説明

β−ピネン系重合体の製造方法

【課題】少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体のカチオン(共)重合を制御し、分子量、特に数平均分子量が大きいβ−ピネン系重合体を有利に製造することが出来る方法を提供すること。
【解決手段】少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体をカチオン重合又はカチオン共重合せしめることによってβ−ピネン系重合体を製造する方法において、前記カチオン重合又はカチオン共重合を、所定の化学式で表わされる化合物、電子供与体、及びカチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物の存在下において進行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ−ピネン系重合体の製造方法に係り、特に、数平均分子量(以下、単に分子量ともいう)が大きいβ−ピネン系重合体を有利に製造することが出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学用樹脂への要求は益々、高くなってきており、耐熱性及び耐光性に優れていることは勿論のこと、吸水性が低く、且つ高い透明性を有する樹脂が求められている。しかしながら、従来の光学用樹脂は、これらの要求性能を高い次元でバランス良く備えているものとは言い難く、種々の欠点を有するものであった。
【0003】
例えば、透明性の高い光学用樹脂としては、従来、ポリメタクリル酸メチルやポリカーボネート等が使用されてきた。ポリメタクリル酸メチルは、透明性が高く、複屈折率が小さい等、光学的な性質は優れているが、吸水性が大きいため、寸法が変化し易く、また耐熱性も低いという欠点を有する。一方、ポリカーボネートは、ガラス転移温度(Tg)が高く、耐熱性に優れているものの、吸水性がやや大きく、アルカリによる加水分解を起こし易いという欠点を有する。
【0004】
耐熱性が高く、吸水性が小さく、更に透明性に優れた光学用樹脂としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物や、ノルボルネン系モノマーとエチレンとの付加型共重合体が知られている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、ノルボルネン系モノマーとして使用されるテトラシクロドデセン類の多環モノマーは、その製造が必ずしも容易ではなく、また、そのようなモノマーを重合する際には、触媒として、モリブデンやタングステンの塩化物等のレアメタルを使用する必要がある。
【0005】
上記の課題を改善した光学用樹脂として、β−ピネン系重合体等のインデン系重合体が提案されている(特許文献5、非特許文献1〜2参照)。インデン系重合体の中でも特にβ−ピネン系重合体は、耐熱性が高く、吸水性が低い材料であると共に、近年問題となっている二酸化炭素の排出を抑える、所謂、カーボンニュートラル材料としても注目されている。尚、本明細書及び特許請求の範囲において、β−ピネン系重合体とは、モノマーとしてβ−ピネンのみを用いて得られるβ−ピネン単独重合体のみならず、β−ピネンと他の一種以上のモノマーとを共重合せしめて得られる共重合体をも含むものである。
【0006】
しかしながら、β−ピネン系重合体の工業的生産には多数の問題があり、現在のところ、実用化には至っていない。例えば、特許文献6に示された製造方法によれば、市販されている他のプラスチックと同程度の強度を有する成形品を作るのに必要な分子量(数平均分子量:45000以上)を有するβ−ピネン重合体が、得られている。しかしながら、、かかる特許文献6に記載のβ−ピネン系重合体は、−78℃という極低温の限られた条件下において製造されたものであり、環境負荷が大きく、工業的に生産するに際しては大きな障害となる。また、高温(−10℃)では重合体の分子量が低下してしまい、十分な強度を有する成形品を作成することが出来ていない。その理由は、β−ピネンは異性化しながら重合が進行するため、重合度があまり増加しないことが考えられる。実際に、目的の分子量を有するβ−ピネン重合体を得るために架橋剤を投入することが良いとの記述がある(特許文献6参照)。
【0007】
また、特許文献7〜9に記載の製造方法を用いて得られる、β−ピネンを含有するカチオン重合性単量体の重合体は、工業的生産を行なう上で有効な重合温度である−10℃では、数平均分子量が数千〜3万程度と小さく、十分な強度を有する成形品を作成することは困難である。
【0008】
一方、カチオン重合では、重合開始剤として、一般的にエーテル類やエステル類、アルコール類、及びハロアルキル類等が好んで用いられる。また、水、塩酸、アルコール類等のプロトン性の化合物等も、同様に重合開始剤として作用する。特に、重合系中に存在する水を用いた重合例については、幾つかの報告が為されている(特許文献10〜11、非特許文献3〜4参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献10〜11においては、電子供与体成分に関する記述が全く為されていない。本発明者等が知得したところによれば、β−ピネン系重合体を製造するに際しては、電子供与体の有無や種類によって得られる重合体の分子量が大きく異なるのであり、それ故、特許文献10〜11は、β−ピネンを少なくとも含むカチオン重合性単量体の適切な重合系を提供しているとは言えないと思われる。
