説明

α−ケト過酸並びにそれを製造する方法及び使用する方法

本発明はα−ケト過酸、並びにこれを製造する方法及び使用する方法を提供する。特に、α−ケト過酸は抗菌剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα−ケト過酸並びにそれを製造する方法及び使用する方法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は2008年11月20日に出願された米国仮特許出願第61/199,944号(その全体が参照により本明細書に援用される)の優先権の利点を主張する。
【背景技術】
【0003】
過酸又はペルオキシ酸は本明細書で使用される場合、酸性の−OH基が−OOH基に置換されたカルボン酸を表す。それらは強い酸化剤であり、一般的には不安定である。過酸又はペルオキシ酸はほとんどの場合、様々な化学反応の酸化剤として使用される。ペルオキシ酸は一般的に溶液中であってもあまり安定せず、対応するカルボン酸及び酸素へと分解する。ほとんどの過酸が周囲条件下で比較的すぐ分解するので、通常は化学反応以外で任意の他の目的に使用されることはない。使用される場合であっても、多くのペルオキシ酸は使用の直前に合成される。例えばメタ−クロロペルオキシ安息香酸(MCPBA)のような幾つかのペルオキシ酸は純粋な形態でなければ、より低い温度で幾分か安定である。純粋なMCPBAは衝撃又は火花により爆発する可能性がある。そのためMCPBAは純度が72%未満のさらにより安定した混合物として市販されている。
【0004】
通常、ペルオキシ酸は普通のカルボン酸の電解酸化により、又は遷移金属触媒及び酸化剤を使用することにより、又は非常に強い酸化剤を使用することにより調製される。電解酸化では、良好な収率でペルオキシ酸を形成するために、通常高い電流密度を使用しなければならない。このような高い電流密度の使用によって通常、ペルオキシ酸を製造するコストが増大する。
【0005】
上述のように、ペルオキシ酸は遷移金属触媒及び酸化剤を使用して、又は単に強い酸化剤を使用することによっても製造することができる。残念なことに、強い酸化剤自体の使用では潜在的に危険な条件を生じ、ペルオキシ酸製造のコストが増大する。また遷移金属触媒の使用により、得られるペルオキシ酸が遷移金属で汚染されることが多くなる。
【0006】
そのため、ペルオキシ酸を安全かつ経済的に製造する方法が要求されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の幾つかの態様はα−ケト過酸を製造する方法を提供する。かかる方法は典型的に、α−ケト過酸を製造するのに十分な条件下でほとんど撹拌することなくα−ケトカルボン酸又はその塩を酸化剤と接触させることを含む。多様な酸化剤をかかる方法に使用することができるが、典型的には、酸化剤は過酸化水素、過酸化バリウム、過酸化炭酸ナトリウム、過酸化カルシウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化リチウム、過酸化マグネシウム、過酸化ストロンチウム、過酸化亜鉛、超酸化カリウム、又はそれらの混合物を含む。幾つかの実施の形態では、反応温度は約10℃以下である。他の実施形態では、反応温度は約−30℃〜約10℃の範囲である。
【0008】
本発明の方法は、多様なα−ケト過酸を製造するのに使用することができる。本発明の方法に使用することができる有用なα−ケトカルボン酸の幾つかはα−ケトモノカルボン酸、α−ケトジカルボン酸、又はそれらの混合物を含む。幾つかの実施の形態では、α−ケトカルボン酸はピルビン酸、α−ケト酪酸、α−ケト吉草酸、α−ケトグルタル酸、2−オキソシクロペンタル(cylopental)酢酸、又はそれらの混合物を含む。
【0009】
本発明の他の態様は表面上の微生物の量を低減する方法であって、該表面を、有効量のα−ケト過酸を含む抗菌溶液に接触させること含む、方法を提供する。幾つかの実施の形態では、α−ケト過酸はペルオキシ2−オキソモノカルボン酸を含む。他の実施の形態では、α−ケト過酸はペルオキシ2−オキソジカルボン酸を含む。さらに他の実施の形態では、α−ケト過酸はペルオキシピルビン酸、ペルオキシ2−オキソ酪酸、ペルオキシ2−オキソ吉草酸、ペルオキシ2−オキソグルタル酸、又はそれらの混合物を含む。
【0010】
また他の実施の形態では、微生物は植物性細菌を含む。他の実施の形態では、微生物は細菌胞子、マイコバクテリア、グラム陰性細菌、植物性のグラム陽性細菌、又はそれらの組合せを含む。特定の一実施の形態では、微生物は細菌胞子を含む。
【0011】
さらに他の実施の形態では、抗菌溶液は過酸化水素をさらに含む。典型的には、抗菌溶液は少なくとも40ppmのα−ケト過酸を含む。代替的には、抗菌溶液は約4000ppm以下、典型的には1000ppm以下、多くの場合500ppm以下、より多くの場合100ppm以下、及びさらにより多くの場合50ppm以下の量のα−ケト過酸を含む。
【0012】
抗菌溶液中のα−ケト過酸の半減期は典型的には約120日以上、多くの場合180日以上、及びより多くの場合約360日以上である。
【0013】
本発明のさらに他の態様は基板上の感染性の植物性細菌の数を低減する方法であって、該基板を、有効量のα−ケト過酸を含む抗菌溶液に接触させること含む、方法を提供する。本発明の他の態様は基板上の細菌胞子の数を低減する方法であって、該基板を、有効量のα−ケト過酸を含む抗菌溶液に接触させること含む、方法を提供する。
【0014】
本発明のさらなる態様は哺乳動物において細菌に感染した基板への哺乳動物の接触により引き起こされる細菌関連疾患を予防及び/又は低減する方法を提供する。かかる方法は哺乳動物が基板に接触する前に、基板をα−ケト過酸を含む組成物に接触させることを含む。
【0015】
