全体が本明細書に組み込まれる)。αβの拮抗剤(特定のモノクローナル抗体を包含)もまた、急性の肺傷害及び線維症の特定の形態の考えられる治療法として示唆されている(米国特許6,692,741 B2及びWO 99/07405参照、参照により全体が本明細書に組み込まれる)。
【0005】
αβは幾つかのリガンド、例えばフィブロネクチン、テナシン、及び潜伏性関連ペプチド−1及び−3(LAP1及びLAP3)、TGF−β1の潜伏前駆体型のN末端278アミノ酸に、アルギニン−グリシン−アスパルテート(「RGD」)モチーフとの直接の相互作用を介して結合することができる(Busk,M.等、J.Biol.Chem.267(9):5790−5796(1992);Yokosaki,Y.等、J.Biol.Chem.271(39):24144−24150(1996);Huang,X.Z.等、J.Cell.Sci.111:2189−2195(1998);Munger,J.S.等、Cell 96:319−328(1999))。TGF−βサイトカインは成熟活性C末端TGF−βサイトカインに非共有結合的に会合したN末端LAPを有する潜伏性複合体として合成される。潜伏性TGF−β複合体はその同族体受容体に結合することができず、そのため、活性型に変換されるまでは生物学的に活性ではない(Barcellos−Hoff,M.H.,J.Mamm.Gland Biol.1(4):353−363(1996);Gleizes,P.E.等、Stem Cells 15(3):190−197(1997);Munger,J.S.等、Kid.Int.51:1376−1382(1997);Khalil,N.,Microbes Infect.1(15):1255−1263(1999))。LAP1又はLAP3へのαβの結合はTGF−βをその受容体に結合可能とする潜伏性複合体におけるコンホーメーションの変化の結果として提案されているTGF−β1及びTGF−β3の潜伏性前駆体型(Munger,J.S.等、Cell 96:319−328(1999))の活性化をたらす。即ち、αβのアップレギュレートされた発現はTGF−βの局所的活性化をもたらす場合があり、次にこれが下流の事象のカスケードを活性化する場合がある。
【0006】
TGF−β1サイトカインは細胞の増殖、分化、及び免疫応答を調節する多面性成長因子である(Wahl,S.M.,J.Exp.Med.180:1587−1590(1994);Massague,J.,Annu.Rev.Biochem.67:753−791(1998);Chen,W.and Wahl,S.M.,TGF−β: Receptors,Signaling Pathways and Autoimmunity,Basel: Karger,pp.62−91(2002);Thomas,D.A.and Massague,J.,Cancer Cell 8:369−380(2005))。癌においてTGF−β1が果たす役割は2面性を有する。TGF−βは腫瘍サプレッサー及び生育抑制活性と認識されているがなお、多くの腫瘍がTGF−β1の生育抑制活性に対して抵抗性を発生させる(Yingling,J.M.等、Nature Rev.Drug Discov.3(12):1011−1022(2004);Akhurst,R.J.等、Trends Cell Biol.11(11):S44−S51(2001);Balmain,A.and Akhurst,R.J.,Nature 428(6980):271−272(2004))。樹立された腫瘍においては、TGF−β1の発現及び活性は、腫瘍の生存、進行、及び転移の増進への関与を示唆されている(Akhurst,R.J.等、Trends Cell Biol.11(11):S44−S51(2001);Muraoka,R.S.等、J.Clin.Invest.109(12):1551(2002);Yang,Y.A.等、J.Clin.Invest.109(12):1607−1615(2002))。これは免疫サーベイランス、血管形成、及び増大した腫瘍の間質圧力に対するTGF−βの作用を包含する局所的腫瘍支質環境におけるオートクリン及びパラクリンの両方の作用により媒介されるとされている。幾つかの研究は現在TGF−β1を抑制することの抗腫瘍及び抗転移作用を明らかにしている(Akhurst,R.J.,J.Clin.Invest.109(12):1533−1536(2002);Muraoka,R.S.等、J.Clin.Invest.109(12):1551(2002);Yingling,J.M.等、Nat.Rev.Drug Discov.3(12):1011−1022(2004);Yang,Y.A.等、J.Clin.Invest.109(12):1607−1615(2002);Halder,S.K.等、Neoplasia 7(5):509−521(2005);Iyer,S.等、Cancer Biol.Ther.4(3):261−266(2005))。
【0007】
腫瘍上、特に腫瘍支質界面におけるαβの増大した発現は、TGF−β1の局所的活性化のユニークな機序及び腫瘍の生存、侵襲、及び転移を増進する能力を反映している場合がある。ヒト転移における高いレベルの発現は、転移を樹立する場合のαβに潜在的役割を暗示するものであり、これは上皮から間葉への遷移、インビトロの腫瘍細胞侵襲、及びマウスモデルにおける転移に相関した発現をαβが媒介できるという以前の報告と合致している(Bates,R.C.等、J.Clin.Invest.115(2):339−347(2005);Thomas,G.J.等、Br.J.Cancer 87(8):859−867(2002);Morgan,M.R.等、J.Biol.Chem.279(25):26533−26539(2004))。本発明者等は以前にαβのヒト及びマウスの形態の両方に結合し、そしてαβのそのリガンドへの結合及びαβ媒介TGF−β1活性化をブロックする強力で選択的な抗αβモノクローナル抗体(mAb)の形成を報告している(Weinreb,P.H.等、J.Biol.Chem.279(17):17875−17887(2004))。
【0008】
αβのヒト及びマウスの形態の両方に結合し、そしてαβのそのリガンドへの結合及びαβ媒介TGF−β1活性化をブロックする強力で選択的な抗αβモノクローナル抗体(mAb)の形成は以前に報告されている(Weinreb,P.H.等、J.Biol.Chem.279(17):17875−17887(2004);更に、「Anti−αβ Antibodies and Uses Thereof」と題され、2006年7月10日に出願されたViolette等による米国特許出願11/483,190も参照でき、参照により全体が本明細書に組み込まれる)。参照により全体が本明細書に組み込まれるPCT公開WO03/100033にも説明されているとおり、αβに対する高親和性抗体が、そのような抗体の相補性決定領域(CDR)における重要なアミノ酸残基の識別及び分析も含めて発見され、特性化されている。特にこのような高親和性抗体は(a)αβに特異的に結合し;(b)αβのそのリガンド、例えばLAP、フィブロネクチン、ビトロネクチン、及びテナシンへの結合を10D5未満のIC50値で抑制し(国際特許出願公開WO99/07405);(c)TGF−βの活性化をブロックし;(d)αβへの結合特異性を与えるCDRにおける特定のアミノ酸配列を含有し;(e)βサブユニットに特異的に結合し;及び/又は(f)免疫染色の操作法、例えばパラフィン包埋組織の免疫染色においてαβを認識する。
【0009】
WO03/100033はまたαβに結合する抗体が生物物理学的に異なるクラス及びサブクラスに分類できることを発見したと報告している。抗体の1つのクラスはαβへのリガンド(例えばLAP)の結合をブロックする能力を示す(ブロッカー)。このクラスの抗体は更にカチオン依存性ブロッカー及びカチオン非依存性ブロッカーのサブクラスに分類できる。カチオン依存性ブロッカーの一部はアルギニン−グリシン−アスパルテート(RGD)ペプチド配列を含有するのに対し、カチオン非依存性ブロッカーはRGD配列を含有しない。抗体の別のクラスはαβに結合する能力を示すが、リガンドへのαβの結合をブロックしない(ノンブロッカー)。
【0010】
更に、WO03/100033は自身の相補性決定領域(CDR)1、2及び3がαβに対する結合特異性を与える特定のアミノ酸配列よりなる重鎖及び軽鎖を含む抗体を開示している。WO03/100033はまたαβに特異的に結合するが潜伏性関連ペプチド(LAP)へのαβの結合を抑制しない抗体、並びに同じエピトープに結合する抗体を提供している。
【0011】
WO03/100033は更に、ハイブリドーマ6.1A8、6.2B10、6.3G9,6.8G6、6.2B1、6.2A1、6.2E5、7.1G10、7.7G5、及び7.1C5の細胞、コーディング配列を含む単離された核酸、及び抗αβ抗体のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを開示している。特にWO03/100033はハイブリドーマ6.1A8、6.3G9,6.8G6、6.2B1、6.2B10、6.2A1、6.2E5、7.1G10、7.7G5、及び7.1C5により生産される抗体として重鎖及び軽鎖のポリペプチド配列を含む抗αβ抗体を開示している。ハイブリドーマの数種はブタペスト条約の下にAmerican Type Culture Collection(ATCC,PO Box1549,Manassas,VA20108,USA)に寄託されている。特に、ハイブリドーマクローン6.3G9及び6.8G6は2001年8月16日に寄託され、そしてそれぞれアクセッション番号ATCCPTA−3649及びPTA−3645を有している。ハイブリドーマ6.3G9及び6.8G6により生産されるマウス抗体は本出願において更に、それらのヒト化抗体としての潜在的開発のために探求中である。 マウスモノクローナル抗体3G9はヒト可溶性αβで免疫化されたβインテグリン−/−マウス(Huang等、J.Cell Biol.133:921−928(1996))から単離されたマウスIgG1、カッパ抗体である。3G9抗体は傷害、線維症及び癌の間にアップレギュレートされたレベルで発現されるαβインテグリンエピトープを特異的に認識する(例えばThomas等、J.Invest.Dermatology 117:67−73(2001);Brunton等、Neoplasia 3:215−226(2001);Agrez等、Int.J.Cancer 81:90−97(1999);Breuss,J.Cell Science 108:2241−2251(1995)参照)。これは他のαインテグリンには結合せず、そしてヒト及びマウスの分子の両方に対して交差反応性である。マウスモノクローナル抗体3G9は精製されたヒト可溶性αβに、又はβ6発現細胞の何れかに結合するリガンドのブロッキングにより測定した場合にLAPへのαβの結合をブロックし、これによりTGF−β受容体活性化のプロ線維症活性を抑制すると記載されている(WO03/100033参照)。これはまた、既知のαβ抗体である10D5のものよりも低値のIC50でTGF−βのαβ媒介活性化を抑制することが分かっている(Huang等、J.Cell Sci.111:2189−2195(1998))。
【0012】
マウスモノクローナル抗体8G6はWO03/100033に記載される通り、αβインテグリンエピトープをやはり認識するマウスIgG1カッパ抗体である。マウスモノクローナル抗体8G6は10D5より低値のIC50でTGF−βのαβ媒介活性化を抑制する能力を呈するαβのカチオン依存性高親和性のブロッカーである(WO03/100033参照)。
【0013】
3G9及び8G6のマウス抗体の両方ともWO03/100033に記載の通り、腎臓及び肺の線維症の防止において有効であった。更に、マウス抗体3G9はヒト腫瘍異種移植片モデルにおいて腫瘍の増殖を効果的に防止することができ、癌の病理におけるαβの潜在的役割、及びαβに指向された抗体を使用したこのような遮断の有効性を示唆している。
【0014】
smad4はTGF−β経路におけるシグナリングトランスダクションに関与するsmad経路の成分である(非特許文献1;非特許文献2)。dpc4(「膵臓癌で低下」の意味)としても知られているこの遺伝子は腫瘍サプレッサ遺伝子であると考えられ、そしてsmad4発現の低下は膵臓癌(非特許文献3;非特許文献4),食道癌(非特許文献2),子宮頸癌(非特許文献5)及び他の原発のヒトの癌(非特許文献6)を含む種々の原発癌において、並びに膵臓癌のもの(非特許文献7;非特許文献8),及び結腸癌のもの(非特許文献1)を含む細胞株の癌のモデルにおいて観察されている。腫瘍におけるsmad4の低減された発現は特にsmad4欠損性の膵臓の腺癌を有する患者において、患者の生存に関する不良な予後に関連していた(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。smad4の遺伝子産物の腫瘍抑制活性の機序の理解は乏しいが、それはTGF−βシグナリング経路の特定の成分の生育抑制型及び生育活性化型の活性を調節する「スイッチ」として作用している可能性があると考えられる(考察については、Akhurst,A.J.,J.Clin.Invest.109:1533−1536(2002);Bachman,K.E.,and Park,B.H.,Curr.Opin.Oncol.17:49−54(2004);Bierie,B.,and Moses,H.L.,Nature Rev.Cancer 6:506−520(2006)参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Levy,L.およびHill,C.S.,Molec.Cell.Biol.(2005)25:8108−8125
【非特許文献2】Fukuchi,M.等、Cancer(2002)95:737−743
【非特許文献3】Luttges,J.等、Am.J.Pathol.(2001)158:1677−1683
【非特許文献4】Subramanian,G.等、Cancer Res.(2004)64:5200−5211
【非特許文献5】Maliekal,T.T.等、Oncogene(2003)22:4889−4897
【非特許文献6】Iacobuzio−Donahue,C.A.等、Clin.Canc.Res.(2004)10:1597−1604
【非特許文献7】Lohr,M.等、Cancer Res.(2001)61:550−555
【非特許文献8】Yasutome,M.等、Clin.Exp.Metastasis(2005)22:461−473
【非特許文献9】Liu,F.,Clin.Cancer Res.(2001)7:3853−3856
【非特許文献10】Tascilar,M.等、Clin.Cancer Res.(2001)7:4115−4121
【非特許文献11】Toga,T.等、Anticancer Res.(2004)24:1173−1178
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
要旨
本発明はαβ結合抗体のようなαβ結合リガンドを用いた癌の診断、治療及び防止の方法に関する。特に本発明は腫瘍におけるsmad4の低減された発現及びインテグリンαβの増大した発現とそのような発現パターンを有する腫瘍細胞がαβ活性化合物に対し、そしてTGF−β抑制リガンドに対して応答し易いという傾向との間の相関の発見に関する。
【0017】
即ち、1つの実施形態において、本発明は(a)腫瘍又はその一部分を含む癌性の組織試料、及び場合により非癌性の組織試料を患者から得る工程;(b)上記癌性組織試料由来、及び場合により上記非癌性の組織試料由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定する工程;(c)上記組織試料由来の細胞を、インテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上に接触させる工程;及び(d)上記癌性組織試料由来の上記細胞中の、及び場合により上記非癌性の組織試料由来の上記細胞からのインテグリンαβの発現のレベルを測定する工程、及び上記癌性の組織試料中における発現のレベルをレファレンス試料、例えば上記非癌性の組織試料中の発現のレベルと比較する工程により、腫瘍を特性化することを含む、腫瘍を特性化する、例えば転移性、又は侵襲性の腫瘍に進行する可能性が高い腫瘍を発見する、又はあらかじめ選択された薬剤、例えば本明細書に記載した抗αβ剤を用いた治療のための腫瘍を発見する方法を提供する。レファレンス値と合致するかそれを超過する癌性の試料中の発現のレベルは、転移性又は侵襲性の腫瘍に進行する可能性がより高い腫瘍の存在を示す。例えば上記非癌性の組織試料中のsmad4及びインテグリンαβの発現のレベルと相対比較した場合の、上記癌性組織試料由来の細胞におけるsmad4発現の低下及びそれに併発したインテグリンαβの発現のレベルの上昇は、転移性又は侵襲性の腫瘍に進行する可能性がより高い腫瘍が上記患者において存在することを示す。本発明の特定のそのような実施形態において、腫瘍細胞は癌腫、例えば腺癌である。より特定される実施形態においては、癌腫は膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、扁平上皮細胞癌(例えば食道癌)、頭部頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、及び肺癌である。より特定すれば癌腫は膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、又は頭部頸部癌である。本発明の特徴に従った適当な実施形態はαβ結合抗体又はそのαβエピトープ結合フラグメントであるαβインテグリン結合リガンドを使用する。特定の本発明そのような実施形態によれば、抗体はモノクローナル抗体(キメラ、霊長類化、ヒト又はヒト化のものであってよい)、例えば参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願2005/0255102 A1に開示されているものである。適当なそのような抗体は、これらに限定されないが、1A8、3G9、8G6、2B1、2B10、2A1、2E5、1G10、7G5、1C5、10D5(ATCC寄託番号HB12382)及びCSβと命名されたαβ結合モノクローナル抗体、並びにそれらのフラグメント、キメラ及びハイブリッドを包含する。本発明のそのような実施形態における使用のために特に適するものはモノクローナル抗体3G9及び8G6である。本発明のそのような実施形態における使用のためにやはり特に適するものはヒト化モノクローナル抗体、例えばhu3G9(BG00011)と命名されたヒト化3G9抗及びhu8G6と命名されたヒト化8G6抗体である。本発明の特定のそのような特徴において、リガンドは少なくとも1つの検出可能な標識、例えば発色性標識(例えばジアミノベンジジン及び4−ヒドロキシアゾベンゼン−2−カルボン酸)、酵素標識(マレエートデヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、コウボアルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼ)、放射性同位体標識(例えばH、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc及び109Pd)、非放射性同位体標識(例えば157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、56Fe、99mTc及び112In)、蛍光標識(例えば152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、緑色蛍光蛋白(GFP)標識、o−フタルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識)、毒素標識(例えばジフテリア毒素標識、リシン標識、及びコレラ毒素標識)、化学発光標識(例えばルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、オキサレートエステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識)、X線撮影用標識(例えばバリウム又はセシウム)、スピン標識(例えば重水素)、又は核磁気共鳴造影剤標識(例えばGd、Mn及び鉄)にコンジュゲートされる。
【0018】
関連する実施形態において、本発明は、例えば腫瘍が転移性又は侵襲性になる増大した潜在性を有する場合の、患者から腫瘍を排除するための治療方法を提供する。そのような方法は、例えば本明細書に記載した組織試料を特性化すること、例えば(a)上記したそのような腫瘍を発見するための方法に従って、転移性又は侵襲性の腫瘍に進行する可能性がより高い腫瘍を患者の組織試料において発見する工程;及び(b)そのような腫瘍が発見されている患者に、αβ陽性転移性腫瘍細胞1つ以上上のインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上の治療有効量を投与することを含み、ここでインテグリンへのリガンドの結合は上記転移性腫瘍細胞の死滅、化学療法剤感受性化(chemosensitize)、又は低下した侵襲性をもたらす。好ましい実施形態においては、同じ薬剤、例えば同じ抗体を用いて腫瘍を特性化し、そして患者を治療する。別の実施形態においては、異なる薬剤又は抗体を使用する。例えば特性化は第1の標識を有する抗体を用いて実施でき、そして治療は第2の標識、例えば治療薬を有する抗体を用いて実施できる。
【0019】
関連する実施形態において、本発明は(a)本明細書に記載した組織試料を特性化すること、例えば上記したそのような腫瘍を発見するための方法に従って、転移性又は侵襲性の腫瘍に進行する可能性がより高い腫瘍を患者の組織試料において発見する工程;及び(b)前転移性又は前侵襲性の腫瘍における細胞1つ以上の上のインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上の治療有効量を患者に投与することを含む、患者における前転移性の腫瘍の転移性の腫瘍への進行を低減又は防止する方法を提供し、ここでインテグリンへのリガンドの結合は原発腫瘍を包囲する組織領域内への前転移性の癌の細胞の侵襲の低減又は防止をもたらす。本発明のこの特徴による治療実施形態においては、αβ結合リガンド(例えばαβ結合抗体)は細胞又は組織上のαβインテグリン1つ以上へのαβ結合リガンド毒性化合物コンジュゲートの結合時に細胞又は組織の死滅をもたらすか誘導する細胞毒性の化合物又は薬剤1つ以上にコンジュゲート又は結合することができる。一部の実施形態においては、腫瘍を特性化するために使用する抗体は細胞毒性の化合物又は薬剤を欠いていることになる。本発明の別の治療実施形態においては、αβ結合リガンド(例えばαβ結合抗体)はそのような細胞毒性の化合物又は薬剤1つ以上と組み合わせて患者に投与される。本発明のこれらの特徴に従って使用する場合に適当であることができる細胞毒性の化合物又は薬剤は、これらに限定されないが細胞毒性剤(例えばシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、メルファラン、ドキソルビシン、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、エトポシド、メクロレタミン、シクロホスファミド、ブレオマイシン、カリケアマイシン、マイタンシン、トリコテン、CC1065、ジフテリアA鎖、Pseudomonas aeruginosa外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleuritesfordii蛋白、ダイアンシン(dianthin)蛋白、Pyhtolaca americana蛋白、モモルジカ・チャランチア阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、アドリアマイシン(ドキソルビシンとしても知られており、本明細書においては互換的に使用)、ゲムシタビン、フェノマイシン、エノマイシン、トリコテセン、リボヌクレアーゼ、及びデオキシリボヌクレアーゼ)、放射性同位体(例えば211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、及びLuの放射性同位体)及びプロドラッグ活性化酵素(例えばアルカリホスファターゼ、アリールスルファターゼ、シトシンデアミナーゼ、プロテアーゼ、D−アラニルカルボキシペプチダーゼ、炭水化物切断酵素、P−ラクタマーゼ及びペニシリンアミダーゼ)を包含する。細胞毒性剤はまた、特定の細胞をリクルートする、又は一般的に腫瘍に対する免疫応答を増大させる薬剤でもある。特定の実施形態においては、αβインテグリン結合リガンド1つ以上はαβインテグリン結合リガンド1つ以上の有効量及び製薬上許容しうる担体又は賦形剤1つ以上を含む医薬組成物の形態で患者に投与される。αβインテグリン結合リガンド1つ以上及び/又はαβインテグリン結合リガンド1つ以上を含む1つ以上の医薬組成物は、医薬組成物を投与する何れかの適当な様式、例えばこれらに限定されないが経口投与、非経腸投与(例えば筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下経路の注射)、頭蓋内投与、経皮投与、肺内投与、及び鼻内投与により患者に投与できる。
