説明

β−フルオロアルコール類の製造方法

【課題】α−フルオロエステル類の還元において水素圧を劇的に低減することができる、
β−フルオロアルコール類の工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るβ−フルオロアルコール類の製造方法は、α−フルオロエステル類を、特定のルテニウム錯体(一般式[2]、特に一般式[4]参照)の存在下に水素ガス(H)と反応させることを特徴とするものである。
本発明によれば、β−フルオロアルコール類の製造方法において、好適な水素圧として1MPa以下を採用することができ、工業的な製造を行う場合に高圧ガス製造施設を必要としない。さらに、従来技術のα−フルオロエステル類の還元における基質/触媒比(1,000)に比べて、本発明では触媒の使用量を格段に低減(基質/触媒比=20,000)することができる。これらの水素圧および触媒使用量の低減により、β−フルオロアルコール類の製造コストを大きく削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−フルオロアルコール類の工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−フルオロアルコール類は、対応するα−フルオロエステル類を還元することにより製造することができる。この様な還元には、水素化リチウムアルミニウム等のヒドリド還元剤を量論的に用いる方法が多用されている(特許文献1および下記スキーム1参照)。しかしながら、ヒドリド還元剤を量論的に用いる方法は、該還元剤が高価であり取り扱いに注意が必要であること、さらに後処理が煩雑で廃棄物が多いことから、大量規模での生産には不向きであった。
【0003】
一方で、エステル類をルテニウム触媒の存在下に水素ガス(H)と反応させることによりアルコール類を製造する方法が報告されている(特許文献2〜4および非特許文献1参照)。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−083163号公報
【特許文献2】国際公開2006/106484号
【特許文献3】米国特許第7569735号明細書
【特許文献4】特開2010−037329号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Adv.Synth.Catal.(ドイツ),2010年,第352号,p.92−96
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、β−フルオロアルコール類の工業的な製造方法を提供することにある。ルテニウム触媒の存在下に水素ガスと反応させる方法は、ヒドリド還元剤を量論的に用いる方法の問題点を一挙に解決するものである。しかしながら、5MPa程度の高い水素圧を必要とし、工業的には高圧ガス製造施設での製造となり、結果的に製造コストの高い方法であった。
【0007】
よって、本発明が解決しようとする課題は、α−フルオロエステル類の還元において水素圧を低減することができる、β−フルオロアルコール類の製造方法を提供することにある。具体的には、上記水素圧の低減を実現し得る触媒(触媒前駆体)を見出すことが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、下記一般式[2]:
【化2】

【0009】
[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Arはそれぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはそれぞれ独立に形式電荷が−1または0の配位子(但し、3つのXの形式電荷の合計は−2)を表し、nはそれぞれ独立に1または2の整数を表す。]
、特に下記一般式[4]:
【化3】

【0010】
[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示されるルテニウム錯体が、α−フルオロエステル類の還元において水素圧を劇的に低減できることを見出した。当該ルテニウム錯体を用いてもα位にフッ素原子を持たないエステル類では4〜5MPaの水素圧を必要とし(後述する比較例2参照)、一方でα−フルオロエステル類を用いても当該ルテニウム錯体ではない類似のルテニウム錯体では5MPaの水素圧を必要とした(後述する比較例1、および特許文献4の実施例26参照)。
【0011】
当然、α位にフッ素原子を持たないエステル類と、上記の類似のルテニウム錯体との組み合わせでは、水素圧は高いままである。つまり、一般式[2]で示される特定のルテニウム錯体、特に一般式[4]で示される特定のルテニウム錯体とα−フルオロエステル類との組み合わせにより、初めて劇的な効果(還元反応における水素圧の劇的な低減効果)を示したことになる。
【0012】
この様に、β−フルオロアルコール類の工業的な製造方法として有用な方法を見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は[発明1]〜[発明8]を含み、β−フルオロアルコール類の工業的な製造方法を提供する。
【0014】
[発明1]
一般式[1]:
【化4】

【0015】
[式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基
を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類を、一般式[2]:
【化5】

【0016】
[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置
換芳香環基を表し、Arはそれぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはそれぞれ独立に形式電荷が−1または0の配位子(但し、3つのXの形式電荷の合計は−2)を表し、nはそれぞれ独立に1または2の整数を表す。]
で示されるルテニウム錯体の存在下に水素ガス(H)と反応させることにより、一般式[3]:
【化6】

