説明

β−マルトース含水結晶含有粉末とその製造方法並びに用途

【課題】 噴霧方式で、水系媒体への溶解性に優れ、かつ取扱いの容易なβ−マルトース含水結晶含有粉末とその製造方法並びに用途を提供する。
【解決手段】 マルトース含有溶液をマスキットとし、これを噴霧方式で粉末化し、次いで、比較的低湿度で高温の雰囲気に保ち、更に、比較的高湿度で低温の雰囲気に保ち、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを7%以上14%未満にし、得られるβ−マルトース含水結晶含有粉末は、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満及びグルコース2%以上を含有し、結晶化度が62%以上72%未満であって、水系媒体への溶解性に優れ、しかも流動性良好で、取扱い容易な粉末であり、更に、飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物への用途を確立して課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−マルトース含水結晶含有粉末とその製造方法並びに用途に関し、更に詳細には、噴霧方式で粉末化され、水系媒体への溶解性に優れ、取扱い容易なβ−マルトース含水結晶含有粉末とその製造方法並びに当該粉末を水系媒体に溶解、含有せしめた飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物への用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、甘味料として砂糖が大量に消費されてきた。しかしながら、砂糖は甘味が強すぎることから最近の嗜好に合わず、また、虫歯の主な誘発物質であるなどの欠点を有している。
【0003】
近年、砂糖の欠点を解消するために、各種糖質を利用することが提案され、とりわけ、澱粉から製造されるマルトースについては、砂糖と比較して甘味が低い、虫歯誘発の懸念が少ない、風味が良好である、などの特徴を有しており、現在では、食品級のβ−マルトース含水結晶含有粉末が、(株)林原商事から登録商標「サンマルト」及び「サンマルトS」として市販され、その消費量の更なる拡大が期待できる。
【0004】
β−マルトース含水結晶含有粉末は、通常、マルトース含有溶液を原料として、分蜜方式、切削方式又は噴霧方式により製造されている。
【0005】
これらのうち、分蜜方式は、原料のマルトース含有溶液を濃縮し、β−マルトース含水結晶が種晶として共存する状態下で、撹拌しつつ徐冷してβ−マルトース含水結晶を晶出させたマスキットとし、これを遠心分離などにより、結晶と蜜とに分離し、結晶部分を採取、乾燥する粉末の製造方法である。この方式は、きわめて高純度の結晶粉末が得られるものの、蜜を副生する分、β−マルトース含水結晶粉末の収率が低い欠点がある。
【0006】
これに対して、切削方式や噴霧方式は、通常、原料のマルトース含有溶液を濃縮し、これをマスキットにした後、切削方式においては全量を固化、熟成させて切削、乾燥して粉末を採取するか、噴霧方式においてはマスキットを噴霧乾燥させたものを熟成し採取する、粉末の製造方法である。これらの方式は、マルトースの純度を高めることはできないものの全量を粉末化でき、蜜を副生することもなく、工業的に有利である。
【0007】
詳細には、切削方式については、通常、マルトース含有溶液を濃縮し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を加えてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させマスキットとしたのち、全量をブロック状に固化、熟成させて、これを切削、乾燥、篩別して、安定なβ−マルトース含水結晶含有粉末を製造するものであるが、この切削方式によって工業的に生産された製品は、(株)林原商事より商標登録「サンマルト」として販売されている。この切削方式によれば、原料マルトースの全量を粉末化することができ、工業的に有利であるものの、この切削方式には、マスキットをブロック状に固化、熟成させるのに5乃至15日間もの長い期間を要するのみならず、その後の切削、乾燥、篩別に繁雑な工程を必要とする欠点がある。
【0008】
一方、噴霧方式については、従来、マルトース含有溶液を濃縮し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を加えてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させマスキットとしたのち、これを噴霧乾燥して粉末化し、熟成させて、β−マルトース含水結晶含有粉末を製造する方法が知られていた(特許文献1、特許文献2)。この噴霧方式は、マスキットを固化、熟成させる長い期間を必要とせず工業的には最も有利であるものの、それでも、その製造に3乃至4日間もの期間を要し、噴霧方式でスムーズに連続的に粉末を製造することが困難であった。
【0009】
その後、これを改善するために、マルトース以外の糖質、具体的には、グルコース、マルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖などの含量をできる限り低減させて、無水物換算で、マルトース含量約95質量%(以下、本明細書では、特段の断りがない限り、質量%を単に%と略称する。)以上とした極めて高純度のマルトース含有溶液を用いることにより、噴霧方式でβ−マルトース含水結晶含有粉末を比較的短時間で製造する方法が確立され、(株)林原商事より登録商標「サンマルトS」として販売されるに至った。しかしながら、本発明者等が初めて見いだした知見によれば、この噴霧方式によって得られるβ−マルトース含水結晶含有粉末は、意外にも、水系媒体への溶解性が必ずしも満足できるものでなく、この溶解性を更に向上させる必要性のあることが判明した。
【0010】
【特許文献1】特公昭54−3937号公報
【特許文献2】特公昭54−27325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、本発明者等が新たに見いだした上記噴霧方式の欠点を解決するためになされたもので、工業的に有利で、且つ安価に実施できる噴霧方式を採用し、水系媒体への溶解性に優れ、取扱い容易なβ−マルトース含水結晶含有粉末とその製造方法並びに用途を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、噴霧方式で粉末化されるβ−マルトース含水結晶含有粉末の各種物性について研究し、とりわけ、原料のマルトース含有溶液の糖組成と得られる粉末の各種物性との関係に着目して、鋭意研究を重ねた。即ち、各種糖組成のマルトース含有溶液から調製したマスキットを、噴霧方式で粉末とし、まず、比較的低湿度で高温の雰囲気に保ち、次いで、比較的高湿度で低温の雰囲気に保って得られるβ−マルトース含水結晶含有粉末を採取し、この粉末の吸湿性、固着性、溶解性、α−アノマー含量、結晶化度などの諸性質について詳細に調べた。
【0013】
その結果、(1)、噴霧方式で粉末化され、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満およびグルコース2%以上含有し、結晶化度が62%以上72%未満であるβ−マルトース含水結晶含有粉末が、水系媒体への溶解性に優れ、且つ、取扱い容易な粉末であることを見いだし、当該粉末の製造方法として、(2)、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満およびグルコース2%以上を含有している溶液を、β−マルトース含水結晶を晶出させたマスキットとし、次いで噴霧方式で粉末とし、更に、比較的低湿度で高温の雰囲気に保って、マルトース中のα−アノマー高含有粉末とし、その後、比較的高湿度で低温の雰囲気に保って、噴霧された粉末のマルトース中のα−アノマー含量を7%以上14%未満に低減せしめ、得られる結晶化度が62%以上72%未満の粉末を採取することを特徴とするβ−マルトース含水結晶含有粉末の製造方法を確立し、併せて、(3)、前記の(1)、又は(2)の製造方法で得られるβ−マルトース含水結晶含有粉末を水系媒体に溶解、含有せしめた組成物を確立して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水系媒体への溶解性に優れたβ−マルトース含水結晶含有粉末を容易に、低コストで製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末の原料に用いるマルトース含有溶液としては、噴霧方式で粉末化され、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満およびグルコース2%以上を含有し、結晶化度が62%以上72%未満であるβ−マルトース含水結晶含有粉末ができるものであればよく、そのようなマルトース含有溶液の製造方法としては、例えば、特公昭54−3937号公報、特公昭56−28153号公報、特公昭57−3356号公報、特許第2518646号公報などに開示されるように、各種の澱粉を加熱、糊化したのちにα−アミラーゼ(EC.3.2.1.1)を作用させるか、酸または機械力により、できるだけ低い加水分解率に液化し、次いで、β−アミラーゼ(EC.3.2.1.2)と澱粉枝切り酵素(プルラナーゼEC.3.2.1.41またはイソアミラーゼEC.3.2.1.68のいずれか)を作用させて糖化して製造する方法がある。
