説明

β−D−グルコピラノシルアミン誘導体の製造方法

【課題】 本発明は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を、工業的に簡便で安価に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 水またはメタノール中でD−グルコースをアンモニアと反応させる第一工程と、第一工程の生成物と長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物とを反応させる第二工程とを含む製造方法によって、煩雑な工程や長時間の工程を伴うことなく、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を製造することができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で重要なβ−D−グルコピラノシルアミン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−D−グルコピラノシルアミンのアミノ基に長鎖飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体は界面活性剤として用いることができることが非特許文献1に開示されており、また、炭素数12〜41の長鎖不飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体は中空繊維状有機ナノチューブの構成単位として用いることができることが特許文献1および2に開示されている。このように、β−D−グルコピラノシルアミンは医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で重要な化合物であるが、報告されている製造方法には工業上の解決すべき課題があった。
【0003】
たとえば、合成中間体であるβ−D−グルコピラノシルアミンの調製方法として、特許文献1では約0.1Mのグルコース水溶液に、37℃で大過剰の炭酸水素アンモニウムを3〜5日間にわたって徐々に添加する方法が合成例として例示されているが、本法では反応が長時間にわたり、また、後処理段階での脱塩操作が煩雑になるという問題があった。
【0004】
一方、非特許文献1では0.2Mのグルコースおよび0.2Mの炭酸水素アンモニウムを16Mのアンモニア水中、42℃で36時間反応させると高純度でβ−D−グルコピラノシルアミンが生成することが開示されている。しかし、後処理工程での純度低下を防ぐために大量の水を凍結乾燥により除去しており、工業的な製法としては実用上の問題があった。また、非特許文献2では、3−アシル−5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2(3H)−チオンをアシル化剤としたβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の合成例が開示されているが、該アシル化剤は高価であり、工業的に簡便に応用できる製造方法ではなかった。
【0005】
すなわち、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸アミド誘導体は有用な化合物であるが、従来提案されてきた製造方法では、β−D−グルコースから中間体であるβ−D−グルコピラノシルアミンを製造する工程が煩雑であったり、長時間であったり、高価な原料が必要となるなどの問題があったため、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を工業的に安価に製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−224717号公報
【特許文献2】特開2008− 30185号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Carbohydrate Research, 266 211−219 (1995)
【非特許文献2】Tetrahedron Letters, Vol.32, No.12,pp1557−1560(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を、工業的に簡便で安価に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を製造するための煩雑な工程や長時間の工程を回避する手段に関して鋭意検討した結果、水またはメタノール中でD−グルコースをアンモニアと反応させる第一工程と、第一工程の生成物と長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物とを極性溶媒中で反応させる第二工程とを含む製造方法によって、煩雑な工程や長時間の工程を伴うことなく、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を製造することができることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を、D−グルコースからβ−D−グルコピラノシルアミンを経由して工業的に製造する際、従来法に比べ、煩雑な工程や長時間の工程を回避することができる。