本発明のさらに他の態様はα−ケト過酸を含む抗菌製品を提供する。幾つかの実施の形態では、製品は家庭用ケア製品である。かかる実施の形態内では、幾つかの場合で家庭用ケア製品は硬表面洗浄剤、脱臭剤、衣類柔軟材組成物、衣類クリーニング組成物、食器手洗い用洗剤、自動食器洗い用洗剤、床ワックス、台所用洗浄剤、風呂用洗浄剤及びそれらの組合せからなる群から選択される。他の実施の形態では、抗菌製品は硬表面洗浄剤、脱臭剤、衣類柔軟材組成物、衣類クリーニング組成物、食器手洗い用洗剤、自動食器洗い用洗剤、床ワックス、台所用洗浄剤、風呂用洗浄剤及びそれらの組合せからなる群から選択される。本発明の抗菌製品を病院、リハビリテーション施設、生活介護住居等の健康管理施設を含む(がこれらに限定されない)多様な現場で使用することができる。
【0016】
他の実施の形態では、抗菌製品は医療装置用消毒剤である。さらに他の実施の形態では、抗菌製品は無菌の充填機器用の消毒剤として使用される。また他の実施の形態では、抗菌製品は無菌の食品加工システムに使用される。他の実施の形態では、抗菌製品は水システムにおけるバイオフィルム用の消毒剤として使用される。さらに他の実施の形態では、抗菌製品は廃水処理用の消毒剤として使用される。
【0017】
幾つかの実施の形態では、抗菌製品中に存在するペルオキシα−ケトカルボン酸の量は約100ppm以下である。さらに他の実施の形態では、ペルオキシα−ケトカルボン酸の半減期は少なくとも20日である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】クロストリジウム・ディフィシレ(C. Difficile)に対するペルオキシα−ケトピルビン酸の有効性のグラフを示す。図中の、英語の意味。1:触媒を用いて10分2:触媒を用いずに10分3:触媒を用いずに5分4:Log10死滅5:濃度
【図2】ペルオキシα−ケト酪酸の有効性を示す。図中の、英語の意味。1:ペルオキシα−ケト酪酸の有効性2:Log10死滅3:濃度
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の幾つかの態様はα−ケト過酸を製造する方法を提供する。本明細書で使用される場合、α−ケト過酸及びα−ケトペルオキシ酸という用語は本明細書で区別なく使用され、ペルオキシ酸基(すなわち、−C(=O)OOH基)のα位(すなわち、2位)にカルボニル基を有する化合物を表す。本発明のα−ケトペルオキシ酸はペルオキシα−ケトモノカルボン酸又はペルオキシα−ケトジカルボン酸を含む。ペルオキシα−ケトジカルボン酸はカルボン酸基の酸性の−OH基のうちの1つ又は2つが−OOH基に置き換わっている化合物を含む。α−ケトジペルオキシ酸という用語は2つのジペルオキシ酸基を有する化合物を表し、そのジペルオキシ酸基のうちの少なくとも1つがカルボニル基に隣接している。
【0020】
本発明の幾つかの方法はα−ケト過酸を製造するのに十分な条件下でほとんど攪拌することなくα−ケトカルボン酸又はその塩を酸化剤に接触させることを含む。典型的には、反応条件はα−ケトカルボン酸と酸化剤との混合物を単に全く攪拌しないまま放置する非攪拌条件を含む。本明細書で使用される場合、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「撹拌する(stir)」又は「撹拌すること(stirring)」という用語は機械的撹拌器、磁気撹拌器、振とう器、又は任意の他の機械力、電気力、磁力、若しくは単に試薬を手動で混合することを含む手動力を使用することのように外部の力を使用することによりかき混ぜること、又は試薬の混合を引き起こす作用を表す。
【0021】
驚くべきことに及び予想外なことに、本発明者らは、α−ケトカルボン酸と酸化剤とを接触させ、ほとんど混合することなく混合物を放置することにより、良好な収率の対応するα−ケトペルオキシ酸を製造することができることを見出した。概して、反応の収率は少なくとも5%、典型的には少なくとも8%、及び多くの場合少なくとも12%である。
【0022】
α−ケトペルオキシ酸の収率は多様な反応条件及び使用される試薬により影響を受けることに留意すべきである。α−ケトペルオキシ酸の収率に影響を与える因子の1つは反応温度である。一般的に、温度が上昇すると、反応速度が上昇する。しかしながら、反応温度が高くなると、副生成物(複数可)の収率及び/又は形成されるα−ケトペルオキシ酸の分解が増大する可能性もある。そのため、反応温度は典型的に約10℃以下、多くの場合約4℃以下、及びより多くの場合約−10℃以下に維持する。
【0023】
試薬濃度も反応速度及びα−ケトペルオキシ酸の収率に影響を与える可能性がある。酸化剤の開始濃度は一般的には、約12M以下、典型的には約7M以下、及び多くの場合は約1.M以下である。
【0024】
反応時間もα−ケトペルオキシ酸の収率に影響を与える可能性がある。典型的には、反応時間は約4時間〜約12時間、多くの場合は約6時間〜約8時間、及びより多くの場合は約10時間〜約12時間の範囲である。
【0025】
本発明の方法は多様なα−ケトカルボン酸に適用することが可能である。実際、一般的にα−ケトカルボン酸内の反応性の官能基がいずれも適切に保護されていれば、任意のα−ケトカルボン酸を使用することができる。様々な化学反応に好適な保護基は当業者にとって既知である。例えば、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd edition, T.W. Greene andP.G.M. Wuts, John Wiley & Sons, New York, 1999;Smithand March, Advanced Organic Chemistry, 5th ed., John Wiley & Sons, NewYork, NY, 2001;及びHarrison and Harrison et al.,Compendium of Synthetic Organic Methods, Vols. 1-8 (JohnWiley and Sons, 1971-1996)(これらはその全体が参照により本明細書に援用される)を参照されたい。α−ケトカルボン酸の例としては、ピルビン酸、α−ケト酪酸、α−ケト吉草酸、α−ケトグルタル酸、2−オキソシクロペンタル酢酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の方法に有用な酸化剤の例としては、過酸化水素、過酸化バリウム、過酸化炭酸ナトリウム、過酸化カルシウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化リチウム、過酸化マグネシウム、過酸化ストロンチウム、過酸化亜鉛、超酸化カリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
