説明

α−グルコシダーゼ活性阻害剤及びこれを含む食品

【課題】細胞から容易に抽出することが可能であり、かつ生体が摂取しやすいα−グルコシダーゼ活性阻害剤及びこれを含む食品を提供する。
【解決手段】単細胞真核藻類又はその抽出物を含有するα−グルコシダーゼ活性阻害剤。特に、単細胞真核藻類がユーグレナ又はクロレラであることが好ましい。抽出物として、親油性溶媒により抽出された成分、具体的には糖脂質を含有することが好ましい。また、上記α−グルコシダーゼ活性阻害剤を含む高い付加価値を有する食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα−グルコシダーゼ活性阻害剤及びこれを含む食品に関し、特に藻類由来のα−グルコシダーゼ活性阻害剤及びこれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
α−グルコシダーゼは、ショ糖やスクロースなどの二糖類の非還元末端のα−グルコシド結合を切断し、グルコースなどの単糖類に分解する酵素である。α−グルコシダーゼは、主に小腸上皮に局在して生体内における糖質の消化酵素として重要な役割を有しており、特に血糖値の上昇に関与することが知られている。
したがって、α−グルコシダーゼの活性を抑制することにより血糖値の上昇を抑えることができ、ひいては高血糖状態に起因する糖尿病や肥満などの疾患の予防や治療、症状の改善につながると考えられている。
【0003】
従来、多細胞真核藻類に由来するα−グルコシダーゼ活性阻害物質として、例えば、海藻のエゾイシゲとヒバマタの双方若しくは一方に含まれるフロロタンニン類を含有するもの(特許文献1)、アマノリ属の硫酸多糖ポルフィランの低分子分解物を含むもの(特許文献2)などが知られている。
【0004】
ところで、従来、クロレラやユーグレナ(ミドリムシ)などの単細胞真核藻類は、高い栄養価を有していることから、食品や医薬品などとして広く用いられている。
例えばユーグレナ(Euglena)は、動物学と植物学の双方に分類され、動物学上は鞭毛虫綱、植物学上はミドリムシ藻類綱に属するミドリムシ目の微生物である。ユーグレナ属の微生物は、その動物学的、植物学的な特徴を兼ね備えた特徴を有しており、古くから生化学、生理学等の分野で広く研究対象として用いられている。
【0005】
ユーグレナは、人間が生活するのに必要な栄養素であるビタミン類や脂肪酸などを豊富に含み、またパラミロン(β−1,3−グルカン)等のユーグレナ特有の天然物質を含むことから、高栄養価食品として食糧問題の解決や宇宙食としての利用が期待されている。
同様に、クロレラ(Chlorella)についても高い栄養価を有することから、栄養補助食品などの形態で広く一般に提供されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−212095号公報
【特許文献2】特開2006−104100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した多細胞真核藻類は、細胞が群生して生育するため、回収時に細胞間が分離しておらず、α−グルコシダーゼ活性阻害作用を有する有効成分を抽出する際は、細胞壁を破壊して細胞を分離する必要がある。このため、成分抽出に手間がかかったり、単位重量あたりに得られる成分量が少なかったりする問題があった。
【0008】
一方、単細胞真核藻類は、1つの細胞が1つの個体を構成し、細胞が分離した状態にあるため、回収時にすでに細胞間がばらばらで組織化されていない状態となっている。このため、上述した多細胞真核藻類のように個々の細胞を取り出すために細胞壁の破壊処理を行う必要が無く、多細胞真核藻類と比較して細胞からの有効成分の抽出が容易である。したがって、単細胞真核藻類の有効成分は、外部に抽出されやすく生体に摂取されやすいという性質を有している。
【0009】
特に、ユーグレナは、細胞壁が無いため、細胞壁のある他の単細胞真核藻類と比較して細胞を容易に破壊することができる。このため、ユーグレナは、細胞内の有効成分の抽出が更に容易であり、例えば消化により細胞壁が容易に破壊されることで細胞内の有効成分が細胞外へ抽出される。したがって、ユーグレナの有効成分は、他の単細胞真核藻類のそれと比較して、より生体に摂取されやすい性質を有している。
しかしながら、このように有効成分の抽出が容易な単細胞真核藻類がα−グルコシダーゼ活性阻害作用を有することは、これまで知られていなかった。