【0017】
[式中、RおよびRは前記式[1]と同じである。]
で示されるβ−フルオロアルコール類を製造する方法。
【0018】
[発明2]
さらに塩基の存在下に行うことを特徴とする、発明1に記載の方法。
【0019】
[発明3]
一般式[1]:
【化7】

【0020】
[式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類を、一般式[4]:
【化8】

【0021】
[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示されるルテニウム錯体および塩基の存在下に水素ガス(H)と反応させることにより、一般式[3]:
【化9】

【0022】
[式中、RおよびRは前記式[1]と同じである。]
で示されるβ−フルオロアルコール類を製造する方法。
【0023】
[発明4]
前記一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類が、一般式[5]:
【化10】

【0024】
[式中、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Rはアルキル基を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類であり、前記一般式[3]で示されるβ−フルオロアルコール類が、一般式[6]:
【化11】

【0025】
[式中、Rは前記式[5]と同じである。]
で示されるβ−フルオロアルコール類であることを特徴とする、発明1乃至発明3の何れかに記載の方法。
【0026】
[発明5]
前記一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類が、一般式[7]:
【化12】

【0027】
[式中、Meはメチル基を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類であり、前記一般式[3]で示されるβ−フルオロアルコール類が、一般式[8]:
【化13】

【0028】
で示されるβ−フルオロアルコール類であることを特徴とする、発明1乃至発明3の何れかに記載の方法。
【0029】
[発明6]
水素圧を3MPa以下で行うことを特徴とする、発明1乃至発明5の何れかに記載の方法。
【0030】
[発明7]
水素圧を2MPa以下で行うことを特徴とする、発明1乃至発明5の何れかに記載の方法。
【0031】
[発明8]
水素圧を1MPa以下で行うことを特徴とする、発明1乃至発明5の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、β−フルオロアルコール類の製造方法において、好適な水素圧として1MPa以下を採用することができ、工業的な製造を行う場合に高圧ガス製造施設を必要としない。さらに、従来技術のα−フルオロエステル類の還元における基質/触媒比(1,000)に比べて、本発明では触媒の使用量を格段に低減(基質/触媒比=20,000)することができる。これらの水素圧および触媒使用量の低減により、β−フルオロアルコール類の製造コストを大きく削減することができる。また、本発明の還元は不飽和結合(例えば、炭素−炭素二重結合)に対して不活性なため、官能基選択的な還元を行うことができ、本発明の好ましい態様である(後述する実施例7および8参照)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のβ−フルオロアルコール類の工業的な製造方法について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。なお、以下の説明中、一般式[1]〜[8]の具体的な構造については、先に示したとおりである。
【0034】
本発明では、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類を、一般式[2]で示されるルテニウム錯体の存在下に水素ガスと反応させることにより、一般式[3]で示されるβ−フルオロアルコール類を製造することができる。
【0035】
一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のR1およびRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。該アルキル基は、炭素数1〜18の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)のものである。該芳香環基は、炭素数1〜18の、フェニル基、ナフチル基およびアントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。該アルコキシカルボニル基(ROCO)のアルキル基(R)は、上記のアルキル基と同じである。該置換アルキル基、置換芳香環基および置換アルコキシカルボニル基は、それぞれ上記のアルキル基、芳香環基およびアルコキシカルボニル基の、任意の炭素原子または窒素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、フッ素、塩素および臭素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基およびプロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基およびブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基およびブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基、ならびにヒドロキシル基の保護体等である。さらに、該置換アルキル基は、前記のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合が、任意の数および任意の組み合わせで、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合に置換することもできる(当然、これらの不飽和結合に置換したアルキル基は、前記の置換基を同様に有することもできる。本明細書においては、これらの不飽和結合に置換したアルキル基も置換アルキル基として扱う)。置換基の種類に依っては置換基自体が副反応に関与する場合もあるが、好適な反応条件を採用することにより最小限に抑えることができる。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1〜6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。また、上記の“係る置換基は”の芳香環基には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基およびヒドロキシル基の保護体等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。その中でもRまたはRのどちらか一方がフッ素原子であり、他方が水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0036】