化学反応を説明する場合、「処理すること(treating)」、「接触させること(contacting)」及び「反応すること(reacting)」という用語は本明細書で区別なく使用され、指定の及び/又は所望の生成物を生成するのに適切な条件下で2つ以上の試薬を添加することを表す。指定の及び/又は所望の生成物を生成する反応が必ずしも最初に添加された試薬の組合せにより直接起こらなくてもよい、すなわち最終的に指定の及び/又は所望の生成物の形成をもたらす混合物において生成される中間体が1つ又は複数存在していてもよいことを理解すべきである。
【0028】
反応は一般的に水溶液中で行われる。他の溶媒、例えば有機溶媒を水溶液に加えて又は水溶液の代わりに使用することもできる。安価でかつ水溶液として市販されているため、典型的には過酸化水素が酸化剤として使用される。
【0029】
酸化剤とα−ケトカルボン酸との比は典型的には約0.5:1〜約2:1、多くの場合は約2:1〜約6:1の範囲である。
【0030】
様々な反応パラメーターが本明細書で開示されているが、本発明の範囲はこれらの特定の反応パラメーターに限定されないことを理解すべきである。
【0031】
有用性
化学反応において酸化剤としてペルオキシカルボン酸を使用することは一般的に知られているが、驚くべきことに及び予想外なことに、本発明者らはα−ケトペルオキシ酸が特に有用かつ強力な抗菌性を有することを発見した。したがって、本発明の(or)化合物及び組成物を消毒剤として使用することができる。本明細書で使用される場合、「消毒」という用語は対象物の表面からの少なくともかなりの割合の病原微生物集団の除去、破壊、死滅又は低減を表す。典型的に、本発明の方法、化合物及び組成物を、表面から微生物集団の少なくとも約90%、多くの場合少なくとも約95%、より多くの場合少なくとも約98%、さらにより多くの場合少なくとも約99.9%、及び最も多くの場合全てを低減するのに使用することができる。さらに、消毒剤として使用されるほとんどの市販の抗菌性化合物とは対照的に、α−ケトペルオキシ酸は細菌胞子に対しても有効であることが見出されている。
【0032】
消毒は多くの場合、細菌学的試験結果(例えば患者の健康状態のスクリーニング(health screening:人間ドック)で行われる試験)の正確性を保つため、及び/又は病原微生物集団の制御不能から生じる疾患の発生及び拡大を防ぐために行われる。本明細書で使用される場合、「微生物」という用語は細菌、ウイルス、真菌、藻類、プリオン、及び当業者にとって既知の他の病原生物を含む。典型的には、微生物という用語は細菌を表す。物理的な滅菌、すなわち例えば加圧型オートクレーブにより蒸気又は他の気体を適用することは一般的に大きい空間及び表面、又は高感度の医療機器の消毒には適していない。また、物理的な滅菌は試験結果の正確性を保つのには適用不可能である。さらに、物理的な滅菌は精巧な又は温度感受性の器具及び装置に使用することはできない。
【0033】
ヒト及び哺乳動物の健康状態は一般的に家、学校、仕事場、及び環境での微生物体の拡大により影響される。上述のように、様々な機器及び領域を消毒又はクリーニング及び衛生処理(sanitizing)する従来の方法には最高185°Fの非常に高い温度、又は比較的強力な抗菌性化合物の使用が要求される。残念なことに、従来の化学的消毒剤の大部分はグラム陽性細菌だけを低減するのにしか有用でない。
【0034】
ヒトの皮膚で見られる細菌は典型的に2つの群、すなわち常在細菌及び一過性細菌に分けられる。常在細菌は皮膚の表面及び最外層上に永続的な微小コロニーとして定着しているグラム陽性細菌である。かかる細菌は他のより有害な細菌及び真菌のコロニー形成を防ぐのに基本的な役割を果たす。一過性細菌は皮膚の細菌叢の通常の常在細菌部分ではない細菌である。むしろ、空中の汚染物質が皮膚上に付着する場合、又は汚染物質がかかる細菌と物理的に接触する場合、一過性細菌が沈着する。一過性細菌は典型的には2つの亜群、すなわちグラム陽性及びグラム陰性に分けられる。グラム陽性細菌としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、化膿連鎖球菌(Streptococcuspyogenes)及びボツリヌス菌(Clostridium botulinum)等の病原体が挙げられる。グラム陰性細菌としては、サルモネラ菌、大腸菌、クレブシエラ菌、ヘモフィルス属(Haemophilus)細菌、緑膿菌(Pseudomonas aeuginosa)、プロテウス属(Proteus)細菌及びシゲラ・ディゼンテリエ(Shigelladysenteriae)等の病原体が挙げられる。グラム陰性細菌は一般的にグラム陰性細菌でのさらなる保護的な細胞膜の存在によりグラム陽性細菌と区別され、この存在により多くの場合、グラム陰性細菌が従来の局所的な抗菌活性化剤(actives)の影響をあまり受けなくなる。
【0035】
