説明

β−ラクタムを用いたクラミジア科感染症の治療

本発明は、β−ラクタムを用いた、クラミジア科細菌の感染を治療する方法に関する。本発明は、β−ラクタムを用いた、クラミジア科細菌の感染により引き起こされる疾患を治療するための方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(導入)
クラミジア科は、クラミジア(Chlamydia)及びクラミドフィラ(Chlamydophila)の2つの属を含み、各々の属は、複数の種を含む;各々の種は、種々の生物型及び血清型からなる。これらの種は各々、ヒト及び動物において、一連の重篤な病態を引き起こす。
【背景技術】
【0002】
クラミジア科の細菌は、グラム陰性である。これらは、感染した真核細胞内の寄生体胞中のみで成長し、増殖するので、「偏性細胞内寄生性(intracellulaires strictes)」として知られる。成長の間、クラミジア科の細菌は2つの形態をとる:
− 感染形態であり分裂しない、基本小体(EB)、及び
− 非感染性、偏性細胞内寄生性であり、二分裂により分裂する、網様体(RB)。
【0003】
EBは、小胞内で宿主細胞に侵入する。複数のEBが同一細胞に感染する場合には、中心体で小胞が会合し、融合して封入体を形成する。感染から5〜12時間後に、EBはRBに分化し、活発に増殖する。30〜40時間後、RBはEBに変換する;次いで、封入体及び宿主細胞は溶解し、子孫の細菌を放出して、隣接する細胞に感染する。これらパラメーターは全て、実験条件に従って、1つの血清型及び細菌種と次のものとで異なり得る(Fields,K.A.&T.Hackstadt,Annu Rev Cell Dev Biol 18:221−45,2002)。
【0004】
その成長サイクルの間、細菌は、宿主細胞で生存するために多数の戦略を展開する。クラミジア科の細菌は、とりわけ、細胞外シグナルにより誘起されるアポトーシスを阻害し、細菌封入体とリソソームとの融合を阻害し、空胞(vacuole)を小胞輸送させてその増殖を可能にし、且つ免疫系への抗原提示に関与する、主要組織適合性複合体分子に対する転写因子を含む多数の真核生物タンパク質の分解に関与するキープロテアーゼであるクラミジアプロテアーゼ/プロテアソーム様活性因子(CPAF)を細胞質に注入する。
【0005】
連続した細菌サイクルの間に展開されるこれらメカニズムには、持続性(persistance)の現象が付加される。ある種の抗生物質又はインターフェロンγ(IFN−γ)の存在などの、細胞環境における特定のストレスに応答して、細菌は、自己の細菌サイクル及び増殖メカニズムを停止し、それによりin vitroで培養できない持続的な生存体になる。持続性により、病原体と宿主との高レベルの相互作用が説明され、細菌が数ヶ月間、生物中で生存し続けることが可能となる。In vivoで持続性を実証することは非常に困難であるが、複数の研究により、クラミジア科の細菌が、生殖管、結膜、血管組織などの組織内で数年間存在でき、それ故、反復性の感染及び慢性炎症が引き起こされることが示唆されている(Beatty et al.,Microbiol Rev 58(4):686−99,1994;Kern et al.,FEMS Immunol Med Microbiol.55(2):131−9,2009)。
【0006】
クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)は、2つの生物型(トラコーマ及びリンパ肉芽腫)及び18の血清型(A〜L)にさらに分割され、世界中における広範な疾患にとりわけ関与している。
【0007】
例えば、発展途上国において、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型D〜Kは、細菌起源の性感染症の圧倒的な主因である。生物型LGVは、もう一つの性感染症である鼠径リンパ肉芽腫(デュランドニコラファブル病(Durand−Nicolas−Favre disease)としても知られる)に関与することから、その名が付けられている。
【0008】
女性において、生殖器のクラミジアは、多くの場合、無症状性であり、結果として、未治療のままとなる。クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)は、全てのレベルの生殖器に影響を及ぼし、子宮頸内膜炎を引き起こし得、そこで感染の貯蔵庫となる。クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)は、尿道炎及び子宮内膜炎も引き起こし得る。感染に起因する慢性炎症は、卵管の全体的又は部分的な閉塞の原因である(卵管炎)。クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)は、典型的又は非典型的な卵管炎の最も一般的な原因である。卵管炎は、女性において、卵管性不妊症及び子宮外妊娠の主要なリスクファクターである。卵管への攻撃は、女性の生殖能力に関して、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の感染後数ヶ月間、影響をもたらすことに留意すべきである。従って、受精及び受精卵の通過が可能な期間が存在する。その後、卵子は、汚染された子宮腔に到達する。この場合、絨毛膜の炎症に起因する、着床不全、子宮内での成長遅延及び早産が観察される。
【0009】
さらに、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型A〜Cは、後天盲に関与する、眼感染症トラコーマを引き起こす。一次感染は、最初は後遺症のない粘液膿性結膜炎の原因である。反復性又は持続性の感染エピソードは、上皮下の濾胞の存在及びその後の上眼瞼の瞼結膜の乳頭肥大により特徴付けられる慢性炎症の原因である。この結膜組織の感染は、数年間にわたって進行し得、眼の方向へと睫が偏位し、角膜の刺激(逆睫)を引き起こし、延いては失明の原因となる混濁を導く。現在まで、再感染後又は持続後の細菌の存在に起因する慢性炎症が、クラミジア後遺症の原因である。持続性は、結膜と直接接触する細胞、角膜上皮細胞又は角膜輪部幹細胞が感染することにより説明がつく。しかし、角膜は完全に無血管であるため、免疫細胞にアクセスすることができず、持続性が促進され得る。この古典的な疾患には、8400万人が罹患しており(世界の最貧国における大多数)、このうち800万人が視覚欠損を有しており、この疾患は、2007年、世界において、最も予防可能な失明原因であった。この疾患は、世界保健機関による絶滅プログラムの対象である。
【0010】
代謝的に活性で、それ故、治療感受性の最も高いRBに、脂溶性細胞膜を通って達することができる抗生物質で、クラミジア科感染症は一般に治療される。テトラサイクリン(ドキシサイクリン及びテトラサイクリン)、キノロン(オフロキサシン及びレボフロキサシン)及びマクロライド(エリスロマイシン及びアジスロマイシン)は、クラミジア科感染症において最も一般的に使用される抗生物質ファミリーの3種である。それらは、とりわけ単純性生殖器感染症の場合に、感染組織におけるクラミジア科細菌の排除に非常に効果的である。それにも関わらず、患者が再感染しない場合又は抗生物質治療を止めない場合の有効な治癒率は、わずか70%〜80%である。これは、現在の抗クラミジア科抗生物質療法が、完全に効果的でないことを実証する傾向にある。特定の患者内でのこれらの治療の無効性は、少なくとも部分的には、持続型(formes persistantes)の細菌の存在に起因することが示唆される。
【0011】
現在提案されている治療に対して持続型の細菌が非感受性であるという仮説は、殺菌性抗生物質を使用した、in vitroで実施された複数の研究により支持される。これらの研究において、アジスロマイシンのみが、持続型のクラミジアの絶滅に有効であるようだ。それにも関わらず、in vivoで実施された研究では、持続型のクラミジアに対するアジスロマイシンの破壊効果に反して、アジスロマイシンで治療された患者の子宮頸及び男性尿管の生検での電子顕微鏡検査法により、持続性の細菌体を想起させる、異常な形態の細菌が実証された(Bragina et al.,J Eur Acad Dermatol Venereol.15(5):405−9,2001;Katz&Fortenberry,Proceedings of the Ninth International Symposium on Human Chlamydial Infection,1998)。
【0012】
現在、ワクチン接種が、クラミジア科感染症を制御する最良の手段と目されている。それにも関わらず、抗クラミジアワクチンの研究は、効果的な保護的免疫と、この反応と関連する病態とのバランスを必要とする複雑な作業である。さらに、持続型のクラミジア科は、免疫系により検出され得ないので、ワクチンによりこれを絶滅できる可能性は極めて低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、クラミジア科感染症、特に持続性のクラミジア科感染症に対する効果的な治療が必要とされている。
【0014】
