説明

β−1,4−マンノビオース含有組成物

【課題】動物体内でのサルモネラ菌の定着を抑制してサルモネラ菌を体外へ効率的に排出することができるβ−1,4−マンノビオース含有組成物及びその製造方法、β−1,4−マンノビオース含有組成物を含む飼料用添加剤や、β−1,4−マンノビオース含有組成物を配合した飼料を提供する。
【解決手段】マンナン含有天然物にマンナン分解酵素を作用させ、分解前のマンナンに対して少なくとも10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを生成させることを特徴とするβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法、マンナン含有天然物にマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むことを特徴とするβ−1,4−マンノビオース含有組成物、β−1,4−マンノビオース含有組成物を含む飼料用添加剤、及びβ−1,4−マンノビオース含有組成物を配合した飼料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−1,4−マンノビオース(β−1,4−mannobiose)含有組成物やその製造方法、β−1,4−マンノビオース含有組成物を含む飼料用添加剤、及びβ−1,4−マンノビオース含有組成物を配合した飼料、特に家畜又は家禽の腸内でのサルモネラ菌の定着を抑制しうる飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パーム核ミール、コプラミール、グアーミール等には、マンノースを構成糖とするマンナンが豊富に含有されることが知られており、これらの天然原料に酵素を作用させてマンノース、マンノオリゴ糖、マンノース多糖類を生成させる方法が種々提案されている。また、このようなマンノース類が添加された飼料には、有害細菌であるサルモネラ菌の腸内での定着を抑制して体外へ排出する排菌効果(サルモネラ菌定着抑制効果)を有することが知られており、この効果を利用した技術も種々提案されている(非特許文献1)。
【0003】
例えば、グアーミールやコプラミールなどマンナンを含む素材を酵素分解して得られる、マンノビオース及びマンノトリオースを主成分とし単糖類が混合したマンノオリゴ糖類を配合した飼料は、鶏の卵の品質を向上させることができることが報告されており、同時に、マンノオリゴ糖類がサルモネラ菌の家畜腸内での定着防止に有用である可能性があることが報告されている(特許文献1)。また、マンノース、メチル−α−マンノシド、マンノオリゴ糖や、グアーガム、ローカストビーンガム又は酵母から得られるマンナンの酵素及び/又は酸による加水分解物等のマンノース類を配合する飼料が、サルモネラ菌など有害細菌の感染予防に有用であることが報告されている(特許文献2)。さらには、マンノースの繰り返し単位が40〜100の多糖を中心(30〜80%)とし、オリゴ糖も(5〜30%)混在するマンノース系多糖体を配合する家畜用飼料が、サルモネラ菌の家畜腸内での定着防止に効果があることが報告されている(特許文献3)。また、パーム核ミールやグアーミール等のマンナンリッチな原料に酵素を作用させてマンノオリゴ糖に分解したものを配合した飼料や、コプラミールに酵素を作用させたマンノースを含有する飼料、パーム核ミールを用いたマンノース及び/又はマンノオリゴ糖の製造方法が報告されている(特許文献4,特許文献5,特許文献6)。
【0004】
以上のように種々の提案がなされているが、サルモネラ菌の家畜腸内での定着防止効果は十分でないのが現状であり、更なる改良が望まれている。例えば、マンノースにはサルモネラ菌定着抑制効果(サルモネラ菌排除効果)があるものの、それ自体単純な糖であるため、飼料として家畜に供与しても、大部分は腸内細菌類により簡単に資化されることがわかっており、また、家畜自身によっても消化吸収・排泄がなされるであろうと考えられる。また、本発明者らの実験結果によって、家畜の免疫強化のために生菌剤を投与した場合、さらにマンノース分解活性が強くなり、サルモネラ対策として給与したマンノースは大部分が消失するという知見が得られた。従って、実際に十分なサルモネラ菌の定着抑制効果を得るためには極めて多量のマンノースを投与しなければならない。一方、酵母を用いた凝集試験によると、マンノビオースよりも分子量の大きなマンノオリゴ糖やマンノース系多糖体のサルモネラ菌定着抑制効果は小さいという知見が得られた。本発明はかかる実状に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、動物体内でのサルモネラ菌の定着を抑制してサルモネラ菌を体外へ効率的に排出することができるβ−1,4−マンノビオース含有組成物及びその製造方法、β−1,4−マンノビオース含有組成物を含む飼料用添加剤や、β−1,4−マンノビオース含有組成物を配合した飼料を提供することにある。
【0005】
本発明者らは鋭意研究の結果、β−1,4−マンノビオースにサルモネラ認識活性があり、マンノースに比べサルモネラ認識能がやや劣るものの、家畜腸内の細菌類によって資化されにくいので、サルモネラ菌定着抑制においてはマンノース以上に有効に働き得るとの知見を得た。そこで、効率的なβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法を確立し、得られたβ−1,4−マンノビオース含有組成物が高含量でβ−1,4−マンノビオースを含むことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−236429号公報
