説明

α−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の製造方法

【課題】食品への添加や保存においてアミノ酸やタンパク質が損なわれることがなく、食品素材や医薬素材として期待できるα−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラクトースとグルコースを含む物質にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)APC−9319株(寄託番号:FERM BP−7680)に由来するα−ガラクトシダーゼを作用させ、脱水縮合反応によりα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖を生成させ、混在するGalα1−1βGalをβ−ガラクトシダーゼにより加水分解し、さらに前記オリゴ糖中の還元糖の分解後、分離操作することを特徴とする下記式(1)で表されるα−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の製造方法に関し、詳細には、非還元性二糖のGalα1−1βGlcの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非還元性二糖の一種であるトレハロース(Glcα1−1αGlc)は非還元性で耐熱・耐酸性に優れ、アミノ化合物と還元糖との反応に起因するメイラード反応によりアミノ酸やタンパク質が損なわれることがないなど、食品の加工や保存において他の素材への悪影響が少ないことが知られている。また、デンプンの老化、タンパク質の変性、脂質の酸化を抑制する作用も強い等、食品素材として優れた性質を有している。一方、α−ガラクトシル基を非還元末端に有する糖質は、天然には三糖のラフィノースやメリビオースが知られ、強いビフィズス菌選択増殖活性や抗う蝕性の他に、免疫細胞活性化作用、制がん効果、アトピー性皮膚炎の改善効果などの様々な生理機能が報告されている。従って、α−ガラクトシル基を含む非還元性二糖を合成できれば、叙述のトレハロースの有する諸性質あるいはラフィノースやメリビオースなどの有する諸機能を備え、ひいては優れた食品素材や医薬品素材の提供が期待できる。また、α−ガラクトシル基を含む非還元性二糖は、従来、Galα1−1αGlcがあるのみである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−304881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、有用な食品素材や医薬品素材として期待されるα−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の簡便な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、ガラクトースとグルコースを含む物質にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)APC−9319株(寄託番号:FERM BP−7680)に由来するα−ガラクトシダーゼを作用させ、脱水縮合反応によりα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖を生成させ、混在するGalα1−1βGalをβ−ガラクトシダーゼにより加水分解し、さらに前記オリゴ糖中の還元糖の分解後、分離操作することを特徴とする下記式(1)で表されるα−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の製造方法に関する。
【0005】
【化1】

【発明の効果】
【0006】
本発明の式(1)で表される非還元性二糖の製造方法は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)APC−9319株(FERM BP−7680)に由来するα−ガラクトシダーゼを用いることにより、アミノ化合物と還元糖との反応に起因するメイラード反応によりアミノ酸やタンパク質が損なわれることがなく、食品の加工や保存において他の素材への悪影響が少ない食品素材として期待され、また、医薬素材として期待される非還元性二糖を高収量で製造でき、しかもこの酵素は有機発酵や種々の食品用酵素剤の給源として利用されており安全性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
式(1)で表される非還元性二糖の製造は、まずガラクトースとグルコースを含む物質にα−ガラクトシダーゼを作用させ、脱水縮合反応によりα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖を製造する。
【0008】
α−ガラクトシダーゼを生産する微生物としては、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などのカビ類、サッカロマイセス(Saccharomyces)属などの酵母類、あるいはバチルス(Bacillus)属に属する細菌類等が挙げられるが、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物由来のα−ガラクトシダーゼが好ましい。
【0009】
上記微生物の内、アスペルギルス属カビ類としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・プルベルレンタス(Aspergillus pulverulentus)、ペニシリウム属カビ類としては、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)、トリコデルマ属カビ類としては、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)が好ましく、これらの中でもアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)がより好ましい。
【0010】
アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の中でも、本出願人らにより寄託されたアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)APC−9319株(寄託番号:FERM BP−7680)が特に好ましい。この菌株が生産するα−ガラクトシダーゼは、脱水縮合反応の活性が極めて高く、従来α−ガラクトシダーゼの中でも脱水縮合反応の触媒活性が最も高いことで知られるカンジダ・ギリエルモンディー(Candida guilliermondii)H−404株(寄託番号:FERM P−11062)の生産するα−ガラクトシダーゼよりα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖が高収量で製造でき(PCT/JP01/06848参照)、これに対応して式(1)の非還元性二糖を高収量で製造できる。
【0011】
また、サッカロマイセス属酵母としては、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cervisiae)、バチルス属細菌としては、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)が好ましい。
【0012】
上記の各微生物からα−ガラクトシダーゼを生産する方法は、通常、固体培養又は液体培養が用いられる。固体培養の培地としては、小麦ふすま単独あるいは小麦ふすまに種々の添加物、例えば、きな粉、大豆粉、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリペプトン、コーンスティープリカー、肉エキス、酵母エキス、タンパク質加水分解物などの有機及び無機の窒素化合物などを適宜添加して用いることができる。さらに、適当な無機塩類を加えることもできる。また、液体培養の培地としては、当該微生物が良好に成育し、酵素を順調に生産するために必要な炭素源、窒素源、無機塩、必要な栄養源等を含有する合成培地又は天然培地が挙げられる。例えば、炭素源としては、澱粉又はその組成画分、焙焼デキストリン、加工澱粉、澱粉誘導体、物理処理澱粉及びα−澱粉あるいはガラクトースを含む物質等の炭水化物が使用できる。具体例としては、可溶性澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、デキストリン、アミロペクチン、アミロース、ガラクトース、ラクトース、ラフィノース等が挙げられ、これらを単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。窒素源としては、ポリペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカーあるいは大豆又は大豆粕などの抽出物等の有機窒素源物質、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩窒素化合物、グルタミン酸等のアミノ酸類が挙げられ、これらを単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用できる。無機塩類としては、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化カルシウム等のカルシウム塩、炭酸ナトリウム等のナトリウム塩等を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0013】
固体培養の場合には、静置培養で行い、培地のpHを3〜7、好ましくは4〜7に調整したものに本菌を接種し、10〜40℃、好ましくは20〜37℃で1〜10日間培養を行う。培養後、その培養抽出物からα−ガラクトシダーゼをエタノール沈降などの手段により、粗酵素沈殿物として得ることができる。また、液体培養の場合、培養は振盪培養もしくは通気撹拌培養等の好気的条件下に行い、培地をpH4〜10の範囲、好ましくはpH5〜8の範囲に調整し、温度10〜40℃の範囲、好ましくは、25〜37℃で、24〜96時間培養する。培養後、遠心分離、その他の適当な固−液分離手段で菌体を除去し、培養上清液を得ることができる。また、菌体を物理的あるいは酵素的に処理し、菌体内抽出液を得ることができる。
【0014】
次いで、これらの粗酵素液から硫安塩析処理法、ゲル濾過処理、疎水クロマトグラフィー処理などを適宜組み合わせることにより、高純度のα−ガラクトシダーゼが得られる。
【0015】
α−ガラクトシル基を含むオリゴ糖の製造に用いる酵素としては、上記のようにして得た酵素標品の他に、固体培養の場合は、その抽出液を、液体培養の場合は、培養上清液又は菌体内抽出液を、そのまま酵素剤として用いることができる。また、必要に応じて、既知の方法で精製した酵素も使用できる。また、菌体をそのまま酵素剤として利用することも可能である。あるいは市販酵素剤、例えばセルラーゼ剤やプロテアーゼ剤等に混在したα−ガラクトシダーゼも使用でき、その場合、酵素剤をそのまま使用するか、あるいは酵素剤の中からα−ガラクトシダーゼを種々の既知方法で精製して使用することもできる。
また、これら酵素あるいは酵素を生産する菌体は、固定化して連続式で、あるいはバッチ式で繰り返し反応に利用することも可能である。
【0016】
式(1)の非還元性二糖を製造するためにα−ガラクトシダーゼの反応に供する原料は、ガラクトースとグルコースを含む物質が挙げられ、具体的にはガラクトースとグルコースの混合物を適当な比率に混合したものや乳糖などのガラクトースとグルコースを含む化合物を挙げられ、安価な乳糖をβ−ガラクトシダーゼあるいは酸によって加水分解した乳糖加水分解物をそのまま利用することが好ましい。ガラクトースとグルコースの比率は特に制限されない。
【0017】
ガラクトースとの結合の相手となるグルコースは、市販のグルコースはもちろん、澱粉、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、コージオリゴ糖、シクロデキストリン、トレハロース、マルチトール、セルロース、セロオリゴ糖、ソホロオリゴ糖、ラミナリオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖などのα−グルコシル基あるいはβ−グルコシル基を含む天然あるいは合成オリゴ糖、配糖体あるいは多糖を酵素(アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼなど)あるいは酸を使用して加水分解したものから調製したグルコースを使用できる。
