説明

β−グルカンを主体とする多糖類の抽出方法

【課題】キノコからβ−グルカンを主体とする多糖類を、高収率で効率よく得る抽出方法の提供。
【解決手段】キノコを、約2〜約3MPaの範囲の圧力下にある約140〜約180℃の範囲の温度の水で処理することによる、β−グルカンを主体とする多糖類の抽出方法。該キノコとしては、マイタケであることが好ましい。使用するキノコは、予め溶媒で処理したものを用いることが好ましい。該多糖類は、水溶性であるので、生体に取り込まれやすく、医薬品、特に腫瘍の予防及び/又は治療用医薬品、医薬部外品、化粧品、あるいは健康食品、健康補助食品、特定保健用食品、又は栄養補助食品などの食品、あるいは動物用飼料に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイタケなどのキノコからβ−グルカンを主体とする多糖類を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイタケには様々な生理活性物質が含まれており、特にβ−グルカンなどの多糖類は抗腫瘍活性を有することで知られている(非特許文献1)。
これまで、溶媒・液性・温度など、様々な条件を組み合わせて、マイタケから生理活性物質を抽出することが試みられてきたが、抗腫瘍活性を有するとされる多糖類は難溶性成分が多く、高収率で得ることが困難であった。マイタケからβ−グルカンを主体とした多糖類を取り出す方法として、水やアルカリ水溶液を用いて多糖類を抽出し、さらにアルコール沈澱法やクロマトグラフィ法などでβ−グルカンを主体とする画分を分画・精製する方法が行われてきた(特許文献1、非特許文献2)。
最近、担子菌類、特に木材腐朽菌によって木質部中に産生された色素や生理活性物質、あるいは菌体中に含まれる色素や生理活性物質を、効率よく、選択的に抽出分離する方法として、担子菌類産生物を含む菌体粉末又は木質粉末を、先ず開放圧力下、100〜140℃の水蒸気又は熱水で処理して、上記産生物の易溶成分を抽出分離したのち、さらに残留物を100℃よりも高い温度の加圧熱水で処理して上記産生物の難溶成分を抽出分離するという方法が報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−238697号公報
【特許文献2】特開2001−321191号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】水野卓、川合正允編著「キノコの化学・生化学」、237〜249頁、学会出版センター出版、2000年
【非特許文献2】Ohno N, Suzuki I, Oikawa S, Sato K, Miyazaki T, Yadomae T、Antitumor Activity and Structural Characterization of Glucans Extracted from Cultured Fruit Bodies of Grifola frondosa、Chem. Pharm. Bull.、32(3)、1142-1151(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1や非特許文献2などの方法では抽出物中のβ−グルカンなどの多糖類の収率が低く、そのため、抽出物をさらに精製しても低い収量でしか有用成分が得られないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、特定の圧力及び温度の水で抽出することで、マイタケなどのキノコからβ−グルカンを主体とする多糖類を、高収率で効率よく得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、キノコを、約2〜約3MPaの範囲の圧力下にある約140〜約180℃の範囲の温度の水で処理することを特徴とする、β−グルカンを主体とする多糖類の抽出方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マイタケなどのキノコからβ−グルカンを主体とする多糖類を効率よく高収率で抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の抽出フローを表す図である。
