説明

β−ラクタム類の製造方法

【課題】[2+2]環化付加物(β−ラクタム類)の分解をより高度に防止できるβ−ラクタム類の製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィン類を含む第1原料液と、一般式(2):XSO2NCO(2)で表されるスルホニルイソシアネート類を含む第2原料液とを合流させ、この合流液に、さらに前記第1原料液と第2原料液をそれぞれ少なくとも1回合流させて得られた最終合流液を管型反応器に連続供給して、一般式(3):


で表されるN−スルホニル−β−ラクタム類を連続製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ−ラクタム類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−ラクタム類はβ−ラクタム系抗生物質を製造するのに使用される。β−ラクタム系抗生物質としては、カルバペネム系抗生物質(例えば、チエナマイシンなど)などの他、種々の抗生物質が知られており、その鍵中間体となるβ−ラクタム類の製造法に関しても数多くの研究がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エノールシリルエーテル類とクロロスルホニルイソシアネート類を[2+2]環化付加した後、水素化金属化合物で還元する方法が開示されている。還元方法に関しては、特許文献2に、アルカリ金属と電子受容体とから生成させた金属−陰イオンラジカルを利用した還元方法が開示されており、特許文献3には有機金属化合物による還元方法が開示されており、特許文献4にはチオール化合物と塩基による還元方法が開示されている。
【0004】
ところで化学反応を行う場合、フラスコや反応缶で原料液を撹拌しつつ反応させるバッチ式反応が最も一般的であるが、原料液を連続的に供給しながら目的生成物を連続的に取得する連続反応も知られており、例えば、マイクロリアクターを用いて微量な化学物質をフロー方式で反応させることも知られている。マイクロリアクターは、反応の制御が容易であり、また実験室規模で開発された反応を工業規模で実施するときのスケールアップ検討を省力化できるなどのメリットを有しており、通常、2種の原料液体を混合するためのマイクロミキサーを備えている(例えば、特許文献5〜9参照)。
【0005】
特許文献5には、連続相導入流路と分散相導入流路が交差部で合流し、さらに下流側で排出流路と副排出流路に別れる微小流路構造体が開示されている。
特許文献6には、一の供給源から供給された第1流体を櫛歯状に分けられた第1の複数の流路に導き、また他の供給源から供給された第2流体も櫛歯状に分けられた第2の複数の流路に導き、第1及び第2の櫛歯状流路を互いに逆方向から平面内で噛み合わせた後、第1流体と第2流体をこの平面と直交する一方向に流出させ、この直交部分で第1流体と第2流体を接触混合する微小流路構造が開示されている。
【0006】
特許文献7には原料A〜Cの3液を混合するトーナメント型の流路構成が開示されており、より詳細には原料A液と原料B液とを混合した後、この混合液と原料Cを混合する微小流路構造が開示されている。
【0007】
特許文献8には、2種以上の流体を混合機で混合してから流通反応器で反応させる装置が開示されており、前記混合器としては、Y字型混合器、T字型混合器、十字型混合器、パイプライン型混合器などが例示されている。
【0008】
特許文献9には、「少なくとも2本の反応試剤注入流路、反応混合物排出流路、及び該反応試剤注入流路と該反応混合物排出流路との間を連絡する多分岐流路とを含んでなるマイクロミキサーであって、
該少なくとも2本の反応試剤注入流路は、互いに対し側方から合流して合流点を形成し、該合流点は該多分岐流路と連絡しており、
該多分岐流路は、複数の並列した縦方向流路とそれらをその上流側末端において横方向に連絡する横方向流路とからなる櫛状流路の複数を、上流側の櫛状流路の縦方向流路の下流側末端がこれに隣接する下流側の櫛状流路の横方向流路に開くように配列してなるものであり、
上流側の櫛状流路の縦方向流路がこれに隣接する下流側の櫛状流路の縦方向流路を画する側壁の上流側端面に直面して開いているものであるマイクロミキサー」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−76888号公報
【特許文献2】特開平2−290888号公報
【特許文献3】特開平3−20287号公報
