説明

α−グルコシダ−ゼ活性阻害剤、及びこれを含有する果実飲料

【課題】
この発明は、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品などに使用可能なα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
(1)マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有するα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤。
(2)マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有することを特徴とする果汁飲料。
(3)果汁が桃果汁である請求項2に記載する果汁飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、医薬品などに使用可能なα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤に関する。更に詳しくは、マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有するα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤、及びこれを含有する果実飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖の摂り過ぎによる急激な血糖値上昇は、膵臓のインスリン分泌に負担をかける。インスリンの多量分泌が繰り返されるとインスリン分泌が正常に行われなくなり、その結果、糖尿病発症につながる可能性がある。
α−グルコシダ−ゼは、ショ糖や麦芽糖などの二糖類の非還元末端のα−グルコシド結合を切断し、グルコ−スなどの単糖類に分解する酵素である。
ショ糖などは、小腸内でα−グルコシダ−ゼによってグルコ−スとフラクト−スに分解された後に吸収されるので、このα−グルコシダ−ゼの作用を阻害するような天然素材があれば、急激な血糖値の上昇を抑制し、肥満や糖尿病を予防できる可能性がある。
従来、α−グルコシダ−ゼ阻害作用を有する医薬品として、アカルボ−ス(グルコバイ)とボグリボ−ス(ベイスン)が知られている。
また、α−グルコシダ−ゼ阻害剤を添加して製造した健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品として、グァバ葉ポリフェノ−ルをα−グルコシダ−ゼ阻害作用関与成分とする蕃爽麗茶、トウチエキスをα−グルコシダ−ゼ阻害作用関与成分とする食前茶などが知られているが、より効果の高い新しい素材が求められている。
更に、下記の植物成分を含有するα−グルコシダ−ゼ阻害剤が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−181194
【特許文献2】特開2009−82079
【特許文献3】特開2000−102383
【特許文献4】特開2000−72682
【特許文献5】特開2004−155667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、植物性天然物由来のα−グルコシダ−ゼ阻害剤が、種々発見されているが、マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有するα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤に関するものは知られていない。
したがって、本発明は、副作用や安全性に問題がなく、有効な植物性天然物由来のα−グルコシダ−ゼ阻害剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液は、非常に強いα−グルコシダ−ゼ活性阻害作用を有することを知り、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、下記の請求項1〜請求項3により構成されている。
〔請求項1〕マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有することを特徴とするα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤。
〔請求項2〕マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有することを特徴とする果汁飲料。
〔請求項3〕果汁が桃果汁である請求項2に記載する果汁飲料。
【0006】
本願発明を以上のように構成する理由は、マンゴスチンの果皮の搾汁液には、顕著なα−グルコシダ−ゼ阻害活性作用が存在するので、糖尿病治療剤、血糖降下剤として利用が期待できるからである。
又、マンゴスチンの果皮の搾汁液には、ポリフェノ−ル類が、没食子酸として3000mg/100g(フォ−リン・チオカルト法)以上含有されているため、官能的に強い渋味を有するが、これを桃、りんご、柿等の果汁で希釈すると、経口摂取が非常に容易になるからである。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、天然物由来で副作用の心配のない少ないα−グルコシダ−ゼ阻害
剤、及びこれを含有する果汁飲料が容易に得られるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】α−グルコシダ−ゼ阻害活性試験の反応概略図である。
【図2】α−グルコシダ−ゼ阻害活性阻害率を示す図である。
【図3】α−グルコシダ−ゼ阻害活性試験の反応概略図である。
【図4】マンゴスチン添加量とα−グルコシダ−ゼ活性阻害率の関係を示す図である。
【図5】酵素量と反応後生成した果糖とブドウ糖の合計量との関係を示す図である。
【図6】反応溶液中のマンゴスチン搾汁液の濃度とα−グルコシダ−ゼ活性阻害率の関係を示す図である。
【図7】酵素量を算出する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0010】
<材料と方法>
(イ)収穫地の異なる6種類のタイ産のマンゴスチンの熟した果実(試料番号1,2,3,4,5、及び6)を2つに割って、果肉(食用部)を除き果皮の部分を集めた。
前記マンゴスチンの果皮(試料番号1〜6)を圧搾して得られる搾汁液を、布でろ過した後、更にホモジネ−トしたものを、正確に10.0 g取り、純水を加えて100mlの定容にした。
定容後、溶液の一部を取ってポアサイズ0.2 μmのメンブランフィルタ−で濾過し、試料原液とした。
又、比較試料として、蕃爽麗茶(グァバ葉ポリフェノ−ル含有、ヤクルト本社製)を用い、同様にポアサイズ0.2 μmのメンブランフィルタ−で濾過し、試料原液とした。
各試料原液は純水で順次希釈し、試料溶液として用いた。
酵素は酵母由来のα−グルコシダ−ゼ(100 units/1.4 mg:オリエンタル酵母)を0.25 Mリン酸緩衝液(pH6.5)で溶解し、10 units/mlに調製して使用した。反応基質はp−Nitrophenyl−α−D−glucopyranosideを0.25 Mリン酸緩衝液(pH6.5)で溶解し、1.4 mMの濃度に調製して使用した。
反応停止液は0.2 M炭酸ナトリウムを使用した。
(ロ)反応は図1のように行った。
尚、対照(酵素活性阻害率0%)用の試料溶液は純水を使用し、各反応溶液に対するブランクは、酵素溶液を0.25 Mリン酸緩衝液(pH6.5)に変えて反応停止液を他の溶液と同時に混合したものを用いた。酵素活性阻害率は、以下の数式により算出した。