【特許文献2】特開平8−38064号公報
【特許文献3】特開平8−173055号公報
【特許文献4】国際公開第95/17103号パンフレット
【特許文献5】国際公開第99/08544号パンフレット
【特許文献6】特開2001−231591号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Poultry Science, 68, p.1357, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、本発明は(1)マンナン含有天然物にマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも3重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むβ−1,4−マンノビオース含有組成物からなることを特徴とする飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤や、(2)マンナン含有天然物から抽出したマンナンにマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むβ−1,4−マンノビオース含有組成物からなることを特徴とする飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤や、(3)マンナン含有天然物が、パーム核ミール及び/又はコプラミールであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤や、(4)前記(1)〜(3)のいずれか記載の飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤を、β−1,4−マンノビオースが0.001〜1重量%含有され、家畜又は家禽の腸内でのサルモネラ菌の定着を抑制しうる飼料の調製のために使用する方法や、(5)前記(1)〜(3)のいずれか記載の飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤を飼料に配合し、β−1,4−マンノビオースが0.001〜1重量%含有され、家畜又は家禽の腸内でのサルモネラ菌の定着を抑制しうることを特徴とする飼料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1図は、本発明に係る飼料、比較例1に係る飼料、市販飼料を給与した採卵鶏初生オスヒナのサルモネラ菌接種後日数に対する盲腸内サルモネラ菌数を表すグラフである。
【図2】第2図は、本発明に係る飼料、比較例2に係る飼料、市販飼料を給与したブロイラー初生ヒナのサルモネラ菌接種後日数に対する盲腸内サルモネラ菌数を表すグラフである。
【図3】第3図は、本発明に係る飼料、比較例2に係る飼料、市販飼料を給与した7週令採卵鶏中雛のサルモネラ菌接種後日数に対する盲腸内サルモネラ菌数を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法としては、マンナン含有天然物にマンナン分解酵素を作用させ、マンナン含有天然物中のマンナンの加水分解等により、分解前のマンナンに対して少なくとも10重量%以上(10〜100重量%)のβ−1,4−マンノビオースを生成させる製造方法や、マンナン含有天然物から抽出したマンナンにマンナン分解酵素を作用させ、分解前のマンナンに対して少なくとも10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを生成させる製造方法であれば特に制限されるものではないが、分解前のマンナンに対して20〜80重量%のβ−1,4−マンノビオースを生成させることが好ましく、30〜80重量%のβ−1,4−マンノビオースを生成させることがさらに好ましい。
【0011】
本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物としては、マンナン含有天然物にマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも3重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むβ−1,4−マンノビオース含有組成物や、マンナン含有天然物から抽出したマンナンにマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むβ−1,4−マンノビオース含有組成物であれば特に制限されるものではなく、かかるβ−1,4−マンノビオース含有組成物は、例えば、上記本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法により製造することができる。
【0012】
本発明の飼料用添加剤としては、上記本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法により得られるβ−1,4−マンノビオース含有組成物や、上記本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物を含む飼料用添加剤であれば特に制限されるものではなく、かかる飼料用添加剤として、これらβ−1,4−マンノビオース含有組成物からなるものや、これらβ−1,4−マンノビオース含有組成物に保存料等の他の添加成分が配合されたものを例示することができる。
