説明

γ−アミノ酪酸の製造方法

【課題】 微生物を用いる発酵によりγ−アミノ酪酸を製造する新しい技術を提供する。
【解決手段】 微生物を用いてグルタミン酸からγ−アミノ酪酸を製造する方法であって、少なくとも前培養工程および発酵工程からなり、前培養工程はグルタミン酸またはその塩を含む前培養液で微生物を培養し、グルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程、発酵工程は、前培養工程の後に行われ、微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質(例えばローヤルゼリー)及びグルタミン酸またはその塩を含む発酵液と前培養工程で得られた微生物を混合しグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程からなる方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
γ−アミノ酪酸は生物界に広く分布する非タンパク質アミノ酸であり、生体内では制御性の神経伝達物質として機能していることが知られている。また、γ−アミノ酪酸は様々な生理機能を知られており、血圧降下作用、動脈硬化予防、肝機能改善、腎機能向上、精神安定などの作用が報告されている。
【0002】
食品ではγ−アミノ酪酸は玄米、麹菌、茶、一部の野菜や果実などの食品に含有されている自然のアミノ酸の一種であるが、これらは食品に微量しか存在せず、元来の生理機能を発現するのに有効な含量のγ−アミノ酪酸を含有するものではなかった。そこで、食品中のγ−アミノ酪酸を増加する方法が種々検討されている。
【0003】
食品中のγ−アミノ酪酸を増加する方法として、例えば化学合成したγ−アミノ酪酸またはγ−アミノ酪酸を多く含有するものから抽出したγ−アミノ酪酸を食品に添加する方法が挙げられる。この方法は、既存の食品に後からγ−アミノ酪酸を添加する形態をとるため、化学物質を食品に添加するというイメージの悪さと、添加するγ−アミノ酪酸が高価なためγ−アミノ酪酸を添加した食品が高価なものになるという問題点を有している。
【0004】
さらに、食品中のγ−アミノ酪酸を増加する方法として、微生物を用いて当該食品を発酵させる方法が挙げられる。この方法はグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する微生物により、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸に変換するものである(特許文献1)。例えば、グルタミン酸を構成アミノ酸として含むタンパク質またはペプチドを含有する食品素材に、プロテアーゼ生産能を有する微生物及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する微生物を接種して培養するγ−アミノ酪酸含有飲食物の製造方法が挙げられる(特許文献2)。
一方、栄養価が高いにも関わらず、発酵に使用する微生物に対する抗菌性物質を含んでいるため、発酵に使用できない食品がある。その食品の一例としてローヤルゼリーが挙げられる。
【0005】
ローヤルゼリーは、働き蜂の咽頭腺により分泌される乳白色したペースト状物質であり、その成分は必須アミノ酸をはじめとするアミノ酸が豊富に含まれ良質なタンパク質を構成している。さらに、ビタミン類、ミネラル類、炭水化物などの微量成分を含んでいる。例えばビタミン類ではビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、成長促進や老化防止に効果のあるパントテン酸、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。ミネラル類ではカリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、リンなどがあげられる。炭水化物ではブドウ糖、果糖などが挙げられる。さらに、アセチルコリン様物質、有機酸、脂肪などが含まれている。このようにローヤルゼリーには様々な栄養成分を含んでおり、例えば、抗菌作用、免疫増強作用、抗炎症作用、老化防止作用、更年期障害の予防・治療、抗がん作用など数多くの効果が知られている。
このようにローヤルゼリーは栄養価に富んでおり、γ−アミノ酪酸を増加させるために微生物を用いて発酵をさせる食品としては好適である。
【0006】
しかし、ローヤルゼリーには10−ヒドロキシデセン酸やロイヤリシンなどの強力な生育阻害物質が含まれている。10−ヒドロキシデセン酸は主に大腸菌などのグラム陰性菌の生育を阻害する。また、ロイヤリシンはγ−アミノ酪酸の発酵に一般に用いられている乳酸菌などのグラム陽性菌の生育を強力に阻害する(非特許文献1、2)。
【0007】
このように、ローヤルゼリーは栄養価に富むにも関わらず、強力な生育阻害物質を含むため、ローヤルゼリーを発酵させることにより、γ−アミノ酪酸を産生させることは不可能と考えられていた。
【特許文献1】特開2006−25669号公報
【特許文献2】特開2000−14356号公報
【非特許文献1】米倉政実、ミツバチ科学 19(1):15−22(1998年)
【非特許文献2】Suguru Fujiwara et al.,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, 265(19),11333−11337(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、例えばローヤルゼリーのように栄養価に富むにも関わらず強力な生育阻害物質を含む物質を微生物を用いて発酵させることによりγ−アミノ酪酸を製造する新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、
少なくとも前培養工程および発酵工程からなり、
前培養工程はグルタミン酸またはその塩を含む前培養液で微生物を培養し、グルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程、
発酵工程は、前培養工程の後に行われ、微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質及びグルタミン酸またはその塩を含む発酵液と前培養工程で得られた微生物を混合しグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程により、
前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
1.微生物を用いてグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸を製造する方法において、少なくとも前培養工程および発酵工程からなり、
前培養工程はグルタミン酸またはその塩を含む前培養液で微生物を培養し、グルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程、
発酵工程は、前培養工程の後に行われ、微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質及びグルタミン酸またはその塩を含む発酵液と
前培養工程で得られた微生物を混合しグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程からなる方法、
