説明

β−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法

【課題】果実から簡便、且つ人体に害を及ぼす虞のない抽出溶媒を用いて、高濃度でβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法を提供すること。
【解決手段】以下の(1)乃至(5)の工程からなることを特徴とするβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法とする。
(1)柑橘類(Citrus)、柿(Diospyros kaki)、マンゴー(Mangifera indica L.)、パパイア(Carica papaya)、ビワ(Eriobotrya japonica)、赤ピーマン(Capsicum annuum)から選択される1又は複数の果実の全部又は一部からなる抽出原料を水又はアルコール類で洗浄する工程
(2)工程(1)で得られた洗浄物をアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、飽和炭化水素のいずれかから選択される抽出溶媒で抽出する工程
(3)工程(2)で得られた抽出物から前記抽出溶媒を除去し濃縮する工程
(4)工程(3)で得られた濃縮物に水又は濃度50%以下のエタノールを加えた後、遠心分離によって油状抽出物を分離、回収する工程
(5)工程(4)で得られた油状抽出物を乾燥する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物から得られる色素の一種であるβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる栄養強化目的の食品素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するα、β及びγカロテンやβ−クリプトキサンチンはカロテノイド色素に属し、一般的に黄、橙、赤色を呈する。前記の色素の中で特にβ−クリプトキサンチンは、機能性成分として注目されており、食品組成物、医薬組成物、化粧品用組成物等への利用が検討されている(下記特許文献1参照)。
しかしながら、これらの天然色素は数種が混在した状態で色を呈しており、夫々の色素は化学的性質や構造が類似しているため、各色素を単離、精製することは容易ではない。
【0003】
β−クリプトキサンチンは橙色を呈する色素で、柑橘類、柿、マンゴー、パパイア、ビワ、赤ピーマン等に多く含まれており、特許文献2には柿の果実からβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2の開示技術は具体的には、柿の果皮を細断した後、有機溶媒(ブチルヒドロキシトルエン入りエタノール)存在下で更に粉砕してろ過し、該ろ液を減圧下で濃縮している。この操作の後、有機溶媒(ブチルヒドロキシトルエン入りエタノール)で抽出、減圧下での濃縮を繰り返し行い、β−クリプトキサンチンを含有する抽出物を得ている。
【0005】
特許文献2に記載の方法では、繰り返し濃縮を行って得られる抽出物中のβ−クリプトキサンチン量は、単位重量当たり0.008重量%程度であった。
その為、高濃度でβ−クリプトキサンチンを含有する植物抽出物を簡便に得る方法が望まれており、且つ人体に害を及ぼす虞のない抽出溶媒を用いて抽出する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−089452号公報
【特許文献2】特開2004−331528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、果実から簡便、且つ人体に害を及ぼす虞のない抽出溶媒を用いて、高濃度でβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、以下の(1)乃至(5)の工程からなることを特徴とするβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法であって、該工程が、(1)柑橘類(Citrus)、柿(Diospyros kaki)、マンゴー(Mangifera indica L.)、パパイア(Carica papaya)、ビワ(Eriobotrya japonica)、赤ピーマン(Capsicum annuum)から選択される1又は複数の果実の全部又は一部からなる抽出原料を水又はアルコール類で洗浄する工程と、(2)工程(1)で得られた洗浄物をアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、飽和炭化水素のいずれかから選択される抽出溶媒で抽出する工程と、(3)工程(2)で得られた抽出物から前記抽出溶媒を除去し濃縮する工程と、(4)工程(3)で得られた濃縮物に水又は濃度50%以下のエタノールを加えた後、遠心分離によって油状抽出物を分離、回収する工程と、(5)工程(4)で得られた油状抽出物を乾燥する工程である製造方法に関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記工程(1)の後、前記工程(2)の前に、洗浄した果実を凍結乾燥、減圧乾燥、常圧乾燥のいずれかの方法で乾燥することを特徴とする請求項1記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法に関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