説明

α−トコフェロールおよび酢酸α−トコフェロールの製造方法

【課題】着色不純物の生成が少ない、α−トコフェロールの製造方法の提供。
【解決手段】2,3,5−トリメチルヒドロキノンとイソフィトールまたはフィトール誘導体との縮合反応を、炭酸エステルまたは低級脂肪酸エステル溶媒中、ルイス酸および金属亜鉛の存在下で行うことで、高純度の、着色不純物の少ない、α−トコフェロールが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−トコフェロールおよび酢酸α−トコフェロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−トコフェロールおよびその誘導体は、抗酸化作用を有し、医薬品、食品、飼料などに広く利用されている。α−トコフェロールの製造方法として、2,3,5−トリメチルヒドロキノンとフィトール誘導体またはイソフィトールを縮合する方法が知られている。例えば、特許文献1では、炭酸エステル、低級脂肪酸エステル等の溶媒中で縮合反応を行う方法が開示され、特許文献2では、塩化亜鉛、ハロゲン化水素酸および金属亜鉛の存在下、ハロゲン化低級脂肪族炭化水素系溶媒中で縮合反応を行う方法が開示され、特許文献3では、ハロゲン化亜鉛、水性プロトン酸および元素状金属の存在下、水で抽出可能または水と混和可能な極性溶剤/水混合物中で縮合反応を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−183079号公報
【特許文献2】特開昭60−64977号公報
【特許文献3】特開2001−261670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のα−トコフェロールの製造方法は、縮合反応の際に着色不純物が生じ、最終製品の品質に影響を及ぼす可能性があることを、本発明者らは見出した。したがって、本発明の目的は、着色不純物の生成が少ない、α−トコフェロールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、縮合反応を炭酸エステルまたは低級脂肪酸エステル溶媒中、ルイス酸および金属亜鉛の存在下で行うことにより、着色不純物の生成を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係るα−トコフェロールの製造方法は、2,3,5−トリメチルヒドロキノンとイソフィトールまたは下記式(III)で表されるフィトール誘導体と
【化1】


[式中、Lは水酸基、ハロゲン原子、アセトキシ基、メタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基またはトルエンスルホニルオキシ基を意味する。]の縮合反応を炭酸エステルまたは低級脂肪酸エステル溶媒中、ルイス酸および金属亜鉛の存在下で行う工程を備えることを特徴とする。かかる条件で縮合反応を行うことにより、着色不純物の生成を抑えることができ、かつ、高純度かつ高収率でα−トコフェロールを製造することができる。
【0007】
ルイス酸はハロゲン化亜鉛であることが好ましく、縮合反応を、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸およびp−トルエンスルホン酸から選択される少なくとも1種以上の酸、特に塩酸または臭化水素酸、の存在下で行うことが好ましく、溶媒は、炭酸エステルであり、炭酸ジエチルであることが好ましい。かかる条件で縮合反応を行うことで、着色不純物の生成をより抑えることができる。
【0008】
また、本発明に係る酢酸α−トコフェロールの製造方法は、上記α−トコフェロールの製造方法によりα−トコフェロールを製造する工程と、得られたα−トコフェロールをアセチル化する工程と、を備えることを特徴とする。上記α−トコフェロールの製造方法により得られた、着色不純物の少ないα−トコフェロールを原料とすることで、酢酸α−トコフェロール中の着色不純物を減らすことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るα−トコフェロールの製造方法は、着色不純物の生成を抑えることができ、かつ、高純度かつ高収率でα−トコフェロールを製造することができる。同様に、本発明に係る酢酸α−トコフェロールの製造方法は、着色不純物の生成を抑えることができ、かつ、高純度かつ高収率で酢酸α−トコフェロールを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[α−トコフェロールの製造方法]
本発明に係るα−トコフェロール(IV)の製造方法は、2,3,5−トリメチルヒドロキノン(I)とイソフィトール(II)またはフィトール誘導体(III)との縮合反応を炭酸エステルまたは低級脂肪酸エステル溶媒中、ルイス酸および金属亜鉛の存在下で行う工程を備えることを特徴とする。
【化2】