【0010】
さらに、非特許文献3には、触媒としてエチルアルミニウムクロライドを、電子供与体として2,6−ジ−t−ブチルピリジンをそれぞれ用いたイソブチレンの重合法が報告されている。また、非特許文献4には、触媒として塩化アルミニウムを、電子供与体として2,6−ジ−t−ブチルピリジンをそれぞれ用いたイソブチレンの重合法が報告されている。しかしながら、非特許文献3〜4においては、イソブチレンの重合のみが開示されており、他のモノマーについては何等、言及が為されていない。また、重合系中の水分量に関しても記載されていないが、水分量が重合に用いるルイス酸に対して、等モル以上の場合は、分子量が大きく低下することが明らかとなっている。よって、非特許文献3〜4は、β―ピネンの適切な重合系を提供しているとは言えないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭64−24826号公報
【特許文献2】特開昭60−168708号公報
【特許文献3】特開昭61−115912号公報
【特許文献4】特開昭61−120816号公報
【特許文献5】特開2002−121231号公報
【特許文献6】WO2008/044640
【特許文献7】特開平9−291115号公報
【特許文献8】特開昭47−11139号公報
【特許文献9】特公平7−59602号公報
【特許文献10】特開2000−159815号公報
【特許文献11】特開平6−145250号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Satoh他、「Biomass-derived heat-resistant alicyclic hydrocarbon polymers:poly(terpenes) and their hydrogenated derivatives」、Green Chemistry、2006年、第8巻、878〜882頁
【非特許文献2】Keszler他、「Synthesis of High Moleculer Weight Poly(β−Pinene)」、Advances in Polymer Science、1992年、第100巻、1〜9頁
【非特許文献3】T. N. Shakhtakhtinsky等、Makromolekulare Chemie, Rapid Communications, 1985年、第6巻、29〜33頁
【非特許文献4】V.S.C.Chang等、Journal of Macromolecular Science, Chemistry, 1982年、第A18巻、39〜46頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体のカチオン(共)重合を制御し、分子量、特に数平均分子量が大きいβ−ピネン系重合体を有利に製造することが出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明は、そのような課題を有利に解決すべく、少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体をカチオン重合又はカチオン共重合せしめることによってβ−ピネン系重合体を製造する方法において、前記カチオン重合又はカチオン共重合を、下記化学式(1)で表わされる化合物、電子供与体、及び下記化学式(1)で表わされる化合物量を基準として0.001〜1モル当量の、カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物、の存在下において進行させることを特徴とするβ−ピネン系重合体の製造方法を、その要旨とするものである。
【化1】

〔式中、R1 はアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基であり、Xはハロゲ ン原子である。α及びβは0〜3であり、α+β=3を満たす。〕
【0015】
なお、そのような本発明に従うβ−ピネン系重合体の製造方法における好ましい第一の態様においては、前記電子供与体が下記化学式(2)で表わされる化合物であり、好ましい第二の態様においては、前記電子供与体が2,6−ジ−tert−ブチルピリジンである。
【化2】

〔式中、R2 及びR6 はそれぞれ独立して、飽和の直鎖状、分枝状若しくは脂環状の アルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。R3 、R4 及びR5 は それぞれ独立して、1)飽和の直鎖状、分枝状若しくは脂環状のアルキル基、2)
置換基を有してもよいアリール基、又は3)水素原子である。〕
【0016】
