説明

αS1カゼイン由来ペプチドを含む抗不安薬組成物

本発明は、ミルクのαS1−カゼインに由来するペプチドを含み、ベンゾジアゼピン型活性、特に、抗不安活性を有する医薬組成物及び食品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗不安活性を有するαS1カゼイン由来ペプチドを含む医薬組成物及び食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カゼインは、種々の分画法により、K−カゼイン、β−カゼイン、αS1−カゼイン及びαS2−カゼインと呼ばれる主な分画を生じる。これらのカゼインのアミノ酸配列はよく知られており、特に、αS1−カゼインの配列は、MERCIER等(非特許文献1)及びNAGAO等(非特許文献2)により決定されている。
【0003】
これらの種々のカゼインの特定のペプチド断片は、特に、鎮静(opiate)又は抗鎮静(anti-opiate)活性及びアンジオテンシン−I変換酵素の阻害活性等の種々の生物学的活性を有することが証明されている。例えば、αS1−カゼインの90〜96番目及び90〜95番目のペプチドは、鎮静活性を有することがインビトロにおいて証明されている(ZIOUDROU等(非特許文献3)及びLOUKAS等(非特許文献4))。90番目のアルギニン残基は、この鎮静活性に重要であると考えられている。アルギニン残基を有さない91〜95番目及び91〜96番目のペプチドは、実際には不活性であり、これらは90〜96番目のペプチドよりも非常に低い鎮静活性を有している。23〜24番目及び194〜199番目のペプチドは、アンジオテンシン−I変換酵素を阻害する(MARUYAMA及びSUZUKI(非特許文献5)並びにMARUYAMA等(非特許文献6))。最初の抗不安活性を有するペプチドは、トリプシンによるαS1−カゼインの加水分解産物から同定された(EP0714910の関連文献(非特許文献7))。それは、91番目〜100番目の断片に相当し、α−カソゼピンと呼ばれる(MICLO等(非特許文献8))。Guesdon等(非特許文献18)は、これと同一の91〜100番目のペプチドを含むトリプシンによるカゼインの加水分解産物が、慢性的なストレスを受けたラットの睡眠を改善させることを示した。このデカペプチドの構造は、二次元H−NMRにより研究された。93番目のグリシンと99番目のロイシンとの間に含まれる配列は、ミセル媒体において、αへリックスにより開始及び終了された310螺旋構造である。複数の疎水性残基の側鎖は、螺旋の同一の側に位置し、一方、複数の親水性の残基の側鎖は、他の側に位置し、これにより、ペプチドが両親媒性を有し、膜と相互作用できる。100番目のアルギニン残基のグアニジウム基と、96番目のグルタミン酸及び100番目のアルギニン残基のカルボキシル基とのイオン間相互作用は、螺旋構造の安定性において、カルボキシ末端のアルギニン残基の重要な役割を示す。このような構造において、91番目及び94番目の2つのチロシン残基の芳香環は、それらの中心同士の間の距離(平均0.56nm)が、抗不安特性を有することで知られるベンゾジアゼピン系薬のニトラゼパムの芳香環の中心同士の距離と同等となるように合わせられる(LECOUVET等(非特許文献9))。100番目のアルギニン残基をアラニン残基と置換すると、デカペプチドの螺旋性が顕著に低下し、その結果、300000の因子によるGABA受容体のベンゾジアゼピン領域とこのペプチドとの親和性が低下する(Celine Frochotの論文(非特許文献10))。経口吸収の後に、このデカペプチドは、消化性のトラクト酵素によりタンパク質分解を受け、その生物学的利用能が減少され、その結果、生物学的標的に到達することを妨げられる。しかしながら、小さいペプチドは、長い断片のペプチドよりも効果的に腸に吸収され、消化性のタンパク質分解酵素に対する抵抗性が大きいことがよく知られている。従って、デカペプチドの分解の間に生じる断片のうちの数種は、吸収性及び抵抗性がより大きくなる可能性があるが、デカペプチドの構造上のデータを考慮すると、わずかな抗不安活性を維持することもできない。
【0004】
係属中の特許出願PCT/EP2007/063863には、デカペプチドに由来し、100番目のアルギニン残基を含まない91〜97番目、91〜98番目及び91〜99番目のペプチドは、ラットの行動試験において、インビボで抗不安特性を示すことが開示されている。これらの小ささを考慮すると、これらのペプチドは、吸収がより容易であり、分解がより困難である。
【0005】
ここで、本出願は、αS1−カゼインに由来する91〜95番目及び91〜96番目のペプチドを含む抗不安特性を有する医薬組成物及び食品を論じている。ラットの行動試験において、インビボでこれらのペプチドの抗不安特性を証明することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】MERCIER, J.C., GROSCLAUDE, F., 及び RIBADEAU-DUMAS, B., 1971, Structure primaire de la caseine αs1 bovine. Sequence complete. Eur. J. Biochem., 23, 41-51.
