説明

α,β,β−トリフルオロスチレン類の工業的な製造方法

【課題】α,β,β−トリフルオロスチレン類の工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】α,β,β−トリフルオロスチレン類の製造において、α−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類をアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドと反応させる脱フッ化水素工程と、引き続いて行う、目的物のα,β,β−トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させる後処理工程を含む、α,β,β−トリフルオロスチレン類の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β,β−トリフルオロスチレン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β,β−トリフルオロスチレン類は、対応するα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類をリチウムビス(トリメチルシリル)アミドと反応させることにより製造することができる(非特許文献1および2)。また、α,β,β−トリフルオロスチレン類は、環化二量化することが知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry(オランダ),2005年,第126巻,p.1174−1184
【非特許文献2】Tetrahedron Letters(オランダ),2003年,第44巻,p.6661−6664
【非特許文献3】Journal of the American Chemical Society(米国),1973年,第95巻,p.7923−7925
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
α,β,β−トリフルオロスチレン類は、室温下でも比較的容易に環化二量化する。非特許文献1および2においても、反応終了液を長時間放置した場合や、蒸留精製中に一部が環化二量化することが報告されている。この様な観点から、α,β,β−トリフルオロスチレン類の製造においては、後処理と精製を如何に素早く効率的に行うかが重要な課題となる。特に、大量規模での製造においては、本課題の重要性が顕在化する。
【0005】
また、非特許文献1および2には、等モル量副生するビス(トリメチルシリル)アミンが蒸留精製では取り除き難いことも報告されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、目的物のα,β,β−トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させることにより、低沸点(16℃)のフルオロトリメチルシランとアンモニア(または、アンモニアとフッ化水素とからなる塩もしくは錯体)に変換し、蒸留精製(必要に応じて濾過)だけで後処理と精製を素早く効率的に行えることを見出し、本発明に到達した。フルオロトリメチルシランとアンモニアは蒸留精製により(アンモニアとフッ化水素とからなる塩もしくは錯体は濾過により)容易に取り除くことができる。該蒸留精製(濾過)も、後述の[発明1]の工程Bに含まれるものとして扱う。
【0007】
すなわち、本発明は[発明1]〜[発明3]を含み、α,β,β−トリフルオロスチレン類の工業的な製造方法を提供する。
【0008】
[発明1]
一般式[1]:
【化1】

【0009】
[式中、Arは芳香環基または置換芳香環基を表す。]
で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の製造において、
一般式[2]:
【化2】

【0010】
[式中、Arは前記式[1]と同じである。]
で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類を、一般式[3]:
【化3】

