説明

ε−ポリリシン接合体およびその使用

本発明は、ε−ポリリシン接合体、特にカルボキシル基を担持する化合物とのε−ポリリシンの接合体、ならびに調製および腎臓のターゲティングのためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ε(イプシロン)−ポリリシン接合体、特にカルボキシル基を担持する化合物とのε−ポリリシンの接合体、ならびに調製および腎臓のターゲティングのためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、特に種々の物質の輸送および排泄のためにならびにホルモンの産生において、重要である器官である。
【0003】
腎臓の1つの機能は、代謝の最終生産物、即ちいわゆるウロファニックな(urophanic)物質および、尿の生成による身体からの毒素の排泄であり、それは、最終的には身体から尿路を介して排泄される。腎臓は水の平衡を制御し、したがって血圧の長期的な制御の役割を果たす。それは、電解質の平衡および酸塩基平衡を、尿の組成のコントロールによって制御する。さらに、腎臓は、身体における中間的な代謝のために重要な器官である(それは糖新生をもたらす)。腎臓は、血液生成のためのホルモン、例えばエリスロポエチンを生成し、ペプチドホルモンの分解の部位である。しかし、腎臓自体の多くの機能はまた、ホルモンによってコントロールされる。
【0004】
腎臓は、したがって生命に対して重要な器官であり、そのために多くの診断および治療方法が既に開発されている。例えば、免疫抑制剤、細胞分裂阻害薬、免疫療法薬、消炎薬、抗生物質、ウイルス静止薬(virostatics)、降圧薬、尿酸排泄薬または利尿薬は、腎臓の処置のために、または腎臓機能に影響を及ぼすために使用される。医薬が、可能な限りターゲットにした方式で腎臓に到達することが、ここで特に重要である。
【0005】
同等に、イメージング方法における腎臓の表示(representation)はまた、主要な重要性を有する。
【0006】
確立された核医学的および放射線学的方法、例えばSPECT、PET、超音波およびMRTの補助により、酵素的プロセス、代謝プロセス、特定の遺伝子の発現および分子反応を、形態学的構造に加えて、いわゆる分子イメージングによって描写することができる。上述のイメージングモダリティを、必要であれば、コンピューター断層撮影および光学的イメージング方法(近赤外線イメージング、蛍光断層撮影法)によってさらに補足することができる。「分子イメージング」の目的は、現在尚癌疾患、神経学的問題および遺伝子療法のモニタリングの診断においてであるが、将来的には細胞の変化を可能な限り早期に発見しなければならないすべての領域に拡大されるであろう。
【0007】
イメージング方法のためのシグナル源として、「シグナル分子」を、一般的に「担体分子」に結合させる。「担体分子」は、高度に特異的なターゲティングを、例えば標的細胞に特異的に結合するか、または当該個所に捕獲された状態になることによって確実にする。例えば、担体分子は、受容体のリガンドまたは酵素の基質であり得る。「シグナル分子」を、1または2以上のイメージング手法によって可視性とすることができる。シグナル分子の例は、例えば、錯化剤またはキレート試薬であり、その金属イオンをイメージング手法によって検出することができる。シグナル分子および担体分子を含む化合物または接合体は、「診断剤」と呼ばれる。種々のイメージング手法を、以下に詳細に論じる。
【0008】
コンピューター断層撮影法(CT)
古典的な放射線写真撮影において、X線の組織特異性減衰は、X線フィルム上に描写される。例えば骨などの「硬組織」は、例えば脂肪および筋肉などの「柔軟な」組織とは対照的に、ここで大量の放射線を吸収する。使用するX線造影剤は、高い原子番号を有する元素を含有する物質、例えば血管造影のためのヨウ素含有分子である。さらなる開発として、放射線写真撮影は、断面画像を提供する。CTにおいては、放射線写真を、センサー(検出器)によって種々の方向から記録し、コンピューターによって三次元放射線写真撮影として再現する。CTの広い適用可能性のために、この方法は、「古典的放射線学の主力商品」として知られている。しかし、当該方法の低い感度によって、分子イメージングのための方法としてのその使用は限定される。
【0009】
単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)
シンチグラフィーは、寿命の短い放射性核種によって発せられた、放射活性的に標識された物質(放射性トレーサー)のガンマ線を使用する。これらは、身体中の標的組織中に特異的に蓄積する。ガンマカメラの補助によって、発せられた放射線は記録され、画像に変換される。単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)は、シンチグラフィーの三次元的変法である。SPECTにおいて、放射線を、CTにおけるように種々の角度から記録し、三次元画像を、コンピューターにおいて得る。静的SPECTにおいて、特定の時点における放射性トレーサーの濃度を測定する。動的SPECTにおいて、測定を、ある時間間隔において繰り返す。このようにして、蓄積の変化を調査することができる。
【0010】
陽電子放出断層撮影(PET)
臨床的適用において、PETは、診断的放射線学のより構造的に指向したイメージング方法を補完する。陽電子放出断層撮影(PET)は、現代的な機能的イメージング方法である。陽電子を放出する原子によって、それは、放射性同位体の検出における優れた分解能を可能にする(2〜3mmの分解能が、全身の断層撮影の場合においてさえも現代的なPET機器において達成される)。これらの放射性同位体、例えば68Gaを生体分子の標識のために使用する場合には、有機体の個々の器官における生化学的プロセスを、イメージングすることができる。
【0011】
核医学的方法の本質的な利点は、高い感度であり、そのためにトレーサーを、単に微量(ナノグラム量)において使用することができる。今日では、PETカメラは、CT機器(これは、約<1mmの高い局所的分解能を提供する)に統合されている。PET/CT技術は、近年革命的な結果を診断中に導入した。同一の解剖学的構造におけるPETの機能的画像およびCTの形態学的情報を、このように単一の表示において得ることができる。
【0012】
医学的診断において極めて頻繁に、かつ極めて集中的に調査されている器官は、腎臓である。ここでの最も頻繁な調査方法は、腎臓部のシンチグラフィーである。
【0013】
腎臓部のシンチグラフィー
腎臓部のシンチグラフィーは、静的な、および動的な観点から腎機能の評価を可能にする核医学的調査方法である。ここで、個々の腎臓の血液供給、機能および排泄は、評価される。それは、特に小児における実質の瘢痕形成の認識のための確立された方法であり、さらに局部的な、および側分離された(side-separated)腎機能の評価のための役割を果たす。
腎臓部のシンチグラフィーの2つの形態の間で区別がなされる:
【0014】
静的な腎臓部のシンチグラフィー
静的な腎臓部のシンチグラフィーにおいて、機能的な腎臓組織を、放射性核種99mTcを使用して表示する。テクネチウムはここで、錯体形態で、例えば2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)に結合する。静的な腎臓部のシンチグラフィーは、したがって異常(ジストロフィー、馬蹄腎など)または炎症後の状態を有する腎臓の表示に主に適している。
【0015】
動的な腎臓部のシンチグラフィー
対照的に、動的な腎臓部のシンチグラフィーは、腎機能を調査する。したがって、糸球体濾過率、腎血流量(RBF)および尿細管分泌を、腎機能およびそのクリアランスの問題と共に調査することができる。
【0016】
現在使用されている放射性医薬品は、以下の物質である:
99mTc−MAG3 メルカプトアセチルトリグリシン
99mTc−DMSA 2,3−ジメルカプトコハク酸
99mTc−DTPA ジエチレントリアミン五酢酸
123I−OIH ヒップラン(hippuran)(オルト−ヨード馬尿酸)
【0017】
図3は、MAG3、DMSAおよびDTPAの化学構造を示す。
【0018】
腎機能シンチグラフィー(=動的な腎臓部のシンチグラフィー)を、以下の表示において使用する:
・腎臓疾患、例えば腎結石(腎結石症)、腎腫瘍、ジストロフィー性(不正確に位置した)腎臓または形成異常の(奇形の)腎臓における側分離された腎機能の解明のため
・重複腎の場合における部分機能の調査のため
・尿流れ障害の調査のため
・ベシクレナルリフラックス(vesicorenal reflux)(尿路の異常)の解明のため
・腎血管性筋緊張亢進が疑われる場合
【0019】
・生体腎の提供前に腎機能を試験するため
・外科的に修復された血管収縮または閉塞の進行コントロールのため
・移植された腎臓の評価のため
・腎臓損傷(腎臓外傷)が疑われる場合の緊急診断における
・突然の大幅に減少した尿排泄(無尿)の場合において、腎臓部の塞栓症または急性尿路閉塞を排除するために
・総クリアランスを決定するために
・尿漏出を検知するかまたは排除するために。
【0020】
現在まで、腎機能シンチグラフィーは、承認されたトレーサーMAG3およびDMSAをSPECT核種99mTcで標識することができるに過ぎないため、一般的にSPECTによって行われている。したがって、腎機能診断のためのPETおよびPET/CTのために、今日顕著に改善された可能性を使用することは、現在まで可能ではなかった。
【0021】
また、治療目的のために、腎臓のターゲティングを改善することができる場合が望ましい。今日、約2億8000万人の人々が、慢性腎臓疾患を有する。腎臓疾患の処置のための医薬の使用または投薬は、医薬の副作用によってしばしば制限される。薬物ターゲティング概念を開発し、それによって既知の医薬またはまた新規な医薬がターゲットにした方式で腎臓に達することが可能である場合には、腎臓疾患の治療的処置は、大幅に改善されるであろう。
【0022】
WO 03/086293には、ポリリシンまたはポリアルギニンとの複合体を形成するそれらによる医薬の風味を改善する試みが記載されている。複合体はここで、有機塩からなり、即ち共有結合が存在せず、代わりにポリリシン/ポリアルギニンと医薬との間のイオン結合が存在する。腎臓の薬物ターゲティングにおけるポリリシン接合体の使用の可能性に関しては、何も開示されていない。
【0023】
Ing-Lung Shih et al., Bioresource Technology 97(2006) 1148-1159には、薬物ターゲティングにおけるε−ポリリシンの使用が開示されている。ε−ポリリシンを活性化合物に共有結合させることが提案されている。当該文献中に記載されているアプローチの目的は、細胞における取り込み速度の増大である。特定の組織への特異性は、目的とされておらず、達成もされていない。
【発明の概要】
【0024】
したがって、本発明の目的は、腎臓についての最高の可能な親和性および選択性を有する治療薬または診断薬のための担体または担体分子を提供することにあった。
【0025】
驚くべきことに、ε−ポリリシンまたはε−ポリリシン誘導体のカルボキシル基を担持する化合物との接合体が、腎臓への極度に高い選択性を有することが見出された。これは、これらの接合体が事実上専ら腎臓組織によって吸収されることを意味する。シグナル分子、例えば放射性同位体および/または活性化合物に結合したこれらの接合体を、腎臓の診断的および/または治療的処置のために使用することができる。
【0026】
したがって、本発明は、カルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物と、ペプチド的に(peptidically)結合したモノマー単位からなり、合計で50%を超える(モノマー単位の数を基準とする)ε−リシンモノマー単位から構成されるか、または少なくとも70%(モノマー単位の数を基準とする)のε−リシンモノマー単位から構成される少なくとも10の連続的モノマー単位を含む、および直鎖状または分枝状オリゴマーとを含む接合体に関する。好ましいのは、カルボキシル基を担持する化合物のモル質量におけるカルボキシル基の比率が30%より大きく、特に好ましくは40%より大きい、カルボキシル基を担持する化合物の使用である。
【0027】
特に治療的用途のための好ましい態様において、接合体はさらに、好ましくは共有結合した少なくとも1種の活性化合物を含む。
好ましい態様において、オリゴマーは、10〜50のモノマー単位の鎖の長さを有する。
特に好ましい態様において、オリゴマーは、ε−リシンモノマー単位のみから、特にε−リシン単位のみからなる。
【0028】
好ましい態様において、カルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物を、ε−リシンモノマー単位のアミノ基を介して結合させ、即ち1種または2種以上のε−リシンモノマー単位は、それらのアミノ基上に、直接的に、またはスペーサーを介して結合したカルボキシル基を担持する化合物を担持する。
【0029】
診断的用途のために特に好ましい態様において、カルボキシル基を担持する化合物は、錯化剤、特に好ましくはDOTA(=1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,−N’,−N’’,−N’’’−四酢酸)またはDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)である。
【0030】
本発明はまた、少なくとも以下のプロセスステップ:
a)少なくとも1つの反応性基を含有する本発明のオリゴマーを提供すること、
