α−ガラクトシダーゼA欠損症の治療
【課題】ファブリー病のようなα−ガラクトシダーゼA欠損が疑われる個体を治療するための、ヒトα−gal Aを過剰発現し分泌するように遺伝的に修飾された移植用ヒト細胞、および精製されたヒトα−gal Aの提供。
【解決手段】(1)ヒトα−gal Aを過剰発現し分泌するように遺伝的に修飾されたヒト細胞、または(2)遺伝的に修飾された培養ヒト細胞から得られる精製ヒトα−gal Aのいずれかを用いて治療する、治療用組成物。
【解決手段】(1)ヒトα−gal Aを過剰発現し分泌するように遺伝的に修飾されたヒト細胞、または(2)遺伝的に修飾された培養ヒト細胞から得られる精製ヒトα−gal Aのいずれかを用いて治療する、治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、α−ガラクトシダーゼA及びα−ガラクトシダーゼ欠損症の治療に関する。
ファブリー病はX−連鎖で遺伝的に受け継がれるリソソーム蓄積症であって、それは重篤な腎障害、角化血管腫、及び心室拡張や僧帽弁不全などの心血管異常のような症状に特徴がある。またこの疾患は末梢神経系にも影響を及ぼし、激痛、即ち極限状態の強烈な痛みを引き起こす。ファブリー病は酵素のα−ガラクトシダーゼA(α−gal A)が欠乏することに原因があり、結果的に中性のグリコスフィンゴ脂質の異化作用が妨害されるとともに、細胞内や血流において酵素基質であるセラミドトリヘキサイドの蓄積が起こる。
【0002】
この疾患はX−連鎖で遺伝的に受け継がれるパターンであるため、必然的に全てのファブリー病患者は雄性である。厳格に影響を受けた雌性の異型接合体もわずかながら観察されているが、雌性の異型接合体は一般に、無症候性かあるいは角膜の特徴的な不透明性にほとんど限定されたかなり緩和な症候が見られるかのいずれかである。低量の残留α−gal A活性を示し、そしてかなり緩和な症候しか示さないかまたはファブリー病に特徴的な他の症候を明らかに示さないような、ファブリー病では典型的とは言えない場合には、左心室肥大や心疾患が関連している(非特許文献1を参照)。α−gal Aの減少がこのような心臓異常の原因であるかもしれないと推測されている。
【0003】
ヒトα−gal AをコードするcDNAと遺伝子が単離され、配列決定されている(非特許文献2、3、4を参照)。ヒトα−gal Aは429個のアミノ酸ポリペプチドとして発現し、そのN末端の31個のアミノ酸はシグナルペプチドを構成している。ヒトの酵素は、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞(特許文献1、非特許文献5を参照)、昆虫細胞(特許文献2を参照)、及びCOS細胞(非特許文献6を参照)で発現している。α−gal A置換治療の予備試験について報告されており、それはヒトの組織から誘導された蛋白質を用いている(非特許文献7、8、9を参照)が、現時点でファブリー病の有効な治療法はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Desnickの米国特許第5,356,804号
【特許文献2】Calhounらの米国特許第5,179,023号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NakanoらのNew Engl. J. Med. 333: 288-293, 1995
【非特許文献2】BishopらのProc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 4859, 1986
【非特許文献3】KornreichらのNuc. Acids Res. 17: 3301, 1988
【非特許文献4】OeltjenらのMammalian Genome 6: 335-338, 1995
【非特許文献5】IoannouらのJ. Cell Biol. 119: 1137, 1992
【非特許文献6】TsujiらのEur. J. Biochem. 165: 275, 1987
【非特許文献7】MapesらのScience 169: 987 1970
【非特許文献8】BradyらのN. Engl. J. Med. 289: 9, 1973
【非特許文献9】DesnickらのProc, Natl. Acad. Sci. USA 76: 5326, 1979
【発明の概要】
【0006】
培養されたヒトの細胞でヒトα−gal AをコードするDNAを発現させると、適当にグリコシル化されたポリペプチドを、酵素的に活性であって、ファブリー病で蓄積するグリコスフィンゴ脂質の基質に作用する能力があるだけでなく、この疾患で必要とされているところ、即ち作用細胞、特に患者の血管の内層の内皮細胞のリソソーム区画に正確にターゲティングさせる細胞表面の受容体を経て細胞によって効率的に中に取り入れられるように生成することが判明している。この知見については下記により詳細に説明されているが、ファブリー病のようなα−gal A欠損症であることが疑われる個体を、(1)ヒトα−gal Aを過剰発現して分泌するように遺伝的に修飾されたヒト細胞、または(2)遺伝的に修飾された培養ヒト細胞から得られる純粋なヒトα−gal Aのいずれかを用いて治療することができる。
【0007】
初めのルートによる治療、即ち修飾された細胞自体を用いる治療には、ヒトの細胞(例えば一次細胞、二次細胞、または不死化細胞)を、高いレベルのヒトα−gal Aを発現し分泌するように誘導すべくインビトロまたはエクスビボで遺伝子操作すること、続いてSeldenらのWO 93/09222(参照文献として本明細書に組み入れられる)において一般的に記載されているように患者にその細胞を移植することが含まれる。
【0008】
遺伝子治療または酵素置換治療によってファブリー病の治療を行う目的のために細胞を遺伝的に修飾すべき場合、α−gal AのcDNAまたはゲノムのDNA配列を含むDNA分子は発現構築物に含まれていて、ヒトの一次細胞または二次細胞(例えば、繊維芽細胞、乳房や腸管の上皮細胞などの上皮細胞、リンパ球や骨髄細胞などの血液の要素を構成する内皮細胞、神経膠細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、神経細胞、またはこれらの細胞型の前駆体)に、トランスフェクションの標準的な方法、即ちこれらに限定するわけではないが、リポソーム媒体トランスフェクション、ポリブレン媒体トランスフェクション、もしくはDEAEデキストラン媒体トランスフェクション法、エレクトロポレーション、燐酸カルシウム沈降法、マイクロインジェクション、または速度推進型微粒子投射法(「バイオリスティックス」)といった方法によって導入されるようになっている。また、ウイルスベクターによってDNAを渡すシステムを用いてもよい。遺伝子トランスファーに有用であると知られているウイルスには、アデノウイルス類、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、レトロウイルス類、シンドビスウイルス、及びカナリーポックスウイルスのようなワクシニアウイルスが挙げられる。一次細胞または二次細胞培養物は本発明の治療方法にとって好適であるが、不死化されたヒトの細胞を用いることもできる。本発明の方法で有用なヒト不死化細胞系の例には、ヒト細胞と別の種の細胞とを融合させて作成したヘテロハイブリドーマ細胞はもちろんのこと、Bowesメラノーマ細胞(ATCC寄託番号CRL 9607)、Daudi細胞(ATCC寄託番号CCL 213)、Hela細胞及びHela細胞の誘導体(ATCC寄託番号CCL 2、CCL 2.1、及びCCL 2.2)、HL-60細胞(ATCC寄託番号CCL 240)、HT1080細胞(ATCC寄託番号CCL 121)、Jurkat細胞(ATCC寄託番号TIB 152)、KB癌細胞(ATCC寄託番号CCL 17)、K-562白血病細胞(ATCC寄託番号CCL 243)、MCF-7乳癌細胞(ATCC寄託番号BTH 22)、MOLT-4細胞(ATCC寄託番号1582)、Namalwa細胞(ATCC寄託番号CRL 1432)、Raji細胞(ATCC寄託番号CCL 86)、RPMI 8226細胞(ATCC寄託番号CCL 155)、U-937細胞(ATCC寄託番号CRL 1593)、WI-38VA13サブライン2R4細胞(ATCC寄託番号CCL 75.1)、及び2780AD卵巣癌細胞(Van der BlickらのCancer Res. 48: 5927-5932, 1988)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0009】
α−gal Aを過剰発現して分泌する細胞を形成するためにα−gal AをコードするDNA分子を用いてヒト細胞を遺伝子操作したあとで(または下記に説明したように別の適当な遺伝子的修飾法を行ったあとで)、複数の遺伝的に同一の培養された一次ヒト細胞から本質的になるクローン細胞株、またはその細胞が不死化されている場合は複数の遺伝的に同一の不死化ヒト細胞から本質的になるクローン細胞系を発生させることができる。好ましくはクローン細胞株またはクローン細胞系の細胞は繊維芽細胞である。
【0010】
続いて遺伝的に修飾された細胞を調製し、適当な方法、例えばSeldenらのWO 93/09222に記載されているような方法によって患者に導入すればよい。
【0011】
本発明に係る遺伝子治療は、ヒトまたは動物の組織から誘導された酵素を用いて酵素置換治療を行う場合の多くの利点を所有している。例えば本発明の方法は、適当な組織の供給源についてのとても一致しそうにない入手可能性に依存しているのではなく、そのためα−gal A欠損症を治療する商業的に存続可能な方法である。それはヒト組織から誘導された酵素を用いる酵素−置換治療法に匹敵するほど比較的にリスクがなく、公知のウイルスまたは未知のウイルスを用いて、また他の感染性の薬剤を用いて感染させることができる。そのうえ本発明に係る遺伝子治療法は、一般的に酵素置換治療法を行った場合の多くの利点を所有している。例えば本発明の方法は、(1)毎日注入する必要性を減少させるといった長期間治療計画についての利点を提供するし、(2)簡便な薬理学的供給に通常付随して起こる、治療用蛋白質の血清濃度及び組織濃度の極端な変動を減少させるし、そして(3)頻繁に投与するために蛋白質を生成し精製することが不必要であるため、酵素置換治療法よりも安価になると考えられる。
【0012】
上記に記載したようにα−gal A欠損症のヒトは精製したα−gal Aを用いて治療することもできる(即ち酵素置換治療法)。またヒトα−gal Aを過剰発現するように遺伝的に修飾された一次、二次、または不死化されたヒト細胞は、インビトロで蛋白質を製造する際にも有用であり、酵素置換治療法を行うために精製されているとよい蛋白質を作成することができる。二次または不死化されたヒト細胞は上記に記載した細胞の中から選択してもよいし、また上記に記載したトランスフェクション法または形質導入法によって遺伝的に修飾してもよい。遺伝的に修飾したあとでその細胞を、α−gal Aを過剰発現し分泌することが可能な条件下で培養する。この蛋白質は、細胞が増殖している培地を収集したり、内容物が遊離するように細胞を溶解したりしてから、次に標準的な蛋白質精製法を適用することで培養細胞から単離する。このような一つの方法には、培養培地、即ちヒトα−gal Aを含む何らかのサンプルが、ブチル基などの機能的部分を持っているブチルセファロース(Butyl Sepharose:登録商標)または他の樹脂のような疎水性の相互作用樹脂を通過する工程を含む。サンプルをこのような樹脂に通す工程は、第1クロマトグラフィー工程で構成することができる。更に精製することが必要であれば、疎水性の相互作用樹脂から溶出したα−gal A含有材料を、ヘパリンセファロース(Heparin Sepharose:登録商標)のような固定化ヘパリン樹脂、ハイドロキシアパタイト、Qセファロース(Q Sepharose:登録商標)のようなアニオン交換樹脂、またはスーパーデックス(Superdex:登録商標)200のようなサイズ排除樹脂などの第2の樹脂を含むカラム上を通過させるとよい。精製プロトコールに、それぞれ上記のタイプの樹脂を使用することが含まれると好ましい。また疎水性の相互作用樹脂の前またはその樹脂に代えて、後者の樹脂の一つまたはそれ以上を用いてもよい。
【0013】
比較的高い純度のα−gal Aを調製する以前の方法は、レクチン親和性クロマトグラフィー(コンカナバリンA(Con A)セファロース)とセファロースマトリックスに結合した基質アナログであるN−6−アミノヘキサノイル−α−D−ガラクトシルアミンへのα−gal Aの結合性に基づいた親和性クロマトグラフィーとの組合せを利用している親和性クロマトグラフィーを使用することに依存していた(BishopらのJ. Biol. Chem. 256: 1307-1316, 1981)。蛋白質のレクチン親和性樹脂と基質アナログ樹脂とを使用すると通常、固体支持体からの親和剤の連続的な浸出が関わってくるため(cf. MarikarらのAnal. Biochem. 201: 306-310, 1992)、その結果精製した生成物の親和剤による不純物混入が溶液に遊離状態になっているか溶出した蛋白質に結合しているかのいずれかで起こる。このような不純物混入により、生成物が薬学的調製物として使用するに好ましくないものとなってしまう。また結合した基質アナログ及びレクチンも、蛋白質の酵素的、機能的、及び構造的性質に対し実質的にネガティブな影響を持っている可能性がある。さらにこのような親和性樹脂は通常、合成するには高価であり、そのことがそのような樹脂の利用を従来のクロマトグラフィー樹脂以上の商業的規模で製造するには適当ではないようにしてしまう。したがって、大規模の商業的利用に適当な供給及び質の点で容易に入手可能な従来のクロマトグラフィー樹脂を用いる精製プロトコールの開発が本発明の重要な利点である。
【0014】
α−gal A欠損症になっていると推測されるヒトは、薬学的に許容される精製ヒトα−gal Aを標準的な方法、即ち次の方法に限定するわけではないが、静脈内注入、皮下注入、もしくは筋肉内注入、または固体の移植物としての方法によって投与することで治療できると考えられる。この精製蛋白質は、生理学的に許容される賦形剤、例えばヒト血清アルブミンのようなキャリアを含むpH6.5またはそれ以下の水性溶液からなる治療用組成物として処方してもよい。
【0015】
本発明はしたがって、適当にグリコシル化されていて、そのため治療上利用できるヒトα−gal Aを大量に得るための方法を提供する。これによって、α−gal A欠損症に対する酵素置換治療が商業的に存続可能なものとなり、もちろんヒトまたは動物の組織から誘導された酵素を用いる治療法に匹敵するほど相対的にリスクもない。
【0016】
熟練された技術者であれば、ヒトα−gal AのDNA配列(cDNAまたはゲノムのDNA)、またはサイレントコドンの変化もしくはアミノ酸の同類置換をもたらすようなコドンの変化のいずれかがあるためにそれとは異なっている配列を、培養されたヒト細胞を遺伝的に修飾することによって酵素を過剰発現して分泌するように用いることができる点を認識できるであろう。また、α−gal AのDNA配列においてある種の突然変異が起こって、良好になったα−gal Aの酵素的活性(本明細書に記載したように、培養された細胞において突然変異DNA分子を発現させること、コードされたポリペプチドを精製すること、及び触媒活性を測定することによって明らかとされるように)を保持している、即ち示すようなポリペプチドをコードできる可能性もある。例えば、特定すると同類のアミノ酸置換が蛋白質における残基の総量の10%未満に現れている場合に、生物活性にほとんど影響がないか全く影響のない同類のアミノ酸置換が起こっていると予測できる。同類置換には通常、次のグループ内の置換が含まれる。即ち、グリシンとアラニン、バリンとイソロイシンとロイシン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、セリンとスレオニン、リジンとアルギニン、及びフェニルアラニンとチロシンである。
【0017】
細胞によるα−gal Aの産生は、ある遺伝子操作によって最大にできる。例を挙げるとα−gal AをコードするDNA分子は、例えばヒト成長ホルモン(hGH)、エリスロポエチン、因子VIII、因子IX、グルカゴン、低密度リポ蛋白質(LDL)受容体、またはα−gal A以外のリソソームの酵素のシグナルペプチドのような異型のシグナルペプチドをコードすることもできる。好ましくはシグナルペプチドはhGHシグナルペプチド(配列番号:21)であって、コードされた蛋白質のN末端である。シグナルペプチドをコードするDNA配列はhGH遺伝子の第1イントロンのようなイントロンを含んでいてもよく、その結果、配列番号:27のようなDNA配列になる(図10も参照のこと)。さらにまた、DNA分子は少なくとも6個のヌクレオチド長の3’非翻訳配列(UTS)を含んでいてもよい(3’UTS、即ちコード配列にある必須のポリアデニル化部位を持たないヒトで見られるα−gal AのmRNAとは対照的である)。このUTSはコード配列の終結コドンの3’に隣接して存在しており、ポリアデニル化部位を含んでいる。好ましくは少なくとも6個のヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも12個、そして最も好ましくは少なくとも30個のヌクレオチド長であり、どの場合も配列AATAAAまたはポリアデニル化を促進するようにはたらく関連配列を含んでいる。記載したようなDNA分子、即ちα−gal Aに結合したhGHシグナルペプチドをコードしていてポリアデニル化部位を含む3’UTSを有し、そして好ましくは発現調節配列を含むようなDNA分子も本発明に入る。また、α−gal Aに結合したhGHのシグナルペプチドまたは何らかの他の異種ポリペプチド(即ち、hGH以外のどれかのポリペプチド、またはhGHのアナログ)を含む蛋白質をコードするDNA分子も本発明の範囲内に入る。異種ポリペプチドは、通常は哺乳動物の蛋白質、例えば何らかの医学的に望ましいヒトポリペプチドである。
【0018】
本発明の他の特徴や利点は、次の詳細な説明から、また請求の範囲から明かとなると思われる。
細胞に関して本明細書で用いられる「遺伝的に修飾された」という用語は、特定の遺伝子産物および/またはコード配列の発現をコントロールする調節要素をコードするDNA分子を導入したあとで、その特定の遺伝子産物が発現する細胞が包含されていることを意味する。DNA分子の導入は遺伝子の標的化(即ち、特定のゲノム部位へのDNA分子の導入)によって成し遂げられ、更に相同組換えによって欠損遺伝子自体の置換が可能になる(欠損したα−gal A遺伝子またはその一部分が、ファブリー病の患者自身の細胞において、遺伝子全体またはその一部分と置き換えられうる)。
【0019】
本明細書で用いられる「α−gal A」という用語は、シグナルペプチドを持たないα−gal A、即ち配列番号:26(図9)を意味する。配列番号:26(図9)の残基371から398または373から398がリソソームにおいて除去される可能性があること、しかしながらこの推定されている除去前のペプチドが除去されても酵素の活性に影響を与えないと考えられていることについていくらかの表示がある。このことは、推定されている除去前のペプチドのある部分が活性に影響を与えることなく欠失できることを示唆している。したがって本明細書で用いられる「α−gal A」という用語は、その配列のC末端で28残基までを欠いている以外は配列番号:26に対応する配列を持つ蛋白質もカバーする。
【0020】
「α−gal A欠損症」とは、ある患者においてこの酵素の量または活性が欠乏していることを意味する。この欠損症は、ファブリー病を患っている男性で典型的に観察されるような重篤な症候を誘導する可能性があり、また一部のみを誘導したり、欠損遺伝子の異型接合体の女性のキャリアで見ることのできるような比較的緩和な症候を誘導したりする可能性がある。
【0021】
本明細書で用いられる「一次細胞」という用語は、脊椎動物の組織供給源から(それらを移植する、即ち皿やフラスコのような組織培養基板に付着させる前に)単離された細胞の懸濁液中に存在する細胞、組織から誘導された組織片に存在する細胞、初回に移植された二つの前のタイプの細胞、そしてこれらの移植された細胞から誘導される細胞懸濁液を含む。
【0022】
「二次細胞」とは、培養における全ての次の段階の細胞のことを言う。即ち初回に植え付けられた一次細胞が培養基質から除去されて、再移植される(継代した)と、それは続く継代に存在する全ての細胞も同じく二次細胞と言われる。
【0023】
「細胞株」は、一回またはそれ以上継代を行った二次細胞からなっていて、培養により有限数の平均的な固体群倍増を示すとともに、接触−阻害される固定法依存で成長する性質(懸濁液培養で増殖させた細胞は除く)を示し、また不死化されていない。
【0024】
「不死化された細胞」とは、培養の際に明らかに際限のない寿命を示す確立された細胞系から得られる細胞を意味する。
「シグナルペプチド」とは、さらなる翻訳後処理および/または分布のために小胞体に付着した新しく合成されたポリペプチドに指向するペプチド配列を意味する。
【0025】
α−gal Aについての前後関係で本明細書で用いられているような「異種シグナルペプチド」という用語は、ヒトα−gal Aシグナルペプチドではないシグナルペプチド(即ち、配列番号:18のヌクレオチド36〜128によってコードされているペプチド)を意味する。それは通常、α−gal A以外の何らかの哺乳動物の蛋白質のシグナルペプチドである。
「第1クロマトグラフィー工程」という用語は、クロマトグラフィーカラムへのサンプルの最初の適用を意味する(サンプルの調製に関与する全ての工程は除く)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ヒト繊維芽細胞のcDNAライブラリーからα−gal Aを単離するために用いた210bpのプローブの表示である(配列番号:19)。この配列はα−gal A遺伝子のエキソン7からのものである。プローブはヒトゲノムのDNAからポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって単離した。この図のアンダーラインをつけた領域は、増幅プライマーの配列に対応する。
【図2】α−gal AのcDNAクローンの5’末端を完成させるDNAフラグメントの配列の表示である(配列番号:20)。このフラグメントはPCRによってヒトゲノムのDNAから増幅した。アンダーラインをつけた領域は増幅プライマーの配列に対応している。実施例IAに記載されているようにサブクローニングする際に用いられるNcoI及びSacII制限エンドヌクレアーゼ部位の位置も示されている。
【図3】α−gal AのcDNAの配列の表示であり、それはシグナルペプチド(配列番号:18)をコードする配列を含んでいる。
【図4】pXAG−16、即ちCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターとイントロン、hGHシグナルペプチドをコードする配列と第1イントロン、α−gal AのcDNA(即ちα−gal Aシグナルペプチド配列を欠いている)、及びhGH3’UTSを含むα−gal A発現構築物の概略地図である。
【図5】pXAG-28、即ちコラーゲンIα2プロモーター、β−アクチンイントロン、hGHシグナルペプチドをコードする配列と第1イントロン、α−gal AのcDNA(即ちα−gal Aシグナルペプチド配列を欠いている)、及びhGH3’UTSを含むα−gal A発現構築物の概略地図である。
【図6】ブチルセファロース(登録商標)樹脂を用いるα−gal Aの精製工程のクロマトグラムである。選択したフラクションの280nmにおける吸光度(単純な線)とα−gal A活性(ドットをつけた線)が示されている。
【図7】本発明により準備したヒトα−gal Aのファブリー繊維芽細胞によるインターナリゼーションを図示している線グラフである。細胞内のα−gal A活性と全蛋白質濃度は、本発明により準備したヒトα−gal Aの濃度を増加させて細胞のインキュベートを行ったあとで測定した。潜在的なインターナリゼーション−インヒビター、マンノース−6−ホスフェート(M6P;白いひし形)とマンナン(白丸)の効果が示されている。
