説明

αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法

【課題】本発明は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法、及び該スクリーニング方法に使用する細胞を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリヌクレオチド(a):αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及びポリヌクレオチド(b):cAMP応答エレメントを有し、且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域1、及びポリヌクレオチド領域1の3’末端側に配置された分泌型レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド領域2を有するポリヌクレオチドが導入された細胞を使用することにより、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質を簡便且つ効率的にスクリーニングできる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法、及び該スクリーニング方法に使用する細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体は、昆虫などの無脊椎動物の中枢神経系に特異的に存在する生体アミンであるオクトパミンが結合する受容体として知られている。オクトパミンがαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に結合すると、Gタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼが活性化され、細胞内cAMPの濃度上昇とプロテインキナーゼAの活性化が起こり、それに続いて様々なタンパク質のリン酸化が起こることにより、神経系の情報伝達が調節される。従って、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体は、殺虫剤又は昆虫制御剤の標的として好適である。そこで、殺虫剤又は昆虫制御剤の候補物質として、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト又はアンタゴニスト等のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質をスクリーニングする方法の開発が求められている。
【0003】
殺虫剤又は昆虫制御剤の候補物質として、神経系の情報伝達を調節する物質をスクリーニングする方法は各種知られている。例えば、神経伝達物質の受容体タンパク質と殺虫剤又は昆虫制御剤候補物質との結合実験を行い、その結合性を評価することによりスクリーニングする方法や、神経伝達物質の受容体の安定発現細胞株に、殺虫剤又は昆虫制御剤候補物質を作用させ、該作用後の細胞を用いたパッチクランプ法を行うことによりスクリーニングする方法が知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
しかしながら、これらのスクリーニング方法に代表される従来のスクリーニング方法は、細胞の破砕、細胞膜画分の調製、放射性物質の使用、又は手間のかかるアッセイ系が必要である等の事情から、操作が複雑であり、簡便且つ効率的に処理することには向かないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−288302号公報
【特許文献2】特開2005−143434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質の簡便且つ効率的なスクリーニング方法、及び該スクリーニング方法に使用する細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、
ポリヌクレオチド(a):αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び
ポリヌクレオチド(b):cAMP応答エレメントを有し、且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域1、及びポリヌクレオチド領域1の3’末端側に配置された分泌型レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド領域2を有するポリヌクレオチド
が導入された細胞を使用することにより、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質を簡便且つ効率的にスクリーニングできることを見出した。
【0008】
このスクリーニング方法の原理は以下の通りである。ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞を被検物質と接触させた場合、該被検物質がαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に作用する物質であれば、該接触により、ポリヌクレオチド(a)から発現されたαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質を介して、細胞内cAMP濃度の変化が起こる。そして、細胞内cAMP濃度の変化は、ポリヌクレオチド(b)中の、cAMPエレメントを有し且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域1によって感知され、ポリヌクレオチド領域2にコードされる分泌型レポータータンパク質の発現を変化させる。こうして、被検物質がαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に与える作用は、分泌型レポータータンパク質の発現量の変化として表れる。従って、細胞を被検物質と接触させた場合の分泌型レポータータンパク質の量と、細胞を被検物質と接触させない場合の分泌型レポータータンパク質の量を比較することにより、被検物質がαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質か否かを判定し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質をスクリーニングすることができる。
【0009】
また、本発明者等は、本発明のスクリーニング方法において分泌型レポータータンパク質の検出反応が一定時間以上かかる場合は、同じ検体でも検出反応時間の相違により分泌型レポータータンパク質の検出値が大きく異なるという問題を見出した。これは、特に多検体処理時に検体間の検出値がばらつくという観点で問題となる。
【0010】
そこで、本発明者等はさらに鋭意研究した結果、本発明のスクリーニング方法において使用する培養液として、血清濃度が7%以下の培養液を使用することにより、上記問題を解決することができることを見出した。
