説明

α1アドレナリン受容体拮抗剤

【課題】高血圧治療だけでなく、前立腺肥大症治療等にも有効な新規のα1アドレナリン受容体拮抗剤を提供すること。
【解決手段】以下の構造式(1):
【化1】


で示される化合物を有効成分として含むα1アドレナリン受容体拮抗剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α1アドレナリン受容体に作用する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経は、交感神経と副交感神経とから構成されており、内臓や血管等の働きを不随意にコントロールする神経である。
例えば、交感神経を介して循環器(心臓や血管等)に刺激が伝達されると、心拍数を増加させたり、血管を収縮させたりするなどして、血圧や脈拍等が調節される。このとき、交感神経においては、その神経細胞の末端(シナプス)からアドレナリン又はノルアドレナリンという物質(神経伝達物質)が分泌され、これらの神経伝達物質が、心臓や血管平滑筋に存在する特定の受容体に作用することによって、心臓や血管に刺激が伝達されてその働きがコントロールされる。
ここで、アドレナリンやノルアドレナリンが作用し得る前記受容体は、アドレナリン受容体と呼ばれており、α受容体とβ受容体という2種類の受容体に分類される。また、α受容体は、さらにα1受容体とα2受容体とに細分され、β受容体は、β1受容体とβ2受容体とに細分される。
大まかな機能を説明すれば、α受容体は、血管収縮等の機能に関与しており、β受容体は、心拍数増加等の機能に関与している。尚、α1受容体は、血管平滑筋や前立腺平滑筋等に存在し、その収縮に関与することが知られている。
アドレナリン受容体のアンタゴニストは、神経伝達物質(アドレナリン、ノルアドレナリン等)と競合的又は非競合的に、上述のα受容体やβ受容体に作用して、交感神経における神経伝達物質による刺激の伝達を遮断することができる。
従って例えば、α1受容体に作用し得るアンタゴニスト(以下、α1受容体アンタゴニストと称する)が、血管平滑筋に存在するα1受容体に作用した場合、血管平滑筋が弛緩して血管が拡張し得る。その結果、血管抵抗が減少し、血圧が低下する(即ち、降圧剤として機能し得る)。
このような機能を有する従来のα1受容体アンタゴニストとしては、例えば、フェントラミン(phentolamine)、フェノキシベンザミン(phenoxybenzamine)、プラゾシン(prazosin)等が挙げられ、これらのα1受容体アンタゴニストを含有するα1アドレナリン受容体拮抗剤は、主として高血圧治療薬として、あるいはまた前立腺肥大症等の治療薬としても使用されている(非特許文献1参照)。尚、前立腺肥大症とは、前立腺の良性腫瘍であり、高齢男性における有病率が高く、排尿障害の原因となることが多い。α1受容体アンタゴニストは、前立腺平滑筋に存在するα1受容体に作用して、前立腺肥大による尿道の締めつけを解除し、排尿状態を改善し得る。
【0003】
【非特許文献1】監訳 高折秀二・福田英臣・赤池昭紀「グッドマン・ギルマン 薬理書 第10版」薬物治療の基礎と臨床(上巻)株式会社 廣川書店 p308〜316
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のα1アドレナリン受容体拮抗剤には、種々の副作用(例えば、起立性低血圧や、めまいなど)が認められる場合も多く、さらなる新規のα1アドレナリン受容体拮抗剤の開発が望まれている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、高血圧治療だけでなく、前立腺肥大症治療等にも有効な新規のα1アドレナリン受容体拮抗剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、以下の構造式(1):
【化1】

で示される化合物を有効成分として含むα1アドレナリン受容体拮抗剤である点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
本発明の第1特徴構成の構造式(1)に記載される化合物は、例えば、ビールや麦芽根等に含まれる既知の化合物(PCT WO2004/002978 A1参照)である。
構造式(1)に記載される化合物は、2個の不斉炭素を有しているので、以下の本発明の第2特徴構成の構造式(2)〜(5)に記載される4種類の異性体(シス体及びトランス体の各幾何異性体についてそれぞれの一対の鏡像異性体(エナンチオマー))が存在する。
後述する実施例4〜5に示されるように、構造式(1)に記載される化合物は、4種類全ての異性体において、α1アドレナリン受容体(以下、α1受容体と称する場合もある。)に対して高い結合活性を有すると共に、血管収縮抑制作用を有することが本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されている。
即ち、構造式(1)に記載される化合物は、血管平滑筋や、前立腺平滑筋等に存在するα1受容体に作用して、交感神経における神経伝達物質(アドレナリン、ノルアドレナリン等)による刺激の伝達を遮断し得るα1受容体アンタゴニストとしての機能を有する。
従って、構造式(1)に記載される化合物を有効成分として含む本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、高血圧症や、前立腺肥大症等に対して優れた治療効果を発揮し得る。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記構造式(1)で示される化合物が、以下の構造式(2)〜(5):
構造式(2):
【化2】

構造式(3):
【化3】

構造式(4):
【化4】

構造式(5):
【化5】

で示される4つの化合物のいずれかである点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の第2特徴構成の構造式(2)に記載される化合物は、ビールや麦芽根等に含まれる既知の化合物(PCT WO2004/002978 A1における活性物質α(ホルダチン(Hordatine)Aのシス体))であり、ビールや、麦芽根等の天然物に対して適当な抽出操作を実施することによって入手することが可能である他、安価な原料から人工的に合成することも可能である。
構造式(3)に記載される化合物は、構造式(2)に記載されるα1アドレナリン受容体拮抗剤の鏡像異性体(エナンチオマー)であり、ビールや、麦芽根等の天然物から入手することは困難であるが、安価な原料から人工的に合成することが可能である。
構造式(4)に記載される化合物は、ビールや麦芽根等に含まれる既知の化合物(PCT WO2004/002978 A1における活性物質β)であり、ビールや、麦芽根等の天然物に対して適当な抽出操作を実施することによって入手することが可能である他、安価な原料から人工的に合成することも可能である。
構造式(5)に記載される化合物は、構造式(4)に記載される化合物の鏡像異性体(エナンチオマー)であり、ビールや、麦芽根等の天然物から入手することは困難であるが、安価な原料から人工的に合成することが可能である。
【0008】
本発明の第3特徴構成は、高血圧治療薬、前立腺肥大治療薬又は排尿促進剤のいずれかである請求項1又は2のいずれか1項に記載のα1アドレナリン受容体拮抗剤である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、褐色細胞腫患者の高血圧コントロール、高血圧症、原発性全身性高血圧、新生児の持続性肺高血圧症等に対して優れた治療効果を発揮し得る高血圧治療薬として使用することができる。
尚、排尿は、排尿中枢の支配下、骨盤神経等の副交感神経、下腹神経等の交感神経及び陰部神経等の体性神経からなる末梢神経系が司っており、種々の神経伝達物質(例えば、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ATP、サブスタンスP、ニューロペプチドY等)の関与が示唆されている。下部尿路疾患は、尿の蓄積(蓄尿)から排泄(排尿)の過程における自覚的あるいは他覚的異常の総称であり、蓄尿障害(尿失禁、頻尿等)、排尿障害(排尿困難、排尿痛、尿路閉塞等)等に分けられる。下部尿路疾患は、若年層からも見受けられるが、近年、高齢化社会の進展とともに、高齢者の下部尿路疾患、特に排尿障害、とりわけ前立腺肥大症に伴う排尿困難が大きな社会問題となっている。
本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、前立腺肥大症や、前立腺肥大症に伴う排尿障害等に対して優れた治療効果を発揮し得る前立腺肥大治療薬として使用することができる。
また、本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、尿道平滑筋を弛緩させ、尿の排出を促進させることによって排尿障害の改善を促し得る排尿促進剤として使用することができる。
【0009】
本発明の第4特徴構成は、以下の構造式(1):
【化6】

