説明

γ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法

【課題】 γ−アミノ酪酸を多量に含むアスパラガスを原料とし、その内在酵素によって効率よく簡便な操作によってγ−アミノ酪酸高含有組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 アスパラガス及び/又はアスパラガス抽出液を10℃〜50℃の環境下で1分〜15日間処理することによりγ−アミノ酪酸を富化させることを特徴とするγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法であり、好ましくは、γ−アミノ酪酸を富化させる際、グルタミン酸、グルタミン酸塩、ピリドキサルリン酸塩、塩酸ピリドキシンからなる群より選ばれる少なくとも1種類を添加するものであり、さらに好ましくは、アスパラガス抽出液が、孔径1.0μmφ以下のフィルターで除菌ろ過されたアスパラガス抽出液であるγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸高含有組成物及びその製造方法並びにそれを含有する飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(以下、GABAと略す。)は生物界に微量ながら広く存在する非タンパク質構成アミノ酸であり、ヒトにおいては脳内で神経伝達物質として働くことが知られている。食品素材としてのGABAは血圧降下作用、精神安定作用、脳機能改善作用、更年期障害症状緩和作用、中性脂肪増加抑制作用等の健康維持意識の高い現代人にとって有効な生理作用を有している。その上、GABAはヒトが多量に摂取しても副作用が無いので、安全性の面でも有利であり、食事療法が効果的な生活習慣病、特に高血圧症を予防する成分として食品に付加させる開発が多くなされている。
【0003】
そのようなものとして、米胚芽、米糠、小麦胚芽などの中に元来含まれる酵素の作用を利用してGABA富化穀物を製造する技術(例えば、特許文献1及び2参照)、トマト、カボチャ等の野菜などの中に含まれる酵素の作用を利用してGABA富化組成物を製造する技術(例えば、特許文献3〜5参照)、GABAを乳酸菌や麹菌などの微生物に生産させる技術(例えば、特許文献6〜8参照)、茶葉を嫌気処理することによってGABA含量の高い茶葉を製造する技術(例えば、特許文献9参照)などが報告されている。
【0004】
また、GABAは工業的にはγ−ハロゲノ酪酸のアミノ化やピロリドンの加水分解によって製造されている。その他、グルタミン酸を出発原料としてグルタミン酸デカルボキシラーゼによってGABAに変換する方法も開示されている。
【0005】
一方、アスパラガスは、繊維質が豊富でカロリーの低い野菜であり、全国で年間約28000tが収穫されている他、海外からの輸入も盛んである。国内で収穫量の多い都道府県としては、長野県、北海道、佐賀県、福島県、香川県、長崎県、秋田県などが挙げられる。これまで、アスパラガスには食物繊維の他、アスパラギン酸、ビタミンU(メチルメチオニン)、ルチン、葉酸、サポニン類などの有用成分が多く含まれていることが知られていたが、GABAに関しては本発明者らにより全く初めて報告された(特願2004−301557号)。
【特許文献1】特許第2590423号公報
【特許文献2】特開2004−159617号公報
【特許文献3】特公平7−12296号公報
【特許文献4】特公平7−14333号公報
【特許文献5】特開2001−252091号公報
【特許文献6】特開2001−352940号公報
【特許文献7】特開2003−70462号公報
【特許文献8】特開平11−103825号公報
【特許文献9】特許第3038373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、GABAを摂取して上記のような効果を得るためには成人で1日約26mgのGABAを摂取する必要があるといわれているが、従来これだけの量のGABAを摂取することは困難であった。例えば、特許文献6には米胚芽中のGABA含量を350〜400mg/100gにまで増加させる技術が開示されているが、米全体に対する米胚芽の量は2〜3%であることから胚芽米全体では12〜13mg/100gにしかならないことになる。米は高カロリーな食物であり、GABAを摂取したいがために胚芽米を多く摂取するとカロリーの過剰摂取から肥満や糖尿病になる恐れもあった。
【0007】
また、発芽玄米の製造は、玄米を水に長時間浸漬する工程を含むため、雑菌の繁殖が問題になり、製造中に雑菌の数は108個/ml以上にまでなるといわれている。そのため、清浄度の維持や殺菌に多大なコストと労力がかかっていた。
【0008】