【特許文献4】特開平4−112867号公報
【特許文献5】特開2005−279523号公報
【特許文献6】特開2004−99443号公報
【特許文献7】特開2006−241065号公報
【特許文献8】特開2007−55953号公報
【特許文献9】特開2007−50340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記[2+2]環化付加によるN−スルホニル−β−ラクタムの生成反応は、多大な反応熱を発生する。β−ラクタム類は立体歪が大きい不安定な4員環化合物であるため、反応温度を一定に維持しても、瞬間的かつ局所的な反応熱によって収率が低下すると考えられていた。そのため、非常に低い反応温度と強い撹拌条件のもと、エノールシリルエーテル類にクロロスルホニルイソシアネート類を長時間かけて滴下していた。
【0011】
しかし本発明者らは、マイクロリアクターを用いて[2+2]環化付加させると、N−スルホニル−β−ラクタムの収率が向上することを見出した。[2+2]環化付加物の分解原因は、瞬間的かつ局所的な発熱だけではなく、[2+2]環化付加物と原料液(エノールシリルエーテル類、クロロスルホニルイソシアネート類)との接触にもあったこと、そしてマイクロリアクターを用いることによって[2+2]環化付加物と原料液との接触を抑制できたためと思われる。
【0012】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、[2+2]環化付加物(β−ラクタム類)の分解をより高度に防止できるβ−ラクタム類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オレフィン類(エノールシリルエーテル類など)を含む第1原料液とスルホニルイソシアネート類を含む第2原料液とを、分岐することなく多段階的に合流させれば、合流後も原料液同士が完全に混じり合うことなく複数の原料層が並走する多層流を形成できること、多層流を形成すると[2+2]環化付加物の分解を高度に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明に係る製造方法では、一般式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一または相異なって、C1-20アルキル基、C7-30アラルキル基、C6-30アリール基、C1-20アルキルオキシ基、C7-30アラルキルオキシ基、C6-30アリールオキシ基、C1-20アルキルチオ基、C7-30アラルキルチオ基、C6-30アリールチオ基、C1-20アルキルオキシカルボニル基、C7-30アラルキルオキシカルボニル基、C6-30アリールオキシカルボニル基、置換シリルオキシ基、ハロゲン原子、又は水素原子を示す)で表されるオレフィン類を含む第1原料液と、
一般式(2):
XSO2NCO (2)
(式中、Xは塩素原子、C6-20アリール基、C7-19アラルキル基またはC1-6アルキル基を示す)で表されるスルホニルイソシアネート類を含む第2原料液とを合流させ、
この合流液に、さらに前記第1原料液と第2原料液をそれぞれ少なくとも1回合流させて得られた最終合流液を管型反応器に連続供給して、
一般式(3):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R1、R2、R3、R4及びXは前記と同じ)で表されるN−スルホニル−β−ラクタム類を連続製造する。前記第1原料液と第2原料液とを合流させた最終合流液は、例えば、4層以上の層状流である。前記最終合流液は、例えば、微小合流路構造を用いて、第1原料液と第2原料液とを合流させるで調製できる。微小合流路構造は、2本の流入路と、これらが合流する合流部と、この合流部から下流方向に延出する1本の流出路とから構成される合流単位の3以上をトーナメント型に組み合わせて形成できる。このトーナメント型微小合流路構造の最上流側では、第1原料液供給用の流入路と、第2原料液供給用の流入路とが交互に並んでいるのが望ましい。また前記合流単位は、流出路の中心線を対称軸とした線対称構造になっているのが望ましい。流入路及び流出路の相当直径は、例えば、0.01〜10mmである。最終合流液の管型反応器の滞留時間は、例えば、10分以下である。管型反応器の流路の相当直径は、例えば、30mm以下である。
【0019】
式(1)のオレフィン類では、R1及びR3の一方が水素原子であり、他方が一般式(5):
【0020】
【化3】