【0016】
本発明でいう、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満及びグルコース2%以上を含有する溶液は、前述のように澱粉から製造され、通常、他の糖質としてマルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖などを含有している。このマルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖は、マルトース含有溶液からβ−マルトース含水結晶の晶出を阻害し易いのでできるだけこの含量を低減させることが望ましく、とりわけ、マルトトリオースについては、その含量を、無水物換算で、2%未満にするのが好適である。
【0017】
マルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖の含量を低減させる方法としては、例えば、特公昭56−28154号公報、特許第2696530号公報などに開示されているように、マルトトリオースまたはグルコース重合度4以上のオリゴ糖に比較的よく作用し、それらを分解してグルコースやマルトースなどを生成する酵素を作用させることで、マルトトリオースまたはグルコース重合度4以上のオリゴ糖の含量を減少させるとともにマルトースの含量を増加させることができる。また、UF膜や逆浸透膜、活性炭などを用いてマルトトリオースまたはグルコース重合度4以上のオリゴ糖を分離、除去することも、更に、特公昭62−51120号公報、特公平5−79316号公報などに開示されているように、イオン交換樹脂を用いるクロマト分離法を用いてマルトトリオースまたはそれ以上のオリゴ糖を分離、除去することもできる。
【0018】
本発明の特徴の一つは、次に述べる各工程を組み合わせる一連の製造方法を採用し、マルトースの晶出速度を高めることにより、無水物換算で、マルトース含量が86%以上93%未満、換言すれば、グルコース、マルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖などのマルトース以外の糖質を7%以上14%未満と比較的多量共存含有しているにもかかわらず、噴霧方式で、溶解性に優れ、且つ、取扱いの容易なβ−マルトース含水結晶含有粉末が容易に、比較的短時間に製造できることである。
【0019】
即ち、一連の製造方法は、(a)、本発明に用いる糖組成のマルトース含有溶液をマスキットとし、次いで、(b)、噴霧方式、望ましくは、高圧ノズルや回転円盤を用いた噴霧乾燥法により粉末とし、望ましくは、水分10%未満、更に望ましくは、約5乃至9%の粉末とし、更に、これに含まれるマルトースの晶出速度を高めるために、(c)、これを比較的低湿度で高温の雰囲気、望ましくは、相対湿度(RH)40%未満、更に望ましくは20%未満で、望ましくは、75℃を越え、更に望ましくは80乃至110℃の雰囲気に1乃至4時間程度保って、マルトース異性体であるα−アノマーの高含有粉末、望ましくは、マルトース中のα−アノマー含量が35%以上の粉末とし、その後、(d)、比較的高湿度で低温の雰囲気、望ましくは、相対湿度(RH)70%を越え、更に望ましくは80%以上で、望ましくは、50℃未満、更に望ましくは20乃至45℃の雰囲気に5乃至10時間程度保って、そのマルトース中のα−アノマー含量を7%以上14%未満に低減せしめ、(e)、得られる結晶化度が62%以上72%未満のβ−マルトース含水結晶含有粉末を採取することにより達成される。
【0020】
以下、前記各工程について、更に詳細に説明する。前記工程(a)においては、マルトース含有溶液を濃縮し、望ましくは、水分15乃至30%の濃縮液とし、これに種晶としてβ−マルトース含水結晶の適量、通常は0.1乃至5%程度を共存させて徐冷、攪拌しつつマスキットを製造する。この際、β−マルトース含水結晶の晶出率(以下、本明細書では、特段の断りがない限り、晶出率とは、マスキットを結晶と蜜とに分別し、(結晶無水物重量/マスキットの無水物重量)×100の値をいう。)が高くなればなる程、マスキットの粘度が上昇する。
【0021】
また、前記工程(b)においては、本発明者等は、β−マルトース含水結晶を含む高粘度のマスキットを実質的に晶出率を低下させない範囲内で加熱、昇温させてその粘度を低下させることにより、噴霧方式でβ−マルトース含水結晶含有粉末が容易に製造できるという知見を得た。すなわち、本発明者等は、マスキットを加熱、昇温すると、粘度は温度の上昇とともに直ちに低下するものの、生成した結晶は多少温度が上昇しても短時間では溶解することはなく、晶出率の低下は殆ど見られないことを見出し、実質的に晶出率を低下させることなく、マスキットを昇温することでマスキットの粘度を、望ましくは、50,000cp(以下、本明細書では、特段の断りがない限り、粘度cpとはBH型回転粘度計を使用し、No.7のローターを用い、4rpmで回転させて測定したときの値をいう。)以下にすれば、噴霧処理の操作が容易となり、しかも、その乾燥効率を良くできることが明らかとなった。
【0022】
昇温の方法は特に限定されない。例えば、マスキットが入った助晶機のジャケットに温水を流す、助晶機内に直接蒸気を加える、助晶機から送液ポンプの間で熱交換機を使用して加温するなど公知の方式が適宜採用できる。昇温の程度は、マスキットの粘度が噴霧できる程度、具体的には、50,000cp以下、望ましくは、40,000cp以下となればよく、通常、2乃至15℃、望ましくは、2乃至10℃の範囲で晶出率の低下を起こさない程度になるべく短時間に行うのが好適である。
【0023】
前記工程(c)においては、粉末をα−マルトース無水結晶の少量と接触させてマルトース中のα−アノマーへの異性化を促進する方法を採用することも有利に実施できる。マルトース異性体としては、α−アノマーとβ−アノマーが存在する。結晶の形態としては、α−マルトース無水結晶、β−マルトース含水結晶、β−マルトース無水結晶並びにα−マルトースとβ−マルトースが一定の割合で共存するα、βコンプレックス結晶が知られている。
【0024】
マルトース中のα−アノマーを7%以上14%未満含有するとは、マルトース中のα−アノマーの含量を意味し、その形態が非晶質であるか結晶質であるかは問わない。一般的に、マルトース中のα−アノマーの含量が14%以上の場合は、非晶質のマルトースが多いか、又は、α−マルトース無水結晶を含有していることを意味し、逆に、マルトース中のα−アノマーの含量が7%未満の場合は、残りはβ−マルトースであるのでβ−マルトース含水又は無水結晶の含量が高いことを意味している。
【0025】
更に、前記工程(d)においては、5乃至10時間程度保ってマルトース中のα−アノマー含量を7%以上14%未満に低減せしめた後、必要ならば、更に乾燥工程を加えることも有利に実施できる。
【0026】
前記工程(e)においては、得られるβ−マルトース含水結晶含有粉末が、粒度分布試験(澱粉糖関連工業分析法、1991年発行、(株)食品化学新聞社発売に118頁記載の粒度分布の測定方法に準じて、JIS・Z8801のふるいを用い、試料50gを15分間篩って測定した)において、比較的粒度の大きな粉末を多量含有しており、通常、106μmを越す粉末を60%以上含んでおり、多くの場合、150μmを越え300μm以下の粉末を40%以上含んでいる。また、この150μmを越え300μm以下の粉末は、しばしば噴霧乾燥機内を落下する途中、または熟成から乾燥終了に至る工程で、複数個の粒子が付着、凝集して生成した凝集物を含んでいる。
【0027】
この様にして得られる本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、水系媒体への溶解性に優れ、しかも、保存安定性、流動性良好で、取扱い容易な粉末である。
【0028】
本発明でいう水系媒体とは、β−マルトース含水結晶含有粉末を溶解、含有させることのできる水または水分を多く含む液状、ペースト状、半固状物又は固状物を意味する。とりわけ、粘性を有する水系媒体としては、例えば、糖類、澱粉、脂肪、蛋白質、ポリフェノール及び乳化剤などを含むものであって、具体的には、例えば、求肥、餅菓子などに用いられる糊化澱粉、小麦粉から調製された生地、ドウ、麺などや、生あん、魚肉、畜肉などの擂潰食肉、液卵、乳クリーム、発酵乳、ピーナッツペースト、果実パルプ、野菜パルプ、糖類シロップ、抽出液濃縮物などがある。