【非特許文献2】NAGAO, M., MAKI, M., SASAKI, R., 及び CHIBA, H., 1984, Isolation and sequence analysis of bovine αs1-casein cDNA clone. Agric. Biol. Chem., 48, 1663-1667.
【非特許文献3】ZIOUDROU, C., STREATY, R.A., 及び KLEE, W.A., 1979, Opioid peptides derived from food proteins: the exorophins. J. Biol. Chem., 254, 2446-2449.
【非特許文献4】LOUKAS, S., VAROUCHA, D., ZIOUDROU, C., STREATY, R.A., 及び KLEE, W.A., 1983, Opioid activities and structure of α-casein-derived exorphins. Biochemistry, 22, 4567-4573.
【非特許文献5】MARUYAMA, S., 及び SUZUKI, H., 1982, A peptide inhibitor of angiotensin I converting enzyme in the tryptic hydrolysate of casein. Agric. Biol. Chem., 46, 1393-1394.
【非特許文献6】MARUYAMA, S., MITACHI, H., AWAYA, J., KURONO, M., TOMIZUKA, N., 及び SUZUKI, H., 1987, Angiotensin I-converting enzyme inhibitory activity of the C-terminal hexapeptide of αs1-casein. Agric. Biol. Chem., 51, 2557-2561.
【非特許文献7】MICLO, L., PERRIN, E., DRIOU, A., BOUDIER, J.-F., IUNG, C., 及び LINDEN G., 1995, Utilisation d'un decapeptide a activite de type benzodiazepine pour la preparation de medicaments ed de complements alimentaires. Brevet europeen. Brevet europeen no. EP 0714910A1.
【非特許文献8】MICLO, L., PERRIN, E. DRIOU, A., PAPDOPOULOS, V., BOUJRAD, N., VANDERESSE, R., BOUDIER, J.-F., DESOR, D., LINDEN, G., 及び GAILLARD, J.-L., 2001, Characterization of α-casozepine, a tryptic peptide from bovine αs1-casein with benzodiazepine-like activity. FASEB J. (June 8, 2001) 10.1096/fj.00-0685fje.
【非特許文献9】LECOUVEY, M., FROCHOT, C., MICLO, L., ORLEWSKI, P., DRIOU, A., LINDEN, A., GAILLARD, J.-L., MARRAUD, M., CUNG, M.-T. 及び VANDERESSE R., 1997, Two dimensional 1H-NMR and CD structural analysis in a micellar medium of a bovine αs1-casein fragment having benzodiazepine-like properties. Eur. J. Biochem., 248, 872-878.
【非特許文献10】FROCHOT, C. 1998, Etude d'un decapeptide a activite de type benzodiazepine issu d'une proteine du lait bovin. These de l'Institut Polytechnique de Lorraine (INPL).
【非特許文献11】NITSCHMANN, H.S., 及び LEHMANN, W., 1947, Zum Problem der Labwirkung auf Casein, Helv. Chim. Acta, 130, 804.
【非特許文献12】THOMSON, A.R., 1984, Recent developments in protein recovery and purification. J. Chem. Tech. Biotechnol., 34B, 190-198.
【非特許文献13】MAUBOIS, J.L., 1984. Separation, extraction and fractionation of milk protein components. Lait, 64, 485-495.