また、本発明における好ましい第三の態様においては、前記プロトン性化合物が重合系中に存在する水である。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従うβ−ピネン系重合体の製造方法にあっては、少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体のカチオン(共)重合を、所定の化学式で表わされる化合物、電子供与体、及びカチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物の存在下において進行させるものであることから、分子量、特に数平均分子量が大きいβ−ピネン系重合体を有利に製造することが出来るのである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る製造方法に従ってβ−ピネン系重合体を製造するに際しては、先ず、β−ピネンが準備されることとなるが、本発明においては、β−ピネンとして、従来より公知のものであれば何れも使用することが出来る。即ち、松等の植物から採取されたβ−ピネンや、α−ピネン等から合成したβ−ピネン等を、使用可能である。
【0019】
なお、一般に、カチオン(共)重合は、重合系中に存在する電子供与性の化合物によって影響を受ける恐れがある。このため、本発明においては、モノマー(β−ピネンを含むカチオン重合性単量体)や重合の際に用いられる溶媒として、不純物たる電子供与性化合物の含有量が低いものが有利に用いられる。ここで、不純物の具体例として、水、メタノール、エタノールや塩酸等のプロトン性化合物、オレフィン系化合物、溶媒中の酸化物や過酸化物、アスコルビン酸やトコフェロール等の酸化防止剤等が挙げられる。
【0020】
本発明に従ってβ−ピネン系重合体を製造するに当たり、プロトン性化合物は、重合系中に、後述する所定の化学式で表わされる化合物(ルイス酸)量に対して0.0001〜0.1モル当量が好ましい。但し、プロトン性化合物は、本発明において、後述するように重合開始剤としてカチオン(共)重合に寄与する場合もあることから、その含有量を極端に低く抑えると、カチオン(共)重合が有利に進行しない恐れがある。また、酸化物や過酸化物は、後述する所定の化学式で表わされる化合物(ルイス酸)量に対して0.01モル当量以下が好ましく、0.001モル当量以下がより好ましい。更に、酸化防止剤は、モノマー(β−ピネンを含むカチオン重合性単量体)における含有率が、10ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。尚、酸化防止剤の含有量が少な過ぎると、モノマーの酸化が促進され、酸化物や過酸化物が精製され易くなる恐れがある。
【0021】
例えば、一般に市販されているβ−ピネンは、上述した過酸化物等の不純物が上記範囲より多く含まれているため、β−ピネンの精製が必要となる場合が多い。精製する際の手法としては、蒸留又は吸着剤を用いた手法等が好ましいが、蒸留の場合、酸化防止剤も完全に除去してしまうため、吸着剤を用いた手法がより好ましい。尚、吸着剤としては、市販されている一般的なものであれば特に問題なく用いることが可能である。具体的には、活性アルミナ等のアルミナ系、シリカゲル、エアロゲル、コロイダルゲル等のシリカ系、アルミノシリケートゼオライト、メタロシリケートゼオライト、アルミノりん酸塩ゼオライト等のゼオライト系、活性白土、モンモリナイト、スメクタイト等の粘土系、メソポーラスシリカ等のメソポーラス系、活性炭、炭素繊維、木炭等の炭素系吸着剤、イオン交換樹脂、キレート樹脂、バイオマス吸着剤等の合成系吸着剤、ヒドロキシアパタイト、ヘテロポリ酸塩、多孔性酸化マンガン等を、例示することが出来る。それらの中でも、β−ピネンの精製には活性アルミナとシリカゲルが好ましく、住友化学株式会社製の活性アルミナ(商品名:MA4B)が特に好ましい。また、溶媒の精製には、東ソー株式会社製の合成ゼオライト(商品名:ゼオラムA−4)が特に好ましい。
【0022】
また、本発明に従うβ−ピネン系重合体の製造方法においては、単量体として、β−ピネンと共にカチオン重合性単量体を用いることが可能である。本発明において用いられ得るカチオン重合性単量体としては、カチオン重合性を有する単量体であれば特に制限されるものではなく、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、1−ビニルナフタレン、インデン等の芳香族ビニル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニルモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン、ノルボルネン等のオレフィン類;リモネン、α−ピネン、ミルセン、カンフェン、カレン等のβ−ピネン以外のテレピン油由来の二重結合含有化合物;酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;極性基を有するスチレン誘導体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルクロライド、アリルアルコール等を、例示することが出来る。加えて、2官能性の単量体、例えばp−ジビニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼン、エチレングリコールジビニルエーテル等を使用することも可能である。これらのうちの一種又は二種以上のものが、β−ピネンと共にカチオン重合性単量体として用いられる。
【0023】