【0018】
本発明の式(1)で表される非還元性二糖のGalα1−1βGlcは、混在するGalα1−1βGalを加水分解し、さらに上記で得られたα−(Gal)n−Glcのオリゴ糖中の還元糖の分解及び分離操作を行うことにより製造できる。Galα1−1βGalの加水分解は、酵素を用いて行うことができ、酵素はβ−ガラクトシダーゼが好ましい。β−ガラクトシダーゼの添加量は、酵素の起源、活性などそれぞれの酵素に応じた条件を考慮して適宜決定する。また、オリゴ糖中の還元糖の分解は、アルカリ分解により行うことができ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリをオリゴ糖に添加して行うことができ、この分解操作により、Galα1−1βGlc以外のオリゴ糖が分解される。アルカリの添加量は、終濃度0.1〜6.0Nが好ましい。分離操作は、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーなど既知の分離手段を用いて行うことができるが、活性炭クロマトグラフィーが好ましい。
【0019】
なお、上記(1)の非還元性二糖の製造において、酵素反応が進むにつれ、脱水縮合反応によって合成されたα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖が再度α−ガラクトシダーゼによって分解され、糖転移反応も並行して起こるため、糖転移反応もα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖の合成に寄与している。また、生成した化合物のガラクトースの結合位置、結合数、あるいはこれらの化合物の比率は原料のガラクトースとグルコースの組成、用いた酵素の由来や反応条件により影響を受ける。α−ガラクトシダーゼの反応条件は、用いる酵素により異なるが、反応pHは3.0〜10.0、好ましくは4.0〜9.0の範囲である。反応温度は、溶解度や反応速度の点から高い方が望ましく、通常20〜90℃、好ましくは40〜80℃の範囲である。反応時間は、酵素の使用量によって異なるが、通常1〜150時間である。しかしながら、以上の条件、あるいは反応形態のみに限定されるものではない。さらに、α−ガラクトシル基を含むオリゴ糖を製造するには、原料のガラクトースの濃度は高い程良く、ガラクトースやグルコースは反応系に析出しても、また、ガラクトースやグルコースが過飽和状態でも良く、通常5〜110%(w/v)の濃度で用い、好ましくは50〜110%(w/v)の濃度である。
【実施例】
【0020】
次いで、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
参考例1(パラニトロフェニルα−ガラクトシドを基質とするα−ガラクトシダーゼの活性測定法)
10mMパラニトロフェニルα−ガラクトシド0.2mlと40mMの緩衝液(pHは酵素の至適pHに準じる)0.2mlにα−ガラクトシダーゼ溶液0.05mlを添加して、40℃にて10分間反応させた。反応後、0.2M炭酸ナトリウム0.5mlを加えて反応を停止し、遊離したパラニトロフェノール量を分光光度計にて400nmの吸光度を計ることにより測定した。酵素活性1単位(U)は、この条件で1分間に1マイクロモルのパラニトロフェノールを遊離する酵素量とした。
【0022】
参考例2(メリビオースを基質とするα−ガラクトシダーゼの活性測定法)
10mMメリビオース0.2mlと40mMの緩衝液(pHは酵素の至適pHに準じる)0.2mlにα−ガラクトシダーゼ溶液0.05mlを添加して、40℃にて10分間反応させた。次いで、100℃で10分間加熱して反応を停止させ、生じたグルコース量をロシュ・ダイアグノスティックス(株)製のF−キット(グルコース/フルクトース)あるいは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
酵素活性1単位(U)は、この条件下で1分間に1マイクロモルのグルコースを生成する酵素量とした。
【0023】
製造例(α−ガラクトシダーゼの製造)
5%の小麦ふすまを含む液体培地(pH6.0)90mlを500ml容坂口フラスコに入れ、常法によりオートクレーブで殺菌後、アスペルギルス・ニガーAPC−9319株(寄託番号:FERM BP−7680)を接種して、25℃で3日間、前培養(種培養)を行った。ふすま500gに水400mlを添加して殺菌後、前培養液10mlを接種して良く撹拌した後、25℃にて4日間、本培養を行った。培養後、ふすま麹を細かく砕き、水を8L添加して4℃で一夜抽出した後、濾紙にて濾過して抽出濾過液を得た。得られた抽出濾過液のα−ガラクトシダーゼ活性を測定したところ、抽出濾過液1ml当たり3単位(U)であった。抽出濾過液6Lを限外濾過膜(旭化成(株)製SIP)で1Lまで濃縮し、70%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加して塩析を行った。続いて、沈殿を遠心分離にて集め、500mlの水に溶解し、限外濾過膜で100mlまで濃縮し、更に500mlの水を加えて100mlまで濃縮し、この操作を3回繰り返し、脱塩を行った。脱塩後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉末(250U/g)を得た。
【0024】
上記で得られた抽出濾過液に70%飽和になるように硫酸アンモニウムを添加して撹拌した後、4℃にて一晩放置した。その沈殿を遠心分離にて集め、10mMのリン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した後、限外濾過膜(旭化成(株)製SIP)で濃縮し、再度同緩衝液を添加して濃縮した。この操作を3回繰り返し、脱塩を行った。
【0025】
