説明

X字接手

【課題】アーチ材のX字状交差角度の微妙な調整をすることができるとともに、アーチ材の交差角度の変化に対して強力に抵抗して、簡易建物のアーチ材骨組みの剛性を強化することが可能なX字接手を提供すること。
【解決手段】短冊状の鋼板の短手方向に対して所定角度傾斜した溝状受入部を有する同一形状の2枚の鋼板が、該溝状受入部同士が対向して重合されて、その両端部が固定具にて固定されるX字接手であって、前記2枚の鋼板のうちの一方の1端部には円孔が、他端部には前記円孔を中心とする円弧に沿った長孔が穿設されるとともに、前記2枚の鋼板のうちの他方の両端部には前記円孔と前記長孔に対応する位置にそれぞれ円孔が穿設されたX字接手とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室、サクランボハウス、畜舎、露地野菜用防虫ハウス等の簡易建物の骨組み構造、特に複数本の湾曲部材が棟木部接手によって平面視X字状正面視アーチ状に接合された骨組みユニットを1単位とする複数単位からなるアーチ材の隣り合う骨組みユニットの湾曲部材同士が、棟木材と桁材との間においてX字状に交差するアーチ材同士を接合するためのX字接手の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、前記簡易建物の骨組み構造について別途、簡易建物の骨組み構造を極めて特異の構造とすることで、従来簡易建物の骨組みとして使用していた炭素鋼製パイプ材料の使用総量を重量ベースで削減すること、及び、基礎工事自体を不要とするとともに組立作業を簡略化すること、によって建設コストを大幅に低減しつつ、高強度の簡易建物の骨組み構造を提供することを目的として、複数本の湾曲部材が棟木部接手によって平面視X字状正面視アーチ状に接合された骨組みユニットを1単位とする複数単位からなるアーチ材と、前記棟木部接手によって前記アーチ材の頂部において該アーチ材に接合された棟木材と、肩部接手によって前記アーチ材の肩部において該アーチ材に接合された桁材と、からなる簡易建物の骨組み構造において、前記アーチ材は、隣り合う前記骨組みユニットの前記湾曲部材同士が、前記棟木材と前記桁材との間においてX字状に交差するように配設された簡易建物の骨組み構造を提案する者である。
【特許文献1】特願2006−147473号
【0003】
従来、前述のX字状に交差するアーチ材を接合する接手としては、図7に示される、中央に係止溝を有し、その両側にそれぞれ透孔を穿設したフランジ部を連設形成した2個のバンド金具を対向させて添設固定する筋交い連結用バンドにおいて、一方のバンド金具の係止溝は支柱を収容するための太い係止溝とし、他方のバンド金具の係止溝は筋交いを収容するための細い係止溝とし、かつ両側のフランジ部には前記透孔間を結ぶ線に対して30度の傾きをなす線上に中心を持つ2つの円弧状長孔を対称的に形成し、前記透孔と長孔を貫通する止具によって支柱に筋交いを設定角度に連結する際に微調整できるようにしたこと特徴とするビニールハウスの筋交い連結用バンドが提案されている。
また、上記X字接手として、図8に示される、中心を通って直径方向に延びる溝状受入部11,21の同一円周上で且対称な位置に円弧状の長穴12,22を有する平板状の取付体10,20からなる実質的に同一構造の2つの取付部材1,2からなり、溝状受入部11,12の深さは非固定物である棒状物の直径より若干小さく形成され、互いに接合された状態で両者の相対的固定を阻止するための先端をU字状としたボルト3,4と該ボルトを締着するナットとを備えてなる2本の棒状物を交差して固定する装置が提案されている。
【特許文献2】実公平06−043525号公報
【特許文献3】実公昭53−004011号公報
【0004】
本発明のX字接手は、接合するアーチ材のX字状の交差部の交差角度が、それぞれの交差部において微妙に変化する。
また、接手によって組み上げられたアーチ材に過重がかかったとき、X字状の交差部の交差角度が大小いずれかに変化する大きな力が作用するが、X字接手はこの大きな力に抵抗してアーチ材の変形を防止して簡易建物の剛性を確保する必要がある。
