説明

γ−セクレターゼの新規基質PlexinA2を利用したスクリーニング方法

【課題】γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物をスクリーニングする方法の提供。
【解決手段】
本発明は、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
(i) 候補化合物の存在下および非存在下で、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性なその断片を含む第1の生物学的組成物を、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物と接触させ;
(ii) 当該候補化合物の存在下と非存在下で、当該PlexinA2の開裂を測定し;
(iii) γ-セクレターゼによる当該PlexinA2の開裂に影響を与える当該候補化合物を選択し;そして
(iv) 前記(iii)で得られた候補化合物が、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物であると同定する、
ことを含む、上記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-セクレターゼの新規な基質PlexinA2を利用したスクリーニング方法およびそのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
γ-セクレターゼは、プレセニリン(Presenilin)、ニカストリン(Nicastrin)、Aph-1およびPen-2を基本成分として含む複合タンパク質(アスパラギン酸プロテアーゼ)である。触媒ドメインであるプレセニリンは、家族性アルツハイマー病(AD)の原因遺伝子として同定されている。γ-セクレターゼは、一回膜貫通型のタンパク質を基質にしている。最も代表的な基質としてアミロイド前駆体タンパク質(APP:amyloid precursor protein)やノッチ(Notch)が知られている。APPは、β-セクレターゼによるβ-部位の開裂およびγ-セクレターゼによるγ-部位の開裂によるプロセシングを受けてアミロイドβタンパク質(Aβ:Amyloid βprotein)となる。生成されるAβは、アミノ酸(C末端側)の切断部位によって長さの異なるペプチドに分類される。このうち疎水性が強く、凝集しやすい(β−シート構造をとりやすい)性質を有するAβ42は、神経毒性を示すことから、この現象がアルツハイマー病の主因ではないかと考えられてきた。しかし、最近、Aβをまったく産生できないプレセニリン1 (PS1)およびプレセニリン2 (PS2)のダブルノックアウトマウスが、シナプスの減少、神経細胞死といったAD様の表現型を示すことが報告され、APP とは独立したAD発症の存在も示唆されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、PlexinA2は、Semaphorinのレセプターファミリーの1つであり、Semaphorinシグナルはシナプス可塑性を制御していることが知られている。
【0004】
しかしながら、PlexinA2がγ-セクレターゼの基質であることはこれまでに一切報告されていない。
【非特許文献1】Saura CA, Choi SY, Beglopoulos V, Malkani S, Zhang D, Shankaranarayana Rao BS, Chattarji S, Kelleher RJ 3rd, Kandel ER, Duff K, Kirkwood A, and Shen J. Loss of presenilin function causes impairments of memory and synaptic plasticity followed by age-dependent neurodegeneration. Neuron. 2004 Apr 8;42(1):23-36.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、γ-セクレターゼの新規基質PlexinA2を利用したスクリーニング方法、特に、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、HEK293細胞内および海馬初代培養神経細胞内でPlexinA2がγ-セクレターゼにより開裂することをγ-セクレターゼ阻害剤(2S)-2-{[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]amino}-N-[(3S)-1-methyl-2-oxo-5-phenyl-2,3-dihydro-1H-1,4-benzodiazepin-3-yl]propanamideを用いることで初めて証明した。また、開裂したPlexinA2に対して特異的な抗体またはPlexinA2のC末端のヘマグルチニンタグに対する特異的な抗体を用いることで、PlexinA2の開裂を検出することができることを初めて見出した。
すなわち、本発明者は、PlexinA2の開裂が、γ-セクレターゼ阻害剤によって抑制されることを示すことで、PlexinA2に対するγ-セクレターゼの分解活性(特に、開裂促進活性または開裂阻害活性)を利用したPlexinA2を用いたスクリーニング方法が有効であることを示した。
本発明のスクリーニング方法によって得られる、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の促進剤は、γ-セクレターゼを通じてPlexinA2プロセシングを増加させる化合物である。また、本発明のスクリーニング方法によって得られる、γ-セクレターゼのPlexinA2の分解活性阻害剤は、γ-セクレターゼを通じてPlexinA2のプロセシングを減少させる化合物である。本発明により、γ-セクレターゼに選択的に作用する化合物を選択することで、所望の記憶障害、特に認知症(好ましくはAD)の治療薬の創出が可能になる。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
本発明の態様は、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシング(processing)に影響を与える化合物をスクリーニングする方法である。詳しくは(a)γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂を調べるアッセイ工程であって、候補化合物の存在および非存在下で、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性な断片を含む第1の生物学的組成物を、本発明のPlexinA2を含む第2の生物学的組成物と接触させ、当該PlexinA2の開裂を測定する工程、ならびに (b) γ-セクレターゼに影響を与える化合物であるか否かを二次評価する工程であって、γ-セクレターゼによる当該PlexinA2の開裂に影響を与える候補化合物を選択し、選択された候補化合物を、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物であると同定する工程を含む方法である。
【0008】
本発明の別の態様は、上記工程に加えて、さらに、候補化合物の存在下におけるPlexinA2の未分解物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2の未分解物と比べて増加していた場合、当該候補化合物を、γ-セクレターゼを介してPlexinA2のプロセシングを阻害する化合物またはγ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の阻害剤であると評価する工程を含む、スクリーニング方法である。
【0009】
本発明の別の態様は、上記工程に加えて、さらに、候補化合物の存在下におけるPlexinA2の未分解物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2の未分解物と比べて減少していた場合、当該候補化合物を、γ-セクレターゼを介してPlexinA2のプロセシングを促進する化合物またはγ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の促進剤であると評価することを含む、スクリーニング方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、上記工程に加えて、さらに、候補化合物の存在下におけるPlexinA2の開裂産物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2の開裂産物と比べて増加していた場合、当該候補化合物を、γ-セクレターゼを介してPlexinA2のプロセシングを促進する化合物またはγ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の促進剤であると評価する工程を含む、スクリーニング方法である。
【0011】
本発明の別の態様は、上記工程に加えて、さらに、候補化合物の存在下におけるPlexinA2の開裂産物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2の開裂産物と比べて減少していた場合、当該候補化合物を、γ-セクレターゼを介してPlexinA2のプロセシングを阻害する化合物またはγ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の阻害剤であると評価することを含む、スクリーニング方法である。
【0012】
本発明の別の態様は、上記方法に加えて、さらに、APPまたはγ-セクレターゼによるAPPの開裂部位を含むポリペプチド(APPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド)の開裂を測定する工程を含む、スクリーニング方法である。
【0013】
本発明の別の態様は、上記方法に加えて、さらに、ノッチまたはγ-セクレターゼによるノッチの開裂部位を含むポリペプチド(ノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド)の開裂を測定する工程を含む、スクリーニング方法である。
【0014】
本発明の別の態様は、本発明のスクリーニング方法によって同定される少なくとも一つの化合物または薬学的に許容される塩と、さらに薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物も提供する。好ましくは、前記化合物は、(2S)-2-{[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]amino}-N-[(3S)-1-methyl-2-oxo-5-phenyl-2,3-dihydro-1H-1,4-benzodiazepin-3-yl]propanamide(以下、「Compound E」とも称する場合もある。)である。
【0015】