【0029】
本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、前述の粘性を持つ水系媒体への溶解性に優れ、これに利用されることはもとより、粘度の低い水系媒体への用途にも有利に利用できる。また、良質で上品な甘味を有すると共に、虫歯の原因の一つであるデキストランの生成を阻害する作用を有しており、虫歯を起こしにくい甘味料としても好適に利用される。
【0030】
また、本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、プルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドンなどの公知の結合剤と併用して、錠剤の糖衣剤としても有利に用いることができる。更に、本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、糖質晶出防止性、糊化澱粉の老化防止性などの有用な性質をも兼備している。
【0031】
従って、本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、甘味料、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、食品、飼料、餌料、化粧品、医薬品、嗜好品などの各種組成物に有利に用いることができる。
【0032】
本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末の具体的な用途としては、各種物品の甘味付けのための調味料としても用いることができる。必要に応じて、例えば、粉飴、ブドウ糖、フラクトース、ラクトスクロース、蔗糖、トレハロース、異性化糖、蜂蜜、メープルシュガー、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、スクラロース、アセスルファムK、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上と併用することも、必要ならば、デキストリン、澱粉、砂糖、乳糖などの増量剤の1種又は2種以上と併用することも随意である。
【0033】
又、本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、そのままで、又は必要に応じて、適宜の増量剤、賦形剤、結合剤、甘味料などの1種又は2種以上と併用して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体状、錠剤状、フィルム状又はシート状などの各種形状に成型して用いることも随意である。
【0034】
更に、本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、各種飲食物の甘味付け、呈味改良に、又品質改良を目的として用いることができる。具体的には、例えば、アミノ酸、ペプチド類、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、核酸系調味料、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料として有利に利用できる。又、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、コーヒー、紅茶、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品、健康食品などの各種飲食物に有利に利用できる。
【0035】
更に、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物用の飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤などの各種固形物用甘味剤として、又はそれらの呈味改良剤、矯味剤、品質改良剤、安定剤などとして有利に利用できる。
【0036】
本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、品質改良剤及び/又は安定剤として、有効成分、活性成分又は生理活性物質を含む健康食品、医薬品などに配合することにより、安定で高品質の液状、ペースト状又は固状の健康食品や医薬品を得ることができる。前記有効成分や生理活性物質としては、例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、TNF−α、TNF−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンなどのリンホカイン、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、スプレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、α−グリコシルアスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロール、ルチン、α−グリコシルルチン、ナリンジン、α−グリコシルナリンジン、ヘスペリジン、α−グリコシルヘスペリジンなどのビタミン類、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素、薬用人参エキス、笹エキス、梅エキス、松エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ローヤルゼリーなどを例示することができる。
【0037】
以上述べた各種組成物に、本発明のβ−マルトース含水結晶含有粉末を含有させる方法は、これらの組成物が完成するまでの工程で含有させればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常、前記組成物重量当たり、1%以上、好ましくは、2%以上、より好ましくは、5乃至99%配合するのが好適である。
【0038】
以下、本発明を具体的な実験を用いて詳しく説明する。
【0039】
〈実験:各種β−マルトース結晶含有粉末の物性に及ぼす原料糖組成の影響〉
噴霧方式による、各種β−マルトース結晶含有粉末の物性に及ぼす原料糖組成の影響を調べた。試験用粉末は、糖組成の異なる各種の原料マルトース含有溶液を調製し、これを噴霧方式でβ−マルトース含水結晶含有粉末としたものを用いた。マルトース含有溶液は、市販の精製マルトース((株)林原商事販売 登録商標「サンマルトS」)、又は、この精製マルトースにグルコース(和光純薬(株)販売 試薬特級)、マルトトリオース、マルトテトラオース及び/又はマルトペンタオース(いずれも(株)林原生物化学研究所製造 試薬)を加えて各種組成のマルトース含有溶液を調製した。
【0040】
噴霧方式によるβ−マルトース含水結晶含有粉末の調製は次の通り行った。即ち、原料のマルトース含有溶液を水分25%に濃縮したのち助晶機に移し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を1%加え、ゆっくり攪拌しながら、温度を徐々に30℃まで低下させ、12乃至18時間かけてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させ、マスキットを得た。マスキットの晶出率は36乃至43%であった。助晶を終了した後、マスキットの粘度が50,000cpを超えるものについては、高圧ポンプで送液する前に加温し、晶出率を実質的に低減させることなく約45,000cpに粘度を下げるとともに、加圧ノズルを用いて噴霧した。噴霧時の乾燥用熱風の温度は75℃、熱風の送風方式は噴霧乾燥機内で垂直下降流、送風空気量は噴霧乾燥機内から取出した時の乾燥粉末の水分が約8.5%となるように調節した。
【0041】
得られた粉末は、直ちに、種晶としてα−マルトース無水結晶0.2%と混合接触せしめ、温度90℃、相対湿度(RH)20%の恒温恒湿機内で2時間保存し、次いで、30℃、相対湿度(RH)80%の恒温恒湿機内で5時間保持し、熟成を行ってβ−マルトース含水結晶含有粉末を得た。この粉末を、次に述べる各種物性試験に供した。
【0042】
物性試験には、対照として、精製マルトース((株)林原商事販売 登録商標「サンマルトS」)、試薬β−マルトース含水結晶((株)林原生物化学研究所製造 商品名「マルトースHHH」)及びα−マルトース無水結晶((株)林原商事販売 登録商標「ファイントース」)を用いた。
【0043】
物性試験は次のような方法で行った。