b)カルボキシル基を担持する少なくとも1種の随意に活性化された化合物をステップa)からのオリゴマーに接合すること
を含む、本発明の化合物の製造方法に関する。
【0031】
本発明のプロセスの態様において、接合体が錯化剤を含む場合には、ステップb)において得られた化合物を、さらなるステップc)において金属イオンが錯化剤によって錯化するように、金属塩と接触させる。
【0032】
本発明はさらに、医薬、例えば特に治療的組成物または画像増強組成物としての、本発明の接合体に関する。
本発明はまた、少なくとも本発明の接合体を含む、医薬または医薬組成物、特に治療的組成物または画像増強組成物に関する。
【0033】
本発明はまた、少なくとも本発明の接合体を含む、医薬または医薬組成物、特に治療的組成物または画像増強組成物の調製のためのキットに関する。この接合体を次に、用途に依存して、例えば治療的組成物の調製のための適切な活性化合物と、または、錯化剤が存在する場合には、画像増強および/もしくは治療的作用を有する金属イオンと反応させることができる。
【0034】
本発明はまた、巨大分子接合体の調製のための本発明の接合体の使用に関し、ここで本発明の2種または3種以上の接合体を巨大分子に結合させ、巨大分子接合体は、巨大分子に共有結合した本発明の少なくとも2種または3種以上の接合体から構成される。
【0035】
本発明はまた、腎臓のターゲティングのための本発明の接合体の使用に関する。腎臓のターゲティングは、ここで好ましくは腎臓における薬学的または診断的用途のための医薬を豊富化する、即ち腎臓における身体の残部に関して増大した取り込みを発生させる役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、合成例1において得られた本発明の化合物の図式的表示を示す。
【図2】図2は、111Inを負荷させたε−ポリリシン−DOTAの器官分布を示す。さらなる詳細を、使用例1において示す。
【図3】図3は、MAG3、DMSAおよびDTPAの化学構造を示す。
【図4】図4は、例7に対応するエナラプリル誘導体を示す。
【0037】
特定の診断的方法における標的器官の表示を改善する物質は、画像増強組成物もしくは造影剤または、一般的に環境に対するコントラストまたは環境に対する標的器官のシグナルを増大させることによる画像増強として作用する。
【0038】
本発明のカルボキシル基を担持する化合物は、少なくとも1つのカルボキシル基(−COOH)または本発明の接合体のオリゴマーに結合するための少なくとも1つの基もしくは官能基を含有する化学的化合物である。オリゴマーへの結合は、カルボキシル基を担持するオリゴマーおよび化合物の共有結合をもたらす任意の既知の方法において起こり得る。
【0039】
結合が起こり得る官能基の例は、−NH、−SH、−OH、−Hal(例えば−Cl、−Br、−I)、−アルキン、−NCS、−NCO、−SOCl、−アジド、−カーボネート、−アルデヒド、−エポキシド、−COOH、−COORであり、ここでRは、この場合において好ましくはハロゲンまたは好ましくは活性化因子、即ち良好な離脱基、例えばN−ヒドロキシスクシンイミド、ペンタフルオロフェニルまたはパラ−ニトロフェニルである。結合の可能な共有結合タイプの概説は、例えば“Bioconjugate Techniques”, Greg T. Hermanson, Academic Press, 1996中で、137〜165頁において見出される。
【0040】
カルボキシル基を担持する化合物は、好ましくは2つまたは3つ以上のカルボキシル基を含有する。本発明において好適であるカルボキシル基を担持する化合物の例は、以下のものである:クエン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、対応する分枝状脂肪酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸ならびに対応する位置異性体および類似の脂肪族二塩基酸;テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸および類似の脂環式二塩基酸;トリカルバリル酸、アコニット酸、トリメシン酸および類似の三塩基酸;アダマンタンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸および類似の四塩基酸;糖酸、特にアルダル酸、例えばグルカル酸、ガラクタル酸;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および類似のヒドロキシ脂肪酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸および類似の芳香族ポリカルボン酸。
【0041】
本発明において、カルボキシル基を担持する化合物はまた、少なくとも1つのカルボキシル基、好ましくは2つまたは3つ以上のカルボキシル基、および本発明の接合体のオリゴマーに結合するための少なくとも1つの基または官能基を含有する錯化剤であり得る。その例は、NOTA、TETA、EDTAまたは好ましくはDOTAもしくはDTPAである。この場合において、カルボキシル基を担持する化合物は、同時にまた錯化剤の機能を満たし、それは診断的用途のために特に有利である。
【0042】
カルボキシル基を担持する好ましい化合物は、オリゴマーに接合した後に2つまたは3つ以上の遊離のカルボキシル基を含有するものである。
【0043】
腎臓のターゲティングにおいて達成される選択性が、カルボキシル基を担持する化合物のカルボキシル基がカルボキシル基を担持する化合物のモル質量の大きい比率を構成する場合には、特に高いことが見出された。したがって、好ましいのは、モル質量におけるカルボキシル基の比率が30%より大きく、好ましくは40%より大きい、カルボキシル基を担持する化合物である。
【0044】
例えば、DOTAのモル質量は404g/molである。その4つのカルボキシル基は、180g/molの比率(4×COOH=4×45g/mol)を構成する。これは、約44%のDOTAのモル質量におけるカルボキシル基の比率を与える。
クエン酸は192g/molのモル質量を有する。カルボキシル基(3×45g/mol)は、その135g/molを構成する。これは、約70%のクエン酸のモル質量におけるカルボキシル基の比率を与える。
【0045】
したがって、本発明において特に好ましいカルボキシル基を担持する化合物は、オリゴマーへの接合の後に2つまたは3つ以上の遊離のカルボキシル基を含有し、ここでモル質量におけるカルボキシル基の比率が30%より大きく、好ましくは40%より大きいもの、例えばDOTA、DTPAおよびクエン酸である。
【0046】
しばしばリンカーとも呼ばれるスペーサーは、分子の2つの部分間での、本場合においては、例えば本発明のオリゴマーとカルボキシル基を担持する化合物または活性化合物との間での共有結合をもたらす。スペーサーは一般的に、2つの部分間の結合が直接的な化学結合を介して起きない場合のみならず、代わりに若干の分離が2つの部分間で発生する場合に導入される。
【0047】
同様に、スペーサーは、さもなければ互いに反応しない分子の2つの部分を結合させるために必要な化学的官能基を提供することができる。スペーサーのオリゴマー、カルボキシル基を担持する化合物または活性化合物への接合は、好ましくはアミドまたはエステル結合を介して起こる。スペーサーは、例えば脂肪族炭化水素、ポリエーテル(例えばポリエチレングリコール)、オリゴペプチドまたは鎖構造を有する類似の要素であり得る。スペーサーは安定であり得、即ちそれは、生理学的条件下で切断し得ないか、もしくはわずかな程度に切断し得るに過ぎず、またはそれは不安定であり得、即ちそれは、少なくとも特定の生理学的条件下で切断することができる。
【0048】
活性化合物、ペプチド、錯化剤または他の官能基をオリゴマーに、直接的に、またはスペーサーによって結合することができる。
【0049】
直接的な結合が起こり得る官能基の例は、−NH、−SH、−OH、−Hal(例えば−Cl、−Br、−I)、−アルキン、−NCS、−NCO、−SOCl、−アジド、−カーボネート、−アルデヒド、−エポキシド、−COOH、−COORであり、ここでRは、この場合において、好ましくはハロゲンまたは好ましくは活性化因子、即ち良好な離脱基、例えばN−ヒドロキシスクシンイミド、ペンタフルオロフェニルまたはパラ−ニトロフェニルである。可能な共有結合タイプの結合の概説は、例えば“Bioconjugate Techniques”, Greg T. Hermanson, Academic Press, 1996中で137〜165頁において見出される。
【0050】
例えば、活性化合物を、本発明の接合体に切断可能なリンカーを介して結合することができる。このリンカーを、次に特定の条件下で、例えば酵素的または化学的切断によってインビボで切断し、活性化合物を遊離させる。この目的に適するのは、カルボキシレートおよびジスルフィド結合を含有するリンカーであり、ここで前者の基は酵素的に、または化学的に加水分解され、後者は例えばグルタチオンの存在下でジスルフィド交換によって分離される。
【0051】
切断可能なスペーサーの例はまた、特異的な、内在性の、または外来性の酵素の補助によって特異的に切断することができるオリゴペプチドである。したがって、例えば、ペプチド配列DEVD(Asp−Glu−Val−Asp)は、カスパーゼ−3によるアポトーシス誘発の後に切断される。したがって、例えば、このタイプのスペーサーを介して結合する活性化合物またはカルボキシル基を担持する化合物を、当該個所での若干の滞留時間の後に腎臓から除去することができるか、または、あるいはまた腎臓の対応する機能性(特定の酵素の存在もしくは不存在)をまた、チェックすることができる。さらなる例は、ペプチド配列CPEN↓FFWGGGGまたはPENFFであり、それを、マトリックスメタロプロテアーゼ−13によって切断することができる。切断可能なスペーサーの単純な態様は、カルボキシレートの生成であり、それを、エステラーゼによって容易に切断することができる。
【0052】
あるいはまた、スペーサーは、酸に不安定な構造、例えばヒドラゾン、イミン、カルボキシヒドラゾン、アセタールまたはケタールを含有していてもよい(例えばHaag-R, Kratz-F, Angewandte Chemie、1218頁(2006)を参照)。
【0053】
本発明において、アミノ酸は、少なくとも1つのアミノ基および少なくとも1つのカルボキシル基を担持する化合物である。例は、有機体中に存在するかまたは合成的に調製される、天然のタンパク新生アミノ酸または非タンパク新生アミノ酸である。
【0054】
ペプチドは、2つまたは3つ以上のアミノ酸の結合から生成した化合物である。ここでの個々のアミノ酸は、所定の配列において結合して、鎖を、通常は非分枝状のものを、形成する。ペプチド中の、およびより大きなタンパク質中のアミノ酸は、アミド結合を介して互いに結合している。
【0055】
本発明において、固相は、固相合成において樹脂または担体として使用することができる、有機、無機または有機/無機複合材料である。さらに、成形体、例えばマイクロタイタープレートまたは粒子状材料、例えば有機もしくは無機ナノ粒子、金属粒子などの表面をまた、本発明において固相と見なす。
【0056】
本発明において、ドイツ国薬事法に従う活性化合物または活性化合物分子は、医薬の調製において薬学的に活性な構成成分として使用されるか、または医薬の調製において使用する際に薬学的に活性な構成成分となることが意図される物質である(ドイツ国薬事法§4(19))。活性化合物は、一般的に有機体において特定の効果を生じる。
【0057】
本発明の活性化合物は、典型的には、薬学的に活性な分子または医薬、例えば免疫抑制剤、例えばアザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、フィンゴリモドもしくはトリプトライド、細胞分裂阻害薬、例えばブレオマイシン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ドキシフルリジン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、アムサクリン、エトポシド、テニポシド、シクロホスファミド、トロホスファミド、メルファラン、クロラムブチル、エストラムスチン、ブスルファン、クロラムブシル、クロルメチン、トレオスルファン、カルムスチン、ロムスチン、ニムスチン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、ダカルバジン、イホスファミド、テモゾロミド、チオテパ、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、フルオロウラシル、カペシタビン、シトシンアラビノシド(cytosinarabinoside)、ゲムシタビン、チオグアニン、ペントスタチン、メルカプトプリン、フルダラビン、クラドリビン、ヒドロキシカルバミド、ミトタン、アザシチジン、シタラビン、ネララビン、ボルテゾミブ、アナグレリド、特にプロテインキナーゼ阻害剤、例えばイマチニブ、エルロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、ラパチニブもしくはニロチニブ、
【0058】
免疫療法剤、例えばセツキシマブ、アレムツズマブおよびベバシズマブ、消炎剤、例えばナプロキセン、イブプロフェン、インドメタシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ヒドロコルチゾンもしくはブデソニド、
【0059】