その結果、産業上有用なβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を安価に提供できるという効果を有しており、利用価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、第一工程(A)と第二工程(B)を含むことを必須とする。第一工程(A)では、D−グルコースをアンモニア水またはアンモニア/メタノール溶液中で加温した後、過剰量のアンモニアおよび溶媒(水またはメタノール)を除去することで、中間体のβ−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物を得ることができる。アンモニア水としては、アンモニア濃度が高いほうが反応が速く、反応後に除去する水の量が少なくて済むので、11N以上のアンモニア水が好ましく、13N以上のアンモニア水がさらに好ましい。すなわち、市販の25〜30重量%アンモニア水を好適に用いることができる。なお、上記のNは規定度の単位として当業者に慣用されている濃度の単位であり、溶液1リットル中に1グラム当量の溶質を含む濃度を意味する。アンモニア水の場合はアンモニウムイオンが1価陽イオンであるため、1モル/リットル濃度と同じ意味である。
【0012】
アンモニア/メタノール溶液の場合でもアンモニア濃度が高いほうが反応が速く、反応後に除去するメタノールの量が少なくて済むので、6N以上の濃度の溶液が好ましく使用可能であり、さらに好ましくは7N以上である。アンモニアは予め水またはメタノールに溶解された状態でも良く、また、D−グルコースを水またはメタノールに加えた後に、上述の使用可能または好適な濃度になるように注入されても良い。
アンモニア水は50質量%以下のメタノールおよび/またはエタノールを含んでいてもよく、また、アンモニア/メタノール溶液は50質量%以下の水および/またはエタノールを含んでいてもよい。これらの内では、アンモニア濃度をより高くできる点でアンモニア水を使用することがより好ましい。
【0013】
第一工程(A)におけるD‐グルコースの初期仕込み濃度は、高いほど反応の進行が速く、反応後に除去する溶媒の量が少なくて済むので好ましい。D−グルコースのモル数(mol)をアンモニア水またはアンモニア/メタノール溶液を含む溶液の体積(L)で除した量(mol/L、以後Mと略す)で定義すると、D‐グルコースの初期濃度は2〜5Mが好ましく、より好ましくは2.5〜4.5Mである。
【0014】
非特許文献1には第一工程(A)と類似の反応において、D‐グルコースの濃度が0.5Mを超えると、di−D−glycosylamineが生成することが開示されており、従来このような高濃度での反応は好ましくないと考えられてきたが、本発明における好ましいD‐グルコースの仕込み濃度は、従来知られていた濃度よりも著しく高い濃度領域で好ましい結果を得られるものであり、予想し得ない効果を奏するものである。
【0015】
第一工程(A)の反応は反応温度の影響を受ける。反応温度が低いほうが副生成物の発生を抑えることができるが反応時間が長時間になる傾向があり、反応温度を高くすれば反応の進行が加速されて反応時間が短くて済む。本発明において好ましい反応温度は25〜70℃、更に好ましくは35〜50℃の範囲である。この場合の好ましい反応時間は各種条件設定により異なるが、好ましくは5〜50時間、さらに好ましくは10〜30時間である。
【0016】
第一工程の(A)によって、D−グルコースはアンモニアと反応してβ−D−グルコピラノシルアミンに変る。反応終了後、過剰量のアンモニアおよび溶媒を除去することによって、本発明の目的物を得るための中間体であるβ−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物を得ることができる。過剰量のアンモニアおよび溶媒を除去する方法は、蒸散、凍結乾燥、減圧乾燥などいずれの方法でも用いることができるが、好ましくは減圧乾燥であり、その際の温度は低いほうが、β−D−グルコピラノシルアミンの分解を抑えることができ、一方で高いほうが速く溶媒を除去することができるので、好ましくは−30℃〜40℃、更に好ましくは−20℃から20℃である。
【0017】
第一工程(A)で得られるβ−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物の純度は、各種条件設定により異なるが、おおむね55〜90重量%であり、その他にはα−グルコース、β−グルコース、ジ−β−D−グルコピラノシルアミンが含まれる。β−D−グルコピラノシルアミンは、これらの不純物を含有する粗生成物の状態のまま、次工程の第二工程(B)に供することができる。
【0018】
第二工程(B)は、上記(A)の工程で得られたβ−グルコピラノシルアミンの粗生成物とD−グルコースと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物とを反応させ、式(1)で示されるβ−D−グルコピラノシルアミン誘導体を製造する工程である。