【図8】α−gal Aのインターナリゼーションのあとでファブリーの繊維芽細胞を調べるべく設計された実験の典型の外略図である。ファブリー細胞のα−gal A活性は、正常のヒト繊維芽細胞かトランスウェル(Transwell:商品名)挿入物で培養したα−gal Aを過剰発現するヒト繊維芽細胞かいずれかにさらした後で測定する。「M6P」=マンノース−6−ホスフェート。「Untrf HF」=トランスフェクトされていないヒト繊維芽細胞、「BRS11」=トランスフェクトしたα−gal A−過剰発現繊維芽細胞株。
【図9】ヒトα−gal Aアミノ酸配列(配列番号:26)の表示である。
【図10】hGHシグナルペプチドをコードし、第1hGHイントロン(アンダーライン)を含むDNA配列の表示である(配列番号:27)。
【図11】イントロンを持たないhGHシグナルペプチドをコードするDNA配列の表示である(配列番号:22)。
【図12】hGHシグナルペプチドのアミノ酸配列の表示である(配列番号:21)。
【図13】ヒトα−gal A(シグナルペプチドを持たない)をコードするcDNA配列の表示である(配列番号:25)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
α−gal Aのようなリソソームの酵素は、マンノース−6−ホスフェート(M6P)受容体、即ち、リソソームの区画のためと運命づけられた酵素のオリゴサッカライド部分に存在するM6P残基に結合する受容体との相互作用により細胞のリソソーム区画を標的として指向する(Kornfeld, S. and Mellman, I, Ann. Rev. Cell Biol. 5: 483-525, 1989)。一次の相互作用はゴルジ体で起こり、そこではゴルジのM6P受容体に結合した酵素がリソソームに移行するために分離される。二次的なタイプの相互作用は、細胞表面にて細胞外のα−gal AとM6Pとの間で起こると考えられている。細胞によってインターナリゼーションされた細胞外の基質はエンドサイトーシス小胞において細胞質を通って移行し、それは最初のリソソームと融合し、そのリソソームに内容物を移す。この過程で細胞表面のM6P受容体もエンドサイトーシス小胞に導入され、リソソームに移される。
【0028】
細胞外環境に存在するα−gal Aは、それがM6P残基を運搬している場合には細胞表面のM6P受容体に結合し、そのためその受容体とともにリソソームの区画に移行することができる。このスキャベンジャーの結果として一旦リソソームの区画に入ると、酵素は適当な機能を挙行できる。したがって、仮に細胞がそれ自身のα−gal Aを産生する場合に遺伝子的欠陥があったとしても、(a)酵素が適当にグリコシル化されていること及び(b)欠陥のある細胞がM6P受容体を運搬することによって、外因性で製造された酵素を取り上げるための機構が存在する。
【0029】
ファブリー病では、腎臓及び心臓の血管内皮細胞が重篤な組織病理学上の異常を示すこと、そしてその疾患の臨床上の病理学に関わることがわかっており、M6P受容体を運搬しているこれらの細胞は、本明細書で主張している本発明の特定のターゲットである。本発明によって製造されたα−gal Aは、影響を受けている細胞に局所的または全身的のいずれかで遺伝子治療によって(即ち、患者の体内でグリコシル化酵素を発現しかつ分泌するように遺伝的に修飾された細胞によって)、または従来の薬学的投与経路によって供給することができる。したがってM6PがN−結合オリゴサッカライドに存在する場合のα−gal Aは、本発明による治療法にとって非常に重要である。
【0030】
さらにα−gal AのN−結合オリゴサッカライドがシアリル化によって修飾されている程度も非常に重要である。適当なシアリル化がなされていない場合α−gal Aは、肝臓のアシアロ糖蛋白質受容体によって結合されることに起因して循環系から急速に一掃され、その後インターナリゼーションされてから肝細胞によって分解を受ける(Ashwell及びHarfordのAnn. Rev. Biochem. 51: 531-554, 1982)。これによって、腎臓及び心臓の血管内皮細胞のようなファブリー病の臨床的病理学に寄与する細胞のM6P受容体に結合するために循環系で利用されるα−gal Aの量が減少する。驚くべきことに出願人は、安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって分泌されるα−gal Aが、遺伝子治療によってか精製した分泌蛋白質の従来の薬学的投与法によってファブリー病の治療を行うために適切なグリコシル化の性質をもっていることを見いだした。このことは、最も研究の進んだリソソームの酵素であるグルコセレブロシダーゼについての状況、即ちヒトの胎盤から精製されるかまたは体内で臨床的に関連する細胞にトランスフェクトしたCHO細胞から分泌された酵素を供給するには、複雑な酵素の酵素的修飾、それに続く精製が必要であるという状況(cf. Beutler, New Engl. J. Med. 325: 1354-1360, 1991)と対照的である。
【0031】
本発明の治療法は二通りの一般法、即ち酵素を過剰発現し分泌するように遺伝的に修飾された培養ヒト細胞から得られる精製ヒトα−gal Aの治療上の有効量を患者に導入することによって、またはその患者に過剰発現する細胞自体を導入することによっての二通りの一般法のいずれかで行うことができる。必要な遺伝的修飾を達成する手法については、精製、配合、及び治療の方法として下記に記載されている。
【実施例】
【0032】
実施例I.α−gal Aを輸送し発現するように設計された構築物の調製及び利用
二つの発現プラスミドであるpXAG−16及びpXAG-28を構築した。これらのプラスミドには、α−gal A酵素の398のアミノ酸をコードしているヒトα−gal A酵素(α−gal Aシグナルペプチドを欠いている)、ヒト成長ホルモン(hGH)遺伝子の第1イントロンによって割り込まれたhGHシグナルペプチドのゲノムDNA配列、及びポリアデニル化のシグナルを含むhGH遺伝子の3’非翻訳配列(UTS)が含まれる。プラスミドpXAG−16はヒトサイトメガロウイルスの即時型−初期(CMV IE)プロモーターおよび第1イントロン(非コードエクソン配列に隣接)を有しており、これに対してpXAG-28はコラーゲンIα2プロモーターによって推進され、またβ−アクチン遺伝子の第1イントロンを持つβ−アクチン遺伝子の5’UTSも含んでいる。
【0033】
A.完全なα−gal AのcDNAのクローニング及びα−gal A発現プラスミドpXAG−16の構築
ヒトα−gal AのcDNAは、次のように構築したヒト繊維芽細胞のcDNAライブラリーからクローニングした。Poly−A+mRNAは全RNAから単離し、cDNAの合成は製造指示書にしたがってラムダザップII(lambda ZapII:登録商標)システムの試薬を用いて行った(Stratagene Inc., LaJolla, CA)。簡単に述べると「第1鎖」のcDNAは、内部XhoI制限エンドヌクレアーゼ部位を含むオリゴ−dTプライマーの存在下で逆転写を行うことで生成した。続いてRNase Hを用いて処理し、そのcDNAを二本鎖のcDNAを生成するためにDNAポリメラーゼIを用いてニック−トランスレーションした。このcDNAはT4DNAポリメラーゼを用いて平滑末端を形成し、EcoRIアダプターに連結した。この連結の生成物をT4DNAキナーゼで処理してからXhoIを用いて切断した。そのcDNAをセファクリル−400(Sephacryl-400:登録商標)クロマトグラフィーによってフラクションに分けた。大量で中間の大きさのフラクションを集め、そのcDNAをEcoRIとXhoI−切断性のラムダザップII(lambda ZapII)アームに連結した。次にこの連結反応の生成物を包装し、力価を測定した。主なライブラリーは力価が1.2×107pfu/mlであり、平均的な挿入物の大きさは925bpであった。
【0034】
ヒトα−gal A遺伝子のエキソン7から得られる210bpのプローブ(図1の配列番号:19)を、cDNAを単離するために用いた。このプローブ自体は次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−CTGGGCTGTAGCTATGATAAAC−3’(オリゴ1;配列番号1)及び5’−TCTAGCTGAAGCAAAACAGTG−3’(オリゴ2;配列番号:2)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによってゲノムDNAから単離した。続いてこのPCR生成物を繊維芽細胞のcDNAライブラリーをスクリーニングするために用い、ポジティブのクローンを単離してからさらに特徴を明らかにした。一つのポジティブなクローンであるファージ3Aを、ラムダザップII(lambda ZapII:登録商標)システム摘出プロトコール(Stratagene, Inc., La Jolla, CA)に、その製造指示書に従ってかけた。この方法によってプラスミドpBASAG3Aが得られ、それはpBluescriptSK−(商品名)プラスミドバックボーンにα−gal AのcDNA配列を含んでいる。DNAの配列決定によってこのプラスミドはcDNA配列の完全な5’末端を含まないことが明かとなった。したがって5’末端は、ヒトゲノムのDNAから増幅したPCRフラグメントを用いて再構築した。これを達成するために、268bpのゲノムDNAフラグメント(図2の配列番号:20)を次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−ATTGGTCCGCCCCTGAGGT−3’(オリゴ;配列番号:3)及び5’−TGATGCAGGAATCTGGCTCT−3’(オリゴ4;配列番号:4)を用いて増幅した。このフラグメントを「TA」クローニングプラスミド(Invitrogen Corp., San Diego, CA)にサブクローニングすることでプラスミドpTAAGEIを生成した。プラスミドpBSAG3Aはα−gal AのcDNA配列の大部分を含んでおり、またpTAAGEIはα−gal AのcDNAの5’末端を含んでいて、その両方をそれぞれSacII及びNcoIを用いて切断した。増幅したDNAフラグメント内のSacII及びNcoI部位に関連した位置が図2に示されている。pTAAGEIから得られる0.2kbのSacII−NcoIフラグメントを単離して、同等に切断したpBSAG3Aに連結した。このプラスミド、pAGALは完全なα−gal AのcDNA配列を含んでいて、それにはα−gal Aシグナルペプチドをコードする配列が含まれている。このcDNAは完全に配列決定され(α−gal Aシグナルペプチド、配列番号:18を含んでいて図3に示されている)、ヒトα−gal AのcDNAについて公開されている配列(Genebank sequence HUMGALA)と同一であると判明した。
【0035】
このプラスミドpXAG−16は、次のような数種の中間体を経て構築した。まず第一にpAGALをSacII及びXhoIを用いて切断し、平滑末端にした。第二にこの完全なα−gal AのcDNAの末端をXbaIリンカーに連結してから、XbaIで切断したpEF−BOSにサブクローニングし(MizushimaらのNucl. Acids Res. 18: 5322, 1990)、pXAG−1を作成した。この構築物は、ヒト顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)の3’UTSと、α−gal Aにα−gal AのシグナルペプチドをプラスしてコードしたcDNAをフランキングするヒト延長因子−1α(EF−1α)プロモーターとを含んでおり、それによってα−gal AのcDNAの5’末端がEF−1αプロモーターに融合できるようになっている。CMV IEプロモーターと第1イントロンを用いて構築物を形成するために、α−gal AのcDNAとG−CSFの3’UTSを2kbのXbaI−BamHIフラグメントとしてpXAG−1から除去した。このフラグメントを平滑末端化してBamHIリンカーに連結し、BamHI切断したpCMVflpNeo(下記に記載したように構築した)に挿入した。この方針は、α−gal AのcDNAの5’末端がCMV IEプロモーター領域に融合するようになっている。
【0036】
pCMVflpNeoは次のように作成した。CMV IE遺伝子プロモーターフラグメントは鋳型としてのCMVのゲノムDNAとオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGGATCCCTCGAGGACATTGATTATTGACTAG−3’(配列番号:23)及び5’−TTTTGGATCCCGTGTCAAGGACGGTGAC−3’(配列番号:24)とを用いてPCRを行って増幅した。得られた産物(1.6kbのフラグメント)をBamHIを用いて切断し、CMVプロモーターを含み結合性のBamHI−切断した末端を持つフラグメントを得た。この新しく発現したユニットを、1.1kbのXhoI−BamHIフラグメントとしてプラスミドpMClneopA(Stratagene Inc., La Jolla, CA)から単離した。このCMVプロモーターを含み新生のフラグメントを、BamHI−、XhoI−切断プラスミド(pUC12)に挿入した。注目すべきことにpCMVflpNeoは、ヌクレオチド546で始まりヌクレオチド2105で終わる(Genebank sequence HS5MIEPについて)CMV IEプロモーター領域と、このCMV IEプロモーターフラグメントに直接5’が結合するヘルペスシンプレックスウイルス(Herpes Simplex Virus:HSV)のチミジンキナーゼプロモーター(TKneo遺伝子)によって推進されるネオマイシン抵抗性遺伝子を含んでいる。新生遺伝子の転写の方向は、CMVプロモーターフラグメントの方向と同じである。この中間構築物はpXAG−4と言われた。
【0037】
hGH3’UTSを追加するために、GCSF3’UTSをXbaI−SmaIフラグメントとしてpXAG−4から除去し、pXAG−4の末端を平滑化した。hGH3’UTSは、0.6kbのSamI−EcoRIフラグメントとしてpXGH5(SeldenらのMol. Cellular Biol. 6: 3173-3179, 1986)から除去した。このフラグメントを平滑末端化した後でそれを、pXAG−4の平滑末端化したXbaI部位のすぐ後でpXAG−4に連結した。この中間体はpXAG−7と言われた。TKneoフラグメントをHindIII−ClaIフラグメントとしてこのプラスミドから除去し、そのプラスミドの末端をDNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントで「充填(filling-in)」することによって平滑化した。SV40初期プロモーターによって推進されるネオマイシン耐性遺伝子は、pcDNeo(ChenらのMol. Cellular Biol. 7: 2745-2752, 1987)の切断物由来の平滑化ClaI−BsmBIフラグメントとして連結し、α−gal A転写物ユニットとして同じ方向に新しい転写ユニットが位置づけられる。この中間体はpXAG−13と言われた。
【0038】
26個のアミノ酸hGHシグナルペプチドをコードする配列及びhGH遺伝子の第1イントロンを持っているpXAG−16を完成させるために、pXAG−13の2.0kbのEcoRI−BamHIフラグメントを初めに除去した。このフラグメントはα−gal AのcDNAとhGHの3’UTSを含んでいた。この大きなフラグメントを3個のフラグメントと置き換えた。第1番目のフラグメントはpXGH5の0.3kbのPCR産物からなり、それはhGHシグナルペプチドをコードする配列を含んでいて、Kozak共通配列のすぐ上流側に位置している合成のBamHI部位からhGHシグナルペプチドをコードする配列の末端までであった。次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGGATCCACCATGGCTA−3’(オリゴHGH101;配列番号:5)及び5’−TTTTGCCGGCACTGCCCTCTTGAA−3’(オリゴHGH102;配列番号:6)を、このフラグメント(フラグメント1)を増幅するために用いた。第2番目のフラグメントは、398アミノ酸のα−gal A酵素(即ち、α−gal Aシグナルペプチドを欠く)をコードするcDNAの開始部からNheI部位までに対応する配列を含む0.27kbのPCR産物からなっていた。次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTCAGCTGGACAATGGATTGGC−3’(オリゴAG10;配列番号:7)及び5’−TTTTGCTAGCTGGCGAATCC−3’(オリゴAG11;配列番号:8)は、このフラグメント(フラグメント2)を増幅するために用いた。第3番目のフラグメントはhGH3’UTSと同様に、残っているα−gal A配列を含むpXAG−7のNheI−EcoRIフラグメントからなっていた(フラグメント3)。
【0039】
フラグメント1(BamHIとNaeIを用いて切断されている)、フラグメント2(PvuIIとNheIを用いて切断されている)、及びフラグメント3を、新生遺伝子とCMV IEプロモーターを含むpXAG−13の6.5kbのBamHI−EcoRIフラグメントと混合し、プラスミドpXAG−16(図4)を生成するために一緒に連結した。
【0040】
B.α−gal A発現プラスミドpXAG-28の構築
ヒトコラーゲンIα2プロモーターを次のようにα−gal A発現構築物pXAG-28で利用すべく単離した。ヒトコラーゲンIα2プロモーターの部分を含むヒトゲノムのDNAからなる408bpのPCRフラグメントを次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGGATCCGTGTCCCATAGTGTTTCCAA−3’(オリゴ72;配列番号:9)及び5’−TTTTGGATCCGCAGTCGTGGCCAGTACC−3’(オリゴ73;配列番号:10)を用いて単離した。
【0041】
このフラグメントは、EMBL3(Clontech Inc., Palo Alto, CA)においてヒト白血球ライブラリーをスクリーニングするために用いた。3.8kbのEcoRIフラグメントを含む一つのポジティブなクローン(ファージ7H)を単離し、EcoRI部位(pBS/7H.2を形成する)でpBSIISK+(Stratagene Inc., La Jolla, CA)にクローニングした。AvrII部位を、pBSIISK+ポリリンカーで開裂するSpeIで切断し、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントを用いて「充填」し、さらにオリゴヌクレオチド5’−CTAGTCCTAGGA−3’(配列番号:11)を挿入することによってpBSIISK+に導入した。pBSIISK+のこの変形物をBamHI及びAvrIIを用いて切断し、上記に記載した初めの408bpコラーゲンIα2プロモーターPCRフラグメントの121bpからなるBamHI−AvrIIフラグメントに連結してpBS/121COL.6を作成した。
【0042】
このプラスミドpBS/121COL.6を、pBSIISK+ポリリンカー配列で開裂するXbaIを用いて切断し、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントで「充填」してからAvrIIを用いて切断した。pBS/7H.2の3.8kbのBamHI−AvrIIフラグメントを単離し、BamHI部位をKlenow酵素で処理することによって平滑末端化した。続いてこのフラグメントをAvrIIを用いて切断し、AvrII−切断ベクターに連結することによってコラーゲンプロモータープラスミドpBS/121bpCOL7H.18を作成した。
【0043】
次にこのコラーゲンプロモーターを、ヒトβ−アクチン遺伝子の第1イントロンを含むヒトβ−アクチン遺伝子の5’UTSに融合した。この配列を単離するために2kbのPCRフラグメントを、次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGAGCACAGAGCCTCGCCT−3’(オリゴBA1;配列番号:12)及び5’−TTTTGGATCCGGTGAGCTGCGAGAATAGCC−3’(オリゴBA2;配列番号:13)を用いてヒトゲノムのDNAから単離した。
【0044】
このフラグメントをBamHI及びBsiHKAIで切断することによって、β−アクチンの5’UTS及びイントロンを含む0.8kbのフラグメントを開放した。それから3.6kbのSalI−SrfIフラグメントをコラーゲンプロモータープラスミドpBS/121bpCOL7H.18から次のように単離した。pBS/121bpCOL7H.18をBamHI(BamHI部位は、コラーゲンIα2プロモーターフラグメントの5’末端に位置する。)を用いて部分的に切断し、Klenowフラグメントを用いて処理することによって平滑末端を作り、続いてSalIリンカー(5’−GGTCGACC−3’)に連結することによって、コラーゲンIα2プロモーターの上流にSalI部位を位置づける。それからコラーゲンのプラスミドをSalI及びSrfI(このSrfI部位はコラーゲンのIα2プロモーターCAP部位の110bp上流に位置している)を用いて切断し、3.6bpのフラグメントを単離した。この0.8kbと3.6kbのフラグメントを、SalI−切断及びBamHI−切断のpBSIISK−(Stratagene Inc., La Jolla, CA)で結合し、次の4つのオリゴヌクレオチドからなるフラグメントを一緒にアニール化した(平滑末端とBsiHKAI末端を持つフラグメントを形成している)。5’−GGGCCCCCAGCCCCAGCCCTCCCATTGGTGGAGGCCCTTTTGGAGGCACCCTAGGGCCAGGAAACTTTTGCCGTAT−3’(オリゴCOL−1;配列番号:14)、5’−AAATAGGGCAGATCCGGGCTTTATTATTTTAGCACCACGGCCGCCGAGACCGCGTCCGCCCCGCGAGCA−3’(オリゴCOL−2;配列番号:15)、5’−TGCCCTATTTATACGGCAAAAGTTTCCTGGCCCTAGGGTGCCTCCAAAAGGGCCTCCACCAATGGGAGGGCTGGGGCTGGGGGCCC−3’(オリゴCOL−3;配列番号:16)、及び5’−CGCGGGGCGGACGCGGTCTCGGCGGCCGTGGTGCTAAAATAATAAAGCCCGGATC−3’(オリゴCOL−4;配列番号:17)。これらの4つのオリゴヌクレオチドはアニール化すると、コラーゲンプロモーターのSrfI部位で始まり、β−アクチンプロモーターのBsiHKAI部位を通って続く領域に対応している。得られたプラスミドは、pCOL/β−アクチンと称した。
【0045】
pXAG-28の構築物を完成させるために、コラーゲンIα2プロモーターとβ−アクチン5’UTSを含むpCOL/β−アクチンのSalI−BamHIフラグメントを単離した。このフラグメントをpXAG−16(実施例1A及び図4参照)から得られる二つのフラグメント、即ち(1)6.0kbのBamHIフラグメント(新しい遺伝子、プラスミドバックボーン、398アミノ酸α−gal A酵素をコードするcDNA、及びhGH3’UTSを含む)、及び(2)0.3kbのBamHI−Xholフラグメント(pcDneo由来のSV40ポリA配列を含む)に連結した。pXAG-28は、ヒトβ−アクチン5’UTSに融合したヒトコラーゲンIα2プロモーター、hGHシグナルペプチド(hGH第1イントロンによって割り込まれている)、α−gal A酵素をコードするcDNA、及びhGHの3’UTSを含む。完成した発現構築物のpXAG-28の地図が図5に示されている。
