説明

α環状ジペプチドの製造方法

【課題】簡便かつ効率よく環状ペプチドを製造できる方法を提供すること。
【解決手段】一般式(1):


〔式中、Xはアルキレン基(好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基)を示す〕
で表されるアミノ酸又はその塩を溶解した酸性溶液を、加熱する工程を含む、α環状ジペプチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α環状ジペプチドの製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
2以上のアミノ酸が結合した環状ペプチドは、様々な生理活性を有することが近年明らかになりつつあり、研究が盛んになりつつある。例えば、カイコ蛹エキスの鎮痛活性を示す画分からは環状ジグルタミルペプチドが単離されている。また、特に低分子ペプチド(例えばジ又はトリペプチド等の比較的低分子量のペプチド)は細胞膜透過性を有しているため、早くから研究が盛んであり、各種低分子ペプチドが研究又は臨床現場に供給されてきた。
【0003】
しかしながら、ペプチドを合成する場合には、原料がアミノ酸であることがほとんどであり、アミノ酸はカルボキシル基やアミノ基を有するため、通常段階的な保護基の導入を要する。このため、副生成物が多く、収率がよくない場合が多い。また、高純度のものを得るためには、個別のプロセスごとに有機溶媒を用いた複雑な精製を行わなくてはならないことがほとんどであり、製造コストがかさむうえ、環境にも負荷をかけるおそれがある。
【0004】
このため、新規低分子ペプチドの探求のみならず、既知低分子ペプチドの簡便且つ効率のよい製造方法の探求も盛んに行われている。例えば特許文献1には、環状ジグルタミルペプチドの効率的な製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−320272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便かつ効率よく環状ペプチドを製造できる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべき事に、特定のアミノ酸を溶解した酸性溶液を加熱することにより、極めて簡便且つ効率的にα環状ジペプチドを製造できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。なお、α環状ジペプチドとは、2つのアミノ酸において、一方をアミノ酸A、もう一方をアミノ酸Bとした場合、アミノ酸Aのαカルボキシル基がアミノ酸Bのアミノ基と脱水縮合し、アミノ酸Aのアミノ基がアミノ酸Bのαカルボキシル基と脱水縮合した構造を有する、環状ジペプチドである。
【0008】
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載のα環状ジペプチドの製造方法及び血中尿酸値低下剤を包含する。
項1.
一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
〔式中、Xはアルキレン基を示す。好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基を示す。〕
で表されるアミノ酸又はその塩を溶解した酸性溶液を、加熱する工程を含む、α環状ジペプチドの製造方法。
項2.
加熱が110℃以上で行われる、項1に記載のα環状ジペプチドの製造方法。
項3.
一般式(1)で表されるアミノ酸又はその塩を溶解した酸性水溶液又は酸性含水アルコール溶液を、加熱する工程を含む、項1又は2に記載のα環状ジペプチドの製造方法。
項4.
一般式(1):
【0011】
【化2】

【0012】
〔式中、Xはアルキレン基を示す。好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基を示す。〕
で表されるアミノ酸が溶解した酸性溶液を、加熱して得られる組成物を含む、血中尿酸値低下剤。
項5.
一般式(1):
【0013】
【化3】

【0014】
〔式中、Xはアルキレン基を示す。好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基を示す。〕
で表されるアミノ酸又はその塩、
及び/又は
一般式(2):
【0015】
【化4】

