説明

βアミロイドタンパク質を減少させるための方法

【課題】アミロイドβタンパク質の産生を減少する診断薬および薬剤を提供し、それによって、ADを発症しそうな状態を予防または減少すること。
【解決手段】血中コレステロールレベルは、Aβの産生と相関付けられ、そしてADを発症する危険がある集団の予測因子である。血中コレステロールレベルを減少させる方法を使用してAβの産生を減少し得、それによりADを発症する危険を減少させる。同じ方法および組成物がまた、ADと診断された個体を処置するために使用され得る。方法としては、肝臓によるコレステロール取り込みを増加させる化合物(例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビター)の投与、コレステロールの内因性産生をブロックする化合物(例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビター)の投与、食餌コレステロールの取り込みを防止する組成物の投与、血中コレステロールレベルの低下に有効なこれらの任意の組合せの投与が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
合衆国政府は、Bruce A.Yanknerに対する国立衛生院助成金番号RO1NS33325によって、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、高齢の集団において最も一般的な痴呆の原因である。40〜42アミノ酸のアミロイドβタンパク質(Aβ)を含有する大多数の老人性斑の蓄積は、ADの古典的な病理学的特徴である。遺伝的および細胞生物学的の両方の知見は、脳におけるAβの蓄積は、ADの原因のようであることを示唆する(Yankner、B.A.(1996)Neuron 16、921〜932.;Selkoe、D.J.Science 275、630〜631(1997))。Aβの病理学的役割を支持する強力な遺伝学的証拠は、アミロイド前駆タンパク質において変異を遺伝する個体が、ほとんど若年において、必ずADを発症するという観察から生じた。これらの変異は、脳における老人性斑を形成するAβペプチドの長い改変体の産生を増加する(Goateら、(1991)Nature 349、704〜706)。ADを生じる、他の遺伝子における変異および対立遺伝子改変体(プレセニリンおよびアポリポタンパク質Eを含む)もまた、Aβペプチドの産生および沈着の増加を生じる。Reimanら(1996)N.E.J.Med.334、752〜758は、中年(50代前半〜中盤)において、ApoE4遺伝子のホモ接合型を有する個体がアルツハイマー病の患者と同一の脳の領域において、減少したグルコース代謝を有することを報告した。これらの知見は、この遺伝子に関連する脳における生理学的変化が早期に開始することを示唆する。さらに、ダウン症候群を有する個体は、アミロイド前駆タンパク質を過剰発現し、若年において脳にAβ沈着を発症し、そして若年においてアルツハイマー病を発症する。最後に、Aβタンパク質は、神経細胞に対して高度に毒性であることが実証されている。従って、脳におけるAβのレベルを減少する薬物は、アルツハイマー病を防止すると広く考えられている。
【0003】
公知のADの遺伝的原因は、ADの症例の全体数のうち、ほんの小さな集団を説明し得るにすぎない。ADのほとんどの症例は、散発性であり、そして高齢の集団において生じる。研究の主な目的は、治療的尺度を受け入れ得るADの素因となる環境因子の同定である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、ADを発症する危険性のある集団を予測する方法を提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、アミロイドβタンパク質(Aβ)の産生を減少する診断薬および薬剤を提供し、それによって、ADを発症しそうな状態を予防または減少することである。
【0006】
本発明のさらなる目的は、ADの神経精神病学的または診断的判定基準を有する患者においてADを処置するための薬学的処置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
血中コレステロールレベルは、アミロイドβタンパク質(Aβ)の産生と相関し、そしてAD発症の危険性を有する集団の予測因子である。血中コレステロールレベルを低下させる方法を使用して、Aβの産生を減少し得、それにより、ADを発症する危険性を減少し得る。同一の方法および組成物を、ADと診断された個体を処置するためにもまた使用し得る。方法は、肝臓によるコレステロールの取り込みを上昇する化合物の投与(例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビターの投与)、コレステロールの内因性産生をブロックする化合物の投与(例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビターの投与)、食餌コレステロールの取り込みを予防する組成物の投与、および血中コレステロールレベルを低下させるのに効果的な任意のこれらの組み合わせの投与を包含する。方法はまた、Aβ産生におけるコレステロールの役割に基づき、危険性を有する集団を予測するために、開発された。例えば、200mg/dlを超える血中コレステロールレベルとして規定されるApoE4および高コレステロールを有する個体、高コレステロールレベルを有する閉経期後の女性(特にエストロゲンを摂取していない女性)、または肥満ではない高血中コレステロールレベルを有する個体は全て、血中コレステロールレベルが減少しない場合、AD発症の危険性を有する。好ましい実施態様において、これらの危険性因子を有する個体は、臨床診療において受け入れられた神経精神病学的および診断的判定基準に基づき、ADに起因する任意の精神障害を発症する以前に、血中コレステロールレベルを低下させるために処置される。処置は、少なくとも10%血中コレステロールレベルを低下させるのに効果的な1つ以上の組成物の投与に基づき、この処置は、Aβの産生の減少に充分であると考えられる。