【図2】比較例1の抽出フローを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明でβ−グルカンを主体とする多糖類とは、β−グルカンそのものの他、β−グルカンを含む多糖類、例えば、β−グルカンに、D−グルコース以外の糖類や、D−グルコース以外の糖類を含む多糖類などが結合してなるヘテロ多糖、及びβ−グルカンとタンパク質との複合体などをいう。
【0010】
本発明で使用できるキノコは、特に制限されないが、担子菌類及び子嚢菌類などが例示される。
上記担子菌類としては、
・ヒダナシタケ目、例えば、タコウキン科(マイタケ、シロマイタケ、トンビマイタケ、チョレイマイタケ、マスタケなど)、ハナビラタケ科(ハナビラタケなど);マンネンタケ科(マンネンタケ、コフキサルノコシカケなど)、エゾハリタケ科(ブナハリタケなど);
・ハラタケ目、例えば、ヒラタケ科(シイタケ、エリンギ、ヒラタケ、トキイロヒラタケ、ウスヒラタケ、タモギタケなど)、キシメジ科(エノキタケ、ハタケシメジ、シャカシメジ、ホンシメジ、ブナシメジ、ニオウシメジ、ムラサキシメジ、マツタケ、ムキタケ、ナラタケなど)、モエギタケ科(ナメコ、クリタケ、ヌメリスギタケなど)、ハラタケ科(アガリクス、ツクリタケ(通称:マッシュルーム)、ハラタケなど)、ウラベニガサ科(フクロタケなど)、オキナタケ科(ヤナギマツタケなど)、ヒトヨタケ科(ササクレヒトヨタケなど);
・ベニタケ目、例えば、サンゴハリタケ科(ヤマブシタケなど);
・キクラゲ目、例えば、キクラゲ科(キクラゲなど);
・シロキクラゲ目、例えば、シロキクラゲ科(シロキクラゲなど);
・スッポンタケ目、例えば、スッポンタケ科(キヌガサタケなど)
などが例示される。
上記子嚢菌類としては、
・チャワンタケ目、例えば、アミガサタケ科(アミガサタケなど);
・バッカクキン目、例えば、バッカクキン科〔冬虫夏草(冬虫夏草属の総称)など〕;
・カイキン目、例えば、セイヨウショウロ科〔トリュフ(セイヨウシショウロ属の総称)など〕
などが例示される。
好ましくは担子菌類、より好ましくはヒダナシタケ目のキノコ、さらに好ましくはタコウキン科のキノコ、最も好ましくはマイタケである。
【0011】
本発明では、キノコとして、その子実体又はその菌糸体若しくは胞子を使用することができる。子実体又はその菌糸体若しくは胞子を原型のままで処理してもよいが、β−グルカンを主体とする多糖類の抽出効率が高まる点から、子実体又はその菌糸体若しくは胞子を破砕して、砕片、細片、粉末状、フレーク状、又はペースト状にして使用することが好ましい。
【0012】
β−グルカンを主体とする多糖類の抽出効率を高めることを目的に、キノコを本発明の抽出工程に付する前に適切な溶媒で前処理して、キノコに含有される脂肪類や可溶糖類などの可溶性成分を除去するのが好ましい。このとき使用される溶媒は、キノコ中の脂肪類や可溶糖類などの可溶性成分を溶出し得るものであれば特に制限されず、例えば水や有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、又はアセトンなどが使用でき、水又はエタノールが好適に使用できる。これら溶媒は、単独で使用しても、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
この前処理の条件、例えば温度や圧力などは、特に制限されず、例えば、室温・常圧下で前処理を行い得るが、可溶性成分の除去を促進するため、熱水、特に還流下で前処理を行うのが好ましい。この場合、キノコ固形分の約50〜60%が除去され得る。キノコと溶媒との混合比も、特に制限されず、可溶性成分の除去が高まる点から、キノコ100重量部に対して、溶媒を約500〜約2000重量部加えるのが好ましい。前処理時間も、特に制限されないが、可溶性成分の除去が高まる点から、約1〜約3時間が好ましい。
【0013】
