説明

β置換ニトロキシドラジカルの存在下の重合

【課題】ニトロキシド系の安定なフリーラジカルの存在下に、多分散度を良好に調節すると共に、従来技術に利用されている安定なフリーラジカルに比べ、重合又は共重合速度を確実に速める方法を提供。
【解決手段】リンを含有する基等でβ置換されたニトロキシド系の安定なフリーラジカルの存在下にラジカル経路により、少なくとも1種の単量体を重合または共重合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロキシド系の安定なフリーラジカルの存在下にラジカル経路で重合可能な少なくとも1種の単量体を重合又は共重合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単量体を重合又は共重合する際に安定なフリーラジカルが存在すると、重合の調節が可能になり、多分散度のより狭い重合体が得られる。
【0003】
重合又は共重合の調節の品質は、単量体から重合体又は共重合体への重合率の関数としての数平均分子量の増大を観察することによっても評価し得る。調節が良好であれば、数平均分子量は重合率に対して直線的に比例する。直線性から離れれば離れるほど調節は不良となる。
【0004】
米国特許第4,581,429号は、重合混合物に式=N−O−Xの化合物を用い、低温下に且つ低重合率でオリゴマーを製造する方法を記載している。
【0005】
米国特許第5,322,912号及び同第5,401,804号は、スチレンの重合に対する安定なフリーラジカルの効果を記載している。米国特許第5,412,047号は、アクリレートの重合に対する安定なフリーラジカルの効果を記載している。米国特許第5,449,724号は、エチレンの重合に対する安定なフリーラジカルの効果を記載している。上記に引用した文献は、安定なフリーラジカルとして、ニトロキシド基の窒素原子に対してβ位置に低分子量の基を有する環状分子を記載しており、該分子は、特に、重合又は共重合速度を大きく遅延させるという欠点を有しているために、最終重合体の多分散度を十分に狭くするに足るほど低い温度でこの重合又は共重合を実施することが時には困難であるか又は不可能な場合さえある。
【0006】
実際、混合物の温度が高くなるにつれ、重合又は共重合の調節がより劣ったものとなり、そのために、最終重合体又は共重合体は高い多分散度を示す。
【0007】
本発明の説明
本発明は上記欠点を克服するものである。本発明で導入される安定なフリーラジカルにより、多分散度を良好に調節すると共に、従来技術に利用されている安定なフリーラジカルに比べ、重合又は共重合速度が確実に速められる。
【0008】
本発明の別の利点は、ブロック共重合体の製造を可能にすることである。実際、安定なフリーラジカルの存在下に、第1単量体を重合すると、リビング重合体ブロックが得られる。次いで、該第1リビング重合体ブロックを第2単量体の重合混合物中に入れることにより、この第1ブロックに別の重合体のブロックを結合し得る。このようにして、ブロック共重合体、例えば、1個以上のポリスチレンブロックと1個以上のポリブタジエンブロックからなる共重合体を製造することができる。通常、そのような共重合体の製造は、従来技術のラジカル経路を用いると極めて困難であり、一般にその製造にはアニオン経路による共重合法が用いられる。
【0009】
ラジカル経路によるそのような共重合体の製造においては、各ブロックの重合を良好に調節する必要がある。実際、停止反応によってブロック重合による成長が中断されると、該ブロックに別の単量体ブロックを結合することが不可能になる。従って、停止反応の頻度を出来る限り低くしなければならない。重合の間に数平均分子量が重合率に直線的に比例している場合には停止反応は少ない。停止反応の存在は、重合率の関数としての数平均分子量の増大速度の低下となって表れる。
【0010】
本発明は、式:
【0011】
【化4】

〔式中、R基は、15より大きい分子量を有する〕
の配列を含むニトロキシド系の安定なフリーラジカルの存在下に重合可能な少なくとも1種の単量体の重合又は共重合法に関する。一価のR基は、ニトロキシドラジカルの窒素原子に対してβ位置に存在すると言われている。式(1)の炭素原子及び窒素原子の残りの原子価は、水素原子、又は1〜10個の炭素原子を含む炭化水素基など、例えば、アルキル、アリール若しくはアラルキル基のような種々の基に結合し得る。式(1)の炭素原子及び窒素原子が二価の基を介して互いに結合して環を形成することも含まれる。しかし、式(1)の炭素原子及び窒素原子の残りの原子価が一価の基に結合するのが好ましい。R基は30より大きい分子量を有しているのが好ましい。R基は、例えば、40〜450の分子量を有していてもよい。R基は、例えば、ホスホリル基を含む基であってよく、該R基は、式:
【0012】
【化5】

