説明

β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌の特異的検出のための培地

本発明はβ‐ラクタム抗生物質耐性機構を有するグラム陰性菌用の反応培地であって、
・β‐ラクタム抗生物質耐性機構のマーカーであるセフェピム、
・前記β‐ラクタム抗生物質耐性機構以外の耐性機構のインヒビターを含む反応培地に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野は、生化学による微生物学的分析、特に微生物(たとえばバクテリアまたはイースト)の同定及び検出の分野である。
【0002】
細菌の抗生物質耐性は、主要な公衆衛生の問題である。治療に対する伝染性微生物の耐性は、抗感染分子と同時に発生し、今日では治療上の主要な障害である。この耐性は多数の問題の原因となっており、実験室での検出の難しさ、限られた治療オプション及び臨床結果への有害な影響の検出を含む。特に、病原菌の耐性の急速で抑止できない増加は、過去20年に渡って、医学の主要な問題の1つである。これらの生物によって生じる感染症は入院の長期化の原因となっており、治療の失敗に続く高い羅病率と死亡率に関係している。
【0003】
複数の耐性機構が菌株に同時に含まれる可能性がある。それらは、細菌への抗生物質の不十分な浸透、細菌の酵素系による抗生物質の失活または排出、及び細菌標的と抗生物質との間の親和性の欠如の3つのカテゴリーに、一般に分類される。
【0004】
酵素性の失活は、関係する抗生物質と種の数の観点から、獲得抵抗性の最も一般的な機構である。例えば、染色体性クラスCセファロスポリナーゼは、現在では、セファロスポリンに対して耐性化している上記酵素を発現するバクテリアであるグラム陰性菌の優勢な耐性機構の1つを構成している。同様に、β−ラクタム環のCN結合を加水分解することができるβ−ラクタマーゼは特定のバクテリアによって発現される酵素であり、それはβ−ラクタム抗生物質ファミリーの抗生物質の基本構造であり、微生物学的に不活性生成物を与える。複数のβ−ラクタマーゼ阻害剤(BLI)、例えばクラブラン酸(CA)、タゾバクタム及びスルバクタムは、抗菌活性を増大させ、それに関連するβラクタム抗生物質の範囲を広げるために開発された。それらはβラクタマーゼ用の自殺基質として働き、抗生物質の酵素的分解を妨げて、それらを当初は耐性化していたバクテリアに対して有効化させる。しかしながら、抗生物質圧に対する菌株の持続的な暴露によって、バクテリアはβ−ラクタマーゼの連続且つ動的な産生を通して適応するために能力を発現し、それは新規な分子の開発と同時に進化する。
【0005】
高度の染色体性クラスCセファロスポリナーゼを産生するグラム陰性菌(HL Case菌と呼ぶ)、更には広大なスペクトルのβラクタマーゼを産生するグラム陰性菌(ESBL菌と呼ぶ)は、その結果、特に関係する細菌の種数が増大しているので、増大した脅威となった。HL Case及びESBL菌は、第1及び第2世代セファロスポリンおよびペニシリンに基づく治療に耐性化しているが、第3世代セファロスポリン(C3G)(セフォタキシムCTX、セフタジジムCAZ、セフポドキシムCPD、セフトリアキソンCRO)及びモノバクタム(アズトレオナムATM)にも耐性化している。一方では、7α−メトキシセファロスポリン(セファマイシン:セホキシチン、セフォテタン)及びカルバペネム(イミペネム、メロペネム、エルタペネム)は、一般にそれらの活性を保持する。ESBLはβ−ラクタマーゼインヒビター(BLI)によって抑制され、それは他のセファロスポリナーゼからそれらを区別することを可能にする。
【0006】
例えば、これらのバクテリアは、最も一般的には複数の治療に対して耐性を同時に発現し、適切な治療を用意すること及び治療の失敗を回避することが困難である。大腸菌細菌は、したがってHL Case及びESBLである可能性がある。加えて、ESBL陽性腸内細菌は菌株または接合性プラスミド移動のクローン伝播によって耐性を広める傾向があるので、それらは制御感染症に関する問題となる。大部分の研究において、大腸菌及び肺炎桿菌は、最も一般的なESBL産生種のままである。しかしながら、過去2、3年にわたって、ESBLは、宿主種のパネルを非常に広げた。実際、腸内細菌及び非発酵グラム陰性菌(例えば緑膿菌)の多数の種は、ESBL産生者となることが報告されている。
【0007】
従って、公衆衛生の観点から、可能な限り迅速に、上記微生物及び上記耐性機構を同定できることが不可欠である。
一般に、治療に耐性化している微生物の調査は以下の工程に従って実施される:
1.前記微生物を含む可能性がある生物試料を取り出すこと;