【0020】
別の実施形態において、本発明は侵襲性の癌腫に進行する可能性がより高い、及び/又はインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンドによる治療により応答し易い、腫瘍、例えば癌腫(例えば腺癌)を診断又は発見する方法を提供する。適当なそのような方法は、例えば(a)腫瘍又はその一部分を含む癌性の上皮組織試料、及び非癌性の上皮組織試料を患者から得る工程;(b)上記組織試料由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定する工程;(c)組織試料をインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上に接触させる工程;及び(d)組織試料中のインテグリンαβの発現のレベルを測定することを含んでよく、ここで非癌性の組織試料中のsmad4及びインテグリンαβの発現のレベルと相対比較した場合の、癌性の組織試料中におけるsmad4の発現のレベルの低下、及びそれに併発したインテグリンαβの発現のレベルの上昇は、(a)上皮内又は非侵襲性の形態から侵襲性の転移性の形態への進行の可能性が増大している;及び/又は(b)αβ結合リガンド、特に上記したもののような細胞毒性の化合物又は薬剤1つ以上とコンジュゲートされた、又はそれと組み合わせて投与されるαβ結合リガンドの結合に依存している上記参照した治療方法1つ以上による治療に応答する可能性がより高い腫瘍の患者における存在を示している。そのような方法は、例えばこれらに限定されないが上記下上皮組織の関与するものを包含する種々の腫瘍を診断又は発見するために適している。特定のそのような実施形態においては、インテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンドは、αβインテグリン結合抗体(上記したもののようなモノクローナル抗体であってよい)又はそのαβエピトープ結合フラグメントである。本発明のそのような診断方法における使用のために特に適するものは、検出可能に標識された、即ち少なくとも1つの検出可能な標識、例えば発色性標識(例えばジアミノベンジジン及び4−ヒドロキシアゾベンゼン−2−カルボン酸)、酵素標識(マレエートデヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、コウボアルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼ)、放射性同位体標識(例えばH、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc及び109Pd)、非放射性同位体標識(例えば157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、56Fe、99mTc及び112In)、蛍光標識(例えば152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、緑色蛍光蛋白(GFP)標識、o−フタルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識)、毒素標識(例えばジフテリア毒素標識、リシン標識、及びコレラ毒素標識)、化学発光標識(例えばルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、オキサレートエステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識)、X線撮影用標識(例えばバリウム又はセシウム)、スピン標識(例えば重水素)、又は核磁気共鳴造影剤標識(例えばGd、Mn及び鉄)を含むか、これらにコンジュゲートされるか、又はこれらと結合したαβ結合リガンド(例えば抗体)である。
【0021】
1つの特徴において、本発明はsmad4欠損性の腫瘍に由来する細胞の増殖を抑制する方法を特徴とする。方法は例えば腫瘍由来の細胞中のsmad4の発現のレベルを測定すること、及び腫瘍細胞の増殖抑制又は死滅を誘発する薬剤1つ以上をsmad4発現において欠損性の腫瘍細胞に投与することを包含する。薬剤1つ以上は、例えばインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド、例えば抗αβ抗体、又はそのαβエピトープ結合フラグメントであることができる。別の実施形態においては、薬剤1つ以上は細胞におけるTGF−βシグナリング経路を抑制する。そのような薬剤は、例えばプロテインキナーゼ分子、小分子治療薬化合物、又は可溶性TGF−β受容体ポリペプチドを包含する。
【0022】
別の特徴において、本発明は生育抑制性の化学療法剤化合物を用いた治療に対してsmad4欠損腫瘍細胞を化学療法剤感受性化する方法を特徴とする。方法は例えば、腫瘍由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定すること、及び、治療が生育抑制性の化学療法剤化合物1つ以上に対する増大した応答性をもたらすように薬剤1つ以上でsmad4発現に関して欠損性の腫瘍細胞を治療することを包含する。薬剤1つ以上は例えば、インテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド、又はTGF−βシグナリング経路を抑制する薬剤であることができる。
【0023】
本発明の別の好ましい実施形態は、以下に示す図面及び発明の説明、及び特許請求の範囲を参照すれば、当業者にとって明らかであろう。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
smad4欠損である腫瘍由来の細胞の増殖を抑制する方法であって、下記工程:
(a)該腫瘍由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定する工程;及び、
(b)腫瘍細胞におけるインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上でsmad4発現が欠損している該腫瘍細胞を処理する工程;
を含み、
ここで該処理は該腫瘍細胞の増殖抑制又は死滅をもたらす、方法。
(項目2)
smad4欠損である腫瘍由来の細胞の増殖を抑制する方法であって、下記工程:
(a)該腫瘍由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定する工程;及び、
(b)腫瘍細胞におけるTGF−βシグナリング経路を抑制する薬剤1つ以上でsmad4発現が欠損している腫瘍細胞を処理する工程;
を含み、
ここで該処理は該腫瘍細胞の増殖抑制又は死滅をもたらす、方法。
(項目3)
上記腫瘍が癌腫である、項目1又は2記載の方法。
(項目4)
上記癌腫が腺癌である、項目3記載の方法。
(項目5)
上記癌腫が膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、扁平上皮細胞癌、頭部頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、及び肺癌よりなる群から選択される、項目3記載の方法。
(項目6)
上記癌腫が膵臓癌である、項目3記載の方法。
(項目7)
上記扁平上皮癌が食道癌である、項目5記載の方法。
(項目8)
上記癌腫が結腸直腸癌である、項目3記載の方法。
(項目9)
上記癌腫が子宮頸癌である、項目3記載の方法。
(項目10)
上記癌腫が頭部頸部癌である、項目3記載の方法。
(項目11)
αβインテグリンに結合する上記リガンドが抗体又はそのαβエピトープ結合フラグメントである、項目1記載の方法。
(項目12)
上記抗体がモノクローナル抗体である、項目11記載の方法。
(項目13)
上記モノクローナル抗体がキメラモノクローナル抗体、霊長類化モノクローナル抗体、ヒトモノクローナル抗体又はヒト化モノクローナル抗体である、項目12記載の方法。
(項目14)
上記モノクローナル抗体が2A1、2E5、1A8、2B10、2B1、1G10、7G5、1C5、8G6、3G9、10D5及びCSβ6よりなる群から選択される、項目12記載の方法。
(項目15)
上記モノクローナル抗体が3G9である、項目12記載の方法。
(項目16)
上記モノクローナル抗体が8G6である、項目12記載の方法。
(項目17)
上記モノクローナル抗体がヒト化モノクローナル抗体である、項目12記載の方法。
(項目18)
上記ヒト化モノクローナル抗体がhu3G9(BG00011)である、項目17記載の方法。
(項目19)
上記ヒト化モノクローナル抗体がhu8G6である、項目17記載の方法。
(項目20)
上記リガンドが検出可能な標識少なくとも1つにコンジュゲートされている、項目1記載の方法。
(項目21)
上記検出可能な標識が発色性標識、酵素標識、放射性同位体標識、非放射性同位体標識、蛍光標識、毒素標識、化学発光標識、X線撮影用標識、スピン標識、及び核磁気共鳴造影剤標識よりなる群から選択される、項目20記載の方法。
(項目22)
上記発色性標識がジアミノベンジジン及び4−ヒドロキシアゾベンゼン−2−カルボン酸よりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目23)
上記酵素標識がマレエートデヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、コウボアルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼよりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目24)
上記放射性同位体標識がH、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc及び109Pdよりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目25)
上記非放射性同位体標識が157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、56Fe、99mTc及び112Inよりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目26)
上記蛍光標識が152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、緑色蛍光蛋白(GFP)標識、o−フタルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識よりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目27)
上記毒性標識がジフテリア毒素標識、リシン標識、及びコレラ毒素標識よりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目28)
上記化学発光標識がルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、オキサレートエステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識よりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目29)
上記X線撮影用標識がバリウム又はセシウムである、項目21記載の方法。
(項目30)
上記スピン標識が重水素である、項目21記載の方法。
(項目31)
上記核磁気共鳴造影剤標識がGd、Mn、及び鉄よりなる群から選択される、項目21記載の方法。
(項目32)
上記腫瘍細胞においてTGF−βシグナリング経路を抑制する上記薬剤が下記:
(a)プロテインキナーゼ分子;
(b)小分子治療薬化合物;及び、
(c)可溶性TGF−β受容体ペプチド;
よりなる群から選択される、項目2記載の方法。
(項目33)
生育抑制性の化学療法剤化合物を用いた治療に対してsmad4欠損腫瘍細胞を化学療法剤感受性化する方法であって、下記工程:
(a)該腫瘍由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定する工程;及び、
(b)該腫瘍細胞におけるインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上でsmad4発現が欠損している腫瘍細胞を処理する工程;
を含み、
ここで該処理は生育抑制性の化学療法剤化合物1つ以上に対する該腫瘍細胞の増大した応答性をもたらす、方法。
(項目34)
生育抑制性の化学療法剤化合物を用いた治療に対してsmad4欠損腫瘍細胞を化学療法剤感受性化する方法であって、下記工程:
(a)該腫瘍由来の細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定する工程;及び、
(b)該腫瘍細胞におけるTGF−βシグナリング経路を抑制する薬剤1つ以上でsmad4発現が欠損している腫瘍細胞を処理する工程;
を含み、
ここで該処理は生育抑制性の化学療法剤化合物1つ以上に対する該腫瘍細胞の増大した応答性をもたらす、方法。
(項目35)
上記腫瘍が癌腫である、項目33又は34記載の方法。
(項目36)
上記癌腫が腺癌である、項目35記載の方法。
(項目37)
上記癌腫が膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、扁平上皮細胞癌、頭部頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、及び肺癌よりなる群から選択される、項目35記載の方法。
(項目38)
上記癌腫が膵臓癌である、項目35記載の方法。
(項目39)
上記扁平上皮癌が食道癌である、項目37記載の方法。
(項目40)
上記癌腫が結腸直腸癌である、項目35記載の方法。
(項目41)
上記癌腫が子宮頸癌である、項目35記載の方法。
(項目42)
上記癌腫が頭部頸部癌である、項目35記載の方法。
(項目43)
αβインテグリンに結合する上記リガンドが抗体又はそのαβエピトープ結合フラグメントである、項目33記載の方法。
(項目44)
上記抗体がモノクローナル抗体である、項目33記載の方法。
(項目45)
上記モノクローナル抗体がキメラ、霊長類化、又はヒト化モノクローナル抗体である、項目44記載の方法。
(項目46)
上記モノクローナル抗体が2A1、2E5、1A8、2B10、2B1、1G10、7G5、1C5、8G6、3G9、10D5及びCSβ6よりなる群から選択される、項目44記載の方法。
(項目47)
上記モノクローナル抗体が3G9である、項目44記載の方法。
(項目48)
上記モノクローナル抗体が8G6である、項目44記載の方法。
(項目49)
上記モノクローナル抗体がヒト化モノクローナル抗体である、項目44記載の方法。
(項目50)
上記ヒト化モノクローナル抗体がhu3G9(BG00011)である、項目49記載の方法。
(項目51)
上記ヒト化モノクローナル抗体がhu8G6である、項目49記載の方法。
(項目52)
上記リガンドが検出可能な標識少なくとも1つにコンジュゲートされている、項目33記載の方法。
(項目53)
上記検出可能な標識が発色性標識、酵素標識、放射性同位体標識、非放射性同位体標識、蛍光標識、毒素標識、化学発光標識、X線撮影用標識、スピン標識、及び核磁気共鳴造影剤標識よりなる群から選択される、項目52記載の方法。
(項目54)
上記発色性標識がジアミノベンジジン及び4−ヒドロキシアゾベンゼン−2−カルボン酸よりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目55)
上記酵素標識がマレエートデヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、コウボアルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼよりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目56)
上記放射性同位体標識がH、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc及び109Pdよりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目57)
上記非放射性同位体標識が157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、56Fe、99mTc及び112Inよりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目58)
上記蛍光標識が152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、緑色蛍光蛋白(GFP)標識、o−フタルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識よりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目59)
上記毒性標識がジフテリア毒素標識、リシン標識、及びコレラ毒素標識よりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目60)
上記化学発光標識がルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、オキサレートエステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識よりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目61)
上記X線撮影用標識がバリウム又はセシウムである、項目53記載の方法。
(項目62)
上記スピン標識が重水素である、項目53記載の方法。
(項目63)
上記核磁気共鳴造影剤標識がGd、Mn、及び鉄よりなる群から選択される、項目53記載の方法。
(項目64)
上記腫瘍細胞においてTGF−βシグナリング経路を抑制する上記薬剤が下記:
(a)プロテインキナーゼ分子;
(b)小分子治療薬化合物;及び、
(c)可溶性TGF−β受容体ペプチド;
よりなる群から選択される、項目34記載の方法。
(項目65)
上記生育抑制性の化学療法剤化合物がシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ゲムシタビン、アドリアマイシン、メルファラン、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、エトポシド、メクロレタミン、シクロホスファミド、ブレオマイシン、カリケアマイシン、マイタンシン、トリコテン、CC1065、ジフテリアA鎖、Pseudomonas aeruginosa外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleuritesfordii蛋白、ダイアンシン蛋白、Pyhtolaca americana蛋白、モモルジカ・チャランチア阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、トリコテセン、リボヌクレアーゼ、及びデオキシリボヌクレアーゼよりなる群から選択される、項目33又は項目34記載の方法。
(項目66)
上記生育抑制性の化学療法剤化合物がゲムシタビン、アドリアマイシン、又はパクリタキセルである、項目65記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は記載した原発腫瘍部位からリンパ節(図1A〜1D)又は肺(図1E〜1F)の何れかに転移した特定のヒト癌腫におけるαβ発現(暗色域)のレベルを示す顕微鏡写真の複合物である。
【図2】図2は記載した原発腫瘍部位から記載した転移腫瘍部位に転移している特定のヒト癌腫におけるαβ発現(暗色域)のレベルを示す顕微鏡写真の複合物である。
【図3】図3は異なる5患者に由来する原発及び転移の膵臓腺癌腫瘍のマッチした試料において観察されたαβ発現(暗色域)のレベルを示す顕微鏡写真の複合物である。図3A〜3E:異なる5患者由来の原発腫瘍試料における発現であって、3つは腺扁平上皮として特性化された腫瘍を有するもの(図3A〜3C)であり、そして2つは分化の乏しいものとして特性化された腫瘍を有するもの(図3D〜3E)である。図3F〜3J:これらの同じ5患者に由来するマッチしたリンパ節転移における発現。図3K〜3L:5患者のうち2患者から得た正常膵臓組織における発現。
【図4】図4は上皮内腺管癌(DCIS;BrCa19)(図4A)及び侵襲性の乳癌(BrCa23)(図4B)の組織切片において観察されたαβ発現(暗色域)のレベルを示す2つの顕微鏡写真の複合物である。
【図5】図5は異なる3患者由来の原発及び転移の膵臓の腺管腺癌腫瘍のマッチした試料において観察されたαβ発現(暗色域)のレベルを示す顕微鏡写真の複合物である。図5A〜5C:異なる3患者に由来する原発腫瘍試料における発現。図5D〜5F:これらの同じ3患者に由来するマッチしたリンパ節転移における発現。図5G〜5H:3患者のうち2患者からから得た正常膵臓組織における発現。
【図6】図6は異なる5患者に由来する原発及び転移の膵臓腺癌腫瘍のマッチした試料において観察されたαβ発現(暗色域)のレベルを示す顕微鏡写真の複合物である。図6A〜6E:異なる5患者由来の原発腫瘍試料における発現であって、3つは腺扁平上皮として特性化された腫瘍を有するもの(図6A〜6C)であり、そして2つは分化の乏しいものとして特性化された腫瘍を有するもの(図6D〜6E)である。図6F〜6J:これらの同じ5患者に由来するマッチしたリンパ節転移における発現。図6K〜6L:5患者のうち2患者から得た正常膵臓組織における発現。