【0016】
〔式中、Xはアルキレン基を示す。好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基を示す。〕
で表されるα環状ジペプチド、
を含む、血中尿酸値低下剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るα環状ジペプチドの製造方法によれば、非常に簡便にα環状ジペプチドが製造できる。また、原料の立体化学(L体かD体か)に依存したジペプチドが選択的に合成されるため、L−D体が生成される場合に比べて分離精製が非常に容易である。さらに、当該製造方法によれば、従来の方法に比べ収率が非常に高い。またさらに有機溶媒を用いずとも合成ができるため、環境への負荷も少ない上、精製せずとも生体へ適用することもできる。さらに、当該製造方法で得られる反応生成物は、血中尿酸値低下作用を示す。よって、当該反応生成物は、特に高尿酸血症や痛風等の予防又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のα環状ペプチドの製造方法により得られた生成物を高尿酸血症モデルマウスへ経口投与し、血漿尿酸値を測定した結果を示す。正常群は何ら処理をしていないマウス(ICRマウス雄)の群を示し、対照群は高尿酸血症モデルマウスに生理食塩水を経口投与させた群を示す。DACOPはL−L体のα環状オルニチニックジペプチドを示す。DACOP投与群はL−L体のα環状オルニチニックジペプチドを経口投与させた群を示す(各群n=10)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0020】
本発明のα環状ペプチドの製造方法に用いるアミノ酸は、下記一般式(1)で表されるアミノ酸(以下「アミノ酸(1)」とも表記する)である。また、当該アミノ酸の塩を用いることもできる。
【0021】
【化5】

【0022】
式中、Xは、アルキレン基(−(CH−)を示す。当該アルキレン基は、炭素数(すなわちn数)1〜10のものが好ましく、1〜8のものがより好ましく、1〜6のものがさらに好ましく、2、3、4、5又は6のものがよりさらに好ましい。中でも炭素数2〜5のアルキレン基が好ましく、−(CH−又は−(CH−が特に好ましい。なお、Xが−(CH−のときアミノ酸(1)はオルニチンを、Xが−(CH−のときアミノ酸(1)はリジンを、それぞれ示す。
【0023】
アミノ酸(1)には、その不斉炭素原子によるD体及びL体が存在し得るが、本発明に用いるアミノ酸(1)は、これらキラリティーは特に制限されず、適宜適当なものを選択して用い得る。すなわち、本発明に用いるアミノ酸(1)は、当該L体及びD体の何れであってもよいし、これらの混合物(例えばラセミ体)であってもよい。なお、本発明に係るα環状ジペプチドの製造方法により、製造されるジペプチドは、たとえD体及びL体の混合物を用いた場合であっても、L−D体はほとんど製造されないことから、それぞれL−L体およびD‐D体が原料におけるDL混合比に応じて製造される。
【0024】
アミノ酸(1)の塩を用いる場合、本発明の効果を損なわない限り、塩としては特に制限されないが、無機塩であることが好ましい。例えばアミノ酸(1)の塩酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩等を用い得る。本発明に係るα環状ペプチドの製造方法では、アミノ酸(1)又はその塩を溶解した酸性溶液を用いるため、特に塩酸塩等であれば、溶媒に溶解させるだけで酸性溶液となり得るため、好ましい。
【0025】
なお、アミノ酸(1)又はその塩は、公知の物質であるか、公知の方法により容易に製造することができ、容易に入手できる。市販品を購入して用いることもできる。
【0026】
本発明に係る、α環状ジペプチドの製造方法においては、上述したアミノ酸(1)又はその塩は、溶媒に溶解させて用いられる。ここで使用する溶媒としては、水性溶媒が好ましい。水性溶媒とは、水を主に含有する溶媒であり、より具体的には、水又は含水アルコールが例示できる。当該含水アルコールは、水の含有量(w/w%)が50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上である。また、含水アルコールに含まれるアルコールとしては、炭素数1〜4のアルキルアルコールが好ましく、中でもエタノールが好ましい。なお、溶媒として特に好ましいのは水である。水を用いた場合、環境への負荷も少ない上、精製せずとも生体へ適用することもできる。
【0027】
また、アミノ酸(1)又はその塩を溶媒に溶解した溶液(以下「アミノ酸(1)溶液」ともいう)は、酸性としたうえで用いられる。ここでの酸性とは、pHが7未満であることをいい、好ましくは約6.5以下、より好ましくは0.3〜6.5程度である。なお、pHは25℃においてKS723pHメーター(3点校正)により測定した値である。
【0028】
アミノ酸(1)溶液のpHを酸性に調整するため、公知のpH調整剤を用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、硫酸水素塩(例えば硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム等)等を用いることができる。また、上述の通り、アミノ酸(1)の塩のうち、溶媒に溶解させるだけで溶液のpHが酸性となるものが存在するので、このようなアミノ酸(1)の塩を用いる場合は、必ずしもpH調整剤を用いてpHを調整する必要はない。なお、アミノ酸(1)溶液のpHが中性又はアルカリ性(即ちpHが7以上)の場合は、目的とするα環状ジペプチドはほとんど製造できない。
【0029】
アミノ酸(1)溶液に含まれるアミノ酸(1)又はその塩の量は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されない。溶解可能な限界量まで溶解させてもよい。例えば、0.1〜10w/v%程度の量が例示される。
【0030】
pHが酸性であるアミノ酸(1)溶液を加熱することにより、2個のアミノ酸(1)のαカルボキシル基及びアミノ基が脱水縮合し、α環状ジペプチドが生成する。当該α環状ジペプチドの一般式を次の一般式(2)に示す。
【0031】
【化6】