2.微生物が乳酸菌であり、発酵液に含まれる微生物の生育阻害物質がロイヤリシンである前記1に記載のγ−アミノ酪酸を製造する方法。
3.生育阻害物質を含有する物質がローヤルゼリーである前記1に記載のγ−アミノ酪酸を製造する方法、
4.前記1〜3のいずれかに記載の方法により製造されるγ−アミノ酪酸、
5.前記1〜3のいずれかに記載の方法により製造されるγ−アミノ酪酸を含有するローヤルゼリー組成物、
からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると発酵に用いる微生物の生育阻害物質を含有していても発酵によりγ−アミノ酪酸を製造する新しい技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
γ−アミノ酪酸の製造は前培養工程及び発酵工程よりなり、前培養工程は発酵工程の前に行われる。
前培養工程は、グルタミン酸またはその塩を含む前培養液で微生物を培養し、グルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換することにより行われる。
γ−アミノ酪酸の製造に用いられる微生物はグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸を生産できる微生物であれば特に制限がなく例えば細菌、酵母、カビなどが挙げられる。例えば、カビでは、アスペルギルス属(Aspergillus属)、モナスカス属(Monascus属)のカビが好適に挙げられる。アスペルギルス属のカビとして具体的には、アスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)などを挙げることができる。
【0013】
細菌では、例えば乳酸菌があげられる。乳酸菌として具体的には、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)、ラクトコッカス属(Lactococcus属)、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)、ロイコノストック属(Leuconostoc属)、ビィフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)などに属する乳酸菌を挙げることが出来る。好適には、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス プランタリウム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス デルベッキィ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)などのラクトバチルス属に属する乳酸菌やラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)を挙げることができる。本発明において用いられる特に好ましい乳酸菌の例として、ラクトバチルス ブレビスが挙げられ、例えば、ラクトバチルス ブレビス NBRC12005、ラクトバチルス ブレビス NBRC12520、ラクトバチルス ブレビス NBRC3345、ラクトバチルス ブレビス NBRC3960、ラクトバチルス ブレビス NBRC13109、ラクトバチルス ブレビス NBRC13110を好適に挙げることが出来る。
微生物は単独で使用してもよく、2種以上の微生物を使用してもよい。
微生物の培養は静置培養、振とう培養、攪拌培養、通気培養、嫌気培養などの方法で培養することができる。また、静置培養中に微生物が沈むなどした場合は振とうまたは攪拌などを行い、微生物を分散させてもよい。
【0014】
前培養液は少なくともグルタミン酸またはその塩を含有する必要がある。グルタミン酸塩としてはグルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カルシウムが例示される。さらに、プロテアーゼ及び/又はペプチダーゼでグルタミン酸を含有するタンパク質又はペプチドを分解し、タンパク質又はペプチドから遊離させたグルタミン酸であってもよい。前培養工程でのグルタミン酸濃度、すなわち、前培養液と微生物または培養液(その微生物の培養液)とを混合したときのグルタミン酸濃度は0.1〜5w/v%、好ましくは0.6〜2w/v%、さらに好ましくは0.8〜1.5w/v%を挙げることができる。前培養工程でのグルタミン酸濃度が低いと次の工程である発酵工程での発酵の効率が良くない。
【0015】
前培養液はさらに培地成分を含有してもよい。培地成分として例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物などを単独または二種以上混合したものを例示できる。窒素源としては、アンモニユウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、カザミノ酸、尿素などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを例示できる。また、培地にはアミノ酸、各種ビタミン、酵母エキス、粉末酵母、脂肪酸などの有機微量栄養素、マンガン酵母、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩などの金属類をそれぞれ単独または二種以上併用して用いることができる。
【0016】
前培養液と微生物または培養液を混合することにより前培養が開始される。培養時間、温度、pHなどの前培養条件はグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換できる前培養条件であれば特に限定されないが、例えば微生物が乳酸菌の場合、培養時間は半日〜4日、好ましくは1〜2日を挙げることができる。また、培養温度は15〜50℃、好ましくは25〜40℃の培養温度を挙げることができ、初発pHはpH3〜9、好ましくはpH5〜8のpHを挙げることができる。
【0017】
前培養工程によって得られた微生物を発酵工程に用いる際には、微生物を滅菌水、滅菌した生理的食塩水、または滅菌した緩衝液などで洗浄しても良い。さらに、微生物を洗浄した場合、ガラスフィルターまたは遠心分離等で余分な水分を除去したり、洗浄した微生物を再度、滅菌水、滅菌した生理的食塩水または滅菌した緩衝液に懸濁してもよい。
さらに、前培養終了後、上記のような洗浄を行わず、培養液そのままの状態または、ガラスフィルターまたは遠心分離等で培養上清を分離(菌体分離)した微生物を発酵工程に用いてもよい。また、必要な微生物量を一度に発酵液と混合してもよいし、必要な微生物量を2回以上に分けて混合してもよい。また、2種以上の微生物を使用する場合は、それぞれの微生物を同時に発酵液と混合してもよく、別々に分けて発酵液と混合してもよい。
【0018】
前培養工程によって得られた微生物は前培養工程開始直後のグルタミン濃度が1w/v%(このときのグルタミン酸またはその塩の絶対量を100%とする)のとき、グルタミン酸またはその塩を少なくとも15%消費しγ−アミノ酪酸に変換した微生物が好ましい。以後、このように前培養工程により消費されたグルタミン酸またはその塩の割合を消費率という場合がある。さらに好ましい消費率は20%以上であり、より好ましい消費率は50%以上である。さらに、グルタミン酸またはその塩の濃度に応じて前培養工程でのグルタミン酸またはその塩の消費率は適宜調整することが可能である。