上記の前処理は、可溶性成分の除去を高めるため、反復して行ってもよい。すなわち、前処理したキノコを、本発明の抽出工程に付する前に、再度前処理に付するなどして、前処理を2回以上、好ましくは3回〜5回反復して行ってもよい。
【0014】
本発明の抽出工程では、前述のキノコを、亜臨界水、すなわち約2〜約3MPaの範囲の圧力下にある約140〜約180℃の範囲の温度の水で処理して、β−グルカンを主体とする多糖類を抽出する。具体的には、例えば、キノコに水を加えて、圧力を2〜3MPaの範囲に加圧し、温度を140〜180℃の範囲に加温して、必要に応じて攪拌しながら、抽出を行う。
上記の抽出工程では、β−グルカンを主体とする多糖類を高収率で効率よく抽出するため、上記の温度は約140〜約160℃が好ましく、上記の圧力は約2MPaが好ましい。
また、キノコと水との混合比は、特に制限されないが、β−グルカンを主体とする多糖類を高収率で効率よく抽出するため、キノコ100重量部に対して、溶媒を約1000〜約3000重量部、特に約1500重量部加えるのが好ましい。
抽出時間は、特に制限されないが、β−グルカンを主体とする多糖類を高収率で効率よく抽出するため、約0.5〜約3時間、特に約1時間が好ましい。
【0015】
上記の抽出工程後、キノコと水との混合物をろ過や遠心分離などにかけることで残渣を取り除いて、β−グルカンを主体とする多糖類を含有する抽出液を得てもよい。さらに、得られた抽出液を濃縮、例えば減圧濃縮することで濃縮抽出液を得てもよい。得られた抽出液や濃縮抽出液をそのまま乾燥して、例えば凍結乾燥若しくは噴霧乾燥して、固形抽出物を得てもよい。
【0016】
前述の抽出工程は、具体的には、例えば、次のようにして行ってもよい。先ず、キノコ及び水を圧力容器に封入する。そこに圧力容器内部の圧力を高めるために窒素ガスなどの気体を注入して、約2〜約3MPa、例えば約2MPaの高圧状態にする。その高圧状態のままで圧力容器の内部のキノコと水の混合物を攪拌しながら、約140〜約180℃に加温して、約1時間、加圧熱水抽出を行う。
上記の加圧熱水抽出工程を終えたら、圧力容器内部の気体を抜いて常圧に戻し、キノコと水の混合物を回収する。次いで、この混合物から残渣を遠心分離機又はガラスフィルターによって取り除き、抽出液を得る。さらに、この得られた抽出液を乾燥して、薄茶色の固形抽出物を得ることができる。この固形抽出物は水に易溶で、β−グルカンを主体とする多糖類を高濃度(例えば、約30〜50%)に含有し得る。
【0017】
本発明の抽出工程は、β−グルカンを主体とする多糖類の収率を高めるため、反復して行ってもよい。すなわち、残渣を再度抽出工程に付するなどして、抽出工程を2回以上、好ましくは3回〜5回反復して行ってもよい。
【0018】
本発明で得られる抽出物はさらなる精製工程に付してもよい。例えば、前記の抽出工程で得られた抽出液、濃縮抽出液、又は固形抽出物などの抽出物を、さらにアルコール沈澱法やクロマトグラフィ法を用いて精製して、β−グルカンを主体とする多糖類をより高濃度に含む精製物あるいは純度の高いβ−グルカンを主体とする多糖類を得ることができる。あるいは、限界ろ過法を用いて精製してもよい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、%は特に示さない限り重量%を意味する。
【0020】
実施例1
マイタケ粉末80gに水800mLを加えて加熱し、還流状態で1時間抽出した。抽出後、遠心分離機でろ液と残渣に分けた。残渣にろ液と同量の熱水を加え、再び同様の操作を繰り返した。この操作をもう一度繰り返し、得られたろ液と残渣を乾燥させ、熱水抽出物と熱水抽出残渣を得た。
次に、熱水抽出残渣30gと水450mLを圧力容器に封入し、窒素ガスを注入した(約2MPa)。攪拌しながら160℃・1時間、加圧熱水抽出を行った。
抽出後は、内部の気体を抜いて常圧に戻し、試料を回収した。試料は遠心分離機により固形分と液状部分を分離させた。固形分と液状部分を乾燥させ、加圧熱水抽出残渣と加圧熱水抽出物をそれぞれ得た。上記抽出のフローを図1に示した。
【0021】
比較例1