(式中、R5は水酸基の保護基を示す)で表され、
【0021】
2及びR4の一方が水素原子であり、他方が一般式(6):
【0022】
【化4】


(式中、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または相異なって、C1-6アルキル基、C6-12アリール基、C7-19アラルキル基を示す)で表されるのが好ましい。
【0023】
前記N−スルホニル−β−ラクタム類を還元することによって、一般式(4):
【0024】
【化5】

【0025】
(式中、R1、R2、R3及びR4は前記と同じ)で表されるN−無置換−β−ラクタム化合物を製造できる。
なお本明細書においてCa-bは、炭素数がa以上b以下であることを示す。
【発明の効果】
【0026】
本発明の製造方法によれば、オレフィン類(エノールシリルエーテル類など)を含む第1原料液とスルホニルイソシアネート類を含む第2原料液とを分岐することなく多段的に合流させているため、[2+2]環化付加物の分解を高度に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の微小合流器及び微小合流路の一例を示す概略分解斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す微小合流路で形成される多層流を示す概念図である。
【図3】図3は本発明の微小合流器及び微小合流路の他の例を示す概略分解斜視図である。
【図4】図4は本発明の微小合流路のさらに他の例を示す概略平面図である。
【図5】図5は本発明の微小合流路の別の例を示す概略平面図である。
【図6】図6は本発明の微小合流路のさらに別の例を示す概略平面図である。
【図7】図7は本発明の微小合流路の他の例を示す概略斜視図である。
【図8】図8は本発明の微小合流路のさらに他の例を示す概略平面図である。
【図9】図9は参考例1の計算結果を表示した斜視図である。
【図10】図10は参考例2の計算結果を表示した斜視図である。
【図11】図11は参考例3の計算結果を表示した斜視図である。
【図12】図12は比較参考例1の計算結果を表示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、オレフィン類を含む第1原料液とスルホニルイソシアネート類を含む第2原料液とを一旦合流させ、この合流液にさらに前記第1原料液と第2原料液をそれぞれ少なくとも1回合流させて最終合流液を調製し、オレフィン類とスルホニルイソシアネート類とを[2+2]環化付加反応させることで、N−スルホニル−β−ラクタム類を連続製造する。このようにして最終合流液を調製すれば、第1原料液と第2原料液とが分岐することなく多段階的に合流するため、合流後も原料液同士が完全に混じり合うことなく複数の原料層が並走する多層流を形成できる。この多層流(最終合流液)を管型反応器に連続供給すると、反応生成物であるN−スルホニル−β−ラクタム類と原料液との接触を低減でき、N−スルホニル−β−ラクタム類の分解を抑制できる。そのため、例えば、N−スルホニル−β−ラクタム類の収率を向上することが可能であり、また反応温度を高くすることもできる。従来のオレフィン類とスルホニルイソシアネート類との[2+2]環化付加反応では、生成物(N−スルホニル−β−ラクタム類)の分解を防止するために極低温反応を行う必要があったが、本発明によればN−スルホニル−β−ラクタム類の分解を抑制できるため、極低温条件は必須ではなくなる。
【0029】
第1原料液と第2原料液とを一旦合流させ、この合流液(第1合流液)にさらに第1原料液と第2原料液をそれぞれ少なくとも1回合流させて最終合流液を調製できる限り、合流手段は特に限定されない。例えば第1原料液と第2原料液を予め合流させた予備合流液を前記第1合流液と合流させてもよく、第1合流液及び第2合流液の一方を第1合流液と合流させた後で第1合流液及び第2合流液の残りを合流させてもよい。さらに第1合流液と第2合流液は、必要に応じて適宜予備合流させた後で、2回以上合流させてもよい。このような合流手段としては、例えば、図1に示すような微小合流器が使用できる。図1は、微小合流器101の概略分解斜視図であり、この微小合流器101では、概略、第1原料液と第2原料液を導入口21a、22aから別々に導入した後、微小合流路32で合流させ、最終合流液が排出口25aから排出されるようになっている。前記微小合流路32は、より詳細には、概略トーナメント型の流路構成になっており、第1原料液と第2原料液とは、勝ち抜き方向に向けて多段階的に合流していく。すなわち2本の流路(流入路)33が合流して一本の流路(流出路)33になるまでの流路構成を一単位(以下、「合流単位」という)としたとき、最下流側で複数(図示例では4つ)の合流単位34が並設されており、これら並列する合流単位34はトーナメント型流路の第1段(第1列)を構成している。なおこの第1段の合流単位の流入路33a、33bは、微小合流路32自体の液の受け入れ口(入口)になっており、片方の流入路33aからは第1原料液が供給され、他方の流入路33bからは第2原料液が供給される。また前記微小合流路32では、合流単位34が複数の段(列)に組まれており、第n段の合流単位34の流出路が2本一組となって次の段(第n+1段)合流単位34の流入路を形成している。そのため段(列)が進むにつれて流路(流出路)の本数が減り、最終的に(図示例では第3段で)1本の流出路33dに集約され、この流出路33c内で最終合流液が調製される。この最終合流液は、排出口25aに接続する管型反応器(図示せず)で反応してN−スルホニル−β−ラクタム類を生成する。
【0030】
図2は、前記微小合流路32で調製される合流液の層構成を示す概念図である。すなわち最上流側(入口側)の第1段の合流単位34によって4本の合流液が調製され、各合流液は図2(a)に示すように第1原料液と第2原料液が2層になった層状流になっている。そして第2段の合流単位34によって図2(b)に示すように第1原料液と第2原料液が交互に4層になった層状流(多層流)が調製され、第3段の合流単位によって図2(c)に示す交互8層の層状流(多層流)が最終合流液として調製される。このような最終合流液を調製すると、第1原料液と第2原料液とが反応してN−スルホニル−β−ラクタム類が生成したとき、このN−スルホニル−β−ラクタム類を含む液(反応液)が第1原料液や第2原料液と接触する確率を低減できる。そのためN−スルホニル−β−ラクタム類の分解を抑制できる。
【0031】