【非特許文献14】SANOGO, T., PAQUET, D., AUBERT, F., 及び LINDEN, G., 1989, Purification of αs1-casein by Fast Protein Liquid Chromatography. J. Dairy Sci., 72, 2242-2246.
【非特許文献15】MERRIFIELD, R.B., 1963, Solid phase peptide synthesis. I. Synthesis of a tetrapeptide. J. Am. Chem. Soc., 85, 2149-2154.
【非特許文献16】PELLOW, S., CHOPIN, P., FILE, S.E., 及び BRILEY, M., 1985, Validation of open:closed arm entries in an elevated plus-maze as a measure of anxiety in the rat. J. Neurosci. Methods, 14, 149-167.
【非特許文献17】BOURIN, M., 及び HASCOET, M., 2003, The mouse light/dark box test. Eur. J. Pharmacol., 463, 55-65.
【非特許文献18】GUESDON等., 2006, A tryptic hydrolysate from bovine milk alpha S1-casein improves sleep in rats subjected to chronic mild stress, 27:6, 1476-1482.
【発明の概要】
【0007】
(配列表の説明)
SEQ ID No.1:αS1−カゼインの91〜95番目に相当するペンタペプチド。
【0008】
SEQ ID No.2:αS1−カゼインの91〜96番目に相当するヘキサペプチド。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、適当な賦形剤と組み合わされたSEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を活性成分として含む医薬組成物に関する。
【0010】
本発明に係る医薬組成物は、ベンゾジアゼピン作用を有し、不安症、睡眠障害及びてんかんに対してより特異的に適する。
【0011】
特定の実施形態において、本発明は、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン又はαS1−カゼインの加水分解産物又はその断片を含む医薬組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、SEQ ID No.1及び/又はSEQ ID No.2に示す少なくとも1つのペプチドの有効量を含む、特に、不安症、睡眠障害及び/又はてんかんである人々のための食品に関する。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、前記食品は、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン又はαS1−カゼインの加水分解産物又はその断片を含む。
【0014】
本発明は、SEQ ID No.1に示すペプチド又はSEQ ID No.2に示すペプチドをコードしている単離されたポリヌクレオチドに関する。
【0015】
本発明は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0016】
本発明は、本発明に係るポリヌクレオチド及び/又は本発明に係る発現ベクターを用いて形質転換されたヒトを除く宿主生物に関する。
【0017】
本発明は、SEQ ID No.1に示すペプチド又はSEQ ID No.2に示すペプチドを発現するヒトを除く形質転換された宿主生物に関する。
【0018】
本発明は、不安症、睡眠障害及びてんかんを治療するための薬剤を製造するためのSEQ ID No.1に示すペプチド、SEQ ID No.2に示すペプチド、本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現ベクター及び/又は本発明に係る宿主生物の使用に関する。
【0019】
好ましくは、本発明は、不安症、睡眠障害及びてんかんを治療するための薬剤の製造を目的とする、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物及び/又はカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物の断片の使用に関する。
【0020】
好ましくは、前記薬剤は、ベンゾジアゼピン型の活性を有する。
【0021】
本発明は、特に、不安症、睡眠障害及び/又はてんかんに罹りやすい人々のための食品の製造を目的とする、SEQ ID No.1に示すペプチド、SEQ ID No.2に示すペプチド、本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現ベクター及び/又は本発明に係る宿主生物の使用に関する。
【0022】