本発明者らは、驚くべき方法により、持続型のクラミジア科が、β−ラクタムに感受性を示し、それ故、β−ラクタムをクラミジア症の治療に使用できることを発見した。
【0015】
(発明の説明)
現在まで、β−ラクタム、特にペニシリンGが、クラミジア科の持続性を誘起することが通説となっている。ペニシリンGでの治療は、研究所において、持続性を誘導するために使用される好ましい手段の一つでさえあった(Beatty et al.,Microbiol.Rev.58(4):686−699,1994;Huston et al.,BMC Microbiol.8:190,2006;Goellner et al.,Infect Immun.74(8):4801−8,2006;Skilton,R.J.et al.,PLoS One 4:e7723,2009)。1970年代、ペニシリンGで感染細胞を治療すると、RB分裂に影響を及ぼし、見かけ上持続性の細菌表現型の生成が導かれることが観察され、このモデルが開発された(Matsumoto,A.and G.P.Manire,J Bacteriol 101:278−285,1970;Kramer,M.J.and F.B.Gordon,Infect Immun 3:333−341,1971;How,S.J.et al.,J Antimicrob Chemother 15:399−404,1985;Kuo,C.C.et al.,Antimicrob Agents Chemother 12:80−83,1977;Huston,W.M.et al.,BMC Microbiol 8:190,2008;Skilton,R.J.et al.,PLoS One 4:e7723,2009;Johnson,F.W.and D.Hobson,J Antimicrob Chemother 3:49−56,1977;Lambden,P.R.et al.,Microbiology 152:2573−2578,2006)。しかし、同一の研究では、β−ラクタムでの治療は、細菌封入体の増殖動態に影響を及ぼさないが、「古典的な」持続性細菌よりも大きな(5〜10μm)異常な細菌の形成を導くことも多くの場合示された。さらに、他の研究では、ペニシリンGの除去は、感染性を回復しないことが示されている(Johnson,F.W.and D.Hobson,J Antimicrob Chemother 3:49−56,1977;Wolf,K.et al.,Infect Immun 68:2379−2385,2000;Peters,J.et al.,Cell Microbiol 7:1099−1108,2005)。このような特徴は、持続性の定義と一致していないが、それにも関わらず、β−ラクタムでの抗生物質療法は、in vivoにおいて細菌の持続性を導き得ると想定されている。結果として、β−ラクタムを用いた、この抗生物質療法は推奨されなかった。
【0016】
クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)において持続性を誘起するペニシリンGの役割と一致して、実施された臨床試験では、β−ラクタム治療活性が実証されなかった。著者らは、ペニシリンG及び他のβ−ラクタムは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)に対して何ら効果を有さないとさえ結論付けた(Heinonen et al.,Genitourin Med 62:235−239,1986;Ridgway G.L.,J Antimicrob Chemother 40(3):311−4,1997)。これは、今日まで一般に受け入れられている見解である。
【0017】
しかし、本発明者らは、ペニシリンGが、クラミジア科に持続性を誘起させることなく、実際にその分解を導くことを初めて実証する。特に、ペニシリンGで治療されたクラミジア科の細菌は、その抗生物質が培地から除去された後でさえ、いずれの感染性も失う。この治療効果は、ペニシリンGに限定されず、少なくとも1つのβ−ラクタムグループで観察され得る。この治療効果は、特定の細菌種に制限されず、クラミジア科のいずれの細菌でも観察され得る。
【0018】
従って、本発明は、クラミジア科細菌の感染をβ−ラクタムで治療する方法に関する。本発明は、クラミジア科細菌の感染により引き起こされる病態をβ−ラクタムで治療する方法にも関する。本発明の好ましい側面では、前記細菌は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種、クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)種又はクラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)種の細菌である。本発明の特に好ましい側面では、前記細菌は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種の細菌である。
【0019】
別の側面では、本発明は、クラミジア科細菌による感染を治療するための薬剤を製造するためのβ−ラクタムの使用に関する。さらに別の側面では、本発明は、クラミジア科細菌の感染により引き起こされる病態を治療するための薬剤を製造するためのβ−ラクタムの使用に関する。本発明の好ましい側面では、前記細菌は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種、クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)種又はクラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)種の細菌である。本発明の特に好ましい側面では、前記細菌は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種の細菌である。
【0020】
本発明は、クラミジア科細菌による感染の治療に使用するためのβ−ラクタムにも関する。本発明は、クラミジア科細菌の感染により引き起こされる病態の治療に使用するためのβ−ラクタムにも関する。本発明の好ましい側面では、前記細菌は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種、クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)種又はクラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)種の細菌である。本発明の特に好ましい側面では、前記細菌は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種の細菌である。
【0021】
本発明との関連で、「β−ラクタム」とは、分子構造中にβ−ラクタム環を含む抗生物質のいずれをも意味する。従って、本発明のβ−ラクタムには、ペニシリン誘導体、並びにセファロスポリン、モノバクタム、カルバペネム、及びβ−ラクタマーゼ阻害剤が含まれる。特に、本発明のβ−ラクタムは、ベンジルペニシリン(ペニシリンG)、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)、アンピシリン(ペニシリンA)、ベンザチンベンジルペニシリン、メチシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、コ−アモキシクラブ(アモキシシリン+クラブラン酸)、ピペラシリン、チカルシリン、アズロシリン、カルベニシリン、セファレキシン、セファロチン、セファゾリン、セファクロル、セフロキシム、セファマンドール、セフォテタン、クロキサシリン、セファドロキシル、セフィキシム、セフォキシチン、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフタジジム、セフェピム、セフピロム、イミペネム、シラスタチンとイミペネムとの組合せ、イミペネムとセフィキシムとの組合せ、メロペネム、メシリナム、エルタペネム、アズトレオナム、クラブラン酸、タゾバクタム又はスルバクタムであってよい。本発明の好ましい側面において、前記β−ラクタムは、アモキシシリンではない。本発明のさらに好ましい側面では、前記β−ラクタムは、アモキシシリン、ベンジルペニシリン(ペニシリンG)、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)、クロキサシリン、セファドロキシル、セフィキシム、イミペネム、イミペネムとセフィキシムとの組合せ、メシリナム、クラブラン酸、タゾバクタム及びスルバクタムからなる群から選択される。さらにより好ましい側面において、前記β−ラクタムは、ペニシリンGである。
【0022】
従来技術は、ペニシリンGが持続性を引き起こす因子であると教示するが、本発明者らは、ペニシリンGでの治療により、細菌感染性の不可逆的な喪失が導かれることを示す。特に、ペニシリンGでの治療により、クラミジア科の分解が導かれる。感染細胞をペニシリンGで治療した場合には、細菌の16SリボソームRNA(rRNA)の発現が検出されず、感染細胞が外部のアポトーシス刺激に対して感受性を示すようになる。
【0023】