本発明の製造方法に従って、β−ピネンと他のカチオン重合性単量体とを共重合せしめる場合、β−ピネン以外の単量体の共重合量は、重合体の全単量体単位当たり0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜20質量%がより好ましく、0.01〜10質量%が最も好ましい。β−ピネン以外の単量体の共重合量が多すぎると、重合が困難となる恐れがあり、また、得られる重合体の耐熱性も低下する場合が多いからである。尚、β−ピネンと他のカチオン重合性単量体とを共重合せしめる際、得られる共重合体の構造は特に限定されるものではなく、例えばランダム共重合体、ブロック共重合体、或いはテーパード共重合体の何れであっても良い。それらの中でも、特にランダム共重合体が好ましい。
【0024】
そして、本発明のβ−ピネン系重合体の製造方法においては、少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体のカチオン重合(又はカチオン共重合)を、下記化学式(1)で表わされる化合物、電子供与体、及びカチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物の存在下において進行させるところに、大きな特徴が存するのである。即ち、それら特定の化合物の存在下においてカチオン重合性単量体をカチオン(共)重合せしめることにより、分子量、特に数平均分子量が大きいβ−ピネン系重合体を有利に製造することが出来るのである。
【化3】

〔式中、R1 はアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基であり、Xはハロゲ ン原子である。α及びβは0〜3であり、α+β=3を満たす。〕
【0025】
ここで、上記化学式(1)で表わされる化合物は、アルミニウム原子を有するルイス酸であって、触媒活性が高く、高分子量の重合体を得ることが出来ることから、本発明において重合触媒として用いられる。
【0026】
上記化学式(1)で表わされる化合物(以下、アルミニウム系ルイス酸触媒ともいう)の中でも、特にAlCl3 、EtAlCl2 、Et2 AlCl、MeAlCl2 、MeAlCl2 、Me3 Al、Et3 Al等が、有利に用いられる。また、必要に応じて二種以上のルイス酸を組み合わせて使用することも可能である。例えば、Me3 Al/AlCl3 、Et3 Al/AlCl3 、Me2 AlCl/MeAlCl2 等の混合触媒を、挙げることが出来る。
【0027】
上記化学式(1)で表わされる化合物の使用量は、使用する化合物の種類によって触媒能が異なるため、一概に規定することは難しいが、均一系触媒の場合、その使用量は、β−ピネン及び所望により併用する単量体の量を基準として、0.001〜1モル当量が好ましく、0.01〜0.1モル当量がより好ましい。重合触媒として固体酸やイオン交換樹脂等の不均一触媒を併用する場合、β−ピネンを含有するカチオン重合性単量体量を基準として、0.001〜100モル当量が好ましく、0.01〜10モル当量がより好ましい。上記化学式(1)で表わされる化合物の使用量が少な過ぎると、カチオン重合の進行が遅く、生産性が低下する恐れがあり、その一方で使用量が多過ぎても不経済である。
【0028】
また、本発明に従うβ−ピネン系重合体の製造方法においては、電子供与体(電子供与性化合物)を用いることにより、カチオン(共)重合反応を制御可能ならしめられている。本発明において用いられ得る電子供与体(電子供与性化合物)としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル化合物、炭素数2〜10の環状エーテル化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムブトキシド等のナトリウムアルコキシド化合物、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、2−メチルピリジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、2,6−ルチジン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等の窒素含有化合物、n−ブチルホスフィン、t−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン等のアルキルホスフィン類及びアリールホスフィン類、トリメトキシホスファイト、トリ(2―メチルフェニル)ホスファイト等のホスファイト類、t−ブチルイソシアニド、2,6−ジメチルフェニルイソシアニド等のイソシアニド類、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等のアンモニウム塩、ボラントリエトキシド、ボラントリイソプロポキシド、ボラントリn−ブトキシド等のボランアルコキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリn−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラt−ブトキシド、チタンテトライソプロポキシド等のチタンアルコキシド等を、例示することが出来る。それらの中でも、下記化学式(2)で表わされる化合物が好ましく、より好ましくは、2,6−ジ−tert−ブチルピリジンが用いられる。