【図7】図7はヒト膵臓癌のBxPC−3マウス異種移植片モデルにおける腫瘍の増殖を抑制する抗αβモノクローナル抗体(3G9)の能力を示す。図7A:抗αβモノクローナル抗体(3G9)を用いた免疫組織化学的手法を介して染色した異種移植片中の切片の顕微鏡写真。図7B:αβmAb3G9(黒色の三角形)、可溶性TGFbRII−Fc−Ig融合蛋白(黒色の逆三角形)、又はビヒクルPBS(黒色の四角形)を用いた処理の間のBxPC−3異種移植片腫瘍の生育曲線。図7C:試験終了時(第66日)における個々の腫瘍の大きさの散布図。
【図8】図8はインテグリンαβ(上側3パネル)又はsmad4(下側3パネル)の発現に関してプローブした異なる3患者試料由来の膵臓組織/腫瘍切片の一連の顕微鏡写真である。
【図9】図9はインテグリンαβ(上側3パネル)又はsmad4(下側3パネル)の発現に関してプローブした異なる3患者試料由来の(そして図8のものとは異なる)膵臓組織/腫瘍切片の一連の顕微鏡写真である。
【図10】図10はインテグリンαβ(上側3パネル)又はsmad4(下側3パネル)の発現に関してプローブした異なる3患者試料由来の(そして図8及び図9のものとは異なる)膵臓組織/腫瘍切片の一連の顕微鏡写真である。
【図11】図11はインテグリンαβ(上側2パネル)又はsmad4(下側2パネル)の発現に関してプローブした異なる2患者試料由来の(そして図8〜図10のものとは異なる)膵臓組織/腫瘍切片の一連の顕微鏡写真である。
【図12】図12はインテグリンαβ(上側2パネル)又はsmad4(下側2パネル)の発現に関してプローブした、インテグリンαβの発現に関しては異種(「+/−」)である異なる2患者試料由来の(そして図8〜図11のものとは異なる)膵臓組織/腫瘍切片の一連の顕微鏡写真である。
【図13】図13はインテグリンαβ又はsmad4の発現に関してプローブした、インテグリンαβの発現に関しては異種(「+/−」)である単一の患者試料由来の(そして図12のものとは異なる)膵臓組織/腫瘍切片の一連の顕微鏡写真である。
【図14】図14は図8〜図13に示した結果を総括した表である。
【図15】図15は膵臓癌細胞株のパネルにおけるαβ及びsmad4の発現レベルの総括である。
【図16】図16はFolioアレイにより試験した場合の膵臓癌におけるαβ及びsmad4の発現レベルを示す顕微鏡写真の複合物である。
【図17】図17は異なる23膵臓腫瘍組織試料におけるαβ及びsmad4の発現レベルを総括する模式図である。
【図18】図18はBiomax組織マイクロアレイ上で試験した異なる70膵臓腺管腺癌(PDAC)試料におけるαβ及びsmad4の発現レベルを総括する模式図である。
【図19】図19はLeidenアレイ上で試験した異なる50PDAC試料におけるαβ及びsmad4の発現レベルを総括する模式図である。
【図20】図20はLeidenアレイ上で試験した異なる9PDAC転移試料におけるαβ及びsmad4の発現レベルを総括する模式図である。
【図21】図21A及び図21BはそれぞれBiomaxアレイ及びLeidenアレイにより測定した場合のPDACにおけるαβ及びsmad4の発現レベルの結果を総括する棒グラフである。
【図22】図22は単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びゲムシタビンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したBxPC−3ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図23】図23は単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びゲムシタビンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したBxPC−3ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図24】図24は治療計画の第45日における、単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びゲムシタビンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したBxPC−3ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す散布図である。
【図25】図25はmAb3G9又はゲムシタビンを用いた治療に応答した宿主動物の体重の変化を示す直線グラフである。
【図26】図26は単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びドキソルビシンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したBxPC−3ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図27】図27は単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びドキソルビシンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したBxPC−3ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図28】図28は治療計画の第45日における、単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びドキソルビシンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したBxPC−3ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す散布図である。
【図29】図29はmAb3G9又はドキソルビシンを用いた治療に応答した宿主動物の体重の変化を示す直線グラフである。
【図30】図30Aは単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びゲムシタビンに対する、そして可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したSu86.86ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。図30Bは単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びゲムシタビンに対する、そしてTGF−βRII−Fcに対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したSu86.86ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図31】図31AはmAb3G9及びTGF−βRII−Fcに対する、そして何れかの薬剤のゲムシタビンとの組み合わせに対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したPanc04ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。図31BはmAb3G9及びTGF−βRII−Fcに対する、そして何れかの薬剤のゲムシタビンとの組み合わせに対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したPanc04ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図32】図32AはmAb3G9、TGF−βRII−Fc、及びゲムシタビンに対する、そしてゲムシタビンと組み合わせたmAb3G9及びTGF−βRII−Fcの各々に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したCapan−2ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。図32BはmAb3G9、TGF−βRII−Fc、及びゲムシタビンに対する、そしてゲムシタビンと組み合わせたmAb3G9及びTGF−βRII−Fcの各々に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したCapan−2ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図33】図33A〜図33Cは単剤としての、又は組み合わせてとしての、mAb3G9及びゲムシタビンに対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したSW1990ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図34】図34AはmAb3G9、TGF−βRII−Fc、及びゲムシタビンに対する、そしてゲムシタビンと組み合わせたmAb3G9及びTGF−βRII−Fcの各々に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したCapan−1ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。図34BはmAb3G9、TGF−βRII−Fc、及びゲムシタビンに対する、そしてゲムシタビンと組み合わせたmAb3G9及びTGF−βRII−Fcの各々に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したCapan−1ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図35】図35はmAb3G9、TGF−βRII−Fc、及びゲムシタビンに対する、そしてゲムシタビンと組み合わせたmAb3G9及びTGF−βRII−Fcの各々に対する、無胸腺ヌードマウス内に正常位移植したASPC−1ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す棒グラフである。
【図36】図36は図30図〜35に示した結果を総括した表である。
【図37】図37A〜図37Dはαβの保持又はαβ発現の欠損、又はsmad4の保持又はsmad4発現の欠損、及びこれらの表現型の組み合わせの機能における膵臓腺管腺癌を有するLeiden大学メディカルセンターの26患者の累積生存を示すKaplan−Meier曲線である。原発腫瘍由来のデータのみを分析した。
【図38】図38はsmad4の保持又はsmad4発現の欠損の機能における膵臓腺管腺癌を有する患者の累積生存を示すKaplan−Meier曲線である。原発腫瘍由来のデータのみを分析した。Log Rank(Mantel−Cox)。
【図39】図39はmAb3G9及び可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する無胸腺ヌードマウス(転移部位:脾臓)内に皮下移植したSW1990ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図40】図40はmAb3G9及び可溶性TGF−βRII−Fcに対する無胸腺ヌードマウス(転移部位:脾臓)内に皮下移植したSW1990ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図41】図41は治療計画の第42日における、mAb3G9及び可溶性TGF−βRII−Fcに対する無胸腺ヌードマウス(転移部位:脾臓)内に皮下移植したSW1990ヒト膵臓腺癌細胞の応答を示す散布図である。
【図42】図42は複合図であり、A:αβ発現に基づいて分類したSW1990細胞サブ集団におけるsmad4発現を示すウエスタンブロットのオートラジオグラフ;B:移植されたSW1990腫瘍のαβ発現の免疫組織化学的特徴;及び、C〜E:smad4及びαβ発現によるSW1990細胞集団のFACS媒介細胞分類を示す。
【図43】図43はマウスmAb3G9及び可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図44】図44は治療計画の第39日における、マウスmAb3G9、mAb4B4、及び可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す散布図である。
【図45】図45はマウスmAb3G9、mAb4B4、及び可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図46】図46はマウスmAb3G9、mAb4B4、mAb8G6、及び可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図47】図47は治療計画の第34日における、マウスmAb3G9、mAb4B4、mAb8G6、及び可溶性TGF−β受容体II/Fc融合蛋白(TGF−βRII−Fc)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す散布図である。
【図48】図48はマウスmAb3G9(上)に対する、そしてヒト化mAb3G9(BG00011)(下)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフ対である。
【図49】図49はマウスmAb3G9(上)に対する、そしてヒト化mAb3G9(BG00011)(下)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す散布図である。
【図50】図50はマウスmAb3G9に対する、そしてヒト化mAb3G9(BG00011)に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(陰性としてビヒクル;陽性としてTGF−βRII−Fc)の結果のパーセントとして表示する。
【図51】図51は野生型マウスmAb3G9に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図52】図52はアグリコシルマウスmAb3G9に対する無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフである。
【図53】図53は野生型マウスmAb3G9に対する、そしてアグリコシルマウスmAb3G9に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す散布図である。
【図54】図54は野生型マウスmAb3G9に対する、そしてアグリコシルマウスmAb3G9に対する、無胸腺ヌードマウス内に皮下移植したDetroit562ヒト咽頭癌細胞の応答を示す直線グラフであり、被験動物の結果は対照(ビヒクル)の結果のパーセントとして表示する。
【図55】図55は図43〜図53の結果を総括した表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
特段の記載が無い限り、本明細書に記載した全ての技術的及び専門的用語は本発明が属する分野の当業者が共通して理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載したものと同様又は等価である如何なる方法及び材料も本発明を実施又は試験する場合に使用できるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
【0026】
定義
約:本明細書においては、何れかの数的値に言及する場合、「約」という用語は記載した値の±10%の値を意味する(例えば「約50℃」は45℃〜55℃(両端の値を含む)の温度範囲を包含し;同様に、「約100mM」とは、90mM〜110mM(両端の値を含む)の濃度範囲を包含する)。
【0027】
拮抗剤:本明細書においては、「拮抗剤」という用語は細胞、組織又は生物中のαβインテグリンの生物学的及び/又は生理学的作用を低減、実質的に低減、又は完全に抑制する化合物、分子、部分、又は複合体を指す。拮抗剤は、αβに対するリガンドであってよく、細胞表面上のαβへの結合に関して他のリガンドと競合すること;他のリガンドに結合するインテグリンの能力を低減、実質的に低減、又は抑制するようにαβと相互作用すること;細胞表面αβに結合し、そして他のリガンドがもはや結合できない(又は低減、又は実質的に低減された親和性及び/又は効率でのみ結合できる)構造をインテグリンが取るように、そのコンホーメーション変化を誘導すること;他のリガンドの結合、又は細胞上のαβへの結合時にそのようなリガンドにより誘導される生理学的シグナルを、低減、実質的に低減、又は完全に抑制するように、細胞、組織、又は生物における生理学的変化(例えば細胞内シグナリング複合体の増大;転写抑制剤の増大;細胞表面αβ発現の低減等)を誘導すること;及び当業者の知る通り拮抗剤が自身の活性を実施する別の機序、を包含するがこれらに限定されない種々の態様においてそのような作用を実施してよい。当業者に理解されるように、拮抗剤はそれが拮抗する別のαβ結合部分(例えばαβ結合リガンド)と同様の構造を有してよく(例えば拮抗剤はアゴニストのムテイン、変異体、フラグメント又は誘導体であってよく)、或いは、完全に無関連の構造を有してよい。
【0028】
結合した:本明細書においては、「結合した」という用語は共有結合的、例えば化学的カップリングによるか、又は非共有結合的、例えばイオン相互作用、疎水性相互作用、水素結合などであってよい結合又は連結を指す。共有結合は例えばエステル、エーテル、ホスホエステル、チオエステル、チオエーテル、ウレタン、アミド、アミン、ペプチド、イミド、ヒドラゾン、ヒドラジド、炭素−イオウ結合、炭素−リン結合等であることができる。「結合した」という用語は例えば「カップリングした」、「コンジュゲートした」及び「連結した」等の用途よりも広範であり、そしてこれらを包含する。
【0029】
コンジュゲート/コンジュゲーション:本明細書においては、αβに結合するリガンド、例えばαβ結合抗体又はそのフラグメントへのある部分、例えば化学物質又は放射性同位体の共有結合的連結の産物を指す。「コンジュゲーション」とは、前文において定義したコンジュゲートの形成を指す。生物学的に活性な物質、例えば蛋白又はポリペプチド(抗体を包含する)への化学物質又は放射性同位体のコンジュゲーションの分野の当業者により通常使用されている何れかの方法を本発明において使用できる。
【0030】
疾患、障害、状態:本明細書においては、「疾患」又は「障害」という用語はヒト又は動物の何れかの有害な状態、例えば腫瘍、癌、アレルギー、嗜癖、自己免疫、感染、中毒、又は最適な精神又は身体の機能の減損を指す。「状態」とは本明細書においては、疾患及び障害を包含するが、生理学的な状況も指す。例えば、繁殖性は生理学的状況であるが、疾患又は障害ではない。従って、繁殖性を低下させることによる妊娠の防止に適する本発明の組成物は、状態(繁殖性)の治療と記載されることになるが、疾患又は障害の治療とは記載されない。他の状態は当業者に理解されるところである。
【0031】
有効量:本明細書においては、「有効量」という用語は所望の生物学的作用を実現するために必要又は十分な、ある化合物、コンジュゲート又は組成物の量を指す。ある化合物、コンジュゲート又は組成物の有効量は、本発明の方法によれば、この選択された結果を達成する量となり、そしてそのような量は予定外の実験を必要とすることなく、当該分野で知られた、及び/又は本明細書に記載した試験を用いながら当業者により定形的に決定され得るものである。例えば癌の転移を治療又は防止するための有効量は、基底膜を通過する、又は内皮層を通過するインビボの腫瘍細胞の遊走及び侵襲を防止するために必要な量である。用語はまた「十分量」とも同義である。何れかの特定の適用例に対する有効量は、治療すべき疾患、障害又は状態、投与すべき特定の組成物、投与経路、対象の体格、及び/又は疾患又は状態の重症度のような要因に応じて変動する場合がある。当業者であれば、予定外の実験を必要とすることなく本明細書に記載した指針に従って本発明の特定の化合物、コンジュゲート又は組成物の有効量を実験的に決定することができる。
【0032】
1つの、ある:「1つの」、「ある」等の用語を本開示において使用する場合、それらは特段の記載が無い限り「少なくとも1つの」又は「1つ以上の」という意味を有する。即ち「ある」、「1つ以上の」、及び「少なくとも1つの」という用語は本明細書においては互換的に使用する。
【0033】
ペプチド、ポリペプチド、蛋白:本明細書においては、「ポリペプチド」という用語は単数の「ポリペプチド」並びに複数の「ポリペプチド」を包含することを意図しており、そして、アミド結合(ペプチド結合としても知られている)により直鎖に連結された単量体(アミノ酸)よりなる分子を指す。「ポリペプチド」という用語はまたアミノ酸2つ以上の何れかの鎖を指し、そして特定の長さの産物を指さない。即ち、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「蛋白」、「アミノ酸鎖」、又はアミノ酸2つ以上の鎖を指すために使用される何れかの他の用語は、「ポリペプチド」の定義に包含され、そして「ポリペプチド」という用語はこれらの用語の何れかの代わりに、又はそれと互換的に使用してよい。「ポリペプチド」という用語はまた、ポリペプチドの発現後の修飾、例えば限定しないが、グリコシル化、アセチル化、ホスホリル化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、蛋白分解性の切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾の産物を指すことも意図している。ポリペプチドは天然の生物学的原料から誘導するか、又は組み換え技術により製造してよいが、必ずしも所定の核酸配列から翻訳されなくてもよい。それは化学合成を包含する何れかの態様において形成してよい。この定義に従えば、本発明において使用されるポリペプチドは約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上、又は2000以上のアミノ酸の大きさであってよい。ポリペプチドは所定の三次元構造を有してよいが、そのような構造を必ずしも有さなくてよい。所定の三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれていると称され、そして所定の三次元構造を有さないが多数の異なるコンホーメーションを採用できるポリペプチドは折り畳まれていないと称される。本明細書においては、糖蛋白とはアミノ酸残基、例えばセリン残基、又はアスパラギン残基の酸素含有又は窒素含有側鎖を介して蛋白に連結している炭水化物部分少なくとも1つにカップリングした蛋白と称される。本発明により使用される好ましいポリペプチドはリガンドであるか細胞表面上のαβインテグリンに結合するポリペプチド、例えばこれらに限定されないが、αβ上のエピトープ1つ以上を認識して結合する抗体(特にモノクローナル抗体)を包含する。
【0034】
「単離された」ポリペプチド又はそのフラグメント、変異体又は誘導体はその天然のミリューにはないポリペプチドを意図している。特定のレベルの精製を必要としない。例えば単離されたポリペプチドはそのネイティブ又は天然の環境から除去されることができる。宿主細胞上に発現された組み換えにより製造されたポリペプチド及び蛋白は本発明の目的のためには、何れかの適当な手法により分離、分画、又は部分的又は実質的に精製されているネイティブ又は組み換えのポリペプチドのように、単離されているとみなされる。