記工程(1)の後、前記工程(2)の前に、細断、粉砕、圧搾、ペースト化のいずれかの処理を洗浄した果実に施すことを特徴とする請求項1記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記工程(2)の抽出溶媒がエタノールであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法に関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記工程(1)の抽出原料が、前記果実の果汁又は果皮を含む果汁残渣であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法に関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記工程(1)で用いられる果実が温州みかん(Citrus. unshiu)、オレンジ(Citrus.Sinensis),(Citrus.Aurantium)のいずれか、もしくは2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、抽出原料がβ−クリプトキサンチンを多く含有する柑橘類(Citrus)、柿(Diospyros kaki)、マンゴー(Mangifera indica L.)、パパイア(Carica papaya)、ビワ(Eriobotrya japonica)、赤ピーマン(Capsicum annuum)から選択される1又は複数の果実の全部又は一部であるため、高濃度でβ−クリプトキサンチンを含む抽出物を得ることができる。
抽出に供する前に果実を洗浄するため、果実に付着している有機物等の不純物が混入することがない。
抽出溶媒がアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、飽和炭化水素であるため、効率的に抽出することができ、また前記溶媒で抽出して得られた抽出物を水又は濃度50%以下のエタノールに分散させるため、人体に害を及ぼす虞のある溶媒が抽出物に残存することがない。
抽出物を分散させた分散液に対して遠心分離を施すことによって油状抽出物を分離するため、簡便且つ効率的に抽出物を回収することができ、抽出物の収量、即ちβ−クリプトキサンチンの収率を増加させることができる。
また得られた油状抽出物を乾燥するため、食品や飲料に添加し易い粉状の食品素材を得ることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、抽出操作の前に洗浄した果実を乾燥するため、洗浄工程で付着した余分な水分もしくはアルコールが除去され、より効率的にβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物を抽出することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、抽出操作の前に細断、粉砕、圧搾、ペースト化を施すことで果実を細かにするため、より効率的に抽出することができ、β−クリプトキサンチンの収率を増加させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、抽出溶媒がエタノールであるため、エタノールが抽出物に残存し、該抽出物を食品素材として用いても人体に害を及ぼす虞がない。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、果汁又は果皮を含む果汁残渣が抽出原料であるため、果実全部ではなく、果実の一部からβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物を得ることができる。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、抽出原料である果実が温州みかん(Citrus. unshiu)オレンジ(Citrus.Sinensis),(Citrus.Aurantium) のいずれか、もしくは2種以上の混合物であるため、β−クリプトキサンチンをより高い濃度で含有する食品素材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法について詳述する。
【0021】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法は、以下の5つの工程からなる。
抽出原料である果実を水又はアルコール類で洗浄する工程(1)と、洗浄後の果実を抽出溶媒で抽出する工程(2)と、工程(2)で得られた抽出物から抽出溶媒を除去して濃縮する工程(3)と、工程(3)で得られた濃縮物を水又は濃度50%以下のエタノールで均一に分散させ、その分散液に遠心分離を施すことで油状抽出物を回収する工程(4)と、工程(4)で得られた油状抽出物を乾燥して食品素材を得る工程(5)とからなる製造方法である。
【0022】
本発明に係る製造方法において抽出原料となる果実として具体的には、柑橘類(Citrus)、柿(Diospyros kaki)、マンゴー(Mangifera indica L.)、パパイア(Carica papaya)、ビワ(Eriobotrya japonica)、赤ピーマン(Capsicum annuum)が挙げられ、前記果実はβ−クリプトキサンチンが多く含まれていることから好適に用いられる。
【0023】
β−クリプトキサンチンはカロテノイド色素に属する主に橙色を呈する色素であり、下記(化1)に示すような構造である。