従って、さらに特定の側面では、本発明は、クラミジア科細菌による感染を治療するため、又はクラミジア科細菌の感染により引き起こされる病態を治療するための薬剤を製造するためのペニシリンGの使用であって、前記治療が、前記細菌における感染性の不可逆的な喪失を導くことを特徴とする、使用に関する。この感染性は、当業者が発揮することのできる全ての適切な方法により測定され得る。これらの方法は、既に、従来技術で記載されており(例えば、Verbeke,P.et al.PLoS Pathog 2:e45,2006を参照されたい)、従って、本明細書において前記方法を詳述する必要はない;このような方法の一例を実施例で提供する。
【0024】
さらに、本発明のペニシリンGでの治療は、リソソームとの融合を介した細菌の分解を導く。従って、本発明の別の特定の側面は、クラミジア科細菌による感染を治療するため、又はクラミジア科細菌の感染により引き起こされる病態を治療するための薬剤を製造するためのペニシリンGの使用であって、前記治療が、前記細菌の分解を導くことを特徴とする、使用に関する。本発明のさらなる特定の側面では、前記細菌の分解は、細菌とリソソームとの融合に起因する。
【0025】
本発明者らは、ペニシリンGが、クラミジア科細菌の分解を誘起できることを示す。本発明との関連で、「クラミジア科」とは、Bush&Everett,Int J Syst Evol Microbiol.51(Pt 1):203−20,2001で定義されるように、クラミジア属及びクラミドフィラ属の2つの属から構成される分類単位を意味する。同様に、本発明との関連で、「クラミジア属」とは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)種、クラミジア・スイス(Chlamydia suis)種及びクラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)種を含む分類単位を意味し、「クラミドフィラ属」とは、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)種、クラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)種、クラミドフィラ・キャビエ(Chlamydophila caviae)種、クラミドフィラ・ペコルム(Chlamydophila pecorum)種、クラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)種及びクラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)種を含む分類単位を意味する(Bush&Everett,Int J Syst Evol Microbiol.51(Pt 1):203−20,2001)。これらの種が、別個の宿主スペクトルを有することは当業者に周知である:例えば、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)及びクラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)はヒト感染に関与し、クラミジア・スイス(Chlamydia suis)はブタ感染に、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)は反芻動物感染に関与する。本発明は、特定の細菌種に制限されるものではなく、クラミジア科のいずれの種にも適用でき、特に、上記のものに適用できる。
【0026】
より具体的には、本発明者らは、ペニシリンGが、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の分解を、その生物型又はさらにはその血清型に関わらず、誘起できることを示す。本発明との関連で、「クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)」とは、トラコーマ生物型の細菌、並びに鼠径リンパ肉芽腫生物型の細菌を意味する。従って、同様に、本発明は、特定の血清型に制限されず、18の公知の血清型(A〜L)のいずれかによる感染を治療するために使用され得る。特に、本発明は、血清型A〜C、並びに血清型D〜K及びL1〜L3の1つによる感染を治療するために使用され得る。
【0027】
「クラミジア科細菌の感染」及び「クラミジア科感染症」という表現は、患者又は動物の体の少なくとも1つの細胞における、前記クラミジア科細菌の存在を意味する。感染は、生殖器感染、眼感染又は肺感染であってよい;内皮細胞又は関節などの他の部位に影響を及ぼすこともあり得る。前記細菌は、EB又はRB形態で存在し得る;持続型でも存在し得る。本発明のさらに特定の側面において、細菌は、患者体内で持続型で存在する。
【0028】
クラミジア科細菌に感染しても、必ずしも、症状は現れないことが公知である。例えば、大半の子宮頚部の感染は無症状性であるか、又は軽度の症状が現れるに過ぎないと推定されている(Paavonen and Eggert−Kruse,Hum Reprod Update 5(5):433−47,1999)。それにも関わらず、クラミジア科細菌の存在は、本明細書中で説明の必要がない当業者に周知の全ての手段により検出され得る。特に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)及びリガーゼ連鎖反応(LCR)などの核酸増幅に基づく診断試験の使用は、間違いなくクラミジア科細菌に感染した人と感染していない人とを区別できると言及すれば足りる。さらに、16S及び23SリボソームRNA発現の測定は、細菌が代謝的に活性であり、それ故生存することを立証する。クラミジア科感染症を研究するためのこれらの試験は、研究所で一般に使用されており、それ故、本明細書中で詳述することはない(Mpiga and Ravaoarinoro,Microbiol Res.161(1):9−19,2006)。
【0029】
従って、本発明は、特定の側面において、クラミジア科を検出する工程を含む、クラミジア科感染症又はクラミジア科感染症により引き起こされる病態をβ−ラクタムで治療する方法に関する。とりわけ、前記検出工程は、細菌の核酸をPCR、LCR又はRT−PCRにより増幅することを含む。
【0030】
クラミジア科細菌種が、別個の宿主スペクトルを有することは当業者に周知である。同様に、生物は、前記種の各々に感染することも当業者に公知である:例えば、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)及びクラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)はヒト感染に関与し、クラミジア・スイス(Chlamydia suis)はブタ感染に、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)は反芻動物感染に関与する。従って、本発明は、ヒト及び動物における、クラミジア科により引き起こされる感染に適用され得る。同様に、本発明では、ヒト及び動物において、クラミジア科感染症をβ−ラクタムで治療することが可能である。
【0031】
クラミジア科により引き起こされる感染症の大多数は無症状性であるが、それにも関わらず、前記感染は、患者又は動物において重篤な病態を引き起こす。本発明の関連で、「クラミジア科感染症により引き起こされる病態」という表現は、クラミジア科細菌の感染により直接的に又は間接的に誘発される病態のいずれをも意味する。
【0032】
本発明の関連で、クラミジア科感染症により引き起こされる病態には、クラミジア・スイス(Chlamydia suis)、クラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)、クラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)、クラミドフィラ・キャビエ(Chlamydophila caviae)、クラミドフィラ・ペコルム(Chlamydophila pecorum)及びクラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)により動物において引き起こされる病態が含まれる。従って、本発明の関連で、クラミジア科感染症により引き起こされる前記病態には、とりわけ、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)により引き起こされる流産及び新生児死亡、並びにクラミジア・スイス(Chlamydia suis)により引き起こされる結膜炎、角結膜炎、化膿性鼻炎、腸炎、気管支肺炎及び肺炎が含まれる。
【0033】
ヒトにおいて、これらの病態は、特に、生殖器の病態又は眼の病態であり得るが、これらはまた、呼吸器の病態でもあり得る。それ故、クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)による感染は、肺炎の形態を引き起こし、クラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)は、オウム病に関与することが公知である。また、クラミジア科細菌による感染は生物全体に広がっており、心血管機能障害及び循環機能障害(アテローム)などの多数の非定型感染症及び病態を引き起こすことが公知である。クラミジア科細菌により引き起こされる心血管機能障害及び循環機能障害のうち、それぞれ、弁狭窄及びアテロームを挙げてよい。さらに、前記クラミジア科細菌は、重度の関節炎も引き起こし得る。