【0046】
C.α−gal A発現プラスミドを用いてエレクトロポレーションを行った繊維芽細胞のトランスフェクション及びセレクション
繊維芽細胞においてα−gal Aを発現させるために、公開された方法にしたがって二次の繊維芽細胞を培養し、トランスフェクションした(SeldenらのWO 93/09222)。
プラスミドpXAG−13、pXAG−16及びpXAG-28をエレクトロポレーションによってヒトの包皮の繊維芽細胞にトランスフェクションすることで、安定してトランスフェクトされたクローン細胞株を発生させることができ、そして得られたα−gal Aの発現レベルを実施例IDにおいて記載したようにモニターした。正常の包皮繊維芽細胞によるα−gal Aの分泌は2〜10ユニット/106細胞/24時間の範囲内であった。対照的にトランスフェクトされた繊維芽細胞は、表1に示されているような平均の発現レベルを示した。
【表1】
平均のα−gal A発現レベル(+/−標準偏差)
【0047】
これらのデータは、三種すべての発現構築物がトランスフェクトされていない繊維芽細胞の発現の多数倍もα−gal Aの発現を増加させる能力があることを示している。α−gal Aシグナルペプチドに結合したα−gal AをコードしているpXAG−13を用いて安定してトランスフェクトされた繊維芽細胞による発現は、シグナルペプチドがhGHシグナルペプチドである点だけが異なっていてそのコード配列がhGH遺伝子の第1イントロンによって割り込まれているようなpXAG−16を用いてトランスフェクトした繊維芽細胞による発現よりも実質的に低い。
【0048】
トランスフェクトした細胞を継代させる度ごとに分泌されたα−gal Aの活性を測定し、その細胞を計数して細胞密度を計算した。植え付けた細胞数とα−gal Aの分泌が可能になった時間に基づいてα−gal Aの特定の発現速度を測定し、24時間あたり106個の細胞につき分泌されるユニット(α−gal A)として表2及び3に報告されている。遺伝子治療を行う際、またはα−gal Aの精製用の材料の産出において利用する際に好適な細胞株は、数回の継代にわたって安定した成長と発現を示さなくてはならない。α−gal A発現構築物pXAG−16を用いて安定してトランスフェクトされた、表2及び3に示された細胞株から得られるデータは、α−gal Aの発現が数回の継代にわたって安定して維持されているという事実を示している。
【表2】
α−gal A発現構築物のpXAG−16を含むBRS−11細胞の成長及び発現
【表3】
α−gal A発現構築物のpXAG−16を含むHF503−242細胞の成長及び発現
【0049】
D.α−gal A発現の定量化
α−gal A活性を、水溶性の基質である4−メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクロピラノシド(4-MUF-gal; Research Products., Inc.)を用い、Ioannouら(J. Cell Biol. 119:1137-1150, 1992)により記載されたプロトコールの変形法によって測定した。この基質は、基質緩衝液(0.1Mのクエン酸塩−燐酸塩、pH4.6)に溶解して濃度を1.69mg/ml(5mM)にした。典型的には、10μlの培養液の上清を75μlの基質溶液に添加した。そのチューブを覆い、37℃の水浴中、60分間インキュベートさせた。このインキュベーションの終わりに2mlのグリシン−炭酸塩緩衝液(130mMのグリシン、83mMの炭酸ナトリウム、pH10.6)を用いることによって、その反応を止めた。それぞれのサンプルの相対蛍光度を、365nmの固定励起波長を持っていて460nmの固定放出波長を検出するモデルTK0100蛍光度測定計(Hoefer Scientific Instruments)を用いて測定した。サンプルの判断は、1μMのメチルウンベリフェロン(Sigma Chemical Co.)のストックから準備した標準と比較し、加水分解された基質の量を計算した。α−gal Aの活性はユニットで表し、即ち1ユニットのα−gal A活性は37℃で1時間あたりに加水分解された基質の1ナノモルに等価である。細胞発現のデータは一般に、分泌されたα−gal A活性ユニット/106個の細胞/24時間として表した。またこのアッセイは、細胞溶菌液及び下記に記載したように種々のα−gal精製工程から得られるサンプルにおけるα−gal活性の量を測定するためにも用いた。
【0050】
実施例II.安定したトランスフェクトがなされたヒト細胞株の条件が整えられた培地から得られるα−gal Aの精製
実施例IIA−IIEには、α−gal Aを産生するように安定してトランスフェクトされた培養のヒト細胞株の条件付けられた培地からほとんど等質性にその酵素を精製できる点が示されている。
【0051】
A.α−gal Aの精製における第1工程としてのブチルセファロース(登録商標)クロマトグラフィーの使用
低温条件を整えた培地(1.34リットル)を遠心分離によって不純物を除去し、ガラス繊維製のプレフィルターを用いた0.45μmの酢酸セルロースフィルターを通して濾過した。攪拌しながら低温の濾過済み培地のpHを1NのHClを滴下して添加することによって5.6に調節し、続いて3.9Mの超純粋の硫酸アンモニウムのストック溶液(室温)を滴下により添加することで最終濃度が0.66Mになるまで硫酸アンモニウムを加えた。この培地をさらに4℃で5分感攪拌し、濾過し、次にブチルセファロース(登録商標)の4高速カラム(4 Fast Flow column;カラム容積は81ml、2.5×16.5cm; Pharmacia, Uppsala, Sweden)、即ち0.66Mの硫酸アンモニウムを含む10mMのMES−トリス、pH5.6(緩衝液A)で平衡化されたカラムにかけた。このクロマトグラフィーは、全蛋白質濃度と塩濃度をそれぞれ評価するためのライン上に設けたUV(280nm)と導電率モニターを装着したグラジ−フラク(Gradi-Frac;商品名)システム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて4℃で行った。流速10ml/分でサンプルを適用してからそのカラムを、カラム容積の10倍の緩衝液Aで洗浄した。α−gal Aは、緩衝液A(硫酸アンモニウムを含む)から10mMのMES−トリス、pH5.6(硫酸アンモニウムを含まない)まで直線状の勾配をつけた14カラム容積の溶媒を用いてブチルセファロース(登録商標)カラムより溶出した。フラクションを4−MUF−galアッセイによってα−gal A活性について評価し、適当な酵素活性を含むフラクションを集めた。図6及び精製の概要(表3)に示すように、この工程によって約99%の不純物としての蛋白質が除去されている(カラムに通す前のサンプル=全蛋白質は8.14g、カラムを通った後のサンプル=全蛋白質は0.0638g)。
【表4】
安定してトランスフェクトされたヒト繊維芽細胞の条件を整えた培地から得られるα−gal Aの精製
【0052】
B.α−gal Aの精製のための工程として、ヘパリンセファロース(登録商標)クロマトグラフィーの利用
ブチルセファロース(登録商標)カラムのピークフラクションを、10mMのMES−トリス(4リットル)、pH5.6(一度交換)に対して4℃で透析した。透析物の導電度を、必要に応じてH2OまたはNaClを添加することによって4℃で1.0mMHOに調節した。その後でサンプルを、9mMのNaClを含んだ10mMのMES−トリス、pH5.6(緩衝液B)で平衡化したヘパリンセファロース(登録商標)6高速のカラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden; 29mlのカラム容積、2.5×6cm)にかけた。これは10ml/分の流速で4℃にて行った。ライン上のUV(280nm)と導電度モニターによって全蛋白質と塩の濃度を測定した。そのサンプルを適用した後でそのカラムを10カラム容量の緩衝液Bで洗浄し、続いて3カラム容量の8%緩衝液C/92%緩衝液B(ここでの緩衝液Cは、250mMのNaClを含む10mMのMES−トリス、pH5.6である)までの線形勾配をつけた溶媒、さらに10カラム容量の8%の緩衝液Cを用いて洗浄した。この後、1.5カラム容量の29%までの線形勾配をつけた緩衝液Cを用いて、続いて10カラム容量の35%までの線形勾配をつけた緩衝液Cを用いてα−gal Aの溶出を行った。フラクションはα−gal A活性についてアッセイし、適当な活性を含むフラクションを集めた。
【0053】
C.α−gal Aを精製するための工程として、ハイドトキシアパタイトの利用
ヘパリンのプールを濾過し、1mMの燐酸ナトリウム、pH6.0(緩衝液D)で平衡化したセラミックハイドロキシアパタイトHC(40μm;American International Chemical, Ntick, MA;12mlのカラム容量、1.5×6.8cm)からなるカラムに直接かけた。そのクロマトグラフィーは、ライン上にUV(280nm)と導電度モニターを装着したハイブリッドグラジ−フラク(Gradi-Frac:商品名)/FPLC(登録商標)システム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて室温で行った。サンプルを適用した(5ml/分)後でそのカラムを10カラム容量の緩衝液Dで洗浄した。α−gal Aを7カラム容量の42%緩衝液E/58%緩衝液D(ここでの緩衝液Eは、250mMの燐酸ナトリウム、pH6.0である)までの線形勾配をつけた溶媒、さらに10カラム容量の52%までの勾配をつけた緩衝液Eを用いて溶出した。フラクションはα−gal A活性についてアッセイし、適当な活性を含むフラクションを集めた。
【0054】
D.α−gal Aを精製するための工程として、Qセファロース(登録商標)アニオン交換クロマトグラフィーの利用
ハイドロキシアパタイトのプールをH2Oを用いて約1.5倍に希釈して、最終的な導電度が室温で3.4〜3.6mMHOにした。濾過してからそのサンプルを、10%の緩衝液G/90%の緩衝液Fで平衡化したQセファロース(登録商標)HP(Pharmacia, Uppsala, Sweden;5.1mlのカラム容量、1.5×2.9cm)からなるカラムに直接かけた。ここで緩衝液Fは25Mの燐酸ナトリウム、pH6.0であり、また緩衝液Gは25mMの燐酸ナトリウム、pH6.0、250mMのNaClである。このクロマトグラフィーは、グラジ−フラク(Gradi-Frac:商品名)/FPLC(登録商標)ハイブリッドシステム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて室温で行い、全蛋白質と塩の濃度をライン上に設けたモニターで測定した。そのサンプルに5ml/分の流速を適用してから、次の工程を行った。即ち、(1)10%の緩衝液Gで5カラム容量の洗浄、(2)12%の緩衝液Gで7カラム容量の洗浄、(3)3カラム容量の50%までの線形勾配をつけた緩衝液G、(4)10カラム容量の53%までの線形勾配をつけた緩衝液G、(5)3カラム容量の100%までの勾配をつけた緩衝液G、及び(6)10カラム容量の100%の緩衝液Gで洗浄工程。α−galは工程3及び4の間におもに溶出した。適当な活性を含むフラクションを集めた(「Qプール」)。
【0055】
E.α−gal Aを精製するための工程として、スーパーデックス(登録商標)−200ゲル濾過クロマトグラフィーの利用
QプールをCentriprep(登録商標)−10遠心濃縮機ユニット(Amicon, Beverly, MA)を用いて約5倍に濃縮し、スーパーデックス(登録商標)200(Pharmacia, Uppsala, Sweden;189mlのカラム容量、1.6×94cm)からなるカラムにかけた。このカラムを、150mMのNaClを含む25mMの燐酸ナトリウム、pH6.0を用いて平衡化し、溶出した。このクロマトグラフィーは、蛋白質の溶出を追跡するためにライン上のUVモニター(280nm)を用いたFPLC(登録商標)システム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて室温で行った。そのカラムにかけたサンプルの容量は≦2ml、流速は0.5ml/分、そしてフラクションの量は2mlであった。多数回カラムの作動を遂行し、フラクションをα−gal A活性についてアッセイして適当な活性を含むフラクションを集めた。
【0056】
このスーパーデックス(登録商標)200カラムから得られるプールされたフラクションをCentriprep−10ユニットを用いて濃縮し、アリコートにしてからスナップ冷凍し、−80℃で短期間保存した。α−gal Aの精製についてこの実施例の要約が表3に示されている。α−gal Aの最終収率は出発物質の活性の59%であり、また精製した産物の比活性は2.92×106ユニット/mg蛋白質であった。得られた産物は、4〜15%のSDS−ポリアクリルアミドゲル上で還元条件にして電気泳動を行った後に高いレベルの純度を示し、続いて銀染色を行った。
【0057】
実施例III.精製されたα−gal Aの配合及び保存
高度に精製したα−gal Aは、精製された蛋白質(≦1mgの蛋白質/ml)の希釈溶液として保存した場合、長い期間は安定していない。したがって配合剤を長く保存する間、即ち数週間から少なくとも数カ月間不変のまま保存を行う間、安定性を改善できるように工夫した。精製された酵素を、遠心濃縮機(25mMの燐酸ナトリウム(pH6.0)及び150mMのNaClからなる酵素緩衝液中で)を用いて少なくとも1mg/mlに濃縮した。ヒト血清アルブミン(HSA;ブミネート(Buminate:登録商標、Baxter-Hyland)を添加して最終濃度を2.5mg/mlにした。それからこの蛋白質溶液を、シリンジに取り付けた0.2μmの酢酸セルロースフィルター(Schleicher and Schuell)を用いて滅菌濾過した。α−gal A溶液を、滅菌した発熱体フリーのガラス溶液に分配し、テフロン(登録商標)製の蓋で密閉し、スナップ冷却を行ってから−20℃で保存した。
【0058】
α−gal A活性の安定性は、4−MUF−gal アッセイを用いて3カ月間にわたって評価した。表5に示されたデータは、テストした期間にわたって酵素活性の喪失が起こらなかったことを証明している。配合剤が酸性pH(<6.5)であることは、高度に精製した酵素の安定性にとって重要である。
【表5】
配合されたα−gal Aの−20℃における安定性
【0059】
実施例IV.ヒト細胞株によって産生したα−gal Aは、α−gal A欠損症を治療するのに適当である。
本発明により調製した精製ヒトα−gal Aの構造的及び機能的特徴を、この明細書に記載されたDNA分子とトランスフェクトしたヒト細胞株によって産生された対応する発現糖蛋白質とがそれぞれ遺伝子治療または酵素置換治療で利用可能であることを証明するために調べた。
【0060】
A.培養中の安定してトランスフェクトされたヒト細胞により産生したα−gal Aのサイズ
α−gal Aの分子質量をMALDI−TOF質量分光測定法で見積った。これらの結果から、ダイマーの分子質量が102,353Daであり、これに対してモノマーの分子質量が51,002Daであることが証明された。アミノ酸組成に基づいてモノマーについて予測された分子質量は45,400Daである。したがって、酵素の炭水化物含有量は5,600Daまでの分子量であるとの計算が推測できる。
精製した蛋白質に対して行った標準的なアミノ酸分析の結果は、トランスフェクトしたヒト細胞によって産生された蛋白質がヒト組織から精製した蛋白質にアミノ酸レベルで同一であるという推断と一致している。
【0061】
B.安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−gal AのN末端処理
ヒトα−gal AのcDNAヌクレオチド配列は429個のアミノ酸をコードする。31個のN末端アミノ酸はシグナルペプチド配列を構成し、それは形成されつつある蛋白質が内部細胞質の網状質を通過するように開裂する(LeDonneらのJ. Biol. Chem. 262: 2062, 1987)。α−gal Aが異型のシグナルペプチド配列(例えば、ヒト成長ホルモンのシグナル配列)と関連していて、トランスフェクトしたヒト繊維芽細胞において発現する場合にα−gal Aが適当に処理されることを確認するために、分泌された蛋白質の10個のN末端アミノ酸をミクロシークエンシングした。サンプルをSDS−PAGEによって電気泳動し、10mMのCAPS(pH11.0)、10%のメタノール緩衝液システムを用いてプロブロット(ProBlott:登録商標、ABI, Foster City, CA)に転写した。プロブロット上の蛋白質はクマージー染色によって可視化し、そして適当サイズ(50kDa)のバンドを削り取った。N末端の配列は、自動化エドマン分解を行うアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)パルス−液相アミノ酸配列同定装置を用いて得た。得られたN末端配列、LDNGLARTPT(配列番号:28)は、シグナルペプチドの適切な開裂と一致しており、分泌された蛋白質に対して予測されているN末端配列と適合する。
【0062】
C.安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−gal AのC末端アミノ酸
本発明により産生された分泌α−gal AのC末端アミノ酸残基は、自動化ヒューレットパッカードC末端配列決定装置(Hewlett Packard C-terminal sequencer)を用いて同定した。この結果はC末端がロイシン残基であることを示しており、それはこのDNA配列によって予言されたC末端アミノ酸と一致している。
【0063】
D.安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−gal Aの炭水化物の修飾
本発明により産生されたα−gal Aのグリコシル化パターンも評価した。適当にグリコシル化されることは、α−gal Aがインビボで最適な活性を示すために重要である。即ち非グリコシル化システムで発現したα−gal Aは不活性であったりまたは不安定であったりする(HantzopolousらのGene 57: 159, 1987)。またグリコシル化は、α−gal Aが目的とする標的細胞にインターナリゼーションされるためにも重要であり、インビボでの酵素の循環血中半減期に影響を与える。α−gal Aのそれぞれのサブユニットには、アスパラギンに結合する炭水化物鎖の付加にとって役立つ4つの部位があり、そのうち3つの部位だけが占められている(DesnickらのIn The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, pp2741-2780, McGraw Hill, New York, 1995)。
【0064】
安定してトランスフェクトされた細胞によって産生したα−gal Aのサンプルを、A. urafaciensから単離したノイラミニダーゼで処理すること(Boehringer-Mnnheim, Indianapolis, IN)によりシアリル酸を除去した。この反応は、5μgのα−gal Aを10mUのノイラミニダーゼとともに室温で一晩、全体で10μlの酢酸緩衝塩溶液(ABS、20mMの酢酸ナトリウム、pH5.2、150mMのNaCl)中で処理することによって進行させた。
【0065】
安定してトランスフェクトされた細胞によって産生した精製α−gal Aも、アルカリホスファターゼ(子ウシ小腸のアルカリホスファターゼ、Boehringer-Mnnheim, Indianapolis, IN)を用いて脱リン酸化したが、それは5μgのα−gal Aを、ABS(1MのトリスでpHを7.5に上昇させた)中に入れた15Uのアルカリホスファターゼを用いて室温で一晩処理することによって行った。
【0066】
このサンプルを、α−gal A特異性抗体を用いたウエスターンブロットにより分析した。用いた抗体はウサギのポリクローナル抗ペプチド抗体であり、それは免疫原としてα−gal Aのアミノ酸68〜81を表すペプチドを用いて産生させた。その後この蛋白質をPVDF(Millopore, Bedford, MA)に移してからその膜を、抗血清が2.5%のブロット(脱脂したドライミルクの20mMのトリス−HCl溶液、pH7.5、0.05%のトウィーン−20)中に含まれる1:2000希釈液を用いてプローブした。この後で、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ(Organon Teknika/Cappel, Durham, NC; 1:5000希釈液)に複合化したヤギ抗ウサギIgGとECL化学ルミネセンスキット(Amersham. Arlington Heights, IN)の試薬を用いて検出した。
【0067】
ノイラミニダーゼを用いてα−gal Aを処理すると分子質量にわずかなシフト(約1500〜2000ダルトンまたは4〜6シアリル酸/モノマー)が起こるが、これはシアリル酸によりα−gal Aが広範囲に修飾されたことを示唆している。参考のために言うと、α−gal Aの血しょうの形態にはモノマー1個あたり5〜6個のシアリル酸残基があり、また胎盤の形態にはモノマー1個あたり0.5〜1.0個のシアリル酸残基がある(Bishopらの、J. Biol. Chem. 256: 1307, 1981)。
【0068】
α−gal Aのシアリル酸とマンノース−6−燐酸による修飾を調べるために用いられる別の方法としては等電点分離法(IEF)があり、それではサンプルが等電点(PI)または正味の電荷に基づいて分離される。こうしてα−gal Aから得られるシアリル酸や燐酸のようなチャージした残基が除去されると、IEFシステムにおいて蛋白質の移動度が変わって来ると予測される。
【0069】
IEF実験を行うためには本発明により産生したα−gal Aのサンプルを、2×Novexサンプル緩衝液(8Mのウレアを用いている、pH3.0〜7.0)とともに1:1で混合したノイラミニダーゼ及びアルカリホスファターゼを用いて処理し、ファルマライト(Pharmalyte:登録商標、Pharmacia, Uppsala, Sweden、pH3.0〜6.5、Pharmalyte(登録商標)4〜6.5及び2.5〜5.5、ゲルあたりそれぞれ0.25ml)を用いて作った6MウレアのIEFゲル(5.5%ポリアクリルアミド)にかけた。等電点の標準物質(Bio-Rad)も含ませた。電気泳動を行ったあとでそのゲルをPVDFに移し取り、ウエスターンブロット分析を上記に記載したように行った。
【0070】
安定してトランスフェクトしたヒト繊維芽細胞によって産生したα−gal Aは、約4.4〜4.65の範囲のpIを持つ三種の主要なイソ型からなる。これらの値はα−gal Aの血しょうの型及び胎盤の型のpIと同じである(Bishopらの、J. Biol. Chem. 256: 1307, 1981)。酵素のノイラミニダーゼ処理によって三種すべてのイソ型のpIが増加したが、このことは全てがサリチル酸によってある程度修飾されていることを示している。これらのデータは、安定したトランスフェクトがなされたヒト細胞によって産生されたα−gal Aが望ましい血しょう半減期を持っているに違いないことを示唆しており、そのことはこの材料が薬学的利用するのに充分ふさわしいことを示している。さらに、ノイラミダーゼ処理したα−gal Aをアルカリホスファターゼ処理すると、蛋白質の部分のpIが約5.0〜5.1にまでさらに増加したが、このことは酵素が一つまたはそれ以上のマンノース−6−ホスフェート残基を運搬していることを示している。この修飾は、標的細胞によってα−gal Aの効率のよいインターナリゼーションが起こるために必要である点で重要である。
【0071】
E.安定したトランスフェクトを行った繊維芽細胞から精製されたα−gal Aの比活性