2.微生物の指数増殖を誘導するために、培地に接種しインキュベートすること(18〜48h);
3.培養培地で、潜在的に有意な微生物のコロニーを特定すること;
4.微生物種を特徴づけること;
5.分析される微生物の耐性機構、それらの生物学的重要性、及び、場合により、適切な治療を同定すること。
【0008】
工程の連続は、微生物を含む可能性がある試料の取り出しと患者に適切な治療を処方することとの間に相当量の時間を含む。さらにまた、ユーザは第1の培地からの第2の培地まで微生物を移すための工程を一般に手動で実施し、それは特に汚染、更に取扱者の健康リスクの問題を引き起こす可能性がある。
【0009】
例示として、大腸菌の菌株もおける広いスペクトルのβ‐ラクタマーゼ(ESBL)と肺炎桿菌の存在を検出するために、Jacoby & Han (J Clin Microbiol. 34(4): 908-11, 1996)による刊行物に説明されているように拡散技術を使用してもよいが、それは試験される菌株の同定に関して何ら情報を与えない:細菌がESBL産生細菌であるか否かを確かめることが可能であるが、前記細菌が、大腸菌または肺炎桿菌であるかどうかを見分けることは可能でない。
【0010】
さらに、代謝基質がESBLまたはHL Caseの存在を検出するために使われる。この点について、AES laboratoriesはセフォタキシムを有するドリガルスキー培地とセフタジジムを有するマッコンキー培地を組合わせた双プレート培地を提唱する。ドリガルスキーとマッコンキー培地は、非常に多数の腸内細菌種に存在する代謝であるラクトース酸性化を明らかにすることを可能にする。しかしながら、上記培地は、非耐性菌から耐性菌を区別することを可能にするだけであって、HL Caseを発現するバクテリアからESBLを発現するバクテリアを区別することを可能にしない。この培地は特異的な細菌種を同定することも、病原性大腸菌と肺炎桿菌を区別することも可能でない。
【0011】
ESBL以外の耐性機構の検出の場合、2つの酵素活性(β−グルコシダーゼ及びピロリドニルアリールアミダーゼ)を検出する発色性培地とバンコマイシンを組合わせることによってバンコマイシン耐性化腸球菌について調査することに関する特許出願EP0954560を挙げることができる。しかしながら、この発色性培地はバンコマイシン耐性化菌株がエンテロコッカス属に属するかどうかを決定することを可能にするが、特に関係する種または耐性機構が獲得性耐性かまたは野生型耐性であるかどうかを同定することは可能にしない。
【0012】
従って、微生物の種の特徴づけ、次に治療に対する耐性を同定することは、冗長で努力を要する。分離株が実際には抵抗菌のない場合に、実験結果が臨床医に陽性スクリーニングを示したならば、これは不必要で不適当な治療につながる可能性がある。逆に、陽性スクリーニングを伝達しないで、後に確認されたことで、患者の分離(及びおそらく適切な治療)の開始が1日遅れる。これは、迅速で確実な確認テストの必要性を示す。
【0013】
従って、本発明は、実行される治療に関する信頼性と妥当性において、時間の節約を可能にする新規な診断手段を提供することによって従来技術を改良することを目的とする。本発明は、各患者に適切な治療を提唱するために、試料に存在するグラム陰性微生物の種を同定して、それらの耐性機構を決定することを、一工程で可能にする。
【0014】
本発明の開示を更に進める前に、以下の定義は、本発明の理解を容易にするために与えられる。
「反応培地」なる用語は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような微生物の生存および/または増殖のために必要な全ての要素を含む培地を意味することを目的とする。
【0015】
この反応培地は、検出培地として用いられるだけであるか、又は培養及び検出培地として用いられる場合がある。最初の場合では、微生物を培養することは接種前に実施され、第2の場合は、反応培地も培地を構成する。
【0016】
反応培地は、固体、半固体、又は液体でもよい。「固形培地」なる用語は、例えば、ゲル化された培地を意味することを目的とする。好ましくは、本発明の培地はゲル化培地である。寒天は微生物の培養用の微生物学の通常のゲル化剤であるが、それはゼラチンまたはアガロースを使用することが可能である。一定数の調製物は、例えばコロンビア寒天、トリプケース−ソイ寒天、マッコンキー寒天、サブロー寒天、又はさらに一般的にいえば、微生物学培地ハンドブック(the Handbook of Microbiological Media:CRC出版)に記載されているものは、市販されている。
【0017】