なお上記図1の微小合流器101では、貫通溝31を形成したインナーパネル12を2枚のアウターパネル11、13で挟着し、前記貫通溝31を閉空間化することによって微小合流路32を形成している。さらに図1の微小合流器101では、一方のアウターパネル11に、第1原料液と第2原料液を別々に導入するための導入口21a、22aが形成されている。導入口21aから導入された第1原料液は、この入口21aに連通しかつインナーパネル12に形成された貫通口21bを通過した後、他方のアウターパネルの内面に形成された分岐溝23aに案内される。この分岐溝23aは複数の溝出口23bを有しており、各溝出口23bは微小合流路32の第1段の合流単位の片方の流入路33aと連通しており、このルートを通って第1原料液が微小合流路32に分割供給される。また導入口22aから導入された第2原料液も、第1原料液と概略同様にして、微小合流路32の第1段の合流単位の残りの流入路33bに供給される。具体的には、第2原料液は、導入口22aから導入された後、アウターパネル11の内面に形成された分岐溝24a、この分岐溝に形成された溝出口24bを通過して、第1段の合流単位の流入路33bに供給される。
【0032】
上述したように、本発明では所定の最終合流液を調製できる限り、図1の微小合流器101に代えて種々の合流手段を採用できる。例えば、微小合流器は、微小合流路32を複数有していてもよく、複数の微小合流路32は積み重ねられていても、平面方向に並べられていてもよい。図3は微小合流路32の複数を積み重ねて有する微小合流器の一例を示す概略斜視図である。この微小合流器102は、微小合流路32(貫通溝31)を形成した2枚のインナーパネル12を中間パネル14を介して重ね合わせることで、微小合流路32を積み重ねている。なお各微小合流路32で調製された合流液は、それぞれの中間部25bに導かれた後でさらに合流して一つの排出口25aから排出される。
【0033】
一方、微小合流路32の複数を平面方向に並べる場合は、図1のインナーパネル12において複数の微小合流路32(貫通溝31)を形成し、微小合流路の各入口33a、33bと微小合流器の導入口21a、21bを液密に連通し、また微小合流路の出口33dと微小合流器の排出口25dを液密に連通すればよい。図4は、微小合流路32の複数を平面方向に並べる場合の微小合流路の一例を示す概略平面図である。この例では、2つの微小合流路32、32が、互いの出口33d、33dを突き合わせるようにして同一平面内で対向している。それぞれの微小合流路32、32の出口33d、33dから流出する合流液は、中間部25bでさらに合流した後、この中間部25bと連通する排出口(図示せず)から排出される。
【0034】
上記合流単位34の形状は特に限定されないが、流出路を中心とする対称構造を有しているのが望ましい。対称性が高くなるほど、多層流がより精度よく形成される。特に好ましい合流単位は、流出路の中心線を対称軸とした線対称構造になっており、上記各図示例の合流単位は、いずれも概略T字形状の線対称構造になっている。線対称構造としては、T字形状の他、例えば、概略矢印形状、概略Y字形状などが挙げられる。前記概略T字形状、概略矢印形状、及び概略Y字形状では、中央が流出路であり、両側が流入路となる。図5は概略矢印形状の合流単位34pを有する微小合流路32pの一例を示す概略平面図であり、図6は概略Y字形状の合流単位34qを有する微小合流路32qの一例を示す概略平面図である。
【0035】
また複数の合流単位34が全て同一平面内に存在する必要はなく、例えば、一部(特に一部の段(列))の合流単位を、他の合流単位と異なる面内に形成してもよい。図7は一部の段(列)の合流単位が異なる面内に形成された微小合流路32rの一例を示す概略斜視図である。図7の例では、最上流側の第1段(列)の合流単位34cがxy面内に形成され、次の第2段(列)の合流単位34a、34bがxz面内に形成され、最後の第3段(列)の合流単位がxy面内に形成されている。
【0036】
合流単位34の数は、例えば、3以上、好ましくは5以上、特に7以上である。また合流単位34を複数の段(列)に組んで微小合流路を構築する場合、段の数は特に限定されず、例えば、2段以上(好ましくは3段以上)であってもよい。
【0037】
また上記図示例では、原料液(第1原料液、第2原料液)は、常に最上流側の段(列)の合流単位34から微小合流路32に流入させてトーナメント方式で合流させている。従って、第1原料液と第2原料液とを一旦合流させた後、この合流液に第1原料液と第2原料液の合流液をさらに合流させていたが、後から合流する第1原料液や第2原料液は必ずしも予め合流したものでなくてもよい。すなわち原料液の一部は、途中の段(列)(好ましくは、最下流側の段(列)よりも1段(列)以上上流側の段(列))の合流単位から微小合流路32に流入してもよい。いわゆる不戦勝又はシードを許容するトーナメント型の流路構成がこのような例に該当し、例えば、図8に示すような微小合流路32sは本例の一つである。
【0038】
前記微小合流路32では、別々の入口33a、33bから入った同一種の原料液が、合流後に隣り合わないように、原料液を供給することが望ましい。例えば、トーナメント方式で2種の原料液(第1原料液、第2原料液)を合流させていく場合、第1原料液用の入口33aと第2原料液用の入口33bを交互に並べるのが望ましい。
第1原料液と第2原料液は、最終合流液の段階で、4層以上(例えば、6層以上、特に8層以上)の層状流になっているのが望ましい。
【0039】
微小合流路32を構成する流路33の断面形状は、円形、楕円形、四角形(特に正方形)、五角形以上の多角形のいずれであってもよい。流路33の相当直径(等価直径)は、例えば、0.01〜10mm、好ましくは0.05〜5mm、さらに好ましくは0.1〜3mmである。なお相当直径とは、流路を等価な円管流路に置き換えた場合の直径を指し、次式であらわされる。
相当直径(m)=4×流れの断面積(m2)/浸辺長(m)
【0040】
微小合流器としては、積層パネル構造のものに限定されず様々なものが使用でき、例えば、管状貫通路を微小合流路構造32の形状に組み合わせた微小合流器を使用してもよいが、好ましくは、微小合流路構造32の平面形状に対応する貫通溝31を有する一枚又は複数枚のインナーパネルを適宜積層し、原料液を導入するための導入口21a、21bと、合流液を排出するための排出口25aを適宜形成したアウターパネルで前記インナーパネルを挟着した微小合流器が好ましい。導入口21a、21bや排出口25aは、片側のアウターパネルに形成する必要はなく、両方のアウターパネル間で適宜分配してもよい。
【0041】
管型反応器は、直線状、U字状、コイル状、及びこれらを適宜組み合わせたもののいずれであってもよい。管型反応器の相当直径(等価直径)は、例えば、0.01〜30mm、好ましくは0.05〜10mm、さらに好ましくは0.1〜3mmである。
【0042】
第1原料液に使用する前記オレフィン類は、一般式(1):
【0043】
【化6】

