説明

p型AlGaN層およびIII族窒化物半導体発光素子

【課題】キャリア濃度および発光出力を向上させたp型AlGaN層およびIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】本発明は、マグネシウムをドープしたp型AlGa1−xN層であって、アルミニウム組成比xが0.23以上0.3未満の範囲であり、かつキャリア濃度が5×1017/cm3以上であるか、アルミニウム組成比xが0.3以上0.4未満の範囲であり、かつキャリア濃度が3.5×1017/cm3以上であるか、または、アルミニウム組成比xが0.4以上0.5未満の範囲であり、かつキャリア濃度が2.5×1017/cm3以上であることを特徴とするp型AlGaN層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型AlGaN層に関し、特に、マグネシウムをドープしたアルミニウム組成比が一定であるp型のAlGaN層およびIII族窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、III族窒化物半導体素子を用いた紫外LEDは、液晶のバックライト、殺菌用、照明用白色LEDの励起光源および医療用等の用途に用いられることが期待され、盛んに研究および技術開発が行われている。
【0003】
一般に、半導体の伝導型は添加した不純物の種類により決定される。一例としてAlGaN材料をp型化する場合には、通常、不純物としてマグネシウムが用いられる。このとき、添加されたマグネシウムはアクセプタとして働き、このAlGaN材料は、正孔をキャリアとすることになる。
【0004】
しかし、このようにマグネシウムを不純物として用いてMOCVD(有機金属気相成長)法により半導体層を形成する場合、「ドーピング遅れ」と呼ばれる、不純物が成長中の半導体層に十分に取り込まれない現象が生じる場合がある。
【0005】
この理由の1つとして、半導体層の成長初期段階において、半導体層に供給されるべきマグネシウムが、成長装置および配管の内壁等に付着してしまい、半導体層に十分に供給されないことが挙げられる。
【0006】
これに対し、特許文献1には、半導体層の形成に先立って、成長装置内にマグネシウム含有ガスを供給することによって、上記付着の量を飽和させ、ドーピング遅れを防止する技術が開示されている。
【0007】
また、このような半導体層の成長初期段階におけるドーピング遅れの他、半導体層の成長初期段階以降においても、ドーピング遅れが生じることが知られており、その理由として、例えば、半導体層成長中に供給されるガスの一部が結晶中に取り込まれることにより発生した水素原子が、結晶中の窒素原子と水素結合して電子を放出し、本来ガリウム原子が配置するべき格子位置に配置されたp型不純物であるマグネシウム原子が放出する正孔と結合して電気的に補償し合うため、結果としてp型化のために添加したマグネシウムがアクセプタとして働くのを妨げている点が挙げられる。これは、半導体層中のキャリア濃度の低下を招くことになる。
【0008】
さらに、紫外LEDの短波長化により、活性層のバンドギャップが大きい、高アルミニウム組成比を有するAlGa1−xN材料の需要が高まってきているが、アルミニウム組成比Xが高くなると、マグネシウム自体のイオン化エネルギーも大きくなるため、高いキャリア濃度得ることは困難であった。
【0009】
このようなキャリア濃度の低下は抵抗値を増加させ、これによる発熱等により十分な発光出力を得ることができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−42886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決し、キャリア濃度および発光出力を向上させたp型AlGaN層およびIII族窒化物半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)マグネシウムをドープしたp型AlGa1−xN層であって、アルミニウム組成比xが0.23以上0.3未満の範囲であり、かつキャリア濃度が5×1017/cm3以上であるか、アルミニウム組成比xが0.3以上0.4未満の範囲であり、かつキャリア濃度が3.5×1017/cm3以上であるか、または、アルミニウム組成比xが0.4以上0.5未満の範囲であり、かつキャリア濃度が2.5×1017/cm3以上であることを特徴とするp型AlGaN層。
【0013】