酵素活性阻害率(%)=〔(X−Y)/X〕×100

X:対照反応溶液の吸光度(ブランクの吸光度を0 Absとして測定)
Y:試料反応溶液の吸光度(ブランクの吸光度を0 Absとして測定)
【0011】
試料の酵素活性阻害率を表1に、又試料濃度と活性阻害率の関係のグラフを図2に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
上記の結果は、マンゴスチンの果皮の搾汁液は、高いα−グルコシダ−ゼ活性阻害作用を有することを示している。
【実施例2】
【0014】
<材料と方法>
(イ)実施例1で調製したマンゴスチン4の試料原液を、桃の100%果汁に1%、2%、3%の割合で添加した検体試料について、α−グルコシダ−ゼ阻害活性試験を行った。
コントロ−ル試料には、検体試料に使用した桃果汁に純水を1%、2%、3%添加した溶液を用いた。
酵素は酵母由来のα−グルコシダ−ゼ(100 units/1.4 mg:オリエンタル酵母)を
0.25 Mリン酸緩衝液(pH6.5)で溶解し、200 units/mlに調製して使用した。試料中にはα−グルコシダ−ゼの基質であるショ糖が60〜70 mg/ml含まれているため、試料に酵素を加えて反応させた後生成した果糖とブドウ糖および減少したショ糖の含有量を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した。
(ロ)反応は図3のように行った。
尚、酵素溶液を添加しない溶液(ブランク溶液)は、酵素溶液の代わりに0.25 Mリン酸緩衝液(pH6.5)を使用した。
【0015】
酵素活性阻害率は、以下の数式により算出した。

酵素活性阻害率(%)=〔(A−B)/A〕×100

A:対照試料のブランク溶液のショ糖含有量−対照試料の反応溶液のショ糖含有量
B:検体試料のブランク溶液のショ糖含有量−検体試料の反応溶液のショ糖含有量
【0016】
各マンゴスチン試料溶液の果糖、ブドウ糖、ショ糖含有量を表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
表2の結果を基に算出したマンゴスチン溶液の酵素活性阻害率を表3に、グラフを図4に示す。
【0019】
【表3】