精製されたα−gal Aの能力または比活性を、酵素の触媒活性(4−MUF−galアッセイを用いて)と、蛋白質濃度の両方を測定することによって計算する。蛋白質濃度は、BCAシステム(Pierce)を用いるようなどれかの標準法によって、または280nmでの吸収を測定し、吸光度係数2.3mg/ml(アミノ酸分析から決定した)を用いて値を計算することによって決定することができる。これらの手法を用いると、トランスフェクトしたヒト繊維芽細胞の条件を整えた培地から精製されたα−gal Aの比活性は2.2〜2.9×106ユニット/蛋白質のmgであり、それはヒト組織から精製されるα−gal Aの比活性に匹敵する(Bishopらの、J. Biol. Chem. 256: 1301, 1981)。
【0072】
F.マンノースまたはマンノース−6−ホスフェートが仲介するα−gal Aのインターナリゼーション
安定したトランスフェクトがなされた細胞によって産生されるα−gal Aがα−gal A欠損症の有効な治療薬となるためには、その酵素は影響を受けた細胞によってインターナリゼーションされなくてはならない。α−gal Aは生理学的なpHレベルでは活性でなく、また血液や小腸液では有効となりそうではない。リソソームの酸性環境でインターナリゼーションされる場合にのみ、蓄積した脂質基質は最適に代謝される。このインターナリゼーションは、細胞表面に現れていて、エンドサイトーシス経路によってリソソームにそのα−gal Aを供給するマンノース−6−ホスフェート(M6P)受容体にα−gal Aが結合することによって仲介される。M6P受容体はいたるところに現れており、ほとんどの体細胞はそれをある程度まで発現する。糖蛋白質上にある露出したマンノース残基に特異的なマンノース受容体はほとんど行き渡ってはいない。後者の受容体は一般に、マクロファージ及びマクロファージ様の細胞にのみ見られるもので、これらの細胞型にα−gal Aが入る別の手段を提供する。
【0073】
M6P−仲介型のα−gal Aのインターナリゼーションを証明するために、ファブリー病の患者から得られる皮膚の繊維芽細胞(NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repository)を、増加させた濃度の本発明の精製α−gal Aが存在するところで一晩培養した。そのサンプルのいくつかは5mMの可溶性M6Pを含んでおり、それはマンノース−6−ホスフェート受容体への結合を競合的に阻害し、結果的にその受容体によるインターナリゼーションを競合的に阻害した。他のサンプルは30μg/mlのマンナンを含んでおり、それはマンノース受容体への結合を阻害し、結果的にその受容体によるインターナリゼーションを阻害した。インキュベーションを行ってからその細胞を洗浄し、溶解緩衝液(10mMのトリス、pH7.2、100mMのNaCl、5mMのEDTA、2mMのPefabloc(商品名、Boehringer-Mannheim, Indeanapolis, IN)及び1%のNP−40)に削り落とすことによって採集した。次にその溶解したサンプルを蛋白質濃度とα−gal A活性についてアッセイした。結果はα−gal A活性ユニット/細胞の蛋白質mgとして表した。ファブリー細胞は用量−依存性の態様でα−gal Aをインターナリゼーションしていた(図7)。このインターナリゼーションはマンノース−6−ホスフェートによって阻害されたが、マンナンでは阻害されなかった。したがって、ファブリー繊維芽細胞におけるα−gal Aのインターナリゼーションはマンノース−6−ホスフェート受容体によって仲介されるが、マンノース受容体によっては仲介されない。
【0074】
またα−gal Aは、内皮細胞、即ちファブリー病の治療で重要な標的となる細胞によってもインビトロでインターナリゼーションされる。ヒトの臍の緒の血管の内皮細胞(HUVEC)を、7500ユニットのα−gal Aとともに一晩培養した。ウェルのいくつかはN6Pを含んでいた。インキュベート期間を終えてから細胞を採集し、上記に記載したようにα−gal Aをアッセイした。α−gal Aのみとともにインキュベートした細胞は、コントロール(α−gal Aとともにインキュベートしなかった)の細胞の酵素レベルのほとんど10倍もの酵素レベルであった。M6Pはα−gal Aの細胞内の蓄積を阻害するが、このことはHUVECによるα−gal AのインターナリゼーションがM6P受容体によって仲介されることを示唆している。したがって本発明のヒトα−gal Aは、臨床的に関連する細胞によってインターナリゼーションされる。
【0075】
マンノース受容体を発現することがわかっている培養ヒト細胞株はほとんどない。しかしながらマンノース受容体を運搬するが、マンノース−6−ホスフェート受容体があるならばほんの少しだけ運搬するマウスのマクロファージ様細胞系(J774.E)を、本発明の精製α−gal Aがマンノース受容体を経てインターナリゼーションされるかどうかを調べるために用いることができる(DimentらのJ. Leukocyte Biol. 42: 485-490, 1987)。J774.E細胞を10,000ユニット/α−gal Aのmlが存在するところで一晩培養した。選択したサンプルも2mMのM6Pを含んでいたが、他のものは100μg/マンナンのmlを含んでいた。その細胞を洗浄してから上記に記載したように収集し、それぞれのサンプルの全蛋白質とα−gal Aの活性を決定した。その結果が表6に示されている。M6Pはこれらの細胞によるα−gal Aの取り込みを阻害しないが、マンナンは蓄積されたα−gal Aのレベルを75%まで減少させた。しがたって本発明のα−gal Aは、マンノース受容体、即ちこの特定の細胞表面受容体を発現する細胞型にあるマンノース受容体によってインターナリゼーションされるらしい。
【表6】
J774.E細胞によるα−gal Aのインターナリゼーション
α−gal A活性(ユニット/全蛋白質のmg)
【0076】
これらの実験は、安定してトランスフェクトしたヒト細胞によって産生されたα−gal Aがマンノースまたはマンノース−6−ホスフェート受容体を介して細胞によってインターナリゼーションされるらしいことを証明している。
【0077】
G.α−gal Aを発現するヒト繊維芽細胞によるファブリー繊維芽細胞の修正
遺伝子治療では、α−gal Aを産生する自家細胞の移植片が適当に修飾された形態でその酵素を産生することによって、標的細胞のα−gal A欠損症を「修正」できなくてはならない。ファブリー細胞におけるトランスフェクトしたヒト繊維芽細胞によるα−gal Aの産生の効果を評価するために、ファブリー病の患者から採集した繊維芽細胞(NIGMS Human Genetics Mutant Cell Repository)を、トランスウェルズ(登録商標、Costar, Cambridge, MA)でα−gal A−産生細胞株(BRS−11)とともに共培養した。その実験スキームが図8に図示されている。ファブリー細胞は12ウェルの組織培養皿にて培養し、そのうちのいくつかは、細胞が成長できる表面を持つインサート(トランスウェルズ(Transwells、登録商標、0.4μmの孔径)を含んでいた。このインサートの成長マトリックスは多孔性であり、巨大分子が上方から下方の環境へと通ることを可能にする。1セットのインサートは、最小レベルのα−gal Aを分泌するヒトの包皮(HF)の繊維芽細胞を含んでおり、これに対して別のセットは大量のα−gal Aを分泌する安定にトランスフェクトしたヒト繊維芽細胞株、BRS−11を含んでいた。α−gal A−産生細胞とともに共培養したウェルでは、α−gal Aがファブリー細胞を浸している培地に入ることができ、ファブリー細胞によってインターナリゼーションされる可能性を秘めている。
【0078】
表7のデータは、ファブリー細胞が分泌されたα−gal Aをインターナリゼーションしたことを示している。α−gal Aの細胞内レベルを3日間モニターした。単独で(インサートなしで)培養するか、トランスフェクトされていない包皮の繊維芽細胞(HFインサート)の存在下で培養したこれらの細胞は、α−gal A活性の細胞内レベルが非常に低かった。しかしながらα−gal A−産生(BRS−11インサート)細胞とともに培養したファブリー細胞は、二日目の終わりまでには正常細胞の酵素レベルと同じくらいの酵素レベルを示した(正常の繊維芽細胞は、α−gal Aが25〜80ユニット/蛋白質のmgである)。この修正が、M6P受容体を介して取り上げられるα−gal Aに起因していることは、マンノース−6−ホスフェート(BRS−11インサート+M6P)を用いてそれが阻害されることによって証明される。
【表7】
α−gal Aを発現するヒト繊維芽細胞によるファブリー繊維芽細胞の修正
α−gal A活性(ユニット/全蛋白質のmg)
【0079】
H. 他の細胞型の利用
他の細胞型をこの明細書に記載された方法で利用できる。この細胞はさまざまな組織から得ることができ、またそれには培養して維持できる全ての細胞型が含まれる。例えば、本発明によってトランスフェクトすることのできる一次細胞及び二次細胞には、ヒト繊維芽細胞、ケラチン生成細胞、上皮細胞(例えば、乳房または小腸の上皮細胞)、内皮細胞、神経膠細胞、神経細胞、血液を形成する要素(例えばリンパ球や骨髄細胞)、筋肉細胞、及びこれらの体細胞型の前駆体が含まれる。繊維芽細胞は特に関心がもたれる。一次細胞は、患者の免疫システムによってそれらが拒絶されることのないように、トランスフェクトした一次または二次の細胞を投与すべき患者から得ると好ましい。しかしながら、免疫拒絶(下記に記載したような)を阻止したり抑制したりするために適当な注意が払われるならば、患者以外のヒトドナーの細胞をうまく用いることができる。このことは、標準化され、確立され、安定してトランスフェクトされた細胞系の使用を、全ての患者において可能にするであろう。
【0080】
I.α−gal A−発現細胞の投与
上記に記載した細胞は、それらが例えば腎臓の被膜下、皮下の区画部分、中枢神経系、脊髄内空間、肝臓、腹膜腔内空間、または筋肉内などに存在するように、種々の標準化された投与経路を経てヒトに導入することができる。またこの細胞は、ヒトの血流で循環するように静脈内または動脈内に注入してもよい。一旦ヒトに移植すると、そのトランスフェクトされた細胞は治療用産物であるグリコシル化ヒトα−gal Aを産生しかつ分泌する。
【0081】
ヒトに導入できるように遺伝的に修飾された細胞の数はいろいろ変えることができるが、技術的熟練者によって決定することができる。酵素の分配容積、半減期及び生物利用可能性、並びにインビボでの遺伝的に修飾された細胞の産生性はもちろんのこと、それぞれの患者の年齢、体重、性別及び全身状態が、用量及び投与経路を決定する際のおもに考慮すべきことに入るであろう。通常は、1日あたり106個の細胞につき100〜100,000ユニットの範囲の発現レベルを呈する100万個から10億個の細胞が用いられる。必要であればこの手法は、望ましい結果が得られるまで、例えばファブリー病が関与する症状から開放されるまで繰り返してもよいし、また修飾してもよい。
【0082】
上記に記載したように用いた細胞は、それらが患者の免疫系によって拒絶されないように一般には患者特異的であり、即ちトランスフェクトされた一次細胞または二次細胞が投与されるべきヒトから得られる細胞である。しかしながらこの計画が可能でなかったり望ましくなかったりする場合には、細胞を別のヒトから入手してこの明細書に記載したように遺伝的に修飾し、そしてα−gal A欠損症にかかっている患者に移植すればよい。
【0083】
受容者以外のヒトから得た細胞を用いると、免疫抑制剤の投与、組織適合抗原の変更、または移植した細胞の拒絶反応を抑制するためのバリア装置の利用が必要となるかもしれない。バリア装置は、分泌された産物が受容者の循環器や組織に入ることを可能にするが、移植された細胞と受容者の免疫システムとの間の接触を阻止し、それにより受容者によるその細胞に対する免疫応答(及び起こりうる拒絶反応)を阻止する材料(例えば、Amicon, Beverly, MAから得られるXM−50のような膜)からなる。遺伝子治療に関する更なるガイダンスについてはSeldenら(WO 93/09222)を参照のこと。
【0084】
またこの細胞は、ハイブリッドマトリックス移植物を用いることを記載した共同者自身の文献、U.S.S.N. 08/548/002に記載されているように、あるいは親水性のゲル材料に分泌細胞をマクロカプセル封入化することについて記載しているJainらの出願(PCT出願WO 95/19430)に記載されているように、マトリックスまたはゲル材料に埋め込まれていてもよい(そのそれぞれは参照文献として本明細書に組み入れられる)。
【0085】
J.α−gal A蛋白質を簡便に投与するための製薬配合剤
安定してトランスフェクトした(または別の方法で遺伝的に修飾した)ヒト細胞によって発現して分泌され、そして本明細書に記載したように精製されるα−gal A蛋白質を、α−gal A蛋白質産生が不十分または欠損している患者に投与することができる。この蛋白質は、薬学的に受容可能なキャリアに入れて、例えば実施例IIIに記載されたような配合剤に入れてpH6.5以下で投与することができる。配合剤で含まれていてもよい賦形剤の例は、クエン酸塩緩衝液、燐酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、もしくは重炭酸塩緩衝液のような緩衝液、アミノ酸、ウレア、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、血清アルブミンもしくはゼラチンのような蛋白質、EDTA、塩酸ナトリウム、リポソーム、ポリビニルピロリドン、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG−6000)である。投与経路は例えば静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、脳内、筋肉内、肺内、または粘膜経由であるとよい。投与のルート及び分配される蛋白質の量は、技術熟練者の評価能力に充分入るファクターによって決定することができる。さらに技術熟練者は、治療用蛋白質の投与経路及び用量を、治療用量レベルが得られるまで対象の患者において変化させるとよいことがわかっている。典型的には、α−gal Aは0.01〜100mg/体重1kgの用量で投与されるであろう。この蛋白質を調節しながら繰り返し投薬することは、患者の生涯にわたって必要であろう。
【0086】
K.酵素欠損症によって起こる他の状態の治療
α−gal A以外のリソソーム貯蔵酵素の欠損症によって引き起こされる他の状態は、本明細書に記載した方法に匹敵する方法による治療に影響を受けるであろうと見込まれる。これらの場合では、欠乏した酵素の機能的な型をコードするDNAを、本明細書に開示された発現構築物でのα−gal AをコードするDNAと置換すればよい。確認されている酵素欠損症候群、及び本明細書に記載されたような治療に影響される可能性のある酵素欠損症候群の例が表8に示されている。この表における情報はNeufeld(Ann. Rev. Biochem. 60:257-280, 1991)から得られるものであり、それは参照文献として本明細書に組み入れられる。
【表8】
【0087】
V.他の態様
本明細書に記載された本発明は、トランスフェクション、即ち遺伝子産物をコードするとともに、コード配列の発現をコントロールする調節要素を持っている構築物の導入後に特定の遺伝子産物を発現する細胞を用いる治療方法によって部分的に説明した。またこれらの方法は、他の工程、即ち遺伝子の標的化及び遺伝子の活性化によって遺伝的に修飾された細胞を用いて行ってもよい(参照文献として本明細書に組み入れられるTrecoらのWO 95/31560参照、またSeldenらのWO 93/09222も参照)。
【0088】
hGHシグナルペプチドは、異型の蛋白質の発現と分泌のレベルを大きくするためにα−gal A以外の異型の蛋白質とともに用いてもよい。このような蛋白質の例にはα−1アンチトリプシン、アンチトロンビンIII、アポリポ蛋白質E、アポリポ蛋白質A−1、血液凝固因子V,VII,VIII,IX,X,及びXIII、骨成長因子−2、骨成長因子−7、カルシトニン、触媒性抗体、DNAse、エリスロポエチン、FSH−β、グロビン、グルカゴン、グルコセレブロシダーゼ、G−CSF、GM−CSF、成長ホルモン、免疫応答変更遺伝子、イムノグロブリン、インシュリン、インシュリノトロピン、インシュリン様成長因子、インターフェロン−β、インターフェロン−β神経成長因子、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−6、インターロイキン−11、インターロイキン−12、IL−2受容体、IL−1受容体のアンタゴニスト、低密度リポ蛋白質受容体、M−CSF、パラチロイドホルモン、プロテインキナーゼC、可溶性CD4、スーパーオキサイドジスムターゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、TGF−β、腫瘍壊死因子、TSHβ、チロシンヒドロキシラーゼ、及びウロキナーゼが含まれる。
他の態様は次の請求の範囲内に含まれる。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、α−ガラクトシダーゼA及びα−ガラクトシダーゼ欠損症の治療に関する。
ファブリー病はX−連鎖で遺伝的に受け継がれるリソソーム蓄積症であって、それは重篤な腎障害、角化血管腫、及び心室拡張や僧帽弁不全などの心血管異常のような症状に特徴がある。またこの疾患は末梢神経系にも影響を及ぼし、激痛、即ち極限状態の強烈な痛みを引き起こす。ファブリー病は酵素のα−ガラクトシダーゼA(α−gal A)が欠乏することに原因があり、結果的に中性のグリコスフィンゴ脂質の異化作用が妨害されるとともに、細胞内や血流において酵素基質であるセラミドトリヘキサイドの蓄積が起こる。
【0002】
この疾患はX−連鎖で遺伝的に受け継がれるパターンであるため、必然的に全てのファブリー病患者は雄性である。厳格に影響を受けた雌性の異型接合体もわずかながら観察されているが、雌性の異型接合体は一般に、無症候性かあるいは角膜の特徴的な不透明性にほとんど限定されたかなり緩和な症候が見られるかのいずれかである。低量の残留α−gal A活性を示し、そしてかなり緩和な症候しか示さないかまたはファブリー病に特徴的な他の症候を明らかに示さないような、ファブリー病では典型的とは言えない場合には、左心室肥大や心疾患が関連している(非特許文献1を参照)。α−gal Aの減少がこのような心臓異常の原因であるかもしれないと推測されている。
【0003】
ヒトα−gal AをコードするcDNAと遺伝子が単離され、配列決定されている(非特許文献2、3、4を参照)。ヒトα−gal Aは429個のアミノ酸ポリペプチドとして発現し、そのN末端の31個のアミノ酸はシグナルペプチドを構成している。ヒトの酵素は、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞(特許文献1、非特許文献5を参照)、昆虫細胞(特許文献2を参照)、及びCOS細胞(非特許文献6を参照)で発現している。α−gal A置換治療の予備試験について報告されており、それはヒトの組織から誘導された蛋白質を用いている(非特許文献7、8、9を参照)が、現時点でファブリー病の有効な治療法はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Desnickの米国特許第5,356,804号
【特許文献2】Calhounらの米国特許第5,179,023号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NakanoらのNew Engl. J. Med. 333: 288-293, 1995
【非特許文献2】BishopらのProc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 4859, 1986
【非特許文献3】KornreichらのNuc. Acids Res. 17: 3301, 1988
【非特許文献4】OeltjenらのMammalian Genome 6: 335-338, 1995
【非特許文献5】IoannouらのJ. Cell Biol. 119: 1137, 1992
【非特許文献6】TsujiらのEur. J. Biochem. 165: 275, 1987
【非特許文献7】MapesらのScience 169: 987 1970
【非特許文献8】BradyらのN. Engl. J. Med. 289: 9, 1973
【非特許文献9】DesnickらのProc, Natl. Acad. Sci. USA 76: 5326, 1979
【発明の概要】
【0006】
培養されたヒトの細胞でヒトα−gal AをコードするDNAを発現させると、適当にグリコシル化されたポリペプチドを、酵素的に活性であって、ファブリー病で蓄積するグリコスフィンゴ脂質の基質に作用する能力があるだけでなく、この疾患で必要とされているところ、即ち作用細胞、特に患者の血管の内層の内皮細胞のリソソーム区画に正確にターゲティングさせる細胞表面の受容体を経て細胞によって効率的に中に取り入れられるように生成することが判明している。この知見については下記により詳細に説明されているが、ファブリー病のようなα−gal A欠損症であることが疑われる個体を、(1)ヒトα−gal Aを過剰発現して分泌するように遺伝的に修飾されたヒト細胞、または(2)遺伝的に修飾された培養ヒト細胞から得られる純粋なヒトα−gal Aのいずれかを用いて治療することができる。
【0007】
初めのルートによる治療、即ち修飾された細胞自体を用いる治療には、ヒトの細胞(例えば一次細胞、二次細胞、または不死化細胞)を、高いレベルのヒトα−gal Aを発現し分泌するように誘導すべくインビトロまたはエクスビボで遺伝子操作すること、続いてSeldenらのWO 93/09222(参照文献として本明細書に組み入れられる)において一般的に記載されているように患者にその細胞を移植することが含まれる。
【0008】
遺伝子治療または酵素置換治療によってファブリー病の治療を行う目的のために細胞を遺伝的に修飾すべき場合、α−gal AのcDNAまたはゲノムのDNA配列を含むDNA分子は発現構築物に含まれていて、ヒトの一次細胞または二次細胞(例えば、繊維芽細胞、乳房や腸管の上皮細胞などの上皮細胞、リンパ球や骨髄細胞などの血液の要素を構成する内皮細胞、神経膠細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、神経細胞、またはこれらの細胞型の前駆体)に、トランスフェクションの標準的な方法、即ちこれらに限定するわけではないが、リポソーム媒体トランスフェクション、ポリブレン媒体トランスフェクション、もしくはDEAEデキストラン媒体トランスフェクション法、エレクトロポレーション、燐酸カルシウム沈降法、マイクロインジェクション、または速度推進型微粒子投射法(「バイオリスティックス」)といった方法によって導入されるようになっている。また、ウイルスベクターによってDNAを渡すシステムを用いてもよい。遺伝子トランスファーに有用であると知られているウイルスには、アデノウイルス類、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、レトロウイルス類、シンドビスウイルス、及びカナリーポックスウイルスのようなワクシニアウイルスが挙げられる。一次細胞または二次細胞培養物は本発明の治療方法にとって好適であるが、不死化されたヒトの細胞を用いることもできる。本発明の方法で有用なヒト不死化細胞系の例には、ヒト細胞と別の種の細胞とを融合させて作成したヘテロハイブリドーマ細胞はもちろんのこと、Bowesメラノーマ細胞(ATCC寄託番号CRL 9607)、Daudi細胞(ATCC寄託番号CCL 213)、Hela細胞及びHela細胞の誘導体(ATCC寄託番号CCL 2、CCL 2.1、及びCCL 2.2)、HL-60細胞(ATCC寄託番号CCL 240)、HT1080細胞(ATCC寄託番号CCL 121)、Jurkat細胞(ATCC寄託番号TIB 152)、KB癌細胞(ATCC寄託番号CCL 17)、K-562白血病細胞(ATCC寄託番号CCL 243)、MCF-7乳癌細胞(ATCC寄託番号BTH 22)、MOLT-4細胞(ATCC寄託番号1582)、Namalwa細胞(ATCC寄託番号CRL 1432)、Raji細胞(ATCC寄託番号CCL 86)、RPMI 8226細胞(ATCC寄託番号CCL 155)、U-937細胞(ATCC寄託番号CRL 1593)、WI-38VA13サブライン2R4細胞(ATCC寄託番号CCL 75.1)、及び2780AD卵巣癌細胞(Van der BlickらのCancer Res. 48: 5927-5932, 1988)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0009】