【0011】
本発明者等は、かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0013】
項1.下記ポリヌクレオチド(a)並びに下記ポリヌクレオチド(b)が導入されたことを特徴とする細胞:
(a)αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びに
(b)cAMP応答エレメントを有し、且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域1、及びポリヌクレオチド領域1の3’末端側に配置された分泌型レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド領域2を有するポリヌクレオチド。
【0014】
項2.ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)が導入された哺乳類動物細胞である、項1に記載の細胞。
【0015】
項3.前記分泌型レポータータンパク質が分泌性胎盤アルカリホスファターゼである、項1又は2に記載の細胞。
【0016】
項4.ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)が導入されたHEK‐293細胞である、項1〜3のいずれかに記載の細胞。
【0017】
項5.前記ポリヌクレオチド(a)がカイコガ属に属する生物のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドである、項1〜4のいずれかに記載の細胞。
【0018】
項6.下記工程(ア)、(イ)、及び(ウ)を含む、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法:
(ア)項1〜5のいずれかに記載の細胞を被検物質と培養液中で接触させる工程、
(イ)工程(ア)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定し、該活性値を、被検物質と接触させていない対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と比較する工程、及び
(ウ)被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値とが有意に相違している場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質として選択する工程。
【0019】
項7.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法であって、
前記工程(ウ)が、被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に高い場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとして選択する工程である、
項6に記載のスクリーニング方法。
【0020】
項8.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法であって、
前記工程(ア)が、項1〜5のいずれかに記載の細胞を、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と培養液中で接触させる工程であり、
前記工程(イ)が、工程(ア)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定し、該活性値を、被検物質と接触させずにαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストと接触させた対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と比較する工程であり、
前記工程(ウ)が、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に低い場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストとして選択する工程である、
項6に記載のスクリーニング方法。
【0021】
項9.培養液が血清濃度7%以下の培養液である、項6〜8のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト又はアンタゴニスト等のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質を、多検体の被検物質から簡便且つ迅速にスクリーニングすることができる。さらに、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質を多検体の被検物質からスクリーニングする場合においても、検体間における測定値のばらつきを抑え、高精度にスクリーニングすることができる。また、本発明のスクリーニング方法における測定前のサンプルは、凍結融解を繰り返しても、測定値に対する影響が殆どない。従って、測定前のサンプルを凍結し、後で測定することができる。このことから、本発明のスクリーニング方法は、より多くの検体を処理することができるという点で特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のスクリーニング方法において、オクトパミン又はαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストが分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性、すなわち分泌性胎盤アルカリホスファターゼ量に与える影響を示す。
【図2】本発明のスクリーニング方法において、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストが分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性、すなわち分泌性胎盤アルカリホスファターゼ量に与える影響を示す。
【図3】本発明のスクリーニング方法において、分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性測定値に対して血清濃度が与える影響を示す。
【図4】分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性に対する凍結融解の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.本発明の細胞
本発明の細胞は、ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)が導入されたことを特徴とする細胞である。
【0025】