前記特許文献1及び前記特許文献2に記載された発明のX字接手はいずれも、少なくとも一方のバンド金具の両端部には、X字接手の仮想回動軸を中心とする長孔が設けられているから、交差角度の微妙な調整をすることができるものの、このX字接手の仮想回動軸は、アーチ材のX字状の交差部の中心軸と一致しているため、アーチ材に過重がかかったときのアーチ材の交差角度の変化に対して、バンド金具の摩擦抵抗のみで対抗することとなる。
このため、従来のX字接手は、アーチ材に過重がかかったとき、アーチ材の交差角度が比較的容易に変化してしまうから、簡易建物のアーチ材骨組みの剛性を強くすることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の実状に鑑み、本発明は前記従来技術の欠点を克服することを課題とし、アーチ材のX字状交差角度の微妙な調整をすることができるとともに、アーチ材に過重がかかったときのアーチ材の交差角度の変化に対して強力に抵抗して、簡易建物のアーチ材骨組みの剛性を強くすることが可能なX字接手を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、短冊状の鋼板の短手方向に対して所定角度傾斜した溝状受入部を有する同一形状の2枚の鋼板が、該溝状受入部同士が対向して重合されて、その両端部が固定具にて固定されるX字接手であって、前記2枚の鋼板のうちの一方の1端部には円孔が、他端部には前記円孔を中心とする円弧に沿った長孔が穿設されるとともに、前記2枚の鋼板のうちの他方の両端部には前記円孔と前記長孔に対応する位置にそれぞれ円孔が穿設されたX字接手としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るX字接手は、2枚の鋼板に1端に設けられた円孔を中心とする円弧に沿った長孔を1つだけ設けて、接手の仮想回動軸とアーチ材の仮想回動軸の位置をずらすことによって、アーチ材のX字状交差角度の微妙な調整をすることができるとともに、アーチ材に過重がかかったときのアーチ材の交差角度の変化に対して強力に抵抗して、簡易建物のアーチ材骨組みの剛性を強化することが可能なX字接手を提供することができる。
【実施例】
【0008】
図1は、簡易建物の骨組み構造の実施例の斜視図、図2は、同側面図、図3は、簡易建物の骨組みの骨組みユニットを示す図である。図4は、棟木材とアーチ材を接合する3層交差管接手を示す図面、図5は、本発明に係るアーチ材同士をX字状に接合するX字接手を示す図、図6は、水平の桁材と垂直からやや傾いたアーチ材を接合する十字接手を示す図である。図7、8は、それぞれ従来のX字接手を示す図である。
【0009】
図1乃至図6を参照して、簡易建物の骨組み構造の実施例について詳細に説明する。
1は、一般構造用炭素鋼管から組成された簡易建物の骨組み構造を表わすものであり、通常この骨組みには、ビニル系、ポリオレフィン系、フッ素系等のフィルム、シート、防虫ネット等の被覆材が被覆されて、温室、サクランボハウス、畜舎、露地野菜用防虫ハウス、倉庫等の簡易な建物として利用される。
【0010】
2は、正面視左右対称形状の湾曲部材である2本の湾曲した鋼管パイプ2a、2bを公知の接手によって接合した逆U字状の端部アーチ部材であり、簡易建物の棟方向両端部において、梁間方向に配されている。この実施例では、所定の間隔をあけて2本の端部アーチ部材2が、建物両端部にそれぞれ設置されて端部アーチ材を構成しているが、その数は1本でも、3本でもよい。
【0011】
3は、図3に示されるように、平面視X字状に、正面視アーチ状となるように、図4に示される棟木部における3層交差管接手11によって接合された骨組みユニットである。
この棟木部における3層交差管接手11は、上段に棟木材5に固定される棟木固定部12と、該棟木固定部の下方にボルト等の固定具15にて連結され、後述する4本の鋼管パイプの一端を開口部から挿入固定して立体的に交差接合するX字接続管16とから構成されている。
棟木固定部12は、棟木5に固定される半円形湾曲板13と、X字接続管16と固定具15にて回動自在に一体化された取付板14とから構成されており、鋼板を折曲げ加工して形成されたものである。
半円形湾曲板13は、正面視逆U字状を呈し、側板の下端部には内方及び上方へ折曲げられて溝131が形成されている。この溝の底面は、図5において手前側ほど低くされていて、いわばテーパー状溝によるクサビが構成されている。そしてこの溝131には後述する取付板14の脚部142の突起143が係合する係合凹部132が形成されている。