α−gal Aを過剰発現して分泌する細胞を形成するためにα−gal AをコードするDNA分子を用いてヒト細胞を遺伝子操作したあとで(または下記に説明したように別の適当な遺伝子的修飾法を行ったあとで)、複数の遺伝的に同一の培養された一次ヒト細胞から本質的になるクローン細胞株、またはその細胞が不死化されている場合は複数の遺伝的に同一の不死化ヒト細胞から本質的になるクローン細胞系を発生させることができる。好ましくはクローン細胞株またはクローン細胞系の細胞は繊維芽細胞である。
【0010】
続いて遺伝的に修飾された細胞を調製し、適当な方法、例えばSeldenらのWO 93/09222に記載されているような方法によって患者に導入すればよい。
【0011】
本発明に係る遺伝子治療は、ヒトまたは動物の組織から誘導された酵素を用いて酵素置換治療を行う場合の多くの利点を所有している。例えば本発明の方法は、適当な組織の供給源についてのとても一致しそうにない入手可能性に依存しているのではなく、そのためα−gal A欠損症を治療する商業的に存続可能な方法である。それはヒト組織から誘導された酵素を用いる酵素−置換治療法に匹敵するほど比較的にリスクがなく、公知のウイルスまたは未知のウイルスを用いて、また他の感染性の薬剤を用いて感染させることができる。そのうえ本発明に係る遺伝子治療法は、一般的に酵素置換治療法を行った場合の多くの利点を所有している。例えば本発明の方法は、(1)毎日注入する必要性を減少させるといった長期間治療計画についての利点を提供するし、(2)簡便な薬理学的供給に通常付随して起こる、治療用蛋白質の血清濃度及び組織濃度の極端な変動を減少させるし、そして(3)頻繁に投与するために蛋白質を生成し精製することが不必要であるため、酵素置換治療法よりも安価になると考えられる。
【0012】
上記に記載したようにα−gal A欠損症のヒトは精製したα−gal Aを用いて治療することもできる(即ち酵素置換治療法)。またヒトα−gal Aを過剰発現するように遺伝的に修飾された一次、二次、または不死化されたヒト細胞は、インビトロで蛋白質を製造する際にも有用であり、酵素置換治療法を行うために精製されているとよい蛋白質を作成することができる。二次または不死化されたヒト細胞は上記に記載した細胞の中から選択してもよいし、また上記に記載したトランスフェクション法または形質導入法によって遺伝的に修飾してもよい。遺伝的に修飾したあとでその細胞を、α−gal Aを過剰発現し分泌することが可能な条件下で培養する。この蛋白質は、細胞が増殖している培地を収集したり、内容物が遊離するように細胞を溶解したりしてから、次に標準的な蛋白質精製法を適用することで培養細胞から単離する。このような一つの方法には、培養培地、即ちヒトα−gal Aを含む何らかのサンプルが、ブチル基などの機能的部分を持っているブチルセファロース(Butyl Sepharose:登録商標)または他の樹脂のような疎水性の相互作用樹脂を通過する工程を含む。サンプルをこのような樹脂に通す工程は、第1クロマトグラフィー工程で構成することができる。更に精製することが必要であれば、疎水性の相互作用樹脂から溶出したα−gal A含有材料を、ヘパリンセファロース(Heparin Sepharose:登録商標)のような固定化ヘパリン樹脂、ハイドロキシアパタイト、Qセファロース(Q Sepharose:登録商標)のようなアニオン交換樹脂、またはスーパーデックス(Superdex:登録商標)200のようなサイズ排除樹脂などの第2の樹脂を含むカラム上を通過させるとよい。精製プロトコールに、それぞれ上記のタイプの樹脂を使用することが含まれると好ましい。また疎水性の相互作用樹脂の前またはその樹脂に代えて、後者の樹脂の一つまたはそれ以上を用いてもよい。
【0013】
比較的高い純度のα−gal Aを調製する以前の方法は、レクチン親和性クロマトグラフィー(コンカナバリンA(Con A)セファロース)とセファロースマトリックスに結合した基質アナログであるN−6−アミノヘキサノイル−α−D−ガラクトシルアミンへのα−gal Aの結合性に基づいた親和性クロマトグラフィーとの組合せを利用している親和性クロマトグラフィーを使用することに依存していた(BishopらのJ. Biol. Chem. 256: 1307-1316, 1981)。蛋白質のレクチン親和性樹脂と基質アナログ樹脂とを使用すると通常、固体支持体からの親和剤の連続的な浸出が関わってくるため(cf. MarikarらのAnal. Biochem. 201: 306-310, 1992)、その結果精製した生成物の親和剤による不純物混入が溶液に遊離状態になっているか溶出した蛋白質に結合しているかのいずれかで起こる。このような不純物混入により、生成物が薬学的調製物として使用するに好ましくないものとなってしまう。また結合した基質アナログ及びレクチンも、蛋白質の酵素的、機能的、及び構造的性質に対し実質的にネガティブな影響を持っている可能性がある。さらにこのような親和性樹脂は通常、合成するには高価であり、そのことがそのような樹脂の利用を従来のクロマトグラフィー樹脂以上の商業的規模で製造するには適当ではないようにしてしまう。したがって、大規模の商業的利用に適当な供給及び質の点で容易に入手可能な従来のクロマトグラフィー樹脂を用いる精製プロトコールの開発が本発明の重要な利点である。
【0014】
α−gal A欠損症になっていると推測されるヒトは、薬学的に許容される精製ヒトα−gal Aを標準的な方法、即ち次の方法に限定するわけではないが、静脈内注入、皮下注入、もしくは筋肉内注入、または固体の移植物としての方法によって投与することで治療できると考えられる。この精製蛋白質は、生理学的に許容される賦形剤、例えばヒト血清アルブミンのようなキャリアを含むpH6.5またはそれ以下の水性溶液からなる治療用組成物として処方してもよい。
【0015】
本発明はしたがって、適当にグリコシル化されていて、そのため治療上利用できるヒトα−gal Aを大量に得るための方法を提供する。これによって、α−gal A欠損症に対する酵素置換治療が商業的に存続可能なものとなり、もちろんヒトまたは動物の組織から誘導された酵素を用いる治療法に匹敵するほど相対的にリスクもない。
【0016】
熟練された技術者であれば、ヒトα−gal AのDNA配列(cDNAまたはゲノムのDNA)、またはサイレントコドンの変化もしくはアミノ酸の同類置換をもたらすようなコドンの変化のいずれかがあるためにそれとは異なっている配列を、培養されたヒト細胞を遺伝的に修飾することによって酵素を過剰発現して分泌するように用いることができる点を認識できるであろう。また、α−gal AのDNA配列においてある種の突然変異が起こって、良好になったα−gal Aの酵素的活性(本明細書に記載したように、培養された細胞において突然変異DNA分子を発現させること、コードされたポリペプチドを精製すること、及び触媒活性を測定することによって明らかとされるように)を保持している、即ち示すようなポリペプチドをコードできる可能性もある。例えば、特定すると同類のアミノ酸置換が蛋白質における残基の総量の10%未満に現れている場合に、生物活性にほとんど影響がないか全く影響のない同類のアミノ酸置換が起こっていると予測できる。同類置換には通常、次のグループ内の置換が含まれる。即ち、グリシンとアラニン、バリンとイソロイシンとロイシン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、セリンとスレオニン、リジンとアルギニン、及びフェニルアラニンとチロシンである。
【0017】
細胞によるα−gal Aの産生は、ある遺伝子操作によって最大にできる。例を挙げるとα−gal AをコードするDNA分子は、例えばヒト成長ホルモン(hGH)、エリスロポエチン、因子VIII、因子IX、グルカゴン、低密度リポ蛋白質(LDL)受容体、またはα−gal A以外のリソソームの酵素のシグナルペプチドのような異型のシグナルペプチドをコードすることもできる。好ましくはシグナルペプチドはhGHシグナルペプチド(配列番号:21)であって、コードされた蛋白質のN末端である。シグナルペプチドをコードするDNA配列はhGH遺伝子の第1イントロンのようなイントロンを含んでいてもよく、その結果、配列番号:27のようなDNA配列になる(図10も参照のこと)。さらにまた、DNA分子は少なくとも6個のヌクレオチド長の3’非翻訳配列(UTS)を含んでいてもよい(3’UTS、即ちコード配列にある必須のポリアデニル化部位を持たないヒトで見られるα−gal AのmRNAとは対照的である)。このUTSはコード配列の終結コドンの3’に隣接して存在しており、ポリアデニル化部位を含んでいる。好ましくは少なくとも6個のヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも12個、そして最も好ましくは少なくとも30個のヌクレオチド長であり、どの場合も配列AATAAAまたはポリアデニル化を促進するようにはたらく関連配列を含んでいる。記載したようなDNA分子、即ちα−gal Aに結合したhGHシグナルペプチドをコードしていてポリアデニル化部位を含む3’UTSを有し、そして好ましくは発現調節配列を含むようなDNA分子も本発明に入る。また、α−gal Aに結合したhGHのシグナルペプチドまたは何らかの他の異種ポリペプチド(即ち、hGH以外のどれかのポリペプチド、またはhGHのアナログ)を含む蛋白質をコードするDNA分子も本発明の範囲内に入る。異種ポリペプチドは、通常は哺乳動物の蛋白質、例えば何らかの医学的に望ましいヒトポリペプチドである。
【0018】
本発明の他の特徴や利点は、次の詳細な説明から、また請求の範囲から明かとなると思われる。
細胞に関して本明細書で用いられる「遺伝的に修飾された」という用語は、特定の遺伝子産物および/またはコード配列の発現をコントロールする調節要素をコードするDNA分子を導入したあとで、その特定の遺伝子産物が発現する細胞が包含されていることを意味する。DNA分子の導入は遺伝子の標的化(即ち、特定のゲノム部位へのDNA分子の導入)によって成し遂げられ、更に相同組換えによって欠損遺伝子自体の置換が可能になる(欠損したα−gal A遺伝子またはその一部分が、ファブリー病の患者自身の細胞において、遺伝子全体またはその一部分と置き換えられうる)。
【0019】
本明細書で用いられる「α−gal A」という用語は、シグナルペプチドを持たないα−gal A、即ち配列番号:26(図9)を意味する。配列番号:26(図9)の残基371から398または373から398がリソソームにおいて除去される可能性があること、しかしながらこの推定されている除去前のペプチドが除去されても酵素の活性に影響を与えないと考えられていることについていくらかの表示がある。このことは、推定されている除去前のペプチドのある部分が活性に影響を与えることなく欠失できることを示唆している。したがって本明細書で用いられる「α−gal A」という用語は、その配列のC末端で28残基までを欠いている以外は配列番号:26に対応する配列を持つ蛋白質もカバーする。
【0020】
「α−gal A欠損症」とは、ある患者においてこの酵素の量または活性が欠乏していることを意味する。この欠損症は、ファブリー病を患っている男性で典型的に観察されるような重篤な症候を誘導する可能性があり、また一部のみを誘導したり、欠損遺伝子の異型接合体の女性のキャリアで見ることのできるような比較的緩和な症候を誘導したりする可能性がある。
【0021】
本明細書で用いられる「一次細胞」という用語は、脊椎動物の組織供給源から(それらを移植する、即ち皿やフラスコのような組織培養基板に付着させる前に)単離された細胞の懸濁液中に存在する細胞、組織から誘導された組織片に存在する細胞、初回に移植された二つの前のタイプの細胞、そしてこれらの移植された細胞から誘導される細胞懸濁液を含む。
【0022】
「二次細胞」とは、培養における全ての次の段階の細胞のことを言う。即ち初回に植え付けられた一次細胞が培養基質から除去されて、再移植される(継代した)と、それは続く継代に存在する全ての細胞も同じく二次細胞と言われる。
【0023】
「細胞株」は、一回またはそれ以上継代を行った二次細胞からなっていて、培養により有限数の平均的な固体群倍増を示すとともに、接触−阻害される固定法依存で成長する性質(懸濁液培養で増殖させた細胞は除く)を示し、また不死化されていない。
【0024】
「不死化された細胞」とは、培養の際に明らかに際限のない寿命を示す確立された細胞系から得られる細胞を意味する。
「シグナルペプチド」とは、さらなる翻訳後処理および/または分布のために小胞体に付着した新しく合成されたポリペプチドに指向するペプチド配列を意味する。
【0025】
α−gal Aについての前後関係で本明細書で用いられているような「異種シグナルペプチド」という用語は、ヒトα−gal Aシグナルペプチドではないシグナルペプチド(即ち、配列番号:18のヌクレオチド36〜128によってコードされているペプチド)を意味する。それは通常、α−gal A以外の何らかの哺乳動物の蛋白質のシグナルペプチドである。
「第1クロマトグラフィー工程」という用語は、クロマトグラフィーカラムへのサンプルの最初の適用を意味する(サンプルの調製に関与する全ての工程は除く)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ヒト繊維芽細胞のcDNAライブラリーからα−gal Aを単離するために用いた210bpのプローブの表示である(配列番号:19)。この配列はα−gal A遺伝子のエキソン7からのものである。プローブはヒトゲノムのDNAからポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって単離した。この図のアンダーラインをつけた領域は、増幅プライマーの配列に対応する。
【図2】α−gal AのcDNAクローンの5’末端を完成させるDNAフラグメントの配列の表示である(配列番号:20)。このフラグメントはPCRによってヒトゲノムのDNAから増幅した。アンダーラインをつけた領域は増幅プライマーの配列に対応している。実施例IAに記載されているようにサブクローニングする際に用いられるNcoI及びSacII制限エンドヌクレアーゼ部位の位置も示されている。
【図3】α−gal AのcDNAの配列の表示であり、それはシグナルペプチド(配列番号:18)をコードする配列を含んでいる。
【図4】pXAG−16、即ちCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターとイントロン、hGHシグナルペプチドをコードする配列と第1イントロン、α−gal AのcDNA(即ちα−gal Aシグナルペプチド配列を欠いている)、及びhGH3’UTSを含むα−gal A発現構築物の概略地図である。
【図5】pXAG-28、即ちコラーゲンIα2プロモーター、β−アクチンイントロン、hGHシグナルペプチドをコードする配列と第1イントロン、α−gal AのcDNA(即ちα−gal Aシグナルペプチド配列を欠いている)、及びhGH3’UTSを含むα−gal A発現構築物の概略地図である。
【図6】ブチルセファロース(登録商標)樹脂を用いるα−gal Aの精製工程のクロマトグラムである。選択したフラクションの280nmにおける吸光度(単純な線)とα−gal A活性(ドットをつけた線)が示されている。
【図7】本発明により準備したヒトα−gal Aのファブリー繊維芽細胞によるインターナリゼーションを図示している線グラフである。細胞内のα−gal A活性と全蛋白質濃度は、本発明により準備したヒトα−gal Aの濃度を増加させて細胞のインキュベートを行ったあとで測定した。潜在的なインターナリゼーション−インヒビター、マンノース−6−ホスフェート(M6P;白いひし形)とマンナン(白丸)の効果が示されている。
【図8】α−gal Aのインターナリゼーションのあとでファブリーの繊維芽細胞を調べるべく設計された実験の典型の外略図である。ファブリー細胞のα−gal A活性は、正常のヒト繊維芽細胞かトランスウェル(Transwell:商品名)挿入物で培養したα−gal Aを過剰発現するヒト繊維芽細胞かいずれかにさらした後で測定する。「M6P」=マンノース−6−ホスフェート。「Untrf HF」=トランスフェクトされていないヒト繊維芽細胞、「BRS11」=トランスフェクトしたα−gal A−過剰発現繊維芽細胞株。
【図9】ヒトα−gal Aアミノ酸配列(配列番号:26)の表示である。
【図10】hGHシグナルペプチドをコードし、第1hGHイントロン(アンダーライン)を含むDNA配列の表示である(配列番号:27)。
【図11】イントロンを持たないhGHシグナルペプチドをコードするDNA配列の表示である(配列番号:22)。
【図12】hGHシグナルペプチドのアミノ酸配列の表示である(配列番号:21)。
【図13】ヒトα−gal A(シグナルペプチドを持たない)をコードするcDNA配列の表示である(配列番号:25)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
α−gal Aのようなリソソームの酵素は、マンノース−6−ホスフェート(M6P)受容体、即ち、リソソームの区画のためと運命づけられた酵素のオリゴサッカライド部分に存在するM6P残基に結合する受容体との相互作用により細胞のリソソーム区画を標的として指向する(Kornfeld, S. and Mellman, I, Ann. Rev. Cell Biol. 5: 483-525, 1989)。一次の相互作用はゴルジ体で起こり、そこではゴルジのM6P受容体に結合した酵素がリソソームに移行するために分離される。二次的なタイプの相互作用は、細胞表面にて細胞外のα−gal AとM6Pとの間で起こると考えられている。細胞によってインターナリゼーションされた細胞外の基質はエンドサイトーシス小胞において細胞質を通って移行し、それは最初のリソソームと融合し、そのリソソームに内容物を移す。この過程で細胞表面のM6P受容体もエンドサイトーシス小胞に導入され、リソソームに移される。
【0028】
細胞外環境に存在するα−gal Aは、それがM6P残基を運搬している場合には細胞表面のM6P受容体に結合し、そのためその受容体とともにリソソームの区画に移行することができる。このスキャベンジャーの結果として一旦リソソームの区画に入ると、酵素は適当な機能を挙行できる。したがって、仮に細胞がそれ自身のα−gal Aを産生する場合に遺伝子的欠陥があったとしても、(a)酵素が適当にグリコシル化されていること及び(b)欠陥のある細胞がM6P受容体を運搬することによって、外因性で製造された酵素を取り上げるための機構が存在する。
【0029】
ファブリー病では、腎臓及び心臓の血管内皮細胞が重篤な組織病理学上の異常を示すこと、そしてその疾患の臨床上の病理学に関わることがわかっており、M6P受容体を運搬しているこれらの細胞は、本明細書で主張している本発明の特定のターゲットである。本発明によって製造されたα−gal Aは、影響を受けている細胞に局所的または全身的のいずれかで遺伝子治療によって(即ち、患者の体内でグリコシル化酵素を発現しかつ分泌するように遺伝的に修飾された細胞によって)、または従来の薬学的投与経路によって供給することができる。したがってM6PがN−結合オリゴサッカライドに存在する場合のα−gal Aは、本発明による治療法にとって非常に重要である。
【0030】
さらにα−gal AのN−結合オリゴサッカライドがシアリル化によって修飾されている程度も非常に重要である。適当なシアリル化がなされていない場合α−gal Aは、肝臓のアシアロ糖蛋白質受容体によって結合されることに起因して循環系から急速に一掃され、その後インターナリゼーションされてから肝細胞によって分解を受ける(Ashwell及びHarfordのAnn. Rev. Biochem. 51: 531-554, 1982)。これによって、腎臓及び心臓の血管内皮細胞のようなファブリー病の臨床的病理学に寄与する細胞のM6P受容体に結合するために循環系で利用されるα−gal Aの量が減少する。驚くべきことに出願人は、安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって分泌されるα−gal Aが、遺伝子治療によってか精製した分泌蛋白質の従来の薬学的投与法によってファブリー病の治療を行うために適切なグリコシル化の性質をもっていることを見いだした。このことは、最も研究の進んだリソソームの酵素であるグルコセレブロシダーゼについての状況、即ちヒトの胎盤から精製されるかまたは体内で臨床的に関連する細胞にトランスフェクトしたCHO細胞から分泌された酵素を供給するには、複雑な酵素の酵素的修飾、それに続く精製が必要であるという状況(cf. Beutler, New Engl. J. Med. 325: 1354-1360, 1991)と対照的である。
【0031】
本発明の治療法は二通りの一般法、即ち酵素を過剰発現し分泌するように遺伝的に修飾された培養ヒト細胞から得られる精製ヒトα−gal Aの治療上の有効量を患者に導入することによって、またはその患者に過剰発現する細胞自体を導入することによっての二通りの一般法のいずれかで行うことができる。必要な遺伝的修飾を達成する手法については、精製、配合、及び治療の方法として下記に記載されている。
【実施例】
【0032】
実施例I.α−gal Aを輸送し発現するように設計された構築物の調製及び利用
二つの発現プラスミドであるpXAG−16及びpXAG-28を構築した。これらのプラスミドには、α−gal A酵素の398のアミノ酸をコードしているヒトα−gal A酵素(α−gal Aシグナルペプチドを欠いている)、ヒト成長ホルモン(hGH)遺伝子の第1イントロンによって割り込まれたhGHシグナルペプチドのゲノムDNA配列、及びポリアデニル化のシグナルを含むhGH遺伝子の3’非翻訳配列(UTS)が含まれる。プラスミドpXAG−16はヒトサイトメガロウイルスの即時型−初期(CMV IE)プロモーターおよび第1イントロン(非コードエクソン配列に隣接)を有しており、これに対してpXAG-28はコラーゲンIα2プロモーターによって推進され、またβ−アクチン遺伝子の第1イントロンを持つβ−アクチン遺伝子の5’UTSも含んでいる。
【0033】
A.完全なα−gal AのcDNAのクローニング及びα−gal A発現プラスミドpXAG−16の構築
ヒトα−gal AのcDNAは、次のように構築したヒト繊維芽細胞のcDNAライブラリーからクローニングした。Poly−A+mRNAは全RNAから単離し、cDNAの合成は製造指示書にしたがってラムダザップII(lambda ZapII:登録商標)システムの試薬を用いて行った(Stratagene Inc., LaJolla, CA)。簡単に述べると「第1鎖」のcDNAは、内部XhoI制限エンドヌクレアーゼ部位を含むオリゴ−dTプライマーの存在下で逆転写を行うことで生成した。続いてRNase Hを用いて処理し、そのcDNAを二本鎖のcDNAを生成するためにDNAポリメラーゼIを用いてニック−トランスレーションした。このcDNAはT4DNAポリメラーゼを用いて平滑末端を形成し、EcoRIアダプターに連結した。この連結の生成物をT4DNAキナーゼで処理してからXhoIを用いて切断した。そのcDNAをセファクリル−400(Sephacryl-400:登録商標)クロマトグラフィーによってフラクションに分けた。大量で中間の大きさのフラクションを集め、そのcDNAをEcoRIとXhoI−切断性のラムダザップII(lambda ZapII)アームに連結した。次にこの連結反応の生成物を包装し、力価を測定した。主なライブラリーは力価が1.2×107pfu/mlであり、平均的な挿入物の大きさは925bpであった。