【0020】
以上の結果より、マンゴスチンのα−グルコシダ−ゼ阻害活性は桃果汁中においても、2%溶液で最大値に達し、非常に活性が高いことが示された。
【実施例3】
【0021】
マンゴスチン搾汁液の酵母由来α−グルコシダ−ゼに対する力価を下記のように算出した。
<材料と方法>
(イ)実施例1で調製したマンゴスチン4の試料原液を試料とし、純水で適宜希釈して使用した。酵素は酵母由来のα−グルコシダ−ゼ(100 units/1.4 mg:オリエンタル酵母)を0.25 Mリン酸緩衝液(pH6.5)で溶解し、100 units/mlに調製して使用した。基質溶液は、ショ糖12.5 gを0.15Mリン酸緩衝液(pH6.5)で溶解し、100 mlに定容したものを用いた。
酵母由来のα−グルコシダ−ゼの酵素活性は国際単位で表記されているが、オリエンタル酵母が測定に使用した反応基質はショ糖ではなく、反応すると蛍光を発する別の物質である。
しかし、実施例2のマンゴスチンの試験はα−グルコシダ−ゼの基質としてショ糖を用いているので、まず、ショ糖を基質とした場合のα−グルコシダ−ゼの活性を測定した。この測定値を用いて生成物量(果糖とブドウ糖の合計量)と酵素量との関係のグラフを作成し、マンゴスチン搾汁液の酵母由来α−グルコシダ−ゼに対する力価を算出するための検量線とした。
次に、マンゴスチン搾汁液を添加してα−グルコシダ−ゼ活性阻害率を測定し、マンゴスチン搾汁液の添加量(反応溶液中の濃度で表記)とα−グルコシダ−ゼ阻害率との関係のグラフを作成した。このグラフの近似直線を求めた後、適当なマンゴスチン搾汁液の濃度に対するα−グルコシダ−ゼ活性阻害率を求め、この値を図7(検量線)に対応させて阻害された酵素量を算出した。力価はマンゴスチン搾汁液1 mgが阻害できる酵母由来α−グルコシダ−ゼの量として表記した。
【0022】
(ロ)ショ糖を基質にした場合の酵母由来α−グルコシダ−ゼの活性測定
下記の表4のような組成で反応溶液を調製した。
【0023】
【表4】

【0024】
上記の各溶液を37℃のウォ−タ−バスに1時間浸漬して反応させた後、沸騰水中に5分間浸漬して酵素反応を停止した。反応溶液をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルタ−で濾過した後、純水で適宜希釈してHPLCに注入し果糖、ブドウ糖、ショ糖を分析した。
【0025】
(ハ)マンゴスチン搾汁液の酵母由来α−グルコシダ−ゼ阻害活性の測定
マンゴスチン搾汁液の酵母由来α−グルコシダ−ゼに対する力価を算出するため、表4の溶液4におけるα−グルコシダ−ゼの活性を基準とし、下記の表5のような組成の反応溶液を調製して阻害活性を測定した。
【0026】
【表5】

【0027】
HPLC分析は、(イ)の場合と同様に反応、反応停止、フィルタ−濾過して行った。
【0028】
(ニ)測定結果
(a)ショ糖を基質にした場合の酵母由来α−グルコシダ−ゼの活性測定
反応後生成した果糖及びブドウ糖と残存したショ糖の分析結果を表6に、酵素量と、生成した果糖とブドウ糖の合計量との関係を表すグラフを図5に示す。
【0029】
【表6】

【0030】
図5からわかるように、酵素量1 unit 〜 4 unitsの範囲で良好な直線性が認められた。よって、溶液4に対してマンゴスチン搾汁液を表5のように添加し、阻害活性を測定した。
【0031】
(b)マンゴスチン搾汁液の酵母由来α−グルコシダ−ゼ阻害活性の測定
反応後生成した果糖及びブドウ糖と残存したショ糖の分析結果及びα−グルコシダ−ゼ活性の阻害率を表7に、溶液のマンゴスチン搾汁液の濃度とα−グルコシダ−ゼ活性阻害率の関係を図6に示す。
【0032】
【表7】

【0033】
尚、阻害率は以下の式で算出した。
【0034】
【数1】

【0035】
図6の結果から、溶液中のマンゴスチン搾汁液の濃度とα−グルコシダ−ゼ活性阻害率にはほぼ直線的な関係が認められたので、近似直線(破線)を作成した。結果、マンゴスチン搾汁液の濃度が0.25%のときのα−グルコシダ−ゼ活性阻害率は81.8%であった。図5を検量線として阻害率が81.8%のときの阻害された酵素量を算出すると、2.97 unitsとなった(図7)。以上の結果から、マンゴスチン搾汁液の力価(マンゴスチン搾汁液1 mgが阻害できる酵母由来α−グルコシダ−ゼの量)は1.188 units/mgと算出された。
【0036】
実施例2の試験において、マンゴスチン搾汁液の2%溶液を添加した反応溶液で阻害率が最大値に達したが、このときの反応溶液の酵素量は20 units、添加したマンゴスチン搾汁液は20 mgであったことから、今回算出した力価は実施例2の結果と矛盾しない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有することを特徴とするα−グルコシダ−ゼ活性阻害剤。
【請求項2】
マンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮の搾汁液を含有することを特徴とする果汁飲料。
【請求項3】
果汁が桃果汁である請求項2に記載する果汁飲料。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−168547(P2011−168547A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34495(P2010−34495)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(302011674)サンフーズ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】