抗生物質、特にペニシリン、例えばベンジルペニシリン、メチシリンもしくはアモキシシリン、セファロスポリン、例えばセフロキシム、セフォタキシム、セファドロキシルもしくはセフィキシム、β−ラクタマーゼ阻害剤、例えばクラブラン酸、スルバクタムもしくはタゾバクタム、カルバペネム、例えばイミペネムもしくはメロペネム、モノバクタム、例えばアズトレオナム、テトラサイクリン、例えばテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンもしくはチゲサイクリン、マクロライド系抗生物質、例えばエリスロマイシンA、グリコペプチド系抗生物質、例えばバンコマイシン、エンジイン、例えばカリチアマイシン、
【0060】
ウイルス増殖抑止剤(virustatics)、例えばアシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ブリブジン、シドホビル、ホスカルネット、イドクスウリジンもしくはトロマンタジン、抗高血圧剤、特にACE阻害剤、例えばベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリルもしくはゾフェノプリル、サルタン(sartans)、例えばロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン、オルメサルタンもしくはテルミサルタン、レニン阻害剤、例えばアリスキレン、
【0061】
およびベータブロッカー、例えばプロプラノロール、ピンドロル、ソタロール、ボピンドロール、アテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモロール、メトプロロール、ネビボロール、オクスプレノロール、カルベジロールもしくはラベタロール、尿酸排泄薬、例えばプロベネシッドもしくはベンズブロマロン、または利尿薬、例えばアセタゾルアミド、フロセミド、トラセミド、ブメタニド、ピレタニド、アゾセミド、エタクリン酸、エトゾリン、ヒドロクロロチアジド、ベンズチアジド、クロロチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、クロパミド、キシパミド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、アミロライド、トリアムテレン、スピロノラクトン、カンレノン、エプレレノンもしくはスピロノラクトンである。
【0062】
他の抗腫瘍剤、例えば増殖する細胞に対して有効な剤は、本発明において同様に活性化合物である。例示的な抗腫瘍剤は、サイトカイン、例えばインターロイキン−2(IL−2)、腫瘍壊死因子など、レクチン炎症反応促進剤(セレクチン)、例えばL−セレクチン、E−セレクチン、P−セレクチンなどおよび類似の分子を含む。
【0063】
本発明において、本発明の接合体につき、1または2以上の同一であるかまたは異なる活性化合物分子を、結合させることができる。
【0064】
同様に、特に巨大分子、例えば比較的大きな活性化合物分子、例えばタンパク質の場合において、活性化合物の腎臓への特異的な蓄積を可能にするために、2または3以上、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9または10の本発明の接合体が、1の活性化合物分子に結合することが逆に可能である。本発明の接合体の巨大分子への共有結合はまた、典型的にはここで起こる。本発明において、巨大分子は、大きな分子、例えばタンパク質のみならず、任意の形態の粒子(例えばナノ粒子)、リポソームまたは、それによって活性化合物を輸送することができるか、もしくはそれに対して活性化合物を結合することができる他の系であるものと解釈される。
【0065】
活性化合物分子に加えて、または活性化合物分子の代わりに、他の官能基、例えば診断方法またはイメージング方法のための官能基もまた、本発明の接合体に結合させてもよい。
【0066】
同様に、フッ素含有側鎖を、随意のスペーサーを介して官能基として包含させることができる。腎臓中の対応する分子の蓄積を、したがって19F核共鳴断層撮影法の補助によって表示することができる。均一な共振周波数を有する高度に対称的に配置されたフッ素原子が、特にここで有利である。19Fシグナルを改善するために、核スピン断層撮影法において通常である造影剤、例えばガドブトロール(Magnevist(登録商標))を使用することができる。
【0067】
本発明の接合体が錯化剤を含む場合には、ガドリニウムもしくはマンガン、または当業者に知られている他の強度に常磁性の金属イオンを、本発明の接合体上に位置する錯化剤の補助によって包含させることが、特に有利である。ここでの好適な錯化剤は、例えばDOTAおよびDTPAである。
【0068】
さらに、カルボキシル基を担持する化合物の群に属さない錯化剤を−また随意にスペーサーを介して、接合させることができる。例は、ヒドロキシキノリン、チオ尿素、グアニジン、ジチオカルバメート、ヒドロキサム酸、アミドオキシム、アミノリン酸、(環式)ポリアミノ、メルカプト、1,3−ジカルボニルおよび、いくつかの場合においてイオンに関して極めて特異的な活性を有する種々の金属を有するクラウンエーテルラジカルである。
【0069】
細胞特異的ターゲティングのための官能基、例えば抗体、抗体断片またはアプタマーもまた、本発明の接合体に結合させてもよい。蛍光色素またはインターロイキン、例えばIL−2もまた、結合させてもよい。
【0070】
「ペプチド的に結合した」は、本発明において、−NH−CO−結合が、またペプチドまたはタンパク質中で、モノマー単位としての2つのアミノ酸間に存在するように、2つのモノマー単位間に存在することを意味する。これは、2つのモノマー単位が、一方のモノマーの−NH基が他方のモノマーの−C=O基に結合するように結合することを意味する。したがって、以下の結合構造が発生する:
M−NH−CO−M−NH−CO−M−NH−CO−M、ここでMは、結合に関与しないモノマーの部分である。
【0071】
本発明の接合体は、少なくとも2つの共有結合した部分−カルボキシル基を担持する化合物およびオリゴマーからなる。好ましい態様において、接合体は、オリゴマー、カルボキシル基を担持する1または2以上の化合物および1または2以上の活性化合物分子を含む。特に好ましい態様において、本発明の接合体は、複数の、即ち例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10の、カルボキシル基を担持する同一であるかまたは異なる化合物および複数の、即ち例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10の同一であるかまたは異なる活性化合物分子を含む。
【0072】
本発明の接合体は、カルボキシル基を担持する化合物がモノマー単位の10〜80%に共有結合する場合に、腎臓中に特に特異的に蓄積することが見出された。
【0073】
本発明において、錯化剤は、金属イオンを錯化する、即ち金属イオンとの金属キレート錯体を形成することができる任意の分子構造である。錯化剤は、しばしばまたキレート剤として知られている。本発明において好適な錯化剤の例は、EDTA、NOTA、TETA、イミノ二酢酸、DOTAまたはDTPAである。特に好ましいのは、本発明において、SPECT、PET、CTまたはMRT測定において検出することができる金属イオンを結合する錯化剤である。好ましい錯化剤は、DOTAもしくはDTPAまたはそれらの誘導体である。本発明において、錯化剤は、金属イオンが既に結合している分子、およびまた金属イオンを結合することができるが、現段階においては結合していない分子の両方である。
【0074】
錯化剤に結合するための本発明において好適な金属イオンは、例えばFe2+、Fe3+、Cu2+、Cr3+、Gd3+、Eu3+、Dy3+、La3+、Yb3+および/もしくはMn2+、またはまた放射性核種のイオン、例えばガンマ放出体、ポジトロン放出体、オージェ電子放出体、アルファ放出体および蛍光放出体、例えば51Cr、67Ga、68Ga、111In、99mTc、140La、175Yb、153Sm、166Ho、88Y、90Y、149Pm、177Lu、47Sc、142Pr、159Gd、212Bi、72As、72Se、97Ru、109Pd、105Rh、101mRh、119Sb、128Ba、197Hg、211At、169Eu、203Pb、212Pb、64Cu、67Cu、188Re、186Re、198Auおよび/もしくは199Agである。
【0075】
好適な金属イオンおよびそれらのそれぞれの使用の例は、以下のものである:
・SPECTについて111In
・PETについて68Ga
・療法について90
・MRTについてGd、Eu、Mn
・コンピューター断層撮影法についてタンタル、タングステンまたは高い原子番号を有する他の元素。
【0076】
本発明において、オリゴマーの用語を、ペプチド的に結合したモノマー単位からなるオリゴマーからなる接合体の部分に適用する。オリゴマーは、典型的には5〜1000、好ましくは8〜100、特に好ましくは10〜50のモノマー単位からなる。特に好ましい態様において、オリゴマーは、8〜100のモノマー単位、特に好ましくは10〜50のモノマー単位を有するε−ポリリシンからなる。
【0077】
しかし、他の態様において、50%までのε−リシンモノマー単位は、他のモノマー単位によって置き換えられていてもよく、かつ/または50%までのε−リシンモノマー単位は、さらなる官能基の導入によって誘導体化もしくは修飾され得る。同様に、ペプチド的に結合したモノマー単位からなるオリゴマーは、それが少なくとも70%(モノマー単位の数を基準とする)、好ましくは少なくとも80%のε−リシン単位からなる、少なくとも10の連続的モノマー単位を含む場合には、ε−リシンモノマー単位ではない複数の連続的モノマー単位を含んでいてもよい。これは、例えば、ε−リシンモノマー単位が存在しない10〜20のモノマー単位(例えばアミノ酸を含む)、および引き続き例えば8つがε−リシンモノマー単位であり、2つが他のアミノ酸からなる10のモノマー単位の鎖が、オリゴマーの一方の端に位置する場合である。
【0078】
本発明において、モノマー単位の用語を、オリゴマーの少なくとも1つの他の部分にペプチド的に結合したオリゴマーの任意の部分に適用する。ここでの末端モノマー単位は、一般的に1つの他のモノマー単位にペプチド的に結合しているに過ぎない。オリゴマーの中央におけるモノマー単位は、2つの他のモノマー単位にペプチド的に結合している。3つの他のモノマーにペプチド的に結合したモノマー単位は、分岐点に位置する。オリゴマーの中央のモノマー単位の場合において、モノマー単位は、典型的には一方でペプチド結合の−NH部分を、および他方では−CO部分を提供する。
【0079】
本発明において、ε−リシンモノマー単位は、ε−リシン単位、オルニチン単位、2,3−ジアミノプロピオン酸単位または2,4−ジアミノ酪酸単位である。ε−リシンモノマー単位は、好ましくはε−リシン単位からなる。ここでの単位の用語は、各々の場合において、それが遊離のアミノ酸ではなくペプチド的に結合したオリゴマー中の単位またはモノマーであることを示すことを意図する。
【0080】
ε−リシン単位は、以下の化学構造:
【化1】

を有する。
ε−リシンモノマー単位は、本発明のオリゴマーにおいてDまたはL形態であり得る。
【0081】
本発明のオリゴマーがε−リシンモノマー単位に加えて含むことができる典型的な他のモノマー単位は、天然の、または合成のアミノ酸、例えば、特にアラニン、β−アラニン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはアルギニンである。
【0082】
他の典型的なモノマー単位は、式
−NH−SP−CO− I
式中、SPは、C1〜C20アルキレン、アルケニレンまたはアルキニレン基であり得、ここで1つまたは2つ以上の隣接していないメチレン基は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−CH−、−CHR’−、−CR’−、−CR’=CH−、−CH−CR’−、−CH=CH−、−CR’=CR’−、−C≡C−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−によって置き換えられていてもよく、
ここでR’=C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換であるか、または置換されているフェニルである、
で表されるスペーサー官能基を有するモノマー単位である。
【0083】
SPは、好ましくは直鎖状C3〜C10アルキル鎖、1つもしくは2つ以上のアルキレン基を有する直鎖状C3〜C10鎖、2つ〜10個のエチレングリコール単位を有するエチレングリコール鎖またはオリゴペプチド鎖を意味する。
【0084】
他の典型的なモノマー単位は、スペーサー、活性化合物、錯化剤、ペプチド、色素、可溶化剤、保護基、固相もしくは類似の要素の結合のための官能基を含有するもの、または当該要素に、例えば活性化合物、錯化剤、ペプチド、可溶化剤、保護基、固相または色素が、既に直接的に、もしくはスペーサーを介して結合しているものである。このタイプのモノマー単位は、好ましくは以下の官能基−NH、−SH、−OH、−Hal(例えば−Cl、−Br、−I)、−アルキン、−NCS、−NCO、−SOCl、−アジド、−カーボネート、−アルデヒド、−エポキシド、−COOH、−COORの少なくとも1つを有し、ここでRは、この場合において好ましくはハロゲンまたは好ましくは活性化因子、即ち良好な離脱基、例えばN−ヒドロキシスクシンイミド、ペンタフルオロフェニルもしくはパラ−ニトロフェニルであるか、または活性化合物、錯化剤、ペプチド、色素もしくは類似の要素にこのタイプの官能基を介して結合している。
【0085】