上述のように、細菌及び/又はウイルスの形成を低減及び/又は排除するための組成物及び方法が幾つか存在する。例えば、抗菌又は非薬用のせっけんによる硬表面、食品(例えば果物又は野菜)及び皮膚、特に手の洗浄がウイルス及び細菌に効果的であることが既知である。多くの場合、ウイルス及び細菌の除去は抗菌剤の機能というよりはせっけんの界面活性及び洗浄法の機械的作用によるものである。そのため、人々はウイルス及び細菌の拡大を抑えるために頻繁に洗浄することが推奨される。しかしながら、洗浄を含む従来の衛生処理製品及び方法の多くは「活動中(on the go)」、すなわち消費者が流水の恩恵から離れている場合、衛生処理の難題に対処することはできない。当業者は抗菌剤の消毒ローション、クレンジングワイプ等への組込みによりこの難題を解決しようとしている。かかる物品は対象の組成物の適用中又は適用後の水の必要性を低減する。
【0036】
他の従来の抗菌クレンジング製品としては、脱臭剤入りせっけん(deodorantsoaps)、硬表面洗浄剤及び外科用消毒剤が挙げられる。これらの伝統的な洗い流し型の抗菌製品は洗浄中に細菌除去を与えるように配合されている。抗菌せっけんを含む幾つかのかかる製品はグラム陽性細菌に対しては残効性を与えるが、グラム陰性細菌に対しては残効性が制限されることが分かっている。「残効性」とは抗菌剤が洗浄及び/又はリンスプロセス後、或る期間、微生物の増殖を防ぐこと、又は微生物を持続的に死滅させることのいずれかにより基板上の微生物増殖を制御することを意味する。グラム陰性細菌に対する残効性の制限という難題に対処するために、高レベルのアルコール及び/又は強力な界面活性剤を現行の(contemporary)抗菌製品に組み込もうとする人もいるが、これは皮膚組織の乾燥及び炎症を引き起こすことが分かっている。
【0037】
様々な微生物に対して効果的に消毒又は衛生処理することが主張されている数百もの様々な化合物がEPAに登録されているが、登録された化合物は全てではないが大部分は以下の望ましくない特徴を1つ又は複数有する:処理表面上に残存し(拭き取らなければならない);可燃性であり(このため、追加の輸送及び貯蔵の制限及びコストを受けるDOT危険物であるとみなされる);或る程度、適用される表面に対して腐食性であり;動物(ヒト及び非ヒト)に対して毒性であり;したがって多くの産業で広く「環境的(Green)」であるとして作り出された概念から環境に優しいとは考えられない。特に、以下の望ましくない特徴が様々な現在使用されている化学的消毒剤で同定されている:エタノール及びイソプロパノールは表面上でのそれらの殺菌作用が緩やかであり、グラム陽性細菌に対してほとんど効果がなく、胞子に対して効果的ではない。さらに、これらは可燃性の化合物であり、危険な運送要件に従う必要がある。ホルムアルデヒドは刺激臭があり、毒性である。高い希釈率で多くの一般的な消毒剤のベースとなるフェノールは毒性であり、可燃性であり、胞子に対しては普通の使い方では効果がない。第四級アンモニウム化合物は多くの場合、残留物が残り、アニオン性洗剤により中和され、高濃度であっても結核菌殺菌性又は殺胞子性ではない。次亜塩素酸塩は強い酸化剤であり、適切な濃度で消毒剤として機能し得るが、総じて金属に対して腐食性であり、取り扱いが危険であり得る。同様にヨードフォアは適切な濃度で消毒剤として機能し得るが、染み(残留物)が残り、多くの場合(ofen)任意の相当量のタンパク質が存在する場合、あまり効果的ではない。ほとんどの重金属系の抗菌剤は毒性であり、殺菌性よりも静菌性が強い。ペルオキシドは皮膚表面及び創傷を清潔にするのに広く使用されるが、抗菌活性はごくわずかである。
【0038】
細菌、真菌、藻類、ウイルス、プリオン及び他のかかる微生物体を含む微生物を任意の増殖条件又は生存環境内に見出すことができる。多様な細菌微生物の多くはそれらの動物宿主に有用であるか又は「優しい(friendly)」一方で、細菌微生物の中には刺激性で、かつそれらの集団を管理するのに比較的無害ではあるが、厄介なものもあることが分かっている。多くの微生物株は、共存する動物集団の健康状態に対して非常に深刻でかつ多くの場合致死的な危険をもたらす。非滅菌条件下でのそれらの厄介で、非常に深刻で、かつ致死的な微生物集団の減少には抗菌剤の使用が要求される。様々な細菌は程度の差はあるが、特定の消毒剤に対する耐性を示す。プリオンは抗菌剤に対して全ての微生物体の中で最も耐性が強い傾向にある。細菌胞子及びマイコバクテリアは一般的に最も耐性が強い細菌形態であると考えられ、その後には一般的にブドウ球菌(staphylococci)及び腸球菌(enterococci)等の植物性のグラム陽性細菌よりも耐性が強いと考えられるグラム陰性細菌が続く。
【0039】
本発明の幾つかの態様は抗菌性組成物及びこれを使用する方法を提供する。幾つかの実施形態では、抗菌性組成物としてはα−ケトペルオキシ酸、例えばペルオキシピルビン酸が挙げられる。驚くべきことに及び予想外なことに、本発明者らはかかる組成物が細菌胞子を消毒するのにも効果的であることを発見した。本発明の組成物は任意で、1つ又は複数の付加的な抗菌剤(例えば、過酸化水素)、pH中性希釈溶媒(例えば、水)、又はそれらの組合せを含むことができる。典型的には、希釈溶媒はα−ケトペルオキシ酸を溶解するのに適合可能なpH中性液体溶媒、例えば水である。
【0040】
他の態様の組成物は微生物(例えば、非エンベロープウイルス又は胞子)の保護タンパク質層を攻撃することができる付加的な作用因子及び/又は微生物のエンベロープ又は膜の脂質分を溶解することができる付加的な作用因子も含むことができる。好適な付加的な抗菌剤としては、有機酸、過酸化物、アルコール及びエーテルが挙げられる。
【0041】
幾つかの実施形態では、溶液中のα−ケトペルオキシ酸の濃度は約5000ppm以下、典型的には1000ppm以下、多くの場合500ppm以下、より多くの場合400ppm以下、及び最も多くの場合200ppm以下である。また他の実施形態では、組成物は少なくとも約2.5%(v/v)のα−ケトペルオキシ酸を含む。
【0042】