【0010】
本発明の目的は、細胞から容易に抽出することが可能であり、かつ生体に摂取されやすいα−グルコシダーゼ活性阻害剤を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このように抽出が容易で生体に摂取されやすいα−グルコシダーゼ活性阻害剤を含む、付加価値の高い食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
今回発明者らは、上記目的を達成するために鋭意努力した結果、単細胞真核藻類又はその抽出物にα−グルコシダーゼ活性を阻害する作用があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、上記課題は、本発明のα−グルコシダーゼ活性阻害剤によれば、単細胞真核藻類又はその抽出物を含有することにより解決される。
この場合、前記単細胞真核藻類がユーグレナ又はクロレラであることが好ましい。
また、前記単細胞真核藻類が光照射下での培養により得られることが好ましい。
さらにまた、前記抽出物が親油性溶媒により抽出されると好ましい。
この場合、前記抽出物が糖脂質を含有すると好適である。
【0013】
また、上記課題は、本発明の食品によれば、上記いずれかに記載のα−グルコシダーゼ活性阻害剤を含むことにより解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のα−グルコシダーゼ活性阻害剤は、個々の細胞が分離した単細胞真核藻類から得られるため、従来の多細胞真核藻類と比較して、成分の抽出が容易であり、生体に摂取されやすい性質を有している。したがって、特別な抽出処理を行わなくても十分にα−グルコシダーゼ活性阻害作用を発揮し、α−グルコシダーゼに由来する糖尿病や肥満等の疾患の治療、改善、予防に高い効果を有する。
また、成分の抽出が容易であるため、高濃度の有効成分を簡単な操作で抽出することができる。したがって、純度の高いα−グルコシダーゼ活性阻害剤を低コストで提供することができる。
本発明の食品は、成分の抽出が容易であり、生体に摂取されやすいα−グルコシダーゼ活性阻害剤を含むため、糖尿病や肥満等の疾患の治療や予防、症状の改善に高い効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0016】
本発明の「単細胞真核藻類」とは、単細胞の真核生物であって酸素発生型の光合成を行う植物を意味し、例えば、ユーグレナ属、クロレラ属、ボツリオコッカス属、クラミドモナス属、ヘマトコッカス属、クロロコッカス属などが含まれる。
【0017】
本発明の「ユーグレナ」とは、動物学や植物学の分類でユーグレナ属(Euglena)に分類される植物、その変種、その変異種のすべてを含み、かつα−グルコシダーゼ活性の阻害作用を有する成分を含むすべての植物を意味する。
ここで、ユーグレナ属(Euglena)の微生物とは、動物学では原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属するミドリムシ目(Euglenida)のユーグレノイディナ亜目(Euglenoidina)に属する微生物である。一方、ユーグレナ属の微生物は、植物学ではミドリムシ植物門(Euglenophyta)のミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)に属するミドリムシ目(Euglenales)に属している。
【0018】
ユーグレナ属の微生物としては、具体的には、Euglena acus、Euglena caudata、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena oxyuris、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridis、Euglena vermiformisなどが挙げられる。このうち特に、広く研究に利用されているユーグレナ グラシリス(Euglena gracilis)が好適である。
【0019】