【0035】
本発明のポリペプチドに同様に包含されるものは上記したポリペプチドのフラグメント、誘導体、類縁体又は変異体、及びこれらの何れかの組み合わせである。「フラグメント」、「変異体」、「誘導体」及び「類縁体」という用語は、抗αβ抗体又は抗体ポリペプチドに言及する場合は、相当するネイティブの抗体又はポリペプチドの抗原結合特性の少なくとも一部を保持している何れかのポリペプチド、即ちαβインテグリン上のエピトープ1つ以上に結合する能力を保持しているポリペプチドを包含する。本発明のポリペプチドのフラグメントは本明細書の他の部分において考察する特定の抗体フラグメント以外に、蛋白分解性フラグメント、並びに欠失フラグメントを包含する。本発明により有用とされる抗αβ抗体及び抗体ポリペプチドの変異体は、上記したフラグメント、及びアミノ酸の置換、欠失又は挿入により改変されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを包含する。変異体は天然に存在する又は天然に存在しないものであってよい。天然に存在しない変異体は当該分野で既知の突然変異誘発手法を用いて製造してよい。変異体ポリペプチドは保存的又は非保存的なアミノ酸置換、欠失又は付加を含んでよい。本発明により有用とされる抗αβ抗体及び抗体ポリペプチドの誘導体はネイティブのポリペプチド上には存在しない追加的な特徴を呈するように改変されているポリペプチドである。例としては融合蛋白が包含される。変異体ポリペプチドはまた本明細書においては「ポリペプチド類縁体」とも称される。本明細書においては、抗αβ抗体又は抗体ポリペプチドの「誘導体」とは官能性側鎖基の反応により化学的に誘導体化された残基1つ以上を有する要件ポリペプチドを指す。「誘導体」として同様に包含されるものは、20標準アミノ酸の天然に存在するアミノ酸誘導体1つ以上を含有するものである。例えば4−ヒドロキシプロリンはプロリンと置換されてよく;5−ヒドロキシリジンはリジンと置換されてよく;3−メチルヒスチジンはヒスチジンと置換されてよく;ホモセリンはセリンと置換されてよく;そしてオルニチンはリジンと置換されてよい。
【0036】
smad4:本明細書においては、腫瘍サプレッサ遺伝子smad4は当該分野で知られた同じ腫瘍サプレッサ遺伝子に関する他の表記法、例えばこれらに限定されないが、madh4及びdpc4と同義である。簡便のために、本遺伝子の発現の産物は本明細書においてはSMAD4と表記し、これは当該分野で知られた本遺伝子の発現産物に関する相当する他の表記法、例えばこれらに限定されないが、MADH4及びDPC4と同義である。
【0037】
実質的に、実質的な:本明細書においては、蛋白のコンジュゲーションは、受容体に対するコンジュゲートした蛋白の結合の比率及び/又は量が、コンジュゲートしていない相当するサイトカイン、ケモカイン、成長因子又はポリペプチドホルモンの結合の比率及び/又は量の約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%以上、又はそれより高値である場合にその受容体に結合する蛋白の能力を「実質的に」妨害しないといえる。
【0038】
治療:本明細書においては、「治療」、「治療する」、「治療された」又は「治療している」という用語は、特に目的が望ましくない生理学的変化又は障害、例えば多発性硬化症の進行を防止又は緩徐化(低下)することであるような、予防及び/又は施療を指す。有利又は望ましい臨床結果は、これらに限定されないが、症状の軽減、疾患の程度の縮小、疾患の安定化(即ち悪化しない)状況、疾患進行の遅延又は緩徐化、疾患状況の緩解又は緩和、及び軽快(部分的又は全体的)を包含し、検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらない。「治療」はまた治療を受けない場合に予測される生存と比較して生存を長期化することも意味することができる。治療を要するものは、状態又は障害を既に有する者、並びに状態又は障害に罹患し易い者、又は状態又は障害が防止されるべき者を包含する。「対象」又は「個体」又は「動物」又は「患者」又は「哺乳類」とは、診断、予後、又は施療が望まれる何れかの対象、特に哺乳類対象を意味する。哺乳類対象はヒト及び他の霊長類、家畜動物、牧場動物、及び動物園、競技用、又は愛玩動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、雄ウシ、雌ウシ等を包含する。
【0039】
概論
本発明は少なくとも部分的には、特定の腫瘍細胞における腫瘍サプレッサ遺伝子smad4の発現のレベルとインテグリンαβの間には逆の関係が存在すること、そして、これらの2マーカーの発現のレベルはそのような腫瘍細胞の抗インテグリンリガンドを用いた、及びTGF−βシグナリング経路に拮抗する薬剤を用いた治療への感受性を測定又は予測するために使用できることを発見したことに基づいている。具体的には、smad4の発現の低下したレベルを呈する腫瘍細胞は同時にインテグリンαβの増大した量を発現することがわかっており;従って、smad4欠損性の腫瘍細胞はより高値のsmad4発現レベル(そして結果的に表面インテグリンαβのより低値のレベル)を呈する腫瘍細胞と比較して、インテグリンαβに結合するリガンドに応答する傾向が高値である。関連する実施形態においては、smad4欠損性腫瘍細胞はまた、より高値のsmad4発現レベルを呈する腫瘍細胞と比較してTGF−βシグナリング経路の成分1つ以上を拮抗するリガンドに対してより応答性である可能性が高値であることも本発明者等によって発見されている。本明細書においては、インテグリンαβに結合するリガンド、又はTGF−β経路の成分1つ以上に拮抗するリガンドに「応答性」である腫瘍細胞とは、細胞が生育又は分裂を抑制される、及び/又はアポトーシス又は他の形態の細胞死を起こすように、生育、分裂、及び/又は他の代謝経路が悪影響を受けている腫瘍細胞を指す。
【0040】
別の実施形態においては、本発明はまた、腫瘍細胞の侵襲及び/又は転移の潜在性を測定する場合、及び急速に進行する可能性がより高く、そして患者において積極的に治療すべきである特定の腺癌(膵臓癌を包含する)のような癌腫を発見する場合にこの異なる発現の発見を使用する方法を提供する。本発明は又腫瘍を構成している細胞がインテグリンαβに結合するリガンド1つ以上を用いた治療に応答する可能性がより高いと考えられる腫瘍を発見する方法を提供する。本発明は又腫瘍の転移の診断及び治療/防止の方法を提供する。
【0041】
smad4及びインテグリンαβの発現の測定
1つの実施形態において、本発明はインテグリンαβに結合するリガンドに対し、及び/又はTGF−βシグナリング経路の成分1つ以上に拮抗するリガンドに対して応答する可能性がより高い、腫瘍及び腫瘍細胞、特に癌細胞、例えば膵臓癌細胞を発見するための方法に関する。そのような方法は例えば、腫瘍細胞による腫瘍サプレッサ遺伝子smad4の発現のレベルを測定することを包含し、ここでsmad4の低減した発現は、腫瘍細胞がインテグリンαβに結合するリガンドに対し、及び/又はTGF−βシグナリング経路の成分1つ以上に拮抗するリガンドに対して応答する可能性がより高いことを示す。特定のそのような実施形態において、腫瘍、例えば癌腫中の細胞におけるsmad4の発現のレベルはそのような腫瘍に罹患した患者から得られる組織切片において測定され、その場合、腫瘍細胞中のsmad4の発現が非腫瘍組織試料(理想的には同じ患者の同じ臓器に由来)中のものと相対比較して低下していることは、腫瘍がインテグリンαβに結合するリガンドに対し、及び/又はTGF−βシグナリング経路の成分1つ以上に拮抗するリガンドに対して応答する可能性がより高いことを示す。このようにして、患者におけるそのような腫瘍を治療するための適切で積極的なプロトコルを迅速に発見して実施することができ、これにより癌患者に対する望ましい治療結果の可能性が増大する。
【0042】
各々のそのような実施形態において、本発明は特定の腫瘍細胞におけるsmad4の発現の低下及び同時に起こるαβの発現の増大の発見又は利用に基づいている。smad4の発現のレベルは遺伝子発現を計測するための当該分野で周知の方法、例えば、smad4遺伝子に対して特異的な既知の遺伝子プローブ又はプライマーを用いたハイブリダイゼーション又はPCR/RT−PCR(例えばMaliekal,T.T.等、Oncogene 22:4889−4897(2003); Iacobuzio−Donahue,C.A.等、Clin.Cancer Res.10:1597−1604(2004)参照)、ノーザンブロッティング(例えばYasutome,M.等、Clin.Exper.Metast.22:461−473(2005)参照)、及び抗SMAD4抗体を用いた免疫組織化学的分析(例えばLueittges,J.等、Am.J.Pathol.158:1677−1683(2001); Fukuchi,M.等、Cancer 95:737−743(2002); Subramanian,G.等、Cancer Res.64:5200−5211(2004); Levy,L.and Hill,C.S.,Mol.Cell.Biol.25:8108−8125(2005); Toga,T.等、Anticancer Res.24:1173−1178(2004)参照)を用いて容易に測定できる。所定の細胞、組織、臓器又は生物学的試料におけるsmad4遺伝子発現のレベルを検出するために適する他の方法は当該分野で良く知られている。同様に、αβの発現のレベルはインテグリンの発現を計測するための当該分野で良く知られている方法を用いて容易に測定できる。特定のそのような実施形態においては、そのような測定は組織、腫瘍又は腫瘍細胞におけるインテグリンαβに結合するリガンド1つ以上に組織、腫瘍又は腫瘍細胞を接触させることにより達成される。
【0043】
特定のそのような実施形態において、組織、腫瘍又は腫瘍細胞は癌性の組織、腫瘍又は腫瘍細胞、例えば腺癌のような癌腫に由来するものである。より特定される実施形態において、癌腫は膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、扁平上皮細胞癌(例えば食道癌)、頭部頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、及び肺癌である。より特定すれば癌腫は膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、又は頭部頸部癌である。
【0044】
本発明の特定の実施形態においては、αβに結合するリガンドはαβの拮抗剤である。そのような拮抗剤は例えばこれらに限定されないがαβに特異的に結合する抗体;βに特異的に結合する抗体;αに結合する抗体;αβに対するリガンドに結合する抗体;αβに対するリガンド;アンチセンス核酸;及びそのようなリガンドのペプチド、非ペプチド、及びペプチドミメティックの類縁体を包含する。
【0045】
本発明の特定の実施形態においては、インテグリンαβに結合するリガンドはインテグリンαβに結合する抗体、又はそのインテグリンαβ結合フラグメント、変異体、又は誘導体である。そのような抗体はインテグリンの1つのサブユニットに結合する(例えばαサブユニット上に位置するエピトープに、又は、βサブユニット上に位置するエピトープに結合する抗体)か、又は両方のサブユニットに結合してよい(例えばα及びβサブユニットの両方を架橋するインテグリンヘテロ2量体の領域に位置するエピトープに結合する抗体)。天然に存在する抗体のような完全な大きさの抗体に特に言及しない限り、「αβ抗体」という用語は完全な大きさの抗体、並びにそのような抗体のαβ結合フラグメント、変異体、類縁体、又は誘導体、例えば、天然に存在する抗体又は免疫グロブリン分子、又は操作された抗体分子、又は抗体分子と同様の態様で抗原に結合するフラグメントを包含する。抗体は合成、モノクローナル、又はポリクローナルであることができ、そして当該分野で周知の手法により製造できる。治療用途のためには、ヒト定常及び可変領域を有する「ヒト」モノクローナル抗体が抗体に対する患者の免疫応答を最低限とするために好ましい場合が多い。そのような抗体はヒト免疫グロブリン遺伝子を含有するトランスジェニック動物を免疫化することにより形成できる(例えばJakobovits等、Ann.N.Y.Acad.Sci.764:525−535(1995)参照)。合成及び半合成の抗体に関しては、そのような用語はこれらに限定されないが、抗体フラグメント、アイソタイプ切り替え抗体、ヒト化抗体(例えばマウス−ヒト、ヒト−マウス等)、ハイブリッド、複数の特異性を有する抗体、完全合成の抗体様分子などを包含することを意図している。
【0046】
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は本明細書においては互換的に使用する。抗体又は免疫グロブリンは少なくとも重鎖の可変ドメインを含み、そして通常は少なくとも重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含む。脊椎動物系における基本的な免疫グロブリン構造は比較的よく理解されている。例えばHarlow等、Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)を参照されたい。当業者に理解されるように、「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は生物化学的に区別できる種々の広範なクラスのポリペプチドを含んでいる。当然ながら、重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)及びその一部サブクラス(例えばγ1−γ4)に分類される。抗体の「クラス」をIgG、IgM、IgA、IgG、又はIgEにそれぞれ決定するものはこの鎖の性質である。免疫グロブリンサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA等は十分特性化されており、そして機能的な特殊性を付与するものとして知られている。これらのクラス及びアイソタイプの各々の修飾された型は、本明細書の開示を鑑みれば当業者は容易に識別できるものであり、従って、本発明の範囲に包含される。
【0047】
本発明における使用に適するαβに結合する抗体、そのαβ結合フラグメント、変異体、又は誘導体は例えばこれらに限定されないが、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性、ヒト型、ヒト化、霊長類化、又はキメラの抗体、単鎖抗体、エピトープ結合フラグメント、例えばFab、Fab’及びF(ab’)、Fd、Fv、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、V又はVドメインの何れかを含むフラグメント、Fab発現ライブラリから形成されるフラグメント、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば本明細書に記載した抗αβ抗体に対する抗Id抗体を含む)を包含する。scFv分子は当該分野で知られており、そして例えば米国特許5,892,019に記載されている。本発明の免疫グロブリン又は抗体の分子は、免疫グロブリン分子の何れかの型(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA及びIgA)又はサブクラスのものであることができる。
【0048】
単鎖抗体を包含する抗体フラグメントは、可変領域を単独で、又は以下、即ち:ヒンジ領域、C1、C2、及びC3ドメインの全体又は一部分と組み合わせて含んでよい。本発明に同様に包含されるものは、ヒンジ領域、C1、C2、及びC3ドメインとの可変領域の何れかの組み合わせも含んでいる抗原結合フラグメントである。本明細書に記載した診断及び治療方法において使用するための抗体又はその免疫特異的フラグメントはトリ及び哺乳類を包含する何れかの動物起源のものであってよい。好ましくは、抗体はヒト、マウス、ラット、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマ、ウシ、又はニワトリの抗体である。最も好ましくは抗体はヒト型、ヒト化、又は霊長類化された抗体、又はキメラ抗体、特にモノクローナル抗体である。本明細書においては、「ヒト型」の抗体とはヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を包含し、そして、後に説明する通り、そして例えばKucherlapati等への米国特許5,939,598に記載の通り、ヒト免疫グロブリンライブラリから、又はヒト免疫グロブリン1つ以上に関してトランスジェニックな動物から単離され、内因性の免疫グロブリンを発現しない抗体を包含する。本明細書においては、「キメラ抗体」という用語は免疫反応性の領域又は部位が第1の種から得られるか誘導され、そして定常領域(これは未損傷、部分的であるか、又は本発明により修飾されていてよい)が第2の種から得られた何れかの抗体を意味するものとする。好ましい実施形態においては、標的結合領域又は部位が非ヒト原料(例えばマウス又は霊長類)に由来することになり、そして定常領域はヒト型である。
【0049】
本発明による使用のために特に好ましい抗体は、Weinreb等、J.Biol.Chem.279(17):17875−17877(2004)(その開示内容は参照により全体が本明細書に組み込まれる)に開示されているもののような抗αβモノクローナル抗体、例えばそこに開示されているモノクローナル抗体6.8G6(「8G6」)及び6.3G9(「3G9」)である。αβに結合し、従って本発明による使用のために適する別の抗体は、インテグリンαβのβサブユニットに結合する(そしてそのため「抗β抗体」とみなされる)抗体(又はそのフラグメント、変異体又は誘導体)、例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるWeinacker等、J.Cell
Biol.269:1−9(1994)及び参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許6,692,741 B2の特にコラム2〜3及び7〜8に開示されているもの、例えば10D5と命名されたモノクローナル抗体(ATCC寄託番号HB12382、寄託日1997年8月6日、American Type Culture Collection,P.O.Box 1549,Manassas,VA 20108)(又、米国特許6,692,741のコラム3、7〜13行目、及びコラム7〜8参照)及びCSβ6(米国特許6,692,741のコラム7〜8参照)を包含する。本発明のこの特徴による適当な実施形態は、αβ結合抗体、又はそのαβエピトープ結合フラグメントであるαβインテグリン結合リガンドを使用する。本発明のこの特徴による使用に適する追加的な抗体は、例えばこれらに限定されないが、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願2005/0255102 A1に開示されているαβ結合モノクローナル抗体、例えばそこにおいて3G9、8G6、1A8、2B1、2B10、2A1、2E5、1G10、7G5、1C5と命名されているもの、並びにそのフラグメント、キメラ及びハイブリッドを包含する。本発明による使用に特に適する抗体はモノクローナル抗体2B1,3G9、及び8G6である。
【0050】
一部の実施形態においては、抗体はハイブリドーマ6.1A8、6.3G9、6.8G6、6.2B1、6.2B10、6.2A1、6.2E5、7.1G10、7.7G5又は7.1C5により生産される抗体と同じ重鎖及び軽鎖のポリペプチド配列を含む。本発明による使用のために特に適する抗体は、ハイブリドーマ6.2B1により生産される2B1抗体(ATCC寄託番号PTA−3646,寄託日2001年8月16日、American Type Culture Collection,P.O.Box 1549,Manassas,Va.20108)、ハイブリドーマ6.8G6により生産される8G6抗体(ATCC寄託番号PTA−3645,寄託日2001年8月16日、American Type Culture Collection,P.O.Box 1549,Manassas,VA 20108)、及びハイブリドーマ6.3G9により生産される3G9抗体(ATCC寄託番号PTA−3649,寄託日2001年8月16日、American Type Culture Collection,P.O.Box 1549,Manassas,VA 20108)(参照により全体が本明細書に組み込まれる公開された米国特許出願2005/0255102 A1、特に1ページのパラグラフ0008;2ページのパラグラフ0032及び0036;及び6〜14ページの実施例参照)、 及び10D5と命名された抗体(この抗体を分泌するハイブリドーマは1997年8月6日にATCC寄託番号HB12382としてAmerican Type Culture Collection,P.O.Box 1549,Manassas,VA 20108に寄託された)(参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許6,692,741、特にコラム3の7〜13行目、及びコラム7〜8参照)とおなじ重鎖及び軽鎖のポリペプチド配列を含むモノクローナル抗体である。
【0051】
一部の実施形態においては、抗体は、自身の相補性決定領域(CDR)1、2及び3が以下の表1に示す配列より本質的になる(即ち一部の保存的変異は例外とする)重鎖を含んでいる。特定のそのような実施形態において、抗体は、自身のCDR1が配列番号1〜5の何れか1つより本質的なる;自身のCDR2が配列番号6〜11の何れか1つより本質的なる;そして自身のCDR3が配列番号12〜17の何れか1つより本質的なる重鎖;及び/又は、自身のCDR1、2及び3がそれぞれ配列番号18〜23、24〜27、及び28〜33の配列の何れか1つより本質的なる軽鎖を含んでいる。
【0052】
【表1−1】