で示される化合物を含有し、α1アドレナリン受容体を介した作用を有する組成物である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の第4特徴構成の構造式(1)に記載される化合物は、ビールや麦芽根等に含まれる既知の化合物(PCT WO2004/002978 A1参照)である。尚、構造式(1)に記載される化合物は、2個の不斉炭素を有しているので、4種類の異性体(シス体及びトランス体の各幾何異性体についてそれぞれの一対の鏡像異性体(エナンチオマー))が存在する。
後述する実施例4〜5に示されるように、構造式(1)に記載される化合物は、4種類全ての異性体において、α1アドレナリン受容体(以下、α1受容体と称する)に対して高い結合活性を有すると共に、血管収縮抑制作用を有することが本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されている。
即ち、構造式(1)に記載される化合物は、血管平滑筋や、前立腺平滑筋等に存在するα1受容体に作用して、交感神経における神経伝達物質(アドレナリン、ノルアドレナリン等)による刺激の伝達を遮断し得るα1受容体アンタゴニストとしての機能を有する。
従って、構造式(1)に記載される化合物を含む本発明の組成物は、α1アドレナリン受容体を介した作用を通じて、高血圧症や、前立腺肥大症等に対して優れた治療効果を発揮し得る。
【0010】
本発明の第5特徴構成は、飲食品、飲食物添加剤又は動物用飼料のいずれかである請求項4に記載の組成物である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の組成物を飲食品として摂取することによって、請求項4に記載される化合物を容易に摂取することが可能である。
さらに飲食品は、一般的な製造法により加工製造した飲食品(例えば、一般食品(健康食品を含む)や保険機能食品(特定保険用食品又は栄養機能食品)として提供することも可能であり、医薬品等と比べて市場流通性が高く、消費者が入手し易い。
本発明の組成物を飲食物添加剤として使用する場合、種々の用途の飲食物添加剤(例えば、調味料、調味液、香料、ふりかけ、食用油、出し汁、栄養強化剤)として提供することも可能であるため、種々の飲食物に添加することができる。
そのため、請求項4に記載される化合物を含む特定の飲食品を購入しなければならないような場合と比べて、飲食による前記化合物の摂取が、より一層容易となり得る。
また、本発明の組成物を動物用飼料として使用して、所定の動物に与えることによって、その動物に請求項4に記載される化合物を容易に摂取させることができる。
【0011】
本発明の第6特徴構成は、以下の構造式(1):
【化7】