ユーグレナは、Cramer−Myers培地、Hutner培地、Koren−Hutner培地や、これらの一部組成を変更した改変培地などを用いて培養することができる。培養容器には、坂口フラスコ、三角フラスコ、試薬ビンなどを用いることができる。ユーグレナはCOを資化するため、1〜5%COを含む空気を培地中に通過させることが好ましい。また、終濃度0.5〜1.0%(容量比)となるように培地中にエタノールを加えると良好な生育となるため好ましい。さらに、葉緑体を十分に発達させるために、培地1リットルあたり1〜5g程度のリン酸アンモニウムを加えるとよい。培養温度は、通常20〜34℃で、特に28〜30℃が好適である。また、培養条件にもよるが、ユーグレナは通常、培養開始後2〜3日で対数増殖期となり、4〜5日程度で定常期に到達する。
【0020】
ユーグレナは、光照射下で培養(明培養)されてもよく、無照射で培養(暗培養)されてもよいが、α−グルコシダーゼ活性阻害作用の強さの点からは明培養が好ましい。
明培養を行う場合の光の照度としては、Cramer−Myers培地などを用いた光独立栄養培養の場合は5000〜8000Lux程度が好ましく、Hutner培地やKoren−Hutner培地などを用いた光従属栄養培養では2000〜8000Lux程度が好ましい。
【0021】
また、光照射は、培養容器の全体に光が照射される条件であれば培養容器のどの方向から行ってもよく、例えば上面と側面の両方から行うとよい。
なお、暗培養を行う場合、培養容器を厚手の黒布などで覆って培養容器内に光が入らないようにするとよい。
【0022】
本発明の「クロレラ」とは、クロレラ属(Chlorella)に分類される植物、その変種、その変異種のすべてを含み、かつα−グルコシダーゼ活性の阻害作用を有する成分を含むすべての植物を意味する。
ここで、クロレラ属の植物とは、緑色植物門(Chlorophyta)、緑藻綱(Chlorophyceae)、クロロコッカス目(Chlorococcales)、オオシスティス科(Oocystaceae)に分類される植物である。
【0023】
クロレラ属の微生物としては、Chlorella vulgaris、Chlorella pyrenoidosa、Chlorella ellipsoidea、Chlorella sorokiniana、Chlorella regularis、Chlorella saccharophilaなどが挙げられる。このうち特に、広く研究に利用されているクロレラ ブルガリス(Chlorella vulgaris)が好適である。
【0024】
クロレラは、MBBM培地、MAM培地や、これらの一部組成を変更した改変培地を用いて培養することができる。培養容器や培養条件(温度など)については、上述したユーグレナのものと同様とすることができる。
また、クロレラは、ユーグレナと同様に光照射下で培養(明培養)されてもよく、無照射で培養(暗培養)されてもよいが、α−グルコシダーゼ活性阻害作用の強さの点からは明培養が好ましい。この場合の照度としては光従属栄養培養では3000〜8000Lux程度が好ましい。
【0025】
α−グルコシダーゼ活性阻害剤は、単細胞真核藻類自体又はその抽出物を含有している。ここで、単細胞真核藻類自体とは、培養後の単細胞真核藻類に対して抽出処理を行わない状態のものを意味する。具体的には、培養後の単細胞真核藻類を所定の溶液に溶解した微生物溶液、乾燥させた状態の粉末、造粒などで固形化した固形物、超音波処理やスプレードライ等による破砕物などが該当し、溶媒を用いて抽出処理を行わない状態のものをいう。
【0026】
単細胞真核藻類は、海藻などの強固な細胞壁を有する多細胞真核藻類と異なり、1つの細胞が独立した個体として存在しており、強固な細胞壁を有していない。このため、単細胞真核藻類は、多細胞真核藻類と比較して細胞が壊れやすく、細胞に含まれる成分を抽出しやすい性質を有している。このため、例えば、単細胞真核藻類を経口摂取すると、胃液で溶解されて細胞に含まれる成分が溶出する。このように、単細胞真核藻類は、溶媒で抽出しなくても、それ自体で十分なα−グルコシダーゼ活性阻害作用を発揮する。特に、スプレードライなどで乾燥して細胞構造を破壊した状態だと、細胞内の成分が外部に溶出しやすくなるため、細胞構造を破壊しない場合と比較してα−グルコシダーゼ活性阻害作用がより強くなる。
【0027】
一方、単細胞真核藻類の抽出物とは、水や親油性溶媒などの溶媒で単細胞真核藻類から抽出し、分離された成分を意味する。このように、単細胞真核藻類の抽出物は、抽出処理に手間を要するが、単細胞真核藻類自体よりも有効成分が濃縮された状態となるため、α−グルコシダーゼ活性阻害作用の強さという点では好適である。
【0028】
