説明

αアドレナリン受容体アンタゴニストの安定化製剤およびその利用

【課題】血流を増加させるためのαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤の提供。
【解決手段】pHが2.0から6.0の範囲内である、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニスト、水性溶媒および金属キレート剤を含む、安定な液体製剤。該αアドレナリン受容体アンタゴニストとしては、フェントラミン、塩酸フェントラミン、メシル酸フェントラミン、トラゾリン、ヨヒンビン、ラウオルシン、ドキサゾシン、ラベタロール、プラゾシン、テラゾシンもしくはトリマゾシン、または上記のいずれかの薬学的に許容される塩から選択されるものであり、特に、メシル酸フェントラミンであることが好ましい。該金属キレート剤としては、エチレンジアミン三酢酸二アンモニウム、ヒドロキシエチル-エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ酢酸、クエン酸またはEDTAから選択されるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、製薬化学の分野に属する。本発明は、特に、αアドレナリンアンタゴニストの安定化液体製剤の有効な低用量を投与する段階を含む、局所麻酔剤(anesthesia)とαアドレナリンアゴニストとによって誘導される局所麻酔を解除する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
局所麻酔剤は、歯科的処置の際の患者の疼痛を軽減するために歯科医によって広く用いられている。疼痛の軽減を提供するために、リドカインのような局所麻酔化合物を含む薬物製剤を、歯科的処置される歯または複数の歯の周辺の歯肉組織に注射する。短時間作用型と長時間持続型の局所麻酔製剤がある。短時間作用型の麻酔製剤は、生理食塩液または他の適した注射用媒体に溶解したリドカインまたは関連する局所麻酔剤を含む。典型的に、短時間作用型の局所麻酔剤を用いた局所麻酔は、約20分間〜30分間持続するが、これは多くの歯科的処置にとって十分な長さではない。長時間持続型局所麻酔を得るために、歯科医はしばしばリドカイン、または、局所麻酔剤そのものに加えて低濃度のエピネフリンもしくはレボノルデフリンのような別のアドレナリン受容体アゴニストを含む他の局所麻酔製剤を用いる。歯科医によって行われる局所麻酔処置の90%以上が、αアドレナリン受容体アゴニストを含む局所麻酔製剤を必要とする。血管収縮剤を用いない局所麻酔剤ではほとんどの歯科的処置にとって作用の持続が短すぎるため、血管収縮剤が必要である。エピネフリンを加えると、注射組織の血管上のαアドレナリン受容体が刺激される。これは、組織において血管を収縮させる効果を有する。血管の収縮によって、局所麻酔剤は組織により長く留まるようになり、その結果麻酔効果の持続時間が大幅に(短時間作用製剤における20分間から、長時間持続製剤における3時間〜6時間まで)増加する。エピネフリン含有局所麻酔剤の使用に伴う主な問題は、通常、歯髄の麻酔および鎮痛の場合より何時間も長く持続する軟組織麻酔(唇、頬、舌)である。歯髄麻酔および鎮痛は、歯科的処置の点から見て望ましい局所麻酔効果であるが、軟組織麻酔は通常望ましくない副作用である。軟組織麻酔によって、口の内部および周辺の持続的で不快なしびれた感覚、笑えないこと、飲食および嚥下が困難であること、労働時間または会議の損失による生産性の喪失のような、多くの問題および不都合がもたらされる。軟組織麻酔が長引くことは、舌または唇を噛むことによる損傷の原因にもなりうる。さらに、軟組織麻酔が長引くと不便であり、多くの患者はそれを不快であると認識している。軟組織麻酔の持続は、特に、好奇心から麻酔組織を噛むことの多い小児における損傷をもたらしうる。したがって、もはや必要のなくなった後に局所麻酔を速やかに解除する薬剤を歯科医が用いることが望ましいと考えられる。
【0003】
米国特許第4,659,714号(特許文献1)には、血管収縮剤、特に血管壁のαアドレナリン受容体部位に作用する血管収縮剤を同時投与することによって局所麻酔を持続させる方法が開示されている。米国特許第4,659,714号(特許文献1)はまた、持続的な麻酔効果を減少させるためにαアドレナリン受容体アンタゴニストをその後に投与することも開示している。この特許に記載されているαアドレナリン受容体アンタゴニストの群には、メシル酸フェントラミンが含まれる。しかし、例として、「フェントラミン」の投与が言及されている。メシル酸フェントラミンは、FDAに認可され、かつ水に容易に溶解することから、投与されたのはメシル酸フェントラミンである可能性がかなり高い。対照的に、フェントラミンはFDAに認可されておらず、かつ水に比較的不溶性である。
【0004】
米国特許第4,659,714号(特許文献1)の実施例1、表1に示されるように、「フェントラミン」0.5〜1.5 mgを、エピネフリンと混合したリグノカインによって予め治療した患者群に投与する。表1の結果は「フェントラミン」の量を増加させると麻酔の持続時間が減少することを示している。実施例2では、「フェントラミン」2mgを投与した。実施例3では、「フェントラミン」各1mgの4回注射(合計4mg)を行った。実施例4では、「フェントラミン」各1mgの4回注射(合計4mg)を行った。
【0005】
米国特許第4,659,714号(特許文献1)の特許に記載された「フェントラミン」の用量(0.5mg〜4mg)は、クロム親和性細胞腫患者における高血圧症の全身治療に関してFDAによって認可されたメシル酸フェントラミンの用量(2.5mg/ml〜5mg/mlの溶液中で全量5mg)と重複する。それらの量は通常、高血圧症の全身治療を意図しているため、そのような高レベルの用量は、健常者に用いられた場合重度の副作用を引き起こしうる。メシル酸フェントラミン製品の添付文書は以下のような副作用警告を記している:「通常、著しい高血圧症に関連して、フェントラミンの投与後に心筋梗塞、脳血管痙縮、および脳血管閉塞が起こることが報告されている」。このように、米国特許第4,659,714号(特許文献1)により局所麻酔の解除に関して開示された用量は、許容されない副作用を引き起こす可能性があり、歯科医の診療所で健常被験者における麻酔の解除のためにこの製品を用いることを除外している。
【0006】
米国特許第4,659,714号(特許文献1)に開示されているよりはるかに低い濃度のメシル酸フェントラミンを注射することによって、非常に効率的に局所麻酔の解除が行われることが見出されている。国際公開第01/85171号(特許文献2)を参照されたい。わずか0.05 mg/mlのメシル酸フェントラミンを含む溶液が、αアドレナリン受容体アゴニストを含む局所麻酔剤の効果を急速に解除できることが判明した。このメシル酸フェントラミンの薬物濃度は米国特許第4,659,714号(特許文献1)によって開示されたメシル酸フェントラミン薬物濃度より20倍〜100倍低い。メシル酸フェントラミンのそのような低い薬物濃度では、心筋梗塞および脳血管痙縮のような全身性副作用は観察されないと考えられる点が、長所である。これによって、生命に関わる副作用または他の厄介な副作用を引き起こすことなく局所麻酔を解除するために、メシル酸フェントラミンを安全かつ有効に用いることができる。実際に、メシル酸フェントラミンの低濃度製剤を用いるヒトの臨床有効性試験において、如何なる副作用も全くない非常に有効な麻酔の解除が観察された。これは、米国特許第4,659,714号(特許文献1)によって開示された局所麻酔解除方法の重要な改善となる。
【0007】
本発明は、先行技術のメシル酸フェントラミンの製剤が水中で不安定であり、かつ、水または生理食塩液で還元して保存できないという発見に向けられる。メシル酸フェントラミンの長期保存を可能にする安定な液体製剤も同様に発見されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,659,714号
【特許文献2】国際公開第01/85171号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む組成物および安定な液体製剤ならびに、血流を増加させるためのその使用を提供する。一つの態様において、本発明の安定な液体製剤は、麻酔剤、好ましくは、αアドレナリン受容体アゴニストと共に投与される長時間持続型局所麻酔剤の作用を解除するために有用である。
【0010】
1つの態様において、本発明は、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における血流を増加させる方法に関する。
【0011】
1つの好ましい態様において、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤の投与は、αアドレナリン受容体アゴニストの事前投与に対抗するために用いられる。
【0012】
もう1つの態様において、本発明は、哺乳動物に局所麻酔を提供する方法であって、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を必要とする哺乳動物に対して、局所麻酔を提供するのに十分な量の麻酔剤を投与する段階;およびその後
(b)麻酔の期間を短縮するために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を前記部位に投与する段階。
【0013】
好ましい態様において、本発明は、哺乳動物に局所麻酔を提供する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、麻酔の必要な哺乳動物の麻酔部位に局所麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;ならびにその後
(b)持続を減少させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0014】
より好ましい態様において、本発明は、ヒトに局所麻酔を提供する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量のポロカインが投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のレボノルデフリンが投与され、それによって、該部位で局所麻酔を生じる、ポロカインおよびレボノルデフリンを含む溶液を、麻酔の必要なヒトの麻酔部位に注射することによって投与する段階;
(b)ヒトに医学的処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させるために、メシル酸フェントラミン約0.1 mg/ml以下の濃度を含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0015】
本発明はまた、組織移植片の生存を増強する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、組織移植を受ける哺乳動物の組織移植片の部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)組織移植処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、組織片の生存を増強するために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0016】
本発明はまた、医学的処置の際の皮膚壊死の発生を減少させる方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、医学的処置を受ける哺乳動物の処置の部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)医学的処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、処置の際の皮膚壊死の発生を減少させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0017】
本発明はまた、哺乳動物における発痛点を治療する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)発痛点を有する哺乳動物において、選択的に麻酔剤の投与によって発痛点注射を行う段階;および
(b)発痛点の領域への血流を増加させ、発痛点の治療を増強するために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を部位に投与する段階。
【0018】
本発明はまた、哺乳動物に部分麻酔ブロックを提供する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて麻酔ブロックを持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、麻酔の必要な哺乳動物の麻酔ブロックを受ける部位に麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;ならびにその後