【0013】
また、上記β−1,4−マンノビオース含有組成物や飼料用添加剤の使用形態としては、酵素処理物そのものやその乾燥物、酵素処理後にマンノビオースを水等により抽出したその抽出物やその乾燥物など特に制限されるものではない。
【0014】
上記マンナン含有天然物としては、β−1,4結合したマンノースを含有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、コプラミール、パーム核ミール、グアーミール等の高等植物由来のマンナンを挙げることができ、入手の容易な点、マンナンリッチな点等から、コプラミール、パーム核ミールが好ましい。また、マンナン含有天然物から、ミセルを作り水不溶のマンナンを抽出する方法としては、アルカリ溶液、例えば5%冷水酸化ナトリウム液や、10%水酸化ナトリウム液での抽出方法を例示することができる。
【0015】
使用するマンナン分解酵素としては、マンナナーゼ、マンノシダーゼ、ヘミセルラーゼ等のマンナンを分解しβ−1,4−マンノビオースを生成する活性を有するものや、マンナンから生成したマンノースからβ−1,4−マンノビオース合成する活性を有するものであれば特に制限されるものではないが、Aspergillus niger由来のもので、市販されているもの、例えば、ヘミセルラーゼGM「アマノ」(天野製薬株式会社製)、スミチームACH及びスミチームACH−L(新日本化学工業株式会社製)、セルロシンGM5(阪急バイオインダストリー株式会社製)等を好適に使用することができるほか、キシラナーゼ、セルラーゼとして市販されているものでも当該加水分解活性のあるものが使用でき、例えば、セルラーゼY−NC(ヤクルト薬品工業株式会社製)等を使用することができる。これらの中でも、マンノシダーゼ(exo型)活性が低く、マンナナーゼ(endo型)活性が高い酵素が好ましく、具体的には、ヘミセルラーゼGM「アマノ」(天野製薬株式会社製)、スミチームACH及びスミチームACH−L(新日本化学工業株式会社製)が、マンノースの生成を抑えると共に多量にマンノビオースを生成させることができることから好ましい。このように、β−1,4−マンノビオースは、β−1,4−マンナン(β−1,4−Mannan)を分解する方法によっても得ることができ、マンノースから合成する方法によって得ることもできるが、その原料の資源性及び反応効率の観点から、β−1,4−マンナンを分解する方法がより簡便であり好ましい。
【0016】
本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造においては、マンナン含有天然物又はマンナン含有天然物から抽出したマンナンにマンナン分解酵素を作用させるが、かかるマンナン分解酵素は、水に溶解あるいは分散させた酵素液として用いることが好ましい。効率的な反応を行うためには、マンナン含有天然物又はマンナン、マンナン分解酵素及び水からなる反応系における水分の調整が重要である。水分調整のための水の添加量としては、マンナン100重量部に対して50〜10000重量部であることが好ましく、100〜1500重量部であることがより好ましい。水の添加量を上記範囲とすることにより、反応系に十分な水分が存在し、マンナン類の繊維質が十分に膨潤して酵素液が接触しやすくなり、効率的にマンノビオースを生成することができる。また、上記範囲にすることにより、水分過多によって生じる酵素濃度希釈に伴う反応効率の低下を抑制することができると共に、乾燥工程における乾燥コストの上昇を抑制することができる。また、酵素量、反応時間としては、生成するマンノビオースが分解前のマンナンに対して少なくとも10重量%となれば特に制限はないが、マンナナーゼ(endo型)活性が高い酵素を使用した場合でも、通常マンノシダーゼ(exo型)活性も有しておりマンノビオースが分解されるため、反応時間を必要以上に長時間としないことが好ましい。また、反応温度は40〜65℃で好適であるが、高温になるほどマンノシダーゼの活性が高くなりマンノースの生成量が増加するので、マンノースの生成を抑えると共に、多量にマンノビオースを生成させたい場合は、40〜55℃、より好ましくは、45〜53℃での反応が良い。
【0017】
例えば、原料としてパームカーネルミール(マンナン含有量は、およそ36重量%)を用いて3〜36時間反応させた場合、β−1,4−マンノビオース量は使用する酵素の種類や量、時間にもよるが、原料100重量部に対して、6〜17重量部程度まで生成することができる。本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法により得られるβ−1,4−マンノビオース含有組成物の中でも、乾物換算で少なくとも3重量%以上、好ましくは10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含有するものが飼料用添加剤又は飼料として好ましい。
【0018】