一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のRは、アルキル基または置換アルキル基を表す。該アルキル基および置換アルキル基は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のR1およびRにおいて記載したアルキル基および置換アルキル基と同じである。その中でもアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類の中でも、一般式[5]で示されるα−フルオロエステル類が好ましく、一般式[7]で示されるα−フルオロエステル類が特に好ましい。一般式[5]で示されるα−フルオロエステル類は、大量規模での入手が比較的容易であり、一般式[7]で示されるα−フルオロエステル類は、得られる一般式[8]で示されるβ−フルオロアルコール類が医農薬中間体として重要である。
【0038】
一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のα位が不斉炭素の場合は、任意の立体化学(R体、S体またはラセミ体)を採ることができる。原料基質に光学活性体を用いる場合、好適な反応条件(例えば、後述の“塩基の非存在下での反応”や実施例12の“原料基質をゆっくり滴下する方法”等)を採用することにより、目的物の立体化学は保持され、光学純度の低下も殆ど認められない。
【0039】
α−フルオロラクトン類も本発明の原料基質として用いることができる。α−フルオロラクトン類に限らず、反応に用いる塩基や反応溶媒等の影響により、系内で本発明で対象とするα−フルオロエステル類に変換されてから還元される場合は、特許請求の範囲に含まれるものとして扱う。
【0040】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体のRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のR1およびRにおいて記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。ビシナル位の2つのR(水素原子を除く)が、炭素原子同士で共有結合により環状構造を採ることもできる。該共有結合には、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を介したものも含まれる。その中でも8つ全て水素原子が好ましい(2つのnが共に1の場合)。
【0041】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体のArは、それぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表す。該芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のR1およびRにおいて記載した芳香環基および置換芳香環基と同じである。その中でも4つ全てフェニル基が好ましい。
【0042】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体のXは、それぞれ独立に形式電荷が−1または0の配位子[但し、3つのXの形式電荷の合計は−2(Ruの形式電荷は+2)]を表す。該「形式電荷が−1または0の配位子」は、ヘゲダス遷移金属による有機合成(L.S.Hegedus著、原著第2版、村井真二訳、p.4−9、東京化学同人、2001年)および大学院講義有機化学I.分子構造と反応・有機金属化学(野依良治ほか編、p.389−390、東京化学同人、1999年)等に記載された配位子、BHおよびRCO(Rは水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表す。該アルキル基および置換アルキル基は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のR1およびRにおいて記載したアルキル基および置換アルキル基と同じである)等である。その中でも3つの内1つずつ水素原子、塩素原子および一酸化炭素が好ましい。
【0043】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体の3つのX配位子の内、少なくとも1つがBHを採る場合は、塩基の非存在下に反応を行うことができる(当然、塩基の存在下に反応を行うこともできる)。その中でも一般式[4]で示されるルテニウム錯体のCl配位子がBH(H−BH)に置き換わったものが好ましい(国際公開2011/048727号参照)。
【0044】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体のnは、それぞれ独立に1または2の整数を表す。nが1の場合は、窒素原子とリン原子が2つの炭素原子を介して結合していることを意味し、nが2の場合は、窒素原子とリン原子が3つの炭素原子を介して結合していることを意味する。その中でも2つのnが共に1が好ましい。
【0045】
一般式[4]で示されるルテニウム錯体のPhは、フェニル基を表す。
【0046】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体の中でも、一般式[4]で示されるルテニウム錯体が好ましい。一般式[4]で示されるルテニウム錯体は、市販のRu−MACHOTM(高砂香料工業株式会社製)を用いることができる。
【0047】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体は、上記のRu−MACHOTMの製造方法等を参考にして同様に製造することができる。また、水やトルエン等の有機溶媒等が含まれるものも同等に用いることができ、純度は70%以上であれば良く、80%以上が好ましく、90%以上が特に好ましい。
【0048】
一般式[2]で示されるルテニウム錯体の使用量は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類1molに対して0.000001mol以上を用いれば良く、0.00001〜0.005molが好ましく、0.00002〜0.002molが特に好ましい。