また、特許文献9に開示されている茶葉の嫌気処理ではGABAの増加率はせいぜい2倍〜3倍にしかならなかった。
【0009】
特許文献3,4はトマトの内在酵素を用いて、GABAを富化するものであり、特許文献5はカボチャの内在酵素を用いてGABAを富化するものであるが、いずれも野菜自体に元来含まれるGABAの量が著しく少ないことにより効果的なGABA含量の増加が期待できず、また破砕物はろ過性が著しく悪いために処理後の固液分離が困難であった。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、GABAを多量に含むアスパラガスを原料とし、その内在酵素によって効率よく簡便な操作によってGABA含有組成物を製造することを目的とし、ひいてはGABAを無理なく毎日摂ることができるような食品の開発を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記した課題について鋭意検討した結果、アスパラガスを原料としてその内在酵素を作用させることにより、GABAが富化できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の第一は、アスパラガス及び/又はアスパラガス抽出液を10℃〜50℃の環境下で1分〜15日間処理することによりγ−アミノ酪酸を富化させることを特徴とするγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法を要旨とするものであり、好ましくは、γ−アミノ酪酸を富化させる際、グルタミン酸、グルタミン酸塩、ピリドキサルリン酸塩、塩酸ピリドキシンからなる群より選ばれる少なくとも1種類を添加するものであり、さらに好ましくは、アスパラガス抽出液が、孔径1.0μmφ以下のフィルターで除菌ろ過されたアスパラガス抽出液であるγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法である。
【0013】
また、本発明の第二は、前記した方法により製造されたγ−アミノ酪酸高含有組成物を要旨とするものであり、好ましくは、さらにアミノ酸を含有するものである。
【0014】
また、本発明の第三は、前記したγ−アミノ酪酸高含有組成物を含有する飲食品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、GABAを多く含有する組成物を容易に得ることができ、さらにGABAに加えてアミノ酸を多く含有す組成物を容易に得ることができる。アスパラガス抽出物には通常、アスパラガス若茎1.0kgを原料として製造した場合、0.4g〜2gのGABAが含まれているが、本発明の製造方法によれば、煩雑な精製操作を施すことなく、GABA含量を1.2倍〜130倍にまで増加させることができる。GABAは1日26mgずつを摂取すれば効果が現れるといわれており、本発明のGABA高含有組成物によれば、30mg〜500mgと少量で達成することができ、無理なく摂取することができる。
【0016】
また、本発明のGABA高含有組成物を含有した飲食品は、GABAの作用により、血圧降下、リラックス、ストレス緩和、更年期障害症状改善、不眠改善、利尿、腎機能改善、肝機能改善等の効果が得られる。また、前記のGABAの作用により得られる効果に加え、アミノ酸の作用により、疲労回復、脂肪燃焼、美肌等の効果及び水溶性食物繊維の作用により、整腸作用、肥満予防、中性脂肪吸収抑制等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いられるアスパラガスは、本発明の効果を損なうものでない限りいかなるものでもよい。アスパラガスには日光に当てて栽培するグリーンアスパラガス、土などで遮光しながら栽培するホワイトアスパラガス、細く短いうちに刈り取りを行うミニアスパラガス、グリーンアスパラガスとは別種で紫色を呈するムラサキアスパラガスなどがあるが、これらの中ではアミノ酸やルチン等の栄養成分に富むグリーンアスパラガス、ムラサキアスパラガスが好ましく、コストが安いグリーンアスパラガスがさらに好ましい。産地は特に限定されず、国産でも海外からの輸入品でもよい。使用する部位も特に限定されず、若茎、地上茎、貯蔵根が使用できるがこれらの中で若茎が好ましい。若茎は根元部分でも先端部分でもよいが、商品となるアスパラガスの長さを揃える時にカットされた根元部分は安価で入手できることから最も好ましい。アスパラガスはそのまま使用してもよいし、内在酵素の活性を失わない限り、破砕、切断、凍結乾燥、脱水などの処理を行った後に使用してもよい。
【0019】