【0019】
前培養工程で得られた微生物又は培養液と発酵液の混合割合は、発酵液にγ−アミノ酪酸を生産するために必要な量の微生物を混合すればよいが、好ましくは、微生物または培養液と発酵液の混合液1に対して培養液が0.05〜4、好ましくは0.1〜3、さらに好ましくは0.2〜1.5に相当する微生物又は培養液を発酵液と混合するのが好ましい。
【0020】
発酵工程は、前培養工程の後に行われ、微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質及びグルタミン酸またはその塩を含む発酵液と前培養液で得られた微生物を混合しグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程からなる。ここで、微生物を混合するとは、前培養工程で得られた微生物を適当な手段(例えば、遠心分離)で分離した微生物を発酵液に混合する場合のみならず、培養液(前培養の培養液)の状態で微生物を発酵液に混合する場合をいう。
発酵液は少なくとも微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質及びグルタミン酸またはその塩を含有する必要がある。グルタミン酸塩として、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カルシウムが例示される。さらに、プロテアーゼ及び/又はペプチダーゼでグルタミン酸を含有するタンパク質又はペプチドを分解し、タンパク質又はペプチドから遊離させたグルタミン酸であってもよい。
【0021】
微生物が乳酸菌の場合、生育阻害物質はロイヤリシン、生育阻害物質を含有する物質としてローヤルゼリーを挙げることができる。
ローヤルゼリーの原産国は例えば日本、中国、台湾、タイ、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカなどを挙げることができ、いずれの原産国のローヤルゼリーを用いてもよい。また、複数の原産国のローヤルゼリーを適宜混合して用いてもよい。ローヤルゼリーはペースト状、半固体または液体であることが必要であり、凍結乾燥状態のローヤルゼリーを用いる場合は精製水、水道水または適当な緩衝液などで溶解して用いることができる。また、凍結状態のローヤルゼリーは融解して用いることができる。
【0022】
さらに、ローヤルゼリーは加熱、遠心分離、アルコール抽出、ろ過、成分抽出、凍結乾燥または熱風乾燥などの加工並びに各種栄養素などが添加されたものであってもよい。
発酵液と前培養工程で得られた微生物または培養液を混合したときのローヤルゼリーの固形分濃度は、1〜20w/w%を挙げることができ、好ましくは3〜15w/w%、より好ましくは4〜10w/w%を挙げることができる。ここで、例えば10 w/w%は、100gのローヤルゼリーを凍結乾燥などにより乾燥させたとき10gの乾燥品が得られることを意味している。
さらに、発酵工程でのグルタミン酸濃度、すなわち、発酵液と前培養工程で得られた微生物または培養液(その微生物の培養液)を混合したときのグルタミン酸濃度は0.1〜10w/v%、好ましくは1〜5w/v%を挙げることができる。
【0023】
発酵液はさらに培地成分を含有してもよい。培地成分として例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物などを単独または二種以上混合したものを例示できる。窒素源としては、アンモニユウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、カザミノ酸、尿素などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを例示できる。また、培地には必要に応じて、アミノ酸、各種ビタミン、酵母エキス、粉末酵母、脂肪酸などの有機微量栄養素、マンガン酵母、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩などの金属類をそれぞれ単独または二種以上混合したもの例示できる。
【0024】
発酵液と前培養工程で得られた微生物または培養液を混合することにより発酵が開始される。発酵時間、温度、pHなどの発酵条件は微生物がグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換できる条件であれば特に限定されないが、例えば微生物が乳酸菌の場合、発酵時間は半日〜10日、好ましくは2〜6日が挙げられることができる。また、発酵温度は15〜50℃、好ましくは25〜40℃の発酵温度を挙げることができ、初発pHはpH3〜9、好ましくはpH5〜8のpHを挙げることができる。
【0025】
なお、本明細書で用いる発酵の意味は微生物と発酵液と混合することにより、目的とするγ−アミノ酪酸が産生されればよく、発酵液と微生物の混合物中で微生物が増殖してもしなくてもよい。
【0026】
前培養の前に冷凍・冷蔵保存、凍結乾燥等により微生物の生育の状態が悪い場合には微生物を固体培地または液体培地に微生物を植菌して微生物の生育状態を活発化してもよい(以後、このように微生物の生育状態を活発化する操作を「リフリッシュ」と呼ぶことがある)。微生物のリフレッシュは固体培地または液体培地で行うことができ、培地組成は例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物などを単独または二種以上混合したものを例示できる。窒素源としては、アンモニユウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、カザミノ酸、尿素などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを例示できる。また、培地にはアミノ酸、各種ビタミン、酵母エキス、粉末酵母、脂肪酸などの有機微量栄養素、マンガン酵母、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩などの金属類をそれぞれ単独または二種以上併用して用いることができる。さらに適宜、寒天、ゼラチンなどを加えて固体培地を作成することができる。
【0027】
微生物のリフレッシュは微生物が生育できる培養条件であれば特に限定されないが、例えば微生物が乳酸菌の場合、培養日数は半日〜4日、好ましくは1日〜2日、培養温度は15〜50℃、好ましくは25〜40℃、初発pHが3〜9、好ましくは5〜8で培養を行うことができる。
【0028】
さらに、前培養工程の前に発酵の効率化、微生物の大量調製などのために前々培養を行ってもよい。微生物の前々培養は固体培養または液体培養で行うことができ、好ましくは液体培養で行われる。培地組成は例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物などを単独または二種以上混合したものを例示できる。窒素源としては、アンモニユウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、カザミノ酸、尿素などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを例示できる。また、培地にはアミノ酸、各種ビタミン、酵母エキス、粉末酵母、脂肪酸などの有機微量栄養素、マンガン酵母、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩などの金属類をそれぞれ単独または二種以上併用して用いることができる。