[式中、Lは水酸基、ハロゲン原子、アセトキシ基、メタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基またはトルエンスルホニルオキシ基を意味する。]
【0011】
2,3,5−トリメチルヒドロキノン、イソフィトールおよびフィトール誘導体(III)は、市販されているか、または市販されている化合物から公知の方法で製造することが可能である。
【0012】
縮合反応にイソフィトールおよびフィトール誘導体(III)のいずれを用いても構わないが、イソフィトールを用いることが好ましい。イソフィトールまたはフィトール誘導体(III)の量は特に制限されないが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンに対して0.9当量〜1.1当量であり、0.95当量〜1.05当量であることが好ましく、1.0当量〜1.05当量であることがより好ましい。
【0013】
炭酸エステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルまたは炭酸プロピレンが好ましく、炭酸ジエチルがより好ましい。低級脂肪酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸t−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸i−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸t−アミル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸エチル、酪酸i−プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ吉草酸エチルまたはピバル酸エチルが好ましい。使用する溶媒の量は特に制限されないが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンに対して、0.1倍量〜10倍量(w/w)であり、0.5倍量〜5倍量が好ましく、1倍量〜3倍量がより好ましい。
【0014】
ルイス酸は、ハロゲン化亜鉛が好ましい。具体的には、塩化亜鉛または臭化亜鉛が好ましい。ルイス酸の使用量は特に制限されないが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンに対して0.001当量〜1.5当量であり、0.005当量〜1.0当量であることが好ましく、0.4当量〜0.9当量であることがより好ましい。
【0015】
金属亜鉛は、粉末状、顆粒状、薄片状などの様々な形態で用いることが出来る。粉末状の金属亜鉛である亜鉛末が好ましい。金属亜鉛の量は特に制限されないが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンに対して、0.001当量〜0.2当量が好ましく、0.008当量〜0.12当量がより好ましい。
【0016】
上記縮合反応は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸およびp−トルエンスルホン酸から選択される少なくとも1種以上の酸の存在下で行ってもよい。酸の量は特に制限されないが、2,3,5−トリメチルヒドロキノンに対して0.05当量〜1.0当量であり、0.05当量〜0.5当量であることが好ましい。好ましくは、塩酸または臭化水素酸の存在下で上記縮合反応を行う。
【0017】
原料の投入順序は特に制限されないが、イソフィトールまたはフィトール誘導体(III)以外の原料を予め混合し、そこにイソフィトールまたはフィトール誘導体(III)を滴下することが好ましい。別の好ましい態様としては、2,3,5−トリメチルヒドロキノン、溶媒およびルイス酸の混合物に、金属亜鉛およびイソフィトールまたはフィトール誘導体(III)、さらに必要に応じて塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸およびp−トルエンスルホン酸から選択される少なくとも1種以上の酸を加えた混合物を滴下する。イソフィトールまたはフィトール誘導体(III)の滴下時間は特に制限されないが、30分間〜10時間であり、30分間から7.5時間であることが好ましい。滴下完了後の反応混合物の撹拌時間は特に制限されないが、15分間〜10時間であり、15分間から4時間であることが好ましい。滴下時および撹拌時の反応温度は特に制限されないが、室温から炭酸エステルの沸点であり、30℃から60℃であることが好ましい。
【0018】
[酢酸α−トコフェロールの製造方法]
本発明に係る酢酸α−トコフェロールの製造方法は、上記α−トコフェロールの製造方法によりα−トコフェロールを製造する工程と、得られたα−トコフェロールをアセチル化する工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
アセチル化の工程は、一般的なアセチル化の方法が適用できる。アセチル化剤として、塩化アセチル、無水酢酸などを用いることができ、無水酢酸が好ましい。アセチル化反応はトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒などの溶媒中で行ってもよく、これらの溶媒を用いずにアセチル化剤を溶媒として反応を行っても良い。本工程では、反応の進行を促進させるために触媒を添加してもよく、通常は、酸または塩基などを触媒として加える。触媒として用いる酸は、塩酸、硫酸など鉱酸や、塩化亜鉛などのルイス酸を用いることができ、また、触媒として用いる塩基としては、トリエチルアミン、ピリジンなどを用いることができる。特に、塩化亜鉛を用いることが好ましい。さらに、本工程は、金属亜鉛の存在下でも行うことができる。
【実施例】
【0020】
本実施例中、α−トコフェロールおよび酢酸α−トコフェロールの純度は、ガスクロマトグラフィー(比較例1および実施例1〜8、16)または高速液体クロマトグラフィー(実施例12〜14)にて測定した。純度は、クロマトグラムにおいて、α−トコフェロールまたは酢酸α−トコフェロールのピーク面積を全ピークのピーク面積の合計で除した値である。
ガスクロマトグラフィー:
カラム:5% フェニル ポリシルフェニレン−シロキサン(内径0.32mm,長さ25m,膜厚0.25μm)
キャリアガス:He
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
高速液体クロマトグラフィー:
カラム:ODSカラム(Chemcopak 5C18;内径4.6mm,長さ150mm;株式会社ケムコ)
【0021】
[比較例1]α−トコフェロールの製造
2,3,5−トリメチルヒドロキノン(69.9g、459mmol)、塩化亜鉛(43.0g、315mmol)を炭酸ジエチル(155.2g)と混合し、濃塩酸(7.5g、36%、74mmol)を加えた。撹拌下、50℃でイソフィトール(142.2g、純度98.5%、472mmol)を4時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間撹拌した。反応液に蒸留水(20ml)を加え20分撹拌後、分液し、有機層を蒸留水(100ml)で2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、α−トコフェロールを得た(195.8g、純度95.8%、収率99.0%)。
【0022】
[実施例1]α−トコフェロールの製造
2,3,5−トリメチルヒドロキノン(69.9g、459mmol)、塩化亜鉛(42.0g、308mmol)、亜鉛末(1.2g、18mmol)を炭酸ジエチル(155.2g)と混合し、濃塩酸(5.8g、36%、57mmol)を加えた。撹拌下、50℃でイソフィトール(142.2g、純度98.4%、472mmol)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、2時間撹拌した。反応液に蒸留水(20ml)を加え20分撹拌後、分液し、有機層を温水(100ml)で2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、α−トコフェロールを得た(199.1g、純度97.0%、収率97.7%)。
【0023】
[実施例2]〜[実施例7]α−トコフェロールの製造
実施例1と同様に、以下の反応条件でα−トコフェロールを得た。
【表1】