(2)上記(1)に記載のp型AlGa1−xN層を含むIII族窒化物半導体発光素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、後述する新たな製造方法により、上記のような高いキャリア濃度を有するp型AlGaN層を得ることができ、その結果、発光出力を向上させたIII族窒化物半導体発光素子を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に従うp型AlGaN層を製造するためのMOCVD装置の一例の模式図を示す。
【図2】図2は、本発明に従うp型AlGaN層を製造するためのMOCVD装置の成長炉の一例の模式的断面図を示す。
【図3】図3は、本発明の方法および従来の方法によるp型Al0.23Ga0.77N層のXRD回折像を示す。
【図4】図4(a),(b)は、それぞれ本発明の方法および従来の方法によるp型Al0.23Ga0.77N層のTEM観察像を示す。
【図5】図5(a),(b)は、それぞれ本発明の方法および従来の方法によるp型Al0.23Ga0.77N層の最表層の微分干渉式顕微鏡写真を示す。
【図6】図6は、本発明に従うIII族窒化物半導体発光素子の模式的断面図を示す。
【図7】図7は、実施例9の発光素子のp型Al0.36Ga0.64N層のSIMSプロファイルを示す。
【図8】図8は、比較例6の発光素子のp型Al0.36Ga0.64N層のSIMSプロファイルを示す。
【図9】図9は、本発明の方法および従来の方法によるp型AlxGa1-xN層の比抵抗値より算出したキャリア濃度をまとめたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明のp型AlGaN層の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に従うp型AlGaN層を製造するためのMOCVD装置の一例を示す模式的断面図である。このMOCVD装置100は、第1ガス供給口101および第2ガス供給口102を有する反応炉103を具える。第1ガス供給口101からは、水素ガス104や窒素ガス105等のキャリアガス、および、TMA(トリメチルアルミニウム)106およびTMG(トリメチルガリウム)107等のIII族原料ガスおよび/または不純物原料ガスとしてのマグネシウム含有ガス108等が、反応炉103に供給される。一方、第2ガス供給口102からは、水素ガス104や窒素ガス105等のキャリアガス、および、アンモニア等のV族原料ガス109が、反応炉103に供給される。
【0017】
本発明に従うp型AlGaN層の製造方法は、上述したようなMOCVD装置100を用いて、マグネシウムをドープしたアルミニウム組成比xが一定であるp型AlGa1−xN(0≦x<1)を形成するにあたり、III族原料ガスをIII族原料ガス流量A(0≦A)で供給するとともに、V族原料ガスをV族原料ガス流量B(0<B)で、かつマグネシウムを含むガスをMg含有ガス流量C(0<C)で供給する第1工程と、III族原料ガスをIII族原料ガス流量A(0<A)で供給するとともに、V族原料ガスをV族原料ガス流量B(0<B)で、かつマグネシウムを含むガスをMg含有ガス流量C(0<C)で供給する第2工程とを複数回繰り返すことによりp型AlGa1−xN層を形成し、前記III族原料ガス流量Aはp型AlGa1−xN層を層成長させない流量であって、A≦0.5Aであることを特徴とすることにより、p型AlGaN層のキャリア濃度および発光出力を向上させることができるものである。
【0018】
ここで、III族原料ガス流量Aがp型AlGaN層を層成長させない流量である場合とは、実質的に層として厚さが増えないことを意味し、全くp型AlGaNの成長が起こらないものから、p型AlGaNの初期の結晶核(たとえば島状結晶)の成長は起こるが実質的に層として厚さが増えないものまでを含む。すなわち、Aが、p型AlGaNの成長が全く起こらない流量である場合(少なくともA=0の場合、これに該当する。)と、p型AlGaNの初期核のみを成長させる流量である場合(少なくともA>0となる。)とを含む。このようなIII族原料ガス流量Aは少なくとも0≦A≦0.5Aの関係を満たす。また、第1工程は、層が成長しない状態を意図した期間維持することを意味する。このとき、V族原料ガス流量BおよびMg含有ガス流量Cは、III族原料ガスが供給されさえすれば、層が成長する流量またはそれ以上の流量であることが好ましい。つまりB≧BおよびC≧Cであることが好ましい。窒素抜けを予防し、層成長が止まっている間に多くのMgを系内に供給するためである。
【0019】
また、III族原料ガスとして、例えばTMA(トリメチルアルミニウム)およびTMG(トリメチルガリウム)等の2種のガスを供給する場合には、III族原料ガス流量Aは、これらガスの総量を表わすものとする。
【0020】