本発明で用いられるアスパラガス抽出液は、本発明の効果を損なうものでない限りいかなるものでも良い。抽出溶媒としては水、有機溶媒、超臨界流体などが考えられるが、これらの中では水が最も好ましい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリル等が挙げられ、これらの中ではアルコール類が好ましく、特に食品用に使用できるエタノールが好ましい。抽出方法は特に限定されず、圧搾機、ジューサー、パルパー等を使用した簡便な搾汁方法で十分である。アスパラガス抽出液を得る場合、注意しなければならない点としては、内在酵素の活性を維持したまま処理を行うことである。例えば抽出液を得るときの温度は60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。またpHは2.0〜10.0の間を維持することが好ましく、2.5〜8.5の間を維持することがさらに好ましい。
【0020】
本発明においては雑菌の繁殖しやすい環境下で長時間処理する工程を含むことから、抽出液を製造する段階で除菌ろ過を行っておくことが好ましい。除菌ろ過はフィルターろ過、膜ろ過、限外ろ過等で行うことができる。また、ろ過を行う場合に用いるフィルターはタンパク質の吸着が少ない素材を使用することが好ましく、これらの例としては、紙、布、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、テフロン(登録商標)等が好ましく挙げられ、ポリエーテルスルホンがさらに好ましく挙げられる。除菌ろ過をフィルターろ過又は膜ろ過で行う場合、使用するフィルター又は膜の孔径は10.0μm以下が好ましく、1.0μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下が最も好ましい。これ以上孔径が大きければ、細菌や真菌が混入する問題がある。
【0021】
本発明においては、上記のようなアスパラガス及び/又はアスパラガス抽出液を一定の環境下に置くことにより、内在する酵素の働きによりGABAを富化させる、いわゆる富化処理を行う。この際、アスパラガス及び/又はアスパラガス抽出液をそのまま使用することもできるが、水を添加しても良い。水の添加量はアスパラガスを使用する場合、アスパラガス重量に対して0.1倍量〜3倍量が好ましく、1倍量〜2倍量がさらに好ましい。アスパラガス抽出液を用いる場合は該抽出液の水分量によるが、濃縮され水分量が著しく低い場合には酵素反応が効果的に進まない問題があるため、水を添加して水分含有率を好ましくは30質量%〜99.9質量%、さらに好ましくは50質量%〜99.0質量%、最も好ましくは70質量%〜99質量%に調整することができる。
【0022】
富化処理の温度は、アスパラガスの内在酵素が活性を持つ温度であればいかなる温度でも良いが、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜35℃、最も好ましくは24℃〜32℃である。この温度範囲より高い場合は酵素が失活する問題があり、この温度範囲より低い場合は酵素の活性が十分に発揮されない可能性がある。
【0023】
富化処理を行う時の処理物のpHは内在酵素が活性を持つpHであれば限定されないが、好ましくは2.0〜10.0であり、さらに好ましくは2.5〜8.5であり、最も好ましくは3.0〜7.0である。この範囲を外れる場合、内在酵素が効果的に働かない可能性がある。またpHを調整するために、緩衝液を用いることもできる。緩衝液としては、トリズマ塩基、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液などが好ましく、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液が特に好ましい。
【0024】
富化処理を行う時間は、1分間〜15日間であり、1時間〜5日間が好ましく、4時間〜4日間がさらに好ましい。15日間を超える処理を行ってももはやGABAの増加は期待できず、一方、1分間未満の時間である場合には十分にGABAが増加しない問題がある。
【0025】
富化処理を行うための装置は特に限定されず、ジャーファーメンターのような培養装置、恒温槽、ジャケット付反応装置等の他、単なる容器でも良い。
【0026】
本発明において、富化処理を行う際に、GABAの原料となるグルタミン酸又はその塩を添加することが好ましい。グルタミン酸塩の中では特にナトリウム塩が好ましい。グルタミン酸又はその塩はグルタミン酸脱炭酸酵素の作用を受けてGABAに変換される為、グルタミン酸又はその塩を添加することでGABAの含量を著しく増加させることができる。加えるグルタミン酸又はその塩の量は特に限定されないが、原料アスパラアスに対して0.1質量%〜100質量%が好ましく、1質量%〜30質量%がより好ましい。この範囲より少なければGABA含量は増加するが微量に留まり、この範囲より多ければGABAに変換されないグルタミン酸又はその塩が多量に残存する問題がある。
【0027】