〔式中、同一でも異なっていてもよいR及びRは、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、アラルキルオキシ、ペルフルオロアルキル及びアラルキル基から選択し得、1〜20個の炭素原子を含み得る〕で表すことができる。R及び/又はRは、ハロゲン原子、例えば、塩素、臭素、フッ素又はヨウ素原子であってもよい。R基は、少なくとも1個の芳香環、例えば、フェニル基又はナフチル基を含んでいてもよく、それらを、例えば、1〜4個の炭素原子を含むアルキル基で置換してもよい。
【0013】
安定なフリーラジカルは、例えば、以下のリストから選択し得る:
N−t−ブチル−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシド、
N−t−ブチル−1−(2−ナフチル)−2−メチルプロピルニトロキシド、
N−t−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、
N−t−ブチル−1−ジベンジルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、
N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、
N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド、
N−(1−フェニル−2−メチルプロピル)−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド。
【0014】
安定なフリーラジカルは、重合可能単量体と安定なフリーラジカルの総重量の0.005〜5重量%の割合で重合又は共重合混合物に導入し得る。
【0015】
本発明の範囲内においては、ラジカル経路により重合又は共重合し得る炭素−炭素二重結合を有する任意の単量体を用い得る。
【0016】
重合又は共重合媒質中に存在する少なくとも1種の単量体は、ビニル芳香族単量体、オレフィン、ジエン、アクリル又はメタクリル単量体であってよい。該単量体は、二フッ化ビニリデン又は塩化ビニルであってもよい。
【0017】
ビニル芳香族単量体は、スチレン、ビニル基上でアルキル基で置換したスチレン、例えば、α−メチルスチレン、又はo−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、o−エチルスチレン若しくは2,4−ジメチルスチレン、又は環上でハロゲンで置換したスチレン、例えば、2,4−ジクロロスチレン、及びビニルアントラセンを意味するものとする。
【0018】
ジエンは、特に、4〜8個の炭素原子を含む共役ジエン、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン又はピペリレンを意味するものとする。
【0019】
本発明の方法は、ビニル芳香族単量体及びジエンの場合、とりわけ有効である。
【0020】
重合又は共重合は、単量体を考慮に入れて、当業者に公知の慣用条件下に実施する。というのは、この重合又は共重合は、本発明に従ってβ置換された安定なフリーラジカルを混合物に添加するという点で異なるが、ラジカル機構により行われるからである。重合又は共重合すべき単量体の種類によっては、重合又は共重合混合物にフリーラジカル開始剤を導入する必要があり得る。当業者には、重合又は共重合にそのような開始剤の存在を必要とする単量体は公知である。例えば、ジエンの重合又は共重合には、フリーラジカル開始剤が必要である。
【0021】
フリーラジカル開始剤は、重合又は共重合可能な単量体の質量を基準として50〜50,000ppmの割合で重合又は共重合混合物に導入してよい。
【0022】
フリーラジカル開始剤は、例えば、過酸化物種又はアゾ種のものから選択し得る。例として以下の開始剤を挙げることができる:過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸t−ブチル、過ピバル酸t−アミル、ペル−2−エチルヘキサン酸ブチル、過ピバル酸t−ブチル、過ネオデカン酸t−ブチル、過イソノナン酸t−ブチル、過ネオデカン酸t−アミル、過安息香酸t−ブチル、ペルオキシ二炭酸ジ−2−エチルヘキシル、ペルオキシ二炭酸ジシクロヘキシル、過ネオデカン酸クミル、過マレイン酸t−ブチル、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)及び2,2′−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)。
【0023】
混合物がビニル芳香族単量体を含み、且つ重合体又は共重合体の成長を良好に調節する、従って該重合体又は共重合体が特に狭い多分散度を有することが求められる場合、フリーラジカル開始剤が存在しないと重合又は共重合が生じないような温度で重合又は共重合を実施し、該混合物にフリーラジカル開始剤を添加するのが好ましい。例えば、少なくとも1種のビニル芳香族単量体を重合又は共重合する場合、温度が約120℃未満のときにこの状況が存在する。しかし、温度が90〜120℃、例えば、100〜120℃のとき、フリーラジカル開始剤を混合物に加えると、本発明の方法によりかなりの重合又は共重合速度が得られる。
【0024】
しかし、より高い多分散度が許容される場合には、混合物をより高い温度に加熱することも含まれる。
【0025】
即ち、混合物がビニル芳香族単量体を含む場合、重合又は共重合はフリーラジカル開始剤の不在下に熱的に開始し得、その場合、一般に120〜200℃、好ましくは120〜160℃で行う。フリーラジカル開始剤を導入した場合には、重合又は共重合を25〜120℃で実施し得るが、多分散度を犠牲にしてもより高速で重合することが好ましい場合、開始剤の種類、特にその半減期温度によっては、200℃まで加熱することも可能である。
【0026】
混合物がビニル芳香族単量体を含む場合、重合又は共重合を懸濁液又は溶液中で大量に(in bulk)実施することができる。
【0027】
ジエンの場合、重合又は共重合は一般に溶液又は懸濁液中で実施する。重合又は共重合混合物は、耐衝撃性ビニル芳香族重合体を得ることを目的とし得、その場合、該混合物は一般に、少なくとも1種のビニル芳香族単量体及び1種のゴムを含み、ゴムは一般に、共役ポリジエン、例えば1種以上のポリブタジエンである。
【0028】
本発明はさらに共重合体の製造にも関する。例えば、混合物中に少なくとも1種のビニル芳香族単量体が存在する場合、該単量体を、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アルキル基が1〜4個の炭素原子を含むアルキルエステル、アルキル基が1〜4個の炭素原子を含むN−アルキルマレイミド、又はN−フェニルマレイミドから選択される少なくとも1種の単量体と共重合し得る。
【0029】
重合又は共重合条件、特に、単量体から重合体又は共重合体への重合の時間、温度及び度合いに応じて、極めて異なる分子量の生成物を製造し得ることは勿論である。
【0030】
本発明は、10,000未満の重量平均分子量を有するオリゴマー、重合体又は共重合体の製造、並びに10,000を超える重量平均分子量を有する重合体又は共重合体、例えば、一般に100,000〜400,000の範囲の重量平均分子量を有する重合体の製造に関する。
【0031】
本発明は、単量体から重合体又は共重合体への重合率が50%未満の重合又は共重合法、並びに単量体から重合体又は共重合体への重合率が50%を超える重合又は共重合法に関する。
【0032】
第二アミンの製造法は、
− カルボニル基を含む化合物C、
− 第一アミン、
− ホスホリル基を含むリン含有誘導体
の間の反応段階を含み得る。
【0033】
化合物Cは、例えば、式:
【0034】
【化6】