ポリヌクレオチド(a)は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド(a)は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質が発現可能な状態で、細胞に導入される。発現可能な状態とは、ポリヌクレオチド(a)が、導入細胞において、適切な転写調節領域、具体的には適切なプロモーターの制御下に配置された状態である。適切なプロモーターとしては、ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入される細胞においてプロモーター活性を有するものであれば特に限定されず、公知のプロモーターを使用することができる。例えば、ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入される細胞が哺乳類動物細胞である場合は、CMVプロモーター若しくはSV40プロモーター等のウィルス性のプロモーター、EF-1αプロモーター、又はUbCプロモーターを使用することができる。
【0026】
ポリヌクレオチド(a)にコードされるαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質は、種々の生物由来のものを使用することができ、特に限定されない。例えば、鱗翅目に属する生物が挙げられ、鱗翅目(Lepidoptera)に属する生物の中ではカイコガ科(Bombycidae)カイコガ属(Bombyx)に属する生物が好ましく挙げられ、カイコ(Bombyx mori)がより好ましく挙げられる。また、鱗翅目以外の生物としては、ショウジョウバエ、ミツバチ、ゴキブリ、バッタ、ハマダラカ、又はコクヌストモドキ等を挙げることができる。ポリヌクレオチド(a)にコードされるαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質としては、カイコαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1で示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0027】
ポリヌクレオチド(a)にコードされるαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質は、その機能を損なわない限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列における1又は複数個、好ましくは1又は2〜20個、より好ましくは1又は2〜8個、さらに好ましくは1又は2〜5個、特に好ましくは1又は2〜3個のアミノ酸が置換、欠失、又は挿入されたものであってもよい。アミノ酸が置換、欠失、又は挿入する部位としては、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質上の、公知の機能ドメイン以外の部位が好ましい。αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の公知の機能ドメインは、公知のデータベース、例えばNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のデータベースから公知の検索方法により調べることができる。また、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の機能を損なわない限り、アミノ酸が置換、欠失、又は挿入する部位は、公知の機能ドメイン上の部位でもよい。
【0028】
ポリヌクレオチド(b)は、ポリヌクレオチド領域1、及びポリヌクレオチド領域2を有するポリヌクレオチドである。
【0029】
ポリヌクレオチド領域1は、cAMP応答エレメントを有し、且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域である。
【0030】
cAMP応答エレメントとは、cAMP応答配列結合タンパク質が結合し、該エレメントの下流にコードされる遺伝子の発現を活性化できるエレメントであり、CREとも表現される。このような機能を有する限りcAMP応答エレメントの由来は特に限定されず、上記機能に影響を与えないことが知られている、公知の変異を有していてもよい。
【0031】
プロモーター機能を有するとは、ポリヌクレオチド領域1の3’側に配置されるポリヌクレオチド領域2にコードされる分泌型レポータータンパク質を発現する機能を有することを示す。例えば、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始することができるために必要な公知の最小プロモーター領域、具体例としてはTATA-likeプロモーター(TAL)(⇒具体例を記載しました)を有していることを示す。
【0032】
ポリヌクレオチド領域1としては、例えば、cAMP応答エレメントを有し、cAMP応答配列結合タンパク質の結合により転写を活性化することが知られている、公知遺伝子のプロモーター領域を使用することができる。
【0033】
ポリヌクレオチド領域2は、ポリヌクレオチド領域1の3’側に配置され、且つ分泌型レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0034】
分泌型レポータータンパク質とは、タンパク質として発現後に細胞外に分泌される性質を有し、且つ定量が容易であるタンパク質であり、このような性質を有するものである限り特に限定されず、公知のタンパク質を挙げることができる。分泌型レポータータンパク質の具体例としては、分泌性胎盤アルカリホスファターゼや、Metridia longa由来の分泌型ルシフェラーゼ等の、酵素活性を測定することにより定量できる酵素タンパク質が挙げられる。
【0035】
ポリヌクレオチド(a)及び/又は(b)には、その他の配列が含まれていてもよい。例えば、Hisタグ、Mycタグ、HAタグ、若しくはGFPタグ等のタンパク質タグをコードする配列又は種々の抗生物質に対する耐性遺伝子を発現することができるように設計された領域が含まれていてもよい。この様な耐性遺伝子が発現できるように設計された領域を含むポリヌクレオチド(a)及び/又は(b)を用いることにより、ポリヌクレオチド(a)及び/又は(b)を細胞に導入した後、耐性遺伝子が耐性を示す抗生物質含有培地中で細胞を培養することにより、ポリヌクレオチド(a)及び/又は(b)が導入された細胞群のみを選択することができる。
【0036】
ポリヌクレオチド(a)及び(b)の調製は、公知の手法を用いて行うことができる。例えばポリヌクレオチド(a)の調製は、CMVプロモーター等のプロモーターを含み、且つ該プロモーターの3’側に遺伝子のコーディング配列を挿入するマルチクローニングサイトを有する公知の発現ベクターに、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質のcDNA配列を適切な制限酵素サイトを介して挿入することにより調製することができる。αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体のタンパク質のcDNA配列、分泌型レポータータンパク質のcDNA配列、cAMP応答エレメントを有する公知のプロモーター等の配列情報は、種々のデータベース上で公開されており、例えばNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のデータベースから公知の検索方法によって得ることができる。具体例として、カイコαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体のcDNA配列を配列番号1として配列表に示す。目的の配列を有するcDNAは、公知の方法、例えばPCRやDNA人工合成技術を利用して得ることができる。