【0008】
これらの危険因子の発見に基づく診断キットは、コレステロール、総リポタンパク質、および/またはApoE4の測定のための試薬を含む。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1) Aβの産生を減少させるための方法であって、アルツハイマー病の危険がある、またはその症状を示す、コレステロールのレベル上昇を伴う個人に対して、血中コレステロールレベルを減少させる組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 前記組成物が、HMG CoAレダクターゼインヒビターである、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記組成物が、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチニン、プラバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンおよびコンパクチンからなる群より選択される、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記組成物が,食餌コレステロールの取り込みを阻害する、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記組成物が、コレステロールの内因性産生をブロックするかまたは減少させる、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記組成物が、コレステロール代謝またはクリアランスを増大させる、項目1に記載の方法。
(項目7) 前記個人が、アポリポタンパク質E4遺伝子を有する、項目1に記載の方法。
(項目8) 前記個人が、トリソミー21(ダウン症候群)を有する、項目1に記載の方法。
(項目9) 前記個人が、アミロイドβタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン−1またはプレセニリン−2をコードする遺伝子において1以上の変異を有する、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記個人が、アルツハイマー病または痴呆性疾患の家族歴を有する、項目1に記載の方法。
(項目11) 前記個人が、高コレステロールを伴う閉経後女性である、項目1に記載の方法。
(項目12) 前記個人が、高血中コレステロールレベルを有し、肥満ではない、項目1に記載の方法。
(項目13) 前記個人が、48〜65歳の間の年齢である、項目1に記載の方法。
(項目14) 個人がアルツハイマー病を発症する危険にあるか否かを予測するための方法であって、該個人の血中コレステロールレベルが上昇しているか否かを決定する工程を包含する、方法。
(項目15) 前記レベルが200mg/dl以上である、項目14に記載の方法。
(項目16) 前記個人がアポリポタンパク質E4遺伝子を有するか否かを決定する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目17) 前記個人が、トリソミー21(ダウン症候群)を有するか否かを決定する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目18) 前記個人が、アミロイドβタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン−1またはプレセニリン−2をコードする遺伝子において1以上の変異を有するか否かを決定する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目19) 前記個人が、アルツハイマー病または痴呆性疾患の家族歴を有するか否かを決定する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目20) 前記個人が、高コレステロールを伴う閉経後女性であるか否かを決定する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目21) 個人が、アルツハイマー病を発祥する危険にあるか否かを決定するためのキットであって、血中コレステロールレベルが、200mg/dlを超えるか否かを決定するための試薬を備える、キット。
(項目22) アポリポタンパク質E4遺伝子、アポリポタンパク質E4遺伝子産物、アミロイドβタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン−1およびプレセニリン−2からなる群より選択される少なくとも1つの因子を決定するための試薬をさらに備える、項目21に記載のキット。
(項目23) 血中コレステロールレベルを減少させる化合物の有効量を含む、Aβの産生を減少するための組成物。