【0011】
[式中、Meはメチル基を表し、Mはアルカリ金属を表す。]
で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドと反応させる工程Aと、引き続いて行う、目的物のα,β,β−トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させる工程Bを含む、α,β,β−トリフルオロスチレン類の製造方法。
【0012】
[発明2]
前記式[1]で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類のArがフェニル基または置換フェニル基であり、前記式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのMがリチウムである、発明1に記載の方法。
【0013】
[発明3]
前記有機塩基がトリn−ブチルアミンである、発明1または2に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法は、後処理と精製を素早く効率的に行うことができるため、大量規模での製造においても環化二量化を最小限に抑えることができる。また、ビス(トリメチルシリル)アミンからフルオロトリメチルシランとアンモニアへの変換が定量的に進行するため、高純度のα,β,β−トリフルオロスチレン類[ビス(トリメチルシリル)アミンと沸点の近いものに対しても]を得ることができる。さらに、本発明の後処理操作(工程B)は、好ましい態様として、反応終了液に対して直接、適用することができる。そのため、廃水が一切出ることなく、廃有機溶媒も削減することができ、工業的な製造方法という観点からも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のα,β,β−トリフルオロスチレン類の工業的な製造方法について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。なお、以下の説明中、一般式[1]〜[3]の具体的な構造については、先に示した通りである。
【0016】
本発明の製造方法は、α−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類をアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドと反応させる工程A(脱フッ化水素工程)と、目的物のα,β,β−トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させる工程B(後処理工程)を含む。
【0017】
1.工程A(脱フッ化水素工程)
初めに、工程Aの脱フッ化水素工程について具体的に説明する。
【0018】
一般式[2]で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類のArは、芳香環基または置換芳香環基を表す。該芳香環基は、炭素数1〜18の、フェニル基、ナフチル基およびアントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。該置換芳香環基は、それぞれ上記の芳香環基の、任意の炭素原子または窒素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素のハロゲン原子、メチル基、エチル基およびプロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基およびブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基およびブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、ホルミル基、アセチル基およびベンゾイル基等のアシル基、アシル基の保護体、ニトロ基、ならびに−B(OH)、−B(OR、−B(O)、−BF・Kおよび−B[(OCOCHNMe]等のホウ素含有基[R;低級アルキル基、R;炭素数2〜12の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)のアルキレン基、Me;メチル基]等である。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1〜6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。また、上記の“係る置換基は”の芳香環基およびアシル基には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アシル基、アシル基の保護体、ニトロ基およびホウ素含有基等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基およびアシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。その中でもフェニル基および置換フェニル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。フェニル基および置換フェニル基のものは、大量規模での入手が容易であり、フェニル基のものは、これから得られる一般式[1]で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類が機能性高分子のモノマーとして重要である。一般式[2]で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類は、特開2006−290870号公報を参考にして同様に製造することができる(参考例1を参照)。
【0019】
一般式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのMeは、メチル基を表す。
【0020】
一般式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのMは、アルカリ金属を表す。該アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムである。その中でもリチウムおよびナトリウムが好ましく、リチウムが特に好ましい。リチウムおよびナトリウムのものは、大量規模での入手が容易であり、リチウムのものは、一般式[1]で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類への脱フッ化水素の反応性が高い。一般式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドは、市販品、特に濃度調整された各種溶液を用いるのが便利である。当然、ビス(トリメチルシリル)アミンと低級アルキルアルカリ金属とから用時調製することもできる(実施例1〜3を参照)。
【0021】
一般式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドの使用量は、一般式[2]で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類1molに対して0.7mol以上を用いれば良く、0.8〜7molが好ましく、0.9〜5molが特に好ましい。
【0022】
工程Aの反応は、例えば、一般式[2]で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類に、一般式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドを添加して行う場合(実施例1〜3を参照、I法)と、アルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドにα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類を添加して行う場合(II法)がある。I法はII法に比べて選択性が高く、II法はアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドを用時調製した後にワンポット反応として行うことができる。
【0023】
反応溶媒は、n−ヘキサンおよびn−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジn−ブチルエーテルおよびアニソール等のエーテル系、ならびにN,N−ジメチルホルムアミドおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系等である。その中でも脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系およびエーテル系が好ましく、エーテル系が特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0024】
反応溶媒の使用量は、一般式[2]で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類1molに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、0.03〜30Lが好ましく、0.05〜15Lが特に好ましい。本反応は、反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0025】
反応温度は、−80〜+200℃で行えば良く、−60〜+150℃が好ましく、−40〜+100℃が特に好ましい。
【0026】
反応時間は、24時間以内で行えば良く、原料基質、反応剤および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーおよび核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0027】
2.工程B(後処理工程)
次に、工程Bの後処理工程について具体的に説明する。
【0028】
目的物のα,β,β−トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させる後処理工程は、脱フッ化水素工程の反応終了液を対象とするのが好ましい(実施例1〜3を参照)。当然、有機合成における一般的な後処理操作により得られる、一般式[1]で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の粗生成物を対象とすることもできる。該粗生成物には、例えば、ビス(トリメチルシリル)アミンと水との接触によりヘキサメチルジシロキサン等のケイ素−酸素結合を有する化合物が含まれる場合もあるが、本発明の後処理操作により同様に、フルオロトリメチルシランへの変換が定量的に進行する。よって、ヘキサメチルジシロキサン等のケイ素−酸素結合を有する化合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させる後処理操作も、本発明の特許請求の範囲に含まれるものとして扱う。なお、ヘキサメチルジシロキサンは、本発明の好適な目的物であるα,β,β−トリフルオロスチレン(一般式[1]のArがフェニル基)との沸点差が小さく、蒸留精製での分離が困難である。また、脱フッ化水素工程では、反応系内に等モル量のアルカリ金属フッ化物が副生するが、本発明の後処理操作に用いるフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体とは反応性が格段に異なり、反応系内に副生したアルカリ金属フッ化物では所望の効果[ビス(トリメチルシリル)アミンからフルオロトリメチルシランとアンモニアへの定量的な変換]を得ることができない。
【0029】
「有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体」の有機塩基は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等である。しかしながら、これらに限定されず、有機合成において一般的に用いられる有機塩基も採用することができる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましく、トリn−ブチルアミンが特に好ましい。トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンは、大量規模での入手が容易であり、トリn−ブチルアミンは、本発明の好適な目的物であるα,β,β−トリフルオロスチレン(一般式[1]のArがフェニル基)との沸点差が大きく、蒸留精製での分離が容易である。これらの有機塩基は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0030】
「有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体」の有機塩基とフッ化水素のmol比は、100:1〜1:100で用いれば良く、50:1〜1:50が好ましく、25:1〜1:25が特に好ましい。
【0031】
フッ化水素または「有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体」の使用量は、一般式[2]で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類1molに対して、フッ化物イオン(F)として0.1mol以上を用いれば良く、0.3〜50molが好ましく、0.5〜30molが特に好ましい。
【0032】
反応溶媒は、脱フッ化水素工程において記載した反応溶媒と同じであり、“好ましい”および“特に好ましい”反応溶媒も同じである。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。脱フッ化水素工程の反応終了液を本発明の後処理工程の対象とする好適な場合は、反応溶媒を新たに加える必要はない。
【0033】
反応溶媒の使用量は、脱フッ化水素工程において記載した反応溶媒の使用量と同じであり、“好ましい”および“特に好ましい”反応溶媒の使用量も同じである。本反応は、反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0034】
反応温度は、−80〜+200℃で行えば良く、−60〜+150℃が好ましく、−40〜+100℃が特に好ましい。
【0035】
反応時間は、12時間以内で行えば良く、ビス(トリメチルシリル)アミンの残留量、反応剤および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーおよび核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、ビス(トリメチルシリル)アミンの減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0036】
目的物の回収、特に脱フッ化水素工程の反応終了液を本発明の後処理工程の対象とする好適な場合の回収は、後処理工程の反応終了液を直接、分別蒸留(必要に応じて濾過した後に)することにより、一般式[1]で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類を得ることができる(当然、分別蒸留以外の方法を制限するものではない)。該分別蒸留は、減圧下で行うことにより、留出温度を低く設定することができ、環化二量化を更に最小限に抑えることができる。分別蒸留品は、必要に応じて活性炭処理、再分別蒸留、再結晶およびカラムクロマトグラフィー等により更に高い純度に精製することができる。目的物の環化二量化は、低温(例えば、−18℃)では殆ど進行しないため、製造終了後、直ちに低温下で保管することが好ましい。
【0037】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例2および3の原料基質として用いたα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類は、参考例1を参考にして同様に製造した。
【実施例1】
【0038】
[アルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドの調製]
ビス(トリメチルシリル)アミン38.7g(240mmol、1.20eq)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量50.0mL、0.208L/mol)に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液145mL(1.65M、240mmol、1.20eq)を氷冷下で滴下し、室温で30分間攪拌することにより、下記式:
【化4】