【0049】
塩基は、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラn−プロピルアンモニウムおよび水酸化テトラn−ブチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、リチウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシドおよびカリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドおよびカリウムビス(トリメチルシリル)アミド等のアルカリ金属のビス(トリアルキルシリル)アミド、ならびに水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウム等のアルカリ金属の水素化ホウ素等である。その中でもアルカリ金属のアルコキシドが好ましく、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシドおよびカリウムメトキシドが特に好ましい。
【0050】
塩基の使用量は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類1molに対して0.001mol以上を用いれば良く、0.005〜5molが好ましく、0.01〜3molが特に好ましい。
【0051】
真の触媒活性種は、一般式[2]で示されるルテニウム錯体から必要に応じて塩基の存在下に誘導されるものと考えられている。よって、触媒活性種を予め調製してから(単離したものも含む)還元に供する場合も、特許請求の範囲に含まれるものとして扱う。
【0052】
水素ガスの使用量は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類1molに対して2mol以上を用いれば良く、大過剰が好ましく、下記の加圧下での大過剰が特に好ましい。
【0053】
水素圧は、特に制限はないが、3〜0.001MPaが好ましく、2〜0.01MPaが特に好ましい。本発明の効果を最大限に発揮させるには、1MPa以下が極めて好ましい。
【0054】
反応溶媒は、n−ヘキサンおよびn−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレンおよび1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびアニソール等のエーテル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールおよびシクロヘキサノール等のアルコール系、N,N−ジメチルホルムアミドおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリルおよびプロピオニトリル等のニトリル系、ならびにジメチルスルホキシド等である。その中でもエーテル系およびアルコール系が好ましく、アルコール系が特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。好適な目的物である一般式[8]で示されるβ−フルオロアルコール類の製造においては、分別蒸留での分離が容易なメタノールが極めて好ましい。
【0055】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類1molに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、0.03〜10Lが好ましく、0.05〜7Lが特に好ましい。本反応は、反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0056】
反応温度は、+150℃以下で行えば良く、+125〜−50℃が好ましく、+100〜−25℃が特に好ましい。
【0057】
反応時間は、72時間以内で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0058】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[3]で示されるβ−フルオロアルコール類を得ることができる。一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類のR1および/またはRがアルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基の場合、生成物はジオールもしくはトリオールとなることがある(実施例11参照)。この様な反応も特許請求の範囲に含まれるものとして扱う。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、分別蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により高い純度に精製することができる。目的物の沸点が低い場合は、反応終了液を直接、回収蒸留する操作が簡便である。塩基の存在下での反応においては、上記の回収蒸留を行うと比較的酸性度の高い目的物は用いた塩基と塩または錯体等を生成して釜残に残留する傾向がある。この様な場合には、反応終了液を予めギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸または塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸等の無機酸で中和してから回収蒸留(ジイソプロピルエーテル等の有機溶媒による釜残の回収洗浄も含まれる)することにより目的物を収率良く得ることができる。
【実施例】
【0059】
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。原料基質のα−フルオロエステル類は、公知文献を参考にして同様に製造することができる(当然、市販品を用いることもできる)。特に実施例7および8の原料基質は、有機合成における一般的な方法を採用することにより収率良く製造することができる。例えば、第1工程)ブロモジフルオロ酢酸エチルと、それぞれプロピオンアルデヒドまたはアセトアルデヒドとのレフォルマトスキー反応、第2工程)ヒドロキシル基(−OH)のトリフルオロメタンスルホニル化(−OSOCF)、第3工程)強塩基によるトリフルオロメタンスルホン酸の脱離を経る製造方法が簡便である(実施例13の原料基質は、第1工程の生成物である)。略記号/Me;メチル基、Ph;フェニル基、Et;エチル基。
【0060】
[実施例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化14】