(項目24) HMG CoAレダクターゼインヒビターを含む、項目23に記載の組成物。
(項目25) 前記インヒビターが、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチニン、プラバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンおよびコンパクチンからなる群より選択される、項目24に記載の組成物。
(項目26) 食餌コレステロールの取り込みを阻害する化合物を含む、項目23に記載の組成物。
(項目27) 項目23に記載の組成物であって、該組成物は、コレステロールの内因性産生をブロックするかまたは減少させる、組成物。
(項目28) 項目27に記載の組成物であって、該組成物は、2,3−オキシドスクアレンシクラーゼ、スクアレンシンターゼ、および7−デヒドロコレステロールレダクターゼからなる群より選択されるコレステロール生合成酵素のインヒビターを含む、組成物。
(項目29) 項目23に記載の組成物であって、該組成物は、フィブレート、胆汁酸結合樹脂、プロブコール、ニコチン酸、ニンニク、ニンニク誘導体および車前子からなる群より選択される、組成物。
【0009】
実施例は、HMG CoAレダクターゼインヒビターのアルツハイマー病の処置のための使用を実証する。高コレステロール食餌を受けたラットは、脳におけるアルツハイマー病Aβタンパク質の増加したレベルを示す。コレステロールは、培養物中のヒトニューロンにおけるAβの量を増加することが示されている。HMG CoAレダクターゼインヒビターは、コレステロール産生を減少する。いくつかの異なるHMG CoAレダクターゼインヒビター(ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチニン(fluvastatin)、プラバスタチン、およびコンパクチン(compactin)を含む)は、ヒトニューロン培養物中のAβ産生のレベルを有意に阻害する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
(I.ADの危険性のある集団を予測するための方法)
Aβ蓄積病およびアルツハイマー病の危険性の増加した個体は、アポリポタンパク質E4遺伝子のコピーを保有する個体(Strittmatterら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90,1977−1981)、三染色体性21(ダウン症)を有する個体(MannおよびEsiri、(1989)J.Neurol.Sci.89,169−179)、およびアミロイド前駆体タンパク質であるプレセニリン(presenilin)−1またはプレセニリン−2をコードする遺伝子の1つにおいて変異を保有する個体(Yankner,1996に概説される)である。さらに、アルツハイマー病の家族歴を有する個体は、アルツハイマー病の危険性が増加していることが見出されており(Farrerら(1989)Ann.Neurol.25,485−492;van Duijnら(1991)Int.J.Epidemiol.20(補遺2)、S13−S20)、それゆえ、HMG CoAレダクターゼインヒビターを用いる予防処置によって便益を受け得る。
【0011】
Aβの産生におけるコレステロールの役割に基づいて、危険性のある集団を予測する方法もまた、開発されてきた。ADを発症するためのいくつかの危険因子が同定されている。これらの因子としては、以下が挙げられる:
(1)200mg/dlを超える血中コレステロールレベルとして規定される、Apo E4および高コレステロールを有する個体、
(2)高コレステロールを有する閉経後の女性、特にエストロゲンを摂取しない女性、
(3)肥満ではない、高血中コレステロールレベルを有する若い個体(48〜65歳)、
(4)ADの家族歴を有する、高血中コレステロールレベルを有する個体、
(5)ADの家族歴を有する高血中コレステロールレベルを有する個体、および
(6)ダウン症候群を有する全ての成人個体。
【0012】
これらの個体は全て、血中コレステロールレベルが減少しない場合に、ADを発症する危険性がある。好ましい実施態様において、これらの危険因子を有する個体は、ADに起因する任意の精神的欠陥を発症する前に、推定アルツハイマー病について認められる神経精神医学的基準および診断基準を使用して、血中コレステロールレベルをより低くするために処置される(McKhahnら(1984)Neurology34:939−944)。
【0013】
個体は、コレステロール、ApoE4、および/または総リポタンパク質レベルについての標準的な血液試験を使用して、ならびに医療歴および家族歴を得ることによってスクリーニングされ得る。さらに、追加してカウンター免疫アッセイ試験が、危険性があり得る個体によって使用され得、その結果個体は、さらなる医療アドバイスを探索し得る。これらの免疫アッセイキットは、上昇したコレステロール、総リポタンパク質、およびApoE4について定性的および/または定量的であり得る。
【0014】
(II.Aβの産生を減少させる処置の方法)
