説明

α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法、α−AMPエステラーゼおよびα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法

【課題】簡便かつ高収率で安価に、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの中間体であるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを製造することができる方法、および、簡便かつ高収率で安価に、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルを製造する方法を提供すること。
【解決手段】α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する、テトラチオバクター属およびブレバンディモナス属の持つ酵素または酵素含有物を用いて、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する。さらに、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン(α−L−aspartyl−L−phenylalanine(略称:α−AP))の製造方法およびα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステル(α−L−aspartyl−L−phenylalanine methyl ester(略称:α−APM))の製造方法に関し、より詳しくは、甘味料として大きな需要があるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステル(製品名:アスパルテーム)製造の重要な中間体であるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法、および、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの並びに前記α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法を利用したα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステル(「α−APM」と略称される場合がある)の製造法としては従来から化学合成法、酵素合成法が知られている。化学合成法としては、N保護のL−アスパラギン酸無水物とL−フェニルアラニンメチルエステルを縮合させてN保護APMを合成し、このN保護基を脱離してAPMを得る方法、酵素合成法としては、N保護のL−アスパラギン酸とL−フェニルアラニンメチルエステルを縮合させてN保護APMを合成し、このN保護基を脱離してAPMを得る方法が知られているが、両方法とも保護基の導入、保護基の脱離工程が必要で、工程が極めて煩雑になっていた。一方、N保護基を使用しないAPM製法も検討されている(特許文献1)が、収率が極めて低く工業的生産には適していない。このような背景の下、アスパルテームの更なる安価な工業的製造法の開発が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特公平02−015196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、複雑な合成方法を経ることなく、簡便かつ高収率で安価に、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの中間体であるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを製造することができる方法を提供することを課題とする。また、本発明は、簡便かつ高収率で安価な、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的に鑑み鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは新たに見出した酵素、あるいは酵素含有物が、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルから、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを選択的に生成する能力を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕 α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する酵素または酵素含有物を用いて、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成することを特徴とする、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
〔2〕 前記酵素または酵素含有物が、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する微生物の培養物、該培養物より分離した微生物菌体、および、該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、〔1〕に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
〔3〕 前記微生物が、テトラチオバクター属およびブレバンディモナス属からなる群より選ばれる属に属する微生物であることを特徴とする、〔2〕に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
〔4〕 前記微生物が、下記(A)〜(J)からなる群より選ばれるタンパク質を発現可能な、形質転換された微生物であることを特徴とする、〔2〕に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
〔5〕 前記微生物が、下記(a)〜(j)からなる群より選ばれるポリヌクレオチドが導入された、形質転換微生物であることを特徴とする、〔2〕に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(f)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(g)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(h)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(j)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔6〕 前記酵素が、下記(A)〜(J)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔1〕に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
〔7〕 〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法によりα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを合成する反応工程と、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンをα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルに変換する反応工程とを含む、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法。
〔8〕 テトラチオバクター属およびブレバンディモナス属からなる群より選ばれる属に属する微生物に由来し、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質。
〔9〕 下記(A)〜(J)からなる群より選ばれるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
〔10〕 〔9〕に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔11〕 下記(a)〜(j)からなる群から選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(f)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(g)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(h)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(j)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔12〕 前記ストリンジェントな条件が、1×SSCおよび0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃で洗浄が行われる条件である、〔11〕に記載のポリヌクレオチド。
〔13〕 〔10〕から〔12〕のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを有する組換えポリヌクレオチド。
〔14〕 〔13〕に記載のポリヌクレオチドが導入された形質転換細胞。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、簡便なα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成するための方法およびα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの生成反応を触媒するタンパク質等が提供される。本発明により、保護基の導入・脱離などの複雑な合成方法における負担を軽減し、簡便かつ高収率で安価にα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを製造することができる。
【0008】
また、本発明によれば、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルを、簡便かつ高収率で安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、
<1>α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法
1.α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法
2.本発明で用いられる微生物
3.本発明で用いられる酵素
<2>α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法、
の順に説明する。
【0010】
<1>α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法
1.α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法
本発明のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを製造する方法(以下、「本発明のペプチド製造方法」ともいう)は、所定のペプチド生成活性を有する酵素の存在下で、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する。すなわち、本発明のペプチド製造方法は、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する酵素または酵素含有物を用いて、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成せしめるものである。α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する酵素または酵素含有物とは、実質的に、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルのβエステル部位を加水分解等により脱エステル化する反応を触媒する能力または活性を有する酵素(エステラーゼ)または酵素含有物のことをいう。