【0034】
ヒトα−gal A遺伝子のエキソン7から得られる210bpのプローブ(図1の配列番号:19)を、cDNAを単離するために用いた。このプローブ自体は次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−CTGGGCTGTAGCTATGATAAAC−3’(オリゴ1;配列番号1)及び5’−TCTAGCTGAAGCAAAACAGTG−3’(オリゴ2;配列番号:2)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによってゲノムDNAから単離した。続いてこのPCR生成物を繊維芽細胞のcDNAライブラリーをスクリーニングするために用い、ポジティブのクローンを単離してからさらに特徴を明らかにした。一つのポジティブなクローンであるファージ3Aを、ラムダザップII(lambda ZapII:登録商標)システム摘出プロトコール(Stratagene, Inc., La Jolla, CA)に、その製造指示書に従ってかけた。この方法によってプラスミドpBASAG3Aが得られ、それはpBluescriptSK−(商品名)プラスミドバックボーンにα−gal AのcDNA配列を含んでいる。DNAの配列決定によってこのプラスミドはcDNA配列の完全な5’末端を含まないことが明かとなった。したがって5’末端は、ヒトゲノムのDNAから増幅したPCRフラグメントを用いて再構築した。これを達成するために、268bpのゲノムDNAフラグメント(図2の配列番号:20)を次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−ATTGGTCCGCCCCTGAGGT−3’(オリゴ;配列番号:3)及び5’−TGATGCAGGAATCTGGCTCT−3’(オリゴ4;配列番号:4)を用いて増幅した。このフラグメントを「TA」クローニングプラスミド(Invitrogen Corp., San Diego, CA)にサブクローニングすることでプラスミドpTAAGEIを生成した。プラスミドpBSAG3Aはα−gal AのcDNA配列の大部分を含んでおり、またpTAAGEIはα−gal AのcDNAの5’末端を含んでいて、その両方をそれぞれSacII及びNcoIを用いて切断した。増幅したDNAフラグメント内のSacII及びNcoI部位に関連した位置が図2に示されている。pTAAGEIから得られる0.2kbのSacII−NcoIフラグメントを単離して、同等に切断したpBSAG3Aに連結した。このプラスミド、pAGALは完全なα−gal AのcDNA配列を含んでいて、それにはα−gal Aシグナルペプチドをコードする配列が含まれている。このcDNAは完全に配列決定され(α−gal Aシグナルペプチド、配列番号:18を含んでいて図3に示されている)、ヒトα−gal AのcDNAについて公開されている配列(Genebank sequence HUMGALA)と同一であると判明した。
【0035】
このプラスミドpXAG−16は、次のような数種の中間体を経て構築した。まず第一にpAGALをSacII及びXhoIを用いて切断し、平滑末端にした。第二にこの完全なα−gal AのcDNAの末端をXbaIリンカーに連結してから、XbaIで切断したpEF−BOSにサブクローニングし(MizushimaらのNucl. Acids Res. 18: 5322, 1990)、pXAG−1を作成した。この構築物は、ヒト顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)の3’UTSと、α−gal Aにα−gal AのシグナルペプチドをプラスしてコードしたcDNAをフランキングするヒト延長因子−1α(EF−1α)プロモーターとを含んでおり、それによってα−gal AのcDNAの5’末端がEF−1αプロモーターに融合できるようになっている。CMV IEプロモーターと第1イントロンを用いて構築物を形成するために、α−gal AのcDNAとG−CSFの3’UTSを2kbのXbaI−BamHIフラグメントとしてpXAG−1から除去した。このフラグメントを平滑末端化してBamHIリンカーに連結し、BamHI切断したpCMVflpNeo(下記に記載したように構築した)に挿入した。この方針は、α−gal AのcDNAの5’末端がCMV IEプロモーター領域に融合するようになっている。
【0036】
pCMVflpNeoは次のように作成した。CMV IE遺伝子プロモーターフラグメントは鋳型としてのCMVのゲノムDNAとオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGGATCCCTCGAGGACATTGATTATTGACTAG−3’(配列番号:23)及び5’−TTTTGGATCCCGTGTCAAGGACGGTGAC−3’(配列番号:24)とを用いてPCRを行って増幅した。得られた産物(1.6kbのフラグメント)をBamHIを用いて切断し、CMVプロモーターを含み結合性のBamHI−切断した末端を持つフラグメントを得た。この新しく発現したユニットを、1.1kbのXhoI−BamHIフラグメントとしてプラスミドpMClneopA(Stratagene Inc., La Jolla, CA)から単離した。このCMVプロモーターを含み新生のフラグメントを、BamHI−、XhoI−切断プラスミド(pUC12)に挿入した。注目すべきことにpCMVflpNeoは、ヌクレオチド546で始まりヌクレオチド2105で終わる(Genebank sequence HS5MIEPについて)CMV IEプロモーター領域と、このCMV IEプロモーターフラグメントに直接5’が結合するヘルペスシンプレックスウイルス(Herpes Simplex Virus:HSV)のチミジンキナーゼプロモーター(TKneo遺伝子)によって推進されるネオマイシン抵抗性遺伝子を含んでいる。新生遺伝子の転写の方向は、CMVプロモーターフラグメントの方向と同じである。この中間構築物はpXAG−4と言われた。
【0037】
hGH3’UTSを追加するために、GCSF3’UTSをXbaI−SmaIフラグメントとしてpXAG−4から除去し、pXAG−4の末端を平滑化した。hGH3’UTSは、0.6kbのSamI−EcoRIフラグメントとしてpXGH5(SeldenらのMol. Cellular Biol. 6: 3173-3179, 1986)から除去した。このフラグメントを平滑末端化した後でそれを、pXAG−4の平滑末端化したXbaI部位のすぐ後でpXAG−4に連結した。この中間体はpXAG−7と言われた。TKneoフラグメントをHindIII−ClaIフラグメントとしてこのプラスミドから除去し、そのプラスミドの末端をDNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントで「充填(filling-in)」することによって平滑化した。SV40初期プロモーターによって推進されるネオマイシン耐性遺伝子は、pcDNeo(ChenらのMol. Cellular Biol. 7: 2745-2752, 1987)の切断物由来の平滑化ClaI−BsmBIフラグメントとして連結し、α−gal A転写物ユニットとして同じ方向に新しい転写ユニットが位置づけられる。この中間体はpXAG−13と言われた。
【0038】
26個のアミノ酸hGHシグナルペプチドをコードする配列及びhGH遺伝子の第1イントロンを持っているpXAG−16を完成させるために、pXAG−13の2.0kbのEcoRI−BamHIフラグメントを初めに除去した。このフラグメントはα−gal AのcDNAとhGHの3’UTSを含んでいた。この大きなフラグメントを3個のフラグメントと置き換えた。第1番目のフラグメントはpXGH5の0.3kbのPCR産物からなり、それはhGHシグナルペプチドをコードする配列を含んでいて、Kozak共通配列のすぐ上流側に位置している合成のBamHI部位からhGHシグナルペプチドをコードする配列の末端までであった。次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGGATCCACCATGGCTA−3’(オリゴHGH101;配列番号:5)及び5’−TTTTGCCGGCACTGCCCTCTTGAA−3’(オリゴHGH102;配列番号:6)を、このフラグメント(フラグメント1)を増幅するために用いた。第2番目のフラグメントは、398アミノ酸のα−gal A酵素(即ち、α−gal Aシグナルペプチドを欠く)をコードするcDNAの開始部からNheI部位までに対応する配列を含む0.27kbのPCR産物からなっていた。次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTCAGCTGGACAATGGATTGGC−3’(オリゴAG10;配列番号:7)及び5’−TTTTGCTAGCTGGCGAATCC−3’(オリゴAG11;配列番号:8)は、このフラグメント(フラグメント2)を増幅するために用いた。第3番目のフラグメントはhGH3’UTSと同様に、残っているα−gal A配列を含むpXAG−7のNheI−EcoRIフラグメントからなっていた(フラグメント3)。
【0039】
フラグメント1(BamHIとNaeIを用いて切断されている)、フラグメント2(PvuIIとNheIを用いて切断されている)、及びフラグメント3を、新生遺伝子とCMV IEプロモーターを含むpXAG−13の6.5kbのBamHI−EcoRIフラグメントと混合し、プラスミドpXAG−16(図4)を生成するために一緒に連結した。
【0040】
B.α−gal A発現プラスミドpXAG-28の構築
ヒトコラーゲンIα2プロモーターを次のようにα−gal A発現構築物pXAG-28で利用すべく単離した。ヒトコラーゲンIα2プロモーターの部分を含むヒトゲノムのDNAからなる408bpのPCRフラグメントを次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGGATCCGTGTCCCATAGTGTTTCCAA−3’(オリゴ72;配列番号:9)及び5’−TTTTGGATCCGCAGTCGTGGCCAGTACC−3’(オリゴ73;配列番号:10)を用いて単離した。
【0041】
このフラグメントは、EMBL3(Clontech Inc., Palo Alto, CA)においてヒト白血球ライブラリーをスクリーニングするために用いた。3.8kbのEcoRIフラグメントを含む一つのポジティブなクローン(ファージ7H)を単離し、EcoRI部位(pBS/7H.2を形成する)でpBSIISK+(Stratagene Inc., La Jolla, CA)にクローニングした。AvrII部位を、pBSIISK+ポリリンカーで開裂するSpeIで切断し、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントを用いて「充填」し、さらにオリゴヌクレオチド5’−CTAGTCCTAGGA−3’(配列番号:11)を挿入することによってpBSIISK+に導入した。pBSIISK+のこの変形物をBamHI及びAvrIIを用いて切断し、上記に記載した初めの408bpコラーゲンIα2プロモーターPCRフラグメントの121bpからなるBamHI−AvrIIフラグメントに連結してpBS/121COL.6を作成した。
【0042】
このプラスミドpBS/121COL.6を、pBSIISK+ポリリンカー配列で開裂するXbaIを用いて切断し、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントで「充填」してからAvrIIを用いて切断した。pBS/7H.2の3.8kbのBamHI−AvrIIフラグメントを単離し、BamHI部位をKlenow酵素で処理することによって平滑末端化した。続いてこのフラグメントをAvrIIを用いて切断し、AvrII−切断ベクターに連結することによってコラーゲンプロモータープラスミドpBS/121bpCOL7H.18を作成した。
【0043】
次にこのコラーゲンプロモーターを、ヒトβ−アクチン遺伝子の第1イントロンを含むヒトβ−アクチン遺伝子の5’UTSに融合した。この配列を単離するために2kbのPCRフラグメントを、次のオリゴヌクレオチド、即ち5’−TTTTGAGCACAGAGCCTCGCCT−3’(オリゴBA1;配列番号:12)及び5’−TTTTGGATCCGGTGAGCTGCGAGAATAGCC−3’(オリゴBA2;配列番号:13)を用いてヒトゲノムのDNAから単離した。
【0044】
このフラグメントをBamHI及びBsiHKAIで切断することによって、β−アクチンの5’UTS及びイントロンを含む0.8kbのフラグメントを開放した。それから3.6kbのSalI−SrfIフラグメントをコラーゲンプロモータープラスミドpBS/121bpCOL7H.18から次のように単離した。pBS/121bpCOL7H.18をBamHI(BamHI部位は、コラーゲンIα2プロモーターフラグメントの5’末端に位置する。)を用いて部分的に切断し、Klenowフラグメントを用いて処理することによって平滑末端を作り、続いてSalIリンカー(5’−GGTCGACC−3’)に連結することによって、コラーゲンIα2プロモーターの上流にSalI部位を位置づける。それからコラーゲンのプラスミドをSalI及びSrfI(このSrfI部位はコラーゲンのIα2プロモーターCAP部位の110bp上流に位置している)を用いて切断し、3.6bpのフラグメントを単離した。この0.8kbと3.6kbのフラグメントを、SalI−切断及びBamHI−切断のpBSIISK−(Stratagene Inc., La Jolla, CA)で結合し、次の4つのオリゴヌクレオチドからなるフラグメントを一緒にアニール化した(平滑末端とBsiHKAI末端を持つフラグメントを形成している)。5’−GGGCCCCCAGCCCCAGCCCTCCCATTGGTGGAGGCCCTTTTGGAGGCACCCTAGGGCCAGGAAACTTTTGCCGTAT−3’(オリゴCOL−1;配列番号:14)、5’−AAATAGGGCAGATCCGGGCTTTATTATTTTAGCACCACGGCCGCCGAGACCGCGTCCGCCCCGCGAGCA−3’(オリゴCOL−2;配列番号:15)、5’−TGCCCTATTTATACGGCAAAAGTTTCCTGGCCCTAGGGTGCCTCCAAAAGGGCCTCCACCAATGGGAGGGCTGGGGCTGGGGGCCC−3’(オリゴCOL−3;配列番号:16)、及び5’−CGCGGGGCGGACGCGGTCTCGGCGGCCGTGGTGCTAAAATAATAAAGCCCGGATC−3’(オリゴCOL−4;配列番号:17)。これらの4つのオリゴヌクレオチドはアニール化すると、コラーゲンプロモーターのSrfI部位で始まり、β−アクチンプロモーターのBsiHKAI部位を通って続く領域に対応している。得られたプラスミドは、pCOL/β−アクチンと称した。
【0045】
pXAG-28の構築物を完成させるために、コラーゲンIα2プロモーターとβ−アクチン5’UTSを含むpCOL/β−アクチンのSalI−BamHIフラグメントを単離した。このフラグメントをpXAG−16(実施例1A及び図4参照)から得られる二つのフラグメント、即ち(1)6.0kbのBamHIフラグメント(新しい遺伝子、プラスミドバックボーン、398アミノ酸α−gal A酵素をコードするcDNA、及びhGH3’UTSを含む)、及び(2)0.3kbのBamHI−Xholフラグメント(pcDneo由来のSV40ポリA配列を含む)に連結した。pXAG-28は、ヒトβ−アクチン5’UTSに融合したヒトコラーゲンIα2プロモーター、hGHシグナルペプチド(hGH第1イントロンによって割り込まれている)、α−gal A酵素をコードするcDNA、及びhGHの3’UTSを含む。完成した発現構築物のpXAG-28の地図が図5に示されている。
【0046】
C.α−gal A発現プラスミドを用いてエレクトロポレーションを行った繊維芽細胞のトランスフェクション及びセレクション
繊維芽細胞においてα−gal Aを発現させるために、公開された方法にしたがって二次の繊維芽細胞を培養し、トランスフェクションした(SeldenらのWO 93/09222)。
プラスミドpXAG−13、pXAG−16及びpXAG-28をエレクトロポレーションによってヒトの包皮の繊維芽細胞にトランスフェクションすることで、安定してトランスフェクトされたクローン細胞株を発生させることができ、そして得られたα−gal Aの発現レベルを実施例IDにおいて記載したようにモニターした。正常の包皮繊維芽細胞によるα−gal Aの分泌は2〜10ユニット/106細胞/24時間の範囲内であった。対照的にトランスフェクトされた繊維芽細胞は、表1に示されているような平均の発現レベルを示した。
【表1】
平均のα−gal A発現レベル(+/−標準偏差)
【0047】
これらのデータは、三種すべての発現構築物がトランスフェクトされていない繊維芽細胞の発現の多数倍もα−gal Aの発現を増加させる能力があることを示している。α−gal Aシグナルペプチドに結合したα−gal AをコードしているpXAG−13を用いて安定してトランスフェクトされた繊維芽細胞による発現は、シグナルペプチドがhGHシグナルペプチドである点だけが異なっていてそのコード配列がhGH遺伝子の第1イントロンによって割り込まれているようなpXAG−16を用いてトランスフェクトした繊維芽細胞による発現よりも実質的に低い。
【0048】
トランスフェクトした細胞を継代させる度ごとに分泌されたα−gal Aの活性を測定し、その細胞を計数して細胞密度を計算した。植え付けた細胞数とα−gal Aの分泌が可能になった時間に基づいてα−gal Aの特定の発現速度を測定し、24時間あたり106個の細胞につき分泌されるユニット(α−gal A)として表2及び3に報告されている。遺伝子治療を行う際、またはα−gal Aの精製用の材料の産出において利用する際に好適な細胞株は、数回の継代にわたって安定した成長と発現を示さなくてはならない。α−gal A発現構築物pXAG−16を用いて安定してトランスフェクトされた、表2及び3に示された細胞株から得られるデータは、α−gal Aの発現が数回の継代にわたって安定して維持されているという事実を示している。
【表2】
α−gal A発現構築物のpXAG−16を含むBRS−11細胞の成長及び発現
【表3】
α−gal A発現構築物のpXAG−16を含むHF503−242細胞の成長及び発現
【0049】
D.α−gal A発現の定量化
α−gal A活性を、水溶性の基質である4−メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクロピラノシド(4-MUF-gal; Research Products., Inc.)を用い、Ioannouら(J. Cell Biol. 119:1137-1150, 1992)により記載されたプロトコールの変形法によって測定した。この基質は、基質緩衝液(0.1Mのクエン酸塩−燐酸塩、pH4.6)に溶解して濃度を1.69mg/ml(5mM)にした。典型的には、10μlの培養液の上清を75μlの基質溶液に添加した。そのチューブを覆い、37℃の水浴中、60分間インキュベートさせた。このインキュベーションの終わりに2mlのグリシン−炭酸塩緩衝液(130mMのグリシン、83mMの炭酸ナトリウム、pH10.6)を用いることによって、その反応を止めた。それぞれのサンプルの相対蛍光度を、365nmの固定励起波長を持っていて460nmの固定放出波長を検出するモデルTK0100蛍光度測定計(Hoefer Scientific Instruments)を用いて測定した。サンプルの判断は、1μMのメチルウンベリフェロン(Sigma Chemical Co.)のストックから準備した標準と比較し、加水分解された基質の量を計算した。α−gal Aの活性はユニットで表し、即ち1ユニットのα−gal A活性は37℃で1時間あたりに加水分解された基質の1ナノモルに等価である。細胞発現のデータは一般に、分泌されたα−gal A活性ユニット/106個の細胞/24時間として表した。またこのアッセイは、細胞溶菌液及び下記に記載したように種々のα−gal精製工程から得られるサンプルにおけるα−gal活性の量を測定するためにも用いた。
【0050】
実施例II.安定したトランスフェクトがなされたヒト細胞株の条件が整えられた培地から得られるα−gal Aの精製
実施例IIA−IIEには、α−gal Aを産生するように安定してトランスフェクトされた培養のヒト細胞株の条件付けられた培地からほとんど等質性にその酵素を精製できる点が示されている。
【0051】
A.α−gal Aの精製における第1工程としてのブチルセファロース(登録商標)クロマトグラフィーの使用
低温条件を整えた培地(1.34リットル)を遠心分離によって不純物を除去し、ガラス繊維製のプレフィルターを用いた0.45μmの酢酸セルロースフィルターを通して濾過した。攪拌しながら低温の濾過済み培地のpHを1NのHClを滴下して添加することによって5.6に調節し、続いて3.9Mの超純粋の硫酸アンモニウムのストック溶液(室温)を滴下により添加することで最終濃度が0.66Mになるまで硫酸アンモニウムを加えた。この培地をさらに4℃で5分感攪拌し、濾過し、次にブチルセファロース(登録商標)の4高速カラム(4 Fast Flow column;カラム容積は81ml、2.5×16.5cm; Pharmacia, Uppsala, Sweden)、即ち0.66Mの硫酸アンモニウムを含む10mMのMES−トリス、pH5.6(緩衝液A)で平衡化されたカラムにかけた。このクロマトグラフィーは、全蛋白質濃度と塩濃度をそれぞれ評価するためのライン上に設けたUV(280nm)と導電率モニターを装着したグラジ−フラク(Gradi-Frac;商品名)システム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて4℃で行った。流速10ml/分でサンプルを適用してからそのカラムを、カラム容積の10倍の緩衝液Aで洗浄した。α−gal Aは、緩衝液A(硫酸アンモニウムを含む)から10mMのMES−トリス、pH5.6(硫酸アンモニウムを含まない)まで直線状の勾配をつけた14カラム容積の溶媒を用いてブチルセファロース(登録商標)カラムより溶出した。フラクションを4−MUF−galアッセイによってα−gal A活性について評価し、適当な酵素活性を含むフラクションを集めた。図6及び精製の概要(表3)に示すように、この工程によって約99%の不純物としての蛋白質が除去されている(カラムに通す前のサンプル=全蛋白質は8.14g、カラムを通った後のサンプル=全蛋白質は0.0638g)。
【表4】
安定してトランスフェクトされたヒト繊維芽細胞の条件を整えた培地から得られるα−gal Aの精製
【0052】
B.α−gal Aの精製のための工程として、ヘパリンセファロース(登録商標)クロマトグラフィーの利用
ブチルセファロース(登録商標)カラムのピークフラクションを、10mMのMES−トリス(4リットル)、pH5.6(一度交換)に対して4℃で透析した。透析物の導電度を、必要に応じてH2OまたはNaClを添加することによって4℃で1.0mMHOに調節した。その後でサンプルを、9mMのNaClを含んだ10mMのMES−トリス、pH5.6(緩衝液B)で平衡化したヘパリンセファロース(登録商標)6高速のカラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden; 29mlのカラム容積、2.5×6cm)にかけた。これは10ml/分の流速で4℃にて行った。ライン上のUV(280nm)と導電度モニターによって全蛋白質と塩の濃度を測定した。そのサンプルを適用した後でそのカラムを10カラム容量の緩衝液Bで洗浄し、続いて3カラム容量の8%緩衝液C/92%緩衝液B(ここでの緩衝液Cは、250mMのNaClを含む10mMのMES−トリス、pH5.6である)までの線形勾配をつけた溶媒、さらに10カラム容量の8%の緩衝液Cを用いて洗浄した。この後、1.5カラム容量の29%までの線形勾配をつけた緩衝液Cを用いて、続いて10カラム容量の35%までの線形勾配をつけた緩衝液Cを用いてα−gal Aの溶出を行った。フラクションはα−gal A活性についてアッセイし、適当な活性を含むフラクションを集めた。