さらに、本発明のオリゴマーは、誘導体化されたε−リシンモノマー単位を含んでもよい。これらは、他の官能基(F1/F2)がNH基および/またはアミノ基に対応して結合したモノマー単位である。ここでのF1およびF2は、互いに独立してアセチル基またはまた活性化合物、錯化剤、ペプチド、色素、可溶化剤、保護基、固相または直接的に、もしくはスペーサーを介して結合した類似の要素であり得る。誘導体化が基F1および/またはF2と共に導入された対応するε−リシン単位を、式IIにおいて示す。
【化2】

【0086】
上記に示した式が、オリゴマー鎖の中央におけるモノマー単位を示し、末端のモノマー単位が、それらがC末端に位置するかN末端に位置するかに依存して、各々の場合において−CO−の代わりにCOOHもしくはCOOR基を担持するか、または−NH−もしくは−NF1−の代わりにNH、NF1H、NF1R、NHRもしくはNR基を担持し、ここでRが、典型的にはH、直鎖状もしくは分枝状C1〜C6アルキル、活性化合物、錯化剤、ペプチド、色素、可溶化剤、保護基、固相もしくは類似の要素の結合のためのスペーサー官能基、または直接的に、もしくはスペーサーを介して結合した活性化合物、錯化剤、ペプチド、色素、可溶化剤、保護基、固相もしくは類似の要素であることは、当業者に明らかである。
【0087】
したがって、ε−ポリリシン誘導体は、完全にはε−リシン単位から構成されず、代わりにここで他のε−リシンモノマー単位、例えばオルニチン単位が存在し、かつ/あるいはここで、本発明の明細書において、モノマー単位のいくつかが、例えばε−リシン、オルニチン、2,3−ジアミノプロパン酸もしくは2,4−ジアミノ酪酸以外のアミノ酸から、および/または式Iで表される化合物から構成される、本発明のオリゴマーである。
【0088】
本発明は、ε−ポリリシンおよびε−ポリリシン誘導体のカルボキシル基を担持する化合物との接合体が、例えば血流中への注入後にまたは皮下注射の後に、事実上専ら腎臓中に蓄積するという驚くべき効果に基づく。対応して、本発明の接合体は、腎臓の処置のための治療方法において、腎臓の表示のためのイメージング方法において、および腎臓ターゲティングのために使用するのに適している。
【0089】
本発明の化合物を、好ましくは、ε−ポリリシンから開始して、カルボキシル基を担持する対応する化合物と、好ましくは1種または2種以上の活性化合物分子または、随意に対応する活性化の後に、他の官能基とを、接合させることによって、調製する。
【0090】
ε−ポリリシンは、アミノ酸L−リシンのホモポリマーである。ε−ポリリシンは、細菌Streptomyces albulusによって好気的プロセスにおいて産生される。この天然に産生されたε−ポリリシンは、約30のLリシン単位を含む。ε−ポリリシンは、食物のための抗菌性防腐剤として日本において承認されている。α−ポリリシンとは対照的に、ε−ポリリシンは、プロテアーゼによって酵素的に分解されない。
【0091】
任意のタイプのε−ポリリシン、即ち、例えば天然に産生された、遺伝子工学によって産生された、または合成的に産生されたε−ポリリシンを、本発明において使用することができる。ε−ポリリシンの化学的合成を、ペプチド結合が側鎖のε−アミノ基を介して起こるように、慣用のペプチド合成に相当する方式で、対応して保護されたL−リシンを使用して行う。
【0092】
本発明の化合物の調製のために、特定の鎖の長さを有するε−ポリリシン(例えば合成的に産生されたε−ポリリシンもしくは精製された天然のε−ポリリシン)またはまた、例えばStreptomyces albulusから天然に得られた種々の鎖の長さを有するε−ポリリシンの混合物を、使用することができる。本発明において、特定の鎖の長さを有するε−ポリリシンおよびまた種々の鎖の長さを有するε−ポリリシンの混合物または種々のε−ポリリシン誘導体を含む混合物は共に、したがってε−ポリリシンおよびε−ポリリシン誘導体の用語の範囲内にある。
【0093】
さらに、ε−ポリリシンの接合体のみならず、ε−ポリリシン誘導体の接合体もまた、腎臓における優れた蓄積を示すことが見出された。
【0094】
本発明において適切である典型的な接合体をまた、式III
A(Lys)−E III
式中、
nは、5〜1000の数であり、
Aは、
・直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種もしくは2種以上の荷電の、または非荷電の末端基、例えば水素、−CN、−OR’、−NR’、−P(O)R’、−P(O)(OR’)、−P(O)(NR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)Hal、SOOH、−SOHal、−NO、−Hal、あるいは
・直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の基、例えばカルボキシル基を担持する化合物、活性化合物分子、錯化剤、色素、1種もしくは2種以上の同一の、もしく異なるアミノ酸、ペプチド、タンパク質、可溶化剤、保護基もしくは固相
であり、
【0095】
Eは、
・直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の荷電の、または非荷電の末端基、例えば水素、−CN、−OR’、−NH、NHR’、−NR’、−P(O)R’、−P(O)(OR’)、−P(O)(NR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)Hal、SOOH、−SOHal、−NO、−Hal、あるいは
・直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の基、例えばカルボキシル基を担持する化合物、活性化合物分子、錯化剤、色素、1種もしくは2種以上の同一の、もしく異なるアミノ酸、ペプチド、タンパク質、可溶化剤、保護基もしくは固相
であり、
【0096】
Lysは、互いに独立して、
・既に示した定義に相当するε−リシンモノマー単位
・式IまたはIIに適合するモノマー単位
【0097】
・式IV
(NHM−CO) IV
式中、Mは、互いに独立して、
−、−O−、−S、−S(O)、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−CH−、−CHR’、−CR’−、CR’=CH、−CH−CR’−、−CH=CH−、−CR’=CR’、−C≡C、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−もしくは−P(O)R’−
または
・1〜20個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルキル、
・2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の二重結合を有する直鎖状もしくは分枝状アルケニル、
・2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の三重結合を有する直鎖状もしくは分枝状アルキニル、
・3〜7個のC原子を有し、1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、飽和の、部分的に、もしくは完全に不飽和のシクロアルキル
を示すことができ、
【0098】
ここで、1つまたは2つ以上の隣接していないメチレン基は、−O−または−S−によって置き換えられていてもよく、かつ隣接したメチレン基は、アルケニルまたはアルキニル基によって置き換えられていてもよく、
ここで、1つまたは2つ以上のメチレン基は、互いに独立して−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−CH−、−CHR’−、−CR’−、−CR’=CH−、−CH−CR’−、−CH=CH−、−CR’=CR’−、−C≡C−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−によって置き換えられていてもよく、
【0099】
かつM中に存在する1つまたは2つ以上のメチレン基は、互いに独立して、R’’によって単置換または二置換されていてもよく、ここで
R’は、直鎖状または分枝状C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換または置換フェニルであり、
R’’は、直鎖状または分枝状C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換または置換フェニル、
あるいは−CN、−OR’、−NH、NHR’、−NR’、−P(O)R’、−P(O)(OR’)、−P(O)(NR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)Hal、SOOH、−SOHal、−NO、−Halであり、また
Hal=−F、−Cl、−Brまたは−Iである、
に適合する基
であり、
【0100】
ここで、カルボキシル基を担持する化合物、活性化合物、錯化剤、ペプチド、可溶化剤、保護基、固相、色素または類似の要素が、互いに独立して、モノマー単位Lysの接合に適しているすべての官能基(例えばNH、NH、COOH、OH、−SH、−Hal(例えば−Cl、−Br、−I)、−アルキン、−アジド、−アルデヒド)に、直接的に、またはスペーサーを介して結合していてもよく、
【0101】
ただし、本発明の化合物は、少なくとも1種のカルボキシル基を担持する化合物を含有し、かつ50%を超えるモノマー単位(モノマー単位の数を基準として)がε−リシンモノマー単位であるか、または少なくとも10の連続的なモノマー単位の少なくとも70%(モノマー単位の数を基準として)がε−リシンモノマー単位である、
によって表すことができる。
【0102】
本発明の化合物の好ましい態様において、Aは、
−C(O)OR’、−C(O)OH、−C(O)NR’もしくは−C(O)Halあるいは
直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の要素、例えばカルボキシル基を担持する化合物、活性化合物、錯化剤、ペプチド、可溶化剤、保護基、固相もしくは色素
である。
【0103】
Aは、特に好ましくは−OH、−OCH、−OCHCH
あるいは直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の活性化合物分子である。
【0104】
好ましい態様において、Eは、
−H、−CH、−CHCH
あるいは
直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の要素、例えばカルボキシル基を担持する化合物、活性化合物、錯化剤、ペプチド、可溶化剤、保護基、固相もしくは色素
である。
【0105】
Eは、特に好ましくは
直接的に、またはスペーサーもしくは樹枝状官能基を介して結合した1種または2種以上の活性化合物分子である。
【0106】
本発明の化合物が、NHまたはCOOH基を含有する1種または2種以上の基Lysを含有する場合には、他のモノマー単位は、それらを介してペプチド結合を介して結合してもよく、そして単一に、または多重に分枝した化合物が発生する。本発明の化合物は、好ましくは非分枝状である。
【0107】
nは、好ましくは8〜100、特に好ましくは10〜50の数である。
【0108】
本発明の接合体は、好ましくは、カルボキシル基を担持する1つのみならず、代わりに複数の化合物を含む。これらを、直接的に、またはスペーサーを介してオリゴマーのカルボキシル末端および/もしくはアミノ末端に、ならびに/または接合に適しているモノマー単位の官能基(例えばNH、−NH、−COOH、−OH、−SH、−Hal(例えば−Cl、−Br、−I)、−アルキン、−アジド、−アルデヒド)に結合させることができる。
【0109】
好ましい態様において、カルボキシル基を担持する化合物の結合は、モノマー単位のアミノ基、例えばε−リシンの遊離のアミノ基を介して起こる。
【0110】
本発明の接合体は、好ましくは10のモノマー単位あたりカルボキシル基を担持する少なくとも1の化合物、特に好ましくは10のモノマー単位あたりカルボキシル基を担持する3〜6の化合物を含有しなければならない。しかし、同様に、カルボキシル基を担持する1の化合物が、10のモノマー単位のうち9より多く、またはすべてのモノマー単位に結合することもまた、可能である。10のモノマー単位あたりのカルボキシル基を担持する化合物の最適な数は、カルボキシル基を担持する化合物のタイプおよびモノマー単位のタイプに依存する。
【0111】
モノマー単位あたりのカルボキシル基を担持する化合物の上述の好ましい数は、特に、完全にε−リシンモノマー単位から構成されるオリゴマーに適用される。本発明の接合体中のカルボキシル基を担持する化合物の分布は、無秩序であり得、それは、例えば第1のモノマー単位が−NHを含有し、続いてカルボキシル基を担持する化合物を有するモノマー単位があり、次に再び−NHを含有するものがあり、次にカルボキシル基を担持する化合物を担持するモノマー単位が2回あり、次に再び−NHを含有するものが2回あるなどを意味する。
【0112】
同様に、本発明の化合物中の錯化剤の分布もまた、例えば、各々の第2のモノマー単位がそれに結合するカルボキシル基を担持する化合物を有するように順序づけられ得る。当該順序づけはまた、本発明の接合体の1つの末端におけるすべてのモノマー単位がカルボキシル基を担持する接合した化合物を有し、一方モノマーの残余が遊離のNH官能基を含有するように起こり得る。
【0113】
カルボキシル基を担持する化合物は、好ましくは本発明の接合体中に無秩序に分布している。
【0114】
本発明の接合体を、特に、ペプチド合成の領域における当業者に知られている種々のプロセスによって調製することができる。