A.糖組成分析は、KS−801カラム(昭和電工製)またはCH04SSカラム(MCI製)を用いた液体クロマトグラフィーを行い、クロマトグラムの面積比より糖組成を求めた。
【0044】
B.吸湿性試験は、アルミカップに入れた試料の蓋をしないで、RH75.2%(飽和塩化ナトリウム水溶液で平衡化)に調整したデシケーター内に入れ、25℃で3日間放置したのち、重量変化を測定し、元のサンプル対する重量増加の割合(%)を求め、吸湿性とした。
【0045】
C.固着性は、吸湿性試験で3日間放置後取り出したアルミカップ内の試料の状態を肉眼観察し、試料が試験前と比べて吸湿したことにより固まっておれば、固着性有りとした。
【0046】
D.溶解性試験は、(i)水に対する溶解性試験としては、25℃の脱イオン水5mlをプラスチック製試験管に入れ、これに各種糖組成のマルトース結晶含有粉末1gを一度に加え、粉末が完全に水中に沈んだ状態で密栓し、これを50℃の恒温槽中で保持し、粉末の溶解状態を20分毎に肉眼観察した。評価は、粉末が完全溶解し、透明になるまでに要する時間(分)を求めた。評価の基準は、粉末が溶けて見えなくなるまでの時間が短いものほど溶解性に優れると判断した。
【0047】
(ii)デキストリン含有溶液に対する溶解性試験としては、粘性を有する濃度17%のデキストリン((株)松谷化学工業製造 商品名「パインデックス#1」)水溶液5mlをプラスチック製試験管に入れ、これに各種糖組成のマルトース結晶含有粉末1gを前記(i)の水に対する溶解性試験の場合と同様に加え、粉末が完全に水中に沈んだ状態で密栓し、これを50℃の恒温槽中で保持し、粉末の状態を肉眼観察した。評価の基準は前記(i)の水に対する溶解性試験の場合と同様とした。
【0048】
E.マルトース異性体の分析は、試料を無水ピリジンに溶解後、TMS化処理を行って、2%OV−17 クロモソルブW(AW−DMCS)を用いたガスクロマトグラフィーを行い、クロマトグラムの面積比よりα、β−アノマー比を求めた。
【0049】
F.粉末の結晶化度の測定は、X線回折装置ガイガーフレックスRDA−IIB(Cu、Kα線使用)(理学電気(株)製)を用いて、粉末X線回折図形に基づくルーランド(Ruland)の方法(アクタ クリスクログラフィカ:Acta Crystallographica、第14巻、第1180頁、1961年)により求めた。測定した粉末のうち、代表的な粉末X線回折図形を図1乃至図5に示した。
【0050】
原料のマルトース含有溶液の糖組成及び得られた各粉末の吸湿性、固着性、溶解性、α−アノマー含量、結晶化度についての試験結果は、各種マルトース結晶含有粉末の物性として表1にまとめた。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、試験No.3乃至6の噴霧方式で得られた、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満及びグルコース2%以上を含有し、他の糖質として、マルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖を含有し、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを7%以上14%未満含有する結晶化度が62%以上72%未満のβ−マルトース含水結晶含有粉末は、吸湿性が低く、固着性が見られず保存安定性良好、取扱い容易で、しかも、水及び粘性を有するデキストリン含有溶液などの水系媒体への溶解性に優れていることが判明した。これに対して、試験No.1及び2のマルトース含量が82.4%及び84.2%と低く、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマー含量が14%を越える結晶化度が62%未満の噴霧方式で得られたβ−マルトース含水結晶含有粉末は、水系媒体への溶解性に優れているものの吸湿性が高く、固着性を示し、保存安定性に劣る不安定な粉末であった。
【0053】
一方、試験No.1のマルトース含量が94.1%と高く、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマー含量が7%以下と少なく、結晶化度が72%を越える噴霧方式で得られたβ−マルトース含水結晶含有粉末は、吸湿性が少なく、固着性がないものの、水系媒体への溶解性に劣る粉末であった。
【0054】
なお、対照として用いた試験No.8の「サンマルトS」は、噴霧方式で得られた粉末である。しかしながら、マルトース純度が95.0%、結晶化度74.5%といずれも高く、吸湿性がほとんどなく、固着性も全くないものの、水系媒体への溶解性に劣るものであった。また、試験No.9の「マルトースHHH」は、マスキットを分蜜して得られた結晶粉末である。本粉末はきわめて高純度のマルトースであって、マルトース純度が99.6%、結晶化度も82.6%と高く、吸湿性がほとんどなく、固着性も全く示さないものの、水系媒体への溶解性に劣るものであった。更に、試験No.10の「ファイントース」は、他の試料と異なって、α−マルトース無水結晶粉末である。本粉末はマルトース中のα−アノマー含量が高く、粉末が示す性質はβ−マルトース含水結晶を主とする他の粉末とは大きく異なっており、結晶化度の違いにかかわらず、吸湿性が高く、固着性も激しく、保存安定性に劣る不安定な粉末であり、その上、水系媒体への溶解性に劣るものであった。
【0055】
以上の結果から、噴霧方式によるβ−マルトース結晶含有粉末の製造においては、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満及びグルコース2%以上を含有している溶液を原料とし、本発明の一連の製造方法に従って製造すると、水系媒体への溶解性に優れ、取扱いの容易なβ−マルトース結晶含有粉末を得ることができることが判明した。
【0056】
従って、本発明を採用することにより得られる、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満及びグルコース2%以上を含有し、結晶化度が62%以上72%未満であるβ−マルトース結晶含有粉末は、水系媒体への溶解性に優れ、取扱い容易で、しかも高収率に製造できるのに加え、これまでと比較して、水系媒体に溶解して使用するときの作業時間を大幅に短縮することができ、産業上もきわめて価値の高いものといえる。
【0057】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
<マルトース含有溶液の調製>
馬鈴薯澱粉1質量部と水4質量部との懸濁液に市販の細菌液化型α−アミラーゼ(スピターゼHS 長瀬産業(株)製)を加え90℃に昇温し、加熱糊化したのち、直ちに130℃に加熱して酵素反応を止め、DE1.8の液化液を得た。この澱粉液化液を55℃まで急冷し、澱粉枝切り酵素(シュードモナス菌を培養して調製したイソアミラーゼ)を澱粉1g当たり100単位および大豆由来のβアミラーゼ(商品名#1500 長瀬産業(株)製)を澱粉1g当たり50単位、更に、マルトゲナーゼ(ノボ ノルディスク(株)製)を糖質1g当たり10単位加え加えpH5.0に保って40時間糖化した。これを、常法に従って、活性炭処理による脱色、イオン交換樹脂処理による脱塩を行って精製し、減圧濃縮してマルトース含有溶液を得た。マルトース含有溶液の糖組成は、グルコース3.8%、マルトース92.5%、マルトトリオース1.1%、マルトテトラオース以上2.6%であった。
【実施例2】
【0059】
<β−マルトース含水結晶含有粉末の調製>
実施例1で得られたマルトース含有溶液を水分29%に濃縮したのち助晶缶に移し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を1%加え、ゆっくり攪拌しながら、マスキットの温度を徐々に29℃まで低下させ、12時間かけてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させた。マスキットの晶出率は37%となった。助晶終了後のマスキットを高圧ポンプで送液し、回転円盤を用いて噴霧乾燥機内に噴霧した。このときの乾燥用熱風の温度は70℃、熱風の送風は噴霧乾燥機内で垂直下降並流、送風空気量は噴霧乾燥機内から取出し時の乾燥粉末の水分が7.5%となるように調節した。
【0060】
この粉末を直ちにα−マルトース無水結晶0.2%と混合接触させ、温度85℃、相対湿度(RH)20%で3時間保持し、次いで、30℃、相対湿度(RH)80%で5時間保持し熟成を行って、結晶化度が71.4%、水分6.1%のβ−マルトース含水結晶含有粉末を、原料の馬鈴薯澱粉に対し、無水物換算で、収率96%で得た。本粉末は、無水物換算で、マルトース92.5%とともに、グルコース3.8%、マルトトリオース1.1%及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖2.6%を含有し、しかも、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを7.8%含有しているもので、水系媒体への溶解性に優れていた。しかも、25℃、相対湿度(RH)75.2%の条件下で保存してもほとんど吸湿性を示さず、保存安定性に優れ、流動性良好で、取扱い容易な粉末であった。また、本粉末の粒度分布を測定した結果、粒子中に微粒子が凝集した粉末を含み、150μm以上300μm以下の粒子が41%含まれていた。