【化4】

〔式中、R2 及びR6 はそれぞれ独立して、飽和の直鎖状、分枝状若しくは脂環状の アルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。R3 、R4 及びR5 は それぞれ独立して、1)飽和の直鎖状、分枝状若しくは脂環状のアルキル基、2)
置換基を有してもよいアリール基、又は3)水素原子である。〕
【0029】
そのような電子供与体の使用量は、前述した化学式(1)で表わされる化合物量(アルミニウム系ルイス酸触媒の使用量)を基準として、0.01〜10モル当量が好ましく、0.1〜1モル当量がより好ましく、0.1〜0.5モル当量が更に好ましい。電子供与体の量が少な過ぎると、副反応が多くなる傾向があり、低分子量体が多く生成し、得られる重合体の強度が低下する恐れがある。一方、電子供与体が多過ぎると、重合反応速度が著しく抑制され、カチオン重合反応に長時間を要することとなり、生産性が低下する恐れがある。
【0030】
さらに、本発明のβ−ピネン系重合体の製造方法においては、β−ピネンを含むカチオン重合性単量体のカチオン(共)重合が、カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物の存在下において進行せしめられるのである。
【0031】
ここで、カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物とは、上述した所定の化学式で表わされる化合物(アルミニウム系ルイス酸触媒)及び電子供与体の存在下、β−ピネンを含むカチオン重合性単量体のカチオン(共)重合が進行する際に、プロトンを生成する能力を有する全ての化合物を意味するものである。例えば、アルミニウム系又はチタン系のルイス酸を触媒として用い、且つジクミルクロライド等の重合開始剤を存在せしめた重合系において、かかる重合系中に存在する水は、ジクミルクロライド等の重合開始剤の方が重合開始能に優れているため、本発明で言うところの「カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物」としての作用は弱いが、そのような重合開始剤が存在しない場合には、「カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物」として効果的に作用することとなる。
【0032】
本発明において、カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物は、有利には重合系中に存在する水であるが、上記した「カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物」の定義に従う化合物であれば、その使用は特に制限されるものではない。かかるプロトン性化合物としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec −ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、フェノールやクレゾール等のフェノール類、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等のプロトン酸類等を、例示することが出来る。
【0033】
また、そのようなプロトン性化合物の使用量(重合系中の存在する量)は、目的とするβ−ピネン系重合体の分子量により異なるため、一概に規定することは難しいが、前述した化学式(1)で表わされる化合物量(アルミニウム系ルイス酸触媒の使用量)を基準として、0.001〜1モル当量であり、0.01〜0.15モル当量が好ましく、0.01〜0.05モル当量がより好ましい。プロトン性化合物の使用量が少な過ぎると、重合反応速度が遅くなったり、活性種が失活し、重合が途中で中断してしまう等、安定した生産が困難となる恐れがある。一方、プロトン性化合物が多過ぎると、得られるβ−ピネン系重合体の分子量が小さくなり、重合体が脆くなる恐れがある。
【0034】
本発明のβ−ピネン系重合体の製造方法においては、少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体の重合乃至は共重合が、カチオン(共)重合によって進行するところ、かかるカチオン(共)重合は、重合開始剤(カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物)、重合触媒(アルミニウム系ルイス酸触媒)、電子供与体、溶媒の種類や量、反応温度、反応圧力、反応時間等により制御することが可能である。
【0035】
カチオン(共)重合は不活性有機溶媒中において行なうことが可能であるところ、かかる不活性有機溶媒としては、β−ピネン及び所望により併用するカチオン重合性単量体が溶解し、且つ、重合触媒に不活性な有機溶媒であれば、特に制限なく使用することが出来る。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒;塩化メチル、塩化メチレン、塩化プロパン、塩化ブタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;エステル、エーテル等の含酸素系溶媒等を用いることができる。反応性を考慮すると、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒等が有利に用いられる。これらの有機溶媒は、単独で用い得ることは勿論のこと、二種以上のものを併用することも可能である。