上述のように、本発明の組成物は第2の抗菌剤も含むことができる。幾つかの場合では、第2の抗菌剤の量は少なくとも3%(v/v)であり得る。好適な第2の抗菌剤には、本明細書で言及されるもの、及び当業者にとって既知の他の抗菌剤が含まれる。1つの特定の実施形態では、第2の抗菌剤は過酸化水素である。
【0043】
本発明の組成物は1つ又は複数の付加的な作用因子を含むこともできる。付加的な作用因子の例としては、有機酸(例えばタンパク質破壊のためのジクロロ酢酸(dichloraceticacid))、他のペルオキシド(タンパク質破壊のため)、アルコール(例えば膜破壊のためのジアセトンアルコール)、及びエーテル(例えば膜破壊のためのブチレングリコールモノメチルエーテル)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物は一般的に非毒性及び不可燃性であることが分かっている。また本発明の組成物を対象の表面から比較的迅速に蒸発させると、許容レベルの測定可能な残留物しか残らない。
【0044】
本発明の幾つかの実施形態では、本発明の組成物は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、細菌胞子、又はそれらの組合せを消毒するのに使用される。商業的に使用されている他の従来既知の抗菌剤とは異なり、本発明の組成物はグラム陽性細菌を消毒するだけでなく、グラム陰性細菌及び細菌胞子を消毒するのにも効果的であることが分かっている。
【0045】
多くの例では、本発明の組成物は表面に適用される場合、植物性細菌の少なくとも6対数規模の完全な死滅又は低減を与える。他の例では、本発明の組成物は細菌胞子の少なくとも5対数の低減を与える。多くの場合、本発明の組成物は表面上の細菌集団の「完全な死滅」を与え、それにより対象の表面上に残る任意の機能的細菌は測定可能なレベルまで再び生息することができず、そのため元の細菌集団の任意の毒性又は病原機能性が効果的に無効になる。
【0046】
本発明の組成物は液体抗菌剤の入ったボトルから表面上への噴霧のようにエアロゾル形態で塗布することができる。組成物は、表面に塗布されると、許容レベルの測定可能な残留物(存在する場合)を表面上に残しつつも、典型的には約10分〜約30分以内に(手触りで)蒸発乾固するように適合され、かかる許容レベルは一般的に消毒剤が使用される表面に基づき設定される。本発明の組成物は典型的には不可燃性で、かつ非常に毒性が低く、DOTガイドラインに基づき無害の化学物質として運送が可能である。さらに、本発明の組成物を含む溶液は多くの場合、表面張力が低く、タンパク質の存在下でも効果的である。
【0047】
本発明の組成物はクリーンルーム、病院、獣医医院及び歯科医院、研究所(例えば一般的な医薬/獣医/歯科の研究所、品質保証の製造研究所、新製品の開発/研究開発のための研究所、及び他の研究所)、医療機器及び装置、家庭の表面、運動機器、並びにそのように望まれる任意の好適な物体又は表面を消毒するために使用される。本発明の組成物の幾つかの特徴には、有機物の存在下での高い希釈率での有効性;グラム陽性、グラム陰性の細菌、胞子、ウイルス及び真菌に対する広範な抗菌活性−有効性);輸送、貯蔵及び使用の条件下での安定性;均質性;微生物への良好な浸透のための水、脂肪及び油への溶解度;割れ目及び隙間への浸透のための低い表面張力;急性及び慢性の毒性、変異原性、発癌性等の毒性が最小限しかないこと;所望の期間が経過した後、残留物なく適用可能であること;心地よい又は最小限の香り;不可燃性;植物及び動物への影響が低い又はないこと;並びに低コストが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の他の態様は本発明の抗菌性組成物を含む製品、及びかかる製品の組合せを提供する。実際、本発明の抗菌性組成物を含有する製品の併用及び体系的使用はより長期間微生物を根絶し、それらの拡大を防ぐ働きがある。
【0049】
本発明の幾つかの実施形態は、本明細書で開示される抗菌性組成物を含むパーソナルケア製品を提供する。本明細書で開示される好適な抗菌性組成物を含むパーソナルケア製品としては、ハンドソープ、ハンドサニタイザー(hand sanitizers)、ボディーソープ(body washes)、洗口液、歯磨き粉、シャワー用ジェル、シャンプー、ボディローション、体臭防止剤、スプレー式点鼻薬、フットケア用、膣のケア用及び/又は洗浄用、ペットのケア用の製品及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
また本発明の他の態様では、本明細書で開示されるパーソナルケア製品は特に顔又は手を拭き取る又は乾燥させるのに好適な布製品の形態をとる。このような例では、本発明の抗菌性組成物は典型的に布製品に組み込まれるか又は染み込ませられる。
【0051】
さらに本発明の他の態様では、本明細書で開示されるパーソナルケア製品は同様に顔又は手を拭き取る又は乾燥させるのに好適なティッシュ又はタオルの形態をとる。本発明の別の態様では、パーソナルケア製品は女性用ナプキン及び/又はおむつの形態をとる。本発明の別の態様では、パーソナルケア製品は炎症を起こした、損傷した又はにきびを罹患した皮膚のための及び/又は手術前若しくは手術後の使用のための救急殺菌剤の形態をとる。
【0052】
また本発明の他の態様は1つ又は複数の家庭用ケア製品に組み込まれる、本発明で開示される抗菌性組成物を提供する。実際、本発明の目的に好適な家庭用ケア製品としては、硬表面洗浄剤、脱臭剤、衣類柔軟材組成物、衣類クリーニング組成物、食器手洗い用洗剤、自動食器洗い用洗剤、床ケア組成物、台所用の洗浄剤又は消毒剤、風呂用の洗浄剤又は消毒剤及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の他の態様では、家庭用ケア製品は家庭のクリーニング及び/又はケアに好適な布又はタオルの形態をとる。本発明の幾つかの実施形態では、家庭用ケア製品は或る特定の添加成分を含むことができる。添加成分の例としては、洗浄酵素、増進剤、漂白剤、漂白活性剤、遷移金属の漂白触媒、酸素移動剤及び前駆体、防汚剤(soil release agents)、泥汚れ除去剤及び/又は再堆積防止剤、高分子分散剤、光沢剤、高分子染料移動阻害剤、キレート剤、消泡剤、アルコキシル化ポリカーボネート、柔軟剤、香料、担体、ハイドロトロープ、加工助剤、染料又は顔料、液体配合用の溶媒、固体充填剤、洗浄界面活性剤及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