本発明の別の態様は、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングが異常な疾患や症状を治療する方法であって、治療を必要としている患者に、好ましくは認知症(好ましくはAD)の症状を発症している患者に、本発明の化合物またはそれを含む医薬組成物の、好ましくは認知症治療薬の、有効な投与量を、好ましくはその患者の細胞内でγ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシング活性を変化させるのに有効な量を、投与するステップを含む方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、上記キットに加えて、本発明の方法に利用できる、PlexinA2を含み、好ましくはPlexinA2以外のγ-セクレターゼの基質(好ましくはAPPおよび/またはノッチ)をさらに含む、γ-セクレターゼのアッセイ用キット、またはγ-セクレターゼの阻害剤もしくは活性剤を同定するためのスクリーニング用キットを提供する。
【0017】
本発明の別の態様は、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性な断片を含む第1の生物学的組成物と、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物とを含む、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングを測定するための検査キットを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物をスクリーニングする方法および当該方法に用いるキットが提供される。本発明によりスクリーニングされた化合物は、所望の記憶障害、特に認知症(好ましくはAD)の治療薬になり得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】PlexinA2を遺伝子導入した293/EBNA-1細胞株ならびに、海馬培養神経細胞を用いたProcessing解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ADの発症に関与しているγ-セクレターゼの基質の一つとして、PlexinA2を同定したことにより完成されたものである。従って、本発明はPlexinA2を利用したAD治療薬のスクリーニング法を提供する。
【0021】
本明細書において「患者」とは、動物、好ましくは哺乳動物である。
本明細書において「哺乳動物」とは、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(たとえばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ウマ、ウシ、サルなど)を含む、哺乳動物として分類されるあらゆる動物を意味する。好ましくは、本明細書における哺乳動物はヒトである。この場合、「患者」という用語は、成人および小児を含み、かつ男性および女性を含む。小児は新生児、幼児、および青年を含む。
【0022】
本明細書において「γ-セクレターゼ」とは、APPをその膜貫通領域内で開裂(分解)することによって、Aβの産生を司る酵素または複数分子からなる複合体を意味する。当該複数分子は、プレセニリン(Presenilin)、ニカストリン(Nicastrin)、Aph-1またはPen-2の少なくとも1つの分子を含む。たとえば、マウスPresenilin1(NM_008943)、ラットPresenilin1(D82363)、ヒトPresenilin1(NM_000021)、マウスPresenilin2(NM_011183)、ラットPresenilin2(NM_031087)、ヒトPresenilin2(NM_000447)、マウスNicastrin(NM_021607)、ラットNicastrin(NM_174864)、ヒトNicastrin(NM_015331)、マウスAph-1(NM_146104)、ラットAph-1(NM_001014255)、ヒトAph-1(NM_016022)、マウスPen-2(NM_025498)、ラットPen-2(NM_001008764)、ヒトPen-2(NM_172341)などが本発明のγ-セクレターゼに含まれる。本発明のγ-セクレターゼは、少なくとも生体内で機能するγ-セクレターゼと同様の酵素活性を有していれば、各構成分子は完全長であっても、その部分配列であってもよい。また、本発明のγ-セクレターゼは、γ-セクレターゼの変異体であってもよい。γ-セクレターゼの変異体は、完全長の各構成分子に1〜複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されてもよい、あるいはこれらの組合せによるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ生体内で機能するγ-セクレターゼと同様の酵素活性を有するポリペプチドである。
【0023】
本明細書において、「PlexinA2の開裂」とは、γ-セクレターゼによってPlexinA2が切断を受けて切断前の長さよりも短い断片になることを意味する。「PlexinA2未分解物」とは、γ-セクレターゼによりPlexinA2が開裂しない結果として生成されるポリペプチドであり、γ-セクレターゼにより分解される前のものを意味する。
また、「γ-セクレターゼの生物学的に活性な断片」は、生体内で機能するγ-セクレターゼと同様の酵素活性を有する断片であり、たとえば、APPやPlexinA2を開裂することができる断片を意味する。
本明細書において、用語「γ-セクレターゼ」は、「γ-セクレターゼの生物学的に活性な断片」の意味を含めて用いられる場合がある。
【0024】
本明細書において「PlexinA2」とは、シナプス形成、およびシナプス可塑性を制御因子である公知のポリペプチドである(Pasterkamp et al., Curr. Opni. Neurobiol. 2009: 263-74)。たとえば、ヒトPlexinA2(BC132676、NM_025179)、ラットPlexinA2(NM_001105988)、マウスPlexinA2(NM_008882、AK122289)、イエイヌ(Canis familiaris)PlexinA2(XM_547389)、ウマ(Equus caballus)PlexinA2(XM_001491448)、ウシ(Bos Taurus)PlexinA2(XM_584652)、ニワトリ(Gallus gallus )PlexinA2(XM_417985)、アカゲザル(Macaca mulatta)PlexinA2(XM_001110951、XM_001110980)、ウシ(Bos Taurus)PlexinA2(XM_584652)などが本発明のPlexinA2に含まれる。好ましくは、哺乳動物(例えばマウス)のPlexinA2である。
【0025】
PlexinA2は、構造上、Semaphorin結合ドメイン、γ-セクレターゼ開裂部位、膜貫通ドメインおよびRas GTPase activation protein ドメインを含む(Kruger et al., Nature Rev. 2005: 789-800)。そのリガンドは、Semaphorinファミリーである(Kruger et al., Nature Rev. 2005: 789-800)。
本発明において、PlexinA2は前記動物由来のポリペプチド、組み換えポリペプチド、または合成ポリペプチドのいずれであってもよい。
本発明のPlexinA2は、好ましくは、少なくともPlexinA2のγ-セクレターゼ開裂部位を含んでさえすれば、完全長であっても、その部分配列であってもよい。
また、本発明においてPlexinA2は、PlexinA2の変異体であってもよい。PlexinA2の変異体は、完全長のPlexinA2に1〜複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されてもよい、あるいはこれらの組合せによるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつPlexinA2と機能的に実質的に同一なポリペプチドである。「PlexinA2と機能的に実質的に同一なポリペプチド」は、PlexinA2の有する活性、例えば、γ-セクレターゼ依存的に開裂活性を有するポリペプチドを意味する。
【0026】
上記PlexinA2をコードする遺伝子およびPlexinA2ポリペプチドが本発明のPlexinA2に含まれる。各種動物由来のPlexinA2と塩基配列又はアミノ酸配列との対応関係を表1に示す。また、各種動物由来のγ-セクレターゼと塩基配列又はアミノ酸配列との対応関係を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0027】
本明細書において「置換」とは、好ましくは、ペプチドの活性を実質的に改変しないように、1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換える保存的置換を意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行なうことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0028】
前記の欠失、置換、挿入および/または付加されてもよいアミノ酸の数は、たとえば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個である。
【0029】
また、PlexinA2変異体は、上記表1に記載の配列番号に示されるポリペプチドと、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列であって、PlexinA2と実質的に同じ活性(たとえば、ポストシナプスの形態を変化させる、特に、γ-セクレターゼ分解活性に依存的な変化を起こす活性)を有するポリペプチドを含む。PlexinA2変異体は、上記ポリペプチドであれば、前記動物由来のポリペプチド、組み換えポリペプチド、または合成ポリペプチドのいずれであってもよい。
【0030】
前記の同一性は、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、たとえば全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。
【0031】
PlexinA2のγ-セクレターゼ開裂部位を少なくとも含むあらゆるPlexinA2誘導体が本発明のPlexinA2には含まれる。これらのポリペプチドは、PlexinA2を検出、精製する上で特に有用である。
当該PlexinA2は、他のポリペプチドと融合させた融合ポリペプチド、タグもしくは標識物を付加したポリペプチド、またはそれ以外の修飾を施されたポリペプチドの形態であってもよい。これらのポリペプチドは、遺伝子組み換え技術、部位指定突然変異誘発、突然変異誘発剤処理(たとえばヒドロキシルアミン)、または自動化したペプチド合成によって得ることができる。
【0032】
当該PlexinA2のタグ付きポリペプチドとして特に有用な系としては、ヘマグルチニン(HA)系、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)系、マルトース結合タンパク質系、6×ヒスチジン系、8×ヒスチジン系などが挙げられる。
【0033】
前記標識またはそれ以外の検出可能な部分を組み込む修飾としては、標識は、たとえばビオチン標識、放射性標識、蛍光標識、化学的発光標識などがある。本発明のどのPlexinA2も、これら標識のうちの1つ、2つ、またはそれ以上を備えることができる。
γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂をモニターするため、抗PlexinA2抗体、PlexinA2が開裂しない結果として生成されるPlexinA2未分解物を認識する抗体、またはPlexinA2が開裂する結果として生成されるPlexinA2開裂産物を認識する抗体、好ましくはPlexinA2の細胞内領域を認識する抗体、さらに好ましくはPlexinA2のC末端領域を認識する抗体を用いることができる。PlexinA2のタグ付きポリペプチド開裂産物または未分解物を検出する場合は、選択されたタグを認識する抗体を用いることができる。たとえば、PlexinA2のC末端にHAタグを付けた場合、抗HAタグ抗体を用いてPlexinA2未分解物やPlexinA2の開裂を検出することができる。この場合、PlexinA2が開裂しない結果として生成されるPlexinA2のC末端の存在と濃度や、PlexinA2が開裂する結果として生成されるPlexinA2のC末端の存在と濃度を明らかにすることができる。
本発明の好ましい態様のPlexinA2は、マウスPlexinA2であり、たとえば配列番号10、12のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。さらに本発明の好ましい態様のPlexinA2は、マウスPlexinA2のHAタグ付きポリペプチドである。たとえば、マウスPlexinA2のC末端にHAタグをさらに備えたポリペプチド(配列番号14)である(実施例1)。もちろん、ヒトPlexinA2配列の全体または一部、たとえば配列番号2、4または6のアミノ酸配列を含むポリペプチドもマウスPlexinA2と同様に用いることができる。
【0034】
本発明ではさらに、前記PlexinA2をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを提供する。本発明のPlexinA2をコードするポリヌクレオチドは、表1に記載の配列番号の塩基配列で示され、その一例は、マウスPlexinA2をコードするポリヌクレオチド(たとえば配列番号9または11のポリヌクレオチド)である。さらに本発明の好ましい態様のPlexinA2をコードするポリヌクレオチドは、マウスPlexinA2のHAタグ付きポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。たとえば、マウスPlexinA2のC末端にHAタグをさらに備えたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号13)である(実施例1)。もちろん、ヒトPlexinA2配列の全体または一部、たとえば配列番号1、3または5の塩基配列を含むポリヌクレオチドもマウスPlexinA2と同様に用いることができる。
【0035】
本発明のPlexinA2をコードするポリヌクレオチドは、前記PlexinA2の変異体またはPlexinA2の誘導体をコードするポリヌクレオチドでもよい。例えば、表1に示す配列番号の塩基配列と、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列を含み、かつPlexinA2と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
また、本発明のPlexinA2をコードするポリヌクレオチドは、表1に示す配列番号の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPlexinA2と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。ここで、ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer(Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を3回、最後に、1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分の洗浄を2回行うことも考えられる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度を上げることにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、PlexinA2のアイソフォーム、アレリック変異体、及び対応する他種生物由来の遺伝子を得るための条件を設定することができる。
このようなポリヌクレオチドは、遺伝子増幅技術、ハイブリダイゼーション技術、遺伝子組み換え技術などによって得ることができる。
【0036】
本明細書において「生物学的組成物」とは、γ-セクレターゼもしくはその生物学的に活性な断片、またはPlexinA2を含む組成物であれば特に限られず、たとえば、無細胞の再構成系、哺乳動物またはその一部、あるいはAPPを過剰発現するように操作したトランスジェニック非ヒト哺乳動物またはその一部などである。
【0037】
本明細書において「γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性なその断片を含む第1の生物学的組成物」または「PlexinA2を含む第2の生物学的組成物」において、γ-セクレターゼまたはPlexinA2は、内因性のものであっても、外因性のものであってもよい。
内因性の場合は、前記動物またはその一部に由来するγ-セクレターゼまたはPlexinA2を含む組成物であれば特に限られない。
【0038】
前記動物の一部は、たとえば前記動物の組織、その細胞、その細胞溶解物、その細胞膜分画、またはその精製された膜などが挙げられる。当該細胞は、たとえば中枢神経系の細胞、脳由来の神経細胞、大脳皮質由来の神経細胞、大脳皮質由来の初代培養神経細胞、海馬由来の初代培養神経細胞などの神経細胞、またはグリア細胞などが挙げられる。また、γ-セクレターゼまたはPlexinA2は、哺乳動物またはその一部に含有されたままの状態であってもよいし、哺乳動物から調製された細胞溶解物のγ-セクレターゼ分画またはPlexinA2分画であってもよい。当該細胞溶解物は、たとえばγ-セクレターゼまたはPlexinA2を含有する細胞を低張液もしくは界面活性剤による溶解、または超音波破砕もしくは物理的な破砕により調製されたものであってもよく、場合によっては、カラムなどの精製手段を処置したものであってもよい。
【0039】
外因性の場合は、γ-セクレターゼを構成する各分子をコードするポリヌクレオチドまたはPlexinA2をコードするポリヌクレオチドを含む各発現ベクターの全てまたはその一部を用いて、宿主細胞に発現させた場合の、γ-セクレターゼ発現細胞またはPlexinA2発現細胞であってもよいし、またはγ-セクレターゼ発現細胞に由来する細胞溶解物のγ-セクレターゼ分画またはPlexinA2発現細胞に由来する細胞溶解物のPlexinA2分画や細胞膜分画であってもよい。当該細胞溶解物は、たとえばγ-セクレターゼまたはPlexinA2を含有する細胞を低張液もしくは界面活性剤による溶解、または超音波破砕もしくは物理的な破砕により調製されたものであってもよく、場合によっては、カラムなどの精製手段を処置したものであってもよい。当該発現ベクターは、宿主細胞に形質転換またはトランスフェクションされ、一過性に遺伝子を発現するもの、または宿主細胞のゲノムに組み込まれ、安定に遺伝子を発現するものであってもよい。
【0040】
本明細書において「形質転換」または「トランスフェクション」とは、真核細胞または微生物のDNA含量を変化させるあらゆる方法を意味する。たとえばリン酸カルシウムトランスフェクション、プロトプラスト融合トランスフェクション、エレクトロポレーショントランスフェクション、DEAE−デキストラン処理トランスフェクション、リポソームトランスフェクション、ポリブレントランスフェクション、直接マイクロインジェクショントランスフェクションなどが挙げられる(Sambrook,et al.,Molecular Cloning 3:16.30-16.31(1989))。
【0041】
前記発現ベクターを形質転換またはトランスフェクションされる宿主細胞は、遺伝子を発現することができる細胞または細胞株あるいは微生物であればよく、公知の培養細胞が挙げられる。たとえば哺乳動物の細胞または細胞株として、HEK293細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、線維芽細胞、一次内皮細胞(HUVEC細胞)、ヒト神経膠腫細胞、Hela細胞、COS細胞、PC12細胞、リンパ芽球、メラノーマ細胞、ハイブリドーマ細胞、卵母細胞、胚性幹細胞など、または公知の微生物として、たとえば大腸菌、酵母など、または昆虫細胞(たとえばBmn4細胞)などが挙げられる。
【0042】
前記形質転換またはトランスフェクションに使用される発現ベクターは、γ-セクレターゼを構成する各分子をコードするポリヌクレオチドまたはPlexinA2をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、当該ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるプラスミドを挙げることができる。
前記発現ベクターとしては、たとえば大腸菌に対しては、pUC、pTV、pGEX、pKK、またはpTrcHisを;酵母に対しては、pEMBLYまたはpYES2を;CHO細胞、HEK293細胞およびCOS細胞に対しては、pcDNA3、pMAMneoまたはpBabe Puroを;BmN4細胞に対しては、カイコ核多角体ウイルス(BmNPV)のポリヘドリンプロモーターを有するベクター(たとえばpBK283)を挙げることができる。
【0043】
たとえば、哺乳動物の細胞では、強い転写活性を与えるのにプロモーターが有効に機能するため、発現プラスミドはプロモーターを含むことが好ましい。例えば、プロモーターは、CMV前初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター(たとえばMLVやMMTVからのLTR)、SV40、RSV LTR、HIV-1 LTR、HIV-2 LTRのプロモーター、アデノウイルスのプロモーター(たとえばE1A領域、E2A領域、MLP領域からのもの)、AAV LTR、カリフラワー・モザイク・ウイルス、HSV-TK、トリ肉腫ウイルスのプロモーターなどがある。
【0044】
前記形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞も、γ-セクレターゼを構成する各分子をコードするポリヌクレオチドまたはPlexinA2をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、たとえば当該ポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、当該ポリヌクレオチドを含むプラスミドの形で含有する形質転換体であることもできるし、またはγ-セクレターゼまたはPlexinA2を発現していない形質転換体であることもできる。当該形質転換体は、たとえば前記プラスミドにより、あるいは、前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0045】
前記のγ-セクレターゼおよび/またはPlexinA2を含有する細胞は、γ-セクレターゼおよび/またはPlexinA2を細胞膜表面に発現し得る限り、特に限定されるものではないが、たとえば、内因性のγ-セクレターゼおよび内因性のPlexinA2を発現する細胞、一方が内因性で他方が外因性であるγ-セクレターゼおよびPlexinA2を発現する細胞、あるいは外因性のγ-セクレターゼおよび外因性のPlexinA2を共に発現する細胞である。このような細胞は、γ-セクレターゼおよび/またはPlexinA2の発現が可能な条件下で培養することにより得ることもできる。また、適当な細胞に、γ-セクレターゼを構成する各分子をコードするRNAおよび/またはPlexinA2をコードするRNAを注入し、γ-セクレターゼおよび/またはPlexinA2の発現が可能な条件下で培養することにより得ることもできる。