血中コレステロールレベルを低下させるための方法を使用して、Aβの産生を減少させ得、それによりADを発症する危険性を減少させる。また、同じ方法を使用して、ADを有すると既に診断されている患者を処置し得る。方法は、肝臓によるコレステロールの取り込みを増加する化合物の投与(例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビターの投与)、コレステロールの内因性産生をブロックする化合物の投与(例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビターの投与)、食餌コレステロールの取り込みを防止する組成物の投与、および血中コレステロールレベルを低下させるに有効なこれらの任意の組み合わせの投与を含む。
【0015】
実施例は、いくつかの異なるHMG CoAレダクターゼインヒビターがAβの産生を減少させることを示す。HMG CoAレダクターゼインヒビターは、いくつかの異なるレベルでコレステロールを低下させるように作用し得る。例えば、HMG CoAレダクターゼインヒビターは、肝臓におけるリポタンパク質クリアランスレセプターをアップレギュレートすることによって血中コレステロールレベルを低下させることが示されている(BrownおよびGoldstein、(1986)Science232,34−47)。さらに、HMG CoAレダクターゼインヒビターは、ニューロンにおけるコレステロール合成を直接阻害する。試験されたあらゆるHMG CoAレダクターゼインヒビターは、Aβ産生を減少するので、このクラスの薬物の新たなメンバーもまた、Aβ産生を阻害すると想到される。さらに、増加した食餌コレステロールは、脳におけるAβを増加するので、他の機構を介してコレステロールを減少するように作用する薬物もまた、Aβ産生を阻害する。
【0016】
例示的なCoAレダクターゼインヒビターとしては、ロバスタチン、シンバスタチン、コンパクチン、フルバスタチニン、アトロバスタチン(atorvastatin)、セリバスタチン(cerivastatin)、およびプラバスチンを含むスタチンが挙げられる。これらは、代表的には、経口投与される。
【0017】
コレステロール生合成酵素(2,3−オキシドスクアレンシクラーゼ、スクアレンシンターゼ、および7−デヒドロコレステロールレダクターゼを含む)を阻害する化合物もまた使用され得る。
【0018】
食餌コレステロールの取り込みを減少させる例示的な組成物としては、胆汁酸結合樹脂(コレステリルアミンおよびコレスチポール(colestipol))およびフィブレート(fibrate)(クロフィブレート(clofibrate))が挙げられる。プロブコール、ニコチン酸、ニンニクおよびニンニク誘導体、ならびに車前子もまた、血中コレステロールレベルを低下させるために使用される。プロブコールおよびそのフィブレートは、コレステロール含有リポタンパク質の代謝を増加させる。コレステロールを低下させるニコチン酸の機構は、理解されていない。
【0019】
HMG CoAレダクターゼインヒビターの投与の優先経路は経口であるが、この薬物はまた、静脈内、皮下または筋肉内経路によって投与され得る。いくつかの場合において、大脳脊髄液(cerebrospinal fluid)への直接投与が効果的であり得る。
【実施例】
【0020】
(III.実施例)
以下の実施例に記載される研究の前に、脳におけるコレステロールレベルとAβレベルとの関係は、未知であった。1つの研究において、高コレステロール食を摂食したウサギは、Aβに対する抗体を用いて脳ニューロンの免疫組織化学的染色の増加を示した。しかし、この抗体は、Aβに特異的ではなく、そしてアミロイド前駆タンパク質の他の代謝産物と交差反応し得た(Sparks,D.L.(1996)Neurobiology of Aging.17、291〜299)。以下の実施例における研究は、以下を実証する:高コレステロール食を摂食したラットが、脳におけるアルツハイマー病Aβタンパク質のレベルの増加を示すこと;コレステロールが、培養中のヒトニューロンにおいてAβの量を増加させること;HMG CoAレダクターゼインヒビターが、コレステロール産物を低減させること;およびいくつかの異なるHMG CoAレダクターゼインヒビター(ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチニン、プラバスタチンおよびコンパクチンを含む)が、ヒトニューロン培養物中のAβ産生のレベルを有意に阻害すること。
【0021】
(実施例1:コレステロールは、ヒトニューロン培養物中のAβのレベルを増加させる)
Busciglioら(1993)Proc.Nat.Acad.Sci.90、2092〜2096は、培養中のヒト皮質ニューロンによるAβの産生を記載した。コレステロールがAβの産生に影響を及ぼし得るか否かを決定するために、ヒト脳初代培養物を、16〜20週の胎児の流産児の皮質から樹立し、そしてニューロンを、ヒト血漿から単離された超低密度リポタンパク質(VLDL)粒子、低密度リポタンパク質(LDL)粒子もしくは高密度リポタンパク質(HDL)粒子の非存在下または存在下でインキュベートした。これらのリポタンパク質粒子は、細胞へのコレステロールの輸送のための生理学的ビヒクルである。ヒト皮質培養物中のAβレベルに対する異なるリポタンパク質粒子の効果を、決定した。このヒト皮質培養物を、N2補充物(ニューロンの生存を支持する無血清補充物)を有する無血清Dulbecco改変Eagle培地(DMEM)中で維持した。次いで、この培地を、同じ培地(コントロール)またはVLDL粒子、LDL粒子、もしくはHDL粒子を補充した培地に変更した。48〜72時間のインキュベーション後、Aβを、Aβに対するポリクローナル抗体(B12)を用いて培養培地の免疫沈降によって、続いて、Aβに対するモノクローナル抗体(6E10)を用いてウエスタンブロッティングによって測定した。このウェスタンブロットを、増強させた化学発光方法によってか、または123I標識化二次抗体の添加およびホスホルイメージャー(phosphorimager)スキャンニングによってのいずれかで発色させた。Aβの40アミノ酸形態および42アミノ酸形態に対応するバンドを、コンピュータソフトウェアプログラムを用いて定量的に分析した。コントロールのヒト皮質培養物は、基底レベルのAβを産生した。ヒト皮質培養物の、VLDL粒子、LDL粒子またはHDL粒子への曝露は、Aβの40アミノ酸形態および42アミノ酸形態の両方のレベルを増大させた。これらの結果は、コレステロール含有リポタンパク質の主要なクラスは全て、ヒトニューロンにおいてAβの産生を増大させるように作用することを示唆する。