【0036】
なお、そのような不活性有機溶媒を使用する場合、その使用量は特に限定されるものではないが、β−ピネン(及び所望により併用するカチオン重合性単量体)の100質量部に対して、通常は100〜10000質量部、好ましくは150〜5000質量部、より好ましくは200〜3000質量部の割合において、使用される。不活性有機溶媒の使用量が少な過ぎると、重合体が生成した後の反応溶液の粘度が高くなり、撹拌が困難となって反応が不均一となって反応の制御が困難となる恐れがあり、一方、不活性有機溶媒の使用量が多過ぎると、生産性が低下する恐れがある。
【0037】
本発明のβ−ピネン系重合体の製造方法において、少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体の重合乃至は共重合を行なう際の反応温度は、−80℃〜60℃が好ましく、−80℃〜0℃がより好ましく、−40℃〜0℃が更に好ましい。反応温度が低すぎると不経済であり、高すぎると反応の制御が困難となるからである。経済的理由を考慮すると、−10℃前後とすることが最も好ましい。
【0038】
本発明において、カチオン(共)重合を行なう際の反応圧力は、特に限定されるものではないが、0.5〜50気圧が好ましく、0.7〜10気圧がより好ましい。通常は1気圧前後でカチオン(共)重合が実施される。
【0039】
カチオン(共)重合を行なう際の反応時間についても、特に限定されるものではなく、重合触媒の種類や量、反応温度、反応圧力等の条件に応じて、適宜に決定される。通常は、0.01時間〜72時間、好ましくは0.1時間〜24時間である。
【0040】
カチオン(共)重合によって生成したβ−ピネン系重合体は、例えば、再沈澱、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒の除去(スチームストリッピング)等の、重合体を溶液から単離する際の通常の操作によって、反応混合物から分離し、取得することができる。
【0041】
以上、本発明の製造方法に従ってβ−ピネン系重合体を製造する手法について、詳細に説明してきたが、本発明の製造方法において目的とするβ−ピネン系重合体の数平均分子量は、特に限定されるものではない。一般に、得られる重合体の力学的物性や加工性等の観点から、数平均分子量は、10000〜500000が好ましく、30000〜200000がより好ましく、40000〜200000が最も好ましい。数平均分子量が小さ過ぎると、成形品の強度が著しく低下する、又は成形困難となる。その一方で大き過ぎると、溶融成形が困難となる。ここで、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の分子量を意味する。
【0042】
また、本発明の製造方法に従って得られるβ−ピネン系重合体のガラス転移温度(Tg)は、共重合せしめる場合のカチオン重合性単量体の種類や割合等によって一概に規定できないが、70〜250℃が好ましく、100℃〜230℃がより好ましい。Tgは、本発明により得られるβ−ピネン系重合体の二重結合を公知の方法により水素添加することによって、高めることが出来る。Tgが低いと耐熱性が不足する一方、高過ぎるとβ−ピネン系重合体が脆くなる恐れがある。尚、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定法(DSC)等によって測定することが出来る。
【0043】
更に、本発明の製造方法に従って得られるβ−ピネン系重合体を、例えば光学材料に使用する場合、全光線透過率が高い方が好ましい。光学材料として使用されるβ−ピネン系重合体にあっては、その全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。尚、全光線透過率とは、JIS−K−7361−1−1997「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法−第1部:ジングルビーム法」に準じて測定されるものである。
【0044】
加えて、本発明の製造方法に従って得られるβ−ピネン系重合体は、単独で使用可能であることは勿論のこと、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリオレフィン、ポリスチレンやスチレン系ブロック共重合体等の他の重合体と配合した組成物として使用することも可能である。組成物として使用する場合、安定剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料等の各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;タルク、マイカ、モンモリロナイト、スメクタイト、シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤等の任意成分を、必要に応じて配合することが出来る。
【0045】