好ましくは、本発明は、特に、不安症、睡眠障害及び/又はてんかんに罹りやすい人々のための食品の製造を目的とする、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物及び/又はカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物の断片の使用に関する。
【0023】
従って、本発明は、αS1−カゼインに由来するSEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示された配列のペプチドを含む医薬組成物及び食品に関する。従って、本発明は、Tyr-Leu-Gly-Tyr-Leu及びTyr-Leu-Gly-Tyr-Leu-Gluから選択されるアミノ酸配列のペプチドを含む医薬組成物及び食品に関する。
【0024】
本発明は、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示されたペプチドを有し、抗不安特性を有する修飾型ペプチドを含む医薬組成物及び食品に関する。本発明は、SEQ ID No.1及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドを含む融合タンパク質又は組み換えタンパク質を含む医薬組成物及び食品に関する。
【0025】
第2の態様において、本発明は、SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示すペプチドをコードしているポリヌクレオチドに関する。遺伝子コードの変性の結果、異なるポリヌクレオチドが同一のペプチドをコードするおそれがある。本発明によると、「ポリヌクレオチド」とは、DNA若しくはRNAとなることができる1本鎖であるヌクレオチド鎖若しくはその相補鎖、又はcDNA(相補的)若しくはゲノムとなることができる2本鎖であるヌクレオチド鎖を意味する。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドはDNAであり、特に、2本鎖DNAである。「ポリヌクレオチド」の用語は、修飾型ポリヌクレオチドをも意味する。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、Sambrook等(Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 1989)に記載された通常の分子生物学の技術又は化学合成により調製される。
【0026】
本発明は、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドを発現する宿主生物に関する。SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示すペプチドは、当業者に周知の技術により作製された種々の宿主生物において、発現及び生成され得る。一般に、その宿主生物は、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドをコードしているポリヌクレオチドを含む発現カセットを用いて形質転換されている。このポリヌクレオチドは、宿主生物のゲノムに組み込まれること、又は宿主生物において安定した様式で複製されることが可能である。宿主生物とは、特に、細菌、酵母、菌類及び哺乳動物から選択される下等若しくは高等な単細胞生物又は多細胞生物を意味する。宿主生物とは、ヒトではない生物を意味する。従って、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドは、生成された後に、それらを発現する形質転換された宿主生物から単離又は精製され得る。
【0027】
好ましくは、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドは、ミルクカゼインから得られ、また、より好ましくは、αS1−カゼインから得られる。用いられるカゼインは、好ましくは牛のミルクカゼインであり、より好ましくは乳牛のミルクカゼインである(Bos taurus)。αS1−カゼインの配列は、Swiss ProtデータベースのP02662番に示されている。ミルクタンパク質を分離した後に、本発明に係るペプチドを得るために、カゼインは適当な酵素により消化又は加水分解される。この実施形態において、加水分解の後に、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドを部分的又は完全に精製することが必要であってもよい。本発明に係る第2の実施形態において、酵素による加水分解は、αS1−カゼインに対して直接に行われる。この実施形態において、得られた加水分解産物には、既にSEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドが濃縮されており、多くの場合、付加的な精製工程は不要である。当業者は所望のペプチドを得るために適当な酵素を選択できる。これらの技術は、当業者に周知であり、文献に開示されている。従って、本発明は、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドを含むカゼインの加水分解産物に関する。好ましくは、αS1−カゼインの加水分解産物である。
【0028】
本発明に係る医薬組成物及び食品は、ベンゾジアゼピン型の活性を有し、特に、抗不安効果を有する。
【0029】
