説明

α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物および成形体

【課題】耐磨耗性及び耐衝撃性に優れたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を提供する。
【解決手段】α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体の少なくとも1つであるエチレン系共重合体(B)と、を含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体は、一般に「COC」(Cyclo Olefin Copolymer)とも呼ばれ、光学特性(透明性など)や耐熱性に優れることから、主に、光学メモリディスク、光学ファイバー、光学レンズ、表示装置(液晶表示装置等)等における光学部材の用途に用いられている。
【0003】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体やその製造方法については、これまでに種々の検討がなされてきた。
例えば、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体を含む光学フィルムの機械強度や耐熱性を向上させるために、該光学フィルムに、オレフィンの二元又は三元共重合体を特定量含有させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、高屈折率・低アッベ数を有するα−オレフィン・環状オレフィン共重合体及びその製造方法や、該共重合体を含む光学部品についての検討がなされている(例えば、特許文献2参照)。
また、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体の製造方法に関し、特定の重合触媒を用い、高い重合活性で環状オレフィンを効率よく取り込む製造方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、環状オレフィンを溶液重合法等により開環メタセシス重合させるにあたり、反応原液を不活性ガス雰囲気下に調製する方法も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−233533号公報
【特許文献2】特開2010−241932号公報
【特許文献3】特許4472409号公報
【特許文献4】国際公開第01/032739号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、(例えば、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体を新たな用途に用いる場合に、)α−オレフィン・環状オレフィン共重合体やその成形体の耐磨耗性及び耐衝撃性を向上させることが求められることがある。
しかし、一般に、樹脂にゴム状の成分を添加する等して樹脂の耐衝撃性を向上させようとすると、耐衝撃性は向上するものの耐摩耗性が低下する場合がある。このように、樹脂においては、耐衝撃性と耐磨耗性とを両立させることが困難な場合がある。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、耐磨耗性及び耐衝撃性に優れたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物及びその成形体を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体に、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体のいずれか1つを添加することにより、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体の耐磨耗性及び耐衝撃性の両方が改善されるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成した。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
【0007】
<1> α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体の少なくとも1つであるエチレン系共重合体(B)と、を含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
前記エチレン系共重合体(B)としては、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体の少なくとも一方であることが好ましく、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体がより好ましい。
【0008】
<2> 前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が99質量%〜51質量%であり、前記エチレン系共重合体(B)の含有量が1質量%〜49質量%である<1>に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記エチレン系共重合体(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【0009】
<3> 前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が98質量%〜70質量%であり、前記エチレン系共重合体(B)の含有量が2質量%〜30質量%である<1>又は<2>に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記エチレン系共重合体(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【0010】
<4> 前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)が、エチレン・環状オレフィン共重合体である<1>〜<3>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
【0011】
<5> <1>〜<4>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いてなる成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐磨耗性及び耐衝撃性に優れたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物及びその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物≫
本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体の少なくとも1つであるエチレン系共重合体(B)と、を含む。
本発明において、数値範囲における「〜」は、「〜」の前後の数値を含むことを意味する。