本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物は、家畜又は家禽腸内におけるサルモネラ菌の定着を抑制のための飼料用添加剤として使用することができ、家畜の免疫強化のために成鶏盲腸内容菌などの生菌剤を併用する場合においては資化されにくいことから特に有用である。β−1,4−マンノビオース含有組成物は、例えば、そのまま飼料として用いることができ、飼料に添加することもできる。このβ−1,4−マンノビオース含有組成物は、マンノビオースの他にマンノースやマンノオリゴ糖類なども含有するが、特にマンノビオースのみを抽出・精製する必要はなく、むしろこれらが含まれていることが好ましい。β−1,4−マンノビオース含有組成物を飼料に添加する場合、マンノビオースが、飼料中、0.001〜1重量%含有されるように添加することが好ましく、0.005〜0.1重量%含有されるように添加することがより好ましい。マンノビオースの含有量が上記範囲にあることにより本発明の効果をより効率的に奏することができる。また、β−1,4−マンノビオース含有組成物を例えば飼料添加用としてそのまま流通、使用する場合には、黴、菌類の発生が危惧されることになるため、流動層乾燥、真空乾燥等の方法によって、水分が10重量%以下となるように乾燥することが好ましい。
【0019】
本発明のサルモネラ菌の定着を抑制しうる飼料としては、上記本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造方法により得られるβ−1,4−マンノビオース含有組成物や、上記本発明のβ−1,4−マンノビオース含有組成物を配合した飼料であれば特に制限されるものではなく、かかる本発明の飼料を家畜又は家禽に、固体状若しくは液状で給餌することにより、動物体内のサルモネラ菌の定着を抑制してサルモネラ菌を体外へ効率的に排出することができる。β−1,4−マンノビオースは、マンノースに比べサルモネラ認識能がやや劣るものの、家畜腸内の細菌類によって資化されにくいので、サルモネラ菌定着抑制においてはマンノース以上に有効に働き、効率的にサルモネラ菌を体外へ排出することができ、飼料中のマンノース類の含有量を少量化することが可能となって、経済的負担が大幅に軽減されることになる。
【0020】
以下、本発明の実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」、「%」は、特に断りがない限り、それぞれ「重量部」、「重量%」を表す。
【実施例】
【0021】
実施例1(パームカーネルミールからβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造)
マンナン含有量36%、水分8.2%のパームカーネルミール(不二製油株式会社製)100部に、酵素ヘミセルラーゼGM「アマノ」(天野製薬株式会社製)0.25部を溶解した酵素液150部を、60℃で12時間作用させた後、流動層乾燥装置(大河原製作所製)にて水分9.8%まで乾燥させ、乾燥粉体102部を得た。この乾燥粉体のマンノース含有量及びβ−1,4−マンノビオース含有量をイオン交換クロマトグラフィ法で測定したところ、マンノースが1.44部、β−1,4−マンノビオースが10.58部(マンナンに対し29.4%;乾物換算で11.5%)生成していた。
【0022】
実施例2(コプラミールからβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造)
コプラミール(マンナン含有量30%、水分4.2%)100部に、酵素ヘミセルラーゼGM「アマノ」(天野製薬株式会社製)0.25部を溶解した酵素液150部を、60℃で12時間作用させた後、流動層乾燥装置にて水分9.3%まで乾燥させ、乾燥粉体106部を得た。この乾燥粉体のマンノース含有量及びβ−1,4−マンノビオース含有量を測定したところ、マンノースが1.36部、β−1,4−マンノビオースが12.35部(マンナンに対し41.2%;乾物換算で12.9%)生成していた。
【0023】
比較例1
パームカーネルミール(マンナン含有量36%、水分8.2%)100部に、酵素セルロシンGM5(エイチビィアイ株式会社製)0.3部を溶解した酵素液150部を、60℃で72時間作用させた後、流動層乾燥装置にて水分7.8%まで乾燥させ、乾燥粉体100部を得た。この乾燥粉体のマンノース含有量及びβ−1,4−マンノビオース含有量を測定したところ、マンノースが11.52部、β−1,4−マンノビオースが2.57部(マンナンに対し7.14%;乾物換算で2.79%)生成していた。
【0024】
実施例3(サルモネラ菌・酵母凝集抑制試験)
各種糖類のサルモネラ菌凝集抑制試験を以下のように行った。サルモネラ菌サルモネラ・エンテリティディス(伊藤忠飼料株式会社にて分離したSalmonella enteritidis KTE−61株 菌数1×10cfu/ml)の懸濁液0.1ml及び蒸留水0.1mlを十分混合させ、これに酵母キャンディダ・アルビカンス(社団法人動物用生物学的製剤協会より購入したCandida albicans KI−102001)懸濁液0.1mlを加え混合した。この混合液に凝集が生じることを実体顕微鏡(オリンパス社製)で確認する予備試験を行った。
【0025】