取付板14は、平板の両端に下方に延びる脚142を有する断面コ字状の板材で、該脚の中央部に上記係合凹部132に係合する突起143が設けられている。取付板14の長手方向に沿って棟木5を収容する収容部141が凹設されており、その中央に固定具15の頂部が収容部141底面と面一とされて臨んでいる。
X字接続管16は、2本の接続管17、18がX字状に重なって立体的に交差しており、上記取付板14とともにボルト、ナット等の固定具15にて一体化されている。
【0012】
骨組みユニット3は、上述の端部アーチ材用の鋼管パイプ2a、2bと同じ高さで、正面視したときの幅がやや広く、平面視して斜めに配置したときに端部アーチ材用の鋼管パイプの形状と同じになる、正面視左右対称形状の4本の湾曲した鋼管パイプ3a、3b、3c、3dの先端を、上述のX字接続管16に挿入固定して交差状に組み立てられている。
このとき、X字接続管16には取付板14が固定されているので、棟木5を挟持した状態で上記半円形湾曲板13の溝134に取付板14の脚141を当接し、半円形湾曲板13を棟木5に沿って滑らせて、棟木5と骨組みユニット3とを接合する。
このようにして組み立てられた骨組みユニット3は、平面視してX字状を、正面視してアーチ状を呈する。
この実施例では、4本の湾曲した鋼管パイプ3a、3b、3c、3dにて骨組みユニット3を構成したが、この実施例に限らず、それ自体アーチ形状をした2本の湾曲部材を上記のものとは異なるX字接手により立体的に交差した状態に接合してもよい。
【0013】
4は、図1に示されるように、連続的に設置されたものの一つ置きのX字状骨組みユニット3に取り付けられるタイバーである。このタイバーは、骨組みユニット3の平面視右側に位置する湾曲部材3a、3dを連結している。
なお、タイバー4の取り付け方については、全ての骨組みユニット3に取り付けてもよい。また、骨組みユニット3の左側、あるいは両側に取り付けることも可能である。要するに、風の強さや降雪量等の地域特性を考慮して決定すればよい。
5は、上記端部アーチ材と上記アーチ材の頂部に接合された棟木、6、7は、該両アーチ材の肩部、柱部下端部に接合された桁材、裾材である。
【0014】
以下、上述の端部アーチ材、アーチ材、棟材、桁材、裾材の具体的な設置例について説明する。
間口6m、地表面より桁材までの柱高2mの端部アーチ部材2aは、簡易建物の棟方向両端に1本ずつ、その内側に0.45〜0.55m間隔を設けてもう1本ずつ建て込まれ、柱部下端部が土中に挿入されて立設され、端部アーチ材2を構成している。
その中間には、複数単位の骨組みユニット3が連続的に0.8〜0.9mスパンで建て込まれているが、図1に示されるように、隣り合う骨組みユニット3、例えば図2に示される3の1と3の2の湾曲部材同士3aと3c、3dと3bは、棟木材5と桁材6との間において、X字接手21によって重なって交差するように配設され、また、一つ置きの骨組みユニット3、例えば3の1と3の3の湾曲部材の柱部下端同士が、略近接して位置するように配設され、その下端部が土中に挿入されている。
【0015】
図5を参照して、X字接手21について説明する。
図5(b)は、パイプ3a、3cを実装した平面図である。
X字接手21は、短冊状の鋼板を折曲加工して形成されていて、短手方向に対して所定角度である20°傾斜した溝状受入部23を有している同一形状の2枚の鋼板22、22を、該溝状受入部23、23同士を対向させて重合して、図示しないボルト、蝶ナット等の固定具にて固定されている。
前記2枚の鋼板のうちの一方22の1端部には円孔24が、他端部には前記円孔24を中心とする円弧に沿った長孔26が穿設されている。
そして、前記2枚の鋼板のうちの他の鋼板22の両端部には、前記円孔24と前記長孔26に対応する位置にそれぞれ円孔25,27が穿設されている。
円孔27は、鋼管パイプ3a、3cが40度の角度で交差するとき、長孔26の中心に位置するよう設定されている。
一方の鋼板22は、他の鋼板22に対して円孔24、25を貫通するボルト等の固定具を中心として±5度程度回動し得るから、鋼管パイプ3a、3c同士の交角が多少変化しても、鋼板22を相互に回動することにより微調整可能である。