【0061】
また、本粉末は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、変色防止剤、増量剤、賦形剤、結合剤などとして、とりわけ、水系媒体への溶解性に優れているので、例えば、水のみならず、ペースト状、半固状物などに溶解、含有せしめて、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。更に、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成形して使用することも随意である。
【実施例3】
【0062】
<マルトース含有溶液の調製>
コーンスターチ1質量部と水3質量部との懸濁液に市販の細菌液化型α−アミラーゼ(スピターゼHS 長瀬産業(株)製)を加え90℃に昇温し、加熱糊化したのち直ちに130℃に加熱して酵素反応を止め、DE2.5の液化液を得た。この澱粉液化液を55℃まで急冷し、澱粉枝切り酵素(シュードモナス菌を培養して調製したイソアミラーゼ)を澱粉1g当たり50単位および大豆由来のβアミラーゼ(商品名#1500 長瀬産業(株)製)を同じく20単位加えpH5.0に保って40時間糖化し、マルトース含量が固形物当たり84.6%の高純度マルトース含有糖化液を得た。マルトース含有糖化液の糖組成は、グルコース3.5%、マルトース84.6%、マルトトリオース8.2%、マルトテトラオース以上3.7%であった。
【0063】
この糖化液に、更に、タカアミラーゼAを糖質1g当たり50単位加えpH5.5に保って、更に20時間、酵素反応を進めた。これを常法に従って、活性炭処理による脱色、イオン交換樹脂処理による脱塩を行い精製し、減圧濃縮してマルトース含有溶液を得た。マルトース含有溶液の糖組成は、グルコース5.6%、マルトース91.2%、マルトトリオース1.3%、マルトテトラオース以上1.9%であった。
【実施例4】
【0064】
<β−マルトース含水結晶含有粉末の調製>
実施例3で得られたマルトース含有溶液を水分26%に濃縮したのち助晶機に移し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を1%加え、ゆっくり攪拌しながら、マスキットの温度を徐々に30℃まで低下させ、14時間かけてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させた。マスキットの晶出率は41%であった。助晶終了後のマスキットを高圧ポンプで送液し、回転円盤を用いて噴霧乾燥機内に噴霧した。乾燥用の熱風の温度は75℃、熱風の送風は噴霧乾燥機内で垂直下降並流、送風空気量は噴霧乾燥機内から取出し時の乾燥粉末の水分が8.5%となるように調節した。
【0065】
この粉末を直ちにα−マルトース無水結晶0.2%と混合接触させ、温度90℃、相対湿度(RH)25%で2時間保持し、次いで、30℃、相対湿度(RH)80%で5時間保持し熟成を行って、結晶化度70.4%、水分6.1%のβ−マルトース含水結晶含有粉末を、原料のコーンスターチに対し、無水物換算で、収率95%で得た。本粉末は、無水物換算で、マルトース91.2%とともに、グルコース5.6%、マルトトリオース1.3%及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖1.9%を含有し、しかも、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを9.2%含有しているもので、水系媒体への溶解性に優れていた。しかも、25℃、相対湿度(RH)75.2%の条件下で保存してもほとんど吸湿性を示さず、保存安定性に優れ、流動性良好で、取扱い容易な粉末であった。また、本粉末の粒度分布を測定した結果、粒子中に微粒子が凝集した粉末を含み、150μm以上300μm以下の粒子が47%含まれていた。
【0066】
また、本粉末は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、変色防止剤、増量剤、賦形剤、結合剤などとして、とりわけ、水系媒体への溶解性に優れているので、例えば、水のみならず、ペースト状、半固状物などに溶解、含有せしめて、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。更に、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成形して使用することも随意である。
【実施例5】
【0067】
<マルトース含有溶液の調製>
コーンスターチ3質量部と水7質量部との懸濁液に市販の細菌液化型α−アミラーゼ(スピターゼHS 長瀬産業(株)製)を加え90℃に昇温し、加熱糊化したのち直ちに130℃に加熱して酵素反応を止め、DE4.3の液化液を得た。この澱粉液化液を55℃まで急冷して澱粉枝切り酵素(シュードモナス菌を培養して調製したイソアミラーゼ)を澱粉1g当たり50単位、大豆由来のβアミラーゼ(商品名#1500 長瀬産業(株)製)を同じく20単位を加えpH5.0に保って40時間糖化し、マルトース含量が固形物当たり84.6%の糖化液を得た。これを、常法に従って、活性炭処理による脱色、イオン交換樹脂処理による脱塩を行って精製し、減圧濃縮して糖濃度45%のマルトース含有溶液を得て、分画原料とした。
【0068】
分画に用いた分画用樹脂は、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(東京有機化学工業(株)製 商品名アンバーライトXT−1007Na型、架橋度6%)を使用し、内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラムに水懸濁液で充填し、糖質溶液が直列に流れるようにカラム2本を連結して樹脂層全長を10mとした。
【0069】
カラム内温度を55℃に維持しつつ、原料の糖質溶液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.3で流して分画し、マルトトリオース高含有画分を分離、除去して、マルトースを高含有しているとともに他にオリゴ用などを含有しているマルトース高含有画分を採取した。次いで、常法に従って、活性炭処理による脱色、イオン交換樹脂処理による脱塩を行って精製し、減圧濃縮してマルトース含有溶液を得た。このマルトース含有溶液の糖組成は、グルコース6.0%、マルトース90.1%、マルトトリオース0.8%、マルトテトラオース以上3.1%であった。
【実施例6】
【0070】
<β−マルトース含水結晶含有粉末の調製>
実施例5で得られたマルトース含有溶液を水分24%に濃縮したのち助晶機に移し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を1%加え、ゆっくり攪拌しながら、マスキットの温度を徐々に29℃まで低下させ、15時間かけてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させた。晶出率は40%であった。助晶終了後のマスキットは粘度が高いため、高圧ポンプで送液時に加温し、晶出率を低減させることなく、約40,000cpに粘度を下げるとともに、加圧ノズルを用いて噴霧乾燥機内に噴霧した。このときの乾燥用熱風の温度は75℃とし、熱風の送風は噴霧乾燥機内で垂直下降並流とし、送風空気量は噴霧乾燥機内から取出し時の乾燥粉末の水分が9.0%となるように調節した。
【0071】
この粉末を直ちにα−マルトース無水結晶0.2%と混合接触させ、温度85℃、相対湿度(RH)20%で2時間保持し、次いで、35℃、相対湿度(RH)75%で5時間保持し熟成を行って、結晶化度が69.0%、水分6.4%のβ−マルトース含水結晶含有粉末を、原料コーンスターチに対して、無水物換算で、収率89%で得た。本粉末は、無水物換算で、マルトース90.1%とともに、グルコース6.0%、マルトトリオース0.8%及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖3.1%を含有し、しかも、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを9.9%含有しているもので、水系媒体への溶解性に優れていた。しかも、25℃、相対湿度(RH)75.2%の条件下で保存してもほとんど吸湿性を示さず、保存安定性にも優れ、流動性良好で、取扱い容易な粉末である。また、本粉末の粒度分布を測定した結果、粒子中に微粒子が凝集した粉末を含み、150μm以上300μm以下の粒子が51%含まれていた。