【0011】
α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルが脱エステル化されてα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンが生成する反応式を、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルとしてα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−メチルエステル(α−AMP)を用いた場合を例にとって示す。
【化1】

【0012】
酵素または酵素含有物を、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルに作用せしめる方法としては、当該酵素または酵素含有物と、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルとを混合する方法が挙げられる。より具体的には、酵素または酵素含有物をα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを含む溶液中に添加して反応せしめる方法を用いることができる。また、当該酵素含有物として当該酵素を生産する微生物を用いる場合には、当該酵素を生産する微生物を上記のように溶液中に添加して反応させる方法の他、当該酵素を生産する微生物を培養し、微生物中または微生物の培養液中に当該酵素を生成・蓄積せしめ、培養液中にα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを添加する方法などを用いてもよい。生成されたα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンは、常法により回収し、必要に応じて精製することができる。
【0013】
「酵素含有物」とは、当該酵素を含む混合物である。酵素含有物は、さらに1種類以上のその他の物質を含みうる。具体的には、微生物の培養など、酵素を生産する工程をその中において行った酵素含有混合物、又はそれをさらに必要に応じて後処理に供したものを、酵素含有物として用いることができる。当該その他の物質には、培地を構成する物質に加え、微生物の細胞、及び微生物の細胞の破片を含みうる。当該後処理としては、培養終了後の培養液からの培地の回収又は菌体の回収;菌体の破砕、溶菌及び凍結乾燥;粗精製等によるその他の物質の一部の除去;共有結合法、吸着法、包括法等による酵素又は酵素を含む構造体(例えば細胞)の固定化;及びこれらの組み合わせが挙げられる。また、使用する微生物によっては、培養中に一部、溶菌するものもあるので、この場合には培養液上清も酵素含有物として利用できる。
【0014】
また、当該酵素を含む微生物としては野生株を用いても良いし、本酵素を発現した遺伝子組換え株を用いてもよい。当該微生物としては、酵素微生物菌体に限らず、アセトン処理菌体、凍結乾燥菌体等の菌体処理物を使用してもよいし、これらを共有結合法、吸着法、包括法等によって固定化した固定化菌体、固定化菌体処理物を使用してもよい。
【0015】
α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する活性のあるα−AMPエステラーゼを生産できる野生株を用いる場合には、遺伝子組み換え株などを作製する手間なしに、より簡便にペプチド生産を行える点などで好適である。他方、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する活性のあるα−AMPエステラーゼをより大量生成するように改変された変異株(例えば、前記酵素遺伝子を大量発現可能なように形質転換された遺伝子組み換え株)を用いれば、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの合成も大量により速く行うことが可能となり得る。すなわち、本発明の方法においては、微生物として、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する活性のあるα−AMPエステラーゼ、例えば、後述する本発明のタンパク質を発現可能なように形質転換された微生物や、前記酵素遺伝子、例えば、後述する本発明のポリヌクレオチドを発現可能なように形質転換された微生物も、用いることができる。野生株または変異株の微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に、当該α−AMPエステラーゼを蓄積させて、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルに混合して、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成することができる。
【0016】
なお、培養物、培養菌体、洗浄菌体、菌体を破砕あるいは溶菌させた菌体処理物を用いる場合には、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの生成に関与せずに生成α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを分解する酵素が存在することが多い。従って、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属プロテアーゼ阻害剤を添加することが可能である。添加量は、例えば0.1mMから300mMの範囲、好ましくは1mMから100mMの範囲で適宜定めることができる。
【0017】
酵素または酵素含有物の使用量は、目的とする効果を発揮する量(有効量)であればよい。この有効量は当業者であれば簡単な予備実験により容易に求められるが、例えば酵素を用いる場合には、0.01〜100ユニット(U)程度、洗浄菌体を用いる場合は0.1〜500g/L程度である。なお、1Uは、50mMのα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを含む100mM リン酸緩衝液(pH)を用いて、20℃の温度条件下で反応させた場合に、1分間により1μmoleのα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成せしめる酵素量とする。
【0018】
反応に用いられるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルとしては、脱エステル化されてα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成できるものであれば、いかなるものを使用してよい。例えば、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−メチルエステル等が挙げられる。α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルの製造方法は特に限定されない。例えば、L−アスパラギン酸−α,β−ジエステルとL−フェニルアラニンとを縮合して製造することができる。L−アスパラギン酸−α,β−ジエステルとL−フェニルアラニンとを縮合してα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを生成する反応式を、L−アスパラギン酸−α,β−ジエステルとしてL−アスパラギン酸−α,β−ジメチルエステルを用いた場合の例をとって示す。
【化2】

【0019】
出発原料であるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルの濃度は1mM〜2M、好ましくは20〜600mMである。また、基質が高濃度だと反応を阻害するような場合には、反応中にこれらを阻害しない濃度にして逐次添加することができる。
【0020】
反応温度は5〜60℃で、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン生成が可能であり、好ましくは10〜40℃である。また反応pHはpH5〜12で、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン生成が可能であり、好ましくはpH6〜11である。
【0021】
2.本発明で用いられる微生物
本発明に使用される微生物としては、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する能力を有する微生物を特に限定なく使用することができる。α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する能力を有する微生物としては、例えば、テトラチオバクター属およびブレバンディモナス属に属する微生物を挙げることができるが、具体的にはテトラチオバクター エスピー(Tetrathiobacter sp.) FERM P−21102、ブレバンディモナス エスピー(Brevundimonas sp.) NRRL B−2395を例示することができる。テトラチオバクター エスピー(Tetrathiobacter sp.) FERM P−21102は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に2006年11月21日付けで寄託されている。
【0022】
上記菌株のうち、NRRL番号が記載されているものは、アグリカルチュラル・リサーチ・サービス・カルチャー・コレクション(1815 N. University Street,Peoria,IL 61604,the United States of America)に寄託されており、番号を参照して分譲を受けることができる。
上記菌株のうち、FERM番号が記載されているものは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託されており、各番号を参照して分譲を受けることができる。
【0023】
これらの微生物としては、野生株または変異株のいずれを用いてもよいし、また、細胞融合もしくは遺伝子操作などの遺伝学的手法により誘導される組み換え株等も用いることができる。
【0024】
このような微生物の菌体を得るには、当該微生物を適当な培地で培養増殖せしめるとよい。このための培地はその微生物が増殖し得るものであれば特に制限はなく、通常の炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、無機イオン、更に必要に応じ有機栄養源を含む通常の培地でよい。
【0025】
例えば、炭素源としては上記微生物が利用可能であればいずれも使用でき、具体的には、グルコース、フラクトース、マルトース、アミロース等の糖類、ソルビトール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類及びこれらの塩類、パラフィンなどの炭化水素類あるいはこれらの混合物などを使用することができる。
【0026】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、リン酸一カリウム、リン酸二カリウムなどのリン酸塩、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの有機窒素化合物あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0027】