(b)持続を減少させるために、該部位にαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を投与する段階。
【0019】
本発明はまた、ドライソケットの発生を減少させる方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、抜歯を受ける哺乳動物の抜歯部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)抜歯処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、ドライソケットの発生を減少させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0020】
本発明はまた、損傷または疾患を有する歯の生存を増強する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、損傷した歯の修復または疾患を有する歯の治療を受ける哺乳動物の歯の部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)修復処置または治療処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、損傷または疾患を有する歯の生存を増強するために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0021】
本発明はまた、歯肉の血流を増加させ、歯周病の治療を増強するために、歯周病を有する哺乳動物の部位に、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を投与する段階を含む、歯周病を治療するための方法に関する。
【0022】
本発明はまた、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤に関する。製剤は、αアドレナリン受容体アンタゴニストの安定性を増強して、アンタゴニストの長期(例えば、12ヶ月を上回る)保存を可能にする金属キレート剤および張性調節剤のような添加剤を含んでもよい。
【0023】
本発明はまた、メシル酸フェントラミンを含む安定な液体製剤に関する。
【0024】
本発明はまた、第一の容器手段が麻酔剤および選択的にαアドレナリン受容体アゴニストを含み、第二の容器手段がαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を含む、二つまたはそれ以上の容器手段をその中に密封して有する担体手段を含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】40℃でのメシル酸フェントラミンの広範囲のpH安定性プロフィールを示す図である。
【図2】60℃でのメシル酸フェントラミンの狭い範囲のpH安定性プロフィールを示す図である。
【図3】下歯槽神経ブロック後に麻酔組織において正常知覚が回復するための時間に対する、メシル酸フェントラミン投与の効果を示す。
【図4】下歯槽神経ブロック後に麻酔組織において正常知覚が回復するための時間に対する、メシル酸フェントラミン投与の効果に関する用量反応試験を示す。
【図5】側切歯浸潤後に麻酔組織において正常知覚が回復するための時間に対する、メシル酸フェントラミン投与の効果に関する、用量反応試験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む、組成物および安定な液体製剤、ならびに血流を増加させるためのそれらを使用に関する。1つの態様において、本発明は、哺乳動物における血流を増加させる方法であって、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を哺乳動物に投与する段階を含む方法に関する。本発明の1つの態様において、血流増加は、安定な液体製剤が投与された哺乳動物の身体の特定組織または一部において起こる。もう1つの態様において、血流増加は全身性である。
【0027】
αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤の投与は、αアドレナリン受容体アゴニストの事前投与に対抗するために用いられることが好ましい。
【0028】
もう1つの態様において、本発明は、哺乳動物に局所麻酔を提供する方法であって、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を必要とする哺乳動物に対して、局所麻酔を提供するのに十分な量の麻酔剤を投与する段階;およびその後
(b)麻酔の期間を短縮するために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を前記部位に投与する段階。
【0029】
好ましい態様において、本発明は、哺乳動物に局所麻酔を提供する方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、麻酔の必要な哺乳動物の麻酔部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;ならびにその後
(b)持続を減少させるために、該部位に低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を投与する段階。
【0030】
αアドレナリン受容体アゴニストが、麻酔剤が投与された部位近傍で血管を収縮させるように作用して麻酔を持続させる限りにおいて、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストは、一単位の(unitary)薬学的組成物の一部としてまたは別々の薬学的組成物の一部として同時に投与される。好ましい態様において、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを溶液として一緒に投与する。麻酔剤およびαアドレナリンアゴニストは、注射、浸潤、または局所投与によって、例えば、ゲルもしくはペーストの一部として、投与されうる。
【0031】
好ましい態様において、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを含む溶液は、例えば歯科的処置の前に、麻酔部位への直接注射により投与される。
【0032】
本発明の実施において利用されうる局所麻酔剤の例としては、リドカイン、ポロカイン、リグノカイン、キシロカイン、ノボカイン、カルボカイン、エチドカイン、プロカイン、プリロカイン、ブピバカイン、シンコカインおよびメピバカインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明によって利用可能なαアドレナリン受容体アゴニストの例としては、カテコールアミンおよびカテコールアミン誘導体が挙げられる。特定の例としては、レボノルデフリン、エピネフリンおよびノルエピネフリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の実施において利用可能なαアドレナリン受容体アンタゴニストの例としては、フェントラミン、塩酸フェントラミン、メシル酸フェントラミン、トラゾリン、ヨヒンビン、ロオルシン、ドキサゾシン、ラベトロール、プラゾシン、テトラゾシンおよびトリマゾシンが挙げられるが、これらに限定されない。メシル酸フェントラミンは、クロム親和性細胞腫患者の高血圧症治療、ノルエピネフリンの偶発的溢出後の真皮壊死および痂皮形成(sloughing)の治療ならびにクロム親和性細胞腫の診断(フェントラミン遮断試験)に関してFDAの認可を受けている。メシル酸フェントラミンは、生理食塩水またはその他の薬学的に許容される担体に溶解可能な5mgの薬剤物質を含むバイアル形態でマンニトールを含む凍結乾燥製剤として提供される。
【0035】
発明に基づく医学的処置後に局所麻酔を解除する目的で、低用量、すなわち副作用を生じない用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与するのが好ましく、すなわち、成人に対しては用量当たり約0.45mg以下(約0.0064mg/kg以下)または小児に対しては用量当たり0.18mg以下、より好ましくは成人に対しては用量当たり約0.25mg未満(約0.0036mg/kg以下)または小児に対しては用量当たり0.1mg未満、より好ましくは、成人に対しては用量当たり約0.1mg未満(約0.0014mg/kg未満)または小児に対しては用量当たり0.04mg未満、最も好ましくは、成人に対しては用量当たり約0.08mg(約0.0011mg/kg)または小児に対しては用量当たり約0.032mgの、メシル酸フェントラミンまたは等モル量の別のアドレナリン受容体アンタゴニストを投与するのが好ましい。好ましい態様において、αアドレナリン受容体アンタゴニストの濃度は、約1mg/ml以下、好ましくは約0.001mg/mlから約0.25mg/ml、より好ましくは、約0.05mg/mlから約0.1mg/mlである。
【0036】
αアドレナリン受容体アンタゴニストは、麻酔部位への注射、浸潤、または局所投与により当該部位に投与されうる。好ましい態様において、αアドレナリン受容体アンタゴニストは粘膜組織に投与される。本態様において、αアドレナリン受容体アンタゴニストを、含浸性の(impregnated)ウェーファー(wafer)、ペレットまたは綿塊の形態で部位に塗布することができ、これにより、アンタゴニストは粘膜組織から吸収されて、局所麻酔の解除をもたらす。別の態様において、αアドレナリン受容体アンタゴニストを、(例えば、部位への注射または浸潤により)部分麻酔ブロックの部位に投与してブロックを解除する。好ましい態様において、硬膜外麻酔を解除するため、αアドレナリン受容体アンタゴニストを、動物の硬膜外腔へのカニューレを介して投与する。
【0037】
本発明によって実施されうる医学的処置の例としては、大手術および小手術、歯科的処置、美容整形、組織移植(例えば、毛および骨の移植)ならびに帝王切開が挙げられるが、これらに限定されない。ある態様において、本発明の麻酔の解除は、耳および鼻の先端ならびに指等の四肢の喪失等に至る過誤を起こさないように医学的訓練を受けた者が実施する。
【0038】
組織中で薬剤の拡散を促進する酵素であるヒアルロニダーゼを、αアドレナリン受容体アンタゴニストと同時に投与することができる。ヒアルロニダーゼおよびαアドレナリン受容体アンタゴニストが、局所麻酔が解除されるべき部位に投与され、かつそれぞれαアドレナリン受容体アンタゴニストの拡散を促進し麻酔を解除するのに有効な量が投与される限り、ヒアルロニダーゼおよびαアドレナリン受容体アンタゴニストを、一単位の薬学的組成物の一部としてまたは別々の薬学的組成物の一部として同時に投与することができる。ヒアルロニダーゼを、麻酔部位に一回または複数回投与する。通常、約1.5Uから約200Uのヒアルロニダーゼを、一回または複数回注射することによって投与する。最も好ましい態様において、部位に注射することにより約200Uのヒアルロニダーゼを投与する。当業者であれば、通常の実験で容易にヒアルロニダーゼの至適量を決定することができる。
【0039】
毛髪の移植を実施する場合には、外科医が出血を低減し部位の視野を確保するために、麻酔剤およびエピネフリンを注射することが多い。バーンスタイン(Bernstein), R.M.およびラスマン(Rassman), W.R.の「毛髪移植国際フォーラム(Hair Transplant Forum International)」、10:39-42(2000)によると、大規模移植作業においてエピネフリンを使用する場合、毛髪の移植処置におけるエピネフリンの利用は、術後休止期脱毛を含む多くの因子によって制限される。さらに、多数の受容(recipient)部位のために血液供給が既に損なわれている領域にアドレナリンを添加すると、組織は充分な酸素を受け取れなくなる。証明されているわけではないが、バーンスタイン(Bernstein)およびラスマン(Rassman)によると、受容部位へのエピネフリンの浸潤は、毛髪移植の際時々報告される「中心壊死」の発生に関係する因子である可能性がある。さらに、エピネフリンの強い血管収縮作用が、移植片の生存率低下に寄与しうる可能性がある。従って、本発明によると、以下の段階を含む方法において、組織移植片の生存率を増大させることができる:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、組織移植を受ける哺乳動物の組織移植片の部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)組織移植処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、組織片の生存を増強するために、該部位にαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を投与する段階。
【0040】
好ましい態様において、組織移植片は毛髪の移植片である。別の好ましい態様において、厄介な副作用を回避するため、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを部位に投与する。
【0041】