【0061】
で示されるα−フルオロエステル類4.4g(40mmol、1eq)、下記式:
【化15】

【0062】
で示されるルテニウム錯体5.2mg(純度94.2%、8.0μmol、0.0002eq)、ナトリウムメトキシド540mg(10mmol、0.25eq)とメタノール40mL(1.0L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、40℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化16】

【0063】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、共に100%であった。反応終了液を直接、回収蒸留することにより、目的物を含むメタノール溶液を得た。該メタノール溶液の19F−NMR分析より内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、目的物が3.0g含まれていた。収率は91%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化17】

【0064】
[実施例2]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化18】

【0065】
で示されるα−フルオロエステル類53g(480mmol、1eq)、下記式:
【化19】

【0066】
で示されるルテニウム錯体15mg(純度94.2%、24μmol、0.00005eq)、カリウムメトキシド8.4g(120mmol、0.25eq)とメタノール240mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、40℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化20】

【0067】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、97.6%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化21】

【0068】
上記の反応を5回繰り返して行うことにより、α−フルオロエステル類2.4molに相当する反応終了液を得た。反応終了液に酢酸36g(600mmol、0.25eq)を加え、直接、回収蒸留(油浴温度55℃、減圧度〜1.5kPa)することにより、目的物を含むメタノール溶液を得た。釜残(酢酸カリウムと目的物が含まれる固形物)にジイソプロピルエーテル200mLを加え、攪拌洗浄し、濾過し、固形物をジイソプロピルエーテル200mLで洗浄することにより、目的物を含むジイソプロピルエーテル溶液を得た。これらの溶液を合わせて分別蒸留(理論段数20段、留出温度92℃、大気圧)することにより、上記式で示されるβ−フルオロアルコール類を158g得た。収率は80%であった。ガスクロマトグラフィー純度は99.6%であった。水分は0.05%であった。
【0069】
[実施例3]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化22】

【0070】
で示されるα−フルオロエステル類4.2g(40mmol、1eq、光学純度98.4%ee)、下記式:
【化23】

【0071】
で示されるルテニウム錯体5.2mg(純度94.2%、8.0μmol、0.0002eq)、カリウムメトキシド700mg(10mmol、0.25eq)とメタノール20mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、36℃で9時間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化24】

【0072】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、90.4%であった。光学純度は66.2%eeであった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化25】

【0073】
[実施例4]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化26】

【0074】
で示されるα−フルオロエステル類5.0g(40mmol、1eq)、下記式:
【化27】

【0075】
で示されるルテニウム錯体10mg(純度94.2%、16μmol、0.0004eq)、カリウムメトキシド700mg(10mmol、0.25eq)とメタノール20mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、37℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化28】

【0076】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ92%、98.9%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化29】

【0077】
[実施例5]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化30】

【0078】
で示されるα−フルオロエステル類4.8g(40mmol、1eq)、下記式:
【化31】

【0079】
で示されるルテニウム錯体13mg(純度94.2%、20μmol、0.0005eq)、ナトリウムメトキシド540mg(10mmol、0.25eq)とメタノール20mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、35℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化32】

【0080】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ98%、84.2%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化33】

【0081】
[実施例6]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化34】

【0082】
で示されるα−フルオロエステル類4.0g(20mmol、1eq)、下記式:
【化35】

【0083】
で示されるルテニウム錯体4.3mg(純度94.2%、6.7μmol、0.0003eq)、ナトリウムメトキシド270mg(5.0mmol、0.25eq)とメタノール10mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、40℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化36】

【0084】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、98.2%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化37】

【0085】
[実施例7]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化38】

【0086】
で示されるα−フルオロエステル類(E体:Z体=95:5)74g(450mmol、1eq)、下記式:
【化39】

【0087】
で示されるルテニウム錯体120mg(純度94.2%、180μmol、0.0004eq)、ナトリウムメトキシド6.1g(110mmol、0.25eq)とメタノール230mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、35℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化40】

【0088】
で示されるβ−フルオロアルコール類(E体:Z体=95:5)の選択率は、それぞれ100%、99.3%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化41】

【0089】
上記の反応を2回繰り返して行うことにより、α−フルオロエステル類490mmolに相当する反応終了液を得た。反応終了液に酢酸7.4g(120mmol、0.25eq)を加え、直接、回収蒸留(油浴温度〜63℃、減圧度〜1.6kPa)することにより、目的物を含むメタノール溶液を得た。釜残(酢酸ナトリウムと目的物が含まれる固形物)にジイソプロピルエーテル240mLを加え、攪拌洗浄し、濾過し、固形物を少量のジイソプロピルエーテルで洗浄することにより、目的物を含むジイソプロピルエーテル溶液を得た。これらの溶液を合わせて分別蒸留(理論段数4段、留出温度60℃、3.0〜2.6kPa)することにより、上記式で示されるβ−フルオロアルコール類を46g得た。収率は77%であった。ガスクロマトグラフィー純度は99.6%であった。Hと19F−NMRを下に示す。
【0090】
E体/H−NMR(基準物質;MeSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.80(m、3H)、3.72(m、2H)、5.63(m、1H)、6.19(m、1H)、ヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
【0091】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;55.96(m、2F)。
【0092】
Z体/H−NMR(基準物質;MeSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.86(m、3H)、3.72(m、2H)、5.51(m、1H)、5.96(m、1H)、ヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
【0093】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;59.57(m、2F)。
【0094】
[実施例8]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化42】