【0029】
微生物の前々培養は微生物が生育できる培養条件であれば特に限定されないが、例えば微生物が乳酸菌の場合、培養日数は半日〜4日、好ましくは1日〜2日、培養温度は15〜50℃、好ましくは25〜40℃、初発pHが3〜9、好ましくは5〜8で前々培養を行うことができる。
培養方法として微生物をリフレッシュ、前々培養、前培養工程の順に培養を行う方法、微生物をリフレッシュした後に前培養工程を行う方法を例示することができる。
【0030】
また、得られた培養液に含まれる微生物を滅菌水、滅菌した生理的食塩水または滅菌した緩衝液などで洗浄しても良い。さらに、微生物を洗浄した場合、ガラスフィルターまたは遠心分離等で余分な水分を除去したり、洗浄した微生物を再度、滅菌水、滅菌した生理的食塩水または滅菌した緩衝液に懸濁してもよい。
さらに、上記のような洗浄を行わず、培養で得られた培養液をそのままの状態または、ガラスフィルターまたは遠心分離等で菌体分離した微生物を植菌してもよい。
また、例えば、前々培養終了後、前培養を行う場合、前培養液と前々培養終了後の微生物又は培養液の混合割合は、前培養液1に対して0.001〜0.5、好ましくは0.005〜0.2に相当する微生物又は培養液を混合するのが好ましい。
【0031】
本発明に従うγ−アミノ酪酸の製造においては、一般に、発酵工程の後に微生物を殺菌する工程を含んでもよい。殺菌方法は、微生物が食品として問題がない程度に殺菌されればよい。殺菌方法としては、加熱により殺菌する方法、薬剤を用いて殺菌する方法、ろ過により微生物を除菌する方法、遠心分離を用いて微生物を除菌する方法が例示でき、これら方法を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。好ましくは、加熱により微生物を殺菌する。加熱温度は60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上で加熱することが好ましい。
【0032】
乳酸菌としてラクトバチルス ブレビス NBRC12005(以下、NBRC12005株と略することがある)及びNBRC12005株の生育を阻害する物質を含有する物質としてローヤルゼリーを用いたγ−アミノ酪酸の生産を例にとり以下に本発明を説明する。培養方法としてNBRC12005株のリフレッシュ、前々培養、前培養工程及び発酵工程の順に行う方法を例にとり示すが、微生物のリフレッシュ及び前々培養は適宜選択できる。
【0033】
NBRC12005株のリフレッシュを行うための培地組成は例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加したものが挙げられる。好ましくは、グルコース、ペプトン、酵母エキス、金属類などの培地成分に適宜寒天、ゼラチンなどを加えた培地を挙げることができる。このように作成した培地にNBRC12005株を植菌し培養することによりリフレッシュを行うことができる。培養条件は、半日〜4日、好ましくは1日〜2日の培養日数、15〜50℃、好ましくは25〜40℃の培養温度、初発pHが3〜9、好ましくは5〜8で培養を行うことができる。このようにリフリッシュしたNBRC12005株を次の前々培養に用いることができる。
【0034】
NBRC12005株の前々培養液の培地組成は例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加したものが挙げられる。好ましくは、グルコース、ペプトン、酵母エキス、金属類などの培地成分を挙げることができる。前記リフレッシュしたNBRC12005株を前々培養用の培地に植菌し、培養を行うことにより、菌体の前々培養行うことができる。NBRC12005株の前々培養は、半日〜4日、好ましくは1日〜2日の培養日数、15〜50℃、好ましくは25〜40℃の培養温度、初発pHが3〜9、好ましくは5〜8で前々培養を行うことができる。このようにして得られた前々培養液を次の前培養工程に用いる。
【0035】
培養終了後の前々培養液を前培養工程に用いる際には、NBRC12005株を洗浄しても良いし、洗浄を行わず、前々培養で得られた前々培養液をそのままの状態または、菌体分離したNBRC12005株を前培養液に植菌してもよい。
また、前々培養終了後、前培養を行う場合、前培養液と前々培養終了後の微生物又は培養液の混合割合は、前培養液1に対して0.001〜0.5、好ましくは0.005〜0.2に相当する微生物又は培養液を混合するのが好ましい。
【0036】
前培養工程はグルタミン酸またはその塩を含む前培養液で微生物を培養し、グルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換することにより行われる。前培養液はこのように少なくともグルタミン酸またはその塩を含有する必要がある。グルタミン酸塩として、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カルシウムが例示される。さらに、プロテアーゼ及び/又はペプチダーゼでグルタミン酸を含有するタンパク質又はペプチドを分解し、タンパク質又はペプチドから遊離させたグルタミン酸であってもよい。前培養液はさらに培地成分を含有してもよい。培地成分として例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。好ましくはグルコース、酵母エキス、ペプトン及び金属類を挙げることができる。
また、前培養工程でのグルタミン酸濃度、すなわち、前培養液と前々培養で得られた微生物または培養液(その微生物の培養液)とを混合した後のグルタミン酸濃度は0.1〜5w/v%、好ましくは0.6〜2w/v%、さらに好ましくは0.8〜1.5w/v%を挙げることができる。前培養工程でのグルタミン酸濃度が低いと次の工程である発酵工程での発酵の効率が良くない。
【0037】
前培養液と前々培養で得られた微生物または培養液を混合することにより前培養が開始される。培養時間、温度、pHなどの前培養条件はグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換できる前培養条件であれば特に限定されないが、例えば培養時間は半日〜4日、好ましくは1〜2日が挙げられることができる。また、培養温度は15〜50℃、好ましくは25〜40℃を挙げることができ、初発pHはpH3〜9、好ましくはpH5〜8のpHを挙げることができる。
【0038】
前培養工程によって得られた微生物は前培養工程開始直後のグルタミン濃度が1w/v%(このときのグルタミン酸またはその塩の絶対量を100%とする)のとき、グルタミン酸またはその塩を少なくとも15%消費しγ−アミノ酪酸に変換した微生物が好ましい。さらに好ましい消費率は20%以上であり、より好ましい消費率は50%以上である。グルタミン酸またはその塩の濃度に応じて前培養工程でのグルタミン酸またはその塩の消費率は適宜調整することが可能である。
【0039】
前培養工程で得られた微生物または培養液と発酵液の混合割合は、発酵液にγ−アミノ酪酸を生産するのに必要な量の微生物を混合すればよいが、好ましくは、微生物または培養液と発酵液の混合液1に対して培養液が0.05〜4、好ましくは0.1〜3、さらに好ましくは0.2〜1.5に相当する微生物または培養液を発酵液と混合するのが好ましい。
【0040】