で示される化合物を含む麦加工品を含有し、α1アドレナリン受容体を介した作用を有する組成物である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の第6特徴構成の構造式(1)に記載される化合物は、例えば、ビールや麦芽根等に含まれる既知の化合物(PCT WO2004/002978 A1参照)である。
構造式(1)に記載される化合物は、2個の不斉炭素を有しているので、4種類の異性体(シス体及びトランス体の各幾何異性体についてそれぞれの一対の鏡像異性体(エナンチオマー))が存在する。
後述する実施例4〜5に示されるように、構造式(1)に記載される化合物は、4種類全ての異性体において、α1アドレナリン受容体に対して高い結合活性を有すると共に、血管収縮抑制作用を有することが本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されている。
即ち、構造式(1)に記載される化合物は、血管平滑筋や、前立腺平滑筋等に存在するα1受容体に作用して、交感神経における神経伝達物質(アドレナリン、ノルアドレナリン等)による刺激の伝達を遮断し得るα1受容体アンタゴニストとしての機能を有する。
従って、構造式(1)に記載される化合物を含む麦加工品を含有する本発明の組成物は、α1アドレナリン受容体を介した作用を通じて、高血圧症や、前立腺肥大症等に対して優れた治療効果を発揮し得る。
【0012】
本発明の第7特徴構成は、前記麦加工品が、大麦加工品、麦芽加工品、麦芽根加工品又は麦芽根抽出物のいずれかである請求項6に記載の組成物である点にある。
〔作用及び効果〕
大麦加工品、麦芽加工品、麦芽根加工品又は麦芽根抽出物は、請求項6に記載される化合物を他の麦加工品よりも多く含み得、これらの麦加工品を含有する本発明の組成物は、高血圧症や、前立腺肥大症等に対してより優れた治療効果を発揮し得る。
【0013】
本発明の第8特徴構成は、α1アドレナリン受容体を介した作用に基づく機能に関する表示を付したことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の組成物である点にある。
〔作用及び効果〕
本発明の組成物は、α1アドレナリン受容体を介した作用に基づく機能に関する機能を表示してあるため、消費者にとって分かり易く、安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔実施形態〕
本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤(高血圧治療薬、前立腺肥大治療薬、排尿促進剤等)や組成物(飲食品、飲食物添加剤、動物用飼料等)は、上記構造式(1)に記載される化合物(以下、化合物1と称する)を有効成分として含むものである。
尚、上記構造式(1)に記載される化合物1は、上記構造式(2)記載される化合物(化合物1a)、上記構造式(3)記載される化合物(化合物1b)、上記構造式(4)記載される化合物(化合物1c)、上記構造式(5)記載される化合物(化合物1d)のいずれかであり、本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤や組成物は、4つの化合物1a〜1dのうち、少なくともいずれか1つを含むように構成される。
【0015】
1.ビールからの化合物1の単離・精製方法
化合物1は、ビールから4ステップの液体クロマトグラフィーを適宜組み合わせ、単離・精製することができる。具体的には、ビールを凍結乾燥することにより揮発性成分を除き、得られた非揮発性成分を、合成吸着剤、例えば、アンバーライトXAD−2、ダイアイオンHP−20を用いたクロマトグラフィーに供して非吸着部を除き、吸着部をアルコール、あるいはメタノールにて溶出し、化合物1が濃縮された粗精製画分を得る。
次いで、上記で得られたアルコール溶出部を、さらに、弱酸性陽イオン交換クロマトグラフィー、例えば、CM−セファデックスC−25カラムクロマトグラフィーにて非吸着部を除き、吸着部から、酸性メタノール(メタノール−塩酸)で活性物質を溶出する。
上記で得られた画分を、0.01N塩酸下におけるゲル濾過クロマトグラフィーを行うことにより精製画分を得、さらに、ODS−HPLC(C18高速液体クロマトグラフィー)による高度精製を行い、化合物1(活性物質A及び活性物質B)を単離する。
【0016】
2.化合物1a〜1dの合成方法
図1及び図2は、4つの化合物1a〜dを合成するための全合成スキームを示す。尚、図1及び図2中に記載される各矢印(→)の上下に記載されている文言は、各種試薬及び反応条件であり、必ずしもこれらに限定されるものでなく、本スキームに従って合成することが可能であるならば、使用される試薬の種類や反応条件については任意に採用することができる。また、各符号(1〜16)は、化合物を示す。
【0017】
(第1の全合成スキーム)
図1は、ホルダチンA(PCT WO2004/002978 A1参照)前駆体(9)を中間体として、化合物1a〜dを合成する全合成スキームである。
図1に示す全合成スキームでは、アシル部分(7及び15)と、塩基部分(10〜14、6a)とを、それぞれを別個に合成した後、両者を最終的に縮合させてホルダチンA前駆体(N,N’,N’’,N’’’−tetra−Boc−Hordatine:9)を
合成している。ここにおいて、Bocは、t−ブトキシカルボニル基(−COOC(CH33基)を表す。
(I)塩基部分の合成については、まず1H−pyrazole−1−carboxamidine hydrochloride(10)から文献(B.Drake et al.,Synthesis,579,1994)に記載される方法に従ってN,N’−
di−Boc−1H−pyrazole−1−carboxamidine(11)を合成する(収率約74%)。
また、市販もされている1,4−diaminobutane(12)の1個のアミノ基を図1に記載されるような反応条件下でcarbobenzoxy(Cbz)基で保護して4−Cbz−aminobutyl−amine hydrochloride(13)を得る(A.Graham et al.,Synthesis,1032,1984)。先に調製した(11)と(13)とを、トリエチルアミンの存在下で反応させると、4−carbobenzoxyamino−N,N’−di−Boc−agmatin
e(14)が得られる(収率約87%)。
(14)を水素気流中、5%パラジウム炭素存在下にhydrogenolysis反応に付すと、N,N’−di−Boc−agmatine(6a)が得られる。尚、(6
a)については、その塩酸塩が市販されているので、市販品を使用しても良い。
また、脱保護した際のホルダチン精製の容易さから、アグマチンを構成するグアニジノ基の保護基としては、文献上Boc基あるいはCbz基(カルボベンゾキシ基)が汎用されているが、Boc基で保護することが好ましい。ホルダチンは分子内に二重結合を有するため、接触還元的に脱保護を行うCbz基は利用できないためである。Cbz基以外のアミノ基やイミノ基のN−protecting groupの保護基としての利用は理論的には可能と考えられる。
(II)アシル部分の合成については、図1に記載されるように、例えば市販のパラクマリン酸(7)を用いて、2%の過酸化水素(酸化補助剤)及びセイヨウワサビ由来ペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase)を含有するpH7のリン酸緩衝液中で反応させて、dehydrodi−p−coumaric acid(15)を得る。なお、この(15)の1H−NMRにおけるジヒドロフラン環上の2個のプロトンは、7.2Hzの結合定数を示し、この結果は両プロトンがトランスであることを示唆する。また、上記酵素反応は、リン酸緩衝液(pH7)中で行うが、反応基質の溶解性がその収率を左右していると考えられる。同様の条件下での反応で、パラクマリン酸は相当するエステル(終夜反応)に比べ非常に早く反応が完結すること(5gスケールで40分程度)、また、反応終了後は直ちに酵素を失活させないと連続的なカップリング反応が進行することも見出された。尚、本実施形態で得た(15)は、相当するMethoxymethyl esterの加水分解で得たものとNMRでの一致を確認した。
次いで、得られた(6a)及び(15)をHOBT、WSC存在下にて反応させN,N’,N’’,N’’’−tetra−Boc−Hordatine(9)を得る(収率約
80%)。尚、WSCはペプチド結合を形成させる縮合剤のひとつであり、N−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド・塩酸塩の慣用名でありWSCI・H
Clとも略記される。WSCの慣用名は、Water Soluble Carbodiimideに由来している。この縮合剤は単独あるいは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)等の添加剤と組み合わせて用いられる。このHOBTの存在は、縮合剤単独の場合よりも反応が早く進行し、縮合に伴う副反応を防止する働きがある。また、(9)については、1H−NMRにおいてシス体において認められる4.5ppm付近での9.5Hzのcoupling constantを示すピークが全く認められなかったことから、トランス体であることが判明している。
