説明

γ−アミノ酪酸高生産能を有する乳酸菌並びにそれを使用しγ−アミノ酪酸富化した食品及び該食品の製造方法

【課題】GABAを高生産する新規乳酸菌、当該乳酸菌を使用しGABA富化した食品、並びに当該食品の製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741。乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742。NITE P−741又はNITE P−742を用い乳酸発酵させることでGABAを富化した食品。NITE P−741又はNITE P−742を用い乳酸発酵させるGABAを富化した食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸(以下、「GABA」という。)高生産能を有する新規乳酸菌、当該乳酸菌を使用しGABA富化した食品、並びに当該食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは、自然界に広く分布する物質であり、人をはじめとする哺乳動物の脳や脊髄に多く存在することが知られている。そして、血圧上昇抑制、動脈硬化予防、肝機能改善、リラックス効果等、健康機能に関し様々な報告がなされており、近年、高機能性食品素材として注目を集めている。
【0003】
GABAは、玄米、紅麹、お茶、野菜、果物などの自然素材にも含まれており、食事等を通して人の体内に摂取されるものであるが、自然素材に含まれる量は僅かにすぎず、当該自然素材の摂取によっては上記のような健康機能の発現を期待することはできない。
【0004】
そこで、従来、食品中のGABAを人為的に増加させることについて検討がなされ、乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)FERM P−19608をグルタミン酸又はその塩類の存在下で培養する際、塩素イオンや塩素イオンを含む塩類、海水、にがり等を添加することで、γ-アミノ酪酸の生産能が著しく向上することが報告されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4041850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、環境問題への関心の高まりから、精米工場等において無洗米加工時に排出される洗米排水が、河川や湖沼等の富栄養化を引き起こすことが懸念されている。
また、精米に関しては、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物の廃棄処理の問題もあり、これらの対策を講じることが喫緊の課題となっている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)FERM P−19608は、γ-アミノ酪酸の生産能を向上させるために塩素イオンやその塩類、海水、にがり等を添加する必要があり、その工程が複雑なものである。
また、特許文献1は、洗米排水による環境汚染の問題や精米に伴い発生する副産物の廃棄処理の問題への対応について何ら開示するものでもない。
【0008】
そこで、本発明は、無洗米加工時に排出される洗米排水による環境汚染の問題や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物の廃棄処理の問題の解決を目指すものであり、洗米排水や精米に伴い発生する副産物を原料としてGABAを高生産する新規乳酸菌、当該乳酸菌を使用しGABA富化した食品、並びに当該食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成する乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741をケニアの伝統的発酵乳マジワララから分離することに成功し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者は、上記目的を達成する乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742をマレーシアの伝統的発酵乳ダディヒから分離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、γ-アミノ酪酸高生産能を有する乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741を提供するものである。
【0011】
また、上記目的を達成するため、請求項2に係る発明は、γ-アミノ酪酸高生産能を有する乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742を提供するものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の乳酸菌を用い乳酸発酵させることでγ-アミノ酪酸を富化した食品を提供するものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、乳酸菌を糖化液に添加し乳酸発酵させる請求項3記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品を提供するものである。
【0014】
請求項5に係る発明は、糖化液が米糖化液である請求項4記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品を提供するものである。
【0015】
請求項6に係る発明は、洗米排水を米糖化液の原料とする請求項5記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品を提供するものである。
【0016】
