説明

γ−アミノ酪酸の製造方法

【課題】安価に悪臭の除去ができ、かつ、γ-アミノ酪酸の生成時間を短縮できる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法によると、γ-アミノ酪酸(GABA)生成工程において生成されるγ-アミノ酪酸生成液にエアレーション作用を与えることにより、γ-アミノ酪酸を生成する雰囲気が好気性になって二酸化炭素の濃度が低く一定にされるため、γ-アミノ酪酸が生成される過程において嫌味臭を出す乳酸菌などの嫌気性菌の活性が抑制される。このため、特段の装置導入コストを掛けることなく、当該生成工程においてγ-アミノ酪酸生成液から生じる悪臭の発生を抑制することができる。また、本発明によると、前記アレーションの作用により、γ-アミノ酪酸の生成が促進されてγ-アミノ酪酸の生成時間が短縮化され、γ-アミノ酪酸の生成・製造を効率的に行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、γ-アミノ酪酸(GABA)は、人体に対して血圧上昇抑制作用や動脈硬化抑制作用等の生理作用を与える物質として知られており、その製造方法についても種々提案されている。例えば、グルタミン酸又はグルタミン酸塩の溶液にグルタミン酸脱炭素酵素を含有する材料(米糠やかぼちゃなど)を添加して反応させる方法が知られている。この方法によると、グルタミン酸脱炭素酵素の酵素作用によって、グルタミン酸又はグルタミン酸塩のカルボキシル基が脱炭酸し、γ-アミノ酪酸が生成されるというものであった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-245093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記製造方法には以下の問題点があった。すなわち、このγ-アミノ酪酸製造方法では、生成過程において米糠に元々付着していた細菌が反応溶液中で増殖してしまい、完成品であるγ-アミノ酪酸抽出液が強い悪臭を有するものとなっていた。このため、従来、例えば、脱臭作用のある活性炭(消臭剤)を使い、前記反応溶液の段階で前記活性炭を添加して悪臭を除去する方法が採用されていたが、この方法では、前記悪臭を除去する効果が十分とはいえなかった。一方、脱臭装置を使用する案もあるが、この案では脱臭装置を購入するコストが掛かるという問題点があった。
そこで、本願発明は上記問題点にかんがみ、安価に悪臭の除去ができ、かつ、γ-アミノ酪酸の生成時間を短縮できる製造方法を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法は、米から分離した胚芽原料にグルタミン酸又はグルタミン酸塩を含む溶液を混合してγ-アミノ酪酸を生成する工程を有するγ-アミノ酪酸製造方法において、前記γ-アミノ酪酸生成工程で生成されるγ-アミノ酪酸生成液に対してエアレーション作用を与えるという技術的手段を講じるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法によると、γ-アミノ酪酸(GABA)生成工程において生成されるγ-アミノ酪酸生成液にエアレーション作用を与えることにより、γ-アミノ酪酸を生成する雰囲気が好気性になって二酸化炭素の濃度が低く一定にされるため、γ-アミノ酪酸が生成される過程において嫌味臭を出す乳酸菌などの嫌気性菌の活性が抑制される。このため、特段の装置導入コストを掛けることなく、当該生成工程においてγ-アミノ酪酸生成液から生じる悪臭の発生を抑制することができる。また、本発明によると、前記アレーションの作用により、γ-アミノ酪酸の生成が促進されてγ-アミノ酪酸の生成時間が短縮化され、γ-アミノ酪酸の生成・製造を効率的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のγ-アミノ酪酸の製造装置の一例を示す。
【図2】本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法におけるフローを示す。