(9)は、トリフルオロ酢酸中、脱保護(脱Boc化)した後、4N HCl/dioxane溶液を加え減圧下で濃縮する。なお、Boc基の酸による脱離には、HCl/dioxaneやHCl/ethyl acetateなども使用されるが、反応基質の溶解性や反応速度に問題が多い。その点、トリフルオロ酢酸(TFA)は溶解性も高く、反応も早いことから、Boc基の酸による脱離に汎用される。また、4N HCl/dioxane溶液を使用する理由は、Boc基は通常トリフルオロ酢酸(TFA)で脱離させるが、この際生成したトリフルオロ酢酸塩を塩酸塩に変換するためである。規定液を用いるのは、化学量論的に処理するため、また、ジオキサン溶液は脱離溶媒TFAと混和可能(miscible)なため選択される。
濃縮後の残渣は化合物1a〜1dを含み得、適当な分離条件下において、まず、そのシス体(化合物1a及び化合物1b)とトランス体(化合物1c及び化合物1d)とに分離される。以下に分離条件の一例(ゲルカラムクロマト)を示すが、これに限定されるものではなく、シス体とトランス体を分離可能な条件であるならば、任意の分離条件を設定し得る。
濃縮後の残渣(化合物1a〜1dを含む)を、high porous stylene polymer MCI GEL CHP20P (75〜150μ)[Mitsubishi Chem. Corp.]カラムにチャージし、ポンプ加圧下で水のみで展開すると、酸性の画分が溶出する。この後、展開溶媒を20%メタノール/水系に換え、溶出展開を継続すると、先ずシス体のラセミ体(1a及び1b)(Rf=0.24)が溶出し、ついでトランス体のラセミ体(1c及び1d)(Rf=0.33)[TLC plate:Silica gel F254 MERCK、展開溶媒;nBuOH:AcOH:H2O=4:1:1]が溶出する。それぞれの画分を凍結乾燥(Lyophilization)すると、両者の塩酸塩が白色粉末として得られる(シス体の収率:約30%、トランス体の収率:約64%)。シス体及びトランス体のフリー体は、それぞれの塩酸塩のメタノール溶液を、非水系の塩基性イオン交換樹脂アンバーライトA−21(Organo)で処理後、凍結乾燥(Lyophilization)して得られる。
最後に、得られたシス体のラセミ体及びトランス体のラセミ体を、それぞれキラルカラム(例えば、ダイセル化学社製のキラルセルなど)により光学分割して、図3及び図4に示されるような4種類のエナンチオマー(化合物1a〜d)を分離する。
【0018】
(第2の全合成スキーム)
図2は、ホルダチンA(PCT WO2004/002978 A1参照)前駆体(9a及び9b)を中間体として、化合物1a〜dを合成する全合成スキームである。
図2に示す全合成スキームでは、光学活性なアシル部分を合成した後、塩基部分を縮合させて光学活性なホルダチンA前駆体(N,N’,N’’,N’’’−tetra−Bo
c−Hordatine:9a及び9b)を合成し、それらを脱Boc化することで光学活性な化合物1a〜dを合成している。
(I)塩基部分の合成については、まず1H−pyrazole−1−carboxamidine hydrochloride(10)から文献(B.Drake et al.,Synthesis,579,1994)に記載される方法に従ってN,N’−
di−Boc−1H−pyrazole−1−carboxamidine(11)を合成する(収率約74%)。
また、市販もされている1,4−diaminobutane(12)の1個のアミノ基を図2に記載されるような反応条件下でcarbobenzoxy(Cbz)基で保護して4−Cbz−aminobutyl−amine hydrochloride(13)を得る(A.Graham et al.,Synthesis,1032,1984)。先に調製した(11)と(13)とを、トリエチルアミンの存在下で反応させると、4−carbobenzoxyamino−N,N’−di−Boc−agmatin
e(14)が得られる(収率約87%)。
(14)を水素気流中、5%パラジウム炭素存在下にhydrogenolysis反応に付すと、N,N’−di−Boc−agmatine(6a)が得られる。尚、(6
a)については、その塩酸塩が市販されているので、市販品を使用しても良い。
また、脱保護した際のホルダチン精製の容易さから、アグマチンを構成するグアニジノ基の保護基としては、文献上Boc基あるいはCbz基(カルボベンゾキシ基)が汎用されているが、Boc基で保護することが好ましい。ホルダチンは分子内に二重結合を有するため、接触還元的に脱保護を行うCbz基は利用できないためである。Cbz基以外のアミノ基やイミノ基のN− protecting groupの保護基としての利用は理論的には可能と考えられる。
(II)アシル部分の合成については、1/15mMリン酸緩衝液(pH7.3)/dioxane中に、パラクマリン酸(7)、セイヨウワサビ由来ペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase)を加える。室温下撹拌しつつ、0.5時間かけて1M過酸化水素水溶液を滴下させる。
反応の進行をTLC(溶媒;CHCl3:MeOH:AcOH=9:1:0.2)により確認し、反応液に酢酸エチル、クエン酸を加え撹拌した後、酢酸エチルにて3回抽出を行う。酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで脱水し濃縮乾固した。得られた黄色残渣をメタノールに溶解させ、セファデックスLH−20(溶媒;メタノール)、セファデックスLH−20(溶媒;80%メタノール)、及びセファデックスG−15(溶媒;80%メタノール)カラムクロマトグラフィーで順次精製し、dehydrodi−p−coumaric acid(15)を得る。
キラルカラム(キラルパックOJ−RH[直径2.0cm×長さ15cm、溶媒;30%MeCN−0.1%TFA、流速;5.0ml/分、波長;280nm])により、dehydrodi−p−coumaric acid(15)から光学活性な[S,S]−dehydrodi−p−coumaric acid(16a)及び[R,R]−dehydrodi−p−coumaric acid(16b)を分取する。
次いで、得られた(16a)及び(16b)をジメチルホルムアミドに溶解し、WSC及びHOBTを加えて、室温下で撹拌する。その後、(6a)をジメチルホルムアミドに溶解し反応液に加え、さらに1時間撹拌する。反応の進行をTLC(溶媒;CHCl3:MeOH:AcOH=9:1:0.2)で確認し、反応液に水を加え、酢酸エチルで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。得られた残渣をSiO2カラムクロマトグラフ法[直径1.5cm×長さ10cm、Hexane:AcOEt=3:7から1:4へのグラジエント]にて精製し、[S,S]−N,N’,N’’,N’’’−tetra−Boc−Hordatine(9a)および
[R,R]−N,N’,N’’,N’’’−tetra−Boc−Hordatine(
9b)を得る(収率約80%)。夾雑物を含むフラクションは更にSiO2(球状、中性)カラムクロマトグラフ法[CHCl3:MeOH=99:1から98:2へのグラジエント]によって精製を行う。この縮合剤は単独あるいは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)等の添加剤と組み合わせて用いられる。このHOBTの存在は、縮合剤単独の場合よりも反応が早く進行し、縮合に伴う副反応を防止する働きがある。
(9a)及び(9b)にトリフルオロ酢酸(TFA)を加え、脱保護(脱Boc化)した後、1N HCl溶液を加え減圧下で濃縮する。なお、トリフルオロ酢酸(TFA)、1N HCl溶液及び規定液を使用する理由は、前述の他方の全合成スキームの場合と同じである。
上述のようにして、濃縮後に得られた2つの残渣には、それぞれ2種類の異性体が含まれ得る(9a由来の残渣には化合物1b及び1d、9b由来の残渣には化合物1aおよび1c)。各残渣をセファデックスG−15[直径1.6cm×長さ30cm、溶媒;0.01N HCl、流速;250μl/分]カラムにかけて、2種類の異性体を分離溶出させて、各溶出画分を採取して凍結乾燥することで、図3及び図4に示されるような4種類のエナンチオマー(化合物1a〜d)を得ることができる。なお、化合物1a〜dは、塩としての形態で得ることもでき、そのような塩としては、塩酸塩など、特に限定されるものではない。
【0019】
3.α1アドレナリン受容体拮抗剤
本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、以下に記載されるような医薬品として使用することが可能である。
(医薬品)
本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、α1受容体を介して発症し得る種々の疾患を治療することが可能であり、医薬品(例えば、高血圧治療薬、前立腺肥大治療薬、排尿促進剤等)として利用することができる。
治療し得る疾患としては、例えば、褐色細胞腫(褐色細胞腫患者の高血圧コントロール、腸偽閉塞の寛解)、高血圧症、原発性全身性高血圧、新生児の持続性肺高血圧症、動脈硬化症の危険性の軽減、うっ血性心不全、肺うっ血の減少、血管攣縮性疾患、僧帽弁あるいは大動脈弁閉鎖不完全患者の治療、良性前立腺肥大症(BPH)による尿閉症状、夜間排尿度の改善、前立腺性閉塞あるいは脊髄損傷に起因する副交感神経の中枢からの隔離により生じる膀胱排泄障害を有する患者の尿の流出抵抗の減弱、男性性機能不全、脊髄横断損傷患者の自律神経反射亢進症状出現の抑制、分娩直後の子宮収縮促進や偏頭痛の軽減、子宮弛緩による分娩後の出血予防等が挙げられる。
特に、本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、高血圧治療薬として有効であり、また、排尿促進効果を有し得ることから、前立腺肥大治療薬としても有効である。