【0046】
前記細胞膜画分は、たとえば本発明のγ-セクレターゼまたはPlexinA2を発現する細胞を破砕した後、細胞膜が多く含まれる画分を分離することにより得ることができる。細胞の破砕方法としては、たとえばホモジナイザーで細胞を押し潰す方法、ワーリングブレンダーまたはポリトロンによる破砕、超音波による破砕、あるいは、フレンチプレスなどで加圧しながら細いノズルから細胞を噴出させることによる破砕などを挙げることができる。また、細胞膜の分画方法としては、たとえば遠心力による分画法、たとえば分画遠心分離法または密度勾配遠心分離法を挙げることができる。
【0047】
精製する場合、公知のタンパク質精製法を利用することができる。その方法には、1つの段階として、細胞を粗分画してポリペプチド分画と非ポリペプチド分画に分ける操作が含まれる。カラムなどにより本発明のγ-セクレターゼまたはPlexinA2が他のポリペプチドから分離された後、クロマトグラフィ法または電気泳動法を利用して所望のγ-セクレターゼまたはPlexinA2をさらに精製し、部分的精製または完全精製(または精製による均一化)する。純粋なペプチドの調製、精製に特に適した分析法は、たとえば硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈降、または熱変性を行なった後の遠心分離;クロマトグラフィ・ステップ(たとえばイオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイト・クロマトグラフィ、アフィニティ・クロマトグラフィ、高速タンパク質液体クロマトグラフィ(FPLC)、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)または固定化金属アフィニティ・クロマトグラフィ(IMAC))、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、SDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、これらの方法と他の方法の組み合わせなどの方法がある。あるいは、予めγ-セクレターゼまたはPlexinA2にタグを付けておき、当該タグを認識するタンパク質が結合している精製カラムに通すことで、所望のγ-セクレターゼまたはPlexinA2をカラム内に吸着させ、適当な流出溶媒を流すことで、カラムから脱着させて精製する。さまざまな精製ステップを実施する順番を変えても、あるいはいくつかのステップを省略してもよい。分画の純度を評価する好ましい1つの方法は、分画の比活性を計算し、それを最初の抽出液の比活性と比較し、純度の大きさを計算して評価するというものである。
【0048】
本明細書において「APP」とは、β−アミロイド前駆体タンパク質(βAPP)またはその突然変異体を意味する。APPは、多くの哺乳動物の多種多様な細胞で発現される一回膜貫通型タンパク質であり、そのC末端領域にAβ領域を含むペプチドを意味する。APPは、ヒトにおいては第21番染色体のロングアームに位置する同名の遺伝子によってコードされ、3個の主要なアイソタイプが存在する(APP695、APP751およびAPP770)。APP695、APP751およびAPP770はそれぞれ、695、751および770個のアミノ酸残基からなる。たとえば、ヒトAPP695(NM_201414、NP_958817、P05067-4)、ヒトAPP751(NM_201413、NP_958816、P05067-8)、ヒトAPP770(NM_000484、NP_000475、P05067-1、P05067)、マウスAPP695(NM_007471、NP_031497、P12023-2)、マウスAPP751(P12023-3)、マウスAPP770(AY267348、AAP23169、P12023-1、P12023)、ラットAPP695(P08592-2)、ラットAPP751(P08592-7)、ラットAPP770(NM_019288、NP_062161、P08592-1、P08592)が挙げられる。APP突然変異体は、スウェーデンFAD二重突然変異体、ロンドン突然変異体、バリン717→フェニルアラニン突然変異体、バリン717→イソロイシン突然変異体、バリン717→グリシン突然変異体が挙げられる。
【0049】
本明細書において「Aβ」とは、β−アミロイドタンパク質、アミロイドβタンパク質、β−アミロイドペプチド、アミロイドβペプチドまたはアミロイドベータという用語を意味する。たとえば、AβはヒトAPP695アミノ酸アイソタイプの約33個〜約44個のアミノ酸残基からなるペプチドであり、そして好ましくはAPPの597位〜640位のアミノ酸残基の一部または全部を含むあらゆるペプチドを含むものであって、APPのN末端タンパク質分解、続いてC末端のタンパク質分解によって産生される全てのペプチドを意味する。Aβ40、Aβ42は、それぞれ40アミノ酸残基、42アミノ酸残基を含むペプチドである。
【0050】
本明細書において「ノッチ」(Notch)とは、細胞表面受容体のノッチ・ファミリーに属するγ-セクレターゼの競合する基質である。たとえば、ヒトノッチ1(AF308602.1)、マウスノッチ1 (NM_008714.2)、ラットノッチ1(NM_001105721.1)が挙げられる。造血においてノッチ-1は重要な機能を担っているため、ノッチ-1のプロセシングを抑制すると、免疫不全と貧血になる可能性がある。
【0051】
本明細書において「候補化合物」とは、化合物のスクリーニング方法において、試験される物質を意味する。候補化合物は、あらゆる分子を使用することができるが、γ-セクレターゼの活性、好ましくは哺乳動物のγ-セクレターゼの活性を変化させることのできるあらゆる化合物が好ましい。候補化合物は、たとえば遺伝子ライブラリーの発現産物、天然または合成低分子化合物ライブラリー、核酸(オリゴDNA、オリゴRNA)、天然または合成ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質(細菌の代謝により放出される物質を含む)、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ペプチド、海洋生物、植物または動物など由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーに含まれる1つまたは複数の化合物である。前記化合物は新規な化合物であってもよく、公知の化合物であってもよい。
【0052】
さらに、前記化合物は、従来の化学的手段、物理的手段および/または生化学的手段により改変したものであってもよく、たとえばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの直接的化学修飾またはランダムな化学修飾に付して構造的類似体に改変したものであってもよい。前記化合物は、前記化合物のファーマコフォア検索、コンピューターを用いた構造比較プログラムなどにより同定される化合物であってもよい。当該候補化合物は塩を形成してもよく、さらに当該候補化合物およびその塩は溶媒和物(水和物含む)を形成していてもよい。
さらに、候補化合物は、APPのプロセシングおよび/またはノッチのプロセシングに関係する公知のγ-セクレターゼ促進剤またはγ-セクレターゼ阻害剤、あるいはその構造的類似体であってもよい。γ-セクレターゼの活性および/またはAPPのプロセシングおよび/またはノッチのプロセシングを促進または阻害する公知の化合物を、合理的な薬剤設計を通じて設計することのできる化合物であってもよい。たとえばDAPT (N-[N-(3,5-difluorophenacetyl)-L-alanyl]-S-phenylglycine t-butyl ester)、CM256、(2S)-2-{[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]amino}-N-[(3S)-1-methyl-2-oxo-5-phenyl-2,3-dihydro-1H-1,4-benzodiazepin-3-yl]propanamide(Alexis Biochemicals)などが挙げられる。
【0053】
本明細書において「γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物」とは、γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂活性を阻害する化合物(γ-セクレターゼ阻害剤)、あるいはγ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂活性を促進する化合物(γ-セクレターゼ促進剤)のいずれかを意味する。ここで、γ-セクレターゼ阻害剤には、アンタゴニストが含まれ、γ-セクレターゼ促進剤には、アゴニストが含まれる。γ-セクレターゼ阻害剤およびγ-セクレターゼ促進剤には、γ-セクレターゼのPlexinA2開裂産物の切断部位を変化させ、ペプチドの長さの異なるPlexinA2開裂産物を生成させる化合物も含まれる。
【0054】
本明細書において「塩」とは、薬学的に許容される塩を示し、前記化合物と薬学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、たとえば好ましくはハロゲン化水素酸塩(たとえばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(たとえば硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩など)、有機カルボン酸塩(たとえば酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩など)、有機スルホン酸塩(たとえばメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩など)、アミノ酸塩(たとえばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(たとえばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(たとえばマグネシウム塩、カルシウム塩など)などが挙げられる。
【0055】
本発明の第一の態様により、(a)PlexinA2の開裂を調べるアッセイ法と、(b)そのようなアッセイ法を利用してγ-セクレターゼに影響を与える化合物であるか否かを二次評価する方法(スクリーニング方法)が提供される。本発明の方法としては、以下の方法が提供される。本発明の方法では、γ-セクレターゼの新規基質PlexinA2を利用することが特徴である。本発明の方法は、in vitroの適切な細胞系の中またはセルフリー系(細胞を含まない系)で行なうことができる。
本発明の第一の態様は、γ-セクレターゼとPlexinA2を候補化合物の存在または非存在下でインキュベーションし、γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂を評価することができる。
【0056】
第一の態様である、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物をスクリーニングする方法は以下の工程(ステップ)を含む。