抽出に用いられる親油性溶媒(有機溶媒)としては、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ベンゼン、クロロホルム、アセトン、メチルエーテル、エチルエーテル、ジエチルエーテル、フェニルエーテル、酢酸エチルなどから選択される1種類又は2種類以上が挙げられる。
【0029】
α−グルコシダーゼ活性阻害剤は、単細胞真核藻類から親油性溶媒を用いて抽出した画分のうち、糖脂質やリン脂質を含む画分、特に糖脂質を含む画分中に特に多く含まれる。リン脂質よりも糖脂質の方が、単位重量あたり約20倍程度α−グルコシダーゼ活性阻害作用が強い。
糖脂質の抽出は、まず親油性溶媒を用いて総脂質を抽出し、この総脂質を同じく親油性溶媒で分画することで行うことができる。
総脂質を抽出するための親油性溶媒としては、上述した有機溶媒のうち2種類以上から選択される混合液が好ましく、具体的にはクロロホルム/メタノール混液が好適である。また、総脂質から糖脂質やリン脂質を分画するための親油性溶媒としては、アセトンが好適である。
【0030】
糖脂質中に含まれる成分のうち、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)の3つが、強いα−グルコシダーゼ活性阻害作用を示す。このうち特に、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)は、他の2つの糖脂質と比較して単位重量あたりで約5倍程度と非常に強いα−グルコシダーゼ活性阻害作用を示す。
糖脂質からのこれらの成分の分画は、クロロホルム/メタノール混液の含水率を変化させることで行うことができる。
【0031】
なお、これら3つの糖脂質のうちSQDGの阻害作用が強い理由については明らかでないが、SQDGの分子構造によるものと推測される。
α−グルコシダーゼは、2つの糖がグルコシド結合により結合した構造の二糖類に結合し、そのグルコシド結合を解離させる機能を有している。SQDGの分子構造は、他の2つの糖脂質と比較してα−グルコシダーゼの活性部位に結合しやすい構造をしているか、結合したSQDGがα−グルコシダーゼから解離しにくい構造をしているか、あるいはどちらにも該当する構造(結合しやすく解離しにくい構造)をしており、基質である二糖類の分解を拮抗阻害するためと考えられる。
【0032】
抽出法としては、クロマトグラフィー法など公知の方法を用いることができる。クロマトグラフィー法の具体例として、分子排斥クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0033】
α−グルコシダーゼ活性の阻害作用は、栗原らの方法(Kurihara et. al. "Digalactosyldiacylglycerol suppression of inhibition by sulfoquinovosyldiacylglycerol of alpha−glucosidase."、Biosci Biotechnol Biochem、60(5)、p.932−933、1996)で定量的に評価することができる。
この方法では、酵母のα−グルコシダーゼを酵素として、p−ニトロフェニル α−D−グルコピラノシドを基質として用いる。そして、α−グルコシダーゼ活性阻害剤の存在下でα−グルコシダーゼにp−ニトロフェニル α−D−グルコピラノシドを加え、p−ニトロフェニルを生成させる。α−グルコシダーゼによる酵素反応を炭酸ナトリウムで停止させ、生成したp−ニトロフェニルを波長400nmの吸光度で定量することで、α−グルコシダーゼ活性を定量する。
【0034】
本発明のα−グルコシダーゼ活性阻害剤は、薬剤として提供することができる。薬剤の具体的形態としては、液剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ドライシロップ、散剤などが挙げられる。
また、α−グルコシダーゼ活性阻害剤には、その阻害作用を損なわない範囲内で、ビタミン、アミノ酸、pH調整剤、粘調剤、抗酸化剤、潤沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤、賦形剤、清涼化剤、香料など、他の成分を含有させてもよい。
【0035】
α−グルコシダーゼ活性阻害剤は、通常経口投与される。投与量としては、年齢、体重、症状の程度にもよるが、1日あたり通常1mg/kg体重〜10g/kg体重程度であり、好ましくは10〜1000mg/kg体重の範囲である。
【0036】
