説明

γ、δ−不飽和ケトン類の製造

式(R)(R)C=CH−CH−CH−CO−R(I)(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、Rは飽和又は不飽和の直鎖又は環状炭化水素残基であり、Rはメチル基又はエチル基である)で示されるγ、δ−不飽和ケトン類の製造方法であって、式(R)(R)C(OH)−CH=CH(II)で示される第3級ビニルカルビノールを、式HC−C(OR)=CH(III)で示されるイソプロペニルメチルエーテル又はイソプロペニルエチルエーテルと、触媒としてのアンモニウム塩の存在下に反応させることによる方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は一般式(R)(R)C=CH−CH−CH−CO−R(I)(式中、R1はメチル基又はエチル基であり、R2は飽和又は不飽和の直鎖又は環状炭化水素残基であり、R3はメチル基又はエチル基である)で示されるγ、δ−不飽和ケトン類の製造方法に関する。
【0002】
Saucyら(Helv. Chim. Acta 50,2091−2095(1967))は、第三級ビニルカルビノールを、触媒量のリン酸存在下にイソプロペニルエーテルと温度120〜200℃で12〜16時間加圧下に反応させることにより、γ、δ−不飽和ケトン類を高収率(カルビノールに対して73〜94%)で生成することを記載している。加圧なしの操作では収率は非常に低くなり、例えば、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン(MH)ではその収率は93%ではなく僅か41%である。
【0003】
今回驚くべきことに、式(R)(R)C(OH)−CH=CH(II)で示される第3級ビニルカルビノールを、触媒としてのアンモニウム塩の存在下に式HC−C(OR)=CH(III)で示されるイソプロペニルメチルエーテル又はイソプロペニルエチルエーテルと反応させると、式Iで表される化合物が高収率で得られることが見いだされた。式Iで表される不飽和ケトン類を生成する付加反応及び後続の転位反応において、酸性条件が回避並びに追加の触媒が利用できるのは有利である。
【0004】
飽和又は不飽和の直鎖又は環状脂肪族炭化水素残基は、一つ又はそれ以上の二重結合及び/又は三重結合を有する直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基だけでなく1〜46個の炭素原子を有するシクロアルキル基およびシクロアルケニル基を含む。このR基の好ましい例は、メチル基、CH−プレニル基、CH−ゲラニル基、CH−ファルネシル基、CH−ヘキサヒドロファルネシル基、CH−ソラネシル基およびCH=CH−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセニル)基である。
【0005】
式IIおよび式IIIで示される出発化合物、即ち、ビニルカルビノールだけでなくイソプロペニルメチルエーテル(IPM)およびイソプロペニルエチルエーテル(IPE)は当該技術分野で周知である。これらの化合物は市販されているか、または当該技術分野で周知の方法で製造できる。
【0006】
本発明で有用なアンモニウム塩は、鉱酸のアンモニウム塩、好ましくは、臭化アンモニウム、塩化アンモニウムおよびリン酸二アンモニウムである。この塩は、0.1〜10モル%、好ましくは0.5〜5モル%、最も好ましくは1〜2モル%の範囲の量で使用できる。
【0007】
当量の反応試薬を用いることができるが、そのモル比の範囲(II対IIIとして)は1.0対1.5〜3.0、好ましくは、1対2.0〜2.5を使用するのが好ましい。その反応は不活性溶媒、例えば、ペンタン、ヘキサン又はヘプタンなどの炭化水素溶媒の不存在下にまたは存在下に実施できる。その反応は、好ましくはオートクレーブ中で更に加圧することなしに溶媒なしで実施する。反応温度は100〜200℃の範囲、好ましくは120〜160℃の範囲で、反応時間は通常12〜40時間の範囲で高い変換率と良好な収率が得られる。
【0008】
式Iで示される所望の生成物の単離および製造(work−up)は、必要ならば異性体の分離も含め、当該技術分野で周知の方法により実施される。