【0016】
次いで肩部における十字接手31について、図76参照して説明する。
図6(a)は正面図、図6(b)は平面図、図6(c)は側面図である。
この肩部における十字接手31は、前記アーチ材2、3の肩部及び裾部において、桁材6または裾材7と該アーチ材とを、アーチ材がやや傾斜した十字状に接合する接手である。肩部における十字接手と裾部における接手とは構造が同一であるので、以下、肩部における十字接手について説明する。
十字接手31は、短冊状の鋼板を折曲加工して形成されるもので、水平方向に伸びる桁材6または裾材7を収容する半円形湾曲板32と、その側板35に形成された開口部33に挿通され、アーチ材2または端部アーチ材を収容するU字状係合片34と、半円形湾曲板32の側板下端に形成された内方折曲片37と鋼管パイプの間隙に打ち込まれる楔片38とから構成されている。
半円形湾曲板32に形成された開口部33の幅は、上記U字状係合片34の幅より大きくされて、開口部33の上縁には、U字状係合片34の端縁を直交方向と±10度の範囲で回動して、任意の角度で受け入れる係合凹部39が刻設されている。
また、U字状係合片34の上縁部には、桁材等6(7)を受け入れる円弧状凹部40が設けられている。
桁材6と裾材7は、この肩部接手31と同様の構造の裾部接手により、上記アーチ材2、3に固定される。
【0017】
以上の説明から明らかなように、この実施例の簡易建物の骨組み構造によれば、棟部において、4本の鋼管パイプをX字接続管16にて一体化して骨組みユニット3を構成し、この骨組みユニット3を半円形湾曲板13と取付板14にて棟木5に固定し、棟木5と桁材6の中間部位において、X字接手21にて隣り合う骨組みユニットのアーチ材同士を接合して、肩部において1つ置きに隣り合う骨組みユニット3のアーチ材同士を近接させて桁材6と接合して、屋根面を構成している。
屋根面の棟木5と桁材6の間では、棟木5を上弦材とし桁材6を下弦材とするトラスが二重に配置された構造となっており、強度的に優れた架構を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】簡易建物の骨組み構造の斜視図である。
【図2】簡易建物の骨組み構造の側面図である。
【図3】骨組み構造の1単位の骨組みユニットの斜視図である。
【図4】3層交差管接手を示す図面である。
【図5】本発明に係るアーチ材同士をX字状に接合するX字接手を示す図である。
【図6】水平の桁材と垂直からやや傾いたアーチ材を接合する十字接手を示す図である。
【図7】従来例1のX字接手を示す図である。
【図8】従来例2のX字接手を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 簡易建物の骨組み構造
2 端部アーチ材
3 アーチ材
4 タイバー
5 棟木材
6 桁材
7 裾材
9 谷樋
11 3層交差管接手
12 棟木固定部
15 固定具
16 X字接続管
21 X字接手
22 鋼板
23 鋼板
31 十字接手
32 半円形湾曲板
34 U字状係合片
38 楔片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短冊状の鋼板の短手方向に対して所定角度傾斜した溝状受入部を有する同一形状の2枚の鋼板が、該溝状受入部同士が対向して重合されて、その両端部が固定具にて固定されるX字接手であって、
前記2枚の鋼板のうちの一方の1端部には円孔が、他端部には前記円孔を中心とする円弧に沿った長孔が穿設されるとともに、前記2枚の鋼板のうちの他方の両端部には前記円孔と前記長孔に対応する位置にそれぞれ円孔が穿設されたX字接手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−315539(P2007−315539A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147493(P2006−147493)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000218362)渡辺パイプ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】