さらに、本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、排尿促進剤として使用することが可能であり、健常者の排尿促進を高める目的以外にも、術後、加齢、疲労、疾病、傷害等における排尿能力の低下を回復させる目的で使用することもできる。
また、適宜、使用者(摂取者)における効果や利便性等を考慮して、医薬品中の化合物1の含有量を調整して製剤化することが可能であるが、化合物1の一日あたりの用量は、0.01mg〜1000mgであることが好ましい。化合物1の含有量としては、最終製品当たり0.01mg/kg〜10g/kg程度であることが好ましい。
本発明のα1アドレナリン受容体拮抗剤は、単離・精製若しくは合成された化合物1を原料として用いることができる。あるいは、化合物1を含有する材料を原料として用いることが可能である。
また、医薬品の形態としては、慣用の製剤技術を用いて、例えば、カプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤、シロップ剤、注射剤、点滴剤等の形態に製剤化することができる。これらの製造に当たっては、使用可能な添加剤としては、結晶セルロース、乳糖、コーンスターチ、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0020】
4.組成物
本発明の組成物は、以下に記載されるような飲食品、飲食物添加剤、動物用飼料として使用することが可能である。
これらの組成物について、化合物1の含有量としては、最終製品当たり0.01mg/kg〜10g/kg程度であることが好ましい。また、使用者(摂取者)の利便性を考慮して、一日あたりの用量0.01mg〜1000mgの範囲で化合物1を含有するように調製した組成物を個包装した形態で提供しても良い。
【0021】
(飲食品)
化合物1、化合物1を含有する材料、もしくはこれらの混合物は、種々の食品原料や添加剤と共に、一般の製造法により飲食物、健康食品、特別用途食品として加工製造することができる。使用可能な食品原料としては、例えば、カラメル、ゼラチン、グラニュー糖、ガムベース、各種調味料、動物用飼料、果汁、液糖、コーヒーエキス、発酵乳、脱脂粉乳、アルコール飲料、精製水等が挙げられ、また、使用可能な添加剤としては、例えば、クエン酸、L−アルコルビン酸、食塩、ポリグリセリン脂肪酸エステル、各種香料、粉末ソルビトール、炭酸カルシウム、乳糖等が挙げられる。
飲食物の種類、形態は特に限定されず、例えば固形、あるいは液状の食品ないしは嗜好品、例えばパン、麺類、ごはん、菓子類(ビスケット、ケーキ、キャンデー、チョコレート、和菓子、グミ、チュウインガム)、豆腐およびその加工品などの農産食品、みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシングなどの調味料、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなどの畜農食品、かまぼこやハンペン等の水産練り製品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、茶飲料、炭酸飲料などの飲料、さらにはベビーミルク、コーヒー用ミルク等の粉乳や乳製品等の形態にすることができる。
またその他の飲食物としては、ビール、発泡酒、低アルコール麦芽発酵飲料等の麦芽発酵飲料、ワイン、清酒、薬用酒などの醸造酒に化合物1を添加して排尿促進作用が増強されたアルコール飲料や、また、ウイスキー、ブランデー、焼酎などの蒸溜酒に化合物1を添加して排尿促進作用が付与された食前・食中酒として摂取できる形態にあるアルコール飲料等が挙げられる。
健康食品の種類、形態も特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル品、固形、あるいは液状などが挙げられる。
特別用途食品としては、病弱者用食品、妊産婦/授乳婦用粉乳、乳児用調整粉乳、高齢者用食品、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品)を挙げることができる。
【0022】
(飲食物添加剤)
化合物1を含有する飲食物添加剤は、市販の調味料、調味液、香料、ふりかけ、食用油、出し汁等に化合物1を添加混合して製造することができる。
化合物1を含有する飲食物添加剤の態様には、種々の用途の飲食物用製品、例えば、調味料、調味液、香料、ふりかけ、食用油、出し汁等が挙げられる。また、栄養強化剤の一成分として化合物1を含有する排尿促進性の飲食物添加剤も包含される。
【0023】
(動物用飼料)
化合物1を含有する動物用飼料は、例えば市販の動物用飼料に化合物1を添加混合することで得ることができる。
【0024】
(その他の組成物)
その他の組成物としては、化合物1を含む麦加工品(好ましくは、大麦加工品、麦芽加工品、麦芽根加工品、麦芽根抽出物など)を含有する組成物等が挙げられる。
【0025】
また、上記組成物に対して、機能に関する表示を付すことも可能である。尚、本発明でいう機能に関する表示とは、例えば、特定の保健の目的が期待できる旨の表示、保健の用途の表示、あるいは用途、効果または効能に関する表示をいう。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実験例及び実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
【0027】
(参考例1)α1受容体結合性試験
α1受容体結合性試験法は、以下の通りである。
α1受容体として、α1A受容体(α1受容体のサブタイプの1つ)を使用し、α1A受容体への結合能を評価した。尚、ラット唾液腺の膜には、α1A受容体が存在することが知られている。
ラット唾液腺の膜ホモジネート(タンパク量として150μg)を含むアッセイバッファー(250μL)に、試料と、リガンドとして[3H]プラゾシン(prazosin)(0.06nM)を添加して反応液を調製し、22℃で60分間インキュベートした。
インキュベーション後、前記反応液を、0.3%PEI(Polyethyleneimine)にて洗浄済みのガラス繊維フィルター(GF/B:Packard社製)にて吸引濾過して反応を停止させ、氷冷した50mMTris−HClで数回洗浄した。ガラス繊維フィルターを乾燥させ、シンチレーションカクテル(Microscint 0:Packard社製)を加え、フィルター上に残存する放射活性を液体シンチレーションカウンター(Topcount:Packard社製)で計測した。[3H]プラゾシン(prazosin)の特異的結合量は、[3H]プラゾシン(prazosin)の全結合量からフェントラミン(phentolamine)(10μM)存在下の非特異的結合量を差し引くことにより算出した。
【0028】
(実施例1)ビールからの化合物1の単離
上記参考例1に示すα1受容体結合性試験による結合活性を指標として、リガンドの受容体結合を阻害する画分を分離・精製し、ビール中に含まれる化合物1の精製を試みた。
すなわち、10Lのビールを凍結乾燥し、得られた乾燥物に純水を加え、合成吸着剤(吸着剤:アンバーライトXAD−2)クロマトグラフィーに供した。α1受容体結合活性を有するメタノール溶出物から、メタノールを蒸発させ、得られた乾燥物に純水を加え、弱酸性・陽イオン交換クロマトグラフィー(樹脂:CMセファデックスC−25)に供した。次に、結合活性の得られたメタノール−塩酸溶出物から、メタノールおよび塩酸を蒸発させ、得られた乾燥物に純水を加え、ゲル濾過クロマトグラフィー(樹脂:セファデックスG−15)に供した。さらに、結合活性の得られた活性画分(Kd=3〜5及びKd=7〜9)を、それぞれ分取用ODS−HPLCに付した。その結果、Kd=3〜5からは4.2mgの活性物質Aが、また、Kd=7〜9からは12.6mgの活性物質Bが得られた。
活性物質A及び活性物質Bについて、α1受容体結合性試験を行った。その結果を、図5に示した。図中に示した結果から明らかなように、活性物質A及び活性物質Bには、用量依存性が確認され、そのIC50値はそれぞれ、活性物質Aでは0.5μg/mL、活性物質Bでは0.04μg/mLであった。
【0029】
(実施例2)活性物質A及び活性物質Bの構造解析
上記実施例1で単離した活性物質A及び活性物質Bについて、質量分析スペクトル及び核磁気共鳴スペクトルデータによる解析を行った。
1.質量分析スペクトル
上記活性物質A及び活性物質Bについて、その質量分析(FAB−MASS)を行った。
溶媒として3−ニトロベンジルアルコールを用い、質量分析を行った。その結果を図6(活性物質A)及び図7(活性物質B)に示した。その結果、両物質とも、分子イオンとして、質量/電荷(m/z)が、551(M+H)+となり、分子量は550を有するものであることが判明した。
2.核磁気共鳴(1H−NMR、13C−NMR)スペクトル
さらに、活性物質A及び活性物質Bについて、その核磁気共鳴(1H−NMR、13C−NMR)スペクトル解析を行った。溶媒としてDMSO−d6を用い、測定は、Bruker Biospin社 DMX−750(1H−NMR)または DMX−500(13C−NMR)で行った。
活性物質A及び活性物質Bの1H−NMRスペクトル解析データをそれぞれ図8(活性物質A)および図9(活性物質B)に、また13C−NMRスペクトル解析データをそれぞれ図10(活性物質A)および図11(活性物質B)に示した。その結果、両物質は良く似た構造の化合物であることが判明した。
3.構造の決定
以上のように、単離した活性物質A及び活性物質Bについて、質量分析、核磁気共鳴スペクトルデータによる解析の結果、両化合物は、その化学構造として、以下の構造式(1):〔化8〕で示される化合物を基本とする立体異性体であることが判明した。
【0030】
【化8】