他に無機塩類、微量金属塩、ビタミン類等、通常の培地に用いられる栄養源を適宜混合して用いることができる。
【0028】
培養条件にも格別の制限はなく、例えば、好気的条件下にてpH5〜8、温度15〜40℃の範囲でpHおよび温度を適当に制限しつつ12〜48時間程度培養を行えばよい。
【0029】
3.本発明で用いられる酵素
本発明では、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する酵素(エステラーゼ)が用いられる。本発明では、このような活性を有する酵素であれば、その由来、取得方法などの限定なく用いることができる。以下に、本発明の酵素タンパク質、その精製、遺伝子工学的な手法の利用などについて説明する。
【0030】
(3−1)本発明のタンパク質
本発明のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質は、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する能力を有する微生物から入手することができる。例えば上述の本発明に使用される微生物の例として挙げた属の微生物、すなわちテトラチオバクター属およびブレバンディモナス属からなる群より選ばれる属に属する細菌などを利用できる。より具体的にはテトラチオバクター エスピー、ブレバンディモナス エスピーを挙げることができる。などが挙げられる。これらの菌株テトラチオバクター エスピー FERM P−21102、ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395は、本発明者らが、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを高収率で生産する酵素の生産菌を検索した結果に選出した微生物である。
【0031】
本発明のタンパク質を、上述の微生物から単離・精製する方法を説明する。
まず、微生物の菌体から、超音波破砕等の物理的方法、あるいは細胞壁溶解酵素等を用いた酵素法等により菌体を破壊し、遠心分離等により不溶性画分を除いて菌体抽出液を調製する。このようにして得られる菌体抽出液を、通常のタンパク質の精製法、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどを組み合わせて分画することによって、α−AMPエステラーゼを精製することができる。
【0032】
陰イオン交換クロマトグラフィー用の担体としては、Q−Sepharose 26/10,16/10、HP(いずれもアマシャム社製)が挙げられる。本酵素を含む抽出液をこれらの担体を詰めたカラムに通液させると当該酵素はpH8.5の条件下で非吸着画分に回収される。
【0033】
陽イオンクロマトグラフィー用担体としては、MonoS HR(アマシャム社製)が挙げられる。本酵素を含む抽出液をこれらの担体を詰めたカラムに通液させて本酵素をカラムに吸着させ、カラムを洗浄した後に、高塩濃度の緩衝液を用いて酵素を溶出させる。その際、段階的に塩濃度を高めてもよく、濃度勾配をかけてもよい。例えば、MonoS HRを用いた場合には、カラムに吸着した本酵素は、0.2〜0.5M程度のNaClで溶出される。
【0034】
上記のようにして精製された本酵素は、さらにゲル濾過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等により均一に精製できる。ゲル濾過クロマトグラフィー用担体としては、Superdex 200pg、Sephadex 200pg(いずれもアマシャム社製)が挙げられる。また、疎水性クロマトグラフィー用の担体としては、Resource ethyl(アマシャム社製)が挙げられる。
【0035】
上記精製操作において、本酵素を含む画分は、後述する実施例に示される方法等により、各画分のペプチド生成活性を測定することにより、確認することができる。上記のようにして精製された本酵素の内部アミノ酸配列を、配列表の配列番号9、10に示す。
本発明のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質として、より具体的には、下記(A)〜(J)からなる群より選ばれるタンパク質が挙げられる。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
【0036】
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質は、テトラチオバクター エスピー FERM P−21102株から、本発明者らが新規に単離し、上記のα−AMPエステラーゼのタンパク質のアミノ酸配列として特定したものである。配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体には、リーダーペプチドと成熟タンパク質領域が含まれ、アミノ酸残基番号1〜13または1〜24がリーダーペプチドにあたり、アミノ酸残基番号14〜340または25〜340が成熟タンパク質領域である。
一方、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質は、ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株から、本発明者らが新規に単離し、上記のα−AMPエステラーゼのタンパク質のアミノ酸配列として特定したものである。配列番号17に記載されたアミノ酸配列の全体には、リーダーペプチドと成熟タンパク質領域が含まれ、アミノ酸残基番号1〜25がリーダーペプチドにあたり、アミノ酸残基番号26〜550が成熟タンパク質領域である。
【0037】
本発明のタンパク質は、その成熟タンパク質がペプチド生成活性を有するタンパク質であれば、そのリーダーペプチドを含んでも含まなくてもよい。また、本発明のタンパク質には、配列表の配列番号2もしくは配列番号17に記載されたアミノ酸配列中の成熟タンパク質領域、或いは更にリーダーペプチドを含む全領域を有するタンパク質と実質的に同一のタンパク質も含まれる。具体的には、上記(B)、(D)、(F)、(H)、(J)を挙げることができる。
【0038】
ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や活性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、2〜50個、好ましくは2〜30個、さらに好ましくは2〜10個である。また、1若しくは数個のアミノ酸の変異を有する配列は、変異を有さない配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上のホモロジーを有するものとすることができる。ただし、(B)、(D)、(F)、(H)、(J)のタンパク質のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列の場合には、50℃、pH8の条件下で、変異を含まない状態でのタンパク質の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の酵素活性を保持していることが望ましい。例えば、(B)の場合について説明すると、(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列の場合には、50℃、pH8の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の酵素活性を保持していることが望ましい。
【0039】
上記(B)などに示されるようなアミノ酸の変異は、例えば部位特異的変異法によって、上記(A)などに示すアミノ酸配列中の特定の部位のアミノ酸が置換、欠失、および/または挿入されるように改変されたアミノ酸配列をあらかじめ設計し、このアミノ酸配列に対応する塩基配列を発現させることによって得られる。
【0040】
また、上記のような塩基の置換、欠失、および/または挿入等には、微生物の種あるいは菌株による差等、天然に生じる変異も含まれる。上記のような変異を有するアミノ酸をコードするポリヌクレオチドを適当な細胞で発現させ、発現産物の本酵素活性を調べることにより、配列表の配列番号2もしくは配列番号17に記載されたアミノ酸配列中の成熟タンパク質領域を有するタンパク質或いは更にリーダーペプチドを含む全領域を有するタンパク質と実質的に同一のタンパク質が得られる。
【0041】
(3−2)本発明のポリヌクレオチド、組換えポリヌクレオチド、形質転換体の作製およびα−AMPエステラーゼの精製
(3−2−1)α−AMPエステラーゼタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明は、上述したα−AMPエステラーゼタンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、上述したα−AMPエステラーゼタンパク質を構成するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであるが、コドンの縮重により、1つのアミノ酸配列を規定する塩基配列は複数あり得る。具体的には、上述の(A)〜(J)からなる群より選ばれるタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。
【0042】
本発明のポリヌクレオチドの好ましい具体例としては、下記(a)〜(j)からなる群から選ばれるポリヌクレオチドを挙げることができる。
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(f)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(g)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(h)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(j)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0043】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、テトラチオバクター エスピー FERM P−21102株より単離されたものである。なお、配列番号1の塩基番号61〜1080の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、コードシーケンス(CDS)部分である。塩基番号61〜1080の塩基配列には、シグナル配列領域と成熟タンパク質領域とが含まれている。シグナル配列領域は、塩基番号61〜99の領域または61〜132の領域であり、成熟タンパク質領域は塩基番号100〜1080の領域または133〜1080の領域である。すなわち、本発明は、シグナル配列を含むα−AMPエステラーゼタンパク質遺伝子と、成熟したタンパク質としてのα−AMPエステラーゼタンパク質遺伝子の双方を提供する。配列番号1に記載の配列に含まれるシグナル配列は、リーダー配列の類であり、リーダー配列がコードするリーダーペプチドの主たる機能は、細胞膜内から細胞膜外に分泌させることにあると推定される。塩基番号101〜1080、又は133〜1080でコードされるタンパク質、すなわちリーダーペプチドを除く部位が成熟タンパク質であり、高いペプチド生成活性を示すと推定される。
【0044】