【0022】
次いで、アポリポタンパク質Eまたはアポリポタンパク質A1を含むリポタンパク質粒子がAβ産生を増大し得るか否かを実証した。この問いに答えるために、これらのタンパク質を含む合成リポタンパク質粒子を作製した。アポリポタンパク質Eまたはアポリポタンパク質A1のいずれかを含む粒子は、ヒト皮質培養物中のAβのレベルを増大させた。
【0023】
これらの結果は、種々の異なるコレステロールを保有するリポタンパク質粒子が、ヒトニューロン初代培養物中のAβの産生を増大し得ることを示す。
【0024】
(実施例2:食餌コレステロールは脳におけるAβレベルを増加させる)
コレステロール保有リポタンパク質粒子がヒトのニューロンの培養物中のAβを増加させることを確立した後、食餌コレステロールがインビボで脳中のAβのレベルを増加させるかどうかを決定した。コレステロールの増加した食餌摂取によりリポタンパク質粒子の循環レベルが増加することが公知であり、このことは次に、コレステロールの細胞への送達を増加させる。これらの実験を、20ヶ月齢のラットに対して行った。これらのラットに低コレステロール食(0.1%コレステロール)かまたは高コレステロール食(5%コレステロール)を給餌した。10週間後、これらの動物を屠殺し、そしてその皮質をAβレベルの測定のために取り出した。Aβ抗体B12を用いて皮質ホモジネートを免疫沈降し、次いで市販のAβモノクローナル抗体4G8を用いてウェスタンブロットを行うことにより、Aβをアッセイした。
【0025】
ラット大脳皮質から単離されたAβをゲル上の電気泳動によって分離して、低コレステロール食を給餌されたラット群と比較して高コレステロール食を給餌されたラット群で約50%Aβレベルが有意に増加したことが示された。これらの発見は、食餌コレステロールが脳中のAβの量を増加させることを示す。高コレステロール食により誘導された脳中のAβの約50%の増加は、ダウン症候群で生じるAβの増加と類似していることは注目すべきである。ダウン症候群は、アルツハイマー病が発症しやすいことが公知である。
【0026】
(実施例3:HMG CoAレダクターゼインヒビターはヒトニューロンによるAβの産生を阻害する)
HMG CoAレダクターゼインヒビターは、心臓疾患に罹患する危険がある患者における血漿中のコレステロールレベルを減少させるために、ヒトにおいて使用されてきた。コレステロールが脳中のAβの量を増加させるという発見により、HMG CoAレダクターゼインヒビターがAβの産生を阻害することによりアルツハイマー病について治療上効果があり得るかどうかを決定するこの調査が行われた。ヒトの皮質性ニューロンの培養物を、上記のような妊娠18週の正常な胎児の皮質組織から樹立し、そしてN2サプリメントを含むDMEMから構成される培養培地にて維持した。1週間後、この培養培地をDMEM+N2サプリメント(コントロール)か、あるいはDMEM+N2サプリメントに100μMロバスタチン、100μMシンバスタチン、100μMコンパクチン、100μMフルバスタチニン、または1mMプラバスタチンのいずれかのいずれかを加えたものに変更し、48時間のインキュベーション後、この培養細胞を収集し、そして上記のようにAβのレベルをアッセイした。
【0027】
Aβを、ヒト皮質性ニューロン培養物由来の培養培地から単離し、そしてゲルにおける電気泳動により分離した。これらの結果は、ロバスタチン、シンバスタチン、コンパクチン、フルバスタチニンまたはプラバスタチンのいずれかで処理したヒトのニューロンは、コントロールと比較して有意に減少したAβレベルを有するということを実証する。これらの結果により、HMG CoAレダクターゼインヒビターがヒトニューロンによるAβの産生を減少させることが示される。
【0028】
HMG CoAレダクターゼインヒビターがヒトの皮質細胞によるAβ産生を阻害するという発見により、アルツハイマー病に罹患している個体またはアルツハイマー病を発症する危険がある個体におけるAβのレベルを減少させるために、この種類の薬物を使用することが支持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2010−47616(P2010−47616A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274999(P2009−274999)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【分割の表示】特願2000−537538(P2000−537538)の分割
【原出願日】平成11年3月23日(1999.3.23)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】