なお、前記アルミニウム組成比が一定とは、第1工程と第2工程との繰返し回数に関わらず、各回の第2工程により成長する層部分のアルミニウム組成比xが変化しないことをいう。すなわち、繰返しの各回のガス流量Aは、同じ流量としていることを意味するものである。ただし、SIMSによるアルミニウム量の測定においては、その分析原理上、組成比が深さ方向に変動する。また、エピタキシャル成長時に装置起因で発生する層内でのアルミニウム組成比の揺らぎや面内の分布等があって良い。これらは従来の方法でも発生するためである。なお、本発明でのアルミニウム組成とは基板中央部での値である。
【0021】
図3は、本発明の方法による、p型Al0.23Ga0.77N層(III族原料ガスの変調供給:本発明の形態)および従来の方法によるp型Al0.23Ga0.77N層(III族原料ガスの変調供給なし:従来の形態)のX線回折(XRD)像を示したものであり、表1は結晶品質の指標となる、ミラー指数[002]と[102]における代表値を示す。前者は初期核の成長軸方向に対する「傾き」を、後者はその成長面内方向に対する「ねじれ」の度合いを示す。また、図4(a)、(b)は、それぞれ本発明の方法と従来の方法によるp型Al0.23Ga0.77N層の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像を示したものであり、図5(a),(b)は、それぞれ本発明の方法と従来の方法によるp型Al0.23Ga0.77N層の最表層の電子線回折パターンを示したものである。
【0022】
【表1】

【0023】
図3および図4に示すように、巨視的なXRDスペクトルにおいて本発明の方法は従来の方法と同等であり、微視的なTEM像と、その電子線回折パターンからは、結晶成長上の周期的な乱れは観察されなかった。したがって、いずれも単一の単結晶層として成長していることが分かる。なお、図3のXRDスペクトルにおいて、従来の形態で75°近傍に見られる、異軸成分を起源とする2本のピークが存在していたが、本発明の方法ではこれらが消失しており、表1に示すミラー指数[002]における代表値が低減していることからも、本発明は結晶性の向上にも寄与していることが分かる。なお、表1から、初期核の成長面内方向に対する「ねじれ」成分には大差がないが、成長軸方向に対する「傾き」が減少していることがわかる。このことから、異軸成分が減少し、初期核として成長方向への配向性が向上していることがわかる。
【0024】
本発明に従うp型AlGaN層の製造方法について記述する。まず、図2に示すように、反応炉103内のサセプタ110上に下地基板111を載置する。下地基板111としては、例えばGaN基板、サファイア基板およびサファイア基板上にAlN層を設けたAlNテンプレート基板等を用いてもよいし、これらの基板上に半導体層を積層したものでもよい。
【0025】
次いで、第1工程として、この反応炉103内に、第2ガス供給口102から水素ガス104や窒素ガス105等のキャリアガス、およびアンモニア等のV族原料ガス109を、第1ガス供給口101から層成長しない流量でまたは初期核成長のみを起こす流量でIII族原料ガスを供給する。これらの原料ガスとともに、マグネシウムを含むガス108を供給する。このときのV族原料ガス109は、反応炉103内の窒素分圧の低下を抑制し、結晶成長する最表面の保護のために供給されるものである。なお、マグネシウム含有ガス108としてはCPMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)等を用いることができる。
【0026】
所定時間経過後、第2工程として、第1ガス供給口101から層成長する流量でIII族原料ガスを供給する。この原料ガスとともに、マグネシウムを含むガス108を供給する。また、第2ガス供給口102から層成長する流量でV族原料ガス109を共に供給する。なお、第1工程を持続させる上記「所定時間」は、5秒以上60秒以下程度とすることが好ましい。所定時間が短すぎると、本発明の効果を十分に得ることできず、所定時間が長すぎても、Mgの取り込みが過剰となり、後の結晶成長時にMgが欠陥発生起点となり、結晶性が悪くなったり、キャリア濃度が下がったりする可能性があるからである。
【0027】