本発明による反応培地は、任意の他の添加物、例えば、ペプトン、一つ以上の増殖因子、糖質、一つ以上の選択剤、緩衝液、一つ以上のゲル化剤等を含む場合がある。この反応培地は、液体形態、または使用の準備、すなわちチューブまたはフラスコ、またはシャーレに接種の準備ができているゲル形態であってもよい。フラスコ内でゲル形態で提供される場合に、培地の事前の再生(100℃に通す)は、好ましくはシャーレへの注入前に実施される。それは、粉末形態の培地又はフラスコ内の培地であって、シャーレ、チューブまたはフラスコに注入される前に補助剤が加えられたものであってもよい。好ましくは、本発明の培地は、選択培地、すなわちグラム陰性菌の増殖を促進する化合物を含んでなる培地である。特にクエン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、バンコマイシンのような抗生物質、アンフォテリシンB、ナタマイシンまたはシクロヘキシミドのような抗菌類、胆汁酸塩、デオキシコール酸ナトリウムまたはターギトールのような界面活性剤、及びブリリアントグリーン、クリスタルバイオレット、フクシン、エオシンまたはメチレンブルーのような色素を挙げることができる。好ましくは、本発明の培地は、広いスペクトルのβ‐ラクタマーゼ(ESBL)菌の増殖を促進する化合物を含んで成る選択培地である。特にセファロスポリンを挙げることができる:
・第一世代のセファロスポリンは、例えば、セファレキシン、セファロリジン、セファロチン、セファゾリン、セファドロキシル、セファゼドン、セファトリジン、セファピリン、セフラジン、セファセトリル、セフロダキシン(cefrodaxine)、セフテゾールであり;
・第二世代のセファロスポリンは、例えば、セホキシチン、セフロキシム、セファマンドール、セファクロール、セフォテタン、セフォニシド、セホチアム、ロラカルベフ、セフメタゾール、セフプロジル、セホラニドであり;
・第三世代のセファロスポリンは、例えば、セフォタキシム、セフタジジム、セフスロジン、セフトリアキソン、セフメノキシム、モキサラクタム、セフチゾキシム、セフィキシム、セフォジジム、セフェタメト、セフピラミド、セホペラゾン、セフポドキシム、セフチブテン、セフジニル、セフジトレン、セフトリアキソン、セホペラゾン、セフブペラゾンであり;
・第四世代のセファロスポリンは、例えば、セフェピム、セフピロムである。
【0018】
グラム陰性菌として、特に以下の属の菌を挙げることができる:シュードモナス属、エシェリヒア属、サルモネラ属、赤痢菌、エンテロバクター属、クレブシェラ、セラシア属、プロテウス属、カンピロバクター属、ヘモフィルス属、モーガネラ属、ビブリオ、エルシニア、アシネトバクター属、ブランハメラ属、ナイセリア属、バークホルデリア属、シトロバクター属、ハフニア属、エドバルシエラ属、エーロモナス属、モラクセラ属、パスツレラ属、プロビデンシア属及びレジオネラ属。
【0019】
「β‐ラクタム抗生物質耐性機構」なる用語は、微生物への治療を部分的に又は完全に無効にすることを可能にし、その生存を保証する任意の種類の手段であって、広いスペクトルのβラクタマーゼのグループに属している酵素か、又は高度に発現されるクラスCセファロスポリナーゼのグループに属している酵素の発現に関係している手段を意味する。
【0020】
「β‐ラクタム抗生物質耐性機構のためのマーカー」なる用語は、セフェピム又はその塩のように、上記の耐性機構を示すことが可能な化合物を意味する。(Masuyoshi S. et al., 1989 - 「Comparison of the in vitro and in vivo antibacterial activities of cefepime (BMY-28142) with ceftazidime, cefuzonam, cefotaxime and cefmenoxime.」)
【0021】
「前記β‐ラクタム抗生物質耐性機構以外の耐性機構のインヒビター」なる用語は、前記β‐ラクタム抗生物質耐性機構を発現しているグラム陰性菌の阻害なしに、特定の耐性が発現している生物の増殖を間接的に阻害することを可能にする化合物(例えばクラスCセファロスポリナーゼの阻害のためのクロキサシリン)を意味することを目的とする(Jack and Richmond, 1970 - "A comparative study of eight distinct beta-lactamases synthesized by gram-negative bacteria.")。
【0022】