【0115】
1.ε−ポリリシンから開始する合成
ここでは、均一な、または種々の鎖の長さを有する合成の、または天然のε−ポリリシンを、典型的にはカルボキシル基を担持する対応する化合物と、溶液中で反応させる。このために、例えば、先ず、カルボキシル基を担持する化合物を活性化することができる。これを、例えば、それらを活性エステルまたは酸塩化物に変換することによるそれらのカルボキシル基の1つまたは2つ以上の活性化によって行うことができる。これに、ε−ポリリシンとの反応が続き、ここで当該接合は、好ましくは遊離のアミノ基にて起こる。
【0116】
あるいはまた、例えば、カルボキシル基を担持する化合物の1つまたは2つ以上のカルボキシル基を、カップリング剤、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドまたはHATUを使用して活性化し、ε−ポリリシンと反応させることができ、ここで当該接合は、好ましくは遊離のアミノ基にて起こる。このタイプの反応のための反応条件は、当業者に知られている。好適な溶媒は、例えば水、アセトニトリル、DMSO、DMF、ジオキサン、THF、メタノールまたは前記溶媒の2種もしくは3種以上の混合物である。
【0117】
2.固相合成
特に接合体が、ε−リシンからなるものではなく、または誘導体化されたε−リシンモノマー単位からなる1種または2種以上のモノマー単位を含むべきである場合には、本発明の接合体の調製のための固相合成が、有利であり得る。この固相合成を、慣用のペプチド合成(例えばFmocペプチド合成またはBocペプチド合成)に相当する方式で行う。このタイプの固相合成は、当業者に知られている。
【0118】
ペプチド合成に適している教科書は、Sidney P. Colowick(著者)、Gregg B. Fields(出版者)、Melvin I. Simon(出版者)、Academic Press Inc(1997年11月)によるSolid-Phase Peptide Synthesis: 289 (Methods in Enzymology)またはW. Chan(著者)、W. C. Chan(出版者)、Peter D. White(出版者)、"Oxford Univ Pr(2000年3月2日)によるFmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approachである。
【0119】
各々の場合において使用するモノマーを、ここで、本発明に対応するオリゴマーまたは接合体が生成するように選択する。モノマー単位のタイプに依存して、当該合成を、誘導体化されたモノマー単位を直接または、誘導体化のために意図した部位にて最初に保護されたモノマー単位を使用して行うことができる。オリゴマーの合成が完了した場合に、カルボキシル基を担持する化合物、活性化合物などの最終的な誘導体化を、次に固相上で、または溶液中で固相から離した後に行うことができる。
【0120】
この場合におけるカルボキシル基を担持する化合物の結合は、好ましくは完成したオリゴマーに対して、即ちオリゴマーの固相合成が完了した際に尚固相上で、または後者を溶液中で離した後に起こる。
【0121】
カルボキシル基を担持する化合物もしくは活性化合物または類似の要素(当該プロセスを、錯化剤について例の目的で、以下に記載する)を、例えばオリゴマーのN末端に結合させるべきである場合には、オリゴマーは、典型的にはアミノ末端保護基、例えばFmocを有して生成する。錯化剤が、オリゴマーを合成樹脂から離し、側鎖を脱保護するために使用される条件に耐えることができる場合には、Fmocを、完全な樹脂結合ポリペプチドのN末端から切断し、錯化剤が遊離のN末端アミンに結合するのを可能にすることができる。そのような場合において、錯化剤は、典型的には、オリゴマーアミノ基へのアミド結合またはカルバメート結合を形成するのに有効な活性エステルまたは活性カーボネート基を生成するための当該分野において一般的に知られているプロセスによって活性化される。また、異なる結合化学を使用することが、当然可能である。
【0122】
ここでの副反応を最小にするのを補助するために、グアニジノおよびアミジノ基を、慣用の保護基、例えばカルボベンジルオキシ基(CBZ)、ジ−t−BOC、PMC、Pbf、N−NOなどを使用してブロックしてもよい。
【0123】
カップリング反応を、溶媒、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン、ジクロロメタンおよび/または水中で、既知のカップリングプロセスによって行う。例示的なカップリング試薬は、O−ベンゾトリアゾリルオキシテトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ブロモ−トリス(ピロリジノ)ホスホニウムブロミド(PyBroP)などを含む。他の試薬、例えばN,N−ジメチルアミノピリシン(DMAP)、4−ピロリジノピリジン、N−ヒドロキシスクシンイミドまたはN−ヒドロキシベンゾトリアゾールが、存在してもよい。
【0124】
対応して、カルボキシル基を担持する化合物、活性化合物、錯化剤または類似の要素の結合はまた、末端でないε−リシンモノマー単位のアミノ基に対して起こり得る。
分子が錯化剤を含有する場合には、金属イオンを、既知の方法によって錯化することができる。
【0125】
本発明はさらに、本発明の接合体の、医薬組成物または医薬、特に治療的組成物の調製、ならびに/または画像増強組成物(例えば造影剤)および/もしくは核医学的イメージングのための放射性標識トレーサーのための使用に関する。
【0126】
本発明はさらに、
・医薬としての、
・医薬として使用するための、
・医薬中の活性化合物または活性要素としての、
・診断薬としての、
・診断薬として使用するための、
・腎臓のターゲティングにおいて使用するための、
・および特に腎臓の疾患の処置のための医薬としての、
1種または2種以上の活性化合物が好ましくは共有結合している本発明の接合体、ならびに/またはそれらの薬学的に使用可能な塩および立体異性体、ならびにすべての比率でのそれらの混合物、ならびに随意に賦形剤および/またはアジュバントに関する。
【0127】
治療的組成物は、一般的に少なくとも、活性化合物−この場合において、本発明の接合体は活性化合物と、好ましくは共有結合している−ならびに1種または2種以上の適切な溶媒および/または治療的組成物の適用を可能にする賦形剤からなる。
【0128】
診断的組成物または診断薬は、診断方法における画像増強またはイメージング組成物として作用する。診断薬は、一般的に少なくともシグナル源、即ちイメージングおよび/または画像増強要素−この場合において本発明の接合体、ここでこの場合において、接合体中のカルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物は、好ましくは錯化剤である−ならびに1種または2種以上の好適な溶媒および/または診断的組成物の適用を可能にする賦形剤からなる。
【0129】
診断的用途のために、本発明の接合体は、好ましくは画像増強造影剤中のシグナル源として作用し、後者を核医学的および/または放射線学的方法、例えばSPECT、PET、超音波によって、ならびにまたはまた磁気共鳴断層撮影、コンピューター断層撮影法および光学的イメージング方法(近赤外線イメージング)によって検出するのが可能になる。画像増強造影剤の検出方法および用途は、当業者に知られている。適切な用途の例は、癌疾患、神経学的問題の診断、療法に対する応答のチェック、例えば自己免疫疾患の場合における、腎臓の損傷の程度のチェック、および遺伝子療法のモニタリング、しかしまた細胞変化の評価である。
【0130】
本発明はさらに、本発明の少なくとも1種の接合体ならびに/またはそれらの薬学的に使用可能な塩および立体異性体、ならびにすべての比率でのそれらの混合物、ならびに随意に賦形剤および/またはアジュバントを含む、医薬または医薬組成物に関する。
【0131】
医薬組成物または医薬を、すべての所望の好適な方法による、例えば経口(口腔内もしくは舌下を含む)、直腸内、経鼻、局所的(口腔内、舌下もしくは経皮的を含む)、膣内または非経口(皮下、筋肉内、静脈内もしくは皮内を含む)方法による投与のために適合させることができる。このような処方物を、薬学分野において知られているすべての方法を用いて、例えば活性成分を賦形剤(1種もしくは2種以上)または補助剤(1種もしくは2種以上)と混ぜ合わせることによって製造することができる。
【0132】
経口投与のために適合された医薬処方物を、別個の単位、例えばカプセルもしくは錠剤;散剤もしくは顆粒;水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液;食用発泡体もしくは発泡体食品;または水中油型液体エマルジョンもしくは油中水型液体エマルジョンとして投与することができる。
【0133】
したがって、例えば、錠剤またはカプセルの形態での経口投与の場合において、活性成分要素を、経口的な、無毒性の、かつ薬学的に許容し得る不活性賦形剤、例えばエタノール、グリセロール、水などと混ぜ合わせることができる。散剤を、化合物を好適な微細な大きさに粉砕し、これを同様にして粉砕した薬学的賦形剤、例えば食用炭水化物、例えばデンプンまたはマンニトールと混合することによって製造する。風味剤、保存剤、分散剤および色素が、同時に存在してもよい。
【0134】
カプセルを、上記のように散剤混合物を製造し、成形したゼラチン殻をそれで充填することによって製造する。流動促進剤および潤滑剤、例えば固体形態での高度に分散性のケイ酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムまたはポリエチレングリコールを、充填操作の前に散剤混合物に添加することができる。崩壊剤または可溶化剤、例えば寒天、炭酸カルシウムまたは炭酸ナトリウムを、同様に加えて、カプセルを服用した後の医薬の有効性を改善することができる。
【0135】
さらに、所望により、または所要に応じて、好適な結合剤、潤滑剤および崩壊剤ならびに色素を、同様に混合物中に包含させることができる。好適な結合剤は、デンプン、ゼラチン、天然糖類、例えばグルコースまたはβ−ラクトース、トウモロコシから製造された甘味剤、天然および合成ゴム、例えばアカシア、トラガカントまたはアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ろうなどを含む。これらの投与形態において用いられる潤滑剤は、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどを含む。崩壊剤は、限定されずに、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴムなどを含む。錠剤を、例えば散剤混合物を製造し、混合物を顆粒化または乾燥圧縮し、潤滑剤および崩壊剤を添加し、混合物全体を圧縮して錠剤を得ることによって処方する。
【0136】
散剤混合物を、好適な方法で粉砕した化合物を上記のように希釈剤または塩基と、および任意に結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチンまたはポリビニルピロリドン、溶解遅延剤、例えばパラフィン、吸収促進剤、例えば第四級塩および/または吸収剤、例えばベントナイト、カオリンまたはリン酸二カルシウムと混合することによって製造する。散剤混合物を、それを結合剤、例えばシロップ、デンプンペースト、アラビアゴム粘液またはセルロースの溶液またはポリマー材料で湿潤させ、それをふるいを通して押圧することによって顆粒化することができる。顆粒化の代替として、散剤混合物を、打錠機に通し、不均一な形状の塊を得、それを崩壊させて、顆粒を形成することができる。
【0137】
顆粒を、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルクまたは鉱油を添加することによって潤滑化して、錠剤流延型への粘着を防止することができる。次に、潤滑化した混合物を圧縮して、錠剤を得る。本発明の化合物をまた、自由流動の不活性賦形剤と混ぜ合わせ、次に直接圧縮して、顆粒化または乾燥圧縮工程を行わずに錠剤を得ることができる。セラック密封層、糖またはポリマー材料の層およびろうの光沢層からなる透明な、または不透明な保護層が、存在してもよい。色素を、これらのコーティングに加えて、異なる投与単位間を区別することができるようにすることができる。
【0138】
経口液体、例えば溶液、シロップおよびエリキシル剤を、投与単位の形態で製造し、したがって所定量が予め特定された量の化合物を含むようにすることができる。シロップを、化合物を水性溶液に好適な風味剤と共に溶解することによって製造することができ、一方エリキシル剤を、無毒性アルコール性ビヒクルを用いて製造する。懸濁液を、化合物を無毒性ビヒクル中に分散させることによって処方することができる。可溶化剤および乳化剤、例えばエトキシル化イソステアリルアルコール類およびポリオキシエチレンソルビトールエーテル類、保存剤、風味添加剤、例えばペパーミント油もしくは天然甘味剤もしくはサッカリン、または他の人工甘味料などを、同様に添加することができる。
【0139】
経口投与用の投与単位処方物を、所望により、マイクロカプセル中にカプセル封入することができる。処方物をまた、放出が延長されるかまたは遅延されるように、例えば粒子状材料をポリマー、ろうなどの中にコーティングするかまたは包埋することによって製造することができる。
【0140】
