説明

α−リポ酸含有カプセル剤

【課題】 カプセル皮膜に被覆されているα−リポ酸の光安定性が一層高く、且つ経済的に効率良く製造することが可能なα−リポ酸含有カプセル剤を提供すること。
【解決手段】 α−リポ酸が、天然色素およびカラメル色素が配合されたカプセル皮膜に被覆されてなることを特徴とするα−リポ酸含有カプセル剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−リポ酸がカプセル皮膜に被覆されたカプセル剤に関し、更に詳細には、カプセル皮膜に被覆されたα−リポ酸の安定性を高めたカプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
α−リポ酸(チオクト酸)は、淡黄色〜黄色の結晶、または結晶性の粉末で、味はなく、臭いはないかわずかに特異な臭いがある。融点は59〜62℃であり、エタノールに溶けやすく、水に極めて溶けにくい。また、α−リポ酸は、光に対して不安定であり、光によって徐々に着色し分解する。
【0003】
α−リポ酸は、代謝性剤として、チオクト酸の需要が増大した際の補給などに用いられている。リポ酸は肝臓、腎臓、心臓などに多く存在し、α−ケト酸の酸化的脱炭酸の補酵素として作用する。急性肝炎、肝硬変症、脂肪肝などの肝疾患の予防と治療に用いられている。
最近、α−リポ酸は、厚生労働省による「医薬品的効能効果を標榜しない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料) の食品衛生法上の取扱いの改正」により、食品として扱われるようになった。このため、α−リポ酸は、抗酸化作用を有する健康食品素材として注目されている。α−リポ酸は、健康食品等に用いられる場合、その食品形態の一つとしてソフトカプセルやハードカプセル等のカプセル剤とすることが提案されている。
【0004】
しかし、上述したようにα−リポ酸は光によって分解するため、通常用いられているカラメル色素を配合したゼラチンカプセルを用いたカプセル剤においては、α−リポ酸の光に対する安定性が極めて劣るという問題点がある。特許文献1には、α−リポ酸と同様に光に対して不安定であるユビデカレノンを、乳清カルシウムと天然色素とを配合したゼラチンから作られたカプセル皮膜に充填することにより、カプセル剤の光安定性を保持することが提案されている。しかし、この方法がα−リポ酸に有用であるかは知られておらず、また必ずしも経済的に効率良く製造するともいえない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−95932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カプセル皮膜に被覆されているα−リポ酸の光安定性が一層高く、且つ経済的に効率良く製造することが可能なα−リポ酸含有カプセル剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、カプセル皮膜に、天然色素である植物色素と共にカラメル色素を併用し添加すると、α−リポ酸の光安定性が優れることを知見した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、α−リポ酸が、天然色素およびカラメル色素が配合されたカプセル皮膜に被覆されてなることを特徴とするα−リポ酸含有カプセル剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤は、光によるα−リポ酸の分解が抑制され、優れた光安定性を有する品質の優れた製剤であり、且つ経済性良く得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のα−リポ酸含有カプセル剤を好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
本発明において、α−リポ酸(チオクト酸)としては、チオクト酸もしくはその塩(例えばナトリウム、カリウム、カルシウム塩等)、またはチオクト酸アミドの形態でもよい。
【0012】
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤において、上記カプセル皮膜は、皮膜形成剤に、上記天然色素および上記カラメル色素が配合されてなるカプセル皮膜調製液を用いて形成されたものである。該皮膜形成剤としては、従来のα−リポ酸含有カプセル剤に用いられているゼラチンが好ましく用いられるが、その他にプルラン、カラギナン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を皮膜形成剤として用いることもできる。