本発明では、酵素又は代謝活性用の基質は、酵素活性または代謝(例えば、特にオシダーゼ活性、好ましくはα−グルクロニダーゼ、グルコシダーゼ、またはガラクトシダーゼ活性)の直接的または間接的な検出を可能にする生成物に加水分解されることができる任意の基質から選択される。
【0023】
天然基質でも合成基質であってもよい。基質の代謝によって、反応培地又は生物の細胞の生理化学的性質に変化が生じる。この変化は、物理化学的方法、特に光学的方法、オペーレーターの視覚により、または分光計、電気、磁気等の計測器を使用して検出することができる。それは、吸収、蛍光または発光の変化のような光学的性質の変異であることが望ましい。
【0024】
発色性基質として、インドキシル、フラボン、アリザリン、アクリジン、エスクレチン、フェノキサジン、ニトロフェノール、ニトロアニリン、ナフトール、カテコール、ヒドロキシキノリン、クマリン、アミノフェノール又はジクロロアミノフェノール系の基質を挙げることができる。本発明で使用する基質は、インドキシル系であることが好ましい。
【0025】
蛍光性の基質として、ウンベリフェロン系またはクマリン系基質、レゾルフィン系、フェノキサジン系、ナフトール系、ナフチルアミン系、2’−ヒドロキシフェニル−ヘテロ環系または2’−アミノフェニル−ヘテロ環系基質、あるいは他にフルオレセイン系を挙げることができる。
【0026】
好ましくは、本発明に使用する基質は、好ましくは5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトピラノシドと組合わせた、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコピラノシドである。他のありうる基質は、β−グルコシダーゼ基質の5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−β−グルコシド;ジヒドロキシフラボン−β−グルコシド;3−ヒドロキシフラボン−β−グルコシド、3,4−シクロヘキセノエスクレチン−β−グルコシド(3,4−シクロペンテノエスクレチン−β−グルコシドは該当しない);8−ヒドロキシキノリン−β−グルコシド;5−ブロモ−4−ブロモ−3−インドキシル−N−メチル−β−グルコシド;6−クロロ−3−インドキシル−β−グルコシド;5−ブロモ−3−インドキシル−β−グルコシド;5−ヨード−3−インドキシル−β−グルコシド;6−ヨード−3−インドキシル−β−グルコシド;6−フルオロ−3−インドキシル−β−グルコシド;アリザリン−β−グルコシド;ニトロフェニル−β−グルコシド;4−メチルウンベリフェリル−β−グルコシド;ナフトールベンゼイン−β−グルコシド;インドキシル−N−メチル−β−グルコシド;ナフチル−β−グルコシド;アミノフェニル−β−グルコシド;ジクロロアミノフェニル−β−グルコシドであり;β‐ガラクトシダーゼ基質の5−ブロモ−4−ブロモ−3−インドキシル−β−ガラクトシド;ジヒドロキシフラボン−β−ガラクトシド;3,4−シクロヘキセノエスクレチン−β−ガラクトシド;8−ヒドロキシキノリン−β−ガラクトシド;5−ブロモ−4−ブロモ−3−インドキシル−N−メチル−β−ガラクトシド;6−クロロ−3−インドキシル−β−ガラクトシド;5−ブロモ−3−インドキシル−β−ガラクトシド;5−ヨード−3−インドキシル−β−ガラクトシド;6−フルオロ−3−インドキシル−β−ガラクトシド;アリザリン−β−ガラクトシド;ニトロフェニル−β−ガラクトシド;4−メチルウンベリフェリル−β−ガラクトシド;ナフトールベンゼイン−β−ガラクトシド;インドキシル−N−メチル−β−ガラクトシド;ナフチル−β−ガラクトシド;アミノフェニル−β−ガラクトシド;ジクロロアミノフェニル−β−ガラクトシドであり;β‐グルクロニダーゼ基質の5−ブロモ−6−ブロモ−3−インドキシル−β−グルクロニド;ジヒドロキシフラボン−β−グルクロニド;3,4−シクロヘキセノエスクレチン−β−グルクロニド;8−ヒドロキシキノリン−β−グルクロニド;5−ブロモ−4−ブロモ−3−インドキシル−β−グルクロニド;5−ブロモ−4−ブロモ−3−インドキシル−N−メチル−β−グルクロニド;6−クロロ−3−インドキシル−β−グルクロニド;5−ブロモ−3−インドキシル−β−グルクロニド;5−ヨード−3−インドキシル−β−グルクロニド;6−フルオロ−3−インドキシル−β−グルクロニド;アリザリン−β−グルクロニド;ニトロフェニル−β−グルクロニド;4−メチルウンベリフェリル−β−グルクロニド;ナフトールベンゼイン−β−グルクロニド;インドキシル−N−メチル−β−グルクロニド;ナフチル−β−グルクロニド;アミノフェニル−β−グルクロニド;ジクロロアミノフェニル−β−グルクロニドであり;α−グルコシダーゼ基質、α−ガラクトシダーゼ基質、エステラーゼ、特にリパーゼまたはホスファターゼ基質、セロビオシダーゼ基質、リボシド基質とへキソサミニダーゼ基質である。