【0053】
C.α−gal Aを精製するための工程として、ハイドトキシアパタイトの利用
ヘパリンのプールを濾過し、1mMの燐酸ナトリウム、pH6.0(緩衝液D)で平衡化したセラミックハイドロキシアパタイトHC(40μm;American International Chemical, Ntick, MA;12mlのカラム容量、1.5×6.8cm)からなるカラムに直接かけた。そのクロマトグラフィーは、ライン上にUV(280nm)と導電度モニターを装着したハイブリッドグラジ−フラク(Gradi-Frac:商品名)/FPLC(登録商標)システム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて室温で行った。サンプルを適用した(5ml/分)後でそのカラムを10カラム容量の緩衝液Dで洗浄した。α−gal Aを7カラム容量の42%緩衝液E/58%緩衝液D(ここでの緩衝液Eは、250mMの燐酸ナトリウム、pH6.0である)までの線形勾配をつけた溶媒、さらに10カラム容量の52%までの勾配をつけた緩衝液Eを用いて溶出した。フラクションはα−gal A活性についてアッセイし、適当な活性を含むフラクションを集めた。
【0054】
D.α−gal Aを精製するための工程として、Qセファロース(登録商標)アニオン交換クロマトグラフィーの利用
ハイドロキシアパタイトのプールをH2Oを用いて約1.5倍に希釈して、最終的な導電度が室温で3.4〜3.6mMHOにした。濾過してからそのサンプルを、10%の緩衝液G/90%の緩衝液Fで平衡化したQセファロース(登録商標)HP(Pharmacia, Uppsala, Sweden;5.1mlのカラム容量、1.5×2.9cm)からなるカラムに直接かけた。ここで緩衝液Fは25Mの燐酸ナトリウム、pH6.0であり、また緩衝液Gは25mMの燐酸ナトリウム、pH6.0、250mMのNaClである。このクロマトグラフィーは、グラジ−フラク(Gradi-Frac:商品名)/FPLC(登録商標)ハイブリッドシステム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて室温で行い、全蛋白質と塩の濃度をライン上に設けたモニターで測定した。そのサンプルに5ml/分の流速を適用してから、次の工程を行った。即ち、(1)10%の緩衝液Gで5カラム容量の洗浄、(2)12%の緩衝液Gで7カラム容量の洗浄、(3)3カラム容量の50%までの線形勾配をつけた緩衝液G、(4)10カラム容量の53%までの線形勾配をつけた緩衝液G、(5)3カラム容量の100%までの勾配をつけた緩衝液G、及び(6)10カラム容量の100%の緩衝液Gで洗浄工程。α−galは工程3及び4の間におもに溶出した。適当な活性を含むフラクションを集めた(「Qプール」)。
【0055】
E.α−gal Aを精製するための工程として、スーパーデックス(登録商標)−200ゲル濾過クロマトグラフィーの利用
QプールをCentriprep(登録商標)−10遠心濃縮機ユニット(Amicon, Beverly, MA)を用いて約5倍に濃縮し、スーパーデックス(登録商標)200(Pharmacia, Uppsala, Sweden;189mlのカラム容量、1.6×94cm)からなるカラムにかけた。このカラムを、150mMのNaClを含む25mMの燐酸ナトリウム、pH6.0を用いて平衡化し、溶出した。このクロマトグラフィーは、蛋白質の溶出を追跡するためにライン上のUVモニター(280nm)を用いたFPLC(登録商標)システム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)にて室温で行った。そのカラムにかけたサンプルの容量は≦2ml、流速は0.5ml/分、そしてフラクションの量は2mlであった。多数回カラムの作動を遂行し、フラクションをα−gal A活性についてアッセイして適当な活性を含むフラクションを集めた。
【0056】
このスーパーデックス(登録商標)200カラムから得られるプールされたフラクションをCentriprep−10ユニットを用いて濃縮し、アリコートにしてからスナップ冷凍し、−80℃で短期間保存した。α−gal Aの精製についてこの実施例の要約が表3に示されている。α−gal Aの最終収率は出発物質の活性の59%であり、また精製した産物の比活性は2.92×106ユニット/mg蛋白質であった。得られた産物は、4〜15%のSDS−ポリアクリルアミドゲル上で還元条件にして電気泳動を行った後に高いレベルの純度を示し、続いて銀染色を行った。
【0057】
実施例III.精製されたα−gal Aの配合及び保存
高度に精製したα−gal Aは、精製された蛋白質(≦1mgの蛋白質/ml)の希釈溶液として保存した場合、長い期間は安定していない。したがって配合剤を長く保存する間、即ち数週間から少なくとも数カ月間不変のまま保存を行う間、安定性を改善できるように工夫した。精製された酵素を、遠心濃縮機(25mMの燐酸ナトリウム(pH6.0)及び150mMのNaClからなる酵素緩衝液中で)を用いて少なくとも1mg/mlに濃縮した。ヒト血清アルブミン(HSA;ブミネート(Buminate:登録商標、Baxter-Hyland)を添加して最終濃度を2.5mg/mlにした。それからこの蛋白質溶液を、シリンジに取り付けた0.2μmの酢酸セルロースフィルター(Schleicher and Schuell)を用いて滅菌濾過した。α−gal A溶液を、滅菌した発熱体フリーのガラス溶液に分配し、テフロン(登録商標)製の蓋で密閉し、スナップ冷却を行ってから−20℃で保存した。
【0058】
α−gal A活性の安定性は、4−MUF−gal アッセイを用いて3カ月間にわたって評価した。表5に示されたデータは、テストした期間にわたって酵素活性の喪失が起こらなかったことを証明している。配合剤が酸性pH(<6.5)であることは、高度に精製した酵素の安定性にとって重要である。
【表5】
配合されたα−gal Aの−20℃における安定性
【0059】
実施例IV.ヒト細胞株によって産生したα−gal Aは、α−gal A欠損症を治療するのに適当である。
本発明により調製した精製ヒトα−gal Aの構造的及び機能的特徴を、この明細書に記載されたDNA分子とトランスフェクトしたヒト細胞株によって産生された対応する発現糖蛋白質とがそれぞれ遺伝子治療または酵素置換治療で利用可能であることを証明するために調べた。
【0060】
A.培養中の安定してトランスフェクトされたヒト細胞により産生したα−gal Aのサイズ
α−gal Aの分子質量をMALDI−TOF質量分光測定法で見積った。これらの結果から、ダイマーの分子質量が102,353Daであり、これに対してモノマーの分子質量が51,002Daであることが証明された。アミノ酸組成に基づいてモノマーについて予測された分子質量は45,400Daである。したがって、酵素の炭水化物含有量は5,600Daまでの分子量であるとの計算が推測できる。
精製した蛋白質に対して行った標準的なアミノ酸分析の結果は、トランスフェクトしたヒト細胞によって産生された蛋白質がヒト組織から精製した蛋白質にアミノ酸レベルで同一であるという推断と一致している。
【0061】
B.安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−gal AのN末端処理
ヒトα−gal AのcDNAヌクレオチド配列は429個のアミノ酸をコードする。31個のN末端アミノ酸はシグナルペプチド配列を構成し、それは形成されつつある蛋白質が内部細胞質の網状質を通過するように開裂する(LeDonneらのJ. Biol. Chem. 262: 2062, 1987)。α−gal Aが異型のシグナルペプチド配列(例えば、ヒト成長ホルモンのシグナル配列)と関連していて、トランスフェクトしたヒト繊維芽細胞において発現する場合にα−gal Aが適当に処理されることを確認するために、分泌された蛋白質の10個のN末端アミノ酸をミクロシークエンシングした。サンプルをSDS−PAGEによって電気泳動し、10mMのCAPS(pH11.0)、10%のメタノール緩衝液システムを用いてプロブロット(ProBlott:登録商標、ABI, Foster City, CA)に転写した。プロブロット上の蛋白質はクマージー染色によって可視化し、そして適当サイズ(50kDa)のバンドを削り取った。N末端の配列は、自動化エドマン分解を行うアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)パルス−液相アミノ酸配列同定装置を用いて得た。得られたN末端配列、LDNGLARTPT(配列番号:28)は、シグナルペプチドの適切な開裂と一致しており、分泌された蛋白質に対して予測されているN末端配列と適合する。
【0062】
C.安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−gal AのC末端アミノ酸
本発明により産生された分泌α−gal AのC末端アミノ酸残基は、自動化ヒューレットパッカードC末端配列決定装置(Hewlett Packard C-terminal sequencer)を用いて同定した。この結果はC末端がロイシン残基であることを示しており、それはこのDNA配列によって予言されたC末端アミノ酸と一致している。
【0063】
D.安定してトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−gal Aの炭水化物の修飾
本発明により産生されたα−gal Aのグリコシル化パターンも評価した。適当にグリコシル化されることは、α−gal Aがインビボで最適な活性を示すために重要である。即ち非グリコシル化システムで発現したα−gal Aは不活性であったりまたは不安定であったりする(HantzopolousらのGene 57: 159, 1987)。またグリコシル化は、α−gal Aが目的とする標的細胞にインターナリゼーションされるためにも重要であり、インビボでの酵素の循環血中半減期に影響を与える。α−gal Aのそれぞれのサブユニットには、アスパラギンに結合する炭水化物鎖の付加にとって役立つ4つの部位があり、そのうち3つの部位だけが占められている(DesnickらのIn The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, pp2741-2780, McGraw Hill, New York, 1995)。
【0064】
安定してトランスフェクトされた細胞によって産生したα−gal Aのサンプルを、A. urafaciensから単離したノイラミニダーゼで処理すること(Boehringer-Mnnheim, Indianapolis, IN)によりシアリル酸を除去した。この反応は、5μgのα−gal Aを10mUのノイラミニダーゼとともに室温で一晩、全体で10μlの酢酸緩衝塩溶液(ABS、20mMの酢酸ナトリウム、pH5.2、150mMのNaCl)中で処理することによって進行させた。
【0065】
安定してトランスフェクトされた細胞によって産生した精製α−gal Aも、アルカリホスファターゼ(子ウシ小腸のアルカリホスファターゼ、Boehringer-Mnnheim, Indianapolis, IN)を用いて脱リン酸化したが、それは5μgのα−gal Aを、ABS(1MのトリスでpHを7.5に上昇させた)中に入れた15Uのアルカリホスファターゼを用いて室温で一晩処理することによって行った。
【0066】
このサンプルを、α−gal A特異性抗体を用いたウエスターンブロットにより分析した。用いた抗体はウサギのポリクローナル抗ペプチド抗体であり、それは免疫原としてα−gal Aのアミノ酸68〜81を表すペプチドを用いて産生させた。その後この蛋白質をPVDF(Millopore, Bedford, MA)に移してからその膜を、抗血清が2.5%のブロット(脱脂したドライミルクの20mMのトリス−HCl溶液、pH7.5、0.05%のトウィーン−20)中に含まれる1:2000希釈液を用いてプローブした。この後で、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ(Organon Teknika/Cappel, Durham, NC; 1:5000希釈液)に複合化したヤギ抗ウサギIgGとECL化学ルミネセンスキット(Amersham. Arlington Heights, IN)の試薬を用いて検出した。
【0067】
ノイラミニダーゼを用いてα−gal Aを処理すると分子質量にわずかなシフト(約1500〜2000ダルトンまたは4〜6シアリル酸/モノマー)が起こるが、これはシアリル酸によりα−gal Aが広範囲に修飾されたことを示唆している。参考のために言うと、α−gal Aの血しょうの形態にはモノマー1個あたり5〜6個のシアリル酸残基があり、また胎盤の形態にはモノマー1個あたり0.5〜1.0個のシアリル酸残基がある(Bishopらの、J. Biol. Chem. 256: 1307, 1981)。
【0068】
α−gal Aのシアリル酸とマンノース−6−燐酸による修飾を調べるために用いられる別の方法としては等電点分離法(IEF)があり、それではサンプルが等電点(PI)または正味の電荷に基づいて分離される。こうしてα−gal Aから得られるシアリル酸や燐酸のようなチャージした残基が除去されると、IEFシステムにおいて蛋白質の移動度が変わって来ると予測される。
【0069】
IEF実験を行うためには本発明により産生したα−gal Aのサンプルを、2×Novexサンプル緩衝液(8Mのウレアを用いている、pH3.0〜7.0)とともに1:1で混合したノイラミニダーゼ及びアルカリホスファターゼを用いて処理し、ファルマライト(Pharmalyte:登録商標、Pharmacia, Uppsala, Sweden、pH3.0〜6.5、Pharmalyte(登録商標)4〜6.5及び2.5〜5.5、ゲルあたりそれぞれ0.25ml)を用いて作った6MウレアのIEFゲル(5.5%ポリアクリルアミド)にかけた。等電点の標準物質(Bio-Rad)も含ませた。電気泳動を行ったあとでそのゲルをPVDFに移し取り、ウエスターンブロット分析を上記に記載したように行った。
【0070】
安定してトランスフェクトしたヒト繊維芽細胞によって産生したα−gal Aは、約4.4〜4.65の範囲のpIを持つ三種の主要なイソ型からなる。これらの値はα−gal Aの血しょうの型及び胎盤の型のpIと同じである(Bishopらの、J. Biol. Chem. 256: 1307, 1981)。酵素のノイラミニダーゼ処理によって三種すべてのイソ型のpIが増加したが、このことは全てがサリチル酸によってある程度修飾されていることを示している。これらのデータは、安定したトランスフェクトがなされたヒト細胞によって産生されたα−gal Aが望ましい血しょう半減期を持っているに違いないことを示唆しており、そのことはこの材料が薬学的利用するのに充分ふさわしいことを示している。さらに、ノイラミダーゼ処理したα−gal Aをアルカリホスファターゼ処理すると、蛋白質の部分のpIが約5.0〜5.1にまでさらに増加したが、このことは酵素が一つまたはそれ以上のマンノース−6−ホスフェート残基を運搬していることを示している。この修飾は、標的細胞によってα−gal Aの効率のよいインターナリゼーションが起こるために必要である点で重要である。
【0071】
E.安定したトランスフェクトを行った繊維芽細胞から精製されたα−gal Aの比活性
精製されたα−gal Aの能力または比活性を、酵素の触媒活性(4−MUF−galアッセイを用いて)と、蛋白質濃度の両方を測定することによって計算する。蛋白質濃度は、BCAシステム(Pierce)を用いるようなどれかの標準法によって、または280nmでの吸収を測定し、吸光度係数2.3mg/ml(アミノ酸分析から決定した)を用いて値を計算することによって決定することができる。これらの手法を用いると、トランスフェクトしたヒト繊維芽細胞の条件を整えた培地から精製されたα−gal Aの比活性は2.2〜2.9×106ユニット/蛋白質のmgであり、それはヒト組織から精製されるα−gal Aの比活性に匹敵する(Bishopらの、J. Biol. Chem. 256: 1301, 1981)。
【0072】
F.マンノースまたはマンノース−6−ホスフェートが仲介するα−gal Aのインターナリゼーション
安定したトランスフェクトがなされた細胞によって産生されるα−gal Aがα−gal A欠損症の有効な治療薬となるためには、その酵素は影響を受けた細胞によってインターナリゼーションされなくてはならない。α−gal Aは生理学的なpHレベルでは活性でなく、また血液や小腸液では有効となりそうではない。リソソームの酸性環境でインターナリゼーションされる場合にのみ、蓄積した脂質基質は最適に代謝される。このインターナリゼーションは、細胞表面に現れていて、エンドサイトーシス経路によってリソソームにそのα−gal Aを供給するマンノース−6−ホスフェート(M6P)受容体にα−gal Aが結合することによって仲介される。M6P受容体はいたるところに現れており、ほとんどの体細胞はそれをある程度まで発現する。糖蛋白質上にある露出したマンノース残基に特異的なマンノース受容体はほとんど行き渡ってはいない。後者の受容体は一般に、マクロファージ及びマクロファージ様の細胞にのみ見られるもので、これらの細胞型にα−gal Aが入る別の手段を提供する。
【0073】
M6P−仲介型のα−gal Aのインターナリゼーションを証明するために、ファブリー病の患者から得られる皮膚の繊維芽細胞(NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repository)を、増加させた濃度の本発明の精製α−gal Aが存在するところで一晩培養した。そのサンプルのいくつかは5mMの可溶性M6Pを含んでおり、それはマンノース−6−ホスフェート受容体への結合を競合的に阻害し、結果的にその受容体によるインターナリゼーションを競合的に阻害した。他のサンプルは30μg/mlのマンナンを含んでおり、それはマンノース受容体への結合を阻害し、結果的にその受容体によるインターナリゼーションを阻害した。インキュベーションを行ってからその細胞を洗浄し、溶解緩衝液(10mMのトリス、pH7.2、100mMのNaCl、5mMのEDTA、2mMのPefabloc(商品名、Boehringer-Mannheim, Indeanapolis, IN)及び1%のNP−40)に削り落とすことによって採集した。次にその溶解したサンプルを蛋白質濃度とα−gal A活性についてアッセイした。結果はα−gal A活性ユニット/細胞の蛋白質mgとして表した。ファブリー細胞は用量−依存性の態様でα−gal Aをインターナリゼーションしていた(図7)。このインターナリゼーションはマンノース−6−ホスフェートによって阻害されたが、マンナンでは阻害されなかった。したがって、ファブリー繊維芽細胞におけるα−gal Aのインターナリゼーションはマンノース−6−ホスフェート受容体によって仲介されるが、マンノース受容体によっては仲介されない。
【0074】
またα−gal Aは、内皮細胞、即ちファブリー病の治療で重要な標的となる細胞によってもインビトロでインターナリゼーションされる。ヒトの臍の緒の血管の内皮細胞(HUVEC)を、7500ユニットのα−gal Aとともに一晩培養した。ウェルのいくつかはN6Pを含んでいた。インキュベート期間を終えてから細胞を採集し、上記に記載したようにα−gal Aをアッセイした。α−gal Aのみとともにインキュベートした細胞は、コントロール(α−gal Aとともにインキュベートしなかった)の細胞の酵素レベルのほとんど10倍もの酵素レベルであった。M6Pはα−gal Aの細胞内の蓄積を阻害するが、このことはHUVECによるα−gal AのインターナリゼーションがM6P受容体によって仲介されることを示唆している。したがって本発明のヒトα−gal Aは、臨床的に関連する細胞によってインターナリゼーションされる。
【0075】
マンノース受容体を発現することがわかっている培養ヒト細胞株はほとんどない。しかしながらマンノース受容体を運搬するが、マンノース−6−ホスフェート受容体があるならばほんの少しだけ運搬するマウスのマクロファージ様細胞系(J774.E)を、本発明の精製α−gal Aがマンノース受容体を経てインターナリゼーションされるかどうかを調べるために用いることができる(DimentらのJ. Leukocyte Biol. 42: 485-490, 1987)。J774.E細胞を10,000ユニット/α−gal Aのmlが存在するところで一晩培養した。選択したサンプルも2mMのM6Pを含んでいたが、他のものは100μg/マンナンのmlを含んでいた。その細胞を洗浄してから上記に記載したように収集し、それぞれのサンプルの全蛋白質とα−gal Aの活性を決定した。その結果が表6に示されている。M6Pはこれらの細胞によるα−gal Aの取り込みを阻害しないが、マンナンは蓄積されたα−gal Aのレベルを75%まで減少させた。しがたって本発明のα−gal Aは、マンノース受容体、即ちこの特定の細胞表面受容体を発現する細胞型にあるマンノース受容体によってインターナリゼーションされるらしい。
【表6】
J774.E細胞によるα−gal Aのインターナリゼーション
α−gal A活性(ユニット/全蛋白質のmg)
【0076】
これらの実験は、安定してトランスフェクトしたヒト細胞によって産生されたα−gal Aがマンノースまたはマンノース−6−ホスフェート受容体を介して細胞によってインターナリゼーションされるらしいことを証明している。
【0077】
G.α−gal Aを発現するヒト繊維芽細胞によるファブリー繊維芽細胞の修正
遺伝子治療では、α−gal Aを産生する自家細胞の移植片が適当に修飾された形態でその酵素を産生することによって、標的細胞のα−gal A欠損症を「修正」できなくてはならない。ファブリー細胞におけるトランスフェクトしたヒト繊維芽細胞によるα−gal Aの産生の効果を評価するために、ファブリー病の患者から採集した繊維芽細胞(NIGMS Human Genetics Mutant Cell Repository)を、トランスウェルズ(登録商標、Costar, Cambridge, MA)でα−gal A−産生細胞株(BRS−11)とともに共培養した。その実験スキームが図8に図示されている。ファブリー細胞は12ウェルの組織培養皿にて培養し、そのうちのいくつかは、細胞が成長できる表面を持つインサート(トランスウェルズ(Transwells、登録商標、0.4μmの孔径)を含んでいた。このインサートの成長マトリックスは多孔性であり、巨大分子が上方から下方の環境へと通ることを可能にする。1セットのインサートは、最小レベルのα−gal Aを分泌するヒトの包皮(HF)の繊維芽細胞を含んでおり、これに対して別のセットは大量のα−gal Aを分泌する安定にトランスフェクトしたヒト繊維芽細胞株、BRS−11を含んでいた。α−gal A−産生細胞とともに共培養したウェルでは、α−gal Aがファブリー細胞を浸している培地に入ることができ、ファブリー細胞によってインターナリゼーションされる可能性を秘めている。
【0078】