【図3】本発明におけるエアレーション作用によるγ-アミノ酪酸の富化量の変化(効果)を示した表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法の実施の形態を説明する。
【0009】
<γ-アミノ酪酸の製造装置>
図1は、本発明におけるγ-アミノ酪酸製造装置の一例を示したものである。該γ-アミノ酪酸製造装置1は生成タンク2を有する。該生成タンク2は、上部に開閉蓋(図示せず)を有した密閉状の内部タンク2aと、該内部タンク2aの側面に内部タンク2a内を加温するための加温タンク2bとを有する。該加温タンク2bは、内部に温水を充填可能にしてあるとともに温水タンク3と管路3aを介して接続し、加熱ヒーター等が付いて湯の温度管理ができるようにしてある。前記管路3aの間にはポンプ3bが配置してあり、これにより、加温タンク2b内の温水が温水タンク3との間を循環して加温タンク2b内の温水の温度が一定に保つことができるようにしてある。
【0010】
前記内部タンク2aは、内部に貯留したγ-アミノ酪酸生成液(後述)を撹拌するための縦軸式の撹拌機4を備える。該撹拌機4は、縦状の撹拌軸4aを有し、撹拌軸4aの下端部に撹拌羽根4bを備えるとともに上端部に駆動モータ4cを備える。また、前記内部タンク2aは、前記γ-アミノ酪酸生成液に空気を供給するための曝気(ばっき)装置5を具える。該曝気装置5は、内部タンク2aの底部に、コンプレッサー(空気供給手段)5aから管路5fを介して供給される空気を内部タンク2a内に供給するための空気供給ノズル(スプレーノズル)5bを配設するとともに、内部タンク2aの上部には、内部タンク2a内の空気(気体)を排出する排気手段5cを配設してなる。該排気手段5cは、内部タンク2aの上部に接続した排気管5dの途中に吸引ファン5eを配設して構成する。なお、前記内部タンク2aの底部には排出弁6を設け、該排出弁6には、管路を介して任意の次工程に続く。
【0011】
次に、γ-アミノ酪酸の製造方法について説明する。図2は本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法におけるフローを示す。
【0012】
ステップ1
γ-アミノ酪酸(GABA)生成工程:
まず、米の胚芽を用意する。米の胚芽の用意は、胚芽を含んだ米糠を原料に、この胚芽を周知の篩(ふるい)選別や風力選別(風選)などにかけて分離・回収するとよい。次に、前述のγ-アミノ酪酸の製造装置1を使い、前記生成タンク2の内部タンク2aに、湯(約40℃)と、胚芽(10kg)と、グルタミン酸塩(1.2kg)とを入れ、さらに、γ-アミノ酪酸の生成を促進させるためのビタミン系の補助酵素(45g)を供給し、密閉してγ-アミノ酪酸の生成を開始する。前記生成タンク2の加温タンク2bは、保温管理された前記温水タンク3からの湯(約40℃)を供給・循環し、内部タンク2a内の温度(約40℃)を一定に保つようにするとよい。なお、前記グルタミン酸塩の代わりに、グルタミン酸を添加するようにしてもよい。
【0013】
この生成開始に合わせて、前記撹拌機4と曝気装置5も作動開始する。撹拌機4の作動により、内部タンク2a内のγ-アミノ酪酸生成液は撹拌羽根4bの回転によって撹拌され、また、曝気装置5の作動により、内部タンク2a内のγ-アミノ酪酸生成液に対して空気供給ノズル5bから空気が供給されるとともに、内部タンク2内上部の排気(空気)が、前記吸引ファン5eの吸引作用によって排気管5dから排気される。
【0014】
上記のような生成環境でγ-アミノ酪酸の生成を開始すると、内部タンク2a内のγ-アミノ酪酸生成液は、胚芽に含まれるグルタミン酸脱炭素酵素の酵素作用によって、前記グルタミン酸塩のカルボキシル基が脱炭酸し、γ-アミノ酪酸が次第に生成される。
【0015】
<本発明の特徴点>