さらに、本発明のα−グルコシダーゼ活性阻害剤は、食品中に含有させて提供することもできる。このような食品としては、一般食品、飲料、調理・調味料、嗜好食品、機能性食品などが挙げられる。
【0037】
一般食品としては、例えば、ご飯、パン等の穀類、ラーメン、うどん、そば等の麺類、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ、はんぺん等の水産加工食品、バター、粉乳等の乳製品などが挙げられる。飲料としては、例えば、果実ジュース、野菜ジュース、緑茶、麦茶、ほうじ茶、ウーロン茶、コーヒー、紅茶、炭酸飲料、清涼飲料、日本酒、ワイン、焼酎、牛乳、栄養ドリンクなどが挙げられる。調理・調味料としては、例えば、醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、砂糖、塩、ラー油、酢、からし、わさびなどが挙げられる。また、嗜好食品としては、例えば、ガム、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、キャンディー、せんべい、おかきなどが挙げられる。
【0038】
機能性食品は、栄養(エネルギー)以外の何らかの生理作用を有する成分を利用した加工食品を意味し、サプリメントなどとして提供される。機能性食品は、例えば液剤、顆粒剤、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、ペースト、フィルムなどの形態で提供される。また、機能性食品としては、α−グルコシダーゼ活性阻害剤を単独の有効成分として含有してもよく、他の成分を更に含有してもよい。
【0039】
このような他の成分としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1,B2,B6,B12、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類、鉄、銅、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、ヨウ素等のミネラル類、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、リジン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、フェニルアラニン等のアミノ酸類、ブルーベリー、クランベリー、イチョウ、エキナセア、ローズヒップ、キャッツクロー、マカ、バレリアン、ビルベリー、ターメリック、ルテイン、マリアアザミ等のハーブ類などが挙げられる。
【0040】
α−グルコシダーゼ活性阻害剤は、二糖類の分解を阻害し、血糖値の上昇を抑制する作用を有するため、摂取することにより、血糖値の上昇に起因する様々な疾患、例えば糖尿病、肥満(内臓脂肪型肥満や腹部肥満)などの治療、改善、予防効果を有する。
特に、α−グルコシダーゼ活性阻害剤がユーグレナやその抽出物の場合、α−グルコシダーゼ活性阻害作用を示す成分に加えてユーグレナ由来の他の成分を含むことで、α−グルコシダーゼ活性阻害剤による血糖値上昇の抑制と他の成分による薬効の相乗効果が期待できる。
【0041】
例えば、ユーグレナはパラミロンという特有の成分を含んでいるが、このパラミロンはコレステロール排出作用があると考えられている。したがって、α−グルコシダーゼ活性阻害剤にパラミロンが含まれることで、α−グルコシダーゼ活性阻害剤による血糖値上昇の抑制作用に加えてパラミロンによるコレステロール排出促進作用も有する。このため、糖尿病や高血圧などのいわゆるメタボリック症候群の要因となる疾患の治療、改善、予防に効果を発揮する。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明のα−グルコシダーゼ活性阻害剤について、具体的な実験例を示して詳細に説明する。
1.実施例1:ユーグレナ(明培養)
(培養・集菌)
培地としてKH培地を用い、500ml容振とうフラスコ内でユーグレナ(Euglena gracilis Z)を光照射下(5000lux)で培養定常期(1.4×10個/ml)に達するまで明培養した。得られた培養液100mlを冷却遠心分離機(Hitachi CF7D2)で3000rpm、10分間遠心分離し、ユーグレナ細胞を回収した。