実施例1で得られた乾燥粉体0.5gを水5mlに混合懸濁した後、10000rpmで5分間遠心分離し、その遠心上清から高速液体クロマトグラフィ(日本分光社製)により、β−1,4−マンノビオースを約10mg分取した。次に、上記予備試験と同様の方法で、蒸留水に代えて上記分取したβ−1,4−マンノビオース及びマンノース試薬(和光純薬社製;D−Mannose)を使用した糖水溶液を用い、それぞれ濃度を変化させて混合液の凝集を阻害する最低濃度(凝集抑制最低濃度)を求めた。表1に、混合液の凝集を阻害する実際の凝集抑制最低濃度、及びマンノースの凝集抑制最低濃度を1とした場合の相対濃度(濃度比)を示す。表1から明らかなように、β−1,4−マンノビオースは、サルモネラ菌による凝集を阻害するためにはマンノースの2倍程度の量が必要となることが判明した。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例4(代謝試験)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた乾燥粉体に水を加え10倍量の懸濁液とした。また、マンノース試薬の1%水溶液を準備した。以上4点の懸濁液又は水溶液に鶏盲腸内容構成菌培養物であるインテクリーン(伊藤忠飼料株式会社製)を接種し、37℃にてマンノース、β−1,4−マンノビオースの代謝を調査した。培養開始時及び20時間培養後の懸濁液又は溶液をサンプリングし、10000rpmで10分間の遠心分離後、その上澄をイオン交換クロマトグラフィにてそれぞれの成分の含有量(mg/g)を調べた。その結果を表2に示す。表2から明らかなように、比較例1のマンノースは66%減少し、マンノース試薬においても69%が減少しており、マンノースは腸内細菌により非常に代謝されやすいことが判明した。これに対し、実施例1のβ−1,4−マンノビオースの減少量は16%であり、実施例2においてもβ−1,4−マンノビオースの減少量は17%であり、マンノースに比して明らかに代謝率が低いことが判明した。
【0028】
【表2】

【0029】
上記凝集試験及び代謝試験の結果から、β−1,4−マンノビオースは、マンノースに比べサルモネラ認識能がやや劣るもの、家畜腸内の細菌類によって資化されにくいので、サルモネラ菌定着抑制においてはマンノース以上に有効に働き、効率的にサルモネラ菌を体外へ排出することができることがわかる。また、代謝試験の結果よりβ−1,4−マンノビオースは資化されにくいので、家畜の免疫強化のために成鶏盲腸内容菌などの生菌剤を併用する場合に特に有用であることがわかる。
【0030】
実施例5(動物試験)
市販コマーシャル採卵鶏初生オスヒナ150羽を3分し、市販コマーシャルブロイラー用配合飼料(商品名:アマタケS、薬剤無添加/伊藤忠飼料株式会社製)を給与した50羽の対照区、同配合飼料に実施例2で得られた乾燥粉体を0.1%添加した飼料を給与した50羽の区、及び比較例1で得られた乾燥粉体を0.1%添加した飼料を給与した50羽の区の合計3区を設定し、不断給餌、自由飲水にて飼育した。3日令でサルモネラ菌(Salmonella enteritidis KTE−61株)、3.9×10cfu/羽を経口接種させた。サルモネラ菌接種後5日、10日、17日において各区、盲腸内容物中のサルモネラ菌数(対数)を調べた。その結果を表3に示し、それをグラフで表したものが第1図である。
【0031】
【表3】

【0032】
表3及び図1から明らかなように、実施例2で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区及び比較例1で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区はともに全試験期間を通じて対照区より菌数が少なく、サルモネラ菌を有効に減少させていることが判明したが、特に実施例2で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区は、比較例1で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区に比してより少ない菌数を示しており、さらに効果的に作用することが判明した。
【0033】
実施例6(コプラミールからβ−1,4−マンノビオース含有組成物の製造)
コプラミール100部に酵素スミチームACH(新日本化学工業株式会社製)0.25部を溶解した酵素液125部を50℃、22時間作用させた後、流動層乾燥装置にて水分7.1%まで乾燥、乾燥粉体103部を得た。この乾燥粉体にはマンノース1.17部、マンノビオース14.18部(マンナンに対し47.3%)が生成していた。
【0034】
比較例2
コプラミール100部に酵素セルロシンGM5(エイチビィアイ株式会社製)0.3部を溶解した酵素液150部を60℃、72時間作用させた後、流動層乾燥装置にて水分6.4%まで乾燥、乾燥粉体100部を得た。この乾燥粉体にはマンノース13.72部、マンノビオース0.64部(マンナンに対し2.13%)が生成していた。
【0035】
実施例7(動物試験2、ブロイラーヒナでの効果)
市販コマーシャルブロイラー初生ヒナ45羽を3分し、市販コマーシャルブロイラー用配合飼料(商品名アマタケS、薬剤無添加/伊藤忠飼料株式会社製)を給与した15羽を対照区とし、同配合飼料に実施例6で得られた乾燥粉体を0.1%添加し給与した区15羽、比較例2で得られた乾燥粉体を0.1%添加した給与した区15羽の合計3区を設定し、不断給餌、自由飲水にて1週間予備飼育した。1週令でサルモネラ菌(Salmonella enteritidis HY−1株)、2.27×10cfu/羽を経口接種した。サルモネラ菌接種後1週間後、2週間後、3週間後において各区5羽ずつ解剖し、盲腸内容物中のサルモネラ菌数(対数)を調べた。