また、配列表の配列番号16に記載の塩基番号39〜1688の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395より単離されたものである。配列番号16に記載の塩基番号39〜1688の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、コードシーケンス(CDS)部分である。塩基番号39〜1688の塩基配列には、シグナル配列領域と成熟タンパク質領域とが含まれている。シグナル配列領域は、塩基番号39〜113の領域であり、成熟タンパク質領域は塩基番号114〜1688の領域である。すなわち、本発明は、シグナル配列を含むα−AMPエステラーゼタンパク質遺伝子と、成熟したタンパク質としてのα−AMPエステラーゼタンパク質遺伝子の双方を提供する。配列番号16に記載の配列に含まれるシグナル配列は、リーダー配列の類であり、リーダー配列がコードするリーダーペプチドの主たる機能は、細胞膜内から細胞膜外に分泌させることにあると推定される。塩基番号39〜113でコードされるタンパク質、すなわちリーダーペプチドを除く部位が成熟タンパク質であり、高いペプチド生成活性を示すと推定される。
【0045】
なお、以下に挙げる種々の遺伝子組換え技法については、Molecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor press(1989)などの記載に準じて行うことができる。
【0046】
本発明のポリヌクレオチドは、テトラチオバクター エスピー、ブレバンディモナス エスピーなどの染色体DNA、もしくはDNAライブラリーから、PCR(polymerase chain reacion、White,T.J.et al;Trends Genet.,5,185(1989)参照)又はハイブリダイゼーションによって取得することができる。PCRに用いるプライマーは、上記(3)の欄で説明したようにして精製されたα−AMPエステラーゼに基づいて決定された内部アミノ酸配列に基づいて設計することができる。また、本発明によりα−AMPエステラーゼ遺伝子(配列番号1、配列番号16)の塩基配列が明らかになったので、これらの塩基配列に基づいてプライマーやハイブリダイゼーション用のプローブを設計することもでき、プローブを使って単離することもできる。PCR用のプライマーとして、5'非翻訳領域及び3'非翻訳領域に対応する配列を有するプライマーを用いると、本酵素のコード領域全長を増幅することができる。配列番号1に記載された、リーダー配列および成熟タンパク質コード領域の双方を含む領域を増幅する場合を例にとると、具体的には、5'側プライマーとしては配列番号1において塩基番号61よりも上流の領域の塩基配列を有するプライマーが、3'側プライマーとしては塩基番号1080よりも下流の領域の塩基配列に相補的な配列を有するプライマーが挙げられる。
【0047】
プライマーの合成は、例えば、Applied Biosystems社製DNA合成機 model 380Bを使用し、ホスホアミダイト法を用いて(Tetrahedron Letters(1981),22,1859参照)常法に従って合成できる。PCR反応は、例えばGene Amp PCR System 9600(PERKIN ELMER社製)及びTaKaRa LA PCR in vitro Cloning Kit(宝酒造社製)を用い、各メーカーなど供給者により指定された方法に従って行うことができる。
【0048】
本発明のペプチド製造方法で用いることができる酵素をコードするポリヌクレオチドとしては、リーダー配列を含む場合および含まない場合のいずれにせよ、配列表の配列番号1に記載のCDSからなるポリヌクレオチドと実質的に同一のポリヌクレオチドも含まれる。すなわち、変異を有する本酵素をコードするポリヌクレオチドまたはこれを保持する細胞などから、配列表の配列番号1に記載のCDSと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくは同塩基配列から調製されるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを単離することによっても、本発明のポリヌクレオチドと実質的に同一のポリヌクレオチドが得られる。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドには、リーダー配列を含む場合および含まない場合のいずれにせよ、配列表の配列番号16に記載のCDSからなるポリヌクレオチドと実質的に同一のポリヌクレオチドも含まれる。すなわち、変異を有する本酵素をコードするポリヌクレオチドまたはこれを保持する細胞などから、配列表の配列番号16に記載のCDSと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくは同塩基配列から調製されるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを単離することによっても、本発明のポリヌクレオチドと実質的に同一のポリヌクレオチドが得られる。
【0050】
プローブは、例えば配列番号1に記載の塩基配列に基づいて常法により作製することができる。また、プローブを用いてこれとハイブリダイズするポリヌクレオチドをつり上げ、目的とするポリヌクレオチドを単離する方法も、定法に従って行えばよい。例えば、DNAプローブはプラスミドやファージベクターにクローニングされた塩基配列を増幅し、プローブとして用いたい塩基配列を制限酵素により切り出し、抽出して調製することができる。切り出す箇所は、目的とするポリヌクレオチドに応じて調節することができる。
【0051】
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いポリヌクレオチド同士、例えば50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、中でも好ましくは95%以上、更により好ましくは97%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。このような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれるが、それらについては、市販の発現ベクターにつなぎ、適当な宿主で発現させて、発現産物の酵素活性を後述の方法で測定することによって容易に取り除くことができる。
【0052】
ただし、上記のようにストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列からなるポリヌクレオチドの場合には、50℃、pH8の条件下で、元となる塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の酵素活性を保持していることが望ましい。例えば、上記(b)配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合について説明すると、50℃、pH8の条件下で、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号100〜1080のアミノ酸配列を有するタンパク質の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の酵素活性を保持していることが望ましい。
【0053】
このような改変されたポリヌクレオチドは、従来知られている突然変異処理によって取得され得る。突然変異処理としては、本酵素をコードするポリヌクレオチド、例えば(a)、(c)、(e)、(g)、(i)のいずれかのポリヌクレオチドを、ヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、および本酵素をコードするポリヌクレオチドを保持するエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常人工突然変異に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0054】
尚、配列表の配列番号1に記載のCDSによりコードされるアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示される。また、配列表の配列番号16に記載のCDSによりコードされるアミノ酸配列は、配列表の配列番号17に示される。
【0055】
(3−2−2)組換えポリヌクレオチドおよび形質転換体の作製、ならびにα−AMPエステラーゼの生成
上記(3−2−1)で説明したポリヌクレオチドを適当な宿主に導入し組換えポリヌクレオチドとし、得られる形質転換細胞(形質転換体)に該ポリヌクレオチドにより特定されるタンパク質を発現させることによっても、本発明で用いることができるα−AMPエステラーゼを生成することができる。
【0056】
ポリヌクレオチドにより特定されるタンパク質を発現させるための宿主としては、宿主としては、エシェリヒア コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、及びバチルス ズブチリス(Bacillus subtilis)をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピヒア スティピティス(Pichia stipitis)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)をはじめとする種々の真核細胞を用いることができる。
【0057】
ポリヌクレオチドを宿主に導入するのに用いる組換えポリヌクレオチドは、発現させようとする宿主の種類に応じたベクターに、導入しようとするポリヌクレオチドを、該ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現可能な形態で挿入することで調製可能である。本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモータとしては、テトラチオバクター エスピー、ブレバンディモナス エスピーなどのα−AMPエステラーゼ遺伝子固有のプロモータが宿主細胞で機能する場合には該プロモータを使用することができる。また、必要に応じて宿主細胞で働く他のプロモータを本発明のポリヌクレオチドに連結し、該プロモータ制御下で発現させるようにしてもよい。
【0058】
組換えポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための形質転換法としては、D.M.Morrisonの方法(Methods in Enzymology 68,326(1979))あるいは受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してポリヌクレオチドの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J.Mol.Biol.,53,159(1970))等が挙げられる。
【0059】
タンパク質を組換えポリヌクレオチド技術を用いて大量生産する場合、該タンパク質を生産する形質転換細胞内で該タンパク質が会合し、タンパク質の封入体(inclusion body)を形成させる形態も好ましい一実施形態として挙げられる。この発現生産方法の利点は、目的のタンパク質を菌体内に存在するプロテアーゼによる消化から保護する点および目的のタンパク質を菌体破砕に続く遠心分離操作によって簡単に精製できる点等である。
【0060】
このようにして得られるタンパク質封入体は、タンパク質変性剤により可溶化され、主にその変性剤を除去することによる活性再生操作を経た後、正しく折り畳まれた生理的に活性なタンパク質に変換される。例えば、ヒトインターロイキン−2の活性再生(特開昭61−257931号公報)等多くの例がある。
【0061】
タンパク質封入体から活性型タンパク質を得るためには、可溶化・活性再生等の一連の操作が必要であり、直接活性型タンパク質を生産する場合よりも操作が複雑になる。しかし、菌体の生育に影響を及ぼすようなタンパク質を菌体内で大量に生産させる場合は、不活性なタンパク質封入体として菌体内に蓄積させることにより、その影響を抑えることができる。
【0062】
目的タンパク質を封入体として大量生産させる方法として、強力なプロモータの制御下、目的のタンパク質を単独で発現させる方法の他、大量発現することが知られているタンパク質との融合タンパク質として発現させる方法がある。
【0063】