本発明は、特に、不安症、睡眠障害及びてんかんの治療のためのベンゾジアゼピン型の活性を有する医薬組成物に関する。
【0030】
従って、本発明は、適当な賦形剤と組み合わされたSEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を活性成分として含む医薬組成物に関する。
【0031】
これらの組成物は、ヒトを含む哺乳動物に投与するために、処方され得る。投与量は、治療法及び治療条件によって異なる。これらの組成物は、消化に適するように、又は非経口投与に適するように生成される。
【0032】
本発明の医薬組成物を経口投与、舌下投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、局所投与又は直腸投与するために、活性成分は、通常の医薬的キャリアと混合され、単一の投与形態で動物又はヒトに投与され得る。適当な単一の投与形態は、錠剤、ゲルキャップ、粉末剤、顆粒剤、経口用の液剤又は懸濁液のような経口の形態、舌下及び経口の投与形態、皮下、筋肉内、静脈内、鼻腔内又は眼内の投与形態並びに直腸内の投与形態を含む。
【0033】
固体の組成物が錠剤の形態で調製される場合、活性成分は、ゼラチン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はアラビアゴム等の医薬品賦形剤と混合される。その錠剤は、スクロース又は他の適当な材料によりコーティングされ得る。また、その錠剤は、活性を延長させる若しくは活性を遅延させるように、且つ、活性成分の所定の量を継続的に放出させるように処理され得る。
【0034】
ゲルキャップ製剤は、活性成分と希釈剤を混合し、柔らかい又は固いゲルキャップの中にその混合液を入れることにより得られる。
【0035】
シロップ剤又はエリキシル剤の形態の製剤は、甘味剤、防腐剤、香料及び適当な着色料と組み合わされた活性成分を含むことができる。
【0036】
水中で分散が可能な粉末剤又は顆粒剤は、分散剤、湿潤剤、懸濁剤、香料又は甘味料を含むことができる。
【0037】
本発明に係る組成物は、単一で、又は少なくとも1つの他の有効な薬剤と組み合わせて用いられ得る。他の活性剤は、特に、不安症、睡眠障害及びてんかんの治療に適する有効な薬剤から選択される。これらは、本発明に係る組成物の活性を増強させるための有効な補助剤であってもよく、また、前記の疾病の治療に用いられる他の周知の有効な薬剤であってもよい。このような有効な薬剤は、当業者に周知であり、市販されており、毎年、新版が出版されているLe Dictionnaire Vidal等の参考文献に記載されている。
【0038】
従って、本発明は、特に、不安症及び睡眠障害のために、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドと、それと同時若しくは別々に用いられるための、又は治療の期間を拡大させる用途のための併用物として他の有効な薬剤とを含む医薬組成物に関する。これらの他の有効な薬剤は、例えば、ベンゾジアゼピン系の組成物又はセロトニン再取り込み阻害剤等の、特に、不安症の治療に適する有効な薬剤から選択される。
【0039】
本発明は、不安症、睡眠障害及びてんかんを治療するための薬剤の製造を目的とするSEQ ID No.1に示すペプチド、SEQ ID No.2に示すペプチド、本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現ベクター及び/又は本発明に係る宿主生物の使用に関する。
【0040】
好ましくは、本発明は、不安症、睡眠障害及びてんかんの治療のための薬剤の製造を目的とするSEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含む、カゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物及び/又はカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物の断片の使用に関する。
【0041】
本発明は、SEQ ID No.1に示すペプチド、SEQ ID No.2に示すペプチド、本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現ベクター及び又は本発明に係る宿主生物のそれぞれの有効量のそれぞれの投与を含む、不安症、睡眠障害及びてんかんの治療のための方法に関する。
【0042】
本発明は、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物及び/又はカゼイン若しくはαS1−カゼイン加水分解産物の断片のそれぞれの投与を含む、不安症、睡眠障害及びてんかんの治療のための方法に関する。
【0043】
本発明は、特に、不安症、睡眠障害及び/又はてんかんに罹りやすい人々のための食品の製造において、SEQ ID No.1に示すペプチド、SEQ ID No.2に示すペプチド、本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現ベクター及び又は本発明に係る宿主生物の使用に関する。
【0044】
好ましくは、本発明は、特に、不安症、睡眠障害及び/又はてんかんに罹りやすい人々のための食品の製造において、SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物及び/又はカゼイン若しくはαS1−カゼイン加水分解産物の断片の使用に関する。