【0053】
【表1−2】

他の関連する実施形態において、本発明により使用されるモノクローナル抗体はキメラ抗体、即ち1つの種(例えばマウス、ラット又はウサギ)に由来する同族体抗体が、ヒンジ及び/又は重鎖及び/又は軽鎖の定常領域の一部又は全てが別の種(例えばヒト)に由来する抗体の相当する成分で置き換えられるように、組み換えDNA技術により改変されているものである。一般的に操作された抗体の可変ドメインは同族体抗体の可変ドメインと同一のままであるか、実質的にそのようになる。そのような操作された抗体はキメラ抗体と称され、そしてヒンジ及び/又は定常領域の誘導元である種(例えばヒト)の個体に投与した場合に同族体抗体よりも低抗原性である。キメラ抗体の製造方法は当該分野で周知である。
【0054】
別の関連の実施形態においては、本発明により使用されるモノクローナル抗体は完全にヒト型の抗体である。そのような完全ヒト型のモノクローナル抗体を製造するための方法は当該分野で周知である(例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願2005/0255102 A1の4ページのパラグラフ0069−0070を参照)。
【0055】
別の関連する実施形態において、本発明により使用されるモノクローナル抗体は他の種から誘導された同族体抗αβ抗体のヒト化された型である。ヒト化抗体は組み換えDNA技術により製造される抗体であり、この場合、抗原結合に必要とならないヒト免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖のアミノ酸の一部又は全て(例えば定常領域及び可変ドメインのフレームワーク領域)が同族体の非ヒト抗体の軽鎖又は重鎖に由来する相当するアミノ酸を置換するために使用される。一例として、所定の抗原に対するマウス抗体のヒト化された型は、その重鎖及び軽鎖の両方において、(a)ヒト抗体の定常領域;(b)ヒト抗体の可変ドメイン由来のフレームワーク領域;及び(c)マウス抗体由来のCDRを有する。必要に応じて、ヒトフレームワーク領域内の残基1つ以上を、抗原に対するヒト化抗体の結合親和性が温存されるように、マウス抗体における相当する位置の残基に変更できる。この変更は「復帰突然変異」と称される場合がある。ヒト化抗体は一般的にはキメラヒト抗体と比較して、前者はかなり少ない非ヒト成分を含有しているため、ヒトにおける免疫応答を誘発する可能性が小さい。そのようなヒト化モノクローナル抗体を製造するための方法は当該分野で周知である(例えば参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願2005/0255102 A1の4〜5ページのパラグラフ0072−0077を参照)。
【0056】
更にそのような実施形態においては、ヒト化抗体は異なる抗体の重鎖及び/又は軽鎖の相当するCDRから誘導された重鎖及び/又は軽鎖のCDR1つ以上を含む。そのような抗体の1つの適当な非限定的な例は寄託された3G9抗体の軽鎖CDR1の配列(配列番号21)の代わりに2B1抗体から誘導された軽鎖CDR1の配列(配列番号20)を有する軽鎖CDR1を含むヒト化3G9抗体である。配列番号20に示す軽鎖CDR1配列を有するそのようなヒト化3G9抗体は本明細書においてはhu3G9(又はBG00011)と表記する。そのような抗体の別の適当な非限定的な例は寄託された8G6抗体の軽鎖CDR1の配列(配列番号18)の代わりに2B1抗体から誘導された軽鎖CDR1の配列(配列番号20)を有する軽鎖CDR1を含むヒト化8G6抗体である。配列番号20に示す軽鎖CDR1配列を有するそのようなヒト化8G6抗体は本明細書においてはhu8G9と表記する。1つ以上の重鎖及び/又は軽鎖のCDRが別の抗体の1つ以上の相当する重鎖及び/又は軽鎖のCDRで置き換えられており、そして、本発明による使用に適するそのような誘導体抗体の別の例は、表1に示す配列及び本明細書に記載する指針を鑑みれば、当業者が容易に想到できるものである。そのようなヒト化抗体、例えばそのような誘導されたヒト化抗体を製造するための適当な方法は、当業者の知る通りであり、そして例えば参照により全体が本明細書に組み込まれる米国公開出願2005/0255102A1に記載されている。
【0057】
特定の実施形態においては、αβに結合するリガンド、例えば抗体は未コンジュゲートの形態で使用できる。そのような実施形態において、細胞表面上のαβへのリガンドの結合に好都合である条件下に、αβに結合しているリガンドに腫瘍細胞を接触させる。適当なそのような条件は当該分野で周知であり、そして後述する実施例において詳細に説明する。特定のそのような実施形態において、リガンドの結合は、毒性の化合物1つ以上の作用に対し、リガンドが結合している腫瘍細胞を感受性化し、即ち、腫瘍細胞表面上のαβへのリガンドの結合は毒素1つ以上の生育抑制及び/又は死滅誘導の作用に対し腫瘍細胞がより感受性となるように誘導する。即ち、別の実施形態において、本発明は(a)細胞表面上のαβへのリガンドの結合に好都合である条件下に、細胞表面上のαβに結合しているリガンド1つ以上(例えば抗体又はそのフラグメント1つ以上)に腫瘍細胞を接触させる工程;そして次に(b)腫瘍細胞を生育抑制する、及び/又は殺傷する毒性化合物1つ以上に腫瘍細胞を接触させる工程を含む、腫瘍細胞の増殖を抑制する、又は腫瘍細胞を殺傷する方法を提供する。本発明のこの特徴による使用のための適当な毒性化合物、及びそれに関わる適切な用量及び投与計画は、当該分野で知られており、そして本明細書に別途詳述する通りである。
【0058】
関連の実施形態において、本発明はTGF−βシグナリング経路の成分1つ以上をモジュレート(例えば抑制又は活性化)する薬剤1つ以上で腫瘍細胞を治療することにより毒性化合物1つ以上に対して腫瘍細胞を感受性化する方法を提供する。適当なそのような薬剤は例えば、TGF−β又はそのフラグメント、可溶性TGF−β受容体又はそのフラグメント、又は可溶性TGF−β受容体又はそのフラグメントを含む融合蛋白(例えば可溶性「TGF−βRII−Fc」ポリペプチドを製造するために抗体のFc領域に融合されたTGF−βII型受容体フラグメント)を包含する。使用においては、TGF−βモジュレート剤の結合又は内在化は、薬剤を結合又は内在化していた腫瘍細胞を毒性化合物1つ以上の作用に対して感受性とする、即ち、毒素1つ以上の生育抑制及び/又は死滅誘導の作用に対し腫瘍細胞がより感受性となるように誘導する。即ち、別の実施形態においては、本発明は(a)腫瘍細胞による薬剤の結合又は内在化に好都合な条件下で、TGF−βシグナリング経路の成分1つ以上をモジュレート(例えば抑制又は活性化)する薬剤1つ以上に腫瘍細胞を接触させる工程;そして次に(b)腫瘍細胞を生育抑制する、及び/又は殺傷する毒性化合物1つ以上に腫瘍細胞を接触させる工程を含む、腫瘍細胞の増殖を抑制する、又は腫瘍細胞を殺傷する方法を提供する。本発明のこの特徴による使用のための適当な毒性化合物、及びそれに関わる適切な用量及び投与計画は、当該分野で知られており、そして本明細書に別途詳述する通りである。
【0059】
αβ結合リガンドのコンジュゲート及び他の修飾
上記した通り、特定の実施形態においては、αβに結合するリガンド、例えば抗体を未コンジュゲート型で使用できる。別の実施形態においては、αβに結合するリガンド、例えば抗体を例えば検出可能な標識、薬物、プロドラッグ又は同位体にコンジュゲートできる。
【0060】
後により詳細に説明する本発明の特定の方法、例えばαβ結合リガンド及び/又はTGF−βブロッキング剤に対して応答性である腫瘍細胞の潜在能力の尺度としてのsmad4発現の検出に関連して細胞又は組織中のαβ発現を検出する方法においては、αβ結合リガンド(例えば抗体)を検出可能な標識1つ以上にコンジュゲートする。そのような使用において、αβ結合リガンド、例えばαβ結合抗体は、発色性、酵素、放射性同位体、同位体、蛍光、毒素、化学発光、核磁気共鳴造影剤又は他の標識の共有結合または非共有結合で検出可能に標識してよい。
【0061】
適当な発色性標識としては、ジアミノベンジジン及び4−ヒドロキシアゾベンゼン−2−カルボン酸が挙げられる。
【0062】
適当な酵素標識としては、マレエートデヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、Δ−5−ステロイドイソメラーゼ、コウボアルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。
【0063】
適当な放射性同位体標識としては、H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc及び109Pdが挙げられる。111Inは、それが肝臓による125I又は131I標識αβ結合リガンドの脱ハロゲン化の問題を回避できるので、インビボの画像化が使用される場合に好ましいものとなる。更に、この放射性核種は画像化のためのより好都合なガンマ線放射エネルギーを有している(Perkins等、Eur.J.Nucl.Med.10:296−301(1985); Carasquillo等、J.Nucl.Med.28:281−287(1987))。例えば1−(P−イソチオシアナトベンジル)−DPTAを用いてモノクローナル抗体にカップリングした111Inは非腫瘍組織、特に肝臓中での取り込みが僅かであることがわかっており、そのため、腫瘍の局在化の特異性を増強する(Esteban等、J.Nucl.Med.28:861−870(1987))。
【0064】
適当な非放射性同位体標識としては、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、56Feが挙げられる。
【0065】
適当な蛍光標識としては、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、緑色蛍光蛋白(GFP)標識、o−フタルデヒド標識、及びフルオレスカミン標識が挙げられる。
【0066】
適当な毒性標識としては、ジフテリア毒素、リシン、及びコレラ毒素が挙げられる。
【0067】
化学発光標識としては、ルミノール標識、イソルミノール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、オキサレートエステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識が挙げられる。
【0068】
核磁気共鳴造影剤としては、重金属核種、例えばGd、Mn、及び鉄が挙げられる。
【0069】
αβ結合リガンド、例えばαβ結合抗体への上記標識の結合のための典型的な手法は、Kennedy等、Clin.Chim.Acta70:1−31(1976)及びSchurs等、Clin.Chim.Acta81:1−40(1977)に記載されている。後者において言及されているカップリングの手法は、グルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸法、ジマレイミド法、m−マレイミドベンジル−N−ヒドロキシスクシンにミドエステル法であり、これらの方法すべては参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0070】
腫瘍細胞の剥離、又は腫瘍細胞の増殖、侵襲又は転移の防止のような本発明の特定の治療方策において使用するためには、αβ結合リガンドは薬物、プロドラッグ又は同位体1つ以上にコンジュゲートできる。好ましいそのようなコンジュゲートは、細胞毒性剤1つ以上にコンジュゲートしたαβに結合する1つ以上のリガンド、例えば1つ以上の抗体又はそのフラグメント、誘導体又は変異体を含み;そのようなコンジュゲートは本発明により提供される腫瘍の転移の治療及び防止の方法において有用である。本発明の特定のそのような実施形態によれば、αβ結合リガンド、例えば抗体は細胞毒性剤にコンジュゲートされる。αβ結合リガンド−細胞毒性剤コンジュゲートの形成において有用である細胞毒性剤、例えば化学療法剤は当該分野で周知であり、そして例えばこれらに限定されないがシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ゲムシタビン、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、メルファラン、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、エトポシド、メクロレタミン、シクロホスファミド、ブレオマイシン、カリケアマイシン、マイタンシン、トリコテンを包含する。本発明のこの特徴による使用に特に適するものはパクリタキセル、ゲムシタビン、及びアドリアマイシン(ドキソルビシン)である。本発明のこの特徴による使用のために適する他の化学療法剤は当該分野で周知であり、そして当業者の知る通りである。
【0071】
即ち、1つ以上のαβ結合リガンド、例えば1つ以上のαβ結合抗体、及び1つ以上の小分子毒素、例えばパクリタキセル、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ゲムシタビン、カリケアマイシン、マイタンシン(米国特許5,208,020)、トリコテン、及びCC1065のコンジュゲートの使用もまた、本発明において意図される。本発明の1つの実施形態において、αβ結合リガンドはマイタンシン分子1つ以上にコンジュゲートされる(例えばαβ結合リガンド当たり約1〜約10マイタンシン分子)。マイタンシンは例えばMay−SS−Meに変換してよく、そしてこれは還元されてMay−SH3となり、そして修飾されたαβ結合リガンドに反応させる(Chari等、Cancer Research 52:127−131(1992))ことにより、マイタンシノイド−αβ結合リガンドコンジュゲートを形成してよい。
【0072】
或いは、αβ結合リガンドはカリケアマイシン分子1つ以上にコンジュゲートできる。抗体のカリケアマイシンファミリーはピコモル未満の濃度において2本鎖DNA切断をもたらすことができる。使用してよいカリケアマイシンの構造的類縁体は例えばこれらに限定されないが、γ、α、α、N−アセチル−γ、PSAG及びΦ(Hinman等、Cancer Research53:3336−3342(1993)及びLode等、Cancer Research 58:2925−2928(1998))を包含する。
【0073】
αβ結合リガンド1つ以上、例えばαβ結合抗体1つ以上とのコンジュゲートを形成するために使用できる酵素的に活性な毒素及びそのフラグメントは、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性フラグメント、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleuritesfordii蛋白、ダイアンシン蛋白、Pyhtolaca
americana蛋白(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、モモルジカ・チャランチア阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテセンを包含する。例えば参照により全体が本明細書に組み込まれる1993年10月28日に英語で公開されたWO93/21232を参照されたい。マイタンシノイドは又、αβ結合リガンド1つ以上、例えばαβ結合抗体1つ以上にコンジュゲートしてよい。本発明は更に核分解活性を有する化合物(例えばリボヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼ、例えばデオキシリボヌクレアーゼ;DNase)にコンジュゲートしたαβ結合リガンドを意図する。
【0074】
本発明の治療方法における使用のための放射コンジュゲートされたαβ結合リガンドの製造のためには種々の放射性同位体も使用される。例としては、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、及びLuの放射性同位体が挙げられる。
【0075】
αβ結合リガンドと細胞毒性剤のコンジュゲートは種々の2官能性蛋白カップリング剤、例えばN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステル(例えば塩酸ジメチルアジピミデート HCI)の2官能性誘導体、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ヒス−アジド化合物(例えばビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えばビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトリエン2,6−ジイソシアネート)、及びビス活性フッ素化合物(例えば1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を用いて製造してよい。例えば、リシン免疫毒素はVitetta等、Science 238:1098(1987)に記載の通り製造できる。14炭素標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)はαβ結合リガンドへの放射性核種のコンジュゲーションのための例示されるキレート形成剤である。WO94/11026を参照されたい。リンカーは細胞内の細胞毒性剤の放出を促進する「切断可能なリンカー」であってよい。例えば酸不安定性のリンカー、ペプチダーゼ感受性のリンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari等、Cancer Research 52:127−131(1992))を使用してよい。
【0076】
或いは、αβ結合リガンド及び細胞毒性剤を含む融合蛋白を、例えば組み換え手法又はペプチド合成により製造してよい。
【0077】
更に別の実施形態においては。αβ結合リガンドは「予備ターゲティング」における利用のために「受容体」(例えばストレプトアビジン)にコンジュゲートしてよく、その場合、αβ結合リガンド−受容体コンジュゲートはまず患者に投与され、その後、浄化剤を用いた循環系からの未結合のコンジュゲートの除去、そして次に細胞毒性剤(例えば放射性核種)にコンジュゲートされた「リガンド」(例えばアビジン)の投与を行う。
【0078】
本発明のαβ結合リガンドは又、活性薬物にプロドラッグを変換するプロドラッグ活性化酵素(例えばペプチジル化学療法剤、WO81/01145参照)とコンジュゲートしてよい。例えばWO88/07378及び米国特許4,975,278を参照されたい。そのようなコンジュゲートの酵素成分はプロドラッグに対しそれをそのより活性な細胞毒性型に変換するような態様において作用することができる何れかの酵素を包含する。
【0079】
本発明の方法において有用である酵素は、例えばこれらに限定されないが、ホスフェート含有プロドラッグを遊離の薬物に変換する場合に有用であるアルカリホスファターゼ;スルフェート含有プロドラッグを遊離の薬物に変換する場合に有用であるアリールスルファターゼ;非毒性5−フルオロシトシンを抗癌薬物である5−フルオロウラシルに変換する場合に有用であるシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離の薬物に変換する場合に有用であるプロテアーゼ、例えばセラチアプロテアーゼ、テルモリシン、スブチリシン、カルボキシペプチダーゼ及びカテプシン(例えばカテプシンB及びL);D−アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換する場合に有用なD−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化プロドラッグを遊離の薬物に変換する場合に有用なO−ガラクトシダーゼ及びノイラミニダーゼのような炭水化物切断酵素;P−ラクタムを用いて誘導された薬物を遊離の薬物に変換する場合に有用なP−ラクタマーゼ;及び、それぞれフェノキシアセチル又はフェニルアセチル基で自身のアミン窒素において誘導体化された薬物を遊離の薬物に変換する場合に有用なペニシリンVアミダーゼ又はペニシリンGアミダーゼのようなペニシリンアミダーゼを包含する。
【0080】
酵素はヘテロ2官能性の交差結合試薬の使用のような当該分野で周知の手法によりαβ結合リガンドに共有結合することができる。或いは、酵素の少なくとも機能的に活性な部分に連結した本発明のαβ結合リガンドの少なくとも抗原結合領域を含む融合蛋白を当該分野で周知の組み換えDNA手法を用いて構築できる(例えばNeuberger等、Nature 312:604−608(1984)参照)。
【0081】
疾患の診断及び予後
上記した通り、有意に低下したレベルのsmad4遺伝子発現及び有意に増強されたレベルのインテグリンαβを呈する特定の腫瘍に由来する細胞は、高値のレベルのsmad4遺伝子発現を呈する細胞と比較して、αβに結合するリガンドに対し、そしてTGF−βシグナリング経路の成分1つ以上をブロックする薬剤に対し、より応答性となることが今回判明した。即ち、1つの特徴において、本発明は腺癌のような癌腫に由来する腫瘍も含めて、腫瘍細胞が、抗αβリガンド(例えば抗体)を用いた、又はTGF−βブロッキング剤を用いた治療に応答するか、又はそれにより化学療法剤感受性化される可能性を調べる場合に有用な方法を提供する。より特定の実施形態においては癌腫は膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、扁平上皮細胞癌(例えば食道癌)、頭部頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、及び肺癌である。より特定すれば癌腫は膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、又は頭部頸部癌である。
【0082】
本発明のこの特徴による方法では、腫瘍細胞中又は腫瘍の組織試料中のsmad4の発現のレベルを試験し、そしてこれらの発現レベルを標準的な(例えば好ましくは同じ動物、例えばヒト患者から得られた、正常な細胞又は組織における)smad4発現レベルと比較し、ここで腫瘍における、又はその細胞におけるsmad4の発現の低下は腫瘍が抗αβリガンド(例えば抗体)の、又はTGF−βブロッキング剤による生育抑制作用に対して応答性であるという、又はそのようなリガンド及び薬剤によって化学療法剤又は組成物1つ以上を用いた後の(又は同時の)併用療法に対して化学療法感受性化されるという可能性がより高いことを示す。上記した通り、腫瘍におけるsmad4の低下した発現は患者の不良な予後に関連する場合が多く、そのため、本発明の方法は特にターゲティングされた治療方策を与える可能性が最も高い化合物及び組成物を用いてそのような腫瘍を迅速に診断して積極的に治療するための方法を提供するものであり、これにより、患者のより良好な臨床結果を与えるのである。
【0083】
「smad4の発現のレベルを試験する」とは、第1の生物学的試料(例えば腫瘍試料、組織生検材料又は吸引物等)におけるsmad4のレベルを、直接的に(例えば試料中のαβの発現の絶対的レベルを測定又は推定することにより)、又は相対的に(例えば第1の生物学的試料中のsmad4の発現のレベルを第2の生物学的試料中のものと比較することにより)、定性的又は定量的に計測又は推定することを意図している。好ましくは、第1の生物学的試料中のsmad4のレベルを計測又は推定し、そして、癌又は前癌製の患部を有さない個体から得られた第2の生物学的試料から得られた標準物におけるものと比較する。smad4のレベルは所定の細胞、組織、臓器又は生物学的試料において、遺伝子発現を計測する当該分野で知られた方法、例えば既知の遺伝子プローブ又はプライマーを用いたsmad4遺伝子のハイブリダイゼーション又はPCR/RT−PCR検出(例えばMaliekal,T.T.等、Oncogene 22:4889−4897(2003); Iacobuzio−Donahue,C.A.等、Clin.Cancer Res.10:1597−1604(2004)参照)、ノーザンブロッティング(例えばYasutome,M.等、Clin.Exper.Metast.22:461−473(2005)参照)、及び抗SMAD4抗体を用いた免疫組織化学的分析(例えばLueittges,J.等、Am.J.Pathol.158:1677−1683(2001); Fukuchi,M.等、Cancer 95:737−743(2002); Subramanian,G.等、Cancer Res.64:5200−5211(2004); Levy,L.and Hill,C.S.,Mol.Cell.Biol.25:8108−8125(2005)参照)により計測することができる。当業者に理解されるように、標準的なsmad4発現レベルを所定の非癌性組織に関して知りえた後は、それを比較のための標準として反復して使用できる。
【0084】
同様に、「αβの発現のレベルを試験する」とは、第1の生物学的試料(例えば腫瘍試料、組織生検材料又は吸引物等)におけるαβのレベルを、直接的に(例えば試料中のαβの絶対的な量を測定又は推定することにより)、又は相対的に(例えば第1の生物学的試料中のαβの発現のレベルを第2の生物学的試料中のものと比較することにより)、定性的又は定量的に計測又は推定することを意図している。好ましくは、第1の生物学的試料中のαβのレベルを計測又は推定し、そして、癌又は前癌製の患部を有さない個体から得られた第2の生物学的試料から得られた標準物におけるものと比較する。当業者に理解されるように、標準的なαβ発現レベルを所定の非癌性組織に関して知りえた後は、それを比較のための標準として反復して使用できる。
【0085】
「生物学的試料」とは、個体(例えば患者)、細胞株、組織培養物、又は細胞又は細胞性の生成物を含有する場合がある他の原料、例えば細胞外マトリックスから得られた何れかの生物学的試料を意図する。そのような生物学的試料はαβを発現する場合がある哺乳類の身体組織及び細胞、例えば白血球、卵巣、前立腺、心臓、胎盤、膵臓、肝臓、脾臓、肺、乳房、頭部及び頸部の組織(例えば口腔、咽頭、舌部及び喉頭の組織)、扁平上皮細胞(例えば食道)、子宮内膜、結腸(又は結腸直腸)、子宮頸部、胃及び臍帯組織を包含する。組織生検試料及び体液を哺乳類から得るための方法は当該分野で良く知られている。好ましい哺乳類はサル、類人猿、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、及びヒトを包含する。特に好ましくはヒトである。
【0086】
生物学的試料中のαβ発現レベルの試験は何れかの知られた方法を用いて行うことができる。生物学的試料中のαβ発現レベルを試験するための好ましい方法は免疫学的手法である。例えば組織中のαβ発現は古典的な免疫組織学的な方法を用いて検討することができる。このような場合、特異的な認識はαβに結合する一次リガンド、例えば抗体(ポリクローナル又はモノクローナル)により行われる。この一次リガンドは例えば蛍光、化学発光、ホスホレセント、酵素又は放射性同位体の標識により標識することができる。或いは、本発明のこれらの方法は二次的な検出系を使用することができ、その場合、αβ結合リガンドを認識して結合する第2のリガンド、例えば第1のαβ結合抗体を認識して結合するいわゆる「二次」抗体を上記した通り検出可能に標識する。その結果、病理学的検査のための組織切片の免疫組織学的染色が行われる。或いは、組織及び細胞の試料を、例えば尿素及び中性洗剤を用いて抽出することによりαβ蛋白を遊離させ、これをウエスタンブロット又はドット/スロット分析(Jalkanen,M.等、J.Cell.Biol.101:976−985(1985); Jalkanen,M.等、J.Cell.Biol.105:3087−3096(1987))に付し、これによりαβの発現がより低いレベルであることが分かっている標準の組織又は細胞の組織と相対比較しながら直接の定量を行う。
【0087】
上記した通り、本発明の方法は、哺乳類において癌を検出するため、抗αβリガンドによる、及び/又はTGF−βによる治療及び/又は化学療法剤感受性化に対してある腫瘍細胞が応答性となる可能性を調べるため、そして種々の型の癌腫を治療するために有用である。特に本発明の方法は上皮組織の癌(即ち癌腫)、例えば膵臓、結腸/直腸、子宮頸部、食道(及び他の扁平上皮組織)、頭部及び頸部、肝臓、卵巣及び肺のものを診断及び/又は治療する場合に有用である。本発明の方法による検出に特に適合するものは、侵襲性及び/又は転移性の腺癌、例えばこれらに限定されないが、膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、及び頭部頸部の癌である。このような癌腫の早期の発見及び治療が患者のより良好な長期の予後に関連する。例えば未治療のまま放置すれば非侵襲性の乳癌のかなりの比率が侵襲性となり、そして遙かに予後不良である転移癌となる場合があることが報告されている( Sakorafas,G.H.,and Tsiotou,A.G.H.,Cancer Treatment Rev.26:103−125(2000)参照)。更に又、上記した通り、原発の膵臓腺癌におけるsmad4の低減した発現はそのような腫瘍を有する患者に関する予後不良に関連している(Liu,F.,Clin.Cancer Res.7:3853−3856(2001); Tascilar,M.等、Clin.Cancer Res.7:4115−4121(2001); Toga,T.等、Anticancer Res.24:1173−1178(2004))。即ち、好ましくは本明細書に記載する方法による早期診断及び治療開始は、smad4欠損性の癌を有する患者の長期の生存のために重要である。
【0088】
従って、本発明は患者におけるsmad4欠損性の前癌性の患部又は癌腫を発見すること、及び、それがより進行した形態の癌に発展する機会を得る前に患者を治療して前癌性の患部を排除することによる、癌を治療又は防止する方法を意図している。そのような方法は、例えば(a)癌又は前癌性の患部を含有することが疑われる組織試料、及び癌又は前癌性の患部を含有しない組織試料(好ましくは癌又は前癌性の患部を含有することが疑われるものと同じ組織又は臓器に由来)を得る工程;及び(b)腫瘍、又は組織試料、又はそれに由来する細胞におけるsmad4発現のレベルを測定することを含み、ここで非癌性組織試料(又はその細胞)におけるsmad4発現レベルと相対比較して癌又は前癌性の患部を含有する組織試料中のsmad4発現のレベルが低下していることは癌のより侵襲性又は攻撃的な形態に進行する可能性がより高い癌又は前癌性の患部を示す。他の関連する実施形態においては、本発明は、smad4発現の低減したレベルを有する患者の腫瘍(又はその細胞)を(好ましくは上記した方法を用いて)発見すること、及び前癌性の細胞1つ以上の上のインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上の治療有効量を患者に投与することを含む患者における前癌性の患部の腫瘍への進行を低減又は防止する方法を意図しており、ここで、インテグリンへのリガンドの結合は前癌性の患部の死滅又は生育抑制、又は化学療法剤化合物1つ以上の死滅誘導又は生育抑制の活性に対する前癌性患部の化学療法剤感受性化をもたらす。