また、本発明においては、富化処理を行う際にグルタミン酸脱炭酸酵素の補酵素としてピリドキサルリン酸又はその塩、又は塩酸ピリドキシンを添加することが好ましい。ピリドキサルリン酸塩の中では特にナトリウム塩が好ましい。ピリドキサルリン酸又はその塩、又は塩酸ピリドキシンはグルタミン酸脱炭酸酵素の補酵素として働くため、酵素反応を効果的に進めることができ、GABAの含量を増加させることができる。加えるピリドキサルリン酸又はその塩、又は塩酸ピリドキシンの量は特に限定されないが、原料アスパラガスに対して0.001質量%〜20質量%が好ましく、0.005質量%〜5質量%がさらに好ましい。この範囲より少なければ、補酵素を添加する効果がほとんど期待できず、この範囲より多くとももはやこれ以上のGABA含量増加は期待できない。
【0028】
本発明においては、富化処理を行う際、さらに酵素を添加することもできる。酵素としては、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、アラバナーゼ、アミラーゼ、グルカナーゼ、デキストラナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、グルタミナーゼ、グルタミン酸脱炭酸酵素等が使用できる。ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、アラバナーゼ、アミラーゼ、グルカナーゼ、デキストラナーゼ等を用いれば可溶性オリゴ糖、単糖類が多く回収され、機能性糖質の増加、呈味の向上が達成できる。プロテアーゼ、ペプチダーゼ等を用いればアミノ酸量、ペプチド量が増加するとともに、原料となるグルタミン酸量が増加し、ひいてはGABA含量を増加させることができる。グルタミナーゼを用いればグルタミンがグルタミン酸に変換されるために、GABA含量を増加させることができる。グルタミン酸脱炭酸酵素を用いれば、内在酵素に含まれるものを補う形でさらに効果的にGABAの産生が期待でき、GABA含量を増加させることができる。本発明においては、上記した酵素を一種類だけ用いてもよいし、二種以上を同時に又は工程を分けて用いてもよい。使用する酵素の量は原料アスパラガスに対して0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.01質量%〜5質量%であることがより好ましい。この範囲より少なければ酵素を添加する効果がほとんど期待できず、この範囲より多くとももはやこれ以上の効果は期待できない。
【0029】
富化処理終了後は、引き続き製品化への工程を進めることができる。ここで、必要であれば高温での失活処理、滅菌処理を行うことができる。この時の温度は60℃〜121℃が好ましく、70℃〜110℃がさらに好ましい。この温度範囲より低ければ、失活、滅菌の効果が不十分になる問題があり、この温度範囲より高ければGABAをはじめ有効成分が分解する問題がある。
【0030】
また、富化処理終了後は、必要であればアスパラガスの分離、ろ過を行うことができる。分離、ろ過は従来公知の方法が使用できる。例えばメッシュ板やスクリューデカンタによる分離、フィルタープレス、遠心ろ過機、ブフナー漏斗等によるろ過が挙げられる。
【0031】
以上の本発明の方法により、本発明のGABA高含有組成物を得ることができる。さらに使用目的に応じて、分子量の大きな多糖類、食物繊維、蛋白質等を、分子量の小さなアミノ酸類、GABA、ペプチド、単糖類、オリゴ糖類から取除くことによりGABA含量を高めることができる。このような方法により、固形分中のGABA含量を好ましくは1質量%〜99質量%、さらに好ましくは10質量%〜99質量%まで増加させたGABA高含有組成物を得ることができる。そのためには、例えば生化学工業(株)製の樹脂、「セルロファイン」シリーズを用いてゲル濾過で分離する方法や、限外濾過膜(UF膜)を用いて所定の分子量で分画する方法等を採用することができ、限外ろ過膜によって高分子量成分を除去する方法が、GABA含量を高めることができる点からも好ましい。
【0032】
本発明のGABA高含有組成物に含まれるGABA以外の成分としては、多糖類、オリゴ糖類、D−グルコース、D−フルクトース、D−ガラクトース等の単糖類、アミノ酸類、タンパク質、ペプチド類、サポニン類、ポリフェノール類等である。
【0033】