【0044】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一または相異なって、C1-20アルキル基、C7-30アラルキル基、C6-30アリール基、C1-20アルキルオキシ基、C7-30アラルキルオキシ基、C6-30アリールオキシ基、C1-20アルキルチオ基、C7-30アラルキルチオ基、C6-30アリールチオ基、C1-20アルキルオキシカルボニル基、C7-30アラルキルオキシカルボニル基、C6-30アリールオキシカルボニル基、置換シリルオキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子など)、又は水素原子を示す)で表すことができる。なお前記アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。
【0045】
1-20アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基などが挙げられる。置換C1-20アルキル基には、ヒドロキシ基置換アルキル基(特に、ヒドロキシ基置換エチル基などのヒドロキシ基置換C1-5アルキル基)、及び前記ヒドロキシ基が保護基で保護された基などが含まれる。好ましい置換C1-20アルキル基は、一般式(5):
【0046】
【化7】

【0047】
(R5は水酸基の保護基を示す)で表される基である。前記保護基としては、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニックシンセシス第2版(PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS 2nd. Ed.),ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(JOHN WILEY&SONS)出版(1991年)に記載の保護基が挙げられる。好ましいR5は、炭化水素基(C1-6アルキル基、フェニル基、及び/又はアラルキル基など)で置換されたシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジ−tert−ブチルメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、フェニルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、ジメチル−1,1,2−トリメチルプロピルシリル基などが含まれる。特に好ましいR5は、t−ブチルジメチルシリル基である。
【0048】
置換又は無置換C7-30アラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、トリフェニルメチル基、キシリル基などが挙げられる。置換又は無置換C6-30アリール基には、フェニル基、メチルフェニル基、ナフチル基などが含まれる。
【0049】
置換又は無置換C1-20アルキルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基などが例示できる。置換又は無置換C7-30アラルキルオキシ基は、例えば、ベンジルオキシ基、フェニルエトキシ基、トリフェニルメトキシ基、キシリルオキシ基などである。置換又は無置換C6-30アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、メチルフェニル基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。
【0050】
置換又は無置換C1-20アルキルチオ基には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、オクチルチオ基などが含まれる。置換又は無置換C7-30アラルキルチオ基は、例えば、ベンジルチオ基、フェニルエチルチオ基、トリフェニルメチルチオ基、キシリルチオ基などである。置換又は無置換C6-30アリールチオ基としては、フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基、ナフチルチオ基などが挙げられる。
【0051】
置換又は無置換C1-20アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などが例示できる。置換又は無置換C7-30アラルキルオキシカルボニル基は、例えば、ベンジルオキシキルボニル基、フェニルエチルオキシカルボニル基、トリフェニルメチルオキシカルボニル基などである。置換又は無置換C6-30アリールオキシカルボニル基としては、フェニルオキシカルボニル基、メチルフェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0052】
置換シリルオキシ基は、例えば、一般式(6):
【0053】
【化8】

【0054】
(式中、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または相異なって、C1-6アルキル基、C6-12アリール基、C7-19アラルキル基を示す。これらアルキル基、アリール基、及びアラルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい)で表される。
【0055】
置換又は無置換C1-6アルキル基には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などが含まれる。置換又は無置換C6-12アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。置換又は無置換C7-19アラルキル基は、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、トリフェニルメチル基、キシリル基などである。
好ましい置換シリルオキシ基は、トリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基である。
【0056】
好ましいオレフィン類は、R1及びR3の一方が水素原子であり、他方が前記式(5)で表され、R2及びR4の一方が水素原子であり、他方が前記式(6)で表される化合物である。これら好ましいオレフィン類は、具体的には、一般式(7):
【0057】
【化9】


(式中、R5、R6、R7、R8は前記と同じ)で表すことができる。
【0058】
なおこの式(7)の化合物は、例えば、3−ヒドロキシ酪酸エステルから特開昭63−233989号公報に記載の方法などによって合成できる。
【0059】
第2原料液に使用するスルホニルイソシアネート類は、一般式(2):
XSO2NCO (2)
(式中、Xは塩素原子、C6-20アリール基、C7-19アラルキル基またはC1-6アルキル基を示す)で表すことができる。C6-20アリール基、C7-19アラルキル基、C1-6アルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。これらC6-20アリール基、C7-19アラルキル基、C1-6アルキル基としては、R6、R7、R8と同様の基が例示できる。好ましいXは、塩素原子である。
【0060】
第1原料液や第2原料液では、それぞれの原料(オレフィン類、スルホニルイソシアネート類)が微小合流路32を流通可能な(例えば、低粘度の)液体である場合は液体原料をそのまま第1原料液又は第2原料液として使用してもよいが、通常、原料を溶媒に分散(溶解)して第1原料液及び第2原料液を調製する。
【0061】
溶媒としては、微小合流路32内の流通性を確保でき、かつ目的化合物の合成反応を阻害しない範囲で適宜選択でき、例えば、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレンなど)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジグリム、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなど)、鎖状脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、ペンタンなど)、環状脂肪族炭化水素類(メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、o−キシレン、m−キシレンなど。好ましくはトルエン、クメンなど)が例示できる。前記溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。好ましい溶媒は、環状脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、及び環状脂肪族炭化水素類と芳香族炭化水素類との混合溶媒である。
第1原料液に使用する溶媒と第2原料液に使用する溶媒とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
第1原料液の流量と第2原料液の流量との関係は、モル流速比(単位時間当たりに流れる原料のモル比)で、0.8:1.0〜1.0:0.8程度(特に約1:1)にすることが望ましい。
【0063】
スルホニルイソシアネート類の単位時間あたりの供給量は、オレフィン類の単位時間あたりの供給量に対して、例えば、0.5〜1.5倍モル、好ましくは0.75〜1.25倍モル、さらに好ましくは0.8〜1.2倍モル、特に0.9〜1.1倍モルである。
【0064】
本発明ではN−スルホニル−β−ラクタム類と原料液との接触を防いでN−スルホニル−β−ラクタム類の分解を抑制できるため、極低温条件は必須ではない。従って反応温度は幅広い範囲で設定でき、例えば、−100〜50℃程度、好ましくは−65〜30℃程度、さらに好ましくは−20〜10℃程度の範囲で設定できる。反応温度が低いほど、N−スルホニル−β−ラクタム類の分解をより高度に防止できる。また反応温度が高いほど、冷却設備の負荷を軽減して製造コストを低減でき、かつ反応速度を高めて生産性を向上できる。なお第1原料液と第2原料液との混合温度も、反応温度と同程度の範囲で設定できる。
【0065】
管型反応器の最終合流液(反応液)の滞留時間(反応時間)は反応速度に応じて適宜設定でき、例えば、10秒〜10分程度、好ましくは20秒〜5分程度、さらに好ましくは30秒〜2分程度である。なお滞留時間は、管型反応器の容積を最終合流液の単位時間当たりの流量で除すことによって求める。
【0066】
前記オレフィン類とスルホニルイソシアネート類との[2+2]環化付加によって得られるN−スルホニル−β−ラクタム類は、一般式(3):
【0067】
【化10】