【0089】
本発明のこれらの方法による使用のために試料を得ることができる原料となる適当な組織及び臓器は、例えばこれらに限定されないが本明細書に別途説明する上皮組織を包含する。本発明のそのような方法により好都合に治療又は防止してよい癌及び腫瘍は例えば必ずしもこれらに限定されないが癌腫、特に腺癌、例えば本明細書に別途説明する癌腫及び腺癌を包含する。そのような癌腫が本発明の方法により検出された後、それは次に当該分野で周知であり、そしてそのため当業者がよく知るものである癌治療の外科的、化学療法的、放射線的、又は他の方法を介して患者から除去することができる。或いはそのような癌腫はαβ結合リガンド1つ以上、例えばαβ結合抗体又はそのフラグメント1つ以上を患者に、又は患者の臓器又は組織に投与することにより本発明の治療方法を用いながら除去できる。そのような実施形態の特定の非限定的な例においては、αβ結合リガンド1つ以上は上記において詳述した通り細胞毒性の化合物又は薬剤1つ以上にコンジュゲートされている。そのような実施形態の別の非限定的な例においては、αβ結合リガンド1つ以上、例えばαβ結合抗体又はそのフラグメント1つ以上を、上記において詳述した通り細胞毒性の化合物又は薬剤1つ以上と組み合わせて対象、例えば患者に投与する。他の関連する実施形態においては、本発明のそのような方法は、腫瘍細胞の増殖を抑制する、及び/又は毒性の化学療法剤化合物1つ以上の作用に対して腫瘍細胞を化学療法剤感受性化する本明細書に記載したもののようなTGF−βブロッキング剤1つ以上を投与することを含む。
【0090】
関連する実施形態において、本発明は腫瘍又は癌細胞によるsmad4及びαβの発現のレベルを計測することによる腫瘍又は癌細胞の転移の潜在性を測定することを意図している。そのような実施形態において、腫瘍又は細胞の試料を上記の患者から入手し、そして腫瘍又は癌細胞によるsmad4及びαβの発現のレベルに関して本明細書に記載する方法により試験する。本発明のこれらの方法によれば、腫瘍又は癌細胞によるsmad4の発現のレベルと腫瘍又は癌細胞によるαβの発現のレベルとの間には、逆の相関が存在し、それは腫瘍又は癌細胞の転移の潜在性を測定するために使用できる有用な臨床像をもたらす。特に腫瘍又は癌細胞によるsmad4の発現の低下と、それに併発する腫瘍又は癌細胞によるαβの発現の増大、腫瘍又は癌細胞によるαβの発現のレベルとの間の直接の相関は、腫瘍又は癌細胞が原発腫瘍部位から二次的場所に転移する可能性がより高いことを示す。従って、腫瘍又は癌細胞によるsmad4及びαβの発現のレベルは腫瘍又は癌細胞の転移の潜在性の予後インジケーターとして使用することができ、これは癌の現在又は予測される将来の攻撃性又は侵襲性に基づいて適切に治療決定を行う場合に癌患者及びその医師を支援することができる。
【0091】
組織又は腫瘍細胞の試料のような個体から得られた生物学的試料中のsmad4及びαβの発現レベルを試験することに加え、αβの発現のレベル及びパターンはまた、画像化によりインビボで検出できる。本発明のそのような方法において、1つ以上のsmadMAD4結合リガンド及びαβ結合リガンド、例えば1つ以上のsmadMAD4結合抗体及び1つ以上のαβ結合抗体はインビボの画像化に適する標識1つ以上で検出可能に標識される。インビボの画像化のための適当な標識又はマーカーはX線撮影、NMR又はESRにより検出可能なものを包含する。X線撮影のためには、適当な標識は放射性同位体、例えばバリウム又はセシウムを包含し、これらは検出可能な放射線を発射するが対象に対して明らかに有害とはならないものである。NMR及びESRのための適当なマーカーは検出可能な特徴的スピンを有するもの、例えば重水素を包含する。
【0092】
適切な検出可能な画像化部分、例えば放射性同位体(例えば131I、112In、99mTc)、放射線不透明物質、又は核磁気共鳴により検出可能な物質で標識されているsmadMAD4又はαβに結合するリガンド、例えばsmadMAD4−又はαβ結合抗体又は抗体フラグメントを癌又は上皮内癌に関して調べるべき哺乳類内に導入する(例えば非経腸、皮下又は腹腔内)。対象の体格及び使用する画像化システムが診断用の画像を作成するために必要な画像化部分の量を決定することは当該技術分野において理解されている。放射性同位体の部分の場合は、ヒト対象に対しては、注入される放射能の量は通常は約5〜20マイクロキューリーの範囲の99mTcとなる。次に標識されたリガンド、例えばsmadMAD4−又はαβ結合抗体又は抗体フラグメントがsmadMAD4又はαβインテグリンを含有するか発現する細胞又は組織の位置に優先的に蓄積することになる。次にインビボの腫瘍画像化をS.W.Burchiel等、「Immunopharmacokinetics of Radiolabelled Antibodies and Their Fragments」 (第13章、Tumor Imaging:The Radiochemical Detection of Cancer,S.W.Burchiel及びB.A.Rhodes編、Masson Publishing Inc.(1982))に記載の通り実施する。
【0093】
治療方法
本発明の別の実施形態においては、本発明の方法は本明細書に別途記載するもののような特定の疾患、特に特定の癌腫に罹患した哺乳類を治療するための治療計画において使用できる。本発明のこのような方法は癌及び関連の事象、例えば腫瘍の生育、転移及び血管形成を治療する場合に有用である。そのような方策において特に適合するものは、疾患に罹患した哺乳類の組織又は細胞における低下したレベルのsmad4発現、及び併発する上昇したレベルのαβ発現を特徴とし、そして上昇したレベルのαβを発現する組織又は細胞をターゲティングし、そしてそのような組織又は細胞を排除する治療に応答性である疾患又は癌である。本発明のこの特徴による方法は、例えば(a)患者における低下したsmad4発現を有する腫瘍又は腫瘍細胞を発見する工程;及び(b)患者をαβ結合リガンド1つ以上、例えばαβ結合抗体又はそのフラグメント1つ以上を用いて、又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメント1つ以上を用いて治療することを含む。或いはそのような方法は、例えば(a)患者における低下したsmad4発現を有する腫瘍又は腫瘍細胞を発見する工程;(b)患者をαβ結合リガンド1つ以上、例えばαβ結合抗体又はそのフラグメント1つ以上を用いて、又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメント1つ以上を用いて治療する工程、ここでαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤を腫瘍細胞に結合することにより、化学療法剤化合物1つ以上の生育抑制及び/又は死滅誘導の作用に対し腫瘍細胞を感受性にする;及び(c)腫瘍細胞を生育抑制するか、殺傷する化学療法剤化合物1つ以上で患者を治療する工程を含む。
【0094】
これらの方法により特に治療可能である疾患は上皮組織の転移癌(即ち転移性の癌腫及び/又は腺癌)、例えば膵臓、結腸/直腸、子宮頸部、食道(及び他の扁平上皮組織及び臓器)、頭部及び頸部、肝臓、卵巣、肺のものを包含する。本発明のこれらの方法による治療に特に適するものは膵臓、結腸/直腸、子宮頸部、頭部頸部及び食道の癌腫である。治療に対する好ましい哺乳類はサル、類人猿、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、及びヒトを包含する。特に好ましくはヒトである。
【0095】
関連の実施形態において、上記した通り、本発明は前転移性の腫瘍における細胞1つ以上の上のインテグリンαβのサブユニット1つ以上に結合するリガンド1つ以上の治療有効量を患者に投与することを含む、患者における転移性の腫瘍への前転移性の腫瘍の進行を低減又は防止する方法を提供し、それにおいては、インテグリンへのリガンドの結合は原発腫瘍の周囲の組織区域内への前転移性の癌の細胞の侵襲の低減又は防止をもたらす。
【0096】
本発明のこれらの治療方法を実施する場合、αβ結合リガンド、例えばαβ結合抗体又はそのフラグメント又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは治療用製剤(本明細書においては互換的及び等価に医薬組成物をも指すものとする)の形態において患者に投与してよい。本発明により使用されるαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントの治療用製剤は、所望の純度を有するαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントを任意の製薬上許容しうる担体、賦形剤又は安定化剤(Remington’s Pharmaceutical
Sciences第16版、Osol,A.編(1980))と混合することにより、例えば凍結乾燥された製剤又は水溶液の形態において、保存用に製造される。αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントのような薬学的に活性な化合物に加え、本発明の治療方法において使用される組成物は薬学的に使用できる調製品中への活性化合物のプロセシングを容易にする賦形剤及び補助剤を含む適当な製薬上許容しうる担体1つ以上を含有できる。本発明の薬学的調製品は自体公知の態様において、例えば従来の混合、顆粒化、糖衣錠製造、溶解、又は凍結乾燥のプロセスの手段により製造される。即ち、服薬による使用のための薬学的調製品は活性化合物を固体賦形剤と混合すること、及び、場合により、得られた混合物を、所望であるか必要であれば適当な補助剤を添加した後に、粉砕すること及び顆粒混合物をプロセシングすることにより得ることができ、これにより錠剤又は糖衣錠のコア部が形成される。
【0097】
適当な賦形剤は、特に、充填剤、例えば糖類、例えば乳糖又はスクロース、マンニトール又はソルビトール、セルロース調製品及び/又はリン酸カルシウム、例えばリン酸3カルシウム、又はリン酸水素カルシウム、並びに結合剤、例えば澱粉ペースト、例えばトウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、バレイショ澱粉、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドンである。所望により、錠剤崩壊剤、例えば上記した澱粉、及びカルボキシメチル澱粉、交差結合ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸又はその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加することができる。補助剤は特に、流動調節剤及び潤滑剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸又はその塩、例えばステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコールである。糖衣錠コア部には適当なコーティングが施され、これは所望により胃液に対して抵抗性である。この目的のためには濃縮された糖の溶液を使用することができ、これは場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適当な有機溶媒又は溶媒混合物を含有してよい。胃液に対し抵抗性のコーティングを製造するためには、適当なセルロースの調製品、例えばアセチルセルロースフタレート又はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの溶液を使用する。例えば識別のため、又は活性化合物の用量の組み合わせを特性化するために、染料又は顔料を錠剤又は糖衣錠コーティングに添加することができる。
【0098】
経口使用できる他の薬学的調製品はゼラチンから製造されたプッシュフィットカプセル、並びに、ゼラチン及び可塑剤、例えばグリセロール又はソルビトールから製造されたソフトシールカプセルを包含する。プッシュフィットカプセルは充填剤、例えば乳糖、結合剤、例えば澱粉、及び/又は潤滑剤、例えばタルク又はステアリン酸マグネシウム、及び場合により安定化剤と混合してよい顆粒形態の活性化合物を含有できる。ソフトカプセルにおいては、活性化合物は好ましくは適当な液体、例えば油脂又は流動パラフィン中に溶解又は懸濁される。更に、安定化剤も添加してよい。
【0099】
非経腸投与のための適当な製剤は水溶性の形態、例えば水溶性の塩及びアルカリ性の溶液における活性化合物の水溶液を包含する。アルカリ性の塩は例えばトリス、水酸化コリン、ビストリスプロパン、N−メチルグルカミン、又はアルギニンを用いて製造されたアンモニウム塩を包含できる。更に、活性化合物の懸濁液、例えば適切な油性の注射用懸濁液を投与することもできる。適当な親油性溶媒又はビヒクルは油脂、例えばゴマ油、又は合成の脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル又はトリグリセリド又はポリエチレングリコール−400(化合物はPEG−400中に可溶である)を包含する。水性の注射用懸濁液は懸濁液の粘度を増大させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストランを含有できる。場合により、懸濁液は又、安定化剤も含有してよい。
【0100】
本発明の化合物は動物及びヒトの眼に点眼液として、又は、軟膏、ゲル、リポソーム、又は生体適合性の重合体のディスク、ペレット内において、又はコンタクトレンズ内に担持される状態で投与してよい。眼用組成物はまた、当業者が従来の基準を用いて選択できる生理学的に適合性のある眼用ビヒクルを含有してよい。ビヒクルは例えばこれらに限定されないが水、ポリエーテル、例えばポリエチレングリコール400、ポリビニル、例えばポリビニルアルコール、ポビドン、セルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、石油誘導物、例えば鉱物油及び白色ワセリン、動物性脂肪、例えばラノリン、植物性脂肪、例えばピーナツ油、アクリル酸の重合体、例えばカルボキシポリメチレンゲル、多糖類、例えばデキストラン、及びグリコサミノグリカン、例えば塩化ナトリウム及び塩化カリウム、塩化亜鉛、及び緩衝物質、例えば重炭酸ナトリウム又は乳酸ナトリウムを包含する既知の眼用ビヒクルから選択してよい。高分子量の分子も又使用できる。組成物中の本発明の化合物を不活性化しない生理学的に適合性のある保存料はアルコール、例えばクロロブタノール、塩化ベンザルコニウム及びEDTA、又は当業者に知られた何れかの他の適切な保存料を包含する。
【0101】
皮下投与に適合された抗体の凍結乾燥製剤は参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許6,267,958に記載されている。そのような凍結乾燥製剤は適当な希釈剤で再建することにより高蛋白濃度としてよく、そして再建された製剤は本明細書において治療されるべき患者に皮下投与してよい。
【0102】
αβ結合リガンドは又、例えばコアセルベーション手法により、又は界面重合により製造されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンのマイクロカプセル、及びポリ(メチルメタクリレート)のマイクロカプセル内に、コロイド状の薬物送達システム(例えばリポソーム、アルブミン微小球、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)中に、又は、マイクロエマルジョン中に封入してよい。そのような手法はRemington’s Pharmaceutical Sciences第16版、Osol,A.編(1980)に開示されている。
【0103】
αβ結合リガンドの除放性製剤を製造してよい。除放性製剤の適当な例はαβ結合リガンドを含有する固体疎水性重合体の半透性マトリックスを包含し、このマトリックスは形状付与された物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態である。除放性マトリックスとしては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2−ヒコロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許3,773,919)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタメートの共重合体、非分解性のエチレン酢酸ビニル、分解性の乳酸−グリコール酸共重合体、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸共重合体と酢酸ロイプロリドよりなる注射可能な微小球)及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0104】
インビボの投与のために使用される製剤は滅菌されていなければならない。これは滅菌濾過膜を通した濾過により容易に達成される。
【0105】
αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは何れかの適当な手段により、例えば非経腸、肺内、頭蓋内、経皮及び鼻内投与により、対象又は患者に投与してよい。非経腸の注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を包含する。更に、αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントはパルス注入により、例えばαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントの漸減量を用いながら、適宜投与してよい。好ましくは、投薬は、部分的には投与が短期であるか長期であるかにもよるが、注射、最も好ましくは静脈内又は皮下注射により行う。
【0106】
本発明の特定の例示される実施形態においては、αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは約1mg/m〜約500mg/mの用量において患者に投与される(例えば静脈内)。例えばαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは約1mg/m、2mg/m、3mg/m、4mg/m、5mg/m、10mg/m、15mg/m、20mg/m、25mg/m、30mg/m、35mg/m、40mg/m、45mg/m、50mg/m、55mg/m、60mg/m、65mg/m、70mg/m、75mg/m、80mg/m、85mg/m、90mg/m、95mg/m、100mg/m、105mg/m、110mg/m、115mg/m、120mg/m、125mg/m、130mg/m、135mg/m、140mg/m、145mg/m、150mg/m、155mg/m、160mg/m、165mg/m、170mg/m、175mg/m、180mg/m、185mg/m、190mg/m、195mg/m、200mg/m、205mg/m、210mg/m、215mg/m、220mg/m、225mg/m、230mg/m、235mg/m、240mg/m、245mg/m、250mg/m、255mg/m、260mg/m、265mg/m、270mg/m、275mg/m、280mg/m、285mg/m、290mg/m、295mg/m、300mg/m、305mg/m、310mg/m、315mg/m、320mg/m、325mg/m、330mg/m、335mg/m、340mg/m、345mg/m、350mg/m、355mg/m、360mg/m、365mg/m、370mg/m、375mg/m、380mg/m、385mg/m、390mg/m、395mg/m、又は400mg/mの用量において投与してよい。
【0107】
αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは広範な種類の投薬スケジュールに従って投与できる。例えばαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは所定の時間(例えば4〜8週間、又はそれより長期)に渡って毎日1回、又は毎週のスケジュールに従って(例えば週当たり1日、週当たり2日、週当たり3日、週当たり4日、週当たり5日、週当たり6日、又は週当たり7日)所定の時間(例えば4〜8週間、又はそれより長期)に渡って投与できる。「週1回」投薬スケジュールの特定の例は、治療期間の第1、8、15及び22日におけるαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントの投与である。代替の実施形態においては、αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは数カ月の期間に渡って間欠的に投与してよい。例えばαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントは半年毎に連続3週間毎週投与してよい(即ち、毎週投薬スケジュールを6カ月ごとに反復する)。当然ながらそのような投与計画を延長された期間(数年間のオーダー)継続することにより初期治療により得られる有益な治療効果を維持してよい。更に別の実施形態においては、そのような維持療法は、癌性、転移性、又は上皮内癌の状態の即時的症状を低減するために設計された急性期の投薬計画の後に行ってよい。
【0108】
治療期間中を通して各時点において投与されるαβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントの量は同じであることができ;或いは、治療期間中の各時点において投与される量は変動することができる(例えば、ある時点に投与する量は以前に投与された量より増減できる)。例えば、維持療法の間に与えられる用量は治療の急性期の間に投与されるものよりも低値であってよい。特定の状況に応じた適切な投薬スケジュールは当業者には明白である。
【0109】
本発明の特定の実施形態においては、多数の型又は種のαβ結合リガンドを相互に組み合わせ、そして患者に投与することにより、1つ以上の癌性、転移性、又は上皮内の癌腫の状態を治療する。例えば、本発明は2つ以上の異なるαβ結合抗体及び/又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントを本明細書に記載した物のような患者に投与することを意図する。多数のαβ結合リガンド及び/又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントを患者に投与する場合、異なるαβ結合リガンド及び/又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントを単一の医薬組成物において共に投与することができ、或いはより好ましくは別個の投薬において逐次的に投与できる。そのような他剤の有効量は、製材中に存在するαβ結合リガンド及び/又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントの量、疾患又は障害又は治療の型、及び他の要因に応じたものとなる。
【0110】
本発明はまた、第1の薬剤はαβ結合リガンドであり、そして第2の薬剤は1つ以上の癌性、転移性又は上皮内の癌腫の状態を治療するために有用であるが必ずしもαβ結合リガンドではない薬剤であって、第1の薬剤を第2の薬剤と組み合わせて患者に投与することを含む癌性又は転移性の状態を治療するための方法を包含する。他の特徴においては、本発明は、第1の薬剤はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントであり、そして第2の薬剤は1つ以上の癌性、転移性又は上皮内の癌腫の状態を治療するために有用であるが必ずしもTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントではない薬剤であって、第1の薬剤を第2の薬剤と組み合わせて投与することを含む癌性又は転移性の状態を治療するための方法を提供する。第1の薬剤を第2の薬剤と「組み合わせて」投与するとは、両方の薬剤が治療計画中に患者に投与されるように患者への第2の薬剤の投与の前、同時、又は後に第1の薬剤を患者に投与できることを意味する。例えば本発明の特定のそのような実施形態によれば、αβ結合リガンドは患者への他のインテグリン受容体(例えば、αβ、αβ、αβ、αβ、αβ等)1つ以上の拮抗剤、例えば当該分野で知られた1つ以上のインテグリン受容体(例えば、αβ、αβ、αβ、αβ、αβ等)に対して特異的な抗体、ポリペプチド拮抗剤及び/又は小分子拮抗剤の投与と組み合わせて(即ち、前、同時、又は後に)患者に投与される。
【0111】
本発明のこの特徴の特定の実施形態においては、αβ結合リガンド又はTGF−βブロッキング剤又はそのフラグメントと組み合わせて投与される第2の薬剤は、例えばステロイド、細胞毒性化合物(例えば本明細書に別途記載するもの、そして特記すればパクリタキセル、ゲムシタビン又はアドリアマイシン(ドキソルビシン)、放射性同位体(例えば本明細書に別途記載するもの)、プロドラッグ活性化酵素(例えば本明細書に別途記載するもの)、コルヒチン、酸素、抗酸化剤(例えばN−アセチルシステイン)、金属キレート形成剤(例えばテトラチオモリブデート)、IFN−β、IFN−γ、アルファ−抗トリプシン等である。本発明のこの特徴による治療目的のためのαβ結合リガンド1つ以上のような第1の薬剤1つ以上と組み合わせて患者に投与できる追加的な第2の薬剤又は化合物は、当業者の知る通りであり;従って、そのような追加的な第2の薬剤又は化合物の使用は本発明に包含されるとみなす。
【0112】
診断キット
別の実施形態において、本発明はキット、特に癌のような疾患又は障害の診断及び/又は予後において有用なキットを提供する。本発明のこの特徴によるキットは、インテグリンαβに結合するかこれを認識する抗体のような上記リガンド1つ以上を含有する容器少なくとも1つを含んでよい。本発明のこれらのキットは場合により更に少なくとも1つの追加的容器を含んでよく、これは例えば患者由来の臓器、組織又は細胞の試料のような被験試料にリガンド(例えば抗体)を送達するための試薬(例えば緩衝塩溶液);例えば生物学的試料中のsmad4の発現を測定するために適している試薬(例えばこれに限定されないが上記した核酸試薬を含む)を含有する少なくとも1つの追加的容器;TGF−β;1つ以上の洗剤、溶解液、又は試験のための生物学的試料の製造に適する他の溶液;等を含有してよい。本発明のそのようなキットの他の適当な追加的成分は当業者の知る通りである。
【0113】
本明細書に記載する方法及び使用に対する他の適当な変更及び適合は自明であり、本発明又は何れかのその実施形態の範囲を逸脱することなく実施されることを当業者は容易に理解するであろう。本発明を詳述したが、それは説明のために本明細書に包含され本発明を限定する意図のない以下の実施例を参照すればより明快に理解される。
【実施例】
【0114】
実施例1:αβは原発腫瘍と相対比較して転移において高度に発現される。
【0115】
本実験においては、本発明者等は上皮起源及び転移患部上の種々の癌におけるαβの発現を試験すること、及びαβmAbをブロックする機能がインビボのαβ発現腫瘍の生育を抑制できるか調べることを試みた。本発明者等はヒト咽頭癌腫、Detroit62上の本発明者等の抗ヒトαβmAbのインビトロ及びインビボの抗腫瘍活性を評価し、そしてこれをTGF−βRII:Fcのインビボの抗腫瘍活性と比較した。本発明者等のデータはαβに関するヒト癌における役割及び機能ブロッキングαβmAbを用いた治療介入の潜在性を裏付けている。
【0116】
A.材料及び方法
免疫組織化学的検討のために、組織切片をキシレン及びエタノール中で脱パラフィン化し、蒸留水中に再水和し、そして次に0.45%HO含有メタノール中に浸漬した。組織をペプシン(00−3009,Zymed,San Francisco,CA)とともにインキュベートし、そしてアビジン及びビオチン(SP−2001;Vector Laboratories,Burlingame,CA)でブロックした。一次抗体を0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するホスフェート緩衝食塩水(PBS)中に希釈し、そして組織を4℃で一夜インキュベートした。マウス異種移植片組織上のβ6を免疫染色するために、切片を抗αβmAbのヒト/マウスキメラ型2A1(Weinreb,P.H.等、J.Biol.Chem.279(17):17875−17887(2004))及び抗ヒトビオチニル化二次抗体(PK−6103,Vector Laboratories,Burlingame,CA)と共にインキュベートした。ヒト組織上のβを免疫染色するために、切片をマウス2A1及び抗マウスビオチニル化二次抗体(PK−6102,Vector Laboratories)と共にインキュベートした。アビジン−ビオチン複合体−セイヨウワサビパーオキシダーゼ(Vector Kit,PK−6102)を切片に適用し、室温で30分間インキュベートし、そして3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)基質を指示通り(SK−4100,Vector Laboratories)作成し、そして室温で5分間切片に適用した。組織切片をMayerのヘマトキシリンで1分間染色し、そして水及びPBS中ですすいだ。
【0117】
B.結果:
1.転移におけるαβ発現
αβの免疫染色を種々の腫瘍の転移に対して評価した。転移の78%(43)が陽性に染色され、転移の大多数に渡って強い染色を示していた(図1A−F;図2A−I)。この結果は、頭部頸部、子宮頸部及び膵臓の腫瘍のみが等しいレベルの発現を有していたことが観察されたという点においてパーセント陽性免疫染色の増大であることがわかった(表2)。
【0118】
【表2−1】