以下、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を「A成分」とも称する。
また、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体のいずれか1つであるエチレン系共重合体(B)を、単に「エチレン系共重合体(B)」または「B成分」とも称する。
【0014】
<α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)>
本発明の組成物は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を少なくとも1種含む。
本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)としては、一般に「COC」(Cyclo Olefin Copolymer)とも呼ばれる公知のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体を特に制限なく用いることができる。公知のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体としては、例えば、特許第4472409号公報、特開2010−241932号公報、特開2008−233533号公報、国際公開第01/032739号パンフレットに記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体を用いることができる。
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の製造方法についても公知の製造方法を用いることができ、例えば、上述の公報に記載の製造方法を用いることができる。
【0015】
中でも、本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)としては、下記一般式(I)で表される構造単位と下記一般式(II)で表される構造単位とを含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体が好ましい。
以下、下記一般式(I)表される構造単位と下記一般式(II)で表される構造単位とを含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体を、「特定環状オレフィン共重合体」ともいう。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(I)で表される構造単位は、環状オレフィンに由来する構造単位である。
一般式(I)中、Rは、置換基Qを有していてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表し、Rは、炭素数2〜10の4価の炭化水素基を表す。ここで、該2価の炭化水素基及び該4価の炭化水素基は、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)によって置換されていてもよい。
一般式(I)では、少なくともRが環状構造を有するか、又は、R及びRによって環状構造が形成されている。
一般式(I)中、Qは、COOR(Rは水素原子又は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表す。Qが複数ある場合はそれぞれが同一でも異なってもよい。)で表される基を表す。
一般式(I)中、nは、0〜20の整数を表す。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(II)で表される構造単位は、α−オレフィンに由来する構造単位である。
一般式(II)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。
【0020】
前記特定環状オレフィン共重合体中における一般式(I)で表される構造単位の含有量(モル%)は、一般式(I)で表される構造単位の含有量と一般式(II)で表される構造単位の含有量との合計を100モル%としたとき、5モル%以上100モル%未満が好ましい。更に、前記一般式(I)で表される構造単位の含有量(モル%)は、5モル%以上85モル%以下がより好ましく、5モル%以上50モル%以下が更に好ましく、10モル%以上40モル%以下が特に好ましい。
【0021】
前記一般式(I)中、Rは、少なくとも1つの環構造を有することが好ましい。
前記一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基が好ましい。
前記一般式(I)中、nは、0であることが好ましい。
【0022】
一般式(II)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが更に好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
が水素原子である場合の特定環状オレフィン共重合体は、エチレン・環状オレフィン共重合体である。
【0023】
前記一般式(I)で表される構造単位は、下記一般式(Ia)で表される構造単位、下記一般式(Ib)で表される構造単位、又は下記一般式(Ic)で表される構造単位であることが好ましい。
前記一般式(I)で表される構造単位としては、下記一般式(Ia)で表される構造単位であることが特に好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
前記一般式(Ia)、前記一般式(Ib)、及び前記一般式(Ic)において、Rは、一般式(I)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記一般式(Ia)において、R11、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。
前記一般式(Ib)において、R21、R22、R23、R24、R25、及びR26は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。
前記一般式(Ic)において、R31、R32、R33、及びR34は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。
【0028】
また、前記一般式(I)、前記一般式(Ia)、前記一般式(Ib)、及び前記一般式(Ic)において、Rは、下記一般式(r1)で表される基であることが特に好ましい。
【0029】
【化6】



【0030】
前記一般式(r1)において、pは、0〜2の整数である。
該pは、1であることが特に好ましい。
前記一般式(r1)において、R41、R42、R43、R44、R45、R46、R47、及びR48は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の1価の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。R45及びR46の少なくとも一方、並びに、R47及びR48の少なくとも一方が炭化水素基であるときは、炭化水素基であるR45及びR46のいずれか一方と炭化水素基であるR47及びR48のいずれか一方とが互いに結合し、環を形成していてもよい。また、R41、R42、R43、及びR44が複数存在する場合には、複数のR41、R42、R43、及びR44は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0031】