【0037】
ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)を導入する細胞は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体を介したシグナルをcAMP濃度の変化に変換する機構を有する細胞である限り限定されない。このような細胞の具体例としては、真核生物細胞を挙げることができ、好ましくは脊椎動物細胞、より好ましくは哺乳類動物細胞、より好ましくはヒト又はげっ歯類の細胞を挙げることができる。また、細胞の由来臓器としては、特に限定されるものではないが、腎臓細胞が好ましく挙げられる。具体的には、HEK-293細胞が特に好ましく挙げられる。
【0038】
ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)の細胞への導入は、公知の方法を利用して行うことができる。具体例としては、ポリヌクレオチド(a)を連結したベクターをリポフェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等の方法、又はポリヌクレオチド(a)を連結したウィルスベクターを用いた方法を利用して細胞に導入することが出来る。細胞に導入されたポリヌクレオチド(a)及び/又はポリヌクレオチド(b)の状態は特に限定されず、例えばプラスミド状態で一過的に細胞内に存在している状態でも、ゲノムに組み込まれた状態で細胞内に安定的に存在している状態でもよい。
【0039】
上記本発明の細胞を後述のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法に使用することにより、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質を効率的に且つ簡便にスクリーニングすることができる。
【0040】
2.本発明のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、工程(ア)、(イ)、及び(ウ)を含む、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法である。
【0041】
2‐1.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質とは、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に作用し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の下流のシグナル伝達を調節する作用、具体的にはcAMP濃度の増加又は減少をもたらす作用を有する物質である。αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法によれば、被検物質の中から、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質をスクリーニングすることができる。
【0042】
工程(ア)は、上記「1.本発明の細胞」で説明した、ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞を、被検物質と培養液中で接触させる工程である。
【0043】
被検物質は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質か否かをスクリーニングする対象物質である。被検物質としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。
【0044】
培養液は、細胞を培養するための培地である。培養液としては、細胞を培養することができる限り特に限定されず、細胞の種類に応じて公知の培地を広く使用することができる。例えば、多種の細胞の培養に適していることが知られているDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)やRPMI培地等を使用することができる。培養する細胞の種類に応じて、培養液には種々の成分(糖、アミノ酸、塩類、金属成分等)を加えることができ、その濃度も細胞の培養に適している限り特に限定されない。
【0045】
細胞の生存には血清が必要であることから、培養液としては10%程度の濃度で血清を含む培養液を用いるのが通常である。しかしながら、本発明のスクリーニング方法において、被検物質を接触させる際に使用する培養液の血清濃度としては、7%以下が好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましく、1%以下が特に好ましく挙げられる。被検物質を接触させる際に、上記のような通常よりも低濃度の血清濃度を有する培養液を使用するには、例えば、通常の血清濃度を有する培養液を、被検物質を含み且つ通常よりも低濃度の血清濃度を有する培養液で置換すればよい。被検物質を接触させる際に、上記のような通常よりも低濃度の血清濃度を有する培養液を使用することによって、多検体処理時において、検体間における測定値のばらつきをより少なくすることができる。なお、本発明のスクリーニング方法においては、上記血清濃度以下であれば、血清を含んでいる培養液(例えば、血清濃度0.01%以上、0.1%以上、又は1%の培養液)を使用しても、上記効果が得られる。
【0046】
ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞を、被検物質と培養液中で接触させる態様は、細胞膜上に被検物質が接触することができる限り特に限定されない。例えば、細胞を培養している培養液中に被検物質を溶解する態様や、細胞を培養している培養液を、予め被検物質を溶解した培養液に置換する態様が挙げられる。
【0047】
工程(イ)は、工程(ア)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定し、該活性値を、被検物質と接触させていない対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と比較する工程である。
【0048】
工程(ア)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定するまでの時間は、被検物質の作用が、培養液中に存在する分泌型レポータータンパク質量に変化を起こし得るのに十分な時間であれば特に限定されない。具体例としては、工程(ア)の後、8〜72時間、好ましくは12〜48時間、より好ましくは16〜32時間が挙げられる。この間、細胞は、細胞の生存に適切な条件下、例えばCO2濃度5%、37℃、湿潤条件下でインキュベーションされる。