【0034】
しかし、本発明の好ましい側面において、クラミジアの感染により引き起こされる病態は、眼の病態又は生殖器の病態である。本発明のさらに特に好ましい側面では、クラミジアの感染により引き起こされる眼の病態としてトラコーマが挙げられる。さらに特に好ましい別の側面では、クラミジアにより引き起こされる生殖器の病態として、鼠径リンパ肉芽腫(デュランドニコラファブル病)が挙げられる。本発明のさらに特に好ましい別の側面では、クラミジアにより引き起こされるヒト生殖器の病態として、男性の妊性の低下を導き得る、尿道炎及び睾丸副睾丸炎などの病態が挙げられる。本発明のさらに特に好ましいさらに別の側面では、女性におけるクラミジアの感染は、数ある中でも、卵管を全体的に閉塞する卵管留膿腫及び卵管留水腫の形成へと進行し得る上部生殖管感染症(特に卵管炎)などの合併症を引き起こし得る、生殖器の病態(子宮頚膣炎(cervico−vaginites)、子宮頚炎、子宮頚内膜炎、尿道炎、子宮内膜炎又は肝周囲炎など)を引き起こす。従って、卵管炎は、女性において、卵管性不妊症及び子宮外妊娠の主要なリスクファクターである。
【0035】
ドキシサイクリンのみが、卵管炎の部分的な改善を提供するのに対し、本発明のペニシリンGでの治療は、生殖器のクラミジア感染により引き起こされる卵管留水腫の発現を予防する。本発明のペニシリンGでの治療は、クラミジア感染に起因する組織ダメージを予防することができる。従って、本発明のペニシリンGでの前記治療は、ヒトにおける現在の標準治療であるドキシサイクリンでの治療と比較して、非常に効果的であることを実証する。
【0036】
生殖器の病態は、クラミジア感染単独により引き起こされ得る;しかし、それらはまた、クラミジア感染と、別の感染性生物の感染との組合せによっても引き起こされ得る。特に、前記病態を引き起こす可能性のある感染性生物は、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)を含む原生動物;カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)を含む真菌;例えば、細菌性膣炎の間に増殖する嫌気性細菌[バクテロイデス(Bacteroides)、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)、ガードネレラ・バジナリス(Gardnerella vaginalis)、モビルンカス(Mobiluncus)];ヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)、マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、エスケリキア・コリ(Escherichia coli)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)などの他の細菌;及び単純ヘルペスウイルスなどのウイルス感染である。本発明のより特定の側面では、上記のような生殖器の病態を引き起こし得る感染性生物は、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)である。本発明のより特定の別の側面では、上記のような生殖器の病態を引き起こし得る感染性生物は、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)である。
【0037】
従って、本発明は、クラミジア科細菌の感染により引き起こされる生殖器の病態をβ−ラクタムで治療する方法であって、前記β−ラクタムが、別の治療剤とともに投与されることを特徴とする、方法にも関する。本発明の特定の側面では、前記の別の治療剤は、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)による感染の治療剤から選択される。本発明の特定の別の側面では、前記の別の治療剤は、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)による感染の治療剤から選択される。前記の別の治療剤は、セフトリアキソン、セフィキシム、スピラマイシン、スペクチノマイシン、アジスロマイシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、メトロニダゾール、チニダゾール及びニモラゾールからなる群から特に選択される。
【0038】
本発明は、活性成分としてβ−ラクタムを含む医薬組成物にも関する。前記β−ラクタムは、単独で、又は上記のような別の治療剤と組み合わせて使用され得る。
【0039】
これらの組成物は、経口、経直腸若しくは非経口経路により、又は皮膚及び粘膜上への局所適用により局所的に投与され得るが、好ましい投与経路は経口である。
【0040】
それらは、固体又は液体であってよく、ヒト用の薬で一般に使用される剤形、例えば、錠剤、コーティングされたもの又は非コーティングのもの、ゼラチンカプセル剤、顆粒剤、坐剤、注射製剤、点眼薬、ポマード、クリーム及びゲルなどで提供され得、これらは常法に従って調製される。活性成分は、これらの医薬組成物で一般に使用される賦形剤、例えば、タルク、アラビアゴム、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、ココアバター、水性又は非水性のビヒクル、動物性又は植物性の油、パラフィン誘導体、グリコール、種々の湿潤剤、分散剤及び乳化剤、並びに保存料とともに組み込まれてよい。これらの組成物は、適切なビヒクル、例えば、非発熱性滅菌水に使用直前に溶解することを意図した粉末形態で提供されてもよい。
【0041】
投与量は、治療される疾患、問題の対象、投与経路及び検討される化合物に応じて変動し得る。投与量は、例えば、成体において、経口投与により1日当たり50μgと300mgとの間であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ペニシリンGでの治療は、異常な形態のクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)を含む封入体の成長を停止させない。HeLa細胞にクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型L2を感染させ、IFN−γ(100ng/mL)、ペニシリンG(100U/mL)又はゲンタマイシン(25μg/L)で処理した。感染後、種々の時間において[感染後の時間:hours post−infection(hpi)]、細胞を固定し、クラミジアsp.に対する抗体(オリジナル図面では緑色)及びヘキスト(オリジナル図面では青色)で染色した。ペニシリンGで処理したHeLa感染細胞は、IFN−γ処理の間に形成されるものとは表現型の上でかなり異なって増殖する、異常な細菌体を有する。ペニシリンGで形成される細菌体は、「古典的な」持続性細菌体とはかなり異なる。スケール:10μm。各実験は、少なくとも3回再現した。
【図2】ペニシリンGでの治療は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)において、感染性の不可逆的な喪失を導く。HeLa細胞にクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)L2血清型を1封入体形成単位(IFU)で感染させた。3hpiにおいて、3つの同一バッチに区別し、「ペニシリンG」のバッチ(黒色棒グラフ)及び「復帰(reversion)」バッチ(灰色棒グラフ)には、ペニシリンGを100U/mLの濃度で添加したが、コントロールバッチ(白色棒グラフ)には添加しなかった。24hpiにおいて、復帰グループの培地からペニシリンGを除去した。48hpi又は100hpiにおいて、上清及び細胞を集め、−80℃で保存した。次いで、新鮮なHeLa細胞培養物を細胞抽出物とともに(左)又は上清とともに(右)1時間インキュベートし、シクロヘキシミドとともにインキュベートし、24時間後に固定した。核及び封入体を染色し、1mL当たりのIFU数を計算するために計測した。コントロール条件下では、有意な感染能が検出されたのに対し、ペニシリンGでの処理後には、復帰段階にあるか否かに関わらず、いずれの感染能も示されなかった。この結果は、ペニシリンGが持続性を誘起しないことを強力に証明する。また、この結果は、クラミジアの致死性を始めて指摘するものでもある。*:他の条件と有意に異なる(p<0.05)■:0と有意に異なる(p<0.05)●:0と有意に異ならない