以下、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)における環状オレフィンに由来する構造単位(例えば一般式(I)で表される構造単位)を形成するための、環状オレフィン(モノマー)の具体例を示す。但し、本発明は以下の具体例に限定されることはない。

【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)において、共重合の形態には特に限定はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等、公知の共重合の形態が挙げられる。中でも、重合のし易さや工業的な入手のし易さの観点等からは、ランダム共重合体が好ましい。
【0036】
また、前記特定環状オレフィン共重合体の中でも特に好ましい形態は、前記一般式(Ia)で表される構造単位と前記一般式(II)で表される構造単位とを含み、該一般式(Ia)におけるRが前記一般式(r1)で表される基であり、前記Rが水素原子である形態である。
かかる形態の中でも、エチレンに由来する構造単位とテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンに由来する構造単位とを含む共重合体である形態が最も好ましい。
【0037】
特定環状オレフィン共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記一般式(I)で表される構造単位及び前記一般式(II)で表される構造単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。
但し、耐摩耗性及び耐衝撃性の観点からは、その他の構造単位の含有量は、一般式(I)で表される構造単位の含有量と一般式(II)で表される構造単位の含有量との合計を100モル%としたとき、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましく、1モル%以下であることが更に好ましく、0モル%であること(即ち、特定環状オレフィン共重合体がその他の構造単位を含まないこと)が最も好ましい。
【0038】
本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)のメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう)(260℃、荷重2160g)には特に限定はないが、0.01〜150g/10分であることが好ましく、0.1〜100g/10分であることがより好ましく、0.5〜70g/10分であることが特に好ましい。
MFRが0.01g/10分以上であると成形性がより向上し、MFRが150g/10分以下であると、靭性などの機械物性がより向上する。
【0039】
本発明においてメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210−1999に準拠して測定されたメルトフローレート(MFR)を指す。
【0040】
また、本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)のガラス転移温度(T)には特に限定はないが、60〜200℃の範囲であることが好ましく、100〜200℃の範囲であることがより好ましい。
ガラス転移温度が60℃以上であれば、耐熱性がより向上する。また、ガラス転移温度200℃以下であれば成形性がより向上する。
【0041】
上記のようなα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)は、例えば日本ゼオン株式会社より商品名「ZEONEX」或いは商品名「ZEONOR」、JSR株式会社より商品名「ARTON」、ポリプラスチックス株式会社またはTopas Advanced Polymers GmbHより商品名「TOPAS」、三井化学株式会社より商品名「APEL」として、工業的に入手可能である。
【0042】
また、本発明の組成物中におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)(A成分)の含有量(A成分の含有量とB成分の含有量との合計を100質量%としたときのA成分の含有量。以下同じ。)は、A成分の改質という観点では、A成分が主成分であることが好ましく、原理的には100質量%未満、50質量%以上が好ましいが、実用的には99質量%〜51質量%であることがより好ましい。
前記A成分の含有量が99質量%以下であると、耐摩耗性及び耐衝撃性がより向上する。
前記A成分の含有量が51質量%以上であると、A成分(α−オレフィン・環状オレフィン共重合体)の性能(例えば、耐熱性等)がより好適に維持される。
前記A成分の含有量は、98質量%〜70質量%が更に好ましく、98質量%〜80質量%が更に好ましく、98質量%〜90質量%が特に好ましい。
【0043】
<エチレン系共重合体(B)>
本発明の組成物は、エチレン系共重合体(B)を少なくとも1種含む。
前記エチレン系共重合体(B)は、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体(以下、「エチレン系共重合体(B1)」ともいう)、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体(以下、「エチレン系共重合体(B2)」ともいう)、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体(以下、「エチレン系共重合体(B3)」ともいう)の少なくとも1つである。
前記エチレン系共重合体(B)は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)との相溶性(混和性)に優れている。このため、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を含む組成物又は成形体に、前記エチレン系共重合体(B)を含有させることにより、耐摩耗性を顕著に向上させることができる。更に、耐摩耗性に加え、耐衝撃性をも顕著に向上させることができる。
【0044】
(エチレン系共重合体(B1))
前記エチレン系共重合体(B1)(エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体)において、不飽和カルボン酸アルキルエステルにおける不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル(マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等)、無水マレイン酸モノエステル(無水マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸モノエチル等)等の炭素数4〜8の不飽和カルボン酸などが挙げられる。