【0072】
また、本粉末は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、変色防止剤、増量剤、賦形剤、結合剤などとして、とりわけ、水系媒体への溶解性に優れているので、例えば、水のみならず、ペースト状、半固状物などに溶解、含有せしめて、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。更に、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成形して使用することも随意である。
【実施例7】
【0073】
<マルトース含有溶液の調製>
コーンスターチ1質量部と水2質量部との懸濁液に市販の細菌液化型α−アミラーゼ(スピターゼHS 長瀬産業(株)製)を加え90℃に昇温し、加熱糊化したのち直ちに130℃に加熱して酵素反応を止め、DE4.3の液化液を得た。この澱粉液化液を55℃まで急冷して澱粉枝切り酵素(シュードモナス菌を培養して調製したイソアミラーゼ)を澱粉1g当たり50単位、大豆由来のβアミラーゼ(商品名#1500 長瀬産業(株)製)を同じく10単位加え、pH5.0に保って40時間糖化し、マルトース含量が固形物当たり74.1%の糖化液を得た。これを、常法に従って、活性炭処理による脱色、イオン交換樹脂処理による脱塩を行って精製し、減圧濃縮して糖濃度45%のマルトース含有溶液を得て、分画原料とした。
【0074】
分画に用いた分画用樹脂は、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(東京有機化学工業(株)製 商品名アンバーライトXT−1007Na型、架橋度6%)を使用し、内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラムに水懸濁液で充填し、糖質溶液が直列に流れるようにカラム2本を連結して樹脂層全長を10mとした。
【0075】
カラム内温度を55℃に維持しつつ、原料の糖質溶液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.3で流して分画し、マルトトリオース高含有画分を分離、除去して、マルトースを高含有しているとともに他にオリゴ用などを含有しているマルトース高含有画分を採取した。次いで、常法に従って、活性炭処理による脱色、イオン交換樹脂処理による脱塩を行って精製し、減圧濃縮してマルトース含有溶液を得た。マルトース含有溶液の糖組成は、グルコース9.8%、マルトース87.4%、マルトトリオース1.0%、マルトテトラオース以上1.8%であった。
【実施例8】
【0076】
<β−マルトース含水結晶含有粉末の調製>
実施例7で得られたマルトース含有溶液を水分20%に濃縮したのち助晶機に移し、種晶としてβ−マルトース含水結晶を1%加え、ゆっくり攪拌しながら、マスキットの温度を徐々に32℃まで低下させ、16時間かけてβ−マルトース含水結晶を部分的に晶出させた。晶出率は39%となった。助晶終了後のマスキットは粘度が高いために、高圧ポンプで送液時に加温し、晶出率を低減させることなく、約45,000cp以下に粘度を下げるとともに、回転円盤を用いて噴霧乾燥機内に噴霧した。このときの乾燥用熱風の温度は90℃とし、熱風の送風は噴霧乾燥機内で垂直下降並流とし、送風空気量は噴霧乾燥機内から取出し時の乾燥粉末の水分が9.5%となるように調節した。
【0077】
この粉末を直ちにα−マルトース無水結晶0.2%と混合接触させ、温度90℃、相対湿度(RH)20%で3時間保持し、次いで、30℃、相対湿度(RH)80%で5時間保持し熟成を行って、結晶化度が64.6%、水分6.8%のβ−マルトース含水結晶含有粉末を、原料のコーンスターチに対し、無水物換算で、収率80%で得た。本粉末は、無水物換算で、マルトース87.4%とともに、グルコース9.8%、マルトトリオース1.0%及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖1.8%を含有し、しかも、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを12.7%含有しているもので、水系媒体への溶解性に優れていた。しかも、25℃、相対湿度(RH)75.2%の条件下で保存してもほとんど吸湿性を示さず、保温安定性に優れ、流動性良好で、取扱い容易な粉末であった。また、本粉末の粒度分布を測定した結果、粒子中に微粒子が凝集した粉末を含み、150μm以上300μm以下の粒子が53%含まれていた。
【0078】
また、本粉末は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、変色防止剤、増量剤、賦形剤、結合剤などとして、とりわけ、水系媒体への溶解性に優れているので、例えば、水のみならず、ペースト状、半固状物などに溶解、含有せしめて、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。更に、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成形して使用することも随意である。
【実施例9】
【0079】
<甘味料>
実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末0.5質量部、ソルビトール無水結晶0.5質量部、α−グリコシルステビオシド(東洋精糖(株)販売登録商標「αGスイート」)0.01質量部及びL−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(味の素(株)社販売 登録商標「アスパルテーム」)0.01質量部を均一に混合し、顆粒成型機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2倍の甘味度を有し、実質的に低カロリーである。本甘味料は、それに配合した高甘味度甘味物の分解もなく、安定性に優れており、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付けに好適である。また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付けにも好適である。
【実施例10】
【0080】
<ハードキャンディー>
蔗糖50質量部と実施例4の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末50質量部を水100質量部に溶解、加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸0.6質量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成形し、製品を得た。本品は歯切れ、色調、呈味、風味とも良好で、蔗糖の晶出も起こさず、吸湿性少なく、ダレも起こさない安定で高品質のハードキャンディーである。
【実施例11】
【0081】
<チューインガム>
ガムベース3質量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに無水結晶マルチトール((株)林原商事販売 登録商標「マビット」)2質量部、キシリトール2質量部、実施例6の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末2質量部、及び含水結晶トレハロース((株)林原商事販売 登録商標「トレハ」)1質量部を加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、テクスチャー、呈味、風味良好で、低う蝕性、低カロリーのチューインガムとして好適である。
【実施例12】
【0082】
<加糖練乳>
原乳100質量部に実施例8の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末2質量部及び蔗糖2質量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。本品は、温和な甘味で風味も良く、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【実施例13】
【0083】
<乳酸菌飲料>