〔式中、同一でも異なっていてもよいR及びRは、種々の基、例えば、水素原子、又は、例えば1〜10個の炭素原子を含む、アルキル、アリール若しくはアラルキル基を表し得る〕によって表すことができる。R及びR基は、互いに結合してカルボニル基の炭素原子を含む環を形成していてもよい。化合物Cは、アルデヒド又はケトンから選択し得る。
【0035】
化合物Cは、例えば、
− トリメチルアセトアルデヒド、
− イソブチルアルデヒド、
− ジエチルケトン、
− ジブチルケトン、
− メチルエチルケトン、
− シクロヘキサノン、
− 4−t−ブチルシクロヘキサノン、
− テトラロン
であってよい。
【0036】
第一アミンは、式R−NH〔式中、Rは、例えば、1〜30個の炭素原子を含む、例えば、アルキル、アリール又はアラルキル基のような、少なくとも1個の環を含み得る飽和又は不飽和の直鎖又は分枝鎖炭化水素基を表し得る〕によって表すことができる。R基は、例えば、以下の基:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t−ブチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、フェニル、ナフチル、ベンジル又は1−フェニルエチルから選択し得る。
【0037】
リン含有誘導体は、式HP(O)(R)(R)〔式中、同一でも異なっていてもよいR及びRは、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、アラルキルオキシ、ペルフルオロアルキル又はアラルキル基から選択し得、1〜20個の炭素原子を含み得る〕で表すことができる。R及び/又はRは、ハロゲン原子、例えば、塩素、臭素、フッ素又はヨウ素原子であってもよい。R及びR基は、例えば、以下の基:メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−ブチル、フェニル、ベンジル、メトキシ、エトキシ、トリフルオロメチル又はベンジルオキシから選択し得る。
【0038】
リン含有誘導体は、例えば、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ジベンジル、ホスホン酸ジイソプロピル、ホスホン酸ジ−n−ドデシル、ジフェニルホスフィンオキシド又はジベンジルホスフィンオキシドであってよい。
【0039】
反応においては、先ず、化合物Cと第一アミンを接触させ、次いで第2段階で、リン含有誘導体を加えるのが好ましい。
【0040】
該反応段階は、例えば、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で実施し得る。
【0041】
リン含有誘導体の化合物Cに対するモル比は、1より大きいのが好ましい。
【0042】
化合物Cの第一アミンに対するモル比は、0.8〜1.5の範囲が好ましい。
【0043】
該反応段階の結果として、混合物は第二アミンを含んでおり、該アミンも本発明の主題である。この第二アミンは、必要なら、任意の適当な方法で単離し得る。
【0044】
特に、該混合物を塩酸水溶液で酸性にして第二アミンの塩酸塩を形成し、次いで、エーテルのような有機溶媒を混合物に加えて除去すべき成分を溶解し、次いで、水相を分離してから、水相に炭酸ナトリウムを加えて第二アミンを遊離させることができる。次いで、エーテルのような有機溶媒で第二アミンを抽出し、溶媒を蒸発させた後で分離する。
【0045】
第二アミンは、式:
【0046】
【化7】