次に、イオン交換クロマトグラフィーを行うために、同緩衝液にて平衡化したDEAE−トヨパール650M(東ソー(株)製)カラムに供した。続いて、疎水クロマトグラフィーを行うために、50%飽和硫酸アンモニウム中で、ブチル−トヨパール650M(東ソー(株)製)カラムに供した。活性画分を集めて、ゲル濾過クロマトグラフィーを行うために、0.3Mの塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.5)にて平 衡化したトヨパールHW−55S(東ソー(株)製)カラムに供した。これらのカラムクロマトによりタンパク質的に均一なα−ガラクトシダーゼを得た。
【0026】
上記で得られたα−ガラクトシダーゼは、以下の理化学的性質を有する。
(1)作用
α−ガラクトシド結合を加水分解してD−ガラクトースを遊離する反応を触媒する。
Galα1−OR+HO→Gal−OH+R−OH
(式中、Galα1−ORはα−ガラクトシル基を含む糖質を、Gal−OHは遊離のガラクトースを、R−OHは種々の糖、アルコール及びフェノール類などのヒドロキシル基を有する化合物を示す。)
(2)基質特異性
非還元末端にα−ガラクトシル基を有するメリビオース、ラフィノース、スタキオースなどや、パラニトロフェニルα−ガラクトシドに作用する。パラニトロフェニルα−ガラクトシドを基質とした場合の分解速度を100とした場合、メリビオースを分解する相対速度は約9である。
(3)至適pH及びpH安定性
至適pHは2.5〜6.0である。また、40℃で1時間放置した場合、pH3.5〜8.0の範囲で安定である。
(4)至適温度及び温度安定性
pH4.5(酢酸緩衝液)における至適温度は60℃である。また、pH4.5(酢酸緩衝液)で15分間放置した場合、60℃まで安定である。
(5)分子量及び等電点
YMC−Pack Diol−200カラム((株)ワイエムシィ製)を用いたゲル濾過法で測定した分子量は217,000で、SDS−PAGEで測定した分子量は117,000である(図1及び図2)。また、等電点電気泳動法により測定した等電点は4.2である。
本酵素は、これまでに報告されているアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の生産するα−ガラクトシダーゼの72,000及び69,000(いずれもSDS−PAGE)に比べ、分子量が大きいことに特徴を有する。
【0027】
実施例1(式(1)のGalα1−1βGlcの製造)
乳糖(和光純薬(株)製)100gを市販のβ−ガラクトシダーゼ(ノボザイム(株)製ラクトザイム)によって加水分解し、ガラクトースとグルコースの等量混合物を得た。
このガラクトースとグルコースの等量混合物85gと上記の製造例で得られたα−ガラクトシダーゼ1,500Uを含むpH4.5の酢酸緩衝液100ml(糖度85%(w/v)、酵素濃度35U/g−ガラクトース)を調製し、50℃にて87時間反応させた。反応液から活性炭カラムクロマトグラフィーによりα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖27gを得た(カンジダ・ギリエルモンディー(Candida guilliermondii)H−404由来のα−ガラクトシダーゼの場合は16g)。このα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖は、酸やα−ガラクトシダーゼにより加水分解すると、ガラクトースとグルコースのみ生成した。
【0028】
次いで、上記で得られたオリゴ糖はGalα1−1βGalが混在していることから、精製を容易にするため本オリゴ20gを100mlの20mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解し、45,000LAU(ノボザイム(株)ラクターゼ単位)となるようにβ−ガラクトシダーゼ(ノボザイム(株)製ラクトザイム)を添加し、さらに液量が180mlとなるように20mMリン酸緩衝液(pH6.5)を添加した。この溶液を40℃で24時間処理し、Galα1−1βGalをD−ガラクトースに加水分解した。さらに、β−ガラクトシダーゼ処理液に2.0N水酸化ナトリウムを20ml添加し、100℃で30分し還元糖のみを分解させた。塩酸で中和後、その処理液を活性炭カラムに供し、ピークaを検出・分取した。得られたピークa画分をH−NMR、13C−NMRで構造解析を行ったところ、ピークaは非還元性二糖のGalα1−1βGlcであることが確認された。帰属データを表2に示した。なお、数値はTPSを内部標準とした時の化学シフト値(δ)を、括弧内の数値は結合定数を記した。
【0029】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】製造例で得られたα−ガラクトシダーゼの分子量をHPLCで測定した際の検量線を示す図である。
【図2】製造例で得られたα−ガラクトシダーゼの分子量をSDS−PAGEで測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトースとグルコースを含む物質にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)APC−9319株(寄託番号:FERM BP−7680)に由来するα−ガラクトシダーゼを作用させ、脱水縮合反応によりα−ガラクトシル基を含むオリゴ糖を生成させ、混在するGalα1−1βGalをβ−ガラクトシダーゼにより加水分解し、さらに前記オリゴ糖中の還元糖の分解後、分離操作することを特徴とする下記式(1)で表されるα−ガラクトシル基を含む非還元性二糖の製造方法。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−307054(P2008−307054A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197104(P2008−197104)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【分割の表示】特願2001−359777(P2001−359777)の分割
【原出願日】平成13年11月26日(2001.11.26)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【出願人】(390021636)塩水港精糖株式会社 (11)
【Fターム(参考)】