【0013】
上記天然色素は、植物の果皮、果肉、葉、樹皮、花、根や、昆虫、貝等の動物から採取または抽出された色素である。上記天然色素としては、例えば、カロチノイド系色素、フラボノイド系色素、キノン系色素が挙げられる。
【0014】
上記カロチノイド系色素としては、アナトー色素(例えば、ビキシン、ノルビキシン)、クチナシ黄色素(例えばクロシン)、ニンジン色素(例えばβ−カロチン)、オレンジ色素(例えばβ−アポ−β−カロチナール)、パプリカ色素(例えばカプサンチン)、キノコ色素(例えばカンタキサンチン)、トマト色素(例えばリコピン)等が挙げられる。
上記フラボノイド系色素としては、アントシアニン系の紫芋色素、ブドウ果皮色素(例えばエノシアニン)、ベリー類色素、シソ色素(例えばシソニン)および赤キャベツ色素(例えばルブロブラシシン);カルコン系のベニバナ黄色素(例えばサフラワーイエロー);フラボン系のコウリャン色素(例えばアピゲニン)およびカカオ色素;フラボノール系のソバ色素(例えばルチン)および黒カシの皮色素(例えばクエルセチン)等が挙げられる。
上記キノン系色素としては、アントラキノン系のラックカイガラ虫色素(例えばラッカイン酸)、エンジ虫色素(例えば、カルミン酸、ゲルメス酸)および西洋アカネ色素(例えばアリザリン);ナフトキノン系の紫根色素(例えばシコニン)およびうに色素(例えばエキノクローム)等が挙げられる。
【0015】
これらの他に、上記天然色素としては、酵母色素(例えばリボフラビン)等のフラビン系色素、クロロフィール等のポルフィリン系色素、ウコン色素等のジケトン系色素、ピート色素(例えばベタニン)等のベタシアニジン系色素、クチナシ青色素、スピルリナ青色素等、多くの天然物由来の色素が挙げられる。
【0016】
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤においては、これらの天然色素の中でも、植物由来の色素が好ましく、植物由来のカロチノイド系色素、フラボノイド系色素およびキノン系色素がさらに好ましく、アナトー色素、パプリカ色素、紫芋色素が最も好ましい。
【0017】
上記天然色素は、単独で用いてもよいが、2種以上を併用すると光安定化効果がさらに高まるため好ましく、この場合、同系の色素から2種以上を選択して併用してもよいし、異系の色素からそれぞれ1種以上を選択して併用してもよい。具体的には、カロチノイド系色素から2種以上を選択して併用するか、カロチノイド系色素から1種以上を選択し且つフラボノイド系色素から1種以上を選択して併用するのが好ましい。
【0018】
上記カプセル皮膜において、上記天然色素の配合量は、上記皮膜形成剤の質量に対して、好ましくは0.02〜15質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。配合量が0.02質量%より少ないと、充分な光安定化効果が得られないおそれがあり、15質量%より多いと、皮膜形成剤の強度が低下し、カプセル皮膜の接着強度の低下により液漏れ等の問題が発生する場合がある。また、2種以上の天然色素を併用する場合、それぞれの天然色素の配合量は、天然色素の総質量に対して20質量%以上が好ましい。
【0019】
上記カラメル色素としては、並カラメル、グルコースカラメルおよび砂糖カラメルが挙げられるが、本発明のα−リポ酸含有カプセル剤においては、これらの中でもグルコースカラメルを用いるのが好ましい。
【0020】
上記カプセル皮膜において、上記カラメル色素の配合量は、上記皮膜形成剤の質量に対して、好ましくは0.02〜15質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。配合量が0.02質量%より少ないと、充分な光安定化効果が得られない可能性があり、15質量%より多いと、皮膜形成剤の強度が低下し、カプセル皮膜の接着強度の低下により液漏れ等の問題が発生する場合がある。
【0021】
また、上記天然色素および上記カラメル色素の配合量は、両者の質量比(前者:後者)が1〜10:1〜10を満たすように選択するのが好ましい。
【0022】
さらに、本発明のα−リポ酸含有カプセル剤に用いられるカプセル皮膜には、カプセル皮膜に通常添加されるグリセリン、ソルビトール等の添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は、上記皮膜形成剤の質量に対して、好ましくは60質量%以下である。
【0023】