【0019】
本発明で使用する長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物は、総炭素数が12〜22の長鎖脂肪酸のハロゲン化物であり、飽和および/または不飽和の長鎖脂肪酸のカルボキシル基を酸ハロゲン化物に誘導したものである。ハロゲンとして好ましいのは反応性が高い臭素、塩素であり、さらに好ましいのは安価な塩素である。
長鎖飽和脂肪酸のハロゲン化物の具体例としては、ラウリン酸塩化物、トリデカン酸塩化物、ミリスチン酸塩化物、テトラデカン酸塩化物、パルミチン酸塩化物、ステアリン酸塩化物、ベヘニル酸塩化物、2−メチルオクタデカン酸塩化物などが例示される。長鎖不飽和脂肪酸のハロゲン化物の具体例としてはミリストレイン酸塩化物、パルミトレイン酸塩化物、オレイン酸塩化物、エライジン酸塩化物、リノール酸塩化物、γ−リノレン酸塩化物、アラキドン酸塩化物などが例示される。原料入手の容易性と化合物の安定性を考慮すると、これらの内で好ましいのはラウリン酸塩化物、ミリスチン酸塩化物、パルミチン酸塩化物、ステアリン酸塩化物、オレイン酸塩化物であり、さらに好ましいのはオレイン酸塩化物である。
【0020】
これらの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物は、複数の異種のものを併用することもできる。また、天然油脂を出発原料とする場合が多いため数種の飽和および不飽和の脂肪酸ハロゲン化物の混合物が市販されている場合もある。このような混合物も本発明の目的を損なわない限り、好適に使用することができる。
【0021】
第二工程(B)におけるβ−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物との仕込み比は、特に限定されるものではないが、収率とコストを勘案すると、β−D−グルコピラノシルアミンに対して、長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物を化学両論量付近から小過剰となる量の範囲で反応させることがコスト的に好ましい。具体的にはβ−D−グルコピラノシルアミンの1モルに対して0.5から2.5モルの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物を反応させた場合、トータルのコストを最小限にすることができるので好ましく、さらに好ましくは1.0〜2.0モルである。
【0022】
上記の反応は、反応用媒中で行なわれる。反応溶媒として好ましいのは極性溶媒であり、具体的にはメタノール、エタノール、2−プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などであり、さらに好ましいのはメタノールである。極性溶媒中には50重量%以下、好ましくは30重量%以下の水が含まれていても本発明の反応を実施することができる。また、二層分離しない程度の量の非極性溶媒を含んでいてもよい。
【0023】
反応溶媒の好ましい使用量は第一工程(A)で用いたD−グルコースの量に依存し、D−グルコースの使用量1gに対して2〜15mlの反応溶媒を使用するのが好適である。反応溶媒の使用量が少なすぎると反応の進行が不十分となり、多すぎる場合はコストが上昇する。
反応溶媒を用いた場合は、反応後の反応液には、反応生成物であるβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体、未反応のβ−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物、反応溶媒、副生する塩酸およびその塩などが含まれる混合物となる。
【0024】
また、第二工程において副生する酸の捕捉剤として塩基性物質を共存させることができる。この場合の塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属化合物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7などの3級アミンが例示され、反応性とコストを考慮するとトリエチルアミンが好適である。また、塩基性物質の添加量は、長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸塩化物の添加量1モルに対して0.5モルから2.0モルが好ましく、さらに好ましくは1.0モルから1.5モルである。
【0025】
第二工程(B)の反応温度は低いほうが副生成物の発生を抑えることができるが反応時間が長時間になる傾向があり、反応温度を高くすれば反応の進行が加速されて反応時間が短くて済む。本発明において好ましい第二工程の反応温度は−5〜35℃、更に好ましくは0〜25℃の範囲である。この場合の好ましい反応時間は各種条件設定により異なるが、好ましくは5分〜50時間、さらに好ましくは10分〜10時間である。
【0026】