〔式中、R、R、R、R及びR基は、上記定義の通りである〕
によって表し得る。
【0047】
第二アミンはニトロキシドの製造に用い得る。
【0048】
このニトロキシドの製造法は、第二アミンの形成後に、その>N−H基を>N−O.基で置換し得る、第二アミンの酸化段階を含む。いくつかの適当な方法の非包括的リストを以下に示す:
− 第二アミンと過酸化水素との反応(その原理は欧州特許出願第0,488,403号に教示されている);
− 第二アミンとジメチルジオキシランとの反応〔その原理は、R.W.Murray及びM.Singh、Tetrahedron Letters,1988,29(37),4677−4680(又は米国特許第5,087,752号)に教示されている〕;
− 第二アミンとメタクロロ過安息香酸(MCPBA)との反応〔その原理は、J.Am.Chem.Soc.,1967,89(12),3055−3056に教示されている〕。
【0049】
欧州特許出願第0,157,738号及び英国特許出願第1,199,351号に記載の方法を用いてもよい。
【0050】
MCPBAを用いた酸化法に関しては、以下の条件下に酸化を実施するのが好ましい:
− 第二アミンのMCPBAに対するモル比:0.5〜1、より好ましくは、0.8〜1;
− 温度:−10〜10℃;
− 反応の発熱性を良好に調節し得るような不活性溶媒の使用(該溶媒は、例えば、ジクロロメタン又はクロロホルムのような塩素化溶媒系から選択し得る)。
【0051】
ニトロキシドは、式:
【0052】
【化8】