【図3】ペニシリンGでの治療は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の宿主細胞アポトーシスに対する制御の喪失を導く。A:HeLa細胞にクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)を感染させ、3hpiにおいて、ペニシリンGで処理するか、又は処理しなかった。21hpiにおいて、スタウロスポリンを培地に添加した。48hpiにおいて細胞を固定し、クラミジアsp.に対する抗体(オリジナル図面では緑色)及びヘキスト(オリジナル図面では青色)で染色した。B:封入体と関連する、正常核又はアポトーシス核を計測し、アポトーシス感染細胞率を計算した。スケール:10μm。*:有意に異なる(p=0.01)
【図4】ペニシリンGでの治療は、16S rRNA発現の欠如を導く。HeLa細胞にクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)L2血清型を感染させ、3hpiにおいて、ペニシリンGで処理するか、又は処理しなかった。100hpiにおいて、細胞を集め、DNAの汚染を避けるためにRNAを慎重に抽出した。単離したRNAの半分を逆転写に使用した。細菌の活性を調査し、cDNAの質及び量を検証するために、16S(細菌)及び18S(真核生物)rRNAに対するプライマーを用いてPCRによりRNA及びcDNAを増幅した。RNAのPCRは、DNA汚染がないことを検証するために使用する。それはまた、PCRにおいて汚染がないことも示す。ペニシリンGで処理した感染細胞は、18S RNAを発現するが、16S RNAを発現しておらず、これにより、異常な細菌形態は、生存していないことが示される。
【図5】ペニシリンGでの治療は、異常な封入体へのリソソームの侵入を導く。HeLa細胞にクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)を感染させ、24hpiにおいて、固定及び染色するか(A)、又はすぐに観察するか(B及びC)のいずれかを行った。A:ヘキスト染色(オリジナル図面では青色)、抗クラミジアsp.(オリジナル図面では緑色)及び抗カテプシンD(オリジナル図面では赤色)。カテプシンDは、異常な細菌体に顕著に存在する。スケール:10μm。B:細胞をLysoTrackerプローブとともに30分間インキュベートした。LysoTrackerプローブは、複雑な膜ネットワークで異常な封入体に特に局在する。詳細な検査により、異常な封入体中に非常に明るい点が示され、これにより、異常な封入体にリソソームが侵入したことが示唆される。鏃:封入体膜、矢印:LysoTrackerプローブを多く含むコンパートメント。DIC:微分干渉コントラスト。スケール:10μm。C:高速スキャナを備えた共焦点顕微鏡を有するビデオ顕微鏡(タイムラプス)。灰色は微分干渉コントラスト;赤色(オリジナル図面)はLysoTrackerプローブ。封入体近傍のリソソーム(矢印)がこの異常な構造に侵入し、内部に留まっているようである。
【図6】クラミジアに対するペニシリンGの効果は、クラミジアの宿主細胞タイプ、血清型、生物型又は種とは無関係である。単球/マクロファージ腫瘍細胞株THP−1、子宮内膜腫瘍細胞株RL95−2、及び子宮頚部腫瘍細胞株HeLaに、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)LGV生物型の血清型L2、トラコーマ生物型の血清型D又はクラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)を感染させ、ペニシリンGで処理したところ(3hpi)、異常な封入体を呈した。オリジナル図面で青色;ヘキスト、オリジナル図面で緑色;抗クラミジアsp.。24hpi(RL95−2/クラミジアL2;HeLa/クラミジア−D;HeLa/C.ムリダルム)又は48hpi(THP−1/クラミジア−L2;THP−1/クラミジア−D)において画像を得た。スケール:10μm。
【図7】ペニシリンGでの治療は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)による宿主細胞アポトーシスに対する制御の非常に急速な喪失を導く。HeLa細胞を、ペニシリンGの不在下(白色棒グラフ)、又は2hpi(淡灰色棒グラフ)若しくは29hpi(濃灰色棒グラフ)で添加されるペニシリンG(100U/mL)の存在下、感染させた。31hpiにおいてスタウロスポリンを添加した。以下に記載のように、細胞を固定し観察した。封入体と関連する、アポトーシス核又は正常核を計測し、アポトーシス感染細胞率を測定した。2時間、ペニシリンGで処理することにより、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)による宿主細胞アポトーシスに対する制御の喪失が誘起される。*:有意に異なる(p<0.05)
【図8】低濃度のペニシリンGは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)非感染状態と同一の状態を誘起する。HeLa細胞にクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型L2を1IFUで感染させた。3hpiにおいて、ペニシリンG(−)サンプル及び復帰(+)サンプルに、ペニシリンGを1、10又は100U/mLの濃度で添加した。24hpiにおいて、復帰グループ(+)の培地からペニシリンGを除去した。48hpi又は100hpiにおいて、上清及び細胞を集め、−80℃で保存した。スライド上で増殖させたHeLa細胞を細胞抽出物(左)又は上清(右)とともに1時間インキュベートし、シクロヘキシミドで処理し、24時間後に固定した。核及び封入体を染色し、1mL当たりのIFU数を決定するために計測した。コントロール条件下(未処理の細胞由来の子孫細菌)では、有意な感染が検出されたのに対し、持続的又は一時的な方法でペニシリンG処理した細胞から集めた細菌ではいずれの再感染も観察されなかった。*:他の条件と有意に異なる(p<0.05)■:0と有意に異なる(p<0.05)●:0と有意に異ならない
【図9】カテプシンDは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の生物型及び宿主細胞タイプとは無関係に、異常形態のクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)に局在する。細胞を感染させ、3hpiにおいてペニシリンGで処理した。24hpiにおいて、細胞を固定し、抗クラミジアsp.抗体(オリジナル図面では緑色)、及び抗カテプシンD抗体(オリジナル図面では赤色)、並びにヘキスト(オリジナル図面では青色)で染色した。
【図10】クラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)でのC57B1/6マウスの感染後における、卵管留水腫の進行に対するペニシリンGの治療効果。マウスを経膣経路により10IFUのクラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)に感染させた。10日後、マウスグループの1つには抗生物質を受けさせず(未処理)、別のグループには経口により5mg/mLのドキシサイクリンで処理し、最後のグループには経口により5mg/mLのペニシリンGを受けさせた。20日後に抗生物質での処理を止め、さらに60日間マウスを隔離した。次いで、マウスを屠殺し、生殖管の外観を分析し、卵管留水腫の存在(矢印)を探索した。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0043】
1.材料
1.1.抗体及び試薬
培地(DMEM、Ham’s F−12、Ham’s F−12K、RPMI−1640)、FCS及びゲンタマイシン溶液はInvitrogen(Carlsbad,CA,USA)から得た。
【0044】
組換えヒトIFN−γ、シクロヘキシミド、3−メチル−アデニン(3−MA)、スタウロスポリン及びペニシリンGは、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO,USA)から得た。LysoTrackerプローブもInvitrogen(Carlsbad,CA,USA)から得た。クラミジア属に対する2つのFITC標識マウスモノクローナル抗体混合物はArgene Biosoft(Varilhes、France)から得た。カテプシンDに対するウサギポリクローナル抗体(IgG)及びテキサスレッド標識ヤギ抗ウサギ抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA,USA)から得た。コントロールウサギIgGは、プロテインA−セファロースを用いて、ウサギ血清から精製した。
【0045】
1.2.細胞培養及び細菌株
全ての細胞タイプ(HeLa、RL−95.2、THP−1)は、American Type Culture Collection(ATCC;Manassas,VA,USA)の推奨に従って、維持のために75cm培養フラスコ中で培養し、実験のために、カバーのある12若しくは24ウェルプレート、又はLab−Tek(商標)培養チャンバ中で培養した。培地中、0.25μMのPMAを使用して、THP−1細胞のマクロファージへの分化を達成させた。
【0046】