(式中、R1、R2、R3、R4及びXは前記と同じ)で表すことができる。特に好ましいN−スルホニル−β−ラクタム類は、一般式(8):
【0068】
【化11】


(式中、R5、R6、R7、及びR8は前記と同じ)で表すことができる。
【0069】
上記のようにして得られたN−スルホニル−β−ラクタム類は、濃縮や単離処理などをしてもよく、濃縮や単離処理などを行うことなく直ちに還元してもよいが、好ましくはN−スルホニル−β−ラクタム類を含む反応液を直ちに還元する。還元によってN−無置換−β−ラクタム類が生成する。
【0070】
還元には、従来公知の方法(特に前記特許文献1〜4や特開平4−112867号公報に記載の方法)を適宜採用でき、例えば、無機塩、水素化金属化合物(水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウムなど)、チオール化合物(チオフェノール、アルキルメルカプタンなど)、又はアルカリ金属と電子受容体とから生成させた金属−陰イオンラジカルなどを用いる還元法、塩基と硫黄系化合物を用いる還元法などが採用できる。以下、塩基と硫黄系化合物とで還元する方法を例にとって以下、より詳細に説明する。
【0071】
前記塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミンなどの第二級アミン;アニリン、シクロヘキシルアミンなどの第一級アミン;アンモニア;水酸化ナトリウムなどが使用できる。これら塩基は単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせてもよい。
【0072】
硫黄系化合物は、例えば、硫化水素及び/又はメルカプトベンゾチアゾールなどである。
塩基及び硫黄系化合物は、それぞれ、N−スルホニル−β−ラクタム類に対して、通常、1当量以上使用される。
【0073】
溶媒としては、有機溶媒及び/又は水が使用できる。有機溶媒は、オレフィン類とスルホニルイソシアネート類との反応で例示した溶媒と同様の溶媒が例示できる。有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。還元で使用する溶媒と、オレフィン類とスルホニルイソシアネート類との反応で使用する溶媒は、同じでもよく、異なっていてもよい。還元での好ましい溶媒は、オレフィン類とスルホニルイソシアネート類との反応で使用する溶媒と水との混合溶媒である。
【0074】
添加順序は特に制限されず、例えば、N−スルホニル−β−ラクタム類を硫黄系化合物に添加してもよく、逆に硫黄系化合物をN−スルホニル−β−ラクタム類に添加してもよく、さらにはN−スルホニル−β−ラクタム類と硫黄系化合物とを反応槽又は反応流路に同時供給してもよいが、N−スルホニル−β−ラクタム類を硫黄系化合物に添加するか、N−スルホニル−β−ラクタム類と硫黄系化合物とを反応槽又は反応流路に同時供給するのが好ましい。還元反応は大きな発熱を伴う反応であるが、前記好ましい手順によれば、反応温度の上昇を防止してN−スルホニル−β−ラクタム化合物の分解を低減できる。また好ましい添加順によれば、連続的に生成してくるN−スルホニル−β−ラクタム類を貯留することなくそのまま硫黄系化合物で処理できる。
還元反応温度は、例えば、−100℃から溶媒の沸点付近までの幅広い範囲から設定できるが、好ましくは−100℃〜30℃の範囲から設定する。
【0075】
前記還元によって生成するN−無置換−βラクタム類は、一般式(4):
【0076】
【化12】