【0049】
培養液の分泌型レポータータンパク質活性の測定は、分泌型レポータータンパク活性を測定することにより該タンパク質量を定量することができる方法である限り特に限定されず、分泌型レポータータンパク質の種類によって公知の適切な方法を採用すればよい。例えば、分泌型レポータータンパク質が分泌性胎盤アルカリホスファターゼである場合は、分泌性胎盤アルカリホスファターゼ測定用キットとして公知のPhospha-Lightシステム(Applied biosystems社)を使用して、又は該キットの原理を利用して、分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性を測定することが出来る。
【0050】
被検物質と接触させていない対照細胞の培養液とは、工程(ア)において被検物質と接触させていない以外は、工程(ア)を経て工程(イ)に供する細胞と同じ又は同等の処理をした細胞の培養液である。該培養液の分泌型レポーター活性も、上記培養液の分泌型レポーター活性の測定と同様に測定することができる。
【0051】
培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と、被検物質と接触させていない対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値との比較は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。例えば、活性値が発光の強さとして表れる場合は、発光の強さを発光値として測定し、該発光値の大小を比較すればよい。
【0052】
工程(ウ)は、被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値とが有意に相違している場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質として選択する工程である。
【0053】
被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値とが有意に相違しているか否かの判断は、工程(イ)における比較の結果、一定の基準、例えば統計学的基準に基づき判断すればよい。具体的には、複数回測定してp値を求め、p値が一定値以下、例えば0.05以下である場合に有意に相違すると判断する方法等が挙げられる。判断の結果、有意に相違している場合は、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質として選択する。
【0054】
このように選択されたαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質は、さらに殺虫剤又は昆虫制御剤候補物質として2次スクリーニングに供してもよい。
【0055】
2‐2.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとは、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に作用し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の下流のシグナル伝達を活性化する作用、具体的にはcAMP濃度の増加をもたらす作用を有する物質である。αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法によれば、被検物質の中から、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストをスクリーニングすることができる。
【0056】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法は、前記した、工程(ア)、(イ)、及び(ウ)を含むαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法と同様に行うことができる。但し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法においては、前記工程(ウ)が下記工程(エ)である。
【0057】
工程(エ)は、被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に高い場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとして選択する工程である。
【0058】
被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に高いか否かの判断は、工程(ウ)と同様に行うことができる。判断の結果、有意に高い場合は、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとして選択する。
【0059】
このように選択されたαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストは、さらに殺虫剤又は昆虫制御剤候補物質として2次スクリーニングに供してもよい。
【0060】
2‐3.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストとは、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体、オクトパミン及び/又はαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストに作用し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の下流のシグナル伝達を抑制する作用、具体的にはcAMP濃度の低下をもたらす作用を有する物質である。αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法によれば、被検物質の中から、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストをスクリーニングすることができる。
【0061】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法は、前記した、工程(ア)、(イ)、及び(ウ)を含むαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法と同様に行うことができる。但し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法においては、前記工程(ア)が下記工程(オ)であり、前記工程(イ)が下記工程(カ)であり、前記工程(ウ)が下記工程(キ)である。
【0062】
工程(オ)は、上記「1.本発明の細胞」で説明した、ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞を、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と培養液中で接触させる工程である。