またさらに本発明の他の態様では、本明細書で開示される抗菌性組成物を皮膚ケア製品に組み込むことができる。本発明のかかる態様では、スキンケア製品は本明細書で開示される抗菌性組成物の皮膚の所望の領域への安全な移動を容易にするために皮膚科学的に許容可能な担体を組み込む。幾つかの実施形態では、皮膚ケア製品は或る特定の添加成分を含むことができる。好適な添加成分としては、他の抗菌活性化剤及び抗真菌活性化剤、界面活性化剤、落屑活性化剤、抗にきび活性化剤、しわ取り活性化剤、抗萎縮活性化剤、抗酸化剤、ラジカルスキャベンジャー、キレーター、フラボノイド、抗炎症剤、セルライト防止剤、局所麻酔薬、日焼け活性化剤、日焼け止め活性化剤、品質改良剤、増粘剤、脱粘着剤(detackifying agents)、臭気制御剤、皮膚感覚剤(skinsensates)、制汗剤及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な添加成分は当業者に既知である。例えば米国特許第6,294,186号(その全体が参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0055】
本発明のさらなる目的、利点及び新規の特徴は本発明の以下の実施例を検討すれば当業者にとって明らかになるが、限定の意図はない。実施例では、積極的に実行に移される手法は現在時制で記載されており、研究所で行った手法は過去時制で記載されている。
【実施例】
【0056】
実施例1
本実施例は本発明の化合物の抗菌効果を試験する方法の1つを説明する。
【0057】
死滅時間の試験
これは、選択された細菌、真菌、及び/又はカビに対する消毒剤に関する経時的な対数減少値を明らかにするために行う試験である。試験される生物の代表的なリストには、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アトロフェス(Bacillusatrophaeus)、バチルス・ツリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、サルモネラ・コレラスイス(Salmonellacholerasuis)、緑膿菌、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)及びトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)が含まれるが、これらに限定されない。以下で、或る特定の用途に関して、米国環境保護庁(EPA)及び米国FDAにより規定された「対数減少基準」を満たすために公認分析化学者協会(AOAC)のガイドラインにおいて見られる消毒剤の試験方法から導かれる手法の1つを例示している:(1)試料−消毒剤の入った管を温度制御のために水浴に入れ、平衡状態にし;(2)管が平衡温度に達したら、およそ10CFU/mLの濃度を達成するまで接種し;(3)選択された時点で(一般的にゼロを含む5つの点が使用される)、アリコートを取り出し、中和剤ブランクに入れ;(4)中和剤の希釈液を作製し、選択された希釈液を寒天上にプレーティングし;(5)コロニーを数えて、対数減少を算出する。
【0058】
細菌懸濁液の調製
表面の細菌の観察可能なかなりの低減(10規模)を得るために、消毒される表面上の処理に非常に多くの生存細菌(CFU/in)が利用可能でなければならない。かなりの数の生物が乾燥プロセス中に死滅するので、最終表面上で所望の濃度を超える細菌懸濁液から始める必要がある。一晩低温保存された寒天プレートから調製した懸濁液が、適用及び乾燥の際に比較的均等な表面フィルムを生じさせることが見出された。寒天プレートの一晩低温保存により、その後の懸濁液の表面張力が低減する。滅菌綿棒を使用して寒天プレートから生物を回収し、均質になるまで激しくボルテックス混合することにより滅菌脱脂乳培地(SM)中で懸濁液を調製した。10〜10CFU/mLの生存濃度を使用した。ほとんどの非選好性(non-fastidious)生物懸濁液は数日間冷却機で保持することができ、コロニー計数(enumeration)により十分な生存能力が実証されている限りはこれを使用した。
【0059】
試験表面の調製
カバーガラス(例えば25mm)をこの手法の試験表面として使用した。滅菌スライドをこの手法に使用した。スライドを、濾紙(例えばWhatman #1)により分離した層中に入れ、それらをアルミニウムエンベロープに入れた後、150℃〜170℃で、1時間〜2時間燃焼することにより、滅菌した。
【0060】
微生物フィルムを、20μLの懸濁液を滅菌スライド上に計量分配し、スライド表面にわたり懸濁液滴を拡げることにより準備した。ホッケーのスティック形状に曲がった滅菌接種針を使用した。スライドを、調製中にスライドを適所に保つのを助けるために、小さい液滴の滅菌水が幾つかのピンの上に置かれた滅菌した使い捨てのプラスチック製96ウェル接種ヘッドのピンの上に置いた。懸濁液をスライドの縁に触れないでできる限り縁の近くに拡げた。必要に応じて、過度に拡げることなく、液滴をもう一度再び拡げた。懸濁液を室温で蓋をせず乾燥させた。接種スライドをできる限りすぐに、多くの場合は生存能力の喪失を最小限にするために同じ日に使用した。
【0061】
消毒剤の適用