表7のデータは、ファブリー細胞が分泌されたα−gal Aをインターナリゼーションしたことを示している。α−gal Aの細胞内レベルを3日間モニターした。単独で(インサートなしで)培養するか、トランスフェクトされていない包皮の繊維芽細胞(HFインサート)の存在下で培養したこれらの細胞は、α−gal A活性の細胞内レベルが非常に低かった。しかしながらα−gal A−産生(BRS−11インサート)細胞とともに培養したファブリー細胞は、二日目の終わりまでには正常細胞の酵素レベルと同じくらいの酵素レベルを示した(正常の繊維芽細胞は、α−gal Aが25〜80ユニット/蛋白質のmgである)。この修正が、M6P受容体を介して取り上げられるα−gal Aに起因していることは、マンノース−6−ホスフェート(BRS−11インサート+M6P)を用いてそれが阻害されることによって証明される。
【表7】
α−gal Aを発現するヒト繊維芽細胞によるファブリー繊維芽細胞の修正
α−gal A活性(ユニット/全蛋白質のmg)
【0079】
H. 他の細胞型の利用
他の細胞型をこの明細書に記載された方法で利用できる。この細胞はさまざまな組織から得ることができ、またそれには培養して維持できる全ての細胞型が含まれる。例えば、本発明によってトランスフェクトすることのできる一次細胞及び二次細胞には、ヒト繊維芽細胞、ケラチン生成細胞、上皮細胞(例えば、乳房または小腸の上皮細胞)、内皮細胞、神経膠細胞、神経細胞、血液を形成する要素(例えばリンパ球や骨髄細胞)、筋肉細胞、及びこれらの体細胞型の前駆体が含まれる。繊維芽細胞は特に関心がもたれる。一次細胞は、患者の免疫システムによってそれらが拒絶されることのないように、トランスフェクトした一次または二次の細胞を投与すべき患者から得ると好ましい。しかしながら、免疫拒絶(下記に記載したような)を阻止したり抑制したりするために適当な注意が払われるならば、患者以外のヒトドナーの細胞をうまく用いることができる。このことは、標準化され、確立され、安定してトランスフェクトされた細胞系の使用を、全ての患者において可能にするであろう。
【0080】
I.α−gal A−発現細胞の投与
上記に記載した細胞は、それらが例えば腎臓の被膜下、皮下の区画部分、中枢神経系、脊髄内空間、肝臓、腹膜腔内空間、または筋肉内などに存在するように、種々の標準化された投与経路を経てヒトに導入することができる。またこの細胞は、ヒトの血流で循環するように静脈内または動脈内に注入してもよい。一旦ヒトに移植すると、そのトランスフェクトされた細胞は治療用産物であるグリコシル化ヒトα−gal Aを産生しかつ分泌する。
【0081】
ヒトに導入できるように遺伝的に修飾された細胞の数はいろいろ変えることができるが、技術的熟練者によって決定することができる。酵素の分配容積、半減期及び生物利用可能性、並びにインビボでの遺伝的に修飾された細胞の産生性はもちろんのこと、それぞれの患者の年齢、体重、性別及び全身状態が、用量及び投与経路を決定する際のおもに考慮すべきことに入るであろう。通常は、1日あたり106個の細胞につき100〜100,000ユニットの範囲の発現レベルを呈する100万個から10億個の細胞が用いられる。必要であればこの手法は、望ましい結果が得られるまで、例えばファブリー病が関与する症状から開放されるまで繰り返してもよいし、また修飾してもよい。
【0082】
上記に記載したように用いた細胞は、それらが患者の免疫系によって拒絶されないように一般には患者特異的であり、即ちトランスフェクトされた一次細胞または二次細胞が投与されるべきヒトから得られる細胞である。しかしながらこの計画が可能でなかったり望ましくなかったりする場合には、細胞を別のヒトから入手してこの明細書に記載したように遺伝的に修飾し、そしてα−gal A欠損症にかかっている患者に移植すればよい。
【0083】
受容者以外のヒトから得た細胞を用いると、免疫抑制剤の投与、組織適合抗原の変更、または移植した細胞の拒絶反応を抑制するためのバリア装置の利用が必要となるかもしれない。バリア装置は、分泌された産物が受容者の循環器や組織に入ることを可能にするが、移植された細胞と受容者の免疫システムとの間の接触を阻止し、それにより受容者によるその細胞に対する免疫応答(及び起こりうる拒絶反応)を阻止する材料(例えば、Amicon, Beverly, MAから得られるXM−50のような膜)からなる。遺伝子治療に関する更なるガイダンスについてはSeldenら(WO 93/09222)を参照のこと。
【0084】
またこの細胞は、ハイブリッドマトリックス移植物を用いることを記載した共同者自身の文献、U.S.S.N. 08/548/002に記載されているように、あるいは親水性のゲル材料に分泌細胞をマクロカプセル封入化することについて記載しているJainらの出願(PCT出願WO 95/19430)に記載されているように、マトリックスまたはゲル材料に埋め込まれていてもよい(そのそれぞれは参照文献として本明細書に組み入れられる)。
【0085】
J.α−gal A蛋白質を簡便に投与するための製薬配合剤
安定してトランスフェクトした(または別の方法で遺伝的に修飾した)ヒト細胞によって発現して分泌され、そして本明細書に記載したように精製されるα−gal A蛋白質を、α−gal A蛋白質産生が不十分または欠損している患者に投与することができる。この蛋白質は、薬学的に受容可能なキャリアに入れて、例えば実施例IIIに記載されたような配合剤に入れてpH6.5以下で投与することができる。配合剤で含まれていてもよい賦形剤の例は、クエン酸塩緩衝液、燐酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、もしくは重炭酸塩緩衝液のような緩衝液、アミノ酸、ウレア、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、血清アルブミンもしくはゼラチンのような蛋白質、EDTA、塩酸ナトリウム、リポソーム、ポリビニルピロリドン、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG−6000)である。投与経路は例えば静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、脳内、筋肉内、肺内、または粘膜経由であるとよい。投与のルート及び分配される蛋白質の量は、技術熟練者の評価能力に充分入るファクターによって決定することができる。さらに技術熟練者は、治療用蛋白質の投与経路及び用量を、治療用量レベルが得られるまで対象の患者において変化させるとよいことがわかっている。典型的には、α−gal Aは0.01〜100mg/体重1kgの用量で投与されるであろう。この蛋白質を調節しながら繰り返し投薬することは、患者の生涯にわたって必要であろう。
【0086】
K.酵素欠損症によって起こる他の状態の治療
α−gal A以外のリソソーム貯蔵酵素の欠損症によって引き起こされる他の状態は、本明細書に記載した方法に匹敵する方法による治療に影響を受けるであろうと見込まれる。これらの場合では、欠乏した酵素の機能的な型をコードするDNAを、本明細書に開示された発現構築物でのα−gal AをコードするDNAと置換すればよい。確認されている酵素欠損症候群、及び本明細書に記載されたような治療に影響される可能性のある酵素欠損症候群の例が表8に示されている。この表における情報はNeufeld(Ann. Rev. Biochem. 60:257-280, 1991)から得られるものであり、それは参照文献として本明細書に組み入れられる。
【表8】
【0087】
V.他の態様
本明細書に記載された本発明は、トランスフェクション、即ち遺伝子産物をコードするとともに、コード配列の発現をコントロールする調節要素を持っている構築物の導入後に特定の遺伝子産物を発現する細胞を用いる治療方法によって部分的に説明した。またこれらの方法は、他の工程、即ち遺伝子の標的化及び遺伝子の活性化によって遺伝的に修飾された細胞を用いて行ってもよい(参照文献として本明細書に組み入れられるTrecoらのWO 95/31560参照、またSeldenらのWO 93/09222も参照)。
【0088】
hGHシグナルペプチドは、異型の蛋白質の発現と分泌のレベルを大きくするためにα−gal A以外の異型の蛋白質とともに用いてもよい。このような蛋白質の例にはα−1アンチトリプシン、アンチトロンビンIII、アポリポ蛋白質E、アポリポ蛋白質A−1、血液凝固因子V,VII,VIII,IX,X,及びXIII、骨成長因子−2、骨成長因子−7、カルシトニン、触媒性抗体、DNAse、エリスロポエチン、FSH−β、グロビン、グルカゴン、グルコセレブロシダーゼ、G−CSF、GM−CSF、成長ホルモン、免疫応答変更遺伝子、イムノグロブリン、インシュリン、インシュリノトロピン、インシュリン様成長因子、インターフェロン−β、インターフェロン−β神経成長因子、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−6、インターロイキン−11、インターロイキン−12、IL−2受容体、IL−1受容体のアンタゴニスト、低密度リポ蛋白質受容体、M−CSF、パラチロイドホルモン、プロテインキナーゼC、可溶性CD4、スーパーオキサイドジスムターゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、TGF−β、腫瘍壊死因子、TSHβ、チロシンヒドロキシラーゼ、及びウロキナーゼが含まれる。
他の態様は次の請求の範囲内に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ガラクトシダーゼA欠損症であると推測される患者を同定する段階と、ヒトα−gal Aを過剰発現し、かつ分泌するように遺伝的に修飾されたヒト細胞を該患者に導入する段階とを含む治療方法。
【請求項2】
細胞が、ヒトα−gal A(配列番号:26)を含むポリペプチドをコードするコード配列を有するDNA分子でインビトロにてトランスフェクトされた請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリペプチドが異種シグナルペプチドをさらに含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
異種シグナルペプチドがヒト成長ホルモン(hGH)シグナルペプチド(配列番号:21)である請求項3記載の方法。
【請求項5】
DNA分子が、前記シグナルペプチドをコードする配列にイントロンを含む請求項3記載の方法。
【請求項6】
DNA分子が、コード配列の終結コドンの3’に隣接して存在する少なくとも6個のヌクレオチドからなる非翻訳配列を含み、該非翻訳配列がポリアデニル化部位を含む請求項3記載の方法。
【請求項7】
hGHシグナルペプチド(配列番号:21)をコードし、イントロンを含む第1配列と、
該第1配列の3’末端に結合し、ヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードする第2配列とを含むDNA分子。
【請求項8】
ポリアデニル化部位を含む3’非翻訳配列をさらに含む請求項7記載のDNA分子。
【請求項9】
請求項7記載のDNA分子を含み、ヒト細胞での発現に適当である発現構築物。
【請求項10】
(a)異種シグナルペプチドに結合されたヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの発現を可能にするDNA分子を含む培養されたヒト細胞。
【請求項11】
繊維芽細胞である請求項10記載の細胞。
【請求項12】
上皮細胞、内皮細胞、骨髄細胞、神経膠細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、神経細胞、またはこれらの細胞型の前駆体からなる群より選択される請求項10記載の細胞。
【請求項13】
シグナルペプチドが、hGHシグナルペプチド(配列番号:21)である請求項10記載の細胞。
【請求項14】
(a)異種シグナルペプチドに結合されたヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの過剰発現を可能にするDNA分子を用いてトランスフェクトされた複数の培養ヒト細胞から本質的になるクローン細胞株。
【請求項15】
細胞が繊維芽細胞である請求項14に記載のクローン細胞株。
【請求項16】
(a)異種シグナルペプチドに結合されたヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの過剰発現を可能にするDNA分子を用いてトランスフェクトされた複数の不死化ヒト細胞から本質的になるクローン細胞系。
【請求項17】
細胞が、Bowesメラノーマ細胞、Daudi細胞、Hela細胞、HL-60細胞、HT1080細胞、Jurkat細胞、KB癌細胞、K-562白血病細胞、MCF-7乳癌細胞、MOLT-4細胞、Namalwa細胞、Raji細胞、RPMI 8226細胞、U-937細胞、WI-38VA13(サブ系統2R4)細胞、及び2780AD卵巣癌細胞からなる群より選択される請求項16記載のクローン細胞系。
【請求項18】
(b)ヒトα−gal Aにペプチド結合によって結合された(a)hGHシグナルペプチド(配列番号:21)を含む蛋白質。
【請求項19】
前記DNA分子からヒトα−gal Aを発現させ、細胞の培養培地にグリコシル化ヒトα−gal Aが分泌されるような条件下で請求項11記載の細胞を培養する段階と、
該培養培地からグリコシル化ヒトα−gal Aを単離する段階とを含むグリコシル化ヒトα−gal Aを製造する方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法によって製造された精製グリコシル化ヒトα−gal A。
【請求項21】
サンプルが疎水性の相互作用樹脂を通過する第1クロマトグラフィー工程を含む、サンプルからヒトα−gal Aを精製する方法。
【請求項22】
前記樹脂上の機能的部分がブチル基を含む請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記DNA分子からヒトα−gal Aを発現させ細胞の培養培地にグリコシル化ヒトα−gal Aが分泌されるような条件下で請求項16記載の細胞を培養する段階と、
前記培養培地からグリコシル化ヒトα−gal Aを単離する段階とを含む、グリコシル化ヒトα−gal Aを製造する方法。
【請求項24】
固定化ヘパリン樹脂、ハイドロキシアパタイト、アニオン交換樹脂、及びサイズ排除樹脂からなる群より選択される第2樹脂にサンプルを通す段階をさらに含む請求項21記載の方法。
【請求項25】
α−gal A欠損症であると推測される患者を同定する段階と、
請求項20記載の精製グリコシル化ヒトα−gal Aを該患者に投与する段階とを含む治療方法。
【請求項26】
薬学的に許容されるキャリア中にN−結合マンノース−6−ホスフェートを有する薬学的に許容される精製ヒトα−gal Aを含む治療用組成物。
【請求項27】
請求項20記載の精製ヒトα−gal Aと薬学的に許容される賦形剤とを含む治療用組成物。
【請求項28】
pH6.5またはそれ以下で処方された請求項27記載の治療用組成物。
【請求項29】
薬学的に許容される賦形剤がヒト血清アルブミンである請求項28記載の治療用組成物。
【請求項30】
hGH以外のポリペプチドに結合されたhGH(配列番号:21)のシグナルペプチドを含む蛋白質をコードするDNA分子。
【請求項31】
シグナルペプチドをコードする配列にイントロンを含む請求項30記載のDNA分子。
【請求項32】
(a)ヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの過剰発現を可能にするDNA分子を含む培養されたヒト細胞。
【請求項33】
前記DNA分子からヒトα−gal Aが発現されるような条件下で、ヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードするDNA分子を含有するヒト細胞を培養する段階を含む、グリコシル化ヒトα−gal Aを製造する方法。
【請求項34】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む請求項26記載の治療用組成物。
【請求項35】
機能的部分としてブチル基を含む疎水性相互作用樹脂に前記サンプルを通す段階を含む、サンプルからヒトα−gal Aを精製する方法。
【請求項1】
α−ガラクトシダーゼA欠損症であると推測される患者を同定する段階と、ヒトα−gal Aを過剰発現し、かつ分泌するように遺伝的に修飾されたヒト細胞を該患者に導入する段階とを含む治療方法。
【請求項2】
細胞が、ヒトα−gal A(配列番号:26)を含むポリペプチドをコードするコード配列を有するDNA分子でインビトロにてトランスフェクトされた請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリペプチドが異種シグナルペプチドをさらに含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
異種シグナルペプチドがヒト成長ホルモン(hGH)シグナルペプチド(配列番号:21)である請求項3記載の方法。
【請求項5】
DNA分子が、前記シグナルペプチドをコードする配列にイントロンを含む請求項3記載の方法。
【請求項6】
DNA分子が、コード配列の終結コドンの3’に隣接して存在する少なくとも6個のヌクレオチドからなる非翻訳配列を含み、該非翻訳配列がポリアデニル化部位を含む請求項3記載の方法。
【請求項7】
hGHシグナルペプチド(配列番号:21)をコードし、イントロンを含む第1配列と、
該第1配列の3’末端に結合し、ヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードする第2配列とを含むDNA分子。
【請求項8】
ポリアデニル化部位を含む3’非翻訳配列をさらに含む請求項7記載のDNA分子。
【請求項9】
請求項7記載のDNA分子を含み、ヒト細胞での発現に適当である発現構築物。
【請求項10】
(a)異種シグナルペプチドに結合されたヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの発現を可能にするDNA分子を含む培養されたヒト細胞。
【請求項11】
繊維芽細胞である請求項10記載の細胞。
【請求項12】
上皮細胞、内皮細胞、骨髄細胞、神経膠細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、神経細胞、またはこれらの細胞型の前駆体からなる群より選択される請求項10記載の細胞。
【請求項13】
シグナルペプチドが、hGHシグナルペプチド(配列番号:21)である請求項10記載の細胞。
【請求項14】
(a)異種シグナルペプチドに結合されたヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの過剰発現を可能にするDNA分子を用いてトランスフェクトされた複数の培養ヒト細胞から本質的になるクローン細胞株。
【請求項15】
細胞が繊維芽細胞である請求項14に記載のクローン細胞株。
【請求項16】
(a)異種シグナルペプチドに結合されたヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの過剰発現を可能にするDNA分子を用いてトランスフェクトされた複数の不死化ヒト細胞から本質的になるクローン細胞系。
【請求項17】
細胞が、Bowesメラノーマ細胞、Daudi細胞、Hela細胞、HL-60細胞、HT1080細胞、Jurkat細胞、KB癌細胞、K-562白血病細胞、MCF-7乳癌細胞、MOLT-4細胞、Namalwa細胞、Raji細胞、RPMI 8226細胞、U-937細胞、WI-38VA13(サブ系統2R4)細胞、及び2780AD卵巣癌細胞からなる群より選択される請求項16記載のクローン細胞系。
【請求項18】
(b)ヒトα−gal Aにペプチド結合によって結合された(a)hGHシグナルペプチド(配列番号:21)を含む蛋白質。
【請求項19】
前記DNA分子からヒトα−gal Aを発現させ、細胞の培養培地にグリコシル化ヒトα−gal Aが分泌されるような条件下で請求項11記載の細胞を培養する段階と、
該培養培地からグリコシル化ヒトα−gal Aを単離する段階とを含むグリコシル化ヒトα−gal Aを製造する方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法によって製造された精製グリコシル化ヒトα−gal A。
【請求項21】
サンプルが疎水性の相互作用樹脂を通過する第1クロマトグラフィー工程を含む、サンプルからヒトα−gal Aを精製する方法。
【請求項22】
前記樹脂上の機能的部分がブチル基を含む請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記DNA分子からヒトα−gal Aを発現させ細胞の培養培地にグリコシル化ヒトα−gal Aが分泌されるような条件下で請求項16記載の細胞を培養する段階と、
前記培養培地からグリコシル化ヒトα−gal Aを単離する段階とを含む、グリコシル化ヒトα−gal Aを製造する方法。
【請求項24】
固定化ヘパリン樹脂、ハイドロキシアパタイト、アニオン交換樹脂、及びサイズ排除樹脂からなる群より選択される第2樹脂にサンプルを通す段階をさらに含む請求項21記載の方法。
【請求項25】
α−gal A欠損症であると推測される患者を同定する段階と、
請求項20記載の精製グリコシル化ヒトα−gal Aを該患者に投与する段階とを含む治療方法。
【請求項26】
薬学的に許容されるキャリア中にN−結合マンノース−6−ホスフェートを有する薬学的に許容される精製ヒトα−gal Aを含む治療用組成物。
【請求項27】
請求項20記載の精製ヒトα−gal Aと薬学的に許容される賦形剤とを含む治療用組成物。
【請求項28】
pH6.5またはそれ以下で処方された請求項27記載の治療用組成物。
【請求項29】
薬学的に許容される賦形剤がヒト血清アルブミンである請求項28記載の治療用組成物。
【請求項30】
hGH以外のポリペプチドに結合されたhGH(配列番号:21)のシグナルペプチドを含む蛋白質をコードするDNA分子。
【請求項31】
シグナルペプチドをコードする配列にイントロンを含む請求項30記載のDNA分子。
【請求項32】
(a)ヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードし、かつ(b)細胞における該ポリペプチドの過剰発現を可能にするDNA分子を含む培養されたヒト細胞。
【請求項33】
前記DNA分子からヒトα−gal Aが発現されるような条件下で、ヒトα−gal Aを含むポリペプチドをコードするDNA分子を含有するヒト細胞を培養する段階を含む、グリコシル化ヒトα−gal Aを製造する方法。
【請求項34】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む請求項26記載の治療用組成物。
【請求項35】
機能的部分としてブチル基を含む疎水性相互作用樹脂に前記サンプルを通す段階を含む、サンプルからヒトα−gal Aを精製する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−19793(P2012−19793A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193635(P2011−193635)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【分割の表示】特願2008−300335(P2008−300335)の分割
【原出願日】平成9年9月12日(1997.9.12)
【出願人】(504396117)シャイアー ヒューマン ジェネティック セラピーズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【分割の表示】特願2008−300335(P2008−300335)の分割
【原出願日】平成9年9月12日(1997.9.12)
【出願人】(504396117)シャイアー ヒューマン ジェネティック セラピーズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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