【0027】
本発明の基質は、広いpH範囲において、特にpH5.5〜10、好ましくは特に6.5〜10で使用することができる。本発明に係る培地がβ−グルコシダーゼ酵素活性のための1又は複数の基質を含む場合に、基質の濃度は、好ましくは0.01〜2g/lであり、より好ましくは0.02〜0.2g/lであり、有利には0.05から0.15g/lである。この基質濃度では、より良好な色の対比が得られるためである。
【0028】
好ましくは、前記発色性基質は、グルクロニダーゼ基質、β−グルコシダーゼ基質及びβ‐ガラクトシダーゼ基質から選択される。
【0029】
「生物試料」なる用語は、生体液に由来する臨床試料、又は任意の種類の食品に由来する食品試料を意味することを目的とする。従って、この試料は液体又は固体でもよく、血液、血漿、尿または糞便、鼻、のど、皮膚、傷又は脳脊髄液から採取された試料に由来する臨床試料、水又例えば牛乳または果汁等の飲料の試料;ヨーグルト、肉、卵、野菜、マヨネーズまたはチーズの試料;魚等の試料に由来する食品試料、あるいは、特に動物の餌のような動物飼料に由来する食品試料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
この点について、本発明はβ‐ラクタム抗生物質耐性機構を有するグラム陰性菌のための反応培地であって、
・β‐ラクタム抗生物質耐性機構のマーカーであるセフェピム、
・前記β‐ラクタム抗生物質耐性機構以外の耐性機構のインヒビター
を含む培地に関する。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態によれば、耐性機構の前記インヒビターは、クロキサシリンである。好ましくはクロキサシリンの濃度は、0.05から1g/lであり、より好ましくは0.1から0.3g/lである。有利には0.2g/lである。本発明の好ましい一実施形態によれば、セフェピムの濃度は、0.05から1mg/lであり、より好ましくは0.10から0.5mg/lである。有利には0.25mg/lである。
【0032】
本発明の好ましい一実施形態によれば、反応培地は、酵素活性又は代謝活性用の基質、好ましくは発色性基質を更に含む。本発明の好ましい一実施形態によれば、前記発色性基質は、グルクロニダーゼ基質、β−グルコシダーゼ基質及びβ‐ガラクトシダーゼ基質から選択される。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態によれば、発色性基質の濃度は、0.02から2g/lであり、より好ましくは0.03から0.5g/lである。有利には0.1g/lである。
【0034】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記培地は少なくとも2つの発色性基質の組合せを含む。第1の実施態様によれば、この組合せは、グルクロニダーゼ基質とβ−グルコシダーゼ基質を含む。第2の実施態様によれば、この組合せは、β‐ガラクトシダーゼ基質とβ−グルコシダーゼ基質を含む。
【0035】
本発明は、β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌、好ましくは広いスペクトルのβ‐ラクタマーゼ(ESBL)菌を検出するための、上記培地の使用にも関する。
【0036】
本発明は、β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌を検出する方法であって、
1.上記の反応培地を提供すること、
2.培地に試験される生物試料を接種すること、
3.インキュベーションに置くこと、及び
4.β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌の存在を検出する工程
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0037】
インキュベーションは、好ましくは温度30℃から42℃で実施できる。β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌は、好ましくは着色または蛍光コロニーを得ることを可能にする特異的グルクロニダーゼ、β−グルコシダーゼまたはβ‐ガラクトシダーゼ活性によって検出される。他の種は無色に見えるか、有色か、または蛍光を有し、β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌のコロニーのものとは異なる。