2.ヒト膵臓腫瘍試料、患者マッチ転移及び侵襲性膵臓腫瘍のマウス異種移植片モデルにおけるαβ発現
表2に示す通り、αβ免疫染色は検査した膵臓腫瘍の80%において陽性であった。8人の異なる患者に由来する原発膵臓腫瘍由来の試料を免疫組織化学的分析により検査したところ、喉頭級の腫瘍の侵襲性の領域において染色が顕著であった(図5A〜図5C;図6A〜図6E)。原発腫瘍試料はまたマッチしたリンパ節転移も有しており(図5D〜図5F;図6F〜図6J)、これも強力なαβ染色を呈しており、αβ陽性細胞が原発腫瘍部位から播種してきたという見解を裏付けていた。正常膵臓(図5G〜図5H;図6K〜図6L)においては染色は表面層の散発的な細胞に限局されていた。
【0119】
腫瘍細胞侵襲に対するαβ発現の影響をさらに検査するために、本発明者等は侵襲性ヒト膵臓腺癌のモデルとしてBxPC−3マウス腫瘍を使用した。動物には0.1ml/匹の注射を用いながら滅菌食塩水中に懸濁した5x10細胞/匹を側腹上に皮下移植(第0日)した。第30日において、樹立された腫瘍(〜60〜100mm)を有するマウスを全試験につき3つの投与群(PBS;mAb3G9;可溶性TGF−β受容体II−Ig融合蛋白(solTGFβRII−Fc))の各々にペアマッチさせた。被験薬剤は投与スケジュールの週当たり3回マウスに腹腔内投与した。マウスには3G9を10mg/kg、solTGFβRII−Fcを2mg/kgにおいて、又はPBS(陰性対照)を注射した。腫瘍の増殖は週2回計測し、そして腫瘍の体積は式[(幅)x長さ]/2により推定した。投与群由来の腫瘍を摘出し、10%パラホルムアルデヒド中に固定し、パラフィン包埋し、そして非ブロッキングv6キメラmAb6.2A1を用いた免疫組織化学的分析のために切片化した。
【0120】
抗αβmAb3G9を用いた治療は腫瘍の増殖に対して直接の作用を有しており(図7B、図7C)、抗体を用いた治療の約48日の後には有意に低減した腫瘍の増殖が観察された。solTGFβRII−Fcで観察された生育抑制のレベルは3G9で観察されたものよりも幾分低値であった。これらの結果は抗αβmAb3G9がヒト膵臓癌の異種移植片モデルにおいて腫瘍の増殖を抑制することを示しており、そしてそのようなブロッキング抗体は原発ヒト膵臓腺癌において腫瘍の増殖及びその延長として腫瘍の侵襲を抑制する場合に有用であることを示唆している。
【0121】
実施例2:原発ヒト膵臓腫瘍におけるsmad4遺伝子発現とインテグリン発現の間の反比例関係
原発腫瘍細胞におけるsmad4発現とαβ発現の間の関係を検査するために、ヒト原発膵臓腫瘍の選択例を入手し、SMAD4蛋白及びαβに関して免疫組織化学的分析により染色した。異なる患者由来の14腫瘍試料を検査した。結果を図8〜図14に示す。
【0122】
14腫瘍試料中、7(50%)検体が明確にαβ+の腫瘍区域を有していることがわかり、これらのうち3検体は発現において不均一さ(即ちαβ+である腫瘍の一部の切片とαβ−である同じ腫瘍内の別の切片;図9〜図10)を呈していた。14腫瘍のうち7検体はαβ陰性であることがわかった。
【0123】
11腫瘍(αβ発現において不均一であった3検体を除く)において、以下の結果が図8〜図11、図14に示す通り観察された。
【0124】
(A)4検体はαβ+であり、これらのうち3検体はsmad4−であり1検体はsmad4+であり;そして、
(B)7検体はαβ−であり、そしてこれら7検体全てがsmad4+であった。
【0125】
αβ発現が不均一であった3腫瘍では以下の結果が観察された(図12〜図14)。
【0126】
(A)αβ+であった腫瘍の区域はsmad4−であり;
(B)αβ−であった腫瘍の区域はsmad4+であった。
【0127】
これらの結果は原発膵臓腫瘍細胞によるsmad4とインテグリンαβの発現の間には反比例関係があることを裏付けている。
【0128】
実施例3:膵臓癌細胞株上のαβ及びsmad4の発現
αβ及びsmad4の発現は膵臓癌細胞株のパネルに対し測定された。その結果を図15に総括する。
【0129】
原発膵臓腺管腺癌(PDAC)上のαβ及びsmad4の発現の予備的分析において、3試料のセットを検査した。第1のセットにおいては、10PDAC試料をBioCatアレイにより試験し、そして10検体全て(100%)がαβを発現することがわかった。第2のセットにおいては、14膵臓腺癌試料をCytomix試験により試験し、これらのうち7検体(50%)がαβ陽性であった。第3のセットにおいては、11PDAC試料をFolioアレイにより試験し(図16)、そのうち10検体(91%)がαβ陽性であった。
【0130】
第2及び第3の試料セットについては、smad4発現も試験した。14系統がαβ陽性であることがわかり、11系統はsmad4陽性であった。12系統はαβ+/smad4−であり;8系統はαβ−/smad4+であり;そして3系統はαβ+/smad4+であった。2系統は不均一であり、αβ+/smad4−及びαβ−/smad4+に染色された区域を有していた(図17)。
【0131】
70PDAC検体をBiomaxTissueMicroArray上の免疫組織化学により検査した(図18)。これらの試料の89%はαβ陽性であると判定され、その97%はsmad4がダウンレギュレートされていた。全体として86%がαβ+/smad4−の表現型を有していた。
【0132】
Leiden大学メディカルセンター(LUMC)で製造された組織アレイ(以降「Leidenアレイ」と称する)上の免疫組織化学的分析により検査された50PDAC検体の別個の試験においては、88%がαβ陽性であると判定され、その59%はsmad4がダウンレギュレートされていた(図19)。全体として52%がαβ+/smad4−の表現型を有していた。
【0133】
Leidenアレイを用いて検査した9PDAC転移検体の試験においては、全てがαβ陽性(大部分は強力に陽性)であることがわかり、そして78%がαβ+/smad4−の表現型を有していた(図20)。
【0134】
上記結果はαβ+/smad4−の表現型が原発ヒト膵臓癌における優勢な表現型であることを示している。
【0135】
Leiden及びBiomaxアレイにより採点した場合のPDAC上のαβ及びsmad4の発現の分析の結果をグラフ表示したものを図21に示す。2つの異なる方法の間で観察された結果の相違はBiomaxアレイを用いた場合に観察されたsmad4発現の強度がより低かったことに起因すると考えられる。
【0136】
実施例4:単剤及び組み合わせた場合の両方におけるαβmAb3G9及び化学療法剤、アドリアマイシン(ドキソルビシン)及びゲムシタビンに対する皮下移植されたBxPC−3ヒト膵臓腺癌の応答
ヒト腫瘍治療のモデルとして、単剤又は複合化学療法をヒト膵臓腫瘍のBxPC−3異種移植片マウスモデルにおいて実施した。BxPC−3はこれらの細胞におけるsmad4遺伝子の見かけ上のホモ接合欠失に起因してsmad4欠損性であることが分かっている(Subramanian,G.等、Cancer Res.64:5200−5211(2004);Yasutome,M.等、Clin.Exp.Metastasis
22:461−473(2005))。
【0137】
材料及び方法
1.動物。220匹の無胸腺ヌード雌性マウスはHarlanSpragueDawley(Madison,WI)よりRec.03/13/2006,DOB01/30/2006のものを入手した。マウスが6〜7週齢となった時点で試験を開始する。動物は腫瘍の移植前少なくとも5日間は実験室に対して馴化させる。動物には個体別にBioMedicの移植可能なIDチップでマーキングする。データの収集はOnco Pharmacology Information(OPI)を用いて実施する。
【0138】
2.腫瘍。BXPC−3はアリゾナ大学(Tucson,AZ)より元来入手された細胞株である。細胞株はヒト膵臓腺癌である。ドナー系統は本試験において移植するよりも前に無胸腺ヌード雌性マウスにおいて5世代継代した。動物の右側腹部内にトロカールを用いて組織の3mmの断片を皮下移植した。最低100ミリグラムの大きさ及び3進行性生育があった時点で樹立された腫瘍に対し治療を開始した。
【0139】
【表2−2】