これらの中でアミノ酸類は、アスパラガスに元来多く、本発明で添加するグルタミン酸をはじめ、アスパラガスに元来多いアミノ酸であるアスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、プロリン、アルギニン、セリン、アラニン等である。アミノ酸の中でも筋肉で分解されてエネルギーを作り出すものとしてはバリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニンが知られており、中でもバリン、ロイシン、イソロイシンは分岐鎖アミノ酸(BCAA)と呼ばれ、ヒトの筋肉中の必須アミノ酸の約35%を占めている。これらのアミノ酸は特に近年運動能力向上、疲労回復、筋力向上の効果が認められたために注目を浴びている。本発明のGABA高含有組成物はアスパラガスを原料としているために、上記のように機能性の高いアミノ酸を多く含むことを特徴としている。本発明のGABA高含有組成物は、BCAAが0.001質量%〜20質量%、好ましくは0.005質量%〜15質量%、さらに好ましくは0.05質量%〜10質量%含まれるものである。
【0034】
また、本発明のGABA高含有組成物には、呈味改善、機能性付与、安定性改善、操作性向上等の目的で本発明の効果を損なわない程度に他の成分が添加されたものも含む。かかる成分としては、特に限定されず、例えばデキストリン、シクロデキストリン等の多糖類、単糖類、糖アルコール、糖脂質、脂質、アミノ酸類、タンパク質、ペプチド類、ビタミン類、ポリフェノール類、カテキン類、グルコサミン、アセチルグルコサミン、キチン、キトサン、コラーゲン、ミネラル類、乳化剤、保存料、アルコール類、グリセリン等が挙げられる。これらの中でデキストリン、アミノ酸類、ペプチド類、ビタミン類、乳化剤が好ましい。
【0035】
本発明のGABA高含有組成物の形状は本発明の効果を損なわない限り限定されないが、例えば、水溶液、懸濁液、ペースト、粉末、クリーム、ゲル、錠剤、カプセルなどが挙げられ、これらの中でも水溶液、ペースト、粉末、ゲル、錠剤、カプセルが好ましく、水溶液、粉末が特に好ましい。水溶液は、富化処理終了後、残渣をろ別したもの、これを濃縮したものをそのまま使用してもよいし、さらに所定の濃度にまで希釈又は濃縮して使用することもできる。希釈するには水に限定されず、アルコール、油などを用いることもでき、このとき必要に応じて乳化剤や塩類を添加することができる。濃縮するには、減圧濃縮、加熱濃縮、濾過膜を用いた濃縮などいかなる方法で行ってもよいが、20℃〜60℃の範囲での減圧濃縮を行うことが好ましい。該減圧濃縮には、一般的なエバポレーター装置や(株)大川原製作所製の「エバポール」、関西化学機械製作(株)製の「ウォールウェッター」などを使用することができる。固形分濃度は0.01質量%〜70質量%であり、1質量%〜50質量%が好ましく、5質量%〜40質量%がより好ましい。ペースト状のものは、富化処理終了後、残渣をろ別しないで濃縮して作製しても良いし、ろ別、濃縮して作製しても良い。また、濃縮した水溶液に油分、乳化剤等を混合して作製しても良い。粉末状のものは、富化処理終了後、そのまま凍結乾燥、真空乾燥、熱風乾燥、スプレードライ、ドラムドライ等の方法で乾燥して粉末化しても良いし、デキストリン、乳糖等の賦型剤を添加して粉末化しても良い。また、これらの水溶液、粉末から乳化、打錠、ゲル化などの操作により、クリーム、錠剤、ゲルなどを製造することができる。さらに、本発明のGABA含有組成物は、砂糖、果糖、ブドウ糖、オリゴ糖、蜂蜜等の糖類、食塩、にがり等の塩類、だし、味の素、アミノ酸等で調味されていても良い。
【0036】
なお、本発明において、GABA及びアミノ酸の含有量は、以下の方法により求められた値である。すなわち、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により以下の条件で測定し、蛍光検出器を用いて検出した。
HPLC:島津製作所(株)製LC−9A
カラム:Shim−pack ISC−07/S1504
移動相:0.2規定クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)
流速:0.3ml/分
温度:55℃
反応液:オルト−フタルアルデヒド
検出波長:励起波長348nm、蛍光波長450nm
次に、本発明の飲食品について説明する。
【0037】
本発明の飲食品は、上記した本発明のGABA高含有組成物それ自体からなるもの、あるいは既存の飲料又は食品に本発明のGABA高含有組成物を含ませることにより得られるものである。また、味質の改善等のために、本発明の効果を損なわない範囲で糖類、糖アルコール類、塩類、油脂類、アミノ酸類、有機酸類、果汁、野菜汁、香料、アルコール類、グリセリン等を添加することができる。
【0038】
本発明の飲食品のベースとなる飲料又は食品としては、特に限定されず例えば飲料は清涼飲料水、アルコール類、果汁飲料、野菜汁飲料、乳飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料、アルコール類等であることが好ましく、また食品はカプセル、グミ、キャンデー、錠剤、顆粒、ドリンク等の形状をしたサプリメントであってもよいし、通常の食事として摂る食品であってもよい。
【0039】