細菌感染性に対するペニシリンGの効果が、細菌株又は血清型に依存するかどうかを検証するために、ATCC血清型L2及びC.トラコマチス血清型D[Dr.de Barbeyrac (University of Bordeaux II,Bordeaux,France)によりご提供頂いたもの]を使用した。C.ムリダルムは、Dr.Roger Rank(University of Arkansas,Little Rock,AR,USA)から得た。細菌は、上記のように、HeLa細胞においてルーチンにより増殖させ、使用前まで−80℃で保存した(Scidmore,M.A.Curr Protoc Microbiol Chapter 11:Unit 11A 11,2005))。封入体形成単位(IFU)数は、上記のように(Verbeke,P.et al.PLoS Pathog 2:e45,2006)、免疫蛍光検査により測定した。
【0047】
2.方法
2.1.感染及びペニシリンGでの処理
クラミジア感染細胞に対するペニシリンGの効果を調べるために、宿主細胞を最大70%コンフルエントまで抗生物質を添加せずに培養し、次いで、C.トラコマチス株L2若しくはD、又はC.ムリダルム(1IFU)に感染させた。感染は、遠心分離しながら、37℃で90分間実施し、それに続いて、細胞外の細菌を洗浄した。3hpiにおいて、洗浄後、25μg/mLゲンタマイシン又は1〜100IU/mLペニシリンGのいずれかを含む培地に培地交換した。ペニシリンGでの処理後一定の間隔で、共焦点顕微鏡検査のために調製するために4%中性緩衝PFA中で培養物を30分間固定するか、又は以前に記載された方法(Verbeke,P.et al.PLoS Pathog 2:e45,2006)に従って子孫細菌の感染性を測定するために培養物を集めるかのいずれかを行った。
【0048】
2.2.IFN−γでの処理により誘起される持続性
上記のように(Verbeke,P.et al.PLoS Pathog 2:e45,2006)、スライド上に単層で培養したHeLa細胞に、1IFUで血清型L2を感染させた。感染3時間後に、培地を除去し、500IU/mL(最終濃度)の組換えヒトIFN−γを含む培地に交換した。IFN−γの存在下、感染細胞をさらに100時間インキュベートし、その後、以下に記載のように共焦点顕微鏡検査のために調製した。
【0049】
2.3.再活性化試験
上記のように、スライド上に単層で培養したHeLa細胞を、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型L2に感染させ、ペニシリンGで処理した。感染20時間後に、培養物を洗浄し、ペニシリンGを含まない培地に培地交換した。48hpiと100hpiとの間に、様々な間隔で細胞及び培地を集め、従来技術の方法(Scidmore,M.A.Curr Protoc Microbiol Chapter 11:Unit 11A 11,2005)に従って、力価試験を実施した。ペニシリンGでの処理が、細菌持続性に影響を及ぼし得るかどうかを調べるために、HeLa細胞をL2に感染させ、IFN−γ及びペニシリンG(500IU/mL)で、48hpi(すなわち、IFN−γでの処理後24時間)から72hpi(すなわち、IFN−γでの処理後48時間)まで処理した。次いで、スライドを固定し、2セットの検出フィルター(ヘキスト 360/40nmBP−425nmLP;FITC 480/40nmBP−527/30nmBP)を備え、CCDカメラCCCと連結した落射蛍光顕微鏡(Leica DM,Leica,Mannheim,Germany)を用いて観察した。
【0050】
2.4.アポトーシスに対する感受性
クラミジアの抗アポトーシス活性に対するペニシリンG処理効果を測定した。スライド上に単層で培養したHeLa細胞に血清型L2を感染させ、3hpi又は29hpiにおいて、ペニシリンGで処理した。25hpi又は32hpiにおいて、それぞれ、細胞を1μMのスタウロスポリンとともにインキュベートし、40hpi又は48hpiにおいて固定し、落射蛍光顕微鏡検査のために調製した。アポトーシス核を含む感染細胞の割合を計測した。
【0051】
2.5.共焦点顕微鏡検査
スライド上に単層で培養したHeLa細胞を血清型L2に感染させた。3hpiにおいて、細胞をペニシリンGで処理するか、又は処理しなかった。次に、24hpiにおいて細胞を固定し、透過処理し、PBS/1%BSA中の抗カテプシンD抗体(1/50)とともにインキュベートした(2時間、室温)。数回洗浄後、テキサスレッド標識ヤギ抗ウサギIgG(1/200)をスライドに添加した(1時間、室温)。次に、細胞をFITC標識抗クラミジア抗体(1/800)で1時間、ヘキスト(1/2000)で5分間、対比染色した。次いで、スライドをマウントし、2つのダイオードレーザー(1mW及び25mW:それぞれ405nm及び561nmで放射)及びアルゴンレーザー(100mW:488nmで放射)を備えた共焦点顕微鏡を用いて観察した(TCS Sp5 AOBS Tandem,Leica,Mannheim,Germany)。ヘキストについては411〜481nmで放射シグナルを回収し、FITCについては493〜555nm、テキサスレッドについては591〜703nmで放射シグナルを回収した。各実験は、同様の方法で実施、取得及び分析し、3回繰り返した。
【0052】
2.6.LysoTracker Redでの細胞培養物の標識
Lab−Tek(商標)培養チャンバ(Thermo Fisher Scientific,Roskilde,Denmark)で増殖させた細胞を感染させ、3hpiにおいて、ペニシリンGで処理するか、又は処理しなかった。22hpiにおいて、DMEMで希釈した10μMのLysoTracker Redとともに細胞をインキュベートした(30分間、37℃)。タンデムスキャナを備えたLeica共焦点顕微鏡を用いて、ビデオ顕微鏡(タイムラプス)により、5%CO下、37℃でスライドを観察した。励起は、レーザーダイオード(1mW)で561nmであり、565nmと641nmとの間の放射シグナルを回収した。最大4時間までの間、2分間ごとに画像を得た。
【0053】
2.7.RNA調製及び遺伝子発現分析
上記のように、およそ1×10のHeLa細胞を感染させ、ペニシリンGに曝露するか、又は曝露しなかった。100hpiにおいて、RNeasy Plus Mini Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて、total RNAを単離した。37℃で1時間、サンプルをDNase Iで処理した。次いで、70℃で10分間、酵素を変性させた。RT−PCRのために、製造者の指示に従って、ランダムヘキサマープライマー及びAffinityScript Multiple Temperature Reverse Transcriptase(Agilent,Santa Clara,CA,USA)を用いて、RNAをcDNAに逆転写した。Taqポリメラーゼ(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を用いてPCRによりcDNA及びRNAを増幅して、DNA汚染がないことを確認した。
【0054】
16S rRNAを増幅するために使用したプライマーは、
配列番号1:CGCCTGAGGAGTACACTCGC
配列番号2:CCAACACCTCACGGCACGAC
である。
【0055】
真核生物18S rRNAを増幅するために使用したプライマーは、
配列番号3:ATGGCCGTTCTTAGTTGGTG
配列番号4:CGCTGAGCCAGTCAGTGTAG
である。
【0056】
PCR産物の半定量分析は、アガロースゲル電気泳動及びUV検出により実施した。
【0057】
2.8.統計分析
データは、「n」回の実験の平均±標準偏差として示す。平均±標準偏差は、図面に示す;p値は、スチューデントのペアt検定を用いて計算する。0.05未満のp値を統計的に有意であると見なす。
【0058】
2.9.In vivoモデル
マウス及びモルモットに感染するクラミジア種であり、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)と遺伝的に近縁なクラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)をC57B1/6マウスに感染させた。プロゲステロン注射によりマウス発情周期を開始させ、次いで、3日後、経膣的にマウスに感染させた(10IFU)。感染10日後、マウスを3つのグループに分け、ネガティブコントロールグループにはいずれの抗生物質も受けさせず、ポジティブコントロールグループには、ドキシサイクリン(5mg/mL)を受けさせ、試験グループにはペニシリンG(5mg/mL)を受けさせた。処理期間は20日間であった;抗生物質であるドキシサイクリン及びペニシリンGをマウスの飲用水に添加した。処理後、持続性細菌に自己のサイクルを再開させ、後遺症(sequelles)を発症させるために、マウスを60日間隔離した。次いで、マウスを屠殺し、生殖管の外観を分析し、卵管留水腫の存在を探索した。各種臓器も採取した。
【0059】
3.結果
3.1.クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型L2に感染した細胞のペニシリンGでの処理は、持続性ではない異常な封入体の形成を導く