本発明に従うp型AlGaN層の製造方法は、MOCVD法を用いて、マグネシウムをドープした一つのp型AlGaN層(0≦x<1)を形成するにあたり、III族原料ガスをIII族原料ガス流量A(0<A)で供給するとともに、V族原料ガスをV族原料ガス流量B(0<B)で、かつマグネシウムを含むガスをMg含有ガス流量C(0<C)で供給する第1工程と、III族原料ガスをIII族原料ガス流量A(0<A)で供給するとともに、V族原料ガスをV族原料ガス流量B(0<B)で、かつマグネシウムを含むガスをMg含有ガス流量C(0<C)で供給する第2工程とを行うことにより前記p型AlGa1−xN層を形成し、前記III族原料ガス流量Aはp型AlGa1−xN層の初期核のみを成長させる流量であって、A≦0.5Aであることを特徴とすることにより、反応炉103や配管等の表面に予めマグネシウムを多く被覆させることができ、これにより成長初期のAlGaN層中のマグネシウム濃度の低下、すなわちドーピング遅れを抑制することができる。ここで、初期核のみを成長させる流量とは、たとえば島状の初期の結晶核は形成されるが、実質的に層として厚さが増えない状態となる流量をいう。このようなIII族原料ガス流量Aは少なくとも0<A≦0.5Aの関係を満たす。なお、本発明において、初期核のみが成長していることは、第1工程までで成長を中断した基板表面を、金属顕微鏡またはSEMにより表面観察することで基板表面に分散する島状の初期核を確認することができる。
【0028】
また、III族原料ガスとして、例えばTMA(トリメチルアルミニウム)およびTMG(トリメチルガリウム)等の2種のガスを供給する場合には、III族原料ガス流量Aは、これらガスの総量を表わすものとする。
【0029】
前記第1工程におけるV族原料ガス流量Bは、前記第2工程におけるV族原料ガス流量Bと等しく、および/または前記第1工程におけるMg含有ガス流量Cは、前記第2工程におけるMg含有ガス流量Cと等しくするのが好ましい。すなわち、V族原料ガス流量は一定のままで、第1工程におけるIII族原料ガスの流量AまたはAと、第2工程におけるIII族原料ガスの流量Aとを異なる流量とするのが好ましい。
【0030】
成長中のAlGaN層の表面にマグネシウムを付着させることにより、横方向成長が優位となり、成長軸方向の結晶成長速度が低下する。これにより、局所領域における初期核(3次元)成長が発生する頻度が高まることで、実効的な表面積の向上ならびに、原子のマイグレーションを抑制するためにマグネシウムの取り込み頻度が向上する。したがって、物理的な付着によるマグネシウムの強制的な取り込み、および成長速度の低下によるマグネシウムの取り込み頻度の向上によって、AlGaN層中のマグネシウム濃度が向上する。
【0031】
また、この効果は、一時的なものであるから、上述した第1工程および第2工程を複数回繰り返すことによってAlGaN層中のマグネシウム濃度を安定して高い濃度に維持することができる。1つの層を成長させるのに繰り返し上述した第1工程と第2工程とを行うことにより、たとえばマグネシウム自体のイオン化エネルギーが大きくなりマグネシウム濃度が低下するアルミニウム組成比が0.15以上のp型AlGaN層であっても、従来よりもマグネシウム濃度が高いp型AlGaN層を製造することができるようになる。
【0032】
また、本発明に従うp型AlGaN層の製造方法は、特に、上述のようなMOCVD装置100を用いて、マグネシウムをドープした一つのp型AlGaN層を形成するにあたり、III族原料ガスの流量を初期核成長のみとなる量にまで減らして、III族ガスおよびV族原料ガスとマグネシウムを含むガスとを供給する工程を、結晶成長の起きる流量でIII族およびV族原料ガスとマグネシウムを含むガスとを共に供給する工程の前に行うことにより、p型AlGaN層のマグネシウムドープ量を維持させることができるものである。
【0033】
初期核成長時に強制的にMgを十分に含んだ部分を形成することで、その後に供給される原料は横方向拡散が優位となるため、成長軸方向の結晶成長速度は低下する。すなわち、拡散分子がステップ端に取り込まれる確率が増加するために、平坦な層形成が促進される(サーファクタント効果)。しかしながら、この効果は一時的なものであり、しばらくステップフロー成長(横方向成長)が続いた後、再度凹凸の起源である初期核を形成し始める。これに伴う表面積の増大によって、Mg自身の面内拡散が抑制され、Mgの層内への取り込み頻度が向上するために、AlGaN層中のマグネシウム濃度が向上する。
【0034】
このため、本発明のIII族原料ガスの流量を初期核成長のみとなる量にまで減らして、III族ガスおよびV族原料ガスとマグネシウムを含むガスとを供給する工程を設けることで、Mgの取りこみを向上させるとともに、横方向成長により結晶性を向上させることができるものである。
【0035】