(i)候補化合物の存在下および非存在下で、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性な断片を含む第1の生物学的組成物と、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物とを接触させ;
(ii)当該候補化合物の存在下と非存在下における当該PlexinA2の開裂をそれぞれ測定し;
(iii)γ-セクレターゼによる当該PlexinA2の開裂に影響を与える当該候補化合物を選択し;そして
(iv)前記(iii)で選択された候補化合物を、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物であると同定する。
【0057】
本態様の方法は、γ-セクレターゼとPlexinA2を含む適切な細胞系、またはγ-セクレターゼとPlexinA2を含むセルフリー系(細胞を含まない系)で実施することができる。
γ-セクレターゼとPlexinA2を含む細胞系では、内在性遺伝子発現細胞系であってもよいが、外来性遺伝子を含む細胞系のいずれであってもよい。候補化合物の存在下と非存在下で、γ-セクレターゼとPlexinA2を含む細胞を適切な培地で培養し、γ-セクレターゼ活性によるPlexinA2の開裂可能となる反応条件でインキュベーションすることで、γ-セクレターゼを含む第1の生物学的組成物と、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物とを接触させることができる。外来性遺伝子を含む細胞系の場合は、その遺伝子が発現できる培養条件で上記接触を実施することができる。他のγ-セクレターゼの基質が開裂する条件、たとえば当該基質がAPPである場合の当業者に公知の反応条件を適用することもできる。
【0058】
反応条件の例を以下に挙げる。内在性遺伝子発現細胞系では、初代培養神経細胞の場合、たとえば、MEM(Invitrogen)培地に, 5%FBS(Hyclone), 1X B27 Supplement (Invitrogen ), 0.5mM L-Glutamine (Invitrogen), 25μg/ml Insulin (SIGMA), および8μM AraC(SIGMA)を加えた5%CO2、37℃の培養条件である。外来性遺伝子を含む系では、HEK293細胞株の場合、たとえば、10% FBS(Hyclone) / DMEM(Invitrogen) で5% CO2、37℃の培養条件である。
細胞を含まない系では、候補化合物の存在下と非存在下で、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性な断片を含む第1の生物学的組成物(たとえば、γ-セクレターゼを含む細胞膜分画)を、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物(たとえば、PlexinA2を含む細胞膜分画)と混合することによってインキュベーションすることで、両者を接触させることができる。これらはγ-セクレターゼ活性によるPlexinA2の開裂可能となる反応条件、たとえば10 mM HEPES, pH7.4, 150 mM NaCl, 10% glycerol, 5 mM EDTA, 5 mM 1,10-phenanthroline, 10 μg/ml phosphoramidon, Complete protease inhibitor cocktail (Roche Biochemicals) (Tomita et al., Molecular Neurodegeneration 2006 1:2)で混合するか、または他のγ-セクレターゼの基質が開裂する条件、たとえば当該基質がAPPである場合の当業者に公知の反応条件を適用し混合することができる。γ-セクレターゼまたはPlexinA2は、精製されたγ-セクレターゼまたはPlexinA2、その生物学的に活性な断片、そのアナログ、その変異体のいずれであってもよい。
γ-セクレターゼを含む第1の生物学的組成物と、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物とを上記のように接触させることで、γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂反応が生じる。
【0059】
候補化合物は、一般的には、約1nM〜1mM、通常約10μM〜1mMの範囲の濃度で添加することができる。γ-セクレターゼのPlexinA2開裂活性を変化させる化合物を同定するため、候補化合物の存在下と非存在下で上記の各ステップを実施し、候補化合物の存在下でのγ-セクレターゼのPlexinA2開裂活性を、候補化合物の非存在下での活性と比較することによってその候補化合物の能力を評価することで、γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂を変化させる化合物を同定する。候補化合物の存在下でPlexinA2の量または程度がいくらかでも変化するということは、候補化合物の存在下でγ-セクレターゼのPlexinA2開裂活性が変化したことの指標であり、当該候補化合物を、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物として同定することができる。たとえば、コントロールと比べてPlexinA2開裂産物を増加させる化合物またはPlexinA2未分解物を減少させる化合物は、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の促進剤であると評価される。一方、コントロールと比べてPlexinA2開裂産物を減少させる化合物またはPlexinA2未分解物を増加させる化合物は、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の阻害剤であると評価される。本発明の方法により得られるPlexinA2分解活性の促進剤は、ADの治療に有用である可能性がある。
【0060】
PlexinA2がタグ付の場合は、そのタグに対する結合物、たとえば抗体を用いてPlexinA2の未分解物やPlexinA2の開裂産物を検出することができる。たとえば、PlexinA2のC末端にヘマグルチニンタグが付与されたペプチドの場合は、公知の抗HA抗体で検出することができる。
PlexinA2の開裂の解析は、PlexinA2のN末端断片とC末端断片の一方または両方について、開裂を示す指標を測定することで行われる。
γ-セクレターゼによるPlexinA2の開裂の解析は、抗PlexinA2抗体、PlexinA2が開裂しない結果として生成される、γ-セクレターゼにより分解される前のPlexinA2誘導体(PlexinA2未分解物)を認識する抗体、またはPlexinA2が開裂する結果として生成されるPlexinA2開裂産物を認識する抗体、またはPlexinA2の細胞内領域を認識する抗体を用いることができる。
【0061】
ここで、PlexinA2のタグ付き未分解物および/またはPlexinA2のタグ付き開裂産物を検出する場合は、選択されたタグに対する抗体を用いることができる。
たとえば、PlexinA2ポリペプチドの未分解物を検出する場合、PlexinA2ポリペプチドのC末端にHAタグを付け、抗HAタグ抗体を用いて検出することができる。この場合において、HAタグを検出または定量することでPlexinA2未分解物として生成されるPlexinA2のC末端の存在と濃度をそれぞれ明らかにすることができる。なお、PlexinA2またはタグ付のPlexinA2が標識された場合には、その標識を検出あるいは定量することで検出することができる。
一方、PlexinA2ポリペプチドの開裂産物を検出する場合には、PlexinA2を発現している細胞から膜画分を精製し、精製された膜画分を用いてγセクレターゼによる開裂反応をさせて、PlexinA2開裂産物を膜画分から遊離させる。この反応産物を遠心分離すると、PlexinA2未分解物は膜画分へと沈殿するので、膜画分とそれ以外の分画で区別することができ、遊離した断片を検出することでPlexinA2開裂産物を検出することができる。この検出には、内在性PlexinA2の場合、PlexinA2の細胞内領域を認識する抗体を用い、また、外来性のリコンビナントPlexinA2を用いる場合は、C末端にタグ配列を付加させたcDNAを用いてリコンビナントPlexinA2を発現させ、そのタグを認識する抗体を用いてPlexinA2開裂産物を検出する。タグは、特に限定されない。たとえば、HA, Myc, FLAGなどを利用することができる。
【0062】
PlexinA2の抗体は、PlexinA2を認識する抗体であれば特に限定されないが、好ましくはPlexinA2の細胞内領域を認識する抗体である。
また、PlexinA2を認識する抗体は、当業者であれば免疫原(抗原)を免疫し、モノクローナル抗体の既存の一般的な製造方法に従って製造することができる。免疫原は、PlexinA2もしくはその断片、またはそれらにタグもしくは標識物を付加した融合タンパク質等を用いることができる。
たとえば、当該抗原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、非ヒト哺乳動物に免疫する。ポリクローナル抗体は、当該免疫感作動物から得た血清から取得することができる。またモノクローナル抗体は、当該免疫感作動物から得た当該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)から融合細胞(ハイブリドーマ)を調製し、当該ハイブリドーマをクローン化し、当該哺乳動物の免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをin vitro、または非ヒト哺乳動物、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹水中などでのin vivoで行い、得られた培養上清、または当該哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52など)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。当該モノクローナル抗体には、当該抗体を構成する重鎖および/または軽鎖の各々のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有する重鎖および/または軽鎖からなるモノクローナル抗体も包含される。
【0063】
また、本発明の別の態様において、上述された本発明の第一の態様と並行に、同時に、または前後して、候補化合物が、APPおよび/またはノッチのプロセシングに影響を与えるか否かを評価することができる。たとえば、上述された本発明の方法と並行に、同時に、または前後して、APPまたはAPPのγ-セクレターゼによる開裂部位を含むポリペプチド(APPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド)の開裂を測定する工程を含むことができる。また、さらに、ノッチまたはノッチのγ-セクレターゼによる開裂部位を含むポリペプチド(ノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド)の開裂を測定する工程を含むことができる。
これにより、たとえば、候補化合物が、APPおよび/またはノッチのプロセシングに比較してPlexinA2のプロセシングに選択的に作用するか否かを評価することができる。前記の選択的に作用するとは、γ-セクレターゼによる基質PlexinA2の開裂が他の基質の開裂に比べてより抑制効果を有するか、あるいは促進効果を有することを意味する。本態様により、具体的には、PlexinA2のプロセシングにのみ選択的に作用する化合物、APPのプロセシングにのみ選択的に作用する化合物、もしくはノッチのプロセシングにのみ選択的に作用する化合物、またはAPPおよびPlexinA2のプロセシングに選択的に作用する化合物などを同定することができる。