【0032】
式中、Xは、前記と同じである。
【0033】
なお、以下一般式(2)で示されるα環状ジペプチドを「α環状ジペプチド(2)」ともいう。
また、当該反応において想定される反応式を以下に示す。
【0034】
【化7】

【0035】
式中、Xは前記と同じである。
【0036】
加熱温度は、本願発明の効果が著しく損なわれなければ(特に、α環状ジペプチドが生成される限り)、特に制限されないが、好ましくは約110℃以上、より好ましくは約115℃以上である。加熱温度上限は本発明の効果が損なわれない限り特に制限はされないが、例えば約150℃以下が例示できる。なお、加熱方法も特に制限されず、例えば前記の温度まで加熱が可能な公知の方法又は装置を用いて行うことができる。例えば、酸性のアミノ酸(1)溶液を密封耐圧試験管にいれ、これをデジタル加熱ブロックにセットして所望の温度で加熱することができる。
【0037】
また、加熱時間も特に制限されず、適宜設定することができる。例えば、24〜144時間(好ましくは48〜108時間)程度の時間が例示される。
【0038】
加熱後、反応溶液中にはα環状ジペプチドが生成されている。当該反応溶液をそのまま用いることもできるし、例えば減圧乾固又は凍結乾燥させ、粉体とした上で保存及び使用することもできる。また、特に反応液中にKHSOを加えた場合は、減圧乾固後、メタノールを加え懸濁して、これをろ過することにより、残渣(残留KHSO)と目的物を分離することが出来る。また、シリカゲルクロマトグラフィー等の公知の方法を用いて、さらにα環状ジペプチド(2)を精製することもできる。
【0039】
このようにして調製される反応生成物(主成分はアミノ酸(1)及び/又はα環状ジペプチド(2))は、例えば試薬や医薬候補化合物として利用することができる。
【0040】
本発明は、このようにして得られる当該反応生成物の用途にも関する。当該反応生成物の主成分はアミノ酸(1)及び/又はα環状ジペプチド(2)であるので、本発明はアミノ酸(1)及び/又はα環状ジペプチド(2)の用途にも関するといえる。具体的には、本発明は、当該反応生成物を含む血中尿酸値低下剤を包含する。また、本発明は、アミノ酸(1)及び/又はα環状ジペプチド(2)を含む血中尿酸値低下剤を包含する。
【0041】
以下、これらの血中尿酸値低下剤をまとめて「本発明の尿酸値低下剤」ということがある。本発明の尿酸値低下剤は、医薬分野及び食品分野で用いられ得る。また、“当該反応生成物”、又は“アミノ酸(1)及び/又はα環状ジペプチド(2)”を、医薬分野で用いられる場合「有効成分」ということが、食品分野で用いられる場合「関与成分」ということが、ある。
【0042】
本発明の尿酸値低下剤を医薬分野にて用いる場合、当該剤(以下「本発明に係る医薬剤」と記載することがある)は、有効成分そのものであってもよいし、これと他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が必要に応じて配合され、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等の医薬製剤に調製されたものでもよい。本発明に係る医薬剤における有効成分含有量は、例えば0.1〜100重量%であり得る。このような本発明に係る医薬剤は、特に経口投与により、血漿尿酸値を低下させることができる。このため、本発明に係る医薬剤は、特に高尿酸血症及び痛風の予防又は治療に好適に用いることができる。よって、当該医薬剤は、特に高尿酸血症患者、痛風患者に用いるのに好適である。なお、本発明に係る医薬剤の有効成分の一日摂取量は、患者の年齢や性別、病状の重篤度等に応じて、適宜設定することができる。
【0043】