以下、形質転換された大腸菌を作製し、これを用いてα−AMPエステラーゼを製造する方法を例として、より具体的に説明する。なお、大腸菌などの微生物にα−AMPエステラーゼを作製させる場合、タンパク質のコード配列として、リーダー配列を含む前駆タンパク質をコードするポリヌクレオチドを組み込こんでも、リーダー配列を含まない成熟タンパク質領域のポリヌクレオチドのみを組み込んでもよく、作製しようとする酵素の製造条件、形態、使用条件などにより適宜選択することができる。
【0064】
α−AMPエステラーゼをコードするポリヌクレオチドを発現させるプロモータとしては、通常大腸菌における異種タンパク質生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、T7プロモータ、lacプロモータ、trpプロモータ、trcプロモータ、tacプロモータ、ラムダファージのPRプロモータ、PLプロモータ等の強力なプロモータが挙げられる。また、ベクターとしては、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218等を用いることができる。他にもファージポリヌクレオチドのベクターも利用できる。さらに、プロモータを含み、挿入ポリヌクレオチド配列を発現させることができる発現ベクターを使用することもできる。
【0065】
α−AMPエステラーゼを融合タンパク質封入体として生産させるためには、α−AMPエステラーゼ遺伝子の上流あるいは下流に、他のタンパク質、好ましくは親水性であるペプチドをコードする遺伝子を連結して、融合タンパク質遺伝子とする。このような他のタンパク質をコードする遺伝子としては、融合タンパク質の蓄積量を増加させ、変性・再生工程後に融合タンパク質の溶解性を高めるものであればよく、例えば、T7gene 10、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、デヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、γインターフェロン遺伝子、インターロイキン−2遺伝子、プロキモシン遺伝子等が候補として挙げられる。
【0066】
これらの遺伝子とα−AMPエステラーゼをコードする遺伝子とを連結する際には、コドンの読み取りフレームが一致するようにする。適当な制限酵素部位で連結するか、あるいは適当な配列の合成ポリヌクレオチドを利用すればよい。
【0067】
また、生産量を増大させるためには、融合タンパク質遺伝子の下流に転写終結配列であるターミネータを連結することが好ましい場合がある。このターミネータとしては、rrnBターミネータ、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータ等が挙げられる。
【0068】
α−AMPエステラーゼまたはα−AMPエステラーゼと他のタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子を大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、および/または挿入などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。
【0069】
また、形質転換体を選別するために、該ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモータを持つ発現ベクターが市販されている(pUC系(宝酒造(株)製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製)ほか)。
【0070】
プロモータ、α−AMPエステラーゼまたはα−AMPエステラーゼと他のタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子、場合によってはターミネータの順に連結したポリヌクレオチド断片と、ベクターポリヌクレオチドとを連結して組換えポリヌクレオチドを得る。
【0071】
該組換えポリヌクレオチドを用いて大腸菌を形質転換し、この大腸菌を培養すると、α−AMPエステラーゼまたはα−AMPエステラーゼと他のタンパク質との融合タンパク質が発現生産される。形質転換される宿主は、異種遺伝子の発現に通常用いられる株を使用することができるが、エシェリヒア コリ JM109株が好ましい。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法はMolecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor press(1989)等に記載されている。
【0072】
融合タンパク質として発現させた場合、血液凝固因子Xa、カリクレインなどの、α−AMPエステラーゼ内に存在しない配列を認識配列とする制限プロテアーゼを用いてα−AMPエステラーゼを切り出せるようにしてもよい。
【0073】
生産培地としては、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択する。
【0074】
α−AMPエステラーゼまたはα−AMPエステラーゼと他のタンパク質との融合タンパク質を回収するには、以下の方法などがある。α−AMPエステラーゼあるいはその融合タンパク質が菌体内に可溶化されていれば、菌体を回収した後、菌体を破砕あるいは溶菌させ、粗酵素液として使用できる。さらに、必要に応じて、通常の沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法によりα−AMPエステラーゼあるいはその融合タンパク質を精製して用いることも可能である。この場合、α−AMPエステラーゼあるいは融合タンパク質の抗体を利用した精製法も利用できる。
【0075】
タンパク質封入体が形成される場合には、変性剤でこれを可溶化する。菌体タンパク質とともに可溶化してもよいが、以降の精製操作を考慮すると、封入体を取り出して、これを可溶化するのが好ましい。封入体を菌体から回収するには、従来公知の方法で行えばよい。例えば、菌体を破壊し、遠心分離操作等によって封入体を回収する。タンパク質封入体を可溶化させる変性剤としては、グアニジン塩酸(例えば、6M、pH5〜8)や尿素(例えば8M)などが挙げられる。
【0076】
これらの変性剤を透析等により除くと、活性を有するタンパク質として再生される。透析に用いる透析溶液としては、トリス塩酸緩衝液やリン酸緩衝液などを用いればよく、濃度としては20mM〜0.5M、pHとしては5〜8が挙げられる。
【0077】
再生工程時のタンパク質濃度は、500μg/ml程度以下に抑えるのが好ましい。再生したα−AMPエステラーゼが自己架橋を行うのを抑えるために、透析温度は5℃以下であることが好ましい。また、変性剤除去の方法として、この透析法のほか、希釈法、限外濾過法などがあり、いずれを用いても活性の再生が期待できる。
【0078】
<2>α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法
本発明のα−APMの製造方法は、上記の「<1>α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法」に沿ってα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを合成する第1の工程と、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンをα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルに変換する第2の工程、とを含む。
【0079】
第1の工程における好ましい条件等は、上記の「<1>α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルの製造方法」の欄に記載の通りである。また、第2の工程については、公知の方法により行うことができる。α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンをα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルに変換する第2の工程の反応式は、下記に示すとおりである。
【化3】

本発明のα−APMの製造方法によれば、甘味料等として重要なα−APMを簡便かつ高収率で安価に製造することができる。
【実施例】
【0080】
実施例1 α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成する微生物
細菌の培養には、1L中にグリセロール 20g、硫酸アンモニウム 5g、リン酸一カリウム 1g、リン酸二カリウム 3g、硫酸マグネシウム 0.5g、酵母エキス 10g、ペプトン 10gを含む培地(pH7.0)50mLを500mL坂口フラスコに分注し、115℃で15分殺菌したものを用いた(培地1)。培地1の1L中に、さらにグルコース 5g、酵母エキス 10g、ペプトン 10g、NaCl 5gを含む斜面寒天培地(寒天 20g/L、pH7.0)を調製し、この斜面寒天培地にて30℃、24時間培養した表1に示す微生物を1白金耳接種し、30℃、120往復/分で17時間振とう培養を行った。培養後菌体を遠心分離し、湿菌体として100g/Lになるように10mMのEDTAを含む0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.0)にて懸濁した。
【0081】
これらの微生物の菌体懸濁液0.1mLに、EDTA10mM、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−メチルエステル(α−AMP)100mMを含む100mMホウ酸緩衝液(pH9.0)0.1mLをそれぞれ添加し、全量を0.2mLとした後、20℃にて3時間反応をおこなった。このとき、テトラチオバクター エスピーにα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン(α−AP)の生成が確認された。
【0082】
実施例2 テトラチオバクター エスピー由来のα−AMPエステラーゼ遺伝子の単離
以下、α−AMPエステラーゼ遺伝子の単離について述べるが、微生物はテトラチオバクター エスピー(Tetrathiobacter sp.) FERM P−21102株を用いた。遺伝子の単離にはエシェリヒア コリ(Escherichia coli)JM109を宿主に用い、ベクターはpUC118を用いた。
【0083】
テトラチオバクター エスピー FERM P−21102株をCM2G寒天培地(50g/l グルコース、10g/l 酵母エキス、10g/l ペプトン、5g/l 塩化ナトリウム、20g/l 寒天,pH7.0))上で30℃、24時間培養した。この菌体を、50mlのCM2G液体培地(上記培地より寒天を除いた培地)を張り込んだ500mlの坂口フラスコに1白金耳植菌し、30℃で振盪培養した。
【0084】
培養液50mlを遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)し、集菌した。QIAGEN Genomic−tip System(Qiagen社)を用いて、説明書の方法に基づき、この菌体から染色体DNAを取得した。
【0085】
テトラチオバクター エスピー FERM P−21102株より調製した染色体DNA5μgをPstIで完全に消化した。0.8%アガロースゲル電気泳動により約4kbのDNAを分離し、Gene Clean II Kit(フナコシ社製)を用いてDNAを精製し、10μlのTEに溶解した。このうち4μlと、pUC118 PstI/BAP(宝酒造製)とを混合し、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造製)を用いて連結反応を行った。このライゲーション反応液5μlとEscherichia coli JM109のコンピテント・セル(東洋紡績製)100μlとを混合して、Escherichia coli JM109を形質転換した。これを適当な固形培地に塗布し、染色体DNAライブラリーを作製した。