【0031】
以上より、単離した活性物質A及び活性物質Bは、PCT WO2004/002978 A1に記載される活性物質α(ホルダチン(Hordatine)Aのシス体)及び活性物質β(ホルダチン(Hordatine)A)に相当する化合物であると考えられた(即ち、単離した活性物質A及び活性物質Bは、図3及び図4に記載される化合物1a及び化合物1cに相当するものと考えられた)。
【0032】
(実施例3)合成した化合物1a〜1dの構造解析
上記実施形態における化合物1a〜1dの合成方法によって合成したシス体(化合物1a及び1b)及びトランス体(化合物1c及び1d)について、核磁気共鳴スペクトルデータおよび質量分析スペクトルによる解析を行った。
1.核磁気共鳴(1H−NMR、13C−NMR)スペクトル
上記シス体(化合物1a及び1bの塩酸塩)及びトランス体(化合物1c及び1dの塩酸塩)について、その核磁気共鳴(1H−NMR、13C−NMR)スペクトル解析を行った。溶媒としてDMSO−d6を用い、測定は、Bruker Biospin社 DMX−750(1H−NMR)または DMX−500(13C−NMR)で行った。
上記シス体及びトランス体の1H−NMRスペクトル解析データをそれぞれ図12(シス体)および図13(トランス体)に、また13C−NMRスペクトル解析データをそれぞれ図14(シス体)および図15(トランス体)に示した。その結果、シス体(化合物1a及び1bの塩酸塩)と、トランス体(化合物1c及び1dの塩酸塩)はそれぞれ、天然体であるホルダチンAのシス体及びホルダチンAとほぼ同じスペクトルを示した。
【0033】
2.質量分析スペクトル
さらに確認の為、シス体について、その質量分析を行った(図16)。
溶媒として3−ニトロベンジルアルコールを用い、質量分析を行った。その結果、分子イオンとして、質量/電荷(m/z)が、551(M+H)+となり、分子量は550を有するものであることが判明した。
【0034】
3.キラル分析
天然体(ホルダチンA及びそのシス体のエナンチオマー)及び合成品(化合物1a〜1d)について、キラルカラムを用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を実施した。分析試料として、天然体として(1)ホルダチンAのシス体のエナンチオマー及び(2)ホルダチンA(トランス体)のエナンチオマーを、合成品として(3)シス体(化合物1a、1b)及び(4)トランス体(化合物1c、1d)を準備した。上記分析試料(1)及び(3)、並びに上記分析試料(2)及び(4)をそれぞれ共射出し、分析を行った。HPLCの分析条件は、カラム:キラルセルOD−RH、カラムサイズ:内部直径0.46cm×長さ15cm、移動相:25%MeCNを含有する0.5M NaClO4の水溶液、流速:0.8ml/min、測定波長:280nm、チャートスピード:15cm/hである。結果を図17(分析試料(1)及び(3))及び図18(分析試料(2)及び(4))に示す。なお、それぞれの図において、(イ)は天然体のみを、(ロ)は合成品のみを、(ハ)は天然体と合成品を共射出したものである。
図17(ハ)において、化合物1aのピーク面積の増加が認められたことから、ホルダチンAのシス体のエナンチオマーと化合物1aとは同じ化合物であると判断された。
また、図18(ハ)において、化合物1cのピーク面積の増加が認められたことから、ホルダチンA(トランス体)のエナンチオマーと化合物1cとは同じ化合物であると判断された。
従って上記結果から、キラルカラムを使用することにより、合成したシス体およびトランス体のラセミ体はそれぞれ単一のエナンチオマーに分離することが可能であり、その一方のエナンチオマーが天然体と同じものであると判断される。
【0035】
4.構造の決定
以上のように、合成した化合物について、核磁気共鳴スペクトルデータ、質量分析、及びキラルカラム分析による解析の結果、それぞれの立体構造は、シス体について図3の化合物1a及び1b、またトランス体については図4の化合物1c及び1dで示される化学構造式を有するものであることが判明した。さらに、化合物1c及び化合物1aは、それぞれ天然体のホルダチンA(トランス体)及びそのシス体であることが判明した。
【0036】
(実施例4)合成した化合物1a〜1dのα1受容体結合性試験
上記実施形態における化合物1a〜1dの合成方法によって合成した化合物1a〜1dの4化合物について、上記参考例1に記載されるα1受容体結合性試験を実施した。尚、試料の調製は以下に示す方法にて調製した。
化合物1aを秤量し、100%DMSOを添加して10倍濃度の溶液を調製した。その溶液をアッセイバッファーで希釈し、化合物1aの濃度がそれぞれ異なる3種類の試料(0.01μg/mL、0.1μg/mL、1μg/mL)を調製した。残りの化合物1b〜1dについても同様に調製した。(参考文献:Mitchel,A.D.et al.(1989)Brt.J.Pharmacol.,98:883−889)
【0037】
α1受容体結合性試験の結果を図19(シス体)及び図20(トランス体)に示した。図中に示した結果から明らかなように、化合物1b及び化合物1dには、化合物1a及び化合物1cと同様の用量依存性が確認され、そのIC50値はそれぞれ、化合物1aでは1.34μg/mL、化合物1bでは0.24μg/mL、化合物1cでは0.17μg/mL、化合物1dでは0.16μg/mLであった。シス体においては、化合物1bのほうが化合物1aよりも5.6倍強く、トランス体においては、化合物1cと化合物1dの活性はほとんど同じであった。
以上より、いずれの化合物1a〜1dにおいても、α1A受容体への強い結合能を有することが分かった。
【0038】
(実施例5)合成した化合物1a〜1dのラット尾部動脈収縮抑制試験
上記実施形態における化合物1a〜1dの合成方法によって合成した化合物1a〜1dの4化合物について、α1受容体アンタゴニストとしての機能を評価した。
α1受容体アンタゴニストは、血管の収縮抑制作用があることが知られていることから、ラット尾部動脈を用いて、その収縮抑制作用を評価した。
【0039】
1.試料溶液の調製
化合物1aを秤量し、100%DMSOを添加して試料溶液(ストックソリューション)を調製した(化合物1aの濃度は50mg/mL)。残りの化合物1b〜1dについても同様に各試料溶液を調製した。
【0040】
2.ラット尾部動脈収縮抑制試験
内被を露出させた組織(ラット尾部動脈)を,95%酸素/5%二酸化炭素を送りこんだ37℃の生理的食塩水(NaCl:118.0mM、KCl:4.7mM、MgSO4:1.2mM、CaCl2:2.5mM、NaHCO3:25mM、グルコース11.0mM)20mL(pH7.4)に満たされたオーガンバス中に懸垂した。ラット尾部動脈組織中にα1受容体と同様に発現しているα2アドレナリン受容体、βアドレナリン受容体、ヒスタミンH1受容体、ムスカリン受容体、5−HT2受容体の作用を遮断する為、各受容体拮抗剤(アンタゴニスト)であるヨヒンビン(yohimbine)(1μM)、プロプラノル(propranol)(1μM)、ピリラミン(pyrilamine)(1μM)、アトロピン(atropine)(1μM)、メチセルジド(methysergide)(1μM)を各々添加した。
α1受容体作用による組織の収縮を測定する為、組織のテンションをデータとして出力する力変換器に組織を接続した。静止状態でのテンションを1gになるように調整して、60分間維持(その間、生理食塩水で繰り返し洗い、テンションを再調整する)した。組織にリファレンスアゴニスト(フェニレフリン(phenylephrine)1.0E−05M)を10μM添加し、組織のレスポンスが正常であることを確認した。このときのリファレンスアゴニストによる組織の収縮により得られたテンション(g)を記録した。組織が正常に反応していることが確認できたら、リファレンスアゴニストを一度ウォッシュアウトし、レスポンスが静止状態(テンション:1g)に戻るまで組織を最大15分間静置した。