(式中、R1、R2、R3、及びR4は前記と同じ)で表すことができ、特に好ましいN−無置換−βラクタム類は、一般式(9):
【0077】
【化13】

【0078】
(式中、R5、R6、R7及びR8は前記に同じ)で表すことができる。式(9)のN−無置換−βラクタム類は、4−位のシリルエーテル基(−OSiR678)の反応性が高く、簡単な置換反応によって、チエナマイシン製造に有用な4−アセトキシ体(例えば、3−(1−ヒドロキシエチル)−4−アセトキシアゼチジン−2−オンなど)を容易に製造できる。
【0079】
式(9)のN−無置換−βラクタム類は、ラクタム環の3−位と4−位の炭素、及び基R5O−が結合する炭素が不斉炭素であり、8種の立体異性体を含む。好ましい式(9)の化合物は、3−位と4−位の不斉炭素の立体配置が(R)表記され、基R5O−が結合する不斉炭素の立体配置も(R)表記される化合物であり、この好ましい化合物は一般式(10):
【0080】
【化14】


(式中、R5、R6、R7及びR8は前記に同じ)で表される。式(10)の化合物は医薬中間体として有用である。
【0081】
式(10)の化合物は、基R5O−が結合する炭素の立体配置が(R)表記される式(7)の化合物を[2+2]環化付加させることで合成できる。
【0082】
得られたN−無置換−βラクタム類は、単離精製してもよい。単離精製には、公知の手法(例えば、カラムクロマトグラフィー、晶析操作など)を適宜採用できる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0084】
参考例1
T字型合流単位を4−2−1の3段(列)に組んだ図1の微小合流路32において時刻tにおける多層流の状態を、汎用熱流動解析ソフトウェア(商品名:RFLOW、開発販売元:(株)アールフロー)を用いてシミュレートした。シミュレーションの前提条件は以下の通りである。
【0085】
(1)表示
表示用粒子(仮想粒子(密度が0、体積が0であって、流体計算に影響を及ぼさない粒子))を全ての入口から同時に流し始め(時刻t=0)、所定時間経過したときの粒子の分布状態を表示させる。なお第1原料液の入口からは黒色の表示用粒子を流し、第2原料液の入口からは白色の表示用粒子を流す。
【0086】
(2)微小合流路の形状
図9の通りの形状。
流体入口面積:3×10-72
【0087】
(3)流体
設定流体:ニュートン流体
流体密度:910kg/m3
流体粘度:0.0008Pa・s
流体入口線速度:0.0005m/s
【0088】
(4)その他
重力加速度:9.8m/sec2(Z軸マイナス方向)
熱解析機能:不使用(流動のみ使用)
結果を図9に示す。
【0089】
参考例2
合流単位を矢印形状に変える以外は、参考例1と同様にした。微小合流路の正確な設定形状は、図10の通りとした(流体入口面積:3×10-72)。
結果を図10に示す。
【0090】
参考例3
合流単位をY字形状に変える以外は、参考例1と同様にした。微小合流路の正確な設定形状は、図11の通りとした(流体入口面積:3×10-72)。
結果を図11に示す。
図9〜11に示されるようにいずれの形状の合流単位でも層状流が崩れることなく維持され、合流を繰り返すことで、層数が増大している。
【0091】
比較参考例1
1つのT字型合流単位からなる微小合流路を用いる以外は、参考例1と同様にした。微小合流路の正確な設定形状は、図12の通りとした(流体入口面積:3×10-72)。
結果を図12に示す。
【0092】
実施例1
図1に示す微小合流器101(流路33の相当直径:0.5mm)の排出口25aにポリテトラフルオロエチレン製流通型管型反応器(内径の相当直径:0.5mm、コイル管)を接続した。なおこの管型反応器は、その長さを調整することによって反応液の滞留時間を調整できるようになっている。第1の導入口21aからは、3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブト−1−エニルトリメチルシリルエーテル7.65g(0.0279モル)をトルエン11.40gに加えた溶液(第1の原料液)を供給し、第2の導入口21bからはクロロスルホニルイソシアネート4.12g(0.0291モル)をトルエン17.38gに加えた溶液(第2の原料液)を供給した。原料液の供給速度はシリンジポンプ(HARVARD社製「PHD2000−PP」)でコントロールし、第1の原料液及び第2の原料液のいずれも流速0.5mL/minで連続供給した。第1及び第2の原料液は、微小合流路101を温度15℃で合流しながら通過した後、管型反応器を流れ、温度15℃で反応して(3R,4R)−3−((R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンが生成した。
【0093】
硫化水素2.3g、ジエチルアミン6.4g、水4.0g、及びトルエン7.7gを温度−5℃で強攪拌し、この強攪拌液に管型反応器を出た反応液を加えた後、さらに一時間強攪拌することで反応生成物を還元した。二層分離し、トルエン層を水洗することによって(3R,4R)−3−((R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オン(N−無置換−β−ラクタム化合物)のトルエン溶液を得た。
【0094】
管型反応器の長さを変えて反応器内の原料液の滞留時間を調整しつつ、反応液を還元した後のトルエン溶液中の目的化合物(N−無置換−β−ラクタム化合物)の収率をモニタリングした。滞留時間を42秒とした時に、最も良い収率(64.3モル%)で目的化合物が得られた。なお第1及び第2の原料液(合流液)の管型反応器内の滞留時間は、管型反応器の容積を原料液(合流液)の単位時間当たりの流量で除すことによって求めた。また反応収率は、目的化合物(N−無置換−β−ラクタム化合物)のモル数を原料(3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブト−1−エニルトリメチルシリルエーテル)のモル数で除すことによって求めた。目的化合物(N−無置換−β−ラクタム化合物)のモル数は、ガスクロマトグラフ分析によって決定した。
【0095】
実施例2
微小合流路101と管型反応器の通過温度を0℃とする以外は実施例1と同様に反応を行った。この条件においては、滞留時間を70秒としたときに、最も良い反応収率(71.2モル%)でN−無置換−β−ラクタム化合物が得られた。
【0096】
実施例3
流速を1mL/minとする以外は実施例2と同様に反応を行った。この条件においては、滞留時間を27秒としたときに、最も良い反応収率(67.3モル%)でN−無置換−β−ラクタム化合物が得られた。
【0097】
比較例1
1つのT字型合流単位(相当直径:0.5mm)からなる微小合流路を用いる以外は実施例1と同様にした。N−無置換−β−ラクタム化合物の反応収率は49.0モル%であった。
【0098】
比較例2
クロロスルホニルイソシアネート10.55g(0.0745モル)とトルエン44.50gをフラスコに入れ、気相部を窒素ガスで置換し、液温を15℃にした。フラスコ内の撹拌を開始し、液温15℃を維持しながら、3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブト−1−エニルトリメチルシリルエーテル19.61g(0.0714モル)をフラスコに約1時間かけて滴下し、さらに42秒間撹拌を継続した。
【0099】
硫化水素7.62g、ジエチルアミン16.36g、水10.34gを温度−5℃で強攪拌し、この強攪拌液に前記反応液を加えた後、さらに−5℃で一時間強攪拌することで反応生成物を還元した。二層分離し、トルエン層を水洗することによってN−無置換−β−ラクタム化合物のトルエン溶液を得た(反応収率:11.1モル%)。
【0100】
比較例3
3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブト−1−ニルトリメチルシリルエーテル添加時の液温及び反応温度を−70℃にし、3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブト−1−エニルトリメチルシリルエーテルの滴下終了後の撹拌時間を6時間にする以外は比較例2と同様にした。N−無置換−β−ラクタム化合物の反応収率は62.9モル%であった。
実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を表1に整理する。
【0101】
【表1】