本発明の接合体をまた、リポソーム送達系、例えば小さな単層小胞(small unilamellar vesicles)、大きな単層小胞(large unilamellar vesicles)、および多層小胞(multilamellar vesicles)の形態で投与することができる。リポソームを、種々のリン脂質、例えばコレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリン類から生成することができる。
【0141】
本発明の接合体をまた、接合体が結合した個別の担体としてモノクローナル抗体を用いて送達することができる。当該接合体をまた、標的化された医薬担体としての可溶性ポリマーに結合させることができる。このようなポリマーは、パルミトイルラジカルにより置換されたポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミドフェノール、ポリヒドロキシエチルアスパラタミドフェノール(polyhydroxyethylaspartamidophenol)またはポリエチレンオキシドポリリシンを包含することができる。当該化合物をさらに、医薬の制御された放出を達成するのに適する生分解性ポリマーの群、例えばポリ乳酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル類、ポリアセタール類、ポリジヒドロキシピラン類、ポリシアノアクリレート類、およびヒドロゲルの架橋ブロックコポリマーまたは両親媒性のブロックコポリマーに結合することができる。
【0142】
経皮的投与用に適合された医薬処方物を、レシピエントの表皮との長期間の、密接な接触のための独立した硬膏剤として投与することができる。したがって、例えば、活性成分を、Pharmaceutical Research, 3(6), 318 (1986)に一般的に記載されているように、イオン泳動により硬膏剤から送達することができる。
【0143】
局所投与用に適合された医薬化合物を、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、散剤、溶液、ペースト、ゲル、スプレー、エアゾールまたは油として処方することができる。
直腸内投与のために適合された医薬処方物を、坐剤または浣腸剤の形態で投与することができる。
【0144】
担体物質が固体である鼻腔内投与のために適合された医薬処方物は、例えば20〜500ミクロンの範囲内の粒子の大きさを有する粗末を含み、これを、嗅ぎタバコを服用する方法で、即ち鼻に近接して保持した散剤を含む容器からの鼻の経路を介しての迅速な吸入によって投与する。担体物質としての液体を有する経鼻スプレーまたは点鼻剤としての投与に適する処方物は、水または油に溶解した活性成分溶液を包含する。
【0145】
吸入による投与のために適合された医薬処方物は、微細な粒子状ダストまたはミストを包含し、これは、エアゾール、噴霧器または吸入器を有する種々のタイプの加圧ディスペンサーによって発生し得る。
【0146】
非経口投与のために適合された医薬処方物は、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤および溶質を含む水性および非水性の無菌注射溶液であって、それによって処方物が処置されるべきレシピエントの血液と等張になるもの;ならびに水性の、および非水性の無菌懸濁液であって、懸濁媒体および増粘剤を含むことができるもの、を含む。処方物を、単一用量または複数用量の容器、例えば密封したアンプルおよびバイアルにおいて投与してもよく、使用の直前に無菌の担体液体、例えば注射用水を添加することしか必要としないようにフリーズドライした(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilised))状態において貯蔵してもよい。レシピに従って製造される注射溶液および懸濁液を、無菌の散剤、顆粒および錠剤から製造することができる。
【0147】
本発明の接合体を、好ましくは非経口的に投与する。
上記で特定的に述べた要素に加えて、処方物はまた、処方物の特定のタイプに関して当該分野において普通である他の剤を含むことができることは、言うまでもない;したがって、例えば、経口投与に適する処方物は、風味剤を含んでいてもよい。
【0148】
本発明の接合体の治療的に有効な量は、例えば、結合した活性化合物のタイプ、患者の年齢および体重、処置が必要である正確な状態およびその重篤度、処方物の性質ならびに投与の方法を含む多くの要因に依存する。
【0149】
本発明はまた、少なくとも本発明の接合体を含む医薬組成物、特に画像増強組成物または治療的組成物の調製のためのキットに関する。この接合体が錯化剤を含む場合には、これは、好ましくは画像増強作用または治療的作用を有する尚任意の金属イオンが未だ錯化されていない。本発明の接合体は、キットにおいて溶媒に溶解した形態(例えば水性緩衝液)または好ましくは凍結乾燥物の形態であり得る。
【0150】
本発明の接合体の錯化剤によって錯化する金属イオンが多くの用途について放射活性であるため、当該接合体を含む医薬組成物を、所望される限り前もって調製することはできない。さらに、放射活性のために、調製の間には、職業的な安全に関する特定の手順に従わなければならない。この理由のために、本発明において、本発明の接合体を含み、ここで当該錯化剤が最終的な用途のために必要な金属イオンを未だ錯化していないキットを提供するのが、好ましい。
【0151】
本発明の接合体が既に、適用の短時間後に、腎臓中に特異的に、即ち専ら、または事実上専ら蓄積していることが見出された。本発明の接合体の好ましい静脈内投与の場合において、腎臓中の蓄積は、わずか5分後に観察される。1時間後、注入された用量の30%より高く、好ましくは50%より高く、特に好ましくは70%より高く、極めて特に好ましくは80%より高くが、腎臓中に位置する(放射活性の測定を基準とする%データ)。
【0152】
本発明の放射性標識接合体を用いた器官分布研究(例えばPET測定または非侵襲的イメージング)において、本発明の接合体は、典型的には、適用の1時間後に、身体の残部(血液、心臓、肺、脾臓、肝臓、筋肉、脳)に対して少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍の腎臓における豊富化を示す。これは、腎臓中の放射性標識化合物の量と直接相関するシグナルが、血液、心臓、肺、脾臓、肝臓、筋肉および脳から一斉に得られたシグナルの合計の少なくとも2倍強いことを意味する。
【0153】
したがって、本発明の接合体を、診断的用途、例えば腎臓のシンチグラフィー、腎臓のPETおよび腎臓のMRT、一般的な腎臓の機能性試験のために、腎臓癌および所望により腎臓癌の転移の療法および診断、腎臓のCTならびに/または腎臓の超音波検査のために、極めて良好に使用することができる。
【0154】
治療的用途は、特に、器官、腎臓のための薬物ターゲティングにおいてである。特に、本発明の接合体は、腎臓の疾患の、または作用の部位が腎臓である医薬を使用する処置における疾患の処置のための医薬として作用することができる。1種または2種以上の活性化合物、例えば抗生物質、炎症抑制剤、ACE抑制剤、利尿薬、免疫抑制剤または化学療法剤を、好ましくは本発明の接合体に、例えば切断可能なスペーサー配列を介して結合させる。
腎臓毒性物質の再吸収を遮断するための本発明の接合体の使用もまた、可能である。
【0155】
本発明によれば、腎臓のターゲティングは、腎臓中に適用された物質の、身体の残部に対して増大した取り込みの達成を意味する。本発明の接合体での腎臓のターゲティングの間に、身体の残部(血液、心臓、肺、脾臓、肝臓、筋肉、脳)に対して、腎臓において、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍の豊富化が、本発明の接合体の投与によって好ましくは達成される。これらの値を、本発明の放射性標識接合体を用いた器官分布研究(例えばPET測定または非侵襲的イメージング)によって決定する。腎臓における豊富化は、典型的には、適用のタイプに依存して30分〜8時間後に起こる。
【0156】
さらなる解説がなくても、当業者は、上記の説明を最も広い範囲において利用することができることが推測される。したがって、好ましい態様および例は、単に、いかなる方法においても絶対に限定的ではない説明的開示であると見なされるべきである。
【0157】
本明細書中で述べたすべての出願明細書、特許明細書および刊行物、特に2009年7月20日出願の対応する出願EP 09009393.1-20の完全な開示内容は、参照によって本出願中に組み入れられる。
【0158】

1.物質合成
例1(ε−L−ポリリシン−DOTA)
DOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステル:DOTAおよび2,6−ジフルオロフェノールからDCCを用いて(Mier et al. Bioconjugate Chem. 2005, 16, 237)
平均モル質量約4000のε−L−ポリリシン(主に29〜34のリシン単位からなる)を、Chisso Corp.(日本国)から25%水溶液として購入し、凍結乾燥する。ε−ポリリシン(30mg)を、水(200μl)に溶解し、DOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステル(100mg)をメタノール(1ml)に溶解した溶液を加え、100μlのN,N−ジイソプロピルエチルアミンを加え、混合物をRTで2日間撹拌する。次に、DOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステル(100mg)を再び加え、混合物をRTで一晩撹拌した。当該混合物を次に水で希釈し、HPLCによって分取的に精製する。清浄な画分を、一緒に凍結乾燥する。DOTA−ε−ポリリシン(98mg)が、無色固体物質として得られる。ε−ポリリシンの分子あたりのDOTA単位の数を、Gdを負荷させることにより、およびMSにより、ε−ポリリシンの分子あたり約10のDOTA単位であると決定する;即ち、ε−ポリリシンのアミノ基の約30%が、反応した。
【0159】
図1は、例1において得られた化合物の図式的表示を示し、ここでDOTA修飾は、図1における単純化された表示とは対照的に、当然分子中に無秩序に分布している。
【0160】
例2(ε−L−ポリリシン−DTPA)
75mgのε−L−ポリリシンおよび310mgのDTPAジフルオロフェニルエステルテトラt−ブチルエステルを、4mlのメタノールに溶解し、RTで20時間撹拌する。反応溶液を蒸発させ、4mlのTFA+100μlの水を残留物に加え、20時間放置する。生成物を、ジエチルエーテルを使用して沈殿させる。HPLCによる精製および凍結乾燥によって、150mgが無色固体として得られる。
【0161】
例3(111Inでの負荷)
1.5mgのε−L−ポリリシン−DOTAを、500μlのエタノール、100μlのDMSOおよび500μlの0.4M酢酸ナトリウム緩衝液、pH5に溶解する。30μlのこの溶液を30μlの緩衝液で希釈し、111InCl(20MBq)を加え、混合物を70℃で8分間加熱する。ラジオ−HPLC(radio-HPLC)によって、完全な錯化が示される。
【0162】
1.2mgのε−L−ポリリシン−DTPAを、400μlの0.4M酢酸ナトリウム緩衝液、pH5に溶解する。20MBqの111InClを80μlのこの溶液に加え、混合物を70℃で10分間加熱する。ラジオ−HPLCによって、完全な錯化が示される。
【0163】
例4(68Gaでの負荷)
50μlの例3からのε−L−ポリリシン−DOTAの溶液を、100μlの50MBqの68GaCl(pH3)の溶液に加え、混合物を、95℃で10分間加熱する。HPLCによって、完全な錯化が示される。
【0164】
例5(Gdでの負荷)
10mgのε−L−ポリリシン−DOTAおよび50mgのGdCl六水和物を、600μlの0.4M酢酸ナトリウム緩衝液、pH5中で、60℃で30分間加熱する。HPLCによる精製および凍結乾燥によって、10mgが無色固体として得られる。
【0165】
例6(19Fを使用したEPL−DOTA修飾)
50mgのε−L−ポリリシン−DOTAを3mlのメタノールに溶解し、200μlのトリエチルアミンおよび200μlのトリフルオロ酢酸エチルを加え、混合物をRTで1時間撹拌する。水およびアセトニトリルを含む溶出勾配を使用したRP−HPLCによる精製および凍結乾燥によって、35mgが無色固体として得られる。
【0166】
例7(ε−ポリリシンのエナラプリル誘導体)
エナラプリル:エナラプリルマレエート(Bosche Scientific)を、Dowex 50WX8を含むカラムに適用し、中性になるまで水で洗浄する。次に、エナラプリルを、水中の2%ピリシンで溶出し、溶媒を蒸発させ、残留物をアセトニトリルと共に多数回蒸発させる。エナラプリルが無色油として得られ、それをさらに直接使用する。
【0167】
エナラプリルt−ブチルエステル:合成を、エナラプリルおよびN,N’−ジシクロヘキシル−O−t−ブチルイソ尿素(isourea)から行う(Chadran, Ravi US 2006241017)。
エナラプリラート(enalaprilate)t−ブチルエステル:合成を、エナラプリルt−ブチルエステルから、NaOHを使用して行う(Iwasaki et al. Chem. Pharm. Bull. 37(2) 280 (1989)。
N,N’−ジイソプロピル−O−ベンジルイソ尿素:合成を、ベンジルアルコールおよびN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドから行う(Mathias, Synthesis 1979, 561.)。
【0168】