脱脂粉乳175質量部、実施例4の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末60質量部及びラクトスクロース高含有粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『乳果オリゴ』)50質量部を水1,150質量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30質量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好で、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保つだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用、整腸作用を有する乳酸菌飲料として好適である。
【実施例14】
【0084】
<粉末ジュース>
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33質量部に対して、実施例8の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末50質量部、無水結晶マルチトール((株)林原商事販売 登録商標「マビット」)10質量部、無水クエン酸0.65質量部、リンゴ酸0.1質量部、アスコルビン酸2−グルコシド結晶粉末((株)林原商事販売)0.2質量部、クエン酸ソーダ0.1質量部、プルラン((株)林原商事販売 PF−20)0.5質量部及び粉末香料の適量をよく混合攪拌し、粉砕し微粉末にして、これを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃とし、これに実施例−4−bの方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末を水に溶解した70%溶液をバインダーとして適量スプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。又、本品は、異味、異臭がなく、高品質のジュースとして商品価値の高いものである。
【実施例15】
【0085】
<コーヒー飲料>
焙煎したコーヒー豆100質量部を粉砕し、これに熱水1,000質量部を用いて抽出し、抽出液860質量部を得た。本液450質量部に実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末90質量部及び適量の重曹を含む水400質量部を加え、均一に混合して中性pHのコーヒー飲料を調製し、次いで、これを常法に従って、缶に充填し、120℃、30分間加熱殺菌して缶入りコーヒー飲料を製造した。本品は、香り、味ともに良好な高品質のコーヒー飲料である。また、本品を自動販売機に入れ、60℃で1ヶ月間保持した後も、その良好な風味をよく維持していた。また、本品は、夏場向けに冷却して保存しても、香り、味ともに良好な高品質のコーヒー飲料である。
【実施例16】
【0086】
<カスタードクリーム>
コーンスターチ100質量部、実施例4の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末50質量部、含水結晶トレハロース((株)林原商事販売 登録商標「トレハ」)60質量部、砂糖40質量部、及び食塩1質量部を充分に混合し、鶏卵280質量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1,000質量部を徐々に加え、更に火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、風味良好で、澱粉の老化も抑制され、高品質のカスタードクリームである。
【実施例17】
【0087】
<ういろうの素>
米粉90質量部に、コーンスターチ20質量部、無水結晶マルチトール((株)林原商事販売 登録商標「マビット」)70質量部、実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末50質量部、及びプルラン((株)林原商事販売 PF−20)4質量部を均一に混合してういろうの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。本品は、照り、口当たりも良好で、風味も良い。又、澱粉の老化も抑制され、日持ちも良く、低カロリーのういろうとしても好適である。
【実施例18】
【0088】
<求肥>
餅粉4質量部を水6質量部で溶いて、木枠に濡れ布巾を敷いたものに流し込み、これを100℃で20分間蒸した後、これに実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末2質量部及び砂糖2質量部を加えて十分にこねた後に成形し、求肥を得た。本品は、風味良好であり、しかも糊化した餅米澱粉の老化が抑制され、その賞味期間を大幅に延長することができる。
【実施例19】
【0089】
<あん>
原料あずき10質量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きし、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶあん約21質量部を得た。この生あんに砂糖14質量部、実施例6の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末3質量部及び水7質量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんを壊さないように練り上げ、製品のあんを約35質量部得た。本品は、色焼け、離水もなく安定で、舌触り、風味良好で、あんパン、まんじゅう、団子、最中、氷菓などの製菓材料として好適である。
【実施例20】
【0090】
<パン>
小麦粉100質量部、イースト2質量部、砂糖5質量部、実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末5質量部および無機フード0.1質量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成、焼き上げた。本品は、色相、すだちとも良好で、適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
【実施例21】
【0091】
<アイシング>
実施例4の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末10質量部に乳化剤(シュガーエステル)1.2質量部を加熱混合し、次いで、含水結晶トレハロース((株)林原商事販売 登録商標「トレハ」)107質量部を混合し、更に45℃に保ちながら、油脂7.5質量部を混合してアイシングを製造した。本品は、トレハロース微結晶を含有し、成形性良好でべたつきもなく、経日変化の少ないアイシングである。
【実施例22】
【0092】
<ボンボン>
実施例6の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末3質量部、含水結晶トレハロース((株)林原商事販売 登録商標「トレハ」)300質量部及び水115質量部を混合し、加熱してBx70まで煮詰め、品温を80℃まで冷却し、ブランディー40質量部を混合した後、常法に従って成形してボンボンを得た。本品は、トレハロースの微結晶を含有し、ブランディー風味豊かで、径日変化の少ない高品質のボンボンである。
【実施例23】
【0093】
<ハム>
豚もも肉1,000質量部に食塩15質量部および硝酸カリウム3質量部を均一にすり込んで、冷室に1昼夜堆積する。これを水500質量部、食塩100質量部、硝酸カリウム3質量部、実施例8の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末40質量部および香辛料からなる塩漬液に冷室で7日間漬け込み、次いで、常法に従い、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、薫煙し、クッキングし、冷却、包装して製品を得た。本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
【実施例24】
【0094】
<佃煮>
砂取り、酸処理して角切りした昆布250質量部に醤油212質量部、アミノ酸液318質量部及び実施例6の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末35質量部及び砂糖20質量部を加えて煮込みつつ、更にグルタミン酸ソーダ12質量部、カラメル8質量部を加えて炊きあげ、昆布の佃煮を得た。本品は低う蝕性の佃煮である。また、味、香りだけでなく、色、艶ともに食欲をそそるものである。
【実施例25】
【0095】
<浴用剤>