【0039】
で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン・n−ヘキサン混合溶液(240mmolとする、1.20eq)を調製した。
【0040】
(脱フッ化水素工程)
下記式:
【化5】

【0041】
で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類35.6g(200mmol、1.00eq、参考例1の精製品)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量50.0mL、0.250L/mol)に、上記で調製したアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン・n−ヘキサン混合溶液全量(240mmolとする、1.20eq)を氷冷下で滴下し、室温で4時間30分攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率は100%であった[ビス(トリメチルシリル)アミンが等モル量副生していた]。
【0042】
(後処理工程)
反応終了液(均一溶液)に、トリn−ブチルアミン・三フッ化水素63.8g(260mmol、1.30eq)を氷冷下で滴下し、同温度で1時間攪拌し、さらに室温で1時間30分攪拌した(懸濁溶液)。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、ビス(トリメチルシリル)アミンは全く検出されなかった。反応終了液を濾過し、残渣を少量のn−ヘキサンで洗浄し、濾洗液を直接、蒸留回収(留出温度27℃/減圧度13〜0.90kPa)することにより、下記式:
【化6】

【0043】
で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の粗生成物を得た。粗生成物を分別蒸留(留出温度27℃/減圧度2.2kPa)することにより、上記式で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の精製品を27.2g得た。収率は86%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.1%であった。ビス(トリメチルシリル)アミン、ヘキサメチルジシロキサンおよびトリn−ブチルアミンは全く検出されず、環化二量化した不純物はシス体とトランス体の合計で0.2%であった。精製品のフッ化物イオン濃度は100ppm未満であった。精製品のHと19F−NMRスペクトルはJ.Org.Chem.(米国),1988年,第53巻,p.2714−2720と同等であった。
【実施例2】
【0044】
[アルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドの調製]
実施例1を参考にして、下記式:
【化7】

【0045】
で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン・n−ヘキサン混合溶液(240mmolとする、1.20eq)を調製した。
【0046】
(脱フッ化水素工程)
下記式:
【化8】

【0047】
で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類38.4g(200mmol、1.00eq)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量50.0mL、0.250L/mol)に、上記で調製したアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン・n−ヘキサン混合溶液全量(240mmolとする、1.20eq)を氷冷下で滴下し、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率は99%であった[ビス(トリメチルシリル)アミンが等モル量副生していた]。
【0048】
(後処理工程)
反応終了液(均一溶液)に、トリn−ブチルアミン・三フッ化水素69.9g(285mmol、1.43eq)を氷冷下で滴下し、室温で45分間攪拌した(懸濁溶液)。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、ビス(トリメチルシリル)アミンは全く検出されなかった。反応終了液を濾過し、残渣を少量のn−ヘキサンで洗浄し、濾洗液を直接、蒸留回収(留出温度45〜97℃/減圧度30〜2.5kPa)することにより、下記式:
【化9】