発酵工程は、前培養工程の後に行われ、微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質及びグルタミン酸またはその塩を含む発酵液と
前培養液で得られた微生物を混合しグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程からなり、発酵液は少なくともローヤルゼリー及びグルタミン酸またはその塩を含有する必要がある。ここで、微生物を混合するとは、前培養工程で得られた微生物を適当な手段(例えば、遠心分離)で分離した微生物を発酵液に混合する場合のみならず、培養液(前培養の培養液)の状態で微生物を発酵液に混合する場合をいう。
【0041】
発酵液と前培養工程で得られた微生物または培養液を混合したときのローヤルゼリーの固形分濃度は、1〜20w/w%を挙げることができ、好ましくは3〜15w/w%、より好ましくは4〜10w/w%を挙げることができる。
また、発酵液はグルタミン酸またはその塩を含有しており、グルタミン酸塩として、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カルシウムが例示される。さらに、プロテアーゼ及び/又はペプチダーゼでグルタミン酸を含有するタンパク質又はペプチドを分解し、タンパク質又はペプチドから遊離させたグルタミン酸であってもよい。さらに、発酵工程でのグルタミン酸濃度、すなわち、発酵液と前培養工程で得られた微生物または培養液(その微生物の培養液)とを混合した後のグルタミン酸濃度は0.1〜10w/v%、好ましくは1〜5w/v%を挙げることができる。
発酵液はさらに培地成分を含有してもよい。培地成分として例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。好ましくは、酵母エキス、ペプトン及び金属類を挙げることができる。
【0042】
発酵液と前培養工程で得られた微生物または培養液を混合することにより発酵が開始される。発酵時間、温度、pHなどの発酵条件は微生物がグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換できる条件であれば特に限定されないが、発酵日数は半日〜10日、好ましくは2日〜6日、発酵の温度は15〜50℃、好ましくは25〜40℃で、発酵の初発pHは3〜9、好ましくは5〜8で静置発酵を行うことができる。
【0043】
本発明により得られたγ−アミノ酪酸を各種クロマトグラフィーを用いて精製してもよい。精製方法としてはゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、限外ろ過、電気泳動などを挙げることができ、これら単独若しくは組み合わせることにより精製を行うことも可能である。
【0044】
ゲルろ過クロマトグラフィーは、種々な分子量のタンパク質を分離できるゲルろ過クロマトグラフィー用の担体があり、目的とする精製度合いまたは精製方法によりゲルろ過クロマトグラフィー用の担体を選択することができる。イオン交換クロマトグラフィーに用いられているイオン交換基としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体などがあり、陰イオン交換体としては、ジエチルアミノエチル基(DEAE基)、四級アミノエチル基(QAE)などを例示することができる。また、陽イオン交換体としては、カルボキシメチル(CM)基、スルホプロピル(SP)基を例示することができる。疎水クロマトグラフィーに用いられる担体としてはブチル基(Butyl基)、エチル基(Ethyl基)、フェニル基(Phenyl基)が結合した担体を例示することができる。逆相クロマトグラフィーに用いられる担体としとはオクタデシル基(C18)、オクタデシル基とはアルキル基の長さが異なるC30、C8、C4などが結合した担体が例示される。順相クロマトグラフィーに用いられる担体としてはシリカゲルのほか、シアノプロピル基、ジオール構造を有する官能基、アミノプロピル基、ポリアミンなどが結合した担体が例示される。
【0045】
本発明は、以上のようにして得られるγ−アミノ酪酸、およびγ−アミノ酪酸を含有するローヤルゼリー組成物も対象とする。ローヤルゼリー組成物としては発酵工程においてローヤルゼリーを用いて発酵を行ったものや、本発明により得られたγ−アミノ酪酸にローヤルゼリーを添加したものが挙げられる。
【0046】
本発明により得られるγ−アミノ酪酸、またはローヤルゼリー組成物は血圧降下作用、動脈硬化予防、肝機能向上、腎機能向上、精神安定が期待される。
本発明により得られたγ−アミノ酪酸、またはローヤルゼリー組成物に各種成分を添加してもよい。各種成分としては、例えば糖、脂質、乳化剤、増粘剤、調味料、香料、酸味調整剤、保存料、果汁、香料、各種栄養成分などが挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。また、各種成分は単独で用いても良いし二種以上を混合して用いてもよい。例えば糖としては、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等を例示することができる。乳化剤としては、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等を例示することができる。増粘剤としてはカラギーナン、アラビアガム、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム増粘剤澱粉、ジェランガム等を例示することができる。酸味調整剤としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸等を例示することができる。保存料としては、安息香酸及びその塩、ソルビン酸及びその塩、パラベン、亜硫酸ナトリウム、ペクチン分解物、グリシン等を例示することができる。果汁としては、トマト果汁、梅果汁、リンゴ果汁、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等を例示することができる。香料としては、ハーブ、スパイスなどの香辛料、フルーツ系香料、バニラなどの香料等を例示することができる。この他、好ましい他の栄養成分として、ビタミンD等のビタミン類やカルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等が挙げられる。
【0047】
本発明によって得られるγ−アミノ酪酸またはローヤルゼリー組成物は単独で食品として供することも可能でありさらに、それらを添加・配合して調製した食品として供することもできる。そのような食品の具体的形態としては、例えば、飲料類、菓子、キャンディ、ガム、パン、畜肉製品、乳製品、レトルト食品、即席食品、冷凍食品、ゼリー状食品、養蜂産品、漬物、調味料等を挙げることができる。
【0048】
これらの食品は、いわゆる健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメントなどとしても有用である。
また、それらの食品としての形状としては、顆粒、粉末、タブレット、カプセル、チュアブル、ドリンク、ゼリー、ペースト、粒などを挙げることができる。
【0049】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下、特にことわりのない場合、%はw/v%を意味する。
【0050】
〔比較例1〕