下記の実施例は、説明として提供されるものであって、事実上限定するものではない。本発明を、より明らかに理解することを可能にするものである。
【実施例】
【0038】
実施例1
菌株の選択:発明者は、グラム陰性種の腸内細菌及び非発酵桿菌について抗生物質の活性を評価することができる菌株を選択した。特に、ESBL産生株、高度セファロスポリナーゼ産生株(HL Case)及び特定の耐性プロフィールがない菌株(野生型株という)が使われた。
培地の調製:試験された培地は、ChromID CPS培地のペプトンベースからなる培地(ビオメリューref 43541)であって、加圧減菌の後の融解した培地に、300mg/lのクロキサシリンとT培地用の4mg/lセフポドキシム、A培地用の0.25mg/Lのセフェピム、B培地用の3mg/lのセファマンドール、及びC培地用の3mg/lのセフロキシムのいずれかを加えたものである。
培地の接種:培地は、0.5Mcfの細菌懸濁液を使用して3クワドランド線条接種法を実施することによって接種される。次に培地は、37℃で24時間インキュベーションされる。
培地の読みとり:培地は、18時間及び24時間のインキュベーション後に視覚により観察され、増殖密度及び色及び色強度が以下のスケールに従って評価される:
−または0:増殖または酵素活性の発現の欠如(すなわち、呈色反応が無い)
+:弱い増殖または酵素活性
++:非常に高い増殖密度または強い酵素活性(非常に強い呈色反応)


【0039】
結論:4つの分子は、全てESBL産生株の良好な増殖と酵素活性の発現を可能にする。
しかしながら、セフェピムだけは、ESBL産生株か、HL Caseを産生する菌株か、又は野生型分類群の菌株かを良好に区別することを可能にする。従って、それは、最高の感受性と特異性で、ESBL菌株を検出することを可能にする抗生物質である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β‐ラクタム抗生物質耐性機構を有するグラム陰性菌のための反応培地であって、
・β‐ラクタム抗生物質耐性機構のマーカーであるセフェピム、
・前記β‐ラクタム抗生物質耐性機構以外の耐性機構のインヒビターを含む、反応培地。
【請求項2】
耐性機構の前記インヒビターがクロキサシリンであることを特徴とする、請求項1に記載の反応培地。
【請求項3】
セフェピムの濃度が0.05から1mg/lであり、より好ましくは0.1から0.5mg/lであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反応培地。
【請求項4】
酵素活性又は代謝活性用の基質、好ましくは発色性基質を更に含む、請求項1から3の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項5】
前記発色性基質がグルクロニダーゼ基質、β−グルコシダーゼ基質及びβ‐ガラクトシダーゼ基質から選択される、請求項4に記載の反応培地。
【請求項6】
β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌を検出するための、請求項1から5の何れか一項に記載の反応培地の使用。
【請求項7】
β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌が広いスペクトルのβ‐ラクタマーゼ(ESBL)菌である、請求項6に記載の反応培地の使用。
【請求項8】
a)請求項1から5の何れか一項に記載の反応培地を提供すること、
b)培地に試験される生物試料を接種すること、
c)インキュベートに置くこと、及び
d)β‐ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌の存在を検出する工程を含むことを特徴とする、β−ラクタム抗生物質に対して耐性化しているグラム陰性菌を検出する方法。

【公表番号】特表2013−500035(P2013−500035A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522209(P2012−522209)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051474
【国際公開番号】WO2011/012790
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(304043936)ビオメリュー (26)
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
【Fターム(参考)】