マイタケ粉末200gに80%エタノール水溶液1400mLを加えて加熱し、還流状態で1時間抽出した。抽出後、ガラスフィルターでろ過し、ろ液と残渣を得た。残渣にろ液と同量の80%エタノール水溶液を加え、再び同様の操作を繰り返した。この操作をもう一度繰り返し、得られたろ液と残渣を乾燥させ、80%エタノール抽出物と80%エタノール抽出残渣を得た。
80%エタノール抽出残渣は、さらに熱水抽出を行った。80%エタノール抽出残渣200gに水1400mLを加えて加熱し、還流状態で1時間抽出した。抽出後、ガラスフィルターでろ過し、ろ液と残渣を得た。残渣にろ液と同量の熱水を加え、再び同様の操作を繰り返した。この操作をもう一度繰り返し、得られたろ液と残渣を乾燥させ、熱水抽出物と熱水抽出残渣を得た。
熱水抽出残渣は、さらにオートクレーブ抽出を行った。熱水抽出残渣100gに水700mLを加えて、オートクレーブ内で120℃・1時間抽出した。抽出後、ガラスフィルターでろ過し、ろ液と残渣を得た。残渣にろ液と同量の熱水を加え、再び同様の操作を繰り返した。この操作をもう一度繰り返し、得られたろ液と残渣を乾燥させ、オートクレーブ抽出物とオートクレーブ抽出残渣を得た。
オートクレーブ抽出残渣は、さらにアンモニア抽出を行った。オートクレーブ抽出残渣10gに10%アンモニア水溶液100mLを加えて加熱し、還流状態で1時間抽出した。抽出後、ガラスフィルターでろ過し、ろ液と残渣を得た。残渣にろ液と同量の熱水を加え、再び同様の操作を繰り返した。ろ液が中性になるまで同様の操作を繰り返し、計4回の抽出を行った。得られたろ液と残渣を乾燥させ、10%アンモニア抽出物と10%アンモニア抽出残渣を得た。上記抽出のフローを図2に示した。
【0022】
上記で得られた実施例1及び比較例1について、各分画の収率とβ−グルカン含有率を調べた。「収率」は、抽出に用いたマイタケ粉末量に対する各分画の収量の割合を表す。「β−グルカン含有率」は日本食品分析センターが採用している酵素法に拠って求めた。酵素法とは酵素によりα−グルカンを分解し、残ったグルカンをβ−グルカンとして定量する方法である。また、マイタケ粉末のβ−グルカン含有率に対する、各分画のβ−グルカン含有率の割合を、抽出物についてはβ−グルカン抽出率として、抽出残渣についてはβ−グルカン残存率として、以下の式で求めた。
【数1】


得られた結果は、実施例1については表1に、比較例1については表2にそれぞれ示した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表1及び図1から、2段階の抽出工程で、マイタケに含まれるβ−グルカンの約50%が加圧熱水抽出物に含まれており、実施例1では効率よく抽出できていることがわかった。一方、表2及び図2から、4段階の抽出工程でも、マイタケに含まれるβ−グルカンのほとんどが残渣に残っており、比較例1では抽出効率が低いことがわかった。
【0026】
実施例1で得られた加圧熱水抽出物について以下の項目を評価した。
(1) 平均分子量測定
GPC法を用い、実施例1で得られた加圧熱水抽出物の平均分子量を測定した。なお、平均分子量はプルラン分子量基準の相対値で示した。得られた結果は表3に示した。
【0027】
【表3】

【0028】
(2) 分子量分布測定(限外ろ過法)
実施例1で得られた加圧熱水抽出物を約0.5g秤取り、50mLの蒸留水に溶解させて試料溶液を調製した。はじめに、限外ろ過膜としてPBQK膜(分画分子量:50,000)を用い、下記の方法で限外ろ過を実施し、回収したろ液(40mL×3)とセルに残った試料溶液残渣(10mL)を各々凍結乾燥し、重量を測定した。次に、ろ液乾燥物をすべて合わせて50mL蒸留水に再溶解し、PBCC膜(分画分子量:5,000)を限外ろ過膜として用いて限外ろ過を実施した。同様にろ液(40mL×3)とセルに残った試料溶液残渣(10mL)を各々回収し、凍結乾燥後、重量を測定した。
以上の工程により、実施例1で得られた加圧熱水抽出物を分子量50,000以上、5,000〜50,000、及び5,000以下の3つの画分に分けた。得られた結果は表4に示した。表中のパーセンテージは、蒸留水に溶解させた加圧熱水抽出物の重量に対する各分画の凍結乾燥後の重量の割合を示す。
(限外ろ過方法)