ベンジル6−ヒドロキシヘキサノエート:N,N’−ジイソプロピル−O−ベンジルイソ尿素(2.34g;10mmol)をTHF(8ml)に溶解した溶液を、6−ヒドロキシヘキサン酸(ABCR)(1.32g;10mmol)に加え、混合物をRTで2日間撹拌する。固体物質を濾別し、濾液を蒸発させる。残留物を、酢酸エチル:ヘキサン1:2〜1:1を用いたシリカゲル上で溶出させる。収率90%。
【0169】
ベンジルヘキサノエート6−O−N,N’−ジイソプロピルイソ尿素:N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(1.14g、9mmol)を、ベンジル6−ヒドロキシヘキサノエート(2.0g;9mmol)に加え、CuCl(30mg)およびTHF(6ml)を加え、混合物をRTで一晩撹拌する。次に、混合物をTHFで希釈し、フリットにおいて中性酸化アルミニウムを通して濾過し、THFで洗浄する。濾液を蒸発させ、残留物をジエチルエーテル中に吸収させ、固体物質を濾別し、濾液を蒸発させる。生成物を、さらに精製せずに使用する。
【0170】
エナラプリル誘導体1(図4に対応する):エナラプリルt−ブチルエステル(2.87g、7.09mmol)をTHF(20ml)に溶解した溶液を、ベンジルヘキサノエート6−O−N,N’−ジイソプロピルイソ尿素(2.47g、7.09mmol)に加え、20mgのDMAPを加え、混合物を還流下で7時間加熱し、次に60℃で一晩撹拌する。反応溶液を氷中で冷却し、固体物質を濾別する。濾液を蒸発させ、残留物を、酢酸エチル:ヘキサン1:2〜2:1を用いたシリカゲル上で溶出させる。清浄な画分を、一緒に蒸発させる。収率85%。
13CおよびH−NMRによって、示した構造が確認される。
【0171】
エナラプリル誘導体2(図4に対応する):エナラプリル誘導体1(400mg)を、メタノール(50ml)に溶解し、10%Pd/C(70mg)を加え、混合物を、大気圧で水素を使用して水素化する。40分後、HPLCによって完全な反応が示される。触媒を濾別し、溶媒を蒸発させる。生成物を、さらに精製せずに使用する。13CおよびH−NMRによって、示した構造が確認される。
【0172】
エナラプリル誘導体3(図4に対応する):エナラプリル誘導体2(183mg;0.35mmol)を、アセトニトリル(2ml)に溶解し、アセトニトリル(2ml)中のN,N,N’,N’−テトラメチル−O−(N−スクシミジル)ウロニウムテトラフルオロボレート(TSTU)(106mg;0.35mmol)を加え、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(63μl;0.35mmol)を加え、混合物をRTで撹拌する。HPLCによって、5分後に完全な反応が示される。生成物を、分取HPLCによって精製する。凍結乾燥後に、生成物が、無色の半固体化合物として得られる。MS(質量分析)によって、予測された正確な質量が示される。
【0173】
エナラプリル誘導体4(図4に対応する):エナラプリル誘導体3(8mg)を、TFA(200μl)およびトリイソプロピルシラン(5μl)の混合物に溶解して、RTで放置する。HPLCによって、1時間後に完全な反応が示される。アセトニトリル(1ml)を加え、混合物を次に蒸発させる。残留物を1mlのアセトニトリル:水 1:1に溶解し、凍結乾燥する。MSによって、予測された正確な質量が示される。
【0174】
ε−ポリリシン−エナラプリル誘導体:
溶液A:100μlのアセトニトリルに溶解した8mgのエナラプリル誘導体4
溶液B:650μlの水および350μlのアセトニトリルに溶解した100mgのε−ポリリシン
5μlのN,N−ジイソプロピルエチルアミンを、100μlの溶液Bに加え、混合する。次に、25μlの溶液Aを、可能な限り迅速に加え、混合する。数分後、HPLCによって、未反応のε−ポリリシンのピークおよび新たな主要なピークが示されるが、もはやエナラプリル誘導体4についてのピークは示されない。新たに生成した生成物を、分取HPLCによって単離し、MSによって所望のモノ−エナラプリル−ε−ポリリシン誘導体であると特徴づける。
【0175】
DOTA−ε−ポリリシン−エナラプリル誘導体:メタノール中の過剰のDOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステルを、水中のε−ポリリシン−エナラプリル誘導体に加え、N,N−ジイソプロピルエチルアミンを加える。分取HPLCによる精製によって、所望の化合物が得られる。
【0176】
例7 ε−ポリリシンのラパマイシン誘導体
ラパマイシン 42−ヘミスクシネート:ラパマイシン(LC-Laboratories)無水コハク酸およびCandida antarictica (Sigma)からのリパーゼアクリル樹脂から調製する。(Gu et al. Org. Lett. 2005, 7, 3945-3948)
【0177】
ラパマイシン 42−ヘミスクシニル−NHSエステル:ラパマイシン 42−ヘミスクシネート(180mg;0.177mmol)を、アセトニトリル(1.5ml)に溶解し、アセトニトリル(0.5ml)中のN,N,N’,N’−テトラメチル−O−(N−スクシミジル)ウロニウムテトラフルオロボレート(TSTU)(56mg;0.186mmol)を加え、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(36μl;0.20mmol)を加え、混合物をRTで撹拌する。HPLCによって、30分後に完全な反応が示される。生成物を分取HPLCによって精製する。凍結乾燥後に、生成物(125mg)が、無色固体化合物として得られる。MSによって、予測された正確な質量が示される。
【0178】
ε−ポリリシン−ラパマイシン誘導体:
ε−ポリリシン(3mlの25%水溶液;Chisso)を水(30ml)で希釈し、TFAを使用してpH約3に調整し、凍結乾燥する。
溶液A:500μlのアセトニトリルに溶解した30mgのラパマイシン 42−ヘミスクシニル−NHSエステル
溶液B:500mgのε−ポリリシン(酸性、上記を参照)を、5mlの水:アセトニトリル(2:1)に溶解し、トリエチルアミンの添加によってpH7〜7.5に調整する。
【0179】
溶液Aを、溶液Bに撹拌しながら加える。濁った混合物が生成する。アセトニトリル(1ml)の添加によって、透明な溶液の生成がもたらされる。約15分後のHPLCによって、ラパマイシン 42−ヘミスクシニル−NHSエステルの完全な反応および未反応のε−ポリリシン以外の新たな生成物の生成が示される。新たに生成した生成物を、分取HPLCによって単離し、MSによって所望のモノ−ラパマイシン−ε−ポリリシン誘導体であると特徴づける。
【0180】
DOTA−ε−ポリリシン−ラパマイシン誘導体:アセトニトリル(200μl)中のDOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステル(20mg;40μmol)を、水:アセトニトリル 2:1(500μl)に溶解したε−ポリリシン−ラパマイシン誘導体(10mg;約2μmol)に加え、反応溶液を、トリエチルアミンの添加によってpH7〜7.5に調整し、RTで一晩反応させる。分取HPLCによる精製によって、凍結乾燥後に所望の化合物が無色固体物質として得られる。分子あたりのDOTA基の数を、MSによって決定する。比率は、分子あたり15〜18のDOTA単位である。
【0181】
例8 ε−ポリリシンのソラフェニブ誘導体
4−クロロ(2−ピリジル))N−2−ヒドロキシエチルカルボキサミド(S−2):メチル4−クロロピリシン−2−カルボキシレート塩酸塩(S−1)(2.08g;10mmol)(Bankston et al. Organic Process Research & Development 2002, 6, 777-781)を、最初にメタノール(5ml)中に導入し、氷中で冷却する。THF(50ml)中のエタノールアミン(3ml;50mmol)を10分にわたり滴加し、次に混合物を、0°でさらに3時間およびその後RTで一晩撹拌する。蒸発の後、残留物を酢酸エチル中に吸収させ、5%NaHCO3で洗浄し、有機溶液を乾燥し、蒸発させる。生成物S−2(1.84g、91%)が、淡黄色固体物質として高純度において得られる(HPLC)。
【0182】
【化3】

【0183】
(4−(4−アミノフェノキシ)(2−ピリジル))−N−2−ヒドロキシエチルカルボキサミド(S−3):K tert−ブトキシド(3.17g;28.24mmol)を、4−アミノフェノール(2.96g;27.1mmol)をDMF(45ml)に溶解した溶液に、アルゴンの下で分割して加え、混合物を、次にRTで1.5時間撹拌する。S−2(5.43g;27mmol)をDMF(10ml)に溶解した溶液を加え、KCO(2.0g)をその後加える。反応物を、70°で油浴中にて6時間加熱し、次に冷却し、酢酸エチル(400ml)および飽和NaCl(400ml)を加える。水相を、再び酢酸エチルで抽出し、混ぜ合わせた有機相を、4×100mlの飽和NaClで洗浄し、乾燥し、蒸発させる。暗色の残留物を、先ず酢酸エチル/ヘキサン(3:1)−酢酸エチル/メタノール(10:1)を用いたシリカゲル上で精製する。生成物を含有する画分を一緒に蒸発させ、次に酢酸エチル/ヘキサン(3:1)−酢酸エチル/メタノール(10:1)を用いたアルミナ上で溶出させる。高純度(HPLC)の淡黄色固体物質(3.20g;43%)としての生成物、MS:M+Na=296.100;C1415NaOについての計算値=296.1011。
【0184】
N−(4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)フェニル)−((4−(2−(N−ヒドロキシエチルカルバモイル)(4−ピリジルオキシ))フェニル)アミノ)カルボキサミド(S−4):S−3(1.50g;5.49mmol)をジクロロメタン(20ml)に溶解した溶液を、氷中で冷却し、4−クロロ−3−トリフルオロメチルフェニルイソシアネート(1.26g;5.70mmol)をジクロロメタン(20ml)に溶解した溶液を加える。1時間後、沈殿した固体物質を濾別し、ジクロロメタンで洗浄し、乾燥する。生成物(S−4)(2.34g;4.73mmol;86%)が、白色固体物質として得られる。MS:M+H=495.1037、C2219ClFについての計算値:495.1047。
【0185】
ソラフェニブ誘導体S−5:S−4(2.30g;4.65mmol)を、ピリシン(15ml)に溶解し、無水コハク酸(581mg;5.81mmol)をピリシン(5ml)に溶解した溶液を加え、N,N−ジメチルアミノピリシン(284mg;2.33mmol)を加え、混合物をRTで一晩撹拌する。反応混合物を、ピリシン:メタノール:水(8:1:1)中の約20mlのピリジニウム−Dowexを含有するカラムに適用し、同一の混合物で溶出させる。溶離液を蒸発させ、残留物をトルエンと共に、最後にアセトニトリルと共に多数回蒸発させる。生成物(S−5)が、白色発泡体(2.65g;4.45mmol;95%)として得られる。MS:M+H=595.1115;C2623ClFについての計算値:595.1207。
【0186】
ソラフェニブ誘導体S−6:S−5(180mg;0.30mmol)を、アセトニトリル(3ml)に溶解し、N,N,N’,N’−テトラメチル−O−(N−スクシミジル)ウロニウムテトラフルオロボレート(TSTU)(99mg;0.32mmol)をアセトニトリル(3ml)に溶解した溶液を加え、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(67μl;0.37mmol)を加えた。HPLCによって、10分後に完全な反応が示される。水(2ml)中の0.1%TFAを加え、混合物を分取的にHLPCで精製する。S−6が、「オフホワイト」の固体物質(163mg;0.24mmol;78%)として得られる。MS:M+H=692.1368;C3025ClFについての計算値:692.1371。
【0187】
ε−ポリリシン−ソラフェニブ誘導体:
ε−ポリリシン(3mlの25%水溶液;Chisso)を、水(30ml)で希釈し、TFAを使用してpH約3に調整し、凍結乾燥する。
溶液A:500μlのアセトニトリルに溶解した17mgのソラフェニブ誘導体S−6
溶液B:500mgのε−ポリリシン(酸性、上記を参照)を、5mlの水:アセトニトリル(2:1)に溶解し、トリエチルアミンの添加によってpH7〜7.5に調整する。
【0188】
溶液Aを、溶液Bに撹拌しながら加える。濁った溶液が生成する。アセトニトリル(1ml)の添加によって、透明な溶液の生成がもたらされる。約15分後のHPLCによって、ソラフェニブ誘導体S−6の完全な反応および未反応のε−ポリリシン以外の新たな生成物の生成が示される。新たに生成した生成物(71mg)を、分取HPLCによって単離し、MSによって所望のモノ−ソラフェニブ−ε−ポリリシン誘導体であると特徴づける。
【0189】
DOTA−ε−ポリリシン−ソラフェニブ誘導体:アセトニトリル(1.5ml)中のDOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステル(197mg;360μmol)を、水:アセトニトリル 2:1(1.5ml)に溶解したε−ポリリシン−ソラフェニブ誘導体(71mg;約15μmol)に加え、反応溶液を、トリエチルアミンの添加によってpH7〜7.5に調整し、RTで一晩反応させる。分取HPLCによる精製によって、凍結乾燥後に、所望の化合物が無色固体物質(90mg)として得られる。分子あたりのDOTA基の数を、MSによって16〜20と決定する。
【0190】
2.使用例
1.器官分布研究
薬物動態学を決定するために、ε−ポリリシン−DOTAを、合成例2/3に従って放射活性核種111Inで標識し、NMRIマウスに、各々尾静脈を介して3匹の動物の群において注入する。使用した量は、動物あたり約5μgのε−ポリリシン−DOTAであり、用量は、動物あたり約1MBqである。