本発明の尿酸値低下剤を食品添加剤として用いる場合、当該剤(以下「本発明に係る食品添加剤」と記載することがある)は、関与成分そのものであってもよいし、これと食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品添加剤として利用され得る成分・材料が適宜配合されたものでもよい。本発明に係る食品添加剤における関与成分含有量は、例えば0.1〜100重量%であり得る。また、このような食品添加剤の形態としては、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、調味料(醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等)、フレーク(ふりかけ)、焼き肉のたれ、スパイス、ルーペースト(カレールーペースト等)等が例示できる。このような食品添加剤は、常法に従って適宜調製することができる。
【0044】
このような本発明に係る食品添加剤は、該食品添加剤が添加された食品を食べることにより摂取される。なお、当該添加は食品調理中又は製造中に行ってもよいし、調理済みの食品を食べる直前又は食べながら行ってもよい。当該食品添加剤はこのようにして経口摂取することにより、血中尿酸値低下効果を発揮し、痛風等の症状の改善効果を奏する。当該食品添加物は、高尿酸血症患者、痛風患者の他、尿酸値が高めの人にも有用である。なお、本発明に係る食品添加剤の関与成分の一日摂取量は適宜設定することができる。
【0045】
本発明の尿酸値低下剤を血中尿酸値低下用の飲食品として用いる場合、当該剤(以下「本発明に係る飲食品」と記載することがある)は、関与成分と、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものである。関与成分が配合されてなる飲食品ということもできる。例えば、関与成分を含む、血中尿酸値低下用の加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。また、関与成分を、飲料類(ジュース等)、菓子類(例えばガム、チョコレート、キャンディー、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅、プリン、杏仁豆腐等)、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものであってもよい。このような、関与成分を含んでなる飲食品である抗アトピー性皮膚炎剤は、血中尿酸値を低下させるために好ましく用いることができる。
【0046】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、当該飲食品からなる尿酸値低下剤を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤、ドリンク剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤、ドリンク剤等の形態の当該飲食品からなる尿酸値低下剤は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0047】
本発明に係る飲食品の摂取量、摂取対象等は、例えば上述した本発明に係る食品添加剤のそれらと同様であることが好ましい。
【0048】
なお、病院食とは病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは被介護者用の食事である。本発明に係る飲食品は、特に高尿酸血症又は痛風(及び何らかの合併症を患っている)患者であって、入院、自宅療養等されている者、あるいは介護を受けられている者用の病院食、病人食又は介護食として好ましく用いることができる。