アミコン撹拌式セル(Model 8050 φ44.5mm)に限外ろ過膜をはさみこみ、セルに試料溶液を加えた。撹拌しながら、窒素ガスを吹き込んで圧力をかけ、ろ過膜を通ったろ液を回収した。ろ液がセルに加えた試料溶液の量の80%に達したら、窒素の吹き込みと撹拌を停止させた。ろ液を回収し、セルに回収したろ液と同量の蒸留水を加え、限外ろ過を再開した。これを2回繰り返した。
【0029】
【表4】

【0030】
(3) 糖鎖結合位置の決定
上記(2)の限外ろ過法により得た分子量50,000以上の画分について、グルコース結合部分の1-3,1-4、及び1-6結合の量比をメチル化分析法で測定した。得られた結果は表5に示した。
【0031】
【表5】

【0032】
(4) 抗腫瘍評価試験
実施例1で得られた加圧熱水抽出物450mgを4.5mlの注射用蒸留水に浮遊させて100mg/mlの濃度の試料液を調製した。また、市販の抗腫瘍剤の一種であるTS−1〔商品名ティーエスワン(登録商標)カプセル25、大鵬薬品工業株式会社〕1カプセルの内容物を12.5mlの注射用蒸留水に溶解させ2mg/mlの濃度の試料液を調製した。
凍結保存したS−180細胞(マウス由来Sarcoma 180)をPBS(-)で遠心洗浄した後、約10個をマウス(ICR系、6週齢、雌)の腹腔内に移植し、約7〜10日後に増殖した腫瘍細胞を含んだ腹水を採取した。次いで、上記採取した腹水を腫瘍細胞数10個/マウスの量で別のマウス(ICR系、6週齢、雌)腹側皮内に注入して、腫瘍細胞を移植した。次いで、これら腫瘍細胞を移植したマウスを7匹ずつ3群に群分けして、各群に、それぞれ蒸留水、実施例1の加圧熱水抽出物試料液、及びTS−1試料液を、表6に示した用量で、移植日から19日までの間、毎日経口投与した。移植後22日にマウスを脱血死させ、腫瘍を摘出してその重量を測定した。また、投与期間中、体重測定を2回/週行った。さらに、腫瘍細胞数10個/マウスの量を用いた試験も同様に行った。得られた結果は表6に示した。
【0033】
【表6】

【0034】
表6から、実施例1で得られた加圧熱水抽出物を投与した群は、蒸留水を投与した群に比べて、腫瘍重量が低下していることが認められた。また、蒸留水や実施例1の加圧熱水抽出物を投与した群ではマウスの体重は順調に増加し、斃死した例はなかったが、TS−1投与群では投与8日後まではマウスの体重は増加したものの、その後は減少に転じ、ついには7匹中4匹まで斃死するに至った。
以上から、実施例1で得られた加圧熱水抽出物はS−180腫瘍に対して抗腫瘍効果があること、安全性に優れていることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、β−グルカンを主体とした多糖類を高濃度に含有する抽出物を得ることができる。本発明の抽出物は、β−グルカンを主体とした多糖類を高濃度に含有するので、β−グルカンを主体とする多糖類の高純度精製にも有利に使用することができる。
また、本発明の抽出物は、水溶性なので生体に取り込まれやすく、医薬品、特に腫瘍の予防及び/又は治療用医薬品、医薬部外品、化粧品、あるいは健康食品、健康補助食品、特定保健用食品、又は栄養補助食品などの食品、あるいは動物用飼料に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコを、約2〜約3MPaの範囲の圧力下にある約140〜約180℃の範囲の温度の水で処理することを特徴とする、β−グルカンを主体とする多糖類の抽出方法。
【請求項2】
キノコがマイタケである請求項1記載の抽出方法。
【請求項3】
予め溶媒で処理したキノコを用いる、請求項1又は2記載の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26525(P2011−26525A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176229(P2009−176229)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000145437)株式会社ウッドワン (70)
【Fターム(参考)】