【0045】
食品とは、食べ物として食卓に出すことができるものを意味する。SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示すペプチドは、特に栄養摂取を目的とする食品であるタンパク質、炭水化物又は脂肪性の補助食品と組み合わせた食品の活性成分として用いられ得る。本発明の食品は、栄養補助食品の型であってもよい。これらの栄養補助食品は、特に、不安症、睡眠障害及びてんかんに罹りやすい人々の食事を補うのに適する。
【0046】
本発明は、SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示すペプチドを得るための方法に関する。完全体のカゼインは、公知の方法である酸による沈殿及びアルカリによる中和によって、ミルクから得られる。例えば、NITSCHMANN及びLEHMANNの方法(非特許文献11)を用いることが可能である。SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示すペプチドを得るための出発物として用いられるカゼイン又はαS1−カゼインは、当業者に周知である通常の方法により、ミルク、完全体のカゼイン、カゼイネート、並びに、例えばTHOMSONにより開示された方法(非特許文献12)及びMAUBOISにより開示された方法(非特許文献13)に従って得られたミルクの総タンパク質濃縮物から得られる。例えば、SANOGO等により開示された方法(非特許文献14)により、αS1−カゼインを調製することが可能である。この方法は、溶出剤として塩化カルシウムの非連続的な濃度勾配を用いて、DEAE−セルロースにより分離する方法である。この方法は、全てのカゼインを急速に分離するのに有利である。この方法は、最初に使用する前に酸−塩基の前処理を必要としない予め調製された樹脂であるDEAE−セルロースDE52(WHATMAN,LTD、Springfeld、Great Britainにより販売されている)を陰イオン交換担体として用いると有利である。前記ペプチドは、適当な酵素により分解されたカゼインの加水分解産物によって得られる。そのペプチドは、閾値が1000Daである逆相高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、陰イオン交換高速液体クロマトグラフィ若しくはゲル濾過クロマトグラフィ、又は薄膜を用いた遠心法及び他の膜分離技術(微量濾過及び限外濾過等)により濃縮又は単離され得る。
【0047】
従って、本発明は、カゼインに対する酵素性加水分解を行う工程と、SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示す配列を有するペプチドから選択される少なくとも1つのペプチドを単離する工程とを含むことを特徴とする、ベンゾジアゼピン型の活性、特に、抗不安活性を有するペプチドを調製する方法に関する。
【0048】
単離とは、ペプチドの部分的若しくは全体的な精製、又はSEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に示すペプチドを用いて得られた加水分解産物の単純な濃縮を意味する。この濃縮は、例えば、得られた加水分解産物の分離により行われ得る。また、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示すペプチドの少なくとも1つを含むαS1−カゼインから得られた加水分解産物は、本発明に係る医薬組成物及び食品を得るために直接に用いられ得る。
【0049】
前記ペプチドは、例えばMERIFFIELDにより開示された方法(非特許文献15)のような当業者に周知の方法に従ったペプチド合成により得られる。
【0050】
本発明について、以下の非制限的な実施例を用いて、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】高架式十字迷路試験の結果を示すグラフである。
【図2】明暗箱試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
(ペンタペプチドを得るための様式)
完全体のカゼインは、公知の方法に従った酸による沈殿及びアルカリによる中和によって、ミルクから得られる。
【0053】
分子量が627Daであり、Tyr-Leu-Gly-Tyr-Leuのアミノ酸配列を有するペンタペプチドは、αS1−カゼインの91〜95番目のペプチドに相当する。このペプチドは、特に、トリプシン及びペプシンによる酵素性加水分解によって、αS1−カゼインから得られる。トリプシンによるαS1−カゼインの加水分解は、種々のペプチド断片を遊離する。トリプシンにより生じた断片は、酸性pHにおいてE/S比=1/200であり、240分間の酵素活性に至適な室温の緩衝液中で、ペプシンA(EC 3.4.23.1)(ブタの胃の粘膜から得られ、3200〜4500units/mg(タンパク質)の活性を有する。)により加水分解される。この後者の加水分解は、αS1−カゼインの91〜95番目のペンタペプチドを含む新しい断片を遊離する。このペンタペプチドは、膵臓酵素の混合物であるCorolase PPを用いて、αS1−カゼインのトリプシン分解により生じた断片を加水分解することよって得られてもよい。この加水分解は、前記の酵素混合物に至適であるpH、温度及び緩衝液の種類を用いて、E/S比=1/100で240分間行われる。前記ペンタペプチドは、逆相高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、陰イオン交換高速液体クロマトグラフィ若しくはゲル濾過クロマトグラフィ、又は薄膜を用いた遠心法及び他の膜分離技術(微量濾過及び限外濾過等)により濃縮又は単離され得る。