以上、本発明の代表的な一実施形態について説明してきたが、本発明は、上記の具体例に限定されるものではない。また、例示した材料は、特に説明がない限り、単独で用い得ることは勿論のこと、二種以上を併用することも可能であることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上述の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0047】
なお、以下の実施例及び比較例において、ルイス酸に対するプロトン性化合物(重合系中の水)のモル当量、重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれ、以下の手法に従って測定した。その結果を、下記表1に示す。
【0048】
−ルイス酸に対するプロトン性化合物のモル当量の測定−
先ず、重合系中に存在する水分量を電量滴定法により測定した。かかる測定に際しては、株式会社三菱化学アナリテック製の水分計(型番:CA-100)を使用し、陽極液として商品名:アクアミクロンAXを、陰極液として商品名:アクアミクロンCXU(何れも株式会社エーピーアイ コーポレーション製)を、それぞれ用いた。そして、得られた水分量、及び実施例1〜4、比較例2、3におけるルイス酸の使用量から、ルイス酸に対するプロトン性化合物のモル当量を算出した。尚、後述する比較例1、同4〜6においては、重合開始剤としてジクミルクロライドを使用しているため、前述したように、それら比較例のカチオン重合においては、重合系中に存在する水は「カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物」として作用しない。
【0049】
−重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)−
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、何れも、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による測定に基づき、ポリスチレン換算値で求められたものである。ここでは、GPC装置として、東ソー株式会社製のHLC−8020を用い、カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel・Multipore HZの2本を直列に繋いだものを用いた。
【0050】
−実施例1−
充分に乾燥させたガラス製の三口フラスコ内を充分にアルゴン置換した後、これに、脱水したn−ヘプタン:135質量部と、脱水した塩化メチレン:260質量部と、ルイス酸(重合触媒)としての二塩化エチルアルミニウムの1.0mol/Lヘキサン溶液:9質量部と、電子供与体としての2,6−ジ−tert−ブチルピリジン:0.5質量部を加え、室温で1時間、撹拌した。次いで、この溶液を−10℃に冷却し、その後、β−ピネン:15質量部を1時間かけて滴下して、カチオン重合を進行させた。1時間重合させた後、メタノール:5質量部を添加して、重合を終了させた。その後、蒸留水:300質量部を加え、10分間、撹拌した。得られたn−ヘキサン層の一部をメタノール/アセトン(2/1vol%)の混合溶媒:60質量部に再沈殿後、充分に乾燥して、β−ピネン重合体(A1)を得た。得られたβ−ピネン重合体(A1)の重量平均分子量は124300、数平均分子量は42400であった。尚、本実施例における重合系中の水分量は、ルイス酸量を基準として、0.044モル当量であった。
【0051】
−実施例2−
電子供与体としての2,6−ジ−tert−ブチルピリジンの使用量を0.9質量部に変更した以外は実施例1と同様の手法に従って、β−ピネン重合体(A2)を得た。β−ピネン重合体(A2)の評価結果を表1に示す。
【0052】
−実施例3−
充分に乾燥させたガラス製の三口フラスコ内を充分にアルゴン置換した後、これに、脱水したn−ヘプタン:135質量部と、脱水した塩化メチレン:260質量部と、ルイス酸(重合触媒)として、二塩化メチルアルミニウムの1.0mol/Lヘキサン溶液:5.5質量部及び塩化ジメチルアルミニウムの1.0mol/Lヘキサン溶液:2.6質量部の混合物を添加し、更に、電子供与体としての2,6−ジ−tert−ブチルピリジン:0.9質量部を加え、室温で1時間、撹拌した。次いで、この溶液を−10℃に冷却し、撹拌が行なわれている溶液に対して、β−ピネン:15質量部を加え、カチオン重合を開始した。1時間重合させた後、メタノール:5質量部を添加して、重合を終了させた。その後、蒸留水:300質量部を加え、10分間、撹拌した。得られたn−ヘキサン層の一部をメタノール/アセトン(2/1vol%)の混合溶媒:60質量部に再沈殿後、充分に乾燥して、β−ピネン重合体(A3)を得た。β−ピネン重合体(A3)の評価結果を表1に示す。
【0053】
−実施例4−