このような毛髪の移植片は、複数の毛細胞および単一の移植毛細胞毛嚢(follicle)を含む皮膚弁(skin flap)を含む。通常、このような毛髪移植片を、毛が活発に成長している動物の部位から得る。本発明によると、局所麻酔を解除し術後休止期脱毛(毛の脱落)および皮膚弁生存率を減少させるため、毛髪の移植処置後にαアドレナリン受容体アンタゴニストが投与される。
【0042】
別の態様において、移植片の生存率を高めるために組織移植片部位にヒアルロニダーゼを投与してもよい。ピメンテル(Pimentel), L.A.S.およびゴールデンバーグ(Goldenburg), R.C.d.Sの Revista da Soociedade Brasileira de Cirurgia Plastica 14(1999)によると、ヒアルロニダーゼの局所投与により皮膚弁の生存率が高まる。著者らによれば、ヒアルロニダーゼは、おそらく遠位部に溢出する体液を急速に拡散させることにより、組織傷害を低減するまたは予防する酵素であり、これによって、養分の代謝回転が改善される。一般に、ヒアルロニダーゼを、毛髪の移植片部位に一回または複数回注射する。同様に、本発明を利用して、外科的移植処置における他の組織移植または骨の生存率を改善することができる。ここで、外科手術中の出血を最小に止めるために局所麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストが使用され、かつここで、移植片の生存率を高めるために、処置後に迅速な組織の再潅流が望ましい。
【0043】
さらに好ましい態様において、組織移植片は歯科的インプラントである。本発明によると、局所麻酔を解除し、当該部位への血流を増加させ、インプラントの生存率を高めるため、歯科的インプラント処置後に、αアドレナリン受容体アンタゴニストが投与される。
【0044】
医学的処置に局所麻酔を用いる場合、潜在的副作用としては、麻酔領域への血流の減少による真皮壊死が挙げられる。処置終了後の麻酔の迅速解除によって血流が増加し、従って患部組織への酸素の供給が増加する。従って、別の態様において、以下の段階を含む方法において、医学的処置の際の真皮壊死の発生が減少しうる:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、医学的処置を受ける哺乳動物の処置部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)医学的処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、医学的処置の際の皮膚壊死の発生を減少させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0045】
好ましい態様において、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与する。
【0046】
症状を迅速に治療しなければならないような緊急時のために自己注射器を携帯して使用する人の数は、ますます増えている。例えば、ハチの毒針などに対して深刻なアレルギーを有する人々は、刺された際に即座に使用するために、エピネフリンを含んだ自己注射器を携帯していることが多い。自己注射器の使用が増大したことは、特に指先を、自己注射器の針で刺す事故の数の増加をもたらした。エピネフリン注射のそのような事故は、指への血流の重大な減少につながり、これは組織壊死および、場合によっては指の喪失をもたらす。したがって、本発明の更なる態様において、エピネフリンなどの血管収縮剤を含む針に刺された際には、組織壊死の発生を解除するため、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を、針に刺された箇所に投与することにより、治療を行う。
【0047】
発痛点とは、骨格筋の張りつめた帯(taut band)に局在する散在性で巣状の(focal)過感受性部位である(Alverez, D.J.およびRockwell, P.G.、Amer. Fam. Physician 65:653-660、2002を参照されたい)。発痛点は、局所的関連痛を生じる。局所麻酔剤注射に付随した、または乾式の(dry)発痛点の穿刺は、発痛点を不活性化し、症状を緩和する最も効果的な治療の一つである。発痛点の再潅流もまた、疼痛を緩和すると考えられている。従って、注射中またはその後に、発痛点への血流を促進することは利点がある。従って、本発明によると、以下の段階を含む方法において、発痛点注射の有益な効果を促進することができる:
(a)発痛点を有する哺乳動物において、選択的に麻酔剤投与により、発痛点注射を行う段階;および
(b)発痛点の領域への血流を増加させ、発痛点の治療を促進するために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を、該発痛点部位に投与する段階。
【0048】
発痛点に麻酔剤を注射する場合には、部位の血管を収縮させ、局所麻酔を持続させるのに有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストを注射することもできる。好ましい態様において、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与する。
【0049】
さらなる態様において、ブロックを解除するため、部分麻酔ブロック後にαアドレナリン受容体アンタゴニストの安定な液体製剤を投与する。硬膜外麻酔剤は通常、出産、帝王切開、骨盤の外科手術等を含む、多くの医学的処置における部分麻酔ブロックを提供するために投与される。硬膜外麻酔が持続すると、持続性麻痺、随意的な排尿ができないこと、および低血圧を含む、多くの厄介な副作用が起こる。通常、麻酔剤を希釈し、麻酔を低減するために、麻酔科医は硬膜外腔に等容量の生理食塩水を注入する。
【0050】
本発明は、需要に応じて、大容量の生理食塩水を注入する必要のない麻酔の解除を提供することにより、副作用の問題を解決する。本態様において、本発明は、以下の段階を含む、哺乳動物に部分麻酔ブロックを提供する方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、麻酔の必要な哺乳動物の麻酔ブロックを受ける部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;ならびにその後
(b)持続を減少させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0051】
好ましい態様において、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与する。別の好ましい態様において、麻酔ブロックは硬膜外麻酔であり、ブロック部位は硬膜外腔である。本発明は、同様に、腕神経叢ブロックおよび大腿(femoral)ブロックを含む他のブロックの解除のための用途を有する。
【0052】
別の態様において、ブロック部位、例えば、硬膜外腔内におけるαアドレナリン受容体アンタゴニストの拡散、および麻酔の迅速な解除を促進するため、αアドレナリン受容体アンタゴニストと共にヒアルロニダーゼを投与する。
【0053】
歯科的処置のため、αアドレナリン受容体アゴニストを含む局所麻酔剤を投与した場合、歯肉および歯髄の血流の両方が有意に減少し、これは(1時間を上回る)長時間持続しうる(Pogrol, A.J.、Oral Surg. Oral Med. Oral Pathol. Oral Radiol. Endod. 85:197-202、1998を参照されたい)。従って、血流が歯および/または周辺組織の健康維持に不可欠であるような多くの歯科的状況において、麻酔の必要性が消失した後に、αアドレナリン受容体アゴニストの効果をできる限り解除することが有利である。
【0054】
抜歯が行われると、空の歯槽に血液がたまり血餅(clot)が生じる。血餅が未熟なうちに消失するまたは分解されると、骨および神経終末の露出によって、激しい疼痛状態が発生する。このような状態は、歯槽骨炎またはドライソケットとして知られる。抜歯後、血液の充填が歯槽の一部のみであった場合には、ドライソケットの発生が増加することが示されている(Heasman, P.A.およびJacobs, D.J.、Br. J. Oral Maxillofacial Surg. 22:115-122、1984を参照されたい)。抜歯処置完了後に局所麻酔の解除を行うことにより、抜歯後の歯槽の周辺領域への血流が増加すると考えられ、これにより歯槽への充填を促進させることができる。従って、本発明によると、以下の段階を含む方法において、ドライソケットの発生を減少させることができる:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、抜歯を受ける哺乳動物の抜歯部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)抜歯処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、ドライソケットの発生を減少させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0055】
好ましい態様において、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与する。
【0056】
歯の外傷性損傷または歯科的疾患が起こった場合には、歯髄組織の壊死によって歯の消失が起こることが多い。歯髄の活力を持続させるために、血流を維持しなければならず、血管の再生が起こらなければならない。損傷した歯の修復または歯の疾患の治療完了後に局所麻酔を解除することによって、歯領域への血流が増加することが考えられ、これにより壊死組織への血流が促進される。従って、本発明によると、以下の段階を含む方法において、損傷したまたは疾患のある歯の生存を促進させることができる:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、損傷した歯の修復または疾患を有する歯の治療を受ける哺乳動物の損傷または疾患を有する歯の部位に、麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;
(b)修復処置または治療処置を行う段階;ならびにその後
(c)持続を減少させ、損傷または疾患を有する歯の生存を増強するために、該部位にαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を投与する段階。
【0057】
好ましい態様において、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与する。
【0058】
上記のように、αアドレナリン受容体アゴニストを含む局所麻酔剤を歯科的処置のために投与する場合、歯肉および歯髄双方における血流の有意な減少が起こり、これは(1時間を上回る)長時間持続しうる。これらの状況下では、非常に長い間口を開いているために、顎の筋肉が痛くなってくる。この痛みは、顎の筋肉が疲労して痙攣することに起因する。筋痙攣(muscle spasm)はアゴニストの使用によって一層悪化する。αアドレナリンアンタゴニストを用いると、血液の急速な局所再還流が起こり、したがって、筋痙攣および術後痛が減少または消失する。この態様において、本発明は、筋痙攣または術後痛を減少または消失させる方法であり、以下の段階を含む方法に関する:
(a)局所麻酔を提供するために有効な量の麻酔剤が投与され、部位の血管を収縮させて局所麻酔を持続させるために有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される、麻酔を必要とする哺乳動物の麻酔部位に麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを投与する段階;ならびにその後
(b)筋痙攣または該部位における術後痛を減少または消失させるために、αアドレナリン受容体アンタゴニストの安定な液体製剤を該部位に投与する段階。
【0059】
本方法により術後痛を減少または消失させなければならない場合、(歯科的処置などの)医学的処置を、(a)の後、かつ(b)の前に実施することができる。
【0060】
本発明はまた、頭痛に関連した筋痙攣のような一般的筋痙攣を減少させる方法を提供する。この態様において、筋痙攣を減少または消失させるために有効な量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを筋痙攣部位に投与する。本発明のこの局面は、筋痙攣によって引き起こされる緊張性頭痛の治療に対して特に用途を有する。αアドレナリン受容体アンタゴニストを、意図する目的が達成されるような任意の方法で、例えば筋痙攣部位への注射または局所適用によって、投与することができる。
【0061】