凍結乾燥機(東京理化製 FD−5N)を用いて0.1torrで24時間凍結乾燥した後、クロロホルム/メタノール混液を用いてBligh & Dyer法により総脂質を抽出した。得られた総脂質450mgから、以下に示すシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより脂質を分画した。
【0043】
(総脂質の抽出・分画)
25×350mmのガラス製オープンカラムに、カラムクロマト用のシリカゲル(ナカライ製)15gをクロロホルムに懸濁した状態で充填した。次に、クロロホルムに溶解した総脂質450mgをシリカゲル充填カラムにアプライし、室温でクロロホルム300ml、アセトン600ml、メタノール300mlをこの順に自然滴下し、総脂質を抽出した。抽出後の画分のうち、クロロホルム画分に中性脂質、アセトン画分に糖脂質、メタノール画分にリン脂質が含まれることを確認した。
各脂質の重量を測定した結果、中性脂質 150mg、糖脂質 200mg、リン脂質 95mgであった。
【0044】
(糖脂質の分画)
これら脂質画分のそれぞれ20mgを、10%塩化水素メタノール1ml中で、80℃、3時間加熱した。放冷後、6mlのイオン交換水を添加し、更にヘキサン1mlを添加して脂肪酸メチルエステルを抽出し、ガスクロマトグラフィー(Shimadzu製 GC−2014)により脂肪酸組成を測定した。さらに、糖脂質画分を以下に示すシリカゲルクロマトグラフィーで分画した。
【0045】
上述した総脂質の抽出・分画で用いたカラムに同じシリカゲル20gを充填した。次に、糖脂質100mgをクロロホルム(C)/メタノール(M)/水(W)の混合溶媒(C:M:W(体積比率)=90:10:0.5)に溶解した。カラムのコックをフルオープンにした状態で、糖脂質を溶解した混合溶媒200mlをカラムに流した。続いて糖脂質を溶解していない混合溶媒(C:M:W=80:20:2)を200ml、さらに同じく糖脂質を溶解していない混合溶媒(C:M:W=70:30:3)200mlをこの順でカラムに流し、糖脂質を抽出した。糖脂質は、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)の順でカラムから抽出されたことを確認した。
各糖脂質の重量を測定した結果、DGDG 45mg、MGDG 53mg、SQDG 48mgであった。
【0046】
2.実施例2:ユーグレナ(暗培養)
ユーグレナを暗培養(培養定常期:1.4×10個/ml)した以外は実施例1と同じ条件で脂質を分画した。この結果、中性脂質 190mg、糖脂質 60mg、リン脂質 139mgを得た。さらに、糖脂質画分を実施例1と同じ条件で分画し、DGDG 55mg、MGDG 43mg、SQDG 38mgを得た。
【0047】
3.実施例3:クロレラ(明培養)
ユーグレナに替えてクロレラ(Chlorella vulgaris C−30(OD660=16))を明培養した以外は実施例1と同じ条件で、脂質を分画した。この結果、中性脂質 90mg、糖脂質 230mg、リン脂質 125mgを得た。さらに、糖脂質画分を実施例1と同じ条件で分画し、DGDG 52mg、MGDG 43mg、SQDG 48mgを得た。
【0048】
4.α−グルコシダーゼ活性測定
上記の手順で分画した各脂質(中性脂質、糖脂質、リン脂質、MGDG、DGDG、SQDG)を1mg/mlの濃度になるようエタノールに溶解した。各脂質のエタノール溶液0.1mlをそれぞれ試験管に分注し、各試験管に20mMのp−ニトロフェニル α−D−グルコピラノシド溶液0.1mlと10mMのリン酸緩衝液(pH 7.0)2.2mlとを入れ、37℃のウォーターバスで5分間保温した。次に、各試験管に酵母由来のα−グルコシダーゼ溶液(和光純薬製 70units/mg)0.1ml(5μg/ml)を0.1ml入れ、37℃で2分間反応させた。
【0049】
続いて、0.25Mの炭酸ナトリウム溶液1.5mlを試験管に入れて反応を停止させ、400nmの吸光度を分光光度計(日本分光製 V−530)で測定し、下記の式1により各脂質によるα−グルコシダーゼ活性の阻害率(%)を算出した。
なお、ブランクとして酵素溶液の代わりに蒸留水を添加した試験管を、コントロールとして脂質溶液の代わりにエタノールを添加した試験管を用意し、上記と同様に吸光度測定を行った。
阻害率(%)={1−(Asam−Abl)/(Csam−Cbl)}×100・・式1
(Asam:反応後の吸光度(試料添加)、Abl:反応後の吸光度(試料添加−ブランク)、Csam:反応後の吸光度(試料なし)、Cbl:反応後の吸光度(試料なし−ブランク))