【0086】
コロニーの形成された固定培地上に、終濃度としてα−AMP5mM、peroxidase 10U/ml、alchol oxidase 0.1U/ml、4−アミノアンチピリン 5mM、ALPS 10mM、EDTA 10mM、KPB(pH7) 20mM、SeqPrepAgarose 8g/lとなるような活性検出液を塗布し、紫色に発色する株をAMPエステラーゼ活性(α−AMPに対するエステラーゼ活性をいう。以下、同じ。)菌株として採取した。
【0087】
本発明に用いられる酵素の活性単位については、50mM α−AMPを含む100mM リン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、20℃で反応させた条件で、1分間に1μmoleのα−APを生成する酵素量を1単位(U)と定義した。
【0088】
比色法によりAMPエステラーゼ活性が確認された株を、50mg/lクロラムフェニコールを含むLB培地3mlを張り込んだ試験管で、37℃、16時間培養した。培養液1mlあたり0.1UのAMPエステラーゼ活性を有しており、クローニングした遺伝子がE.coliで発現したことを確認した。なお、対照としてpUC118のみを導入した形質転換体には、活性は検出されなかった。
【0089】
AMPエステラーゼ活性を有することが確認された上記菌株から、エシェリヒア コリ JM109が保有するプラスミドを、Wizard Plus Minipreps DNA Purification System (プロメガ社製)を用いて調製し、挿入DNA断片の塩基配列を決定した。シーケンス反応はCEQ DTCS−Quick Start Kit(ベックマン・コールター社製)を用いて、説明書に基づき行った。また、電気泳動はCEQ 2000−XL(ベックマン・コールター社製)を用いて行った。
【0090】
その結果、エステラーゼに相同性を有するタンパク質をコードするオープンリーディングフレームが存在し、α−AMPエステラーゼをコードする遺伝子であることを確認した。AMPエステラーゼ遺伝子全長の塩基配列とこれに対応するアミノ酸配列を配列表の配列番号1および配列番号2に示した。得られたオープンリーディングフレームをBLASTP.プログラムで相同性解析した結果、Proteobacterium strain NCIMB−40700由来piperidinedionecarboxylate esterases(WO9802556)と56%の相同性が検出された。
【0091】
配列表に記載の配列番号2のアミノ酸配列をSignalP v3.0プログラム(J.Mol.Biol.,340:783−795,2004.,Improved prediction of signal peptides:SignalP 3.0.)にて解析したところ、アミノ酸配列の1−13番目もしくは1−24番目までがシグナルとして機能して分泌すると予測され、成熟タンパクは14番目もしくは25番目より下流であると推定された。
【0092】
実施例3 テトラチオバクター エスピー由来AMPエステラーゼ(T_est)遺伝子発現株の作成
エシェリヒア コリ(Escherichia coli)W3110染色体DNA上のtrpオペロンのプロモーター領域を配列番号3および配列番号4に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRにより目的遺伝子領域を増幅し、得られたDNA断片をpGEM−Teasyベクター(プロメガ製)にライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中からtrpプロモーターの方向がlacプロモータと反対向きに挿入された目的のプラスミドを有する株を選択した。次にこのプラスミドをEcoO109I/EcoRIにて処理して得られるtrpプロモータを含むDNA断片と、pUC19(Takara製)のEcoO109I/EcoRI処理物とライゲーションした。このライゲーション溶液でエシェリヒア コリ JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択した。次にこのプラスミドをHindIII/PvuIIにて処理して得られるDNA断片と、pKK223−3(Amersham Pharmacia製)をHindIII/HincIIにて処理し、得られたrrnBターミネータを含むDNA断片とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択した。次にこのプラスミドをEcoO109I/HindIIIにて処理して得られるtrpプロモータを含むDNA断片と、pSTV28(Takara製)のEcoO109I/PvuIにて処理して得られるDNA断片と、pKK223−3をHindIII/PvuIにて処理し、得られたrrnBターミネータを含むDNA断片とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、クロラムフェニコール耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択し、このプラスミドをpTrp6と命名した。
【0093】
テトラチオバクター エスピー FERM P−21102株の染色体DNAを鋳型として配列番号5および配列番号6に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRにより目的遺伝子を増幅した。このDNA断片をAseI/PstIにて処理し、得られたDNA断片とpTrp6のNdeI/PstI処理物をライゲーションした。このライゲーション溶液でエシェリヒア コリ JM109を形質転換し、クロラムフェニコール耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択し、このプラスミドをpBE110と命名した。
【0094】
pBE110を有するエシェリヒア コリ JM109を50mg/lクロラムフェニコールを含むLB培地で、37℃、16時間シード培養した。得られた培養液1mlを、50mlの培地(2g/l D−グルコース、10g/l 酵母エキス、10g/l カザミノ酸、5g/l 硫酸アンモニウム、3g/l リン酸二水素カリウム、1g/l リン酸水素二カリウム、0.5g/l 硫酸マグネシウム七水和物、50mg/l クロラムフェニコール)を張り込んだ500ml坂口フラスコにシードし、37℃、16時間の本培養を行った。培養液1mlあたり10UのAMPエステラーゼ活性を有しており、クローニングした遺伝子がE.coliで発現したことを確認した。なお、対照としてpTrp6のみを導入した形質転換体には、活性は検出されなかった。
【0095】
実施例4 ブレバンディモナス エスピーからのAMPエステラーゼの精製
1L中にグルコース 1g、硫酸アンモニウム 5g、リン酸一カリウム 1g、リン酸二カリウム 3g、硫酸マグネシウム 0.1g、酵母エキス 10g、ペプトン 10gを含む培地(pH6.2)50mLを500mL坂口フラスコに分注し、115℃で15分殺菌した(培地3)。培地3に、同培地で30℃、16時間培養したブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株を1白金耳接種し、30℃、120往復/分で16時間振盪培養を行った。
【0096】
以下、遠心分離以降の操作は氷上あるいは4℃にて行った。得られた培養液を遠心分離(10,000rpm,15分)し、菌体を集めた。菌体16gを50mMトリス−塩酸(pH8.0)と10mM エチレンジアミン四酢酸からなる緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA)にて洗浄後、同緩衝液40mlに懸濁し、195Wにて45分間超音波破砕処理を行った。この超音波破砕液を遠心分離(10,000rpm,30分)し、破砕菌体片を除去することにより超音波破砕液上清を得た。この超音波破砕液上清を50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTAに対して一夜透析し、超遠心分離(54,000rpm,30分)にて不溶性画分を除去することにより、上清液として可溶性画分を得た。得られた可溶性画分を50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTAにて予め平衡化したQ−Sepharose 26/10カラム(アマシャム社製)に供した。非吸着タンパク質溶出後、緩衝液中のNaCl濃度を直線的に0Mから1Mまで変化させることで吸着タンパク質を溶出させた。この操作により0.1M付近の活性画分を集めた。得られたQ−Sepharose画分を濃縮し、50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTAに対して透析後、同緩衝液にて予め平衡化したSuperdex 200(アマシャム社製)に供した。この操作により分子量20−25kDaと見積もられる溶出位置にて活性が確認され、回収した。さらに、Superdex画分を濃縮し、50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTAにて予め平衡化したQ−Sepharose 16/10カラム(アマシャム社製)に供した。非吸着タンパク質溶出後、緩衝液中のNaCl濃度を直線的に0Mから0.3Mまで変化させることで吸着タンパク質を溶出させた。この操作により0.05M付近の活性画分を集めた。最後に、Q−Sepharose画分を濃縮し、50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA、0.75M 硫酸アンモニウムからなる緩衝液に対して透析し、同緩衝液で平衡化したResource ethyl(アマシャム社製)に供した。非吸着タンパク質溶出後、緩衝液中の硫酸アンモニウム濃度を直線的に0.75Mから0Mまで変化させることで吸着タンパク質を溶出した。この操作により0.4M付近にAMPエステラーゼ活性を検出した。活性の存在する画分を回収した。これらの操作により、本実施例4で得られたAMP脱エステル化酵素は電気泳動の実験結果より均一に精製されたことが確認された。上記の精製工程における活性の回収率は37%、精製度は5.06倍であった。
【0097】
実施例5 ブレバンディモナス エスピー由来AMPエステラーゼを用いたα−APの生産
実施例4で得られたResource ethyl画分酵素(約3.3U/ml)2μlを、20mMのα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−メチルエステル(α−AMP)、10mM EDTAを含む100mM Tris−HCl(pH8.0)に加え、30℃にて1時間反応した。α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン(α−AP)の生成を確認した。尚、酵素無添加区でのα−APの生成はほとんど認められなかった。
【0098】
実施例6 ブレバンディモナス エスピー由来AMPエステラーゼ遺伝子の採取
ブレバンディモナス エスピーNRRL B−2395株をCM2G寒天培地(5g/l グルコース、10g/l 酵母エキス、10g/l ペプトン、5g/l 塩化ナトリウム、20g/l 寒天、pH7.0)上で30℃、24時間培養した。この菌体を、50mlのCM2G液体培地(上記培地より寒天を除いた培地)を張り込んだ500mlの坂口フラスコに1白金耳植菌し、30℃で振盪培養した。
【0099】
培養液50mlを遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)し、集菌した。QIAGEN Genomic−tip System(Qiagen社)を用いて、説明書の方法に基づき、この菌体から染色体DNAを取得した。
【0100】