【0191】
動物を、その後解剖し、単離した器官(血液、心臓、肺、脾臓、肝臓、腎臓、筋肉、脳)を、それらの放射活性に関してガンマカウンター(gamma counter)において調査する。対応する器官中の放射能の量は、吸収されたε−ポリリシン−DOTAの量を直接表す。動物を、種々の時間の後に絶命させる。これを、実験の全体の遂行と同様に、動物実験の科学的な遂行のための倫理原則に従って行う。
【0192】
驚くべきことに、測定において、腎臓組織1グラムあたり150パーセントを超える注入された用量が、111Inを負荷させたε−ポリリシン−DOTAの注入のわずか10分後に実験動物の腎臓中に蓄積することが、観察される。小さい比率は、尿を介して排泄される。
【0193】
調査した種々の器官中の蓄積のグラフ表示を、図2に示す。Y軸は、特定の器官における特定の蓄積を表し−組織1グラムあたり注入された用量のパーセントとして示す。P1〜P3は、種々の程度の負荷を有する接合体についての結果を表す。P1:リシンモノマーの約10%がDOTAを担持する、P2:リシンモノマーの約30%がDOTAを担持する、およびP3:リシンモノマーの約50%がDOTAを担持する。
【0194】
2.PET測定
PET測定のために、標識づけを、合成例4に従って68−ガリウムを用いて行い、腎臓蓄積を、小動物PETスキャナー(Siemens)において動的に調査する。化合物(ε−L−ポリリシン−DOTA、68Gaを負荷させた)が非凡に良好な器官対背景比率を達成し、事実上専ら腎臓中に蓄積することが、ここで見出される。ここでの典型的な値は、身体の残部に対しての腎臓における10倍の蓄積である。
【0195】
3.比較実験
99mTc−MAG3の、および99mTc−DMSAの取り込みを、(ε−L−ポリリシン−DOTA、111Inを負荷させた)の取り込みと、ラットおよびマウスモデルにおいて、平面状シンチグラフ(planar scintigraph)において比較する。両方の既知のトレーサーは、本発明の物質よりも劣悪な腎臓対背景比率を示す。
【0196】
3.カルボキシル基を担持する種々の化合物の結合
カルボキシル基を担持する種々の化合物の腎臓における蓄積に対する効果を調査するために、ε−ポリリシンを、DOTA単位と接合して、動物実験のための放射性核種での標識づけを促進する。1つのDOTA単位に加えて、カルボキシル基を担持する他の化合物の、またはカルボキシル基を担持しない化合物の複数の単位を、それに接合する。これらの接合体の器官分布研究によって、接合の後にカルボキシル基を含有しないDO−3AM(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,−N’,−N’’,−トリアミド,N’’’−一酢酸、大環状化合物)との接合体が、腎臓における蓄積を示し、それが、DOTA基を用いて既に達成されている蓄積を超過せず、一方クエン酸との接合体が優れた蓄積を示し、コハク酸との接合体が腎臓における良好な蓄積を示すことが、示される。
【0197】
分子あたり1つのみのDOTA単位を有するε−ポリリシン(参照1)の合成:ε−ポリリシン(780mg)を、水:メタノール 1:1に溶解し、メタノール中のDOTA 2,6−ジフルオロフェニルエステル(103mg)を加え、ジイソプロピルエチルアミン(100μl)を加え、混合物をRTで一晩撹拌する。生成物をHPLCによって精製し、凍結乾燥する。MSによって、約2:1の比率でのε−ポリリシンおよびε−ポリリシン−1×DOTAの混合物が示される。この化合物、即ち参照1を、すべての以下の誘導体の調製のために使用する。
【0198】
参照1のDO−3AM酢酸誘導体:DO−3AM酢酸(42mg)およびTSTU(31mg)を、DMF(2ml)に溶解し、ジイソプロピルエチルアミン(18μl)を加える。1分後、この溶液を、水:ジオキサン 1:1(400μl)中の参照1(16mg)に加え、RTで一晩放置して反応させる。水で希釈した後、生成物をHPLCで精製し、凍結乾燥する。
【0199】
参照1のクエン酸誘導体:無水クエン酸を、THF(5ml)中のクエン酸(2mmol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(1mmol)から調製する。30分後、生成したジシクロヘキシル尿素を濾別し、THFで洗浄する。濾液を蒸発させ、さらに直接使用する。ピリシン(200μl)中の無水クエン酸(80mg)を、参照1(38mg)およびジメチルアミノピリシン(5mg)をピリシン:水 1:1(200μl)に溶解した溶液に加え、混合物をRTで一晩撹拌する。水で希釈した後、生成物をHPLCで精製し、凍結乾燥する。ε−ポリリシン−1×DOTAの分子あたりのクエン酸単位の数を、MSによって4〜8と決定することができる。
【0200】
参照1のコハク酸誘導体:ピリシン:ジオキサン 1:1(2000μl)中の無水コハク酸(100mg)を、参照1(38mg)およびジメチルアミノピリシン(5mg)をピリシン:水 1:1(1000μl)に溶解した溶液に加え、混合物をRTで一晩撹拌する。水で希釈した後、生成物をHPLCによって精製し、凍結乾燥する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物と、ペプチド的に結合したモノマー単位からなり、50%を超える(モノマー単位の数を基準とする)ε−リシンモノマー単位から構成されるか、または少なくとも70%(モノマー単位の数を基準とする)のε−リシンモノマー単位から構成される少なくとも10の連続的モノマー単位を含むオリゴマーとを含む接合体であって、カルボキシル基を担持する化合物の分子量におけるカルボキシル基の比率が、カルボキシル基を担持する化合物の場合において30%より大きいことを特徴とする、前記接合体。
【請求項2】
さらに、少なくとも1種の活性化合物が接合体に共有結合していることを特徴とする、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
活性化合物が、免疫抑制剤、例えばアザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、フィンゴリモドもしくはトリプトライド、細胞分裂阻害薬、例えばブレオマイシン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、アムサクリン、ドキシフルリジン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、エトポシド、テニポシド、シクロホスファミド、トロホスファミド、メルファラン、クロラムブチル、エストラムスチン、ブスルファン、クロラムブシル、クロルメチン、トレオスルファン、カルムスチン、ロムスチン、ニムスチン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、ダカルバジン、イホスファミド、テモゾロミド、チオテパ、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、フルオロウラシル、カペシタビン、シトシンアラビノシド、ゲムシタビン、チオグアニン、ペントスタチン、メルカプトプリン、フルダラビン、クラドリビン、ヒドロキシカルバミド、ミトタン、アザシチジン、ネララビン、ボルテゾミブ、アナグレリド、特にプロテインキナーゼ阻害剤、例えばイマチニブ、エルロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、ラパチニブもしくはニロチニブ、免疫療法剤、例えばセツキシマブ、アレムツズマブおよびベバシズマブ、消炎剤、例えばナプロキセン、イブプロフェン、インドメタシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ヒドロコルチゾンもしくはブデソニド、抗生物質、特にペニシリン、例えばベンジルペニシリン、メチシリンもしくはアモキシシリン、セファロスポリン、例えばセフロキシム、セフォタキシム、セファドロキシルもしくはセフィキシム、β−ラクタマーゼ阻害剤、例えばクラブラン酸、スルバクタムもしくはタゾバクタム、カルバペネム、例えばイミペネムもしくはメロペネム、モノバクタム、例えばアズトレオナム、テトラサイクリン、例えばテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンもしくはチゲサイクリン、マクロライド系抗生物質、例えばエリスロマイシンA、グリコペプチド系抗生物質、例えばバンコマイシン、エンジイン、例えばカリチアマイシン、ウイルス増殖抑止剤、例えばアシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ブリブジン、シドホビル、ホスカルネット、イドクスウリジンもしくはトロマンタジン、抗高血圧剤、特にACE阻害剤、例えばベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリルもしくはゾフェノプリル、サルタン、例えばロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン、オルメサルタンもしくはテルミサルタン、レニン阻害剤、例えばアリスキレン、およびベータブロッカー、例えばプロプラノロール、ピンドロル、ソタロール、ボピンドロール、アテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモロール、メトプロロール、ネビボロール、オクスプレノロール、カルベジロールもしくはラベタロール、尿酸排泄薬、例えばプロベネシッドもしくはベンズブロマロン、または利尿薬、例えばアセタゾルアミド、フロセミド、トラセミド、ブメタニド、ピレタニド、アゾセミド、エタクリン酸、エトゾリン、ヒドロクロロチアジド、ベンズチアジド、クロロチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、クロパミド、キシパミド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、アミロライド、トリアムテレン、スピロノラクトン、カンレノン、エプレレノンもしくはスピロノラクトンの群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
オリゴマーが10〜50のモノマー単位の鎖の長さを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項5】
オリゴマーがε−リシンモノマー単位のみからなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項6】
オリゴマーがε−ポリリシンからなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項7】
オリゴマーに接合したカルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物が、2つまたは3つ以上の遊離のカルボキシル基を含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項8】
カルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物が、直接的に、またはスペーサーを介してε−リシンモノマー単位のアミノ基に結合していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項9】
カルボキシル基を担持する少なくとも1種の化合物が錯化剤であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の接合体の調製方法であって、少なくとも以下のプロセスステップ:
a)ペプチド的に結合したモノマー単位からなり、50%を超える(モノマー単位の数を基準とする)ε−リシンモノマー単位から構成されるか、または少なくとも70%(モノマー単位の数を基準とする)のε−リシンモノマー単位から構成される少なくとも10の連続的モノマー単位を含むオリゴマーを提供すること、
b)カルボキシル基を担持する少なくとも1種の随意に活性化された化合物をステップa)からのオリゴマーに接合すること
を含む、前記方法。
【請求項11】
医薬としての、請求項1〜9のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の接合体の、腎臓のターゲティングのための使用。
【請求項13】
巨大分子に共有結合している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも2種の接合体から構成される巨大分子接合体。
【請求項14】
少なくとも請求項1〜9のいずれか一項に記載の接合体を含む、医薬、特に治療的組成物または画像増強組成物。
【請求項15】
少なくとも請求項1〜9のいずれか一項に記載の接合体を含む、医薬、特に治療的組成物または画像増強組成物の調製のためのキット。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−533579(P2012−533579A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520925(P2012−520925)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004198
【国際公開番号】WO2011/009539
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】