本発明のγ-アミノ酪酸の製造方法は、前記曝気装置5によってγ-アミノ酪酸生成液に空気供給作用(エアレーション作用)を与えるので、γ-アミノ酪酸生成液の悪臭を低減させる効果を奏する。この効果は、γ-アミノ酪酸生成液へのエアレーション作用及び排気管5dからの吸引・排気により、内部タンク2a内の雰囲気が好気性になり二酸化炭素の濃度を低く一定にされるため、γ-アミノ酪酸が生成される過程において嫌味臭を出す乳酸菌などの嫌気性菌の活性が抑制されるためである。よって、本発明によれば、脱臭装置等の装置を必要としないので製造装置のコスト上昇を防ぐことができる。また、本発明は、γ-アミノ酪酸の生成が促進されてγ-アミノ酪酸の製造時間を短縮できる効果を奏する。本発明のγ-アミノ酪酸の製造は、前述の生成環境(ステップ1)を約30時間継続することにより、γ-アミノ酪酸の生成量がこれ以上生成されないレベル(2.1%含有)まで達する。前記エアレーション作用を行わない場合には、図3に示す表から判るように、γ-アミノ酪酸の生成量を前記レベル(2.1%含有)まで達するには約40時間経過(継続)が必要となる。このため、本発明は約30時間で同レベルの生成をなすことができるので、γ-アミノ酪酸の製造時間を約10時間短縮することを可能にした。
【0016】
なお、前記内部タンク2a内のγ-アミノ酪酸生成液に対して、臭い除去作用のある任意の活性炭を添加することにより、臭い除去効果を更に向上させてもよい。この場合、前記活性炭は、γ-アミノ酪酸生成液の重量に対して約10%程度添加し約15時間程度経過させることが好ましい。また、前記活性炭は、1μm〜5μmで平均細孔直径5オングストロームのものを使用することで、γ-アミノ酪酸が、前記活性炭に吸着・除去されて量が減らないという作用効果を奏する。前記活性炭としては、例えば、キリン協和フーズ(株)の製品名:白鷺MC-100を使用することができる。
【0017】
ステップ2
胚芽分離ろ過工程:
上記生成環境(ステップ1)を約30時間継続することにより、γ-アミノ酪酸が生成・富化したγ-アミノ酪酸生成液が完成する。該γ-アミノ酪酸生成液には、γ-アミノ酪酸の他に胚芽の残渣物が含まれているため、任意のろ過装置で、γ-アミノ酪酸を残渣物から脱水ろ過する。ろ過する際のフィルターの目幅は適宜、微細な大きさの目幅のものを使用すればよい。この脱水ろ過(ステップ2)により、γ-アミノ酪酸の粗液を得ることができる。
【0018】
ステップ3
精密ろ過仕上工程:
上記胚芽分離ろ過工程(ステップ2)によって分離されたγ-アミノ酪酸の粗液は、更に当該精密ろ過仕上工程を経て精密にろ過仕上げされ、γ-アミノ酪酸抽出液である最終製品とされる。本工程において使用するろ過装置も任意のものでよく、ろ過する際のフィルターの目幅は適宜、精密な大きさの目幅のものを使用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、γ-アミノ酪酸を製造するにあたって、γ-アミノ酪酸を生成する時間を従来よりも短縮でき、しかも、γ-アミノ酪酸の生成段階で発生する悪臭の発生をコストを掛けることなく低減できる有用なGABAの製造方法であり、GABAを使用する例えばサプリメント製造販売業界等において有用なものである。
【符号の説明】
【0020】
1 γ-アミノ酪酸製造装置
2 生成タンク
2a 内部タンク
2b 加温タンク
3 温水タンク
3a 管路
3b ポンプ
4 撹拌機
4a 撹拌軸
4b 撹拌羽根
4c 駆動モータ
5 曝気装置
5a コンプエレッサー
5b 空気供給ノズル(スプレーノズル)
5c 排気手段
5d 排気管
5e 吸引ファン
5f 管路
6 排出弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米から分離した胚芽原料にグルタミン酸又はグルタミン酸塩を含む溶液を混合してγ-アミノ酪酸生成液を生成する工程を有するγ-アミノ酪酸製造方法において、前記γ-アミノ酪酸生成工程で生成されるγ-アミノ酪酸生成液に対してエアレーション作用を与えることを特徴とするγ-アミノ酪酸を製造する方法。
【請求項2】
前記γ-アミノ酪酸生成工程は密閉状のタンク内で行うとともに、前記エアレーションは、前記タンクの底部からタンク内のγ-アミノ酪酸生成液に作用させ、タンクの上部から排気するものであることを特徴とする請求項1に記載のγ-アミノ酪酸を製造する方法。
【請求項3】
前記排気は、タンク内の空気をタンクの上部から吸引によって行う請求項2に記載のγ-アミノ酪酸を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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