第1工程におけるIII族原料ガス流量(AまたはA)と第2工程におけるIII族原料ガス流量Aとは異なり、第1工程におけるIII族原料ガス流量は、第2工程におけるIII族原料ガス流量Aの1/2以下とする。より好ましくは1/4以下とする。特に、結晶成長が確認できる範囲での単位時間あたりの層成長厚さ(すなわち、結晶成長速度)からIII族原子量ガスの流量と結晶成長速度との関係を求め(例えばIII族原子量ガス流量10〜30scmmの間で複数の流量と結晶成長速度との関係を線形近似する)、この関係に第1工程におけるIII族原料ガス流量(AまたはA)を外挿したとき、計算上、第1工程における該流量(AまたはA)に対応するp型AlGa1−xN層の結晶成長速度が0.03nm/s以下となる流量が好ましく、0.01〜0.03nm/sとなる流量とするのがより好ましい。なお、第1工程と第2工程におけるIII族原料ガス流量の内訳(GaとAl比)は必ずしも比例倍的な関係である必要はない。すなわち、第1工程で生成する初期核のAl組成と第2工程で生成するAl組成は同一である必要はない。これは当該発明の効果を最大にするため、第1工程で形成される初期核にMgを最大限に含ませるためや、第2工程で形成される結晶膜の結晶性などを向上させるためである。なお、同一でなくても、当該第1工程で形成される初期核は、第2工程で形成される結晶膜にくらべて膜厚としては無視できることより、当該発明の形態において得られる結晶層はAl組成として一定とみなすことができる。そして、計算上の成長速度が0.01〜0.03nm/sとなる場合には、基板表面のIII族原料の存在確率が小さいため、例えば島状の初期核が発生するのみであり、長時間でも実質的に層として厚さが増えない。なお、第1工程におけるIII族原料ガス流量が、計算上0.01nm/s未満となる流量の場合は、初期核の成長と分解とで後者が支配的となり、p型AlGaNの成長は起こらない。
【0036】
MOCVD装置の形状や、温度、V族原料ガスの流量によって、初期核成長しか起きないIII族原料ガスの流量は変化するため、一概に規定できないが、第1工程におけるIII族原料ガス流量(AまたはA)は、例えば、第2工程におけるIII族原料ガス流量Aが20〜50sccmに対して、1〜10sccmとするのが好ましい。また、第1工程および第2工程における、V族原料ガス流量BおよびBは、例えば5〜50slm(Standard Liter per Minutes)とすることができる。また、第1工程および第2工程における、Mg含有ガス流量CおよびCは、例えば20〜200sccmとすることができる。
【0037】
第1工程において、III族原料ガスを全く流さない場合(A=0sccm)も、初期核成長のみとなるようにIII族原料ガスを流す場合(A,A=1〜10sccm)も、第1工程と第2工程を複数回繰り返すことで、AlGaN層中のマグネシウム濃度を安定して高い濃度に維持することができる。ただし、初期核成長を起こさせる方が、結晶性の向上効果が得られやすいためより好ましい。
【0038】
以上の本発明の方法により、マグネシウム濃度が高く、かつ結晶性が向上したp型AlGaN層を製造することができる。
【0039】
また、p型AlGaN層のアルミニウム組成比は、0〜0.8とすることができる。なお、アルミニウム組成比xは、フォトルミネッセンスにおける発光波長を測定し、フォトルミネッセンスにおける発光波長から、Yun F. etal, J. Appl. Phys. 92,4837(2002)に記載されたボーイングパラメータを用いて変換して求めることができる。
【0040】
続いて、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明に従うIII族窒化物半導体発光素子200は、サファイア基板201上にAlN歪緩衝層202を有するAlNテンプレート基板上に、超格子歪緩衝層203、n型AlGaN層204、発光層205、p型AlGaNブロック層206、p型AlGaNガイド層207、p型AlGaNクラッド層208、p型GaNコンタクト層209を具える構成を有することができる。これらp型AlGaN層は、上述した本発明に従うp型AlGaN層の製造方法に従って成長されることができる。
【0041】
また、本発明のp型AlGaN層の製造方法によれば、マグネシウムをドープしたアルミニウム組成比が一定であるp型AlGa1−xN層として、アルミニウム組成比xが0.2以上0.3未満の場合、キャリア濃度が5×1017/cm3以上、好ましくは1×1018/cm3以下であるp型AlGaN層を得ることができる。また、アルミニウム組成比xが0.3以上0.4未満の場合、キャリア濃度が3.5×1017/cm3以上、好ましくは5×1017/cm3以下であるp型AlGaN層を得ることができる。また、アルミニウム組成比xが0.4以上0.5未満の場合、キャリア濃度が2.5×1017/cm3以上、好ましくは3.5×1017/cm3以下であるp型AlGaN層を得ることができる。