従来技術の研究では、クラミジア持続性モデルとして、培養宿主細胞をペニシリンGで処理することを示していた。しかし、この抗生物質での処理によりもたらされる細菌形態の特徴、及び培地からペニシリンGを除去した後に感染性の子孫が得られることをめぐる議論により、本発明者らはこの疑問を再度検証することにした。
【0060】
クラミジア感染細胞をゲンタマイシン、ペニシリンG又はIFN−γで処理した。後者は持続性誘導剤として周知である。IFN−γでの処理により生成される細菌封入体の大きさは、細胞を4日間培養した場合に一定のままである(図1)。この増殖の欠如は、2週間を超える期間、観察された。前記封入体の持続型の平均直径は、2〜3μmであった。これらの2つの特徴(封入体が増殖しないこと、及び中規模のサイズであること)は、持続性クラミジアの典型である。他方、ペニシリンGで処理した感染細胞の封入体は、ゲンタマイシン処理細胞のものと同程度に急速に増殖することがビデオ顕微鏡により観察された。感染後120時間(hpi)において、ペニシリンGで処理した感染細胞は溶解し、それらの構造物を培地に放出した。封入体に存在するこれらの構造物の直径(5〜10μm)は、IFN−γでの処理により得られる持続性細菌体のもの(2〜3μm)よりも非常に大きかった。
【0061】
第2の一連の実験において、異常な細菌粒子を含むこのような封入体の生成及び成長は、使用するクラミジア細菌の宿主細胞タイプ、血清型、生物型、又はさらにはクラミジアの種とも無関係であることが示された(図6)。さらに、感染後の様々な時間で感染細胞をペニシリンGで処理した。細菌サイクルの第1段階でペニシリンGを添加した場合のみ(24hpi前)、封入体における異常に拡張した構造の出現をペニシリンGが導くことが観察された。これは、ペニシリンGがRBの成長に影響を及ぼすが、EBの成長には影響を及ぼさないことを示す。全体として、これらの結果は、ペニシリンGでの処理が、非持続性封入体における拡張した細菌形態の形成を導くことを示す。
【0062】
3.2.ペニシリンGでの宿主細胞の処理は、細菌感染性の不可逆的な喪失を引き起こす
細胞を連続して100IU/mLのペニシリンGで処理した場合、48hpiで集めた細菌は、ゲンタマイシンで処理した細胞から集めた細菌よりも、数百倍低い感染性であった(図2)。同一条件下、100hpiにおいては、ペニシリンGで処理した宿主細胞により放出される細菌は、完全に非感染性であった。
【0063】
持続性の別の特徴によれば、持続性の刺激が培地から除去された場合に、封入体は、再び増殖できる。同時に、持続性の細菌体は、網様体(RB)に変換される。
【0064】
従って、24hpi(又はペニシリンGでの処理開始から21時間後)においてペニシリンGを除去することにより、感染性細菌が回復し得るかどうかを検証した。この実験において、感染細胞での正常な成長サイクルは、ビデオ顕微鏡により、いずれも観察されなかった。さらに、いずれの感染性の向上も実証されなかった(図2)。最大1IU/mLの濃度のペニシリンGを用いた場合でも、同じ感染性の不可逆的な喪失が観察された(図7)。これらの結果は、感染細胞をペニシリンGとともに一時的に又は連続的にインキュベートすることにより、クラミジアの感染性が完全に失われることを示す。
【0065】
3.3.ペニシリンGでの処理は、感染細胞にアポトーシスを起こしやすくさせる
細胞外刺激により誘起される宿主細胞アポトーシスを制御及び阻害する能力は、クラミジアサイクルの主な特性である。従って、ペニシリンGで処理した感染細胞の、アポトーシス誘発経路を阻害する能力を試験した。
【0066】
21hpiにおいて、感染細胞を4μMのスタウロスポリンで処理した場合、非感染コントロール細胞が全てアポトーシスを起こす一方、48hpiにおいて、11.83%のみが、アポトーシス細胞の典型的な特徴を呈するという結果を示す(図3)。他方、同一条件下、ペニシリンGで処理した感染細胞では70.39%がアポトーシスシグナルを示した。アポトーシスに対する耐性の喪失についてペニシリンG効果のスピードを評価するために、2hpi又は29hpiのいずれかで、感染細胞をペニシリンGで処理した。次いで、31hpiで、処理細胞をスタウロスポリンとともにインキュベートした。8時間後に細胞を観察した(図8)。おおよそ38%の細胞が、両方の条件下でアポトーシスを起こしたことから、ペニシリンGが非常に急速な効果を有することが示される。この結果は、ペニシリンGで処理した細菌が、宿主細胞アポトーシス開始に対する制御を非常に急速に喪失することを示す。
【0067】
3.4.ペニシリンGでの処理は、16SリボソームRNA発現の喪失を導く
クラミジアの網様体及び持続型はともに、細菌にとって必須の16SリボソームRNA(rRNA)を発現することが公知である。16S rRNAの発現を、ペニシリンGにより誘起される異常な細菌形態で調べた。100hpiにおいて、ペニシリンG、ゲンタマイシン又はIFN−γで処理した感染細胞からRNAを抽出し、RT−PCRにより16S rRNAの発現を調べた。その結果、ゲンタマイシン(図4)又はIFN−γで処理した感染細胞からは16S rRNAに特異的な配列が増幅された。他方、ペニシリンGで処理した感染細胞は、細菌RNAを生成しない。しかし、全ての感染細胞は、真核生物の18S rRNAを同一レベルで発現しており、これにより、RNAの抽出及びRT−PCTが有効であることが示された。さらに、抽出されたRNAのPCRにより、いずれのDNAの汚染も観察されなかった。全体として、これらの結果は、クラミジアのRB及び持続型が16S rRNAを生成することを示す。他方、ペニシリンGで処理した細菌は、この必須のRNAを発現する能力を失っていた。
【0068】
3.5.感染細胞のペニシリンGでの処理は、リソソームと異常な封入体との融合を導く
宿主細胞におけるアポトーシス機能に対する制御の喪失と、必須の細菌遺伝子の発現の欠如を伴う、ペニシリンGで処理した細菌の異常な表現型は、ペニシリンGが、クラミジアの分解を導くことを示唆する。小胞内に閉じ込められた細胞内粒子は、リソソームへと送られ、崩壊される。従って、異常な封入体とリソソームとの融合の可能性を調べた。
【0069】
カテプシンは、リソソームによるタンパク質分解において重要な役割を担うプロテアーゼである。特に、カテプシンDは、リソソームのアスパラギン酸プロテアーゼである。IFN−γ及びペニシリンGで処理するか、又は未処理の感染細胞において、カテプシンDの局在を調べた。24hpiにおいて、異常な細菌形態の大半がカテプシンDを有した(図5A)。予期されたとおり、このマーカーは、正常及び持続性の封入体からは排除されていた。コントロールアイソタイプを用いた実験において、いずれの印も観察されなかった。これらの結果は、ペニシリンGで処理するか、又は未処理の感染細胞のLysoTracker染色研究により確認した(図5B)。LysoTrackerは、リソソームなどの酸性コンパートメントを検出するために使用されるプローブである。LysoTrackerの保持メカニズムは、そのプロトン化を使用しており、それにより、オルガネラ膜におけるその局在化が導かれる(Haugland,R.P.The Handbook,A guide to fluorescent probes and labeling technologies,10th edition 2005.Invitrogen Corp,Spence M.T.Z.ed.pp580−588)。このプローブでの感染細胞の標識は、異常な封入体における複雑な管状ネットワーク(reseau tubulaire complexe)を明らかにし、それは、異常な封入体のみであった。さらに、これらの異常な封入体の大部分で、非常に高強度の点が観察された(図5B、囲み)。これらの点は、異常な封入体に侵入したリソソームであり得た。この仮説を調べるために、感染細胞におけるリソソームの挙動を共焦点ビデオ顕微鏡により調べた。その結果、LysoTrackerプローブで染色されたコンパートメントが異常な封入体に侵入することが実証された(図5C)。さらに、血清型L2に感染させたRL95−2細胞、又は血清型Dに感染させたHeLa細胞において生成される異常な封入体は、カテプシンDも含む(図9)。全体として、これらの結果は、ペニシリンGが、リソソームと異常なクラミジア封入体との融合を誘起することを示す。
【0070】
3.6.持続性細菌のペニシリンGでの処理は、クラミジア封入体とリソソームとの融合、及びそれらの子孫の破壊を誘起する
ペニシリンGの効果を持続性の感染について試験した。細胞を感染させ、次いで、3hpiにおいてIFN−γで処理した。顕微鏡下で持続性封入体の出現が観察された時点で、IFN−γの存在下で培養した感染細胞にペニシリンGを添加した。その結果、封入体増殖の急速な再開が観察され、同時に、前記封入体における細菌粒子の異常な拡張が観察された。ペニシリンGの添加から24時間後、異常な細菌形態の大部分がカテプシンDを有した。最終的に、ペニシリンGでの処理開始から70時間後に細胞は溶解し、溶解は、非感染性細菌の放出を伴った。この結果は、ペニシリンGでの処理が、持続型のクラミジアの分解を導くことを示す。
【0071】
3.7.感染マウスのペニシリンGでの処理は、卵管留水腫の欠如を導く