グリセロールストックしたLactobacillus brevis NBRC12005株(以下、NBRC12005株と略することがある)をBCP加プレートカウントアガール「ニッスイ」(日水製薬株式会社)の平板培地に塗布し、30℃で1日間培養を行いNBRC12005株のリフレッシュを行った。
300mL容バッフル付き三角フラスコに100mLの1%グルコース、1%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.2%酢酸ナトリウム・3HO、0.002%MgSO・7HO、0.0001%MnSO・4HO、0.0001%FeSO・7HO、0.0001%NaCl pH6.8からなるGYP培地を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃・15分間オートクレーブ滅菌した培地にリフレッシュを行ったNBRC12005株を一白金耳植菌し、30℃で1日間静置培養を行い、前培養を行った。なお、培養中のバッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
【0051】
同様に調製したGYP培地(100mL)に0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した10%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)を10mL添加したものに前培養液により得られた培養液を3mL添加し、30℃で2日間静置培養を行い、発酵を行った。なお、発酵中のバッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
発酵開始直後のグルタミン酸濃度が1.1%であったのに対して、2日間の発酵でグルタミン酸濃度が0.1%以下になりグルタミン酸が消費されており、γ−アミノ酪酸の生産が示唆された。グルタミン酸濃度にはF−キット・グルタミン酸(JKインターナショナル)を用いて測定した。
【0052】
そこで、TLCを用いてγ−アミノ酪酸の生産の確認を行った。発酵開始直後及び2日間の発酵後の発酵上清を精製水で10倍に希釈し、1μLをSilicagel・60F254(メルク社)にスポットし、n−ブタノール:酢酸:精製水=3:2:1の展開溶媒で展開後、ニンヒドリンスプレー(和光純薬工業株式会社)をスプレーし加熱した。その結果、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸が生産されていることが確認された。
このように微生物の生育阻害物質を含まない一般の天然培地を用いると発酵前の前培養ではグルタミン酸を含有する培地で培養する必要が無いことが確認された。
【実施例1】
【0053】
グリセロールストックしたNBRC12005株をBCP加プレートカウントアガール「ニッスイ」(日水製薬株式会社)の平板培地に塗布し、30℃で1日間培養を行いNBRC12005株のリフレッシュを行った。
300mL容バッフル付き三角フラスコに100mLの1%グルコース、1%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.2%酢酸ナトリウム・3HO、0.002%MgSO・7HO、0.0001%MnSO・4HO、0.0001%FeSO・7HO、0.0001%NaCl pH6.8からなるGYP培地を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃・15分間オートクレーブ滅菌した培地にリフレッシュを行ったNBRC12005株を一白金耳植菌し、30℃で1日間静置培養を行い、前々培養を行った。なお、培養中のバッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
【0054】
同様に調製したGYP培地(100mL)に0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した10%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)を10mL添加した前培養液に前々培養液を3mL添加し、30℃で2日間静置培養を行い、前培養を行った。なお、前培養中、バッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
【0055】
次に天然の生ローヤルゼリー(固形分濃度が約34w/w%)を精製水で2倍希釈(重量比)し、10NNaOHでpH6.7に調整したローヤルゼリー希釈液1.25mL、0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した10%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)0.5mLおよび下記に示す方法で調製した培地成分溶液1.25mLからなる発酵液に前培養液により得られた培養液2.5mLを添加し発酵を行った。なお、発酵は15mLの蓋つき滅菌遠心チューブで行い、発酵温度は30℃、静置で行った。また、発酵中は遠心チューブを一日に2〜3回転倒混を行った。
【0056】
発酵開始直後のグルタミン酸濃度が1.0%であったのに対して、2日間の発酵でグルタミン酸濃度が0.1%以下になりグルタミン酸が消費されており、γ−アミノ酪酸の生産が示唆された。比較例1と同様にTLCを用いてγ−アミノ酪酸の生産を確認したところγ−アミノ酪酸の生産が確認された。
なお、ラクトバチルス ブレビス NBRC12520及びNBRC3345についても同様に操作を行った結果、NBRC12005と同様の結果が得られた。
一方、前培養でグルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液を添加せずに前培養を行った以外は上記と同様に操作を行った結果、発酵開始直後のグルタミン酸濃度が1.1%であったのに対して、2日間の発酵でグルタミン酸濃度が0.9%でありグルタミン酸がほとんど消費されておらず、発酵が進んでいなかった。比較例1に示すように生育阻害物質を含まない一般の天然培地であれば前培養でグルタミン酸を添加する必要がなかったが、ローヤルゼリーのように乳酸菌の生育阻害物質を含むものは、発酵前の前培養にはグルタミン酸を含む条件で前培養を行う必要があることが明らかになった。グルタミン酸濃度は比較例1と同様にF−キット・グルタミン酸(JKインターナショナル)を用いて測定した。
【0057】
培地成分溶液の調製法
約80mLの精製水に4gの酵母エキス、2gのポリペプトン、0.8gの酢酸ナトリウム・3HO、8mgのMgSO・7HO、0.4mgのMnSO・4HO、0.4mgのFeSO・7HO、0.4mgのNaCl を加熱溶解・放冷後、pH6.8に調整し、100mLにメスアップを行い、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した。
【実施例2】
【0058】
実施例1で前培養液により得られた培養液を2.5mL添加する代わりに、前培養液により得られた培養液2.5mLを遠心分離(3,500rpm×10分)を行い培養上清を除去したNBRC12005株に、0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した精製水2.5mLを添加しNBRC12005株を懸濁させた以外は実施例1と同様に操作を行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【実施例3】