【0042】
なお、図1〜6は、代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
実施例1は、図1および図2に示す成長炉内に歪緩衝層を有するAlNテンプレート基板を配置し、10kPa下1050℃へ昇温後、第1工程としてIII族原料ガス(TMG流量:4sccm、TMA流量:5sccm)を流しながら、キャリアガス(NとHの混合、流量:50slm)、V族原料ガス(NH,流量:15slm)、およびCPMgガス(流量:50sccm)を15秒間(供給時間t)供給し、その後、第2工程としてIII族原料ガスの流量のみを変えて、TMG流量を20sccm、TMA流量を25sccmとし、60秒間III族原料ガス、キャリアガス、V族原料ガス、およびCPMgガスを供給(供給時間t)し、これらを交互に120回繰り返すことにより、厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した(なお、上記流量の単位の「sccm」は、1atm(大気圧:1013hPa)、0℃で1分間当たりに流れるガスの量(cm3)を表わしたものである。)。なお、第1工程では初期核は成長するものの層成長はせず、第2工程における結晶成長速度は0.15nm/sであった。また、第1工程のIII族原料ガス流量に対応する、計算上の成長速度は、0.03nm/sであった。
【0044】
(実施例2)
実施例2は、供給時間tを30秒とし、繰り返し回数を240回としたこと以外は、実施例1と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0045】
(実施例3)
実施例3は、供給時間tを45秒とし、繰り返し回数を180回としたこと以外は、実施例1と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0046】
(実施例4)
実施例4は、供給時間tを120秒とし、繰り返し回数を60回としたこと以外は、実施例1と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0047】
(実施例5)
実施例5は、供給時間tを7200秒、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例1と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0048】
(参考例)
参考例は、第1工程としてIII族原料ガスを流さず、初期核も成長しないようにした以外は、実施例5と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0049】
(比較例1)
比較例1は、供給時間tを0秒、供給時間tを7200秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例1と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0050】
(評価1)
これら実施例1〜5、参考例および比較例1について、ランプアニール炉を用いて、窒素雰囲気下中、800℃にて5分間アニールを実施した後、渦電流式シート抵抗測定装置(MODEL1318,LEHIGHTON社製)を用いて、p型AlGaN層の面内比抵抗を測定した。これらの値から活性化深さを0.5μm、易動度を5として、計算されるキャリア濃度を見積もった結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2から、本発明に従う実施例1〜5は、比較例1よりも比抵抗が減少していることからも確認出来るように、比較例1と比較してキャリア濃度を高める効果があることが分かる。
【0053】
(実施例6)
実施例6は、図1および図2に示す成長炉内に歪緩衝層を有するAlNテンプレート基板を配置し、10kPa下1050℃へ昇温後、第1工程としてIII族原料ガス(TMG流量:5sccm)を流しながら、キャリアガス(NとHの混合、流量:50slm)、V族原料ガス(NH,流量:15slm)およびCPMgガス(流量:50sccm)を15秒間(供給時間t)供給し、その後、第2工程としてIII族原料ガスの流量のみを変え、TMG流量を20sccmとして60秒間III族原料ガス、キャリアガス、V族原料ガス、およびCPMgガスを供給(供給時間t)し、これらを交互に120回繰り返すことにより、厚さ1080nmのp型GaN層を形成した。なお、第1工程では初期核は成長するものの層成長はせず、第2工程における結晶成長速度は0.15nm/sであった。また、第1工程のIII族原料ガス流量に対応する、計算上の成長速度は、0.02nm/sであった。