【0064】
創薬の候補化合物としては、健常な動物の生体内での代謝活性と同様に作用する化合物あるいは当該代謝を調節する化合物が好ましい。たとえば、γ-セクレターゼによるAPP開裂活性の抑制によってAβ42の産生を抑制し、γ-セクレターゼによるPlexinA2開裂活性を抑制せず、かつγ-セクレターゼによるノッチ開裂活性は抑制しない化合物が好ましい。また、たとえば、γ-セクレターゼによるAPP開裂活性の促進によってAβ40の産生を促進してAβ42の産生を抑制し、γ-セクレターゼによるPlexinA2開裂活性の促進によってPlexinA2のプロセシングを促進し、かつγ-セクレターゼによるノッチ開裂活性は抑制しない化合物が好ましい。
【0065】
このγ-セクレターゼによるAPP、ノッチ、またはAPPもしくはノッチのγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂を測定する方法は、当業者に公知のアッセイ法を適用することができる(Song et al. PNAS 1999 96 6959-6963, Moehlmann et al. PNAS 2002 99 8025-8030)。たとえば、候補化合物の存在下および非存在下で、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性な断片を含む第1の生物学的組成物を、APPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドを含む生物学的組成物、あるいはノッチまたはノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドを含む生物学的組成物に接触させ、当該APPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド、あるいはノッチまたはノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂を測定することができる。当該測定は、APPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド、あるいはノッチまたはノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂産物を測定するとよい。たとえばAPPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂産物としては、Aβが挙げられ、その量を測定し、候補化合物の存在下および非存在下での量的変動を比較するとよい。また、APPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチド、あるいはノッチまたはノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂産物を認識する公知の抗体を用いて開裂の程度、開裂産物の量を測定することができる。APPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂産物を認識する抗体としては、市販品(SIGMA、Chemicon)を用いることができる。測定方法は、たとえばWestern Blotにより行うことができる。ノッチまたはノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂産物を認識する抗体としては、市販品(Santacruze)を用いることができる。測定方法は、たとえばWestern Blotにより行うことができる。
【0066】
本発明の方法には、本発明の方法によって同定される化合物を用いて、ポストシナプスの形態、あるいは神経伝達の機能を評価する方法も含まれる。たとえば、前記ポストシナプスの形態の評価は、樹状突起の上に小さなとげ状の隆起であるスパイン(Spine)の数、スパインの形状を評価する方法である(Pak D et al. Neuron 2001 31. 289-303)。また、神経伝達機能の評価は、たとえば、培養細胞や培養スライスを用いて、シナプス膜上でおこる電気的な変化を、評価する方法である (Saura et al., Neuron 2004 42 23-36)。
【0067】
本発明の方法には、多数の化合物を同時に試験する当業者に公知のハイスループット・スクリーニング(HTS)法も含まれる(US5876946、US5902732、JayawickremeとKost,Curr. Opin. Biotechnol., 8, pp.629-634, 1997, HoustonとBanks, Curr. Opin. Biotechnol., 8, pp.734-740, 1997)。
本発明の方法には、公知のモデル動物の利用も含まれる。本発明のin vitroの方法によって選択された化合物を、たとえばAPPのプロセシングおよび/またはADの非ヒトモデルを利用して、その化合物の生体内における効果を解析することができる。たとえばAPPトランスジェニック非ヒト動物モデルは当該分野で周知であり、たとえばTg2576マウス(J. Neurosci. 21(2), 372-381, 2001、J. Clin. Invest., 112, 440-449, 2003)である。たとえば、Tg2576マウスに公知のγ-セクレターゼ阻害剤であるDAPT、(2S)-2-{[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]amino}-N-[(3S)-1-methyl-2-oxo-5-phenyl-2,3-dihydro-1H-1,4-benzodiazepin-3-yl]propanamide(Alexis Biochemicals)、もしくは本発明の化合物を投与したときの脳内、脳脊髄液中、血清中の各Aβ量を測定する方法(J. Pharmacol. Exp. Ther. 305, 864-871, 2003)による評価、γ-セクレターゼの活性が変化したことの脳の変化(たとえばAβの産生量変化、脳の萎縮程度)の病理学的検査、生存率、運動量、または摂食量を評価する方法などがある。
【0068】
本発明の方法によって同定される化合物を含む医薬組成物、好ましくは本発明のAD治療剤は、患者に、種々の形態、経口または非経口(たとえば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与等)のいずれかの投与経路で投与することができる。従って、本発明の化合物を含有する医薬組成物は、単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容され得る担体を用いて適当な剤形に製剤化することが可能である。
好ましい剤形としては、たとえば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤などによる経口剤、吸入剤、坐剤、注射剤(点滴剤を含む)、軟膏剤、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤、リポソーム剤などによる非経口剤が挙げられる。
【0069】
これらの製剤の製剤化に用いる担体には、たとえば通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化することが可能である。使用可能な無毒性のこれらの成分としては、たとえば大豆油、牛脂、合成グリセライドなどの動植物油;たとえば流動パラフィン、スクワラン、固形パラフィンなどの炭化水素;たとえばミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル油;たとえばセトステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;たとえばポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどの界面活性剤;たとえばヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどの水溶性高分子;たとえばエタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;たとえばグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール(ポリオール);たとえばグルコース、ショ糖などの糖;たとえば無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウムなどの無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどの無機塩;精製水などが挙げられる。
【0070】
賦形剤としては、たとえば乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが、結合剤としては、たとえばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミンなどが、崩壊剤としては、たとえば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウムなどが、滑沢剤としては、たとえばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末などが、それぞれ用いられる。上記の成分は、それらの塩またはその溶媒和物であってもよい。
【0071】
たとえば経口製剤は、本発明の化合物に賦形剤、さらに必要に応じてたとえば結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法によりたとえば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤などとする。錠剤・顆粒剤の場合には、たとえば糖衣、その他必要により適宜コーティングすることはもちろん差支えない。シロップ剤や注射用製剤などの場合は、たとえばpH調整剤、溶解剤、等張化剤などとともに、また必要に応じて溶解補助剤、安定化剤などを加えて、常法により製剤化する。また、外用剤の場合は、特に製法が限定されず、常法により製造することができる。使用する基剤原料としては、医薬品、医薬部外品、化粧品などに通常使用される各種原料を用いることが可能であり、たとえば動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、精製水などの原料が挙げられ、必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐防黴剤、着色料、香料などを添加することができる。さらに、必要に応じて血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤などの成分を配合することもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。本発明に使用する化合物類、本発明に使用するペプチド類または本発明に使用するポリヌクレオチド類を前記治療に使用する場合は、少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上に精製されたものを使用するのが好ましい。
【0072】