【0095】
で示されるα−フルオロエステル類38g(250mmol、1eq)、下記式:
【化43】

【0096】
で示されるルテニウム錯体64mg(純度94.2%、100μmol、0.0004eq)、ナトリウムメトキシド3.4g(63mmol、0.25eq)とメタノール250mL(1.0L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、35℃で終夜攪拌した。反応終了液の19F−NMR分析より、変換率と、下記式:
【化44】

【0097】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、98.0%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化45】

【0098】
上記の反応を2回繰り返して行うことにより、α−フルオロエステル類470mmolに相当する反応終了液を得た。反応終了液に酢酸7.1g(120mmol、0.25eq)とメトキノン(重合禁止剤)適量を加え、直接、回収蒸留(油浴温度〜63℃、減圧度〜7.9kPa)することにより、目的物を含むメタノール溶液を得た。釜残(酢酸ナトリウムと目的物が含まれる固形物)にジイソプロピルエーテル400mLを加え、攪拌洗浄し、濾過し、固形物を少量のジイソプロピルエーテルで洗浄することにより、目的物を含むジイソプロピルエーテル溶液を得た。これらの溶液を合わせて分別蒸留(理論段数4段、留出温度57〜62℃、13〜12kPa)することにより、上記式で示されるβ−フルオロアルコール類を40g得た。収率は78%であった。ガスクロマトグラフィー純度は98.9%であった。Hと19F−NMRを下に示す。
【0099】
H−NMR(基準物質;MeSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;2.21(br、1H)、3.81(t、2H)、5.55(d、1H)、5.74(m、1H)、5.97(m、1H)。
【0100】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDOD)、δ ppm;55.44(m、2F)。
【0101】
[実施例9]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化46】

【0102】
で示されるα−フルオロエステル類6.0g(30mmol、1eq)、下記式:
【化47】

【0103】
で示されるルテニウム錯体6.5mg(純度94.2%、10μmol、0.0003eq)、ナトリウムメトキシド406mg(7.5mmol、0.25eq)とメタノール15mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、38℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化48】

【0104】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、98.2%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化49】

【0105】
[実施例10]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化50】

【0106】
で示されるα−フルオロエステル類6.4g(30mmol、1eq)、下記式:
【化51】

【0107】
で示されるルテニウム錯体6.5mg(純度94.2%、10μmol、0.0003eq)、ナトリウムメトキシド406mg(7.5mmol、0.25eq)とメタノール15mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、38℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化52】

【0108】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ98.0%、98.0%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化53】

【0109】
Hと19F−NMRを下に示す。
【0110】
H−NMR(基準物質;MeSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.90(br、1H)、2.52(t、3H)、4.06(t、2H)、7.29(m、2H)、7.39(dd、1H)、7.54(d、1H)。
【0111】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;57.04(t、2F)。
【0112】
[実施例11]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化54】

【0113】
で示されるα−フルオロエステル類3.6g(20mmol、1eq)、下記式:
【化55】

【0114】
で示されるルテニウム錯体4.3mg(純度94.2%、6.7μmol、0.0003eq)、ナトリウムメトキシド162mg(3.0mmol、0.15eq)とメタノール20mL(1.0L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、38℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化56】

【0115】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ99.6%、74.2%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化57】

【0116】
[実施例12]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化58】

【0117】
で示されるルテニウム錯体77mg(純度94.2%、0.12mmol、0.0003eq)、ナトリウムメトキシド1.6g(30mmol、0.06eq)とメタノール240mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、下記式:
【化59】