歯周病は、細菌の存在によって歯肉が炎症を起こすおよび/または出血する歯肉の疾患である。歯肉の血流が少ないことにより歯周問題が増悪される。喫煙者では歯周病が増加するが、これは歯肉の血流が喫煙によって減少するという事実も原因の一つとなっている。歯周病によって起こる結果の一つは、歯肉の歯への接着が消失する、歯肉と歯の間のポケット形成である。歯周病の治療は、歯肉を洗浄および治療するために、水および/または薬剤による歯周ポケットの潅流を伴うことが多い。歯周病の治療のために歯肉の血流を増加させることは利点がある。従って、本発明によると、歯肉の血流を増加させるために、歯周病を有する哺乳動物にの歯周病部位に、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を投与する段階、およびこれにより歯周病を治療する段階を含む方法において、歯周病を治療することができる。歯周ポケット用の洗浄剤の一部として、αアドレナリン受容体アンタゴニストを投与することができる。好ましい態様において、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを投与する。歯部位への麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストの投与後に、αアドレナリン受容体アンタゴニストを投与することができる。ここで局所麻酔に有効な量の麻酔剤が投与され、部位で血管を収縮させて局所麻酔を持続させるのに有効な量のαアドレナリン受容体アゴニストが投与される。歯周病に関連する歯科的処置のため、局所麻酔剤を投与することができる(例えば、深部歯石除去(deep scaling)または歯肉外科手術)。
【0062】
本発明はまた、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤、特に低用量製剤に関する。「安定な液体製剤」とは、αアドレナリン受容体アンタゴニストが可溶化され、2℃〜40℃で、好ましくは冷凍温度(2℃〜8℃)または室温(25℃)で、少なくとも3か月間、好ましくは少なくとも6か月間、より好ましくは少なくとも12か月間保存した後に、αアドレナリン受容体アンタゴニストの濃度および純度が90%以上、好ましくは95%以上であるようなものと定義される。
【0063】
本発明の安定な液体製剤中で用いられうるαアドレナリン受容体アンタゴニストの例には、フェントラミン、トラゾリン、ヨヒンビン、ラウオルシン、ドキサゾシン、ラベタロール、プラゾシン、テトラゾシン、およびトリマゾシン(trimazosine)、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩が、非制限的に含まれる。1つの好ましい態様において、αアドレナリン受容体アンタゴニストはフェントラミンの塩である。より好ましくは、αアドレナリン受容体アンタゴニストは塩酸フェントラミンまたはメシル酸フェントラミンから選択される。最も好ましくは、αアドレナリン受容体アンタゴニストはメシル酸フェントラミンである。
【0064】
本発明の安定な液体製剤中で用いられるαアドレナリン受容体アンタゴニストの薬学的に許容される塩には、薬学的に許容される無機性および有機性の酸および塩基に由来するものが含まれる。好適な酸性塩の例には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、二グルコン酸塩、ドデシルスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセリンリン酸塩、グリコール酸塩、ヘミスルホン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシメタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、メシル酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピルビン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩およびウンデカン酸塩が含まれる。シュウ酸などその他の酸は、それ自体では薬学的に許容されないが、本発明の化合物およびその薬学的に許容される酸付加塩を入手する場合に中間体として有用な塩の調製において用いられうる。
【0065】
適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属(例えば、ナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)塩、アンモニウム塩およびN+(C1-4アルキル)4塩が含まれる。本発明はまた、本明細書に開示された化合物の任意の塩基性窒素含有基の四級化も想定している。水または油に可溶性または分散性の産物を、このような四級化によって入手することができる。
【0066】
本発明の安定な液体製剤は、その溶解限度までの任意の濃度で、αアドレナリン受容体アンタゴニストを含むことができる。これは通常、0.01mg/mlから少なくとも10mg/mlの範囲内である。1つの好ましい製剤において、αアドレナリン受容体アンタゴニストはメシル酸フェントラミンであり、これは安定な液体製剤中に好ましくは約0.01mg/ml〜約1mg/ml、より好ましくは約0.01mg/ml〜約0.25mg/ml、最も好ましくは約0.1mg/ml〜約0.25mg/mlの濃度で存在する。本発明の安定な液体製剤は、容器内のアンタゴニスト、好ましくはメシル酸フェントラミンの全量が約0.02mg〜約0.4mgの間となるように、単回用量投与用の容器中に存在することが好ましい。より好ましくは、容器内に約0.18mg〜約0.43mgのメシル酸フェントラミン、さらにより好ましくは、約0.40mg〜約0.43mgのメシル酸フェントラミンが存在する。
【0067】
本発明の安定な液体製剤の単回用量用の好ましい容器は、アンプル、標準的な歯科用局所麻酔シリンジ内に収まる標準的な歯科用カートリッジ(例えば、CARPULE)、または充填済みシリンジから選択される。容積約1.6mL〜1.8mLの本発明の安定な液体製剤が容器に保持されることが、さらに好ましい。標準的な歯科用カートリッジには最大約1.8mLが保持されるが、本発明による歯科用カートリッジ内の安定な液体製剤の量は、カートリッジの充填後に存在する頭隙の量に依存して幾分異なってもよい。
【0068】
25℃において少なくとも12カ月の保存寿命を有するαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤が製造可能であることが、現在明らかになっている。製剤を容易に入手でき、すぐに用いることができるため、アンタゴニストをこの方法で保存できることは、歯科環境またはその他の医学的状況における使用のために好ましい。
【0069】
本発明の製剤は、アンタゴニストに加えて、溶媒(これは水性溶媒でもよく、有機溶媒と水性溶媒との組み合わせでもよい)および金属キレート剤を含む。本発明の製剤は、選択的に、pHを維持するための緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、錯化剤および張性調節剤を含む。
【0070】
本発明の製剤において用いられる溶媒は通常、水である。1つの代替的な態様においては、これらに限定されるわけではないが、グリセロール、ポリプロピレングリコール、鉱油またはポリエチレングリコールなどの溶媒も存在する。有機溶媒は、仮に存在する場合、水中に約5%〜40%(v/v)の濃度であることが好ましい。好ましい溶媒はポリプロピレングリコールである。より好ましくは、ポリプロピレングリコールは水中に約25%(v/v)の濃度で存在する。
【0071】
金属キレート剤が存在することは、本発明の製剤の安定性を維持するために必要と考えられている。金属キレート剤はEDTAであることが好ましい。EDTAを用いる場合、これは好ましくは約0.5mg/ml〜2.5mg/mlの濃度、より好ましくは約0.5mg/ml〜1.0mg/mlの濃度で製剤中に存在する。エチレンジアミン三酢酸二アンモニウム、ヒドロキシエチル-エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ酢酸およびクエン酸などその他の金属キレート剤を、好ましくは同等のモル濃度範囲内で、EDTAの代わりに用いてもよい。
【0072】
本発明の非緩衝化水性製剤のpHは約4.0〜6.0の間である。本製剤の安定性は、2.0程度の低いpHにおいて有害な影響を受けない。したがって、1つの態様によると、安定な液体製剤のpHは約2.0〜約6.0の範囲内であり、好ましくは約2.0〜約5.0の範囲内であり、より好ましくは約3.0〜約4.0の範囲内であり、最も好ましくは約3.5である。1つの代替的な態様において、製剤のpHは好ましくは3.5〜4.5の範囲内であり、より好ましくは3.8〜4.2の範囲内である。金属キレート剤の存在下で溶媒中にアンタゴニストを単に溶解させることによって生じるpHよりも低いpHを得るためには、酸を添加する必要がある。1つの好ましい態様において、酸とは、酢酸またはメタンスルホン酸のいずれかである。約1mM〜約100mMの範囲内、好ましくは約10mM〜約50mM、最も好ましくは約10mMで存在する対イオンにより、酸性製剤を緩衝化することが好ましい。対イオンの選択は、製剤のpHを下げるために用いられる酸に基づく。したがって、pHを下げるために酢酸を用いる場合には、好ましい対イオンは酢酸ナトリウムである。pHを下げるためにメタンスルホン酸を用い、かつメシル酸フェントラミンがアンタゴニストである場合には、メシル酸塩が適切な対イオンの役割を果たし、さらに対イオンを添加する必要はない。製剤のpHが低すぎる場合には、pHを再び所望のレベルまで上昇させるためにNaOHを添加してもよい。
【0073】
本発明の製剤中に存在しうる追加の張性調節剤には、これらに制限されるわけではないが、NaCl、d-マンニトール、およびデキストロースが含まれる。存在する場合には、張性調節剤は約1%〜10%(w/v)の濃度で存在することが好ましい。好ましくは、張性調節剤はd-マンニトールである。より好ましくは、d-マンニトールは約4%〜5%(w/v)濃度で存在する。
【0074】
本発明の製剤中に存在する追加の抗酸化剤には、これらに制限されるわけではないが、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソール、およびブチル化ヒドロキシトルエンが含まれる。存在する場合には、抗酸化剤は、意図される機能を果たすのに有効な濃度で用いられる。このような濃度は薬学的製剤の当業者には周知である(「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、A. Osol(編)、第16版、Mack Publishing Co.、Easton、PA(1980)を参照)。
【0075】
安定性を高めるために抗酸化剤を用いる代わりに、容器の頭隙に少量の酸素が存在するように、本発明の安定な液体製剤を容器内に保存してもよい。頭隙内に存在する酸素は2%未満であることが好ましい。容器を、不活性ガス、好ましくは窒素でパージすることによって、減酸素(reduced oxygen)製剤を調製することができる。本発明の1つの態様において、減酸素製剤は、空の容器に不活性ガスを流し入れ、不活性ガスを連続的に流し入れながら容器に安定な液体製剤を充填し、その後容器を密封することによって調製される。例えば、米国特許第6,274,169号を参照されたい。
【0076】
α-シクロデキストリンまたはナイアシンアミドなどの追加の錯化剤もまた、本発明の製剤中に存在してよい。錯化剤を用いる場合、それらは、意図される機能を果たすのに有効な濃度で用いられる。このような濃度は薬学的製剤の当業者には周知である(「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、A. Osol(編)、第16版、Mack Publishing Co.、Easton、PA(1980)を参照)。
【0077】
1つの好ましい態様において、本製剤は、金属キレート剤(0.1mg/ml〜10mg/ml)および張性調節剤(1%〜10%)を含む。最も好ましくは、本製剤は、EDTA二ナトリウムを金属キレート剤として含み、d-マンニトールを張性調節剤として含む。
【0078】
1つの好ましい態様において、安定な液体製剤は以下に示す製剤から選択される。

【0079】
「約」という用語は、ある数±10%を含む。したがって、「約0.5」とは、0.45〜0.55を意味する。
【0080】
本発明のさらなる態様において、半固体製剤として、例えばゲルまたはペーストとして、安定な製剤を調製することができる。ゲルまたはペーストは一相系または二相系でありうる。二相系はベントナイトから作製されうる。一相系は、合成高分子(例えば、カルボマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール)または天然ゴム(例えば、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン)から作製されうる。「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、A. オソル(Osol)編、第16版、マック出版社(Mack Publishing Co.)、イーストン(Easton)、PA(1980)を参照されたい。典型的なゲル製剤には、以下が含まれる:グリセリン含有もしくは非含有のポリエチレングリコール、グリセリン含有もしくは非含有のポロキサマー(15%〜50%)、高分子量ポリエチレングリコール含有ヒドロキシプロピルセルロース(4%前後)、ステアラルコニウムヘクトレートもしくは塩化ステアラルコニウムを含むプロピレンカーボネート、または、コロイド状二酸化ケイ素(2%〜10%)。典型的なペースト製剤はAPHTHASOLであり、これは、ベンジルアルコール、ゼラチン、モノステアリン酸グリセリン、鉱油、ペクチン、ワセリン、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。製剤は全て、抗菌剤(例えば、ベンジルアルコール、EDTA、メチルパラベン、およびプロピルパラベン)を含んでよい。また、経口用および歯科用の製剤は、例えば風船ガムまたはサクランボ味などの香味剤、および、キシリトールまたはショ糖などの甘味料を含んでもよい。例えば、米国特許第6,447,755号、米国特許第6,355,001号、米国特許第6,331,291号、米国特許第6,312,669号、米国特許第6,159,446号、米国特許第5,908,612号および米国特許第5,670,138号を参照されたい。