本発明の飲食品に含ませるGABA高含有組成物としては、特に限定されないが、1日当たりに摂取する量がGABAに換算して10〜100mgになるように配合することが好ましい。この範囲より少ない場合は効果が望めない可能性があり、この範囲より多い場合はもはや効果の増大は見込めない可能性がある。本発明の飲食品に含ませるGABA含有組成物の形態は特に限定されず、飲料、グミ、キャンデーなどにおいては液体状の物を、錠剤、顆粒、カプセルなどにおいては粉末状の物を使用するなどすればよい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例中のGABA、アミノ酸の含有量は前記した方法で測定した。
【0041】
実施例1
アスパラガス若茎100gをミキサーで破砕し、水100mlを導入した。これを振とう式インキュベーターを用いて30℃、24時間振とうし、GABA富化処理を行った。得られた処理液は濾過助剤に珪藻土を用い、ろ紙(ADVANTEC東洋製No.5C)を用いて吸引濾過を行い、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0042】
実施例2
アスパラガス若茎100gをミキサーで破砕し、水100mlを導入した。これを圧搾機で圧搾ろ過し、得られた抽出液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて除菌ろ過した。これを実施例1と同様に振とう式インキュベーターを用いて30℃、24時間振とうしGABA富化処理を行い、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0043】
実施例3
アスパラガス若茎500gをミキサーで破砕し、水500mlを導入した。これを5等分し、そこにグルタミン酸ナトリウムをそれぞれ1g、3g、5g、10g、20g添加してよく攪拌して溶解した。これを振とう式インキュベーターを用いて30℃、24時間振とうしGABA富化処理を行った。得られた処理液は濾過助剤に珪藻土を用い、ろ紙(ADVANTEC東洋製No.5C)を用いて吸引濾過を行い、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0044】
実施例4
アスパラガス若茎100gをミキサーで破砕し、水100mlを導入した。これを圧搾機で圧搾ろ過し、5gのグルタミン酸ナトリウムを添加して溶解した後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて除菌ろ過した。これを実施例1と同様に振とう式インキュベーターを用いて30℃、24時間振とうし、GABA富化処理、ろ過を行い、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0045】
実施例5
実施例1において、振とう反応させる前にグルタミン酸5gを添加した以外は同様にして、黄緑色のGABA含有組成物を得た。グルタミン酸は溶解性が悪く、GABA富化処理後も不溶のまま残るものがあった。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0046】
実施例6
実施例1において、振とう反応させる前にピリドキサルリン酸塩0.1gを添加した以外は同様にして、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0047】
実施例7
実施例1において、振とう反応させる前にビタミンB6を0.1g添加した以外は同様にして、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0048】
実施例8
実施例1において、振とう反応させる前にグルタミン酸ナトリウム5g、ピリドキサルリン酸塩0.1gを添加した以外は同様にして、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0049】
実施例9
実施例1において、振とう反応させる前にグルタミン酸ナトリウム5g、ビタミンB6を0.1g添加した以外は同様にして、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0050】
実施例10
実施例1において、振とう反応させる前にグルタミン酸ナトリウム10g、ピリドキサルリン酸塩0.1gを添加し、4日間処理した以外は同様にして、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0051】
実施例11