中でも、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、無水マレイン酸モノエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。
【0045】
本発明において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を表す。
【0046】
前記不飽和カルボン酸アルキルエステルにおけるアルキル部位としては、炭素数1〜12のものを挙げることができ、より具体的には、メチル、エチル、ノルマルプロピル(以下、「n―プロピル」と表示する場合がある)、イソプロピル、ノルマルブチル(以下、「n−ブチル」と表示する場合がある)、イソブチル、セカンダリーブチル(以下、「sec−ブチル」と表示する場合がある)、ターシャリーブチル(以下、「t−ブチル」と表示する場合がある)、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基を例示することができる。
本発明では、不飽和カルボン酸アルキルエステルとして、特にアクリル酸又はメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ノルマルブチルエステル、イソブチルエステルのような(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル(アルキル部位の炭素数1〜6)が好ましい。
【0047】
本発明において、特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(より好ましくはエチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体)であり、とりわけ、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ノルマルブチル共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸ノルマルブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸イソブチル共重合体が好ましい。
中でも、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体が最も好ましい。
【0048】
前記エチレン系共重合体(B1)において、二元共重合体の全質量に対する、不飽和カルボン酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有量には特に限定はないが、5質量%〜50質量%が好ましく、20質量%〜35質量%がより好ましい。
【0049】
前記エチレン系共重合体(B1)は、例えばそれ自体公知の高圧ラジカル共重合により製造される。
【0050】
(エチレン系共重合体(B2))
前記エチレン系共重合体(B2)(エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体)において、不飽和カルボン酸アルキルエステルについては、前記エチレン系共重合体(B1)における不飽和カルボン酸アルキルエステルの例と同様である。
前記エチレン系共重合体(B2)における不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル部位の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜10がより好ましく、2〜8が更に好ましい。
前記エチレン系共重合体(B2)における不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルが特に好ましく、(メタ)アクリル酸ノルマルブチルが最も好ましい。
【0051】
前記エチレン系共重合体(B2)において、共重合比には特に限定はないが、三元共重合体の全質量に対し、不飽和カルボン酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有量が5〜50質量%(より好ましくは20〜40質量%)であり、かつ、一酸化炭素に由来する構造単位の含有量が3〜20質量%(より好ましくは5〜15質量%)であることが好ましい。
【0052】
前記エチレン系共重合体(B2)は、例えばそれ自体公知の高圧ラジカル共重合により製造される。
【0053】
(エチレン系共重合体(B3))
前記エチレン系共重合体(B3)(エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体)において、不飽和カルボン酸アルキルエステルについては、前記エチレン系共重合体(B1)における不飽和カルボン酸アルキルエステルの例と同様である。
前記エチレン系共重合体(B3)における不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル部位の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜10がより好ましく、2〜8が更に好ましい。
前記エチレン系共重合体(B3)における不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルが特に好ましい。
【0054】
前記エチレン系共重合体(B3)において、共重合比には特に限定はないが、共重合比には特に限定はないが、三元共重合体の全質量に対し、不飽和カルボン酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有量が15〜40質量%(より好ましくは20〜35質量%、更に好ましくは25〜35質量%、)であり、かつ、不飽和カルボン酸グリシジルに由来する構造単位の含有量が1〜15質量%(より好ましくは2〜10質量%)であることが好ましい。
【0055】
前記エチレン系共重合体(B3)は、例えばそれ自体公知の高圧ラジカル共重合により製造される。
【0056】
また、本発明におけるエチレン系共重合体(B)(即ち、前記エチレン系共重合体(B1)〜(B3))は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)に対する改質効果を顕著に発揮させる観点から、MFR(190℃、2160g荷重)が0.01〜100g/10分であることが好ましく、1〜50g/10分であることがより好ましい。
【0057】
また、本発明の組成物中におけるエチレン系共重合体(B)(B成分)の含有量(A成分の含有量とB成分の含有量との合計を100質量%としたときのB成分の含有量。以下同じ)は、(A)成分の改質目的から原理的には0質量%超、50質量%以下が好ましいが、実用性の観点からは1質量%〜49質量%であることがより好ましい。