【0081】
本発明はまた、その内部に歯科用カートリッジまたはCARPULE、バイアル、チューブ、ジャー等の2個またはそれ以上の容器手段を一緒に含むカートンまたは箱等の運搬手段を含むキットに関する。第1の容器手段は、麻酔剤および選択的にαアドレナリン受容体アゴニストを含み、第2の容器手段は低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストを含む安定な液体製剤を含む。あるいは、αアドレナリン受容体アゴニストが別の容器手段内にあってもよい。さらなる容器手段は、ヒアルロニダーゼを含んでもよい。あるいは、ヒアルロニダーゼは、αアドレナリン受容体アンタゴニストと同一の容器手段内にあってもよい。好ましい態様において、麻酔剤、αアドレナリン受容体アゴニスト、αアドレナリン受容体アンタゴニスト、および選択的にヒアルロニダーゼは、標準的な歯科的局所麻酔用シリンジに適合する1.8mlの歯科用カートリッジ(CARPULE)内に存在する。このようなカートリッジは、例えば、ヘンリーシャイン(Henry Schein)、ポートワシントン(Port Washington)、N. Y.など、様々な業者により市販されている。本態様において、局所麻酔剤およびαアドレナリン受容体アゴニストを含むカートリッジをシリンジに入れ、混合液を注射する。その後、カートリッジを取り除いて、αアドレナリン受容体アンタゴニストおよび選択的にヒアルロニダーゼを含む第2のカートリッジを挿入する。
【0082】
さらなる態様において、キットは、麻酔剤および選択的にαアドレナリン受容体アゴニストを含む第1の容器手段、ならびにメシル酸フェントラミンを含む安定な液体製剤を含む第2の容器手段を含む。メシル酸フェントラミンは、薬剤の溶解限度までの任意の濃度で存在する。
【0083】
麻酔剤、血管収縮剤、および選択的にヒアルロニダーゼは、選択的に塩および緩衝液を含む、溶液中に、好ましくは滅菌溶液中に存在しうり、または、局所投与用のゲルもしくはペーストの一部として存在しうる。米国特許第4,938,970号および「レミントン薬化学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、A. オーソル(Osol)編、第16版、マック出版社(Mack Publishing Co.)、イーストン(Easton)、PA(1980)を参照されたい。
【0084】
本発明によって治療されうる哺乳動物は、本発明の恩典的効果を享受しうるすべての哺乳動物を含む。このような哺乳動物としては、ヒトならびに、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、イヌ、およびネコ等の獣医学的哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。小児および獣医学的動物に適用される場合、麻酔の迅速な解除は、小児または動物が、縫合したばかりの開口部を引き裂くのを防ぐ。
【0085】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を限定するものではなく、例示するものである。通常の臨床的治療において生じうる各種の条件およびパラメーターの、当業者に明らかであるその他の好適な改変および調節は、本発明の精神および範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0086】
実施例1
試験の原理および目的
歯科的処置の際に麻酔効果を提供するため、歯科医により局所麻酔が広く利用されている。血管収縮をもたらし、それにより局所麻酔を持続させるために、局所麻酔剤はαアドレナリン受容体アゴニストを含むことが多い。血管収縮剤を含まない局所麻酔剤は、ほとんどの歯科的処置に関して作用が短すぎるので、血管収縮剤を必要とする。一方、多くの歯科的処置に必要とされるよりもずっと長く、局所麻酔効果が持続する例が多く見受けられる。局所麻酔の必要性がなくなったら迅速に麻酔を解除するため、薬剤を自在に利用することが望ましい。長引く(lingering)局部麻酔のせいで、舌または唇を噛むことによる傷害が起こりうる。また、長引く局部麻酔は、勤務時間の損失による生産性の喪失ももたらしうる。結論として、長引く局部麻酔は不便であり、患者はそれを不快であると感じる。本試験の目的は、クロム親和性細胞腫の患者における高血圧の全身性治療に関してFDAに認可された、注射可能なαアドレナリン受容体アゴニストであるメシル酸フェントラミンが、非常に低い濃度で局所的に注射された場合に、持続する局所麻酔を迅速に解除するか否かを調べることであった。本試験のために選択されたメシル酸フェントラミン濃度は低いため、クロム親和性細胞腫の患者における高血圧の治療に関してFDAに認可された高用量の全身性薬物で起こり得る重篤な偶発的低血圧等の全身性副作用はないことが予想される。
【0087】
試験の設計
極めて低濃度のメシル酸フェントラミンを含む生理食塩水溶液の注射によって、予め注射されたαアドレナリン受容体アゴニストを含む局所麻酔剤の効果の解除が促進されうるかを調べる目的で、ヒトを対象とした本試験を設計した。(メシル酸フェントラミンを含まない)生理食塩水担体の注射を対照として用いた。同一患者における担体とメシル酸フェントラミンの効果を比較する目的で、同一患者の口腔において左右対称の局所麻酔注射を実施した。その後、口腔の一方に局所麻酔解除薬(LARA)を含むメシル酸フェントラミンを注射し、口腔の反対側に生理食塩水担体(対照)溶液を注射した。次に、両側における局所麻酔効果を解除するための時間を記録して、両側間における違いがあるかどうかを調べた。
【0088】
薬剤
用いた局所麻酔剤は、レボノルデフリン(1:20,000= 0.05 mg/ml)(レボノルデフリン注射剤、USP)を含む2%ポロカイン(塩酸メピバカイン)(Astra USA、Inc.、Westborough、MA 01581)である。レボノルデフリンは、エピネフリンに類似した薬理学的プロフィールを有するが効力はより低い、交感神経興奮性アミンである。局所麻酔解除薬(LARA)を、次のように調製した。3ml使い捨て滅菌シリンジおよび使い捨て滅菌皮下注射針を用いて、5mgの注射用凍結乾燥メシル酸フェントラミン、USP(Bedford Laboratories、Bedford、OH 44146)を含む標準的なバイアルを、1mlの生理食塩水で再構成した。凍結乾燥粉末を溶解させた後、3ml使い捨て滅菌シリンジおよび使い捨て滅菌皮下注射針を用いて、0.5mlのメシル酸フェントラミン溶液を吸い取り、50mlの注射用生理食塩水(USP)バイアルに注入した。このようにして得られたLARAは、生理食塩水に溶解した0.05 mg/mlメシル酸フェントラミンからなる。
【0089】
方法
年齢34歳〜50歳の3人の健康な男性被験者が、口腔内、容易に繰り返し可能な位置にある唇の下に、左右対称に局所麻酔剤注射を受けた。各注射の正確な時間を記録した。選択した位置は、上の犬歯の歯根隆起部の上(先端)であった。これは、犬歯、外側の切歯および上唇を麻痺させるために選択される一般的な部位である。注入した局所麻酔剤の容量は、口腔内の各部位について1.7+0.1mlであった。局所麻酔剤を注射してから20分後に、一方に1.6mlのLARAを、反対側に1.6mlの生理食塩水を、各被験者に再注射した。麻酔剤およびLARAまたは生理食塩水については、異なるサイズの針を用いた。局所麻酔剤については、眼窩下神経周囲に溶液がより多く入るようにより長い針(1(1/4)インチ)を用いた。眼窩下神経周囲で麻酔剤と接触するLARAがより少なくなるように、LARAまたは生理食塩水を、より短い針(1/2インチ)で注入した。全被験者に麻酔剤を投与し、次にLARAまたは生理食塩水を投与した後に、口および顔の次の部位における両側のしびれ感の強さを試験するため、被験者に質問した:歯、鼻、上唇および歯肉。歯のしびれ感は、噛むまたは歯をすりあわせることによって試験された。唇のしびれ感は、指または舌の触覚によって試験された。鼻のしびれ感は、指の触覚によって試験された。歯肉のしびれ感は、硬い綿棒の平滑な末端で試験された。
【0090】
盲験
二人の被験者(EおよびM)を、LARAまたは生理食塩水担体を口腔のどちらの側に注入したかに関して盲験に供した。すなわち、どちらの側にLARAが投与され、どちらの側に生理食塩水担体が投与されるかについて、PIは被験者に知らせていない。第三の被験者(H)は試験のPIであり、自分自身で注射した。従って、LARAまたは生理食塩水をどちらの側に注射したかに関して、被験者Hは盲験となっていない。
【0091】
結果
生理食塩水が注射された側と比較してLARAが注射された側では、3人の被験者全てにおいて、局所麻酔の解除が劇的に促進された。3人の被験者のいずれにおいても、いかなる副作用も認められなかった。総じて、歯の感覚が最初に戻った。3人の被験者の口および顔の両側の各部位において、しびれ感が消失して感覚が戻った時間を表1に示した。回復早期においては唇のどちらの側が最初に回復したかを決定するのは少々難しいと、被験者により報告された。しかし、回復後期では、唇の両側での差は大きく劇的であった。口および顔のその他の部分では、両側における差は、回復のかなり早期においてさえ顕著であったことが報告された。回復過程の早期において唇の両側における差を感じとるのが困難であったのは、眼窩下神経の下唇枝が正中で交叉するため、上唇の正中で神経支配(および結果として感覚)の交叉が起こるという事実に起因すると考えられる。
【0092】
(表1)

【0093】
結論
生理食塩水を用いた場合と比較して、LARAは、局所麻酔に関連するしびれ感の除去に対して非常に迅速な効果を有していた。投与されたLARA溶液に含まれるメシル酸フェントラミンの総量は、0.08mg(0.05mg/ml溶液が1.6ml)であった。このメシル酸フェントラミンの総用量は、クロム親和性細胞腫の患者における高血圧の全身性治療に関してFDAに認可された5mg用量(5 mg/ml 溶液が1ml)(これは通常の患者において重篤な偶発的低血圧をもたらしうる)よりも約62倍低い。本試験において有効であることが見出された非常に低い効果用量(efficacious dose)では、FDAに認可された高用量で起こりうるような全身性副作用は全く起こらない可能性がある。実際、本試験では、0.05 mg/mlのメシル酸フェントラミンの投与中、またはその後にいかなる種類の副作用も認められなかった。
【0094】
実施例2
試験の原理および目的
実施例1で説明されたように、局所麻酔の必要性がなくなったら、例えば歯科的処置が完了した後、麻酔を迅速に解除することが望ましい。実施例1の結果は、メシル酸フェントラミン等の低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニストの投与によって、αアドレナリン受容体アゴニストを含む局所麻酔剤の投与に起因した麻酔を解除することができる。凍結して、または室温で保存可能であって、直接投与に使用可能であるαアドレナリン受容体アンタゴニストの低用量の安定な液体製剤が便利である。残念なことに、従来技術におけるメシル酸フェントラミン製剤は水中および生理食塩水中で不安定である。本試験の目的は、2℃〜8℃または25℃で少なくとも12か月の有効期限を提供できるメシル酸フェントラミンを含む安定な液体製剤が開発可能か否かを調べることであった。
【0095】
試験の設計
薬物用最適組成物を規定するため、段階的アプローチ(tiered approach)で、メシル酸フェントラミン製剤の開発を実施した。各段階ごとに、安定性に関連する重要な製剤パラメーターを評価して、至適条件を選択した。パラメーターとしては、pH、緩衝液の種類、緩衝液濃度、ならびに、抗酸化剤、金属キレート剤、界面活性剤、および複合体形成剤を含む添加剤が挙げられる。パラメーターに関する好ましい条件を規定するために、各段階ごとに、40℃または60℃で温度促進性の安定性試験を実施した。最適な製剤を同定したら、リアルタイム安定性試験(2℃〜8℃または25℃)および促進安定性試験(40℃、60℃および80℃)を実施した。
【0096】
方法