【0009】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に示す。
【0010】
[実施例1]
3−メチル−1−ブテン−3−オールから6−メチル−5−ヘプテン−2−オンへのNHCl触媒によるC伸長反応
【0011】
装置:
主要部はMedimex社製のステンレススチール製バッチ反応器(High Pressure 910470 MED243(1995年製造))であり、公称容積は1.0リットル、最高動作温度220℃、最大圧20バールである。反応器の加熱システムはジャケット内に配置される電気加熱コイルにより提供される。冷却は反応器ジャケットに水を流すことにより行われる。温度制御は3個の熱電対を含み、精度±0.05℃で反応器内部温度、ジャケット温度および冷却温度を測定する。センサーにより精度±0.05バールで圧力が測定される。攪拌機はFlender ATB−Loher社製(0.25kW)のステンレススチール製プロペラ型4枚羽根であり、その回転速度は0〜1200rpmの範囲である。反応器はまた危険防止装置およびデータ制御システムに接続している。
【0012】
手順:
上述のオートクレーブに塩化アンモニウム1.19g(22.2ミリモル=1.0モル%)を入れた。IPM349.1g(4.70モル、2.1当量)と混合した3−メチル−1−ブテン−3−オール198.5g(2.24モル)を加えた。総量は700mlであった。反応器を直ちに閉じ攪拌機を始動した(500rpmに設定)。反応混合物をおおよそ120分間の範囲内で、150℃に加熱した。この実験は等温条件下で実施した。混合物を反応12時間後に25℃に冷却した。褐色の反応混合物サンプルを取り出し、ガスクロマトグラフにより分析した。収量:メチルヘプテノン反応混合物548.8g、変換率:98.1%、選択率:1.0。
【0013】
[実施例2]
リナロールからゲラニルアセトンへのNHBr触媒によるC伸長反応
【0014】
装置:実施例1の反応器と同じ。
【0015】
手順:
1.736gの臭化アンモニウム、99%(17.55ミリモル=1.5モル%)、184.8gのリナロール、97.7重量%(1.17モル)および218.6gのIPM(96.5面積%、2.925モル、2.5当量)をオートクレーブに入れた。総量は500mlであった。反応器を直ちに閉じ攪拌機を始動した(500rpmに設定)。反応混合物をおおよそ100分間の範囲内で、130℃に加熱した。この実験は等温条件下で実施した。全部で40時間の反応後、反応混合物を22℃に冷却し減圧下にオートクレーブから取り出し、おおよそ3gの酢酸ナトリウムと共に30分間撹拌後、5μmのテフロン膜でろ過した。低沸留分をロータリエバポレーターにより20〜30ミリバール、40℃で除去した。
【0016】
収量:79.9重量%のゲラニルアセトン(E/Z異性体の混合物)を含む褐色油状物247.05g。変換率:97.9%、収率:86.8%、選択率:0.89。
【0017】
[実施例3]
リナロールからゲラニルアセトンへのNHCl触媒によるC伸長反応
【0018】
装置:実施例1の反応器と同じ。
【0019】
手順:
1.26gの塩化アンモニウム、99%(23.4ミリモル=2モル%)、184.8gのリナロール(97.7重量%、1.17モル)および218.6gのIPM、96.5面積%(2.925モル、2.5当量)でオートクレーブを満たした。総量は500mlであった。反応器を直ちに閉じ攪拌機の回転を開始した(500rpmに設定)。反応混合物をおおよそ120分間の範囲内で、140℃に加熱した。この実験は等温条件下で実施した。全部で40時間の反応後、反応混合物を22℃に冷却し減圧下にオートクレーブから取り出し、おおよそ3gの酢酸ナトリウムと共に30分間撹拌後、5μmのテフロン膜でろ過した。低沸留分をロータリエバポレーターにより20〜30ミリバール、40℃で除去した。粗生成物を、PT100、油浴、マグネチックスターラ、リービッヒ冷却器、PT100、Anshuetz−Thieleセパレーター、冷却トラップ、高真空ポンプを備えた500mlの二口丸底フラスコで蒸留した。前留分はT22〜120℃、T22〜40℃、0.07ミリバール(ポンプの読み)の条件下に集めた。生成物である主留分はT120℃、Tおおよそ93℃、0.02ミリバール(ポンプの読み)の条件下に集めた。