ここで、前記B成分の含有量が1質量%以上であることは、組成物がB成分を積極的に含むことを示しており、これにより、組成物又は成形体の耐摩耗性及び耐衝撃性がより向上する。
前記B成分の含有量が49質量%以下であると、A成分(α−オレフィン・環状オレフィン共重合体)の性能(例えば、耐熱性等)がより好適に維持される。
前記B成分の含有量は、2質量%〜30質量%がより好ましく、2質量%〜20質量%が更に好ましく、2質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0058】
本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、更に、フィラーの少なくとも1種を含有してもよい。該フィラーとしては、有機フィラーでも無機フィラーでもよく、具体的には、強化繊維(ガラス繊維、カーボン繊維など)、ガラスフレーク、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0059】
また、本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、更に、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤を含むことができる。
このような添加剤の例としては、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、粘着剤、顔料、染料、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤などを挙げることができる。また、少量であれば、通常の帯電防止剤を配合することもできる。
【0060】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を得る方法としては、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン系共重合体(B)と、必要に応じて含有されることがあるその他の成分とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサ、ニーダー等で溶融加熱混合する方法等を例示できる。
【0061】
≪成形体≫
本発明の成形体は、本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いて構成される。
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物の成形方法としては、押出成形(溶融押出成形)、射出成形、ブロー成形、延伸成形等、種々の方法が挙げられる。
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を成形する際の成形温度には特に限定はないが、220℃以上が好ましく、230℃〜330℃がより好ましく、250℃〜300℃が特に好ましい。
【0062】
既述のように、本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、耐磨耗性及び耐衝撃性に優れていることから、該組成物を成形して得られた成形体は、天井材、床材等の建築、土木材料;自動車部品;OA機器;電気・電子部品、家電製品部品、またはそれらの保管・収納ケース;文具;日用品などの用途に広く用いることができる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。また、メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210−1999に準拠して測定した。
また、「環状オレフィン含量」、「エチレン含量」、「EA含量」、「nBA含量」、「CO含量」、「GMA含量」は、それぞれ、環状オレフィンに由来する構造単位の含有量、エチレンに由来する構造単位の含有量、エチルアクリレートに由来する構造単位の含有量、ノルマルブチルアクリレートに由来する構造単位の含有量、一酸化炭素に由来する構造単位の含有量、グリシジルメタクリレートに由来する構造単位の含有量を指す。
【0064】
〔実施例1〜3〕
≪α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物の作製≫
下記a−1と、下記b−1、下記b−2、又は下記b−3と、を表1に示す質量比で溶融混合し、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を得た。
【0065】
・a−1 … 三井化学株式会社製、商品名APEL(アペル)6011T(T=105℃、MFR=26g/10分(260℃、荷重2160g))
ここで、アペル6011Tは、エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン二元共重合体である。環状オレフィン含量(共重合体の全量を100モル%としたときの、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンに由来する構造単位の含有量)は20〜30モル%と推定される。
【0066】
・b−1 … エチレン・エチルアクリレート二元共重合体(エチレン含量66質量%、EA含量34質量%、MFR=25g/10分(190℃、2160g荷重))
・b−2 … エチレン・ノルマルブチルアクリレート・一酸化炭素三元共重合体(エチレン含量60質量%、nBA含量30質量%、CO含量10質量%、MFR=10g/10分(190℃、2160g荷重))
・b−3 … エチレン・ノルマルブチルアクリレート・グリシジルメタクリレート三元共重合体(エチレン含量67質量%、nBA含量28質量%、GMA含量5質量%、MFR=12g/10分(190℃、2160g荷重))
【0067】
≪成形体の作製及び評価≫
上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用い、下記の成形体の作製及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0068】
<テーバー磨耗試験>
上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を下記射出成形機に投与し、下記条件にて射出成形し、厚み2mmの成形体とした。得られた成形体から、120mm×80mmのサイズの試験片1を切り出した。
−射出成形機および射出成形条件−
・射出成形機:東芝機械社製、IS−220F
・成形温度:260℃
・金型温度:50℃
【0069】
得られた試験片1を用い、試験片のサイズ及び形状以外はJIS K7204−1999を参考にして、以下のようにしてテーバー磨耗試験により磨耗量を測定した。
まず、上記試験片1の質量を測定し、試験前の質量とした。
次に、質量を測定した試験片1に対し、23℃55%RHの環境下で、テーバー磨耗試験機(株式会社 東洋精機製作所製、ロータリーアブレージョンテスター(Rotary Abrasion Tester)(型式T))を用い、磨耗輪としてH18を用い、荷重1kg、回転速度60rpmで1000回転させてテーバー磨耗試験を行った。