第二工程で得られた反応液からは、溶媒抽出、溶媒洗浄、再結晶、活性炭処理、各種クロマトグラフィー等の常法により、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を分離・精製して得ることができ、得られたβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の製造方法の実施例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
和光純薬(株)製のD−(+)−グルコース(10.0g, 55.5mmol)と25%アンモニア水(13.0ml)を肉厚ガラス容器に入れ、密栓後、攪拌してD−(+)−グルコースを溶解した。反応容器を40℃に加温した。24時間後、開封し、内容物をナス型フラスコに移した。つぎに、5℃の水浴上で真空ポンプに連結し、減圧下でアンモニア水を除去した。6時間後にフラスコ内容物が乾固したのでかきとり、β−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物(10.7g)を得た。1H−NMR分析により、本粗生成物はモル分率でβ−D−グルコピラノシルアミン84%、α−グルコース3%、β−グルコース6%、および、ジ−β−D−グルコピラノシルアミン6%からなる混合物であることを確認した。
実施例1の第一工程ではアンモニア水の使用量が少ないため、反応後の余剰のアンモニア水は低温でも容易に除去することができた。
【0028】
得られた上記粗生成物にメタノール(80ml)を加え、室温で攪拌して溶解した。つぎに、氷冷したところ、溶液から一部結晶性化合物が析出した。同温でSigma−Aldrich社製のオレイン酸クロリド(11.0ml、33.3mmol)を5分間にわたって滴下した後、トリエチルアミン(9.80ml、70.3mmol)を5分間にわたって滴下した。さらに同温度で、オレイン酸クロリド(11.0ml、33.3mmol)を5分間にわたって滴下した後、室温に昇温した。3時間攪拌を継続した後、反応混合物を減圧下で濃縮した。
【0029】
濃縮残渣にテトラヒドロフラン(80ml)および飽和食塩水(60ml)を加えて分配し、水層を廃棄した。つぎに、有機層を33%クエン酸水溶液(30g)および飽和食塩水(60ml)の混合溶液で洗浄し、有機層を回収した。有機層を減圧下で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、淡黄色結晶性のβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(14.4g)を得た。
【0030】
[試験例]
実施例1で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体を特許文献2記載の方法で処理した後、電子顕微鏡で観察することにより、中空繊維状の有機ナノチューブが製造できることを確認した。
【0031】

<実施例2>
和光純薬(株)製のD−(+)−グルコース (10.0g,55.5mmol)と7Nアンモニア/メタノール(18.5ml)および回転子を肉厚ガラス容器に入れ、密栓後、反応容器を40℃に加温しマグネチックスターラーによる攪拌を行った。24時間後、開封し、内容物をナス型フラスコに移した。つぎに、20℃の水浴上で真空ポンプに連結し、減圧下でアンモニア/メタノールを除去した。3時間後にフラスコ内容物が乾固したのでかきとり、β−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物(10.6g)を得た。1H−NMR分析により、本粗生成物はモル分率でβ−D−グルコピラノシルアミン56%、α−グルコース13%、β−グルコース20%、および、ジ−β−D−グルコピラノシルアミン11%からなる混合物でることを確認した。
【0032】
得られた上記粗生成物にメタノール(50ml)を加え、室温で攪拌して溶解した。つぎに、氷冷したところ、溶液から一部結晶性化合物が析出した。同温で和光純薬(株)製のオレイン酸クロリド(7.00ml、21.2mmol)を5分間にわたって滴下した後、トリエチルアミン(6.30ml、45.2mmol)を5分間にわたって滴下した。さらに同温で、オレイン酸クロリド(7.00ml、21.2mmol)を5分間にわたって滴下した後、室温に昇温した。3時間攪拌を継続した後、反応混合物を減圧下で濃縮した。
【0033】
濃縮残渣にテトラヒドロフラン(80ml)および飽和食塩水(60ml)を加えて分配し、水層を廃棄した。つぎに、有機層を33%クエン酸水溶液(30g)および飽和食塩水(60ml)の混合溶液で洗浄し、有機層を回収した。有機層を減圧下で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、淡褐色結晶性のβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(11.0g)を得た。
【0034】
つぎに、得られた淡褐色結晶性のβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(11.0g)にメタノール(150ml)を加え、55℃で溶解した。同温で粉末状活性炭(1.1g)を加えて攪拌した。30分後、同温でセライト545(商品名、珪藻土の1種)を用いた吸引濾過により活性炭を除去した。濾液を減圧濃縮することで、無色結晶性のβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(9.18g)を得た。