充分に乾燥させたガラス製の三口フラスコ内を充分にアルゴン置換した後、これに、脱水したn−ヘプタン:135質量部と、脱水した塩化メチレン:260質量部と、ルイス酸(重合触媒)として、塩化アルミニウム:0.7質量部、及びトリメチルアルミニウムの2.0mol/Lペプタン溶液:1.1質量部の混合物を添加し、6時間、撹拌した。その後、電子供与体としての2,6−ジ−tert−ブチルピリジン:0.9質量部を加え、室温で1時間、撹拌した。次いで、この溶液を−10℃に冷却し、撹拌が行なわれている溶液に対して、β−ピネン:15質量部を加え、カチオン重合を開始した。1時間重合させた後、メタノール:5質量部を添加して、重合を終了させた。その後、蒸留水:300質量部を加え、10分間、撹拌した。得られたn−ヘキサン層の一部をメタノール/アセトン(2/1vol%)の混合溶媒:60質量部に再沈殿後、充分に乾燥して、β−ピネン重合体(A4)を得た。β−ピネン重合体(A4)の評価結果を表1に示す。
【0054】
−実施例5−
実施例1において、脱水したn−ヘプタン:135質量部と脱水した塩化メチレン:260質量部との混合液に、蒸留水:0.013質量部を加えた以外は実施例1と同様の手法に従って、β−ピネン重合体(A5)を得た。β−ピネン重合体(A5)の評価結果を表1に示す。
【0055】
−比較例1−
実施例1において、室温で1時間、撹拌した後に、カチオン重合開始剤たるジクミルクロライドの0.1mol/Lヘキサン溶液:3質量部を添加する操作を追加する以外は実施例1と同様の手法に従って、β−ピネン重合体(B1)を得た。β−ピネン重合体(B1)の評価結果を表2に示す。
【0056】
−比較例2−
実施例1における「電子供与体としての2,6−ジ−tert−ブチルピリジン:0.5質量部を加え、室温で1時間、攪拌した」という操作を省いた以外は実施例1と同様の手法に従って、β−ピネン重合体(B2)を得た。β−ピネン重合体(B2)の評価結果を表2に示す。
【0057】
−比較例3−
実施例1において、脱水したn−ヘプタン:135質量部と脱水した塩化メチレン:260質量部との混合液に、蒸留水:0.17質量部を加えた以外は実施例1と同様の手法に従って、β−ピネン重合体(B3)を得た。β−ピネン重合体(B3)の評価結果を表2に示す。
【0058】
−比較例4−
電子供与体としてジエチルエーテル(Et2 O):0.5質量部を用いた以外は比較例1と同様にして、β−ピネン重合体(B4)を得た。β−ピネン重合体(B4)の評価結果を表2に示す。
【0059】
−比較例5−
電子供与体としてトリフェニルホスフィン(PPh3 ):0.6質量部を用いた以外は比較例1と同様にして、β−ピネン重合体(B5)を得た。β−ピネン重合体(B5)の評価結果を表2に示す。
【0060】
−比較例6−
ルイス酸(重合触媒)として四塩化チタン(TiCl4 ):1.8質量部を、また電子供与体としてチタンテトライソプロポキシド[Ti(OiPr)4 ]:0.1質量部を、それぞれ用いて、−78℃でカチオン重合を進行させた以外は比較例1と同様にして、β−ピネン重合体(B6)を得た。β−ピネン重合体(B6)の評価結果を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
かかる表1及び表2の結果からも明らかなように、本発明に従うβ−ピネン系重合体の製造方法にあっては、分子量、特に数平均分子量が大きいβ−ピネン系重合体を有利に製造することが出来ることが認められたのである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともβ−ピネンを含むカチオン重合性単量体をカチオン重合又はカチオン共重合せしめることによってβ−ピネン系重合体を製造する方法において、
前記カチオン重合又はカチオン共重合を、下記化学式(1)で表わされる化合物、電子供与体、及び下記化学式(1)で表わされる化合物量を基準として0.001〜1モル当量の、カチオン重合開始剤としてのプロトン性化合物、の存在下において進行させることを特徴とするβ−ピネン系重合体の製造方法。
【化1】

〔式中、R1 はアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基であり、Xはハロゲ ン原子である。α及びβは0〜3であり、α+β=3を満たす。〕
【請求項2】
前記電子供与体が下記化学式(2)で表わされる化合物である請求項1に記載のβ−ピネン系重合体の製造方法。
【化2】

〔式中、R2 及びR6 はそれぞれ独立して、飽和の直鎖状、分枝状若しくは脂環状の アルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。R3 、R4 及びR5 は それぞれ独立して、1)飽和の直鎖状、分枝状若しくは脂環状のアルキル基、2)
置換基を有してもよいアリール基、又は3)水素原子である。〕
【請求項3】
前記電子供与体が2,6−ジ−tert−ブチルピリジンである請求項1又は請求項2に記載のβ−ピネン系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記プロトン性化合物が重合系中に存在する水である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のβ−ピネン系重合体の製造方法。


【公開番号】特開2012−12517(P2012−12517A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150961(P2010−150961)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】