【0024】
いずれの実施例においても、2,3,5−トリメチルヒドロキノンは69.9g、亜鉛末は1.2g、炭酸ジエチルは155.2g、イソフィトールは142.2gを用いた。イソフィトールの滴下時間は、実施例4では0.5時間であり、それ以外の実施例では3時間であった。イソフィトール滴下後の撹拌時間は、いずれの実施例でも2時間であった。反応温度は、いずれの実施例でも50℃であった。
【0025】
[実施例8]α−トコフェロールの製造
2,3,5−トリメチルヒドロキノン(69.9g、459mmol)、塩化亜鉛(43.0g、315mmol)、亜鉛末(0.27g、4.1mmol)を炭酸ジエチル(155.2g)と混合し、濃塩酸(7.5g、36%、74mmol)を加えた。撹拌下、50℃でイソフィトール(142.2g、純度98.5%、472mmol)を4時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間撹拌した。反応液に蒸留水(20ml)を加え20分撹拌後、分液し、有機層を蒸留水(100ml)で2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、α−トコフェロールを得た(196.1g、純度96.0%、収率99.1%)。
【0026】
[実施例9]〜[実施例11]α−トコフェロールの製造
実施例8と同様に、以下の反応条件でα−トコフェロールを得る。
【表2】

【0027】
[実施例12]α−トコフェロールの製造
2,3,5−トリメチルヒドロキノン(83.8g、551mmol)、臭化亜鉛(55.7g、247mmol)、亜鉛末(1.2g、18mmol)を炭酸ジエチル(116.4g)と混合し、撹拌下に濃臭化水素酸(5.1g、48%、30mmol)を加えた。撹拌下、50℃でイソフィトール(169.6g、純度98.8%、572mmol)を3.5時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間撹拌した。反応液に蒸留水(50ml)を加え、分液し、有機層を温水(100ml)で2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、α−トコフェロールを得た(純度98.0%)。
【0028】
[実施例13]〜[実施例14]α−トコフェロールの製造
実施例12と同様に、以下の反応条件でα−トコフェロールを得た。濃臭化水素酸の添加量以外は、実施例12の条件と同一である。
【表3】



【0029】
[実施例15]α−トコフェロールの製造
2,3,5−トリメチルヒドロキノン(83.8g、551mmol)、臭化亜鉛(54.8g、243mmol)、亜鉛末(0.3g、4.6mmol)を炭酸ジエチル(124g)と混合し、撹拌下に濃臭化水素酸(17.0g、48%、101mmol)を加える。撹拌下、55℃でイソフィトール(169.1g、純度98.5%、563mmol)を3.5時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間撹拌する。反応液に蒸留水(50ml)を加え、分液し、有機層を温水(100ml)で2回洗浄後、有機層を減圧濃縮して、α−トコフェロールを得る。
【0030】
[実施例16]酢酸α−トコフェロールの製造
α−トコフェロール(1.25kg、2.9mol)、無水酢酸(337.5g、3.3mol)、塩化亜鉛(5.0g、37mmol)、亜鉛末(0.5g、7.6mmol)を混合し、90℃で1時間撹拌し、酢酸α−トコフェロールを得た(純度98.5%)。
【0031】
比較例1、実施例1〜8および12〜14において、反応の後処理である3回の水洗が完了した後の有機層の着色の程度を目視で比較した。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−トコフェロールの製造方法であって、
2,3,5−トリメチルヒドロキノンと
イソフィトールまたは下記式(III)で表されるフィトール誘導体と
【化1】


[式中、Lは水酸基、ハロゲン原子、アセトキシ基、メタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基またはトルエンスルホニルオキシ基を意味する。]
の縮合反応を炭酸エステルまたは低級脂肪酸エステル溶媒中、ルイス酸および金属亜鉛の存在下で行う工程を備える、製造方法。
【請求項2】
溶媒が炭酸エステルである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ルイス酸がハロゲン化亜鉛である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
縮合反応を、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸およびp−トルエンスルホン酸から選択される少なくとも1種以上の酸の存在下で行う、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
酸が塩酸または臭化水素酸である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
炭酸エステルが炭酸ジエチルである、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
酢酸α−トコフェロールの製造方法であって、
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法によりα−トコフェロールを製造する工程と、
得られたα−トコフェロールをアセチル化する工程と、
を備える製造方法。

【公開番号】特開2013−63912(P2013−63912A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198395(P2011−198395)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】