レスポンスが静止状態(テンション:1g)に戻った後、リファレンスアゴニストを添加して、組織の収縮率を100%にした。
次いで、前記試料溶液又はその希釈液を添加して、オーガンバス中の化合物1a〜1dの濃度を3段階(0.5μg/mL、5μg/mL、50μg/mL)に上げていき、そのたびにテンションを測定し、収縮率を下式により算出した。尚、試料溶液を添加する毎に、レスポンスが安定するまで最大15分間組織を静置した。
収縮率(%)=(試料溶液添加時のテンション(g)−1)/(リファレンスアゴニスト添加時のテンション(g)−1)×100
収縮率(%)が濃度依存的に低下した場合、化合物1a〜1dがα1受容体拮抗剤(アンタゴニスト)作用を有するものと考えた。(参考文献:Docherty,J.R.et al.(1981)Naunyn Schemiedeberg’s Arch.Pharmacol.,317:5〜7)
【0041】
ラット尾部動脈収縮試験の結果を図21及び図22に示した。ビール乾燥物(ビールコンジェナー)は、リファレンスアゴニスト(フェニレフリン(phenylephrine))でのレスポンスを、用量依存的に抑制した(ラット尾部動脈を弛緩させた)。また、合成品(化合物1a〜1d)も同様の用量依存性が確認された。そのIC50値をビール乾燥物(ビールコンジェナー)と比較すると、化合物1bは2900倍、化合物1aは約800倍、化合物1dは1000倍、化合物1cは約740倍であった。
念のため、化合物1a〜1bについて、収縮作用(アゴニスト作用)を評価した結果、作用は見られなかった。
以上より、いずれの化合物1a〜1bにおいても、強い拮抗(アンタゴニスト)作用が確認され、例えば血管拡張作用やそれに伴う排尿促進作用を有することが示された。
【0042】
(実施例6)製造例
(医薬品)
上記実施形態における化合物1a〜1dの合成方法によって合成した化合物1a〜1dの4化合物を用いて、各種医薬品を調製した。
1.錠剤
以下に示す方法により、医薬品(錠剤および顆粒剤)を製造した。
化合物1a0.1gを、結晶セルロース66.6g、乳糖132.0gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤を製造した。化合物1b、1c及び1dについても同様に錠剤を製造した。
2.顆粒剤
化合物1a 0.2gに、乳糖70.0g、コーンスターチ29.3gとステアリン酸マグネシウム0.5gを加え、圧縮、粉砕、整粒し、篩別して20〜50メッシュの顆粒剤を得た。化合物1b、1c及び1dについても同様に顆粒剤を製造した。
【0043】
(飲食品)
以下に示す組成にて、各種飲食品を調製した。
1.化合物1aを用いた製造例
飴:
(組成) (重量部)
粉末ソルビトール 99.7
香料 0.2
化合物1a 0.05
ソルビトールシード 0.05
全量 100.00
【0044】
ガム:
(組成) (重量部)
ガムベース 20.0
炭酸カルシウム 2.0
ステビオサイド 0.1
化合物1a 0.05
乳糖 76.85
香料 1.0
全量 100.00
【0045】
ゼリー(コーヒーゼリー):
(組成) (重量部)
グラニュー糖 15.0
ゼラチン 1.0
コーヒーエキス 5.0
水 78.93
化合物1a 0.07
全量 100.00
【0046】
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
化合物1a 0.05
香料 0.2
色素 0.1
水 83.43
全量 100.00
【0047】
乳酸菌飲料:
(組成) (重量部)
乳固形分21%発酵乳 14.76
果糖ブドウ糖液糖 13.31
ペクチン 0.5
クエン酸 0.08
香料 0.15
水 71.14
化合物1a 0.06
全量 100.00
【0048】
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.05
食塩 0.05
水 84.56
化合物1a 0.04
全量 100.00
【0049】
アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32.0
砂糖 8.4
果汁 2.4
化合物1a 0.05
精製水 57.15
全量 100.00
【0050】
2.化合物1bを用いた製造例
飴:
(組成) (重量部)
粉末ソルビトール 99.7
香料 0.2
化合物1b 0.05
ソルビトールシード 0.05
全量 100.00
【0051】
ガム:
(組成) (重量部)
ガムベース 20.0
炭酸カルシウム 2.0
ステビオサイド 0.1
化合物1b 0.05
乳糖 76.85
香料 1.0
全量 100.00
【0052】
ゼリー(コーヒーゼリー):
(組成) (重量部)
グラニュー糖 15.0
ゼラチン 1.0
コーヒーエキス 5.0
水 78.93
化合物1b 0.07
全量 100.00
【0053】
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
化合物1b 0.05
香料 0.2
色素 0.1
水 83.43
全量 100.00
【0054】
乳酸菌飲料:
(組成) (重量部)
乳固形分21%発酵乳 14.76
果糖ブドウ糖液糖 13.31
ペクチン 0.5
クエン酸 0.08
香料 0.15
水 71.14
化合物1b 0.06
全量 100.00
【0055】
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.05
食塩 0.05
水 84.56
化合物1b 0.04
全量 100.00
【0056】
アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32.0
砂糖 8.4
果汁 2.4
化合物1b 0.05
精製水 57.15
全量 100.00
【0057】
3.化合物1cを用いた製造例
飴:
(組成) (重量部)
粉末ソルビトール 99.7
香料 0.2
化合物1c 0.05
ソルビトールシード 0.05
全量 100.00
【0058】
ガム:
(組成) (重量部)
ガムベース 20.0
炭酸カルシウム 2.0
ステビオサイド 0.1
化合物1c 0.05
乳糖 76.85
香料 1.0
全量 100.00
【0059】
ゼリー(コーヒーゼリー):
(組成) (重量部)
グラニュー糖 15.0
ゼラチン 1.0
コーヒーエキス 5.0
水 78.93
化合物1c 0.07
全量 100.00
【0060】
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
化合物1c 0.05
香料 0.2
色素 0.1
水 83.43
全量 100.00
【0061】
乳酸菌飲料:
(組成) (重量部)
乳固形分21%発酵乳 14.76
果糖ブドウ糖液糖 13.31
ペクチン 0.5
クエン酸 0.08
香料 0.15
水 71.14
化合物1c 0.06
全量 100.00
【0062】
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.05
食塩 0.05
水 84.56
化合物1c 0.04
全量 100.00
【0063】
アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32.0
砂糖 8.4
果汁 2.4
化合物1c 0.05
精製水 57.15
全量 100.00
【0064】
4.化合物1dを用いた製造例
飴:
(組成) (重量部)
粉末ソルビトール 99.7
香料 0.2
化合物1d 0.05
ソルビトールシード 0.05