請求項7に係る発明は、砕米、古米、くず米、糠等、精米加工において生成される副産物を米糖化液の原料とする請求項5記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品を提供するものである。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項1又2記載の乳酸菌を用い乳酸発酵させるγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法を提供するものである。
【0018】
請求項9に係る発明は、乳酸菌を糖化液に添加し乳酸発酵させる請求項8記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法を提供するものである。
【0019】
請求項10に係る発明は、糖化液が米糖化液である請求項9記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法を提供するものである。
【0020】
請求項11に係る発明は、洗米排水を米糖化液の原料とする請求項10記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法を提供するものである。
【0021】
請求項12に係る発明は、砕米、古米、くず米、糠等、精米加工において生成される副産物を米糖化液の原料とする請求項10記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742は、糖化液に作用しGABA富化した食品を製造することができるものであり、糖化液の原料として無洗米加工時に排出される洗米排水や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物を用いれば、洗米排水による環境汚染の問題や、精米に伴い発生する副産物の廃棄処理の問題を解決することができ非常に有用なものである。
【0023】
また、本発明のGABA富化した食品は、本発明の乳酸菌を糖化液に作用させることで得られるものであり、無洗米加工時に排出される洗米排水や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物を糖化液の原料とすることで、得られる食品はGABAが富化されるのみならず、オリザノール、フィチン酸、フェラル酸など、精米時に廃棄される微量成分が多分に含まれるものとなり、高機能性食品として極めて有用なものである。
【0024】
さらに、本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742は、特許文献1に開示された乳酸菌FERM P−19608のようにGABAを富化させるに際し、にがり等を添加する必要がなく、GABA富化した食品の製造工程を簡素なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の乳酸菌を使用しGABA富化した食品の製造工程の説明図。
【図2】乳酸菌によるGABA生産試験工程の説明図。
【図3】GABA生産試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明の乳酸菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号:NITE P−741、及び受託番号:NITE P−742として寄託されている。
【0027】
<乳酸菌>
(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741)
本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741は、ケニアの伝統的発酵乳マジワララから分離した。
本乳酸菌は、グラム陽性、カタラーゼ陰性、非運動性、非胞子形成性の連鎖状球菌あるいは双球菌である。また、本乳酸菌は、BCP加プレートカウント寒天培地で良好な生育を示す中温性ホモ型乳酸発酵球菌であり、細菌同定用検査キッド「API50CHL」(日本ビオメリュー(株)製)を用いた糖類発酵性試験においてラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)と同定した。
【0028】
(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742)
本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742は、マレーシアの伝統的発酵乳ダディヒから分離した。
本乳酸菌は、グラム陽性、カタラーゼ陰性、非運動性、非胞子形成性の連鎖状球菌あるいは双球菌である。また、本乳酸菌は、BCP加プレートカウント寒天培地で良好な生育を示す中温性ホモ型乳酸発酵球菌であり、細菌同定用検査キッド「API50CHL」(日本ビオメリュー(株)製)を用いた糖類発酵性試験においてラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)と同定した。
【0029】
本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741、本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742の糖の資化性を表1及び表2に示す。なお、表中「+」は陽性を、「−」は陰性を表すものである。
【表1】

【表2】

【0030】
本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742は、ともにGABA高生産能を持つものである。
また、本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742は、ともに糖化液に添加し乳酸発酵させることでGABA富化した食品を得ることができるものである。