メシル酸フェントラミン(99%、製品番号: 36、165-8)はアルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Company)(Milwaukee、WI)から購入した。試験の大部分において本物質を使用した。リアルタイム安定性試験および促進安定性試験に用いるメシル酸フェントラミン(ロットI)の参照標準は、米国薬局方(USP)から購入した。入手し次第、分析証明書に従ってメシル酸フェントラミンを室温で保存した。
【0097】
メシル酸フェントラミンのHPLCによる分析法は、Synergi Max RP カラム、および流速1ml/分において20mMのKH2PO4を含む45%メタノールの移動相を用いた、アイソクラティック(isocratic)溶出法である。薬物を232nmの検出波長でモニターした。
【0098】
1. 安定性評価に用いるメシル酸フェントラミン被験溶液試料の調製
適当な量のメシル酸フェントラミンを秤量し(正確に0.1mgまで)、選択した量の緩衝液および/または添加剤を含む水性担体に0.1 mg/mlの濃度となるように添加した。この濃度においては、試験したいずれのpHにおいても、メシル酸フェントラミンは容易に溶解する。被験溶液を含む密封ガラスバイアルを、40℃または60℃のオーブン内に配置した。全ての試料を暗黒下で保存した。HPLC分析およびpH測定のため、所定の時点でアリコートを取り出した。全ての試料を、希釈せずに解析した。
【0099】
2. HPLC分析用のメシル酸フェントラミン標準溶液の調製
(個々の試験で決定した)適当量のメシル酸フェントラミン薬剤物質(Aldrich Chemical Company)を正確に秤量してメスフラスコに入れ、個々の実験手順で指定された溶液を用いて、フラスコを容量までメスアップして、標準保存液を調製した。いずれの標準溶液も-20℃で凍結保存し、使用前に室温で解凍した。
【0100】
3. pH測定
HPLC分析とともに、pHを測定した。HPLC分析に使用されたのと同一の試料を用いて測定を実施した。個々の測定前に、pH4.00およびpH7.00の標準液を用いて、pHメーターをキャリブレーションした。
【0101】
結果
以下のパラメーター(段階)による安定性試験によって、メシル酸フェントラミン製剤を開発した。
【0102】
1. 広範囲のpH安定性プロフィールの作製
メシル酸フェントラミンが最も安定なpH範囲(2単位〜3単位)を規定するため、本試験を実施した。0.1mg/ml濃度のメシル酸フェントラミン溶液を、pH2、pH3、pH4、pH6、pH7およびpH8の50mMリン酸ナトリウム中、ならびにpH4、pH5およびpH6の50mM酢酸ナトリウム中で調製した。リン酸(3.40ml)を脱イオン(DI)水に添加し、2N NaOHでpHを調整し、その後メスフラスコ内で容量を1Lとすることにより、リン酸緩衝液を調製した。酢酸(2.95ml)を水に添加し、2N NaOHでpHを調整し、その後メスフラスコ内で容量を1Lにすることにより、酢酸緩衝液を調製した。
【0103】
最初の時点ならびに40℃で2日間および5日間保存した後の、フェントラミン濃度および純度に関して、HPLCで試料を解析した。試料をHPLCで解析した後、pHを測定した。
【0104】
全ての安定性試験において、ゴム栓式かつ引上げ密封式のガラス血清バイアルを用いて試料を保存し、液体の喪失を最小にした。実験の最初に、分析用の試料採取前に、およびバイアルを再び密封した後に、試料の重量を測定して、加熱による減量をモニターした。有意な減量は観察されなかった。
【0105】
各pHで回収率を割り出すために、濃度を対応する初期濃度(0日目)で除した。一次反応速度論の算出のため、回収率を時間に対してプロットした。各pHにおける直線の傾きを速度定数として算出し、広範囲のpH安定性プロフィールを得るためにpHに対してプロットした。
【0106】
分解速度の有意な増加が、7を上回るpHにおいて観察された(図1)。7未満のpHにおいてプロフィールは特徴に乏しく、薬剤が最も安定な狭いpH範囲を正確に決定するためには、狭い範囲のpHプロフィールが必要であることを示唆している。酢酸緩衝液で調製された試料は、リン酸緩衝液中の対応物よりも安定であると考えられた。
【0107】
2. 狭いpH範囲の安定性プロフィールの作製
メシル酸フェントラミンに関する好ましいpH範囲を規定した後、最も好ましいpH範囲(pH1単位内で)を規定するため、本試験を実施した。
【0108】
0.1 mg/ml濃度のメシル酸フェントラミン溶液を、pH2、pH2.5、pH3、pH3.5またはpH4の50mMリン酸ナトリウム中で調製した。リン酸緩衝液は上記の方法で調製された。最初の時点および60℃で2日間、7日間および14日間保存した後、フェントラミン濃度および純度についてHPLCにより試料を解析した。試料のpH測定は、HPLCによる解析の後に行った。
【0109】
最も好ましいpHを正確に規定するため、より低いpH領域において分解を高めるためにはより過酷な(stressing)条件が必要である。本試験では、インキュベーション条件を40℃から60℃に変更した。表2には、各時点で回収されたフェントラミンの濃度および純度を示す。ほとんどの試料では、14日目後の分解程度がまだ20%未満なので、分解曲線(濃度対時間)に関してゼロ次反応速度論(zero-order rate kinetics)を用いた。算出された速度定数をpHに対してプロットし、狭い範囲のpH安定性プロフィールを得た。
【0110】
フェントラミンはpH3.5で最も安定であることが示された(図2)。従って、最も好ましい狭い範囲のpHはpH3.0からpH4.0(pH3.5±0.5)と定義される。
【0111】
(表2)狭いpH範囲での安定性プロフィール試験

【0112】
3. 安定性に対する緩衝液陰イオンの効果
上記の二つの試験から至適pH範囲(pH3からpH4)を規定したが、本試験の目的は、至適pHにおいてメシル酸フェントラミン溶液を緩衝するのに最も好適な緩衝液の種類を選択することであった。促進安定性条件下におけるこれらの緩衝液中でのメシル酸フェントラミンの相対的安定性に基づいて、複数の注射可能な陰イオン性緩衝液を比較した。被験緩衝液は、pH3の、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、50mM酢酸ナトリウム緩衝液、50mM乳酸ナトリウム緩衝液、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液、および50mMコハク酸ナトリウム緩衝液を含んでいた。メシル酸フェントラミンの分解速度を高めるために、これらの緩衝液中で調製された0.1 mg/mlメシル酸フェントラミン溶液を60℃でインキュベートした。
【0113】
リン酸緩衝液および酢酸緩衝液を上記の方法で調製した。クエン酸緩衝液を、9.60gのクエン酸を水に添加し、2N NaOHでpHを3に調整し、その後メスフラスコ内で容量を1Lにすることにより調製した。乳酸緩衝液を、2.25gの乳酸を水に添加し、2N NaOHでpHを3に調整し、その後メスフラスコ内で容量を1Lにすることにより調製した。コハク酸緩衝液を、2.95gのコハク酸を水に添加し、2N NaOHでpHを3に調整し、その後メスフラスコ内で容量を1Lにすることにより調製した。
【0114】
最初の時点および60℃で2日間、7日間および14日間保存した後のフェントラミン濃度および純度について、HPLCで試料を解析した。HPLC解析の後、試料のpHを測定した。
【0115】
表3は、各時点で回収されたフェントラミンの濃度および純度を示す。酢酸ナトリウムが優れた緩衝液であることが示された。試験の最後に回収されたフェントラミン量に基づく緩衝液の好ましさのランク付けは、以下のようであった:酢酸ナトリウム>緩衝液なし(pH3に調整された水)>リン酸ナトリウム>乳酸ナトリウム>コハク酸ナトリウム>クエン酸ナトリウム。フェントラミンの安定性に対する緩衝液の種類の顕著な効果により、フェントラミン分解が陰イオンによって触媒され、分解速度が陰イオンの陰電荷に相関することが示唆された。クエン酸等の多価陰イオンは避けたほうがよい。さらなる試験のため、酢酸ナトリウムを選択した。
【0116】
(表3)pH3.0におけるフェントラミンの安定性に対する陰イオン性緩衝液の種類の効果(すべてナトリウム塩)

【0117】
4. 安定性に対する緩衝液濃度の効果
最も好適な種類の緩衝液(酢酸ナトリウム)が得られた後、本試験を実施して、メシル酸フェントラミンの薬剤安定性および保存中の溶液のpH安定性(変化しないこと)に基づいて、至適緩衝液濃度を決定した。
【0118】
pH3.5で濃度0mM、5mM、10mMおよび50mMの酢酸ナトリウム緩衝液濃度で、メシル酸フェントラミン溶液(0.1 mg/ml)を調製した。0日目、2日目、7日目および14日目の試験予定により、試料を60℃でインキュベートした。50mMの緩衝液を水で希釈し、pH3.5が不変であるかを判定するためにpHを再検定して、種々の濃度の緩衝液を調製した。試料のHPLCによる解析の後、pH測定を実施した。
【0119】
0mM、5mM、10mMおよび50mMの酢酸ナトリウムで調製した溶液から回収したフェントラミンの濃度および純度を表4に示す。5mM、10mMおよび50mMの酢酸ナトリウムにおけるフェントラミンの分解速度はそれぞれ同等であることが知られており、非緩衝性の対照(0mM)と比較して改善されている。0.1pH単位から1.7pH単位の範囲内のpHの上方変動が、全ての試料で観察された。50mMの緩衝液でpHの値は最も安定であった。最も安定なpH範囲(pH3.0からpH4.0)を超えるpHの変化は好ましくないが、強度に緩衝された酸性溶液が注射部位の組織において刺激または疼痛を引き起こす可能性があるため、過度に強力な緩衝液もまた好ましくない。従って、製剤のための好ましい緩衝液濃度は、濃度10mMであると考えられる。
【0120】
(表4)pH3.5の酢酸ナトリウム中のメシル酸フェントラミンの安定性に対する緩衝液濃度の効果

【0121】
5. 安定性に対する添加剤の効果
メシル酸フェントラミン溶液に関する至適pH、pH緩衝液の種類、およびpH緩衝液の濃度を規定した後、フェントラミン安定性の促進能、および最も適合性のよい張性調整剤を選択する目的で、種々の添加剤を試験した。
【0122】
本試験における添加剤を、注射可能な賦形剤の5つの群から選択した:すなわち、張性調製剤(NaClおよびd-マンニトール)、金属キレート剤(EDTA)、抗酸化剤(メタ重亜硫酸ナトリウム)、複合体形成剤(α-シクロデキストリンおよびナイアシンアミド)、および溶媒(グリセロールおよびプロピレングリコール)。張性調整剤は、メシル酸フェントラミン溶液を等張性に調整するために必要である。金属キレート剤および抗酸化剤は、フェントラミンの酸化がその分子構造から示唆された通りに起こりうるとの仮定に基づいて、選択された。フェントラミンを用いた抱接錯体(inclusion complex)(α-シクロデキストリンによる)またはスタッキング錯体(stacking complex)(ナイアシンアミドによる)の可能な形成が薬剤物質の加水分解速度を変化させることを企図して、複合体形成剤が適用された。溶媒を添加して担体の比誘電率を減少させ、溶媒分極による分解速度の低下を意図した。
【0123】
固体添加剤(EDTA二ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ナイアシンアミド、α-シクロデキストリン、マンニトールおよび塩化ナトリウム)を、0.1 mg/ml メシル酸フェントラミンを含むpH3.5の50mM酢酸緩衝液の溶液に直接添加した。必要に応じて、溶液のpHを3.5に再調整した。25%グリセロール(25gを水で全容量100mlとする)および25%プロピレングリコール(25gを水で全容量100mlとする)溶液は、酢酸を加えた後に2NのNaOHを添加してpHを3.5に調整し、その後薬剤を加えて0.1 mg/mlとすることにより、緩衝能強度を調整された。
【0124】
試料採取の後、全ての試料を10mlのガラス血清バイアルに入れて、不活性なコーティングを有するゴム栓(Daikyo Flurotec by WEST Pharmaceutical)で蓋をして、その後引上げ蓋で密封した。重量を記録した後、バイアルを60℃に配置した。
【0125】
最初の時点、および2日目、7日目および14日目において、試料採取を実施した。バイアルを計量し、試料採取し、密封し、再計量し、その後再び、次の検定の時点まで、選択した保存条件下で放置した。記録には、保存中には有意な減量が示されなかった。
【0126】
表5は、各時点で回収したフェントラミンの濃度および純度、ならびにゼロ次反応速度定数を示す。速度定数および純度の値に基づき、メタ重亜硫酸ナトリウム、NaCl、グリセロール、プロピレングリコールおよびナイアシンアミドは、添加剤を含まない対照と比較して、フェントラミンの回収に対して負の影響を与えることから、望ましくないと考えられた。α-シクロデキストリンの影響は、純度に基づけば取るに足らないものであり、または速度定数の値に基づけば、おそらくわずかに正方向である。しかし、製剤中に5%の濃度で用いることは、潜在的毒性のため、不適切であると判定された。d-マンニトールおよびEDTA二ナトリウムは、速度定数に基づけば安定性を改善し、純度の値に基づけば負の影響を全く示さないことが分かった。安定化剤としてのEDTA二ナトリウム、および張性調整剤としてのd-マンニトールの両方を、製剤の成分として選択した。