ペニシリンGの効果を、生殖器感染マウスモデルにおいて試験した。このモデルでは、子宮角に卵管留水腫の形成が観察される。これらの炎症性嚢胞は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の骨盤内感染症と関連して哺乳動物で高い頻度で観察され、壁の結合及び液体の貯留によって生じる。
【0072】
未処理マウス(ネガティブコントロール)が、子宮角の長さを超える非常に大きな卵管留水腫を有するのに対し、ドキシサイクリンで処理した感染マウス(ポジティブコントロール)は、卵管中に小さな卵管留水腫を有する(図10)。ペニシリンGで処理したマウスの生殖管は、とりわけ、正常な外観を有しており、ペニシリンGでの処理が、クラミジア感染に起因する組織ダメージを予防できることが示唆された。これらのデータは、現在ヒトでの標準治療であるドキシサイクリン治療と比較して、ペニシリンG治療によるより高い有効性を初めて示すものである。
【0073】
3.8.クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)血清型L2感染細胞の他のβ−ラクタムでの処理は、ペニシリンG処理と同一の異常形態及び感染性の喪失を導く
β−ラクタムファミリーの他の分子が、in vitroにおいて、ペニシリンGの存在下で生成されたものと同一のクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)異常形態及び非感染性形態を誘起し得るかどうかの検証を初めて試みた。異なるβ−ラクタムで処理した感染細胞由来の細菌の感染能について力価実験を実施した。これら分子の各々について、細胞毒性及び最小殺菌濃度(MBC)を測定した。これらのβ−ラクタムの全てが、IFN−γの影響下でin vitroで生成されるクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の持続型に対して、殺菌作用を有するかどうかも検証した。これらの実験結果を以下の表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
結論として、全てのβ−ラクタムは、ペニシリンGと同一の効果を発揮する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラミジア科細菌の感染を治療するために使用される、β−ラクタム。
【請求項2】
クラミジア科細菌の感染により引き起こされる病態を治療するために使用される、β−ラクタム。
【請求項3】
前記β−ラクタムがアモキシシリンではない、請求項1又は2記載のβ−ラクタム。
【請求項4】
前記β−ラクタムが、アモキシシリン、ベンジルペニシリン(ペニシリンG)、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)、クロキサシリン、セファドロキシル、セフィキシム、イミペネム、イミペネムとセフィキシムとの組合せ、メシリナム、クラブラン酸、タゾバクタム及びスルバクタムからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項5】
前記β−ラクタムがペニシリンGである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項6】
前記細菌が持続型である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項7】
前記治療が、前記細菌において、感染性の不可逆的な喪失を導く、請求項1〜6のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項8】
前記治療が、前記細菌の分解を導く、請求項1〜7のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項9】
前記治療が、リソソームと前記細菌との融合を導く、請求項1〜8のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項10】
前記クラミジア科細菌が、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、クラミジア・スイス(Chlamydia suis)、クラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)、クラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)、クラミドフィラ・キャビエ(Chlamydophila caviae)、クラミドフィラ・ペコルム(Chlamydophila pecorum)、クラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)及びクラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)から選択される種の細菌である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項11】
前記クラミジア科細菌が、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項12】
病態が、眼の病態、生殖器の病態、呼吸器の病態、心血管機能障害又は循環機能障害である、請求項2〜11のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項13】
眼の病態がトラコーマである、請求項12記載のβ−ラクタム。
【請求項14】
心血管機能障害がアテロームである、請求項12記載のβ−ラクタム。
【請求項15】
循環機能障害がアテロームである、請求項12記載のβ−ラクタム。
【請求項16】
生殖器の病態が、鼠径リンパ肉芽腫、尿道炎、睾丸副睾丸炎、子宮頚膣炎、子宮頚炎、子宮頚内膜炎、子宮内膜炎、肝周囲炎及び卵管炎からなる群から選択される、請求項12記載のβ−ラクタム。
【請求項17】
前記生殖器の病態が卵管炎である、請求項16記載のβ−ラクタム。
【請求項18】
β−ラクタムが別の治療剤とともに投与される、請求項1〜17のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。
【請求項19】
前記別の治療剤が、別の感染性因子により引き起こされる感染症及び/又は病態を治療するための治療剤である、請求項18記載のβ−ラクタム。
【請求項20】
前記別の感染性因子が、原生動物(とりわけ、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis));真菌(カンジダ・アルビカンス(Candida albicans));嫌気性細菌(バクテロイデス(Bacteroides)、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)、ガードネレラ・バジナリス(Gardnerella vaginalis)、モビルンカス(Mobiluncus));ヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)、マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、エスケリキア・コリ(Escherichia coli)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)などの他の細菌;及びウイルス、特に単純ヘルペスウイルスの感染から選択される、請求項19記載のβ−ラクタム。
【請求項21】
前記別の感染性因子が、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)又はトリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)である、請求項20記載のβ−ラクタム。
【請求項22】
前記別の治療剤が、セフトリアキソン、セフィキシム、スピラマイシン、スペクチノマイシン、アジスロマイシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、メトロニダゾール、チニダゾール及びニモラゾールからなる群から選択される、請求項18〜21のいずれか1項に記載のβ−ラクタム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−517252(P2013−517252A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548437(P2012−548437)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050406
【国際公開番号】WO2011/086134
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(503466808)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (8)
【出願人】(512184814)ユニヴェルシテ パリ ディドロ パリ 7 (1)
【Fターム(参考)】