ユズの皮ジュース1質量部に対して、実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末10質量部の割合で混合し、ユズの皮エキス含有粉末を得た。本粉末5質量部に、焼塩90質量部、含水結晶トレハロース((株)林原商事販売 登録商標「トレハ」)2質量部、無水ケイ酸1質量部及びα−グルコシル ヘスペリジン((株)林原商事販売、商品名αGヘスペリジン)0.5質量部、アスコルビン酸2−グルコシド結晶粉末((株)林原商事販売)2質量部を混合して浴用剤を製造した。本品は、ユズの香りも豊かで、入浴用の湯に100乃至10,000倍に希釈して利用すればよく、入浴後は、肌がしっとりしなめらかで、湯冷めしない高品質の浴用剤である。
【実施例26】
【0096】
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、実施例2の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末5質量部、α−グルコシル ルチン(株式会社林原販売、登録商標「αGルチン」)1質量部、アスコルビン酸2−グルコシド結晶粉末((株)林原商事販売)1質量部流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリン10質量部および防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2質量部、1,3−ブチレングリコール5質量部および精製水66質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合し、化粧用クリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【実施例27】
【0097】
<練歯磨>
第二リン酸カルシウム45質量部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、グリセリン25質量部、ポオキシエチレンソルビタンラウレート0.5質量部、実施例4の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末10質量部、サッカリン0.02質量部および防腐剤0.05質量部を水13質量部と混合して練歯磨を得た。本品は、界面活性剤の洗浄力を落とすことなく、嫌味を改良し、使用後感も良好である。
【実施例28】
【0098】
<流動食用固体製剤>
実施例6の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末100質量部、トレハロース含水結晶200質量部、マルトテトラオース高含有粉末200質量部、粉末卵黄270質量部、脱脂粉乳209質量部、塩化ナトリウム4.4質量部、塩化カリウム1.8質量部、硫酸マグネシウム4質量部、チアミン0.01質量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1質量部、ビタミンEアセテート0.6質量部及びニコチン酸アミド0.04質量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、β−マルトース含水結晶含有粉末及びトレハロース含水結晶により適度の甘味が付加され、整腸作用に優れた流動食である。1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
【実施例29】
【0099】
<錠剤>
アスピリン50質量部に実施例8の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末14質量部、コーンスターチ4質量部を充分に混合した後、常法に従って打錠機により打錠して厚さ5.25mm、1錠680mgの錠剤を製造した。本品は、β−マルトース含水結晶含有粉末の賦形性を利用したもので、吸湿性がなく、物理的強度も充分にあり、しかも水中での崩壊はきわめて良好である。
【実施例30】
【0100】
<糖衣錠>
重量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例8の方法で得たβ−マルトース含水結晶含有粉末40質量部、プルラン((株)林原商事販売 PF−20)2質量部、水30質量部、タルク25質量部および酸化チタン3質量部からなる下掛け液を用いて錠剤重量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じβ−マルトース含水結晶含有粉末65質量部、プルラン((株)林原商事販売 PF−20)1質量部および水34質量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢のある外観の優れた糖衣錠を得た。本品は、耐衝撃性にも優れており、高品質を長期間維持する。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上の説明から明らかなように、本発明の噴霧方式で粉末化され、無水物換算で、マルトース86%以上93%未満及びグルコース2%以上を含有し、結晶化度が62%以上72%未満であるβ−マルトース含水結晶含有粉末は、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマーを7%以上14%未満含有し、水系媒体への溶解性に優れ、且つ、保存安定性に優れ、流動性良好で、取扱い容易な粉末である。また、これらのβ−マルトース含水結晶含有粉末は、グルコース、マルトトリオース及びグルコース重合度4以上のオリゴ糖などのマルトース以外の糖質を7%以上14%未満と比較的多量共存含有しているにもかかわらず、噴霧方式での製造が容易であり、連続的で、短時間に製造することもでき、粉末収率も高いことから、コストダウンを計ることも容易である。
【0102】
従って、本発明の確立は、水系媒体への溶解性に優れたβ−マルトース含水結晶含有粉末を容易に、低コストで製造できることから、澱粉糖製造業だけでなく、利用する側の人にとっても作業性の向上などが期待できるために好都合であり、該当する業界を初めとする産業界に与える工業的意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】マルトース含量が、無水物換算で86.2%で結晶化度が62.1%を示すβ−マルトース含水結晶含有粉末の粉末X線回折図形。
【図2】マルトース含量が、無水物換算で91.3%で結晶化度が70.8%を示すβ−マルトース含水結晶含有粉末の粉末X線回折図形。
【図3】マルトース含量が、無水物換算で95.0%で結晶化度が74.5%を示す精製マルトース 登録商標「サンマルトS」の粉末X線回折図形。
【図4】マルトース含量が、無水物換算で99.6%で結晶化度が82.6%を示す試薬β−マルトース含水結晶 商品名「マルトースHHH」の粉末X線回折図形。
【図5】マルトース含量が、無水物換算で98.5%で結晶化度が76.3%を示すα−マルトース無水結晶 登録商標「ファイントース」の粉末X線回折図形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧方式で粉末化され、無水物換算で、マルトース86質量%以上93質量%未満およびグルコース2質量%以上を含有し、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマー含量が7質量%以上14質量%未満、結晶化度が約62%以上約72%未満であって、106μmを越える粉末を60質量%以上、望ましくは、150μmを越え300μm以下の粉末を40質量%以上含むことを特徴とするβ−マルトース含水結晶含有粉末。
【請求項2】
無水物換算で、マルトース86質量%以上93質量%未満を含有するマルトース含有溶液を適宜濃縮、助晶してマスキットとし、このマスキットを噴霧方式で粉末化して、無水物換算で、マルトース86質量%以上93質量%未満およびグルコース2質量%以上を含有し、マルトース異性体としてマルトース中のα−アノマー含量が7質量%以上14質量%未満、結晶化度が約62%以上約72%未満であって、106μmを越える粉末を60質量%以上、望ましくは、150μmを越え300μm以下の粉末を40質量%以上含むβ−マルトース含水結晶含有粉末とすることを特徴とするβ−マルトース含水結晶含有粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−166921(P2006−166921A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4956(P2006−4956)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【分割の表示】特願2002−234191(P2002−234191)の分割
【原出願日】平成13年8月22日(2001.8.22)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】