【0102】
表1より明らかなように合流を繰り返す微小合流路を採用した実施例1〜3は、T字型合流路(比較例1)よりも反応生成物(N−クロロスルホニル化β−ラクタム化合物)の分解を抑制でき、反応生成物(N−クロロスルホニル化β−ラクタム化合物、N−無置換−β−ラクタム化合物)の収率を向上できる。また通常のバッチ式反応では−70℃の極低温反応を採用することで達成できていた反応収率(比較例3)が、本発明の微小合流路を採用すれば氷温から常温程度の範囲で達成できる。
【符号の説明】
【0103】
101、102…微小流路構造(微小合流器)
33、33c…流路
33a、33b…流入路(入口)
33d…流出路(出口)
34、34a、34b、34c、34p、34q…合流単位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】


(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一または相異なって、C1-20アルキル基、C7-30アラルキル基、C6-30アリール基、C1-20アルキルオキシ基、C7-30アラルキルオキシ基、C6-30アリールオキシ基、C1-20アルキルチオ基、C7-30アラルキルチオ基、C6-30アリールチオ基、C1-20アルキルオキシカルボニル基、C7-30アラルキルオキシカルボニル基、C6-30アリールオキシカルボニル基、置換シリルオキシ基、ハロゲン原子、又は水素原子を示す)で表されるオレフィン類を含む第1原料液と、
一般式(2):
XSO2NCO (2)
(式中、Xは塩素原子、C6-20アリール基、C7-19アラルキル基またはC1-6アルキル基を示す)で表されるスルホニルイソシアネート類を含む第2原料液とを合流させ、
この合流液に、さらに前記第1原料液と第2原料液をそれぞれ少なくとも1回合流させて得られた最終合流液を管型反応器に連続供給して、
一般式(3):
【化2】


(式中、R1、R2、R3、R4及びXは前記と同じ)で表されるN−スルホニル−β−ラクタム類を連続製造する方法。
【請求項2】
前記第1原料液と第2原料液とを合流させて4層以上の層状流にした後、管型反応器に連続供給する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
2本の流入路と、これらが合流する合流部と、この合流部から下流方向に延出する1本の流出路とから構成される合流単位の3以上をトーナメント型に組み合わせて形成される微小合流路構造を用いて、第1原料液と第2原料液とを合流させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記トーナメント型微小合流路構造の最上流側では、第1原料液供給用の流入路と、第2原料液供給用の流入路とが交互に並んでいる請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記合流単位は、流出路の中心線を対称軸とした線対称構造になっている請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
流入路及び流出路の相当直径が、0.01〜10mmである請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
最終合流液の管型反応器の滞留時間が10分以下である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
管型反応器の流路の相当直径が30mm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
1及びR3の一方が水素原子であり、他方が一般式(5):
【化3】


(式中、R5は水酸基の保護基を示す)で表され、
2及びR4の一方が水素原子であり、他方が一般式(6):
【化4】


(式中、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または相異なって、C1-6アルキル基、C6-12アリール基、C7-19アラルキル基を示す)で表される請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られるN−スルホニル−β−ラクタム類を還元する一般式(4):
【化5】


(式中、R1、R2、R3及びR4は前記と同じ)で表されるN−無置換−β−ラクタム化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−159238(P2010−159238A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4116(P2009−4116)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】