【0054】
(実施例7)
実施例7は、図1および図2に示す成長炉内に歪緩衝層を有するAlNテンプレート基板を配置し、10kPa下1050℃へ昇温後、第1工程としてIII族原料ガス(TMG流量:2sccm、TMA流量:5sccm)を流しながら、キャリアガス(NとHの混合、流量:50slm)、V族原料ガス(NH,流量:15slm)、およびCPMgガス(流量:50sccm)を15秒間(供給時間t)供給し、その後、第2工程としてIII族原料ガスの流量のみを変え、TMG流量を20sccm、TMA流量を45sccmとして60秒間III族原料ガス、キャリアガス、V族原料ガス、およびCPMgガスを供給(供給時間t)し、これらを交互に120回繰り返すことにより、厚さ1080nmのp型Al0.36Ga0.64N層を形成した。なお、第1工程では初期核は成長するものの層成長はせず、第2工程における結晶成長速度は0.15nm/sであった。また、第1工程のIII族原料ガス流量に対応する、計算上の成長速度は、0.02nm/sであった。
【0055】
(実施例8)
実施例8は、第1工程としてIII族原料ガス(TMG流量:2sccm、TMA流量:6sccm)を流しながら、キャリアガス(NとHの混合、流量:50slm)、V族原料ガス(NH,流量:15slm)、およびCPMgガス(流量:50sccm)を15秒間(供給時間t)供給し、その後、第2工程としてIII族原料ガスの流量のみを変え、TMG流量を20sccm、TMA流量を65sccmとして60秒間III族原料ガス、キャリアガス、V族原料ガス、およびCPMgガスを供給(供給時間t)し、これらを交互に繰り返したこと以外は、実施例7と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.43Ga0.57N層を形成した。なお、第1工程では初期核は成長するものの層成長はせず、第2工程における結晶成長速度は0.15nm/sであった。また、第1工程のIII族原料ガス流量に対応する、計算上の成長速度は、0.02nm/sであった。
【0056】
(比較例2)
比較例2は、供給時間tを0秒、供給時間tを7200秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例6と同様の方法により厚さ1080nmのp型GaN層を形成した。
【0057】
(比較例3)
比較例3は、供給時間tを0秒、供給時間tを7200秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例1と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.23Ga0.77N層を形成した。
【0058】
(比較例4)
比較例4は、供給時間tを0秒、供給時間tを7200秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例7と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.36
Ga0.64N層を形成した。
【0059】
(比較例5)
比較例5は、供給時間tを0秒、供給時間tを7200秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例8と同様の方法により厚さ1080nmのp型Al0.43
Ga0.57N層を形成した。
【0060】
(実施例9)
図6に示すように、サファイア基板上にAlN歪緩衝層を有する、AlNテンプレート基板上に、超格子歪緩衝層(AlN/GaN,層厚:600nm)、n型Al0.23Ga0.77N層(層厚:1300nm)、発光層(AlInGaN,層厚:150nm)、p型Al0.36Ga0.64Nブロック層(層厚:20nm)、p型Al0.23Ga0.77Nクラッド層(層厚:180nm)、p型GaNコンタクト層(層厚:20nm)をMOCVD法により成長させ、III族窒化物半導体発光素子を形成した。
ここで、p型Al0.36Ga0.64Nブロック層は、供給時間tを15秒、供給時間tを45秒とし、繰り返し回数を3回としたこと以外は、実施例7と同様の方法により形成した。
【0061】
(実施例10)
実施例10は、図6に示すように、サファイア基板上にAlN歪緩衝層を有する、AlNテンプレート基板上に、超格子歪緩衝層(AlN/GaN,層厚:600nm)、n型Al0.23Ga0.77N層(層厚:1300nm)、発光層(AlInGaN,層厚:150nm)、p型Al0.43Ga0.57Nブロック層(層厚:20nm)、p型Al0.23Ga0.77Nクラッド層(層厚:180nm)、p型GaNコンタクト層(層厚:20nm)をMOCVD法により成長させ、III族窒化物半導体発光素子を形成した。