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤は、上述したカプセル皮膜に、α−リポ酸を含有する内容物が被覆されたものである。本発明のα−リポ酸含有カプセル剤におけるα−リポ酸の含有量は、特に制限されるものではなく、用途等によって適宜決定することができるが、好ましくは該内容物中において0.1〜45質量%である。該内容物は、溶解液、分散液等の液体、粉末、顆粒、コーティングピル等のいずれの形態であってもよく、α−リポ酸が、該内容物中に均一に溶解または分散していればよい。
【0024】
上記内容物には、必要に応じて、α−リポ酸以外の任意成分を含有させることができる。該任意成分としては、ごま油、菜種油、トウモロコシ油、やし油、ひまし油、しそ油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、胚芽油、魚油、鯨油等の天然動植物油脂、炭素数4〜18の脂肪酸のモノエステル、ジエステルおよびトリエステル等の合成または半合成油脂、並びにこれらの混合物等の油脂;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール;界面活性剤(主に用いられる界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤);VE、VD、VK1、VK2、βカロチン等の脂溶性ビタミン、ビタミンC、ビタミンB群等の水溶性ビタミン等のビタミン;ユビデカレノン等の脂溶性薬物、水溶性薬物、その他一般用医薬品として用いられている医薬品、生薬等の医薬成分(例えばビタミンB1誘導体のスルフチアミン);乳糖、デキストリン、澱粉、結晶セルロース等の賦形剤、甘味剤、香料等の添加剤が挙げられる。これらの他にも、上記内容物にはあらゆる素材を適宜含有させることができ、例えば、ミネラル類、L−カルニチン、クレアチン、グルタチオン、グルクロン酸、タウリン、ガルシニアエキス、ジアシルグリセロール、カプサイシン、γ−アミノ酪酸、アミノ酸類、アガリクス茸エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、DHA、EPA、大豆イソフラボン、ウコン、マカ、ニンジン、酵母等のミネラル含有物、青汁、酢、コラーゲン、各ペプチド類、レシチン、ローヤルゼリー、プロポリス、グルコサミン、メシマコブ菌糸体、コンドロイチン硫酸等の栄養成分;塩化ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、液糖、果汁等の呈味成分;コーヒー風味、抹茶風味、ミルク風味等の風味成分;クエン酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸を含有させることもできる。これらの任意成分の中でも、上記油脂、上記多価アルコールおよび上記界面活性剤からなる群から選択される1種以上により、α−リポ酸を流動化させて上記内容物として用いると、α−リポ酸の安定性を一層高めることができるため好ましく、その使用量は、α−リポ酸の100質量部に対して好ましくは50〜4000質量部である。
【0025】
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤の質量および大きさは、用途等によって適宜選択することができるが、1カプセル当たり、上記内容物の質量が30〜600mgの範囲であり、上記カプセル皮膜の質量が70〜330mgの範囲であることが好ましい。また、本発明のα−リポ酸含有カプセル剤の形態としては、ソフトカプセル剤およびハードカプセル剤が挙げられる。
【0026】
ソフトカプセル剤の場合、ゼラチン等の皮膜形成剤には、上記天然色素および上記カラメル色素以外に、ソルビトール、グリセリン等のソフトカプセル剤に通常使用される添加剤を添加することができる。ソフトカプセル剤の製造においては、カプセル剤の成型と内容物の充填とが同時に行なわれる。その製造方法としては、浸漬法、打ち抜き法、滴下法等が挙げられるが、これらの中でも、ソフトカプセル剤の製造に一般的に用いられている打ち抜き法が好ましい。該打ち抜き法においては、例えば、ゼラチン等を含有するカプセル皮膜調製液を薄く展延し、冷却、ゲル化してゼラチンシートとした後、2枚のゼラチンシートの間にα−リポ酸を含有する内容物を入れ、次いで、金型で両面からこれを圧して、2枚のゼラチンシートによりカプセル皮膜を形成すると同時に、内容物を該カプセル皮膜内部に充填し、直ちにゼラチンシートを加熱接着させ、打ち抜き、その後乾燥させることにより、ソフトカプセル剤を得ることが出来る。
【0027】
ハードカプセル剤の場合、上記カプセル皮膜は、日局カプセルと同様に円筒形のボディとこれより直径のやや大きいキャップとの2個の部分からなり、上記カプセル皮膜に上記内容物を充填した後、キャップとボディとのかん合部を封じ、必要に応じてかん合部の隙間をシールすることにより、ハードカプセル剤を得ることが出来る。