以下、AMPエステラーゼ遺伝子の単離について述べるが、微生物はブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株を用いた。遺伝子の単離にはエシェリヒア コリ(Escherichia coli)JM−109を宿主に用い、ベクターはpUC18を用いた。
【0101】
前述のブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株由来のAMPエステラーゼをエドマン分解法により決定したアミノ酸配列(配列番号7)をもとに配列番号8に示す塩基配列を有するミックスプライマーを作成した。ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株由来のAMPエステラーゼのリジルエンドペプチダーゼによる消化物をエドマン分解法により決定したアミノ酸配列(配列番号9)をもとに、配列番号11に示す塩基配列を有するミックスプライマーを作成した。
【0102】
ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株由来のAMPエステラーゼ遺伝子の一部を含むDNA断片を、LA−Taq(宝酒造社製)を用いたPCR法により取得した。ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株から取得した染色体DNAに対し、配列番号8及び配列番号11に示す塩基配列を有するプライマーを使用してPCR反応を行った。
【0103】
PCR反応は、Takara PCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造製)を用いて行い、以下の条件の反応を30サイクル行った。
94℃ 30秒
52℃ 1分
72℃ 1分
【0104】
反応後、反応液3μlを2%アガロース電気泳動に供した。その結果、約800bpのDNA断片が増幅されていることが確認された。
【0105】
α−AMPエステラーゼ遺伝子全長を取得するために、まず、上記約800bpのDNA断片の配列情報より配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15に示す塩基配列を有すプライマーを作成した。上記PCR条件にてPCRを行い、増幅したDNA断片をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行った。サザンハイブリダイゼーションの操作は、Molecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor press(1989)に説明されている。
【0106】
上記PCRで増幅された240bp及び430bpのDNA断片を、2%アガロース電気泳動により分離した。目的のバンドを切り出し、精製した。二つのDNA断片をDIG High Prime(ベーリンガー・マンハイム社製)を使用して、説明書に基づきプローブのジゴキシニゲンによる標識を行った。
【0107】
ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株の染色体DNAを制限酵素BamHIで37℃、16時間反応させて完全に消化した後、0.8%アガロースゲルで電気泳動した。電気泳動後のアガロースゲルからナイロンメンブレンフィルターNylon memebranes positively charged(ロシュ・ダイアグノティクス社製)にブロッティングし、アルカリ変性、中和、固定化の処理を行った。ハイブリダイゼーションはEASY HYB(ベーリンガー・マンハイム社製)を用いて行った。フィルターを50℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った後、上記で作製した、ジゴキシニゲンによる標識プローブを添加し、50℃で16時間ハイブリダイゼーションを行った。この後、フィルターを0.1%SDSを含む2×SSCで室温、20分間洗浄した。さらに0.1%SDSを含む0.1×SSCで65℃、15分間洗浄を2回行った。
【0108】
プローブとハイブリダイズするバンドの検出は、DIG Nucleotide Detection Kit(ベーリンガー・マンハイム社製)を使用して、説明書に基づき行った。その結果、プローブとハイブリダイズする約5kbと4.5kbのバンドが検出できた。
【0109】
ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株の染色体DNA5μgをBamHIで完全に消化した。0.8%アガロースゲル電気泳動により約4−5kbのDNAを分離し、Gene Clean II Kit(フナコシ社製)を用いてDNAを精製し、10μlのTEに溶解した。このうち4μlと、pUC118 BamHI/BAP(宝酒造製)とを混合し、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造製)を用いて連結反応を行った。このライゲーション反応液5μlとEscherichia coli JM109のコンピテント・セル(東洋紡績製)100μlとを混合して、Escherichia coliを形質転換した。これを適当な固形培地に塗布し、染色体DNAライブラリーを作製した。
【0110】
AMPエステラーゼ遺伝子全長を取得するために、上記プローブを用いたコロニーハイブリダイゼーションによる染色体DNAライブラリーのスクリーニングを行った。コロニーハイブリダイゼーションの操作は、Molecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor press(1989)に説明されている。
【0111】
染色体DNAライブラリーのコロニーをナイロンメンブレンフィルターNylon Membranes for Colony and Plaque Hybridization(ロシュ・ダイアグノティクス社製)に移し、アルカリ変性、中和、固定化の処理を行った。ハイブリダイゼーションはEASY HYB(ベーリンガー・マンハイム社製)を用いて行った。フィルターを37℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った後、上記ジゴキシニゲンによる標識プローブを添加し、50℃で16時間ハイブリダイゼーションを行った。この後、フィルターを0.1%SDSを含む2×SSCで室温、20分間洗浄した。さらに0.1%SDSを含む0.1×SSCで65℃、15分間洗浄を2回行った。
【0112】
標識プローブとハイブリダイズするコロニーの検出は、DIG Nucleotide Detection Kit(ベーリンガー・マンハイム社製)を使用して、説明書に基づき行った。その結果、標識プローブとハイブリダイズするコロニーをそれぞれ4株および5株確認できた。
【0113】
標識プローブとハイブリダイズしたことが確認された上記2菌株から、エシェリヒア コリ JM109が保有するプラスミドを、Wizard Plus Minipreps DNA Purification System (プロメガ社製)を用いて調製し、プローブとハイブリダイズした近傍の塩基配列を決定した。シーケンス反応はCEQ DTCS−Quick Start Kit(ベックマン・コールター社製)を用いて、説明書に基づき行った。また、電気泳動はCEQ 2000−XL(ベックマン・コールター社製)を用いて行った。
【0114】
その結果、AMPエステラーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号7)及び内部アミノ酸配列(配列番号9及び配列番号10)を含むタンパク質をコードするオープンリーディングフレームが存在し、AMPエステラーゼをコードする遺伝子であることを確認した。AMPエステラーゼ遺伝子全長の塩基配列とこれに対応するアミノ酸配列を配列番号16および配列番号17に示した。得られたオープンリーディングフレームをBLASTP.プログラムで相同性解析した結果、Bacillus niaciniのエステラーゼ54(J.Mol.Catal.,B Enzym.27(4−6),237−241(2004))とは、アミノ酸配列で37%、Geobacillus stearothermophilus(Gene 329(Complete),187−195(2004))の熱安定性カルボキシルエステラーゼとは、アミノ酸配列で35%の相同性を示した。
【0115】
配列表に記載の配列番号17のアミノ酸配列をSignalP v3.0プログラム(J.Mol.Biol.,340:783−795,2004.,Improved prediction of signal peptides:SignalP 3.0.)にて解析したところ、アミノ酸配列の1−25番目までがシグナルとして機能して分泌すると予測され、成熟タンパクは26番目より下流であると推定された。
【0116】
実施例7 ブレバンディモナス エスピー由来AMPエステラーゼ(V_est)発現株の作成
ブレバンディモナス エスピー NRRL B−2395株の染色体DNAを鋳型として配列番号18及び配列番号19に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRにより目的遺伝子を増幅した。このDNA断片をSacI/HindIIIにて処理し、得られたDNA断片とpSTV28(Takara製)のSacI/HindIII処理物をライゲーションした。このライゲーション溶液でエシェリヒア コリ JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択し、このプラスミドをpBre−2と命名した。
【0117】
pBre−2を有するエシェリヒア コリ JM109を50mg/l クロラムフェニコールを含むLB培地で、30℃、24時間シード培養した。得られた培養液1mlを、50mlの培地(2g/lD−グルコース、10g/l 酵母エキス、10g/l カザミノ酸、5g/l 硫酸アンモニウム、3g/l リン酸二水素カリウム、1g/l リン酸水素二カリウム、0.5g/l 硫酸マグネシウム七水和物、50mg/l アンピシリン)を張り込んだ500ml坂口フラスコにシードし、30℃、24時間の本培養を行った。培養液1mlあたり0.08UのAMPエステラーゼ活性を有しており、クローニングした遺伝子がE.coliで発現したことを確認した。なお、対照としてpSTV28のみを導入した形質転換体には、活性は検出されなかった。
【0118】
実施例8
AMPエステラーゼ遺伝子発現菌株をアンピシリン(100mg/l)を含むL−寒天培地上で、20℃で48時間培養した。次に1/4プレート分の細胞を50mlのL−培地(ペプトン10g/l、酵母エキス5g/l、NaCl 10g/l)に移した。シェーカー(140rpm)を用いて22℃、16時間培養した培養液3ml分(OD=0.15、26倍希釈)を以下に示す組成の培地300mlに植菌し、1.0Lの容量の実験室用ファーメンター内で700rpmの回転数で攪拌通気(1/1vvm)しながらバッチ培養を行った。糖切れの後の培養液15ml分(OD610=0.60、51倍希釈)を同じ組成の培地300mlに植菌し、同様のファーメンターによる攪拌通気(1/1vvm)、20℃で糖フィード培養を行った。pHの値は気体アンモニアで自動的に7.0に調整した。
【0119】
培地の組成(g/l):
Glucose 25.0
MgSO4・7H2O 1.0
(NH42SO4 5.0
FeSO4・7H2O 0.05
MnSO4・5H2O 0.05
Mameno(TN) 0.45
GD113 0.1
【0120】
グルコースと硫酸マグネシウムは別々に滅菌した。他の組成分のpHはKOHで5.0に調整した。
【0121】
フィード糖液の組成(g/l)
Glucose 500
pH無調
【0122】
この培養液25mlを遠心分離(2200g×15分)し、菌体沈殿物を得た。これに、水を25ml添加し、菌体懸濁液とした。
【0123】
実施例9