〔式中、R、R、R、R及びR基は、上記定義の通りである〕によって表し得る。MCPBAを用いたこの酸化段階の後で、例えば、シリカカラム上で溶離してニトロキシドを精製し、次いで、必要なら、溶媒を蒸発させた後で分離し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
実施例に用いたいくつかの略後の意味を以下に示す:
Benz.Per.:過酸化ベンゾイル
AIBN:2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)
Tempo:2,2,6,6,−テトラメチル−1−
ピペリジニルオキシ
DTBN:ジ−t−ブチルニトロキシド。
【0054】
(実施例1)
(a)2,2−ジメチル−1−(1,1−ジメチルエチルアミノ)プロピルホスホン酸ジエチルの合成
6.68g(0.077mol)のピバルアルデヒド及び5.62g(0.077mol)のt−ブチルアミンを、磁気攪拌機及び滴下漏斗を備えた250ml丸底二首フラスコ中窒素雰囲気下に室温で混合する。次いで、混合物を1時間30℃にする。室温に戻してから、26.23g(0.19mol)のホスホン酸ジエチルを室温で混合物に滴下する。次いで、混合物を24時間40℃で攪拌する。
【0055】
室温に戻してから、20mlのジエチルエーテルを加え、10℃に冷却する。次いで、水相のpHが3になるまで混合物を5容量%の塩酸水溶液で酸性にする。次いで、120mlのジエチルエーテルを加える。次いで、水相のpHが8になるまで10gの純粋重炭酸ナトリウムを加える。次いで、それぞれ60mlのジエチルエーテルを用いた4回連続抽出によりアミンを抽出し、得られた有機相を約5gの無水硫酸ナトリウムで脱水する。濾過後、回転式蒸発機上1ミリバール下に40℃で、次いで、真空多岐管(vacuum manifold)を用い0.2ミリバール下に室温で、溶媒を蒸発させる。このようにして、19.36gの2,2−ジメチル−1−(1,1−ジメチルエチルアミノ)プロピルホスホン酸ジエチルを得た。該生成物のNMR特性は以下の通りである:
CDCl中のH NMR
0.99ppm(s,9H,t−Bu)、
1.06ppm(s,9H,t−Bu)、
1.28ppm(t,6H,JH−H=7.1Hz,CH)、
2.69ppm(d,1H,JH−P=17.9Hz,Pに対してα位置のH)、
4.06ppm(広幅非分離ピーク,4H,JH−H=7.1Hz,CH)。
CDCl中の13C NMR
16.49ppm(d,JC−P=5.5Hz,−CH)、
27.90ppm(d,JC−P=6.1Hz,−C−C)、
30.74ppm(s,−C−N)、
35.24ppm(d,JC−P=9.6Hz,CH−C)、
50.93ppm(s,CH−N)、
59.42ppm(d,JC−P=132.9Hz,H)、
61.39ppm(d,JC−P=7.1Hz,)。
CDCl中の31P NMR
29.84ppm。
(b)N−t−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシドの合成
(a)で調製したアミン2.28g(0.0082mol)を5mlのジクロロメタンに室温で溶解し、得られた溶液を、磁気攪拌機を備え、0℃に冷却した丸底フラスコに導入する。5mlのジクロロメタン中1.29g(0.0075mol)のメタクロロ過安息香酸(MCPBA)溶液を滴下する。室温で6時間攪拌した後、混合物に、 NaHCO飽和水溶液を、CO溶離が終了するまで、即ち、該溶液を約30ml加える。有機相を回収し、約5gの硫酸ナトリウムで脱水する。次いで回転式蒸発機で1ミリバール下に40℃で、次いで、真空多岐管を用い0.2ミリバール下に室温で溶媒を除去して、1.39gのオレンジ色の油状物を得る。該油状物を、100gのシリカ(シリカゲル 60、粒径 0.040−0.063mm)を含む、直径4cm、高さ30cmのカラム上で以下の手順を実施して精製する:1/1/2の容量比のCHCl/THF/ペンタン混合物からなる溶離剤200mlと混合した100gのシリカを含む懸濁液を調製する。カラムを該懸濁液で充填し、1時間放置した後、溶離剤中80容量%の溶液の形態のオレンジ色の油状物1.39gをカラム最上部に置く。該生成物の精製には少なくとも200mlの溶離剤が必要である。カラムの底部の液体を15mlの画分として回収する。次いで、先ず、回転式蒸発機で1ミリバールの残圧まで40℃で、次いで真空多岐管を用い、0.2ミリバール下に室温で、揮発性成分を除去する。最後に、1.06gのN−t−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシドを捕集する。その式は:
【0056】
【化9】

である。
【0057】
最終生成物の元素分析は計算値に一致する。該生成物のEPRデータは以下の通りである:
=45.26 G
=14.27 G
g=2.0061(Lande因数)。
【0058】
このラジカルは、そのEPRスペクトルが、25℃で2ヶ月貯蔵した後でも何ら実質的な変化を示さないという意味で安定である。
【0059】
簡略化して、該生成物はβ−Pとして知られる。
【0060】
(実施例2)
(a)マグネシウム化合物(CHCH−MgBrの合成
10mlのジエチルエーテルで被覆した1g(0.041mol)のマグネシウム片(turnings)、次いで1粒(約5mg)のヨウ素結晶(その機能はマグネシウムを活性化し、反応を開始させることである)を、磁気攪拌機及びCaClを充填した乾燥管を含む還流冷却器を備えた250ml丸底二首フラスコに装入する。
【0061】
次いで、10mlのジエチルエーテルに希釈した5.04gの臭化イソプロピル(0.041mol)を滴下漏斗を介して滴下する。混合物を室温で3時間攪拌する。
(b)N−t−ブチル−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシドの調製
5mlのジエチルエーテル中0.3g(0.0017mol)のフェニル−N−t−ブチルニトロン(PBN)の溶液を、磁気攪拌機及び還流冷却器を具備した100ml丸底二首フラスコに装入し、窒素でパージする。次いで、(a)で調製したマグネシウム化合物溶液を滴下する。次いで、10mlの蒸留水を加え、混合物を室温で2時間攪拌する。次いで、20mlのジエチルエーテルを用いて2回抽出した後、有機相を5gの硫酸ナトリウムで脱水する。濾過後、回転式蒸発機を用い、最大1ミリバール、40℃で、次いで、真空多岐管を用い、0.2ミリバール下に室温で、有機溶液から揮発性成分を除去する。このようにして0.42gの橙黄色の液体を得る。次いで、溶離剤として90/10の容量比のペンタン/アセトン混合物を用いる以外は実施例1(b)と同じ方法で、シリカ上で精製する。実施例1(b)と同じ方法で溶離剤を蒸発させた後、その式が:
【0062】
【化10】