上記のテーバー磨耗試験後に試験片1の質量を測定し、試験後の質量とした。
試験後の質量と試験前の質量との差から、テーバー磨耗試験による試験片1の磨耗量を算出した。更に、後述の比較例1における磨耗量を100%としたときの相対磨耗量(%)を求めた。磨耗量及び相対磨耗量が少ない程、耐摩耗性に優れている。
【0070】
<アイゾット衝撃試験>
上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を下記射出成形機に投与し、下記条件にて射出成形し、12.7mm×64mm×厚み3.2mmの試験片2(角板シート;成形体)を得た。
別途、上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を下記射出成形機に投与し、下記条件にて射出成形し、12.7mm×64mm×厚み6.4mmの試験片3(角板シート;成形体)を得た。
−射出成形機および射出成形条件−
・射出成形機:東芝機械社製、IS−220F
・成形温度:260℃
・金型温度:50℃
【0071】
上記試験片2及び3のそれぞれについて、株式会社オリエンテック社製、恒温槽付自動化アイゾット衝撃試験機(MODEL CIB-80 I−AT)を用い、試験片のサイズ以外はJIS K7110−1999に準拠して、23℃におけるアイゾット衝撃強度(単位kJ/m)を測定した。このアイゾット衝撃強度が高い程、耐衝撃性に優れている。
【0072】
〔比較例1〕
実施例1において、b−1を用いずa−1のみを用いて成形体を作製したこと以外は実施例1と同様にして成形体の作製及び評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0073】
〔比較例2〜5〕
≪α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物の作製≫
前述のa−1と、下記c−1、下記c−2、下記c−3、又は下記c−4と、を表1に示す質量比で溶融混合し、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を得た。
【0074】
・c−1 … エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量85質量%、メタクリル酸含量15質量%、MFR=290g/10分(190℃、2160g荷重))のカリウムアイオノマー〔MFR=1g/10分(190℃、2160g荷重)、中和度85%〕
・c−2 … エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量85質量%、メタクリル酸含量15質量%、MFR=60g/10分(190℃、2160g荷重))の亜鉛アイオノマー〔MFR=1g/10分(190℃、2160g荷重)、中和度60%〕
・c−3 … エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量91質量%、メタクリル酸含量9質量%、MFR=10g/10分(190℃、2160g荷重))の亜鉛アイオノマー〔MFR=6g/10分(190℃、2160g荷重)、中和度15%〕
・c−4 … エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量85質量%、メタクリル酸含量15質量%、MFR=60g/10分(190℃、2160g荷重))のナトリウムアイオノマー〔MFR=1g/10分(190℃、2160g荷重)、中和度60%〕
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(a−1)のみを用いた比較例1の成形体に対し、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(a−1)と、エチレン・エチルアクリレート二元共重合体(b−1)、エチレン・ノルマルブチルアクリレート・一酸化炭素三元共重合体(b−2)、又は、エチレン・ノルマルブチルアクリレート・グリシジルメタクリレート三元共重合体(b−3)と、の組成物を用いた実施例1、2、又は3の成形体では、耐摩耗性に優れ、かつ、耐衝撃性にも優れていた。
中でも、実施例1及び2の成形体は耐摩耗性に特に顕著に優れており、その中でも実施例2の成形体は耐衝撃性に顕著に優れていた。
比較例2〜5のような、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(a−1)と、エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマーとの組み合わせでは、耐摩耗性に優れるものの、耐衝撃性が悪い結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、
エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル二元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素三元共重合体、及び、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジル三元共重合体の少なくとも1つであるエチレン系共重合体(B)と、
を含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項2】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が99質量%〜51質量%であり、前記エチレン系共重合体(B)の含有量が1質量%〜49質量%である請求項1に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記エチレン系共重合体(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【請求項3】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が98質量%〜70質量%であり、前記エチレン系共重合体(B)の含有量が2質量%〜30質量%である請求項1又は請求項2に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記エチレン系共重合体(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【請求項4】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)が、エチレン・環状オレフィン共重合体である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いてなる成形体。

【公開番号】特開2013−53221(P2013−53221A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192016(P2011−192016)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】