【0127】
(表5)pH3.5の10mM酢酸ナトリウム中でのメシル酸フェントラミンの安定性に対する添加剤の効果

【0128】
6. 張性の試験および調整
10mMまたは50mMの酢酸緩衝液のどちらかに2%、3%または4%w/vのd-マンニトール、0.5mg/mlのEDTA二ナトリウムおよび0.1 mg/ml メシル酸フェントラミンを含む試料を調製した。蒸気圧浸透圧計(Westcore Model 5500)を用いて、溶液および、通常生理食塩水(Normal Saline)溶液(0.9% 塩化ナトリウム、USP)の対照の浸透圧を測定した。フェントラミン溶液の張性を浸透圧で表した。測定した浸透圧を、d-マンニトール濃度に対してプロットした。浸透圧とd-マンニトール濃度との間に直線関係が得られた。通常生理食塩水溶液と同様の浸透圧を達成するのに必要なd-マンニトール濃度を、10mMまたは50mMの酢酸ナトリウム緩衝溶液に関して算出した。
【0129】
表6は、浸透圧測定値が292mmol/kgで体液に対して等張であると考えられる、通常生理食塩水溶液(0.9% 塩化ナトリウム)を含む溶液の浸透圧の値を示した。等張性を提供するのに必要なd-マンニトール濃度は、50mMおよび10mMの酢酸緩衝溶液について、それぞれ4.4%w/vおよび5.0%w/vと算出された。
【0130】
(表6)pH3.5の10mMまたは50mM酢酸ナトリウム緩衝液中の、0.5 mg/ml EDTA二ナトリウムを含む0.1 mg/ml メシル酸フェントラミンの浸透圧

【0131】
7. リアルタイム安定性試験および促進安定性試験
上記の試験が完了した際、最終的なメシル酸フェントラミン製剤(製剤1とする)を、0.5 mg/ml EDTA二ナトリウム、5.0 w/v d-マンニトールを含む10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)を含む0.1 mg/ml メシル酸フェントラミン溶液と定義した。その他の4種の製剤(製剤2、3、4および5)を、以下に列挙するように定義した。リアルタイム安定性のデータに基づく長期安定性比較のための本試験には、製剤2〜5も含まれた。リアルタイム安定性とは、好ましい保存温度、すなわち、25℃または2℃〜8℃において作製された安定性プロフィールである。必要に応じて、より低温における長期有効期限を予測するため、より高い温度、すなわち、40℃、60℃および80℃において作製された安定性データを用いてアウレニウスプロットを作製することができた。メシル酸フェントラミン溶液製剤の許容されうる有効期限とは、25℃または2℃〜8℃における1年間〜2年間の保存後、メシル酸フェントラミンの、ラベル表示された主張(claim)の回収率が90%〜95%であることと定義される。

【0132】
層流フード内で無菌的に製剤を調製した。最終的なpH調整の後、0.2ミクロンの滅菌フィルターで濾過することにより溶液を滅菌した。全ての製剤を層流フード内で反復ピペッターを用いて無菌的にバイアルに充填し、濾過溶液1.5mlを2mlの褐色ガラスバイアルに移した。充填前に、250℃を上回る温度で約16時間乾熱にかけることによって、バイアルを滅菌および脱パイロジェン処理した。充填したバイアルを、オートクレーブをかけた栓(13mmに成形した灰色のブチルゴム栓)で密封し、さらに蓋をして、安定性オーブン(stability oven)に設置する前に秤量した。全てのバイアルを暗黒下に直立状態で保存した。各時点でのHPLC分析のため、三つ組のバイアルを調製し、各バイアルについて1回のHPLCを予定した。試料をHPLCで解析した後、pHを測定した。
【0133】
製剤1のバイアルを、-20℃、2℃〜8℃、25℃、40℃、60℃および75℃〜82℃に配置した。製剤2、3、4および5を、25℃に配置した。試料採取および分析のための所定の時点は、25℃の試料に関しては最長48週であったが、40℃、60℃および75℃〜82℃の試料に関しては試料採取のスケジュールを短縮した。
【0134】
2週目のデータの収集の際、凍結された標準溶液は液体状態で保存された被験試料よりも不安定なことが分かった。アッセイ標準を、凍結溶液から固体のメシル酸フェントラミンUSP標準へ変更することを決定した。
【0135】
USP参照標準をそれぞれ10個のメスフラスコに分注し、後の使用のために乾燥保存した。各時点において、これらの標準アリコートの1つを用いて、50mM酢酸緩衝液(pH3.5)を所定の容量まで添加することにより、標準溶液を作製した。
【0136】
表7には、1週目、2週目、3週目、4週目、8週目、12週目、24週目、36週目および48週目でのフェントラミン濃度における回収率の値を示す。0時点、1週目および2週目の値に関しては、別々に調製した凍結標準溶液を利用することにより、フェントラミン濃度の値を決定した。凍結標準溶液が明らかに不安定であることが観察されたため、この凍結標準溶液を、後に、3週目の試料およびそれ以降に関して固体フェントラミンUSP標準に変更した。この標準の変更のため、40℃以下で保存された試料に関して、フェントラミン濃度の1%〜2%の急激な低下が観察された。
【0137】
安定な標準を用いる場合には、濃度における通常2%の変動はHPLC分析では普通と考えられており、従って、観察された2%未満の回収率の減少は有意ではない。表7のデータにより、3週目では、観察された濃度減少の合計が、-20℃、2℃〜8℃、25℃および40℃で保存された試料それぞれについて、4.0%、3.7%、3.8%および4.7%であることが示された。標準の変更に基づく2週目と3週目の間における濃度の下方シフトが、観察された濃度の減少全体のうちの50%以上を占める。従って、最初の3週間における濃度低下は、40℃以下の温度では、最大で約2%である。濃度における2%の違いは、HPLC法における変動内に十分収まる。
【0138】
3週目から8週目まで、40℃以下の温度で保存された全ての試料において、フェントラミン濃度の低下はみられなかった。
【0139】
48週目の時点におけるフェントラミン濃度のデータにより、-20℃および2℃〜8℃で保存された試料について、それぞれ4.6%および3.2%が分解されたことが示された。25℃で保存された試料では6.0%が分解されたことが示され、一方40℃で保存された試料では19.9%が分解されたことが示された。80℃で保存された試料は12週目の時点で完全に分解され、60℃で保存された試料は24週間後に消滅した。
【0140】
濃度の回収率の値は、純度の値(表8)により充分支持された。8週間後、40℃以下の温度で保存された全ての試料に関して、純度低下は2%未満であった。分解された物質の大半がカラムのボイド容積から溶出して定量されないことが明らかであるため、純度のデータは試料の純度を正確には反映しない。
【0141】
60℃および80℃で保存された試料を除いて、全試料のpH(表9)は、有意に変化しなかった(0.2pH単位以下)。8週目において、80℃で保存された試料における約0.5pH単位のpHの上方変動が観察された。
【0142】
製剤2〜5の安定性試験を、25℃でのみ実施した。製剤1において観察されたのと同様に、製剤2、3および4についての48週目の濃度データにより、それぞれ5.3%、6.1%および4.8%が分解されたことが示された。製剤5では、19.0%が分解した。製剤5とその他の4種類の製剤間での主たる相違は、製剤5がEDTA二ナトリウムを含有していないことである。
【0143】
(表7)フェントラミン製剤のリアルタイム安定性および促進安定性に関する濃度データ

*3試料の平均(n=3)
【0144】
(表8)フェントラミン製剤のリアルタイム安定性および促進安定性に関する純度データ

*3試料の平均(n=3)
【0145】
(表9)フェントラミン製剤のリアルタイム安定性および促進安定性に関するpHデータ

*3試料の平均(n=3)
【0146】
結論
48週目のデータにより、メシル酸フェントラミン製剤1〜4が、25℃以下の保存温度において比較的安定であることが示された。2℃〜8℃で保存された製剤1は、180週を上回る期間規格(すなわち、濃度および純度の低下が10%未満)内にあるが、より低い95%の信頼限界に基づき、予測される有効期限は108週であることがデータにより示された。25℃で保存された製剤1は、108週を上回る期間規格内にあるが、より低い95%の信頼限界に基づき、予測される有効期限は69週であることがデータにより示された。25℃で保存された製剤2は、103週を上回る期間規格内にあるが、より低い95%の信頼限界に基づき、予測される有効期限は63週であることがデータにより示された。25℃で保存された製剤3は、88週を上回る期間規格内にあるが、より低い95%の信頼限界に基づき、予測される有効期限は61週であることがデータにより示された。25℃で保存された製剤4は、115週を上回る期間規格内にあるが、より低い95%の信頼限界に基づき、予測される有効期限は60週であることがデータにより示された。
【0147】
製剤5が急速に分解されることから、安定なフェントラミン製剤にはEDTA二ナトリウムの存在が必須であることが確認された。
【0148】
実施例3
この原理検証試験の目的とは、エピネフリンの効果の薬理学的阻止による軟組織麻酔の解除の実行可能性を評価することであった。健康な成人志願者20人を、2%リドカインおよび1:100,000エピネフリンを含む1.8mlカートリッジ1本を用いた下歯槽神経ブロックに供した。60分後に、局所麻酔注射と同じ部位に、再構成し注射用0.9%塩化ナトリウム(USP)で希釈した注射用メシル酸フェントラミン(USP)(1.8ml中0.2mg)の注射を被験者10人に行い、残りの被験者10人には生理食塩液を注射した。被験薬注射の5分前から5分間隔で約4時間〜5時間にわたり、触知によって唇、顎、舌、鼻および歯における正常知覚への回復を、被験者に自己評価させた。反応の偏りを避けるために、被験者には最後の注射後8時間は診療室から退出できないと告げた。軟組織の反応を、(1)麻痺(無知覚)、(2)ピンおよび針を感じる、または(3)正常知覚、に分類した。歯の反応を、(1)麻痺(無知覚)または(2)正常知覚に分類した。麻酔剤および被験薬の注射の前、最中、および後の、有害事象の報告、バイタルサインの測定、および二誘導心電図によって、ならびに、視覚的アナログ尺度を用いた疼痛評価によって、安全性の評価を行った。
【0149】
メシル酸フェントラミンは、各組織における麻酔の持続時間を有意に(p<0.01)短縮した。被検薬を注射してから正常知覚が完全に回復するまでの平均時間を図3に示した。有害作用はほとんどなく、実薬群とプラセボ群との間に差は認められなかった。心電図に異常はみられなかった。
【0150】
実施例4
本試験の目的は、下顎神経ブロック後の局所麻酔の解除における、一定範囲の用量のフェントラミンの安全性および有効性を評価することであった。健康な成人被験者10人ずつの4群を、2%リドカインおよび1:100,000エピネフリンを含む1.8mlカートリッジ1本を用いた下歯槽神経ブロックに供した。各群に対して60分後に、局所麻酔注射と同じ部位に、再構成し注射用0.9%塩化ナトリウム(USP)で希釈した注射用メシル酸フェントラミン(USP)(1.8ml中に0.02mg、0.06mgまたは0.4mg)の注射を行うか、またはプラセボ生理食塩液を注射した。被験者に、注射後5時間にわたって5分毎に、唇、顎、舌、および歯を触知させた。
【0151】
すべての検討用量において、メシル酸フェントラミンは、測定した各組織における麻酔の持続時間を有意に(p<0.05)短縮した。被検薬を注射してから正常知覚が完全に回復するまでの平均時間を図4に示した。有害事象はほとんどなく、実薬群とプラセボ群との間に差は認められなかった。心電図に異常はみられなかった。
【0152】
実施例5
本試験の目的は、上顎浸潤後の局所麻酔の解除における、一定範囲の用量のフェントラミンの安全性および有効性を評価することであった。健康な成人被験者8人ずつの4群を、2%リドカインおよび1:100,000エピネフリンを含む1.8mlカートリッジ1本を用いた側切歯の浸潤に供した。各群に対して40分後に、局所麻酔注射と同じ部位に、再構成し注射用0.9%塩化ナトリウム(USP)で希釈した注射用メシル酸フェントラミン(USP)(1.8ml中に0.02mg、0.08mgまたは0.4mg)の注射を行うか、またはプラセボ生理食塩液を注射した。被験者に、注射後5時間にわたって5分毎に、上唇、鼻および歯を触知させた。
【0153】
すべての検討用量において、メシル酸フェントラミンは、評価した各組織における麻酔の持続時間を有意に(p<0.01)短縮した。被検薬を注射してから正常知覚が完全に回復するまでの平均時間を図5に示した。有害事象はほとんどなく、実薬群とプラセボ群との間に差は認められなかった。心電図に異常はみられなかった。
【0154】
以上で本発明について完全に説明したが、広範かつ等価な範囲内の条件、製剤およびその他のパラメーターを用いて、本発明の範囲またはその態様のいずれにも影響を与えることなく、全く同様に実施されうることが、当業者には理解されると考えられる。本明細書に引用された全ての特許、特許出願および刊行物は、その全文が参照として完全に本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが約2.0から6.0の範囲内である、低用量のαアドレナリン受容体アンタゴニスト、水性溶媒および金属キレート剤を含む、安定な液体製剤。