【0028】
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤は、食品または医薬部外品としてそのまま摂取することができる他、食品または医薬部外品中に配合して摂取することもできる。例えば、本発明のα−リポ酸含有カプセル剤は、それ自体を健康食品(サプリメント)としてそのまま摂取してもよいし、加工食品に配合して摂取してもよい。本発明のα−リポ酸含有カプセル剤が配合された加工食品は、例えば、調理によって加熱することにより、上記カプセル皮膜を溶解させた後、摂取することもできる。この場合、α−リポ酸は、加熱するまでカプセル皮膜に被覆されており安定である。
本発明のα−リポ酸含有カプセル剤は、疲労回復、滋養強壮、肝疾患、ダイエット、糖尿病の予防または改善等の他に抗酸化の目的に用いられる。
また、本発明のα−リポ酸含有カプセル剤は、家畜用飼料またはペットフード等の動物飼料に配合して、家畜またはペット等の動物に摂取させることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0030】
〔実施例1〜5および比較例1〜2〕
下記(内溶液の製造)および(カプセル皮膜調製液の製造)に従って、内溶液およびカプセル皮膜調製液を製造し、これらを用いて下記(カプセル剤の製造)に従って、ソフトカプセル剤を製造した。得られたソフトカプセル剤について、下記(試験方法)に従って光試験を行い、α−リポ酸の安定性を確認した。試験結果を表1に示す。
【0031】
(内溶液の製造)
グリセリン脂肪酸エステル(花王製)200gを約65℃に加熱し、均一になるように攪拌溶解した後、室温まで温度を下げ、次いでα−リポ酸(デグサ[degussa]製)100gを入れ、全体が均一になるまで攪拌してα−リポ酸を含有する内溶液300gを得た。
【0032】
(カプセル皮膜調製液の製造)
下記<基本皮膜処方>に、表1に記載の天然色素およびカラメル色素を添加してカプセル皮膜調製液を得た。
<基本皮膜処方>
ゼラチン(新田ゼラチン製) 100
グリセリン(花王製) 対ゼラチン30質量%
精製水 適量
【0033】
(カプセル剤の製造)
上記内溶液および上記カプセル皮膜調製液を用いて、通常のソフトカプセル剤の製造方法によりオーバル6番を用い、1カプセル剤当たり、内溶液量300mg(α−リポ酸;100.0mg、グリセリン脂肪酸エステル;200.0mg)、カプセル皮膜量約160mgの条件でソフトカプセル剤を製造した。
【0034】
(試験方法)
下記<光試験器>を用いてソフトカプセル剤に光を照射し、総照度が60、90、120万Luxになった時点それぞれにおいて、ソフトカプセル剤の内溶液に残存するα−リポ酸を、液体クロマトグラフィーを用いて定量した。尚、表1に示す試験結果は、照射開始時のα−リポ酸の量を100%とした残存率(%)である。
<光試験器>
ナガノ化学製 光試験器LT−20
光源;白色蛍光ランプ、1000lux
【0035】
【表1】


【0036】
表1から明らかなように、α−リポ酸をカプセル皮膜で被覆してなるα−リポ酸含有カプセル剤において、カラメル色素および天然色素のいずれかをカプセル皮膜に含有させても、α−リポ酸は光に対して不安定である(比較例1〜2)のに対し、カラメル色素および天然色素の両者をカプセル皮膜に含有させると、α−リポ酸の光に対する安定性が極めて向上することが確認された(実施例1〜5)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リポ酸が、天然色素およびカラメル色素が配合されたカプセル皮膜に被覆されてなることを特徴とするα−リポ酸含有カプセル剤。
【請求項2】
天然色素が植物由来の色素であり、カプセル皮膜の皮膜形成剤がゼラチン、プルランまたはカラギナンである、請求項1記載のα−リポ酸含有カプセル剤。
【請求項3】
カラメル色素および天然色素の配合量が、それぞれ、皮膜形成剤の質量に対して0.02〜15質量%である、請求項1または2記載のα−リポ酸含有カプセル剤。
【請求項4】
食品または医薬部外品である、請求項1〜3のいずれかに記載のα−リポ酸含有カプセル剤。
【請求項5】
飼料に配合して用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載のα−リポ酸含有カプセル剤。

【公開番号】特開2006−45100(P2006−45100A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227187(P2004−227187)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】