β−クリプトキサンチンは、上記した植物の果実の果肉、果皮のいずれにも含まれるため、果実全部を抽出原料とすることができるが、果実全部ではなく果実の一部を抽出原料としてもよい。抽出原料となる果実の一部は具体的には、果汁、果皮を含む果肉から果汁を除いた後の残渣(以下、果汁残渣という)である。
特に、果皮にはβ−クリプトキサンチンが多く含まれるため、主な抽出原料として用いることが好ましい。
また柑橘類(Citrus)に属する温州みかん(Citrus. unshiu)オレンジ(Citrus.Sinensis),(Citrus.Aurantium)には、β−クリプトキサンチンが特に多く含まれることから、本発明における抽出原料として好適である。
【0024】
【化1】

【0025】
工程(1)の果実の洗浄に用いられる水又はアルコール類の液温は10℃〜60℃であることが好ましい。液温が10℃未満であると有機物等の不純物の除去が不十分であり、60℃を超えるとそれ以上の効果が望めず且つ果実が傷むこととなり、いずれの場合も好ましくない。
また洗浄に用いられるアルコール類は一価の鎖状アルコールであり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられるが、人体に害を及ぼさないアルコールを用いることが望ましく、エタノールが好適に用いられる。
【0026】
洗浄した果実は洗浄液(水、アルコール類)が付着したままでも抽出に供することができるが、乾燥して洗浄液(水、アルコール類)を除去して抽出に供することが好ましい。
乾燥方法としては凍結乾燥、減圧乾燥、常圧乾燥のいずれの方法を用いてもよい。
洗浄した果実を乾燥することで余分な水分やアルコールが除去されるため、より効率的に抽出を行うことができる。
【0027】
抽出原料の果実はそのまま抽出に供することができるが、細断、粉砕、圧搾、ペースト化のいずれかの方法で抽出原料を細かにすることが好ましい。果実を細かにすることで、より効率的に抽出を行うことができ、β‐クリプトキサンチンの収率を増加させることができる。
上記いずれかの方法で果実を細かにする操作は工程(1)の後に行うことが望ましいが、工程(1)の前に行ってもよく、また工程(1)の前に行い且つ工程(1)の後に行ってもよい。
【0028】
工程(2)における溶媒抽出は公知の方法を用いて行われる。
また抽出操作は1回に限定されないが、β−クリプトキサンチンの収率を上げるために少なくとも2回以上行うことが望ましい。
【0029】
工程(2)の溶媒抽出に用いる抽出溶媒としては、溶媒抽出法で一般的に用いられる有機溶媒を用いることができる。
具体的には例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の飽和炭化水素等が挙げられる。
本発明に係る食品素材の製造方法においては、得られた食品素材が食品や飲料に添加されるので、人体に害を及ぼさない有機溶媒を用いることが望ましく、エタノールが好適に用いられる。
【0030】
溶媒抽出に用いられる抽出溶媒量は抽出に際して十分な量であれば良いが、例えば抽出対象物の重量に対して重量比1〜100であることが好ましい。1未満であると十分な抽出が行えず、100を超えてもそれ以上の抽出が行われずいずれの場合も好ましくない。
また、抽出の際の温度は10℃〜80℃であることが好ましく、前記の温度範囲であると効率よく抽出を行うことができる。溶媒抽出に用いる抽出溶媒は、一般的に沸点の高くないものが用いられるので、80℃を超えると抽出溶媒が蒸発する虞があり好ましくない。10℃未満であっても抽出は可能であるが、効率的に抽出が行えず好ましくない。
抽出時間は限定されないが、十分な抽出を行うために30分〜720分であることが望ましい。
【0031】
工程(3)における抽出溶媒除去及び濃縮操作は、減圧下で行うことが好ましい。減圧蒸留することで、溶媒除去及び濃縮時の温度を低下させることができる。この時の温度は80℃以下であることが好ましく、80℃を超えると抽出物が褐色になる虞があり、またβ−クリプトキサンチンの収率が低下する虞がある。減圧蒸留装置として、具体的には例えばロータリーエバポレーターを用いることができる。
【0032】
工程(4)においては、工程(3)で得られた濃縮物を分散溶媒となる水又はエタノールに加えて分散させ、この分散液を遠心分離することで油状抽出物が得られる。
分散溶媒となる水の温度は10℃〜90℃であることが好ましく、この温度範囲であると効率的に油状抽出物を分散することができる。
また分散溶媒がエタノールである場合においては、エタノールの濃度は50%以下であり、10%〜50%であることがより好ましい。10%未満であると、濃縮物の分散性が悪く、50%を超えると後述する遠心分離を施した際の油状抽出物の分離が困難となり、収量が低下する。
エタノールの液温は10℃〜80℃であることが好ましく、10℃未満であると効率的に分散することができず、80℃を超えるとエタノールが蒸発する虞があり好ましくない。従って、前記温度範囲であると効率的に油状抽出物を分散することができる。
【0033】
工程(4)で得られる前記分散液から油状抽出物を分離する方法としては、遠心分離が用いられる。遠心分離することで、簡便且つ効率的に油状抽出物を前記分散液から分離して回収することができる。
遠心分離の条件としては、回転数を3000rpm〜16000rpmとすることが好ましい。3000rpm未満であると分散液から分離することができず、16000rpmを超えると分離していた油状抽出物が分散溶媒に再分散される虞があり、いずれの場合も好ましくない。