本発明の化合物を含有する本発明の医薬組成物の有効な投与量は、たとえば症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、塩の種類、疾患の具体的な種類などに応じて異なるが、通常、成人の場合は体重60kg、1日あたり経口投与では約30μg〜10g、好ましくは100μg〜5g、さらに好ましくは100μg〜100mgをそれぞれ1回または数回に分けて投与し、注射投与では約30μg〜1g、好ましくは100μg〜500mg、さらに好ましくは100μg〜30mgをそれぞれ1回または数回に分けて投与する。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。たとえば経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を必要とすると予想される。小児に投与される場合は、用量は成人に投与される量よりも少ない可能性がある。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することができる。
【0073】
本明細書において「治療」とは、一般的に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾病および/または症状を完全にまたは部分的に防止する点では予防的であり、疾病および/または疾病に起因する悪影響の部分的または完全な治癒という点では治療的である。本明細書において「治療」とは、患者、特にヒトの疾病の任意の治療を含み、たとえば以下の(a)〜(c)の少なくとも一つの治療を含む:
(a)疾病または症状の素因を持ちうるが、まだ持っていると診断されていない患者において、疾病または症状が起こることを予防すること;
(b)疾病症状を阻害する、すなわち、その進行を阻止または遅延すること;
(c)疾病症状を緩和すること、すなわち、疾病または症状の後退、消失、または症状の進行の逆転を引き起こすこと。
【0074】
たとえば、アルツハイマー病(AD)の臨床学的症状としては、進行性見当識障害、記憶喪失、および失語症が挙げられ、最終的には、無能力、言語喪失および無動が起こる。ADの病理学的徴候としては、たとえば、神経原繊維変化、老人斑およびアミロイド血管障害の存在が挙げられる。ADの進行を予防するとは、ADの臨床学的症状および/または病理学的徴候の開始もしくはそれ以上の進行を予防することを意味すると解釈される。たとえば、ADの臨床学的症状または病理学的徴候を有していない患者は、臨床学的症状または病理学的徴候の進行を予防することができる。さらに、軽症のADを患う患者は、それより重症のAD形態を発生するのを予防することができる。ADの進行を遅延させるとは、AD関連症状および/または病理学的徴候の開始時点を遅らせること、あるいは、臨床学的症状および病理学的徴候の進行速度により決定されるADの進行速度を遅くすることを意味すると解釈される。ADの進行を逆転させるとは、AD症状の重症度を軽減する、すなわち、患者のAD症状を重症から、より軽症へと変化させることを意味すると解釈される。その際、軽症への変化は、臨床学的症状または病理学的徴候の減少により示される。
【0075】
患者のAD診断は、公知の種々の方法を用いて実施することができる。典型的には、臨床および病理学的評価を組み合わせて、ADを診断する。たとえば、ADの進行または重症度は、ミニ精神状態検査(Mini Mental State Examination)(MMSE)(Mohsら(1996)Int Psychogeriatr 8:195-203)、アルツハイマー病評価スケール−認識要素(ADAS-cog)(Galaskoら(1997)Alzheimer Dis Assoc Disord, 11 suppl 2:S33-9)、アルツハイマー病共同研究−日常生活動作スケール(ADCS-ADL)(McKhannら(1984)Neurology 34:939-944)、国立神経伝達障害研究所(National Institute of Neurologic Communicative Disorders)および発作−アルツハイマー病および関連障害協会(Stroke-Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)(NINCDS-ADRDA)基準(Folsteinら(1975)J Psychiatr Res 12:189-198、McKhannら(1984)Neurology 34:939-944、)を用いて、判定することができる。さらに、脳の様々な領域について評価し、老人斑や神経原繊維変化の頻度の推定を可能にする方法を用いることができる(Braakら(1991)Acta Neuropathol 82:239-259;Khachaturian(1985)Arch Neuro 42:1097-1105;Mirraら(1991)Neurology 41:479-486;ならびに、Mirraら(1993)Arch Pathol Lab Med 117:132-144)。
【0076】
本発明の別の態様は、PlexinA2を含み、好ましくはPlexinA2以外のγ-セクレターゼの基質(好ましくはAPPおよび/またはノッチ)をさらに含む、γ-セクレターゼのアッセイ用キット、またはγ-セクレターゼの阻害剤、活性剤もしくはモジュレーターを同定するためのキットを提供する。本態様のキットは、本発明のスクリーニング方法に用いることができる。
【0077】
本発明は、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングを測定するための検査キットを提供する。本発明のキットは、γ-セクレターゼまたはそれを含む生物学的組成物と、PlexinA2を含む生物学的組成物とを含むものである。さらに、当該キットには、PlexinA2以外のγ-セクレターゼの基質(たとえば、APPおよび/またはノッチ)、またはそれを含む生物学的組成物などを含んでいてもよい。当該キットには、複数のγ-セクレターゼの基質を含むことが好ましく、PlexinA2に加え、APPおよび/またはノッチが含まれることが好ましい。さらに、当該キットには、イムノブロッティング、ウエスタンブロッティング技術に用いられる器具(たとえば、反応容器、ブロッティングメンブレンなど)、試薬(たとえば、緩衝液、培養液、抗PlexinA2抗体など)、説明書などを含むものである。本発明のアッセイ用キットにより、候補化合物がγ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに作用するか否かを評価することができる。
【0078】
また、本発明は、PlexinA2のプロセシングの測定、γ-セクレターゼ阻害剤をスクリーニングする方法またはテストする方法のための当該キットの使用も含む。
【0079】
実施例
以下、さらに実施例、製造例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではなく、当業者への完全な開示を提供するために示すものである。また、記載されたこれら実験が全てまたは唯一行われた実験であることを意味または暗示するものでもない。ここで使用された数値(たとえば、量、温度、濃度など)に関して正確さを保証するための努力がなされたが、ある程度の実験誤差および偏差が考慮され、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい
【実施例1】
【0080】
PlexinA2遺伝子をトランスフェクションした293/EBNA-1細胞株、ならびに海馬培養神経細胞を用いたプロセシング解析
γ-セクレターゼ阻害剤存在下のもと、PlexinA2のC末端にHAタグを付加させた遺伝子発現HEK293細胞を用い、PlexinA2がγ-セクレターゼの基質であるかを評価した。γ-セクレターゼ阻害剤は、 (2S)-2-{[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]amino}-N-[(3S)-1-methyl-2-oxo-5-phenyl-2,3-dihydro-1H-1,4-benzodiazepin-3-yl]propanamide (以下、「Compound E」とも称する。) (Alexis Biochemicals) を用いた。
【0081】
1.実験条件および実験方法
(1)マウスPlexinA2遺伝子のクローニング
マウスの脳からRNAをTrisol(Invitrogen)を用いて精製し、1st strand cDNAをRNA PCR Kit(TaKaRa)を用いて合成した。PlexinA2は、まず、最初に5’非翻訳領域-3426bpと3132-3’非翻訳領域 の2つの断片に分けて増幅し、さらに、それぞれの増幅断片に対して、1-3180bpと3121-5682bpの断片を増幅した。具体的には、最終合成1st strand cDNA産物1μlと、以下のプライマーを用いてPyrobest (Takara)で増幅した。5’非翻訳領域 - 3426bp断片には Primer1,2を使用し、3132 - 3’非翻訳領域断片には Primer3,4を使用した。さらに、1-3180bpの増幅には、Primer5,6を使用し、3121-5682bpの増幅には、Primer7,8を使用した。
primer1: GAGCTCGAGGTGGACAAATACATAGAGGAGCTGTC(配列番号59)
primer2: GTTGGGGTAGTAGATGAACTTGGTGT(配列番号60)
primer3: ACGTATTGAGCCAGAGTGGAGTATC(配列番号61)
primer4: GAGGCGGCCGCGGTTCTACTCAGCATCTCTCAGGTAT(配列番号62)
primer5: GAGCTCGAGGCCACCATGGAGCAGAGGAGGTTCTATCTG(配列番号63)
primer6: GGTTAGGGGTGTGTGCCCACTAG(配列番号64)
primer7: CCACGGGTCCAACGTATTGAGCC(配列番号65)
primer8: GAGGCGGCCGCGCTCTCTATGGACATGGCGTTGAT(配列番号66)
【0082】
PCRサイクルは、94℃ 30secの処理後、[94℃ 15sec⇒65℃ 30sec⇒72℃ 5min30sec]のサイクルを35サイクル行い、その後72℃ 15minの処理を行った。PCR産物をQuiaquick PCR purification kit (QIAGEN)で精製し、それぞれの精製増幅断片から、さらに1-3180bp断片と3120-5682bpを増幅した。 1-3180bp断片をXhoI(TaKaRa)とSpeI(TaKaRa)で酵素処理し、3120-5682bp断片をSpeI(TaKaRa)およびNotI(TaKaRa)で酵素処理した。その後、酵素処理断片をそれぞれpBluescript(Stratagene)にクローニングし、pBluescript1-3180bp 断片(1-3180bp)、およびpBluescript3120-5682bp 断片(3120-5682bp)を得た。
得られたpBluescript1-3180bp断片およびpBluescript3120-5682bp 断片のDNA配列をDNAシークエンサー(Applied Biosystems社 3130xl)を用いて確認した。確認後、pBluescript3120-5682bp断片をXhoIおよびSpeIで処理し、当該処理後の断片にpBluescript1-3180bp p断片からXhoIおよびSpeIを用いて切り出した断片を挿入し、全長PlexinA2を完成させた。
【0083】