【0035】
<実施例3>
和光純薬(株)製のD−(+)−グルコース(10.0g, 55.5mmol)と25%アンモニア水(280ml)を肉厚ガラス容器に入れ、密栓後、攪拌してD−(+)−グルコースを溶解した。反応容器を40℃に加温した。24時間後、開封し、内容物をナス型フラスコに移した。つぎに、40℃の水浴上で真空ポンプに連結したロータリーエバポレーターを用いて、減圧下でアンモニア水を除去した。8時間後にフラスコ内容物が乾固したのでかきとり、β−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物(11.4g)を得た。1H−NMR分析により、本粗生成物はモル分率でβ−D−グルコピラノシルアミン55%、α−グルコース15%、β−グルコース21%、および、ジ−β−D−グルコピラノシルアミン9%からなる混合物であることを確認した。
実施例3の第一工程ではアンモニア水の使用量が多く、反応後の余剰のアンモニア水の除去に時間がかかりすぎるのを防ぐために、水浴を40℃に設定した。
【0036】
得られた上記粗生成物にメタノール(80ml)を加え、室温で攪拌して溶解した。つぎに、氷冷したところ、溶液から一部結晶性化合物が析出した。同温でSigma−Aldrich社製のオレイン酸クロリド(9.10ml、27.5mmol)を5分間にわたって滴下した後、トリエチルアミン(8.00ml、57.4mmol)を5分間にわたって滴下した。さらに同温度で、オレイン酸クロリド(9.10ml、27.5mmol)を5分間にわたって滴下した後、室温に昇温した。3時間攪拌を継続した後、反応混合物を減圧下で濃縮した。
【0037】
濃縮残渣にテトラヒドロフラン(80ml)および飽和食塩水(60ml)を加えて分配し、水層を廃棄した。つぎに、有機層を33%クエン酸水溶液(30g)および飽和食塩水(60ml)の混合溶液で洗浄し、有機層を回収した。有機層を減圧下で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、淡黄色結晶性のβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(8.1g)を得た。
【0038】
第一工程におけるD−グルコースを低濃度とする実施例3では、アンモニア水の留去に高温で長時間がかかり、得られたβ−D−グルコピラノシルアミンの収率が若干劣る結果となった。その理由は、おそらく高温で長時間かけてアンモニア水を留去する間に、アンモニア分が先に気化してしまい、いったん生成したβ−D−グルコピラノシルアミンが加水分解してしまったためではないかと思われる。しかし、第二工程には影響がなく、最終的には目的物を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の安価な製造方法として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一工程(A)D−グルコースを、水またはメタノール溶媒中でアンモニアと反応させた後、過剰のアンモニアと溶媒を除去し、β−グルコピラノシルアミンの粗生成物を得る工程。
第二工程(B)上記(A)の工程で得られたβ−グルコピラノシルアミンの粗生成物を反応溶媒中で、長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物と反応させる工程。
を含む、下記式(1)で示されるβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の製造方法

【化1】


[式(1)中のRは炭素数11〜21の炭化水素基を示す。]
【請求項2】
第一工程(A)におけるD−グルコースの初期濃度が2〜5mol/リットル濃度の範囲である、請求項1の、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の製造方法。
【請求項3】
第二工程(B)における長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物の添加量が、上記のD−グルコースの1モルに対して0.5〜2.5モルである、請求項1または2の、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
第二工程(B)において長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物の1モルに対して1.0〜1.5モルの塩基性物質を添加する、請求項1〜3のいずれかの、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−285371(P2010−285371A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139711(P2009−139711)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】