【0118】
で示されるα−フルオロエステル類51g(480mmol、1eq、光学純度97.3%ee)とメタノール240mL(0.5L/mol)の混合溶液を36℃で14時間かけて滴下後、同温度で11時間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化60】

【0119】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ98.5%、98.8%であった。光学純度は95.0%eeであった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化61】

【0120】
[実施例13]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化62】

【0121】
で示されるα−フルオロエステル類3.6g(20mmol、1eq)、下記式:
【化63】

【0122】
で示されるルテニウム錯体6.5mg(純度94.2%、10μmol、0.0005eq)、ナトリウムメトキシド270mg(5.0mmol、0.25eq)とメタノール10mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を2.0MPaに設定し、38℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化64】

【0123】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、99.6%であった。参考までに、本実施例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化65】

【0124】
[比較例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化66】

【0125】
で示されるα−フルオロエステル類5.0g(40mmol、1eq)、下記式:
【化67】

【0126】
で示されるルテニウム錯体30mg(40μmol、0.001eq)、カリウムtert−ブトキシド1.1g(9.8mmol、0.25eq)とテトラヒドロフラン20mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を3.8MPaに設定し、100℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化68】

【0127】
で示されるβ−フルオロアルコール類の選択率は、それぞれ100%、93.8%であった。
【0128】
比較例1において、α−フルオロエステル類のエステル部位をメチルエステルに変更しても、塩基をナトリウムメトキシドに変更しても、反応溶媒をメタノールに変更しても、さらにメタノールの使用量を2倍に変更しても、反応温度を40℃に変更しても、さらに、これらの変更を任意に組み合わせても、実施例1の結果(変換率100%と目的物の選択率100%)を達成することが出来なかった。参考までに、本比較例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化69】

【0129】
[比較例2]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式:
【化70】

【0130】
で示される酢酸メチル3.0g(40mmol、1eq)、下記式:
【化71】

【0131】
で示されるルテニウム錯体5.2mg(純度94.2%、8.0μmol、0.0002eq)、カリウムメトキシド700mg(10mmol、0.25eq)とメタノール20mL(0.5L/mol)を加え、反応容器内を水素ガスで5回置換し、水素圧を1.0MPaに設定し、35℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より、変換率と、下記式:
【化72】

【0132】
で示されるエタノールの選択率は、それぞれ18%、94.4%であった。参考までに、本比較例における反応手順および反応結果の概要を、下記スキームに示した。
【化73】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の製造方法により得られるβ−フルオロアルコール類は、医農薬中間体として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類を、一般式[2]:
【化2】

[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Arはそれぞれ独立に芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはそれぞれ独立に形式電荷が−1または0の配位子(但し、3つのXの形式電荷の合計は−2)を表し、nはそれぞれ独立に1または2の整数を表す。]
で示されるルテニウム錯体の存在下に水素ガス(H)と反応させることにより、一般式[3]:
【化3】

[式中、RおよびRは前記式[1]と同じである。]
で示されるβ−フルオロアルコール類を製造する方法。
【請求項2】
さらに塩基の存在下に行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式[1]:
【化4】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基
を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類を、一般式[4]:
【化5】

[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示されるルテニウム錯体および塩基の存在下に水素ガス(H)と反応させることにより、一般式[3]:
【化6】

[式中、RおよびRは前記式[1]と同じである。]
で示されるβ−フルオロアルコール類を製造する方法。
【請求項4】
前記一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類が、一般式[5]:
【化7】

[式中、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Rはアルキル基を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類であり、前記一般式[3]で示されるβ−フルオロアルコール類が、一般式[6]:
【化8】

[式中、Rは前記式[5]と同じである。]
で示されるβ−フルオロアルコール類であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記一般式[1]で示されるα−フルオロエステル類が、一般式[7]:
【化9】

[式中、Meはメチル基を表す。]
で示されるα−フルオロエステル類であり、前記一般式[3]で示されるβ−フルオロアルコール類が、一般式[8]:
【化10】

で示されるβ−フルオロアルコール類であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項6】
水素圧を3MPa以下で行うことを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
水素圧を2MPa以下で行うことを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の方法。
【請求項8】
水素圧を1MPa以下で行うことを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2013−49660(P2013−49660A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3743(P2012−3743)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】