実施例10において、GABA富化処理後に得られた抽出液にオリエンタル酵母工業製「USイースト」を2g添加し、30℃で振とうしながら24時間酵母処理を行った。得られた酵母処理液は、旭化成(株)製限外ろ過膜「SEP−0013」によって限外ろ過を行った。得られたGABA含有組成物は黄緑色であり、GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0052】
比較例1
アスパラガス若茎100gをミキサーで破砕し、水100mlを導入した。これを圧搾機で圧搾ろ過し、得られた抽出液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて除菌ろ過した。この抽出液についてはGABA富化処理を行わず、黄緑色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであり、GABA含有量は富化処理を行ったものと比較して少ないものであった。
【0053】
比較例2
玄米100gを水100mlに浸漬し、5gのグルタミン酸ナトリウムを添加して溶解した。これを実施例1と同様に振とう式インキュベーターを用いて30℃、24時間振とうし、GABA富化処理、ろ過を行い、乳黄色のGABA含有組成物を得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示した様に、グルタミン酸が多く残り、GABAへの転換率が低かった。また、味質はえぐ味が残っていた。
【0054】
比較例3
比較例2において玄米をトマトに代えた以外は同様にして赤色のGABA含有組成物を得た。但し、ろ過性が悪くろ過に長時間を要した。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示した様に、グルタミン酸が多く残り、GABAへの転換率が低かった。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例12
実施例8で得られたGABA含有組成物100gを凍結乾燥し、ミルで粉砕して粉末状のGABA含有組成物を3.8g得た。このGABA含有組成物は薄褐色で、1g中に234mgのGABAを含有していた。1日26mgのGABAを摂取すれば効果が期待できるとすると、この粉末は112mg摂取することで達成できる。
【0057】
実施例13
実施例8で得られたGABA含有組成物3gをカゴメ(株)製トマトジュース200mlに混合した。トマトジュースの味、色、臭いはほとんど変化せず、添加したGABA含有組成物3gに含まれる26.7mgのGABAを摂取できるGABA含有トマトジュースが得られた。
【0058】
実施例14
実施例10で得られたGABA含有組成物の粉末3gをタケヤ味噌「塩ひかえめ」405gに添加し、混練した。これにより、味噌汁一杯分の味噌15gに26mgのGABAを含有したGABA含有味噌が得られた。
【0059】
実施例15
実施例8と同様の方法でGABA含有組成物10kgを製造し、日本粉末薬品(株)製「ウーロン茶エキスパウダー」856gを溶解し、スプレードライにより乾燥、粉末化し、1230gのGABA含有ウーロン茶粉末を得た。このGABA含有ウーロン茶粉末0.4gを水100mlに溶解するとGABA含有ウーロン茶ができた。GABA含有ウーロン茶は28mgのGABAを含有しており、飲みやすく美味しいものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラガス及び/又はアスパラガス抽出液を10℃〜50℃の環境下で1分〜15日間処理することによりγ−アミノ酪酸を富化させることを特徴とするγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法。
【請求項2】
γ−アミノ酪酸を富化させる際、グルタミン酸、グルタミン酸塩、ピリドキサルリン酸塩、塩酸ピリドキシンからなる群より選ばれる少なくとも1種類を添加する請求項1記載のγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法。
【請求項3】
アスパラガス抽出液が、孔径1.0μmφ以下のフィルターで除菌ろ過されたアスパラガス抽出液である請求項1又は2記載のγ−アミノ酪酸高含有組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載のいずれかの方法により製造されたγ−アミノ酪酸高含有組成物。
【請求項5】
さらに、アミノ酸を含有する請求項4記載のγ−アミノ酪酸高含有組成物。
【請求項6】
請求項4又は5記載のγ−アミノ酪酸高含有組成物を含有する飲食品。

【公開番号】特開2006−333818(P2006−333818A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164107(P2005−164107)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】