【0059】
グリセロールストックしたNBRC12005株をBCP加プレートカウントアガール「ニッスイ」(日水製薬株式会社)の平板培地に塗布し、30℃で1日間培養を行いNBRC12005株のリフレッシュを行った。
300mL容バッフル付き三角フラスコに100mLの1%グルコース、1%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.2%酢酸ナトリウム・3HO、0.002%MgSO・7HO、0.0001%MnSO・4HO、0.0001%FeSO・7HO、0.0001%NaCl pH6.8からなるGYP培地を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃・15分間オートクレーブ滅菌した培地にリフレッシュを行ったNBRC12005株を一白金耳植菌し、30℃で1日間静置培養を行い、前々培養を行った。なお、培養中のバッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
【0060】
同様に調製したGYP培地(100mL)に0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した10%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)を10mL添加した前培養液に前々培養液を3mL添加し、30℃で静置培養を行い、前培養を行った。このとき前培養開始直後のグルタミン酸濃度が1.0%であった。経時的にサンプリングを行い、グルタミン酸濃度が0.84%(グルタミン酸の消費率16%(1))、0.54%(グルタミン酸の消費率46%(2))、0.18%(グルタミン酸の消費率82%(3))、0.10%(グルタミン酸の消費率90%(4))の前培養液により得られた培養液を得た。これら(1)〜(4)の前培養液により得られた培養液2.5mLに天然の生ローヤルゼリー(固形分濃度が約34w/w%)を精製水で2倍希釈(重量比)し、10NNaOHでpH6.7に調整したローヤルゼリー希釈液1.13mL、0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した40%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)0.25mLおよび下記に示す方法で調製した培地成分溶液1.13mLからなる発酵液をそれぞれに加え三日間発酵を行った。発酵温度は30℃、静置で行った。なお、発酵は15mLの蓋つき滅菌遠心チューブで行い、発酵中は遠心チューブを一日に2〜3回転倒混を行った。
発酵中のグルタミン酸濃度の推移を表2に示す。なお、グルタミン酸濃度は比較例1と同様にF−キット・グルタミン酸(JKインターナショナル)を用いて測定した。
【0061】
【表1】

【0062】
前培養液により得られた培養液(1)(グルタミン酸の消費率16%)のものは発酵3日で約1%のグルタミン酸が変換されていた。また、前培養液により得られた培養液(2)〜(4)は、発酵3日でほぼ全てのグルタミン酸が変換された。
【0063】
培地成分溶液の調製法
約80mLの精製水に4gの酵母エキス、2gのポリペプトン、0.8gの酢酸ナトリウム・3HO、8mgのMgSO・7HO、0.4mgのMnSO・4HO、0.4mgのFeSO・7HO、0.4mgのNaClを加熱溶解・放冷後、pH6.8に調整し、100mLにメスアップを行い、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した
【実施例4】
【0064】
グリセロールストックしたNBRC12005株をBCP加プレートカウントアガール「ニッスイ」(日水製薬株式会社)の平板培地に塗布し、30℃で1日間培養を行いNBRC12005株のリフレッシュを行った。
300mL容バッフル付き三角フラスコに100mLの1%グルコース、1%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.2%酢酸ナトリウム・3HO、0.002%MgSO・7HO、0.0001%MnSO・4HO、0.0001%FeSO・7HO、0.0001%NaCl pH6.8からなるGYP培地を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃・15分間オートクレーブ滅菌した培地にリフレッシュを行ったNBRC12005株を一白金耳植菌し、30℃で1日間静置培養を行い、前々培養を行った。なお、培養中のバッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
【0065】
同様に調製したGYP培地(100mL)に0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した10%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)を10mL添加した前培養液に前々培養液を3mL添加し、30℃で二日間静置培養を行い、前培養を行った。なお、前培養中、バッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。前培養液により得られた培養液15mLに天然の生ローヤルゼリー(固形分濃度が約34w/w%)を精製水で2倍希釈(重量比)し、10NNaOHでpH6.7に調整したローヤルゼリー希釈液7.5mL、0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した40%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)1.5mLおよび下記に示す方法で調製した培地成分溶液7.5mLからなる発酵液をそれぞれに加え4日間発酵を行った。発酵温度は30℃、静置で行った。なお、発酵は50mLの蓋つき滅菌遠心チューブで行い、発酵中は遠心チューブを一日に2〜3回転倒混を行った。
発酵開始直後及び発酵開始後4日目に遠心分離しその上清について財団法人日本食品分析センターでγ−アミノ酪酸の濃度を測定した。その結果、発酵開始直後のγ−アミノ酪酸濃度は0.307w/w%であり、発酵4日目のγ−アミノ酪酸濃度は1.51w/w%であつた。
【0066】
培地成分溶液の調製法
約80mLの精製水に4gの酵母エキス、2gのポリペプトン、0.8gの酢酸ナトリウム・3HO、8mgのMgSO・7HO、0.4mgのMnSO・4HO、0.4mgのFeSO・7HO、0.4mgのNaClを加熱溶解・放冷後、pH6.8に調整し、100mLにメスアップを行い、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した
【実施例5】
【0067】
グリセロールストックしたNBRC12005株をBCP加プレートカウントアガール「ニッスイ」(日水製薬株式会社)の平板培地に塗布し、30℃で1日間培養を行いNBRC12005株のリフレッシュを行った。