【0054】
ウィスターラットを用いた行動薬理学研究
高架式十字迷路試験
(原理)
高架式十字迷路試験は、新規の嫌悪状況における探索行動の量を測定することを可能とする(PELLOW等、1985(非特許文献16))。この実験は、壁が無い領域に対する不安と新しい環境を探索する欲望との葛藤を利用する。装置の中央に置かれたラットは、その環境を探索することを強いられる。壁が無いアームは、不安が生じる環境を構成し、一方、壁があるアームでは不安が生じない。全てのアームに入った回数、壁が無いアームに入った回数、壁があるアームに入った回数、壁が無いアームに居た時間、及び最初に壁が無いアームに入るまでの時間が、動物の不安の程度を反映するパラメータとなる。
【0055】
(装置)
木製の高架式十字迷路は、互いに90°の角度を有する4つの枝部からなる。2つの壁が無い枝部(45cm×10cm)及び2つの壁がある枝部(45cm×10cm、高さが40cmの木製の板により囲まれている)は、互いに対向して配置されている。中央の四角形の寸法は、10cm×10cmである。壁が無い枝部は、照度が500lxの白色光により照らされている。高架式十字迷路は、地面から50cmの高さに位置する。
【0056】
(プロトコール)
観察は、24時間周期のリズムの影響を最小限にするために、朝の9時と11時との間に行う。高架式十字迷路に通す前に、動物の探索行動を刺激するために、動物を壁が無い領域に10分間置く。その後、高架式十字迷路の中央に置き、5分間観察する。十字迷路は、臭いを除去するために、2度の試験の間に95%エタノール(v/v)により洗浄される。
【0057】
(処理)
本実験では、45匹のラットを3つの群に分ける。
【0058】
対照群として、15匹のラットに、1%(v/v)グリセロール及び0.2%(v/v)メチルセルロース(賦形剤)を含む溶液を2mL/kgで処理する。陽性対照として、ジアゼパム(Valium、Roche、Neuilly-sur-seine、France)を賦形剤で希釈し、1mg/kgの量で15匹のラットに処理した。賦形剤に溶解されたαS1−カゼインの91〜95番目の断片を0.5mg/kgの量で15匹のラットに処理する。
【0059】
ラットを壁が無い領域に置く30分前に、ラットの腹腔内にそれぞれを処理する。
【0060】
(結果)
ウィスターラットの腹腔内に、1%(v/v)グリセロール及び0.2%(v/v)メチルセルロースを含む溶液を2mL/kg(n=15)、ジアゼパムを1mg/kg(n=15)又はペンタペプチドであるCNαS1ーf(91−95)を0.5mg/kg(n=15)で注入した。これらによって、(i)異なるアームに入った全回数、(ii)壁が無いアームに入った回数、及び(iii)壁が無いアームに居た時間に対して生じた効果を、ノンパラメトリック法による分散分析(Kruskall-Wallis)により解析し、それぞれの平均の比較をマン−ホイットニー検定により行った(それぞれの処理の群の平均であるAとBとで有意差がある、p<0.05、図1)。全てのアームに入る回数により反映される動物の探索活性は、それぞれの処理によって有意差は見られない。賦形剤により処理された動物が壁が無いアームに入る回数及び壁が無いアームに居る時間は、ジアゼパムを処理した動物及びαS1−カゼインの91〜95番目の断片を処理した動物の場合よりも有意に少ない。ジアゼパムとαS1−カゼインの91〜95番目の断片との間には、有意差は認められない。ウィスターラットの高架式十字迷路試験において、αS1−カゼインの91〜95番目の断片は、ジアゼパムと類似の作用を有する。すなわち、不安を生じさせる領域への探索が増大する。
【0061】
明暗箱試験
(原理)
明暗試験は、齧歯類が非常に明るい環境を先天的に嫌う性質と、新しい環境及び光等の弱いストレス因子に応じた自発的な探索行動とに基づいている。明暗箱装置は、齧歯類の探索行動を、非嫌悪部屋(暗所)において慣らした後に、不慣れな嫌悪部屋(白色光により非常に明るい)に関して実験できる(BOURIN及びHASCOET、2003(非特許文献17))。古典的な抗不安薬は、この装置を用いることにより認められ得る。
【0062】
(装置及びプロトコール)
明暗箱は、寸法が65cm×49cm×35cm(h×L×l)であり、3つの8×8cmの扉を有する板により2つの同一の部屋に分離されている。部屋の底面はおがくずに覆われている。各ラットはその箱の後側の部屋に24時間置かれ、前側の部屋に通じる扉は、近づき難く形成されている。従って、後側の部屋は慣れた部屋となる。動物は餌及び水を適宜与えられる。試験の日に、処理した後のラットは、慣れた部屋に再び置かれ、前側の部屋(不慣れな部屋)に通じる扉は、動物が環境を自由に探索できるように、近づきやすく形成される。不慣れな部屋は、照度が1500lxである白色光で照らすことにより嫌悪させる。動物を10分間観察し、各部屋に居る時間を測定する。
【0063】
(処理)