処理適用中はスライドと実験との間で一貫性が確保されていることに注意した。消毒剤はエアブラシ(例えば、アネスト岩田株式会社製のrevolution R4500)を用いて20cm〜30cmの距離から、12psi〜18psiのコンプレッサー出力レギュレーター設定で接種スライドに塗布した。処理路の移動時間は約1ft/秒であった。スライド間で一貫した塗布を維持するために方法を調整した。スライドを室温で蓋をせず空気乾燥させた。
【0062】
コロニー計数
処理の有効性をスライド上の生存細菌のコロニーを数えることにより評価した。細菌をスライドから取り出し、レセーンブロス(Letheen broth)(LB)中にスライドを含浸することにより消毒剤を中和した。それから細菌を適切な希釈液でプレーティングした。陽性対照は有効性を評価する比較のために含めた。
【0063】
スライド上の生菌のコロニーを数えるために、スライドを20mLのLBの入った50mL容の遠心分離管に入れた。遠心分離管を5秒間激しく振とうした後、5秒間ボルテックスした。混合工程を1回繰り返した。LBをペプトンで希釈し、適切な寒天上にプレーティングして、生菌が計測可能な希釈液を得た。LB管(定量限界を下げるため)及び寒天プレートを適切な雰囲気及び温度で一晩インキュベートした。
【0064】
典型的に、効果的な消毒剤では、LB管の約50μLを適切な寒天上に対数的にスパイラルプレーティングした(DF=20)。幾つかの場合で、LBをより高い希釈率でプレーティングした、例えば90μLのLBを9mLのペントンに移し、50μLをスパイラルプレーティングした(DF=2000)。
【0065】
スパイラルプレーター計測表を使用して、希釈係数を乗算して、CFU/スライドを算出した。消毒による生存能力の低下を、処理したスライドの値を非処理の陽性対照の値と比較することにより求めた。
【0066】
実施例2
ピルビン酸塩、過酸化水素(H)、及び水由来の異なる組成の混合物から生成した様々な濃度のペルオキシピルビン酸を、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)胞子の対数減少を求めるために試験した。これらの胞子は7年間インキュベートされており、このため植物性細胞の残存可能性は非常に低かった。下記表で言及される希釈ピルビン酸塩及び過酸化水素溶液の試料をそれぞれ、上記で概説された噴霧試験を用いて試験した。MRSAのスライドを対照として10%ピルビン酸塩及び3% Hの組成物から得られたペルオキシピルビン酸で処理した。MRSA対照の対数減少はおよそ6対数であり、コロニー計数のためにプレーティングに使用したブロスでは増殖がなかったため、MRSA集団の完全な排除が達成されたと推測した。下記表で示されるように、10%ピルビン酸塩と3% Hとの混合物から得られたペルオキシピルビン酸により、バチルス・セレウス胞子の3.5対数減少が起こった。しかしながら、5%ピルビン酸塩と3% Hとの組成物から得られたペルオキシピルビン酸はバチルス・セレウス胞子を全て排除した。上記の実施例1と同様に、これらの研究で使用した水はUSP精製されている。
【0067】
表 バチルス・セレウス胞子の対数減少。
バチルス・セレウスの陽性対照(BC 2)log=5.7
MRSAの陽性対照(Sta 25)log=8.3
表の見出しは、左から溶液番号、生物、H(%)、ピルビン酸(%)、対数減少を意味する。*は、微生物の全体的な死滅/破壊、すなわちレセーンブロス管での増殖なし(3回反復)を意味する。
【表1】

【0068】
実施例3
ペルオキシピルビン酸を以下の通りに合成した。ピルビン酸を、フラスコの底に集塊層が形成されるまで−30℃〜10℃の温度で過酸化水素に添加した。反応を全てのピルビン酸が溶液に溶解するまで攪拌することなく放置した。ペルオキシピルビン酸の形成は質量分析計及び化学反応により確認した。
【0069】
実施例4
触媒として硫酸(HSO)を添加しながら、実施例3の反応を繰り返した。氷浴を、反応を低温に維持するために使用し、定量可能な量の過ピルビン酸生成を起こした。
【0070】
実施例5
α−ケトブタン酸(CHCHCOCOOH)及びα−ケト吉草酸(CHCHCHCOCOOH)に関して実施例3及び実施例4の反応を繰り返し、対応するα−ケト過酸を生成した。
【0071】
実施例6
図1は硫酸触媒及び上記の実施例1の方法を使用してクロストリジウム・ディフィシレに対するペルオキシピルビン酸の有効性を示す。クロストリジウム・ディフィシレに関する有効性研究は全て、公定法966.04「消毒剤の殺胞子活性(Sporicidal Activity of Disinfectants)」に従って行った。
【0072】
図2はクロストリジウム・ディフィシレに対するペルオキシα−ケト酪酸の有効性を示す。
【0073】
実施例7
別の実験では、15mlの30%過酸化水素を、1.5分ごとにピルビン酸を0.25mlずつ添加しながら攪拌子を使用して攪拌した。一例では、反応を室温で、また別の例では5℃で行った。得られた混合物の滴定により観察可能な過酸形成がなかったことが示された。
【0074】
本発明の上記の記述は例示及び説明のために提示されている。上記の記載は本明細書において開示されている形態(単数又は複数)に本発明を限定する意図はない。本発明の記載には1つ又は複数の実施形態、並びに或る特定の変形形態及び変更形態の記載が含まれているが、他の変形形態及び変更形態も本発明の範囲内であり、例えば本開示を理解すれば当業者の技術及び知識内にあるであろう。許容される程度まで代替的な実施形態(特許請求されるものに対して代替的な、交換可能な及び/又は均等な構造、機能、範囲又は工程が含まれる)を含む権利を、かかる代替的な、交換可能な及び/又は均等な構造、機能、範囲又は工程が本明細書に開示されているか否かにかかわらず、また任意の特許可能な主題を公衆に捧げる意図なく取得することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ケト過酸を製造する方法であって、該α−ケト過酸を製造するのに十分な条件下で実質的に攪拌することなくα−ケトカルボン酸又はその塩を酸化剤と接触させることを含む、方法。