300mL容バッフル付き三角フラスコに100mLの1%グルコース、1%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.2%酢酸ナトリウム・3H2O、0.002%MgSO・7HO、0.0001%MnSO・4HO、0.0001%FeSO・7HO、0.0001%NaCl pH6.8からなるGYP培地を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃・15分間オートクレーブ滅菌した培地にリフレッシュを行ったNBRC12005株を一白金耳植菌し、30℃で1日間静置培養を行い、前々培養を行った。なお、培養中のバッフル付き三角フラスコを一日に2〜3回手でまわし攪拌を行った。
【0068】
1000mL容MBS社製ミニジャーファメンターに450mLの1.1%グルコース、1.1%酵母エキス、0.55%ポリペプトン、0.22%酢酸ナトリウム・3HO、0.0022%MgSO・7HO、0.00011%MnSO・4HO、0.00011%FeSO・7HO、0.0001%NaCl pH6.8からなる培地を投入し、121℃・20分間オートクレーブ滅菌した。次に0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した10%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)を50mL添加し前培養液を調製した。この前培養液に前々培養液により得られた培養液を15mL添加し2日間前培養を行った。なお、培養温度は30℃、静置培養を行い、通気なしで前培養を行った。
【0069】
1000mL容MBS社製ミニジャーファメンターに125mLの4%酵母エキス、2%ポリペプトン、0.8%酢酸ナトリウム・3HO、0.008%MgSO・7HO、0.0004%MnSO・4HO、0.0004%FeSO・7HO、0.0004%NaClを加熱溶解・放冷後、pH6.8に調整した培地を投入し、121℃・20分間オートクレーブ滅菌した。次に天然の生ローヤルゼリー(固形分濃度が約34w/w%)を精製水で2倍希釈(重量比)し、10NNaOHでpH6.7に調整したローヤルゼリー希釈液125mL、及び0.2μmのメンブランフィルターで滅菌ろ過した40%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液(pH6.8)25mLからなる発酵液に前培養により得られた培養液250mL添加し、三日間発酵を行った。なお、発酵温度は30℃、通気なしで静置発酵を行った。但し発酵中は1日に1回攪拌を行った。
三日間の発酵終了後、30分間過加熱し滅菌を行い、凍結乾燥を行いローヤルゼリー組成物を得た。このローヤルゼリー組成物の凍結乾燥品について財団法人日本食品分析センターでγ−アミノ酪酸の濃度を測定した結果、18.8w/w%であった。
【実施例6】
【0070】
300mL容バッフル付き三角フラスコに100mLの1%グルコース、1%酵母エキス、1v/v%10%マンガン酵母液 pH7.2からなる液体培地を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃・15分間オートクレーブ滅菌し、液体培地を作成した。液体培地にグリセロールストックしたNBRC12005株を50μL添加し、30℃で1日間静置培養を行い、NBRC12005株のリフレッシュを行った。次に上記と同様に作成した液体培地にリフレッシュしたNBRC12005株の培養液を3mL添加し、30℃で1日間静置培養を行い、NBRC12005株の前々培養を行った。
【0071】
5L容MBS社製ミニジャーファメンターに3Lの1%グルコース、1%酵母エキス、1v/v%10%マンガン酵母液 pH7.2からなる培地を投入し、121℃・20分間オートクレーブ滅菌した。オートクレーブ滅菌(121℃・15分)した40%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液を75mL添加し前培養液を調製した。次に前々培養により得られた培養液を90mL添加し、1日間前培養を行った。なお、培養温度は30℃、通気なしで静置培養を行った。
【0072】
10L容MBS社製ミニジャーファメンターに3Lの2%酵母エキス、2v/v%10%マンガン酵母液からなる発酵用培地を投入し、121℃・20分間オートクレーブ滅菌した。次に天然の生ローヤルゼリー(固形分濃度が約34w/w%)を1NNaOHでpH6.7に調整した1.6倍希釈のローヤルゼリー希釈液(精製水で希釈)1.2Lおよびオートクレーブ滅菌(121℃・15分)した40%グルタミン酸ナトリウム・一水和物溶液0.6Lからなる発酵液に前培養により得られた培養液1.2Lを添加し、5日間発酵を行った。なお、発酵温度は30℃、通気なしで静置発酵を行った。但し発酵中は1日に1回攪拌を行った。
なお、上記10%マンガン酵母液に不溶性の沈殿がある場合には15分間室温で放置し、上清を10%マンガン酵母液とした。
【0073】
5日間の発酵終了後、105℃で30分間過加熱し滅菌を行い、凍結乾燥を行いローヤルゼリー組成物を得た。この凍結乾燥されたローヤルゼリー組成物について財団法人日本食品分析センターでγ−アミノ酪酸の濃度を測定した結果、27.4w/w%であった
【実施例7】
【0074】
実施例6で得られた凍結乾燥品を単回投与血圧降下薬効試験に供した。自然発症高血圧ラット(SHR)を2週間予備飼育後、11週齢のSHRに(一群6匹、雄)にγ−アミノ酪酸濃度で0.033mg/mLになるように凍結乾燥品を精製水で懸濁し、体重1kg当り10mL投与した(0.33mg/Kg)。その結果、投与後6時間後の凍結乾燥処理投与群の血圧の平均は192.5mmHgであった。一方、対象群の血圧の平均は218.2mmHgであり、凍結乾燥品(γ−アミノ酪酸)を投与することにより有意(p<0.05)に血圧降下作用を示した。なお、対象群は精製水を10mL投与した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を用いてグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸を製造する方法において、少なくとも前培養工程および発酵工程からなり、
前培養工程はグルタミン酸またはその塩を含む前培養液で微生物を培養し、グルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程、
発酵工程は、前培養工程の後に行われ、微生物の生育阻害物質または生育阻害物質を含有する物質及びグルタミン酸またはその塩を含む発酵液と
前培養工程で得られた微生物を混合しグルタミン酸またはその塩からγ−アミノ酪酸に変換する工程からなる方法。
【請求項2】
微生物が乳酸菌であり、発酵液に含まれる微生物の生育阻害物質がロイヤリシンである請求項1に記載のγ−アミノ酪酸を製造する方法。
【請求項3】
生育阻害物質を含有する物質がローヤルゼリーである請求項1に記載のγ−アミノ酪酸を製造する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造されるγ−アミノ酪酸。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造されるγ−アミノ酪酸を含有するローヤルゼリー組成物。


【公開番号】特開2009−60896(P2009−60896A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206638(P2008−206638)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(592207809)森川健康堂株式会社 (14)
【Fターム(参考)】