また、油状抽出物を十分に分離するために遠心分離の処理時間は1秒〜10分であることが好ましい。
【0034】
工程(5)における乾燥方法は減圧乾燥であることが望ましい。減圧乾燥することで、油状抽出物の水分や有機溶媒を抽出物内に残存させることなく効率的に除去することができ、食品や飲料に添加し易い粉状の食品素材を得ることができる。
【0035】
本発明に係る製造方法によって得られたβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材について、該食品素材に含まれるβ−クリプトキサンチン量を、吸光度検出器を有する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
【0036】
以下の条件で、β−クリプトキサンチン量を定量した。
(分析条件)
高速液体クロマトグラフ:島津製作所製HPLC−6A
検出器:島津製作所製SPD−6AV
カラム:YMC社製Carotenoid 5μ C30(4.6mmI.D.×250mm)
移動層:(A)メタノール:メチルブチルエーテル:水:酢酸アンモニウム=81:15:4:0.1
(B)メタノール:メチルブチルエーテル:酢酸アンモニウム=10:90:0.1
90分で(A)100%から(B)100%
流速:1.0ml/min
カラムオーブン温度:32℃
検出波長:450nm
試料注入量:20μl
【0037】
また、β−クリプトキサンチン量は吸光度分析にて検量線を作成して算出した。
先ず、アルドリッチ社製β−クリプトキサンチン標準品1.0mgをn−ヘキサンに溶解して50mlに定容し、20μg/mlの標準原液を調製した。前記標準原液5mlにn−ヘキサンを加えて50mlに定容し、波長450nmの吸光度を測定した。
前記標準原液中のβ−クリプトキサンチン濃度は次式(ランバート・ベールの法則)より算出した。
logI/I=εcd
上記式中の各記号は、I:入射光の強度、I:透過光の強度、ε:モル吸光係数、c:モル濃度、d:媒質の距離、である。
尚、β−クリプトキサンチンのモル吸光係数は文献値(ε=2460)を用い、媒質の距離はd=1cmである。
【0038】
前記β−クリプトキサンチン標準原液の溶媒であるn−ヘキサンを減圧により除去した。得られた濃縮β−クリプトキサンチン液にメチルブチルエーテルを加えて20μg/mlに調製した。この調製液を、メチルブチルエーテルを用いて2倍、20倍、200倍に希釈し、夫々20μlをHPLCに用いた。
夫々の調製液における波長450nmの吸光度を用いて検量線を作成した。
【0039】
以下に示す実施例においては、前述した果実の中でも特にβ−クリプトキサンチンを多く含むとされる温州みかん(Citrus. unshiu)を抽出原料とし、果皮を含む果肉から果汁を除いた後の残渣(果汁残渣)をペースト状にしたもの(以下、果汁残渣ペーストという)を用いた。
【0040】
(実施例1)
果汁残渣ペースト2400gに50%エタノールを3000g加え、60℃に加温、撹拌洗浄した後にろ過(100メッシュ)した。
ろ過残渣の水分及びエタノールを50℃、減圧下(20kPa)にて除去、乾燥した。
乾燥したろ過残渣に95%エタノールを500g加え、60℃に加温、撹拌して抽出を行いろ過し、再び95%エタノールを500g加えて同様の操作を行い、ろ過してろ液(抽出液)を得た。
得られた抽出液に対してロータリーエバポレーターを用いて減圧下にて溶媒を除去し、濃縮物を得た。
濃縮物を60℃、20%エタノール30gに均一に分散させた後、遠心分離(4000rpm)を施し油状抽出質を分離した。
得られた油状抽出物を減圧下(20MPa)にて乾燥し、β−クリプトキサンチン含有抽出物を得た。
【0041】
(実施例2)
果汁残渣ペースト2400gに60℃の水約5000gを加え、70℃まで加温、撹拌洗浄した後にろ過(100メッシュ)し、再び同様の操作を行い、ろ過してろ過残渣を得た。
ろ過残渣の乾燥、抽出操作及び抽出回数、濃縮操作、油状抽出物の分離、分離油状抽出物の乾燥は実施例1に記載する方法と同様の方法で行った。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同様の洗浄操作、ろ過を行い、得られたろ過残渣は凍結乾燥にて乾燥した。
抽出操作及び抽出回数、濃縮操作、油状抽出物の分離、分離油状抽出物の乾燥は実施例1に記載する方法と同様の方法で行った。
【0043】
(実施例4)
実施例1と同様の洗浄操作、ろ過を行い、得られたろ過残渣は常圧にてドラムドライヤを用いて乾燥した。
抽出操作及び抽出回数、濃縮操作、油状抽出物の分離、分離油状抽出物の乾燥は実施例1に記載する方法と同様の方法で行った。
【0044】
(実施例5)
実施例1と同様の洗浄、ろ過、乾燥操作を行った。
乾燥したろ過残渣に酢酸エチルを500g加え、50℃に加温、撹拌して抽出を行いろ過し、再び同様の操作を行い、ろ過してろ液(抽出液)を得た。
濃縮操作、油状抽出物の分離、分離油状抽出物の乾燥は実施例1に記載する方法と同様の方法で行った。
【0045】
(実施例6)
実施例1と同様の洗浄、ろ過、乾燥操作を行った。
乾燥したろ過残渣にn−ヘキサンを500g加え、40℃に加温、撹拌して抽出を行いろ過し、再びn−ヘキサン500gを加えて同様の操作を行い、ろ過してろ液(抽出液)を得た。
濃縮操作、油状抽出物の分離、分離油状抽出物の乾燥は実施例1に記載する方法と同様の方法で行った。
【0046】
(実施例7)
実施例1と同様の洗浄、ろ過操作を行った。