【請求項2】
酸化剤が過酸化水素、過酸化バリウム、過酸化炭酸ナトリウム、過酸化カルシウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化リチウム、過酸化マグネシウム、過酸化ストロンチウム、過酸化亜鉛、超酸化カリウム又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応温度が10℃相当以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応温度が−30℃相当〜10℃相当の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
α−ケトカルボン酸がα−ケトモノカルボン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
α−ケトカルボン酸がα−ケトジカルボン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
α−ケトカルボン酸がピルビン酸、α−ケト酪酸、α−ケト吉草酸、α−ケトグルタル酸、2−オキソシクロペンタル酢酸又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
表面上の微生物の量を低減する方法であって、該表面を有効量のα−ケト過酸を含む抗菌溶液に接触させることを含む、方法。
【請求項9】
α−ケト過酸がペルオキシ2−オキソモノカルボン酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
α−ケト過酸がペルオキシ2−オキソジカルボン酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
α−ケト過酸がピルビン過酸、ペルオキシ2−オキソ酪酸、ペルオキシ2−オキソ吉草酸、ペルオキシ2−オキソグルタル酸又はそれらの混合物を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
微生物が植物性細菌を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
微生物が細菌胞子、マイコバクテリア、グラム陰性細菌、植物性のグラム陽性細菌又はそれらの組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
抗菌溶液が過酸化水素をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
抗菌溶液が少なくとも40ppmのα−ケト過酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
基板上の感染性の植物性細菌の数を低減する方法であって、該基板を、有効量のα−ケト過酸を含む抗菌溶液に接触させること含む、方法。
【請求項17】
哺乳動物において細菌に感染した基板への哺乳動物の接触により引き起こされる細菌関連疾患を予防及び/又は低減する方法であって、該哺乳動物が該基板に接触する前に、該基板を、α−ケト過酸を含む組成物に接触させることを含む、方法。
【請求項18】
α−ケト過酸を含む、抗菌製品。
【請求項19】
家庭用ケア製品である、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項20】
前記家庭用ケア製品が、硬表面洗浄剤、脱臭剤、衣類柔軟材組成物、衣類クリーニング組成物、食器手洗い用洗剤、自動食器洗い用洗剤、床ワックス、台所用洗浄剤、風呂用洗浄剤及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項19に記載の抗菌製品。
【請求項21】
硬表面洗浄剤、脱臭剤、衣類柔軟材組成物、衣類クリーニング組成物、食器手洗い用洗剤、自動食器洗い用洗剤、床ワックス、台所用洗浄剤、風呂用洗浄剤及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項22】
医療装置用消毒剤である、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項23】
無菌の充填機器用の消毒剤として使用される、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項24】
無菌の食品加工システムに使用される、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項25】
水システムにおけるバイオフィルム用の消毒剤として使用される、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項26】
廃水処理用の消毒剤として使用される、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項27】
前記製品中に存在する前記ペルオキシα−ケトカルボン酸の量が100ppm相当以下である、請求項18に記載の抗菌製品。
【請求項28】
前記ペルオキシα−ケトカルボン酸の半減期が少なくとも20日である、請求項18に記載の抗菌製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−509328(P2012−509328A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537524(P2011−537524)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/064450
【国際公開番号】WO2010/059531
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511123979)
【Fターム(参考)】