【0020】
収量:黄色油状物220.6gが得られた(E/Z異性体総量の95.8重量%がゲラニルアセトン)。変換率:99.7%、収率:93.1%、選択率:0.93。
【0021】
[実施例4]
リナロールからのゲラニルアセトンへの(NHHPO触媒によるC伸長反応
【0022】
装置:実施例1の反応器と同じ。
【0023】
手順:
1.577gのリン酸水素二アンモニウム(98%、11.7ミリモル=1.0モル%)、184.8gのリナロール(97.7重量%、1.17モル)および218.6gのIPM(96.5面積%、2.925モル、2.5当量)でオートクレーブを満たした。総量は500mlであった。反応器を直ちに閉じ攪拌機を始動した(500rpmに設定)。反応混合物をおおよそ120分間の範囲内で、150℃に加熱した。この実験は等温条件下で実施した。30時間の反応後、反応混合物を22℃に冷却し、おおよそ3gの酢酸ナトリウムと共に30分間撹拌後、5μmのテフロン膜でろ過した。低沸留分をロータリエバポレーターにより20〜30ミリバール、40℃で除去した。
【0024】
収量:褐色油状物243.9g(81.5重量%のゲラニルアセトン,E/Z異性体の混合物)。変換率:99.0%、収率:87.4%、選択率:0.88。
【0025】
[実施例5]
E−ネロリドールからE/EおよびE/Z−ファルネシルアセトンへのNHBr触媒によるC伸長反応
【0026】
装置:実施例1の反応器と同じ。
【0027】
手順:
7.063gの臭化アンモニウム、(99%、71.4ミリモル=9モル%)178.5gのE−ネロリドール(98.8面積%、0.793モル)および225.8gのIPM(96.5面積%、3.022モル、3.81当量)をオートクレーブに入れた。総量は500mlであった。反応器を直ちに閉じ攪拌機を始動下(500rpmに設定)。反応混合物をおおよそ120分間の範囲内で、160℃に加熱した。この実験は等温条件下で実施した。全部で16時間の反応後、反応混合物を22℃に冷却し、トリエチルアミンで処理した。低沸留分をロータリエバポレーターにより2段階の圧力(ポンプの読みが10ミリバールと0.05ミリバール)および40℃の条件下に除去した。粗生成物をおおよそ500mlの第3級ブチルメチルエーテルに溶解し、水50mlで2回抽出した(全量100ml)。有機層をNaSOで乾燥しろ過した。低沸留分をロータリエバポレーターにより2段階の圧力(ポンプの読みが10ミリバールと0.05ミリバール)および40℃の条件下に除去した。抽出後に得た生成物を、PT100、油浴、マグネチックスターラ、リービッヒ冷却器、PT100、Anshuetz−Thieleセパレーター、冷却トラップ、高真空ポンプを備えた500mlの二口丸底フラスコで蒸留した。前留分はT22〜140℃、T22〜118℃および0.02ミリバール(ポンプの読み)の条件下に集めた。生成物の主留分はT140℃、T127℃、T118〜119℃および0.02ミリバール(ポンプの読み)の条件下に集めた。
【0028】
収量:前留分として、68.3面積%ファルネシルアセトン(E/EおよびE/Z異性体の合計に対して)で黄色油状物36.2gを得た。
【0029】
主留分として、98.3面積%ファルネシルアセトン(E/EおよびE/Z異性体の合計に対して)で黄色油状物169.4gを得た。変換率:99.1%、収率:91.9%、選択率:0.93(留分総量に対して)。
【0030】
[実施例6]
E−ネロリドールからのE/EおよびE/Z−ファルネシルアセトンへのNHCl触媒によるC伸長反応
【0031】
装置:実施例1の反応器と同じ。
【0032】
手順:
1.714gの塩化アンモニウム(99%、31.7ミリモル=4モル%、)178.5gのE−ネロリドール(98.8面積%、0.793モル)および225.8gのIPM(96.5面積%、3.022モル、3.81当量)でオートクレーブを満たした。総量は500mlであった。反応器を直ちに閉じ攪拌機を始動した(500rpmに設定)。反応混合物をおおよそ120分間の範囲内で、160℃に加熱した。この実験は等温条件下で実施した。反応の16時間後、反応混合物を22℃に冷却し、トリエチルアミンで処理した。低沸留分をロータリエバポレーターにより2段階の圧力(ポンプの読みが10ミリバールと0.05ミリバール)および40℃の条件下で除去した。粗生成物を、PT100、油浴、マグネチックスターラ、リービッヒ冷却器、PT100、Anshuetz−Thieleセパレーター、冷却トラップ、高真空ポンプを備えた500mlの二口丸底フラスコで蒸留した。前留分はT22〜135℃、T22〜95℃および0.04ミリバール(ポンプの読み)の条件下に集めた。生成物である主留分は、T135〜140℃、T110〜126℃、T96〜121℃および0.03ミリバール(ポンプの読み)の条件下に集めた。
【0033】
収量:96.7面積%ファルネシルアセトンを含有する(E/EおよびE/Z異性体の混合物に対して)黄色油状物199.8gを得た。変換率:99.3%、収率:92.8%、選択率:0.97。
【0034】
[実施例7]
E−ネロリドールからのE/EおよびE/Z−ファルネシルアセトンへの(NHHPO触媒によるC伸長反応
【0035】
手順:
5.36gのE−ネロリドール、98.8面積%(0.024モル)および6.77gのIPM、96.5面積%(0.091モル,3.81当量)を、マグネチックスターラを備えた容積33mlのステンレススチール製オートクレーブに入れた。24.05mgのリン酸水素二アンモニウム、98%(0.178ミリモル=0.75モル%)を撹拌しながら加えた。オートクレーブを閉じ、加熱ブロックを備えたLab Shaker内に置き、160℃で16時間、1分あたり250回で振盪した(2時間の昇温時間を含む)。オートクレーブを加熱ブロック内で1.5時間かけて室温に冷却し、蓋を開け、反応混合物を撹拌しながらトリエチルアミンで中和した。低沸留分をロータリエバポレーターにより2段階の圧力(ポンプの読みが10ミリバールと0.02ミリバール)および40℃の条件下で除去した。
【0036】
収量:88.7面積%ファルネシルアセトンを含有する(E/EおよびE/Z異性体の全量に対して)黄色油状物6.37gを得た。変換率:95.9%、収率:90.5%、選択率:0.94。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(R)(R)C=CH−CH−CH−CO−R(I)(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、Rは飽和又は不飽和の直鎖又は環状炭化水素残基であり、Rはメチル基又はエチル基である)で示されるγ、δ−不飽和ケトン類の製造方法であって、式(R)(R)C(OH)−CH=CH(II)で示される第3級ビニルカルビノールを、式HC−C(OR)=CH(III)で示されるイソプロペニルメチルエーテル又はイソプロペニルエチルエーテルと、触媒としてのアンモニウム塩の存在下に反応させること特徴とする方法。
【請求項2】
前記アンモニウム塩が臭化アンモニウム、塩化アンモニウムまたはリン酸二アンモニウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式IIで示される前記化合物が3−メチル−1−ブテン−3−オールである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式IIで示される前記化合物がリナロールである請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
式IIで示される前記化合物がネロリドールである請求項1または2に記載の方法。

【公表番号】特表2012−506370(P2012−506370A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531432(P2011−531432)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062486
【国際公開番号】WO2010/046199
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】