ここで、p型Al0.43Ga0.57Nブロック層は、供給時間tを10秒、供給時間tを45秒とし、繰り返し回数を3回としたこと以外は、実施例8と同様の方法により形成した。
【0062】
(比較例6)
比較例6は、供給時間tを0秒、供給時間tを135秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例9と同様の方法によりp型Al0.36Ga0.44Nブロック層を有するIII族窒化物半導体発光素子を形成した。
【0063】
(比較例7)
比較例7は、供給時間tを0秒とし、供給時間tを135秒とし、繰り返し回数を1回としたこと以外は、実施例10と同様の方法によりp型Al0.43Ga0.57Nブロック層を有するIII族窒化物半導体発光素子を形成した。
【0064】
(評価2)
実施例9および比較例6について、SIMS(二次イオン質量分析計)を用いて、発光素子中のp型AlGaNブロック層中のマグネシウム濃度を測定した結果をそれぞれ図7および図8に示す。
【0065】
また、評価1と同様に、p型AlGaN単膜層の比抵抗値によるキャリア濃度を求めた。これらの結果を表3と図9に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3から、本発明に従う実施例6、1、7および8は、同じAl組成の比較例2、3、4および5と比較して、それぞれマグネシウムの濃度が高いことがわかる。このことは、実効的なキャリア濃度の増加に繋がることから、比抵抗率の低減も見られている。
【0068】
(評価3)
さらに、これら実施例9、10および比較例6、7について、マルチチャネル型分光器(C10082CAH,浜松ホトニクス社製)を用いて、裏面出射のEL出力測定を実施した。これらの結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4から、本発明に従う実施例9は、比較例6と比較し、EL出力が大幅に向上していることが分かる。また、より高Al組成比である実施例10においても、比較例7と較べて出力向上の効果が確認できる。これらの結果は、表4から明らかなように、実効キャリア濃度の増加に伴い、通電状況が改善したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、後述する新たな製造方法により、上記のような高いキャリア濃度を有するp型AlGaN層を得ることができ、その結果、発光出力を向上させたIII族窒化物半導体発光素子を提供することができたものである。
【符号の説明】
【0072】
100 MOCVD装置 101 第1ガス供給口
102 第2ガス供給口 103 成長炉
104 水素ガス 105 窒素ガス
106 TMA 107 TMG
108 CPMg 109 アンモニア
110 サセプタ 111 下地基板
112 AlGaN層
200 III族窒化物半導体発光素子 201 下地基板
202 AlN歪緩衝層 203 超格子歪緩衝層
204 n型窒化物半導体層 205 発光層
206 p型AlGaNブロック層 207 p型AlGaNガイド層
208 p型AlGaNクラッド層 209 p型GaNコンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムをドープしたp型AlGa1−xN層であって、
アルミニウム組成比xが0.23以上0.3未満の範囲であり、かつキャリア濃度が5×1017/cm3以上であるか、アルミニウム組成比xが0.3以上0.4未満の範囲であり、かつキャリア濃度が3.5×1017/cm3以上であるか、または、アルミニウム組成比xが0.4以上0.5未満の範囲であり、かつキャリア濃度が2.5×1017/cm3以上であることを特徴とするp型AlGaN層。
【請求項2】
請求項1に記載のp型AlGa1−xN層を含むIII族窒化物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−151422(P2011−151422A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97687(P2011−97687)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2010−275128(P2010−275128)の分割
【原出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】