全量 100.00
【0065】
ガム:
(組成) (重量部)
ガムベース 20.0
炭酸カルシウム 2.0
ステビオサイド 0.1
化合物1d 0.05
乳糖 76.85
香料 1.0
全量 100.00
【0066】
ゼリー(コーヒーゼリー):
(組成) (重量部)
グラニュー糖 15.0
ゼラチン 1.0
コーヒーエキス 5.0
水 78.93
化合物1d 0.07
全量 100.00
【0067】
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 1.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
化合物1d 0.05
香料 0.2
色素 0.1
水 83.43
全量 100.00
【0068】
乳酸菌飲料:
(組成) (重量部)
乳固形分21%発酵乳 14.76
果糖ブドウ糖液糖 13.31
ペクチン 0.5
クエン酸 0.08
香料 0.15
水 71.14
化合物1d 0.06
全量 100.00
【0069】
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.05
食塩 0.05
水 84.56
化合物1d 0.04
全量 100.00
【0070】
アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32.0
砂糖 8.4
果汁 2.4
化合物1d 0.05
精製水 57.15
全量 100.00
【0071】
(健康食品)
飲食品の好ましい様態である健康食品(錠剤)を調製した。
化合物1a0.01gを、結晶セルロール66.69g、乳糖132.0gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤を製造した。
得られた30錠剤をガラス瓶に入れ、「α1アドレナリン受容体を介した作用を有する旨」の表示のあるラベルを付した。
化合物1b0.01gを、結晶セルロール66.69g、乳糖132.0gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤を製造した。
得られた30錠剤をガラス瓶に入れ、「高血圧治療に有効である旨」の表示のあるラベルを付した。
化合物1c0.01gを、結晶セルロール66.69g、乳糖132.0gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤を製造した。
得られた30錠剤をガラス瓶に入れ、「前立腺肥大治療薬に有効である旨」の表示のあるラベルを付した。
化合物1d0.01gを、結晶セルロール66.69g、乳糖132.0gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤を製造した。
得られた30錠剤をガラス瓶に入れ、「排尿促進する旨」の表示のあるラベルを付した。
【0072】
(茶飲料)
緑茶葉の抽出液0.3L、重曹0.3gに、化合物1を含む組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を調合し、総量を純水にて1Lに調整した。次に、85℃に昇温後、190g缶に充填し、レトルト殺菌(125℃、10分間)を行って、缶入りの茶飲料を製造した。
得られた飲料中の化合物1の含量を測定した結果、最終製品当たり、化合物1aおよび1cをそれぞれ、約0.25mg/Lおよび約0.75mg/L含んでいた。
従って、本茶飲料は、α1アドレナリン受容体を介した各種作用を示す飲料であると判断されたことから、飲料のラベルに、α1アドレナリン受容体を介した作用に基づく機能に関する表示を付した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】化合物1a〜dの第1の全合成スキームを示す図
【図2】化合物1a〜dの第2の全合成スキームを示す図
【図3】合成した化合物1a及び1b(シス体)の化学構造式を示す図
【図4】合成した化合物1c及び1d(トランス体)の化学構造式を示す図
【図5】単離した活性物質A及び活性物質Bのα1受容体結合性試験結果を示す図
【図6】活性物質Aの質量分析スペクトル解析データを示す図
【図7】活性物質Bの質量分析スペクトル解析データを示す図
【図8】活性物質Aの1H−NMRスペクトル解析データを示す図
【図9】活性物質Bの1H−NMRスペクトル解析データを示す図
【図10】活性物質Aの13C−NMRスペクトル解析データを示す図
【図11】活性物質Bの13C−NMRスペクトル解析データを示す図
【図12】合成した化合物1a及び1b(シス体)の1H−NMRスペクトル解析データを示す図
【図13】合成した化合物1c及び1d(トランス体)の1H−NMRスペクトル解析データを示す図
【図14】合成した化合物1a及び1b(シス体)の13C−NMRスペクトル解析データを示す図
【図15】合成した化合物1c及び1d(トランス体)の13C−NMRスペクトル解析データを示す図
【図16】合成した化合物1a及び1b(シス体)の質量分析スペクトル解析データを示す図
【図17】ホルダチンAのシス体(天然体)と合成品についてキラルカラムを用いたHPLCクロマトグラフィーを示す図
【図18】ホルダチンA(天然体)と合成品についてキラルカラムを用いたHPLCクロマトグラフィーを示す図
【図19】合成した化合物1a及び1b(シス体)のα1受容体結合性試験結果を示す図
【図20】合成した化合物1c及び1d(トランス体)のα1受容体結合性試験結果を示す図
【図21】合成した化合物1a及び1b(シス体)のラット尾部動脈収縮試験結果を示す図
【図22】合成した化合物1c及び1d(トランス体)のラット尾部動脈収縮試験結果を示す図
【符号の説明】
【0074】
6a アグマチン誘導体
9 ホルダチンA前駆体
15 パラクマリン酸二量体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式(1):
【化1】

で示される化合物を有効成分として含むα1アドレナリン受容体拮抗剤。
【請求項2】
前記構造式(1)で示される化合物が、以下の構造式(2)〜(5):
構造式(2):
【化2】

構造式(3):
【化3】

構造式(4):
【化4】

構造式(5):
【化5】

で示される4つの化合物のいずれかである請求項1に記載のα1アドレナリン受容体拮抗剤。
【請求項3】
高血圧治療薬、前立腺肥大治療薬又は排尿促進剤のいずれかである請求項1又は2のいずれか1項に記載のα1アドレナリン受容体拮抗剤。
【請求項4】
以下の構造式(1):
【化6】

で示される化合物を含有し、α1アドレナリン受容体を介した作用を有する組成物。
【請求項5】
飲食品、飲食物添加剤又は動物用飼料のいずれかである請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
以下の構造式(1):
【化7】

で示される化合物を含む麦加工品を含有し、α1アドレナリン受容体を介した作用を有する組成物。
【請求項7】
前記麦加工品が、大麦加工品、麦芽加工品、麦芽根加工品又は麦芽根抽出物のいずれかである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
α1アドレナリン受容体を介した作用に基づく機能に関する表示を付したことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2007−320931(P2007−320931A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155305(P2006−155305)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】