得られたろ過残渣には乾燥処理を施さずに、実施例1に記載する抽出操作及び抽出回数、濃縮操作、油状抽出物の分離、分離油状抽出物の乾燥を行った。
【0047】
比較例として、以下に示す3つの方法でβ−クリプトキサンチン含有抽出物を得、抽出物に含まれるβ−クリプトキサンチン量を定量した。抽出原料は実施例1〜7と同様に、温州みかん(Citrus. unshiu)の果汁残渣ペースト(2400g)を用いた。
【0048】
(比較例1)
実施例2と同様の洗浄、ろ過、乾燥、抽出操作及び抽出回数、濃縮操作を行い、遠心分離を施さずにβ−クリプトキサンチン含有抽出物を得た。
【0049】
(比較例2)
実施例7と同様の洗浄、ろ過、抽出操作及び抽出回数、濃縮操作を行い、遠心分離を施さずにβ−クリプトキサンチン含有抽出物を得た。
【0050】
(比較例3)
実施例1と同様の洗浄、ろ過、乾燥、抽出操作及び抽出回数、濃縮操作を行った。
濃縮物を60℃、70%エタノール30gに均一に分散させた後、実施例1と同様の遠心分離、乾燥を施してβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物を得た。
【0051】
上記実施例1〜7及び比較例1〜3において得られたβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物量と抽出物中β−クリプトキサンチンの含量を表1〜表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表1及び表2より、本発明に係る製造方法で得られた抽出物(実施例1〜7)には、比較例1〜3(表3)よりも多くのβ−クリプトキサンチンが含有されることが確認され、抽出物中のβ−クリプトキサンチン量は、単位重量当たり略1重量%含まれることが確認された。
比較例1及び2においては、油状抽出物を分離、回収する際に遠心分離を施していない。前記夫々の比較例に対応する実施例は実施例2及び7であるが、抽出物の収量は比較例の方が多いものの、抽出物中のβ−クリプトキサンチン量においては、実施例2が比較例1の略2.5倍、実施例7が比較例2の略38倍含まれることがわかる。
遠心分離という簡便な方法を用いて抽出物を抽出溶媒から分離することで、β−クリプトキサンチンの収率を大幅に増加させることが可能となる。
また、実施例1〜4及び実施例7において用いた溶媒が、抽出原料の洗浄液としてエタノール又は水、抽出溶媒としてエタノールのみであることから、人体に害を及ぼす虞のない溶媒のみを用いて、高濃度でβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物を得ることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る製造方法は、機能性成分であるβ−クリプトキサンチンを高濃度で含む食品素材の製造に利用可能である。具体的には、β−クリプトキサンチンを含有する栄養強化目的の食品素材の製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)乃至(5)の工程からなることを特徴とするβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法。
(1)柑橘類(Citrus)、柿(Diospyros kaki)、マンゴー(Mangifera indica L.)、パパイア(Carica papaya)、ビワ(Eriobotrya japonica)、赤ピーマン(Capsicum annuum)から選択される1又は複数の果実の全部又は一部からなる抽出原料を水又はアルコール類で洗浄する工程
(2)工程(1)で得られた洗浄物をアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、飽和炭化水素のいずれかから選択される抽出溶媒で抽出する工程
(3)工程(2)で得られた抽出物から前記抽出溶媒を除去し濃縮する工程
(4)工程(3)で得られた濃縮物に水又は濃度50%以下のエタノールを加えた後、遠心分離によって油状抽出物を分離、回収する工程
(5)工程(4)で得られた油状抽出物を乾燥する工程
【請求項2】
前記工程(1)の後、前記工程(2)の前に、洗浄した果実を凍結乾燥、減圧乾燥、常圧乾燥のいずれかの方法で乾燥することを特徴とする請求項1記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)の後、前記工程(2)の前に、細断、粉砕、圧搾、ペースト化のいずれかの処理を洗浄した果実に施すことを特徴とする請求項1記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)の抽出溶媒がエタノールであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)の抽出原料が、前記果実の果汁又は果皮を含む果汁残渣であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法。
【請求項6】
前記工程(1)で用いられる果実が温州みかん(Citrus. unshiu)(Citrus. unshiu)、オレンジ(Citrus.Sinensis),(Citrus.Aurantium)のいずれか、もしくは2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のβ−クリプトキサンチンを含有する抽出物からなる食品素材の製造方法。