本実験では、36匹のラットを3つの群に分ける。
【0064】
対照群(12匹のラット)に対して、1%(v/v)グリセロール及び0.2%(v/v)メチルセルロース(賦形剤)を含む溶液を2mL/kgで処理する。陽性対照として、ジアゼパム(Valium、Roche、Neuilly-sur-seine、France)を賦形剤で希釈し、1mg/kgの量で12匹のラットに処理する。賦形剤に溶解されたαS1−カゼインの91〜95番目の断片を0.5mg/kgの量で12匹のラットに処理する。
【0065】
ラットを慣れた部屋と不慣れな部屋との間を開ける30分前に、ラットの腹腔内にそれぞれを処理する。
【0066】
(結果)
ウィスターラットの腹腔内に、1%(v/v)グリセロール及び0.2%(v/v)メチルセルロースを含む溶液を2mL/kg(n=12)、ジアゼパムを1mg/kg(n=12)又はペンタペプチドであるCNαS1−f(91−95)を0.5mg/kg(n=12)で注入した。これらによって、(i)不慣れな部屋に入った回数、(ii)慣れた部屋に居た時間、及び(iii)不慣れな部屋に居た時間に対して生じた効果を、ノンパラメトリック法による分散分析(Kruskall-Wallis)により解析し、それぞれの平均の比較をマン−ホイットニー検定により行った(それぞれの処理の群の平均であるAとBとで有意差がある、p<0.05、図2)。賦形剤で処理された動物が嫌悪する不慣れな部屋に居た時間は、ジアゼパムを処理した動物及びαS1−カゼインの91〜95番目の断片を処理した動物の場合よりも有意に少ない。さらに、賦形剤で処理された動物が慣れた部屋に居た時間は、有意に増大している。ジアゼパムとαS1−カゼインの91〜95番目の断片との間には、有意差は認められない。ウィスターラットの明暗箱試験において、αS1−カゼインの91〜95番目の断片は、ジアゼパムと類似の抗不安作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を活性成分として含むことを特徴とする不安症、睡眠障害及びてんかんを治療するための組成物。
【請求項2】
SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むαS1−カゼインの加水分解産物又は加水分解産物の断片を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
適当な医薬品賦形剤をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
食品であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
不安症、睡眠障害及びてんかんの治療に用いる薬剤の製造を目的とするSEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの使用。
【請求項6】
不安症、睡眠障害及びてんかんの治療に用いる薬剤の製造を目的とするSEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含む、カゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物及び/又はカゼイン若しくはαS1−カゼインの加水分解産物の断片の使用。
【請求項7】
SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの少なくとも1つの有効量を含むことを特徴とする、特に、不安症、睡眠障害及び/又はてんかんに罹りやすい人々のための食品。
【請求項8】
SEQ ID No.1に示すペプチド及び/又はSEQ ID No.2に示すペプチドの有効量を含むカゼイン又はαS1−カゼインの加水分解産物又は加水分解産物の断片を含むことを特徴とする請求項7に記載の食品。
【請求項9】
SEQ ID No.1に示すペプチド又はSEQ ID No.2に示すペプチドをコードしていることを特徴とする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項11】
請求項9に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項10に記載の発現ベクターを用いて形質転換されたことを特徴とするヒトを除く宿主生物。
【請求項12】
SEQ ID No.1に示すペプチド又はSEQ ID No.2に示すペプチドを発現することを特徴とするヒトを除く形質転換された宿主生物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524163(P2011−524163A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512142(P2011−512142)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056933
【国際公開番号】WO2009/147234
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(510321310)アンスティトゥー ナショナル ポリテクニーク ドゥ ロレーヌ (1)
【出願人】(510321321)ユニヴェルシテ ドゥ ナンシー 1 アンリ ポアンカレ (1)
【Fターム(参考)】