【0036】
その結果を表4に示し、それをグラフで示したものが第2図である。
【0037】
【表4】

【0038】
実施例6で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区および比較例2で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区はともにSE接種後3週目において対照区より菌数が少なく、サルモネラ菌を減少させていることが判明したが、特に実施例6で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区は、比較例2で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区より少ない菌数を示しており、さらに効果的に作用することが判明した。
【0039】
実施例8(動物試験3、採卵鶏中雛での効果)
7週令採卵鶏中雛30羽を3分し、市販コマーシャルブロイラー用配合飼料(商品名アマタケS、薬剤無添加/伊藤忠飼料株式会社製)を給与した10羽を対照区とし、同配合飼料に実施例6で得られた乾燥粉体を0.1%添加し給与した区10羽、比較例2で得られた乾燥粉体を0.1%添加した給与した区10羽の合計3区を設定し、不断給餌、自由飲水にて1週間予備飼育した。その後、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis HY−1株)、1.13×10cfu/羽を経口接種した。サルモネラ菌接種後1週間後、2週間後、3週間後、4週間後において盲腸便を採取し、盲腸便におけるサルモネラ菌数(対数)を調べた。
【0040】
その結果を表5に示し、それをグラフで示したものが第3図である。
【0041】
【表5】

【0042】
実施例6で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区および比較例2で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区はともにSE接種後1週目2週目において対照区より菌数が少なく、サルモネラ菌を減少させていることが判明したが、特に実施例6で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区は、比較例2で得られた乾燥粉体を添加した飼料を給与した区より全期間を通じて少ない菌数を示しており、さらに効果的に作用することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、動物体内でのサルモネラ菌の定着を抑制してサルモネラ菌を体外へ効率的に排出することができるβ−1,4−マンノビオース含有組成物及びその製造方法、β−1,4−マンノビオース含有組成物を含む飼料用添加剤や、β−1,4−マンノビオース含有組成物を配合した飼料を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンナン含有天然物にマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも3重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むβ−1,4−マンノビオース含有組成物からなることを特徴とする飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤。
【請求項2】
マンナン含有天然物から抽出したマンナンにマンナン分解酵素を作用させて得られ、乾物換算で少なくとも10重量%以上のβ−1,4−マンノビオースを含むβ−1,4−マンノビオース含有組成物からなることを特徴とする飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤。
【請求項3】
マンナン含有天然物が、パーム核ミール及び/又はコプラミールであることを特徴とする請求項1又は2記載の飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤を、β−1,4−マンノビオースが0.001〜1重量%含有され、家畜又は家禽の腸内でのサルモネラ菌の定着を抑制しうる飼料の調製のために使用する方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の飼料添加用サルモネラ菌定着抑制剤を飼料に配合し、β−1,4−マンノビオースが0.001〜1重量%含有され、家畜又は家禽の腸内でのサルモネラ菌の定着を抑制しうることを特徴とする飼料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−183909(P2010−183909A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86997(P2010−86997)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【分割の表示】特願2004−555051(P2004−555051)の分割
【原出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【出願人】(390014742)伊藤忠飼料株式会社 (4)
【Fターム(参考)】