糖化液には、米、麦、芋、豆等の澱粉を含む穀類や植物の糖化液を用いることができ、特に、米糖化液を用いる場合、無洗米加工時に排出される洗米排水や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物を原料とすれば、洗米排水による河川や湖沼等の富栄養化の問題、精米加工時に発生する副産物の廃棄処理の問題を解決できる。
【0031】
<GABA富化した食品及び当該食品の製造方法>
本発明のGABA富化した食品は、糖化液に本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741を作用させ発酵させて得られるものである。
また、本発明のGABA富化した食品は、糖化液に本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742を作用させ発酵させて得られるものである。
本発明のGABA富化した食品は、本発明の乳酸菌を作用させる糖化液として米、麦、芋、豆等の澱粉を含む穀類や植物の糖化液を用いることができるが、米糖化液を用いる場合、無洗米加工時に排出される洗米排水や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物を原料とすれば、得られる食品はGABAが富化されるのみならず、オリザノール、フィチン酸、フェラル酸など、精米時に廃棄される微量成分を多分に含んだものとなり、高機能性食品として極めて有用なものである。
【0032】
本発明のGABA富化した食品の製造方法は、本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741を糖化液に作用させ、発酵させる工程を有するものである。
また、本発明のGABA富化した食品の製造方法は、本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742を糖化液に作用させ、発酵させる工程を有するものである。
ここで、糖化液には、米、麦、芋、豆等の澱粉を含む穀類や植物の糖化液を用いることができ、特に、米糖化液を用いる場合、無洗米加工時に排出される洗米排水や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物を原料とすることができる。洗米排水や精米に伴い発生する副産物を米糖化液の原料とすれば、洗米排水による河川や湖沼等の富栄養化の問題、精米加工時に発生する副産物の廃棄処理の問題を解決できる。また、洗米排水や精米に伴い発生する副産物を米糖化液の原料とすれば、本発明の製造方法によって得られる食品は、GABAが富化されるのみならず、オリザノール、フィチン酸、フェラル酸など、精米時に廃棄される微量成分を多分に含んだものとなり、高機能性食品として極めて有用なものとなる。
本発明のGABA富化した食品の製造方法によれば、GABAを富化するに際し、にがり等を添加する必要がないため、製造工程を簡素なものとすることができる。
【0033】
次に、図1に基づいて、本発明の乳酸菌を使用しGABA富化した食品を製造する工程を説明する。
(1)原料
原料には、主として澱粉を含む穀類や植物を用いることができる。ここでは、原料として無洗米装置から排出される排水を用いるものとする。
(2)糖化加工
原料の洗米排水に酵素(α−アミラーゼ)を添加し澱粉を液化する。次に、酵素(グルコアミラーゼ)を添加して米糖化液を得る。
(3)殺菌
得られた米糖化液を高圧下において蒸気殺菌した後、遠心分離し、ろ紙でろ過する。
(4)乳酸発酵
殺菌後、ろ過した米糖化液にグルタミン酸ナトリウムを添加するとともに乳酸菌を接種して培養し、乳酸発酵液を得る。
当該得られた乳酸発酵液が、本発明のGABA富化した食品(原液)である。
【0034】
当該原液は、乳酸及び富化されたGABAに加え、米に含まれるオリザノール、フィチン酸、フェラル酸等の微量有効成分を含むものであり、機能性食品として極めて価値の高いものである。
【0035】
本発明のGABA富化した食品は、上記のような原液自体に加え、原液を濃縮したもの、原液を乾燥させたものを含むものである。
また、本発明のGABA富化した食品は、それ自体を食品とすることもできるし、他の食品等に栄養補助的に添加、あるいはコーティングして用いることもできる。
【0036】
原液を用いる場合、本発明のGABA富化した食品は、そのまま飲料とすることができるのは勿論のこと、ジュース等に混合して用いることもできる。
原液を乾燥させて用いる場合、本発明のGABA富化した食品は、例えば顆粒や錠剤としてサプリメントとすることもできる。
本発明のGABA富化した食品は、チョコレート等の菓子類や各種食品に添加して用いたり、調味料に添加して、あるいは単独で調理用として用いることも可能である。
【0037】
本発明のGABA富化した食品は、原液を濃縮したものを、各種食品へのコーディング材として用いることもできる。例えば、原液を濃縮したものを無洗米等の白米にコーティングすれば、精米によって失われた栄養分をフィードバックする形で補強することができ、付加価値を与えることができる。
なお、上記の例において米糖化液を遠心分離した際の残渣も、精米時に廃棄された前記微量有効成分を含むものであることから、無洗米等の白米や、その他各種食品へコーティングする材料等として利用し、当該食品の栄養価を高めることができる。
【0038】
上記の例では、米糖化液の原料として無洗米装置から排出される排水自体を用いたが、洗米排水の乾燥物を用いることもできる。この場合、水に対し所定量添加した前記乾燥物をホモジナイザー等で微粉砕した後、酵素を添加し、米糖化液とすればよい。また、米糖化液の原料として砕米、古米、くず米、糠等、精米に伴い発生する副産物を用いてもよく、この場合も同様の工程によってGABA富化した食品を製造することができる。
【0039】
また、上記の例では、洗米排水を原料として米糖化液に乳酸菌を作用させたが、麦、芋、豆等の澱粉を含む穀類や植物を原料としてその糖化液に乳酸菌を作用させ、同様の工程によってGABA富化した食品を製造できることはいうまでもない。