【0063】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとしては、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に作用し、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の下流のシグナル伝達を活性化する作用、具体的にはcAMP濃度の増加をもたらす作用を有する物質を使用することができる。具体例としては、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の内在リガンドであるオクトパミン、又は公知のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストであるデメチルクロルジメホルム、クロルジメホルム等を使用することができる。また、上記αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法によって選択された被検物質を、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとして使用することもできる。
【0064】
培養液中で接触させる際の、培養液中のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストの濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば、10−1 M〜10−10 M、好ましくは10−3 M〜10−8 M、より好ましくは10−5 M〜10−7 Mが挙げられる。
【0065】
その他については、工程(ア)と同様である。
【0066】
工程(カ)は、工程(オ)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定し、該活性値を、被検物質と接触させずにαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストと接触させた対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と比較する工程である。
【0067】
工程(カ)は、工程(イ)と同様に行うことができる。
【0068】
工程(キ)は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に低い場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストとして選択する工程である。
【0069】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に低いか否かの判断は、工程(ウ)と同様に行うことができる。判断の結果、有意に低い場合は、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストとして選択する。
【0070】
このように選択されたαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストは、さらに殺虫剤又は昆虫制御剤候補物質として2次スクリーニングに供してもよい。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
実施例1.ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞の作製
まず、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド(a)に相当)が導入された細胞を下記のように作製した。
【0073】
細胞の培養は、10% FBS、100 unit/mlペニシリン、100 mg/ml硫酸ストレプトマイシンを含有するDMEM(10%FBS/DMEM)中、37℃5%CO2濃度の雰囲気下で行った。第1日目にヒト胎児腎細胞HEK-293を、35mmディッシュに2×105/2mlになるように播種した。第2日目に、カイコαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体1タンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現可能な状態で連結されたpcDNA3ベクターを、4μl Lipofectamine(Invitrogen社)(2mg/ml)と1ml OPTI-MEM I減血清培地(Invitrogen社)の混合溶液と混ぜ、該混合物を、第1日目に播種した細胞の培地と置換し、37℃で5時間インキュベーションした。インキュベーション後、FBSを最終濃度20%になるように添加したDMEMを1ml添加し、再度インキュベーションした。第3日目に、培地を、G418を最終濃度1.0mg/mlになるように添加した10%FBS/DMEM(選択培地)2mlと置換し、セレクションを開始した。その後、5日おきに選択培地を交換し、4週間セレクションを行った。このセレクション後に得られた細胞を、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド(a))が導入された細胞(BmOAR1細胞)とした。
【0074】
次に、cAMP応答エレメントを有し、且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域1、及びポリヌクレオチド領域1の3’末端側に配置された分泌型レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド領域2を有するポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド(b))が導入された細胞を下記のように作製した。
【0075】
ポリヌクレオチド(a)が導入された細胞であるBmOAR1細胞を、10%FBS/DMEM中、37℃/5% CO2濃度下で培養した。その細胞にレポーター遺伝子含有ベクターpCRE-SEAP(cAMP応答エレメントを有するプロモーターの制御下に分泌性胎盤アルカリホスファターゼを連結したベクター)を一過的にトランスフェクションした。トランスフェクションは、GeneJuice(Novagen社)を用い、そのユーザーマニュアルに従って行った。トランスフェクションから1日後の細胞を、ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞(BmOAR1-pCRE-SEAP細胞)とした。
【0076】
実施例2.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング例として、下記実施例2‐1、及び実施例2‐2に、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニング例を示す。
【0077】
実施例2‐1.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング
ポリヌクレオチド(a)及び(b)が導入された細胞であるBmOAR1-pCRE-SEAP細胞を、96穴培養プレートに、1×104/ウェル、150μl/ウェルとなるように播種し、1日培養した。一方で、被検物質としてαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の内在リガンドであるオクトパミン(OA)、又は公知のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストであるデメチルクロルジメホルム(DMCDM)、若しくはクロルジメホルム(CDM)を、DMSO溶液に溶解し、該溶解液を、内在リガンド又はアゴニスト濃度10−9、10−8、10−7、10−6、10−5、又は10−4 M、及びDMSO濃度1%となるように無血清培地に添加してアゴニスト培地を作製した。播種後1日経過した細胞の培地を捨て、上記アゴニスト培地150μl(/1ウェル)に置換し、さらに1日培養した。アゴニスト培地置換後1日培養した後の培養上清の分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性を、Phospha-LightTM System(Applied Biosystems社)を用いて測定した。具体的には、培養上清30μlを、各ウェルから新しい96穴プレートに移し、そこに1×Dilution Buffer 30μl(/1ウェル)を加えた。その後、65℃で30分間加熱することにより、発光基質を分解し得る細胞内在のアルカリホスファターゼを熱失活させ、失活後の溶液を室温に戻し、該溶液50μl(/1ウェル)を新しい96穴プレートに入れた。Assay Buffer 50μl(/1ウェル)を加え、室温で5分間インキュベートした。その後、Reaction Bufferを50μl(/1ウェル)加え、室温で4分間インキュベートした。各ウェルの発光量をWallac 1420 ARVOsxマルチラベルカウンタを用いて1秒/ウェルで測定することにより、分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性を測定した。
【0078】
上記分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性の測定を3回行った平均値を図1に示す。図1中、横軸は、使用したアゴニスト培地中のオクトパミン(OA)、デメチルクロルジメホルム(DMCDM)、又はクロルジメホルム(CDM)の濃度を示し、縦軸は相対発光値を示す。相対発光値とは、アゴニスト培地としてオクトパミンを濃度10−5 Mとなるように添加した無血清培地を使用した場合に測定された発光量を100%とした値である。また、Baの値は、アゴニスト培地の代わりに、DMSOが最終濃度1%となるように添加された無血清培地を使用したコントロール値を示す。
【0079】
図1の結果より、被検物質として内在リガンドであるオクトパミンを使用した場合、オクトパミン濃度10−7〜10−6 Mにおいて、コントロールに比べて発光量が有意に増加しているのが見られた。このことより、本発明のスクリーニング方法は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体の内在リガンドによるシグナル伝達を検出できることが示された。さらに、被検物質として、公知のアゴニストを使用した場合も、コントロールに比べて発光量が有意に増加しているのが見られた。また、図1より、3種の被検物質のアゴニスト活性の強さの順は、活性の強い方から、デメチルクロルジメホルム、オクトパミン、クロルジメホルムであった。この順は、3種の被検物質のアゴニスト活性の強さの順として知られている順と、同じであった。このことより、本発明のスクリーニング方法は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体を介したアゴニストによるシグナル伝達を、正確に、かつ一定程度定量的に検出できることが示された。
【0080】
実施例2‐2.αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング
アゴニスト培地の代わりに、アンタゴニスト培地(内在リガンドであるオクトパミンをDMSOに溶解した溶液をオクトパミン濃度10−6 Mになるように無血清培地に添加し、さらに被検物質として公知のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストであるクロルプロマジン、又はヨヒンビンをDMSOに溶解した溶液を、アンタゴニスト濃度10−9、10−8、10−7、10−6、又は10−5 Mになるように無血清培地に添加して、DMSOの濃度を1%に調製した培地)を使用し、Reaction Buffer添加後のインキュベーション時間を10分間とした以外は、実施例2‐1と同様に行った。
【0081】
分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性の測定を3回行った平均値を図2に示す。図2中、横軸は、使用したアンタゴニスト培地中のクロルプロマジン、又はヨヒンビンの濃度を示し、縦軸は相対発光値を示す。相対発光値とは、アンタゴニスト培地の代わりにコントロール培地1(オクトパミンを濃度10−6 Mになるように添加し、DMSO濃度を1%に調製した無血清培地)を使用した場合の発光量から、アンタゴニスト培地の代わりにコントロール培地2(オクトパミン及び被検物質を含まない、DMSO濃度を1%に調製した無血清培地)を使用した場合の発光量を引いた発光量を100%とした値である。
【0082】
図2の結果より、オクトパミンと共に、クロルプロマジン又はヨヒンビンを共存させると、クロルプロマジン又はヨヒンビンの濃度依存的に発光量が減少することが示された。このことより、本発明のスクリーニング方法は、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体に対するアンタゴニストの作用、すなわち内在リガンドによるシグナル伝達の阻害作用を検出できることが示された。
【0083】
実施例3.分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性測定値に対する血清濃度の影響
アゴニスト培地の代わりに、オクトパミン培地(オクトパミンをDMSOに溶解した溶液をオクトパミン濃度10−5 Mになるように無血清培地に添加し、さらにFBSをFBS濃度が0.1%、0.5%、1%、5%、又は10%になるように添加した培地)を使用し、発光量の測定をReaction Buffer添加後0〜30分の間に1分間隔で測定した以外は、実施例2‐1と同様に行った。
【0084】
結果を図3に示す。図3中、横軸は、Reaction Buffer添加後、発光量を測定するまでの時間を表す。
【0085】