【請求項2】
αアドレナリン受容体アンタゴニストが約0.01mg/mlから10mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項1記載の安定な液体製剤。
【請求項3】
αアドレナリン受容体アンタゴニストが、フェントラミン、塩酸フェントラミン、メシル酸フェントラミン、トラゾリン、ヨヒンビン、ラウオルシン、ドキサゾシン、ラベタロール、プラゾシン、テトラゾシンもしくはトリマゾシン、または上記のいずれかの薬学的に許容される塩から選択される、請求項1または2記載の安定な液体製剤。
【請求項4】
αアドレナリン受容体アンタゴニストがメシル酸フェントラミンである、請求項3記載の安定な液体製剤。
【請求項5】
pHが約2.0から6.0の範囲内である、メシル酸フェントラミン、水性溶媒および金属キレート剤を含む、安定な液体製剤。
【請求項6】
メシル酸フェントラミンが約0.01mg/mlから10mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項5記載の安定な液体製剤。
【請求項7】
メシル酸フェントラミンが約0.01mg/mlから1mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項4または6記載の安定な液体製剤。
【請求項8】
メシル酸フェントラミンが約0.01mg/mlから0.25mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項7記載の安定な液体製剤。
【請求項9】
メシル酸フェントラミンが約0.1mg/mlから0.25mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項8記載の安定な液体製剤。
【請求項10】
溶媒が水である、請求項1から9のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項11】
溶媒が水と有機溶媒との組み合わせである、請求項1から9のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項12】
有機溶媒が、グリセロール、ポリプロピレングリコール、鉱油またはポリエチレングリコールから選択される、請求項11記載の安定な液体製剤。
【請求項13】
有機溶媒が、約5%から40%(v/v)の範囲内の濃度で存在するポリプロピレングリコールである、請求項12記載の安定な液体製剤。
【請求項14】
ポリプロピレングリコールが濃度約25%(v/v)で存在する、請求項13記載の安定な液体製剤。
【請求項15】
金属キレート剤が、エチレンジアミン三酢酸二アンモニウム、ヒドロキシエチル-エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ酢酸、クエン酸またはEDTAから選択される、請求項1から14のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項16】
金属キレート剤がEDTAであり、EDTAが約0.5mg/mlから2.5mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項15記載の安定な液体製剤。
【請求項17】
EDTAが約0.5mg/mlから1.0mg/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項16記載の安定な液体製剤。
【請求項18】
pHが約3.5から4.5の範囲内である、請求項1から17のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項19】
pHが約3.8から4.2の範囲内である、請求項18記載の安定な液体製剤。
【請求項20】
pHが、10mMから50mMの酢酸緩衝液によってまたはメタンスルホン酸によって得られる、請求項18または19記載の安定な液体製剤。
【請求項21】
張性調節剤をさらに含む、請求項1から20のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項22】
張性調節剤が、NaCl、d-マンニトールまたはデキストロースから選択される、請求項21記載の安定な液体製剤。
【請求項23】
張性調節剤が、約1%から10%(w/v)の範囲内の濃度で存在するd-マンニトールである、請求項22記載の安定な液体製剤。
【請求項24】
d-マンニトールが約4%から5%(w/v)の範囲内の濃度で存在する、請求項23記載の安定な液体製剤。
【請求項25】
αアドレナリン受容体アンタゴニストの酸化を防止するのに十分な量の抗酸化剤をさらに含む、請求項1から24のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項26】
抗酸化剤が、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソールおよびブチル化ヒドロキシトルエンから選択される、請求項25記載の安定な液体製剤。
【請求項27】
錯化剤をさらに含む、請求項1から26のいずれか一項記載の安定な液体製剤。
【請求項28】
錯化剤がα-シクロデキストリンまたはナイアシンアミドから選択される、請求項27記載の安定な液体製剤。
【請求項29】
以下から選択される、安定な液体製剤:
a. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 50mg
酢酸ナトリウム 1.36mg
酢酸 pH 3.8からpH 4.2となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
b. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 1.0mg
D-マンニトール 50mg
酢酸ナトリウム 1.36mg
酢酸 pH 3.8からpH 4.2となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
c. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 50mg
WFI 1.0mLとなる十分量;
d. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 1.0mg
D-マンニトール 50mg
WFI 1.0mLとなる十分量;
e. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 50mg
メタンスルホン酸 pH 3.5からpH 4.5となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
f. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 1.0mg
D-マンニトール 50mg
メタンスルホン酸 pH 3.5からpH 4.5となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
g. メシル酸フェントラミン 0.222mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 50mg
PPG 259.5mg
WFI 1.0mLとなる十分量;
h. メシル酸フェントラミン 0.1mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 50mg
酢酸ナトリウム 1.36mg
酢酸 pH 3.5となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
i. メシル酸フェントラミン 0.1mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール. 50mg
酢酸ナトリウム 1.36mg
酢酸 pH 4.0となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
j. メシル酸フェントラミン 0.1mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 44mg
酢酸ナトリウム 1.36mg
酢酸 pH 3.5となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;
k. メシル酸フェントラミン 0.1mg
EDTA Na2 0.5mg
酢酸ナトリウム 6.80mg
酢酸 pH 3.5となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量;または
l. メシル酸フェントラミン 0.235mg
EDTA Na2 0.5mg
D-マンニトール 50mg
酢酸ナトリウム 1.36mg
酢酸 pH 3.8からpH 4.2となる十分量
WFI 1.0mLとなる十分量。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか一項記載の安定な液体製剤の単回剤形を含む、容器。
【請求項31】
容器が頭隙を有し、頭隙には2%未満の酸素が含まれる、請求項30記載の容器。
【請求項32】
アンプル、歯科用カートリッジまたは充填済み滅菌シリンジから選択される、請求項30または31記載の容器。
【請求項33】
安定な液体製剤が容積約1.6mLから1.8mLの範囲内で存在する、請求項32記載の容器。
【請求項34】
請求項1から29のいずれか一項記載の安定な液体製剤の単回剤形を調製する方法であって、以下の段階を含む方法:
空の容器に不活性ガスを流し入れる段階;
不活性ガスを連続的に流し入れながら容器に安定な液体製剤を充填する段階;および
容器を密封する段階。
【請求項35】
容器が頭隙を有し、充填容器における頭隙には2%未満の酸素が含まれる、請求項34記載の方法。
【請求項36】
容器が、アンプル、歯科用カートリッジおよび充填済み滅菌シリンジから選択される、請求項34または35記載の方法。
【請求項37】
容器に容積約1.6mLから1.8mLの範囲内の安定な液体製剤を充填する、請求項36記載の方法。
【請求項38】
哺乳動物における血流を増加させるための医薬品の製造のための、請求項1から29のいずれか一項記載の安定な液体製剤の使用。
【請求項39】
哺乳動物に対するαアドレナリン受容体アゴニストの事前投与に対抗するために医薬品が用いられる、請求項38記載の使用。
【請求項40】
麻酔剤の事前投与によってもたらされた麻酔を無効化するために医薬品が用いられる、請求項38記載の使用。
【請求項41】
麻酔剤が、単回剤形または別々の剤形として、αアドレナリン受容体アゴニストとともに投与される、請求項40記載の使用。
【請求項42】
組織移植片生着性の向上のため、皮膚壊死の減少のため、抜歯を受ける哺乳動物における歯槽骨炎の減少のため、術後疼痛の減少のため、筋痙攣の減少のため、損傷歯もしくは罹患歯の存続性の向上のため、発痛点の治療のため、局所麻酔ブロックの持続の抑制のため、または歯周病の治療のために医薬品が用いられる、請求項38記載の使用。
【請求項43】
組織移植片生着性を向上させるために医薬品が用いられ、医薬品がヒアルロニダーゼと組み合わせて用いられ、ヒアルロニダーゼが組織移植の後に投与される、請求項42記載の使用。
【請求項44】
組織移植片が、毛髪移植片、歯科用インプラント、または毛髪皮膚弁から選択される、請求項42または43記載の使用。
【請求項45】
医薬品が局所麻酔ブロックの持続を抑えるために用いられ、哺乳動物の硬膜外腔内への投与用に設計されている、請求項38、40または41記載の使用。
【請求項46】
医薬品が歯周病の治療のために用いられ、歯周ポケットに対する洗浄液としての投与用に設計されている、請求項42記載の使用。
【請求項47】
医薬品が、歯科処置の一部として投与された局所麻酔の持続を無効化するために用いられる、請求項40または41記載の使用。
【請求項48】
第1の容器手段が麻酔剤および選択的にαアドレナリン受容体アゴニストを含み、第2の容器手段が請求項1から29のいずれか一項記載の安定な液体製剤を含む、2つ以上の容器手段が内部に緊密に収められた担体手段を含むキット。
【請求項49】
第2の容器手段が、請求項30から33のいずれか一項記載の容器である、請求項48記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280702(P2010−280702A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180122(P2010−180122)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【分割の表示】特願2004−530955(P2004−530955)の分割
【原出願日】平成15年6月20日(2003.6.20)
【出願人】(504466018)ノヴァラー ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】