【0049】
本発明は、高尿酸血症又は痛風(及び何らかの合併症を患っている)患者又は哺乳動物に対し、本発明の尿酸値低下剤を経口投与又は摂取することを特徴とする高尿酸血症又は痛風の改善方法及び治療方法をも提供する。当該方法は、具体的には、前述の本発明の尿酸値低下剤を投与又は摂取することで実施される。なお、当該方法における、経口投与又は摂取量等の各条件は前述の通りである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
実施例1.α環状ジペプチドの製造
以下のようにしてオルニチンからα環状オルニチニックジペプチド(以下「ACOP」ともいう)を製造した。なお、L(+)-オルニチン(塩酸塩)、D(-)-オルニチン(塩酸塩)、硫酸水素カリウム、炭酸水素カリウムは、いずれも和光純薬(株)の特級試薬を購入して用いた。塩酸はナカライテスク製標準試薬(6 mol/L)を用時調製して用いた。
【0051】
密封耐圧試験管(10mL サイズ)に約1%(w/v)となるように原料(L−オルニチン、D−オルニチン、又はL−オルニチン及びD−オルニチンの等量混合物)50mgを量り採り、これに5mLの精製水を加えて溶解させた。さらに適量のKHSO又はHClを加え、あるいは加えず、専用のスクリューキャップで密封した(KHSOを添加した場合の結果を表1に示す。KHSOの添加量を表1に記載する)。これを、アルミブロック式のデジタル加熱ブロック(東京理化、MG−2000)を用い、96時間120℃で加熱してACOPを製造した。この後、反応液をそのまま減圧乾固(又は凍結乾燥)し、反応生成物を得た。
【0052】
製造されたACOPを含む反応生成物をH−NMR(400MHz、:45℃の重水(DO)中で測定)で解析し、原料とACOPのシグナル面積の総和に占めるACOPシグナル面積値の相対比率(%)を、目的物の収率とした。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
なお、NMR解析においては、オルニチン様構造の対称体ダイマーであるACOPは、2つのオルニチン様構造が与える個々のシグナルそれぞれが、全く同位置に同じ形で現れるため、“ACOPシグナル”は、オルニチンのそれと比較すると相対的には2倍の面積シグナルを示すことになる。例えば、表1において、KHSOの添加量0%でL体オルニチンを4時間反応させた場合、ACOP生成率は42.8%であるが、これはACOPシグナル:オルニチンシグナルの面積比が2:2.7という結果が得られたところから、{2/(2+2.7)}×100≒42.8と算出した値であり、この場合、ACOPとオルニチンのモル比は1:2.7ということになる(“ACOPシグナル”は、相対的には2倍の面積シグナルを示すため)。そして、当該モル比並びにACOP及びオルニチン塩酸塩の分子量(それぞれ228.15及び168.62)から、この反応生成物に含まれるACOPとオルニチン塩酸塩の重量比は約1:2であることも算出できる。
【0055】
また、表1において、KHSOの添加量が0%の反応溶液のpHは5.8〜6.0であり、KHSOの添加量が0.16%の反応溶液のpHは約0.7であり、KHSOの添加量が0.34%以上のものの反応溶液のpHは0.7より小さい。また、原料としてL−オルニチンを用いた場合はL−L体が得られ、D−オルニチンを用いた場合はD−D体が得られた。原料としてL−オルニチン及びD−オルニチンの等量混合物を用いた場合であっても、L−L体及びD−D体のみが得られ、L−D体は得られなかった。ACOPのL−L体の構造式を下に示す。
【0056】
【化8】