L−フェニルアラニン 112.5gと水 2250gとを加え、10M アンモニア水6mlでpH8.7とした。L−アスパラギン酸ジメチルエステル・モノメチル硫酸溶液223.9gを10M アンモニア水でpH8.7に維持しつつ添加した。水を加えて全量を2770mlとした後、縮合酵素菌体懸濁液230mlを添加し、20℃で30分攪拌した。反応中は10Mアンモニア水を添加することによりpHを8.7に維持した。縮合反応終了後、95%硫酸61.89gを添加し、pH=3.0とした。40℃に昇温の後、1時間攪拌した。反応液温度を20℃にした後に10Mアンモニア水88mlを添加しpH7.0とした。AMPエステラーゼ酵素菌体懸濁液150ml添加し、20℃で7時間攪拌した。反応中は10Mアンモニア水を添加することにより、pHを7.0に維持した。反応終了後、酵素反応溶液を95%硫酸でpH=6.0とした後、70℃で80分攪拌した。膜濾過(PELLICON2 “MINI” Filter、分画分子量100000)により菌体を除去した後、酵素反応溶液をHPLCで分析したところ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン146.2g(収率76.8%)及びL−フェニルアラニン20.5gを含んでいた。
【0124】
実施例10
実施例9で得た菌体除去後の酵素反応溶液2323gを200hPa、60℃で1.5時間濃縮し1072gとした。濃縮液のうち287gを40℃に昇温後、95%硫酸5.2gを添加しpH3.3とした。残りの濃縮液を3時間かけて添加した。添加中は95%硫酸を添加することによりpHを3.3に維持した。濃縮液添加終了後、40℃で3時間攪拌した後、析出した結晶を濾別し、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを92.4g(収率92.1%)得た。
【0125】
実施例11
実施例10で得た結晶122g(α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン60.1g含有)にMeOH 27ml、35%塩酸104ml、水36mlを添加した後、35℃で24時間、25℃で48時間、10℃で24h攪拌した。析出した結晶を濾別し、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステル塩酸塩を57.1g(収率80.2%)得た。
【0126】
実施例12
実施例11で得られたα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステル塩酸塩44.9gを水530mlに溶解した後、18wt%炭酸ナトリウム水溶液でpH=4.9に調整した。析出した結晶を濾別したところ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルを33.6g(収率84.2%)得た。
【配列表フリーテキスト】
【0127】
配列番号1:AMPエステラーゼ遺伝子(T_est)の塩基配列と対応するアミノ酸配列
配列番号2:AMPエステラーゼ遺伝子(T_est)のアミノ酸配列
配列番号3:trpプロモータ増幅用1
配列番号4:trpプロモータ増幅用2
配列番号5:AMPエステラーゼ遺伝子(T_est)増幅用プライマー1
配列番号6:AMPエステラーゼ遺伝子(T_est)増幅用プライマー2
配列番号7:AMPエステラーゼ(V_est)のN末端アミノ酸配列
配列番号8:AMPエステラーゼ(V_est)のMixプライマー1
配列番号9:AMPエステラーゼ(V_est)の内部アミノ酸配列1
配列番号10:AMPエステラーゼ(V_est)の内部アミノ酸配列2
配列番号11:AMPエステラーゼ(V_est)のMixプライマー2
配列番号12:AMPエステラーゼ(V_est)のプローブ作成用プライマー1
配列番号13:AMPエステラーゼ(V_est)のプローブ作成用プライマー2
配列番号14:AMPエステラーゼ(V_est)のプローブ作成用プライマー3
配列番号15:AMPエステラーゼ(V_est)のプローブ作成用プライマー4
配列番号16:AMPエステラーゼ(V_est)の塩基配列と対応するアミノ酸配列
配列番号17:AMPエステラーゼ(V_est)のアミノ酸配列
配列番号18:AMPエステラーゼ(V_est)発現株作成用のプライマー1
配列番号19:AMPエステラーゼ(V_est)発現株作成用のプライマー2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する酵素または酵素含有物を用いて、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルからα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを生成することを特徴とする、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
【請求項2】
前記酵素または酵素含有物が、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する能力を有する微生物の培養物、該培養物より分離した微生物菌体、および、該微生物の菌体処理物からなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
【請求項3】
前記微生物が、テトラチオバクター属およびブレバンディモナス属からなる群より選ばれる属に属する微生物であることを特徴とする、請求項2に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
【請求項4】
前記微生物が、下記(A)〜(J)からなる群より選ばれるタンパク質を発現可能な、形質転換された微生物であることを特徴とする、請求項2に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
【請求項5】
前記微生物が、下記(a)〜(j)からなる群より選ばれるポリヌクレオチドが導入された、形質転換微生物であることを特徴とする、請求項2に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(f)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(g)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(h)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(j)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項6】
前記酵素が、下記(A)〜(J)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンの製造方法によりα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンを合成する反応工程と、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンをα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルに変換する反応工程とを含む、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステルの製造方法。
【請求項8】
テトラチオバクター属およびブレバンディモナス属からなる群より選ばれる属に属する微生物に由来し、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質。
【請求項9】
下記(A)〜(J)からなる群より選ばれるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号14〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列を有するタンパク質
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号25〜340のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(E)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26〜550のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、L−フェニルアラニンをL−アスパラギン酸−α,β−ジエステルのα−エステル部位に選択的にペプチド結合させる活性を有するタンパク質
(G)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(H)配列表の配列番号17に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質
(I)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(J)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含むアミノ酸配列を有し、かつ、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質
【請求項10】
請求項9に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
下記(a)〜(j)からなる群から選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号100〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(d)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号133〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(f)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号114〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(g)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(h)配列表の配列番号16に記載の塩基配列のうち塩基番号39〜1688の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(j)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち塩基番号61〜1080の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルを脱エステル化する活性を有する成熟タンパク質領域を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項12】
前記ストリンジェントな条件が、1×SSCおよび0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃で洗浄が行われる条件である、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを有する組換えポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドが導入された形質転換細胞。

【公開番号】特開2008−178340(P2008−178340A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14086(P2007−14086)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】