【0050】
5.α−グルコシダーゼ活性阻害作用の評価
総脂質分画後のサンプルを用いて脂質の種類(中性脂質、糖脂質、リン脂質)ごとの阻害率を算出し、それぞれの脂質についてα−グルコシダーゼ活性阻害作用を評価した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0051】
この表からわかるように、実施例1〜3のいずれにおいても、中性脂質についてはα−グルコシダーゼ活性阻害作用が全く見られなかった。また、リン脂質についてはわずかにα−グルコシダーゼ活性阻害作用が見られた。糖脂質については非常に強いα−グルコシダーゼ活性阻害作用を示すことがわかった。
【0052】
また、実施例1と実施例2とを比較すると、ユーグレナを明培養したときのほうが暗培養したときよりも糖脂質によるα−グルコシダーゼ活性の阻害率が5倍以上高かった。したがって、光照射下で培養したほうがユーグレナ抽出物のα−グルコシダーゼ活性阻害作用が強いことがわかった。
【0053】
さらに、実施例1と実施例3とを比較すると、糖脂質によるα−グルコシダーゼ活性の阻害率は、実施例1(ユーグレナ)の方が実施例3(クロレラ)よりも1.4倍程度高いことがわかった。このことから、ユーグレナの糖脂質のほうがクロレラの糖脂質よりもα−グルコシダーゼ活性阻害作用が強いことがわかった。
【0054】
次に、実施例1(ユーグレナ明培養)と実施例3(クロレラ明培養)の糖脂質を更に分画したサンプル(それぞれ、実施例1−2、実施例3−2)を用いて、糖脂質(MGDG、DGDG、SQDG)ごとのα−グルコシダーゼ活性の阻害率を算出し、それぞれの糖脂質についてα−グルコシダーゼ活性阻害作用を評価した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0055】
この表からわかるように、ユーグレナとクロレラのいずれにおいても、MGDGやDGDGはα−グルコシダーゼ活性の阻害率が低く、これに対してSQDGはMGDGやDGDGよりも阻害率が4倍程度高いことがわかった。このことから、糖脂質中でα−グルコシダーゼ活性阻害作用を有する主要な有効成分は、SQDGであることがわかった。一方で、MGDGやDGDGについても、SQDGよりも弱いながらもα−グルコシダーゼ活性阻害作用があることがわかった。
【0056】
なお、クロレラ由来のSQDGよりもユーグレナ由来のSQDGの方が、わずかにα−グルコシダーゼ活性の阻害率が高かった。この理由については明らかでないが、クロレラとユーグレナとでSQDGの分子構造に違いがあることが原因の一つとして考えられる。このような分子構造の違いが生じる理由として、クロレラとユーグレナとでSQDGの脂肪酸組成が異なることが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単細胞真核藻類又はその抽出物を含有することを特徴とするα−グルコシダーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
前記単細胞真核藻類がユーグレナ又はクロレラであることを特徴とするα−グルコシダーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
前記単細胞真核藻類が光照射下での培養により得られることを特徴とする請求項1に記載のα−グルコシダーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
前記抽出物が親油性溶媒により抽出されたことを特徴とする請求項1に記載のα−グルコシダーゼ活性阻害剤。
【請求項5】
前記抽出物が糖脂質を含有することを特徴とする請求項1に記載のα−グルコシダーゼ活性阻害剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼ活性阻害剤を含むことを特徴とする食品。

【公開番号】特開2009−62337(P2009−62337A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233266(P2007−233266)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月28日 インターネットアドレス「http://www.2007acn.org.tw」に発表
【出願人】(506141225)株式会社ユーグレナ (12)
【Fターム(参考)】