【0057】
なお、特に反応液中にKHSOを加えた場合は、減圧乾固後、メタノールを加え懸濁して、これをろ過することにより、残渣(残留KHSO)と目的物を分離することが出来る。また、シリカゲルクロマトグラフィー等の公知の方法を用いて、さらにACOPを精製することもできる。
【0058】
本発明に係るα環状ジペプチドの製造方法によれば、非常に簡便にα環状ジペプチドが製造できることが表1より明らかである。また、原料の立体化学(L体かD体か)に依存したジペプチドが選択的に合成されるため、L−D体が精製される場合に比べて分離精製が非常に容易である。さらに、当該製造方法によれば、従来の方法に比べ収率が非常に高い。またさらに有機溶媒を用いずとも合成ができるため、環境への負荷も少ない上、精製せずとも生体へ適用することもできる。
【0059】
実施例2.反応生成物が有する効果の検討
実施例1において、原料としてL−オルニチンを用いて製造された反応生成物(減圧乾固物)を血漿中尿酸濃度が高濃度となったモデルマウスへ投与し、その効果を検討した。具体的には次のようにして行った。
【0060】
オキソン酸カリウム 0.125 g を0.5 %CMC 溶液 1 mL に溶解し、オキソン酸0.5 %カルボキシメチルセルロース(CMC)懸濁液を調製した。そして、8週齢の雄性ICR マウスに250 mg/kg の当該オキソン酸0.5 %CMC懸濁液を腹腔内投与することにより、高尿酸血症モデルマウスを作製した。当該腹腔内投与から1 時間後に、当該高尿酸血症モデルマウスに対して2 g/kg の試料をゾンデで強制経口投与した。なお、当該試料は反応生成物(表1において、KHSOの添加量0%でL体オルニチンを4時間反応させて得た反応組成物)60mgを生理食塩水300 μLに溶解させたものである。また、対照実験として、高尿酸血症モデルマウスに、生理食塩水300μLをゾンデで強制経口投与した。
【0061】
試料を経口投与してから1、2又は3時間後(すなわち、オキソン酸を投与してから2、3又は4時間後)にマウスの尾静脈から採血し(n=10)、得られた血漿を用いて次のようにして血漿尿酸値を定量した。血漿 10μL、MeOH 100μL、CHCl100μL、HO 90μL、を順次コスモスピンフィルターHへ加え、よく混和した。(6サンプルずつ処理を行った)。これを遠心機で40分間遠心ろ過し、除蛋白を行った。ろ液を遠心式加熱デシケーターMicro vac MV−100を用いて、90分間減圧乾燥させた。チューブ中の乾燥残渣にHO 15μLを加えた。そして、チューブの蓋を閉めてソニケーターで混和し、遠心機で壁面の水滴を遠沈し、均一化させた後3μLを採り、下記条件でHPLCにより分析して、血中尿酸値の定量を行った。HPLC分析は同一血漿について3回繰り返した。3回の平均値をHPLC分析結果とした。
【0062】
<HPLC 分析条件>
Column:COSMOSIL 4.6 ×250 mm 5C18-AR-II(type : water)
inject:3 μL Column temp.:30 ℃
solvent:30 m mol/L リン酸水溶液 flow rate:1.0 mL/min
detector: UV(280 nm) RANGE:0.02 ATTEN:1
【0063】
そして、当該分析結果をもとにt 検定 (Bonferroni の修正t 検定)を行った。
結果を図1に示す。図中、正常群は何ら処理をしていないマウスの群を示し、対照群は高尿酸血症モデルマウスに生理食塩水を経口投与させた群を示し、DACOP投与群はACOPを含む反応生成物を経口投与させた群を示す。図1から、L−オルニチンを用いて製造された反応生成物(特にL−L体のACOP)は、特に高尿酸血症において血中尿酸値を低下させる作用を有することが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

〔式中、Xは炭素数2〜5のアルキレン基を示す〕
で表されるアミノ酸又はその塩を溶解した酸性溶液を、加熱する工程を含む、α環状ジペプチドの製造方法。
【請求項2】
加熱が110℃以上で行われる、請求項1に記載のα環状ジペプチドの製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるアミノ酸又はその塩を溶解した酸性水溶液又は酸性含水アルコール溶液を、加熱する工程を含む、請求項1又は2に記載のα環状ジペプチドの製造方法。
【請求項4】
一般式(1):
【化2】

〔式中、Xは炭素数2〜5のアルキレン基を示す〕
で表されるアミノ酸が溶解した酸性溶液を、加熱して得られる組成物を含む、血中尿酸値低下剤。
【請求項5】
一般式(1):
【化3】

〔式中、Xは炭素数2〜5のアルキレン基を示す〕
で表されるアミノ酸又はその塩、
及び/又は
一般式(2):
【化4】

〔式中、Xは炭素数2〜5のアルキレン基を示す〕
で表されるα環状ジペプチド、
を含む、血中尿酸値低下剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53115(P2013−53115A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193879(P2011−193879)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】