図3の結果より、血清濃度が10%の場合は、Reaction Buffer添加後約3〜6分間で発光値が一旦定常状態となるが、Reaction Buffer添加後6分後から発光値が急激に増加し、Reaction Buffer添加後約25分後には、前記定常状態における発光値の約2倍の発光値を示した。このことより、Reaction Buffer添加後の時間にばらつきが生じる程の多検体を処理する場合は、血清濃度10%であると、検体間の測定値を比較する際の正確性が大きく損なわれるという問題生じることが見出された。
【0086】
一方、血清濃度が0.1%、0.5%、1%、又は5%の場合は、Reaction Buffer添加後約3〜6分間で発光値が定常状態となり、その後発光値が緩やかに減少することが分かった。このことより、血清濃度を通常の血清濃度(10%)より減らすことにより、血清濃度10%の場合の上記問題が生じないことが見出された。
【0087】
実施例4.分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性に対する凍結融解の影響評価
pSEAP2-Control(Clontech社)(分泌性胎盤アルカリホスファターゼ発現ベクター)が導入されたHEK-293細胞の培養上清を調製した。該培養上清を-20℃フリーザーに入れて凍結後、室温で融解するという凍結融解サイクルを2回繰り返して行った。凍結融解を1回行った培養上清及び凍結融解を2回行った培養上清について、実施例2‐1と同様に発光量を測定した。
【0088】
結果を図4に示す。図4中、「1回解凍」は凍結融解を1回行った培養上清を示し、「2回解凍」は凍結融解を2回行った培養上清を示す。
【0089】
図4の結果より、1回解凍と2回解凍の間で発光量の変化が殆どないことから、分泌性胎盤アルカリホスファターゼ活性は凍結融解の影響がないことが示された。このことから、分泌性胎盤アルカリホスファターゼを使用した場合、培養上清の凍結ストックを作製後、該ストックを解凍して測定することができることから、多検体の処理において優れた効率を発揮することが見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ポリヌクレオチド(a)並びに下記ポリヌクレオチド(b)が導入されたことを特徴とする細胞:
(a)αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びに
(b)cAMP応答エレメントを有し、且つプロモーター機能を有するポリヌクレオチド領域1、及びポリヌクレオチド領域1の3’末端側に配置された分泌型レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド領域2を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)が導入された哺乳類動物細胞である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記分泌型レポータータンパク質が分泌性胎盤アルカリホスファターゼである、請求項1又は2に記載の細胞。
【請求項4】
ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)が導入されたHEK‐293細胞である、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチド(a)がカイコガ属に属する生物のαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項1〜4のいずれかに記載の細胞。
【請求項6】
下記工程(ア)、(イ)、及び(ウ)を含む、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質のスクリーニング方法:
(ア)請求項1〜5のいずれかに記載の細胞を被検物質と培養液中で接触させる工程、
(イ)工程(ア)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定し、該活性値を、被検物質と接触させていない対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と比較する工程、及び
(ウ)被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値とが有意に相違している場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体作用物質として選択する工程。
【請求項7】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストのスクリーニング方法であって、
前記工程(ウ)が、被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に高い場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストとして選択する工程である、
請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法であって、
前記工程(ア)が、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞を、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と培養液中で接触させる工程であり、
前記工程(イ)が、工程(ア)の後、培養液の分泌型レポータータンパク質活性を測定し、該活性値を、被検物質と接触させずにαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニストと接触させた対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値と比較する工程であり、
前記工程(ウ)が、αアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アゴニスト及び被検物質と接触させた細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値が、対照細胞の培養液の分泌型レポータータンパク質活性値よりも有意に低い場合に、被検物質をαアドレナリン受容体様オクトパミン受容体アンタゴニストとして選択する工程である、
請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
培養液が血清濃度7%以下の培養液である、請求項6〜8のいずれかに記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−42714(P2013−42714A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183388(P2011−183388)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 日本農薬学会 刊行物名 日本農薬学会第36回大会講演要旨集 発行年月日 2011年2月25日
【出願人】(310022224)大塚アグリテクノ株式会社 (2)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】