であるN−t−ブチル−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシド0.1gを捕集する。
【0063】
最終生成物の元素分析は計算値に一致する。該生成物のEPRデータは以下の通りである:
=15.21 G
=3.01 G。
【0064】
このラジカルは、そのEPRスペクトルが、25℃で2ヶ月間の貯蔵後にも何ら実質的な変化を示さないという点で安定である。簡略化して、該生成物はβ−φとして知られる。
【0065】
(実施例3〜16)
窒素雰囲気下に20℃で、リボン式攪拌機及び温度調節器を備えた0.25リットルステンレス鋼製反応器に、150gのスチレン、yミリモルの開始剤及びxミリモルの安定なフリーラジカルを導入する。系全体を温度T(℃)にする。混合物が温度Tに達する時点をテストの開始点と定める。
【0066】
次いで、テスト期間中に以下の分析を行うために試料を採取する:
− 採取した試料を25ミリバールの真空下に200℃で20分間蒸発させた後で得られた固体のその初期重量に対する重量%に相当する重合体への重合率;
− 重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)、従って、Mw/Mnに等しい多分散度P(これらの測定はゲル浸透クロマトグラフィーにより実施)。
【0067】
結果を、導入された安定なフリーラジカル及び開始剤の種類及び量x、yの関数として表1及び2に示す。表1及び2は、出発点から計算した重合時間の関数として、Mn、重合率及び多分散度の変化を示す。実施例10〜16は比較実施例である。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

〔式中、R基は、15より大きい分子量を有し、ホスホリル基を含む〕
の配列を含む安定なフリーラジカルの存在下にラジカル経路により重合可能な少なくとも1種の単量体を重合又は共重合する方法。
【請求項2】
式:
【化2】

〔式中、R基は、15より大きい分子量を有する〕
の配列を含む安定なフリーラジカルの存在下にラジカル経路により重合可能な少なくとも1種の単量体を重合又は共重合する方法であって、単量体から重合体又は共重合体への重合率が50%を超えて、10,000より大きい重量平均分子量を有する重合体又は共重合体を得るために十分な温度と時間で行うことを特徴とする前記方法。
【請求項3】
が、式:
【化3】

〔式中、同一でも異なっていてもよいR及びRは、ハロゲン、又は、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリ−ルオキシ、アリール、アラルキルオキシ、ペルフルオロアルキル若しくはアラルキル基から選択される〕
によって表し得ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
及びRが1〜20個の炭素原子を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
安定なフリーラジカルが、N−t−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシドであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
が、少なくとも1個の芳香環を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
がフェニル基であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
安定なフリーラジカルが、N−t−ブチル−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシドであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
が30より大きい分子量を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
が40〜450の範囲の分子量を有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式(1)の炭素原子と窒素原子の残りの原子価が一価の基に結合していることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
安定なフリーラジカルが、重合可能単量体と安定なフリーラジカルの総量の0.005〜5重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
フリーラジカル開始剤が存在することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
フリーラジカル開始剤が、重合可能単量体の質量に対して50〜50,000ppmの割合で存在することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
100,000〜400,000の範囲の重量平均分子量を有する重合体又は共重合体を得ることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1種の単量体がアクリル又はメタクリル単量体であることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1種の重合可能単量体がビニル芳香族であることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1種のビニル芳香族単量体がスチレンであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
温度が90〜120℃の範囲であることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
温度が100〜120℃の範囲であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
温度が120〜200℃であることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
重合又は共重合混合物はゴムも含み、耐衝撃性ビニル芳香族重合体を生ずることを特徴とする、請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ゴムが1種以上のポリブタジエンであることを特徴とする、請求項22に記載の方法。

【公開番号】特開2006−117948(P2006−117948A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338183(P2005−338183)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【分割の表示】特願平8−524026の分割
【原出願日】平成8年2月2日(1996.2.2)
【出願人】(300043819)エルフ アトケム エス.アー. (1)
【Fターム(参考)】