【実施例】
【0040】
本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742によるGABA生産試験の結果について説明する。
なお、比較例として、一般に入手可能な乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NIAI527、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)IFO3070によるGABA生産試験を行った。
【0041】
<GABA生産試験>
本発明の乳酸菌及び比較例の乳酸菌について、図2に示す工程にしたがいGABA生産試験を行った。
GABA生産工程は、図1に示すGABA富化した食品の製造工程と同様であり、当該工程によって得られた乳酸発酵液に含まれるGABA量を高速液体クロマトグラフィー、分離カラム:Shim-pack Amino-Na、検出器:蛍光検出器(HPLC法)で分析した。
本試験におけるGABA生産工程は、具体的には以下の通りである。
(1)原料
原料として無洗米装置から排出される排水を用いた。当該排水は固形分を約10重量%含むものである。
(2)糖化加工
原料の洗米排水に酵素(α−アミラーゼ)を0.1重量%添加し、65℃で1時間処理して澱粉を液化した。次に、酵素(グルコアミラーゼ)を0.2重量%添加して、55℃で1時間処理して米糖化液を得た。
(3)殺菌
得られた米糖化液を高圧下において121℃で15分間蒸気殺菌した後、遠心分離し、ろ紙でろ過した。
(4)乳酸発酵
殺菌後、ろ過した米糖化液にグルタミン酸ナトリウムを1重量%添加するとともに乳酸菌を接種し、30℃で72時間培養した結果、乳酸発酵液を得た。
【0042】
<試験結果>
GABA生産試験の結果を図3に示す。
図3の結果から、本発明の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742は、公知の乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NIAI527、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)IFO3070と比べ、米糖化液に作用して極めて高いGABA生産能を示すこと分かり、その有用性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の新規乳酸菌は、無洗米加工時に排出される洗米排水や、精米加工時に発生する砕米、古米、くず米、糠等の副産物を原料としてGABA富化した食品を製造することができるものであり、洗米排水による環境汚染の問題や、精米に伴い発生する副産物の廃棄処理の問題への対応、及び資源の有効活用の点から非常に有用なものである。
また、本発明の新規乳酸菌を使用してGABA富化した食品は、機能性食品として付加価値が高く極めて有用なものである。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-アミノ酪酸高生産能を有する乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−741。
【請求項2】
γ-アミノ酪酸高生産能を有する乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NITE P−742。
【請求項3】
請求項1又は2記載の乳酸菌を用い乳酸発酵させることでγ-アミノ酪酸を富化した食品。
【請求項4】
乳酸菌を糖化液に添加し乳酸発酵させる請求項3記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品。
【請求項5】
糖化液は米糖化液である請求項4記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品。
【請求項6】
洗米排水を米糖化液の原料とする請求項5記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品。
【請求項7】
砕米、古米、くず米、糠等、精米加工において生成される副産物を米糖化液の原料とする請求項5記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品。
【請求項8】
請求項1又2記載の乳酸菌を用い乳酸発酵させるγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法。
【請求項9】
乳酸菌を糖化液に添加し乳酸発酵させる請求項8記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法。
【請求項10】
糖化液は米糖化液である請求項9記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法。
【請求項11】
洗米排水を米糖化液の原料とする請求項10記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法。
【請求項12】
砕米、古米、くず米、糠等、精米加工において生成される副産物を米糖化液の原料とする請求項10記載のγ-アミノ酪酸を富化した食品の製造方法。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−4723(P2011−4723A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154433(P2009−154433)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本畜産学会 日本畜産学会第110回大会講演要旨 平成21年3月27日発行
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】