【0049】
で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の粗生成物を得た。粗生成物を分別蒸留(留出温度44℃/減圧度1.5kPa)することにより、上記式で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の精製品を28.2g得た。収率は82%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は97.2%であった。ビス(トリメチルシリル)アミン、ヘキサメチルジシロキサンおよびトリn−ブチルアミンは全く検出されず、環化二量化した不純物はシス体とトランス体の合計で0.1%であった[α−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類(原料基質)と、対応するα−アリール−β,β,β−トリフルオロエタン類(原料基質中の不純物、アリールはパラ−メチルフェニル基である)がそれぞれ0.7%、1.4%検出された]。精製品のHと19F−NMRスペクトルは非特許文献2と同等であった。
【実施例3】
【0050】
[アルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドの調製]
ビス(トリメチルシリル)アミン11.3g(70.0mmol、1.20eq)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量30.0mL、0.429L/mol)に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液42.4mL(1.65M、70.0mmol、1.20eq)を氷冷下で滴下し、室温で45分間攪拌することにより、下記式:
【化10】

【0051】
で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン・n−ヘキサン混合溶液(70.0mmolとする、1.20eq)を調製した。
【0052】
(脱フッ化水素工程)
下記式:
【化11】

【0053】
で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類15.0g(58.4mmol、1.00eq)のテトラヒドロフラン溶液(溶媒使用量28.0mL、0.479L/mol)に、上記で調製したアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン・n−ヘキサン混合溶液全量(70.0mmolとする、1.20eq)を氷冷下で滴下し、室温で40分間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率は100%であった[ビス(トリメチルシリル)アミンが等モル量副生していた]。
【0054】
(後処理工程)
反応終了液(均一溶液)に、トリエチルアミン・三フッ化水素13.1g(81.3mmol、1.39eq)を氷冷下で滴下し、室温で1時間15分攪拌した(懸濁溶液)。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、ビス(トリメチルシリル)アミンは全く検出されなかった。反応終了液を濾過し、残渣を少量のn−ヘキサンで洗浄することにより、下記式:
【化12】

【0055】
で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の濾洗液を得た。濾洗液を分別蒸留(留出温度50℃/減圧度0.80kPa)することにより、上記式で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の精製品を12.0g得た。収率は87%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.2%であった。ビス(トリメチルシリル)アミン、ヘキサメチルジシロキサンおよびトリエチルアミンは全く検出されず、環化二量化した不純物はシス体とトランス体の合計で0.2%であった。精製品のHと19F−NMRスペクトルはJ.Org.Chem.(米国),2004年,第69巻,p.7083−7091と同等であった。
【0056】
[参考例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化13】

【0057】
で示されるα−ヒドロキシ−α−フェニル−β,β,β−トリフルオロエタン123g(698mmol、1.00eq)、トリn−ブチルアミン198g(1.07mol、1.53eq)とトリn−ブチルアミン・三フッ化水素29.1g(119mmol、0.170eq)を加え、−15℃の冷媒浴に浸し、反応容器内を陰圧とし、スルフリルフルオリド(SO)107g(1.05mol、1.50eq)をボンベより吹き込み、40℃で19時間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率は100%であった。反応終了液を直接、回収蒸留(留出温度38〜75℃/減圧度35〜1.1kPa)することにより、下記式:
【化14】

【0058】
で示されるα−フェニル−α,β,β,β−テトラフルオロエタンの粗生成物を156g得た。粗生成物のガスクロマトグラフィー純度は68.6%であった(トリn−ブチルアミンが30.2%であった)。粗生成物を分別蒸留(留出温度48℃/減圧度4.2kPa)することにより、上記式で示されるα−フェニル−α,β,β,β−テトラフルオロエタンの精製品を112g得た。収率は90%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.8%であった。精製品のHと19F−NMRスペクトルは非特許文献1と同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明で対象とするα,β,β−トリフルオロスチレン類は、機能性高分子のモノマーとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[式中、Arは芳香環基または置換芳香環基を表す。]
で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類の製造において、
一般式[2]:
【化2】

[式中、Arは前記式[1]と同じである。]
で示されるα−アリール−α,β,β,β−テトラフルオロエタン類を、一般式[3]:
【化3】

[式中、Meはメチル基を表し、Mはアルカリ金属を表す。]
で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドと反応させる工程Aと、引き続いて行う、目的物のα,β,β−トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させる工程Bを含む、α,β,β−トリフルオロスチレン類の製造方法。
【請求項2】
前記式[1]で示されるα,β,β−トリフルオロスチレン類のArがフェニル基または置換フェニル基であり、前記式[3]で示されるアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドのMがリチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機塩基がトリn−ブチルアミンである、請求項1または2に記載の方法。

【公開番号】特開2012−171948(P2012−171948A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38298(P2011−38298)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】