(2)マウスPlexinA2遺伝子のC末端にHAタグを付加させた遺伝子および発現ベクターの構築
pCAGをSalI(TaKaRa)およびNotI(TaKaRa)で酵素処理し、前記(1)で得られたpBluescriptをXhoI(TaKaRa)およびNotI(TaKaRa)で酵素処理して得られたPlexinA2をpCAGに挿入し、発現ベクターを作製した。pCAGは、Gene108,193-200,1991、特許2824433号公報、特許2824434号公報等を参考に作製することが可能である。当該発現ベクターは、組み込まれたPlexinA2のC末端にHAタグが付加されるように構築した(PlexinA2-HA)。PlexinA2-HAのDNA配列は、DNAシークエンサー(Applied Biosystems社 3130xl)によって解読した。そのDNA配列を配列番号13に示す。配列番号13において、5692〜5721番のヌクレオチド配列は、HAタグをコードするヌクレオチド配列である。得られたDNA配列は、マウスPlexinA2(NM_008882)と同一であった。当該発現ベクターは、Endofree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN)を用いて大量調製した。
【0084】
(3)マウスPlexinA2遺伝子のC末端にHAタグを付加させた遺伝子発現細胞の作製
293/EBNA-1細胞株(Invitrogen)を10% FBS(Hyclone) / DMEM(Invitrogen) で5%CO2、37℃の条件下で培養し、マウスPlexinA2のC末端にHAタグを付加させた遺伝子をLipofectamine2000 (Invitrogen)でトランスフェクション(Transfection)した。同条件で1日培養した後、50nM Compound E (γ-セクレターゼ阻害剤、Alexis Biochemicals)を培養液に添加した。さらに同条件で1日培養した後、前記トランスフェクションされたHEK293細胞をPBS(SIGMA)で回収し、Sonicator(TAITEC VP-5S)を用いて、Sonicationし細胞を破砕した。Protein assay kit(BioRad)を用いてタンパク質量を定量した。Compound Eを添加した細胞とCompound Eを添加しなかった細胞から得られたタンパク質をそれぞれ2ugずつSDS-PAGEし、抗HA抗体(Roche)(最終濃度0.2μg/ml)を用いてウェスタンブロットした。
初代培養神経細胞は、胎生18日齢のSD系ラット(チャールズリバー社)より単離した海馬を用いた。具体的には、エーテル麻酔下、妊娠ラットより無菌的に胎仔を摘出した。その胎仔より脳を摘出し、それらを20% FBS(Hyclone) /HBSS(SIGMA)に浸した。その摘出した脳から、実体顕微鏡下で海馬を採取した。採取した海馬を、0.25 %トリプシン(trypsin)(Invitrogen)および0.5mg/ml DNase (SIGMA)を含有した酵素溶液中、37 ℃、10分間の酵素処理することにより、細胞を分散させた。この際、酵素反応は20% FBS(Hyclone) /HBSS(SIGMA)を加えることで停止させた。得られた細胞は、HBSS(SIGMA)を2 ml加えた。HBSS(SIGMA)が加えられた細胞塊を、緩やかなピペッティング操作により細胞を再分散させた。そして、2×106の神経細胞を用いて、Nuculeofector(Amaxa)でPlexinA2を遺伝子導入した。培地はNeurobasal(Invitrogen)培地に, 1X B27 Supplement (Invitrogen), 0.5mM L-Glutamine (Invitrogen)を添加したものを用いた。播種した細胞は5%CO2、95%空気、37℃インキュベーター中にて培養した。培養2週間後、Compound E(final 50nM)を添加し、さらに1週間培養し、PBSで回収した後、タンパク質定量し、それぞれ10ugずつSDS-PAGEし、抗HA抗体(Roche)(最終濃度0.2μg/ml)を用いてウェスタンブロットした。

【0085】
2.実験結果
図1にその結果を示す。左図は、HEK293細胞を用いた実験の結果である。左レーンは、Compound E未処理サンプル、右レーンはCompound E処理サンプルである。矢印は、CTF(C terminal fragment)を示しており、PlexinA2の膜貫通領域からC末端領域に相当する。Compound Eを添加すると、65kDa付近のバンド(CTF)が特異的に蓄積された。このバンドはPlexinA2の膜貫通領域からC末端領域までの大きさに等しいことから、PlexinA2は、HEK293細胞内でγ-セクレターゼによって切断されているということが明らかとなった。
右図は、海馬培養神経細胞を用いた実験の結果である。左レーンは、Compound E未処理サンプル、右レーンはCompound E処理サンプルである。矢印は、CTF(C terminal fragment)を示しており、PlexinA2の膜貫通領域からC末端領域に相当する。Compound Eを添加すると、65kDa付近のバンド(CTF)が特異的に蓄積された。このバンドはPlexinA2の膜貫通領域からC末端領域までの大きさに等しいことから、PlexinA2は、海馬培養細胞内でγ-セクレターゼによって切断されているということが明らかとなった。
γ-セクレターゼの基質は、最初に細胞外領域が別のプロテアーゼによって切断され、その消化断片であるCTF(膜貫通領域からC末端まで)の膜貫通領域をγ-セクレターゼが、さらに切断する。最終分解産物(細胞内領域)は、速やかにプロテアソームで分解される。最初の切断反応から、最後のプロテアソームの分解反応までが非常に速いので、基質をウェスタンブロットで検出すると一本のバンドとして検出される。しかし、γ-セクレターゼ阻害剤で処理すると、特異的にCTFの蓄積が検出されることが見出された。
【0086】
本明細書中で使用される専門用語は、単に特定の態様を説明することを目的として用いられ、限定することを意図したものではない。
他に特に定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する通常の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用されうるが、好ましい方法および材料について以上の記載を参照できる。
本明細書中で言及された全ての出版物は、たとえば、ここで記載された発明と関連して用いられた出版物中に記載される、細胞系、構築物および方法を記載および開示する目的で、その全体が本明細書中に参照として組み入れられ、あるいは、本発明の化合物同定方法、スクリーニング方法およびそれらの技術のための方法および組成物の開示に関して、参照として本明細書に組み入れられ、本発明の実施のために用いることができる。

【配列表フリーテキスト】
【0087】
配列番号59:合成DNA
配列番号60:合成DNA
配列番号61:合成DNA
配列番号62:合成DNA
配列番号63:合成DNA
配列番号64:合成DNA
配列番号65:合成DNA
配列番号66:合成DNA


【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
(i) 候補化合物の存在下および非存在下で、γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性なその断片を含む第1の生物学的組成物と、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物とを接触させ;
(ii) 当該候補化合物の存在下と非存在下における当該PlexinA2の開裂をそれぞれ測定し;
(iii) γ-セクレターゼによる当該PlexinA2の開裂に影響を与える当該候補化合物を選択し;そして
(iv) 前記(iii)で選択された候補化合物を、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングに影響を与える化合物であると同定する、
ことを含む、上記方法。
【請求項2】
さらに、前記(ii)で測定されたPlexinA2の開裂において、候補化合物の存在下におけるPlexinA2未分解物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2未分解物よりも増加していたときは、当該候補化合物を、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の阻害剤であると評価することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記(ii)で測定されたPlexinA2の開裂において、候補化合物の存在下におけるPlexinA2未分解物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2未分解物よりも減少していたときは、当該候補化合物を、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の促進剤であると評価することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記(ii)で測定されたPlexinA2の開裂において、候補化合物の存在下におけるPlexinA2開裂産物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2開裂産物よりも増加していたときは、当該候補化合物を、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の促進剤であると評価することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記(ii)で測定されたPlexinA2の開裂において、候補化合物の存在下におけるPlexinA2開裂産物が、候補化合物の非存在下におけるPlexinA2開裂産物よりも減少していたときは、当該候補化合物を、γ-セクレターゼのPlexinA2分解活性の阻害剤であると評価することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
さらに、APPまたはAPPγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂を測定することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
さらに、ノッチまたはノッチγ-セクレターゼ開裂部位を含むポリペプチドの開裂を測定することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
PlexinA2、および/またはPlexinA2以外のγ-セクレターゼの基質を含む、γ-セクレターゼアッセイ用キット。
【請求項9】
γ-セクレターゼまたはその生物学的に活性な断片を含む第1の生物学的組成物と、PlexinA2を含む第2の生物学的組成物とを含む、γ-セクレターゼによるPlexinA2のプロセシングを測定するための検査キット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−39881(P2012−39881A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180883(P2010−180883)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】