3.試験スケジュール
第−1日:左側腹にID応答機を皮下移植する。
【0140】
第0日:上記した通り腫瘍を移植する。マウスに移植した腫瘍に対し細菌培養を行う。動物の初期体重を記録する。
【0141】
第2日:腫瘍の大きさの記録及び体重測定を開始し、病期分類の日まで1日おきに継続する。
【0142】
病気分類日(治療第1日)(移植後約第11〜13日):副尺カリパスを用いて測定した場合に最低の大きさが100ミリグラムを計測された腫瘍を有するマウスを選択する。マウスを対照及び投与群に無作為に割りつけ、体重を記録する。上記スケジュールに基づいてip投薬する。各投薬計画内で用量は盲検とする。
【0143】
週2回のマウスの腫瘍の大きさと体重の記録を継続する。試験は毎日モニタリングし、そして如何なる通常ではない動物の観察事例も記録する。試験は試験終了時まで盲検とする。
【0144】
中間採血:(移植後第34/35日):3G9の初回処置前、その週に関して全群から5匹/群由来の血清を採取する。投与後24時間は全群から残余5匹/群由来の血清を採取する。24時間前に平衡時血清採取に使用されなかった残余5動物/群を使用する。
【0145】
投薬の最終週(移植後第44/45日):3G9の最終投与の前に、全群から5匹/群由来の血清を採取する。投与後24時間は全群から残余5匹/群由来の血清を採取する。24時間前に平衡時血清採取に使用されなかった残余5動物/群を使用する。
【0146】
終点:
(a)初期体重
(b)腫瘍の大きさ及び体重の計測を週2回
(c)投薬の中間時点及び最終週に血清中3G9レベル。
【0147】
屠殺時:
下記の群の各々から7腫瘍を採取し;各腫瘍の1/2を10%NBF中に保存し、残り1/2をOCT中に凍結する
第1群:ビヒクル;第2群:3G9;第4群:ゲムシタビン(Gem)140mg/kg;第6群:ドキソルビシン(Dox)6mg/kg;第8群:3G9+Dox6mg/kg;及び第10群:3G9+Gem140mg/kg。
【0148】
結果
これらの実験の結果を図22〜図29に示す。これらの結果はゲムシタビンと組み合わせた3G9が有意に増大した生育抑制をもたらし、これは相乗作用的であると考えられる。複合作用は3G9をドキソルビシン(アドリアマイシン)と組み合わせた場合になお高値となり、約60%の生育抑制となっている。この複合化学療法は腫瘍薬理学によるこの異種移植片モデルを用いて以前に得られたデータ(図示せず)においてBxPC−3がゲムシタビンに対して耐性であることが示されていたことから選択した。総括すれば、これらの結果はsmad4欠損性の細胞株BxPC−3が(a)単剤としての抗αβmAbを用いた治療に応答性であり(生育抑制として計測);そして(b)ゲムシタビン及びドキソルビシンのような小分子薬剤を用いたその後の(又は同時)治療に対して抗αβmAbを用いた治療により化学療法剤感受性化されることを示している。
【0149】
同様の相乗作用が3G9とゲムシタビン(140mg/kg)の組み合わせにより治療された場合の膵臓癌細胞株Su86.6(図30)、Panc04(図31)及びCapan−2(図32)を移植したマウスにおいても観察されている。しかしながら、すい臓細胞株SW1990を移植したマウスに同じ複合療法を行ったところ、ゲムシタビン単独による治療と比較して治療効果に有意差はなかった(図33C参照)。ゲムシタビン濃度を100mg/kgまで低下させたところ、ゲムシタビン単独治療は複合療法の場合よりも有意に良好となった(図33B)。ゲムシタビン濃度を80mg/kgまで更に低下させたところ、複合療法による治療は、140mg/kgの高値のゲムシタビン濃度において他の細胞株で観察されたように、ゲムシタビン又は3G9単独の何れかによる治療よりも有意に良好となった(図33A)。Capan−1異種移植片の様式においては、抗体3G9とゲムシタビンの複合療法はゲムシタビン単独、及びTGF−βRII−Fc及びゲムシタビンの複合療法と同様に有効であったのみであった(図34)。
【0150】
ゲムシタビン及び3G9は細胞株ASPC−1由来の細胞を用いた膵臓癌の同所モデルにおける腫瘍の体積を有意に低下させた。ゲムシタビン単独又は3G9単独による治療は腫瘍の体積に対する有意な作用を有していなかった(図35)。
【0151】
シグナリング試験をBxPC−3、Panc04及びCapan−2の治療異種移植片腫瘍に対して実施した。3G9及ぶゲムシタビンの投与後の種々の時点において腫瘍を採取して以下の分析に付した。
【0152】
【表3】

上記試験の結果を図36に総括する。
【0153】
実施例5:Leiden大学メディカルセンターの26患者のコホートの生存表現型
膵臓癌と診断された患者の生存データを図37及び図38に示す。図37及び図38における4パネルはαβ及びsmad4発現に関するデータを表している。
【0154】
一般的に、smad4を発現する腫瘍を有する患者はsmad4を発現しない腫瘍を有する患者よりも長期生存となっている。更に、αβ+/smad4−の表現型を有する患者は有意に低減した生存となっている。
【0155】
実施例6:抗αβリガンドによるsmad4+/αβ+腫瘍細胞の増殖抑制の逆行
ヒト膵臓細胞株SW1990を実施例4に記載したものと同じ異種移植片マウス系において試験した。結果を図39〜図42に示す。
【0156】
SW1990細胞株はαβ発現の不均一性を示した。細胞株を分類し、αβ陽性とαβ陰性の細胞に関してリッチ化した(図42C〜図42E)。得られた変異体のウエスタンブロット分析はαβ陽性集団はsmad4+であり、αβ陰性集団はsmad4−であることを示している(図42A)。即ち、αβ陽性SW1990細胞株は特に化学療法剤投与と組み合わせた場合にαβブロッキングmAb3G9による腫瘍の増殖の抑制を本発明者等が観察しているBxPC−3系統のプロファイルにフィットしていなかった(実施例4)。SW1990異種移植片の組織切片がαβ発現を示していたことから(図42B)、インビボのこれらの細胞は実際にはsmad4+であることが予測される。
【0157】
SW1990を移植したマウスは次に、実施例4に記載する通りマウスmAb3G9を用いた、又は可溶性TGF−βRII−Fcを用いたインビボにおける治療に付し、そして経時的に腫瘍の増殖を評価した。結果は図39〜図41に示す通りであり、これは膵臓腫瘍系統BxPC−3とは対照的にSW1990腫瘍は抗αβ3G9mAbを用いた治療では生育を抑制されず、むしろ細胞生育において僅かな増大が観察されたことを示している。SW1990における生育に対する3G9又はsolTGF−βRIIを用いた治療の逆の作用は、smad4の存在下ではTGF−βは生育抑制シグナルを誘導でき、これはTGF−β(活性化)が可溶性TGF−βRII及び/又は3G9によりブロックされれば消滅するという理由により説明することができる。
【0158】
これらの結果は、αβリガンドに応答性となるためには腫瘍細胞は、smad4+細胞株SW1990は抗αβmAbにより生育抑制されなかったがsmad4−細胞株BxPC−3は抑制されたことから、smad4発現において欠損性でなければならないことを示唆する。即ちこれらの結果はαβ/smad4仮説と合致し、選択されたセットの膵臓癌患者(smad4−/αβ+)における応答を裏付けており、αβ活性リガンド又はそれによる化学療法剤感受性化に対する腫瘍細胞、特に膵臓腫瘍細胞の感受性又は応答性を予測するための有用な臨床マーカーは、これらの腫瘍細胞におけるsmad4の発現のレベルを測定することであることを示している。
【0159】
実施例7: αβmAbによるDetroit562ヒト咽頭癌腫細胞の増殖抑制
異種移植片試験において、デトロイト562ヒト咽頭癌腫の細胞を実施例4に記載したプロトコルに従ってマウスに皮下移植した。次に腫瘍の生育を実施例4に記載する通り経時的に評価した。結果は図43〜図55に示す。
【0160】
これらの結果はDetroit562モデルにおいてはマウス及びヒト化3G9抗αβmAbは腫瘍の生育を有意に抑制できたのに対し、他の抗αβmAb(特にマウス4B4)は低有効性であることを示している。
【0161】
実施例8:膵臓癌におけるαβブロックの妥当性
smad4は膵臓腺癌の約55%において不活性化される(Tascilar等、Clin.Cancer Res.4:4115−4121,2001)。Loehr等(Cancer Res.61:550−555,2001)はTGF−βが膵臓癌に腺維形成の潜在性を付与し、これが線維症を誘発することを報告している。しかしながらこの腺維形成の潜在性はsmad4発現と相関していた。本発明者等はsmad4ヌルであるヒト膵臓癌系統(AsPC−2、BxPC−3、Capan−1、及びCapan−2)がマウスに移植されれば線維形成を誘導したのに対し、野生型のsmad4を担持する細胞株(PaCa−2、PaCa−3、PaCa−44、及びPANC−1)は腺維形成を誘導しなかったことを観察している(Loehr等の表1参照)。
【0162】
結果の総括:本発明者等はαβが膵臓癌において高度にアップレギュレートされることを発見した。本発明者等は又、インビボにおけるαβmAb(3G9)の薬効データを得ており、これは咽頭癌モデルにおいて、そして2種の膵臓癌モデルにおいて。単剤薬効を明らかにするものであった。本発明者等は又、3G9とゲムシタビンの組み合わせによる治療が7膵臓異種移植片モデル中5つにおいてゲムシタビン単独より高値の薬効を示したことを観察している(図36)。
【0163】
以上の通り理解の明確化のために説明及び例示により一部詳細に本発明を全て記載したが、当業者の知る通り、これは本発明又はその何れかの特定の実施形態の範囲に影響することなく、条件、製剤及び他のパラメーターの広範で等しい範囲内において本発明を変更又は改変することにより実施でき、そしてそのような変更又は改変は添付の特許請求項の範囲内に包含されることを意図している。
【0164】
本明細書中で言及したすべての公開物、特許及び特許出願は本発明が属する技術の当業者のレベルを示しており、そして、各々個々の公開物、特許及び特許出願は特定的及び個別に参照により本明細書に組み込まれることを示されるがごとく同様の範囲まで参照により本明細書に組み込まれる。
【0165】
【化1】

(オーストラリア)
出願人はここにおいて、微生物のサンプルの供与は、特許の付与前において、あるいは出願の放棄(lapsing)、拒絶あるいは取り下げ前において、発明に対し利害関係を有さない当業者である対象者(skilled addressee)に対してのみ行われる旨を、告知するものである(オーストラリア国特許法施行規則第3.25(3)号規規則)。

(カナダ)
出願人は、本出願に基づきカナダ国特許が発行されるか、あるいは本出願が拒絶または放棄されて回復され得なくなるかもしくは取り下げられるまでは、特許庁長官(Commissioner of Patents)が、長官により指名された独立の専門家に対してのみ出願中で言及された寄託済みの生物学的材料のサンプルの供与を許可する旨を請求し、出願人は、国際出願の公表のための規則上の準備が完了する前に、書面によりその旨を国際事務局に告知しなければならない。

(クロアチア)
出願人はここにおいて、本願において言及された寄託された生物学的材料のサンプルが、無関係の専門家に対して、本願の公開と特許査定との間に入手可能とされる旨を、請求する。サンプルは、本特許の権利存続中に、本特許の出願人または適用可能な場合にはその権利者がはっきりと以下のような保証を放棄しない限りは、サンプルの請求人が、このようなサンプルまたはこれらに由来するあらゆる材料を第三者に対して入手可能としないこと、ならびに、実験または研究の目的を除いて、このようなサンプルまたはこれらに由来するあらゆる材料を使用しないことに同意する場合にのみ、入手可能とされる。

(デンマーク)
出願人はここにおいて、本出願が(デンマーク特許庁により)公開に付されるかあるいは公開を経ずにデンマーク特許庁による決定を受けるまでは、サンプルの供与は当該技術の専門家に対してのみ行われる旨を、請求する。この旨の請求は、デンマーク特許法第22条および第33条(3)に基づき出願が公に利用可能にされる時点以前に、出願人によりデンマーク特許庁に対してなされるものとする。第三者によるサンプルの供与のいかなる請求においても、利用される専門家を表示するものとする。専門家は、デンマーク特許庁により作成された公認専門家のリスト(list of recognized experts)に記載された任意の者か、あるいは、個々の場合において出願人により承認された任意の者であり得る。

(フィンランド)
出願人はここにおいて、本出願が(特許および統制委員会(National Board of Patents and Regulations)により)公開に付されるかあるいは公開を経ずに国立特許および法規委員会による決定を受けるまでは、サンプルの供与は当該技術の専門家に対してのみ行われる旨を、請求する。第三者によるサンプルの供与のいかなる請求においても、利用される専門家を表示するものとする。専門家は、特許および統制委員会により作成された公認専門家のリストに記載された任意の者か、あるいは、個々の場合において出願人により承認された任意の者であり得る。

(ドイツ)
出願人は、ここにおいて、生物学的試料は、特許の付与、またはこの出願が拒絶され、取り下げられる場合は、出願日から20年間、出願人により指名された独立の専門家にのみ試料が分譲されることを請求する。

(アイスランド)
出願人はここにおいて、特許が付与されるか、または特許が付与されない、この出願に関するアイスランド特許庁による最終的な決定がなされるまでは、この出願で言及される寄託された生物学的材料の試料の供与は当該技術の専門家に対してのみ行われる旨を、請求する。

(ノルウェー)
出願人はここにおいて、出願が(ノルウェー特許庁により)公開に付されるかあるいは公開を経ずにノルウェー特許庁による決定を受けるまでは、サンプルの供与は当該技術の専門家に対してのみ行われる旨を、請求する。この旨の請求は、ノルウェー特許法第22条および第33条(3)に基づき出願が公に利用可能にされる時点以前に、出願人によりノルウェー特許庁に対してなされるものとする。そのような請求が出願人によりなされた場合は、第三者によるサンプルの供与のいかなる請求においても、利用される専門家を表示するものとする。専門家は、ノルウェー特許庁により作成された公認専門家のリストに記載された任意の者か、あるいは、個々の場合において出願人により承認された任意の者であり得る。

(シンガポール)
出願人はここにおいて、微生物の試料の供与は専門家に対してのみ利用可能にされる旨を、請求する。

(スペイン)
出願人は、ここにおいて、生物学的材料は、スペイン特許を付与する旨の告示が公表されるまで、または特許出願が拒絶され、取り下げられる場合は、出願日から20年間、Article 45 SPLで示されるように独立の専門家にこの出願で言及される寄託された生物学的材料の試料を分譲することによってのみ入手可能となされることを請求する。

(スウェーデン)
出願人はここにおいて、出願が(スウェーデン特許庁により)公開に付されるかあるいは公開を経ずにスウェーデン特許庁による決定を受けるまでは、サンプルの供与は当該技術の専門家に対してのみ行われる旨を、請求する。この旨の請求は、出願日から20年以内に拒絶または取り下げられた出願に対しても適用される。

(スイス)
出願人はここにおいて、第三者に対するサンプルの供与は、その第三者が、寄託者への通知のために氏名および住所を寄託機関に知らせ、そして、(a)寄託された培養物またはこれに由来する培養物を第三者に対して入手可能としないこと;(b)法律の権限外でこの培養物を使用しないこと;ならびに、(c)係争中の場合には、項目(a)および(b)の下の義務違反がない旨の証書を発行することに同意する、という条件でなされ得る旨を、請求する。

(マケドニア共和国(旧ユーゴスラビア連邦))
出願人はここにおいて、第三者に対するサンプルの供与は、その第三者が、(a)生存可能な生物学的材料または微生物材料のサンプルが入手可能とされることを要求する権利を有し;そして(b)特許の効力の存続期間の満了前に、出願人は、その寄託された生存可能な生物学的材料または微生物材料のサンプルを任意の第三者に対して入手可能とする権限を与えられていないことに同意している、という条件でなされ得る旨を、請求する。

(英国)
出願人はここにおいて、微生物のサンプルの供与は専門家に対してのみ利用可能にされる旨を、請求する。

(欧州特許庁)
出願人はここにおいて、欧州特許を付与する旨の告示が公表されるまで、または特許出願が拒絶され、取り下げられる場合は、出願日から20年間、生物学的材料は、EPC施行規則の規則28(3)に定められるように、サンプルの請求人により指名された専門家にサンプルを分譲することによってのみ入手可能となされる旨を、請求する(EPC規則28(4))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【公開番号】特開2013−39140(P2013−39140A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−251220(P2012−251220)
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【分割の表示】特願2009−519483(P2009−519483)の分割
【原出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】